謎町紀行

第37章 傍観の情報戦、追跡者との最後の対峙

written by Moonstone

 エハラ市から北に向かうと、国道91号線沿いに温泉街が並んでいる。道の駅も足湯や日帰り入浴の温泉があって、「温泉通り」という通称も納得だ。僕とシャルはエハラ市のホテルを出て、最初の道の駅に隣接する温泉に入っている。シャルの提案でタオルを持ってきているけど、現地で販売もされているから、手ぶらでも入浴できる。
 温泉の中は典型的な大浴場といったところ。大小の湯船と複数の洗い場、そして露天風呂。今は昼間だからか露天風呂に出ている人は居ない。人もまばらでゆったり出来る。シャルの方はどうだろう?男湯を見た感じ、カップルは居なさそうだけど。

『こちらは私を含めて3人しか居ません。』

 唐突にシャルの声が頭の中に流れ込んで来る。ダイレクト通話は慣れたつもりだけど、やっぱりちょっとびっくりしてしまう。

『どちらも年配の方なんですけど、かなり見られてますね。』
『温泉に若い女性が1人で入るのもそうだけど、金髪が特に目立つんだよ。』
『そんなに珍しいですか?外に居ると茶色は当たり前のように見ますから、黒以外は見慣れていると思うんですけど。』
『茶色と金色は全然違うよ。特に、根元から先端まで同じ色なのはね。』

 茶色は当たり前のように見るけど、差別化より同質化の方が強いと思う。黒は「清純ぶってる」「男受けを狙っている」と嫌われるのもあるらしいし、他と異なること=目立つこととされて忌避や排除の対象になるのが、日本の伝統の1つだ。だから量産型シメジと揶揄される、茶色の髪に同じファッションで固めたものになる。
 金色の髪は町中ではあまり見ない。見るとしたら外国人くらいのものだ。シャルの場合、シャルが人型を取る際にモデルにした人物がそうだったらしいけど、見た目明らかに外国人という顔立ちじゃない。一方で髪は染めた雰囲気がない金色。おまけに圧倒的存在感の容貌。人目を惹かない筈がない。

『髪の色は単なる色の違いではないんですね。ちなみに髪の色は自由に変更できますが、ヒロキさんは何色が良いですか?』
『今の色が一番似合うと思うよ。イメージしてみたけど、金色の印象が強いせいか、他の色だと違和感があるんだ。』

 第一印象は大切と言うけど、シャルが人型を取って僕の前に現れた時が、一言で言えば「金髪ナース」だった。そのインパクトが強烈で、シャルと言えば金髪というイメージが強く根付いている。シャルがたとえば髪の色を黒や、ある意味汎用な茶色にしたとしても、違和感が強い。
 金髪は外国人の髪の色という印象で、嫌悪感とかは特になかった。その金髪を持つシャルが目の前に現れて、強烈なインパクトの後に来た印象は「綺麗」だった。色に斑や濃淡がなくて、かと言って不自然な均質さ、無機質と言い換えられる違和感もない、自然で綺麗な金髪はシャルのトレードマークだし魅力だと思う。

『長いのと短いのは、どちらが好きですか?』
『長い方が好きなんだ。だから、今のシャルの髪は僕の好みにピッタリなんだよ。』
『気に入ってもらえていて良かったです。』

 髪だけとっても、僕の好みを事前に知り尽くしたような要素を凝縮している。異性の好みなんて一部を除いてそれほど極端じゃない。結局は「タイプかどうか」に行きつくと思う。それがどれだけ多くの共役数を持っているかどうかの違いだろう。他人には悪趣味でも個人には最高のパターンなんてことだってある。
 その点、シャルはかなり多くの共役数を持っている容貌だ。出歩くたびにシャルに視線が集まる。ナチウラ市では特に顕著だった。僕がバーベキューの火起こしをしているのをネタにして嘲笑していた男女のグループが、シャルが現れた途端に嘲笑を止め、挙句仲間割れに発展した。何を着ても似合うし、姿勢や立ち居振る舞いも凄く綺麗。あらゆる理想を詰め込んだ理想形の1つと言うべきか。
 県境を1つ隔てた先では、自治体と企業が警察も巻き込んで激しい鍔迫り合いを展開している。余程予想外の展開だったのか、後手後手に回っているホーデン社とトヨトミ市に対して、ハネ村は様々なメディアを駆使して次々と情報を開示している。SNSとWebの他、記者会見も。インターネットに疎い世代にも積極的に打って出ている。
 喧騒を余所に、僕とシャルは悠々と温泉巡り。贅沢なような落ち着かないような、複雑な気分だ。この間にヒヒイロカネを回収できたら、という思いは消えないけど、現状でハネ村に入るのは得策じゃない。もどかしいけど此処は我慢の時、か。

『オウカ神社は、航空部隊と地上部隊が監視を続けています。今回の事態もあってか、オウカ神社への立ち入りはなく、極めて平穏です。』
『地上部隊も展開してたの?』
『ヒロキさんが懸念するとおり、混乱に乗じて突入と強奪を図る恐れがないとは言えません。金にものを言わせる手段が、ホーデン社とトヨトミ市にはありますから。』
『出来るだけ穏便にヒヒイロカネを回収したいんだけど、欲が絡まるとそうはいかないね。』
『はい。残念ながら。』

 本当にヒヒイロカネは欲を惹きつけて絡ませる。ヒヒイロカネに絡まった欲は際限なく膨らみ、他人の犠牲も厭わない。これが…、この世界にあったヒヒイロカネが、今はあってはならないとされる理由だろう。ヒヒイロカネはこの世界ではオーバーテクノロジーの機能を持つけど、あくまで高機能を持つ材料。材料をどう使うかは利用者次第だ。材料をまともに使えないのに、まともにその先を考えられる筈がない。
 シャルの能力なら、オウカ神社どころかハネ村全体、否、A県全体を制圧して、オウカ神社に安置されているヒヒイロカネを回収することも出来るだろう。だけど、シャルはその手段を取らない。ヒヒイロカネの回収の際に速度をさほど重要視していないんだろう。そうでなければ、シャルがマスターと呼ぶあの老人も僕1人に託すより、精鋭部隊を投入した方がずっと早い。
 この世界にとってあってはならないと痛感させるヒヒイロカネの回収を、シャルが創られた世界がさほど急がない理由は何だろう?この世界ではヒヒイロカネはまともに扱われると考えない方が良いし、到底考えられない。オーバーテクノロジーであるのも明らかだし、早期に回収しないとこの世界が破滅に向かう危険すらある。
 シャルやあの老人に悪意があるとは考えられないし、そう思いたくもない。際立った特技や知識もない、ただ通りすがりに発作を起こしていたあの老人を病院に搬送しただけの僕に、この世界と相容れない物体の回収を託したあの老人と、その命を受けて僕をサポートするシャルには、何か考えがあるんだろう。僕にその考えを理解できる時は来るんだろうか…?
 シャルの閃光弾投下に端を発するハネ村の反撃開始から3日経った。僕とシャルは国道91号線に沿って北上しながら温泉街を巡っている。かつて日本海側と太平洋側、そしてそれらと江戸を繋いで魚や塩などの特産物を運んだ物流の大動脈の1つとして栄えた名残らしい。自動車なんてない時代、山越えは一苦労だっただろう。温泉は疲れを癒す重要な拠点だった筈。

「川沿いの温泉街って、これも風情があって良いですね。」
「うん。シャルが温泉好きってことも良く分かった。」

 シャルは持ち前の情報収集力と分析力を駆使して、料理が美味しくて見晴らしが良い温泉宿をピックアップして、そこを拠点に温泉巡りをしている。温泉に入るのは勿論、商店街を散策しつつ名産物を食べたり−土地柄か川魚と山菜が豊富−、小さな神社を参拝したりしている。世間の喧騒が嘘のようだ。
 ハネ村の反撃は予想以上の広がりを見せている。ハネ村は記者会見を開く一方、記者会見では伝えきれない詳細な情報があるとして、Webでの公開も積極的に進めている。ハネ村はこれまでの合併圧力に防戦一方と見せかけて実は反撃の機会を虎視眈々と窺っていたのが分かる。まだ持っていたのかという情報の爆撃が止まらない。
 従来なら広告費を盾にマスメディアを黙らせたり、被害者と加害者の構図を入れ換えることも出来ただろうけど、先行して加工のない情報−これが意外と少ない−を次々Webに出してSNSで案内するスタイルのハネ村の情報攻勢に、ホーデン社とトヨトミ市、そしてマスメディアも追従するのが精一杯だ。
 特に、ハネ村はホーデン社の横暴をクローズアップしている。一企業でありながら自治体の合併問題に介入し、しかも片方の自治体に肩入れして合併受け入れを迫る。しかも暴言のおまけつき。世界的企業とはいえ、選挙権も被選挙権もない企業が、自分の都合で合併受け入れを迫る様子を、次々と公開している。
 それだけホーデン社がトヨトミ市という傀儡を操って横暴の限りを尽くしているってことだけど、ホーデン社の横暴ぶりにSNSを中心に強い不満や同調の声が上がっている。特に、ホーデン社の車が跋扈するココヨ市の現・元在住者から、ホーデン社の横暴は車の運転でも露骨だとして、様々な情報がアップされるようになった。
 人口も多くて人の出入りも多いココヨ市だから、「自分も経験した」という人は多い。「明らかにホーデン社の車の過失なのに、警察に通報してもまともに捜査してくれなかった」「『ホーデンの機嫌を損なうことは出来ない』って言われた」など、ホーデン社に及び腰A県県警にも厳しい批判が続々と上がっている。
 A県県警も慌てて記者会見を開き、「情報が寄せられたココヨ市の事例については調査中」とするが、「調査中とは調査しないということ」「社会的身分で対応を変えるのは警察あるある」など辛辣な批判を呼ぶばかり。特にココヨ市をはじめとするA県の現・元在住者は、「A県県警はホーデン専属の国営警備会社」とまで言ってのけ、多くの賛同を得ている。
 Webとマスメディアの両方を活用した徹底した情報の公開と、加工や捏造の疑いを検証できる状態での公開は、海苔弁と揶揄される黒塗りの体裁上の情報公開に辟易していた市民団体などからも「自治体による情報公開のモデルケース」と称賛されている。そういった市民団体などはホーデン社をはじめとする大企業経営層や警察の隠蔽体質と対立関係にあるのもあって、弁護団やその支援に参入を始めている。これも予想外の展開だ。

「小規模な自治体ならではの、機動性を生かした積極的な行動が奏功していますね。」

 商店街で練り飴を買って歩くシャルが言う。桃をはじめとする果物の果汁をふんだんに使った練り飴で、試してみたいと言ったシャルの要望に応えた形だ。

「組織が大規模になるほど、会議だの決裁だの手続きが煩雑になりがちです。ハネ村は役場も小規模ですが、それ故に無駄な会議や決裁を省略して、機が熟した際のプロセスを早期に合意しておいて、村長など幹部が責任を持って遂行ことが出来たと言えます。」
「会議や決裁は、必要な場合も勿論あるけど、大半はどうしてこんな長い時間、まともに議論しないのか疑問なことが多いんだよ。」
「会議や決裁が、たんなる権威づけのためだと無意味どころかリソースの浪費でしかありませんからね。」

 圧倒的に不利な状況が固まって来ているのに、ホーデン社やトヨトミ市、そしてそれらを間接的に支援してきたA県や警察の動きはかなり鈍い。どう体面を整えようか、上層部のメンツを潰さないようにするかを考えるために、それこそ会議や決裁を繰り返しているんだろう。よくある話だけど、それがかえって自分の首を絞めることになっている。
 ハネ村が公開した情報は様々な個人や団体が検証を行い、何れも加工や捏造はないと結論付けている。ディジタル時代だから加工や捏造が困難と言われたのは最早過去の話。今や写真や映像は加工や捏造が当たり前だ。グラビアアイドルやAVなんてその手の詐欺的商品が溢れている。

「ほう。加工や捏造を検証するほど、好みの女性を彼方此方で物色してたんですねー。」
「言い方!言い方!あと、ヤキモチ焼かないで!」

 急激にシャルの声のトーンが下がって抑揚がなくなる。繋いでいる手に力が籠る。目が怖い。僕の思考とかは改造された腕時計を介してシャルに流れ込んでいるけど、シャルは常時反応するわけじゃない。だけど、女性が少しでも絡むと過敏なほどの反応を示す。その時、僕の意図は何故か考慮されない。

「か、加工や捏造って、シャルは分析で分かるもの?」
「話を逸らしますか。ひとまずその質問には答えましょう。データ−写真や映像のディジタルデータだけでは分かりません。光の当たり方や陰影の出来方、背景などの歪み具合など、本来のデータであれば存在しえない、物理法則ではあり得ない現象があるかどうかを検証することで判明します。」
「だからその手の検証で、AIという名のディープラーニングが使われるようになったのか。シャルも出来るよね?」
「勿論です。少なくともこの世界のAIもどきよりは高速高精度です。…で?ヒロキさんが若くて綺麗な女性を物色していた際にAIもどきも動員していたと?」
「だから言い方!これからホーデン社とトヨトミ市が対抗策で、加工や捏造をした写真や映像を出して来るかもしれないから、それをハネ村で対処できるかってこと。」

 再び繋いでいる手に力が籠ってきた。かなり痛い。今のところハネ村が情報戦で優位なのは間違いない。だけど、ホーデン社は財力で圧倒する。今後対抗策として、巧妙な加工や捏造を施した写真や映像を出して来るかもしれない。そうなったら、財力も人員も少ないハネ村では対処しきれなくて、押し返される危険がある。

「その懸念もなくはないですが、情報戦は先手を打った方が有利です。今回はハネ村が情報を積極的に公開してコピーや検証が自由に出来る状態なのに対し、ホーデン社などの対応が後手後手に回っているので、尚更ハネ村優位の状況が固定化されています。先手を打って正確な情報を出したことで、ハネ村が出す情報は正確という印象を植え付けたのも大きいと言えます。」
「財力にものを言わせた巻き返しがなければ良いんだけど。」
「ヒヒイロカネに関与するようであれば、徹底的に排除します。さて。女性を物色していた件について改めて伺いましょうかー。」
「だから言い方!」

 決して言い逃れするつもりはないけど、シャルは「グラビアアイドルやAV」と「加工や捏造」の2つのキーワードから、僕が写真集やIVとかに加工や捏造がないか隈なく調べていたと思っているようだ。どう説明しようかな…。写真集とかAVとか持ってたのは事実だけど…。痛っ!
 宿に戻るやしこたま尋問されて、どうにか好みと恋愛感情は単純に繋がるものじゃないと理解してもらった。特にグラビアアイドルやAVには容貌の好みだけを求めるもので、アイドル=Idol、すなわち偶像だという概念は、シャルに理解してもらうのは苦労した。こういう概念は初めて接するものらしい。それもそうか。
 その代わりというか、容貌の好みがピッタリ一致したシャルが僕の彼女になった、つまり恋愛感情を持った理由は、単に容貌の好みがピッタリなだけなら、それこそ僕に精神的ダメージを与えた過去の女達もそうだったけど−こう言った時、シャルの目が凄く怖かった−、僕への態度や行動が決定的に違うこと、それが恋愛感情に繋がったことを説明して、シャルは一転上機嫌になった。良かった良かった。

「ハネ村に拘束されていた工作員が、全員解放されましたね。」

 シャルがスマートフォンにニュース記事を表示する。「ハネ村脅迫事件 工作員身柄解放」という見出しがむしろ衝撃だ。配信元はマスメディアの1社。「工作員」という日頃見ない単語が見出しにあることもそうだし、事件に絡んでいるのがホーデン社という世界的企業でこの単語を使ったこと両方が衝撃的だ。

「工作員は全員負傷や多少の衰弱はあるものの健康。工作員は全員検査と治療のため入院。A県県警はハネ村に任意での事情聴取を求めるも、ハネ村はこれまでの警察の対応を挙げて拒否。弁護団はホーデン社とトヨトミ市の対応如何で更なる法的対抗策を取るとコメント、か。事態が動いたとは言えないかな。」
「A県県警はこれまでのホーデン社のA県での傍若無人に対して、事故でもまともに捜査しなかったり、ホーデン社の肩を持つ発言をしたなどの情報が既に証拠と共に拡散されていますから、ハネ村がA県県警に強い不信感を持つのは当然です。」
「A県県警がハネ村に対して強い態度に出れば、それこそホーデン社専属の国営警備会社っていう批判を強めることになるね。」
「はい。弁護団も全面対決の姿勢ですし、A県県警はハネ村関係者を書類送検でお茶を濁さざるを得ないでしょう。それですら、A県県警はホーデン社の肩を持つのかという批判を呼び起こすことになりかねません。」

 ハネ村の住民が工作員を殴る蹴るしたことはれっきとした傷害罪だ。だけど一方で、ホーデン社とトヨトミ市がハネ村に執拗に続けて来たことは、威力業務妨害だったり脅迫だったり名誉棄損だったりする。ハネ村の住民を逮捕起訴するなら、ホーデン社とトヨトミ市の工作員も同様にしないと、法治国家としての体を成さない。
 ハネ村の情報攻勢が先手先手を打っていることで、ホーデン社とトヨトミ市がトヨトミ市への吸収合併を強要していたこと、ハネ村に工作員を送り込んで、反対派に執拗な嫌がらせを繰り返していたこと、そしてその背景には、更に安価な土地を容易に手に入れたいホーデン社の意向があると広く認知されている。今更ホーデン社とトヨトミ市が対抗策を取っても、火消しを試みたとされてかえって事態を悪化させる危険すらある。
 シャルが調べてくれたところ、ホーデン社とトヨトミ市は「事実関係を確認中」を繰り返している。工作員の存在が表の世界に引きずり出されたことで、対策を協議しているんだろう。だけど、曲がりなりにも一自治体、一企業がスパイ組織を有していて、他の自治体の住民に工作活動を展開していたことに、世間の衝撃や批判は強さを増している。
 ホーデン社はこれまでの悪評もあってか「さもありなん」という見解が多いけど−ココヨ市での横暴ぶりを見れば当然と思う−、トヨトミ市への風当たりは物凄く強い。自治体が別の自治体に合併を強要するのも大概だし、それを市が市職員で組織するスパイ組織で裏側から飲ませようとしていたなんて、これまで聞いたこともない。
 ハネ村の弁護団や市民オンブズマンは、トヨトミ市に情報公開を請求したと発表した。トヨトミ市のWebなどにはスパイ活動を行う部署は記載が一切ない。裏の組織だから当然だけど、それが市民の税金を使い、あろうことか住民が決める自治体の合併に干渉し、更には工作活動を行うなど言語道断であり、厳しく追及していくとしている。
 ホーデン社は、まだ言い方は悪いけど1民間企業に過ぎないから、まだ「そういう体質の企業」という割り切りが出来る。実際、追い出し小屋だのコストカッターなる外資系役員による強引な工場閉鎖だの、安価な労働力として外国人を多く呼び込んで、減産で工場閉鎖や売却となったら知らん顔だの、企業の身勝手さは規模が大きくなるほど大規模で酷くなるのは有名な話。
 トヨトミ市はそうはいかない。税金で運営する共同体にも関わらず、ホーデン社優遇に血道を上げるばかりか、市が工作活動と言う名の犯罪行為を繰り返していたわけだ。他の自治体に合併受け入れを強要し、更には受け入れるよう裏側から工作活動に邁進するなんて、自治体のすることじゃない。
 市が職員を動員して活動するということは、市長を含む幹部もそれなりに知っていたと見なされる。通常業務の範疇ならいざ知らず、自治体合併のレベルなら幹部が知らない筈がない。合併を進めるために工作活動をしていたことはすなわち、市長など幹部がそれを指示していたということでもある。
 トヨトミ市は市長などの関与はなかったとしているが、そんな説明で納得される筈がない。ましてや、ハネ村が先んじて工作員の所属がホーデン社とトヨトミ市であることを映像で公開している。市の職員が工作活動をしていた事実を関与していたかも含めて正確に説明しない限り、市長などの関与の疑いは強まる一方だ。

「ハネ村が情報戦で優位なのは固まりつつあるね。ホーデン社とトヨトミ市、A県が今も調査中とか確認中とかしてるから、余計に疑惑が募ってる。」
「上層部や関係者のメンツを潰さないよう出せる情報を会議だの決裁だので選んでいるんでしょうけど、もたもたしている間にどんどん火災は広がるばかりです。カイカクと称してコスト削減を社員や下請けに強要する一方で、会議や決裁がないと行動できない、行動する側もさせる側もまともじゃないという体質のカイカクは全然出来てなかったようですね。」
「そのとおりと言うしかないね。この事件はハネ村の圧勝で終わる確率が高まってるけど、問題はヒヒイロカネをどうやって回収するか…。」

 ハネ村での騒動やその動向に目が向きやすいけど、僕とシャルの目的はあくまでヒヒイロカネの回収だ。ハネ村とA県県警の協議−ハネ村の発表では事態の収束まで警察がパトロールを強化することと事情聴取への応諾−は、警察のこれまでの対応に強い不信感を抱くハネ村が「信用できない」と拒否し、村役場と町内会で組織して、市民団体が加わる自警団が交代でパトロールをしている。
 警察としては実力行使を伴う恐れがある非公式組織には消極的だけど、何しろ今までの対応から蓄積したハネ村の不信感が拭えない。そしてハネ村は「文句があるならホーデン社とトヨトミ市の家宅捜索と関係者の起訴、警察の全面情報公開、そして特に所轄のトヨトミ警察署の関係者を厳重処分しろ」と弁護団を通して警察に要求している。警察は「身内」の処分はかなり寛大な傾向がある。ハネ村の要求は飲み辛いが、飲まないと以降は協議に応じないとハネ村は強気だから余計に難儀している。
 先に行われた脅迫や威力業務妨害での刑事告発は、トヨトミ警察でもA県県警でもなく、更にはトヨトミ市にあるトヨトミ区検察庁−こういう機関があるのは初めて知った−ココヨ地方検察庁に行われた。警察は信用できないという強烈な意思表示の表れだ。市民オンブズマンの警察への情報公開請求も次々行われている。
 そんな状況だから、ハネ村はある種治外法権状態にあると言える。これまでの経緯から、外部の人に対して過敏な警戒をする恐れがあるし、そんな状況下で焦点の1つであるオウカ神社に近づくのは非常に危険だ。ヒヒイロカネを回収するために本来対立する必要がない住民と対立して、挙句戦争になるのは避けなければならない。
 ヒヒイロカネの回収には、無力化処理のためにシャルが直接出向く必要がある。つまり、どうしてもシャルを本殿に入れないと行けない。本殿に部外者が入ること自体、通常ではあり得ないこと。本殿への立ち入りには、少なくとも宮司との接触が必要。だけど、現状ではそれすらままならない。

「現状では、事態の収束を待つしかありません。この世界の無関係な人々を犠牲にするわけにはいきませんから。」
「それは勿論そうだけど、事態の収束が何時になるか分からないのも…。」
「その間、別の候補地に行くことも出来ます。」
「!距離はどうなの?」
「約200km東です。渋滞などを除けば、所要1日で往復できる距離です。」

 回収活動の並行か。事態の収束が見えない中、悶々としながら時を過ごすより、他の候補地での情報収集や回収を進めた方が良いか。

「シャルの処理が過負荷にならない?」
「複数同時に航空部隊と地上部隊を展開させつつ、情報のリアルタイム分析をしても、全く問題になりません。」
「本当に凄い能力だね。それなら、此処での温泉巡りを終えたら次の候補地に拠点を移そうか。」
「はい。」

 僕が委任されているのは「この世界にあるヒヒイロカネを回収する」ことであって、方策や順番は不問。1か所ずつ回収していかないといけない決まりはないんだった。無意識に「物事は順番に片づけていくこと」って思っていたようだ。まだこの旅に出る前の刷り込みが残ってるんだろうか。

「ちなみに、別の候補地って何処?」
「カマヤ市です。このハネ村へのヒントになった、レンカ神社があるM県にあります。」

 灯台下暗しというか、意外と近いところに別のヒヒイロカネの候補地がある。ハネ村も、以前訪れた候補地の1つであるタカオ市があるN県との県境にあるし、シャルが見せてくれた地図を見ると、カマヤ市は今回のヒントになったレンカ神社から南にいったところにある。
 地図を見ていて、ふと今回の騒動の中心であるホーデン社の本社があるトヨトミ市と、次の候補地であるカマヤ市が高速道路で繋がっていることに気づく。僕はこの辺に来たのは数回しかないし、全部電車でココヨ市に来るだけだったから、この辺の地理には疎い。この高速道路が使えると早く移動できるんだけどな…。
 2日後。温泉巡りを終えた僕とシャルは、エハラ市から中央横断自動車道経由でカマヤ市に向かうことにした。この間、ハネ村騒動は膠着状態。ハネ村は強気の姿勢と情報の積極公開を続ける一方、ホーデン社やトヨトミ市は「調査中」を繰り返して沈黙。A県県警はハネ村にもホーデン社やトヨトミ市にも強い態度を取れず、狼狽している。
 ハネ村は市民団体の協力を得て、村独自の検問を設けた。村に出入りする車は全てこの検問を通過しないといけない。観光客や輸送車も当然対象だ。一般車に紛れてホーデン社やトヨトミ市の工作員が潜入して数々の工作活動をしてきたから、やむを得ないところか。観光客は激減したようだけど、村全体が徹底抗戦の構えを崩さない。
 警察は自警団による検問は違法行為の恐れがあるとして止めるよう要請するが、ハネ村はこれまでの警察のおざなりかつホーデン社やトヨトミ市の肩を持った対応を挙げ、これだけ証拠が揃っているのに家宅捜索や一斉逮捕はおろか事情聴取もしないのは、自治体や企業規模で対応を変えることが警察の基本方針かと厳しく批判し、一切応じない。
 一方で、SNSなどを中心に、ココヨ市をはじめとするA県全体でのホーデン社の車の横暴や、警察の怠慢を告発する動きが相次いでいる。このご時世か、動画を伴う告発が多い。日時が映像の隅に入っていて、第三者の検証では大半が本物。これじゃA県が交通死亡事故ワーストなのは当然だと思う、僕とシャルも散々見た運転ぶりだ。
 これらが援護射撃のように広がり、強まる一方だから、ホーデン社とトヨトミ市、そしてA県警察はハネ村に手を出しあぐんでいる。A県県警はハネ村などの批判どおり、ホーデン社とトヨトミ市への家宅捜索などは未だ行っていない。これが余計に火に油を注ぐことになっているんだけど、ホーデン社とトヨトミ市に弱みでも握られているのか、A県県警は物凄くホーデン社とトヨトミ市に消極的だ。
 一方で、ハネ村には工作員拿捕と尋問について、逮捕監禁や傷害の容疑で任意で事情聴取したいとしているが、警察が言う任意は事実上の強制というのは周知の事実。ホーデン社とトヨトミ市には数々の証拠がある脅迫や威力業務妨害、名誉棄損などの容疑があるのに、事情聴取もしない。ハネ村側が強硬な態度を取るのは致し方ない。
 シャルには、A県警察とホーデン社の関連を調査してもらうことにした。警察が社会的地位で態度を変えるのは有名な話だけど、今回はよりあからさまだ。しかも全国から批判や告発が相次ぎ、「ホーデン社の専属警備員」がA県県警の通称にすらなっている現状で、A県県警がホーデン社寄りと思われても仕方ない態度を取るのは理解し難い。
 さて、僕とシャルが通るルートは、A県を極力避けるルートだから、かなりの遠回りになる。シャルのシミュレーションによると、所要時間はおよそ3時間。例の高速道路を使う最短ルートの3倍近くかかる。高速道路だからこの程度で済むのであって、一般道だと倍以上かかるだろう。渋滞があるようだけど、数kmならましな方だ。

「渋滞もあるので、サポートをより入念にします。」
「運転サポートは念のためってくらいで良いよ。色々調査や分析をしてくれてるんだし。」

 シャルは全く問題ないって言うけど、ハネ村には航空部隊と地上部隊、スマートフォンのアプリに使う早期警戒機を同時に展開して、更にホーデン社とA県県警の不可思議な関係の調査をしている。負荷の増大はやっぱりあるだろう。高速道路は渋滞を除けば加速減速と多少のハンドル操作で済むし、出来る限りシャルの負荷を減らしたい。

「事故発生や危険車両の接近は早めに知らせてね。」
「それは勿論です。私の走行には影響ありませんが、ヒロキさんの心理的ストレスは避けられませんから。」

 シャル本体に乗り込んで、システムを起動。シートベルトは自動で締まってくれる。次の拠点となるカマヤ市のホテルまでの経路がナビに表示される。さて、出発。ちょっと空の雲が厚いのが気になる。雨の予報もあったけど、雨の高速道路は運転し辛いから、出来れば降って欲しくないところ。
 シャル本体はAuWCS(Autonomous Wheel Control System:自律的走行制御システムの略)を搭載している。これは今時の車に標準搭載されている、路面の状況を読み取って駆動を制御する市システムだけど、シャル本体はリアルタイムで識別と処理をして最適な走行状態を維持できる。それは速度や路面の急変に対しても常に最高精度を誇る。
 だから路面が油塗れだろうが突然傾斜が出来ようが、全く問題なく走行できる。雨なんてノイズにもならないレベルらしいけど、どうしてもシャルが過負荷じゃないかと心配になる。念のため、水素はインターチェンジに入る前に充填しておいた方が良いかな。高速道路のスタンドは渋滞個所に近いと凄く混むからな。
 ホテルの駐車場を出て、インターチェンジ近くのスタンドで水素を充填して、改めて出発。今のところ順調。渋滞地点は…HUDに表示されている。「53km先事故渋滞 シマモトIC−アマガハラIC間 8km」。出発前よりちょっと延びてる。53km先だと余裕を見て40分くらいかな。
 事故渋滞の場所は当然少しずつ近づいて来るけど、走行自体は至って平穏。運転操作が少なくて済む高速道路の宿命で、退屈から眠くなって来る。瞬きや視線の移動を意識的にして眠気を紛らわせる。効果はあるけど限度がある。

「眠いなら次のミヤノSAに入ってください。私が制御します。」
「疲れての眠さとは違うから、サービスエリアで休憩すれば治るよ。」

 やっぱり連続の運転は2時間くらいが限度かな。ミヤノSAは…あと10分。もうひと頑張りしよう。…ん?後ろから追越車線を凄い勢いで走って来る車が居る。こういう車は偶に居るから、いちいち気にしない方が良い。元々2車線の走行車線を制限速度+10kmくらいで走ってるし、追い抜きたいならどうぞ。

「奴です。」
「え?奴って…まさか。」
「例のホーデン社工作員のSUVです。」

 な、何でこんな時にこんなところまで?!シャル本体の後ろに張り付く。間違いない。あの色と形状は例のストーカーSUVだ。今、ホーデン社はハネ村事件の渦中。そんな時事故でも起こしたら火にガソリンを投げ込むようなもの。なのにわざわざ追いかけて来て、煽り運転そのものの運転をするなんて。

「制御は私がします。ヒロキさんはハンドルを握っていてください。」
「大丈夫?相手は鉄の塊だよ?」
「所詮鉄の塊ですよ。」

 シャルは至って冷静。一方で声に怒りが籠っていると感じる。走行車線走行中とは言え、時速90km程度で走行中。周辺はそこそこ車が居る。万一事故になったら大惨事の恐れもある。逃げ場は次のインターチェンジまでないけど、ちょっと遠い。シャルはどうする?
 後ろから激しくクラクションを鳴らして来る。シャルがすぐさま遮音機能で耳障りな車の怒声をシャットアウトする。距離はギリギリまで詰めている。と思ったらいきなり追越車線に入って前に着く。一体何がしたいんだ?制御は完全にシャルに移行してるけど、どうにか振り切りたい衝動に駆られる。ここはシャルに任せるのが賢明だ。
 ミヤノSAが近づいて来た。あと2km…1km…!あのSUVが路肩と走行車線を反復横飛びのようにジグザグに移動し始める。シャルがミヤノSAに入ろうとすると前に出て急ブレーキをする。シャル本体も流石に慣性の法則で若干前のめりになる。これだとミヤノSAに入れないと判断したか、シャルは走行車線に戻る。あのSUVも急ハンドルで走行車線に戻る。
 無茶苦茶な運転だ。幸いシャル本体の後ろに車は居なかったけど、もし居たら追突事故の恐れがあった。あのSUVは性懲りもなく、前に着いたまま不規則に急ブレーキを踏んだり、減速したりする。シャルだから追突せずにかなり安定した走行が出来る状態だ。走行車線と言えど、80kmとか90kmとか出ている状況で、この運転は後方に対して危険過ぎる。追突事故を起こさせるつもりか?!

「それも含まれます。あと、次の非常電話のスペースに停止させる考えも見えます。」
「何がしたいんだ…。」
「狂人の思考を理解しようと思わない方が良いです。さあて…。この脳なしは相当死にたいようですねー。だったら、お望みどおりにしてあげましょうかー。」
「シャ、シャル?!」
「図体は大きくても所詮鉄の塊。AIもどきのチャチな制御システム風情が、私の前でそんなバカな運転をしたらどうなるか、身をもって知ってもらいましょうー。」

 抑揚が極限までなくなったシャルの声は、完全にキレた時のものだ。こ、ここで制裁したら、大事故になる。でも、シャル本体の制御は完全にシャルに移管している。僕は座ってハンドルを握ってるだけ。ど、どうしたら…。
 あのSUVが距離を取る。シャルがある程度スピードを出すと急ブレーキを踏んで、追突を誘うパターンだ。シャルはスピードを保っての走行を続ける。ある程度距離が縮まったところでSUVが急ブレーキ!その直前、シャルが追越車線に入って一気に加速する。追越車線が空白になっていたところを見計らっていたのか?
 シャルはそのまま追越車線を走行する。流れに乗って軽快に進む。タイミングを計算して振り払ってシャルもスッキリしたかな?そろそろ事故渋滞の最後尾があるシマモトIC付近だ。…あ!あのSUVが猛スピードで接近して来た。もうF県に入ってるのに、A県の感覚のままなんだろうか?シャルのスピードからして120km、否、それ以上出してるみたいだ。
 シャルは徐々にスピードを落として走行を続ける。最後尾らしいトラックのハザードランプが見えて来た。後ろから猛烈な勢いでSUVが突っ込んで来る。シャルは一体何を?かなりトラックが接近して来たところで、シャルはウィンカーを出して走行車線に入る。前後の車間距離は十分。そしてスムーズに減速してハザードランプを出す。
 次の瞬間、前方で雷が近くに落ちたような激しい音が起こる。丁度10km近くまでシャルが減速して見えたのは、トラックにあのSUVが追突した光景だ。フロントはぐちゃぐちゃになってトラックの荷台にめり込み、勢いで車体全体が前方に大きくひしゃげている。追越車線後方の車が急停止して距離を取る。
 SUVに追突されたトラックの運転席が少し見える。追突の衝撃があった後方を見やっているんだろうか。シャル本体が緩やかに追突されたトラックを追い抜いた−高速道路は追越車線の方が車が多いことが割とある−頃、後方で物凄い音がして巨大な炎が上がる。あ、あのSUVが爆発炎上した!

「シャ、シャル。何をしたの?!」
「HUDに干渉して、追越車線を突っ込んでいく私本体の映像を映しただけです。その間たった5秒。たった5秒間でも時速140kmで突っ走れば、その間の移動距離は約195m。チャチな制御系では到底追突は避けられません。」
「ば、爆発炎上してるよ…。」
「幾ら水素タンクが頑丈に作られてようが、鉄の塊が140kmほぼ減速なしで突っ込んだ際の運動エネルギーまでは吸収しきれません。執拗な煽り運転。かわされたことに腹を立てて猛スピードで追跡。挙句止まり切れずにトラックに追突して爆発炎上。自業自得ですね。」

 シャルにとっては、この世界の車の制御系を操作することなんて造作もない。HUDに干渉して偽の映像を表示するなんて、呼吸をその間止めるより簡単だろう。だけど、その5秒は高速道路を猛スピードで疾走する車にとっては、事故に繋がる危険な瞬間だ。居眠りや脇見が発端の大事故なんて枚挙に暇がない。無論、スピードの出し過ぎの大事故も。
 水素は液体で充填されている。本来は気体の水素を液化するには物凄い圧力が必要だと言う。その圧力で液体になった水素が漏れるのは非常に危険。だから水素搭載タイプの車は、水素タンクが凄く頑丈に作られている。その分割高になったり車体が重くなったりするから、SUVやセダンといった大型車に水素搭載タイプが多い。
 シャルの言うとおり、140kmで制動なしにトラックに突っ込んだ際の運動エネルギーを吸収しきれないだろう。そうなれば、待っているのは水素の漏洩と、電気配線の散乱が結びついての爆発炎上。後方では周辺の車が慌てて路肩に寄って距離を取ったり、停止して携帯で電話をしたりしている。警察や消防を呼んでいるんだろう。

「シャル…。運転手は?」
「生命反応は一応ありますが、140kmで正面衝突に加えて水素タンクが爆発炎上。五体満足で済む筈がありません。」
「生きては…いるのか…。」
「この先数十年、死んだ方がましだと思う苦痛や不自由を噛み締める時間を過ごすことになるでしょう。後悔してももう遅いですが。」

 SUVはあっさりスクラップにされた。運転手の工作員も重傷で済めば良い方だろう。シャルの怒りを買ったばかりに悲惨な末路を辿った連中は多いけど、炎と煙に包まれる生き時刻は初めてのケース。それにしても、幾ら偽の映像がHUDに映っていても、遠くにトラックの後部が少しは見える筈。車間距離を取っていれば…。
第36章へ戻る
-Return Chapter36-
第38章へ進む
-Go to Chapter38-
第5創作グループへ戻る
-Return Novels Group 5-
PAC Entrance Hallへ戻る
-Return PAC Entrance Hall-