2005年10月31日更新 Updated on October 31th,2005
2005/10/31
[かなりドタバタしそうです(汗)]
 10月も今日で最後となりました(早っ)。世間では年賀状や来年のカレンダーや手帳が出回っていますから、年末が近いことを多少実感しています。厚手のコートとマフラーと手袋とセーターが欠かせなくなったら、私にとっては確実に年末だと分かります。寒さ嫌いの私には厳しい季節がやって来る・・・(汗)。
 TOPでも大々的に告示していますが、明日(来月か)付の更新でこのページからはJavaScriptがなくなります。何でまた、と思われた方は「ニュース速報」若しくはTOP最上段の告示をご覧いただくとして、普段殆どインデックスをいじらない私にはかなり珍しく、大胆な改装を行います。それでアクセス出来なくなるということはありません。リロードしたら大きく変わってた、ということはあるかもしれませんが(^^;)。
 当然ですが、このコーナーも別ウィンドウではなくて同一のウィンドウで開くことになります。同じサイズの別ウィンドウになるかもしれませんが。ウィンドウサイズがTOPなどと同一になりますから、調整が必要でしょう。過去ログも考えると気が遠くなりますが、こちらは少しずつ着手していくつもりです。詳細は明日付をご覧ください。
 それにしても、レバーの刺身ってのは聞いたことがないな・・・。焼肉店のメニューにはレバーがあるし、晶子と一緒に買い物に出かけた時にも肉コーナーで見かける。でも、焼肉店でも肉コーナーでもひっそりした存在に感じる。焼いて食べるのは想像出来るし実際に食べたこともあるが、刺身ってどんな味がするんだろう?ましてや牛じゃなくて鳥だからな・・・。

「はい、こちら鳥レバーの刺身になります。醤油に浸けてどうぞ。」

 板前さんが差し出した皿を受け取る。長方形の皿に、ピンク色の肉が均一の厚みで切り揃えられ、縦2列に下を少しずらして並べられている。見たところ、マグロの刺身より色が濃いという感じにしか見えないな。
 食べてみないことには美味いも不味いも言えない。兎に角食べてみるとしよう。一切れを箸で持って醤油に軽く浸してから口に・・・。ふわりとした歯ごたえで、少し懸念していた妙な味に分類出来るようなものはない。マグロで言うと赤みよりトロだな。

「へえ・・・。これもなかなか美味いな。」
「美味しいですよね。これもやっぱり地元産ですか?」
「ええ、そうです。さっき食べていただいた焼き鳥用の鳥と同じで、放し飼いで飼ってるやつのレバーです。」
「一目見て、これは普通に売られてるものと違う、と分かりました。色の段階で全然違いますよね。」
「流石奥さん、お目が高い。そりゃあもう、鶏舎の鳥のレバーなんて刺身じゃとてもとても。」
「晶子。何でスーパーとかで売ってるレバーだと刺身は無理なんだ?」
「さっきの焼き鳥と同じです。一般に出回る鳥のレバーは鶏舎で飼っていますから、刺身で食べるのは無理と言うより危険と言った方が良いくらいです。」

雨上がりの午後 第2051回
written by Moonstone
 晶子の料理はどれも美味いが、どうしても焼き茄子だけには手を出せない。出されてから理由を言っても気分を悪くするだろうと思って、そのことは随分前に言っておいてある。だから、俺との食事の席には焼き茄子が出たことはない。
2005/10/30
[危なかった〜]
 昨日付は昼前という大遅刻の更新でしたが、今日付も危うくそうなるところでした(汗)。新作を書いていたのですが、起床が遅れたのと雨のせいで買い物の時間が長引いたおかげで開始が午後からになって、6時間かけてもまだ完成せず、休憩のつもりで横になっていたら日付を超えていたからです。
 予定していた2つのうち1つは完成。もう1つは明日完成すると思いますが、予定と違って前後編に分割することになりそうです。まあ「必ず1回完結」とかいう決まりはないので構わないんですが、1日を追うと言うのもなかなか難しいもので(あまり言及するとネタばれになりそう)。
 此処数日連載が短めですが、これまたストックがギリギリの状態の連続でして、殆ど書き下ろしに等しい状態が続いています。毎日書くというのは習慣付けているつもりでも結構大変です。むやみにご来場者数を増やすことだけに固執しないで、量も質も充実させていきたいのでご了承願います。

「これも美味しいですね。色の割に味はくどくなくて、肉は引き締まってますし。」
「本当に美味しいです。特に歯ごたえが良くある焼き鳥と全然違います。」
「良いでしょう?地元でしか食べられへんから、地元産っていう銘柄がつけられるんですよ。」

 板前さんの言うとおりだ。その場所でしか見られない、食べられないからこそ本当に「地元」と言える。幾ら写真や映像で見ても、直接空輸したりしても、地元から中継したり地元から運んだということには変わりない。「○○産の」と正直に銘打っているところはまだしも、「産地直送」というのは地元でないことを覆い隠す誤魔化しだ。
 焼き鳥も食べつつ、残り僅かとなった肉じゃがや牛ひれ肉の刺身を食べ、ビールを飲む。偶々目にした町の小さな飲み屋での思わぬ大収穫。あえて「王道」を外れたからこそ見えたものだ。こういうことは今回に限ったことじゃないだろう。「王道」を安易に選ばない、妥協せずに自分が信じた道を行けば、少なくとも後悔することはない筈だ。「自分はここまでやれたんだ」と自分なりに納得出来るから。

「鳥レバーの刺身をお願いします。」
「はいよ。」

 今度は晶子が注文する。鳥レバー。あまり聞きなれないが、普通にレバーと言うと牛の肝臓。ということは鳥の肝臓か。どんなものか食べてみたいという興味もあるが、どんな味か分からないという不安もある。後者の方がちょっと優勢か。

「祐司さんはレバーは大丈夫ですか?」
「ああ。基本的に何でも食べるから。焼き茄子以外は。」
「祐司さん、焼き茄子は苦手ですものね。」
「小さい頃あれで酷い目に遭ってトラウマになっちまったんだ。今でもまだ手がつけられない。それ以外なら大丈夫。」

雨上がりの午後 第2050回
written by Moonstone
 板前さんの勧めを受けて焼き鳥を食べる。色からは意外とも言える控えめな、それでいてしっかり腰が据わった味と、板前さんの言うとおり締まった肉の歯ごたえが絶妙だ。これも噛めば噛むほど味わい深い。一般に回さないというだけのことはある。
2005/10/29
[大遅刻(汗)]
 昼前の更新という大遅刻をやらかしました。体調を崩したとかそういうことではなく、どうにも眠くて大人しく寝たからです。起床したのが9時過ぎで、外が雨だったので買い物は徒歩。帰宅してから少しばかり掃除をしたので余計に遅くなりました。
 この週末の更新はかなり微妙です。次回更新に向けての準備を優先したいので、この週末に突発的に公開出来る作品を用意していないからです。ポイポイ適当に書いて公開、ということはしたくないので。
 ちなみに体調はいたって良好です。反動か何か分かりませんが過食気味なので(汗)、量を控えるように心がけているくらいです。晴れたと思ったら雨が降る、という忙しい天気ですが、どのみち休日に外出することなんて殆どないから別に構わない、と楽観視しています。
「何て言うんでしょうか・・・。タイミングというのか・・・、そういうのは今だ、と思ったので。」
「結婚っちゅうもんは縁があってのもんですからね。今が時期やと思ったんやったら、しといた方が良いですよ。就職とかの問題もあるでしょうけど、2人一緒やったらやっていけますよ。」
「そう思ってます。」

 本当にそう思う。大きく、しかも間近に迫った課題に直面している俺には晶子の協力が不可欠だ。2人一緒に暮らすだけが結婚や夫婦じゃない。信じ合って助け合うことが肝要だ。俺が直面している課題は、それが試される最初の時と言って良いだろう。
 程なく焼きあがった焼き鳥が、皿に盛り付けられて差し出される。醤油か何かは分からないが、事前にそういうものに漬け込んであったんだろう。焼き上がりの色はかなり濃い。同時に香ばしい香りが食欲をそそる。

「この鳥も地元産ですか?」
「ええ。一般の店に回すんは何処でも飼っとるようなもんですけど、これはこの地方しか出回らへんもんですよ。鶏舎やのうて放し飼いにしとりますから、肉の締まりは一般の鶏肉とは比べ物になりませんよ。」
「放し飼い、ですか。」
「鶏舎で飼っている鶏は動こうにも動けなくて運動不足になりますから、病気になりやすいんですよ。ですから餌に抗生物質を混ぜているんです。」
「奥さんの言うとおりですよ。この肉はそういった心配が必要あらへんもんですから。さ、どうぞ。」

雨上がりの午後 第2049回
written by Moonstone

「今は結婚する年齢が高い傾向にあるのに、学生さんの時期に結婚されるというのはなかなか珍しいですね。」

2005/10/28
[漢字忘れ]
 「使わないと忘れる」とよく言われますが、知識というものはその代表格でしょう。中学や高校で散々テスト勉強などで頭に叩き込んだ筈のことが、時を経て自分の子どもから「教えて」と言われて見てみたら首を傾げる、なんてことはご家庭では結構あるかと思います。
 私は本業でも自宅でもPCを使う比率が圧倒的に高いです。本業で事務に提出する書類は手で書いて印鑑を押して、というのがまだ主流ですが、回覧書類はメールかPDFで来ますし、報告書など専門稼業の分野ではちょっとした書類でもWordで書くのがむしろ普通です。そんな生活をしていると、漢字の知識がどんどん消滅していきます(汗)。
 漢字なんてPCで使ってるから大丈夫、と思っていると大間違い。いざ紙を出されてこの文字を漢字で書いて、と言われると、案外簡単なものでも手が止まることがあります。私は書類の下書きなどだと今でもコピー用紙の裏側などにざざっと手で書くという習慣があるのでまだましかもしれませんが、一度何かの文章を全て手書きで書いてみるのも良いかもしれません。
 俺は答えるのと同時に左手を差し出す。隣を見ると晶子も出している。双方の左手薬指に据えられた指輪が、店の柔らかい照明で白くて暖かい輝きを放っている。板前さんは俺と晶子の手を交互に見て、感心と納得の両方で何度も小さく頷く。

「スッキリした感じの指輪ですね。光り方がちょっと・・・普通の指輪と違って、柔らかく見えますわ。ご主人が贈られたもんですか?」
「はい。選ぶのに苦労しました。生憎ファッションとかそういうのにはてんで無頓着で、流行のデザインとかは全然知らなかったもんで・・・。」
「でも、なかなか良い指輪じゃないですか。苦労して選ばれた甲斐がありましたね。奥さんも嬉しかったでしょ?」
「はい。最初はびっくりしましたけど、凄く嬉しくて・・・。」

 晶子は喜びと幸せに満ちた笑顔を浮かべる。俺は晶子にこの指輪を贈った時のことを思い出す。誕生日プレゼントに、って前置きしてから専用のジュエリーボックスに入った2人分の指輪を差し出したら、晶子は一瞬驚いたが、それは直ぐ満面の笑顔に変わった。
 そして俺が想定していた左手中指に填めようとした時、晶子は自分が差し出した左手の薬指を指差して、此処に填めてください、と言って譲らなかった。俺が全身が火照る思いでそのとおりにして、自分は左手中指に填めようとしたら晶子に、同じ指に填めてください、と言ってこれまた譲らなかった。
 幾ら俺とて左手薬指に指輪を填めることの意味くらいは知ってるから、照れくささでオーバーヒートした頭は、その日いっぱい収まることはなかった。
 そういうこともあって、晶子の誕生日は事実上、俺と晶子の結婚記念日でもある。かといって1周年の去年は俺がイヤリングを贈って、晶子が買ってきたケーキと紅茶で祝う、というささやかなものだった。それでも晶子は本当に嬉しそうだったし、幸せそうだった。晶子はプレゼントの見た目の豪華さや値段で値打ちを決めないということが改めて良く分かった時間でもあった。
雨上がりの午後 第2048回
written by Moonstone

「指輪とかは?」
「これです。」

2005/10/27
[かなり痛い思い出]
 今日付公開の此処の過去ログは2000年10月分。丁度今から5年前です。病状が極度に悪化して一月帰省して療養することを余儀なくされた時です。通院・治療を始めたのは2000年からとは憶えてましたが、途中の療養期間が何時だったとかまでは流石に憶えてません。ログを残しておいたのは自分の足取りを辿ることが目的ではありませんが、この時期こんなことがあったのかと振り返るには良い材料ではあります。
 ただ、これまでどうにかほぼ毎日続いていたところに、かなり大きな断絶が生じています。当時は隔週での定期更新を明示していましたから、その時期しか此処の新規分を書いてなかったんですよ。まあ、専ら実家で横になっていた(と思う)だけですから大きな変化はなかったでしょうが、その時期の様子などは自分でも気になります。
 今は睡眠部分を除けば相当回復していますが、此処まで来るのに5年もかかったのか、と思うと長いものです。此処までの紆余曲折をあえて公開することで、同じ病に苦しむ方が「自分1人じゃないんだ」とでも思っていただければ幸いです。
 途中別の客からの注文が入ったり、勘定をして店を出て行く客に挨拶したりする間に、俺と晶子は出された料理を食べつつ、ビールを飲む。新鮮な牛ひれ肉の刺身の旨みとじっくり煮込まれた肉じゃがは、ビールと相性が良い。メニューを見て、地鶏串焼きを2人分、板前さんに注文する。板前さんは屈んで串に刺さった肉を取り出して焼き始める。

「失礼ですが・・・、お二方はどういったご関係で?」
「夫婦です。」

 串の焼き具合を見ながらの板前さんの問いに、晶子より先に俺が答える。普段こういったことは晶子が先行してるから、たまには俺も言わないとな。晶子を見ると、少し驚いた様子だったものが喜びいっぱいになっている。

「ほう・・・。所謂学生結婚ってやつですか。」
「はい。まだ双方収入は実家からの仕送りとかで、それぞれが最初から住んでる家がありますから、通い婚の状態ですけど。」
「大学は、お二方とも同じで?」
「はい。私は工学部で、隣の妻は文学部です。」
「ということは、今回此処に来られたのは、新婚旅行を兼ねてのことですか?」
「そういう位置づけです。私が高校時代の友人から此処への旅行に誘われたんです。予約した旅館の1部屋が1人だけなんでどうしようかって思っていたところだったんで、友人が連れて来て良いって言ったんで今回一緒に。」
「それはそれは、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」

 祝福してくれた板前さんは串をひっくり返して焼き加減を見てから、裏返した状態で焼きを再開する。
雨上がりの午後 第2047回
written by Moonstone
 板前さんとの会話で、晶子の実家の様子が少し垣間見えた。晶子が包丁を研ぐところは2、3度見たことがあるが、事前に砥石をじっくり水に浸すなど、かなり念密だ。もしかして高級料亭の主人の娘か、と思ったこともあるが、どうやらそうでもないらしい。
2005/10/26
[久しぶりの野球中継]
 偶々日本シリーズの中継をしているのを見つけて、そのまま観戦。何かのきっかけで一気に畳み掛けるマリーンズの積極的な攻撃が功を奏し、タイガースは藤川投手が打たれたのをきっかけにマリーンズの攻撃に押される一方だった、という印象です。
 セリーグとパリーグでは日本シリーズに入るまでの日程が大きく異なって、それがタイガースにとって不利になっているのは否めません。同一タイトルを争う以上は同一の条件で代表(この場合は各リーグの優勝)を決めるよう、ルールをしっかり決める必要があるでしょう。
 今日マリーンズが勝てば、31年ぶりの日本一とのこと。バレンタイン監督は2度目の監督就任の2年目でリーグ優勝と日本一へとチームを導くことになります。1度目の就任はフロントとの確執で1年で退任しましたが、2度目の今回はマリーンズも長期就任を求めるでしょう。マリーンズの黄金時代の到来でしょうか。

「それに、きちんと摩り下ろした天然の山葵は、辛さだけじゃなくて甘みも含むんです。甘みと言っても砂糖とかの甘いとは違う、味わい深さと言うか、そんな甘みですけどね。同じ塩でも一般に安く手に入る食卓用の塩と、にがり入りの塩とでは味が違うのと同じなんです。」
「へえ・・・。」
「よくご存知ですねぇ。料理されるんですか?」
「はい。ひととおりのことは出来ます。」

 あれも出来ますこれも出来ます、と自分から言わないのは晶子らしいな。実際は和洋中、俺が思いつくものは何でも作れて、自分で魚を捌いて刺身を作れる腕前を持っているんだが。

「包丁はご自分で研ぎなさるんですか?」
「はい。普通の料理用は定期的に、刺身包丁は三枚下ろしの過程で太い骨を切った時には後日必ず研ぎますね。新品はまだしも、何度か使っているものはどうしても頻繁に手入れしないと綺麗に捌けませんから。」
「なかなか大したもんですねぇ。料理してる人でもなかなか包丁の手入れまではせぇへんもんですのに。」
「包丁もそうですけど、料理器具も料理の1つ、と教わってきましたので。」
「ご実家・・・は、料理屋さんですか?」
「いえ。一般の勤労世帯です。」

雨上がりの午後 第2046回
written by Moonstone
 山葵の味に感心しつつも疑問を感じた俺に、晶子が解説する。
2005/10/25
[今更遅いわ!]
 谷垣財務相が次期首相では消費税増税が不可避と公言したり、大増税計画が発表されたりして、マスコミ各社は「公約違反だ」「数の横暴」とか声を揃えて批判しています。ですが、私からすれば、崎の衆議院総選挙で首相や政府与党の大応援団を買って出て、「自民か非自民か」などの過去の選挙劇場を焼き直して 煽るだけ煽っておいて、今更庶民の側に立った報道をするなど欺瞞も甚だしい、と思うだけです。
 自民・公明の与党も民主党も衆議院選挙の選挙公約で増税を明記していました。それをTV番組などで共産党が指摘して「サラリーマン増税は反対」とか「私の在任中は消費税造成はしない」とか言い訳に走り、議員バッジをつけた途端に本章を剥き出しにしただけです。本来報道と言うものは各党の選挙公約を構成公平に紹介して、有権者に判断材料を提供するのが役割です。それを投げ捨てて政府与党の応援団になっておいて、よくも今更いけしゃあしゃあと政府批判が出来るものです。
 所詮マスコミなど、張り付いた情報ソースからのおこぼれ情報や、ある通信社からの配信記事をそのままコピー&ペーストしているだけ(ネット版を比較すれば直ぐ分かります)の、学生の新聞部が鼻で笑う無能集団です。とっととこんな集団の商品の購読など辞めて、「労働者たるもの新聞を読むなら赤旗を読むべき」と言っておきます。
「良いんですか?」
「此処にお二人が来られたんも何かの縁。繁華街に行かんとこんな小さい店に来てくれたお礼ですわ。さ、どうぞ。醤油はかけないで山葵を少し乗せて一緒に食べてみてください。」
「じゃあ、いただきます。」
「ご馳走になります。」

 折角見ず知らずの俺と晶子に町の話をしてくれて、更に見た目にも美味そうな牛ひれ肉の刺身のサービスだ。ありがたくいただこう。板前さんに言われたとおり、ひれ肉のスライスの1枚に、山の頂点を取る形で少し取った山葵を乗せて、そのまま口に運ぶ。口の中で肉が自然にとろけて旨みを広げ、山葵の甘さを含む辛さと融合して見事な味わいを創り出す。噛むごとにそれが拡大されていく。

「美味しいですね。」
「とても美味しいです。」
「そうでしょ?この肉は地元の店でしか手に入らないもんなんですから。」

 単純だが料理をする側にとっては何より嬉しい筈の感想に、板前さんは嬉しさと良い意味での誇らしさを交えた笑顔で語る。

「地元の店だけ、っていうと、繁華街にある店じゃ食べられないんですか?」
「あの手の店はチェーン店が多いもんで、農家も普通の肉は回してもこういう部分は回さないんですわ。」
「そうですか。肉は勿論ですけど、山葵が不思議とあまり辛くないてこれも美味しいですね。辛いって言うより甘いって言うかそんな味がします。」
「山葵は綺麗な水があるところじゃないと栽培出来ないんですよ。」

 山葵の味に感心しつつも疑問を感じた俺に、晶子が解説する。
雨上がりの午後 第2045回
written by Moonstone

「牛ひれ肉の刺身です。どうぞ食べてください。サービスしますんで。」

2005/10/24
[1日1作が限度かな(汗)]
 昨日一昨日でそれぞれ1作品ずつ新作を書き上げました。でも、その後は作品制作を続行出来ませんでした。体力が落ちてるのもあるでしょうけど、途中食事などでそこそこの休憩を挟んではいますが、10時間ほどPCに向かい続けるとかなり体力と精神力を消耗します。(当然ですけど)今後の展開を常に考えながら書いていますから、本当に頭を休められるのは書き上げた後です。
 今日は頂き物CGの展示と私のアルバムレビューを追加。「このアルバムはまだか」と思われるかもしれませんが(それ以前にご覧いただいているのか不明)、一度全て聞いてから書く関係もあって、順次追加していきます。
 迷惑メール排除対策を強化してから、その手のメールは目に触れることなくゴミ箱直行となっています。使い慣れるまでちょっと戸惑いがありましたが、そういうのは一時のものですからね。予想以上に強力なので逆に驚いていたり(^^;)。こういう形での「予想外」は大いに歓迎です。
 板前さんの話は雪合戦の後でぜんざいをご馳走になった家で、小母さんから聞いた話と重複する。やっぱりこれまでの町を変えることや、スキーが出来ない時期をどうするのかといった不安や疑問はあったんだな。夏スキーっていうのもあるらしいが、冬ほど客は見込めないだろうし。

「結局スキー場は予定どおり山削って作って、若い人向けの繁華街は外観を他の建物と統一して新規に設けた別枠に集中させることになりましてね・・・。確かにお客さんの数は増えて、特に若い人は冬場にぎょうさん来るようになりましたよ。んでも、繁華街の営業時間はその店に委任すべき、っちゅう賛成派の主張どおりになったもんで夜遅うまで店開けて・・・。夜もスキー出来るようにっちゅうことでスキー場をそのように整備したもんで、夜遅う帰って来ても繁華街で飲んだり出来るように、っちゅう考えなんでしょうね。」
「「・・・。」」
「賑わうようにはなったんですけど、夜は下手に繁華街に近づけんようになってもうたんですよ。酔った若い人が集団になってまうとね・・・。まあ、酔うと滅茶苦茶するんは若い人に限ったことやないですけど、あの繁華街は外観こそ他の建物と同じですけど、中身は若い人向けになってるもんで、どうしても若い人ばっかりが集まるんですよ。酔った勢いで家の戸を蹴ったりするんで、繁華街近くの人はえらい迷惑しとるんですよ。特にスキーする関係で若い人がぎょうさん来る冬場はね。」
「「・・・。」」
「今までは夜でも鍵かけんで良かったくらいなんですけど、今は特に子どもや若い女の子に夜は外に出やんように、って言うて聞かせてるんですよ。町長とかは、こんな事態になるとは思うてなかったとか最近の若い奴はとか色々言い訳したりしてますけど、誰がこんな環境作ったんや、て思てますよ。」
「・・・でも、それを言い出すとまた町を二分する言い争いに発展しかねないから、黙認するしかない・・・。この前ぜんざいをご馳走になった家で、小母さんがそう仰ってました。」
「ええ、そのとおりですわ。」

 板前さんは小さい溜息を吐いた後、俺と晶子に2つの皿を差し出す。ツマの上に・・・恐らく地元産の牛肉だろう。それが薄めに切り揃えられて刺身のように綺麗に並べられていて、端に山葵が小さな山を作っている。
雨上がりの午後 第2044回
written by Moonstone

「このご時世、伝統的な町並を残すだけじゃ町の財政は成り立たないから若者向けに整備すべきだ、って町長とかが言い出しましてね。確かに、此処最近観光客が減ってきてるってことは客商売やってて分かってましたよ。んでも、山削ってスキー場作るんはまだしも、県の重要文化財にも指定されとるこの町並とかをどうするんか、いう話になって、町長とかは店の外観だけ他の家と同じようにしてまえばええ言うたんですよ。逆にそのまんま残っとる山を削ったりしたら土砂崩れ招くことにもなりかねへんし、スキーやれへん夏とかはどうするんや、って反対する人も出て来ましてね。町が賛成反対で真っ二つに分かれたんですよ。」

2005/10/23
[またトラブルか・・・(怒)]
 10月19日夜から10月20日朝までこのページが一切アクセス不能になった件についてTOP最上段にて事情説明をお詫びをしましたが、21、22日と立て続けにアクセス不能になる全く同じ事態が発生しました。幸い今回は比較的短時間で復旧しましたが、事情説明にも追記しましたとおり、復旧作業で問題が生じたという回答。これを受けて一挙に我慢の臨界点を突破しました。
 サーバーのトラブルはサーバーと銘打っては居ますが所詮PCですし、24時間365日稼動していますから故障もそれなりに起こりうることです。それを事前に回避するためにメンテナンスをしたりするわけです。にもかかわらず、復旧作用の不手際で連日アクセス不能になってもらっては、特に今回は更新間もないということで更新チェックページ各位の情報でご来場される方が多数居られるのに、肝心の当ページにアクセス出来ないのは重大な問題です。
 私は基本的に、PCは使用者に絶対忠実な道具であるという認識です。言うことを聞かないなら聞かせる。それでも聞かないなら切る。そういう割り切りは平気でします。これはサーバー管理でも同じです。料金で管理を委託しているんですから。ということで動き始めています。結果などは随時お伝えします。
 板前さんが話しかけてくる。年配層の中で俺と晶子のような若い2人が居るのは、やっぱり目立つようだ。別に隠す理由もないから答えようか。

「新京市からです。」
「新京市っていうと・・・、あの新京大学があるところですか?」
「はい、そうです。」

 市の名前はいまいちぴんと来なくても大学の名前と同じだから分かる、というのは結構ある。実際新京市は市町村合併で出来た新市で、名前が新しい都市ということで新京市にしたという、俺から見れば安易としか思えない理由だったりするが−バイトを始めて程ない頃にマスターから聞いた−、同時にその前からあった新京大学の名前にもあやかろうと目論んだ、という話もある−これもマスターから聞いた−。

「見たところかなりお若いようですけど、お歳は?」
「2人共21歳です。」
「ということは学生さんですか?」
「そうです。」
「今時期学生さんは冬休みですからね。若い人はこの時期、この町にぎょうさんスキーしに来られるんですよ。お2人もそうですか?」
「いえ。私達は私の高校時代の友人との一足早い卒業旅行を兼ねて、観光に来たんです。29日から来てるんですけど、スキーは一度もしてないんです。」
「ほう。随分珍しいですね。若い方がスキーやなくて観光に来られたんもそうですけど、この時間に若い方が来られるいうんも随分珍しいんですよ。」
「そうみたいですね。この町にある若い人向けの繁華街は結構賑わってるみたいですけど。」

 板前さんの表情が少し曇る。そして少しの沈黙を挟んで寂しげな笑みを浮かべて言う。
雨上がりの午後 第2043回
written by Moonstone

「お客さん、お2人共お若いですが、何処から来なさったんです?」

2005/10/22
[模様替え]
 私は基本的に掃除や片付けといったことが苦手ですし嫌いです。「どうせ綺麗にしても直ぐ散らかるし」という気持ちもありますし、此処にこういうものがある、と自分で一度決めたら、そこから移動すると迷子探しになってしまうからです。
 流石に職場では複数の仕事を並行で手がけているのもあって書類や記録メディアが入り乱れるので、書類は項目ごとにファイルに綴じたりとかはしています。でも自宅ではハウスダストによるアレルギーが今のところないのもあってかあまり掃除をしませんし、余程のことがないと模様替えはしません。最近は手をつけられませんが、シンセサイザーが多数あって配線が複雑なので迂闊に外せないのもあります。
 今の自宅に住むようになってかなり長いのですが、基本的な家具類の配置は殆ど変わっていません。机やPCとなると尚更です。でも近くプリンターを新規に導入するので、これを機会にPCの入れ替えとかをしようと思っています。現状ではプリンタの置き場所がないんですよ(^^;)。

「美味しいですね。この肉じゃが。」

 晶子は感心と満足感を浮かべている。料理を作れて、そのレパートリーの1つに肉じゃががある晶子は、俺以上に出来栄えが気になるところだったんだろう。俺も肉じゃがを箸で割って食べるが、十分煮込まれていてふわっと口の中で溶けて、味わい深い適度な濃さの醤油の風味が口の中を満たす。

「ああ。これは美味いな。中が硬いとかいうのもないし、味も全体に良く染み込んでる。肉じゃがに限ったことじゃないけど、煮物って作るのに時間かかるよな。」
「ええ。煮込むこと自体が料理の手順の中では時間がかかる方ですし、煮込むことを考えて煮込み汁を作らないといけないですから。」

 肉じゃがと枝豆を挟んでビールを飲む。店内は賑わってはいるが、騒々しいとかいうことはない。鳥の鳴き声や町の雑踏といった普段の生活にある耳慣れた音というレベルだ。落ち着いた気分で呑んだり食べたり出来る。

「2人でお酒飲むのって、久しぶりですね。」
「そうだな。2人で呑んだのは・・・去年の1月にまで遡らないと駄目か?」

 俺は酒が入ると翌日かなり目覚めが悪くなるというのもあって、普段は昼過ぎまで寝ていても構わない土日にしか呑まない。レポートの数が多くて提出期限が揃いも揃って迫っているとかいう事態になると、睡眠時間が惜しいから酒は呑まない。
 月曜に俺の自宅で料理を作ってくれる晶子も俺のそういうところを知ってるから、お酒呑みませんか、とは言わないし缶ビールを冷蔵庫から持って来るというようなことはしない。明日起きる時間を気にする必要がないというのは格別の思いだ。逆に普段の生活に戻ったら適応出来るだろうか、という不安がなくもないが、一人暮らしや進級して多忙さを増すばかりの大学生活にもどうにか馴染んでこられたから、多分大丈夫だろう。休みボケは多少あるかもしれないが。
雨上がりの午後 第2042回
written by Moonstone
 店員が肉じゃがを2人分運んで来る。小鉢と言うには小さい、味噌汁の器の底を少し薄くしてその分幅を広げたような割と大きめの器に、親指と人差し指で半円を描いたくらいの大きさの煮込まれたジャガイモが数個、肉と共に入っている。値段の割に量はそこそこある。
2005/10/21
[給湯システムも復旧]
 昨日朝から自宅の管理会社に問い合わせたところ、電話で状態を伝えて交換するしかないということになり、交換のための業者を手配してくれました。念のため尋ねましたが、工事費などは一切無料だとのこと。10万とかかかるなら、ATMへ行かないといけませんし。
 業者から直ぐに電話が入って、交換工事を何時するかという話になりました。1日で出来るものならしてほしいと伝えたところ(湯が使えないのはかなりきついので)今日してもらうことに。ただ、業者の事務所が私の自宅からかなり距離があって、交換工事も丸ごと一式交換する必要があるのでそれなりに時間がかかるという返事。それは仕方ないということでお願いしてから職場にその旨を伝えて午後も休むことにしました。
 交換工事は少し五月蝿かったですが、それは許容範囲内(ロードノイズよりずっとまし)。交換後の給湯試験も無事終了しました(^^)。新品の給湯システムはかなりコンパクトで室内のコントローラも綺麗なデザイン。懸案事項が解決して良かった、良かった(安堵)。
 直ぐにお絞りと茶と割り箸が運ばれてくる。メニューを見て注文する品を決める。まずは無難にビールと肉じゃがに枝豆といこうかな。

「何になさいます?」

 俺が注文を言う前に板前さんが尋ねて来る。少し戸惑ったが、俺は注文の品を伝える。店長は品を従業員に伝えて来る。初めての客だから店の側、板前さんからアプローチした方が楽だと思うんだが、そういう取り決めなんだろう。これは客からああだこうだ言う性質のものじゃない。
 先に中程度の大きさのジョッキに入ったビールと、枝豆が割と多めに盛られた直系15cmほどの皿、そして枝豆の殻入れが運ばれて来る。これでまず呑む準備は出来た。俺はジョッキを手にとって、同じくジョッキを手に取った晶子と向き合う。

「じゃあ改めて、今年もよろしく。・・・乾杯。」
「乾杯。」

 俺と晶子のジョッキが軽くぶつかり、澄んだ音を立てる。一口飲んだビールは喉越しが良くて味も良い。暖房が効いている中でよく冷えたビールを飲むのは美味いもんだ。まあ、生温いビールなんて飲めたもんじゃないが。
 次に枝豆をつまむ。茹でてさほど時間が経っていないのか、少し温もりが残っている。こういう場合は先に大量に茹でておいて冷蔵庫に保存しておき、注文に応じて出す、という形式が殆どなんだが、どうやらこの店は違うようだ。
 店にはBGMは流れていない。CDやラジオは勿論、有線放送もない。他の客の話し声や調理の音がBGM代わりだ。だが、それが逆に寛げる時間を演出している。初日の飲み会会場となった居酒屋はBGMも大音量なら客の声も大きくて、意識して聞かないと相手の声が満足に聞き取れなかった。大勢で呑んで食べる分にはそれで良いだろうが、寛ぎや酒や料理と雰囲気を味わいたいと思う客には最適の条件だろう。

「おお待たせしました、こちら肉じゃがでございます。」

雨上がりの午後 第2041回
written by Moonstone
 2番さんに2名様ご案内です、と、はいよ、というやり取りが交わされる中、俺と晶子は案内されたカウンターの席に並んで座る。丁度カウンターの中央付近の位置で、ガラスのケースには牛肉らしい塊や下ごしらえを施された野菜、枝豆、刺身に使うらしいブロック状の魚肉といったものがすらりと並んでいる。最初に出迎ええくれた白い作業着姿の板前さんの後ろには、品物の原産地が手書きで書かれている。お勧めとして大根の煮付けや小さな牛鍋セットというのもある。呑むだけじゃなく、食べる方も楽しめそうだ。
2005/10/20
[ようやく復旧したか・・・(汗)]
 19日の夜から今日の朝にかけてまったくこのページが見られない状況になりました。勿論私の方でも同じで、FTPも出来ませんでした。サーバーの管理会社に問い合わせようにも、サーバーの管理会社のページにもアクセス出来なくて(まさに共倒れ)、まったく原因が分からないまま復旧を願いつつ就寝しました。
 起床後9時過ぎにサーバー管理会社に問い合わせたところ、アクセス可能であることが分かり、私も確認しました。原因はニュース速報だけでなくてこのページの最上段からもリンクしていますが、DNS(ドメインネームサーバー:URLから目的のページのIPアドレスを割り出すサーバー)がダウンしたとの回答がありました。サーバーそのものがダウンしていたら最悪ページ全体のデータが消失してしまうので復旧に多大な時間を費やすことになりますからそうでないことを願っていたんですが、その点だけは救われました。
 ちなみに本業は、自宅給湯システムの故障で湯が出なくなったため、その修理依頼と立会いのためにまず午前中だけ休み、その日で直るのであれば職場に電話連絡して午後も休んで復旧を見届けることにしています。今回はどうにか一時的だったり交換すれば済む程度のものだったりで、安堵しています。給湯システムは15年以上稼動しているものなので、よく使えたと思っています。・・・早く風呂に入りたい(今はコンロで沸かした湯で身体を拭いて凌いでいます)。
 冷え込みが厳しい分、晶子の密着は増している。昼間は俺の腕を手で取ってぴったりくっつくくらいだったが、今は腕に抱きついている。これだけ寒いとそうしたくもなるだろう。吐いた息が深い霧を作って長く残る。息が凍るとはまさにこのこと。浴衣に半纏を羽織って、なんて考えを宿を出る前に起こさなくて正解だった。
 街灯が点々と照らす静かな通りを歩いていくと、街灯のオレンジ色とは違う淡い赤色が浮かんで来た。その部分だけ他と違って木の引き戸で閉じられていなくて、格子の縞模様を含んだやや白色の割合が高い、だが温かくて大きめの明かりがある。店だ。
 引き寄せられるように向かっていくと、淡い赤色の中に「呑み所 御用」という毛筆タッチの看板が見えて来る。更に近づいていくと、微かに人の話し声が幾つか聞こえてくる。「騒いでいる」という性質のものじゃないことは確かだ。大きな縞模様の光の源である入口の傍には「お品書き」とあって、肉じゃがやきんぴらごぼうといった、一品料理が並んでいる。それも結構お手頃な値段だ。
 その上、酒の瓶を並べた棚−勿論中は空だろうが−には、色々な種類の酒がある。純米大吟醸から焼酎、ビールまで様々だ。酒は米もさることながら水も重要な要素と聞いたことがある。雪解け水に恵まれるこの町は酒を特産品の1つとしていることは、昼間の観光で分かっている。そこでは飲まなかったが、此処に来た記念に味わってみるのも乙と言うものだろう。晶子を見ると、晶子は笑みを浮かべて頷く。俺は暖簾(のれん)をくぐってドアを−自動ドアじゃなくて引き戸というのがまた粋だ−開ける。

「いらっしゃいませ。」

 張りのある声が最初に出迎える。続いて着物姿の女性数名がいらっしゃいませ、と歓迎の挨拶をする。店は小ぢんまりとしているが、落ち着いた雰囲気の中に座敷とカウンターがあり、数名の年配の客が静かに語らいながら酒を傾けたり料理と口に運んだりしている。見た目にも雰囲気の良さが感じられる。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2人です。」
「カウンターと座敷とありますが、どちらをご希望ですか?」
「カウンターが空いてるならカウンターを。」
「じゃあカウンターにご案内します。どうぞこちらへ。」

雨上がりの午後 第2040回
written by Moonstone
 散歩をしている年配層を偶に見るくらいで、通りは昼間の賑わいが嘘のように静まっている。「眠りに就いた町」という表現がぴったりだ。夕暮れまで断続的に降っていた雪が道を軽く覆っているが、スキー場のように膝を大きく上げ下げしないと前に進めないということはない。靴の底を形成するゴムの部分が埋まる程度の厚みだ。そのことを照明するように、人が歩いたことを示す痕跡が幾つか残されている。
2005/10/19
[何時の間にか意識消失]
 毎日送りつけられるあまりの迷惑メールの多さに、流石に我慢の限界に達してメールソフトを切り替えることにしました。これまでは削除対象となるメールをある程度仕分け出来たんですが、仕分けついでにゴミ箱に放り込んでくれるとまでは行かず、仕分けから漏れるものもありましたが、新しいものは事前に仕分け出来るのは勿論、ついでにゴミ箱に放り込んでくれて、漏れたものも使っていくうちに始末してくれるようになるというものです。
 ダウンロードとインストールをしたのは良いのですが、メールソフトだけにアカウントの設定(メールアドレスやPOP、SMTPサーバーの指定など)をしないといけなくて、更に仕分けや処分の能力は圧倒的に向上しているとは言え、基礎の設定はしないといけないのでかなり苦心しました。
 月曜は雨だったので徒歩通勤、しかも本業が慌しかったためにかなり疲れていて、設定を出来るところまでしたところで急に眠気が襲ってきて、気がついたら窓の外が明るくなっていました(汗)。PCの前に座って意識を消失していたわけです。昨日は大丈夫でしたがちゃんと寝ないと・・・。
 表面上は俺が晶子の提案を承認して先導する形だが、実質は晶子の誘いを受けたことには違いない。雪が降り積もる町の夜は想像以上に冷えることは、風呂に入る時にこれでもかと言うほど感じている。だが、考えてばかりでぐちゃぐちゃになって、更には煮詰まって黒焦げになった頭を冷やすには丁度良いだろう。

 服を昼間着ていたものに着替えて、俺と晶子は財布だけ持って宿を出る。携帯には俺なら晶子の、晶子なら俺の携帯と自宅の電話番号とメールアドレス程度しか入ってないし、連絡先を教えてあるマスターと潤子さんからは何も連絡などはない。恐らく例年どおり月峰神社に初詣に出かけてるんだろう。去年俺は帰省していたから晶子を介してしか知らないが、車や参拝客の渋滞に苛立つどころか、車内で色々音楽をかけたり駐車場に入ってからも飲んだり食ったりして楽しんでいたという。きっと今年もそうなんだろう。
 それに、時間やスケジュールとかいったものに追い立てられないことを求めてるんだから、登録してある相手がごく限定されていて、ふと気付いたら見たことがない電話番号の着信履歴が残っていたという程度だから、尚更携帯を持つ必要はない。貴重品なのには違いないから、カウンターに部屋の鍵と一緒に預けた。お気をつけて、と見送ってくれた小母さんの顔はやっぱり穏やかだった。
 雪こそ降ってないが、冷え込みは厳しい。コートとマフラーは勿論、セーターやワイシャツを着込んでいるのに、内側から凍りつくような気分を感じる。人通りは殆どない道には、灯篭に見立てた街灯が転々とオレンジ色の淡い光を放っている。街灯と言えば蛍光灯のイメージだったが、こうして改めて見ると町の雰囲気を残そうという思いが感じられる。これで普通に電信柱と街灯が林立しているだけだったら、予算不足の映画か何かと思われかねない。
 まずは極端に賑わっている繁華街を避けて、昼間歩いた道を歩く。様々な土産や特産品を並べていた店は全て閉まっている。店を閉めるにしても、一般にあるような金属のシャッターじゃなくて、木で作った雨戸を引いて閉めるように統一している。こういうのも町の雰囲気を壊さないための工夫だろう。こんな中で一軒でも眩しい看板と照明があるコンビニとかがあると、それだけで雰囲気ぶち壊しになるところだ。
雨上がりの午後 第2039回
written by Moonstone

「それも良いな。夜の街に出たのは初日だけだし、繁華街にも色々あるかもしれないし。・・・行こうか。」
「はい。」

2005/10/18
[デスクトップとノート]
 PCの形状の相違では、デスクトップとノート(ラップトップとはあまり言わない傾向)がまず挙げられますが、どちらを使うかは目的や好みによって様々でしょう。私の場合、自宅ではノート、職場ではデスクトップです。自宅用は帰省の時などに持ち運び出来るため、職場用は大画面や複数の入出力コネクタを必要とするからです。
 ノートは兎に角場所を取りません。デスクに複数の資料(冊子版)を広げたり、私のように片づけをあまりしない上に掃除が嫌いな無精者だと、少しのスペースがあれば使えるので何かと便利です。最近は専らタワー型なのでまだましですが、デスクトップは本体とCRTで場所を取るので、移動に困ることがあります。
 一方デスクトップは大きさの関係もあって、複数の入出力端子があるのが多いです。比率は減少傾向にありますが、専用のコネクタがあると使い慣れたものを流用したり、突然壊れても咄嗟に昔のもので当座を凌ぐということも可能です。それに大容量のHDDがノートより安価なのも見落とせません。どういうわけか、HDDはあればある分埋まっていくという傾向がありますからね(^^;)。

「散歩に行きませんか?」

 晶子の声で我に帰る。どのくらい考え込んでいたのか分からないが、思いがけない晶子の誘いに、俺は言葉を失う。

「門限も随分遅いですし、明日帰り支度をしないといけないわけじゃありませんし、祐司さんと私は昼間皆さんと別行動を執ってますから朝遅くなっても大丈夫です。気の向くまま歩いてみませんか?静かな通りを歩くのも良いですし、繁華街でも居酒屋じゃなくて落ち着いた雰囲気の店もあるかもしれませんから、そこで2人でお酒を飲むのも良いと思いますよ。」
「晶子・・・。」
「祐司さんの問題は勿論大切ですし、帰りの分岐点でどちらに向かうか決める必要はあります。でも、此処には観光目的で来たんです。今日は夜、明日は丸1日あります。考える時間は十分ありますよ。」

 正面から取り組むばかりじゃなくて少し間を空けてみては、という晶子の言葉は、兎角考え込み始めると泥沼に沈んでいく傾向がある、最近はいっそう強まったその傾向がある俺には戸惑いもあるし水を差された感もなくはないが、新鮮だし十分納得出来る。
 確かに此処でひたすら頭を抱えてうんうん唸ってるだけじゃ、気がついたら夜が明けてたり、何時の間にやら机に突っ伏してた、ということにもなりかねない。それに晶子の言うとおり、この町に来た本来の目的は観光だ。今日を含めて4日間昼間彼方此方歩いたが、それでも毎日が平穏で寛げる。町の人達の暮らしそのものが普段の時間に終われる生活とはかけ離れているのもあるし、今日はまずあっちに行って次はあそこに行って、と行動を束縛されないこともある。そっちに行ってみようかとどちらかが思って言えばそっちに行ってみて、今度はこっちに行こうとどちらかが言えばそっちにいく。そういう気ままな時間が確かにある。それを生かさない手はない。
雨上がりの午後 第2038回
written by Moonstone
 悩みどころだが、考える時間は限られている。どちらにするか迷うだけで選択の手を伸ばせない。前者の案を採用して親との距離を置いて考えるという帰省を避けた当初の目的を優先するか、後者の案を採用して何れ直面することになる晶子の紹介も兼ねて思い切って挑むか。2つに1つだが、俺にとっては究極の選択だ。
2005/10/17
[別世界]
 変な夢を見たとかそういうのではなくて、昨日のお話で触れたiPODに関することです。昨日作品製作の休憩がてら買い物に出かけて、目的のものを買ってからPC関係の売り場に行ってみました。私が買い物に行くのは大半が食材を買うためで、後はCDや本を買う時くらい。PCとか万単位のものを買う時はこれと決めた時、1年に2、3度あるかないかしか関連の店には行きません。
 そこで問題のiPODシリーズを発見。shuffle、nano、新型それぞれありましたが、小さい。実際手に取って見たのですが、まさかあれほど小さいとは・・・。shuffleなんてUSBメモリキーを少し大きくした程度です。久々にこのての商品でびっくりしました。
 その後色々調べましたが、どうもWindowsだとMac系ソフトのインストールや音声ファイルの変換など、買ったら直ぐ使える、というものではない様子。シェア争いをしていますし著作権の問題もありますから止むを得ないのでしょうが、ちょっと触手の動きが鈍りました(苦笑)。もう少し様子見ですね。
 俺が少し冷め始めた茶を啜った後、晶子から話が切り出される。

「当初の予定どおり祐司さんの今の自宅でじっくり考えたいのでしたら、あえて実家に立ち寄らずにそのまま新京市に帰って、ご両親には高校時代のお友達と旅行に行っていたと言うのが1つです。その際は私を含めない方が良いと思います。皆さんが言っていたように、私と一緒だったらどうして途中で寄らなかったのか、と問われる可能性が高いと思いますから。」
「そうだな。」
「もう1つは祐司さんの背中だけ無責任に押すことになりかねないんですが・・・、途中で私と一緒に実家に立ち寄るということです。」

 晶子のもう1つの案は、俺も迷っている候補の1つでもある。先の提案より責任と決断を強く迫られるのは確実だから、晶子も積極的に勧められない気持ちのようだ。・・・俺の決断力の不足や、今まで進路の問題を引き摺って来たのが根本的な原因なんだが。

「祐司さんのご両親は私にお会いしたいようですし、私も出来ることなら一度お会いしてきちんと挨拶をしたいんです。けど、立ち寄って挨拶だけしたら新京市に帰るとすんなり進むかは、私がこう言うのも何ですがかなり不透明です。時刻にも拠りますが、食事をしながら話をしようとかになると、祐司さんのご両親が進路の話を持ち出されるでしょうし、ご両親と距離を置いて考えるために帰省を取り止めたんですから、その意味がなくなってしまいます。」
「そうだよな・・・。」

 やっぱり俺が決めるしかない。晶子が提示した案はそれぞれ長所と短所を持ち合わせている。しかもそれは片方では長所で片方では短所になるという、厄介な性質のものだ。
雨上がりの午後 第2037回
written by Moonstone

「・・・私が意見するのは本来不適切ですから、参考程度にして欲しいんですが・・・。」

2005/10/16
[iPODの誘惑]
 PCのOSのシェアは個人使用の分野においてはWindowsが多いのですが、企業単位となるとMacの使用率が高いものです。個人単位でもそうですが、DTP(Desk Top Publishingの略)の分野ではMacが早い時期から使用されてきたこともあるでしょう。PhotoshopやIllustratorといった画像ソフトの有名どころは、最初Macで使用されていたものですし。
 Mac製品はどうも高額という印象があってなかなか手が出せなかったのですが、PC以外の分野、特にiPODに代表されるポータブルオーディオではかなり優勢です。先行したのもありますし、iPOD nanoではフラッシュメモリ4GBであの値段を実現したり、最近発売された新型iPODでは動画にも対応してこれまた破格とも言える価格設定を実現したのも大きいと思います。
 本業でも此処でもデザイン関係には手を出していないこともあってMac製品とは縁遠かったのですが、iPOD nanoや新型iPODを見ていて購入へ向けた触手がぐにゅぐにゅ動いています(笑)。商戦が本格化する年末が狙い時でしょうか。
「・・・。」
「進路を早く決めないといけないってこと自体は俺だって分かってる。動き始めるための時間の猶予もそんなにないことも分かってる。だけど、自分で納得いく、多少辛くても後悔しない道を選びたいんだ。その途中でごり押しされて、結果自分と合わないものだったら苦痛なだけだろうし、心身を壊すなんてことになったら洒落にならない。晶子も一緒に居るから尚のこと慎重に決めたいんだ。」
「・・・。」
「あ、ちょっと話が逸れちゃったけど、晶子を紹介したいっていう気持ちはあるけど、そのドサクサ紛れに進路をごり押しされるのは避けたいっていう気持ちがあるのは分かってくれたか?」
「はい。分かったつもりです。」

 晶子の表情には疑念とかそういったものはない。言ってみるもんだな。言うまで言ったらどうなるかとかあれこれ考えてしまうのは、慎重とも言えるが決断力がないとも言える。この辺のバランス感覚が俺には必要だろう。

「今までのお話の席でも言ったと思いますけど、祐司さんが帰省した去年は歓迎されると分かっていれば連れて行ってもらいたかったですし、祐司さんのご両親とは電話でしかお話したことがありませんから、一度直接お会いしたいという気持ちはあります。」

 晶子は静かな口調で言う。

「ですけど、祐司さんが進路の問題を出されるのを避けてじっくり考えるために今年帰省しなかったことは知ってますし、無理に会わせて欲しいと頼むつもりもありません。」
「そうか・・・。」

 空気が重くなって来るのを感じる。話題が切実だから当然だが、晶子を巻き込んでしまっているのは申し訳なく思う。
雨上がりの午後 第2036回
written by Moonstone

「かと言ってすんなり一緒に行こう、とは言い切れないところもあるんだ。知ってると思うけど俺はまだ進路を決めてない。親は公務員を頻りに勧めてるから、顔見せ程度で引き返そうと思っても夕食でも食べていけ、ってなったらその席上で進路の話を持ち出される可能性が高い。そうなると防戦一方になって俺が耐え切れるかどうか・・・情けない話だけどちょっと自信がないんだ。」

2005/10/15
[完了への長き道のり]
 昨日付(実際には一昨日)から手がけていた職場用PCのOSからのインストールは、95%出揃いました。最もインストールに梃子摺ったのはやはりと言うのかMicrosoft関連。特に開発環境はHDDのフォーマットくらいインストールに時間がかかって、その間別のことが出来れば良いものの途中でああだこうだと尋ねて来るのでじっと待機。ひたすら待機。・・・無事成功したのでまあ良しとしておきます。
 先に95%と言いましたが、残る5%はインストール過程のスクリーンショットを撮る必要があって、その前に基礎となる開発環境のインストール過程をスクリーンショット撮影&文書作成、としていて手がつけられなかったからです。文章を列記するだけなら簡単なんですが、画像を加えると途端に面倒になるのが嫌いなんです。このページがテキストだらけなのは出来るだけ軽くするためでもありますが、画像を入れたレイアウトにするのが面倒なのもあります。
 文書は所謂「インストールマニュアル」というものです。現在のソフトは大抵PCにプリインストールされていたりウィザードの指示どおりにひたすら「はい(若しくはYes)」をクリックしていけばインストール出来ますが、そうはいかないものもあります。使う方が大事でインストールの手順まで憶えてられない、という人のために作成したわけです。なかなかどうして大変でした(汗)。

「・・・晶子。話があるんだ。」
「・・・何ですか?」
「・・・この旅行後の話なんだけど・・・。」

 心なしか晶子の表情が強張ったような気がする。緊張と言うには少し硬すぎる。別れ話を持ちかけられるんじゃないかと思ってるんだろうか。だとしたら先にその不安を取り除いておいた方が良いな。

「間違っても別れ話とかそっち方面の話じゃないから。前もって言っておく。」
「はい。」

 晶子の表情が幾分和らぐ。やっぱり不安だったようだ。そりゃあいきなり2人きりの時に正面で向かい合って「話がある」とか言い出せば、別れ話なんじゃ、とか不安に思っても無理はないよな。

「話ってのは・・・旅行の帰りに俺の実家に寄るかどうかなんだ。」

 まず本題を言う。経緯をああだこうだ言ってからだと結論が見えなくて、下手すると話がこじれることがある。高校時代に受験対策の1つとして小論文の書き方があったんだが、それの応用だ。

「此処へ来る途中とかにも何度か話が出たかもしれないけど、小宮栄から俺と晶子が住む新京市へも行けるけど、電車を乗り継いでいけば俺の実家がある湯河市ってところにも行けるんだ。帰りの時間にも依るけど・・・この機会に一度晶子を両親に紹介しようかと思ってるんだ。」
「私を・・・ですか?」
「ああ。晶子も聞いてると思うけど、俺の両親は晶子に会いたがってるんだ。去年俺が帰省した時晶子の評価が急上昇したのもあって、今度は連れて来いって頻りに言われてるのもある。それに・・・何れ紹介するなら早めの方が良いんじゃないかとも思うんだ。」

 俺にしては随分ストレートな物言いだ。言ってから思うが、結婚前の顔見せのリハーサルとも受け止められる。晶子にしてみれば、俺がこんなストレートなことを言うなんて意外に映るだろう。
雨上がりの午後 第2035回
written by Moonstone
 晶子が入れてくれた茶を一口飲んで、話を持ちかけるための心の準備を整える。時間は実質今日と明日を残すのみ。耕次や勝平が言ったように今後のことを考えるなら、あえて進路の話が出る土俵の上に乗ることになるのを覚悟の上で実家に寄るのが望ましい。・・・って、思ってばかりじゃ話が進まない。晶子を真っ直ぐ見据える。晶子は視線に気付いたのか、少し驚いた様子を見せた後、湯飲みを置いて真剣だがやや不安げに俺を見る。
2005/10/14
[さあ、再インストール]
 職場のPCがどうも挙動不審な点があるということで、HDDをフォーマットしてOSからインストールしました。前に此処で自宅PCのディスプレイドライバが壊れてHDDフォーマットから開始、というお話をしましたが、あれと同じことをしたわけです。
 同じこと、といってもHDDの容量は倍、インストールするソフトは数倍なので、その手間と時間は洒落になりません。自宅PCはブラウザやメールソフトといったWeb関係以外はごく限られたソフトしか入れてないんですが、職場のPCは複数の開発環境があって、インストールに要する時間がこれまた長いんです。
 流石に1日では手に負えないということで、Web関係(特にメールソフトがないことには連絡事項が来ない)と最も時間がかかる開発環境まで揃えて終了。今日に続きます。ごちゃごちゃしていたHDDの中身を一旦DVDに焼いて必要なものを順にコピーしていったらかなりHDDがすっきりしましたが、こういう時HDDの大容量化は良いことばかりじゃない、と思います。ソフトウェアがむやみに大きくて重いのも問題ですけど。
 やっぱり俺が決断しなきゃいけない。進路にしてもそうだ。俺が自分で決めたことなら多少きつくても我慢出来るだろうし、遣り甲斐を見出すことも出来るだろう。だが、誰かに勧められたものが予想と違っていたら戸惑うだろうし、勧めた人に文句を言っても「お前が決めたことだろう」と言われればそれまでだ。自分の人生なら自分で活路を切り開かないといけない。今は試練の時だと言えるだろう。それを楽して乗り越えたとしても後でもっと大きい試練が待っているだろうし、試練を回避してきたのに次の試練を乗り越えられるとは思えない。試練が何時でも回避出来ると思うこと自体が間違いだ。
 ・・・風呂から出たら晶子と相談するかな。晶子は恐らく俺の決断を受け入れるだろうが、意思確認はしておきたい。俺の言い逃れの余地を作るためじゃなくて、俺の決断を促す材料とするために。晶子と一緒に暮らすと決めたのなら、晶子の意思も聞いておくべきだ。リーダーシップは「俺について来い」と他人を引っ張ることだけじゃない。俺はそう思ってる。

「・・・よく考えてみる。勝平も言ったけど、何れは晶子を紹介するんだし。」
「そうしろとしか言えないが、大学受験で一番厳しい条件の下で頑張って、実際に結果も出したお前なら、晶子さんと二人三脚でやっていける筈だ。俺達は応援してるし、出来る限りのことはするからな。」

 耕次の言葉に、俺は自分への叱咤を込めて強く頷く。晶子を幸せにするのは、否、晶子と一緒に幸せになるのは俺なんだ。だったら俺が行動に示す時には示さないといけない。今からそれが出来ないようじゃ、結婚して一緒に生活なんて弾けて消えるだけの泡でしかない。勝平の言葉を借りれば・・・今回が絶好のチャンスと思うべき時だな。

 風呂から上がって晶子を待ち、面子とはそれぞれの部屋に分かれた。昨日の疲れか酔いか分からないがそういうものと今日の疲れが混ざって眠いから部屋には行かない、と言われた。半分は本当で半分は嘘だろう。俺が晶子と旅行後の分岐について話し合う時間を邪魔しないために。
雨上がりの午後 第2034回
written by Moonstone
 意志の強さや押し付けに屈しないことは今回に限ったことじゃない。これからどんな職業に就くかまだ決めてないが、社会に出て相手の言い分を一方的に受けてそのとおりに動くだけじゃ、体の良いロボット同然だ。使うだけ使われて、身体を壊すなり何なりしたら用済み、とされかねない。自分の意思を明確に示して、相手の強引な要求を拒絶する力量も必要だろう。その意味では勝平が言ったように、今回は絶好のチャンスと言える。
2005/10/13
[鳥取から始まる「小説の事実化」]
 未読の方も多いかと思いますが、Novels Group 2では社会風刺小説を掲載しています。それらは基本的に「もしも」の世界を描いているのですが、中には「このまま突っ走るとこうなるのでは」という警告や危機感を込めたものもあります。その1つが「女性帝国」です。「女性の言うことは絶対正しい」「(女性の言うことへの)反論異論は男女差別だ」として女性達が警察をも上回る権力を手にして我が物顔で振舞う恐怖社会を描いたものです。
 立場は女性でなくても誰かに任命された組織でもこうなることは十分起こりえます。そのため前の国会で「人権擁護法案」が廃案になったのですが、鳥取県議会でその人権擁護法案を先取りする条例案が可決されました。「問題があれば修正していけば良い」と賛成した議員の1人が言いましたが、条例案では組織の韓国を正当な理由なく拒否したりすると氏名が公表されます。
 「正当な理由」なるものが組織の都合、特に保守反動派の都合で左右されることなど、日本の近代史を見れば一目瞭然です(「共産主義者を取り締まる」と言ってあらゆる人を弾圧した治安維持法など)。氏名が公表された人にとって、後から条例が修正されても「あいつはあんなことをした」というレッテル貼りが横行するなど、市民運動や各種被害者運動の萎縮・弾圧に繋がるのは明白です。権利や自由などが一部の都合の良いように解釈された時とんでもないことが起こることもまた、日本の近代史が如実に示しています。
 まさかローンに手を出すわけにはいかない。金利を考えると結局自分で一括払いした方が圧倒的に安上がりだし、借りる先を間違えると一緒に生活どころじゃなくなる可能性もある。そういった余計な危険を回避することと資金の供給源を確保することを考えて、少なくとも晶子との対面を希望している俺の両親と晶子を会わせておいた方が良いだろう。
 マスターと潤子さんがどうやって今の場所に土地を買って店を建てたのかは知らないが、少なくとも潤子さんの実家の協力は得られなかった筈だ。潤子さんはマスターと結婚することで親とトラブルになって勘当されたという経緯がある。実の娘とは言え勘当した相手に資金とかを援助するとは考えられない。マスターと潤子さんは特殊な事例と考えて、親から同居のための資金援助を得る下準備をしておくのが無難ではある。

「婚姻は両性の合意によってのみ成立する、と法律では言うが、実際には何らかの形で親の援助が必要になるのが実態だ。」

 再び耕次が口を開く。

「敷金や礼金、保証人なんていう、当事者以外の承認や社会的信用といったものを必要とする制度があること自体がおかしいんだが、これは法律の問題だから国レベルでどうにかしないことには俺達じゃ手に負えない。勝平の言うとおり、親の同意や援助を得やすくするには早めに晶子さんと祐司の両親を対面させておくのが良いとは思う。その意味では、大学やバイトが休みで丁度立ち寄れる場所に行くこの旅行の帰りが絶好のチャンスではある。だが、祐司の進路が定まっていないのにま迫と祐司の両親との対面だけじゃ済まなくなったら、祐司に不利になる。顔見せだけで納得するかどうかも不透明だ。祐司がいかにリード出来るかにもかかってるな。」
「それは言える。」

 耕次の言葉の最後は、俺がリーダーシップを取るべきなんじゃないか、という意味を含んでいるようだ。確かに行くか行かないかを決定するのは最終的には俺が決断すべきことだし、押しに弱いとは言えそれをかわしたり跳ね返したりするだけの意思も必要だ。
雨上がりの午後 第2033回
written by Moonstone
 あれこれ金を使う機会がなかったこともあって、俺の貯金は4年の学費を払えるだけは貯まっている。だが、敷金とかそういうものまで払えるかどうかは確かめる必要があるがあまり自信がない。敷金とかは入居して後で払う、という手段は通用しないから、どうしても資金がそれなりに必要だ。
2005/10/12
[本当に迷惑]
 ここでも何度かお話している迷惑メール。ウィルスの数はめっきり減りましたが(対策ソフトが普及したからでしょう)、いきなり送りつけられる迷惑メールの数には本当に迷惑しています。1日あたり(その日の0:00から23:59まで)の迷惑メールの平均数は約90。多い時だと簡単に100を超えます。
 ウィルスは対策ソフトで駆除出来ますが、迷惑メールは振り分けまでは出来てもお目見えする前に削除、とは出来ませんから、受信だけでずらずらと「いかにも迷惑メール」と思わせるタイトル(もう見ただけで分かる)が並ぶのには辟易します。振り分けも100%ではないので纏めて削除としたいところですが、ぽつぽつと必要なメールが混じってきますのでばっさりと出来ません。
 郵便でのDMは相手に郵便料金や印刷の手間などそれなりに労力や出費とリスクを伴いますが(絶対肯定はしません)、ネットのDMは送信の自動化など容易いですし、常時接続が普及した現在では圧倒的な低コストで大量送付出来ますから、郵便より更に始末が悪いものです。相手は1人でも引っ掛かれば儲けもの、という考えなのでしょうが、都合上今のメールアドレスは変えられないのでどうしたら良いのか悩んでいます。

「法律上では結婚に親の承諾を得る必要はないが、実際一緒に生活を始めるとなると祐司が今住んでるところじゃ狭いだろうし、晶子さんのところもそう変わらないだろう。だから2人が暮らせるアパートなりなんなりを新たに探さないといけない。その時保証人が必要だから、どちらかの親に頼むことになるだろう。親としては、晶子さんには失礼な言い方になるが、何処の馬の骨とも分からない女と一緒に生活するなんて、言われて直ぐにはいどうぞ、とは心理的に言い辛いだろうから、その前準備として行った方が良いんじゃないかと思う。」

 勝平の言うことには説得力がある。確かに俺の家で2人一緒に暮らすにはどうにも狭過ぎる。かと言って晶子の家もさほど広いわけじゃないし、そもそも女性専用マンションだから俺の入居が出来ない。となると別にアパートなり何なりを新たに借りないといけない。賃貸住宅を借りるにはどうしても保証人が必要だが、マスターや潤子さんに頼むのも気が引ける。親に頼むのが妥当な選択肢だ。
 だが勝平の言うとおり、結婚するから保証人になってくれ、いきなりと言われても困るだろうし、いきなり何を言う、と反感を買う可能性もある。だったらその前哨戦という位置づけで今回の旅行の帰りに立ち寄って顔見せくらいはしておいた方が良いだろう。地ならしと言うのか事前の根回しと言うのか、そういうことだ。

「勝平の言うとおりかもしれないな。」

 耕次が賛同の意思を示す。

「大学卒業と同時に結婚とまでいかなくても、一緒に暮らすとなればどうしても新規にアパートなり何なりに入居しないといけないだろう。その際保証人は勿論だが、敷金や礼金と言ったものが必要になる。晶子さんの貯蓄がどのくらいあるのかは知らないし教えろとは言えないが、敷金は家賃一月分が相場だし、不動産屋に払う仲介料も必要だ。晶子さんも協力はするだろうが、バイトで生活費を補填してる祐司がそんな多額の金を支払える余裕があるとは思えない。だとすると、今から下準備をしておいた方が良いだろうな。相手の顔とかを知ってれば、祐司の両親の理解もそれなりに得やすくなるだろうし。」

雨上がりの午後 第2032回
written by Moonstone

「・・・何れ連れて行くんだったら、ある意味今回はチャンスかもしれないぞ。」

 慎重論でまとまりつつあったのに待ったをかけたのは、勝平だ。
2005/10/11
[何でも金で買う]
 気温の変動が激しいせいで体調が悪く、1作品書き上げた後は殆ど寝てました。昨日もお話ししましたが、体力が落ちていることも関係しているのかもしれません。体力だけではありませんが、無くすのは簡単でも作り上げるのは難しいものです。
 キャプションの話。プロ野球セリーグで優勝したタイガースの親会社である阪神電鉄の株を村上ファンドが大量に買って筆頭株主になったことは、多かれ少なかれご存知かと思います。株式制度では普通の選挙権のように1人1票ではなく、所有する株の数に応じて影響力が違ってきます。タイガースは間もなく日本一をかけてパリーグのシーズン1位チームと戦うことを控えています。そんな折に球団経営を揺るがすようなことをしでかした村上ファンドに対して、特にタイガースファンが怒りの声を上げているようです。
 確かに、村上ファンドの行動は現在のタイガースの状況やファンの心理などを考えればあまりにも横暴そのもので、まさに「金に物を言わせて」という行動に映るでしょう。ですが、弱肉強食のアメリカ型社会の続行継続にこの前の総選挙で信任を与えておいて、こういう事態になってファンの心理や企業倫理などを言い出しても手遅れです。アメリカでは村上ファンドのような投機集団が株の売買で少しでも多く利益を上げようと、それこそ日々虎視眈々と狙っています。そういう社会を「金融市場の自由化」などと美化しているのが政府与党です。少なくとも先の総選挙で自民公明、同じ道を行く民主に投票した人は、与党に強大な信任を与えたことを恥じるべきでしょう。「気付いた時には手遅れ」。これが歴史の教訓の筈です。
 俺は溜息を吐く。俺が懸念している事態は全て耕次が代弁してくれた。俺が親のごり押しに対抗出来れば問題ないんだが、親の押しの強さというのか、そういうのにはすこぶる弱い。元々押しに弱いのもあるが。
 晶子を紹介するだけしてさっさと退散する、という手も考えられるが、それで親が納得するとは思えない。「夕飯ぐらい食べていきなさい」と引き止められたらごり押しされる土俵に乗ったのも同然。夕食の席で進路の話を持ち出されてそのまま公務員方向に押し切られる可能性が高い。

「だが、実家に寄らなかったら寄らなかったで何か言われる可能性もあるな。」

 今度は渉が推論を言う。

小宮栄は祐司と晶子さんが住んでる新京市と、祐司や俺達の住んでる、若しくは実家がある湯河市方面への分岐点だ。此処奥平スキー場からの帰りなら必然的に小宮栄を通る。その上晶子さんを連れていたと分かれば、どうして寄らなかったのか、ってなって、祐司の両親のどちらかが新京市の祐司の家に乗り込んでくるかもしれない。電話じゃ話にならないからってことでな。」
「いっそ、此処に旅行に行ってたってことを言わなきゃ良いんじゃねぇか?」
「それで済むなら良いが、祐司。お前の家の電話機って留守電機能ついてないだろ?」
「ああ。今時珍しい電話しか機能のないやつだ。」
「それで、この年末年始に帰省しなくて大学もバイトも休みの祐司が電話をかけても出ないってなれば、何れ祐司が電話に出た時問い詰められるだろう。何処に行ってたのか、ってな。そうなったら祐司に不利だ。」
「確かに・・・。祐司の母さん、見かけによらず怖いからな。」

 渉の推論に、高校時代俺の母さんに長く睨まれた経験がある宏一は納得する。このところ週1回以上のペースで電話がかかってくる。今年は去年以上に帰省を強く促されたところをどうにか回避して、耕次からの電話でこの旅行に晶子を加えて参加したという経緯がある。本来なら家くらいしか居るところがないし、行く場所も思いつかない俺が年末年始に何度電話をかけても出ないとなれば当然訝るだろう。
 行くのも問題、行かないのも問題、か・・・。電話のケーブルを引っこ抜けば電話は鳴らなくなるが、そうしたらそうしたで今度は幾らかけても通じない、ってことで乗り込んで来るだろう。それで電話のケーブルを引っこ抜いたことが分かったら大事になるし、余計に話がややこしくなる。ある意味これって究極の二者択一なんじゃないだろうか?
雨上がりの午後 第2031回
written by Moonstone
「今回ばかりは祐司の背中を押すだけじゃすまないな。祐司と両親の性格を考えると、攻防戦になった時には祐司に不利になる可能性が高い。祐司とて公務員志望ってわけでもないのに親の勧めで就職、ってのも納得いかないだろうし、俺達も背中を押すだけ押して後はどうにかしろ、なんて無責任なことは言えない。」

2005/10/10
[遅刻]
 体力が落ちてるなぁ、と痛感。昨日は朝から今日付のための新作を書き下ろしたのですが、時間の余裕は十分あったのに更にもう1作、とは出来ずにへばってました。長編連載を1作品書くのに1日集中するので、完成したら脱力してしまうのもあるんでしょうけど、体力の低下もやっぱり大きいかと。
 へばっていた余波で更新が遅れました。結局3作品+アルバム紹介1つとなりましたが、次回に繋げる態勢はどうにか出来たので、残る今日1日で最低1作品新作を書けば文芸関係7グループ揃い踏みもかなり現実味を帯びてきます。揃い踏み出来たら何かあるわけでもないんですが。
 一昨日付の此処で長くお話した影響で連載のストックを大量に消費してしまい、昨日付から継ぎ足しては更新、の繰り返しです。2000回達成のあいさつ文で予想として書きましたが、この分だと旅行から帰るまでに新規ファイルを作る必要がありそうです。ちなみに現在、1957行(汗)。
 耕次の助言に晶子は即答する。やっぱり俺が帰りに実家に寄ると言い出せば、ついて来るのは間違いない。「父さんと母さんに一度紹介したいから来てくれないか」と一言添えればOKが返ってくるのは確実だ。俺の決断次第で旅行からの出来事が大きく変わって来る。当日成り行きで決める、なんてのは出来ないから今から考えておくべきだな、やっぱり。

「祐司。早速本題に入るが、今のところどうするつもりなんだ?」

 夕食が済んでから全員揃って温泉に行き、閑散とした感のある湯船に浸かったところで、耕次が話を切り出して来た。

「・・・進路の問題がなければ迷わず実家に寄るんだけど、今はそうじゃないから迷ってるんだ。正直・・・。親、特に母さんが頻りに公務員を勧めてるから、実家に立ち寄ったついでにごり押しされたらかなわないしさ・・・。」
「親の世代はまだ公務員への幻想が根強いからな。公務員なら万事安泰ってやつが。実際はそうじゃない。定員や予算の削減で少しずつでも上がっていく筈の収入が早い段階で高止まりしたり、地方なら市町村合併でいきなり外郭団体に飛ばされたり、国家なら昇進や昇給と引き換えに全国を転々としなきゃならなかったり、色々問題がある。自分1人ならそれこそ身一つでどうにでも出来るだろうが、晶子さんと一緒となるとそうも言ってられない。そんなところだろ?」
「ああ。念のため言っておくけど、晶子が一緒に居ることを邪魔だとか重荷に思うとかいうことはまったくない。ただ、俺の都合で彼方此方引っ張りまわされて晶子はそれで良いのかって思ってな・・・。晶子も仕事を持って別居するのが必ずしも良いとは思わないけど、大学卒業と同時に一緒に生活したいと思ってるくらいだから、わざわざ距離を置きたくないからな。」

雨上がりの午後 第2030回
written by Moonstone

「帰省するつもりがないのなら、祐司にくっついてれば良いですよ。祐司は相手が自分から離れるのは時に必要以上に警戒しますけど、くっついている分には邪魔に思ったりしませんから。」
「そのつもりです。」

2005/10/9
[まだ眠い・・・]
 昨日どうにか此処を更新しましたが、眠気はこのお話をしている今(日付だと10/8)でも残っています。服薬しないと本当に眠れないのは変わりませんが、兎に角瞼が重いので、横になって目を閉じてゆっくり呼吸をすることを続けています。
 更新準備はある程度出来ていますがまだ自分で納得出来るほど揃ってないので、明日付以降に持ち越します。兎に角寝ないことには・・・。

「皆さん、しっかりした考えをお持ちですね。」
「普段は先頭を走ったり脇役に徹したり、女引っ掛けたりしてますけど、いざって時の団結があったからこそ、3年間ずっと同じメンバーで、しかも受験直前までバンド活動を続けてこられたと思ってます。」
「先生の目とかが厳しかったでしょうけど、楽しかったでしょうね。」

 晶子の口調に少し寂しさが篭る。・・・晶子は大学に入るまであまり良い思いをしなかった。晶子も自分から話さないから詳しくは聞いてないが、髪が茶色がかっていることで目の敵にされて、大学生になってようやく偏見から逃れられたと言っていた。それと比較して、俺達面子の思い出豊かな高校時代が羨ましく思えて、同時に自分の高校時代の思い出が寂しく感じるんだろう。
 晶子が俺との時間に殊更生き甲斐を見出すのは、孤独だった今までの時間の分も取り返すという強い意志があるからだろう。仲が良かった兄さんとの間に距離を作られたことに反発して大学を入り直し、両親の元を出て単身今の町に移り住んだは良いが、更なる孤独を感じることにもなった。その反動がその兄さんに瓜二つという俺への強い興味となり、やがて愛に変貌した。・・・こんなところか。
 晶子は今まで、自分が過去に味わった辛い思いをあまり話さない。大学での生活となると俺の評価が低かったことに不満を言ったことはあるものの、弱音を吐いたことはない。俺に負担をかけまいと心の奥に仕舞いこんでいるのかもしれない。そうでなくても晶子が今もこれからも幸せで居られるように、俺がしっかりしないといけない。
雨上がりの午後 第2029回
written by Moonstone
 俺の推論に続いて、勝平と渉も参入する。勝平も渉も耕次や宏一のように口数は多くないが、言う時は言う。バンドのコンサートに乗り込んで来た生活指導の教師達との戦いの先陣に立ったのは勿論耕次だが、耕次に任せきりじゃなくて、時には俺や勝平や渉、そして宏一も加わった。そういう結束力では形だけのクラスメートには負けなかったつもりだ。
2005/10/8
[何故薬物汚染が広がるか]
 兎に角眠いです。思うように寝られなかった影響で眠いままレクリエーションの幹事の仕事をしていたので、その緊張の糸が切れた途端に猛烈な眠気が襲って来ました。どうにか帰宅出来ましたがグループの更新は後日ということで。
 キャプションの話。海上自衛隊の潜水艦乗組員が大麻を使っていたという事件。以前は大麻を含む麻薬は暴力団が資金源として流すという構図が主だったのですが、今回は自ら栽培していて他人に販売していた可能性も浮上。もはや薬物汚染は出所を暴力団などに絞るだけでは済まないレベルに達してしまっています。本来麻薬は「麻酔」という単語に代表されるように、許容量を厳密に決めて使うことで、外科手術で患者に痛みを与えなくする作用を有しますが、常習性があるので乱用や多量の使用は出来ないのです。
 薬物汚染が広がった背景には、コンビニなどでも簡単に薬が買えるようになり、ドラッグストアという薬の大量販売を目的とした大型小売店が登場したことが主要因と考えられます。本来薬というのはどんなものでも医師や薬剤師といった専門家の指示や処方がないもとでは無闇に服用すべきではないものです。複雑な化学合成が行われる結果副作用や薬効成分の衝突(飲み合わせ)が起こる可能性が多くなっているのに、簡単に薬が買えて良い筈がありません。薬というものは便利と危険が隣り合わせなのです。ここでも薬物汚染が深刻化・潜在化しているアメリカと重なっているのは規制緩和万歳の政府与党には無関係でしょうが、私達は自分の安全を護るための規制というものを考えるべきでしょう。
 隣で宏一がぼやく。

「大学の中は金持ち私学の奴らに目が行ってるし、大学の外じゃ俺の大学の知名度で寄って来る奴らが大半だし、そういうのに限って食いついたらなかなか離れないんだよなぁ。」
「ピラニアだな。否、ヒルか。」
「ああそうそう、耕次の言うとおりヒルって言った方が良い。女の時代とか男女平等とか言ってるけど、結局稼ぎが良くて自分に優雅な生活とステータスを保障する男を求めるっていうその手の女の心理は、バブル経済時代からしっかり名を変えてそのまま推移してやがるんだよ。」
「それは、宏一が此処に来た第1日目に引っ掛けて飲み会に誘った女達にも見えてたな。集団心理と形而上のフェミニズムが混濁した、最悪の事例だ。」

 耕次と宏一との間で交わされる話は、俺自身目にしたものも含まれているせいか随分生々しく聞こえる。飲み会の女達の言葉はまさに耕次と宏一の言うとおりのものだった。
 高校時代から急進的なことで名を馳せて、特に生活指導の教師との対峙の先陣に立って来た耕次と、女好きでいい加減なところからは意外に映る知的さを持つ宏一。普段を見ている限りでは対照的な2人が3年間同じバンドのメンバーとして行動を共に出来たのは、素面でこういう話が出来ることもあると思う。酒の席でなら「酔った勢いで」っていう正当化や言い逃れが出来るからな。

「それを逆手にとって落としたつもりだったけど、食べるだけ食べられて飲むだけ飲まれて逃げられた、ってところか。」
「祐司、正解。したたかって言うか狡猾って言うか、そういうところもバブル経済時期のものがそっくりそのまま推移してる。」
「バブルの頃は就職が売り手市場だったが今は買い手市場だから、いざ結婚そして生活って流れに持ち込むまでの手段をより確実なものにするために、やり方がより巧妙になってるとも言えるな。」
「『価値観の多様化』とか言ってる一方でその年齢層をターゲットにしたファッション雑誌とかでは人目、特に男の目を引くようなものを繰り返し取り上げて、海老で鯛を釣るやり方もバブル経済時期のものを今時期のものに焼き直してる。取材先と抱き合わせで記事を編集してる構図が変わらない限り、内容が変わることはありえない。」

雨上がりの午後 第2028回
written by Moonstone

「良いよなぁ、祐司は。美人の上に世話好きの嫁さん捕まえられて。」

2005/10/7
[疲労蓄積]
 雨は止みましたが、本業で猛烈に疲れてどうにか帰宅してから完全にへばってました。人の面倒を見ながら自分の仕事もするのはやっぱり大変です。体力があった頃ならまだしも、本業でも自宅でも身体より頭を使う比率が圧倒的に多くて体力も減っている現在ではかなり重荷です。無事完了しましたからOK。
 今日は職場のレクリエーションの幹事なのでまた帰宅が遅れます。更新日時は未定ですが、作品の揃いがあまり良くないので連休内若しくは連休明けになるかもしれません。週の半ばなどの所謂平日でも、更新すればご来場者はそれなりに増えることが此処数回の更新で何となく分かりましたので(週末以外は読む時間がない、と敬遠されると思ってたんですけど)。
 以外にテンポ良くご来場者数が増えているので、ミリオンヒット達成時に向けた準備をそろそろ始めた方が良いかもしれません。文章だけならまだしも、写真や動画を絡めたりするとそれなりにツールを揃えないといけませんし、使い方も覚える必要があります。「そのうち」と言っている間に期日が来てしまうもの。早めに手を打つに越したことはないでしょう。
「ずっと今住んでいる町に居ました。年末年始はバイトでお世話になっているお店のマスターご夫婦の厚意に甘えて泊めてもらってました。」
「その間、祐司とは毎日1回程度の電話だけだったんですか。寂しかったでしょう。」
「祐司さんは皆さんとの約束がありますから帰って来てくれ、とはとても言えませんでしたけど、祐司さんが居ない時間は短いようでやっぱり長かったですね。帰って来てくれた時は本当に嬉しかったです。」
「晶子さんは一度も帰省してないんですか?」
「そのつもりはありません。」

 晶子の返答に今までより心なしか力が篭る。やっぱり実家には余程のことがない限り戻るつもりはないらしい。兄さんとの距離を作られたことで生じた両親との確執は相当深刻なようだ。他所の家庭の事情に口出しするのは憚られるが、出来れば関係修復に持っていってほしいところだ。

「となると、この先祐司との半同居生活の比重が益々大きくなることになるな。晶子さんも当然ありますけど、祐司にも卒論がありますからね。色々カバーしてやってください。」
「それは十分承知しています。学業の負担は祐司さんの方が圧倒的に私より大きいですから、出来る限り私がサポートしていきます。祐司さんは私と違ってバイトで生活費を補填する必要がありますから、身体を壊さないように、特に食事に配慮するつもりです。」

 ありがたいのは勿論だが申し訳なく思う。晶子も講義やレポートがあるのに、俺の食事とかの面倒を見てくれている。自炊は早々に投げ出して早3年になろうとしているからあまり詳しくは憶えていないが、ご飯が茶碗に乗って出て来るまでにも随分色々手間がかかるものだと悟った。
 晶子はそれを毎日している。後片付けも怠らない。1日全体から見れば割と短いその時間も積み重ねれば馬鹿にならない筈だ。それをレポートや休息にまわしたいと思っても何ら不思議じゃない。現に俺はそうだ。晶子が全面的にサポートしてくれる以上、俺は自分のすべきことを完遂しなければならない。それが幾らかでも晶子への恩返しになるだろう。
雨上がりの午後 第2027回
written by Moonstone

「一昨年は一緒に過ごしたみたいですけど、去年は俺達との約束があって祐司は帰省したのは知ってると思います。その間晶子さんはどうしてたんですか?」

2005/10/6
[雨模様はまだ続く]
 睡眠リズムがおかしくなっているので、帰宅してから軽食を口にして横になっていました。目を閉じて呼吸を落ち着けて身体を休める、というスタイルです。これだと妙な厳格を見ることもあまりなくて、それなりに疲れを取ることが出来ます。おかげで更新時刻が大幅にずれ込んでしまいましたが、病に翻弄される管理人の日々を見てください。
 一旦リズムが崩壊した神経系のリズムを再構築するのは容易ではなく、5年以上投薬を続けてきてようやくここまで持ち直してきました。心療内科に駆け込んだ時点でかなりの重症だったので、それを考えればよく持ち直した、といえるかもしれませんが、日常生活に色々師匠をきたすことがあるのは間違いありません。
 スピードと結果のみが最優先され、人間が使い捨てにされる社会。一部の特権階級が豪華絢爛な生活を送り一方、生活保護にも満たない年金で生きながらえている人々。この経済格差が新自由主義経済、「小さな政府」によって齎された最悪の弊害です。これを髪を振り乱して「改革」と叫んだ首相に支持基盤を強化した日本の有権者の政治意識の程度の疑って止みません。
「えっと・・・。」
「考える時点でもうアウトだ。それで浮気しない、なんて信用が得られると思ってるのか?」

 こういうやり取りになったら耕次が俄然強い。宏一は完全に沈黙して夕飯に切り替える。まあ、宏一も思い当たる節があるんだろう。高校時代の前科を踏まえるとない方がおかしいかもしれない。

「実際、晶子さんは祐司と離れていて寂しいとは思っても、浮気してないかどうかと気を揉んだことはないでしょう?」
「はい。一度もありません。」
「祐司と付き合うなら、少なくとも祐司の浮気は心配しなくて良いですよ。逆に、疑ったりするのは祐司の方ですから。」
「それは分かってます。」

 晶子のはっきりした答えで、俺は去年の事件を思い起こす。晶子と田畑助教授との接近の話を智一から聞いて、それを目の当たりにする度に疑り深くなって、最悪のタイミングで「現場」に出くわしてしまったことで自ら関係断絶を告げたことだ。
 もてるもてないで言えば後者に属する俺は、何らかのきっかけで信用することより疑うことに重点を移しやすい。これから社会人になると更に人間関係が広がる可能性がある。となれば尚更相手を信用することを常日頃から心がけていかないといけない。日々鍛錬、ってところか。

「質問ばかりで恐縮ですが、晶子さんは一昨年から祐司と付き合い始めたんですよね?」
「はい。」

 今度は勝平との問答が始まる。
雨上がりの午後 第2026回
written by Moonstone
「おいおい耕次、そりゃないだろ?人を浮気者みたいに・・・。」
「じゃあ、去年引っ掛けた女の名前を10人言ってみろ。」
2005/10/5
[雨にやられた]
 TVはあるけど殆ど見ない。新聞は取ってない(政府財界広報に金などやれん)。空を見たら明るい。あー、今日も天気は大丈夫だなと思って何時もどおり出勤して・・・夕方頃でしたかね。ふと窓を見たらやけに外が暗い。「まだこんなに早く日が暮れる時期じゃないはずだけど」と思って外を見てみたら大雨でした
 暫く待っていたら降りは弱まったものの、到底自転車を使える状態ではなかったので泣く泣く徒歩で帰宅(置き傘あり)。今日は往路徒歩かぁ・・・。歩くのが面倒とかいうのではなくて、往路くらい時間に余裕を持ちたいな、と。
 天気予報の精度は随分向上してきましたが、流石に急変とかには対応しきれない様子。「晴れ時々曇り。所によって一時雨」って反則の表現じゃないかと思いつつ、今日は雨が降らないことを祈ります。
「俺は実家から通学だから、家でごろ寝だな。」
「俺は大学が始まる前日に向こうに戻る。それまでは実家で呆け三昧ってところか。」
「俺は合コン参加。」

 俺の問いへの耕次、勝平、渉の順での答えは順当だったが、宏一で思いっきり躓いた。此処でスキーがてら女引っ掛けて−どっちが本当の目的だったのかは未だ定かではない−戻ったら合コンとは・・・。ここまで来ると、呆れるを通り越してそのエネルギッシュなところに拍手をすべきかと思う。

「合コンってお前、伝(つて)はあるのか?」
「あるから言うに決まってるじゃねえか。」
「ま、それはそうだが・・・。菜花学院大学か聖泉女子大学あたりか?近場だと。」
「耕次、正解。同窓会兼ねて盛大にやることになってる。」
「・・・大したもんだな。」
「まあな。」

 皮肉が篭っていると俺でも分かる耕次の言葉なんて、宏一は全く意に介さない。それどころかその横顔は誇らしげでさえもある。高校時代の宏一の女好きは良く知ってるが、大学に入って益々パワーアップしたように思えてならない。

「良かったですね、晶子さん。出逢ったのが宏一じゃなくて。」
「どういう意味だよ、耕次。」
「こいつに引っ掛かったら24時間365日浮気の心配してなきゃなりませんし、ましてや帰省とかで離れたら、ずっと携帯繋いでないと駄目ですよ。」

雨上がりの午後 第2025回
written by Moonstone

「皆はこの旅行の後どうするんだ?」
「俺は実家で1泊してから大学に戻る。大学が始まるとほぼ同時に自治会の委員長選挙があって、それの応援とかあるから。」

2005/10/4
[急遽新作公開]
 時間ギリギリまで粘って書き上げました。短編と言うより散文ですから見た目直ぐ出来そうですが、そうも行かないものです(これは漫画やCGを描かれている方でもお分かりいただけると思います)。今後も様子を見ながら散発的にでも公開していくつもりです。
 間に合わせで書いたつもりは全くありません。そんなお手軽に書けるような技術とかは持ち合わせてませんので。もう、1週間に1回主だった更新(「雨上がりの午後」は此処で連載を続けている限り半ば自動的に出来るので別)がないとどうも不安というか・・・。禁断症状とは言わないにしても、それに近いものなのかもしれません。
 結局生活リズムはこれまでどおりにしました。夕方から眠くなるのがちょっと厳しいですが、まるで動けないよりはずっとましです。朝の5時までゲームの生活を連続させても大丈夫だったんですけどね・・・。シグナムが早く見たい。
「ああ。今年・・・じゃなくて、去年の春まで撮ってなかった。別に深い理由はない。写真を撮ることを思いつかなかっただけだ。」
「実家にはその写真を送ったのか?」
「否、送ってない。考えもしなかったな、そんなこと。」
「写真より本物の方が良い意味でのインパクトもあるから、どうせ知らせるならそっちの方が良いかもな。」
「そうだな。」

 渉の言いたいことは分かる。この旅行の帰りに晶子を連れて実家に立ち寄ったらどうか、というものだ。写真を送るより「彼女が井上晶子」と本物を見せた方が、肉声も伝わるしインパクトもある。寝る場所がないことを理由に顔見せだけして引き上げるのも1つの手ではある。あらかじめ電話を入れておけば、夕食ぐらいは一緒に出来るだろう。それだけでも単なる顔見せだけより交流が深まって良いかもしれない。
 考え時だな。否、もう決めないといけない。この町を出るのは明後日。2日なんてあっという間に過ぎてしまう。現にこの町に入ってから今日で4日目になるが、「もう4日も経ったのか」という気持ちの方が大きい。このままだと何も決めないまま帰り支度、ってことになっちまう。
 幸か不幸か、何時でも実家と電話出来る道具を持っている。極端な話、夕食が済んでから部屋に戻って電話をかける、というのもOKだ。親も今日何度電話しても出ないことを変に思っているかもしれない。その説明も兼ねて「帰りに晶子を連れて寄るから」と言えばそれで済む。だが、その決断に踏み切れない。進路の問題という厄介なものが控えているからだ。あれさえなけりゃな・・・。
雨上がりの午後 第2024回
written by Moonstone

「去年帰省した段階では、まだ晶子さんと2人で写ってる写真を撮ってなかったのか?」

2005/10/3
[状態悪化中]
 いきなり生活リズムを変えたのが悪かったのか何だか分かりませんが、土日と進むにしたがって体調が転がるように悪化しています。悪い時の典型的な症状である「PCの画面を見るだけで吐き気がする」のも出ています。
 おかげでこの休日はまったく作品制作に着手出来ませんでした。週明けに短編の新作を、と目論んでいたのも見事に頓挫。ひとまず様子を見て出来るようなら着手します。
 そんなこんなでメールや掲示板のお返事が更に滞ってしまっています。該当する方には申し訳ありませんが、この「波」にはどうしても勝てないので、波が引くまで暫くお待ちください。

「去年のスクランブルライブは良かったよな。」

 耕次が感慨深げに言う。あれは準備中こそちょっと人目が気になったが、いざ開始してしまえば気にならなくなった。気付いたら物凄い人垣が出来ていて大盛況。成人式の関係者との応酬はそれこそ高校時代の生活指導の教師とのやり合いと同じだった。

「そう言えば晶子さんは知ってますか?去年祐司が帰省したのは、俺達との約束を守るためだったってこと。」
「はい。先に祐司さんから聞いてました。見られるものなら見たかったです。」
「あー、その時そこまで気が回らなかったな。祐司に言っておけば良かった。」

 晶子とやり取りした耕次は残念そうな顔をする。俺自身、父さんと母さんが晶子との電話で好感度をぐっと高めて、写真を持ってないことを頻りに残念がっていた。連れて来ても出迎えるつもりになったようだ。どこに晶子を寝かせるつもりだったのか−今でもそうだ−分からないが、もし連れて行ったとしたら、あのライブを直に見せられただろう。そう思うと惜しい気がする。

「去年で思い出したけど・・・。」

 今度は渉が切り出す。
雨上がりの午後 第2023回
written by Moonstone
 結構勝平は本気だったようだ。俺達の腕が所謂プロからしてどう見えるのかは分からないが−コンテストとかにエントリーしたことはない−、案外あっさりプロデビューしたミュージシャンも居る。意外なところにきっかけは落ちているものなのかもしれない。
2005/10/2
[またも早朝更新]
 早朝っていうより未明です。ずれ込んだ理由は昨日付と同じ。それがあまりにも酷くて記憶が大混乱して(どういうわけか親戚関係の夢だった)とてもPCで作業出来る状態ではなく、服薬して寝ました。きちんと寝れば記憶の混乱などは元通りになるので。幾分回復したとはいえまだ不自由なところが多いです。
 その煽りを食らって短編くらい書き下ろそうという目論みもアウト。広報紙の発行だけとなりました。今日は次の更新に向けた長編の新作を優先しますが、余裕があったら明日付若しくは週の中頃にでも出せるような、割と短時間で書ける(それでも2、3時間は必要)新作を捻出しようと思います。
 普段何かと夜型にシフトするので、早寝早起きの昼型生活を常態化させた方が良いのかもしれません。特に休み明け対策として。自分の生活もこなしつつ、というのはなかなか大変なものです。
 俺達もライブをする前には場所に応じて出力を色々工夫した。場所は最初視聴覚室、観客が多くなってきてからは体育館に移った。言うまでもなく視聴覚室と体育館とでは大きさが全然違う。全員が交代しながら音をチェックして、全員が最適と思える条件で始めた。
 屋外でライブをする時はもっぱら文化祭の時だったが、これもまた全員でのチェックを念入りにした。前日に全ての楽器を外に出して実際に音を出し、低域から高域まで十分出ているかどうか確認した。俺達バンドのメンバーは5人だけ。ミキサーなどのスタッフは居やしない。自分達の耳が頼りだった。場所に応じた音の出し方を確認することは、人に聞かせる側として当然すべきことだと思っていた。
 だが、宮城が就職した芸能プロダクションではあまりそういうことをしていないようだ。俺達アマチュアでもしていたことを誰かに指摘されるまでしなかったというのは、正直言って意外と言うより怠慢だと思う。プロってああいうもんなんだろうか。ちょっと引っ掛かるものがある。

「いっそ俺達が乱入してやっても良かったかもしれないな。」

 勝平が言う。悪戯心がうずうずしてるんだろう。

「生憎キーボードがなかったから俺は裏方に回って、他でステージをジャックする。キーボードなしの曲はないが、誤魔化せないこともない。結構いけたんじゃないか?」
「それであのバンドより人気が出たらどうするんだ。」
「それもまた一興。プロとアマの境界線なんて何処にあるか分からない。ファンがそこそこ居て出すCDがそこそこ売れる、ってことをプロと定義するなら、意外に可能性があるかもしれない。」

雨上がりの午後 第2022回
written by Moonstone
 話が音の話題に移る。宏一の話題提起に始まって、勝平が批判的な見解を言い、宏一の推測に続いて耕次が推測を言う。面子もやっぱりあの出力バランスが気がかりだったようだ。俺が聞いていてもそう思ったんだから、同じだけ音楽活動を共にしてきた面子が気付かないわけがない。
2005/10/1
[また出遅れ(汗)]
 体調が思わしくなかった上に転寝した後の目覚めがすこぶる悪かったので(夢の中で夢を見るのを繰り返した)早めに寝て、日付変更前後の更新を見送って昼前までずれ込みました。まだ寝るには服薬が必要なようです。
 今日から背景写真を変更。この時期にはあまり写真を撮ってないので例年に通ったものになってしまうんですが(何年かの常連さんだと「去年もこの時期にこんな写真だったな」と思うでしょう)、秋は花だとコスモスか彼岸花(後者はちょっと)、風景は夕暮れ時が良いのでどうしても似通ってしまうんです。
 手持ちの新作が殆どないのでこれから制作です。短編が主体でそれ以外は設定関係になると思いますが、「本館・創作棟」にもあるWWWCをご利用いただいて更新をチェックしていただければ幸いです。
「スキー場に入った時何か準備しているのは見たが、気にも留めずに中級者コースに行ってスキーを始めたからな。渉が滑り降りた時が丁度イベントが始まったところだったんだ。」
「どんなもんかと思って見に行ったら、BURST HEARTとかいうバンドの屋外ライブだった。客に話しかけられる雰囲気じゃなかったからスキー場の従業員に話を聞いて、スキー場に入ったら誰でも見られるって知ったから、祐司に知らせたんだ。スキーをするかしないかは兎も角、興味があるんだったら来て見ろ、ってことで。」

 耕次の回答に続いて渉が詳細を言う。面子も見に行ってはみたようだ。広大なゲレンデの一角に大きな人垣が出来ていれば嫌でも目に付くし、歓声が上がっていれば何をしているのか興味が沸くのも自然だろう。

「そう言えばさ。最初に聞いた時は音がかなり割れてたけど、昼過ぎに聞いた時には出力が結構フラットになってたよな。」
「ああ、確かに。午前中は低域が薄いのに高域がやたら強くて、はっきり言って耳障りだったな。昼過ぎに聞いた時は良い感じになってたが、どうせするなら最初からしておけばいいものを。」
「屋外は初めてなんじゃないのか?」
「ざっと見て200人くらいは居た。こんな奥地で、しかも真冬に屋外ライブをするようなインディーズの追っかけにしては多過ぎる。バンドは結構場慣れしてる筈だが、スタッフの質に問題があったんだろう。新人をいきなり使ったか。で、端から聞いててもう駄目と見切って交代したってところじゃないか。」

雨上がりの午後 第2021回
written by Moonstone

「『も』ってことは面子も行ったのか?」

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