芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2005年6月30日更新 Updated on June 30th,2005

2005/6/30

[遅れて御免なさい]
 本来なら当日未明に更新するんですが、今日は更新前後に眼鏡を置いた場所を失念してしまって作業が出来ず(眼鏡が必要な人間が眼鏡の置き場所を忘れるのは問題)、その時心身の具合が思わしくなかったのもあって、定例の更新は見送りました。PCの前に2時間座っていても1文字も書けないのではどうしようもありません。
 眼鏡は帰宅してからもう1つの眼鏡(自動車運転用の度の強いもの)を使って徹底的に探したら見つかったので、眼鏡を変えて今日付の更新に取り組みました。で、日付が変わる前後にまた更新します。今日で6月はおしまいですから、月末恒例のPCの掃除をしてからになります。
 連載のストックが底をついているのがネックになっています。少し気を抜くと直ぐなくなるんですよね・・・。ぐだぐだ言っていても始まらないので、PCの掃除を終えたら気分を切り替えて更新に取り掛かります。暫くお待ちください。
 去年はどうにもしようがなかったが、今年は連れて行く条件があることはある。寝る場所がないから顔見せだけして帰るってのも良い。晶子も昨日の話からするに歓迎されるなら行きたかったようだし、この旅行から帰った足でそのまま実家に向かって顔見せに行く、というパターンも考えられる。何れにせよ、俺の決断次第ということには変わりない。

「実家に行くかどうかはまだ決めかねてるけど・・・、親に晶子を紹介したいとは思う。疚しい付き合いじゃないし、晶子と付き合ってることは去年帰省した時に話してあるから。」
「昨日のお話の席でも言いましたけど、歓迎されると分かっていたら連れて行ってもらいたかったです。もっとも、祐司さんがいきなり見知らぬ女性を連れて来たらご両親は驚かれるでしょうし、祐司さんが説明してご両親に納得していただくのも大変でしょうから、あれで良かったと思っています。」
「今年此処に旅行に行くことは親に話したけど、帰りに寄りなさい、って言われたんだ。」

 この旅行が急遽決まったということもあるし、年始に親戚の挨拶回りをする親が電話をかけても出ないと不審に思うだろうから、出発前夜の夕食の準備中−晶子任せだが−にその旨を伝えた。面子のことは高校時代から知ってるから別として、晶子も一緒に行くと伝えると、帰りに寄りなさい、と電話に出た母さんが言った。晶子を連れて来い、という意味が篭っていることくらい分かる。
 その時は「寄れたら寄る」と言っておいたが、顔見せ程度なら寄って寄れないこともない。2人別々に寝る場所がないことを口実にして、顔見せだけでおしまい、とすれば理屈は通る。だが、釈然としないものがある。
 晶子との付き合いに何ら疚しいものはない。何れは紹介する時が来る。その時までに一度くらい顔見せしておいた方が良いのかもしれない。実家に行ったついでに進路をごり押しされることを警戒しているが、顔見せを前面に押し出せば済むことかもしれない。

雨上がりの午後 第1928回

written by Moonstone

 それが一転したのは、晶子からの電話だ。電話が終わる前に、連れて来れば良かったのに、と言って、夕飯の時に俺から話を聞いた父さんも同調した。その父さんも翌日の晶子からの電話を俺に取り次いだ後、今度は連れて来い、と言った。その後特徴とかを色々尋ねられて、そういう娘は連れて来なさい、と口を揃えた。そんなこと言われたって帰省は面子との約束を果たすついでだったし、今朝の話じゃないがいきなり晶子を連れて行ったらどういう反応を示すか分かったもんじゃない。無茶を言わないでもらいたい。

2005/6/29

[まい ばぁすでぃ]
 平仮名で書くとかなり間抜けですが、今日は私の誕生日です。「Master's Profile」の詳細で仄めかしては居ますが。歳は・・・えっと・・・素数を2倍した数です(10代ではない)。このページを開設してから7回目になりますが、更新ログを見ると結構作品数が増えてるな、としみじみ思います。まあ、7年もやってりゃそれなりに増えるんでしょうけど。
 今日は本業を休んで(一月前に有給届けてあります)、滞りにも程があるメールのお返事をするつもりです。残りは作品制作。本来なら体調もありますし指の具合も未だに思わしくないので休養に充てるつもりだったんですが、流石にそうも言っていられないので・・・。
 昨日職場で健康診断があったのですが、血圧測定で再検査となりました(その場でですけど)。理由は簡単。「あまりにも血圧が低過ぎるから」。看護士さんも測定器の数値を見て明らかに驚いてました。まあ、私の年齢でしかも男性なのに高い方が100切れば驚くでしょう。「私、血圧低いので」と断っておきました。・・・献血出来ないんですよ、私は(泣)。

「じゃあ念のため。昨日と同じく18:00に此処ってことで。」
「ああ。気をつけてな。」

 俺と晶子は、スキー場に向かう面子と宿の前で別れる。軒下で傘を広げて晶子を中に入れて歩き始める。今日も鉛色の空が低く垂れ込め、大きめの雪が静かに降り注いでいる。喧騒とは無縁の静かな日常の風景を、晶子と2人で歩く。傘を差す俺の左腕には、晶子の右手がほんの少し抱き寄せるように乗っている。
 昨日は宿の場所を忘れないように少し意識して歩いていたが、幅の違いはあっても碁盤上に走る通りだから、まず迷うことはない。もし迷ったとしても、土産物屋が軒を連ねる通りを目指せば良いことは、昨日の時点で大体分かった。バス停と宿を繋ぐ関係もあって、観光客が行き交う通りに土産物屋が集中している。その他は建物の風情こそ伝統的だが、民家が立ち並ぶ様子は住宅街そのものだ。

「祐司さん。」

 人気のない脇道に入ったところで、晶子が声をかけて来る。

「祐司さんが去年帰省した時に私がかけた電話で、ご両親が今度は私を連れて来るように、と仰っていましたけど、今でもそうなんですか?」
「ああ。最近は土日のどちらかに電話がかかって来るんだけど、晶子と今でも付き合ってるのかどうかを確認して来るんだ。一度連れて来なさい、って言われたこともある。」

 去年帰省した時、最初に晶子からの電話を取ったのは母さんだった。俺は実家到着とほぼ同時に出て来た昼飯の席で、晶子と付き合っていること、晶子は俺と同じ大学の文学部に居ること、今は同じバイトをしていることなんかを話した。昼飯を出した母さんはセーターとマフラーを見て、編み物は随分上手ね、と言ったが幾分訝っていた。

雨上がりの午後 第1927回

written by Moonstone

 一歩先もろくに見えない暗闇の迷路。出口があるのかさえ分からない、その人間だけのラビリンス。だが、進まなきゃどうにもならない。手探りで・・・模索するしかない。もがいて足掻いて・・・それで良い。後悔さえしなければ。

2005/6/28

[そんなに痩せたいかな・・・]
 ニュースポータルサイトを見ていると、大抵「痩せて云々」という件の広告が大小問わずあります。見るからに女性をターゲットにしてるな、と思うのですが、肥満は男性、特に中高年だと下手すれば生命に関わる事態にも繋がるので、健康志向が言われる現在、痩せビジネスは拡大する一方でしょう。
 私も年齢的にぼちぼち痩せビジネスのターゲットになる段階に差し掛かっていますが、私は太り方を教えて欲しいです。右手薬指を負傷した頃(まだ腫れも痛みもひきません)に体調不良も重なって一気に痩せたんですが(10日足らずで6kgくらい)、同時に体力も削られたのでかなりしんどいです。夏場そのものは大丈夫ですが、この時期大抵体重がごそっと減る=体力も削られるんですよね・・・。
 そりゃあ肥満で良いことはないでしょうけど、あまり痩せていても良くありません。見た目弱く見えますし、服のサイズが合わなくなるのは痩せても同じです。鏡を見ても自分がかなりやつれてるな、と思うくらいですから他から見ると病的かもしれません。外は暑い一方で心は憂鬱な今日この頃です。
 俺とて疚しい付き合いとは思ってないから、晶子を紹介しておきたいとは思う。だが、まだ俺が進路を決められないで居る段階では時期尚早のような気がする。晶子を連れて実家に行って晶子を紹介するところまでは良いが、その先進路をごり押しされたら適わない。

「まあ、まだ日にちはある。丁度小宮栄の駅が新京市に戻るか祐司の実家のあるところへ行くかの分岐点になるから、極端な話、そこに行く時点まで考えれば良い。祐司だってまだ進路が決まってないからってことで帰省しないで晶子さんと同居してたんだろうし、その辺のことは祐司本人と晶子さんで決めることだ。」

 耕次が締め括る。相変わらず推察が鋭いな・・・。逆に取れば、晶子を実家に連れて行くくらいの覚悟はしておけ、ということだろう。顔見せだけして帰る、ということも出来る。ちょっと反則だが、実家に俺と晶子を別々にするスペースはないから、それを理由にすることも出来る。
 何れにせよ、この休みの間に考えるだけ考えておかないといけないことには違いない。講義が始まったと思えば直ぐ後期の試験がある。その結果発表とほぼ同時に研究室への本配属、と立て続けにビッグイベントが押し寄せる。公務員試験は確か7月頃だ。それを受験するなら早々に準備を始めないといけない。公務員試験の倍率は高くなる一方だから、付け焼刃で挑んだところで返り討ちにされるのは目に見えている。研究室に本配属になったら研究も進めないといけない。色々なことを並行して進めていく必要がある。
 大学院進学という方向は既に事実上断たれている。元々俺自身大学院への進学は考えてなかったし、来年の4月から大学に進学する方向に急転換した弟の学費もある。4年以上学費を払う余裕はない、と受験に当たって念押しされたんだから、大学院進学でその条件が緩和されるとは思えない。かと言って、大学院はバイトをしながらではまず無理だと聞いている。俺が本配属を希望している久野尾研も、院生はかなりハードらしい。難しい局面に立っているのをつぶさに実感する。
 だが、悩んで立ち止まっているだけでは事態は何も進まない。自分の未来は自分で切り開いていかないといけない。そうしないと押し付けられた進路を走らされるだけになっちまう。それで後悔したところで後の祭り。その時自分で決められなかったんだから、ずっと尾を引くだろう。する時にしなくて失敗に終わった時の後悔は延々と続く、と言うしな。

雨上がりの午後 第1926回

written by Moonstone

 ・・・確かにタイミングとしては良いかもしれない。去年俺が帰省した時の電話のやり取りで、親の晶子に対する評価は一気に急上昇した。最近週1回のペースで−土曜か日曜の午前中だから起こされてしまうのが厄介だが−かかって来る電話でも、晶子との付き合いが続いているのを確認する問いが混じって来る。一度連れて来なさい、とストレートに言われたこともある。勝平の言うとおり、晶子を見たいという気持ちがあるからだろう。写真は撮ってない、って帰省した時に言ったら残念がっていたし。

2005/6/27

[ちょっと早いですが]
 「Moonlight PAC Edition」第35号で既報のとおり、今年はコミケに行きません。元々出不精ですからコミケに行かないとなると、今年の夏は完全に引きこもり状態になります(仕事は別)。何となくですがあまり行かない関西方面にちょっと出向こうかな、と思っていたりもしますが、少なくとも此処をシャットダウンすることはないでしょう(つまりは日帰りということ)。
 出張で出向く先は、企業の本社やセミナーの会場が集中している関係もあって、大半は東京です。出張は年に2、3回あるかないかですから、余計に外に出る機会が少なくなるわけで・・・。コミケも東京ですから、行動範囲はどうしても東寄りになってしまいます。
 私が住んでいるところからだと東京と大阪は大体同じくらいの時間で行けるという、ある意味中途半端な場所です。でも行く先は東京に偏っているので、大阪方面へ行く用事とかないかな、と思ってみたり。・・・脈絡ゼロで御免なさい。
 結果、合格。一緒に合格発表を見に行った宮城、合格発表を待っていてくれた面子と親がそれぞれ驚愕や歓喜の声を挙げるのを見ながら、大きな充実感と達成感に浸った。あれだけやったんだから不合格でも後悔はしなかっただろうが、合格出来るに越したことはない。

「まあ、頭に血が上ると途端に暴力的になったり、妙にやきもち焼きだったりするところはありますけど、その辺のツボはもう分かってるでしょう?」
「はい。」
「そこさえ押さえておけば祐司の動きは封じられますから、祐司の方から逃げることはありませんよ。」
「祐司が逃げたら、この私、則竹宏一宛にご一報いただければ・・・」
「お前にご一報した時点で大失敗だ。」

 名乗りを上げた宏一に、渉が淡々とした調子で一撃を食らわせる。宏一が沈黙するのは言うまでもない。

「話はころっと変わるが、祐司。お前の冬休みは何時までだ?」
「大学は11日から。バイトも同じだ。」
「てことは、3日此処を出たらそのまま新京市に帰るってことか。」
「ああ。それがどうした?」

 俺が尋ねると、耕次は茶を啜ってから俺に向き直る。

「いっそ晶子さんをお前の実家に連れて行ったらどうだ?」
「え・・・。」
「それは良いな。祐司の両親も一度晶子さんを見たいだろうし。」

雨上がりの午後 第1925回

written by Moonstone

 新京大学受験は俺にとって今までの人生で最も大きな賭けだった。模試で合格判定が五分五分を超えることはなく、進路相談でも担任から再三「あまり勧められない」と言われた−合格者数が減ることを危惧してのことだろうと後で耕次が言っていた−。親が「そこなら一人暮らしをさせてやっても良い」と言ったのを受けて、模試で合格判定が確実とされていた近場の大学の1つを止めて−国公立系は最高2校しか受験出来ない日程だからだ−新京大学受験を決めた。

2005/6/26

[遅れちゃった(汗)]
 昨日はさっさと更新してさっさと寝ました。生活リズムからしてもこれがベストなんでしょうけど、なかなかそうもいかないものです。昨日は服用しませんでしたが、右手薬指の腫れは全然変化がなく、それどころか関節の赤みが増して来ています。・・・本当に何もないのか?
 それはさておき、ところどころのWebページで「Musical Baton」なるものを見かけます。質問に答えて誰かに振る、という形式のものです。質問の数も5つと少ないので、ちょっと此処で答えてみることにします。
  • 1)コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量:1MB強くらいです。今PACで公開しているMIDIデータの合計です。
  • 2)今聞いている曲:なし(最近は音が耳障りに感じるので音楽は殆ど聴きません)。
  • 3)最後に買ったCD:「P.S○MY SUNSHINE」(倉木麻衣さん)
  • 4)よく聞く、または特別な思い入れのある5曲:難しいな、これは・・・。あえて挙げると「Secret of my heart」(倉木麻衣さん)、「Time after time〜花舞う街で〜シアターバージョン」(倉木麻衣さん)、「MORNING STAR」(T-SQUARE」、「SATURNALIA」(私Moonstone)、「energy flow」(坂本龍一さん)(順不同)。自作の曲を入れるのも何ですが、「SATURNALIA」は今まで作った曲の中で一番気に入っています。
  • 5)バトンを渡す5名:誰でもどうぞ。
     こういう時掲示板があると便利なんでしょうけどね・・・。まだ記事の整理と返事が済んでいませんし、迷惑メール対策を更に強化しないといけないので、もう暫く時間がかかりそうです。
  • 「で、ある日祐司と出逢って一本釣りされて現在に至る、と。」
    「勝平。一本釣りって表現は何とかならないか?」
    「最も適切だと思うが。」

     勝平の飄々とした言葉に、面子全員が頷く。宮城との破局間もない俺に直ぐ新しい彼女が出来たことが、妬みを生んでいるんだろうか?何にせよ、今となってはどうにも抗せない。晶子にせがまれてのこととは言え、付き合い始めて半年足らずで左手薬指に指輪を填めさせるという「手の早さ」を考えれば、な。

    「まあ、底引き網漁にご執心の約1名みたいな奴に釣られるよりは良かったでしょうね。」
    「約1名って誰のことだぁ?」
    「ご存知でしょうけど、祐司はメロディメーカーやギタリストとしての腕は確かですし、堅実且つ誠実な奴ですから、浮気とか金遣いとか、そういった方面で心配はしなくて済みますよ。それに、昨日の飲み会の席で俺達が在学している大学が出ましたけど、祐司はバンド活動とメロディメイクに加えて、前の彼女との付き合いを成績の悪さの理由にさせないって意気込んで、結果最終模試まで五分五分だった新京大学合格を決めたんです。内なる闘争心って言うんですかね・・・。そういうものは恐らく面子の中で一番強い奴ですよ。」

     宏一の抗議を無視しての耕次の言葉は、俺をフォローするものだ。俺達面子が通っていた高校は県下有数の進学校で、成績が悪いカップルは呼び出されて別れるよう命じられる、というのが公然の秘密となっていた。バンド活動を始めて暫くしてから、友人と一緒にライブを見に来ていたという宮城と付き合い始めたが、宮城との付き合いを成績が悪い理由にされて別れさせられてなるものか、と思って勉強にも取り組んだ。ふられてばかりだった俺が初めて彼女持ちになれた、という喜びもあった。
     それが功を奏して、俺は何時の間にやら面子の中で最も成績優秀になって泊り込み合宿では講師役を任され、地元短大を志望していたが成績が伸び悩んでいた宮城を合格まで支援することが出来た。各クラスの掲示板に貼り出されたテストの成績上位者リストを前に、友人に「あんたの彼氏、頭良いね」と言われてはにかんだり、俺がノートを貸すと笑顔で礼を言った宮城は今でも思い出せる。バンド活動で目を付けられながらも、一度も呼び出しを受けることはなかった。

    雨上がりの午後 第1924回

    written by Moonstone

     それにしても、晶子が俺と出逢うまでそれこそ孤独な学生生活を送っていたのは意外だな。まあ、晶子は両親とほぼ絶縁して今の大学に入り直したんだし、そうなるに至った心の傷が癒えてなかったこともあって、人付き合いを無意識のうちに避けていたんだろう。

    2005/6/25

    [少し早めの更新です]
     連日更新時刻が日付を超えてからになっていて、本業の都合などでその日のうちに見られない、という方も居られるかもしれません。連日遅くなっていた理由の1つは心身の不調ですが、もう1つは今日の更新内容をご覧いただければお分かりいただけるかと思います。作品制作以外のこともあるので、遅くなってしまったわけです。こういうのもそれなりに時間がかかるものです。
     一応態勢立て直しは成功したので、これから維持出来るかどうかが問題なのですが、幸い気候はこれから暑くなるという時期ですので、暑さには耐性があっても寒さにはてんで駄目な私にとってはありがたいものです。残るはしぶとく腫れていて痛みもある右手薬指の故障と、睡眠障害の改善です。待っていても治る代物ではないので、とりあえず前者は鎮痛剤で抑え、後者は出来るだけ一定の時刻に寝起きするようにするしかありません。
     「ニュース速報」と「Moonlight PAC Edition」第35号でもお知らせしていますが、メールのフィルタリングをかなり強化しています。各種ソフトウェアでも対応が常に100%と出来ない現状では、手動で強化する他ないんですよね。とんだ影響を受ける方も居られるでしょうが、無法地帯と化している現在のネット事情を考えると、防衛策を強化するしかないわけで・・・。まあ、今日の更新内容をゆるりとお楽しみください。

    「私と祐司さんはバイトをしていることもあって大学のサークルやクラブには入ってないんですけど、皆さんはどうですか?」
    「宏一がアウトドア関係のサークルに入ってる他は、全員サークルやクラブには入ってないです。俺は大学の学生自治会に入ってますけどね。」

     晶子の問いに耕次が答える。耕次はかなり急進的な一面があって、高校時代は生徒会総会で校則の見直しを主張して生活指導を人権侵害として、特に生活指導の教師と激しく対立していた。俺達のバンド活動が特に生活指導の教師の目の敵にされたのは、リーダーである耕次の姿勢によるところが大きい。耕次が今の大学の法学部を受験するにあたっても、「ヒラメ教師が校則という一方的な文言によって生徒を支配するという、学校における人権抑圧の構図を法的側面から抜本的に改める」と明確な意思表明で臨んで合格する、という有言実行を演じて見せた。学生自治会加入は当然の流れと言える。

    「晶子さんは、祐司と同じバイトをするまでもサークルやクラブには入ってなかったんですか?」
    「はい。」
    「じゃあ、変な言い方になるかもしれませんが、祐司と同じバイトをするまでは大学と家とを往復するだけだったんですか?」
    「そうです。サークルやクラブには、入学式が終わった後で待ち構えていた人達からチラシを貰ったり直に勧誘を受けたりしましたけど、興味がなかったので入らなかったんです。」

     耕次の問いへの答えで、俺と出逢う以前の晶子の生活が明らかになった。俺は生活費を自分で補填するって約束があったから、入学式より前にバイト探しを始めて、今のバイト先で採用されたら即バイト開始。時間帯が遅いし休みが月曜だけという条件だったし、休むとその分生活費に響くという危機感が過剰なまでにあったから旅行とかは一切行かなかった。宮城とのすれ違いも生活リズムの違いから生じたものだ。
     とは言え、マスターと潤子さんを恨むつもりはさらさらない。そういう条件を知った上で申し込んだんだし、俺からすれば気が多い宮城にすれば、構われないなら別の男と、と考えるだろう。仕方なかったと思うしかない。宮城と分かれてなかったら晶子とあの日あの場所で出逢うことはなかっただろうし、別の形で出逢ったとしても俺には二股かける甲斐性なんてないから、宮城との付き合いが続いていたら晶子との付き合いはなかった。終わりが始まりでもあったわけだ。

    雨上がりの午後 第1923回

    written by Moonstone

    「約1名?誰のことだ、全く。」
    「お前だろうが。」

     他人事のようにとぼけた宏一に耕次が突っ込みを入れる。あえて指摘するまでもない。スキーより女目当ての感が強い宏一には、底引き網漁がしやすい初心者コースの方が良いんだろう。スキーが出来るかどうかは別として。

    2005/6/24

    [鎮痛剤服用]
     どうにも右手薬指の痛みが気になるので、鎮痛剤の服用を開始しました。以前腰痛にやられた時に処方されたもので、飲み合わせ(薬効成分の衝突)の少ないタイプで即効性があるので重宝しています。かと言って常用していると効果が薄れてきますから、ここぞ、という時にだけ飲むようにしています。
     さて、昨日プロ野球広島の野村謙二郎内野手が2000本安打を達成しました。2000本安打達成は今年では古田選手(スワローズ)に続く、打者では33人目の偉業達成です。大学出身者としては7人目。苦節17年目の快挙です。野村選手は走攻守三拍子揃った選手の代名詞でもあるトリプルスリー達成者の1人(タイガースの金本選手もその1人)で、改めてその偉業に敬意を表します。
     野村選手のコメントで「いいことの方が少ないが、頑張っていればいい日が来ると痛感した。」とありますが、良い言葉ですね。兎角失敗や挫折の連続で落ち込むことが多い私には、大いに励まされる言葉です。日々の積み重ねの大切さを実感しています。
     ファッションとかには疎い俺でも左手薬指の指輪の意味くらいは知ってるし、付き合い始めてまだ半年くらいと日が浅かったこともあって、あの時は顔が燃えるような気がした。だけど、あれをきっかけにして晶子への気持ちが確固たるものになって行った。これと同じ指輪を填めている相手が居る、という実感が、俺を突き動かして来た場面は幾度となくあった。最近は特にそうだ。
     それ以外では全く以って安上がり、耕次や宏一の以前の表現を借りると「燃費が良い」。これを買って、あそこへ連れて行け、とごねることはない。今回の旅行にしても全部自費だ。今身に付けている指輪とペンダント、「落とすといけないから」ということで特定のときしか身に着けないイヤリングにしたって材質とと値段とかは今まで一切聞かない。見かけで判断するもんじゃない、とよく言うが、晶子に関してはそのとおりだ。予想外とも言えるが。
     俺からすれば容姿にしても性格にしても何の不満もない晶子だが、晶子からすれば俺は不満だらけなんじゃないかと思うことがある。背は決して高いとは言えない。180cmを超える宏一とは明らかに違うし、他の面子も175cm程度あるから、どうしても小さいという印象が拭えない。顔も見栄えが良いとは言えないし、性格にしても特に最初の頃は扱い難くて仕方なかったと思う。兄さんに似ている、という要素はあったとは言え、今ではすっかり平々凡々の俺との付き合いに幸せと生き甲斐を見出している・・・。それに見合うだけの存在になりたい。
     俺と晶子の元に食事が運ばれて来る。面子より一足遅れでの朝食。俺と晶子はこの後宿を出て観光、午後からは子ども達に混ぜてもらっての雪合戦だからさほど慌てる必要はないが、面子は混み合ってる様子のスキーに行くから、あまりのんびりしてられないだろう。

    「スキー場の方はどうなんだ?」
    「随分盛況だ。リフトは当然だが順番待ちだし、初心者コースは特に人でいっぱいだ。俺達は主に中級者コースを滑ってる。あまりスキーはやってないからコースがちょっと難しいが、混雑が少ない分スキーに専念出来る。まあ、約1名そうでない奴も居るがな。」

    雨上がりの午後 第1922回

    written by Moonstone

     耕次の推論に渉が同意する。俺もそう思う。今までの晶子との付き合いで、晶子から無理難題を要求されたことは殆どない。あえて言うなら、指輪をプレゼントした時にその場で左手薬指に填めてくれって譲らなかったことくらいか。

    2005/6/23

    [かなり痛い]
     火曜に職場で右手の使用を力仕事で強行したのがやっぱり悪かったのか、患部の右手薬指の腫れは一向に収まりません。それどころか、放っておいてもじくじく痛むようになって来ました。通常では支障ありませんが、物を握ることはほぼ不可能です。マウスを使うにも無意識に薬指だけ離しています。
     調子が良ければ散発的にでも新作を投入するつもりだったんですが、いよいよ鎮痛剤を飲まないと我慢出来ないレベルになって来たのではどうしようもありません。平日の更新はとりあえず見送って、週末の更新に備えることにします。
    「話の成り行きで、向こうから誘われたんだ。」
    「昼間スキーをしないでどうしてるのかとか思ってたんだが、余計な心配だったか。」

     勝平じゃなくても、普通なら昼間観光地とは言え目立った娯楽もない場所をうろついているだけで大丈夫なのか、と思うだろう。生憎と言うのか、俺と晶子はその点ではかなり安上がりに出来る。こういう初めての場所では、それこそ見て回るだけで事足りる。

    「祐司は俺達が誘ったから別として、晶子さんは退屈じゃないですか?」
    「いえ、少しも。」
    「言い切りますね。しかも即答。」
    「躊躇うようなことは何らありませんから。」

     問いかけに一片の迷いもない即答が返って来たことで、耕次は感嘆した表情を浮かべる。隣の渉もあまり表立っては見えないが、そんな様子だ。

    「良いなぁ、祐司は。美人で性格も良くて、しかも一途な嫁さん捕まえられてさぁ。」
    「捕まえたって・・・。」
    「祐司と晶子さんが出逢った状況からしても運ってもんはそれなりにあるんだろうが、双方が相手に高望みしないのも大きいんだろうな。あれもこれもって相手に要求してばかりで自分は何もしないとなると、大抵は破綻の結末に結びつくもんだからな。」
    「それは言えてる。」

    雨上がりの午後 第1921回

    written by Moonstone

    「町の伝統行事だし子どもの祭りだから、本来なら観光客は参加出来ない筈なんだけどな。小学生くらいならまだしも、見た目明らかに子どもじゃない祐司と晶子さんがねぇ・・・。」

    2005/6/22

    [腫れ悪化(泣)]
     私の本業は頭脳労働が主ですが、元々「何でもあり」的な職務ですので時に力仕事をします。10kg程度のケーブルを運んだりするのはざらです。まだ液晶CRTが高価で19インチや21インチのブラウン管が主流だった時代には、それらを別室に運んだりしたものです。
     昨日は言うことを聞かなくなった作業用PCを再インストール(もう4回目か(怒))しつつ回路基板を作った後、作業机に手狭さを感じて相談。100cm×50cmくらいの作業机なのですが、その一角には作業用PCのCRT(ブラウン管17インチ)が鎮座し、オシロスコープ(電圧波形を観測する測定機器)もあります。そして製作中&動作試験中の回路基板と半田ごてなどの作業工具があるのですが、ロジックアナライザ(CPUやマイコンなど、電圧が高いか低いかだけの回路の状態を一斉に複数箇所測定する機器)を乗せる必要が生じたのです。
     相談の結果、「これで試してみて」と使っていない鉄枠の組み棚を貰って試しに作業机に載せて配置を検討したらOKでした。此処までは良いのですが、棚の段差を調節する必要がありまして。途中で棚が落ちたら洒落にならないのでこういうものは力仕事になります。・・・勘の良い方ならもうお分かりでしょう。棚の調整と引き換えに工具を持った関係で右手薬指の腫れが悪化しました(泣)。まだ「指で円を書く程度」しかものを掴めない状態で、左手だと作業がしにくいということで(ボルトが硬いのもある)本能的に右手を使ってしまったからです。帰宅は遅くなるわ眠いわで(2時間ばかり気絶)更新時刻がずれ込みました。・・・何だかなぁ。
     昨日出会って今日の午後から雪合戦に混ぜてもらう子ども達が話していた内容が裏付けられた。町全体で集客に乗り出して環境や設備を整えた。結果客は増えたが、年齢層の分断や周囲とはかけ離れた雰囲気を醸し出す一角が生じることになってしまったわけか。
     子ども達は情勢の変化を感じ取っているか、親や学校から注意されているんだろう。外見と中身が全然違う居酒屋が林立するあの一角には夜行くな、と。或いは温泉宿や土産物屋が多い関係で、親の商売を垣間見ることで客層の変化を知ったか・・・。客が来ないとやっていけないという特質を持つが故に急速に変貌した町。客相手のバイトをしていて、実家も自営業という俺には他人事とは思えない。

    「そういうわけか・・・。」
    「客を呼び込むためとは言え、不況と車社会に対応した結果そうなってしまったわけだ。こういう話は昔からの観光地には多かれ少なかれある。外に合わせるか伝統を守るか。一概にどちらが良いとは言えない性質のものではあるが、歪みがあるのは否定出来ないな。」

     耕次が締めくくる。世代間の断絶や二極化といった話は、観光地に限ったことじゃない。勝平が外見からは想像出来ない手続きをするのに驚いたが、改めてこういう話を聞くと、必然的に生じたものと言えるかもしれない。

    「結構珍しがられるんじゃないか?祐司。若いお前が晶子さんと2人で、昼間スキーじゃなくて町の観光をしてたのは。」
    「昨日見て回った限りでは物珍しそうに見られることはなかった。雪だるま作ってた子ども達には珍しがられて、今日、この町の厄除け行事でもある雪合戦に入れてもらうことになった。」
    「へえ。『厄除け白玉の会』に飛び入り参加か。」
    「知ってるのか?勝平。」
    「昨日渡したプリントには載ってないが、この町には春夏秋冬にそれぞれ祭りがあるんだ。『厄除け白玉の会』は冬の祭り。子どもが二手に分かれて雪合戦する、って要約すればそれだけだが。」

     一角は変貌したとは言え、昔からの観光地だけのことはあるな。二手に分かれるってことは、やっぱり子ども達の中でどう見ても背が高いのが2人揃って片方に居るのはずるい、ということで別々になるんだろうか。昨日晶子も言ってたが、そうなると考えた方が自然か。

    雨上がりの午後 第1920回

    written by Moonstone

    「補足すると、勝平がインターネットでこの宿を手配したが、それもこの町全体の取り組みだ。従来どおり旅行会社を通じて手配する方法と共に、携帯やPCが玩具代わりの若年層が手軽に宿を取れるようにシステムを整備した。だから、スキーと遊び目的の若年層と観光と温泉目的の年配層、って二極化される傾向が生じた、ってわけだ。」

    2005/6/21

    [大混乱中]
     本業で開発環境(ソフトウェアは勿論、ドライバとかハードウェア寄りのものも含む)の更新をしているのですが、作業用PCの方で何度インストーラを実行しても「申し訳ありませんが・・・」と謝りつつ強制終了して失敗、という異常事態に見舞われています。とりあえず前のバージョンに戻しましたが、片方で回路基板(専用の拡大鏡を使わないと部品を実装出来ない)を作っているので、更新くらいインストーラを起動したら全部自動で進めてもらいたいものです。
     作業用PCはLANに接続していないので、別のPCでインストーラをダウンロード→ウィルスチェック→CD-RWに焼いて持っていく、という作業をしているのですが、300MB以上あるのでCD-RWでは必要な分だけ入らない・・・。DVDも焼けるんですがメディアがなければお手上げです。
     最近(とは言っても此処2、3年ですが)何処のメーカーも開発環境のダウンロードはインターネットに常時接続していることを前提にしているので、私の作業用PCのように孤立しているとこういう時にかなり厄介です。LANにぶら下げるには申請をしないといけませんし(当然ですが)、LAN経由なら必ず更新が成功するとも限らないわけで・・・。どうしてくれようか、と頭を悩ませています。ちなみに右手薬指の腫れは全然ひきません(汗)。
     こういうところで理路整然と解説されても困る。・・・耕次もどうやら期待していたようだ。壁に耳を当てて隣室の物音が聞こえるものなのかどうかは知らないが、俺と晶子の部屋を3つ並んだ部屋の真ん中にしたのは、確信犯的行動と見て間違いなさそうだ。

    「・・・で?実際壁に耳でも当ててたのか?」
    「宏一が興味津々って様子だったのは間違いない。」
    「そういう耕次も、結構期待してたじゃないかよー。」
    「展開に興味があったのは認める。」
    「同じく。」

     程度の差はあれ、面子が全員壁を挟んだ向こう側で成り行きを窺っていたか・・・。晶子の事情があったのもあって何事もなく寝たから良かったようなものの、店のクリスマスコンサートの時と今が符合していたら・・・と想像するだけでも怖い。
     お茶とお絞りが運ばれて来る。一口啜って軽く喉を潤す。改めて見ると、面子の食事の進み具合は終盤に差し掛かったというあたり。多分ピークの真っ只中かそれを超えて間もないあたりに来たんだろう。

    「客の年齢層が、二極化してるな。見た限りだけど。」
    「そりゃそうだ。この町がそうなるようにしたんだから。否、してしまったと言うべきか。」

     俺の独り言のような呟きに、宿を手配した隣の勝平が意味深な言い方で答える。

    「この町は元々温泉宿が集まった伝統的な観光地だった。でも、温泉だけじゃ客層は限られて来るし、一度来た客も余程好きか何かでないとそう何度も来ない。祭りは時期が限定されるし、祐司は昨日晶子さんと町を観光したから何となく分かったと思うが、祭りを見に来たとしても車を置く場所が手身近なところにない。公共交通機関では遅れや欠航とかはあっても渋滞はないと言えるが、自由度が小さい。今はちょっとしたところへ出かけるにしても車を使う時代だ。電車とバスを乗り継いでまで来るには、年配層はまだしも若い連中には敬遠される。で、若者を呼び寄せるために、何年前だかまではちょっと憶えてないが、町が山を切り開いてスキー場を作って、若者向けの歓楽街を整備した。こんな流れだ。」

    雨上がりの午後 第1919回

    written by Moonstone

    「・・・何を期待してるんだよ。」
    「結婚指輪を填めてる2人、2人きりの部屋、都会の喧騒から隔絶された温泉宿。これら絶好の要素が揃った以上、期待が高まるのは必至ってもんだ。」
    「あのな。」

    2005/6/20

    [うーん、まだ無理]
     どうにか体調はそこそこ持ち直しましたが、今日付で出して更に次、とまで出来るには至りません。書き下ろし作品もそれこそ「下ろしたて」で出している現状ですので、態勢立て直しを優先することにしました。土日を楽しみにされていた方、御免なさい。
     右手薬指はまだしぶとく腫れが残っていますが、指で円を書く程度の直径の軽いものならどうにか持てて、キーボードを使う分には支障なくなりました(今までキータイプでさえ痛んだので避けてた)。重いものをぶら下げるといった握力が必要なことはまだ不可能です(握り拳は作れません)。作品制作が利き手でもある右手のリハビリを兼ねてる、ってあたりが悲しいところ。
     折角このお話を聞いてくださった御礼と言うには拙いですが、現在建設中の科学文化研究所のスクリーンショットをお見せします(このウィンドウで開きます。170kBくらいあるので重いです)。・・・大体のレイアウトを決めてから半年以上手付かずです(大汗)。
     食堂は比較的空いている。ピークは過ぎたようだ。席を探そうと辺りを見回すと、中ほどの位置に耕次達が座っているのが見える。偶々顔を上げた−味噌汁を飲んで椀(わん)を置いたところだ−耕次と目が合い、耕次が手を振ってから自分達の席を指差す。此処に来い、という合図だ。
     靴を脱いで下駄箱に仕舞い−木で作られたコインロッカーのようになっているから間違うことはない−、耕次達の席に向かう。面子の服装は、耕次と宏一以外はスキー用品をレンタルで調達していることもあって、セーターにズボン、という一般的な冬服だ。

    「おはよう。」
    「おはようございます。」
    「あ、おはようございます。」

     耕次が恐縮した様子で返礼したのに続いて、面子が慌てた様子で食べるのを中断して会釈する。明らかにそれは晶子に向けられたものだ。そんなにある意味強烈に映るんだろうか?昨夜部屋に来た辺りから言葉遣いも変わってたし・・・。

    「ま、立ちっ放しってのも何だから、座れよ。」
    「ああ。」

     俺と晶子は、俺が勝平の左隣でその左隣に晶子という形で座る。面子が座っていた席は8人用だから鮨詰めとはならない。向かいの耕次と渉の席は2人分空いているが、俺と晶子が向かい合って座らないことに異議が上がらないのは、並んで座って当然、と考えているからだろうか。

    「意外に早かったな。飯が終わったら一応様子を見に行こうと思ってたんだが。」
    「期待に反して寝ちまうなよなぁ。」

     耕次に続く宏一の言葉で、少なくとも宏一はまさに「壁に耳あり」状態で居たことが分かる。予想していたとは言え油断ならないな・・・。

    雨上がりの午後 第1918回

    written by Moonstone

     階段を下りて1階に着く。食堂に通じる廊下はこれまた人が多い。一体昨夜の静けさは何だったのか、何処にこれだけの客が「収納」されていたのか、と考えてしまう。客の年齢層が二極化出来ること−顔つきや服装とかで推測した限りだが−は変わらないが、視線の集中はさほどない。さっきが異様だったのもあるんだろうが、少しほっとしつつ食堂へ向かう。

    2005/6/19

    [現在、製作&充電中・・・]
     どん底状態だった体調はそこそこ持ち直しましたが、その分こちらを手がけるのが遅れました。もう、こういうのは発作の一種だと思って通り過ぎるのを待つしかないんでしょうか。チャーチルは確か「黒い豹が通り過ぎるのを待つ」とか表現してましたが、私の場合は「白い濡れ衣が消えるのを待つ」ですね。
     現在手がけている作品は書き下ろしばかりですので、来週あたりに纏めてどかっと公開するつもりです。余裕があれば明日付以降に短編を散発的に出すかもしれませんが、それは体調と相談して(体調に従うしかない)決めます。
     自宅は現在(6/19 2:00頃)室温31度、湿度70%。幸い私は暑さには耐性があるので、冷房なしで居られます(むしろ冷房に弱い)。問題なのは室内で洗濯物が乾かないことですかね。そりゃあ、湿ったものを湿った環境下で乾かそうなんてこと自体が間違ってると言えばそうなんですが、今日は雨とか聞いたもので・・・。
     晶子は俺に服を差し出す。俺の分の着替えも準備しておいてくれたのか。こういう気遣いが嬉しかったりする。中には着替えしか入ってないから、開けられて−見られてと言うべきか−で困ることはない。

    「ありがとう。」
    「着替えたら、朝ご飯食べに行きましょうね。」
    「ああ。」

     俺は掛け布団を四つ折りに畳んで足元に寄せて、浴衣を脱いで服を着る。・・・ちなみに昨夜はしてない。面子に音や声を聞かれると拙い、というのもあるが、晶子の女特有の事情が割と近いこともある。まかり間違っても妊娠は避けないといけない。
     着替えは程なく完了する。俺が服を着ている間に、晶子が脱いだ浴衣を畳んでくれた。最初に部屋に入った時に眼にした状態と変わらない。晶子から携帯とこの部屋の鍵を受け取って準備完了。

    「それじゃ、行こうか。」
    「はい。」

     俺と晶子は連れ立って部屋を出る。廊下は昨夜とは違って結構賑わっている。若いのと年配とで大体二極化されているのは変わらない。・・・何となく、俺と晶子に視線が集中しているような気が・・・。否、気のせいじゃない。好奇か訝っているかの違いはあるが。
     俺は晶子の手を取って階段へ向かう。ちょっといきなりだったから晶子が最初つんのめったが、直ぐ俺の隣に来る。別に疚(やま)しい付き合いじゃない。見るのも想像するのも勝手だが、妙な口出しや手出しはさせない。こういう時動揺してたら余計変に思われるだろうし、この手の視線は気分の良いもんじゃない。

    雨上がりの午後 第1917回

    written by Moonstone

    「8時過ぎか・・・。ちょっと寝過ごしたな。」
    「祐司さん、お酒が入るとぐっすり寝ちゃいますから、無理ないですよ。それより・・・これ、どうぞ。」

    2005/6/18

    [此処で業務連絡]
     メールのお返事が現在猛烈に滞っていますが、いただいたメールはきちんと拝読しております(迷惑メールは除く)。体調が良くなり次第順次お返事していきますので(しつこいですが、迷惑メールは除く)、暫くお待ちくださいませ。
     体調が最悪の上に新作は準備中ですので、今日は大人しく寝ます。あー、もう、どうにかならないかな・・・。
     晶子は身を沈めて俺に覆い被さる。俺は晶子を抱き締める。掛け布団とは重みも感触も全く違う柔らかさを持つ、愛しいものを。抱き心地の良さに浸って目を閉じる。呼吸が鎮まっていくのが自分でも分かる。こういうのを幸せに浸る、って言うんだろうな・・・。

    Fade out...

     闇の中から自分が浮き上がって行く。徐に目を開けると、カーテン越しに滲み込んだ光が朝の到来を告げている。・・・あれ?晶子は?身体を起こすと、布団の延長線上、足側に置いてある−昨日布団を敷かれた時に移動されたんだろう−バッグの傍で、浴衣を畳んでいる晶子の横顔が見える。俺が起きたのに気付いたのか、晶子が手を止めて俺の方を向く。

    「あ、おはようございます。起こしちゃいましたか?」
    「否、自然に目が覚めたんだよ。・・・おはよう。今何時?」
    「えっと・・・。8時過ぎですね。」

     携帯を見て晶子が答える。折り畳み式の携帯には、電波の状態やバッテリーの残量などの他、ディジタル時計が表示されている。今までは腕時計を使っていたが、携帯を持つようになって時間の確認も携帯にシフトしている。

    雨上がりの午後 第1916回

    written by Moonstone

     納得したのか、晶子は微笑む。男から見て女、女から見て男はこの世に俺からすれば晶子だけ、晶子からすれば俺だけじゃない。無意識のうちに比較してしまうことだってある。でも、それで心変わりしないならそれで良い。俺はそう思う。

    2005/6/17

    [絶不調中]
     今頃になって出て来たんでしょうか。精神的にかなり低下しています。何をするにしてもする気が起こらないので、果報は寝て待て、とばかりにぐったりしています。右手薬指の腫れと痛みは全然変わりません。今日を乗り切って週末に備えます。。
     流石に大学の生協の店舗には置いてないが、自宅近くの本屋には入り口程近いところにグラビアアイドルの−アイドルとは言えないのも中にはあるが−写真集が陳列されている。今はあまり行かないし、そういうのを手に取って見たことはないが、表紙を見てつい晶子と比較してしまうことがある。
     「男と女とでは恋愛の基盤が違う」と、何処かで見たことがある。男はより多くの子孫を残すために、女はより優秀な子孫を残すために相手を見定めるから、男は所謂グラマーな女を求めて、女は社会的地位や裕福な男を求める、と言う。
     俺は黒一色の中に現れた晶子という存在に、その時々の態度や接し方は別として、無意識のうちに集中していたから、他の女に目移りすることはなかった。専門講義の比重が高くなり、文系エリアに行くことが減って尚更、晶子への「一極集中」が強まったように思う。今日の飲み会にしても相手を見て、結構美人だな、とは思った。それも無意識のうちに晶子と比較して生じた推論かもしれない。

    「そういう晶子は、俺以外の男を見て・・・俺と比較したりしてるか?」
    「・・・自分ではしていないつもりでも、何時の間にかしているかもしれません。この男性(ひと)は祐司さんより背が高いな、とか。」
    「・・・。」
    「でもそれで、祐司さんへの気持ちが揺らいだとか、そういうことはないです。」
    「それは俺も同じだよ。」

    雨上がりの午後 第1915回

    written by Moonstone

    「・・・まったく見たくない、って言えば嘘になる。」
    「・・・。」
    「だけど、今は晶子で十分満足してる。晶子以外の女を見ようとは思わない。」

    2005/6/16

    [半ば無理矢理リハビリ開始]
     昨日付の日記どおり外科へ行きました。後日骨折が判明することもあるということでレントゲン撮影。結果はやっぱり骨折はなく、固定し続けていると動かなくなるので徐々に動かして慣らしていきましょう、ということに。久しぶりに湿布と包帯から解放されてすっきりはしましたが、あまり嬉しくありません。
     湿布と包帯で包んでいた時にはあまり分からなかったのですが、改めて見ると、まだしぶとく腫れが残っています。負傷から3週間経ったのに、患部の右手薬指の下側(掌に近い方)が明らかに膨れているって・・・。箸やマウスは右側に戻しましたが、まだ力を入れられません。握り拳を作れない(要するに曲げきれない)上に何かの拍子に痛むので、添える程度です。
     箸が右手で使えるようになっただけまだましと思っていますが、痛みが気になってなかなか物事に取り組めません(これだけが原因じゃないですが)。何時になったら治るんだ、と頭を悩ませる今日この頃です。

    「こういう機会ってなかなかないですから、楽しみです。」
    「まさか、こんな形で雪合戦が出来ることになるとは思わなかったけど、こういうハプニングは良いよな。」
    「厄除けの意味もある、って言ってましたから、この町では子ども達にとって遊びであると同時にお祭りでもあるんですよ。そういう行事に飛び入りで参加させてもらえるなんて、そうそうないことですよ。」
    「今日話した分では気の良い子達だったから、楽しめそうだな。」

     俺は晶子の頬に右手を添える。晶子は愛しげな微笑を浮かべて頬擦りをする。

    「皆さん、壁に耳を当てたりしてるんでしょうか。」
    「だろうな。宏一が最後に言いかけたし、誰しも少なからず興味はあると思う。俺と晶子の部屋が真ん中なのも、多分面子の策略だよ。悪戯好きが揃ってるから。」
    「そういうのを聞いて、面白いんでしょうか。私はいまいち理解出来ないんですけど。」
    「面白いって言うか・・・興味が沸くんだよ。男と女の性欲の方向性の違いかもしれない。」
    「祐司さんは、他の女の人の裸やセックスを見たいと思いますか?」

     いきなりのストレートな質問に、俺は答えあぐむ。改めて思い起こしてみると、宮城と付き合っていた頃は宮城のことしか頭になかった。その宮城から何となく前兆は感じていたとは言え突然の最後通牒を突きつけられた後遺症は長く続いて、その直後出逢った晶子にも何ら関心は持てなかった。
     やがて気持ちが固まって付き合い始めてからも、無意識のうちにかなり進展を警戒していたように思う。去年の俺の誕生日に始めて晶子を抱いたが、その時もかなり戸惑ったし迷った。宮城との付き合いで、男がセックスにある種ロマンチックなものを抱いていても、女は必ずしもそうとは限らない、「好き」という気持ちがなくなれば過去の「経験」の有無を問わず自ら手を引くものだと思い知らされたから、そうなることを恐れた。
     それから何度か晶子を抱いたが、週何回とか定期的なものじゃない。その間どうしているかと言えば、多忙にかまけて都合良く忘れていることもあるし、晶子を抱いた時のことを思い描いて処理したりしている。

    雨上がりの午後 第1914回

    written by Moonstone

    「明日は、地元の子ども達と雪合戦ですね。」

     隣の布団が動いて、晶子が俺の布団に入って来る。俺は身体半分ほど横にずらして受け入れる。晶子が俺に乗りかかって見詰める。長い髪が背中や肩から溢れて、先の方が俺に乗っている。

    2005/6/15

    [3度目の外科行き決定]
     「骨には異常はありません」と言われて早2週間。腫れは確かになくなってはいますが、未だに右手薬指の痛みは消えません。手を振るだけで(手を洗った時についやってしまう)痛みますし、利き手が満足に使えないと本業は勿論日常生活でも支障を来しますから。本業は現在連日PCとの格闘ですから、日常生活よりまだましかもしれません。
     最も厄介なのが箸を使えないこと。今は左手で使っていますが、魚の皮や骨を選り分けるといった細かい作業は出来ません。自宅では止むに止まれず右手(厳密には親指と人差し指と中指のみ)を動員しています。
     突き指にしてはあまりにも度が過ぎるので、今日もう一度外科へ行きます。腱が断裂しているとか大怪我じゃなければ良いんですけど・・・。「市民病院で精密検査を受けてください」と言われたら、これまでのジンクスを踏襲することになりそうで怖い・・・。

    「長居したな。朝飯は7時から9時までだし、俺達とは別行動だから、ゆっくりでも良いぞ。」
    「チェックアウトは何時だ?」
    「確か10時だ。」

     俺の問いに、宿を手配した勝平が答える。大抵の宿は昼食がないし、チェックアウトの時間より長く居ると仲居さんに迷惑がかかるから、最低限その時間は守らないといけない。

    「分かった。」
    「じゃあ、また明日。」
    「お休み。」
    「お休みなさい。」

     俺と晶子が見送る中、面子は二手に分かれて部屋に入る。俺はドアを閉めて鍵をかけ、念のためにドアチェーンをかけて部屋に戻る。一時の賑やかさが過ぎた部屋には、当然だが俺と晶子しか居ない。
     年季が入った部屋の柱時計を見ると午後11時過ぎ。普段の生活からすれば早い時間だが、バイトが休みの時期はこのくらいの時間に寝る。昨日もそうだった。此処での生活では、普段の多忙さとは勿論ギターとも隔絶される。静かな時間だけが緩やかに流れていく。

    「寝ようか。」
    「はい。」

     俺は部屋を照らす電灯の紐を引っ張って消す。一転して暗闇に包まれた部屋は、静けさをより演出する。俺と晶子は、並べられた布団に入る。ちょっと薄めの布団だが、部屋は暖房が効いているからこれくらいで良い。

    雨上がりの午後 第1913回

    written by Moonstone

    「これにて終了。良い話を聞かせてもらった。」

     耕次が終了を宣言して立ち上がると、面子が続いて席を立ってドアへ向かう。俺と晶子も立って面子を見送る。

    2005/6/14

    [蒸し暑さと包帯]
     先週の水曜に痛みが一向に治まらない右手薬指の診察を受けて、その際手首を巻き込む形でしっかり固定することになったのですが、よりによって急に蒸し暑くなりました。私が住んでいる地方ではまだ入梅宣言は聞いていないのですが(単に知らないだけかもしれない)、空模様がいまいちはっきりしないので、そういう季節になったんでしょう。
     患部(というか指全体)を固定する包帯は、動かさないようにということで二重に巻かれています。自宅は室温30度、湿度60%くらいなので言うまでもなく蒸し暑いです。ですが私には幸い暑さに耐性があるので(寒さはからっきし駄目)、この程度なら我慢するレベルではありません。
     包帯を巻くのは何年ぶりか憶えがないのですが、指の太さが倍になるくらい巻きつけていても、指が暑苦しいとか思うことはありません。それより、まだ痛むのが問題です。手を洗って水気を切るために振ることも出来ないので、また外科へ直行でしょうか・・・。

    「双方やましいと思うこともなく、順調に付き合っているってことか。去年祐司が帰省したのが俺達との約束を守るためで、その間に電話をしたいって理由があったとは言え、祐司が親にもきちんと話してあるのは良いことだな。後ろめたいと思ってると相手の前でも態度や言葉の端々に出たりするもんだから。」
    「指輪も携帯もこの目で見たことだし、俺達がすることと言えば、2人が入籍して一緒に暮らすのを待つくらいか。」
    「そうだな。」
    「否!肝心なことを聞いてないぜ。」

     耕次、勝平、渉の順でこの尋問が終結の様相を呈したところで、いきなり宏一が異議を唱える。

    「何だ?宏一。肝心なことって。」
    「週何回・・・」

     宏一の質問は言い終わる前に耕次に遮断される。後頭部を力いっぱいひっぱたく形で。

    「痛いぜ・・・。」
    「馬鹿か、お前は。それは今回の尋問の性質にそぐわない。祐司単独ならまだしも、レディが居ることを忘れるな。」
    「へーい。了解ー。」

     そうは言うものの、宏一は不承不承という様子だ。まあ、気持は分からなくもない。俺自身、大学で晶子と撮った写真のお披露目となった時、その手の質問を結構受けたからな。しかし、宏一を捻じ伏せた耕次の言葉もちょっと気になる。祐司単独なら、ってことは後で俺を何処かに呼び寄せて聞き出す腹積もりなんだろうか。・・・深読みしすぎか?

    雨上がりの午後 第1912回

    written by Moonstone

     やっぱり晶子は余程のことがない限りは実家に帰るつもりはないようだ。俺があれこれ言う性質のものじゃないが、前に実家からの電話で激怒して電話を叩ききったことを思うと、ちょっと気になる。

    2005/6/13

    [一日お休みしました]
     どうして昨日付更新がなかったのか、と疑問に思われた方も居られるかもしれません。私自身、6/11付更新をした時点では明日の準備(此処のファイルを1日分過去ログに格納したりすること)をしてありました。ですが、その直後「伯母が急逝した」という電話がかかって来まして、慌てて6/12をシャットダウンとして、急遽帰省して通夜と葬儀に出席してきました。このお話はそれらを終えて自宅に戻ってからしています。
     病気などで入院していたなら、変な表現ですがまだ受け入れる余裕が前もってある程度は出来るのですが、伯母に関してはこれまで入院の話は聞いたこともなく、私の最新の記憶でも元気そのものの姿です。そういうこともあってか、一連の儀式に出席し終えた今でも、いまいち実感が掴みきれません。「まさか」という気持ち、と言えば良いのでしょうか。
     道端でそれこそちょっとしたことが傷害、殺人事件にまで発展するほど今の世の中は病んでいます。PTSDといった心の病が認知され始めたのもその一環でしょう。ですが、それが理由となって、ある日いきなり身内や友人が死んだ、という事実を誰かに突きつけることになり、それで心の病が発症若しくは「伝染」する・・・。せめてそういった悪循環くらいは断てるようにすべきでしょう。
    「去年帰省したのは皆との約束を守るためで、実家に帰ったのはそのついでだったからな。」
    「晶子さんは一緒に行きたかったんじゃないですか?」
    「祐司さんと、お父様とお母様のやり取りは少しですけど聞こえたので、歓迎されると分かっていたら連れて行ってもらえば良かった、とは思います。でも、先のことなんて分かりませんし、祐司さんのご両親も、帰省した子どもがいきなり見ず知らずの女性を連れて来たら凄くびっくりされたでしょうし、祐司さんが説明したり、ご両親が話を飲み込まれるのが大変でしたでしょうから。」
    「俺達は高校時代にバンド組んでたこともあって相手の家や親の顔は大体知ってるんですけど、祐司の親はかなり厳しいんですよ。祐司が事前に説明してあったとは言っても電話が初対面で好印象を持たれた、ってのは相当なもんだと思いますね。」

     俺の両親は勉強とかにはあまり口喧しくないが、挨拶とかそういうことに関してはそこまで必要ないだろう、と思うほどやたらと厳しい。耕次達を最初に家に呼んだ時、宏一が「はじめまして」の挨拶を怠ったことで、俺は後でこっぴどく怒られたし、宏一が俺の両親の信頼というかそういうものを得るまでにかなりの時間を要した。宮城が母さんに快く思われてなかったのも同じような流れだ。
     その点で言えば、晶子は合格点どころか満点だ。父さんも母さんも、俺が晶子と付き合っていると話した時は幾分訝っていたが、晶子との電話の後で評価が急上昇した。特に母さんがこの年末年始に帰省を迫ったのは、俺の進路を話し合うことは勿論だが、一度晶子と会いたい、という気持ちもあるようだ。電話口で今でも晶子と付き合ってることを確認することも何度かあったし、一度連れて来なさい、と直球を投げつけられたこともある。

    「対する晶子さんは、祐司と付き合ってるってことを親に言ってあるんですか?」
    「はい。伝えています。」
    「祐司みたいに、連れて来いとか言われたことはありますか?」
    「言われてことはあります。今のところ実家に戻るつもりはありませんから、それを理由に断っています。」

    雨上がりの午後 第1911回

    written by Moonstone

    「それの鸚鵡(おうむ)返しになるが、晶子さんを連れて行けば良かったんじゃないか?」

    2005/6/11

    [やれやれ・・・]
     うーん・・・。このお話をしている時点(10日23:00頃)で、サーバーからの応答が返って来なくなってます。作品揃えてさあ更新、というところで出鼻を挫かれたのがちょっと嫌ですが、症状からして多分前の時と同じ減少だと思うので、暫く待ってから更新します。これをご覧いただいている頃には通常どおりの環境に戻っています(当たり前か)。
     この前の週末は、精神的な不調に加えて右手薬指の治療延長が重なって猛烈に沈んでいましたが、どうにか今日の更新にこぎつけることが出来ました。俄かサウスポーの日々はなかなか大変ですが、右手が完全に動かせるようになるまでは我慢するしかありません。
     関東地方とかが入梅したそうで。私が住んでいるところもかなり蒸し暑くい(室温30度、湿度65%)ですが、寒いよりかはずっとましです(私は寒さに弱い変温動物ですので)。今年も猛暑になるという話ですが、それでクーラー使用量の増加→電力消費増大→地球温暖化進行、と考えると、クーラーの使用は手控えるべきでしょう。暑さでばててしまう方はそうも言っていられないでしょうし、暑さで集中出来ない、となるよりかはましかもしれません。このあたり難しいところです。
    「晶子さんもですか?」
    「はい。私もアドレス帳に登録してあるのは祐司さんの番号とバイト関係だけですし、取り違えても祐司さんの自宅の電話も携帯も番号を憶えてますから、支障はありません。」
    「完全に2人のコミュニケーションツールになってるな。まあ、携帯の使用方式に義務規定なんてないし、迷惑にならない限りどう使おうが自由だから、それはそれで良いか。」
    「購入目的が2人の連絡手段なんだから、利用対象限定なのはむしろ良いことなんじゃないか?」
    「それは言えてる。」

     渉の言葉に耕次は納得したような様子だ。このやり取りで、晶子がアドレス帳に俺とバイト関係以外は登録していないことが分かった。晶子は嘘を吐くような奴じゃないし、改めて俺とのコミュニケーションの道具として使っていることが分かってほっとする。

    「どちらかの実家に相手を連れて行ったことはあるのか?」

     耕次はいきなり深く突っ込んだ質問を投げかけて来た。食べ物か飲み物を口にしていたら、間違いなく噴出していたところだ。

    「いや・・・、まだない。1年の年越しは俺の自宅だったし、去年は俺が帰省したけど、その時晶子は連れて行かなかったからな。で、今年はこうして此処に居る、と。」
    「親には言ってあるのか?晶子さんのこと。」
    「帰省した時に話した。晶子から毎日決まった時間に電話がかかって来ることになってたから、予め話しておかないと、妙な勧誘電話とか怪しまれたりする可能性があるし、後ろめたい付き合いじゃないからな。」
    「じゃあ、祐司の親は知ってるわけか。印象とかは?」
    「好感度は凄く高い。晶子からの電話は殆ど親が取り次いだんだけど、父さんは今度は連れて来い、って言ってたし、母さんも連れて来れば良かったのに、とか言ってた。」

    雨上がりの午後 第1910回

    written by Moonstone

    「ストラップもお揃いか。これだとシャッフルしたらどっちが誰のものか分からなくなるな。」
    「そうなっても別に困ることはないと思う。アドレス帳には晶子関係とバイト関係と、念のため実家の番号を登録してあるだけだし。あ、今日のやり取りで渉の分が増えたけど。」

    2005/6/10

    [御免なさい。また遅刻]
     俄かサウスポー生活2日目ですが(日付では3日目)、やっぱり利き手ではない左手中心の生活はでたらめに厳しいです。マウスやキーボードはどうにかこうにかカバー出来ますが、箸を使ったり筆記用具を使ったりするのが大変です。食べるのも普通の3倍くらい時間がかかります。最初に右手で持ってイメージを頭に描いて、右手で使うのを想像しながら左手で箸を使う、という状態です。
     どうにか使えるキーボードも、使う指を1本封じられた影響は深刻で、キーボードを見ながらでないとキーを叩き損ねることがしょっちゅうです(Enterキーを押し損ねることが特に多い)。患部の右手薬指に湿布を貼って包帯で手首を巻き込むように固定しているので、空振りしてしまいます。こういう時に限って(このフレーズ最近多いな)連載のストックは底をついてるし、本業も長引くんですよね・・・。回路基板を設計したまでは良いですけど、普段職場で作る方式と工場で作るのとでは勝手が違うので、その辺の処理が不明で手探り状態です。間違ってたからもう一回、なんて出来ませんから、プレッシャーが大きい・・・。
     明日付の更新は恐らく早めに出来ると思います。信用ならん、と言われればそれまでですが(汗)。来週の水曜まで俄かサウスポー生活は続きますので、左手を使うことにもっと慣れておこうと思います。まあ、こういうのって大抵は慣れた頃に終わっちゃうんですけどね。

    「着メロとしては大人しい感じもするが、普通に聞いてても耳障りにならないから、丁度良いかもな。」
    「電話のコール音で驚きたくないしな。」
    「その点からすると、的確な選択と言えるな。晶子さんはどうです?」
    「凄く気に入ってます。この携帯の着信音がきっかけで、原曲のCDを買った娘(こ)も居るんですよ。綺麗でお洒落な着信音だ、って評判なんです。」
    「着メロとしては異色だが、十分合格点だな。次はメールの着メロを聞かせてもらおうか。」

     俺はキーを操作して、メールの着信音を鳴らす。原曲をほぼそのまま再現した「明日に架ける橋」。これもワンフレーズ流したところで再生を止める。

    「これは・・・『明日に架ける橋』か。これも着メロとしては控えめだが、雰囲気も出来栄えも合格点だな。」
    「しかし、さっきの『Fly me to the moon』もそうだし『明日に架ける橋』もそうだが、自作とは思えないほど凝ってるな。その分愛着は沸くだろうが、かなり時間がかかったんじゃないか?携帯だとキーが圧倒的に少ないし、キーボードをパラパラ弾いて後でシーケンサソフトでエディトするっていう手段が通用しないし。」
    「確かに入力は面倒だったけど、完成して晶子に気に入ってもらえたから何よりだ。携帯サイトからダウンロードすれば直ぐだけど、二人共通の連絡手段として、何か特徴が欲しかったっていうのもある。」
    「オリジナリティを追求する姿勢は十分評価に値する。大事にしろよ?」

     耕次の評価に続く勝平の質問に答え、耕次から改めて高評価を受ける。完成まで随分時間がかかったし携帯の機能故の苦労も多々あったが、こうして自慢出来るアイテムの一つになったんだから、それらも良き思い出になっている。
     最後の念押しには、もう一つの意味が篭っていると思う。見た目本当に区別かつかない携帯のもう1人の持ち主を大事にしろ、という意味。どちらにも了承したつもりで俺は首を縦に振る。

    雨上がりの午後 第1909回

    written by Moonstone

     耕次の感想に続く渉の問いに俺が答える。

    2005/6/9

    [1週間延長]
     昨日付の日記でお話したとおり整形外科に行って来ました。やはり腫れは収まっていて骨にも異常はないのでこのまま治っていくだろうが、普通なら1週間か10日で治るものがこれだけ続いているということは相当の衝撃だったのだろう、という診察。1週間経っても痛みが続くようでしたらまた来て下さい、と言われた後湿布と包帯を巻かれましたが、手首までがっしり固定されてしまいました(汗)。つまりは「治るまで動かしちゃ駄目よ♪」ってことですか。そうですか。
     ということで、箸も左手で使うことに。だって使おうにも使えませんし(泣)。筆記用具はどうにか使えますが、かなり字が乱れます。昨日もFAXで送る書類を作成していたのですが、こういう時になってややこしい説明図を描かないといけない(PCのCADを使っているとかえって時間がかかる)羽目になるのは何かの嫌がらせですか?このお話も殆ど左手一本でしています。
     結局医者に行かなかった期間を含めると、完治するまでに最低3週間。たかが指一本の打撲で何でここまで不自由を強いられなきゃならないのか、と災難続きの日々に落ち込んでいます。PCが使えるだけまだましかな・・・。
     買ってまだ3ヶ月も経ってないが、携帯の毎月の使用料は今のところずっと契約した時の基本料金で収まっている。携帯を買う頃から一緒に大学を行き来してることもあって、通話に使うことはあまりない。メールのやり取りにしても業務連絡的な、しかもテンプレートにでも出来そうな短いものが殆どだから、携帯の料金でネックになるパケット量があまりかさまないからだろう。増えたバイト代の多くは手付かずのままだったりする。

    「着メロとかはどうしてる?」
    「俺が直接入力して作った。」

     耕次の問いに答えると、面子は揃って驚いた様子で目を見開く。

    「携帯サイトとかでダウンロードしなかったのか?」
    「俺と晶子の連絡手段として買ったものだから、ってことで作ったんだ。晶子も欲しがってたし。」
    「おうおう、さり気なく惚気てくれるな。」

     ニヤッと笑った耕次に続いて、面子が冷やかしの歓声を向ける。しまった・・・。俺は着信音を自作することにした経緯そのものを話しただけのつもりだったんだが、他人には惚気に取られたらしい。こういうのがあるから自分から晶子との付き合いを積極的に話さない。自分と他人の感覚は違うと考えるのがむしろ普通だ。

    「さて、祐司自作の着メロを実際聞かせてもらうか。」

     耕次が差し出した携帯を受け取り、キーを操作して着信音再生のメニューから、まず電話の着信音を選択して再生する。俺がアレンジした「Fly me to the moon」のギターソロバージョンに全員が聞き入る。ワンフレーズ鳴らしたところで再生を止める。

    「ギターソロか。祐司らしいといえばらしいな。」
    「曲は・・・何だ?聞いたことないな。」
    「『Fly me to the moon』っていう、ジャズのスタンダードナンバーの1つだ。それをギターソロにアレンジして作った。」

    雨上がりの午後 第1908回

    written by Moonstone

     買ってまだ3ヶ月も経ってないが、携帯の毎月の使用料は今のところずっと契約した時の基本料金で収まっている。携帯を買う頃から一緒に大学を行き来してることもあって、通話に使うことはあまりない。メールのやり取りにしても業務連絡的な、しかもテンプレートにでも出来そうな短いものが殆どだから、携帯の料金でネックになるパケット量があまりかさまないからだろう。増えたバイト代の多くは手付かずのままだったりする。

    2005/6/8

    [俄かサウスポーを待つものは?]
     マウスを左に置き、大抵のものは左手で持つ・・・。箸と筆記用具は流石に右手を使いますが、力が入らない分苦労を強いられます。左利きで箸とかを右手で持つように矯正された(強制と引っ掛けられますが)方々は、相当苦労されたんでしょうね。私は左腕全体に違和感を感じています。慣れない分余計に神経を使ったり力が入ったりしているからでしょう。
     腫れはほぼなくなりましたが、まだ曲げられません。逆に湿布と包帯で固定するようになってから、指が固まって動かなくなったような気がします(汗)。本当にこのままで良いのか心配なので、今日病院に行きます。「一度市民病院で精密検査を受けてください」なんて言われたら嫌だな・・・。延々待たされるのは勿論ですけど、過去に開業医での診察で大病院行きになった時は全部入院になった、という嫌なジンクスがありますからね。
     パターンその1『「酷い咳だな」と思って診てもらったら「レントゲンで肺に影がある」→大病院で再検査→「肺炎です」→入院』。パターンその2『「何だ、この腹痛は」と思って診てもらったら「これはほぼ間違いなく虫垂炎」→大病院で再検査→「虫垂炎9割(もう1割は忘れた)。何れにせよ手術が必要です」→手術&入院』ですからね。溜息ばかりの今日この頃です。
     耕次の言葉の裏にもう一つの意味を感じる。晶子の回答を裏付けることを言った以上は最後まで責任を持て、と。俺もあの時そのつもりで言った。その前の写真披露会では自慢話になると思って適当にはぐらかしていたが、あの時は言うべきときだと思った。自分の行く末に気をとられて、自らを追い込んでまでの切実な晶子の気持ちを無にしないよう自分を叱咤するためにも。

    「話はころっと変わるが、携帯を見せてもらおうか。同じ会社のやつだろ?」
    「ああ。ちょっと待ってくれ。」

     俺は席を立って、箪笥の中に仕舞っておいたコートに入れておいた携帯を取り出す。晶子も自分のコートから携帯を取り出し、揃って元の席に戻って携帯を机の上に並べる。改めて見ると、本当にどちらが誰のものか区別が出来ないな。
     耕次が俺の携帯を手にとって広げる。待ち受け画面は子犬の写真なんだが、吹き出すこともなく、しげしげと観察する。横から犇(ひしめ)くように面子が覗き込んでいるが、こちらも笑ったりすることはない。

    「PAC910ASか。かなり最近なんだな、買ったのは。」
    「実験が無闇に遅くなって来たし、公衆電話は大学の中でも限られたところにしかないのもある。」

     ここで、携帯を買った大きな原因は話さない。もう智一の従妹でもある吉弘とは和解出来たし、そうでなくても「実はこういう事情があって・・・」という接頭語をつけて話したくない。

    「これを売ってるところって、ファミリープランで有名だよな。」
    「知ってるのか?勝平。」
    「俺の携帯もここのやつでな。買った時に隣で、婚約したっていうカップルがサービスの紹介受けてたんだ。何でも契約するには、入籍してなくても後で戸籍謄本の写しとかを提出すれば良いし、金融機関が夫婦別でも一向に構わないとか、聞いててかなり柔軟なサービスだと思った記憶がある。」
    「そのとおり。おかげで携帯の料金は随分安く上がってる。まあ、毎日何時間も電話するわけじゃないし、『今から迎えに行く』とか『今から帰る』とかいう業務連絡みたいなものはメールを使ってるのもあるだろうけど。」

    雨上がりの午後 第1907回

    written by Moonstone

    「芸能記者−記者と表現すべきかどうかは兎も角、そういう連中のように他人の色恋話を聞きたがる奴も居れば、毛嫌いする奴も居るから、普段自分から積極的に話さないのは賢明だ。後者は言うまでもないが、前者は敏感な好奇心を煽り立ててしまうだけだ。一方で必要に迫られたら言うってのは、自分の気持ちを明確に表現することでもあるし、自分の気持ちを確認することでもある。その姿勢を堅持することだな。」

    2005/6/7

    [サッカーW杯]
     見たのか?というご質問には「見るわけがない」とお答えします。そもそも何時放送していたのかすら知りません。結果だけオンラインニュースで知りました。何時だったか忘れましたが、日本がW杯出場した時は異様なムードが漂っていたのを思い出して、仮に今年出場となると、より一層酷くなる(盛り上がるとは言わない)でしょう。
     サッカーの愛好者(見るのもプレイするのも)には悪いのですが、私はサッカーは大嫌いです。観客がトラブルを起こすなんてのは珍しくありませんし(最近ですと柏)、欧州などではフーリガンと称される連中が暴動を起こすこともしょっちゅう。更に「日本を応援しなければ非国民」と言わんばかりの報道、乱舞する「日の丸」・・・。扶桑社や「新しい歴史教科書を作る会」などは、サッカーを通じて「日の丸」が当たり前のように翻るのを見て、さぞかしほくそえんでいることでしょう。
     サッカーなど、偏狭なナショナリズムや地元意識が武器の代わりに衝突する戦争に過ぎません。それはオリンピックにも言えることですが(詳細はこのウィンドウ最上段の「見解・主張書庫」の「スポーツに関する見解」をご覧ください)、スポーツがスポーツでなくなった最たる例がサッカーです。神奈川県がTVゲームを「有害図書」に指定しましたが、サッカーこそ有害として規制すべきです。
    「他人の恋愛話を聞かされることが嫌な人も居るだろうし、そうでなくてもその手の話はプライベートに属することだから、尋ねられない限り話すつもりはない。念のため言っておくけど、晶子と付き合ってるのが恥ずかしいとか後ろめたいとか、そういう気持ちは一切ない。」
    「なるほど。さっき『つい最近までは』って言ったが、どうして公言したんだ?」
    「月曜は実験なんだけど、その日晶子に、俺が生協で購読してる雑誌が発売日だから代わりに引き取ってくれ、って頼んだんだ。俺と晶子が通う新京大学は文系学部と理系学部の各エリアに生協の建物があって、誰かの代わりに品物を受け取る時は、依頼をした人が居る学部学科のエリアの生協の店舗で組合員証を提示する、っていう決まりがあるんだ。晶子は文学部で俺は工学部だから、晶子には理系学部エリアの生協に来てもらうことになるんだが、その日の朝、組合員証を貸した。」
    「「「「「・・・。」」」」」
    「その時俺は実験の真っ最中だったから居合わせなかったんだけど、晶子が生協の店舗に来たのは丁度昼休みで、生協の店舗はひと騒動になったらしいんだ。化学とか情報とかは割と女の比率が高いけど、全体から見れば少数派には違いないし、見てのとおり人目を惹くには十分だからそうなったんだろうけど。」
    「「「「「・・・。」」」」」
    「その場に俺と同じ実験グループの友人が居たからやり取りが始まって、別の奴が俺の彼女かって尋ねて、晶子が『彼女でもありますけど妻でもあります』って答えてから証拠として指輪を見せたんだ。その直後実験室に居た俺のところに確認しに殺到したから、指輪と皆に送った俺と晶子の写真を見せて−定期入れに入れてるんだけど、晶子の答えを裏付けた。こんな流れだ。」
    「自分から積極的に話すつもりはないが、言う時は言う、ってわけか。良い心構えだ。」

     耕次は小さい笑みを浮かべる。俺自身良く出来たと思える立ち居振る舞いを知って、その心意気やよし、と思ったんだろう。

    雨上がりの午後 第1906回

    written by Moonstone

    「つい最近までは表立って言ってなかった。」
    「その理由は?」

    2005/6/6

    [曲がらない]
     野球のカーブやシュートではありません。最低1週間湿布を貼って固定して極力使わないように、と言われている右手薬指のことです。言われたとおり朝晩と湿布を貼り替えているんですが、試しに曲げてみたんです。ところが他の指と同じように曲げたつもりが殆ど曲がらず、弧を描くくらいのところで痛くなったので止めました。
     見てみてもまだ腫れはあります。しかも厄介なことに、中指を動かすと薬指が連動して動いてしまうので(これは多分皆様も同じだと思います)、右手でものを掴むことはほぼ不可能。箸を使うのもままならないという有様です。使わないように、って言われてますけど使えません。事故発生から1週間、痛いのを我慢していたのは我ながら不思議です。
     診断はレントゲン撮影だけだったのでその時点で骨には異常はないと分かったのですが、こうも痛いと腱が損傷している可能性もあります。スポーツ選手で肉離れとか筋肉関係の故障で出場出来なくなる事例はよくありますが、それで復帰に時間がかかったり引退に追い込まれてしまうことさえあるのも納得出来ます。精密検査の結果入院、っていうパターンは過去に二度あるので(肺炎と虫垂炎)、今回がそうならないことを祈るばかりです。
     晶子はしっかりした考えを持っている。その考えを基盤にした将来設計と夢を伴った気持ちを受け止めた俺は、尚のことしっかりしないといけない。気持ちを重荷に感じたり、間違っても負けて押し潰されるようなことはあってはならない。それが耕次も以前言っていたとおり、晶子に対する俺の責任だ。

    「話は変わりますが、バイトではどういう仕事をしてるんですか?」
    「最初は料理を担当しているマスターの奥さんのお手伝いをしつつ接客、という状態でしたが、最近は料理を任される割合が多くなっていますね。」
    「男性客から言い寄られた経験はありますか?」
    「表立っては殆どありませんけど、祐司さんと私とで態度が違うお客さんは少し居ます。」
    「祐司にその結婚指輪を填めてもらって以来、どうですか?」
    「私と同じ指輪を填めているっていうことで、祐司さんに対する視線が鋭いものに変わったお客さんは居ます。」
    「あ、やっぱり。」

     質問した耕次が納得するまでもない。俺が晶子に指輪を填めた日の翌日、店によく来る男子中高生が接客に来た晶子の指輪を目ざとく見つけて、晶子がそいつらの正直に答えたもんだから、その直後から同じ指輪を填めている俺に対する視線が急激に殺気立ったものに変貌した。今でもそれは続いていたりするから、俺はかなりやり辛い。
     晶子に責任はないのは百も承知だし、中高生にしてみれば、目をつけていた女性と同じバイトの男が左手薬指に指輪を填めさせたんだから、こいつよくも、という気持ちはあるだろう。智一だって、俺と晶子が指輪を左手薬指に填めたと知って半ば錯乱したし。

    「じゃあ、祐司に戻るか。祐司は晶子さんに結婚指輪を填めさせたってことを、大学で言ってるのか?」

    雨上がりの午後 第1905回

    written by Moonstone

     質問した渉は小さく頭を下げる。耕次も勝平も宏一も感心しきっている様子だ。隣で聞いていた俺も思わず納得する。出来ることをして助け合って生活する。簡単なようで意外に難しくて、同時に大切なことだ。

    2005/6/5

    [本日はちょっと早めに]
     昨日見送りましたので、今日は少し早めの更新としました。公開分は次の山場に向けた「つなぎ」的部分で、盛り上がりの面では低い感は否めませんが重要なものには変わりありません。昨日の日記で「いい加減な作品を公開したくない」とお話したのは、これがまだ途中で、仕上げるには時間的余裕がなかったからです。公開してから修正や差し替えが出来るのはオンライン作品の強みではありますが、必要以上にそれを利用したくありませんので。
     さて、現在「クールビズ」なる新たな和製英語が氾濫していますが、私の職場ははるか昔からそれです。そもそもスーツにネクタイで出来るような仕事じゃありませんし。空調は人間のためというより機械のためという意味合いです。人間は暑いなら薄着になったり冷たいものを食べたりしてそれなりに凌げますが、機械はそうはいきません。例えばレーザーは人間以上にデリケートで、人間からすれば僅かな温度変化や傾きでも簡単に精度が落ちます。
     「ナノテクノロジー」とか耳にしたことがある方も居られるでしょうが、ナノ(10のマイナス9乗)まで行かなくても、電子回路でmV(ミリボルト。1ボルトの1000分の1)単位を扱うものになると、ドアを開閉したり近くで手を叩いたりするだけで信号が乱れます。当然対策を執るわけですが。湿気の多い日本でスーツにネクタイなんて方が不合理なわけで、「クールビズ」とか言う一方で国会審議で大欠伸してる与党の議員を見ると、頭から冷水被って冷やした方が良いのではないか、と思う次第です。

    「じゃあ祐司に戻すか。期間限定で晶子さんと同居してるって言ってたが、入籍に向けた下準備か?」
    「そんなところだ。」
    「食事とか洗濯とかは普段どうしてるんだ?」
    「普段は俺が自分で土日にやってる。実験の都合で夜遅い月曜は最近、夕飯作って待っててくれてる。」
    「昼飯は作ってもらってないのか?」
    「晶子だって講義とかレポートとかがあるんだ。余計な負担かけさせられない。」
    「と祐司は言ってますが、晶子さんとしてはどうですか?」
    「私も講義やレポートがありますけど、祐司さんと比べれば圧倒的に楽ですし、言ってくれれば即実行するつもりです。」

     晶子の言葉や表情に、躊躇いとか誇張とかそんなものは一切ない。それこそ例えば俺がバイトの帰りにでも「明日から弁当作ってくれないか」と頼んだら、翌日から俺は昼飯のために生協の食堂の長い列に並ばなくても良くなるんだろう。

    「俺からも質問。居酒屋で宏一が引っ掛けた女性4人組が晶子さんの将来設計を聞いて、主体性がないとかジェンダー思想そのものの発想とか色々言ってましたが、祐司の食事を作ったりすることに抵抗感はないんですか?」
    「全然ありません。それより、難しいレポートに毎日取り組んで、バイトで使う曲のデータを私の分まで作ってくれているんですから、祐司さんが苦手な食事の用意とかそういうのを私がしたいです。」
    「世間一般では夫婦の家事分担がある意味強制されつつありますが、それも踏まえて祐司との生活に臨む見解をどうぞ。」
    「共働きでも色々な生活パターンがありますし、夫婦だからといって必ずしも家事を分担する必要はないと思います。一見共働きのように見えて実は夫の収入で豪遊する女性だって居ますし、妻も一般の男性のように働いていて、子どもは実家の両親に預けているという夫婦もあります。こういう例は挙げれば切りがありませんが、何れにせよ、私と祐司さんとの生活においては私が得意な家事に比重を高めて、祐司さんが安心して働けるようにしたいと思っています。その過程なりで祐司さんが料理を覚えたりするのであれば、勿論私は教えます。相互補完して共同生活をするのが夫婦だと私は思います。」
    「非常に明快な回答、ありがとうございます。」

    雨上がりの午後 第1904回

    written by Moonstone

     質問した耕次のみならず、面子は感心しきった様子だ。しかし、耕次は晶子に対しては完全に丁寧語になってるな。とてもタメ口叩ける相手じゃないと思ったんだろうか。

    2005/6/4

    [本日は見送ります]
     最近は土曜日夜にずれこみがちですが、本来は今日付はグループの主な更新日でもあります。ですが、この前の土日は精神的にも体調もどん底でとても作品制作に手が出せず、水曜以降右手薬指が使えない影響は実のところかなり深刻で(箸も上手く使えない)、本業を進めることを最優先して過ごした結果予想以上に疲れが溜まっていたらしく(自分でもマウスを使う左の肩が凝ってるのが分かる)、金曜は帰宅後夕食を食べてから日付が変わる直前まで気絶していました(汗)。
     兎にも角にも、動ける以上は事前告知なしで更新を休むわけには行かない。だけど即席で作ったいい加減な作品を公開したくない。そんな思いで、今日付の更新を見送ることにしました。休んだ分だけ量質共に充実した内容にしてから公開しようと思います。まあ、これは今回に限ったことではありませんが。
     利き手のダメージはオンオフ共にかなり深刻です。キーボードを使うにしても、怪我をした右手薬指の使用頻度はかなり多いので、それを避けようとしてなかなか思うようにタイピング出来ません。たかが指一本、されど指一本、ですね。

    「その指輪は晶子さんの誕生日に贈った、って聞いてるが、どうしてまた指輪にしたんだ?」
    「付き合い始めて初めて迎える晶子の誕生日、ってことで何を贈ろうか、って色々考えた。服とかだとサイズ知らないし、俺のファッションセンスじゃろくなものにならないだろう、ってことでパス。バッグとかそういうものもよく知らないしな。それに、甲斐性のないこと言うけど、俺の経済状況じゃ何万もするプレゼントは贈れないし、無理に買って贈ったとしても晶子は喜ばないと思ったんだ。」
    「「「「「・・・。」」」」」
    「残る選択肢は指輪とかのアクセサリーになったんだけど、何か心に残るものを、って思ってペアリングにしたんだ。俺が填めるやつには『晶子から祐司へ』ってことで『from Masako to Yuhji』、晶子に填めてもらうやつには俺から晶子へってことで『from Yuhji to Masako』って刻印してもらった。俺もだけど晶子は利き手が右だから、包丁使ったりするのに邪魔になると思って左手中指を想定して買った。・・・こんなところ。」
    「ほう。でも、結局は結婚指輪として晶子さんの左手薬指に填めて、自分も填めた、というわけか。」
    「ああ。」
    「じゃあ指輪を贈られた晶子さんに伺います。指輪をプレゼントされるってことは知ってましたか?そういう予兆とかも含めて。」
    「いえ、全然知りませんでした。私の誕生日の前に、祐司さんが連日何か真剣に考え事をしてるな、とは思ってましたけど。」
    「指輪だと分かってから、左手薬指に填めてもらおう、って思ったわけですか。」
    「はい。」
    「指輪の値段とかは知ってますか?」
    「いえ、全然。聞くつもりもありませんし、聞くべき性質のものでもないとも思いますから。手入れの方法だけは指輪と併せて教えてもらいました。」
    「良いこと言いますねー。」

    雨上がりの午後 第1903回

    written by Moonstone

     それぞれの評価が終わり、指輪が返される。俺と晶子は元の位置、言うまでもなく左手薬指に戻す。居酒屋での女4人組と違って宝石がどうこう言わずに好評だったのは嬉しい。

    2005/6/3

    [対掌体のギャップ]
     右手と左手は向き合わせると左右対称になります。鏡に右手を映すと「右手から見た左手」になります(所謂「手相」とかは別)。そういうことから、有機化合物で分子の立体構造が右手と左手の関係を持つものを対掌体(たいしょうたい)と言います(別名「光学異性体」)。以上、キャプションの説明でした。この辺の話は追って建設中の科学文化研究所で紹介します。
     右手と左手はそういう似通った関係なのに、どうしてこうも違うのか、と思うこと頻りです。整形外科に行った水曜の夜からマウスを左側に置いて左手で操作したりしているのですが、蛇口が右側にあったり、コンロの取っ手は右手でないと回し難かったり、自動販売機の金銭投入口は右側にあったり、と兎に角不自由だらけです。マウスで右方向に操作したり、手を振ったりと、薬指に少しでも荷重がかかると痛むので、それを避けようとすると左手中心の生活にせざるを得ないんですが、世の中右手中心に作られているんだな、としみじみ。
     湿布の交換と包帯を巻くのは何とか出来ますが、やっぱりやり難いです。こんな時に限って(例によって例のごとく、とも言う)連載のストックはないし、職場の作業用PC復旧に多大な時間を食らうし(Windowsのアホー!)、説明用の資料をいっぱい書いたり、マイクロメートル(ミリメートルの1/1000)単位の回路基板を設計したり・・・。どういうこと?(泣)

    「−出逢った日はこんなところ。」
    「・・・それが晶子さんとの出逢いなのか?」
    「嘘は言ってないぞ。」
    「念のため聞きますけど、晶子さん、本当?」
    「はい。祐司さんが言ったとおりです。」
    「普通なら、それっきりで終わっても不思議じゃないな。」
    「まったくだ。」
    「同感。」
    「レディに対する接し方がなってないぞ?祐司。」

     まあ、そう言われても無理はない。智一にも言われたっけ。あれだけの美人を袖にするとは勿体無い、って。今思うと、本当にあの頃は心がささくれ立っていたと思う。だからと言って、あんな突き飛ばすような接し方は良くなかったとも思う。耕次の台詞じゃないが、あれでそれっきりにならなかったのは不思議だ。晶子の執念−勿論良い意味で−の成せる業と言うべきか。

    「あの頃祐司さんは、優子さんにいきなり一方的に最後通牒を突きつけられた直後だったんですから、仕方ないですよ。」
    「運が良かったな、祐司。」
    「俺もそう思う。」
    「そんな味も素っ気もない出逢いが、結婚指輪を填めさせるまでに至ったのが不思議でならない。ちなみにその指輪、何か特徴はあるのか?」
    「裏側に刻印がある。俺のは『from Masako to Yohji』で、晶子のは『from Yuhji to Masako』ってな。」
    「論より証拠。見せてもらおうか。」

     耕次の言うとおりかな。俺は指輪を外して、晶子が外したそれと併せて差し出す。まず耕次から見て、勝平、渉、宏一が確認する。

    「ふむふむ。確かに刻印があるな。記念の品にはピッタリだ。」
    「綺麗なイタリック体だな。味わい深くて良い。」
    「光り方が随分柔らかいな。あまり金属って感じがしない。」
    「オウ。ファッションセンス皆無で有名だった祐司が贈ったとは思えない代物じゃねえか。」

    雨上がりの午後 第1902回

    written by Moonstone

     他人の空似か何かだろうと思って金を払ってその足で本屋に向かい、何時も買っている雑誌−今は大学の生協で買っている−を見つけてレジで支払いを済ませて店を出たところで、また晶子と出くわした。一度ならず二度も顔を見て驚かれたことに立腹して、俺が怒鳴りつけてその場を後にした。これが出逢いの記憶。お世辞にも美しいとは言えない状況だが、今の晶子との関係はそこから始まったことには違いない。

    2005/6/2

    [実は重傷だった(らしい)]
     突き指をして1週間になった昨日、突き指にしてはあまりにも治りが遅い上に腫れも酷いしものも満足に掴めない(箸くらいなら持てますがマウスを右方向に動かすと痛い)状態なので、整形外科へ行きました。平日の整形外科ってどんなものかと思っていたんですが、結構人が居ました。
     程なく名前を呼ばれて、レントゲン撮影。そして診察の結果、骨には異常はないがかなり酷い打撲と判明。「1週間経ってこれだけ腫れているということは、相当痛かったでしょう」との医師の言葉。まあ、確かに結構痛かったです。自分でも腫れてるなって分かるくらいですし。「1週間経っても腫れが引かないようでしたらまた来て下さい」と言われた後、患部である右手薬指に湿布を貼られて包帯をしっかり巻かれました。で、「出来るだけ(右手薬指を)使わないようにしてください」と最後に一言。
     ・・・あのー。私右利きなんですけど(汗)。「朝晩湿布を取り替えてください」って左手一つでそれを私にしろと仰る?(汗)。・・・医者にそんなこと言ってもどうにもならないので、左手で料理をして食器を洗って、今は左手でマウスを操作しています。限定的とは言え利き手を封じられるのはかなり厳しいです。1週間で治れば良いんですが・・・。

    「祐司にとっちゃ、聴取の内容はちょっと古傷を抉られることになるだろうが、それがあったからこそ今の関係があるんだからな。」

     耕次の言葉が俺の心に大きな残響を生む。あの時俺は宮城から一方的に関係断絶を通告されて、絶望と悲しみと、愛情が裏返った憎しみに塗り潰されていた。二度と女なんか信じるもんか、二度と恋愛なんてするもんか、と思っていた。見るもの全てがどす黒く見えた。
     買い漁ったビールを煽りながら宮城との思い出の品を悉く破り、壊し、潰して、自分も酔い潰れた。翌日は大学もバイトもサボった。重い気分で遅い夕食を買いにコンビニに出向いたら、隣のレジに並んでいた晶子と目が合った。そこから俺と晶子の関係が始まった。2年ほど前のことだが、懐かしくもあり、つい昨日のことのようにも思える。
     ・・・って、回想に浸ってる場合じゃない。何処まで突っ込んだ事情聴取になるか分からないんだ。しかも相手は耕次。隣には証人でもあり当事者でもある晶子が居る。こういうシチュエーションは、俺が最も苦手とするものの一つなんだよな。

    「んじゃまず、晶子さんと出逢った時の状況から詳述してもらうか。」
    「そりゃあ良い。出逢いの瞬間は忘れられないものだからな。」
    「オー!祐司が晶子さんを引っ掛けた場面がいよいよ明らかになるのか!」
    「お前に引っ掛けた、って言われたくない。」
    「まだ余裕はあるようだな。時々晶子さんの証言と照合するから、覚悟は良いな?」
    「一応な。」
    「じゃ、語ってもらおうか。」

     面子と晶子が注視する中、俺は覚悟を決めて当時の状況を話す。宮城との電話で最後通牒を突きつけられて、自棄酒を煽った勢いで酔い潰れて1日大学へ行けず、時間的に無理だったからバイトもサボることにして、近くのコンビニに遅い夕食を買いに向かった。レジに向かうと先客が居て、もう一方のレジに並んで丁度隣り合わせになったところで、先客、つまり晶子が驚きの声を挙げた。

    雨上がりの午後 第1901回

    written by Moonstone

     駄目だ。完全に追い詰められてしまった。事情聴取とやらは耕次がメインになるようだ。耕次の推察や突っ込みは鋭いし的を外さない。俺だけならはぐらかしたり出来るかもしれないが、隣に晶子が居るから曖昧な言い方は出来ない。変に誤魔化したりすると、晶子との絆の証の一つ、左手薬指に填まる指輪の意味と俺の気持ちを根本から問われることになる。覚悟を決めるしかない。

    2005/6/1

    [連載読者の方は要注目]
     職場のPCが壊れて起動しなくなったので、開発環境を復旧するために物凄い時間を食ってしまいました(汗)。そんな重さを吹き飛ばす朗報があります。本日更新のCG Group 2で、連載「雨上がりの午後」の主役である「俺」こと安藤祐司君と井上晶子さんのイメージCGを展示しました。描いていただいて大変光栄です。私の手では二人が絵になることはまずありえなかったことですから。下手に描いてイメージを崩すのは私自身嫌ですし。
     その連載は丁度今日で1900回。節目の2000回まであと100回となりました。単純計算では9月上旬に2000回に到達しますが、今は1日1回進めることだけ考えています。そうすれば何れは1000の桁が変わるでしょう。
     併せて今日、私としては珍しく公開後の作品を修正しましたが、これは修正しないと大問題だからです。某著作権団体が著作権料を取り立てに殴りこんで来る性質のものではなくて(迂闊に歌詞を引用出来ない)、登場人物の名前の読みが設定と矛盾するというもので、遅きに失した感はありますが今回修正しました。・・・更新内容みたいになってしまいましたが、2つのグループを行き来してみてください。

    「まあ、そのくらいにしておけよ。妙な魚の毒にやられるより、あの場限りで済んだんだからさ。」
    「オー!マイブラザー!心温まること言ってくれるじゃないか!」
    「おーおー、随分余裕の発言だな、祐司。流石に早々と結婚指輪填めさせただけのことはある。」

     宏一が両腕を差し出してのオーバーアクションを示したのに対し、頬杖を付いた耕次がからかい調子で言う。勝平も渉も同感を示す頷きを見せながら俺と晶子の方を見ている。・・・うっ、この視線。かつての時代を思い出す。渉はあの時我関せず、という様子だったが、今回は勝手が違うようだ。

    「俺に話を振るなよ。」
    「生憎そういうわけにはいかない。さあ、出演者が揃ったことだし、じっくり事情聴取と参りましょうか。」

     勝平が口の先端を少し吊り上げる。・・・そう言えば行きの新幹線の車中で此処の観光案内のプリントを貰った時、礼は後でさせてもらう、とか言ってたな・・・。こいつ、そのために面子と口裏合わせてこの部屋に乗り込んで来たのか?・・・あり得る。何せ悪戯好きの面々だ。そう考えるのがむしろ自然だろう。

    「勝平のMCもあったことだし、早速リーダーの俺が事情聴取を始めるとするか。」
    「始めなくて良い。」
    「これも法律家が備えるべき、コミュニケーション能力と相手の心理探究の実践の場だ。しかも、こういうケースはなかなかお目にかかれない。」
    「耕次、お前なぁ・・・。」
    「さあ、祐司。此処まで来た以上逃げられると思うなよ?さて・・・、まずは出逢った状況から詳細に説明してもらおうとするか。晶子さんは憶えてるでしょう?」
    「はい。」
    「当事者且つ証人も居る。妙な弁解や言い逃れは、後々お前の損になるだけだぞ?」
    「耕次・・・。」

    雨上がりの午後 第1900回

    written by Moonstone

     渉の補足の一言は、宏一にとどめを刺すには十分過ぎる。・・・あ、一旦持ち直したと思ったら、宏一の奴、またしょげてしまった。渉は女達の言葉に気分を害して早々に席を立ったくらいだから別に今回引っ掛けられなくても良かったんだろうが、狙っていた宏一のダメージは相当なものだろう。あの場を作った責任はあるが、もう十分だと思う。

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