芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2005年4月30日更新 Updated on April 30th,2005

2005/4/30

[4月の終わりに]
 不意打ち更新しました(笑)。「たった1作だけかい」と言われると切ないんですが、大量制作が出来ないタイプですし、次の大きな山場に繋がる重要な場面の1つですので、あえて単発で今日付公開に踏み切りました。背景の八重桜はそのままです。明日は月初めなので変えますし、5月は一月固定ですので(写真が少ない(汗))、4月後半の代表的な花の1つである八重桜を楽しんでいただこうかということで。八重桜は割と長持ちするような気がします。
 私は昨日から帰省しています。朝は何時もどおりで自宅の掃除やら何やらしたことや、極度の寒がりの私ですら上は半袖でないと「暑い」と思う(下は冷えるので未だに冬物)陽気も重なったせいか、午後に実家に到着してからは転寝していました。夜になっても半袖で居られるなんて、早くも夏気分です。
 当然PCを持ってきたんですが、どういうわけか「S」と「L」のキーの反応が芳しくありません。「L」はあまり使わないのでさほど影響はありませんが、「S」はかなり使用頻度が高いのでキータイプにしこりを感じます。デスクトップのように別のものと取替え、なんて出来ないですからね・・・。まったく反応しないというわけではないので、明日以降もお楽しみに。
 理学部の渉は面子の中でも耕次と並ぶ頭脳派で、大学院に進学して企業の研究職を視野に入れている。地味だが自分の仕事は着実にこなす堅実さは、面子も一目置くところだ。男前でクールな物言いという組み合わせは、興味をそそられるだろう。宏一は経済学部。普段はお調子者で女好きというどうしようもない奴だが、実は結構知的な一面を持つ。経済状況を語らせたら、こいつの右に出るものは居ない。そして俺は工学部。大学は有名どころだから、女の視線が集まる可能性はある。
 だが、俺には晶子という心に決めた相手が居る。相手が俺に色目を使って来ようが、俺には晶子という妻が居る、と毅然と跳ね除ける気構えで居る。それくらい出来ないようじゃ、この先やっていけない。決めるときには決めないとな。

「私は皆さんとご一緒するのは今回が初めてなんですが、飲み会にも参加させていただいてよろしいんでしょうか?」
「ああ、それならOKです、OKです。フリーの男4人と女4人は良いから、晶子さんと祐司は悠然と飲んでいてください。話を振られたら、そっちの方の対処は頼むぞ?祐司。」
「ああ。勿論だ。」

 俺は女と知り合いになるために来たんじゃないから、面子と宏一に引っ掛けられた女とのやり取りを眺めていれば良いだろう。男女5人ずつの中で1組だけ会話の輪に入らないで傍観してる、っていうのは想像してみると少し奇妙だが、口の上手さでは少なくともこの面子の中では誰にも引けを取らない宏一をはじめ、誰が誰とくっつくかを見るのも、それはそれで結構面白いかもしれない。こういうのを「好奇心」って言うんだろうか?・・・「覗き見」と言った方が良いのかもしれない。

「そう言えば宏一。お前、晶子さんに自己紹介してないだろ。謝罪がてらやっておけ。」
「あ、そういえば・・・。んじゃ、祐司。ちょっと前、悪い。」

 耕次に晶子への自己紹介を促された宏一の依頼で、俺は豆腐を口に入れてから少し後ろに下がる。これで、晶子と宏一が顔を見合わせられるようになる。

雨上がりの午後 第1868回

written by Moonstone

 俺達バンドの面子は全員、所謂有名大学に在籍している。耕次は公務員試験の準備の一方で司法書士試験、司法試験合格を目指している。耕次の頭脳なら実現出来る可能性は高い。勝平は卒業後一般企業に就職して10年程度実務経験を積んでから、父親が経営している工場の後継者となる。中規模とは言えこの不景気の中で着実に業績を伸ばしているらしいし、「社長夫人」という勲章が手に入るとあれば、その手の女は放っておかないだろう。

2005/4/29

[連休初日]
 このお話をしているのは大抵その日の未明(新聞とかだと昨日の24:00以降となる時間帯)なのでまだ連休という実感があまりありません。夜でもやけに暖かくて、自宅で長袖を着ていないことは特筆すべきことでしょうか(ご存知の方も居られるでしょうが、私は極度の寒がり)。事実今日昨日締め切りの書類は無事提出しましたし、勉強会には出席しましたし、新人歓迎会にも出席しました。何やらバタバタしていたらもう明日で4月もおしまい。桜が咲いた、と思ったらもう藤の花が咲く時期です。
 連休で何処かにお出かけされる方も居られるでしょうね。私は帰省してひたすら作品製作に費やすつもりです。淡墨桜を見に行きたかったんですけどね・・・。気温の変動が激しかったせいか、あっという間に咲いてあっという間に散ってしまったので、自分の通勤路にある桜も満足に見られなかったという体たらく。特に行きたいところもないですし、年明け早々の酷い腰痛やら体調不良やらで満足に更新出来なかった分を、この連休で取り戻そうと思います。
 どれも書きたいんですけど(当然)、個人的には「雨上がりの午後」アナザーストーリーを進めたいです。2004年度中に完成させるつもりが、Vol.2、Vol3共に1つしか公開出来てないのが何とも・・・。連載が2000回を迎えるまでにはどうにかしたいです(計算上あと4ヶ月なんですよね(汗))。
 宏一は暗に俺と晶子も飲み会に出席しろ、と言っている。部屋で寛いで居たいという気もするが、折角集まった仲間と共に飲んで食べて話すのも楽しそうだ。

「晶子はどうする?」
「私もよろしければご一緒させてください。」
「よーし!これで男5人女5人で数はぴったりだな!もっとも祐司と嫁さんは別だが。」
「妻が居るのに他の女に目移りするほど、俺の腰は軽くない。」
「祐司さん・・・。」

 晶子は嬉しそうな笑顔を浮かべる。こういう時、男は悲しいかな、他の女に目が行きがちだ。俺には昌子という最高のパートナーが居る。仮に相手が迫って来たとしても、「俺には妻が居るから」ときっぱり断る。それが夫として当然の態度だ。あっちもこっちも、なんて芸当は少なくとも俺には出来ない。

「宏一。何でまた女子大生と飲み会にまで漕ぎ着けたんだ?」
「祐司以外はフリーだろ?だからこの際、美人女子大生と良い関係になることを目標にして気合入れておくべきだと思ってな。」
「女引っ掛けるのはお前の得意技だから良いが、どんなタイプだ?」
「今時のタイプの一極だ。男の学歴や将来性で選り好みする、な。だから落とすにはもってこいのタイプだ。」

 勝平の疑問に宏一は少し皮肉を交えて答える。
不景気というご時世もあるんだろうが、女はジェンダーフリーとか言う一方でいざとなったら将来安泰且つ優雅な生活が期待出来る男を捕まえて結婚、収入は夫任せで自分はエステだのカルチャースクールだのに走る、というパターンは未だ健在だ。宏一はナンパのやり取りで女の性格を掴んで、飲み会のセッティングを整えたんだろう。

雨上がりの午後 第1867回

written by Moonstone

「祐司と晶子さんも行くか?」
「良いのか?」
「まあ、二人きりで熱い時間を過ごしたいって言うなら話は別だけどな。」

2005/4/28

[明日から連休]
 今日は色々あります。事実上今日締め切りの書類作成、会議、私が連続5週目のホスト役になる勉強会への出席、でもって新人歓迎会。書類作成は直ぐ出来るでしょう。普段こうして色々文章を書いているせいか、A4サイズの書類1枚を埋める程度ならさほど時間はかかりません。会議は基本的に報告だけで、まあ言うなれば「情報の共有の場」ですから、これはまあ良し。勉強会への出席がね・・・。資料を用意しないといけないですし(準備済み)、演習問題の説き方も解説する必要がありますし(これが厄介)。このまま最後まで、ってなるのが一番嫌なんですが、そうなりそうなのが怖い(汗)。
 新人歓迎会は夕食を兼ねてのことですが(せこい)、明日の朝帰省するので、あまり深酒は出来ません。このところ寝不足気味なので、深酒をすると目覚ましが耳元で鳴っても、携帯のアラームと合奏しても目を覚まさない可能性があります(汗)。適当に腹に食べ物詰めたら帰るつもりです。
 でもって私は明日から連休で帰省します。「1日1作」を目標にしてはいますが、前回帰省時(年末年始)に腰を痛めて以来まだ少し疼いていますから、あまり長時間座ってられないでしょうし・・・。更新はしますので、引き続きお楽しみくださいませ。
 俺は頷く。晶子はおっとりしているが、筋を通すべきところは通すし、ここぞという時には頑として譲らないところがある。しっかりものの妻を持つ男として、今度俺が前面に出る時があれば、その時は晶子が俺のことを自慢出来るように毅然とした態度を示さないといけないな。
 夕食の舞台となる食堂はかなり広い。畳に一定の間隔で4人用と8人用の机が並んでいて座布団が敷かれている。他の宿泊客が夕食を食べていて、その間を従業員らしい人達が動き回っている。6人組の俺達は、やや奥まったところに空いていた8人用の机に座る。入り口に近い方、仕切り板に近い方から宏一、俺、晶子。その向かい側にやはり仕切り板に近い方から耕次、勝平、渉という配置だ。
 程なく従業員がやって来て、人数分のお絞りとお茶の入った小ぶりの湯のみを置いて、少々お待ちください、と言って去っていく。夕食のメニューは決まっているようだ。まあ、その方があれこれ選ばなくても良いし、その間従業員を待たせる必要もないから、丁度良いと思う。
 少しして1品ずつ料理が運ばれて来る。内陸部ということで魚関係はない。季節ものの野菜料理、地元産だという牛肉料理、そしてお手頃サイズと言うのか、料理屋でよくある小さめのコンロに乗った湯豆腐、そしてご飯と味噌汁、というかなり豪華なメニューだ。朝食も恐らく此処でだろうが、朝夕込み1泊7000円というのは、破格だと思う。今はシーズンだろうからそういう時は1泊10000円以上かかっても不思議じゃないんだが。

「夕食が終わったら、居酒屋『鉢郷(はちさと)』で美人女子大生4人組と飲み会だからな。楽しみにしておけよ?」
「ったく、そういう方向には熱心だな・・・。」
「やっぱり、スキーと言えば熱い恋の始まりに相応しいシチュエーションだろ?」

 耕次の突込みにも宏一はまったく意に介さない。晶子の説教で遅刻は申し訳なかった、と謝罪したが、自分がセッティングした女子大生との飲み会に向けて、早くも意気込んでいる。女好きな宏一らしいと言えばらしいが・・・。

雨上がりの午後 第1866回

written by Moonstone

「祐司。晶子さん、物腰は柔らかいが、芯はしっかりしてるな。」
「ああ。確かに。」
「大事にしてやれよ。」

2005/4/27

[欠陥ソフトウェア]
 セキュリティソフトの大手トレンドマイクロがチェック漏れのパターンファイルを公開したために使用している企業などに障害を齎した、という事件はまだ復旧していないところがあるなど余波を残しています。勿論チェック漏れの言わば欠陥ソフトを公開して深刻なダメージ(土日とて稼動している企業などは多くありますし、4/24日曜は日本がミニ中間地方選挙だった)を与えたのは問題です。常時稼動しているというソフトウェアの特殊性からしても、ソフトウェアのみならず企業のイメージダウンにもなります。
 でも、私としては、度々「セキュリティ対策」と称して欠陥をつぎはぎして、それでも追いつかず、その上大きな更新があると万単位の高値で買わせるWindowsという欠陥OSを作って、同じく大量の欠陥を持つInternet Explorerというブラウザと共にばら撒いているマイクロソフトよりはましだと思います。セキュリティソフトは選択の余地がある=市場競争に晒されていますが、OSでは事実上選択の余地はあってないようなものですからね。PCを買えばOSがインストールされているということが、それを端的に証明しています。セキュリティソフトは乗換えが出来ますが、OSではほぼ不可能です。
 丁度昨日も、ウィンドウを複数開いた状態で固まってしまう事態に遭遇しました。幸いこまめにセーブしていたので大きな被害はありませんでしたが、Windowsには悩まされること頻りです。かと言ってMacOSやUnixに乗り換えとは出来ませんし・・・。PCを「自分(使用者)にひたすら忠実に動く道具」としか認識していない私としては、道具の顔色を窺わなければならないことが理不尽に感じられてなりません。こっちの問題をもっと大々的に取り上げる必要があるように思うんですが・・・。
 少しして宏一が戻って来る。やっぱり反省している様子はない。このままだと険悪な雰囲気の中で晩飯を食うことになる。出来ればそれは避けたいんだが・・・。

「さあて!飲み会の前に腹ごしらえと行くか!」
「その前に宏一さんにお話しなければならないことがあります。」

 口火を切ったのは渉でも耕次でもなく、晶子だった。何時になく表情が厳しい。宏一も予想外らしく、当惑している様子が露だ。晶子はすっと席を立って宏一に歩み寄る。宏一は180cmある長身だが、迫力では晶子が勝っている。

「宏一さんがスキー場で何をされていたのかは問いません。ですが、出発前に宏一さんを含めた皆さんで此処に18:00集合と取り決めた筈です。宏一さん1人だけならまだしも、祐司さんの他、同じくスキー場に行かれた本田さん、和泉さん、須藤さんは集合時刻までにきちんと此処に戻って来られて、今まで待っておられました。不慮の事故などやむを得ない場合は別ですが、そうでない限りは集団で行動しているのですから、最低限の約束や取り決めは守るべきではないでしょうか?」
「・・・あ、はい。」
「観光地ですから楽しむのは自然なことです。ですがどんな場合であっても、約束や取り決めは、たとえ口頭であってもその重みは変わりません。宏一さんの帰りを待っていた皆さんのことを考慮して行動すべきだと思いますが、いかがでしょうか?」
「・・・はい。そのとおりです。すんません。」

 晶子に諭された宏一は、神妙な顔ですんなり頭を下げる。怒鳴ったり押し付けたりしない分、説得力がある。流石の宏一も反省したらしい。

「宏一。祐司の嫁さん、晶子さんに感謝するんだな。お前の帰りを待とうって言ったのは、他ならぬ晶子さんなんだぞ。」
「え?そうなのか?」
「ああ。晶子さんに免じて今回は見逃してやる。2度目はないと思え。」
「りょ、了解。皆、悪かった。」
「分かれば良し。じゃ、食堂へ行くか。」

 宏一に釘を刺した耕次を先頭に食堂へ向かう。宏一は相当反省しているらしく、嘘のように大人しい。晶子の説教が相当堪えたようだ。歩いていた俺の肩がポンと叩かれる。手の主は、それまで沈黙を保っていた勝平だ。

雨上がりの午後 第1865回

written by Moonstone

 1人だけことの重大性を理解していない宏一は、ナンパした女子大生との飲み会が今から楽しみなのか、軽い足取りで階段へ向かう。良く言えばマイペース、悪く言えば自分のことしか頭にない宏一に初日から振り回されてる。このままだと幾ら気心知れた面子とは言え、不穏な空気が濃くなる可能性は高い。かと言って、宏一が反省するとは思えないし・・・。

2005/4/26

[初回限定版]
 CDなりコミックなり、最近「初回限定版」とか「限定生産品」とか銘打って販売されるものが多いように思います。昨日触れた「Passion Flower」(T-SQUARE)も初回生産限定版です。ちなみに前作「GROOVE GLOBE」も初回限定版でしたが、前前作の「SPIRITS」は予約が遅れたせいで初回限定版入手に失敗しました(ちなみに何れもT-SQUARE)。
 ・・・とまあ、私のCD入手状況はさておき(汗)、この手のものはCDだとボーナストラックなりボーナスディスク、コミックだとポストカードとかが付いてくるのが多いようです。レア度は高まるでしょうが、こういうのって某オークションに出される時の格好の材料になりやすいんですよね。以前「苦労して入手した前売り券がオークションに高値で出されているのを見て怒った」という文面を拝見したことがあるのですが、それは当然でしょう。こういうあこぎな金稼ぎが幅を利かせるようでは駄目ですね。
 「Passion Flower」では「Knight's song」(BLUE IN RED収録)の、グランツーリスモ(PS2)用バージョンとアルバムに収録されている「Angel's Love」のヴォーカルをアルトサックスに置き換えたものがボーナスディスクとして収録されています。ドライブのBGMには前者、普通のBGMには後者がお勧めです。今回は初回限定版を買えて良かった、と思っています。

「何ともはや・・・。今時晶子さんのような女性は、少なくとも俺達と同年代ではまずお目にかかれないから、どうやって応対すれば良いのやら・・・。」
「皆さんが祐司さんとお話しする時と同じで結構ですよ。」
「安心した、って言って良いのかな。こういう場合・・・。」

 耕次は苦笑いしながら頭を掻く。やっぱり晶子みたいなタイプには「免疫」がなくて、流石の耕次も対応し難いようだ。俺は今まで疑問に思ったことがなかったんだが、こういうところが、智一曰く「深窓のお嬢様」をイメージさせるんだろう。

「いやー、待たせて悪いな!」

 脳天気とも言うに相応しい声が聞こえる。声の方を見ると、スキー用具を肩に担いだ宏一がにこやかに手を振ってる。まったく反省している様子がないのも変わってない。進歩がないと言うべきか・・・。

「女子大生4人組と今晩9時から飲み会だぜ!って、どうしたんだ?怖い顔して。」
「宏一。お前、何考えてやがる。集合時間は18:00と決めただろうが。」

 面子を代表して眉を吊り上げた渉が言う。反省するどころか、自分が決めた飲み会のスケジュールを宣言するとは・・・。俺は呆れて何も言えない。元々時間に五月蝿い渉でなくても、何考えてるんだ、と思わざるを得ない。

「悪い悪い。美人女子大生との飲み会が詫び料ってことで。」
「お前なあ・・・!」
「渉。こういう時の宏一には何を言っても無駄だ。」

 怒りを爆発させそうになった渉を耕次が制する。渉は溜まった怒りを深い溜息に替える。宏一の性格が分かっているから、そうせざるを得ないんだろう。渉が気の毒でならない。

「飯にするぞ。場所は食堂だったな。宏一。ひとまず道具片付けて来い。話はそれからだ。」
「了解!」

雨上がりの午後 第1864回

written by Moonstone

 耕次が珍しく対応に苦慮している。高校時代、それぞれ癖のある面子を約3年間束ねたのは耕次だし、客とのコミュニケーションをとったり盛り上げたりするのも耕次だった。それに、会場−学校の視聴覚室や体育館−に怒鳴り込んで来た生活指導の教師との応酬の先頭に立ったのも耕次だ。誰もが認める対人間の手腕を持つ耕次も、晶子のようなタイプは初めてなんだろう。

2005/4/25

[うー、難産]
 何ヶ月ぶりかの土曜日曜連続の快調で、朝から作品制作に取り掛かった・・・のは良いんですが、書き進めていくうちに随分悩みました。想定していた分で収めようとすると絶対無理が生じますし、かと言って、1部の構成数が決まっているのでどうにか収拾をつけないといけない・・・。執筆を半日中断して延々と考え、多少長引いてでも展開している事態をきっちり押さえてから次に進めることにしました。
 それでも完成した新作は目安としている30kBを少しオーバー。ダイアルアップでストレスなく表示出来る容量最大値の大体の目安が30kB(経験則ですが)なのですが、こればかりは止むを得ません。複数の人物が同じ時間軸で行動して、それが連鎖するのを書くのはなかなか大変です。今に始まったことじゃないんですが、今回改めてそれを痛感しました。
 で、TOP最上段には、古田選手の2000本安打お祝いメッセージへのリンクを設置。2000本安打は昨年清原選手も記録しているのですが、古田選手は選手会長としての職責と守備の要&得点圏打者としての両輪を回しておられるということで特別な感慨を持っています。此処の連載が2000回を迎えるのは計算上今年の9月頃ですが、その時は此処の最上段にある「メモリアル企画書庫」に挨拶文を掲載する程度です(笑)。
 晶子の提案に渉が渋い表情で答える。悲しいかな、今は渉の答えに同感してしまわざるを得ない数々の「実績」が宏一にはある。

「ここは晶子さんの提案どおりにしてみるとするか。19時まで待っても戻って来なかったら、俺達だけで飯にしよう。」

 耕次の提案で、俺達は受付前にあるラウンジ−こういう宿の場合は何て言うのかよく分からないが−の木の椅子に腰を下ろす。俺と晶子が並んで座りその向かいに耕次、勝平、渉という座席配置だ。

「あの・・・。この際と言うと何ですけど、皆さんの名前を教えていただけませんか?」
「あ、これは失礼。そう言えば、俺達は自己紹介がまだだったな。」

 耕次はひと呼吸おく。

「俺は本田耕次。バンドのヴォーカルとリーダーをやってた。法学部に在籍してる。」
「俺は和泉勝平。バンドではキーボード担当で、祐司と同じく工学部に在籍してる。」
「俺は須藤渉。ベース担当で、理学部に在籍してます。」
「私からも改めてご挨拶いたします。私は井上晶子。文学部に在籍しています。どうぞよろしくお願いします。」
「あ、こちらこそ。」「これはどうも。」「ご丁寧に。」

 耕次、勝平、渉は少し慌てた様子で晶子と会釈を交わす。互いをきちんと知ろうという晶子の姿勢に驚きを持ったようだ。思えば、偶然出くわした時は兎も角、初対面の時に晶子は自分から名乗ったっけ。

「悪いね。宏一が待たせちまって・・・。」
「いえ。それより、こちらこそ不躾なお願いを快諾していただいて、恐縮です。」
「と、とんでもない。」

雨上がりの午後 第1863回

written by Moonstone

「あの・・・。宏一さんが帰って来るまで待ちませんか?終わったら帰って来るかと思うんですけど。」
「そういう希望が簡単に通じる奴じゃないんですよ、これが。」

2005/4/24

[甘いお話]
 恋愛ものは連載の方で行っていますから、此処では食べる方を。昨日は久しぶりに休日なのに朝から快調で、布団を干して金曜に購入したCD「Passion Flower」(T-SQUARE)をBGMに執筆開始。で、途中買い物へ。土曜日の午前中は比較的空いているのでこちらも快調。必要なものだけポイポイ放り込んでレジへ直行。その後隣接する(正確に言うと同じ建屋にある)洋菓子店に寄り道。普段は見向きもしないのですが、昨日はどういうわけか「あるもの」に目が留まって購入。それは・・・シュークリーム。中にカスタードと生クリームが入っているタイプです。
 私は元々食べ物に好き嫌いはありません。ですが、体重増加を防ぐために高カロリー食をあまり食べないようにしています。代表的なのは菓子ですね(ダイエットと言って食事を食べない一方で菓子を食べていては話になりません)。昨日は朝から快調だったことと久しく菓子から遠ざかっていたからか、シュークリームを衝動買いしたわけです。
 若い頃(と言っても10年ほど前)は「兎に角安くて大量に」という方針だったんですが(体型からは想像出来ないほど大量に食べていた)、最近は食料品はこの店、と決めてコストパフォーマンスを追及しています(要するにせこくなった)。幾つか行動圏内に菓子店はあるのですが、その店のケーキは値段の割に美味しくて、買ったシュークリームも見事ヒットでした(^^)。また買う時にあると良いな〜。
「祐司の言うとおりなんだよ。・・・あ、晶子さん、で良い?」
「はい。」
「宏一は物凄い女好きでね。道に迷ってるかどうかの心配をするより、女を追い掛け回して約束の時間忘れてる心配をした方が良いんだよ。」

 耕次の説明どおりだ。宏一のことだ。滑ってる時間より女口説く時間を多く取ってるに違いない。

「・・・あ、宏一。渉だ。もう集合時間過ぎてるぞ。今何処に居るんだ?・・・何?まだスキー場?」

 渉の確認の問いかけに、晶子以外の俺を含めた全員が溜息を吐く。予想は的中したようだ。今回も。

「早く帰って来い。・・・って、切れやがった。」
「底引き網漁か。」
「真っ最中だそうだ。」

 耕次と渉の短いやり取りで、大方の状況を把握出来てしまう。スキー場でナンパの真っ最中に渉から「割り込み」の電話が入って、今取り込み中、とか何とか言って素早く切ったんだろう。こうなるともう待つしかない。口説き落として夜の街に繰り出す、という算段なんだろう。昼に出会った子ども達も、若いのは昼はスキーで夜は遊ぶ、って言ってたから、そういうパターンを目にする機会が多いんだろう。

「どうする?夕食時間は確か・・・18:00から20:00だったよな。」
「待つか?」
「無意味だな。」

 俺が切り出した今後の方針に、耕次が提案して渉が即断じる。高校時代の面子の待ち合わせでよくあったパターンだ。この妙な方程式が今でも通用するのを喜んで良いのかどうか・・・。

雨上がりの午後 第1862回

written by Moonstone

「宏一さん、道に迷ってるんじゃ・・・。」
「それが、宏一の場合はそうじゃない可能性の方が高いんだ。」

2005/4/23

[連日すみません(汗)]
 木曜の夜からサーバーへのアクセスが不能になり、昨日は緊急措置で更新しました。やはりDNSに問題があったらしく、該当サーバーの管理者に依頼してキャッシュを削除してもらったところ、正常にアクセス出来るようになりました。本当に一時はどうなることかと思ったのですが、今回の事件を通じてネットワーク管理の難しさと大変さを実感しました。とても自分でサーバーを持つなんて、怖くて出来ません。
 アクセス不能現象への対応に追われた結果、追い込みに入るべき木曜金曜の大半をそちらに費やしてしまい(最近土日はまったく動けませんからね)、更新内容が寂しいものになりました。まあ、一度勢いに乗れば1日で長編2作品を仕上げる体力はまだあるようで、ちょっと安心しました。
 此処をご覧になる分には分かりませんが、連載のストックをしているファイルが更新目安の3000行に達しました。これからのストックは8番目になります。履歴を見てみると大体半年くらいで新しいファイルを作っているので、早いような遅いような・・・。こちらもお楽しみに。
 もしかしたら、さっき目にした倉に入っている山車が、町を練り歩いてこの空き地に集結するのかもしれない。1年の中でごく限定された時期しか見られないものが集結するとなれば、ローカル局が「季節の風物詩」とか銘打って報道するだろうし、観光客でごった返している中で山車を追ってTVカメラを担いでうろついていると、苦情や混乱を呼びかねない。

「今も雪が降ってますから、一晩置けば、雪合戦にはもってこいの場所になるでしょうね。」
「そうだな。どのくらい人数が集まるかにも依るけど、どうせなら派手に雪球が飛び交う方が良いな。」
「終わった時には雪塗れになってるでしょうね。」
「だろうな。俺と晶子は狙われてもおかしくないし。」

 俺と晶子は顔を見合わせてくすくす笑う。雪球と歓声が飛び交う様子を思い浮かべる。おぼろげに思い出せる程度の、小学生の時の雪合戦の様子と重なって、明日がより楽しみになる。子ども達に混じっての雪合戦。どうなるか楽しみだ。

 日が暮れてから帰路に着いて、宿で待つこと少し。渉を皮切りに勝平、耕次が帰って来た。だが、集合時間の18:00を過ぎても宏一が帰って来ない。既に外は真っ暗だ。迷った、なんてことはないと思うが・・・。

「やっぱり宏一は遅刻か。こういう予想は簡単に当てられる。」

 耕次が溜息混じりに言う。渉がやはり溜息混じりに携帯を取り出してボタンを操作して耳に当てる。

「着信音が聞こえるかどうかも微妙だな。」

 渉の言うことを否定出来ないのが悲しいと言うか何と言うか・・・。スキー、否、ナンパに熱中していて、まだスキー場に居る可能性がある、否、その可能性が高い。

雨上がりの午後 第1861回

written by Moonstone

 晶子のボキャブラリーだと上手く纏まる。観光の町に、こういった一見この町が前面に押し出したい「観光」とは無縁の、言っちゃ悪いがただ広いだけの空き地があるのはちょっと不思議だ。こういう場所に駐車場を入れたりするのが今時の考えだが、此処は大通り以外まともに車が行き来出来そうにないし、混雑や事故の元になるからということであえて空けているのかもしれない。

2005/4/22

[非常事態に遭遇]
 昨日更新しようとしたのですが、どういうわけかFTPでサーバーと接続出来ず、挙句の果てには自分のページにアクセスしようとしても妙なページに飛ばされるという奇妙な現象に見舞われました。一時的に回復はしたものの、一夜開けた現在も回復せず、やむなく別の手段を執りました。今までサーバーと接続出来ないというトラブルは何度か経験がありますが、今回のような自体は初めてです。
 どうも、私の自宅からサーバーまでの経路のDNS(ドメインネームサーバー:ドメインの名前を解釈して目的のページの絶対IPアドレスを割り出すサーバー)に障害が発生しているらしいのです、検証は出来ますが、サーバーを自分で所持管理しているわけではないので(そうだとしてもそれはそれで別の問題を生じますが)、こればかりは回復を待つ以外にありません。
 また体調不良か、と思われたかもしれませんが、そちらの方は今のところ問題ありません。こういった緊急事態は数年に2、3度あるかないかといったところですが、何らかの告知手段を作らないといけないな、と思っています。
 晶子のボキャブラリーだと上手く纏まる。観光の町に、こういった一見この町が前面に押し出したい「観光」とは無縁の、言っちゃ悪いがただ広いだけの空き地があるのはちょっと不思議だ。こういう場所に駐車場を入れたりするのが今時の考えだが、此処は大通り以外まともに車が行き来出来そうにないし、混雑や事故の元になるからということであえて空けているのかもしれない。
 もしかしたら、さっき目にした倉に入っている山車が、町を練り歩いてこの空き地に集結するのかもしれない。1年の中でごく限定された時期しか見られないものが集結するとなれば、ローカル局が「季節の風物詩」とか銘打って報道するだろうし、観光客でごった返している中で山車を追ってTVカメラを担いでうろついていると、苦情や混乱を呼びかねない。

「今も雪が降ってますから、一晩置けば、雪合戦にはもってこいの場所になるでしょうね。」
「そうだな。どのくらい人数が集まるかにも依るけど、どうせなら派手に雪球が飛び交う方が良いな。」
「終わった時には雪塗れになってるでしょうね。」
「だろうな。俺と晶子は狙われてもおかしくないし。」

 俺と晶子は顔を見合わせてくすくす笑う。雪球と歓声が飛び交う様子を思い浮かべる。おぼろげに思い出せる程度の、小学生の時の雪合戦の様子と重なって、明日がより楽しみになる。子ども達に混じっての雪合戦。どうなるか楽しみだ。

 日が暮れてから帰路に着いて、宿で待つこと少し。渉を皮切りに勝平、耕次が帰って来た。だが、集合時間の18:00を過ぎても宏一が帰って来ない。既に外は真っ暗だ。迷った、なんてことはないと思うが・・・。

「やっぱり宏一は遅刻か。こういう予想は簡単に当てられる。」

 耕次が溜息混じりに言う。渉がやはり溜息混じりに携帯を取り出してボタンを操作して耳に当てる。

「着信音が聞こえるかどうかも微妙だな。」

雨上がりの午後 第1860回

written by Moonstone

「それとも、『公園=ブランコ』っていう俺の考えが古いのかな・・・。」
「そんなことはないと思いますよ。子ども達が言う公園には大抵、ブランコやシーソーとか何かしらの遊具があるものですから。推測ですけど、この町の子ども達は、『公園』という単語が指す概念を広義に『皆の遊び場』としているんだと思います。」
「なるほど・・・。」

2005/4/21

[判定勝ち?]
 昨日付でお話しした回路基板の問題は、配線のショートの方は予備の基板と交換、グラウンド隔離の方はジャンパ(回路基板上でワイヤー(幅1mm未満)を使って直接半田付けする、最終手段にして見た目にもあまり好ましくない手段)で解決することになりました。昨日付は回路基板にやられて今日付は対策を講じてほぼ完成にまで漕ぎ着けましたから(また1人居残り&帰宅遅し)、判定勝ちというところでしょうか。終日回路基板と向き合っていたので、腰がかなり重いです。普通背もたれして半田付けは出来ません。私は半田付けの際眼鏡を外すので(近視+乱視のくせに)尚更。
 話変わって、プロ野球。古田敦也選手(スワローズ)が2000本安打まであと2本に迫っているとのこと。ご存知の方も多いかと思いますが、古田選手はプロ野球選手会の会長として、昨年のシーズン終盤から奔走された方。マスコミが主張を歪曲・隠蔽して揶揄する中、文字どおり身体を張って行動の先頭に立たれました(揶揄が特に酷かったのが、かつてスワローズを保有していたフジサンケイ系というのが何とも)。
 本来なら休養や来シーズンに向けての調整に充てる時間を選手会長という職責に費やし、尚且つ39歳というスポーツ選手としては高齢という厳しいハンディを背負いながらも活躍されている姿には、胸を打たれます。昨日(4/20)は雨天中止でしたが、古田選手にはこれからも続けられる限り、プロ野球選手の大きな柱として活躍していただきたいと思います。
 見知らぬ男と女が話しかけても警察沙汰になることなく、ごく自然に会話が出来る・・・。俺が幼い頃はさして特別なことでもなかったようなことが危険視までされるような時代。どちらが正しいのかは分からない。ただ、俺が幼い時代とあの子ども達との面影が何となく重なったような気がする。

 町は思ったより広い。イベントなんかを詰め込んだテーマパークの延長線上かと思いきや、変な言い方だがきちんとした町だ。宿や土産物店があるのは観光地ならではだが、犬を連れて散歩している人も居れば、学校の制服らしい揃いのジャンパーとジャージを着た集団も居る。郵便局もあれば、喫茶店もある。俺と晶子が住んでいる新京市と決定的に違うのは、大型ショッピングセンターがないことくらいだ。こんなところにあっても車が満足に通れないから無理な話だろうが。
 雪は止むことなく、荒れることなく静かに降り続けている。彼方此方歩き回っているうちに、倉のような建物が林立する場所に出た。立て看板を見ると、春祭りの際に使用される山車(だし)が収納されている、とある。冬はスキー、春は祭り、とオールシーズン共通の温泉以外に季節に応じたイベントがあるようだ。
 物見櫓(やぐら)もある。どうやらこの一帯は、祭りに関する建物や倉庫といったものが集中している場所らしい。民家以外の家が見た限りではないのもそのせいだろう。腕時計を見ると16時。宿への集合時間は18時だからまだ余裕はある。そらがやや暗くなってきたが、これは昼が短いこの季節ならではのもの。それを除いても、空は一面灰色の低い雲で覆われているから、印象としては暗い。
 人がやっと行き違えるという程度の幅の道を歩いて行くと、いきなり開ける。だたっ広い、遊具もなければ砂場もない、あると言えばせいぜい大輪の雪の花を咲かせた樹木程度の広々とした場所だ。数人の子ども達が走り回っている程度で、広さの割に人気がない。

「此処でしょうか。子ども達が言ってた雪合戦をする公園って。」
「そうかもしれないな。公園って言うから、ブランコとかそういうのがあるところかと思ってたんだけど・・・。」

 俺の実家にも公園はあるが、そこには野球やサッカーが出来る程度の広さの平地に、ブランコなどの遊具が置かれている場所が隣接している。公園と言えば遊具や砂場を連想するんだが、此処ではちょっと違うのかもしれない。

雨上がりの午後 第1859回

written by Moonstone

 雪が静かに降る中、明日の雪合戦に思いを馳せる。小学生の時に何十年ぶりという大雪が降って、その日は学校全員が雪だるまを作ったり雪合戦をしたりと大はしゃぎしたのを覚えている。偶々訪れたこの地で、約10年ぶりか。それ以来となる雪合戦がどんなものになるか、今から楽しみだ。

2005/4/20

[・・・やり直し]
 昨日から回路基板を作り始めたのですが、電源ラインの半田付けを終わった段階で基板の異常を発見。1つは配線とグラウンド(基準電位となる場所。普通は0V)がショートしている。当然回路は動きません。1つはICのグラウンド(ICには電源を供給しないと動きません)が他のグラウンドから隔離されている。これは場合によってはありうるのですが、今回は回路図と照合してもありえない。回路基板の製作ミスらしいです。
 今回は(珍しく)分担作業なので、私は先に作っておいたという基板を渡されてそれを半田付けしているのですが、肝心の回路基板にミスがあってはどうしようもありません。前者は完全に作り直し。後者はどうにかやり過ごせないこともないので(個人的にはしたくないが)、今日問い合わせです。うー、朝から誰も居なくなるまで半田付けしていた苦労は・・・(泣)。
 回路基板は量産品ではないので、1枚作るには結構時間が掛かります。現在手がけている大きさだと軽く1日。この分だと今日は帰宅が日付変更線を超えるのはほぼ確実。どうしてくれようか・・・。
 子ども達も乗り気だから断るのは気が引ける。それに何気に楽しそうだ。雪合戦で一汗かくのは、雪が多い地方ならではの楽しみだしな。晶子を見ると、微笑んで頷く。決まりだな。

「じゃあ、明日何時に何処に行けば良いか、教えてくれるか?」

「えっと・・・。1時までに此処に来てや。公園へ連れてったるで。」
「雪だるまぎょうさん作っとくで、それ目印にすればええわ。」
「分かった。また明日な。」
「明日はよろしくね。」
「待っとるでな!」

 俺と晶子は立ち上がり、子ども達と手を振ってその場を離れる。子ども達は人で姿が見えなくなるまで俺と晶子に手を振る。俺は手袋を填めて、晶子から傘を受け取る。傘を掲げた俺の左腕に、晶子の手が添えられる。

「思わぬ形で町のイベントに飛び入りすることになったな。」
「ええ。何だか面白そうですね。子ども達と一緒に雪合戦だなんて。」
「のんびりぶらぶら町を歩くのも勿論良いんだけど、童心に帰るって言うのかな・・・。雪合戦なんてそうそう出来るもんじゃないし、子ども達もかなり乗り気だったから、断る気もなかったし。」
「どんな形式なんでしょうね。やっぱり二手に分かれて、っていう一般的なパターンでしょうか。」
「だとすると、俺と晶子は別のチームにされる可能性があるな。1つに大きいのが2人も居るのは反則だ、ってことで。」
「折角の機会ですから、楽しみましょうね。」
「ああ。」

雨上がりの午後 第1858回

written by Moonstone

「皆みたいな子どもの中に私達が入って良いの?」
「それやったら気にせんでええよ。ここんとこ、子どもの数が段々少なくなって来とるし、ぎょうさんでやった方が楽しいに決まっとるわ。」
「そやそや!公園は広いで、雪の心配ならせんでもええで。」

2005/4/19

[微妙に復活]
 土日の絶不調から一転、昨日は好調でした。4月末までに製作しないといけない(実際作ってみるとそんなに急ぐ必要はなかったりする)回路基板関係が主でしたが、回路基板製作そのものは(現状では)今日明日詰めれば出来る程度のものです。むしろ、最近朝から晩までPCに向かってどうやっても稼動しない開発環境相手に悶々としていたこともあって、途中経過や完成が目に見える形で明確に現れる回路基板製作ということで、結構乗り気だったりします(単純)。
 でもって病院。現況を聞いた主治医が「貴方はかなりの完璧主義ですね」と一言。そうかなー、と首を傾げる部分は多々あるのですが、「頑固」「融通が利かない」「猪突猛進型」とはよく言われますし、「現実を理想に合わせようとするし、その理想を常に非常に高いところに置く」という主治医の言葉には何となく納得する部分も。「出来ないものは出来ない」とすんなり割り切れない辺りが主治医に言わせると「完璧主義」らしいです。うーむ。
 昨日で、やっぱり悶々としていた新作(何かは秘密)も一気に完成。勢いづくと早いや(苦笑)。メールのお返事も少しずつしていきますので、暫くお待ちください。

「晶子。ちょっと傘持ってて。」
「あ、はい。」

 晶子に傘を渡して、俺は左手の手袋を外して子ども達に差し出す。同じ指に同じ指輪となれば、それなりに分かるだろう。子ども達が俺と晶子の左手を見比べて、納得したような表情で何度も頷く。

「へえー。スキーはせえへんの?」
「俺達は観光が目的だから、スキーはパス。」
「兄ちゃんと姉ちゃん、変わっとるなぁ。此処に来る他所の若いのは、昼間スキーして夜遊ぶんやけどなぁ。」
「此処に来たらこうやって暮らさないといけない、ってことはないだろ?」
「兄ちゃん、ええこと言うなぁ。」

 感心されてしまった。俺はとりたてて新理論だとは思ってないんだが、圧倒的多数の行動がパターン化されている中で、良く言えば「個性的」、悪く言えば「変わり者」の過ごし方は新鮮に映るようだ。

「兄ちゃんと姉ちゃん、何時まで此処に居るん?」
「来月・・・、来年って言うのかな。その3日までよ。」
「そやったらさ。明日ウチらの雪合戦に来やへん?」
「あ、それええなぁ!盛り上がるで!」
「君達で雪合戦するのか?」
「此処はな、毎年12月30日に子どもが集まって、でっかい公園で雪合戦するんや。年越し前の厄除けちゅうことでな。」

 子どもの説明を受けて、勝平から貰ったプリントの内容を思い起こしてみるが、何処にもそんな記述はなかったように思う。この町の名物じゃないのか?言葉は悪いが、客寄せのイベントにはならないからWebサイトの案内から省かれた可能性もあるが。

雨上がりの午後 第1857回

written by Moonstone

 漫才のような掛け合いに続いての確認に、俺が答える。論より証拠。俺のも見せるとするか。

2005/4/18

[沈没中・・・]
 どうも休日になると調子ががた落ちするのがパターン化しているらしく・・・。食事は適当に済ませて殆ど横になってました。部屋の灯りを点けてきちんとPCに向かったのは23:00頃です。メールチェックはしていましたが(しないと大量の迷惑メールで受信に時間が掛かる)、この土日だけで100通を超える迷惑メールが舞い込んで、余計に気分を萎えさせてくれます。
 こういった迷惑メールのヘッダを見る限り、メールソフトの記載がないものが一般化しているようです。メールソフトを使わずして不特定多数にメールをばら撒くこと自体は、それほど難しい技術ではありません。此処でも何度か触れたphp(Hypertext Preprocessor)などで出来ます。
 迷惑メールが減らない背景には迷惑メールが意外に読まれているからだ、というオンラインニュースを見たことがあります。内容なんて私からすれば読むに値しないものばかりなんですが、需要あるところに供給あり、と言うのでしょうか。鶏と卵の話になりそうですが・・・。

「いっぱい作ってるのね。」
「これからもっと作るんやで!」

 屈んで話しかけた晶子に、子どもの1人が元気良く答える。

「兄ちゃんと姉ちゃん、どっから来たんや?」
「新京市ってところからよ。皆が住んでるこの町から南の方にあるところ。」
「雪だるま作ったことあるか?」
「小さい頃に作ったわよ。冬場にはそれなりに雪が降ったから。」
「俺は元々雪が殆ど降らないところで育ったからな・・・。小学生の時、何十年ぶりかの大雪があって、その時作ったきりかな。」
「此処は毎年作るんやで。ぎょうさん雪降るでな。」

 続いて屈み込んだ俺も会話の輪に加わる。偶々人見知りしないのか、元々こういう性格なのかは分からないが、子ども達は雪だるまを作っていた手を休めて、方言丸出しで俺と晶子に話しかけてくる。

「兄ちゃんと姉ちゃん、どういう関係なんや?」
「これ見て、分かるかな?」

 予想の範囲内とは言え早くも投げかけられた問いに、晶子が左手を差し出す。俺はギターを使うこともあって手袋をしているが、晶子は手袋をしていない。だから、薬指に輝く指輪を直ぐ見せることが出来る。

「指輪やんか。これってどういう意味なん?」
「あんた、知らへんの?姉ちゃんの指輪填めとる指は、結婚指輪填めるところやで。」
「あれって、小指やなかったっけ?」
「アホぅ。小指は赤い糸やわ。」
「何何?兄ちゃんと姉ちゃん、結婚しとるんか?」
「そうだよ。」

雨上がりの午後 第1856回

written by Moonstone

 形はお世辞にも整っているとはいえない。頭と身体が同じくらいの大きさのものもある。目や口も目隠しをして落書きをしたような感じだ。でも、そんなことにこだわらずに、一緒に何かを作ることを純粋に楽しんでいる。見ていて自然と笑みが零れるのを感じつつ、俺と晶子は子ども達に近づく。

2005/4/17

[3時間]
 休日になると夕方まで寝ている、という最近の生活を改善しようと、昨日は平日の起床時間にセットした携帯を枕元に置いて就寝。目は覚めました。いざ起きよう、としたのですが・・・身体が動かない(汗)。敷布団に接着剤で貼り付けられたような、ギアをニュートラルにした状態でアクセルを踏んでいるような、そんな感覚でどうにも起き上がれませんでした。
 どうにか起きて時計を見ると、携帯(目覚ましでもある)が表示する時間は起床から3時間過ぎていました。たかだ起床するだけでこれだけ時間がかかっていては、この先は予想出来るでしょう。買い物から帰宅した後は殆ど横になってました。何と言うか・・・。1分起きているなら寝てる方が楽、という思考が働くんです。
 晴れていたら布団を干したりしよう、と意気込んではいたんですが、意気込みだけで終わってしまう今日この頃。思うように動かない自分の身体がもどかしくてなりません。制作意欲だけが空回りしています。
 嬉しそうな微笑を俺に向けてから、掌に木彫りの猿を乗せて見入る晶子が抱える切なる思い。耕次は以前言っていた。晶子は自分を崖っぷちに追い詰めてまでも俺と一緒に暮らすことを決意した、と。親との衝突、場合によっては勘当も覚悟するのが俺の責任だ、と。決して高価なものを強請ったりしない。ただ俺と一緒に居られることに喜びや幸せを見出す晶子・・・。俺以外全員男っていう面子の中に1人加わっているのも、俺と一緒に居たい、という一心だ。この時間が持てた経緯はどうであれ、2人の時間を大切にしたい。
 店内には結構人が居る。だが、年齢層は明らかに高い。俺と晶子のような年代の客は見たところ居ない。浮いて見える、と言えばそれまでだが、若い奴はスキー、年寄りは温泉と観光、なんて決まりはないから、肩身が狭いとか感じる理由はない。
 少ししてから店を出る。傘を広げて上に掲げた俺の左腕に、晶子が手を添える。降り続ける雪で絶え間なく新調される雪の絨毯の踏み心地を味わいながら、気持ちゆっくりと通りを歩く。やっぱり通りを歩く人達の年齢層は高いが、時に俺の膝丈くらいの子どもが走っていたりする。鬼ごっこか?俺が何時も過ごしている世界とは良い意味で隔絶されていると思わせる光景だ。

「あ・・・。」
「どうした?」
「祐司さん。あそこで子どもが雪だるまを作ってますよ。」

 晶子が指差した方を見ると、家と家の隙間で数人の子どもが雪だるまを作っている。背丈の関係であまり大きなものは作れないようだが、並んで雪の塊を転がし、力を合わせて積み重ねる。そして・・・木炭か?黒い棒らしいものを適当な長さに折って雪だるまの顔を作る。

雨上がりの午後 第1855回

written by Moonstone

「祐司さんがお友達に、私を妻って紹介してくれたのが・・・。」
「紹介くらい出来なきゃ話にならないさ。」

2005/4/16

[眠いです・・・]
 睡眠障害が復活して来たので、寝るのは夜遅く、起きるのは朝早く、という状態が続いています。寝るにしても薬を飲まなければなりませんが、その効力がある状態で強制的に目が覚めるので、当然眠気は残ります。それがだんだん蓄積されていっているので(休日の長時間睡眠では解消されない)、もう眠くて眠くて・・・。
 相変わらずソフトウェア開発環境は整いません。Perlでもそうですが、設定ファイルやマニュアルの最新版はほぼ間違いなく英語です(Rubyは日本産ですので違うようです)。製作者が海外ですから仕方ないのですが、必ずしもどのPCでも紹介されている設定で成功するとは限らないという、PCならではとも言える厄介な条件があるので、思うように進みません。
 眠気に翻弄されながら英語の設定ファイルやマニュアルを見ていると、余計に眠たくなってきます(苦笑)。読む分にはほぼ支障ない程度の読解力はありますが、専門用語が多いとかなり厳しいです。これを乗り越えないことには話にならないので、何とかやってみます。

「登録した。それにしても、1年で随分変わるもんだな。」
「俺と晶子は学部が違うし、俺は実験とかで遅くなるから、その時の連絡を公衆電話を探さなくても出来るように、ってことでな。」

 携帯を買った背景に、智一の従妹である吉弘との一件があったことは伏せる。そこまで言わなくても良いだろうし、吉弘とも和解出来た今は、嫌な奴が絡んで来てさ、とか話を切り出す必要もないだろう。そうでなくても、こういう場で愚痴めいた話は持ち出したくない。

「祐司と嫁さんへの連絡手段も確保出来たから、他に問題はないな。」
「よーし!早速出発しようぜ!」

 耕次の確認と宏一の掛け声で全員の同意が得られた。俺達は連れ立って宿を出る。まだ雪は降っている。俺は傘を広げる。スキーをする面子は傘なんて必要ないから持っても居ない。

「じゃ、俺達はスキーに行って来るから、祐司は嫁さんとゆっくり観光してろ。」
「ああ、分かった。気をつけてな。」

 耕次達は意気揚々とゲレンデの方へ向かう。俺は傘を左手に持って、晶子を中に入れて町に繰り出す。晶子の手が俺の左腕に添えられる。雪の絨毯の感触を楽しみながら、大通りに入る。
 幾つもの店が軒を連ね、商品を陳列している。勝平からもらったプリントにもあった木彫りの猿をはじめ、漬物や酒など色々ある。通りは賑やかだが五月蝿くは感じない。これもこの町ならではかもしれない。

「私、嬉しかったです。」

 最寄の店で掌サイズの木彫りの猿を手に取って見ていたところで、晶子が言う。

雨上がりの午後 第1854回

written by Moonstone

 渉から携帯の電話番号を聞いて、そこにダイアルする。渉の携帯が着信音を鳴らしたところで電話を切る。こうすれば着信履歴に入るから、後の操作は渉に任せれば良い。着信履歴をアドレス帳に載せることくらい、俺でも出来るからな。

2005/4/15

[うーん、まだ駄目だぁ・・・]
 ソフトウェア開発環境の構築で延々と悩んでいます。幾ら設定を確認しても、Webの資料と照らし合わせても間違いないのに、どうしても起動しない・・・。「ソフトウェアのインストール?そんなのCD-ROMをドライブに入れればOK」っていうのが当たり前のこのご時世、外付けHDDを付けたりすることがOSやドライバとの格闘でもあったMS-DOS時代を通過してきた私は、ある意味懐かしいと思っています。
 どれだけソフトウェアが進化しても、OSに近いレベルになると使用者が自分で設定しないといけないのは、まだ変わらないわけで・・・。よくCGIの設定が分からない、という声を聞きますが、CGIもある程度OS(この場合はサーバー)レベルの知識が必要ですから、普段の「インストーラーの指示に従っていけば良い」環境に馴染んでいる大多数の人にはやはり難しいことでしょう。
 PCが家電製品にならないのはコストパフォーマンスの悪さもさることながら、「コンセントに繋いで適当にその辺のスイッチを触れば動く」という直感的レベルに到達していない、否、出来ないからでしょう(欠陥商品を売って当然というのがそもそもおかしい)。デジタル家電だ何だと言いますが、現状では所詮家電メーカーの押し売りになって市場が直ぐ飽和してしまうでしょう。
 腕時計を見ると、集合時刻まであと30分くらいある。宿の小さな窓から見える景色に、暫し心を浸すとするか。日常生活に当たり前のように付き纏う音のない世界が、確かに此処にある・・・。

 集合時刻までに、集合場所の受付前に全員が揃った。耕次と宏一はスキー用具を持っている。本来の目的はスキーなんだから、当然と言えばそれまでだが。

「まず、これからの行動について決めるとするか。」

 耕次が口火を切る。

「祐司と嫁さんは観光だから、このまま出て自由に散策。俺を含む野郎軍団はスキー場へ向かう。集合は此処に18:00ってことで、異議は?」

 異論は出ない。この時期18:00だと真っ暗だが、スキー場には照明がある、と勝平がくれたプリントに書いてあった。町は人が住んでいるし店もあるから、夕暮れまでに帰らなければならない理由はない。

「ないようだな。じゃ、次。何処かの誰かが底引き網漁で時間を忘れる可能性があるから、そういう場合は渉から連絡してもらう。」
「それは了解だが、祐司と嫁さんはどうするんだ?」
「あ、携帯なら持ってる。」
「私もです。」
「何時の間に。」

 渉の驚きの声に、俺は照れ笑いでしか応えられない。去年の成人式会場で会った時にも、携帯を持ってないのは俺だけだったし、その時も「買う気はない」って言ったから、180度の方針転換には驚くだろう。俺はコートの内ポケットから携帯を取り出す。

「俺の携帯に電話してくれ。渉の携帯の番号は?」

雨上がりの午後 第1853回

written by Moonstone

 俺と晶子は鞄を部屋の隅に置いて、窓際に歩み寄る。一面の雪景色の中に幾つかの小さな点が動いている。あそこでは数個、別のところでは塊になって。御伽噺(おとぎばなし)の世界に来たような、何処か懐かしくもある光景だ。観光にももってこい、という耕次の説明が理解出来る。

2005/4/14

[割と平穏]
 作業用のPCがメモリ破損で新調する羽目になったので、その間は投稿用原稿の仕上げとソフトウェアの立ち上げをしています。1日の殆どをPCとの睨めっこに費やしているので、最近どうも目がチカチカします。視力そのものは既に近視+乱視で眼鏡がないと料理は勿論爪切りも出来ない(深爪になる)ですし、年齢の関係でもうこれ以上落ちることはないらしくて実際落ちていません。ですが、目がチカチカするとCRTを見るのが結構辛いです。
 以前「目の疲れにはブルーベリー!」とか騒がれていた時期があったと思いますが、じゃあブルーベリーを食べていれば目の疲れ(チカチカを含む)は気にしなくても良くなるのか、と言えばそんなことはありません。ブルーベリーに限ったことではありませんが、食べ物で「これだけ食べていれば大丈夫」なんてことはありません。ま、この話は何れNovels Group 2の「TV健康ライフ」でします(早く書け)。
 職場でも自宅でもPCのCRTは全部液晶なのですが(作業用のPCだけブラウン管)、輝度が高いのが問題なのかもしれません。かと言って輝度を落とすと今度は見難いという問題が発生します。ブラウン管の頃はフィルターを付けていたのですが、液晶でも必要かな、とか思っています。

「夜のお食事は18時から20時、朝のお食事は7時から9時となっております。玄関は0時に施錠いたしますので、お出かけの際はそれまでにお戻り願います。」
「はい。」
「ごゆっくりどうぞ。」

 小母さんの案内を受けて、俺達は廊下を少し歩いて階段を上って2階に出る。板張り−フローリングという表現は似合わない−の床が続いていて、一定の間隔でドアがある。

「じゃあ、一旦部屋に荷物置いて、さっきの受付前に14時集合としよう。部屋割りは、祐司と嫁さん、俺と渉、勝平と宏一ってことで。」
「えー。俺、祐司の嫁さんと一緒が良いー。」
「宏一、早死にしたいのか。」
「俺達は犯人と事件の背景が分かりきったサスペンスドラマへの生出演なんて、真っ平御免だ。その口生かして、スキー場で底引き網漁に励め。」

 宏一のとんでもない不満の声に、渉と耕次が釘を刺す。冗談だとは分かってるが、宏一には油断ならない。何せ、高校時代俺と付き合っていた宮城にも度々ちょっかい出して来たっていう「前科」があるからな。
 鍵を持った俺は、直ぐ近くの壁に貼ってあった木彫りの部屋配置図と鍵の番号を見比べる。202号室は・・・右の廊下を真っ直ぐ行って、端から2番目か。晶子が隣に居るのを確認してから、部屋に向かう。・・・ん?連中も同じ方向だ。勝平が一括で予約を取ったから、固まっても無理はないか。
 耕次が端の201号室、勝平が203号室のドアを開ける。俺と晶子の部屋は連中に挟まれてる。勝平の奴、何か狙ってのことか?突っ立ってても仕方ないから、ドアを開けて中に入る。

「わぁーっ。凄く良いお部屋ですねー。」

 続いて中に入った晶子が、部屋の全貌が見えたところで歓声を上げる。部屋は2人には十分な広さで、床の間もある。水墨画のような白黒の絵が描かれた掛け軸までセットだ。下半分が曇りガラスの窓からは、雪に覆われた町並みが一望出来る。

雨上がりの午後 第1852回

written by Moonstone

 俺達は2列になって、「ご宿泊様記載帳」という仰々しいタイトルが踊る紙に名前と住所、電話番号を書く。こういうのは宿では何処でもあるもんだ。耕次と俺は勝平から鍵を受け取る。・・・そう言えば2人部屋だったな。俺の鍵は202号室となっている。

2005/4/13

[メモリ破損]
 4/6に「作業用PCが自動リセットする」という旨のお話をしましたが、その後も一向に回復せず、Webで彼方此方調べ回っていたらOSかメモリの破損のどちらかという可能性が浮上して来ました。前者は別に今回に始まったことではありませんが(Windows(特に98とMe)でトラブルがない方が珍しい)、後者は最悪。どうにも直しようがありません。
 事態打開のためにHDDのフォーマットから始めたのですが、何度実行しても途中で「致命的エラー」が発生。急遽販売店の担当者に来てもらって診断してもらった結果、「メモリ、壊れてます」。・・・やはりそうかとは思いましたが、最悪の結果です。厄介なことに、壊れたメモリが現在では入手出来ない可能性がある、という話。組んでもらったのが5年前ほど前ですが(過去ログを探すと書いてあると思います)、電子機器の5年っていうのは長いですからね・・・。特に欠陥品を売るのが当然視されるPC業界ではある意味PCは消耗品と考えた方が良いのかもしれません。何て金食い虫の消耗品なんだ(怒)。
 兎に角作業用PCがないことにはどうにも仕事が進まないので、新たに購入する羽目に。またソフトウェアやドライバを1からインストールするのか、と落ち込んでいます。食欲もなし。メールのお返事はもう暫くお待ちください・・・。
 イベントや特産品の案内を見たところ、かなり寛げそうだ。俺と晶子はスキーをしないから、その分を観光に回すことが出来る。どんな時間が待ってるんだろうな・・・。

 一面の雪景色。そう表現するしかない光景が広がっている。何度かの待ち合わせを経てようやく到着した奥平駅で降りて、そこからバスに揺られること約30分。伝統的な日本家屋が連なる家が白一色に染めた軒を連ね、その奥に広大なゲレンデが見える。若者と中高年者のレジャーが融合した空間だ。
 今もしんしんと雪が降っている。中高年者が目立つ通りは、人の数こそそれなりにあるものの静かだ。人が時間に追われることなく、緩やかに過ごす町・・・。此処だけ時間が止まったかのような錯覚を覚える。
 勝平を先頭にして俺達は歩く。宿の予約や切符の手配といった実務的なことをしたのは勝平だからな。地図を手にした勝平について歩いていくと、大きめの家、というより屋敷が目立ってくる。その看板は「○○荘」とか宿を示すものだ。
 更に歩いていく。山の麓(ふもと)にしては幅の広い川に掛かった橋を渡ると、ゲレンデがより大きく見えてくる。此処にも古い町並みがあって、時間が緩やかに流れているように思う。その町並みの一角にある、規模こそ大きいものの見た目は周囲と同じ屋敷に入る。「奥平湯元館」。此処が俺達の年末年始を過ごす宿だ。中も何処か懐かしく思わせる建物の概観と同じ伝統的な雰囲気だ。こんな宿がインターネットで予約なんて、ちょっとミスマッチな気がしないでもない。勝平が、病院の受付のようなカウンターに向かう。

「いらっしゃいませ。」
「予約をしておいた、和泉です。」
「和泉様ですね。恐れ入りますが、予約番号をお願いいたします。」
「484-7679-0028です。」
「少々お待ちください。」

 受付の小母さんが、宿の雰囲気にはどうも合わないPCを操作する。建物は昔のままでも、システムは変わってるんだな・・・。当たり前と言えばそうだろうが。

「和泉勝平様、本日12月29日より来年の1月3日までの5泊6日、朝夕のお食事つきで二人部屋を3室のご利用でご予約いただき、昨日お一方のご予約を追加。以上でよろしいでしょうか?」
「はい。」
「ご利用ありがとうございます。こちらがお部屋の鍵になります。恐れ入りますが、皆様のお名前をこちらにご記入願います。」

雨上がりの午後 第1851回

written by Moonstone

 晶子と一緒にプリントを捲っていくと、最後の方に交通案内があった。テキストによる簡潔な紹介を先頭に、公共交通機関を使う場合、車を使う場合、ちょっと大袈裟な印象もあるが、小宮栄空港−小宮栄の駅から直通バスがある−からのアクセス方法まで地図や路線図を添えて詳細に記載されている。新幹線だと・・・奥平で降りて、そこからバスを使うのか。スキー場は車で行かないと不自由する場所が多いから、新幹線の最寄り駅もこだましか停まらないんだろう。今はちょっとしたことでも車を使う時代だからな。

2005/4/12

[苦戦中]
 仕事に使うソフトウェアのインストールは成功したんですが(圧縮ファイルを解凍するだけなので)、環境設定に問題があるのか、最初の関門である「readme.txt」的な画面が目標どおりに表示されなくて頭を悩ませています。これが出来ないことには正常にプログラムが処理されるかどうかが分からないので、避けては通れません。資料が少ないのもネック。いきなりサーバーで実行出来ませんから(ダウンさせたら洒落にならない)最悪自分のPCがKOされるだけで済ます環境作りをしているわけですが、これがなかなか・・・。
 そんな中投稿用の原稿の最終チェックをしたりもしているのですが、どうも上司の目が冷たい・・・。前にもお話しましたが、今手がけている仕事が電子機器の設計・製作という一般のイメージ(半田ごて握って云々)とは違って殆どPCに向かってのものなので、「仕事してない」と思われてるんでしょう。先のソフトウェアの作業環境の構築も、傍から見れば検索してWebページを表示して、プログラム書いて表示して、の繰り返しですからね。
 被害妄想なのかもしれません。一時よりはましになったとは言え、精神的にはまだ不安定で低空飛行中ですから。ただ、自分が時には夜中まで懸命にやっていることへの理解が得られないのは、ね。昨日の会議の席上投稿用原稿の最新版を回覧した際にも、他の人が分野外でもそれなりに見てくれる中、上司は一瞥して次、でしたし(これが一番ショック)。昼間は頭痛もありましたし、ちょっと危ないかな・・・。
 俺の両親は今は2人揃って自営業だが、父さんが会社勤めをしていて俺と弟が小学生の頃には、夏期休暇を利用して家族旅行に連れて行ってくれた。旅行と言っても宿の予約を取るだけで後はその日その時の状態−天気とか道路状況とか−で何処に行くかを決める、という行き当たりばったり的なものだったが。
 温泉には高校の卒業旅行で、当時付き合っていた宮城と2人きりで行った。それ一度きりだが、場所は奥平じゃなかった。だから、俺もどんな場所なのかは興味がある。

「お取り込み中のところ申し訳ないが、祐司。これをやる。」

 前から声が掛かる。見ると、勝平が座席越しにプリントの束を差し出してひらひらさせている。俺はプリントを受け取る。下の方にURLが記載されているそれは、奥平高原のWebページを印刷したものだった。俺はそれを晶子に手渡す。

「祐司は初めてらしいって耕次が言ってたから、ページを印刷しておいたんだ。さっきの話からするに嫁さんも初めてだそうだから、丁度良いだろう。観光地としても申し分ないところだ。」
「悪いな、勝平。」
「礼は、現地入りしてからたっぷり返してもらうから心配するな。」
「どういう意味だ?」

 勝平は俺の問いには答えずに座席に戻る。勝平は理論派である一方、宏一と並ぶ悪戯好きでもあるからな・・・。何を企んでるのかは知らないが、晶子に妙な手出しをすることだけは絶対にさせない。

「へえ。木彫りの猿の人形とか売ってるんですね。」

 晶子は俺にプリントを広げて見せる。「奥平特産品の1つ」として、掌サイズ、ストラップのマスコットに丁度良い大きさに始まり、何処に置くんだと聞きたくなる大きさまで揃った木彫りの猿が紹介されている。他にも年末年始に行われる「年越し朝市」やら、イベントも結構ある。

雨上がりの午後 第1850回

written by Moonstone

「私、スキー場もそうなんですけど、温泉も初めてなんですよ。」
「そうなのか。」
「今まで旅行と言えば、せいぜい学校の修学旅行くらいでしたから・・・。」

2005/4/11

[今年は花見出来ず・・・]
 去年は夜桜見物に出かけて、写真撮影もしたんですが(今の背景写真はその1枚)、今年は出来ずじまいになりそうです。土日は最近の恒例どおり午後起床でしたし(恒例になっちゃいけないんですが)、それ以外は作品製作やら何やらで、気付いた時には日付を超えようとしていました(汗)。こちらでは月曜から雨らしいので、満開だった桜は散っちゃうでしょうね・・・。
 今年は開花直前に寒さが戻って来て、もう暫くずれ込むかな、と思っていたら急に暖かくなって一気に開花、となったようです。私の通勤経路と職場の敷地内には桜があるので、開花の様子などは一応見ています。まあ、今の身体で彼方此方出歩いて体力を使うと2、3日影響するので、花見に行かなくて良かったのかもしれませんが・・・。
 更新がずれ込み気味ですが(今日付はA.M.2:00頃)、久しぶりに新作を公開できた「Saint Guardians」に投票所Cometで票が入って嬉しく思っています。こちらも連載6周年&7年目を迎えた長編作品ですから、何としても続けていこうと思っています。

「間もなく13番ホームに、10時20分発こだま629号、奥濃戸(おくのと)行きが到着いたします。危険ですから、黄色い線の内側に下がってお待ちください。」

 アナウンスが流れる。ホームから線路に降りようにも、俺の肩くらいまでの高さがある柵があるから、降りられない。俺達一行が耕次を先頭に並んでいるのは、柵の稼動部分らしいところ。乗降口が丁度その部分に合わさるように停止するんだろう。転落事故防止のためだな。
 久しぶりに目にする新幹線の車体が近づいて来た。ホームに滑り込んで来た新幹線は随分スピードを出しているように思ったがスムーズに減速して、窓や中の乗客の輪郭がはっきりして来る。停止した時には、柵の稼動部分に出入り口がぴったり合わさる。
 ドアが開くが、出て来る客は少ない。小宮栄は大都市だから、帰省ラッシュだと乗り込む客の方が多い筈だ。直ぐ乗り込む側にシフトする。中に入って開いた自動ドアから客室に入る。・・・やっぱり普通の車両とは違う。座席の幅も広いし配置もゆったりしている。通路も広い。それに対して客は明らかに少ない。特急券に記載されている座席番号と見比べつつ前に進む。
 耕次と渉、勝平と宏一、そして俺と晶子のペアで、進行方向に向かって左側の座席に座る。窓側は晶子、俺は通路側だ。鞄は足元に置く。普通の車両でこうすると足元が窮屈になるんだが、こうしても余裕がある。窓から見える景色がゆっくり動き始める。
 晶子と泊りがけで遠出するのって、久しぶりだな。去年の夏にマスターと潤子さんと一緒に海に行って以来、か。あの時は・・・偶然高校時代の友達と一緒に来ていた宮城との関係を清算したことが一番大きな出来事だったな。今回は俺の方が高校時代の友人と一緒ってことには、何か不思議なものを感じる。

「奥平って、どんなところなんでしょうね。」

 車内アナウンスが流れた後、晶子が言う。

雨上がりの午後 第1849回

written by Moonstone

 耕次を先頭に歩いて行く。切符に印刷されているグリーン車の乗り場まで来ると、混雑はホームに出たときに見たものより随分緩和されている。尚のこと、勝平のグリーン車選定理由と耕次の補足、そしてそれに対する俺のせせこましさを思い知る。金は必要な時に必要なだけ使うものなんだな。

2005/4/10

[気付いた方は居られるでしょうか?]
 現在カスタマイズ中の掲示板システムの安全性向上のために、昨日付の更新の何処かでちょっと試してみたのですが、どうやら問題なさそうです。何処かは言いませんが、メールアドレス表示に少し細工をしたんです。
 何度かお話していると思いますが、私のところには毎日30〜40通、多い時は100を超える迷惑メールが来ます。此処まで急激に増えたのは、私がメールアドレスをページに記載しているからだと思います。何せWebページを巡回してメールアドレスを拾っていく悪質なプログラムが使われているですし。
 メールアドレス記載は本来必要なことだと思っています。そこをクリックすればメールソフトが起動して直ぐメールを送れますし、(フリーのものでない)メールアドレスを記載することは、誰がその作品の作者かであるかを明示することでもあるからです。圧縮ファイルにしている作品でもメールアドレスは記載してあります。署名の代わりですね。ただ、先に挙げたようなプログラムが存在し、それで迷惑メールを送りつけてくる輩は現に居ますし、今後掲示板を再起動させる上で誰が書いたものかを明示してもらうためにも、メールアドレスを吉舎視して、同時に悪質なプログラムに収集されないような対策が必要だと思っています。まだ第一歩ですが、メールアドレスを安心して記載出来る掲示板を目指して思考錯誤を続けています。

「勝平。グリーン車じゃないか、これ。」
「それがどうかしたか?金は後で貰うから心配するな。」
「そうじゃなくて、普通の指定席で良かったんじゃないのか?」
「今は帰省ラッシュ真っ只中だ。普通の指定席じゃ立ち客が押し寄せて来てのんびり座ってられない。それに、最寄の駅は観光地なのにこだましか停車しないんだ。グリーン車にしたのは電車旅の優雅さを満喫する分の料金上乗せだと思え。」

 どうも人が多いと思ったら、確かに今は帰省ラッシュだ。俺が帰省したのは去年の年末年始だけだから、その辺の事情には疎い。面子の中でも渉と並ぶ理論派−対するは言うまでもなく宏一−だった勝平らしい、説得力のある購入理由だ。

「それに、俺と宏一以外は道具はレンタルだし、スキーが出来る−祐司と嫁さんは観光だが、その目的が重要だ。道具にばかり金かけても意味がない。それに、今はのぞみの増発の関係もあってか、こだまのグリーン車はかなりコストパフォーマンスが高い。損にはならないと思うぞ。」

 耕次の補足は鋭いところを突いている。確かにやたら道具ばかり立派なものを買い揃えたところで、往復で疲れてしまったら気分も乗らないだろう。のぞみの増発に伴う弊害とも言うべきことは、研究室で少し聞いたことがある。学会の開催場所の最寄の新幹線駅がこだま停車のみで、時間がかかるし本数はないで困ってる、とか。

「じゃあ、行くぞ。」

 耕次を先頭に、渉、宏一、勝平、そして俺と晶子の順で改札を抜ける。少し歩いてホームに出たところで、勝平の購入理由と耕次の補足の正確さを目の当たりにする。ホームは大混雑だ。場所を普段使っている胡桃町駅から此処、小宮栄の新幹線ホームに変えただけ、否、それ以上の混雑だ。

雨上がりの午後 第1848回

written by Moonstone

 俺と晶子は、勝平から切符を受け取る。乗車券付き特急券か。・・・ん?グリーン車?!おいおい、勝平の奴、どういうつもりだ?!

2005/4/9

[動機は目的(2)]
 御免なさい。今日の更新に間に合わせようと粘っていたら、更新時刻がずれ込んでしまいました(汗)。決して夜桜見物をしていたわけではありません。では、昨日の話の続きと参りましょう。
 (続きです)昨年末に携帯用ページを作成しましたが、その過程で様々な制約があることやPC以上の問題を抱えていることを知りました。PCでもNetscapeとInetnet Explorerとで表示が異なりますが、携帯用ページではそれ以上の違いがあります。最大公約数を取ると使えるタグが非常に制約されます。更に、昨年末から先月まで宿泊を伴う出張が相次ぎ、更に更新出来ないところまで体調が悪化することも何度かあり、PCからでしか更新出来ないことの不自由さを感じました。元々「猫の鈴」的に買わされた携帯電話ですが、携帯電話からも掲示板などで使われるCGIにアクセス出来ることを利用出来ないか、と思うようになりました。
 しかし、CGIによく使われる言語のPerlは文字列処理が簡単な一方で、処理速度がやや遅いという欠点があります。幾らサーバーが高速化してもCGIが何時までもPerlのみで良いのか、と思っていた頃、php(Hypertext Preprocessor)という言語に注目するようになりました。phpはデータベースとの連携が容易でかなり高速、ということで昨年の仕事でも使いたかったのですが、サーバーを設置したのは私ではなかったので断念せざるを得ませんでした。
 phpの存在自体は前から知っていました。ですが、目的がないのに取得の時間を割けないという事情がありました。携帯電話からもphpで書かれたページにアクセス出来ることを知り、phpの特質を生かして今流行(?)のブログを自作出来ないか、と思うようになりました。今はphpの導入準備を少しずつ進めています。プログラミングがこれからの電子回路技術の方向性の1つになりつつある今、趣味と実益を兼ねてphpを取得しようと思っています。「こんなことがしたい」という目的が行動の動機になるのはプログラミングに限ったことではないと思います(終わり)。

「前に写真送ったから顔は知ってるだろうけど、紹介する。こちらが妻の井上晶子。」
「はじめまして。井上晶子と申します。」
「うはーっ、写真以上の美人じゃねえか!」

 早速感嘆の声を上げた宏一は勿論、他の面子も晶子に注目しているようだ。嬉しい反面、照れくさくもある。こういう場面で自分の彼女を自慢することに慣れてないからな。

「苗字が違うのは、入籍がまだだからだったな。」
「ああ。」
「とりあえず夫婦の証、結婚指輪を見せてもらおうか。」

 渉の要求を受けて、俺と晶子は左手を突き出す。薬指に輝く白銀の輝きに、耕次達は声を揃えてどよめく。

「ほうほう。ファッションとかにはてんで無頓着で有名だった祐司がプレゼントしたにしては、随分洒落た指輪じゃないか。シンプルなデザインで飽きの来ない、結婚指輪には最適の指輪だな。」
「改めて本物を見ると、モデルか女優やってても不思議じゃないな。大学のミスコンとかに出たことはある?」
「いえ、ありません。」
「これだけの美人が祐司に一本釣りされるとは、何とも奇遇だな。」
「勝平。」

 鮪(まぐろ)や鰹(かつお)じゃあるまいし、何て喩えだ。勝平は何がおかしい、と言いたげな様子だ。こいつの突っ込みに反撃しようとしても簡単にかわされるんだよな・・・。

「さてさて、そろそろ改札通るか。」

 耕次が音頭を取る。・・・あ、そう言えば乗車券と特急券を買わないと。もう面子は持ってるだろう。

「じゃ、切符配るぞ。無くすなよ、特に宏一。」
「へーへー。」
「勝平。何時切符買ったんだ?」
「ああ、ネットで宿を予約した時についでに予約したんだ。嫁さんの分もあるから心配するな。幸い1つ空いててな。まあ、5人分固めて予約したから1つぽつんと空いちまってたんだろうが。」

雨上がりの午後 第1847回

written by Moonstone

 声をかけた耕次から順にハイタッチをする。あ、そうそう。晶子を紹介しないとな。

2005/4/8

[動機は目的(1)]
 久しぶりに複数日にまたがるお話を。昨年の大半を費やした仕事、そして今手がけている仕事で、電子機器の設計・製作はほぼICの動作設計と配線に集約されているように感じます。リスナーの皆様がこのお話しを聞くためにお使いのPCに使われているCPU(Pentiumとか)にしろ携帯電話にせよ、大半は動作設計の段階から自社で手がけた(生産はアジア諸国ですが)専用ICの組み合わせです。PCや携帯電話が日進月歩で高性能・多機能・小型化の道を進んでいるのは、今までICを幾つも組み合わせて作っていた電子回路を、数個若しくは1つの専用ICに集約出来た半導体製造技術の向上が要因の一つとして挙げられます。
 ICの動作設計、と言うと想像し難いかもしれませんが、PCでそれこそプログラムを書く感覚で「こういう条件でこういう動作をしろ」と記述していって、それをシミュレーションで試して、OKなら製造、というパターンが主流です。私の仕事ではオーダーメイドに近いので、動作設計をしたICの製造を工場に任せる、というところまではいきませんが、OKまでの過程はほぼ同じです。今手がけている仕事も殆どの時間はPC(測定器も入りますが)に向かうもので、半田ごてを握って、というのはごくわずかです(それの善し悪しは別として)。
 PCに向かう時間が長くなり、プログラミングや資料捜索(1日何10回と検索しています)をしていると、プログラミング言語をどれだけ幅広く、出来るだけ深く使いこなすかが、これからの電子回路技術が進む方向の1つになると思う今日この頃です(もう1つは今流行り(?)のナノテクノロジーです)。続きは明日に。

「私が電話に出たら、あれ?此処って祐司さんの家じゃなかったか?って言われて・・・。私がそうです、って答えたら、もしかして君が祐司さんの彼女か、って聞かれて、はい、って答えたんですよ。」
「そう言えば耕次の奴も驚いてたな。明日どうなることやら・・・。」
「私はきちんと挨拶しますよ。祐司さんの妻の井上晶子です、って。」
「俺もそうするよ。面子の中じゃ俺と晶子が結婚してるってことは定着してるからな。入籍したかどうかを聞かれるくらいで大差ないだろうし。」
「皆さん、びっくりするでしょうね。」
「そりゃそうだろうな。」

 俺と晶子は笑う。面子には耕次の命令で写真を送って、驚きなり激励なりが返って来た。晶子は写真写りが良いから面子の期待−と言うべきものかどうか分からないが−は膨らむだろう。突然決まった年末年始の小旅行。何分旅行やらには縁遠い生活を送っている。どんな旅行になることやら・・・。

 翌日、俺と晶子は小宮栄行きの電車に乗っている。それぞれ大きめの鞄を持って、俺はコートの下に晶子の手編みのセーターを着込んでいて、マフラーを着けている。年末年始のせいか、時間帯の割に車内はかなり混んでいる。俺と晶子は向き合って混雑を凌いでいる。
 バンドの面子との旅行が決まったことで、旅行準備に取り掛かった。とはいっても晶子は既に着替えを持参していたから、俺が鞄に着替えを詰め込んでほぼ完了。目立ったことと言えば、晶子と一緒に、晶子の家に金を取りに行ったことくらいだ。まさか旅行に行くことになるなんて思ってなくて、何万も持ってなかったからだ。
 電車がホームに入る。やや前のめりになってその反動で跳ね返るように姿勢が元通りになるとほぼ同時にドアが開き、人波がドアに向かう。俺と晶子は鞄を持って、離れないように手を繋いで電車を降りる。混み合うホームを抜けて改札を通り、案内にしたがって新幹線の改札を目指す。新幹線の改札へは高校の修学旅行で行ったきりかな。
 人波に少し翻弄されながらも案内にしたがって歩いて行くと、時刻表や窓口といったそれらしいものが見えて来る。・・・あ、やっぱり居る。耕次に勝平、渉に宏一。耕次と宏一はスキー用具らしいものを傍に置いている。俺は晶子の手を引いて面子の方へ向かう。面子も俺と晶子に気付いたのか笑顔で、こっちだ、と言いたげに手を振る。

「よお、祐司!ちゃんと来たな!」
「当たり前だ。」

雨上がりの午後 第1846回

written by Moonstone

 金には余裕がある。今年最後のバイトが終わって大掃除をした後、雅歌ーと潤子さんからボーナスとして10万貰った。「2人共本当によく働いてくれたから、これくらいはしないとね」というのは潤子さんの弁。ありがたく頂戴した。35000円に交通費をひっくるめても、十分余裕はある。俺と晶子は席に戻る。

2005/4/7

[誰が望んだ?]
 郵政民営化を巡って小泉首相と竹中担当相に代表される「推進派」と「反対派」の攻防が伝えられています。ですが、マスコミが描くこの構図、何処かで見聞きした記憶はありませんか?かつて相次ぐ金権腐敗を受けて政治改革が叫ばれた時、政治改革が何時の間にやら選挙制度改革に置き換わり、一部マスコミ人によって「改革派」「守旧派」と色分けされ、反対するものは時代遅れだの何だのと揶揄され、税金による政治活動資金=政党助成金の導入もドサクサ紛れに行われたあの頃とそっくりではないでしょうか。
 国民の多数が郵政民営化を望んでいるか?様々な世論調査でも今国民が求めているのは「景気回復」「将来不安の解消」といった生活そのものの問題の解決(打開策)で、郵政民営化など与党が叫んでマスコミが(ここでも)既成事実として報道しているに過ぎません。その背景には、郵便貯金や簡易保険にある350兆円以上の資金を巡る銀行や保険会社の利害があることもすっかり見落とされています。またしてもマスコミは同じ愚を繰り返しているのです。
 「民間活力」を政府広報まがいに喧伝するマスコミ自身が、事実上ごく少数の系列企業によって支配されている事実。先のニッポン放送株を巡る企業間の抗争に政府財界が乗り込んで来て「既成」メディアを擁護し、即刻関連法案改正に向かった事実。真に「民間活力」が必要なのは他ならぬマスコミ自身です。政府広報程度のことしか出来ないマスコミに購読料などの資金を供給するのは、それこそ金をどぶに捨てるようなものです。
「そのおかげで雪不足気味だったスキー場も完璧。雪景色で観光にももってこいだそうだ。俺達はスキーやってるから、お前と嫁さんは観光地をぶらついてろ。どうだ?」
「雪景色の観光か・・・。35000円は当日って言うのか、宿に着いた時に払うのか?」
「そのとおり。」

 俺は受話器を耳に当てたまま晶子を見る。晶子は頷く。突然のことに戸惑うと思ったんだが、俺と一緒に居られるなら場所は何処でも良いんだな。戸惑ってるのはむしろ俺か。

「じゃあ、彼女の分を追加しておいてくれ。何か必要なものはあるか?」
「スキーをしないなら厚手の服を持って行けば良い。洗面用具その他は宿に備え付けだ。かく言う俺達も、宏一と俺以外はスキー用具を宿でレンタルするから、持ち物は基本的にお前と嫁さんと変わらないだろうな。宿代プラス交通費で5万くらい持って来い。」
「5万か。分かった。明日何処に何時に行けば良いんだ?」
「明日の10時、小宮栄の新幹線改札口前だ。」
「さっき、俺達、って言ったけど、全員帰省してるのか?」
「ああ。話を切り出したのは俺だ。来年は就職やら卒研やらで遊んでる暇はないだろうから、今年のうちに遊んでおくかって思ってな。丁度遠出してる面子も全員年末年始で帰省することになってたし、勝平の工場も年末年始休みだってことで、じゃあ一足早い卒業旅行とでも洒落込むか、ってのが話の流れだ。ちなみに面子は全員俺の家に居る。あ、今、勝平が宿に予約追加をしたところだ。」
「早いな。」
「早々と嫁さんに結婚指輪填めさせて、同居までしてるお前に言われたくない。」
「同居は期間限定だ。」
「同居してることには変わりないだろ。ご対面の楽しみは明日に取っておく。じゃあな。」
「ああ。」

 俺は受話器を置く。明日の騒動が何となく想像出来るな・・・。写真は前に面子に送ったが、本物を見るのとではまた違うだろうし、声が聞けるとなると尚更だろう。

「いきなりこんなことになっちまって、悪いな。」
「いえ。祐司さんと一緒に居られるなら良いです。」

雨上がりの午後 第1845回

written by Moonstone

「奥平スキー場は温泉が隣接してる観光地だ。お前の住んでるところはどうだったか知らんが、火曜日に雨が降っただろ?」
「ああ。」

2005/4/6

[自動リセット]
 本業でウィンドウをキャプチャーする必要があるのですが、そのソフトウェアが動作するPC(メール受信や原稿作成に使うPCとは別にあります。ソフトウェアに不具合があってPCのデータが壊される危険性がありますから)が、どういうわけか勝手にリセットしてしまうという奇怪な現象に見舞われています。Windowsの起動画面(XPのロゴが表示されるところ)までは出るんですが、そこからHDDにアクセスして間もなく勝手にリセットして最初から、の繰り返しです。
 やっぱりアップデート版故の不具合かな、と思っています(Win98からアップデートしたものです)。昨年にもインストールしたはずのドライバが認識されず、一旦アンインストールしてから再インストールしてようやく、ということもありましたし、細かいトラブルを挙げればきりがありませんからね。こんな欠陥商品を売っていて責任が問われないというのは、PC業界ならではでしょう(溜息)。
 最悪普段使っているPCで起動するしかないのですが、それが万が一トラブルに遭遇すると業務全般が滞ってしまいますし、Windowsの「前科」を考えるとそんな危険な賭けには出られません。かと言ってウィンドウをキャプチャーしないことにはその仕事がどうにも先に進まない、と・・・。頭痛の種は一向に減りません。Win98からインストールのやり直しかな・・・。
「何?」
「1人余っちまうからどうしようか、って面子と相談してたところだ。丁度良い。彼女、じゃなくて嫁さん連れて来い。」
「ちょ、ちょっと待て、耕次。俺はスキーやったことないし、予約だっていきなり1人加えるわけにはいかないだろ。」
「減る分にはキャンセル料が出るが、1人増えるのはその分の料金出せば問題ないそうだ。元々2人部屋だしな。」
「1人幾らだ?」
「ネット予約での割り引きが効くから、朝夕の食事込みで1泊7000円。つまり35000円だ。」
「ちょっと待ってくれ。」

 こんなこと独断で決められない。俺は受話器を押さえて隣に居る晶子に尋ねる。

「俺の高校時代のバンドのメンバーが集まって、奥平スキー場に行くって言うんだ。で、2人部屋3つで予約を取ったから、晶子も連れて来い、って言うんだ。晶子はスキー出来るか?」
「いえ、一度もしたことないです。」
「じゃあ、キャンセルだな。」

 俺が電話に戻ろうとしたところで、晶子が俺の腕を捕まえて止める。

「キャンセル料が出るんですよね?」
「ああ。」
「スキーは出来ませんけど、祐司さんと一緒に行けるなら私も行きます。」
「・・・ちょっと待って。」

 俺は電話に戻る。スキーが出来ない人間が行ったところでどうしろって言うんだ?

「俺も彼女もスキーは出来ない。やったこともないんだ。お前達が滑るのをぼうっと眺めてるだけになるんじゃないか?」

雨上がりの午後 第1844回

written by Moonstone

「勝平がネットで手配した。奴の親父さんの会社も年末年始休みってことで頼んだんだ。」
「・・・生憎だけど、今年の年末年始は彼女と過ごすことにしてるから。」
「それがだな。予約は2人部屋3つだったりするんだな、これが。」

2005/4/5

[一応復活]
 日曜は部屋の電灯を一度も点けず、明るいうちに少し食べ物をつまんで後はただ寝てました。何もやる気が起きず、虚無感と負方向への思考に支配されていたので、寝る以外に思いつかなかったんです。
 で、昨日からの本業には行って仕事してきました。定例の会議があったんですが、他愛もないことばかりで感情が爆発しそうになるところをギリギリのところで堪えていました。何で役職つきの人間が然るべき場所で言わないであんなところでああだこうだ言うんだよ・・・。しかも長時間・・・。
 どうにか日付を越えたあたりから持ち直してきたので、昨日の分と併せてアップしました。暫くまともな更新は出来ないかもしれませんが、ご了承ください。

「はい、安藤です。」

 受話器を手にした晶子の顔に疑問符が浮かぶ。悪戯電話の類だったら俺が追い払わないと・・・。

「・・・え?はい。祐司さんの家です。間違いありません。・・・はい、そうです。祐司さんに代わりますので、少々お待ちください。」

 何やら妙な応対の後、晶子が受話器を押さえて俺の方を向く。

「祐司さん。本田耕次さんって方からお電話です。」
「耕次か。高校時代のバンドのヴォーカルとリーダーやってた奴だよ。」

 クッキーを飲み込んだ俺は、席を立って電話を代わる。

「もしもし、お電話代わりました。」
「代わりました、じゃない!とうとう同居始めたのか!」
「同居・・・。期間限定だけどな。」
「月曜から電話かけてたのに誰も出やしないと思ったら・・・。」
「月曜と火曜は彼女の家に泊まってたんだ。で、どうかしたか?」
「まあ、そっちの方は後でじっくり追求することにするか。」

 耕次はひと呼吸置く。

「明日から3日まで、バンドの面子で奥平(おくひら)スキー場に行くから、お前に電話したんだ。」
「奥平スキー場か。年末年始なのによく予約取れたな。」

雨上がりの午後 第1843回

written by Moonstone

 掃除が終わって綺麗に片付いた部屋で、紅茶と潤子さんに分けてもらったレーズンクッキーで寛いでいたところに、電話が鳴る。1週間以上家に居なかったから、親が何事かと思って電話して来たか?泊り込みの前にその旨を伝えておいた筈だけどな・・・。俺が食べかけのクッキーを慌てて食べて出ようとした時、晶子がカップを置いて立ち上がり、電話機へ向かう。・・・良いか。晶子と付き合ってるってことは去年帰省した時に親に話してあるし。

2005/4/4

[・・・]
 もう嫌。

「それより、・・・いきなりで悪かったな。3コマで終わるところを1コマ分余計に待たせてしまって・・・。」
「そんなことなら気にしないでください。祐司さんにとって大切なことですし、一緒に通学するって約束はきちんと守ってくれたんですから、それで十分ですよ。」

 はっきり言わなくても、俺がしたことは自分の都合を晶子に押し付けたに他ならない。配属を希望している研究室を紹介してもらえるということで半ば有頂天になっていた。時間が経って晶子と話しているうちに頭の火照りが冷めて、晶子の気持ちが嬉しいと思うより申し訳なく思う気持ちの方が大きい。晶子が少しも俺を責めたりしない分、罪悪感が募る。

「帰ったらバイトですね。」

 あ、そう言えばそうだったな。店の営業は補講と同じく28日まで。残すところ後2日か。今年もあっという間だった、と感慨に耽(ふけ)るのはもう暫く先だな。補講が終わると共同生活の場は俺の家に移る。去年は俺が帰省していた関係で一緒に過ごせなかったから、その分一緒の時間を大切にしないとな・・・。

 今年の講義は全て終わり、同時に今年のバイトも終了した。マスターと潤子さんとは来年もよろしくお願いします、と挨拶を交わした。これから約1週間、俺と晶子の生活の舞台は俺の家に移る。着替えが詰まっているらしいバッグを持った晶子を朝出迎えて朝食を食べてから大掃除。「もうちょっと整理整頓が必要ですね」と注意を受けたが、笑って誤魔化した。

雨上がりの午後 第1842回

written by Moonstone

 だから先んじて来年度で卒業する手筈になっている俺は、来年度の学費は自分で払う、と言った。そうすれば年額100万円近い金が浮く。それで弟が受験する大学の条件が緩和されるわけじゃないが、親も弟も多少は気が楽になるだろう。気休めにもならないかもしれないが、今の俺が出来るのはそれくらいだ。

2005/4/3

[性根入れ替えるつもりだったんですが・・・]
 目覚めたのが夕方の5時、しかも電話のコール音でようやく目覚めた有様です。その上もはや休日恒例となった体調不良の悪化が出て来て、何1つ手が付けられませんでした。食事も軽食を食べるのがやっとでした。
 昨日言ったことを思い返すと、自己嫌悪しか出来ません。これ以上言葉を連ねても見苦しい言い訳にしかならないので止めにします。とりあえずこれから薬を飲んで寝ます。
「良かったですね。研究テーマは選べました?」
「ん・・・。これが良いかな、っていうテーマはかなり絞れた。それに、今のバイトを続けながらでも卒業研究は出来る、ってことも分かった。研究室の1日みたいなものを教えてもらってさ。」
「良かった・・・。」

 晶子は安堵の表情を浮かべて、小さな溜息を吐く。

「卒業研究で祐司さんが今のバイトを続けられなくなったら、祐司さんの生活が大変になるでしょうし、かと言って、時間をやりくりしてバイトに来て、なんて言える立場じゃないですし・・・。」
「俺もそれが一番の懸案だったんだ。来年は弟が大学に入るから尚更仕送りを増やしてくれ、なんてとても言えないし、でも月10万ってのはきついし、どうしようかと思ってたんだ。」

 弟の大学進学には、自宅から通学出来る国公立大学のみ、という条件が課せられている。自宅から通学、という接頭語を除けば条件は俺と同じだ。月10万の俺への仕送りに2人分の学費、そこにもう1人分の仕送りを捻出出来る余裕は家にはない、というのが親の見解だ。
 俺とて一人暮らしをするにあたっては、この大学なら、という条件があった。金を稼ぐことがどれだけ大変かということが身に染みて分かっている今、親が提示した条件や見解に異論を挟むつもりはさらさらない。

雨上がりの午後 第1841回

written by Moonstone

「どうでした?研究室の紹介は。」
「研究室総出の歓迎、って感じだったよ。あそこまでさせておいて、いざ4年になって別の研究室に入ったら、一生恨まれると思う。」

2005/4/2

[深酒・・・]
 昨夜、職場の送別会がありました。昨年度いっぱいで定年退職された方で、私が機械工作(ま、板に穴を開けたりすることです。機器として形にするには箱に入れないといけませんから必須です)四苦八苦しているところに「なーにやっとるんだね」といらして、「こうやってやるんだよ」と仰りつつ手早くやってくれたものです。優に私の倍以上の年齢なんですがまだまだご健康で、新しい人生を謳歌していただきたいと思います。
 で、その送別会で約3ヶ月ぶりに酒を飲んだ私は(此処の常連さんはご存知でしょうが、私は服用している薬の関係で飲酒は原則禁止です)ビール瓶3本を空にして、これまでの寝不足も重なって、帰宅したら寝てしまいました(汗)。思えば現在通院している病院に行くまで、毎日のように酒を飲んで寝ていたものです(真似してはいけません)。
 先週の土日は完全にくたばっていたので更新準備など出来ているはずがなく(威張れない)、目覚めた今(4/2 A.M.2:50頃)このお話をしています。性根入れ直して新作を書き下ろして、明日付の更新で公開します。暫くお待ちください。
 智一が言ったとおり、久野尾研の研究内容の説明は野志先生が全体のガイド役、院生が各研究テーマ説明の主体になっての随分突っ込んだ内容で、他愛もないであろう俺の質問にも懇切丁寧に答えてくれた。そして、「久野尾研の1日」とも言うべき内容を教えてもらった。俺がバイトで生計を補っていることは野志先生も知っていて−前に堀田先生から召集を受けた時に聞いたそうだ−、今のバイトをしながらでも卒業研究は出来ることが分かった。一番の懸案とも言える内容が判明したのはありがたい。
 そして、俺がPCを買って配属に臨んでいることを野志先生をはじめ院生や4年が歓迎してくれた。「そこまで本気なら、うちとしても総力を挙げて向かえるよ」と野志先生は言っていた。つまりは「他所の研究室の誘いに乗るなよ」と釘を刺されたわけだ。PCを買ったんだから、ということで、実際に4年がPCを使って、担当している研究テーマについての2、3分程度のプレゼンテーションを実演してくれた。4年は卒業発表が控えているし、研究室の方針として「自分の研究テーマを説明出来る」態勢を整えているそうだ。
 そのプレゼンテーションが終わった直後、とどめと言わんばかりに研究室の頂点に君臨する久野尾先生が登場。プレゼンテーション開催に至った経緯を野志先生が説明すると、久野尾先生は甚く感心した様子で「君が4年になるのを楽しみにしているよ」と言ってくれた。
 後期試験をクリアすれば、久野尾研配属への道が大きく開ける。別の角度から音楽に、音にアプローチ出来る門が用意されたなら、後は俺自身がそこに至るまでの道を切り開くのみ。心弾むものを感じながら、図書館への道を急ぐ。
 すっかり外は暗くなったが、まだ図書館は開館時間でIDカードなしでも入れる。逸(はや)る心を抑えて3階に上り、307号室を探す。程なく見つかった307号室には「使用中 Using」と出ている。俺がノックすると、中で物音がしてからドアロックが外れてドアが開き、晶子が顔を出す。

「お待たせ。行こうか。」
「はい。」

 鞄を持った晶子と一緒に図書館を出る。電灯が規則正しい間隔で照らす大通りに入る。

雨上がりの午後 第1840回

written by Moonstone

送信元:井上晶子(Masako Inoue)
題名:待ってますからね
メールありがとうございます。祐司さんからメールが届いた時は生協でお昼ご飯を食べた後ゼミの部屋に居たんですが、何時ものように歓声を受けつつ囲まれてしまいました。私は図書館の307号室で待っています。時間は気にしないで、祐司さんが納得出来るまで説明を受けてくださいね。

2005/4/1

[6周年の第1日目]
 今までトップページで「○周年」と告示したことはなかったように思いますが、6周年となる今回は表記してみました。記念となる新作が何もないというのが残念ですが、これからの更新で代えさせていただくことにします。今後ともどうぞよろしくお願いいたします(礼)
 で、背景写真を桜に変えたわけですが、生憎私が住んでいる地方ではまだ咲いていません(汗)。このところ寒さがぶり返しましたからね。今月は背景写真を1週間単位で変えますので、見てやってください。大きいサイズをご覧になりたい方はPhoto Group 1へどうぞ。背景写真はそこで展示しているサムネイルのどれかです。
 写真と言えば、携帯用ページの写真を追加してませんね・・・。候補はあるんですが、20kB以内に収まるように(でないと私の携帯ではエラーになる)する加工が面倒なんですよね。あれが一発で所定の容量とサイズを満たすように変換出来れば良いんですが・・・。ま、ぼちぼち追加していきます。
 本当に急ぎの連絡だが、仕方ない。俺はメールを送信する。多分晶子は怒らないと思うが、話が違う、という気持ちは生じるかもしれない。後で事情を説明した方が良いだろうな。

「祐司。早速晶子ちゃんに連絡か?」
「ああ。余計に待たせることには違いないからな。」

 携帯を仕舞って戻ったところで智一が声をかけて来る。隠す理由はないから俺は素直に答える。俺が晶子と大学の行き帰りを同じくしていることは、智一はとうに知ってるし。

「じゃあ、ゴミ片付けて講義室に行こうぜ。」
「智一は先に行っててくれ。これは俺が出したゴミだから、俺一人で片付ける。」
「まあ、そんな固いこと言うなって。運ぶくらいはするからさ。」

 智一は俺の肩をポンポンと叩いて、さっさと梱包材を抱えてさっさと出て行く。・・・何だかんだ言っても、良い奴なんだよな。横の繋がりが極端に少なくなった大学で巡り会えた数少ない相手の1人。大切にしないとな。

 久野尾研での説明を受けた後、俺は図書館へ向かっている。3コマめの補講が始まる直前に、晶子からメールが届いた。

送信元:井上晶子(Masako Inoue)
題名:待ってますからね
メールありがとうございます。祐司さんからメールが届いた時は生協でお昼ご飯を食べた後ゼミの部屋に居たんですが、何時ものように歓声を受けつつ囲まれてしまいました。私は図書館の307号室で待っています。時間は気にしないで、祐司さんが納得出来るまで説明を受けてくださいね。

雨上がりの午後 第1839回

written by Moonstone

送信元:安藤祐司(Yuhji Andoh)
題名:終わるのが遅れるから、連絡
補講が終わってから、先生に誘われて研究室の説明を受けることになった。だから終わるのが遅くなる。終わったらメールを送るから、それまで何時もの場所で待っていて欲しい。急なことで悪いが、また後で。ちなみに注文しておいたPCは受け取った。帰宅したら見せるよ。

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