芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2004年10月31日更新 Updated on October 31th,2004

2004/10/31

[残すはあと二月、ですか]
 時間の流れは早いもの。今日で10月も終わりです。明日は月初め恒例の背景写真変更がありますが、そろそろ紅葉シーズンということで週単位で背景写真を変えようと思います。季節によって背景に出来る写真の数にかなりばらつきがあるので(夏が少ない)、今後はこの辺のバランスも図っていきたいところです。
 話は変わりますが、スパムメールの多さに辟易しています。一時収束の気配を見せたかな、と思っていたのですが、どうやって考えるのか知りませんし知りたくもありませんが、様々な題名のスパムメールが舞い込んで来て、受信だけでもかなりの時間を要します。勿論即刻ゴミ箱行きですけど。
 本当にメールアドレスの無断使用をした段階で犯罪にするくらいのことをしないと、この手の問題はもう解決しないレベルに達していると思います。企業などは販促活動が制限される、と反対するでしょうが、DMをばら撒かないと顧客を集められない体質や風土の方が問題ではないでしょうか?望みもしないメールを受け取って迷惑を被ることにもっと傾聴すべきだと思います。
 あれから程なく店を出た俺と晶子は、晶子の家にで紅茶を飲んでいる。明日からまた大学との行き来が始まるのか・・・。何だか最近、時間の経過がやたら早まったように思う。年末が近付いているのもあるんだろうが、そんな忙しない時間の中でこうしてゆったり寛げる時間があるのはありがたい。

「私、生協でチラシやパンフレットを集めておきますよ。」

 紅茶を半分ほど飲んだところで晶子が言う。

「明日実験の祐司さんは何時生協に行けるか分からないでしょうし、行けたとしても休み時間くらいゆっくり休みたいでしょうから、チラシやパンフレットを集めるくらいのことは私がしておきますよ。」
「良いのか?」
「ええ。お昼は同じゼミの娘と一緒ですし、その行き帰りにでも立ち寄りますよ。祐司さん絡みと分かれば、同じゼミの娘も納得してくれる筈ですし。」
「納得、ねえ・・・。」

 俺は思わず苦笑いする。前の披露会で晶子が俺と付き合っていること、お揃いの携帯を持っていることや左手薬指に指輪を填めていることに注目が集まっていることが良く分かった。そんな晶子が俺のためにPC関係のチラシやらを集める、と言えば連中がどういう反応を示すかくらい簡単に想像出来る。

「明日の実験も時間がかかりそうですか?」
「ああ。まだ電動機関係の実験だからな。あの手の実験はどうしても時間がかかるんだ。」
「本当に大変ですね。」
「俺は当事者だからまだ良いさ。それより晶子は何時終わるか分からない俺の実験終了を何時間も待つんだから、その方が大変じゃないか?」
「いえ、祐司さんと一緒に大学と自宅を行き来出来ますから、それ自体が楽しみなんです。月曜の夜は一緒に晩御飯が食べられますし。」

雨上がりの午後 第1693回

written by Moonstone

 大学で買う、か・・・。今まで色々と生協を利用して来たが、雑誌やCDを買ったり食堂で昼飯を食うこと以上の利用はしてこなかったな。する機会がなかったというのもあるんだが、明日は実験で時間の使い方には割と余裕があるし、昼休みにでも店舗でチラシを集めたりして選ぶとするか。お値打ちものが予算内で十分買えるかもしれない。

2004/10/30

[政府は何をしているのか?]
 今尚震度6級の余震が続いている中越地方の地震災害。地震で直接死ななかったものの避難生活の心労などで死亡する人も出ており、阪神・淡路大震災で財産一切を失った被災者が仮設住宅で孤独死したり、生活復旧の目処が立たないことが続いている中(マスコミが書かないだけ)、自然災害の猛威の前に困窮する一般市民がまたも増えてしまいました。
 一方、その一般市民が主権者として選んだ国会・地方議員や行政は何をしているのか?政府は未だ地方任せで情報収集すらマスコミ報道に頼り、物資支援などは完全に地方・市民任せ。これで「地方分権」と声高に叫ぶ政府も政府ですが、そういった矛盾を指摘しないマスコミの体たらくには怒りを通り越して呆れるばかりです。
 こういった事態こそ国権の最高機関である国会がリーダーシップを取って、現地に人や物資を派遣したり、生活・復旧支援を行政に促するべきです。にもかかわらず何もしないばかりか、皇族を囲む園遊会での天皇発言について談話を(今回はその内容について言及しません)出したりする脳天気ぶり。税金という共有資金を注ぎ込む先を完璧に間違っていると思うと同時に、そういったことを指摘しないマスコミの堕落ぶり。根元から腐りきったこれらの業界こそ再編とやらが必要ではないでしょうか?とても新聞を購読する気になれません。
「それにメモリを増やすのはHDDの容量を増やすより金がかかる。HDDなんて今じゃ何GB単位で最初から持っているのが当たり前だし、後で簡単に増設出来る。それより最初に買える範囲でメモリをたっぷり積んでいる機種を買った方が良いね。ソフトは後で順次買い足してインストールしていけば良いし、余分なソフトでHDDを食われる心配もないし。」
「CPUの性能が出来るだけ高くてメモリが出来るだけ多い、ってことを選ぶ基準にすれば良いんですね?」
「そういうことになるね。後は財布の中身と相談ってことになる。」

 やっぱり今日買えなかったのは結果的には正解だったようだ。大学で安く買えるならその方が良いし、必要なソフトももっと情報を仕入れて絞り込むことも出来るだろう。晶子を散々連れ回した上に買えなかったことに落胆していたが、ものは考えようかもしれないな。

「まあ、上を見ればきりがないし、安く上げようと思えば選り取りみどりだから、ノートなら大体30万を目安にすれば良いんじゃないかな。ソフトは別にして。現金なことを聞くけど、祐司君の予算はどのくらい?」
「マスターが言ったとおり、30万を目安に考えてます。今日見て回って調べたところでも大体その辺りでしたし。」
「そうか。今日調べて大凡の傾向も分かっただろうし、さっき言ったような選ぶ基準をしっかり持って、ソフトのことは一先ず考えないで理想に近いものを選ぶようにすればまず後悔することはないだろうな。」

 30万は単純にキリの良い数字ってことで今日持って行ったんだが−ひったくりに遭わないかと内心ヒヤヒヤしていた−、30万以内、そしてCPUの機能が出来るだけ高くてメモリを出来るだけ沢山積んでいる、という基準を満たすものを選ぶようにすれば良いか。
 どうやら今回は、優柔不断とかはっきりしないとか言われる俺の性格が幸いしたようだ。決して安い買い物じゃないし、ましてや使い捨てするものじゃないから−そんな金の使い方が出来る家ならバイトで生活費を補填するわけがない−、多少なりとも詳しい人の意見やアドバイスを少しでも多く聞けるに越したことはない。

雨上がりの午後 第1692回

written by Moonstone

「私は自宅では複数のソフトを同時に使うことはまずないんですけど、ゼミや講義とかで使うPCは、幾つか同時にソフトを動かすと動作が遅いな、って思うことがあります。」

2004/10/29

[大移動]
 このお話を聞いてくださっている頃には、圧縮ファイルの大移動をしていると思います。今まで圧縮ファイルは跡地(最初にページを置いていた、プロバイダの無料スペース)に置いていたんですが、あと1週間ほどでその容量が怪しくなるので、管理の面からもこの際移動しておこうかと思いまして。
 どうして容量が怪しくなるのか、というと、プロバイダのサービスを乗り換える関係で容量が大幅に減ってしまうんです。現状は20MB(だったと思う)が今度は5MBと1/4になるんですよ。そうなると、2大圧縮ファイル軍団の「雨上がりの午後」と「魂の降る里」を置いておけなくなると考えた方が無難なんです。
 どうしてそんな不利な条件に、と思われるでしょうが、これはまだ秘密にしておきます。一つ言えることは、自宅のネット環境が今よりましになる、ということです。少なくとも深夜から早朝を狙う必要がなくなります。ここまで言えば大抵の方はお分かりになるんじゃないかな?
 となると、今日迷うに迷って結局買えなかったのはある意味正解だったのかもしれない。今日わざわざ小宮栄に出て来たんだから買わないと、と変に凝り固まって妙なところで妥協して、後日大学で同等以上の性能のPCがもっと安価に買えることを知ってがっくりするより、精神衛生上も良い。

「今時ちょっとした事務処理でもPCを使わない方が珍しいくらいだから、大学に居る間に一般的なソフトの使い方やホームページの作り方の基本は覚えておいた方が良いだろうね。」
「祐司君は理数系だからある意味PCは必須の道具だし、晶子ちゃんも卒業研究をインターネットで公開するっていうから、祐司君は尚のこと、早い段階から使えるようにしておいた方が良いわね。卒業研究をしながら此処のバイトもしながら、っていうのは今でも講義やレポートで大変なんだから、尚更大変だと思うわ。」
「PCを買う時のコツっていうのか基本っていうのか、そういうのってありますか?」

 この際だから聞いておこう。今日買えなかったのは、色々あり過ぎて目移りしてしまったことも一つの要因だ。何かポイントのようなものがあれば、それを踏まえて買う方が間違いがない。

「祐司君がPCを買う目的ってのが卒業研究に配属を希望している研究室の要望に応えることだから、それが十分こなせる基本性能を持っていることかな。CPUの速度や性能も大切だが、メモリも見落とせないね。」
「メモリ、ですか。」
「祐司君の家にあるPCは昔のものだからあまり実感が沸かないかもしれないが、今のソフトは兎に角肥大化してる。そうでなくても、幾つもソフトを同時に動かすとなるとどうしてもメモリが必要だ。メモリ不足で動かせるものも動かなくなってしまうどころか、PCがハングアップしてしまう。」

雨上がりの午後 第1691回

written by Moonstone

 ・・・それは言えるな。雑誌やCDが組合員証を提示さえすれば取り寄せ手数料とかもなしで割引で買えるんだし、ソフトも売ってるくらいだから、ソフトが動く場所であるPCが買える可能性は十分ある。否、買えると考えた方が自然だ。

2004/10/28

[携帯の待ち受け画面]
 昨日は出勤しようと外に出たらやたら冷えてて寒かったです。とうとう私にとっての天敵の一つである冬の到来が近付いてきたのを実感しました。まあ、暑い時は暑く、寒い時は寒くないと何かと問題が起こるものですし、今まで時期的に暖かすぎたきらいがありますから、そろそろ寒くならないといけないでしょう。当然地震や台風の被災者の方々には厳しくなりますから、国は自治体任せにせずに対策本部を立てて実情に合った救援物資の手配をするべきです。財政基盤は渡さずに削っておいて「地方で出来ることは地方に」と言ったところで何が出来ると言うのか。こういうところも指摘しないで被害報道を垂れ流すだけのマスコミも相変わらず溜息ものです。
 さて、キャプションの件について。先月帰省した折、母や叔母と従姉妹と行った植物園で嬉々として写真を撮りまくった、という話は此処でしたと思いますが(ログの公開はまた後日)、その時撮った写真の1枚は自分の携帯の待ち受け画像にしましたが、残りの写真をどうしたものかと思っています。PCの壁紙は月単位で変えてますが、携帯はそう変えないと思うんです。ですから残りの写真の行き場がないわけで。
 季節がずれたばかりに更新停滞中のPhoto Group 1の更新材料にもなりますし、何ならプレゼント企画とでもして一挙大放出、というのも良いかな、と。サイズは携帯の待ち受け画像になるものですし、解像度は待ち受け画像にするには十分なものだと思います。興味のある方はメールか感想用掲示板STARDANCEへご意見などをお願いします。
 プロポーズを何処でするか、何と言うか、そんなことは思い出を振り返るときの飾りに過ぎない。大切なのは、何時言うかということ。それはすなわち、俺が場合によっては親に勘当されることも覚悟の上で進む道を決めて、晶子と一緒に暮らす足場を整えた時。晶子も夢が現実になることを望んではいるが、拙速な二人三脚の開始を望んでいやしない。やっぱり俺がしっかりしないといけない。自分の人生は自分のものなんだから・・・。

「ふーん。で、結局決められなかったわけか。」
「はい・・・。」

 その日の夜。バイトが終わって掃除をした後の「仕事の後の一杯」の席上、今日の顛末を話した。情けないことに、あれだけ豊富に揃っていながら一つに絞り込むことが出来なかった。俺にしてみれば決定打に欠けたからなんだが、振り回された晶子にしてみれば、良い迷惑でしかないだろう。勿論、晶子はそんなこと欠片も言わないでいるが。

「あれだけ彼方此方晶子を連れ回したのに決められなかったのが何とも・・・。」
「私は全然気にしてないですよ。無理に妥協して後悔してからじゃ遅いですし、決して安い買い物じゃありませんし。」
「晶子ちゃんの言うとおりよ。今日買わないといけない、ってことじゃないんだし、じっくり選んで買えば良いんじゃない?」
「家電製品でもそうだが、今の電子機器は機種交代のペースが速いからな。納得して買ったつもりでも、少ししたら同じくらいの値段で性能が良い機種が出て来てたりするし、携帯みたいに気軽に機種変更なんて出来るものじゃないから、迷うのは無理もない。」
「そうかもしれませんけど、即断出来ない自分が何だか情けなくて・・・。」
「まあ、そんなに自分を責めないことだな。井上さんは祐司君と一緒に出かけられたことで楽しめたそうだし、さっき潤子も言ったように今直ぐ必要だから直ぐ買わないといけないというものじゃないんだから、色々情報を集めて納得出来た段階で買えば良い。」
「大学でも売ってるかもしれないわね。本やCDも取り寄せて買えるくらいだから、パソコンも買えるんじゃないかしら?」

雨上がりの午後 第1690回

written by Moonstone

「私の言葉を裏付けてくれて。」
「正式なプロポーズとかは・・・もう少し待ってくれよな。」
「はい。」

2004/10/27

[肝心なのは気持ちでは?]
 2日連続TVネタ故、分からない方には申し訳ないです(汗)。昨日「学校へ行こう!」を見たのですが、そこでマナーについて出場者にさせて正しいかどうかをマナーの達人とやらに鑑定させるという趣旨のコーナーがありました。
 こういうのを見る度に思うんですけど、これはマナーではなく作法に属する性質じゃないでしょうか?地方によって異なるとか社会人として覚えておくべきマナーは2万とか言いますが、大切なのは気持ちではないでしょうか?結婚披露宴に嫌がらせしに出席する人はそうそう居ないでしょうし(居ないとは言えない)、祝儀に幾ら包んでいって祝儀袋は金額に応じて、なんてそれじゃわざわざ「私はこれだけ包んできました」と言っているようなもので、余計に失礼だと思います。特に、マナーを判定する側が片やあれは正しい、片やあれはてんで駄目と口論になるようなものや時代に応じて変わるようなものは、到底マナーの範疇とは言えません。
 メールでも掲示板への書き込みでもそうですが、挨拶(閲覧や送信の時刻が人によって違いますから言葉は違うでしょうが)を忘れなければそれで十分です。企業などを見ているとそれすらまともに出来ない人があまりに多過ぎるのでこういう企画が生まれたのでしょうが、気持ちを伝える、という肝心なことがマナーの名を借りた作法の陰でおざなりにされているような気がしてなりません。
 ま、確かに俺の身なりはこれと言った特徴がないから仕方ないと言われればそうだが、初対面なのにいきなりそんなこと言うか?普通。

「失礼ですけど、何をなさってるんですか?」
「ああ、これは失礼。・・・奥さん?」
「はい。」

 迷わず即答した晶子が、青木という男性を見る表情はやや険しい。いきなり割り込んできて何のつもりだ、と言いたげなのが分かる。無理もない。自分の相手の前の彼女が馴れ馴れしく−俺が晶子の立場だったらそう思うだろう−近寄ってきた上に、連れの男に品定めされたんだからな。

「え?祐司、本当に結婚したの?」
「・・・ああ。式はまだしてないけどな。」

 ここで照れ隠しにでも否定したら、晶子の立場を悪くするばかりか傷つけてしまうことくらいは分かる。既成事実を重ねることになっちまうが、俺にはそれくらい必要だろう。左手薬指に馴染んでいる指輪の意味を確固たるものにするためにも。

「うちの宮城が失礼したね。元気が良いのは結構なんだが、どうもまだ勝手を知らないもので。では、またの機会に。行くぞ、宮城。」
「はい。祐司、またね。」
「ああ。」

 宮城は俺に手を振って、青木という男性の後をついて店の混雑の中に消える。突然現れてあっさり消える・・・。にわか雨みたいだな。

「ありがとう、祐司さん。」

 正面に向き直ると、嬉しそうな微笑を浮かべている晶子が映る。

雨上がりの午後 第1689回

written by Moonstone

「君が安藤君かい?」
「あ、はい。はじめまして。」
「はじめまして。私、宮城と同じ会社の青木と言います。・・・ふーん。見た限りでは何処にでも居そうな感じだね。」

2004/10/26

[盲腸の痛み]
 昨日、毎週恒例の「名探偵コナン」を見ました。昨日の分は「犯人探しタイム」(私の中での通称です)で灰原が急な腹痛を演技するところが入っていたんですが、盲腸経験者として(いや、あんなのしたくてなるわけじゃないけど)「盲腸かもしれない」と装うだけの演技だったかどうかチェック。
 急性度にも因りますが、最初半日程度疼くような腹痛が続いた後、猛烈に痛くなります。大の大人が声を出さないように懸命に歯を食いしばらなければならず、痛み止めの薬を飲んでも睡眠薬を飲んでもまったく誤魔化せないほどの痛みです。小学生では大声上げてのた打ち回っても不思議じゃありません。ええ、それほど痛いんです(汗)。洒落にならないです(汗)。
 今回の腹痛演技は、原作でも演技派(コナンほどじゃないと思うが(笑))灰原の演技を林原さんがどう演じるか注目していたんですが、もっと派手に痛がっても良かったんじゃないかな〜、と思いました。普段の灰原の淡々とした口調から考えると、あれで丁度良いくらいかな〜、とも思いますが(どっちだよ)。痛みっていうのはそれを実体験した人じゃないと感覚が掴めないので理解し難いでしょうけど、それを演じないといけない俳優さんや声優さんっていうのは凄いですね。
 自由に使えるものを陳列しておくだけのホームページってのあるのか・・・。使われるようなものにするにはそれなりに手間隙かける必要があることくらい、シンセサイザーをあれこれ弄くっている俺には何となく分かる。それから考えると随分太っ腹だな。俺にはとても真似出来そうにない。

「あ、祐司じゃない!」

 自分の名前を呼ばれたことで反射的に晶子を見る。だが、その晶子は辺りを見回している・・・と思ったら、視線が固定される。その方を見ると・・・、あ、宮城じゃないか。紺のスーツに黒のハーフコートという服装の宮城が、俺と晶子の席に駆け寄って来る。ん?宮城の隣に居た男は誰だ?新しい彼氏か?

「久しぶりー。どうしたの?買い物?」
「ああ、ちょっとな。それより、お前こそどうして此処に?」
「お昼ご飯に決まってるじゃない。もう12時過ぎちゃってお店探してたら、偶然此処が空いててね。」
「優子さん。一緒に居た方が・・・。」
「ああ、大丈夫。あの人にとってはこの辺なんて自分の庭みたいなもんだから。」
「かと言って、いきなり連れを放り出すのはどうかと思うが。」

 割と高めの男性の声が、俺と宮城の後方からかかる。びくっとした宮城が恐る恐るといった様子で声の方を向いて、その場を誤魔化す笑顔を作る。

「宮城君。君の知り合い?」
「あ、はい。高校の同期です。ほら、前に話したじゃないですか。この前の夏、この辺のジャズバーとかに出入りしているミュージシャンと、新京市の公会堂でセッションした、凄腕のギタリストのこと。それが彼なんです。」
「ほう。これは奇遇だね。」

 男性が宮城の後方から姿を現す。明るいグレーのスーツにネクタイ、やはり明るいグレーのトレンチコート。見た目20代後半から30代前半って感じだ。宮城の会社の先輩か?

雨上がりの午後 第1688回

written by Moonstone

「あれだけ綺麗にシンセサイザーを動かせるんですから、直ぐ使いこなせるようになりますよ。私でも家計簿は表計算ソフトを使ってますし、日記はワープロソフトですし。ホームページも文法を少し覚えたら、結構見栄えの良いものが出来ますよ。自由に使えるイラストなんかを集めたホームページがあって、私も講義やゼミでそれを使ってるんです。」
「へえ・・・。色々あるんだな。」

2004/10/25

[新潟の地震]
 何やら凄いことになっているようですね・・・。震度6の地震が立て続けに起こるというのは、あまり聞かないケースだと思いますが、新幹線が開業以来始めて脱線するわ、道路も電気もガスも水道も駄目になるわと、10年ほど前の阪神淡路大震災を思い起こさせます。ラジオのニュースなどで聞いた限りでは、火災は発生していないようなのがせめてもの救いでしょうか。震災の犠牲者は地震そのものよりその後の火災の方が多いですから。
 被害に遭われた方々にお見舞い申し上げますと共に、親族やご友人などが居られる方は気がかりでしょう。でも、安否を確認するために電話をかけるのは控えた方が良いでしょう。ただでさえ電話が通じにくくなっている状況下で、肝心の救急電話が余計に通じなくなることになりますから。
 今年の北陸地方は、本当に災難続きですね。大型台風が立て続けに通過するし、地震まで起こるし・・・。避けようがないこととは言え、深手に追い討ちをかけるような災害の連続。これに便乗して何処かの新興宗教なんかが「日本の終末が近い」とか騒ぎ立てたり、てんで方向違いの「危機管理」云々を言い出す輩が出なければ良いんですが、後者はマスコミが背後に居ますから、これまた避けられないことなのかもしれません。報道より先にすることがあるんでないかね?マスコミさん。
 歩き回って疲れているだろうに、晶子はそんな様子を少しも見せない。バイトは立ちっ放しだし、歩き回ることにも慣れているから問題ない、と言えばそうだが、こう言ってもらえると連れ回している方としてはありがたい。
 程なく水とお絞りと共に運ばれて来たメニューを眺めて、俺はフライセット、晶子はハンバーグセットを注文する。店員がメニューを抱えて去った後、俺は携帯を取り出して改めてメモを見る。店の名前と機種、値段と性能の概要がずらりと並んでいるそれは、結構圧巻だ。

「どれも決め手に欠けるな・・・。何も入ってなくても高かったり、機能は適当なんだけど色々入ってて値段が割高になってたり・・・。」
「まだ時間はありますし、お昼食べながらゆっくり考えましょうよ。」
「そうする。」

 物事をスパッと決められない俺の性格にも決まらない要因があるんだろうが、候補はたっぷり揃ったし、安い買い物じゃないから、晶子の言うとおりゆっくり考えるとするか。俺は一先ず携帯を畳んでシャツの胸ポケットに仕舞う。
 改めて店内を見回すと、俺と晶子と同じくカップルが多い。別に意識して選んだわけじゃないが、ある雰囲気の店にはそれぞれ客層が決まってくるんだろうか?バイトしている店は、俺が入った頃は塾帰りの中高生や仕事帰りのOLが多かったんだが、今じゃ年齢層はバリエーション豊富でごった煮状態とも言える。おかげで毎日忙しいが、空いてて暇を持て余すよりは良いだろう。

「でも、祐司さんが講義以外では今のPCとは別の世界って言うんですか?そうだったのはちょっと意外ですね。」
「俺の家にあるPCは型が古いからな。まあ、携帯にしろPCにしろ、半年経ったらもう古いって言われる状態だけど。」

雨上がりの午後 第1687回

written by Moonstone

「悪いな。彼方此方引っ張りまわして。」
「一緒に行く、って言ったのは私ですから、気にしないでください。」

2004/10/24

[野菜高騰!]
 昨日買出しに行ったのですが、野菜、特にレタスやキャベツといった葉っぱ系(と言うのか正しいのかどうか(汗))の値段がべらぼうに高いのにびっくり。先週の3〜4倍はありましたね。台風で収穫次期の野菜がやられた、という話は聞いてはいましたが、こうなると嫌でも実感します。買わなきゃ良い、というものでもないですし、幸い多少買いだめがありましたから買わないで済みましたが、白菜や大根と言ったこれからの季節に必要な野菜の値段が早く下がってくれることを願うばかりです。
 そして北信越地方で最大震度6の大地震。今年は天災の当たり年ですね(汗)。被害に遭われた方にお見舞い申し上げますと共に、先の台風に続く酒用がない天災被害救済のために行政の迅速且つきめ細かい対応が求められます。税金というのはその国で暮らす人々が所得に応じて拠出して(応能負担と言います)、社会福祉をはじめとする助け合いや教育といった公共負担に分配する共有資金なのですから、こういう時こそ惜しげもなく使うべきです。
 戦争は避けられます。しかし天災は避けようがありません。仮想敵国が作れなくなったと思ったら自ら勝手に「ならず者国家」と決め付けた国々に戦争を仕掛けることに手助けする暇と金があるなら、国を支える主権者でもある国民のために、国民が拠出しあった税金を使うべきです。今の日本政府や大資本家は、夜警国家から福祉国家へ変貌した過程を知らなさ過ぎると思う今日この頃です。
 色々調べてみるが、どうもこれ、といったものがない。色々入っているものも「すっぴん」のものも、さほど値段の差がないと来た。メーカーブランドがついて回るせいもあるんだろう。これでソフトが入ってなければ、とか、これでもう少し値段が安ければ、というものなら腐るほどあるんだが・・・。
 とりあえず目ぼしいものの値段と概要を携帯のメモに−この機能を使うのは今日が初めてだ−記録して、別の店に向かう。この辺は店の数が豊富だし、幸い今日は時間の余裕もあるから−レポートは昨日仕上げてある−、幾つか回って手頃なものを選んで、必要に応じて値段交渉することにした。晶子は嫌な顔一つせず承諾してくれたことは言うまでもない。
 ・・・5件回ったところで携帯のメモを見るが、どれももう一発の決め手に欠ける。ノートPCは同等性能のデスクトップPCより値段が高い傾向なのはどのメーカーでもさほど変わらないことだけはよく分かった。俺は溜息を吐く。此処まで来ておきながら手ぶらで帰る、っていうのも癪だし、かと言って下手な金の使い方をしたくないし・・・。
 携帯を畳んで溜息混じりに時計を見る。もう昼前か・・・。彼方此方歩き回ったからな。ちょっと早い気もするがこの混雑を考えると、丁度良い頃だろう。気分転換も兼ねるし。

「晶子。何処かで食事にするか。」
「あ、はい。PCの方は良いんですか?」
「昼飯食いながら考え直すよ。妥協するか止めにするかも含めて。」
「今日じゃないといけない、ってものじゃないなら、その方が良いですね。」

 方針転換。俺と晶子は昼飯を食べる場所探しを始める。俺一人ならそれこそきちんと食べられるものが出てくるなら何処でも良いんだが、デート気分の−化粧はしてないが目と横顔がそれを物語ってる−晶子が居るから多少なりとも神経を配らないとな・・・。食い物関係は駅近辺の方が多いから、まずはそこへ向かう。
 店を物色すること少し。俺と晶子がバイトしている店の雰囲気に近い喫茶店らしい店を見つけた。メニューも色々あるし、晶子と一緒に入るにしても良い感じだと思う。

「此処にするか?」
「はい。」

 店探しに時間を食って昼飯を食いそびれたら話にならない。晶子の承諾も得られたから、俺は店のドアを開けて中に入る。いらっしゃいませ、という声と若い女性の店員に迎えられる。壁際の二人席を案内してもらって晶子と向かい合って腰を下ろす。

雨上がりの午後 第1686回

written by Moonstone

 後で買い揃える手間を惜しむか、今此処で金が減るのを惜しむかのどちらかか・・・。ソフトは確か生協でも買える筈だから−PCも買えるらしいが−、PCは基本性能がしっかりしていてソフトは何も入ってない「すっぴん」にしておいて、生協だと安く買える利点を生かしてソフトだけ後で買う、という方針にするか。勿論、財布の中身とも相談しないといけないが。

2004/10/23

[リニューアル掲示板の現状]
 一時閉鎖して久しい(お返事出来なくなった頃から考えると随分なものだ(汗))掲示板JewelBoxですが、カスタマイズがほぼ終了して最終段階に差し掛かりました。表示調整にかなり梃子摺りましたが、どうにか体裁を整えることが出来ました。
 プログラムが新しくなるのに伴い、表示形式も変更しました。以前は壁紙+大きな看板があったのですが、表示速度重視のため壁紙を廃止して看板も小さくしました。私はこれで良いと思っているんですが、あまりにも味気ないかな、とも思うのでここが調整のしどころです。まあ、後で直せますけど。
 併せて新設する科学文化研究所の体裁もおおよそ整いました。本当はもっと体制を整えてからにしたかったんですが、仕方ありません。本当に建設・増築を繰り返してのものになるでしょう。思えばこのページも、何度も増築を繰り返して今の規模になったんですよね(遠い目)。
 俺は晶子の手を取って、去年ICレコーダーを探しに回った経路を辿ることにする。あの時も今の町に引っ越す前に父さんと回った家電量販店を思い出しながら回ったし、そこでもPCは探さなくても目にしたから、探すより選ぶ方に迷うと考えた方が良いかもしれない。
 流石に休日だけあって、何処も混んでるな・・・。店を探すと同時に人とぶつからないようにしないといけない。今は目が合っただけで刺されたりする物騒な時代だし、俺だけならまだしも晶子を巻き込むわけにはいかない。
 一番近い家電量販店に入る。小宮栄の店は大学近辺の店と違って、横は狭くて縦に長い構造になっている。まあ、これは小宮栄に限ったことじゃないだろうが、どのフロアに何があるか分かりやすい分、俺としてはこっちの方が好きだ。上り下りはエスカレーターなり階段なりを使えば済むことだ。
 2階、PC関係のフロアに着く。流線型を帯びたスマートな筐体のPCがデスクトップ、ノート問わずずらりと並んでいる。俺のPCがごつく見えて仕方ないが、技術進歩と世代交代の速さを考えれば当然だろう。俺は晶子と一緒に店内を歩き回って物色する。値段は似たり寄ったりだから、変なブランド意識がない分目移りしてしまう。

「祐司さんが買うPCで使うソフトはどんなものですか?」
「よく使われてるデスクワークソフトが使えれば良い。講義で使ってるデータベース関係のソフトもその一つだし。」
「それだったら、最初から入っているものを買っても良いですね。」
「そうだな。でも、あれこれ入ってても使わなかったら意味ないし・・・。」
「それもそうですね。」
「晶子が使ってるノートPCはどんなタイプなんだ?」
「私のは最初から入ってるタイプです。PCに詳しくないですから、必要なものが最初から使えるようになっている方が良いと思って。」
「そうか・・・。俺もPCに詳しいか、って聞かれればそうです、とは言えないし、かと言って、色々入ってるおかげで値段がつり上がってるのはちょっとな・・・。」

雨上がりの午後 第1685回

written by Moonstone

「それだともう、予算との相談だけですね。」
「ん・・・。こんなところで迷ってても始まらないから、知ってる手近なところからぶらついてみるか。」

2004/10/22

[今も寝起き]
 断続的な睡眠を繰り返しているせいで、頭がぼうっとしている上に記憶と夢が混濁していて妙な気分です。ここまでダメージを負うことになった仕事が本格稼動する日程が具体的になってきたので、もう少しの我慢と自分に言い聞かせています。稼動するのを見ないことにはおちおち休めないので。
 薬も効かず、ラベンダーも効かず、なので1日まともに過ごせるかどうかは運次第です(しかも確率が低い)。短い時間でも良いのでぐっすり寝られてすっきり目覚められれば良いんですが、それは贅沢なことなんでしょうか?この更新を終えたら改めて寝ます。お休みなさぁい。
 そんな背景が重なったことで、今使っているPCとは別に新しいPCを買うことを決めたわけだ。晶子の事前のアドバイスで、ノートPCを買うことにしている。値段的にはデスクトップの方が安い傾向があるが、場所の制限もあるし、持ち運びが出来るノートPCの方が何かと便利が良いのでは、と言う。確かに俺の今の家には、もう図体のでかい物体を置くスペースがない。レポートの続きを図書館とかでしたりすることも出来るだろうから−大学の図書館には飲食物持ち込みは禁止だがPCは構わないらしい−、多少割高になってもノートPCにした方が良いだろう。
 晶子がデジカメを買ったのも小宮栄だ。高校時代に何度か来た経験がある俺ほど地理に詳しくはないだろうが、何件も店を回って選ぶのには苦を感じないと言うし、買い物ついでに食事したりするつもりだし、実際に自宅でPCを普遍的側面から活用している晶子のアドバイスは何かと参考になるだろう。
 電車が止まり、空気が抜けるような音に続いてドアが開く。人波に乗って俺と晶子は電車から降りる。広いホームは見る限り人でいっぱいで、その流れは一定の方向、すなわち改札口へと向かっている。俺はズボンのポケットから切符を取り出し、晶子と共に改札を潜る。

「さて、どの店から行こうかな・・・。」

 俺は駅の出口と主な行き先を示す掲示板の前で考える。小宮栄はこの辺りの一大繁華街でもあり、彼方此方の電車の路線が交わる一大交通拠点でもある。単純に出口、と言っても数十はある。出口によっては途方もない大回りを強いられることもある。

「祐司さんが買いたいPCって、今祐司さんがシンセサイザーを操作するのに使うPCの後継機種なんですか?」
「否、まったく別物。シンセサイザーを制御するPCからは何も引き継がないし、引き継げない。OSが完全に別物だから。」

雨上がりの午後 第1684回

written by Moonstone

 俺は率直に4年の卒業研究で配属を希望していること、PCに関する知識や技術はどのくらい必要か、と尋ねた。すると久野尾先生は、俺が希望するなら大歓迎する、PCに関する知識や技術は出来れば講義レベルのものが使える程度、プラス、ワープロソフトや表計算ソフト、データベースソフトやプレゼンテーション用ソフトの使い方を覚えておいて欲しい、と具体的にアドバイスしてくれた。最後に、他所の研究室の誘いに乗らないでくれ、と熱烈な勧誘を受けてしまった。

2004/10/21

[これで最後だろうな?]
 10月も半ばを過ぎたのに超大型で乗り込んできた台風は、私の住んでいる地域から過ぎ去ったようです。午後から夜にかけて派手に荒れ狂って、電車という電車を全て止めて、高速道路も彼方此方で通行止めにしたようです(ニュースで見たり聞いたりした限り)。私の家もガタガタゴトゴト音はなるし、風の音が凄いし、もう大変でした。
 日本列島に上陸した分はこれで10個。とうとう2桁ですか・・・。台風で学校休み〜♪なんて喜んでいる場合ではなく、今年の異常すぎる暑さの連続もそうですが、明らかに私の子ども時代と違います。ある程度の年齢以上の方なら程度の差はあれ、同じように感じられることと思います。
 年間平均気温が変わってくれば植物の生育域も変わってきます。今まで寒くて育たなかった植物が育つ代わりにこれまで育ってきた植物が追いやられ、動物の生育域も変わってきます。人間はエアコンでやり過ごせても動物や植物はそうはいきません。エヴァにあるような常夏の日本が実現しないように知恵や技術を集約すべきではないでしょうか。
「祐司さんなら直ぐ覚えられますよ。音楽を何時も綺麗にアレンジしてシンセサイザーを操作してるんですから。」

 シーケンサの操作は慣れの問題が大きいと思うが、あれだって色々操作を覚えないと使えない。シンセサイザーの音色を切り替えたり、エディトした音色を取り込んだり送り込んだりする−店のシンセサイザーは共有物品だから音色やマルチ(註:シンセサイザーにおける音色の編成)は自分用に保存しておく必要がある−のも、シンセサイザーやMIDIの知識を必要とする。プログラム言語もその延長線上と思えば良いかもしれない。

「買いに・・・行こうかな。今度の休みにでも。」
「良かったら、私も一緒に行かせてくださいね。」
「ああ。」

 また新たに晶子との半日デートの日が出来そうだ。普段はバイトやレポートなんかでデートを満喫出来ないから、買い物とかちょっとしたことでも良いから、機会を見つけて一緒に出かけるようにしよう。

「間もなく終点、小宮栄でございます。」

 日曜日の午前。混み合う車内に抑揚に乏しいアナウンスが響く。昨日、銀行の通帳記載で今の預金残高を知った俺はPCを買う決断をして、高校時代に何度か出かけた経験がある小宮栄行きの電車に乗り込んだ。晶子を誘ったら喜んで一緒に行く、と答えが返って来たから、晶子も車内に居る。
 晶子のゼミの連中への披露会となった日の翌日は丁度研究室の週1回のゼミの日でもあったから、その終わりに研究室を束ねる教授である久野尾先生を訪ねた。久野尾先生は、俺が今受講している通信工学の講義を担当している。

雨上がりの午後 第1683回

written by Moonstone

「実際今でも、計算機関係の講義でデータベース関係のプログラム言語を使ってるんだ。レポートでも、PCで簡単なプログラムを書いて計算させないととてもやってられないものもあるし。ただ、俺が今家で使ってるPCはMIDIのシーケンサが主だし、今のプログラム言語に対応出来るものじゃないからさ。」

2004/10/20

[内も外も台風接近中]
 10月も後半に差し掛かったというのに台風接近、しかも大型だとのこと。この分だと今日は雨と風の中出勤、ということになりますな(汗)。まあ、歩いて行けますから楽と言えばそうなんですけど、荷物があるのでちょっとしんどいんですよね。
 内側では睡眠障害が日々深刻化していて、家では1時間か2時間の間隔での寝たり起きたりを繰り返してます。寝不足が蓄積して緊張が緩んだ時に半日か1日ぶっ倒れて、またそうなるまで延々と満足に寝られない日々を過ごすんですから、ずーっと雨で、半日か1日嵐に襲われるようなものです。
 この話も寝起きでしてます。更新が日付変更線以降にずれ込んでいるのはそんな事情があるからです。根本的に改善する方法が見当たらない以上、外からは分からない苦しみに翻弄されつつ、薬を飲みつつやり過ごすしかありません。暫くこんな状態が続きますが、ご了承願います。
「祐司さんの居る学科ほど専門的じゃないと思いますけど、ワープロソフトや表計算ソフトといった割と身近なソフトの使い方や、ホームページの作成方法、データベースの使い方とかは必須科目の一つになってます。」
「データベースの使い方もか?」
「ええ。数ある書籍の中から目的の書籍を探すのが主ですけど、どうすればどれだけ絞り込めるか、っていうのは結構経験を要するんですよ。今は大学の図書館のデータベースを対象にしてますけど、4年の卒業研究では新京市の市立図書館とかにも対象を広げて調べられるようにするんですよ。研究成果はゼミのホームページに掲載しますから、ホームページの作成方法も勉強してます。」
「そうなのか・・・。」

 意外に思うが、PCがまだまだ基盤整備が不完全とは言え家電製品の仲間入りしようとしている今じゃ、理系学部以外でもPCの使い方をかなり突っ込んだところまで習得するのは当然か。だとすると俺が配属を希望している今の研究室でも、PCに関してもっと突っ込んだ知識や技術が必要かもしれない。否、必要だと考えた方が良いだろう。

「俺も今使っているPCとは別に、新しいPCを買った方が良いかな・・・。」
「買って損はないと思いますよ。祐司さんの卒業研究がどんなレベルかは分かりませんから何とも言えませんけど、レポートを作ったり複雑な計算をさせたりするのに便利かと思いますよ。私の方でも、レポートをワープロソフトで書いて印刷したものを提出しろ、っていう講義もありますから、祐司さんの方なら尚更そういう需要が出て来ると思います。」

雨上がりの午後 第1682回

written by Moonstone

「今日、久しぶりに文系エリアの生協の店舗に行って書籍売り場に居たんだけど、意外にプログラム関係の本が多かったんだ。晶子が居るゼミや学科でも、メールやインターネット以外でパソコンを本格的に使ってるのか?」

2004/10/19

[自己診断機能が欲しい]
 現在交代作業中の職場のPCで、光ドライブが一部正常に機能しないという問題は、ショップの人に来てもらって色々試してもらった結果「壊れてます」で解決(と言うのか?)。こちらも直ってもらわないことには今後困るので(書き込めないCD-RWなんてまったく意味がない)交換を依頼しました。
 今のPCはモジュール化されているので、私のように不具合を起こした部分だけ交換したり、逆に不具合を起こしてなくても機能アップのために交換したり、ということも簡単に出来ます。プラグ&プレイ然りUSB然り、これらは一昔前のPCでHDD増設でもシステムファイルをいじったりしなければならなかったことを考えれば随分便利になったものです。
 ですが、まだPCが家電製品入りするには程遠いものがあります。マイコン内臓の電化製品には大抵自己診断機能がついています。自分自身を診断して異常があれば何らかの表示をする、というあれですが、ブラックボックス化していて家電製品の仲間入りを目指している今のPCは尚更、自己診断機能が必要だと思います。少なくともビデオ録画の予約を出来る人が扱える程度のレベルに持っていく必要はあるでしょう。

「着信音は今までも同じゼミや学科の人達に聞かれたんですけど、それが日を追う毎に変わっていっているのが分かるらしいです。私も分かりますけどね。」
「聞き慣れてる晶子以外の奴にも分かるってことは、出来は良いみたいだな。」
「勿論ですよ。電話の着信音にしてもらっている『Fly me to the moon』は特に評判が良いんですよ。綺麗な曲だね、とか、これって何ていう曲なの、とか聞かれるんです。知ってる人もたまに居るんですけど、ギターソロは初めて聞くし凄く良く出来てる、って、聞いた人が皆口を揃えて言いますよ。」
「元の曲の出来が良いからさ。俺はそれをギターソロにアレンジしただけ。」
「ギターだけで知らない人も知ってる人も綺麗とか良く出来てる、って言うってことは、祐司さんのアレンジの技術がそれだけ高いってことですよ。」

 晶子の口調は穏やかには違いないが熱が篭っているのが分かる。この世に恐らく二つの携帯しか鳴らさない着信音が自分のもので、それの評判が良い=自分の夫が褒められている、という公式が成立しているんだろうか。勿論悪い気はしないが。
 今、俺と晶子の携帯に入っている着信音の完成度は、俺にしてみれば30%程度だ。まだメロディだけベタ打ちというところもある。携帯サイトにある着信音の完成度は聞いたことがないから分からないが、最初から入っていた着信音はオーソドックスなものから愉快なものまできちんと聞けるレベルになっていた。早く完成させたいのは山々だが、時間が許してくれない。
 限られた時間を以下に有効に使うか。今はそのことを訓練している時なのかもしれない。4年の卒業研究ではもっと覚えることが増えるかもしれない。社会に出たら尚更かもしれない。・・・社会に出る形を未だに決めかねている段階では気の早い話かもしれないが。・・・気が早い、と言えば・・・。

「晶子。聞きたいことがあるんだけど。」
「何ですか?」

雨上がりの午後 第1681回

written by Moonstone

 大通り−この先は駅まで割とスムーズに歩ける−を渡ったところで晶子が言う。

2004/10/18

[FDは消える運命か?]
 今職場のPCを交代させているという話を此処で何度かしていますが、ソフトのインストールはまだしもデータの移動は大変です。単純なテキストファイルとかならまだしも画像データが結構多いので(設計・製図ソフトとかプレゼンテーション用ソフトとかを多用してます)、古いPCのデータをCD-RWに焼いて新しいPCに持って行って、の繰り返しです。
 その過程でもそうですし、今のPCのカタログを眺めていても思うんですが、FD(フロッピーディスクのことです。念のため)は消える運命にあるんでしょうか?FDの容量は1.44MB。ちょっと大きな画像関係のファイルを入れたら直ぐいっぱいになります。対するCD-RWは650MB。概算でも400倍ですからその量は圧倒的です。それにCD-RWは標準若しくはCD-ROMドライブとの入れ替えで本体に付属してくるのが普通のようですが、FDはドライブそのものがオプションというのがこれまた普通のようです。
 単純なテキストデータが主流だった一昔前(とは言っても10年も経過してませんが)と違って、今はワープロソフトで画像付きの文章を書いたら平気で何百kB食われてしまいますからね。自宅で使っているPCでも、HTMLファイルの移動くらいならFDで十分ですが、写真データの保存や吸い出しはとてもFDじゃ間に合いません。圧縮にも限度がありますし、やっぱりFDは消える運命なんでしょうか?私としては、1つ2つのファイル移動のためにFDのドライブはあって欲しいんですけどね・・・。CD-RWって意外にかさばりますし。
 ざわめきに送られて俺と晶子は部屋から出る。ドアを閉めようと思って手を挙げたら・・・手を繋いだままだった。どうしようかと迷っている間に晶子がドアを閉める。そして何気なしに手を離す。こういう場所で手を繋ぐのはちょっと憚られる、という意識は晶子にも共通しているようだ。

「携帯を持つようになってから、ずっとあんな調子だったんですよ。」
「携帯が同じってのがそんなに珍しいのかな。」
「今の今まで持たなかった私が週明けからいきなり持っていたことだけで、凄い注目を集めたんですよ。そこから旦那とお揃いか、とかいう展開になって、それが今日も祐司さんに迎えに来てもらうことと繋がって・・・。」
「写真でしか見たことがない旦那を見せろ、って押されたわけか。」
「ええ。」

 晶子は照れくささと申し訳なさを織り交ぜた笑みを浮かべる。講義の終わりの迎えだから、さっき居たのは同じ学科の奴等だろう。あるところでは梃子でも動かない頑固さを見せる晶子だが、自分の幸せを見せびらかしたいっていう気持ちの前にはその頑固さも鳴りを潜めるようだ。

「着信音を聞かせてくれたのは勿論ですけど、指輪を披露してくれたり、私が手を出したら受けてくれたりしたのが、凄く嬉しかったです。」
「そうか?」

 俺の問いに晶子は嬉しそうに、幸せそうに微笑んで頷く。俺は特段見せつけるつもりじゃなかったんだが、自分の期待に言わずとも応えられたら嬉しいと思うだろう。ちょっとは点を稼げた・・・というのは思い込みだな。
 外の殆どには深い蒼が染み透っている。俺は歩きながら晶子の手を取る。柔らかい感触が少し強まる。光を放ちながら行き交う車を脇にして、俺と晶子は帰路を行く。護衛がてら一緒に帰るようになってまだ半月にもならないが、こうして一緒に居られるのは素直に嬉しい。今更遅いが、今までも一緒に行き来すれば良かったな・・・。

「着信音、更新してもらう度に洗練されていってますね。」

雨上がりの午後 第1680回

written by Moonstone

「それじゃ、また明日ね。」
「「バイバーイ。」」

2004/10/17

[眠る、眠る・・・]
 ずっと眠れない日々を過ごして身体の彼方此方に異変を生じていたんですが、どういうわけか昨日は寝ても眠気が消えず、1日の大半を寝て過ごしました(汗)。今週の寝不足分を取り戻すように。このお話をしている今も寝起き直後です。うー、眠い・・・。
 今日の更新が遅れたのはそういうわけですが、昨日の更新が遅れたのは、私からサーバーに接続出来なかったからです。サーバーに異常はなくて、私のところからサーバーまでの経路で異常が生じていたようです。こうなると今準備している緊急連絡用掲示板でも対処の使用がないんですよね。
 そこで方針を変更して、圧縮ファイル置き場になっている以前の場所にHTMLのみで出来た緊急連絡告知板を作ろうと思います。そこなら今メインで利用しているサーバーより繋がらなくなる確率は圧倒的に低いですし(今のサーバーでもめったにない現象ですから、そこではほぼないと言えます)、何れ圧縮ファイルはメインのサーバーに移すので丁度良いかな、と。ま、とりあえず今日は寝ます。お休みなさい・・・。

「あー、あるある。『from Masako to Yuhji』って。」
「私にも見せてよ。」

 晶子の周囲が押すな押すなの騒動になる。指輪を見ては、書いてある書いてある、とか、本当にペアリングなんだ、とか言っている。デザインは厳選したものを選んだつもりだし気持ちはしっかり込めたが、価格的には安物に属するものだ。それがペアで特定の人物の名前が刻印されているとなると、希少価値というか、そんなものが上がるんだろうか?
 暫くのすったもんだの末、指輪はようやく俺の元に戻って来た。時計を見ると・・・丁度良いくらいの時間だ。指輪を元の位置、すなわち左手薬指に戻した俺は、立ち上がった晶子に言う。

「そろそろ時間だ。行こう。」
「はい。」

 晶子は机の前から通路に出たところで止まって手を差し出す。晶子の足元には少し段差がある。俺はその手を取って晶子を軽く引っ張り寄せる。・・・こういう時はこうだよな。

「良いなー。優しい旦那でー。」
「旦那のソロライブ独り占めかー。」
「こんな旦那が居る人妻に手を出したのが、田畑先生の根本的な間違いね。」
「それは言えてる。普段優しい分怒ると怖いんでしょ?晶子。」
「怖いわよ。怒ると、だけどね。」

 背後から飛んで来た冷やかしの声に混じった問いに、晶子は何の躊躇もなく答える。この様子だけでも、自分は結婚している、と普段から振舞っているのが窺える。ここで照れ隠しに否定するようなことはしないが。

雨上がりの午後 第1679回

written by Moonstone

 何が折角だか分からないが、証明が見たいならとことん見せてやろう。俺は鞄を床に置いて指輪を抜いて、近くの女に手渡す。連中の視線が集中する中、女は指輪の内側を見て、納得した様子で何度も頷く。

2004/10/16

[食を軽く見る国の「愛国心」の正体]
 うぅ、痺れが顔から頭全体に広がってます(他にも膝やら肘やらが痺れてます)。何せ、前日仕事で朝から晩まであたふたしていたのに2時間しか寝られませんでしたからね(汗)。薬もラベンダーもまともに効かないレベルに達したようです。寝る時間起きていられたら、なんて思ってる方と代わって欲しいです。
 さて昨日、食品安全委員会に全頭検査体制の緩和などが諮問されたそうですが、「自分の国の肉を買え」というアメリカの圧力に屈しただけです。アメリカは度々圧力をかけてきていましたし、アメリカの言うことなら何でも従う、言い換えれば「何でも賛成」の日本なら、遅かれ早かれ米国産牛肉の輸入再開の方向に傾くと予想してました。こんなもの賭けの対象になりません。「日の丸」「君が代」強制やら教育基本法への「愛国心」とやらの明記を声高に叫ぶ連中が、アメリカ絡みとなれば愛国心も日本の文化や伝統を尊重も何もない、というのが大本の流れです。「アカ」「共産党」呼ばわりされるのが嫌で、第一にスポンサーや政治家の顔色を窺うマスコミが指摘出来ない、否、しないだけです。
 「愛国心」や「戦略」という単語が大好きな連中は、肝心のところでそれが欠落しています。食料は戦略物資です。気候変動で不作になったり、豊作でももっと高く多く売れそうなところを見つけて「もう売らない」と言ってしまえば、簡単に相手を兵糧攻め出来るのです。カロリーベースで自給率40%を切る国が安さ多さで食糧を輸入に頼るのは、それこそ「売国奴」です。そのことに気付かない、分からない連中が言う「愛国心」やら「戦略」など所詮レベルが知れています。いい加減国民は目を覚まして、本物の「売国奴」を切り捨てる方向に動くべきなんですけどね・・・(溜息)。

「メールの方はこれで良いか?」
「はい。」
「じゃ、次は、と。」

 俺はメールのメニューから待ち受け画面に戻り、着信履歴一覧から晶子の電話番号−それしかないが−を選択して発信を開始して耳に当てる。俺の耳でコール音が聞こえる始めると同時に、やはり制作途中の「Fly me to the moon」ギターソロバージョンが晶子の携帯から鳴り始める。そして忘れずに歓声とどよめきが起こる。そんな中、晶子が携帯を操作して耳に当てる。

「はい、貴方の目の前に居る晶子です。」
「これで電話の着信音も証明出来たかな?」
「ええ、十分です。」

 俺と晶子は同時に通話を切って携帯を畳む。晶子を包囲している連中の視線が、俺と晶子に交互に注がれる。

「へえー。本当なんだ。」
「メールの着信音は『明日に架ける橋』のインスト(註:インストルメンタルの略)版のコピーみたいだけど、電話の着信音は・・・何だったっけ?」
「『Fly me to the moon』よ。」
「ああ、そうそう。さっきの曲、凄く良い感じだったよね。ギターソロなんてお洒落で良いなぁ。晶子の旦那がアレンジしたやつでしょ?」
「そうよ。夫は実験とかレポートとかで凄く忙しいんだけど、少しずつ作っていってくれてて、ある程度出来上がった段階で更新してくれるの。」
「携帯サイトでダウンロードすればすぐなのに、自分でアレンジして携帯に打ち込んでくれるなんて、まめな旦那よねえ。普通そこまでしないわよ。」
「ねえ、晶子の旦那。指輪見せてくれない?」

 実物と携帯と着信音に続いて、今度は指輪か。躊躇う理由はないから、俺は携帯をシャツの胸ポケットに入れてから左手を連中に向けて差し出す。どよめきが上がるのはもはやお約束と言うべきか。

「あ、指輪の裏側に名前が刻印してあるって本当?」
「私が前にも見せたでしょ?」
「折角だから旦那のも見せてもらわないと。」

雨上がりの午後 第1678回

written by Moonstone

 1フレーズ分鳴らし終えた−途中なのがみっともなく思う−携帯を操作した晶子を、周囲を囲んでいる奴等−ざっと見たところ9割以上女だ−が覗き見る。そしてこれまたどよめきが起こる。そんなに珍しいものか?

2004/10/15

[今日の話題は二つ]
 まず病状報告から。昨日は夜明け前に目が覚めてそのまま、ということはなかったんですが、神経的ダメージがとうとう顔に出て来ました。神経系が正常に機能しないことで部分的に冷えや火照りを感じる(私の場合は足先は何ともないのに右の膝と太腿が冷えてます)、部分的に痺れる、といったことが起こるんですが、その部分的痺れを顔に感じるようになってきたんです。顔が変形するわけではありませんので念のため(笑・・・ってる場合ではない)。
 これは睡眠不足が蓄積すると出て来る私の場合の症状で(人によって違います。同じ時期に風邪をひいたある人が喉を痛め、またある人は鼻水が止まらないというイメージ)、消化器系にも出て来ていて(嘔吐感や喉の痞え感)かなりきついんですが、前に作ったシステムの正常稼動を確認するまでは休めませんし・・・。職場のPC交代は必要最小限(メールの送受信など)が出来るところまで進みましたが、光ドライブの一部機能異常で来週までずれ込むこと確定(ショップの人を呼ばないといけないレベル)。全てが済むのが先か私がぶっ倒れるのが先か、です。いや、本当に。
 話題チェンジ。iPodってありますけど、あれの使い勝手がどんなものか興味あります。暇をもてあそぶ電車移動の時なんかにふと音楽を聴きたいと思うんですが、ポータブルCDプレイヤーは振動に弱いし直ぐ電池なくなるし何枚もCDを持ち歩くとかさばるし・・・。iPodはCD何枚分かをあの筐体に入れて結構な時間使えるそうなので、その辺を含めて知りたいな、と思ってるんです。
 買うかどうかは値段と性能次第です。んー。CD5枚分くらい入って1回充電で8時間くらい稼動出来て2万円くらいなら買おうかな、と。ハードルが高いでしょうが、ここ最近私としては金遣いがかなり荒い上に急ぎの物入りもあるので、ちょっと慎重。お使いの方はメールか感想用掲示板STARDANCEへお願いします。使用感覚を教えてくださると嬉しいです(^^)。
 念のため携帯を切らずにシャツの胸ポケットに仕舞ってからドアを開ける−俺の鞄は紐が付いてないから片手が塞がっている−。すると歓声が沸き起こる。な、何だ?!・・・大学ではよく見かける形の机が並ぶ、中学高校とかの教室程度の広さの部屋。その机の列の最前列、ホワイトボード向かって正面の一角に人だかりが出来ていて、その真ん中で晶子が小さく手を振っている。

「あー!写真の旦那だー!」

 視線を一手に受ける俺に歓声がまた飛んで来る。・・・なるほど、こういうわけか・・・。晶子はホワイトボードと俺が入って来たドアが見える方向以外、完全に包囲されている。俺は携帯を取り出して通話を切ってから晶子の前に行く。

「つまり、実際に俺を見せろ、ってせがまれたんだな?」
「はい。見かけたことはあるけどしっかり見てないから、この際こっちに来させて見せろ、って言われて・・・。」

 広げたままの携帯を左手に持っている晶子が、照れくささと申し訳なさを交えた表情で答える。大学へは双方に共通するように1コマめに余裕で間に合う時間帯に来るし、帰りは俺に合わせてもらっているから人目に付く時間帯からずれる。そういうこともあって、俺の方が早く講義を終えた今日、「披露」することを迫られたんだろう。

「へえー。晶子の旦那って実物はこうなのかー。」
「ねえねえ、メールの着信音鳴らしてよ。実際にメール送ってさ。」
「あ、それなら電話の方も聞かせて。あの曲凄く良かった。」
「というわけなので・・・。」

 晶子の言いたいことは分かる。俺は了承の意味を込めて頷き、携帯を取り出して広げる。その過程だけでもどよめきが起こる。同じ機種で同じ色、そして同じストラップがぶら下がっているのを確認したからだろう。俺は新規メールを作成する。

送信元:安藤祐司(Yuhji Andoh)
題名:メール着信音披露
これでどうかな?

 メールを送って着信音が鳴るかどうかが目的だから、文面はこの程度で良いだろう。俺はメールを送信する。俺の携帯の液晶画面に送信完了の表示が出るとほぼ同時に、制作途中の「明日に架ける橋」の着信音が晶子の携帯から流れ始める。するとまた歓声とどよめきが起こる。

雨上がりの午後 第1677回

written by Moonstone

「晶子。313号室ってプレートが出ているドアの前に来たぞ。」
「それじゃ、そのドアを開けてください。今の私の状況と、わざわざ3階まで来てもらった理由が分かりますから。」
「分かった。」

2004/10/14

[4+3+3=?]
 答え:月曜、火曜、水曜の睡眠時間の合計です(汗)。眠れるには眠れます、と言うか、主治医から十分睡眠を取るようにと勧告を受けているので寝るようにしてます。でもやたら早く目が覚めてしまいます。これで二度寝すると今度は起きられなくなるので、ネットに繋いでメール回収(受信と言わないのはウィルスかDMのどちらかだから)や行き当たりばったりのページ訪問(私の場合、巡回先のリンクを辿ること)をしたりするのも限度があって、掲示板JewelBoxの記事移転・整理とカスタマイズ、緊急連絡用システムの開発につぎ込んでいるんですが、精神的な疲労が溜まる一方です。ぐぞぉ。自前で使い勝手の良い掲示板プログラムを組むのは至難の業だ(汗)。
 で、昨日新規の仕事用に急に仕事用PCの交代を迫られ、PCを前後に置いてファイルやデータの移動を始めた・・・んですが、今まで使ってきたPCのCD-RWが交代するPCのCD-RW(DVD付き)で読めない、という事態に遭遇。先輩に事情を聞いたら、FD感覚で扱えるフォーマットとかだと読めない場合がある、とのこと。こういうところでもPCが一般家電の仲間入りする日は程遠いと思いつつ、別の仕事のために職場に持って来ている自分のPCで一旦きっちりフォーマットしてから書いて移動ということに。ご存知かもしれませんが、CD-RWの完全フォーマットってやたら時間かかるんですよね(泣)。
 で、ようやく移動の準備が整った、と思って移動を始めて、移動したソフトを起動しようと思ったらどういうわけか認識しない、という事態。どうも自分のPCのCD-RW関係ソフトが悪さをしているらしく、悪戦苦闘しましたがどうにもならず昨日は断念。移動の次は新規インストールが待ってますし・・・。足し算の項に5以上の数値が加わるのは何時になることやら(泣)。

「はい、祐司です。」
「あ、晶子です。今講義が終わったところです。」
「出るのが遅れて悪かった。生協の書籍売り場に居たから、急いで外に出たんだ。」
「いえ。待っててくれてるって分かってましたから良いんですよ。」

 晶子の声は雑音をバックグラウンドにしている。聞き難いほどではないが・・・これは人の声か?

「晶子。後ろとかに誰か居るのか?」
「ええ。その説明も兼ねて道案内をしますから、このまま電話は切らないで文学部の研究棟正面出入り口まで来てくれませんか?」
「?ああ、分かった。」

 何だかいまいち事情が飲み込めないが、兎に角迎えに行くことが先決だ。俺は電話を切らずに生協の建物から文学部の研究棟へ向かう。指定された正面出入り口は、先週から晶子を送り届けているから案内されなくても行ける。

「晶子。今正面出入り口に着いたぞ。」
「それじゃ、入り口から入って正面を歩いていってください。すると階段が見えてきますから、それを3階まで上ってください。」
「分かった。」

 俺は言われたとおりに入り口から中に入り、廊下を歩く。程なく階段が見えてきた。3階までひたすら上る。大学での階段の上り下りは毎週週1回のゼミくらいだからあまり慣れてないせいもあって、ちょっとしんどい。

「3階に着いた。階段を上ったところ。」
「今、階段を上って直ぐのところですか?」
「ああ。」
「それじゃ、そのまままっすぐ進んで、突き当りを右に曲がってください。部屋毎にプレートが出ていますから、『313号室』って書いてあるところまで来てください。」
「313号室だな?分かった。」

 どうやら目的地は近いらしい。俺は指示どおりにまっすぐ歩いて突き当りを−窓ガラスしかないからまっすぐ進みようがない−右に曲がる。確かに明るい茶色のドアの上からプレートが突き出ていて、そこに部屋番号が書かれている。俺はそれを辿って廊下を歩いていく。・・・309、310、311、312、・・・313。此処か。

雨上がりの午後 第1676回

written by Moonstone

 胸に小刻みの振動を感じる。・・・もうそんなに時間経ったのか?と、兎も角電話に出ないと・・・。俺は急いで本を棚に仕舞って走って生協の店舗から出ると、小刻みに震える携帯を取り出してフックオフのボタンを押す。

2004/10/13

[悩むこと2件・・・]
 その1:「表示確認ブラウザをIEにすべきか?」・・・昨日プログラミング云々をお話しましたが、スタイルシートの関係はIEを使わないと確認出来ないんですよね。私が愛用しているNetscape4.7では大半のスタイルシートが無効(認識しないと言うべきか)なので使わざるを得ない、という面もありますが。
 私のIE嫌いは今に始まったことじゃありませんが、HTMLを紹介する以上、Webページのデザインに欠かせない要素となっていると言って良い(それが良いか悪いかは別として)スタイルシートを「嫌い」で避けるのはいただけませんし、「なぜ」を追求するという観点からすれば必要でしょう。今はWebページ作成ソフトが随分強力になって、TABLEタグの入れ子構造やスタイルシートを使ったページも難なく出来てしまうようですが、HTMLやスタイルシートの機能を知った上で使うのと知らないで使うのとでは、やっぱり違うと思うんです(Webページ作成ソフトが悪いというわけではありません。念のため)。
 その2:「メールマガジン(以下メルマガ)を発行するか?」・・・「ニュース速報」でも言及していますが、広報紙「Moonlight PAC Edition」を書くだけの時間と手間が足りません。肝心のニュースを書く時間よりレイアウトを考える時間の方がはるかに長いですし、ある程度定期的に発行出来ないようでは広報紙としての意味がありません(現在ほぼ休刊中と言って良い有様(汗))。
 そこで検討しているのがメルマガです。今のサーバーではメルマガを作るために必要な二大要素の一つ、メールアドレスの集約が簡単に出来ます。送信先メールアドレスをひたすら入力していけばOKだったりします。もう一つの記事についてはほぼ問題ありません。課題はニュースをメルマガ読者だけに限定して良いものかどうか、ということ。広報紙の性質を継承する以上は見たい人誰でも見られるようにすべきでしょう。御意見などありましたらメールか「感想用掲示板STARDANCE」へお願いします。
 音が鳴る。俺は立ち止まって、まだぎこちない「明日に架ける橋」の出だし兼サビを奏でる携帯をシャツの胸ポケットから取り出して広げて新着メールを開く。

送信元:井上晶子(Masako Inoue)
題名:待っててくださいね
講義お疲れ様。私はもうすぐ講義です。同じゼミの娘達に囲まれながらこのメールを書いています。メール着信音が鳴った時、皆驚いていましたよ。講義が終わったら電話しますから、退屈だと思いますけど暫く待っていてくださいね。

 また囲まれてるのか・・・。そんなに注目を集める代物なんだろうか?俺は学科内での付き合いが殆どないこともあってか−そのくせ俺がレポートを持って来た時には馴れ馴れしく群がってくるが−、携帯を操作していてどうこう言われたことはない。携帯を操作するのは専ら昼休みや、「迎えに行く」メールを送るその日の講義が終わった時くらいだから目立たないのもあるんだろうが。
 俺は携帯を仕舞って大通りを歩いて生協に向かう。生協の営業時間は夜側にシフトしている。研究とかが夜遅くなるのを考慮してのことらしいが、それは文系学部エリアでも変わらない。だから営業時間の心配をする必要はない。
 生協の店舗に入り、書籍売り場に入る。食堂も広いが−それでも昼時は混雑する−書籍売り場も広い。優に総合駅やビルとかに入っている本屋くらいの広さはある。普通の本屋と違うところは、売れ筋の本以外の専門書の品揃えが充実していることだ。特に俺のような理工系の人間にはありがたい。割引価格で買えるし、「類似品」がある場合中身を比較してから買うことも出来るからだ。
 PC関係の専門書コーナーに到着した俺は、鞄を床に置いて携帯を取り出してマナーモードにする。店舗内が賑わっているとは言え、こういうところで携帯の音を鳴らしたり通話したりすべきじゃない、と思っている。携帯を仕舞ってから手頃な本を物色する。「定番」ソフトの解説書の他、プログラム言語関係もかなりある。とりあえず今勉強中のデータベース関連の解説書を1冊取って広げる。今の計算機関係の講義で頻繁に演習問題やレポートに出されているものの解説書だ。
 俺は自宅にPCを置いているが、殆どMIDIのシーケンサとしてしか利用していない。最近は関数電卓ではとても追いつかない計算量を要するレポートが講義や実験で出て来る関係で、PCで即席のプログラムを組んで計算させたりするが、それでもシーケンサとしての動作時間と比較すれば短い。
 シーケンサソフトは旧式のPCで十分動作するものだし、高校時代に親に強請って買ってもらって−半額出資するのが条件だったが−バンドの曲のデモ作りとかに使用していた馴染みもあってそのまま使っている。だが、今のPCだとデータベースとかは扱えない。これからに備えて新しいPCを買うべきか、とも思っている。金に関しては普段の貧乏性が功を奏してかまったく問題ないし、晶子が使っているPCとデータをやり取り出来るだろう。やり取りするものがあるかどうかは別として。

雨上がりの午後 第1675回

written by Moonstone

 智一と別れた俺は、大通りの文系学部エリア方面を歩く。3年進級までに教養科目の単位を全部取って以来、文系学部エリアに行ってないし行く理由もなかったから、先週朝に晶子を文学部の研究棟に送り届けた後歩いた時は戸惑いすら感じたもんだ。

2004/10/12

[んー、何かねー]
 寝られるようになったのは良いんですがやはり自律神経系へのダメージは相当深刻らしくて、眠りのリズムが掴めません。きちんと所定の時間(私の場合6時間程度)目覚めずに寝られれば問題ないのですが、それに失敗したらほぼ一日中眠気に翻弄されてしまいます(汗)。主治医から最低でも1週間休みようにと勧告が出ていますが、前に作ったシステムが稼動して軌道に乗るのを確認しないことには、ね(溜息)。だから余計に病状が悪化するんでしょうが。
 さて、記事移動・整理のために掲示板JewelBoxを一時閉鎖中なのはご存知でしょうが、掲示板JewelBoxが担っていた緊急連絡システムを文字どおり緊急で制作中です。イメージとしては「私しか書き込めない掲示板」なんですが、そういう機能を持たせるにはそれなりの技術を投入しないといけないわけで・・・。専門書を何冊もひっくり返しては文法などを調べて試行錯誤しています。
 今並行して準備中(そんなの後でも良いから早く身体治せ、と言われそう(^^;))の科学文化研究所では私が知っている限りのPCのプログラム技術や知識を紹介するつもりですが、今はホームページを作るにしてもタグ打ちする人の方が少ないんじゃないかな・・・。私の場合は仕事だっただけに病状を悪化させるほど苦しめられましたが、本来プログラミングというものは楽しいものです。「どうやって」が最優先される今だからこそ、「なぜ」を追求することが必要だと思っています。
 学生、特に大学生っていうのはある意味壮大な身分保障だ。学生ってことで大目に見てもらえる部分は確かにある。現に俺がこの大学に進学して一人暮らしをするようになって、酒は飲むわ女連れ込むわ−良い表現じゃないが−それこそしたい放題やり放題だが、そのことで親に文句を言われたことはない。どういう暮らししていても大学に通っている分には問題ない。そういう思いがあるからだろう。
 だが、仕事となるとそうはいかない。親は自営業だが、実際に自分で働いて生活費やら何やらを補う必要性に迫られて初めて、親が休日に遊び呆けたり家事の手を抜いたりする理由が分かった。生活がかかっているという切迫感はそれだけ相当なものなんだ、と。だからたまの休みや他のことくらい楽させろという気分になるんだ、と。
 それを思うと、それだけ身分保障がしっかりしてるんだから、本業である勉強をしっかりするのは当然だろう。勉強だけしてりゃ良いってわけじゃない。勉強だけやってた頭でっかちな奴等が大企業の役員や高級官僚や議員になって何をしているかを見れば、そのくらいのことは自ずと分かる。

「俺はこんな性格だし就職先云々は考えなくて良いから、今くらい楽しておこうと思ってる。親父の会社に入ったら色々覚えなきゃならないことがあるだろうし、兄貴も姉貴も学生時代はそれこそ馬鹿ばっかりやってたのに、今じゃ役員候補ってことで親父の指揮下でみっちり働いてる。まさか俺だけ逃げられるなんて思っちゃいないさ。」
「そうか・・・。」
「お前にしてみりゃ、良いとこ取りされてばかりで癪に障ることだらけだろうけどさ。それなりの評価はされてると思うぜ。前の週も昨日もお前だけ先に解放されたのは、評価されてるっていうことの良い例じゃないか?そうじゃなきゃ、晶子ちゃんもお前のために夕食作って深夜まで待っててくれはしないさ。」

 個人面談の時に増井先生が言っていたことを思い出す。晶子も俺の真面目さや誠実さに惹かれた、と言っていた。徒労感を感じることは何度もある。でも俺の場合、苦労した分の報酬は得ていると思う。マスターと潤子さんは、バイトの俺と晶子が携帯を買って料金を払えるようにと今月分から時給を上げてくれた。晶子は俺と一緒に居られることを心底喜んでくれる。信頼っていう報酬を得ていることには違いないだろう。

雨上がりの午後 第1674回

written by Moonstone

 そういう考え方も出来るな。卒業までの面倒は見てやるけど後は自分次第、か。俺が目の前に突きつけられている大きな課題そのものだな・・・。

2004/10/11

[同じことの繰り返し(13)]
 金曜から導入された「新兵器」はかなり効果があります(喜)。少々苦いと言われていましたが、水で薄めて飲んでいるので(使用(?)説明の時に言われた)苦になりません。あと、寝る前にラベンダーのエッセンシャルオイルをティッシュに染み込ませて何度も深呼吸しているのも(あまり想像しない方が宜しいかと(苦笑))効いているようです。アロマセラピーというそうですが、効果あるんですね(実は半信半疑だった)。

 (続きです)1970年代の第2次ブームは能見正比古・俊賢両氏が手がけたものです。第2次ブームのキーワードは「マスコミ」です。この時代にはもうTVを中心としたマスコミによる喧伝の効果が何度も実証されていましたが、能見氏はマスコミが使いやすい「恋愛」「(有名人の)ゴシップ」などと血液型性格判断を組み合わせての「普及」に成功したのです。これは現在の第3次ブームとも共通しています。
 能見氏による血液型性格判断の信憑性については先に論じましたので省略しますが、マスコミを使った喧伝によって、科学的な定義に拠らない集合を用いたいい加減な統計を膨大に使い、「科学」を標榜して人間を一方的に決め付け、選別するという新手の選民思想である血液型性格判断が根付いてしまいました。この時代に生まれ育った人達が親になる世代になった現在、またしても血液型性格判断が持ち出されてきました(第3次ブーム)。ここでの新たなキーワードは「勝ち組」「負け組」の喧伝です(続く)。

「少なくとも堀田研には行けないし、他の講義が厳しい分、卒研くらいは楽させてもらわなきゃな。」
「久野尾研が楽ってわけないだろ。」
「いいや、それが違うんだな。久野尾研は院生はハードだけど4年は結構楽だったりするんだ。院生の指導を受けて卒研のテーマに取り組むって感じだし、少なくとも堀田研みたいに学会に持っていけるレベルを要求されることはないそうだ。4年は留年させない、っていうのが久野尾先生の方針らしい。」
「そういう方面については随分熱心だな。」
「まあな。」

 皮肉を込めたつもりなんだが、智一には届いてないようだ。卒業研究にも勿論単位が付いている。今の週1回のゼミには当然4年も出ているが、その合間に研究室があるフロアを歩いていると、締め切りがどうとか実験のスケジュールはとか言っているのを耳にする。後期になって以降、その回数や真剣さが増してきている。楽と言っても研究室に居るだけではい卒業、とはいかないだろう。

「部屋とかのキャパシティには限りがあるし、特に就職組の4年に痞(つか)えられると先生達も困るから、何だかんだ言っても学士(註:4年制大学を卒業すると授与される称号。修士課程修了で修士号、博士課程修了で博士号が授与される)はさっさと与えて出せるものは出して院生や自分の研究に集中したい、っていうのが先生達の本音なんだよ。」
「だからあれだけ絞られても平気な顔してられるってわけか。」
「大体の奴はクラブとかサークルとかの先輩から流れてくる情報や、週1のゼミの合間に今の4年にこそっと聞いたり情報交換したりしてる。かく言う俺も、久野尾研の4年とか他の研究室に仮配属になってる奴等から色々話聞いてる。何も知らないでがむしゃらにやってるのって珍しいぜ?」
「・・・だろうな。」

 漏らした呟きに、怒りとも言える気持ちが混じる。要領の良い奴はポイントだけ踏んで、三途の川をひょいひょいと渡って行く。俺みたいに要領の悪い奴は、よろめいたり踏み外したりしてずぶ濡れになる。・・・こんなもんなのか?

「まあ、卒研で楽は出来てもその後は保障出来ないけどな。」
「どういうことだ?」
「さっき言ったろ?出せるものは出したい、っていうのが本音だって。言い換えれば、卒業はさせてやるけど後は知らん、ってことさ。それに、仕事に追試なんてありゃしないしな。」

雨上がりの午後 第1673回

written by Moonstone

 呆れてものも言えない。先週実験指導担当の教官に絞られた挙句に「研究室に来てくれるな」と突き放されたのに、昨日に至っては「もう一度入学試験を受けてみるか」と詰められたっていうのに−俺だけは設問に答えた後で先に帰らせてもらえた−、尚も俺に頼ろうって魂胆だとは・・・。これだけ神経が図太い方が今の世の中有利なんだろうが、こういう「要領の良さ」は見習いたくない。見習えるほど俺は器用に出来てない。

2004/10/10

[5周年]
 此処の過去ログをご覧の方は恐らくご存知でしょうが、5年前の1999年の今日、連載「雨上がりの午後」が始まりました。つまり5周年なわけです。連載の回数が単純計算で365×5=1815回になっていないのは途中シャットダウンなどで何度か穴を開けたからですが、このまま進めば来年には2000回を越えることになります。本当に1000回以上重ねてきたのかどうかは、順次公開していく過去ログの回数をカウントしてくださいね♪
 5周年だからといって、特別何かが出来るようなものは持ち合わせていません。第一昨日は殆ど1日寝てましたし(汗)。台風接近のせいで買い物に行けなかったのもありますが、何分昨日も病院で新兵器を導入されるほど今まで不眠が酷かったので、寝られる時くらい寝ようかな、と思って。今日から次回更新に向けた作品制作に取り組みますが、不眠に伴う体調不良が続いているので(手足の痺れとか)今以上に悪化させない程度でやります。
 この前公開した1999年11月分の過去ログはかなり重くなっていたと思います。ローカルの段階でも重く感じましたからね。この調子で全部公開していくと結構容量を食われるんですが、今後も不定期にアップしていきます。私自身過去ログを見ることは殆どありませんし、4桁の連載回数が本物かどうかを実証するには良い手段だと思います。普段の生活で4桁の数をカウントすることなんてなかなかないことですし(笑)。
 まだキャンパス内は活気に満ちている。通りは人が頻繁に行き来しているし、近くに見える生協の店舗には多くの人影が見える。時折吹き抜ける風に反射的に身を硬くしつつ歩を進める。

「研究室、何処にするか決めたか?」

 文系学部エリアへ向かう大通りとの交差点に近付いたところで、智一が言う。

「ああ。今の研究室にする。」

 この問いへの回答に迷うことはない。理論的、工学的側面から「音」に関するアプローチが出来る、今俺が仮配属になっている久野尾先生の研究室は、雰囲気も良くて気に入っている。
 週1回のゼミに出入りしているうちに、この研究室に入りたい、という思いがより強くなった。最初は興味半分だった。そして、シンセサイザーに代表されるディジタル音源がどんな原理に基づいているのかを、これまで数式や経文のような解説でしか知りえなかった定理とかと有機的に結びつけることが出来て、目の前が一気に開けたような気分になった。何千何万という研究者が日夜それぞれの分野の研究に没頭している理由が分かったような気がする。
 晶子とマスターと潤子さんにしか話していないが、前の個人面談の席上で内密の話として、久野尾先生も俺が希望するなら優先的に入れたい方針だと言っていた。言わば相思相愛の関係にあるなら、迷う理由はない。

「そう言う智一はどうなんだ?」
「俺も今の研究室に入る。久野尾研は数ある研究室の中でも雰囲気の良さはピカ一だからな。それに・・・。」

 言葉を止めた智一の方を向くと、俺と目が合った瞬間にニヤリと笑う。

「頼りになる友人が身近に居る方が何かと都合が良いし。」
「・・・まだ懲りてないのかよ。」

雨上がりの午後 第1672回

written by Moonstone

 俺はジャンパーを着て、智一と一緒に人気が殆どなくなった講義室を出る。外はもう涼しいを通り越して肌寒いと感じる。空を見上げれば太陽が大きく西に傾いて夕焼けの準備をし始めている。冬の訪れが近いことを感じさせる。

2004/10/9

[同じことの繰り返し(12)]
 不眠症状があまりにも深刻、ということで、昨日病院で「新兵器」をもらいました。「新兵器」といっても一撃必殺の薬ではなくて、形状が錠剤や粉ではなくて液体だということくらいです。現在服用している薬の補助的役割だそうです。まだ飲んでいませんが、ちょっと苦いとのこと。バニラ味とかつけておくくらいの愛嬌があっても良いと思うんですけどね(そんなこと言うとる場合か)。

 (続きです)古川氏の説にはAB型が存在しないのですが、それは古川氏の血族にAB型が居なかったという理由で、しかも「気質」という単語を「積極的」とか「慎重」とかいう性格の傾向を表現するために用いました。そして自説に適合しない事例については「本人の問題」とする態度を取りました。この時点でもはや科学的論理展開から逸脱しています。学者と呼ぶに値しない行為です。
 しかも古川氏は自説で「小学校の教員の血液型分析」の他、「売血(註:献血制度が導入されるまでは血液が売買されていました)志願者の血液型分析」「犯罪者の血液型分析」「自殺者の血液型分析」などを展開しています。これが「主義者(思想犯)」という、当時施行されていた稀代の悪法である治安維持法で反体制的、すなわち天皇絶対政治に反対しているとされた思想信条の人々に対する弾圧の思想的背景になっていきました。
 古川氏がこのような「分析」を持ち出したのは、血液型を教育の道具にするためでした。当時は先に挙げた治安維持法や特高警察の設置に代表されるような、天皇絶対政治に反対する人々への弾圧が激化していた時期でした。人を一方的に決め付けて選別する便利な「道具」として、そして夥しい血を流させる侵略戦争に人々を放り込む思想的背景として、血液型性格判断が用いられたという歴史的事実が現にあるのです(続く)。
 時は流れて火曜日。3コマめの講義が終わった講義室が俄かに騒々しくなる。俺は出口へと向かう流れを他所に、脱いで脇に置いておいたジャンパーの内ポケットから携帯を取り出して広げて、新規メールを作成する。

送信元:安藤祐司(Yuhji Andoh)
題名:連絡待ってる
こっちは3コマめの講義が終わったところ。これからそっち側の生協の店舗に行くから、終わったらメールか電話をしてくれ。

 どうして俺って、業務連絡のテンプレート的文章しか作れないんだろうなぁ・・・。レポートに文学的要素なんて必要ないから、元々少なかった作文能力がすっかり退化しちまったせいなのかもしれないが。まあ、兎も角メールを送ろう。昼休みに晶子から来たメールの返事も兼ねるから。

「おーおー。早速晶子ちゃんへ愛のメールか?」

 隣から羨望と冷やかしがごちゃ混ぜになった智一の声がかかる。・・・見られてたのか?俺は携帯を畳んでシャツの胸ポケットにそそくさと仕舞う。

「覗くなよ。」
「お前がメール送る相手って晶子ちゃんしか居ないんだろ?覗かなくても分かるって。」

 言われてみれば確かにそうだ。電話番号はマスターと潤子さんに教えてあるが、メールアドレスまでは教えていない。俺が持つ携帯はそれこそ晶子との専用回線だから、俺をそこそこ知る人間ならその辺の事情は分かるだろう。

「これから逢引きと洒落込むわけか?」
「そんなところだ。」
「先週頭から携帯を持ったと思ったら、朝は早いし帰りは晶子ちゃんと一緒。・・・やっぱり心配か?」
「当然。」

 晶子と大学を行き来出来ることそのものは楽しいし、こんなことならもっと早く携帯を持てば良かったとも思う。だが、携帯を持つことになったきっかけは、晶子に取り巻きの男連中を取られた−晶子にはそんなつもりはさらさらなかったことは分かりきってるが−あの女王様気取りの女が絡んで来たことだ。あれ以来まったく音沙汰がないとは言え、何時どんな手段で牙を向けてくるか分からない以上は100%気楽に構えて、智一の言葉を借りれば逢引きをしていられない。

雨上がりの午後 第1671回

written by Moonstone

 何だろう?何時でも連絡を取れるように、ってことで携帯を買ったんだし、今日はお揃いのストラップを買ってまだ間もないっていうのに・・・。まだベタ打ちで、しかも最初の方だけだが、俺と晶子だけの着信音として「Fly me to the moon」のギターソロバージョンと「明日に架ける橋」を作って晶子の携帯に転送しておいてある。それが鳴るのを同じゼミの奴に見せて自慢するんだろうか?まだ「聞かせる」レベルには程遠いが、晶子が喜べるものを提供出来るならそれで良い。

2004/10/8

[同じことの繰り返し(11)]
 昨日は最初から最後まで延々と眠気に翻弄されていました。やっぱりラベンダーの香りを嗅いで寝て気分爽快、となっていたのは一時の誤魔化しで、それも効かないレベルにまで眠気が溜まっていたようです。・・・前振りが長くなりましたが、7月以来滞っていた論評の続きを。「血液型性格判断」の科学的・論理的側面からの問題点を挙げていました。

 (続きです)「血液型性格判断」の本質が「お前はこういうものだ」と十分な吟味もなく一方的に決め付ける有害な選民思想だと指摘しましたが、これは「血液型性格判断」のブームの隆盛の歴史とその背景を見ると際立ってきます。「血液型性格判断」のブームは昨今だけのものではなく、ここぞという時に出て来ていることが見えてきます。
 第一次(便宜上こう称します)ブームは1927年の古川竹二・東京女子師範学校(現・お茶の水女子大)教授が発表した「血液型による気質の研究」に端を発します。概要はABOという3つの血液型による分類を、性格や能力といった単語ではなく、クレッチマーが精神医学用語として用いた用語である「気質」を持ち出して、それとの相関を判定する、というものでした(続く)。
 前回俺だけ先に帰らせてもらった実験は、智一を含む3名が暫く尋問された後−当然まともに答えられる筈がない−、「君達は4年になってもこの研究室に来ないでくれ」と言われて解放された、と智一が零していた。説教よりこういう突き放しの方がある意味ずっと怖い。研究室の勧誘まで受けた−智一には話していない−俺とは対照的な扱いだ。

「大変ですね。」
「厳しいと知ってて入ったところだから仕方ないさ。」
「私はもう各自ゼミに本当に配属されてますけど、祐司さんは仮配属の段階なんですよね?」
「ああ。希望者が多い場合は4年の時の成績順になるんだ。」
「祐司さんなら、今の研究室に入れますよ。」

 テーブルの前に腰を下ろしている晶子の励ましが嬉しい。久しぶりの二人での外出なのにすぐ帰宅してレポート、っていう色気も何もない俺の生活に嫌な顔一つしないで、こうして紅茶を入れてくれたりする。ジェンダーだ何だと叫ぶ奴等が見たら抗議殺到だろうが。
 俺はカップを持って晶子の向かい側に座る。自分だけデスクの前に座ってるのも何だしな。時折車の走行音が遠雷の様に聞こえる静かな時間を、紅茶を飲みつつゆったり過ごす。慌しかった反動で尚更肩の力が抜ける。

「祐司さん。」

 カップを置いた晶子から声がかかる。俺はカップから口を離す。

「何?」
「明後日の4コマめって、祐司さんは休講なんですよね?」
「ああ。」

 大学で休講は珍しいことじゃない。補講があるかどうかは別として。

「大丈夫。文系学部エリアの生協の本屋で立ち読みでもしてるから。」
「携帯、使わせてもらいますね。」
「?あ、ああ。」

雨上がりの午後 第1670回

written by Moonstone

 以前までは単純にクローンを培養されておしまい、言い換えれば美味しいところだけ摘み食いされて泣き寝入り−本当に泣いたわけじゃない−していたが、最近はちょこちょこと計算式や定数を変えておいて、第1次クローン−レポートのクローンは人から人へとコピーされていく−が出来たところで、こっそり正しいものに置き換えていたりする。そうなると別のレポートや試験の時に引っかかるというわけだ。これくらいの悪さは罪になるまい。

2004/10/7

[4時間]
 これが月曜と火曜の睡眠時間の合計です(汗)。睡眠障害は深刻どころの話ではなくて、主治医の勧告どおりにしないと一生治らない状態になってしまう、否、もうなってしまっているのかもしれません。4時間で耐えていられるのは、昨夜(10/5夜)以前此処でお話したように、ラベンダーのエッセンシャルオイルを嗅いで寝たからでしょう。同じ2時間でも火曜の昼間は意識朦朧としていたんですが、昨日の昼間はプログラミングで一番難しいとも言えるバグ取りも出来て、底をつきかけていた連載のストックを増やせましたからね。
 2日合計で4時間しか寝ていないということは、起きて夜明けを迎えたということなんですが、薬を飲まないと寝られない身体ですし薬は処方分(2週間分)しかありませんから、掲示板の新装準備をしていました。プログラムが新しくなるのに併せて体裁も新しくしています。まあ、見た目にはあまり変わらないでしょうけど(^^;)。
 掲示板新装に併せて、科学文化研究所のインデックスを作っています。掲示板へのリンクだけある、というのも味気ないですからね。それで思ったのですけど、いっそこちら(芸術創造センター)のインデックスも変えようかな、と思ってみたり。Netscapeでもリンクでチップが出せると良いんですけどね。・・・あ、「この際IEに乗り換えろ」っていう呼び声が聞こえる。げ、幻聴ですね(^^;)。2日で4時間しか寝てませんから(^^;;)。
 俺と晶子は自然と手を取り合って歩き始める。昼間の日差しが暖かく感じられるようになってきた白秋の晴天の下、車がひっきりなしに行き交う大通りに沿って二人で歩く。携帯を持つことになったきっかけそのものは馬鹿げたものだが、こうして二人でちっぽけな、でも絶対金には替えられない価値をまた1つ共有出来るようになったんだから、やっぱり将来は分からない方が良いのかもしれない。

 ・・・これで良し、と。判明している分のレポート−実験以外のレポートの課題は講義中に唐突に出される−と今度のゼミの資料はこれで揃った。レポートを挟んだバインダーファイルを鞄に仕舞う。思わず溜息が出た俺の前に芳香と湯気を漂わせるカップが差し出される。

「どうぞ。」
「ありがとう。」

 晶子が入れてくれた紅茶を啜る。ストラップを買った足でそのまま繁華街や遊び場−何か幼稚っぽいが−に繰り出す、というわけにはいかない。夜からは何時ものようにバイトがあるし、俺がこの土日でレポートを片付けたかったからだ。
 正直に言わなくてもレポートの量は尋常じゃない。レポートの課題が出ない曜日はない、と言って良いどころか、その曜日につき1つで済めばありがたい、とう有様だ。そのレポートの問題が平気な顔して試験問題になって出て来たりするから油断ならない。レポートを提出しないと掲示板に学科と学年と名前が書かれた督促状が張り出されるくらいで済めばまだましな方で、講義によっては、レポート提出を怠ると試験を受けられないこともある。
 試験にも絡むし試験を受けられるか否かにまで絡むから何としてもやらないといけない、ということで俺は時間をやりくりして、時に夜中までかかってレポートを仕上げるんだが、おこぼれを頂戴しようという輩は何処の世界でも居る。と言うか、高校時代と大して変わらないような気がする。この前PCを動員してまで仕上げたレポートを持っていったら、講義が始まる前に大量のクローンが培養されてしまった。

雨上がりの午後 第1669回

written by Moonstone

「それじゃ、行こうか。」
「はい。」

2004/10/6

[意識喪失寸前・・・]
 すみません。一昨日2時間しか寝られなかったので(「寝なかった」ではない)もう身体限界です・・・。更新したら早く寝ます。お休みなさい(ぱたっ)。
 店を出たところで晶子にストラップの1つを渡す。晶子はそれを受け取るとまず財布をスカートのポケットから取り出し、500円硬貨を差し出す。

「良いよ、1000円くらい。」
「こういうことはきちんとしないと駄目ですよ。それに、男の人に払わせるつもりはありませんから。」

 律儀だな、本当に・・・。俺は丁重に500円硬貨を受け取る。金のやり取りが終わったらいよいよ本題。携帯を取り出してストラップを付ける。掌にすっぽり収まるまだ真新しいシルバーの筐体にぶら下がる、ピンクと白の縞模様の紐と小さなピンクのマスコット。改めて見てみると、やっぱり愉快な取り合わせだな。

「これでお揃いのアイテムがまた増えた、ってわけだな。」
「ええ。明日からまた1つ自慢出来ます。」

 嬉しそうに微笑む晶子を見ていると、俺の心は軽くなる。たかが、と言うのも何だが1つ500円の、これまた言葉は悪いがちっぽけなものをお揃いにしただけでこんなに喜ぶ晶子は、こういうちっぽけな幸せに価値を見出すのだと改めて実感する。

雨上がりの午後 第1668回

written by Moonstone

 俺は1000円札を出す。店員がストラップを袋に入れようとしたところで止める。すぐ付けるものだし、腐るわけでもないからわざわざ袋に入れてもらう必要はない。店員が1000円札と引き換えに差し出したレシートを財布に入れ、ストラップを再び手に持って、ありがとうございました、の声に送られてカウンターを後にする。

2004/10/5

[ラベンダーって効くのかな?]
 前から問題になっている睡眠障害が相当深刻になって来て、起きているのか寝ているのかよく分からない有様です(汗)。そんな中、別のプログラミングをしていられるのはもはや本能?カスタマイズしやすいとはいえ結構入り組んでいるので(性能を考えればやむを得ませんが)、ローカルでの試行錯誤を繰り返しています。
 何処かのページで「ラベンダーは沈静作用があって・・・」という文面を見た覚えがあります。ラベンダーの何とかオイルをティッシュか何かに染み込ませたものを嗅いでから寝るとぐっすり眠れる、という趣旨だったと思いますが、それが本当に効くなら試したいものです。何せぐっすり眠れて気分爽快、というのを久しく体験してませんからね。
 あ、この前公開した過去ログがIEだと太字だらけになってしまうバグを取りました。勿論、記載内容には一切手を加えていませんのでご安心を。以前、NetscapeとIEを比べるとNetscapeの方がHTMLの文法に厳しい、という話を聞いたことがあるんですが、今はIEの方が厳しいのかもしれません。
 遠慮気味に陳列棚に戻そうとした晶子を止めて、問題のストラップを観察する。ピンクと白の縞模様。ピンク色の怪獣着ぐるみのマスコット。第一印象は確かに「変わっている」だったが、見慣れてくると愛嬌があって親しみやすい。

「良いな、これ。」
「携帯がシルバーですから、ストラップもシルバーか白系統にした方が良いかな、とも思ったんですけど、このマスコットが可愛くて・・・。」
「これにしよう。」

 晶子はちょっと驚いた顔をする。良く言えば慎重、悪く言えば優柔不断な俺が、この意外性のあるものを買うと即断するとは思わなかったんだろう。

「良いんですか?」
「二人一緒のものだから、印象に残るものが良いだろう。シルバーの携帯にピンク色の怪獣マスコットが付いたストラップ、って組み合わせは意外性があって面白いし、全部色を統一しないといけない、なんてこともないし。晶子はこれで良いか?」
「あ、はい。」
「それじゃ決まり。行こう。」

 俺は携帯ストラップを手に、ストラップのコーナーに隣接するカウンターへ向かう。少し列が出来ているが、構わず並ぶ。列の最後日に並んだ直後、晶子が俺の横に並ぶ。
 待つ、というほどの時間を経ずして俺と晶子の順が回ってきた。いらっしゃいませ、の声に迎えられた俺は、持っていたストラップ2つを差し出す。

「2つお買い上げで、1000円丁度になります。」

雨上がりの午後 第1667回

written by Moonstone

「変わったマスコットだな。」
「ちょっと祐司さんの好みには合わないですかね・・・。」
「見せて。」

2004/10/4

[記録更新に思うこと]
 イチロー選手がシーズン最多安打記録を更新したことは、リスナーの皆様も報道などでご存知でしょう。その記録が偉大であること、イチロー選手が称賛されることに何ら異議はありません。しかし、イチロー選手による記録更新が迫るまで、それまでの記録保持者だったシスラー選手の存在が半ば忘れ去られていたことを、特に日本の野球ファンは知っているのでしょうか?
 半世紀以上前、シスラー選手が成し遂げた金字塔は、折りしもベーブ・ルースらの記録と重なってしまいました。本塁打など華々しい記録に比べ、安打数の積み重ねというシスラー選手の記録は地味で、イチロー選手の活躍でようやく掘り起こされてきました。イチロー選手が打ち立てた偉大な記録の背景に、それまでの記録を半世紀以上にわたって保ち続けたシスラー選手の存在があることを忘れてはならないと思います。
 今年の金本知憲選手による連続フルイニング出場記録更新も、本塁打数などに比べれば地味なものです。しかし、1日或いは1回の地道な継続の積み重ねによって生まれたこういう記録も、破られる「壁」を作った選手の存在ももっとクローズアップされて然るべきではないか。見た目の華やかさのみがもてはやされる風潮が蔓延る昨今、イチロー選手と金本選手、そしてシスラー選手とリプケン選手に学ぶべきではないか。私はそう思います。
 俺の背に晶子の両腕が回る。どちらからともなく唇を重ね、時に俺が上になり、時に晶子が上になって口付けを続ける。何度目かはもう覚えていないが、愛情表現の一つであることには違いないキスを続ける。二つの、愛したい、という気持ちが正直に向かい合っているのを感じる。
 大学時代の思い出にするつもりはない。したくない。互いにそう思ってるなら、何らかの形でそれを実現に向かわせないといけない。物事は思うだけで実現しない。二人手を取り合って、それこそ地獄の底まででも行くつもりで生きていけば・・・必ず・・・。
 今は抱き合うこととキスすることで表現される愛情に身も心も委ねよう。確実に迫ってくる厚く高い壁を乗り越える、否、突き破る力を蓄えよう。俺一人じゃない。晶子が居てくれる。俺と晶子の共通の夢を叶える二人三脚の準備を・・・しておこう・・・。存分に・・・。

Fade out...


 携帯を持って2回目の日曜日の午後。俺と晶子は、マスターに連れてきてもらった携帯を買った店に来ている。目的は勿論、携帯のストラップを買うためだ。
R  携帯を買った時はまったくと言って良いほど目に入らなかったが、店内の一角にはしっかりストラップの専用コーナーが設けられている。日曜の午後ということもあってか、店内は学生と思(おぼ)しき若い男女で−俺と晶子もその部類に入るが−賑わっている。俺と晶子が居るストラップのコーナーには人垣が出来ていたりする。
 服売り場で目にするような回転式の陳列棚−本当の名称は知らない−には、色とりどりのストラップがぶら下がっている。先端にくっついているマスコットもこれまた様々だ。元々キーホルダーを少し大きくしたようなものが隙間なくぶら下がっているから、目移りしてしまう。どれが良いのか決め難いというのもあるが。

「祐司さん。これってどうです?」

 晶子は一組のストラップを俺に見せる。ピンクと白が斜めに縞模様を描くストラップの先端に、笑顔で万歳しているピンク色の怪獣が付いている。よく見ると、怪獣の口の中にはこれまた笑顔の若い女性らしい顔がある。…ということは、これは着ぐるみなのか?

雨上がりの午後 第1666回

written by Moonstone

 俺は左手に力を込めて晶子を抱き寄せる。・・・これでも足りない。身体を捻って晶子の方を向いて抱き締める。これが、俺と一緒に暮らすことに生涯の幸せを見出した、芳香と温もりを感じさせる華奢な身体の女神に対する、俺が今出来る精一杯の愛情表現だ。

2004/10/3

[休養の日]
 深刻な睡眠障害を来たしている、という話は以前にもしたと思いますが、目覚まし(時計と携帯両方)を解除して寝たにもかかわらず、平日と同じ時間に目が覚めました。ゆっくり寝ようと思っていたのにこれでは話になりません。当然、眠いけど眠れないという状態でPCの前に向かっても作品制作に取り組めず、余っていた薬を飲んで寝ました。
 途中携帯のコール音で目を覚まされましたが、通算12時間あまり寝ました。ようやく眠気は治まりましたが、今度は腰痛が出て来てしまいました(汗)。まあ、これは長時間横になっていたせいでしょうから、そのうち収まるでしょう。
 1024*768の解像度だと1画面をほぼ埋め尽くす更新量だった昨日とは打って変わって大人しい(?)更新となった本日。TVは番組改変期なので見たいものがないので見ていません。兎に角休養をとることを優先したいと思います。
「・・・。」
「物事に対しても人に対しても真剣になれない人間にはなりたくないんです。そういう人とは付き合いたくありません・・・。」
「・・・。」
「私の言うことは所詮は綺麗事かもしれません。理想論かもしれません。でも、現実がそうだから、多数がそうだからといって自分までそうするのは・・・、自分の心を売り払って生かされていることを、誰かに都合の良いように操られることを選んだのと同じだと思うんです。私は・・・そうなりたくありません。だから・・・。」
「俺を信じて・・・、愛してくれてるんだな?」

 俺の問いに、晶子は小さく頷く。

「また失うかもしれない、と思うことがあっても、また一滴も涙が出なくなるまで泣くことになるかもしれない、と思うことがあっても、俺を信じて・・・、愛してくれるんだな?」

 念押しとも取れる俺の問いに、晶子は小さく頷く。耕次は以前俺に言った。そんなに思い詰めるまでお前と一緒に暮らしたいと思ってるんだ、本当に彼女と一緒に暮らしたいと思ってるなら彼女とそれこそ地獄の底まで行く覚悟を持て、と。俺に寄り添う女神の想いは・・・耕次の言ったとおり、自分を崖っぷちに追い詰めてのものだと改めて思い知る。
 だったら・・・、俺はその想いに応えなけりゃならない。否、応えたい。冷たい雨が降る灰色の廃墟に閉じこもり、膝を抱えて蹲っていた俺に手を差し伸べて立ち上がらせてくれたこの女神を幸せにするのは、親でもない。前の彼氏でもない。俺しか・・・居ないんだ。

雨上がりの午後 第1665回

written by Moonstone

「失って心が痛んだり傷ついたりするのは、それだけそれを愛していたからだと思うんです。悩んだり苦しんだりするのは、それだけそれと真剣に向き合っているからだと思うんです。今の祐司さんが進路を選択しているときもそうですし、私が祐司さんと一緒に暮らすことに生きがいと幸せを見出したことも・・・。」

2004/10/2

[驚かれましたか?]
 更新の量を見て「何じゃ、こりゃーっ!」と思われた方も居られるかもしれませんね。かく言う私もあまりの多さに驚いています(^^;)。昨日もお話しましたが、何時までも放置しておくわけにはいかないので、一時閉鎖措置を実行しました。同時に利用実績のない一行リレー専用掲示板WordSpheresを閉鎖しました。サーあー容量の余裕はありますが、使わないプログラムを置いておくのも何ですし。
 併せてコンテンツの背景色を変えてみました。一時閉鎖とした掲示板JewelBoxの背景色より濃くして、文字色とのコントラストを強めました。この方が見やすいかな、と思うと同時に、逆に掲示板JewelBoxが浮いて見えるな、とも思いますが、通常稼動しているコンテンツはマウスカーソルを合わせればカーソルの形状が変化しますから、慣れの問題、と割り切っています。
 メールフォームに関するアンケートをトップページ最上段に設置しました。より使いやすいものに改良するため、是非ご協力をお願いいたします。投票所Cometと同じ形式ですので、お名前やメールアドレスを残す必要はありません。

「あの時も、今が全てでした。その延長線上に将来がある。そう思ってました。そうとしか考えませんでした。」
「結果として心に深い傷を負ったのに、将来が分からない方が良いのか?」

 俺の問いかけに晶子からの返事はない。俺は黙って晶子の髪に指を通して何度も梳く。水分を含んだ滑らかな手触りを堪能する。

「将来が分かったら・・・、今がつまらなくなると思うんです。」

 ゆったりとした沈黙の時間の後、晶子の言葉が浮かぶ。

「失恋したあの時は、本当に泣きました。力の限り泣きました。涙が枯れた後、もう一度やり直すことにしたんです。そのつもりで今の大学に入ってこの町に来て、2年前の秋の夜、祐司さんと出逢って・・・。そして今、祐司さんと私はこうして一緒に居る・・・。将来が分かったら、今までの祐司さんとの出来事も、今こうして一緒に居ることも、心から幸せだ、って思えないと思うんです。ああ、こうなった、って思うくらいで・・・。」
「・・・。」
「祐司さんも私も、辛い思いをしました。でも、その先に新しい幸せがあるって分からないから、今が幸せだ、って思えるんだと思うんです。過去の心の古傷を癒せるだけの力があると思うんです。」
「分かって安全を選ぶより、分からないで不幸に遭った方が良い、ってことか・・・。」
「ええ・・・。」

 晶子の言いたいことは分かる。だが、正直理解し難いものがある。不幸が待ってると分かるのなら普通避ける筈だ。今から外出したら財布を落とすと分かっていて財布を持って外出する奴はまず居ないだろう。財布程度で済めば良いが、自分が辛い、痛い思いをすると分かっていて、それも場合によっては肉体的損害よりも癒し難いものとなる精神的損害を被ると分かっていてわざわざそんな目に遭いに行くのは、修道僧くらいのものじゃないか?

雨上がりの午後 第1664回

written by Moonstone

「私、祐司さんと出逢う前、もっと突き詰めれば今の大学に入る前に大恋愛をした、ってお話しましたよね?」
「ああ。ずっと続くと思っていた、そう約束した筈の恋愛が終わった・・・。そして今の大学に入り直してこの町に来た・・・。そうだよな?」

 晶子は無言で小さく頷く。

2004/10/1

[何とかしたいけど…]
 仕事は大きな山を越えてひと段落、という状態ですが、こちらは遅れに遅れている項目が山積しています。最大の課題は何と言っても掲示板JewelBoxの記事移設。ログを全て収集して掲載分の記事を内容に応じて、こちら芸術創造センター(以下PAC)に残すものと科学文化研究所(準備室段階ですが)の掲示板に移すものに分類して、最低限PACに残した全ての記事にお返事をする…。考えるだけでも気が遠くなりますが、何時までも放置しておくわけにはいきません。
 でも、それを妨害しているのが体調不良。薬を服用しているにもかかわらずかなり深刻な睡眠障害が出ていて、主治医から休養を勧告されています。終えたばかりの仕事が軌道に乗ったのを確認したら、1週間ほど休もうと思っています。ここでの活動は続けるつもりですが、ページ管理の時間帯がどうしても深夜になる傾向を考えると、シャットダウンした方が良いのかもしれません。悩みどころです。
 あともう1件。メールフォーム「Shooting Star」の改良を考えています。現行バージョンは回答任意のアンケートが付属しているのですが、あれがあると送り辛い、とお考えの方も居られるのではないか、と。他所様のページで使用されているメールフォームで、アンケート付属のものは殆ど見かけませんし。明日明後日から緊急アンケートを実施する予定ですので、ご協力をお願いいたします。
 実家からは最近、週1回以上のペースで電話がかかってくる。大学で進路の話はないのか、とか、公務員試験の準備をしろ、とか色々。押しの強さに−俺がはっきりしないだけなのかもしれないが−俺は生返事を繰り返している。だが、表面上はそう見えなくても思い詰めている晶子の幸せと心を壊さないためには、俺の一刻も早い態度表明が必要だ。
 分かってはいる。分かってはいるけど、研究室に仮配属で、実際にどんな研究をするのか、出来るのか、そしてどんな過ごし方なのかもろくに分からない今、態度表明を急かされるのは厳しい。俺の言い分は今のご時世では甘っちょろいんだろうが、数歩先も見えないのにその先を読んで行動しろというのが無茶だと思う。
 晶子は俺の定まらない心の天秤の動きをじっと見据えてくれている。天秤の揺れが定まった時点で、晶子はそれに応じた職探しをすることも分かっている。晶子と大学卒業と同時にさよならする気は毛頭ない。だが、このまま大人しく「真っ当な道」のレールに乗るべきなのか、それともあの夏の達成感と充実感を追い求める凸凹道を進むべきなのか。・・・俺には分からない。
 一頻り話した後、寝る準備をして今、俺は晶子とベッドの中に居る。何時もの月曜の夜と同じく、俺の左肩口には軽い重みがある。俺はその重みの元を左手で軽く抱え込んでいる。愛しくて儚い、大切な重みを。

「将来が分かったら良いな、って思う時ってありませんか?」

 晶子の囁きとも言える声が暗闇に微かに浮かぶ。

「あるよ。今がそうなんだから。今のまま進んだらどうなるか分かるなら、晶子に夜遅くまで愚痴を聞かせることもないだろうし、別の道を選べるなら尚更そうしたい。・・・そういう晶子はどうなんだ?」
「このままで居たい、とは思いますけど、将来は・・・分からない方が良い、って思ってます。」

 晶子の手が俺の胸から脇に回る。

雨上がりの午後 第1663回

written by Moonstone

 そんな中で一人悠然としている−勿論、本人にそんなつもりはさらさらないことくらい分かる−晶子は、余裕綽々(しゃくしゃく)に見えるらしい。その分、俺が早く進路を決めないといけないと分かって、言葉に詰まることが多かった。

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