芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2004年12月31日更新 Updated on December 31th,2004

2004/12/31

[2004年の終わりを迎えて]
 何だかあっという間に夏が来て、この暑さが延々と続くのかと思ったらあっという間に寒くなって1年が終わろうとしている。そんな気分です。兎に角慌しい1年でした。職場の体制は大きく変わり、持病は一時危機的状況に陥るなど、兎に角変化に翻弄され続けて腰を据える機会が極端に少なくなったような気がします。ともすれば「考える」ことを忘れてその場そのときを乗り切れば良いや、と投げやりな気分になりそうな今だからこそ、時に立ち止まることの必要性を痛感しています。
 帰省して新作を2つ書き上げましたが、2つめは随分難産でした。総時間は約12時間。普通なら「次に間に合わないからまた今度」としてしまうくらい、あれこれ考えながら書きました。考えながら書くというのは想像以上に体力と精神力を使うもので、今はほっと一息吐いています。
 2005年がどんな年になるのかは勿論分かりません。分かれば何の苦労も要らないでしょうが、先が見えているというのはつまらないものだと思います。5年以上手がけている連載小説を掲載しているページの管理者として、自然科学の研究を手がけるべく準備中の「科学文化研究所」と芸術創造センター12番目のグループの開始と掲示板の早期再開を目指して邁進していきたいと思います。

皆様、良いお年をお迎えください。

「募集条件は緩和しないんですか?接客や料理以外に楽器演奏が出来ること、っていう。」
「それはしない。生演奏が聞けて誰もが気軽に立ち寄れる喫茶店、っていうのがこの店の経営方針だ。それに、祐司君と井上さんの働きぶりを3年近く見ていて、これだけの子が抜けた穴はそう簡単に埋められない、と思ってる。」
「そうですかね。飲食店で時給1000円なんてまずないですし、楽器が出来る奴はそれなりに居ますよ。」
「祐司君が来る前に何人か来たんだが、態度が良くないか演奏がからっきし駄目かのどちらかで全部落としたんだよ。接客態度は飲食店に限ったことじゃないが、店の印象を決定付ける重要な要素だ。それがなってないことにはとても採用出来ない。この店の経営に関わる問題だからね。その点からしても、祐司君と井上さんは本当によくやってくれていると思うよ。」
「だから、コンサート前から此処に来てもらってるのよ。祐司君は特に大学の方が忙しいから、食事や洗濯とかにかける時間や神経を減らしてもらうためにね。祐司君と晶子ちゃんの二人とこのお店は、持ちつ持たれつなのよ。」
「それもあるし、来年は祐司君と井上さんは4年になる。井上さんの方はもうゼミに配属されているけど、祐司君も研究室に配属になって卒業研究に入る。そうなると、こっちに来てもらえるだけの余裕があるかどうか、っていう問題があるんだよ。」

 俺にとっても重要な問題だ。4年の学費を払える分は貯まっている。だが、生活を維持するにはバイトが欠かせない。講義で使う教科書となる専門書を買ったりすると仕送りだけでは厳しい。かと言って卒業に関わる卒業研究をおざなりには出来ない。大学とバイトの両立は益々厳しくなると考えた方が良いだろう。
 バイトに行けなくなると金銭的問題は勿論だが、晶子と会えなくなるのが一番気がかりだ。過去に距離が出来たことで結果的に付き合っていた相手と別れるという苦い経験をした。気持ちの整理はとっくに出来てるが、思い返すとやっぱり苦い。あんな思いを好き好んで味わう気にはなれない。

「まあ、とりあえず今はコンサートに集中してもらって、年末年始にでも井上さんとゆっくり話し合って考えると良い。勿論此処に来てもらっても良い。相談に乗れるものなら乗りたいし、それで問題解決の方向性に寄与出来るなら、こっちとしてもありがたい。」
「ありがとうございます。」

雨上がりの午後 第1751回

written by Moonstone

「祐司君と晶子ちゃんが良い子で本当に助かってるのよ。普段もきちんと働いてくれるし、今日の買い物みたいに、今日明日のクリスマスコンサート以外の仕事もしっかりやってくれるし。本当に、祐司君と晶子ちゃんが抜けた後どうするか、悩みどころなのよね・・・。」

2004/12/30

[年越し間近]
 昨日から帰省しています。早速1作品書き上げました(早っ)。鈍ったり早まったりの波が激しいな、と思われるでしょうが、私は元々気まぐれな方ですし(その割にこだわる時はしつこいほどこだわったりもします。うーん、わけ分からん)、精神状態の浮き沈みが激しい今は、それが顕著になっているんです。
 年末年始に特別あそこに行く、とかいうことはありません。基本的に帰省時は作品制作に集中する時期という位置づけですし、それ以外にすることがないからです。ネットに関わる前はゲーム機持ち込んで朝から晩までぶっ通しでやっていたんですが、ゲームが作品制作に置き換わったという感じですね。
 TVは紅白歌合戦で倉木麻衣さんが出る時だけ見ます。シングルは買ってますし(普通は買わないんですけどね)、連載でも度々登場している曲「明日に架ける橋」ですから、会場は何処かとかどんなアレンジになるのかとか楽しみです。出来ればストレートのポニーテールで(以下略)。

「普段は俺と潤子でやってるんだが、結構時間がかかるんだ。土日は向こうの開店時間に間に合うように店に行って、急いで買い込んで運んでこっちを開ける、っていうパターンもあるんだ。」
「そうなんですか。」
「昼間も結構お客さんが来るのよ。ほら、今は中学や高校も土曜日が休みでしょ?それで塾の行き帰りに此処で一服、っていう感じみたいよ。お昼ご飯を此処で済ませてる、っていう子も居るし。」
「へえ・・・。」
「前にこの学区の中学校のPTAが来て、煙草を売ったり吸わせたりしてないか、って聞き込みに来た。此処では見てのとおり煙草は売ってないし、仮に学生が吸ってるのを見つけたら止めさせる、と言っておいた。それで帰っていったが、納得したかどうかは知らない。」
「・・・。」
「まあ、親や学校が行くな、って言っても来る子は来るし、料理や飲み物っていう商品と引き換えに金もらうんだから、正当な理由もないのに来る客を追い返すわけにはいかないよ。第一、ゆとりだの何だのと言って授業時間を減らしてそこに今までのカリキュラムを詰め込んで、挙句の果てに塾に通わせてる親や学校に、子どもの行動をあれこれ言う資格はないと思ってるけどね。」

 マスターの言うとおりだと思う。学校でも競争、帰ってからも競争、じゃ疲れて当然だ。息抜きしないと妙な形で暴発しかねない。そもそも、子どもが夜で歩くのを云々言うなら、出歩く理由や環境を作る、すなわち塾へ行かせている側の方が問題だ。それを子どもや別の対象に八つ当たり的に責任転嫁するほうがどうかしてる。

雨上がりの午後 第1750回

written by Moonstone

 マスターがコップを置いて言う。

2004/12/29

[やれやれ・・・]
 仕事は昨日で終わりました。文字どおり白紙だった年賀状は昨日一気に書いて投函しました。今思うんですけど、毎年ギリギリまで先延ばしにして一気に書いてみたらものの数時間で終わって、こんなことなら毎日1枚くらいのペースで書いておけば良かったって思う、の繰り返しなんですよね(汗)。基本的に無精者ですから、明日出来るなら明日に延ばそう、っていう思考パターンなんです。そのくせ一旦のめり込むと途端にこだわり派になってしまう・・・。我ながらわけの分からん性格です(笑)。
 今日帰省します。このページは年末年始も休まず営業ですが(何かのCMみたいだ)、ネット環境に格差があるのでメールの送受信(受信しないとスパムでいっぱいになる)と更新、一部のページ巡回くらいに絞り込みます。更新時間は大体23:00〜24:00くらいだと思っていただいて結構です。
 年末年始に合わせて何か更新出来れば、とも思うんですが、この前の土日に遊び呆けた分の埋め合わせを優先しますので、出来ても短編一発ものでしょう(それでも簡単に1時間くらい食っちゃうんですが)。何もないや、と思っていたらある日いきなり更新、てなこともありえますので(とても気まぐれ)、更新チェックをよろしくお願いします。

「晶子ちゃん、よっぽど眠かったのね。」
「はい。」
「会場の準備も済んだし、食材の収納は3人で出来るから、井上さんは帰ったら部屋で寝ていてもらおうか。寝不足のままで重い荷物を運んで、転んで怪我でもされたらそれこそ重大問題だから。」
「そうですね。俺が晶子の分まで手伝います。」
「頼むよ。」

 4人を乗せた車は大通りを走っていく。車は多少揺れるが、それでも晶子はまったく目覚めない。突然−俺からしてみればの話だが−OKサインを出して来たのに男の本能を剥き出しにしてしまったが、あの時「今日はゆっくり休んで明日に備えよう」と言うべきだったかな・・・。男の性欲は一度火が付くともう完全燃焼するまで止められないから厄介なんだよな。
 ゆっくり寝てくれよ、晶子。帰ってからのひと仕事は俺がやっておくから。普段何かと俺を気遣ってくれてるんだ。たまには俺が気遣いしないと、駄目だよな。

 ・・・どうにか終わった。もはや仕入れと言うべきレベルの食材の収納は、俺とマスターと潤子さんの3人で済ませた。あれだけの食材を普段二人で買いに行って運んで収納するんだから、肉体労働的側面はあるもんだと改めて実感する。収納スペースは勿論ぎっしり詰まったが、出しやすいようにきちんと区分けされている。これは潤子さんの指示によるものだ。
 マスターが入れてくれたアイスコーヒーを飲み終えて、俺は身体の力を抜く。それと同時に溜息が出る。夜からコンサート本番だが、その前に結構疲れてしまった。普段力仕事をしないからその分体力が落ちてるんだろうな。バイトで店中動き回っているが足腰の鍛錬になるほどのものじゃないだろうし、マスターと潤子さんと違って、午後6時から午後10時までの短い時間だし。
 晶子は2階の部屋で寝ている。やっぱり相当眠かったんだろう。部屋に連れて行って布団に横になったら直ぐ寝てしまった。文字どおりバタンキューだ。十分寝てもらって、普段の見ているだけで自分も元気になる元気いっぱいの様子を見せてくれればそれで良い。

「それにしても、やっぱり人が居ると違うな。」

雨上がりの午後 第1749回

written by Moonstone

 晶子は眠そうな顔に微笑を浮かべると目を閉じ、直ぐにすーすーと寝息を立ててしまう。此処まで尾を引くほど疲れさせた原因は俺にもあるしな・・・。俺に出来る気遣いと言えばこの程度だが、出来るだけのことをするに越したことはない。

2004/12/28

[ええい、どうする?]
 今、私の家の中は凄いことになっています。一言で言うなら「ゴミ捨て場」です。今朝ゴミ出しの日なんですが、何度か往復しないと捨てるものも捨てきれないほど溜まっています(汗)。勿論年賀状も溜まりまくっています(大汗)。一応今日が仕事納めですし、使用方法がてんで分からない測定機器の、業者による説明は来年行われることになりましたし、今更あたふたしたところで状況が一気に変わるわけではありませんから、ゆっくり確実に出来ることからこなしていこうと思います。
 年末年始のこのページの営業に関してですが、トップページのとおり、シャットダウンなしで行います。実家のネット環境が自宅より格段に劣りますから(つい二月ほど前まではそれが当たり前だったんですが)更新時刻は遅くなりますが、このコーナーと併せて散発的に更新出来れば、と思っています。
 で、私から年賀メールなるものは控えさせていただきます。年末年始は何かと電話回線が混み合いますし、年末年始も休まず営業ですから、トップページでのご挨拶に代えさせていただきます。ご了承願います。
 どうにか全ての食材を車のトランクに詰め込む。本当に「詰め込み」と言う表現が相応しい。よく収納出来たもんだとさえ思う。こんなことを毎週、マスターと潤子さんは二人でやってるんだろうか?二人の店だし、俺がどうこう言う筋合いはないと言えばそうだが、華やかな店の舞台裏は結構汗臭いということは何処でも変わらないということだ。

「よし、お疲れさん。帰るとするか。」

 マスターは車のドアのロックを外す。全員が往路と同じ座席に乗り込んだ後、マスターがエンジンをかけて車を動かし始める。車や人が点在する駐車場をゆっくり抜けて、車は道の広さにしたがってスピードを上げる。

「悪いけど、帰ったら食材の収納も手伝ってもらうよ。」
「はい。」
「終わったら休憩しましょうね。」

 潤子さんが助手席から振り向いて言う。乗りかかった船、と言うのは変だが、今年は俺と晶子の事情を考慮して時給を上げてもらっている。確かに客の入りは良いが、時給1500円なんて飲食店のバイトとしては格段の待遇だ。それに晶子との非常連絡手段を購入・維持するためという個人的そのものの理由にもかかわらず、だ。それが手伝いで少しでも感謝が示せるならそれで良い。
 晶子は・・・やっぱり眠そうだ。頻繁に小さい欠伸をしている。朝あれほど緩慢な動きになるほど眠気が溜まっていたんだから、30分程度の仮眠で完全回復、というのは無理な話だ。・・・俺は晶子の頭をそっと抱き寄せて自分の肩に凭れさせる。今日は俺の番だ。

「祐司さん?」
「少しでも寝た方が良い。帰ったらまた一仕事あるし、少しでも身体を休めて。」
「はい。」

雨上がりの午後 第1748回

written by Moonstone

 清算を済ませた俺達一行はカートを出入り口脇に戻して、手分けして荷物を運ぶ。・・・確かにマスターと潤子さんだけじゃ、何往復もしないといけない量だ。片手に袋を2つ3つぶら下げているから結構重いが、文句は言ってられない。

2004/12/27

[まだ白紙(大汗)]
 この土日は遊び放題でした(汗)。携帯用ページの作品のネタのために「Tales of Distiny」の攻略本に手を出したのが根本的な間違い。大型更新の直後で難題の一つだった台所の掃除が終わったことで「遊びたいっ!」という気持ちが高まっていたせいもあるんでしょうが、起きている間は殆どPSのコントローラを握り続けてました(大汗)。したがって、年賀状はまだ白紙(滝汗)。・・・今日仕事から帰ったら、PSはとりあえず置いておいて(未練たらたら)年賀状書きに専念します。・・・多分(やっぱり未練たらたら)。
 年末は台所の掃除をしたら年明けまで使わない、というのが私の慣例になっているので、昨日の夕食は外食。その帰り、お気に入りの雑貨店に寄って、前から買おうと思っていたクッションを買いました。カバー2枚と合わせて5600円と(自分としては)珍しい高い買い物です。
 何故にクッション?と言いますと、自宅では座椅子に腰掛けてノートPCに向かっているんですが、その座椅子の背凭れがちょっと固くて、長時間向かっていると背中や腰が痛くなるんです。その解消に、ということで。適度な弾力で楽々♪さあ、「Tales・・・」の続き・・・じゃなくて、年賀状書きを(汗)。

「随分買い込みますね。」
「今日は幸い店はコンサート以外は営業休止だし、祐司君と井上さんが朝から家に居てくれたからこれだけ一気に買い込めるんだ。普段は潤子と一緒に、車と此処を何往復もしてる。」
「そうなんですか・・・。」
「特に夏のサマーコンサート以降、店の売り上げは凄いからな。生演奏だけじゃなくて潤子と井上さんが作る料理も評判だから、その分買い込む食材の量も増える。」

 確かに、店を訪れる客はまさに「客が客を呼ぶ」というやつで、「美味しい料理を食べながら生演奏が聞ける」とか「美人二人が料理を作ってる」という声を、初めて訪れた客からよく聞く。生演奏は聞けても料理が不味いと、それならCDを買うなりレンタルするなりして家で食べてた方が良い、ってことになる。店の本来の形は喫茶店なんだから、料理の味が第一だ。
 その点からすれば心配は要らない。潤子さんの料理の腕は折り紙付きだし、晶子の料理の腕前は俺自身も知ってる。営業中、晶子と潤子さんはキッチンで忙しく働きながらも、料理のレパートリーを話して盛り上がっていたりする。その様子を見ていて、俺も料理が出来たらな、とたまに思う。もっとも、俺の料理が人に食べさせられるようになるまで、誰がその料理を食べるんだ、という、ある意味ロシアンルーレット並みに緊張と恐怖を強いられる命題があるが。

「このくらいで良いわね。」
「そうだな。よし、レジへ行こうか。」

 俺と晶子が押しているカートには、上も下も−入れる部分は上下2段ある−食材でぎっしりだ。当然のことながら重い。キャスターがあるから良いようなものの、これをマスターと潤子さんの二人でやってたら、確かに車と店とを何往復もしないと厳しいな。
 レジには行列が出来ていたが何台もあるせいで回転が速く、順番は程なく回って来た。・・・軽く万の位に乗った。そりゃ、これだけ買えば当然だろう。むしろ、十万の桁に乗らなかった方が不思議と言えるかもしれない。

雨上がりの午後 第1747回

written by Moonstone

 それにしても、本当にこの店は広い。中に入って見渡してみると、その広さと食材の種類と量を再確認出来る。これだけの食材が色々な店に運ばれていって、そこで料理されてメニューになる・・・。人の流れと物資の流れの一つの集約点を見ているわけだ。

2004/12/26

[脱力中です(汗)]
 昨日付のある種出鱈目とも言える大量一斉更新を終えた後、完全に力が抜けちゃいました。文芸関係6グループ揃い踏みがこんなに大変なものとは・・・。まあ、Side Story Group 1が「魂の降る里」プラス「Do you love me?」6作品という更新だったので、その分疲れが増したのでしょう。今回で終わったBranch Version1は、その名のとおり選択肢を用意しないと終わらない、というものでしたから。
 Version1ということは2以降もあるのか、と思われるでしょうね。一応予定はしていますが、何時するかは白紙状態です。年越しに合わせるという手もあるのですが、制作に時間がかかる「Saint Guardians」と「魂の降る里」を優先させないと次に間に合いませんし、・・・あの・・・実はですね・・・。

年賀状が白紙なんですよ(大汗)。

 帰省してまで年賀状書きたくないので、こっちもどうにかしないといけません。おまけに散らかり放題の自宅も掃除しないといけませんし・・・。今日1日年賀状書いて、仕事納めの後で徹夜で掃除って流れですかね。うー、厄介なものが残ってるー。秘書とメイドをマジで募集したいです。

「よし、着いたぞ。」
「はい。晶子、起きろ。」

 俺が呼びかけつつ身体を軽く揺すると、晶子はくぐもった声を出してからゆっくり目を開ける。そして俺の肩から頭を上げて小さい欠伸をする。

「着いたんですか?」
「そうらしい。俺は来たことないから詳細は不明だけど。」
「間違いなく此処よ。降りましょう。」

 マスターと潤子さんに続いて、俺と晶子は車から降りる。マスターが車にキーを向けてドアをロックして、先頭になって洞窟へ向けて歩き出す。・・・本当に大きい。これは店と言うより倉庫だ。高校時代、親に荷物運びのために連行されてこの手の店に来たことがあるが、この店の規模は相当なものだ。恐らく新京市だけでなく、小宮栄を含む周辺の市町村の飲食店関連業者を対象にしているんだろう。

「祐司君はマスターと一緒に、籠に食材を入れていって。私と晶子ちゃんは品物を選ぶのと探すのを担当するから。」
「分かりました。」
「よし、早速買い込むか。」

 マスターから渡された籠、否、荷台と言うべき大きなカートを押して、店内を回る。膨大な量の食材が巨大な冷蔵庫や冷凍庫に収納されている。そこから優に一抱えはある食材を抱えてレジへと向かう人の姿が彼方此方にある。本当に店と言うより卸売市場だ。
 潤子さんが先導する形で店を回り、俺とマスターがカートに選ばれた食材を入れていく。量が半端じゃない。普通のスーパーとかで売っているパックが小さく見えるくらいだ。それだけ買わないと消費に追いつかないと言うことでもある。店としては良いことではあっても悪いことではない筈だ。
 だんだんカートが重くなってくる。キャスターは勿論付いているが、それでも押すだけでそれなりに力が要る。こんな買い物を−仕入れと言うべきだな−マスターと潤子さんだけでやってたんじゃ、そりゃ人手が欲しくなって当然だ。このためだけにバイト雇いたいかもしれない。

雨上がりの午後 第1746回

written by Moonstone

 車は建物横の駐車場に入る。そこにはワゴン車など比較的大型の車が何台も陣取っていて、トランクに食材を詰め込んでいる姿がちらほら見られる。車の速度がより一層遅くなって、建物の正面入り口らしい巨大な洞窟−総表現するのが妥当だ−の近くで停車する。

2004/12/25

[凄いことになったな・・・(汗)]
 トップページをご覧になって「何だこれは?」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。1024*768だと、更新情報掲載部分でほぼ画面がいっぱいになっている筈です。今日、年度が替わって以来初めてとなる文芸関係6グループ揃い踏みに加え、(恐らく)当ページ史上初の1グループ複数作品公開を一挙に実現しました。更新グループは8グループ、公開作品数は15(写真を1枚1つとして)です。これも(恐らく)当ページ史上初でしょう。
 Access Streets一斉刷新の段階で疲れ果てて、正直特にNovels Group 2とSide Story Group 2の新作公開は一時見送りの方向でした。ですが、此処まで勢いづいた今だからこそ、と気力体力振り絞って新作制作&公開に漕ぎ着けました。Novels Group 2は停滞を打ち破ると同時に、書きたいと思っていたテーマが書けたので、このまま次回以降に繋げたいところです。
 それにしても、しんどかったです・・・(汗)。短編でも書くのに軽く1時間はかけてますから(要は短編でもしっかり考えて書いてるってことです)、総制作時間は・・・考えないでおきます(汗)。ごゆるりとお楽しみくださいませ。
 その後、店の飾りつけ。これは作業自体は楽だが人手が要るから、それなりに時間がかかった。店がライブ会場に変貌したのを見て、ちょっと感じた達成感。同時に、今日明日の2日間、店の年納めとも言うべき大イベントの開催が近いことを、ステージの上から実感した。
 全員揃って台所で一服してから、買い物に出発。4人が乗り込んだところで、マスターがエンジンをかける。カーステレオから「BAD BOYS&GOOD GIRLS」が流れてくる。ミドルテンポの軽快なサウンドに乗って、師走の住宅街を走る。住宅毎のイルミネーションも今はお休み。澄み切った冬空が見ていて気持ち良い。
 車は住宅街から大通りに出る。交通量はかなり多い。止(とど)まる気配がない流れに乗って車は走る。曲は「ANCHOR'S SHUFFLE」に移っている。
 左肩に軽い衝撃を感じる。見ると、晶子が俺に凭れかかって寝息を立てている。会場設営はしっかりこなしたが、その分眠気が蓄積したんだろう。枕になっている俺は、その寝顔を見て笑みが浮かぶ。

「井上さん、寝ちゃったようだな。」
「はい。」
「バックミラーで見てたんだが、車に乗ってからずっとうつらうつらしてたから、相当眠かったんだろう。」
「そうみたいですね。晶子が眠気を翌日まで残すのって、初めて見ます。」

 俺の肩に凭れて眠っている晶子は、まったく目覚める気配がない。完全に熟睡しているようだ。そんなに昨日の夜疲れたのかな・・・。俺も多少寝不足の感はあるけど、今まで引き摺るほどじゃなかったし・・・。ま、何時もは晶子に起こしてもらってるんだから、こういう時くらい寝させておいても罰は当たらないだろう。
 車は暫く大通りを走り、やがて横道に入る。更に暫く進むと、総子のような大きい建物が見えてきた。あそこだろうか?俺が車窓から見詰める中、雅歌ーが運転する車は徐々にではあるが確かにその建物に近付いていく。

雨上がりの午後 第1755回

written by Moonstone

 朝食が済んだ後、晶子と潤子さんが後片付けをして、会場準備に取り掛かった。広い店内にある全てのテーブルと椅子をステージ脇に積み重ねるのは、かなりの重労働だ。椅子はまだしもテーブルは重いから俺とマスターが担当した。店内ががらんどうになった時にはすっかり汗だく。冷房が欲しくなったくらいだ。

2004/12/24

[準備中(汗)]
 Access Streetsの情報整理に随分時間を食いました。ページを先頭文字単位で分けているとは言え、今まで追加するのが主だったリンク集を整理するのは予想以上に大変でした。自動登録式にすればその点は楽なんでしょうが、今度は変なページ(アダルトものとか)に登録されかねないので、私という検問と言うと物々しいですがそういうものを置いた方が安全だと思います。安全と管理のしやすさというのは相反する面が多いものです。
 明日はクリスマス。今まで季節イベントにはてんで無縁だったこのページですが、今年はグループ合同企画を実施中ということで、一大更新となる予定です。今日の更新は前夜祭的位置づけ。これをお聞きいただいている頃には、アップが正常に行われたかどうかを確認しているか準備に戻っているかのどちらかだと思います。
 今更、何て大掛かりなことに手を出してしまったんだろう、と思っていますが、此処まで来た以上は後に引けません。明日の更新を見てご来場者の皆様が我が目を疑うようなラインナップにしようと思いますので、ご期待ください。え?年賀状?・・・聞かないでください(汗)。

「準備してからで間に合いますか?」
「飲食業関係の専門店だから量の面では大丈夫。問題なのはそれを運ぶだけの人手なのよ。」
「あ、なるほど。」

 一般のスーパーやデパートとは別に、飲食業関係者を対象にした専門卸売店−店と言うより市場と言う規模だが−がある。スパゲッティ一つを取っても消費量が凄いから、普通の店じゃ買占めレベルになることもあるからだ。それに一度に大量に仕入れた方が利益分を上乗せしても一般の店より安くなるから、買う側は勿論売る側にもメリットがあるわけだ。

「今までもお店が休みの日とかに行ってたんだけど、このところ買う量が多くて車まで運ぶのが大変だったのよ。良いかしら?」
「あ、はい。」
「私も大丈夫です。」

 晶子の声にはまだ何時もの張りが足りない。相当眠いんだろう。瞼も重そうに見える。まあ、俺が止めても行くって言うだろうし、晶子を一人残して行く買い物なんて不安で手につかないだろう。

「店までは車で30分くらいあるから、晶子ちゃんはその間寝てても良いわよ。」
「はい。」

 返事した晶子はまた小さい欠伸をして、何度か目を瞬かせる。晶子自身も眠気と格闘しているのが分かる。コンサート当日なのに自分だけ寝こけているわけにはいかない、っていう責任感もあるだろうし。

雨上がりの午後 第1744回

written by Moonstone

 喫茶店に限ったことじゃないが、飲食店での食材の消費量は通常の家庭のそれを大きく上回る。店はかなり広いし、この夏のサマーコンサートと前後して連日大入りが続いているから、買い物の量も半端じゃない筈だ。

2004/12/23

[携帯不携帯]
 携帯電話を持っていながら外出時にしょっちゅう家に置き忘れるのが私(汗)。昨日も出勤のため家を出て少ししたところでそのことに気付いたんですが、「あ、携帯忘れたー。まあ、良いかー。」でそのまま出勤。これじゃ携帯電話の意味がないような気がします(この程度の意識ということ自体が問題?)。
 巡回先のページ管理者諸氏の中には、冬コミ(冬のコミックマーケットin東京)の追い込みで大変な方もいらっしゃるようで。以前冬コミは12月最後の土日に開催されていたんですが、此処2、3年は所謂御用納めの直後。社会人の参加者を意識してのことでしょうか。
 冬コミに行かない(帰省します)私は、更新準備の真っ最中。予定では1グループが一気に新作を7つ公開することになっています。こんなこと勿論初めてですけど、一度手をつけてしまった以上はやらなければなりません。ケーキ食べつつシャンパン飲みつつご期待ください。・・・え、年賀状?何ですか?それ(この期に及んでまだ白紙(大汗))。

「さ、眠気覚ましにお茶でも飲んで。」
「はい。ほら、晶子。」

 晶子は黙って頷く。まだその横顔から眠気は消えていない。俺は晶子を昨日の夕食の席−泊めてもらう時の指定席と言える−に座らせて自分も座り、出された茶を飲む。程好く熱くて濃い茶が、まだ若干だが身体に残っていた眠気を消し去る。晶子は・・・湯飲みを置いた横顔は、まだ眠そうだ。
 目の前に朝食が出揃う。ご飯に味噌汁、焼き鮭−生姜が添えられているのが旅館みたいだ−、漬物、目玉焼きに付け合せの野菜。マスターが新聞を畳んでエプロンを外した潤子さんが着席して、全員揃って食べ始める。4人揃って迎える平和な朝食のひと時は、今日も変わらない。
 大学に進学するまで、特に高校時代は家族で食事というのは嫌だった。それよりバンド仲間と学校に泊り込み合宿をしたり、当時付き合っていた宮城と夜の街をぶらりと歩いて喫茶店に立ち寄って食事、というのが好きだった。この町に来てからも基本的に独りの時間が長かったし、その方が良かった。
 だけど、宮城と別れて晶子と付き合い始めて、独りの食事が機械作業的に思うようになった。単なるバイトでしかない俺と晶子を大切にしてくれるマスターと潤子さんとの食事を重ねるうち、親が食事は家族一緒に、とその時は疎ましくさえ思った言葉の背景が分かったような気がする。人間独りでは生きていけない、というのは独りにならないと分からないものなのかもしれない。

「あ、そうそう。」

 潤子さんが箸を置く。

「祐司君と晶子ちゃん。会場の準備が済んだら一緒に買い物に行きましょうね。」
「買い物、ですか。」

雨上がりの午後 第1743回

written by Moonstone

 やっぱり聞こえてたのか・・・。声を出すな、って言うわけにもいかないし−そんな雰囲気でもないし−、俺自身場所なんかを失念して没頭してたから、照れ隠しに視線を脇に逸らすしかない。

2004/12/22

[誰のための憲法か?]
 自民党がいよいよその本性を剥き出しにしてきました。一旦ストップしていた改憲論議を再開したのです。来年は自民党結党50年の節目の年ですから、自民党の党是である「自主憲法」作りに熱が入るのは当然です。
 え?自民党が改憲?そんな話聞いてない?何を今更。自民党が今の憲法を「押し付け憲法」「権利ばかりで義務がない」と非難して、アメリカの後押しを受けての天皇中心の戦争国家を目指す「自主憲法」作りを党の悲願としているのは、少し調べれば直ぐ分かります。ちなみに公明党も民主党も改憲賛成。民主党は自民党と改憲を競い合っているライバルです。
 改憲の時には制定の経緯からも明確に否定されている「押し付け論」を持ち出すためにアメリカを槍玉に挙げる一方で、国連憲章違反の先制攻撃戦略に堂々と加担する路線をアメリカと共同で進める自民党の二枚舌は、今に始まったことではありません。「知らなかった」では済まされません。「マニフェスト」や「自民か民主か」のマスコミの喧伝に踊らされた選挙の結果がツケとなって、今噴出して来ただけです。大多数の有権者は勉強不足を恥じて然るべきです。

「本当に大丈夫か?」
「ええ。眠いだけですから。」
「それにしても今日は酷くないか?」
「何時でも女の方が目覚めが早いわけじゃないですよ。」

 晶子の微笑にはまだ眠気が残っている。俺は晶子の肩を抱いたまま部屋を出て廊下を歩き、階段を下りる。階段は結構傾斜が急だし、今日は晶子がこの状態だから気をつけないと・・・。俺は足元と隣に交互に視線を飛ばして階段を下りて、晶子を下ろす。・・・ふう、どうにか1階に来れたか。階段がこんなに長く感じたのは初めてだな。
 まだ何となく晶子の足取りはおぼつかない。大丈夫かな・・・。当の本人は頻繁に小さい欠伸をしている。眠いだけ、なら良いんだけどな。俺は晶子の肩を抱いたままキッチンに入る。

「おはようございます。」
「おはようございます・・・。」
「おう、おはよう。って井上さん、随分眠そうだな。」
「あ、分かります?」
「顔がとろんとしてるぞ。そりゃあ昨日は激しかったから仕方ないだろうが。」

 新聞を広げていたマスターの言葉で、顔が内側から瞬間的に熱くなる。夢じゃないから今でもはっきり思い出せる。俺の下で悩ましく喘ぎ、俺の上でしなやかに動いた白い身体・・・。レポート作りとバイトで溜まった疲れそっちのけだった夜。此処がマスターと潤子さんの家だってことを忘れていた。

「あの・・・。何のことですか?」
「あら、とぼけちゃって。隣のお姫様を寝不足にしたくせに。」
「・・・見てたんですか?」
「お姫様の声は結構聞こえて来たわね。」

雨上がりの午後 第1742回

written by Moonstone

 晶子は服を着始める。だが、その動きは明らかに鈍い。服を着るのも億劫って感じだ。見かねた俺は、晶子に次に着る服を手渡して、着衣を促す。立ち上がってズボンを穿いたところで、薄手のセーターを渡す。ようやく晶子の着衣が完了。思わず溜息が出る。支えてないと布団に倒れこんでしまいそうだと思って、晶子の肩を抱く。

2004/12/21

[冬至、らしいです]
 らしい、と言うのは、私が使うカレンダー(職場自宅共)にそういうのを記述しているものが1つしかない上に、しっかり見てないからです。夜買い物に出かけたら食品売り場で今日が冬至だってことで柚子が大きな籠で売られていて、今日は冬至なのか、と思っただけです。
 冬至にカボチャ食べると風邪をひかない、と言いますが、とりあえず今年はそれを実行しています。職場でもらったカボチャを煮込んで食べてます。酒と醤油だけで時間かけてじっくり煮込んだので、柔らかくて美味いです。煮込み料理は母から基礎を教わってますけど、使う調味料が違うんですよね。実家は砂糖と醤油とみりん、私は酒と醤油。理由は簡単。実家では両親が酒を飲まないせいもあって酒が使われなくて、私は酒を飲みますから(ウワバミではない(汗))飲用ついでに食用も、って感じで。
 私は突然変異なのか橋の下で拾われたのか(笑)知りませんが、納豆を食べる、寿司の青魚系(この時期は鯖とか鯵とか)を食べる、ともう何でもありです。関西系の人は納豆を食べないそうですが、それは今でも通用するんでしょうか?
 ・・・考えてても仕方ない。起きないと。俺は上体を起こす。その瞬間、背筋が一瞬にして凍る。今日は何時にも増して冷え込んでるな。布団の温もりから出たく・・・ない・・・んだが、今日はそんな悠長なことは言ってられない。布団の脇に散らばっているパジャマの中から下着を引っ掴んで穿いて、枕元に置いておいた服を掴んで手早く着る。冬はこの瞬間が一番辛いんだよな。
 くしゅん、と音がする。見ると、背中を剥き出しにした晶子が両腕で自分を抱え込むように身を縮こまらせている。俺は掛け布団の端を掴んで晶子の身体を包む。

「今日は凄く冷えてるんだ。早く服着ないと風邪ひくぞ。」
「はい・・・。」
「具合・・・悪いのか?」

 俺の胸の奥に暗雲が立ち込めてくる。今日はコンサート当日。誰一人欠けるわけにはいかない。夏のコンサートの時には俺が熱を出したが、冬は晶子の順番だとでも言うのか?

「いえ・・・。眠くて・・・。」
「眠いって・・・。まあ、俺だって眠いけど、それを差し引いても動きが鈍すぎないか?何時もなら俺より先に起きてて元気に動いてるのに。」
「寝不足なだけです・・・。身体がまだ気だるくて・・・。」
「・・・兎に角、早く服着て。マスターと潤子さんが下で待ってるし。」

 俺は同じく枕元に置いてあった晶子の服を取って膝の上に置いて、布団の脇にある晶子のパジャマの中から下着を取って渡す。脱がすのは出来ても着せるのは出来ないからな・・・。とりあえず、服を着るまで待ってないと、本当にこのまま寝こけてしまいかねない。

雨上がりの午後 第1741回

written by Moonstone

 目覚めの悪い−寝不足なのもあるだろうが−俺より、晶子は確実に寝起きが良い。俺の方が先に目覚めたのを思い出す方が難しいくらいだ。なのに潤子さんが起こしに来ても眠ったままで、俺が起こしてもまだ眠そうだ。そんなに疲れたのか?・・・そりゃ、昨日終わった時は俺だってへとへとだったけど。

2004/12/20

[年末進行]
 私の職場は「年末進行」という単語とはあまり縁がありません。忙しい人は忙しいですし、暇な人は暇、という感じ。仕事が事実上個人請負形式ですし、仕事の他に雑務(これも仕事ですけど)が入って来ると忙しくなるんです。今も仕事は抱えてますが、仕事そのものは確認の意味合いが濃いので大して難しくありません。問題は英語でまったく的外れな感が強いマニュアルしかない測定機器をどうやって使えるようにすれば良いか、ということです。測定機器の性能向上は良いんですが、使い勝手が悪いものが多いんですよね。
 ページの方は年末に向けて更新ラッシュです。とは言えメールや掲示板のお返事をするよりかかった時間は短いです。お返事は短いものでも30分、長いものだと2、3時間(1通で)かかるので、どうしても作品制作などを優先してしまって、出来上がった時には疲れて延期、ということの繰り返しです。
 12月25日には大規模の更新を予定しています。「ニュース速報」でも告示していますが、リンク集「Access Streets」の一斉刷新を行います。リスナーの皆様で「このページは今はこうなってる」などの情報をお持ちの方は、是非お伝えください。
 やっぱり聞こえてたのかな・・・。晶子、結構声が大きいから。そう言えば、マスターと潤子さんは俺と晶子より後に風呂に入ることになってたよな。風呂から上がって寝室に向かうまでに廊下で声を聞きつけて、そのまま覗いてたとか・・・。ありえる。

「それじゃ、下で待ってるわね。」
「あ、はい。」

 潤子さんが静かに部屋を出て行く。その過程で物音がしたが、晶子の寝顔に変化はない。本当にぐっすり眠ってるようだ。間近に見る、髪に半分ほど隠された晶子の寝顔は、安堵感を誘う。このまま目覚めるまで寝顔を見ていたい気もするけど、マスターと潤子さんが待ってるからな・・・。俺は身体を捻って晶子の身体を軽く揺する。

「晶子。朝だぞ。」
「ん・・・。」

 いかにも眠そうなくぐもった声に続いて眉間に少し皺が出来た後、晶子の瞼がゆっくり開き始める。俺が見えているのかいないのか、そのまどろんだ表情が色っぽくも見えるし、子どもっぽくも見える。ようやく開いた大きな二つの瞳は何度か瞬きをした後、改めて俺の顔を映す。

「祐司さん・・・。」
「おはよう。」
「おはようございます。」
「さっき、潤子さんが起こしに来てくれたんだ。着替えて下に行こう。」
「潤子さん、何時の間に・・・。」
「全然気付かなかったのか?」
「ええ・・・。祐司さんの声が聞こえたから目を覚ましたんです・・・。」

雨上がりの午後 第1740回

written by Moonstone

「朝ご飯の準備は出来てるから、一緒に食べましょ。お姫様は起こしてあげてね。」
「あ、はい。」
「それにしても晶子ちゃん、ぐっすり眠ってるわね。昨夜、祐司君にいっぱい愛を注ぎ込んでもらって満足したのかしら?」
「あ、その・・・。」

2004/12/19

[寝起きです(汗)]
 昨日起きたのは昼過ぎで、その後食事を挟んで23:00過ぎまで寝てました。帰宅してから大量に水を飲んだせいもあってか、二日酔いはありません。出張疲れがまだ残っていたのかな・・・。昨日の更新準備で忙しかったので、その疲れもあったんでしょう。久しぶりに「寝たぞ!」って気分を感じています。
 その昨日の更新でSide Story Group 1は更新としては異例の同時2作品公開となったわけですが、選択肢によって6つ「結果」を用意しなければならないことに気付く(汗)。今更何を、と言われるでしょうが、今展開中のグループ合同企画は自分の気の向くままに作品を創っているので(いい加減とは意味が違う)、あまり後先を考えてないんです。
 予想出来る展開に応じてどちらにアクセスが集まるかも見たいのですが、作品個別にアクセスを見られないですし、そこまで監視してもあまり意味がないように思うので、とりあえず来週末に向けて作品を用意します。あー、なのは見るまでに1つくらいは創っておくかな。
 キスの時間がゆっくり流れていく。全身が軽く痺れている。身体がこの先を欲しているのは間違いない。だけど、このまま進むのに躊躇する。晶子はキスまでと思っているかもしれない。明日は朝から準備と練習が・・・。駄目だ。一旦噴出した身体の欲求にはそう簡単に逆らえない。俺は晶子からゆっくり唇を離し、僅かな距離を保ちながら晶子の首筋に唇を落とす。
 悩ましい吐息が浮かぶ。俺の唇の動きに合わせて晶子は首を動かす。無声音の周期が早まり、深さが増していく。首筋に一頻り唇を這わせたところで、俺は再び晶子の唇を塞ぐ。確認の意思を込めて。俺の首を抱き寄せる晶子の両腕から力は抜けない。晶子は俺を求めてる。そう思うと、身体が急速に熱くなる。

晶子・・・!

 ・・・うじ君。
あ・・・。晶子・・・?
 闇からの呼びかけで、俺の目の前が白んでくる。俺の顔を覗き込んでいるのは・・・潤子さん?俺は何度か目を瞬かせて改めて見るが、俺の視界に映るのは晶子じゃなくて潤子さんだ。

「あ、潤子さん・・・。」
「ちょっと寝不足みたいね。まあ、無理もないでしょうけど。」

 !そう言えば晶子は?左隣を見ると、茶色がかった髪に半分隠れた寝顔がある。晶子は俺に横から抱きつくように眠っている。間近に見える寝顔はよほど深く眠っているのか、俺と潤子さんとの会話でも目覚めに向けた変化がない。

雨上がりの午後 第1739回

written by Moonstone

 俺は身体を捻って体勢を入れ替える。唇と胸に感じる、それぞれが持つ独特の柔らかさがより鮮明になる。首に何かが回り、引き寄せられる。俺は晶子の背中に両腕を回してそっと抱き締める。

2004/12/18

[クリスマス対策]
 元々このページは背景写真やPhoto Group 1を除いて季節感や彩に乏しい上に、「クリスマスは恋人と一緒に」というマスコミの煽り文句に嫌気が差しているのもあって、間近に迫っているクリスマスというイベントに向けての特別な対策をして来ませんでした。
 でも、今年は折りしもグループ合同企画を実施中で、カップリングが多いこともあって、一度くらいやってみても良いだろう、と思って、眠気と疲れで動かない身体に鞭打ってグループ合同企画作品を2種類4作品制作して公開しました。中でもSide Story Group 1の作品は「Branch」、すなわち選択肢となる作品としました。当然「その後」は想定しています。
 思いつきで始めた(他のグループ立ち上げも例外ではありませんが)グループ合同企画は、自分の中では予想以上に盛り上がっています。この先どうなるかはお楽しみ、ということで。今週末は新作公開ラッシュになるかもしれません。昨日は職場の忘年会でしこたま酒を飲んだので、起きられるかどうかかなり不安ですが(汗)。

「祐司さん、今日まで大変でしたね。お店が終わったら練習してレポートを作って・・・。」
「レポートがあったのは晶子も同じだろ?」
「私と祐司さんとでは、量が違いますよ。祐司さん、講義もびっしりですし・・・。」
「講義は選択教科も含めて自分で選んだものだから、そうなって当然さ。その分レポートも多くなるし。」
「それでも全部しっかりこなしてるのを見ていて私、祐司さんが本当にまじめな人なんだな、って改めて実感しました。」

 晶子が俺の肩口に頬擦りをする。そんなに感激することなのか?まあ、晶子が俺を好きで居てくれるなら、それに越したことはない。
 俺が左手で抱え込むように抱いていた晶子の頭が徐に持ち上がり、俺の真上に来る。鼻と鼻とが触れ合いそうなほど、目に相手の顔しか映らないほどの至近距離だ。晶子が俺に乗りかかっている。そう思った瞬間、身体の奥がむずむずし始める。

「晶子・・・。」

 俺の呼びかけに、晶子はただ俺を見詰め続けることで応える。闇に慣れた目にほんのりと浮かぶ、何かを訴えかけるような晶子の顔・・・。まさか今夜、俺を求めてるのか?
 俺は晶子の頭に回ったままの左手を、ほんの少し自分の方に近づける。晶子は何の抵抗もせず目を閉じる。俺は思わず生唾を飲み込む。鼻先が触れ合っているのを感じつつ、俺は晶子の頭をそっと抱き寄せる。
 晶子が全身を沈めて来る。それと同時に俺の唇に柔らかくて温かい感触が伝わる。唇に柔らかさを感じ、胸にも別の柔らかさを感じつつ、俺は晶子と唇を合わせ続ける。頬に感じる微風が吹き付ける周期は思いの他ゆったりしている。気持ち良さより−生々しいが−幸福感を感じてるんだろうか。

雨上がりの午後 第1738回

written by Moonstone

 晶子の囁き声に無声音で応える。今日も晶子の頭を抱き寄せ、脇に独特の柔らかさを感じている。甘酸っぱくて芳しい香りがそれらと共に、今日1日の疲労感を心地良いものに変えていく。

2004/12/17

[眠い〜]
 何だか最近こんなことばっかり言ってるような気がしますが、報告書提出が完了するまでは我慢、我慢。やっぱり写真を撮っておいて良かったです。幾ら新鮮味のある研修だったとは言えどうしても記憶だけだと曖昧になってきますし、延々文章だけで説明するより図や写真を見せた方が早い、という場面もありますし。
 もっとも図や写真を使えばそれで良い、というわけではありません。図や写真だけずらずら並べると意味不明に陥る場面が多々あります。論文や報告書といった体裁のものについては、文章と図や写真は相関関係にあります。この感覚を掴む上でも面倒ではありますが、場数を踏むべきでしょうね。
 あ、シャットダウン中も来てくださった方が結構居られるようで。仕事は忙しい、自宅じゃぐったり、を繰り返していて更新が鈍ってますが、何とか続けますのでよろしくお願いします。
 1番風呂から上がった俺は、パジャマにジャンパーを羽織ってキッチンに居る。潤子さんが入れてくれた茶を飲んでいたりする。マスターと潤子さんは向かい側で並んで座っていて、同じく茶を啜っている。今は晶子が風呂に入っている。俺が晶子の風呂上りを待っている状態だ。

「お待たせしました。」

 晶子が姿を現す。ピンクのパジャマに半纏を羽織っている。水分を吸った長い茶色がかった髪が、電灯の光で艶かしくも見える煌きを放っている。俺は残りの茶を飲んで席を立つ。

「それじゃ、お休みなさい。」
「お休みなさい。」
「おう、お休み。」
「お休み。」

 マスターと潤子さんと挨拶を交わして、俺と晶子は階段を上る。オレンジ色の光で照らされた階段や廊下は、今日に限ったことじゃないが静かだ。俺と晶子は何時の間にか、これも今日に限ったことじゃないが手を繋いでいる。ドアを開けて明かりを点ける。俺と晶子がレポートを作るために用意された机は隅にやられ、二つの布団が並べて敷かれている。
 晶子が半纏を脱いで先に布団に入る。次に俺がジャンパーを脱いで灯りを消して布団に入る。相手の呼吸音しか聞こえるものがないくらい静まり返った暗闇一色の部屋の中で、俺と晶子は何時ものように身を寄せ合う。

「・・・明日からですね。」
「ああ。」

雨上がりの午後 第1737回

written by Moonstone

 今日もバイトと練習が終わった。コンサート両日は開場19時開演20時で、店の営業は休みとして準備に余裕を持たせている。土日になってくれたのはありがたい面がある。講義が終わってから店に駆け込んで準備をしていたら、入場町の客を長時間待たせることになる可能性もあるからだ。俺も晶子も講義は休まないし、マスターも潤子さんもそこまで望んでいない。

2004/12/16

[うー、疲れたぁ〜]
 3泊4日の出張から帰って来ました。実はこのお話、帰りの電車の中でしています。やっぱりPCを持っていったのは正解でした。出張報告に使う写真をUSB経由で取り込めましたし、後でCDに焼いておくことも出来ますし。普段はまず見られないものを沢山見て撮影して来ましたので、この週末にでも一部を隠し部屋に挙げようと思います(同時に入り口も変えようかな)。
 出張そのものは、私にとっては期待していた以上の大収穫でしたが、交通網にやられました。往路は車両故障、復路は駅構内での人身事故でダイヤが乱れたんです。往路は宿泊施設へのチェックインの時間に間に合わなくなる危険があったので、最寄駅到着後に電話で事情を説明しました。これが初めての仕事関係で携帯使用ですよ(笑)。復路は1時間以上遅れて散々待たされました。車内での「列車遅れましてご迷惑をおかけしております」というアナウンスに、「迷惑かけてるのは人身事故起こした奴だ」と同情をかねたツッコミをしたのは、待ち行く人々の会話のアクセントが妙に心地良く感じた血の流れ(言葉は関西系に属します)があってのものでしょうか?
 メールのお返事が滞っていて大変申し訳ありませんが、出張報告書作成(自分の職場用と出張先用の2種類を作成しないといけない)を優先させていただきます。今週末にでもお返事したいな、とは思っているんですが・・・。え?年賀状?何ですか?それ(全て白紙(汗))。

「潤子さんと相談しないといけませんけど、クリスマスコンサートの曲に『The ROSE』を加えようと思うんです。」

 「The Rose」と言えば、潤子さんがリクエスト対象に加わる日曜日によくリクエストされる曲だ。ヴォーカルとピアノだけのシンプルな曲で、晶子はCDを繰り返し聞いて自分で歌えるようにした。確かにあの曲はクリスマスコンサートの雰囲気に合っているように思う。だけど随分急な話だな。

「俺は良いと思うけど、どうして急に?」
「聞きたい人が居ると思うからです。それじゃ、理由になりませんか?」
「否、俺は晶子が歌いたいと思う曲をリストアップすれば良いと思う。良い曲だし。ただ、吉弘さんの話に続いて唐突に出て来たから、ちょっと頭がついていけなかっただけだよ。」

 白い息が闇に浮かんでゆっくり溶け込んでいく。3回目になるクリスマスコンサート。とりあえず、来年のことは考えないでおこう。先延ばしかもしれないが鬼が笑うとも言うしな。
 時の流れは色々なものを飲み込んで消化していく。嬉しいことも悲しいことも、分け隔てなく。クリスマスコンサートはバイト生活における1年の総決算だ。2日間のために時間も労力もつぎ込む。終わってしまえば他の出来事や思い出と同じく、時の流れに飲み込まれていく。そして残る、思い出という名の心の結晶の数々・・・。今度も良い思い出にしないとな。

 早いもので、クリスマスコンサートをいよいよ明日に控えている。俺と晶子は去年と同じくマスターと潤子さんの家に泊まりこんでいる。店を閉めた後に練習をするのと、しぶとく講義とレポートの嵐が続く俺の生活を安定化させるためでもある。実験がある月曜の夜は、晶子が大学で待っていてくれて、潤子さんが食事を用意してくれた。
 今年はクリスマスイブとクリスマスが土日だから、入場者が去年より更に増えると見込んで、チケット前売り制で当日入場はなしにした。1000円と引き換えに2日分があっという間に売切れてしまった。買うと言うより1000円と交換で掴み取りすると言うほど、凄い売れ行きだった。
 俺と晶子は、一つの部屋に布団を並べられている。言い換えれば寝起きを共にしている。俺は体裁上去年までと同じく別々にしてくれと言ったが、どうせ一緒に寝るんでしょ、と潤子さんに突き返されてしまった。もう「寝た」ことはばれてるし、俺と晶子を信用している証拠でもあり、その先を期待しているということでもあると思う。

雨上がりの午後 第1736回

written by Moonstone

 女の気持ちは、晶子とこうして付き合っている今でも分かっているようで分かっていないところがあるように思う。女は、女が、と前面に出たがる典型的なタイプにしか俺には見えない吉弘の隠れた気持ちが、同じ女の晶子には分かるんだろうか?だとしたら、俺には一生分からないかもしれない。吉弘が晶子に危害を加えなくなれば、それで良いと言えば良いんだが・・・。何となく置いてきぼりを食らったような気がしないでもない。

2004/12/12

[行ってきま〜す]
 お前最近何やってるんだ、と言われそうですが、休日や自宅ではエンジンが殆どOFFになってまともに動けないんです。作品制作に徹底的にのめりこめるわけでもなく、かと言ってぐっすり寝られるわけでもなく、傍から見ればぐうだらそのものの生活です。燃費のすこぶる悪いエンジンに燃料補給をしている・・・。そんなイメージですかね。
 さて、事前の告示どおり、明日から3日間シャットダウンします。理由は今日の午後からの出張。出張先が遠方で(正確には大回り)開始時刻との兼ね合いで、今日から現地入りしないと間に合わないんです。こんな長期の出張は久しぶりなので、今でも準備に大慌てです。
 移動時間が長いので、その間にボチボチ作品制作をするつもりです。出張記録の関係で自宅のPCを持っていきますので(デジカメも2台用意)。シャットダウンとはしましたが、出張先から接続出来たら更新します。それでは、行ってきます。

「・・・人にとって音楽っていうのは、心のアルバムを開く鍵にもなるんですね。」

 正門への道を歩いている最中、晶子が意味深なことを言う。

「どうしてまた?」
「今日、吉弘さんが携帯の『Fly me to the moon』と『明日に架ける橋』を聞いたり口ずさんだりしているうちに表情や口調が変わっていったのを、祐司さんは気付きませんでした?」
「ああ、そう言えば何だか最後の方は妙にしおらしくなってたな。でも、それが心のアルバムを開く鍵になるってどういうことだ?」

 俺が尋ねると、晶子は何かを言おうとして思いとどまった様子で首を横に振る。・・・ちょっと変だな。何かあったんだろうか?

「私も・・・何となく分かるんですよ。吉弘さんの気持ち。同じ女ですから。」
「そうか?俺にはいまいちあの変化は理解し辛いんだけどな。」
「もう吉弘さんは、祐司さんや私に突っかかってくるようなことはありませんよ。」
「どうして断言出来るんだ?」
「吉弘さんの気持ちが、何となく分かったからですよ。」

 何だか掴み所が見つけ難いことを言うな・・・。俺が来るまでに時間があった。その間に吉弘が晶子に何か話したんだろうか?智一が、吉弘は中学からあの調子で、バレンタインデーでは取り巻きに適当にチョコをばら撒いてホワイトデーで菓子を荒稼ぎしていた、と言っていたし、そんな女にしおらしくなるような思い出なんてあるとは思えないんだが・・・。

雨上がりの午後 第1735回

written by Moonstone

 俺と晶子は連れ立って外に出る。時折冷たい風が吹き抜ける中、俺と晶子は通りを歩く。

2004/12/11

[御免なさい。今回はこれだけ(汗)]
 家に居ると力が失せて寝込む日々が続いているツケが、今日の更新に回って来ました。2グループのみの更新なんて、今年に入って数えるほどしかないだろうに・・・。個人的にはNovels Group 1を落としたのが痛いです。今かなり盛り上がっていますし、このところご来場者の伸びが多いので、何としても上げたかったんですが・・・(落胆)。
 明日の午後から出張で出かけますので、今日はその準備に加えて、明日の午前にエアコンを新調してもらうために家の中を片付けないといけません。私は掃除が苦手且つ嫌いなので散らかっていても構わないんですが、人が入るとなるとそういうわけにもいきませんからね・・・。
 今日もエアコンを買いに行った以外は殆ど寝てました。もう身体が気だるくて・・・。あ、携帯用ページの方もどうにかちょっと更新しましたので、よろしければどうぞ。
 ちょっと呆気に取られたようだったが−無理もないだろう−、晶子は席を立って俺を見る。目を見れば何を言いたいのかは分かる。此処で帰る、なんて言える状況でもないし。俺が了承の意を込めて頷くと、晶子は微笑を返す。
 俺と晶子は、女達の先導を受けて一緒に料理を出すカウンターの方へ向かう。その途中で携帯を畳んで仕舞う。今回は携帯ならではの突発的事件だったが、吉弘も大人しく引き下がったようだし、何より晶子に何もなかったから良かった。少々遅い、そして3コマめギリギリに舞い戻らないといけない羽目になるのは確実な昼飯を食べるとするか・・・。

 今日の講義が終わった俺は、智一と別れて晶子との待ち合わせ場所へ向かう。すっかり闇に包まれた通りはめっきり冷え込んでいる。強い北風に煽られた俺は思わず首をすぼめる。
 晶子と同じゼミの女達との昼飯は、食べる暇を見つけるのが大変だった。何処で出会ったのか、どっちから告白したのか、何時結婚したのか、その他エトセトラエトセトラ・・・。概略を晶子と交互に話したが、もっと詳しく教えろと詰め寄られた。後で教えるから、と晶子がその場を収めてくれなかったら、俺は3コマめの講義に遅刻していただろう。
 やはり人で賑わう生協の建物に入り、人波の間を縫って書籍売り場に向かう。正面直ぐの雑誌売り場に、コートとマフラーを着た横顔が見える。俺が駆け寄ると、晶子は視線を雑誌から俺に向けて、嬉しそうな微笑を向ける。

「お待たせ。行こうか。」
「はい。」

雨上がりの午後 第1734回

written by Moonstone

「ささっ、そうと決まれば行きましょ、行きましょ。」
「晶子も、ほら。」
「あ、ええ。」

2004/12/10

[何を何処で勉強してきたんだ?]
 イラクへの自衛隊派兵を1年延長することを閣議決定したとのこと。これがそのまま押し通されるなら、小泉首相ら政府与党はものの見事にまたしても憲法を踏み躙ることになります。此処のリスナーの方の年齢層は知りませんが、中学生の公民で「国権の最高機関は何処か」ということを習った筈。答えはご存知ですね?国会です。その国会でろくに説明もせず、ただ防衛庁長官や与党幹部が数時間現地を視察して「治安は維持されている」などと言うのは、完全にマスコミ向けパフォーマンス。これをそのまま垂れ流すマスコミも問題ですが。
 話を元に戻しますと、国権の最高機関である国会でまともな説明も論議もなく(与党が論点になるのを避けていたこともある)閣議決定でことを推し進めるのは、完全に行政の暴走です。野党、特に第一党の民主党は議席占有率からしても率先して国会を開会させ(衆参何れかで1/4以上の議席で開会を請求出来て、内閣は議会を開会しなければなりません)、行政の暴走を止めるべきです。
 とは言え、その民主党も「国連決議があれば派兵は可能」という立場ですし、憲法改正にしても消費税増税にしても自民・公明とやり方が多少違うだけで路線は同じです。「マニフェスト」などという言葉の意味も知らないマスコミが垂れ流した宣伝に踊らされて、「自民に対抗するのは民主」と思って投票した有権者、そもそも投票しなかった有権者は今、衆愚政治そのものの国会にした責任を厳しく問われなければなりません。民主主義は足元から腐るものです。勉強不足は政治家もマスコミも勿論ですが、有権者も同じです。

「ちょっと顔見知りなんだ。」
「でもあの娘、来た時もの凄い迫力だったわよ。私達にも、晶子に用があるから席外してくれる、って迫って来て・・・。」
「まさに『新京の女王』って感じで・・・。噂で聞いたことはあったけど、本当に女王様感覚よ、あれ。」
「その割に、行っちゃう時は随分しおらしかったわよね。・・・そう、何かちょっとした拍子に泣き出しそうな感じで。」

 確かに、すれ違ったときにチラッと見た吉弘の顔はそんな感じだった。「Fly me to the moon」にしても「明日に架ける橋」にしても極端な話、所詮は携帯の着信音。曲を知っているのはそれほど不思議ではないにしても、どうして吉弘がその携帯の着信音にあわせて口ずさんだのか。そして、表情や口調がどんどん変わっていったのか。何か思い入れでもあるのか?
 ・・・止めた。詮索するのは趣味じゃない。晶子に危害が及ばなかったんだから、それで良い。俺が此処に駆けつけたのは他でもない、晶子の身に何か起こるかもしれない、という切迫した危機感があったからだ。吉弘の変化の背景はそれこそどうでも良いことだ。

「まあ、こういう場合は外野であれこれ言ってても推測や憶測の域を出ないから、この辺で収束させた方が良いんじゃないか?」
「晶子の旦那の言うとおりね。それはそうと旦那。お昼食べた?」
「あ、否。まだだけど。」
「それじゃ、私達と一緒に食べていかない?」
「え?」
「あ、それって良い考え。」
「それもそうよね。旦那も、今から戻って一人でぼそぼそ食べるのもつまらないだろうし、旦那と話する機会なんて早々ないだろうし。」

 誘いの重きは後者だな。晶子が携帯を初めて持って行った時にそのことで持ちきりになったって言うし、晶子もあまり俺とのことは話してないだろうし、捕まえたこの機会に聞き出す腹積もりなんだろう。まあ、確かに今から戻って食うのも何となく寂しい気がするし・・・。

雨上がりの午後 第1733回

written by Moonstone

 こいつらは今回の事件に至るまでの経緯を知らないようだ。まあ、晶子は自分のことをぺらぺら喋るタイプじゃないから、今回のことの発端になった、理系学部エリアの生協に俺が講読している雑誌を引き取りに来た時も、用事があるから、と言った程度だったんだろう。

2004/12/9

[まだお返事出来てません(汗)]
 ええ、メールも掲示板も(汗)。体調(と言うより精神状態)はそこそこ持ち直して来てるんですが、身体がついて来ないんですよ。変に疲れやすくなっててその癖薬飲まないとまともに眠れないという、もの凄くややこしい症状なので仕方ないんですが、メッセージ送ってくれた方に申し訳ないです。
 あまりにも迷惑メールが多いので(この対策もどうにかしないといけないが)フィルタリングの条件をかなり厳しくしている、というのは以前にもお話しましたが(あ、一昨日か)、実は、某フリーメールアドレスはそのままだと、題名が日本語で内容が作品の感想など正規のものでもフィルタリングに引っかかってゴミ箱行き、と相成る設定にしています。フリーメールが悪いとは思っていませんが、こうも悪用度が高いといちいち確認してゴミ箱に運ぶだけでも神経を逆撫でされる気分になるんですよ。
 これも以前お話したと思いますが、DMやスパイウェアを送り込んだりした時点で犯罪にするくらいしないと、この手の問題は改善(解決とはあえて言いません)しないのかもしれません。ただ、今のウィルスやフリーメール悪用業者などは他人のメールアドレスを詐称してきますし、一律に送ったら犯罪、とするのも問題がありますし・・・。本当にどうにかならないものか、とPCの前で溜息を吐く毎日です。

「『明日に架ける橋』も聞かせてくれる?」

 要求に応じて俺が曲を流すと、そのフレーズにやはりうっすらとだが整った歌声が重なる。吉弘の口ずさむ表情は、その瞳の向こうに何かを思い起こしているようなものだ。
 俺が2回フレーズを流したところで音を止めると、吉弘も歌うのを止める。そしてまた、ふう、と小さい溜息を吐く。その表情は今までの経緯からはとても想像出来ないものだ。一体どうしたっていうんだ?「Fly me to the moon」は店の4人がそれぞれのバージョンを持つ、ジャズのスタンダードの一つでもある。「明日に架ける橋」は名曲だし「普及」度は高いだろう。だが、俺が1音1音入力しているということを差し引いても、今までの高飛車そのものの態度を一転させるものになるとはちょっと思えないんだが・・・。

「・・・良い曲ね。」

 吉弘は独り言のように言って静かに席を立つ。そして晶子を見てから俺を見る。

「・・・それじゃあね。」

 吉弘は俺の横を通り過ぎて去って行く。やや強めの柑橘系の残り香は直ぐに消える。何時の間にか出来ていた人垣の間を抜けていくその後姿は、何処か寂しげでさえもある。本当にどうしたんだろう?
 ・・・改めて周囲を見ると、俺と晶子が居るテーブルから5mくらい置いて人垣が出来ている。携帯の時計を見ると12時30分近く。昼時で普通でも混雑真っ只中の食堂で格好の見世物になっちまったわけか。人垣の中から数人の女が駆け寄って来る。見覚えがあると思ったら、前に晶子が学部の講義室に案内した時に居た顔触れだ。

「大丈夫だった?晶子と旦那。」
「さっきの娘(こ)って、大学祭のミスコンで2連覇した娘よね。何かあったの?」

雨上がりの午後 第1732回

written by Moonstone

 ワンフレーズ流したところで音を切ると、吉弘の歌声も止まる。だが、その表情に不満さはない。名残惜しそうで切なげで、何処か悲しげでもある表情をそのままに、ふう、と小さく溜息を吐く。

2004/12/8

[勉強すべきは誰か?]
 すみません。仕事疲れで帰宅後居眠りしたら寝過ごしてしまいました(汗)。まあ、多分問題なく進んだと思うんですけど、問い合わせ結果が出ないことには確定しませんし、場合によっては1からやり直しですからね・・・。
 トップページ最上段に掲示しましたが、今日は太平洋戦争開戦の日です。東京都では教育委員会と自民、公明、民主の都議が一体になって、「国旗・国家法案」の審議でも内心の自由を侵すものではないと時の首相が答弁したり、学習指導要領にも書かれていない「日の丸」の形容と「君が代」の斉唱を事細かに定めた指針を都立高校に押し付け、従わなかった教職員を処分する、都職員が出席者を監視していたことまで明らかになる(住民団体の情報公開請求で発覚)など暴走し、埼玉県知事(前民主党衆議院議員)は「新しい歴史教科書を作る会」の元副会長を教育委員に任命する方針を固める、小泉首相は靖国神社参拝を続けるなど右翼勢力は、アジア諸国、特に中国韓国両国国民の心情を逆なでする行為を平然と行っています。
 フィリピンでは「ロームシャ」(労務者:つまり強制連行された人)が単語に残り、中国首脳の訪日が1年以上もないなど「政冷経熱」が続くことに代表されるように、日本の侵略の傷跡は厳然たる事実です。此処の「見解・主張書庫」にもあるようにその侵略戦争の旗印や「天皇の治世の永遠の繁栄」を願う、とされた歌が国旗国歌に相応しくないのは明白です。歴史が日本国憲法ともども抹殺されようとしている今こそ、真に学ぶべきことに取り組むべき時ではないでしょうか。
 後には引けない。引きたくない。既成事実の積み重ね、特にこういう公然の場でのものは、俺の意思をより確固たるものにするために必要なことだ。俺は晶子の左手を引っ込めて、空いた右手を自分の襟元に突っ込んで晶子が持っているものと同じ携帯を取り出す。

「確かこの携帯の会社、婚約したカップルが記念に契約するプランで有名よね。携帯がお揃いってことは、そのプランね?」
「ああ。携帯の着信音は俺が徐々に形にしていって、ある程度出来たところで更新するようにしてる。この機種同士だと赤外線通信機能でやり取り出来るしな。」
「聞かせてくれる?マスターの方を。」

 吉弘の要求に、俺は行動で応える。携帯を広げてボタンを操作すると・・・「Fly me to the moon」ギターソロバージョンが流れ始める。やけに音の通りが良いような気がするが、まあ良い。ワンフレーズ流したところで切って、改めてボタンを操作すると・・・今度は「明日に架ける橋」が流れ始める。これは少し長めに聞かせてから切る。

「Bart Howard作詞作曲の、ジャズのスタンダードナンバーの一つに、人気ポップシンガー作詞の代表曲の一つ、ね。」
「知ってるのか?」
「こう見えても、情報には敏感なつもりよ。でも、『Fly me to the moon』のギターソロバージョンなんて初めて聞いたわ。貴方がアレンジしたのね?」
「ああ。中学の頃からギターやってるんでね。」
「・・・もう1回聞かせてくれない?『Fly me to the moon』の方から。」

 吉弘の口調が随分穏やかに感じる。俺はもう一度「Fly me to the moon」を流す。するとそこに流暢な発音の英語の歌声がうっすらと重なる。声の主は晶子じゃなくて・・・吉弘?間違いない。左手で頬杖を付いて、今まで見たことがない切なげな表情で「Fly me to the moon」を口ずさんでいる。当てずっぽうで歌ってるんじゃないことは、旋律を綺麗になぞっていることから容易に分かる。

雨上がりの午後 第1731回

written by Moonstone

「貴方達、本当に結婚してたの・・・?」
「・・・式はまだだけどな。」

2004/12/7

[再始動・・・かな?]
 此処数日、特にこの土日と食べる気力すらまともに湧かないほどのどん底だった精神状態は、どうにか持ち直してきました。日曜は23時に寝て3時(つまり昨日未明)に起きて更新してから朝食を摂って2時間ほど転寝して着替えとかして出勤、という無茶苦茶なパターンでした(汗)。で、今日は私の自宅からサーバーへの接続が無茶苦茶悪くて更新時間がずれ込みました(汗)。ま、悪い時はこんなもんでしょう。
 そんなこんなで、メールや掲示板のお返事が出鱈目に遅れてます。「まだ返事が来ないぞ!」と言う方は、もう暫くお待ちください。受け取り順にお返事していきます。ただし、当方のフィルタリングで迷惑メールなどとされたものは対象外です。念のため。本当に多いんですよ(溜息)。
 そう言えば、明日で携帯用ページ開設から1週間ですね。此処の更新情報の部分は毎日更新してます。連載小説の続きをアップするかもしれません。携帯用ページの作品の更新情報は此処では掲載しませんのでご了承願います。

「・・・どうやって晶子が此処に居るって調べたんだ?」
「貴方の彼女が文学部に居るって情報はとうの昔に掴んでたし、私のファンに行動パターンとかを調べさせたのよ。そうしたら、昼食時にはこの食堂に居ることが分かってね。私一人で出向いたってわけ。彼女と一緒に居た、同じゼミの娘達にはお引取り願ったけどね。」
「で、晶子に何の用だ?」
「・・・貴方達、どうしてそこまで、相手のために一生懸命になれるの?」

 思いがけない吉弘の問いに、俺は答えを出せない。

「貴方は彼女からの電話に、昼休みだっていうのに工学部のあるエリアから此処まで5分少々で駆けつけた。その間、彼女の携帯の着信音を聞かせてもらったわ。携帯サイトでダウンロードしたんじゃなくて、貴方が1つ1つ入力ものなんですってね。」
「それがどうかしたのか?」
「彼女は私に謝った時、貴方には何もしないでくれ、って言った。・・・私、貴方達みたいな組み合わせを見るのは初めてよ。片や自分の時間を割いてまで手作りの着信音を手がけて、彼女の緊急通報を受けて即座に駆けつける。片や自分のプライドより貴方の安全を優先させる・・・。」
「・・・。」
「どうしてそこまで、相手のために一生懸命になれるの?」

 吉弘は同じ問いを繰り返す。この問いに対する答えは・・・唯一つ。だが、論より証拠と言う。こうなったらとことん一生懸命になれる、なりたい理由を示してやる。俺は晶子の左手を掴んで自分の左手と共に吉弘の前に出す。二つの手の薬指に輝く白銀色の指輪。これが第一の証拠だ。吉弘の、大きいが晶子よりやや細めの瞳が大きく見開かれる。

雨上がりの午後 第1730回

written by Moonstone

 ・・・よく見ると、吉弘の周囲には取り巻き連中らしい男の姿がない。周囲が何事か、という目でチラチラ見るのを除けば、晶子と吉弘は完全に一対一だ。取り巻き連中を放り出して一人で「エリア外」の文系学部エリアの生協に出向き、晶子を探して会ったというのか?俺は一先ず、頭に上った血液を引っ込める。

2004/12/6

[またまた遅くなりました]
 チェックしていただいている方は、昨日宣言しておきながら何で今日も、とお怒りかもしれません。この土日は精神的にどん底状態で、最小限のこと(食事と買出し)以外は殆ど横になってました(次の一斉更新は散々な状態になるのが確定)。また症状がぶり返してきたようで、本当に何もする気になれず、こんな状態で更新など出来ないと見切りをつけて寝て、起きて早すぎる朝食(日曜はまともに食べてない)を食べてからこのお話をしています。
 今は完全回復というわけではありません。多少持ち直した程度です。でも、更新を止めるわけにはいかない、と奮起して底をついた連載を書き足して今に至ります。
 あ、シャットダウンに告知しましたが、来週は一時お休みします。これは本業の出張のためです。宿泊先のネット環境がどの程度整備されているのか不明ですので。条件が整っていれば更新するかもしれませんので、一応チェックしておいてください。更新時刻が最近出鱈目極まりない私が言うのも何ですが。
 操作をしていると、携帯が振動を始める。それまで音符の詳細を表示していた液晶画面に電話番号と発信者名が表示される。晶子からだということを確認してから、俺はフックオフのボタンを押して耳に当てる。

「はい、祐司です。」
「祐司さん。お昼休みに突然すみません。」
「どうかしたのか?」
「ええ。吉弘っていう女の人が今、私の隣に居るんです。」

 俺の脳裏に悪い予感が一気に噴出してひしめき合う。あの女、とうとう晶子の居場所を突き止めて実力行使に乗り出してきたのか・・・!

「それで、祐司さんにも話がある、って。」
「今直ぐ行く!場所は?!」
「文系学部エリアの生協の食堂です。」
「分かった!今直ぐ行くからそこで待ってろよ!」

 あの女、俺からすれば理不尽なことこの上ない晶子の謝罪でも、一時的な満足しか感じないのか?!兎も角、現に晶子のところに居ると分かった以上、のんびりしてはいられない。俺は講義室を飛び出し、文系学部エリアの生協へ走る。息が切れるがそんなことに構ってられない。
 昼食時ということで混雑している通りを抜け、通り以上に人が多い生協の建物に入り、食堂を目指す。人ごみを掻き分けて中に入って見回すと・・・居た!生テーブルの一角に携帯を手にしている晶子と吉弘の姿がある。俺は迷わずそこに駆け寄り、晶子と向かい合って座っていた吉弘を睨みつける。

「晶子に何の用だ?!」
「・・・驚いたわ。井上さんが電話してから5分少々で駆けつけるなんて・・・。」
「何の用だ、って聞いてるんだ!晶子に手出しするって言うなら、女でも容赦しないぞ!」
「そのつもりなら、私一人で出向いたりしないわよ。」

雨上がりの午後 第1729回

written by Moonstone

 俺は鞄に荷物を放り込んで、ようやく混雑に収拾がついた出入り口の一つから講義室を出て、3コマめの講義室に向かう。講義室は一極集中型だから、さほど移動時間はかからない。何時もの席に荷物を置いて、財布と携帯を所持しているのを確認してから、俺は腰を下ろす。約30分の待ち時間、携帯の着信音の調整でもするか。俺は携帯を取り出して広げ、操作を開始する。これって結構暇つぶしにもなるんだよな。

2004/12/5

[こんな時間に御免なさい]
 今日付の更新を済ませたのは本日午前7時頃。普段より大幅に遅れての更新です。実は昨日体調悪化に拍車がかかり、横になって回復を待っていたのですが回復の兆しが見えなかったため、薬を服用して就寝し、起床して直ぐにこのコーナーの更新に取り掛かったわけです。
 今は多少持ち直していますが、あれもこれも出来る、というほど満足に回復していません。かと言って事前告知なしで休むわけにもいかないので、時間を大幅にずらしての更新となりました。
 心身がかなり不安定な時期に入っているようで、こうなると手持ちの薬を服用しても大して効果はなく、嵐が過ぎ去るのをじっと待つしかありません。作品制作の予定が完全に崩壊していますが、何とか次回更新に向けて執筆に取り組みたいと思います。明日付の更新は通常の時間帯に行うつもりです。

「俺次第、ってわけか・・・。」
「祐司さんにおんぶに抱っこになってしまっているのは申し訳ないと思ってます。でも・・・今の幸せだけは・・・絶対に手放したくないんです。何があっても・・・。」
「俺がどんな進路を選ぶにしても、晶子を放り出すことはしないよ。絶対に。こう見えても・・・結構しぶといからな。」
「祐司さん・・・。」

 晶子の顔が切なる思いで溢れている。俺を絶望と憎悪のどん底から立ち直らせてくれたのは晶子だ。今度は・・・俺の番だ。何があっても、晶子の頬を悲しみの涙で濡らすことはしたくない。耕次が言っていたように、それが晶子に対する俺の責任だ。幸せの対価として背負った責任を全うしなければならない。
 俺は晶子の手を取る。手袋に包まれているから直接の感触は分からないが、手を繋いだことは確かだ。そして俺の手が握り返される。痛くない程度にしっかりと、強く・・・。その握力に込められた意思と願いをひしひしと感じる。俺と一緒に暮らすこと。ただそれだけに自分の最大の幸福を見出した晶子のためにも・・・俺がしっかりしないとな。

 翌日。2コマめの講義が終わってほっと溜息を吐く。講義の終了がずれ込んだから、食堂へ向かう奴らで入り口はごった返している。今日は時間をずらした方が賢明だな。3コマめの講義までバタバタすることになるのが欠点だが、昼飯の時間がずれ込むことは月曜の実験では当たり前だし、ずらすと言っても高々2、30分。それくらいなら十分許容範囲だ。

雨上がりの午後 第1728回

written by Moonstone

 晶子は黙ってしまったが、俺と結婚して一緒に住むことを報告しに行くだけ、という腹積もりなんだろう。やはり晶子は自分を崖っぷちに追い込んでいる。今度こそは掴んだ幸せを離すまい、と決意しているのが分かる。

2004/12/4

[健康第一、ですね]
 まだ体調が芳しくありません。こういう時は、あっという間に時間が流れて週末になるのがありがたいです(身勝手)。とりあえず、この週末は出来るだけ休みます。ある程度でも早く持ち直さないことにはどうにもならないので。
 今日もお話は短いですが、事情が事情なのでご了承ください。具合が良くなったら、携帯用ページの方でも新作を公開しますのでお楽しみに。携帯用ページ、と言ってもPCでも見られます(もの凄く表示が質素ですけど)。
「ああ。だけど、親の意向は十分知ってるし、そんな現状で帰っても押される一方で終わるだろうから、俺としては帰りたくないんだ。この年末年始に外部からの干渉なしで考えてみようと思ってる。そう言う晶子は?」
「私が今度帰省する時は、結婚を決めた時と決めてます。」

 晶子は静かな口調で言い切る。決意の固さが窺える。

「前にお話しましたよね?私が実家と半ば絶縁状態にあるってことは。」
「ああ。」
「今の大学に合格して今の家に引っ越す時に言ったんです。就職をどうするかは自分で決める、結婚を決めた時まで帰らない、って。その気持ちは今でも変わりません。」
「晶子の両親は帰って来い、とか言って来ないのか?」
「・・・たまに。でも全部断っています。私の気持ちに変わりはない、って。」

 そう言う晶子の顔は悲しげでさえもある。親との溝は相当深いんだろう。大学を入り直して今の家に住むようになった経緯は以前聞いたが、その経緯で自分のすることに一切の口出しはさせない、という頑固なまでの気持ちが出来上がってしまったんだろう。

「大学を卒業してから何処に住むかとかは?」
「・・・4年間は今の家に住むことを取り決めてあります。その後は・・・。」

雨上がりの午後 第1727回

written by Moonstone

「今年も帰って来い、って言われてる。電話じゃ分からないからゆっくり話そう、ってことで。」
「・・・進路のことですね?」

2004/12/3

[御免、今日は箇条書きで]
1.このところ更新時刻がずれ込んでいてすみません。身体の具合が芳しくないんです。明日はちょこっとグループを更新しますのでお楽しみに。
2.メール並びに掲示板でメッセージをお寄せくださった方へ。上の事情もあるので今度の週末に一括してお返事します。もう暫くお待ちください。
3.よろしければ携帯用ページも見てくださいね。URLは「ニュース速報」にあります。
「去年と比べるとかなり入れ替えることになるな。『Secret of my heart』は人気だし、去年までのことも考えると潤子さんも入れるのに賛成するだろうな。後は相談だな。俺はそれで良いと思う。」
「お客さん、どのくらい入るでしょうね。」
「一昨年、去年と増えてるし、今年はサマーコンサート以降連日大入りだから、整理券を配布したりするんじゃないかな。」

 店にはクリスマスコンサートを行うという告示をする、潤子さん作成のポスターが張り出されている。客からもどんなコンサートなのか、とか、今年は誰が何を演奏するのか、とか尋ねられる。店内にはクリスマスツリーも飾られていて、早々とクリスマスの雰囲気を醸し出している。
 来年はこのまま進級すれば、俺と晶子も卒業研究の最中と重なる。卒業研究がどんなものになるかは想像の域を出ないが、練習に割ける時間は、減ることはあっても増えることはないと考えた方が無難だろう。日程次第では参加出来なくなる可能性だってある。・・・どうなるんだろう。

「祐司さんは、今度の年末年始はどうするんですか?」

 晶子が別の、しかし重大な話題を持ち出して来る。去年は高校時代のバンド仲間との、成人式会場でのスクランブルライブ実現の約束を果たすために、後ろ髪を惹かれる思いで帰省した。その間晶子とは電話で話をするだけだったし、寂しい思いをしたらしいから、俺の動向が気になるんだろう。

雨上がりの午後 第1726回

written by Moonstone

「クリスマスということで『Winter Bells』は必須かな、と思って。それからしっとりした感じのものでは『Can't forget your love』『Stay by my side』『Fly me to the moon』『愛をもっと』。テンポの良いものでは『Lover boy』『always』を入れて、潤子さんと相談ですけど『Secret of my heart』を入れようかな、と。」

2004/12/2

[この寒くなって来た時に・・・]
 此処の常連の方はご存知でしょうが、私は寒さが苦手です。動きも思考も鈍りますし、冷え性故に手は真っ白になります(もうなってます)。湿度にも依りますが、室温が20度を切ると、私にとっては行動に支障を来たします。まるっきり変温動物ですが、私にとって冬を乗り切るというのは重大問題なんです。
 当然暖房が必要になるわけですが、昨日試しに(寒さに耐えかねたのもありますが)エアコンの電源を入れてみたところ、起動はしますが直ぐにタイマーランプが点灯して送風口が閉じてしまいます。リモコンを弄ってみたり電源をON/OFFしてみても変わらない。・・・どうやら壊れてくれたようです(汗)。10年動いたから寿命と言うべきなんでしょうが、タイミングが悪過ぎます。
 10年選手ですから修理に出しても「部品がない」と言われそうですし、修理を待っている間をどう凌ぐかという問題もあります。今年の夏場ほど酷くはないでしょうが、時期が時期ですから新規購入となると品切れという事態も考えられますし・・・。今週末にどうするか結論を出します。うー、寒い。
「この心凍える季節に、その熱さを分けてほしいもんだ。」
「分けられないから自分で確保してくれ。じゃあ、お先に。」
「おう。また明日な。」

 俺はコートとマフラーを着て、鞄を持って外に出る。今日は冷え込みが一気に強まって、朝慌ててセーターを引っ張り出した。こんな吹きさらしの中で晶子を長時間待たせるわけにはいかない。自然と足が速まる。
 夕暮れ色が急速に深まる中で煌々と明かりを点す生協の店舗前に、俺と同じマフラーと茶色のハーフコート姿の晶子が立っている。俺が駆け寄ると、晶子は表情を綻ばせる。

「お待たせ。行こうか。」
「はい。」

 俺は晶子を連れ立って帰路に着く。吉弘の晶子への攻撃を警戒して始まった晶子と一緒の通学は、もうすっかり日常生活の一部になっている。バイト先に行けば会えるのは分かっているが、それとは違う満足感と言うか幸福感と言うか、そういうものがある。

「クリスマスコンサートの候補曲、考えておきましたよ。」
「何にしたいんだ?」
「えっと・・・。」

 晶子は襟元に手を差し込んで携帯を取り出して広げ、ボタンを何度か押す。見ると、曲のタイトルが列記されている。メモ帳機能を使ったのか。結構活用してるな。

雨上がりの午後 第1725回

written by Moonstone

「待っててくれてるのか。羨ましいねえ。」
「良いだろ、別に。」

2004/12/1

[何とか間に合った(^^;)]
 ニュース速報でお伝えのとおり、今日から携帯用ページの運用を開始しました。間に合わないかな、と思っていたんですが、どうにか頑張って今日からの運用開始に漕ぎ着けました。一月以上かけて準備をして来て他の部分の体裁は整っていたので、足りない部分を補填する、という形で良かったのが幸いしたようです。
 ご覧いただければお分かりいただけるでしょうが、「携帯用」と銘打ってはいますが内容は此処と違います。此処では読めない連載、待ち受け画面に使えるサイズやフォーマットの違う画像(実はこれが一番手間かかった)など、携帯用ならではのお得なページ運営を考えています。
 トップページ最上段のリンクは撤去しましたが、アンケート(Milky Way)は引き続き実施しています。特に待ち受け画像のサイズなどは私が所有している機種以外ではどう見えるか分からないので、ご意見などありましたらアンケートの他、メールフォームやメールでお寄せください。
 「何時でも連絡が取れるように」と晶子と揃って買った携帯。その携帯が振動しない−大学ではずっとマナーモードにしている−ことが気になる。結局恋愛に限らず人間関係っていうのは、携帯を持っていれば万事解決、というわけじゃないわけだ。むしろその気になれば何時でも連絡が取れるからこそ、相手を思いやる気持ちが必要なのかもしれない。

 今日も全ての講義が終わった。終了時刻がずれ込んだから、今日も晶子を迎えに向かう。・・・先に一度電話してみるかな。晶子は3コマで講義が終わるから、何時もどおり−慣習になったと言った方が良いか−生協の書籍売り場で待ってるだろうから。俺は携帯を取り出して電話をかける。コール音は5回目の途中で途切れる。

「はい、晶子です。待たせて御免なさい。」
「いや、良いんだ。今講義が終わったから、これから迎えに行く。何時もの場所だな?」
「はい。入り口のところで待ってますね。」
「分かった。それじゃ、また後で。」
「はい。」

 俺は通話を切る。書籍売り場に居たところで携帯が振動し始めたから、急いで外に出たんだろう。以前と逆の立場とは言え、悪いことしたかな・・・。携帯を使ってのやり取りに慣れているとは言えないから、この辺の加減と言うか、そういうものがまだよく分からない。

「おーおー、晶子ちゃんにラブコールか。」

 しまった。隣に智一が居たんだった。俺は携帯を畳んで仕舞う。後ろめたいというか、隠し事をしているような感じだが、照れくさいんだよな、こういうのは。

雨上がりの午後 第1724回

written by Moonstone

 智一の電話は終わる。相手は想像出来るが、昨日から連日智一に何を頼んでいるのかが気になる。晶子に手出ししなければそれで良いんだが、今回は場合が場合だからな・・・。かと言ってまた昨日みたいにメールを送るのも何だし・・・。携帯を使うのにもタイミングが必要だな。

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