芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2004年4月30日更新 Updated on April 30th,2004

2004/4/30

[ああ、もう4月が終わる(汗)]
 早いものですねぇ。バタバタしている間にもう4月も終わり。またログファイルを新しく作成しないといけないな(汗)。更新履歴の方は兎も角、此処のログファイルは一月で90kBくらいありますからね。まあ、1枚で軽く5、60kB食らってくれる写真や画像に比べれば小さい方ではありますが。
 私は昨日から連休に入りました。起きたのは昼過ぎで、それから台所の掃除をして帰省しました(荷物は前日に纏めておきました)。休みになると昼過ぎまで寝ている、という生活パターンも何とかしなきゃならんな(^^;)。少なくとも食事や洗濯に関しては完全に解放されるわけですから(この手間が結構大きい)、作品制作に取り組めるわけです。実際、このお話をしている段階(4/29 23:00)で1つ最終段階に入っています。
 そうそう。リスナーの皆様はウィルスメールが届いていませんか?一昨日は122通のメールが届きましたが、そのうち118通がウィルスメール(大汗)、3通が英語のDM(.orgドメインを持っているせいか、結構多い)、残り1通が普通の(語弊があるかもしれませんが)メールでした。・・・1/122かよ(汗)。勿論ウィルス対策ソフトフル稼働状態です。いい加減何とかならないもんですかねぇ(溜息)。
2も良いな・・・。

「そう言う祐司さんはどうなんですか?」

 晶子が目を開けて尋ねる。迷うことは・・・ない。

「勿論、紹介する。その時は・・・来てくれるか?」
「はい。」

 晶子は即答する。現時点で確実なことは、俺も晶子も今の絆を大学時代の思い出にするつもりは毛頭ないということ、そして、真剣に結婚したいと思っているということ。後は全て俺にかかっている。俺がどの道を進むか、そして何時晶子にプロポーズするか。
 どちらも俺次第と言ってしまえばそれまでだ。元はと言えば今の今になっても進路を定められないでいる、耕次に言わせれば親と晶子を天秤にかけている俺の優柔不断さに問題がある。プロポーズはそれこそ今この場で、結婚しよう、とでも言えば良いだろう。演出や雰囲気にこだわる必要はないし、晶子はそんなことで一喜一憂する女じゃない。
 問題は、何時するか、だ。結婚しよう、と言うことそのものはそう難しいことじゃない。だが、今それを言う気にはなれない。俺が進む道を決めていないと晶子は身動きが取れないし、そんな不安定な状態で結婚の単語を口にしたら、それこそ飯事遊びの延長線上になってしまう。晶子を真剣に愛しているなら、真剣に一緒に暮らしたいと思っているなら、足場を固めてからでも遅くはない。

「音楽、かけましょうか。」
「え?あ、ああ。」

 思いがけない晶子の申し出に、俺は少し戸惑いつつも承諾する。恐らく俺の心理的不安を一時的にでも和らげよう、という配慮だろう。晶子は俺から離れてコンポがある棚に向かい、CDを取り出してコンポにセットする。流れてきたのは・・・「Fairy tale」か。耳障りにならない音量でうっすら流れる曲は、混乱していた−圧迫されていたと言うべきか−俺の心を幾分軽くしてくれる。

雨上がりの午後 第1511回

written by Moonstone

 目を閉じたままの晶子の言葉は、静かだが相当、否、もの凄く強固な意思に満ち溢れている。俺と一緒なら、本当に地獄の底へでも行くつもりなんだろう。耕次も言ってたな。結婚は自分のためにするもんだ、親のためにするもんじゃない、って。晶子はとことん自分の幸せを追い求めるんだろう。俺と一緒に暮らす、という、あまりにもささやかな幸せを・・・。

2004/4/28

[明日から連休♪]
 私は明日から連休に入ります。このところまともに作品制作が出来なかったので、思いっきり時間を取って存分に創ろう、と。それに寝不足が慢性化している最近の生活パターンの改善を図る目的もあります。どうも眠りが浅くなってきてるんですよね、最近。・・・これって、歳のせい?(汗)
 か、考えないでおこう(現実逃避)。連休中も連日更新する予定ですが、時間は何時になるか分かりません。更に突発的に外出して帰ってこない、という極めて珍しい事態(外泊して来るってこと。家出じゃないぞ(笑))もないとは言えないので。まあ、来月は出費がかさむので外出は控えるでしょうけど。
 連休中に予定しているグループの更新に、5周年の挨拶文を間に合わせないといけないな・・・。トップページの写真も変えたいし(ま、あれしかないけど)。それより、重要な文章と考えないと。下手するとこれで連休を食い潰す可能性もありますが(汗)。ま、残り今日1日、頑張ってきます♪
お元気ですか?
 こんな愛しい存在の狂おしいまでの愛を悲しみの涙に変えることは、絶対したくない。自分が抱いていた真剣な気持ちを裏返しにされることの辛さは、同じような経験をしてきた者として分かるつもりだ。
 晶子は俺と付き合う前に大恋愛をして、それを親に引き裂かれたことで実家から遠く離れているという今の大学に入り直し、親とは絶縁状態になっている、と言った。そんな悲しみを乗り越えて偶々出会った俺の凍てつき朽ち果てた心を癒し、潤いを与えてくれた。そして俺と一緒になるためなら喜んで本当に絶縁する覚悟を決めている。こんな切なる想いを引き裂きたくはない。
 だが、親の苦労は一人暮らしをするようになって、この歳になってそれなりに分かるようになった。殆ど口に出さなかったが、親として子どもにだけは苦労をさせたくない、というこの前の年末年始に帰省した時の夕食の席でふと漏らした父親の言葉が今でも頭に焼き付いている。決して楽とは言えない家計の中で条件付きながらも俺の大学進学と一人暮らしを許してくれた。当初は厳しい条件とは思ったが、金を稼ぐことの苦労を知るようになってからは、むしろ甘いとすら思える。
 どちらも大切にしたい。でも、進む道によっては・・・やはり・・・親子の縁を断絶する可能性を選ぶしかない。身を切られるような選択だが、お遊びのつもりで今でも左手薬指にペアリングを填めているわけじゃないし、今でもこうして晶子と付き合っているわけじゃない。性的関係を持ったから、という理由じゃない。本当に晶子を愛しているから、それと同じ、否、それ以上の愛を抱いている晶子が居るから・・・二人手を取り合って生きていきたい。耕次の言葉を借りれば、地獄の底へでも行くつもりで。
 晶子と出会って2年が過ぎた。今度の冬で交際2周年を迎える。晶子は俺と一緒に暮らすことを前提に職探しをする、と言っている。進路指導でもその主張を貫き通したと言うし、晶子の性格を考えれば嘘を言っているとはとても思えない。晶子には悪いが、そんな悠長なことはやっていられないと思う。ただでさえ女子学生の就職率は低いという。理工系学部より全体的に不利という文系学部、しかもこれも晶子に悪いが、それをやっていて何が出来るのか、と就職面接の際に突かれかねない学部だ。

雨上がりの午後 第1509回

written by Moonstone

 どれだけ時間が流れたか分からない。俺が目を開けると、晶子は俺の肩に手を乗せたまま俺を見詰めていた。目を閉じる前の時と同じだ。ずっと傍に居てくれたんだな・・・。そう思うと余計に晶子が愛しく、そして自分が余計に情けなく思う。

2004/4/27

[ヘアスタイル]
 兎角流行やファッションなどには無頓着な私。それはあまり私服で外出する機会がなかったということもありますが、元々興味がなかったのもあります。特に髪は、私がくせっ毛で下手に伸ばせないということもあって、寝癖が目立つようになったらばっさり切る、という感覚です。針金みたいに簡単に癖がつくんですよ(^^;)。
 そのせいでしょうかね。女性の髪、特にさらさらのロングヘアーにはもの凄く惹かれるものがあります。連載「雨上がりの午後」に登場するメインの女性人物である井上さんと潤子さんが揃ってロングヘアーなのは、もろに私の好みを反映させた結果です(勝手な奴)。井上さんの髪が茶色がかっているというのは、まあこのあたりなら許容範囲内だな、という感覚です。
 ちなみに、Novels Group 1の「Saint Guardians」で多数登場する女性キャラも、髪は長短や色の違いはあっても全員ストレート、という設定です。まあ、これは私だけかもしれませんが、自分が持っていないものを異性が持っていると、それが羨ましくて憧れに繋がるんじゃないでしょうか。それが恋愛に繋がるかどうかは別として。
今はどうかな?
「否、耕次に言われたとおりだよ。俺は心の何処かで晶子と親とを天秤に掛けてるんだ。ずっと一緒に居よう、って願掛けまでしておきながら、まだそれに踏み切れない・・・。覚悟が出来てない・・・。これじゃ、晶子が自分を追い詰めてまで俺と一緒に生きることを決めた気持ちに応えられない・・・。」
「祐司さん・・・。」
「今日いきなり晶子の家に来たのも結局は・・・、自分の迷いを自分一人じゃどうしようもないから晶子に半分押し付けに来たようなもんだよ。・・・すまない。」
「謝る必要なんてないですよ。」

 呟くように謝罪の言葉を口にして俯いた俺の肩に、軽い重みが加わる。見ると、晶子が深い慈愛の篭った瞳で俺を見て、俺の肩に右手を置いている。

「進む道によっては本当に親御さんと衝突することになってしまうでしょうし、祐司さんが親御さんの苦労を思って感謝している気持ちを全て断ち切って、私と一緒に暮らすことを選ぶのに二の足を踏んでしまう気持ちはそれなりに分かるつもりです。・・・祐司さんは何も悪くないですよ。だから・・・、謝る必要なんてないですよ。」
「・・・。」
「私は・・・何処までも、何時までも、祐司さんと一緒に居ますから。譬えどんな道を歩むにしても・・・二人手を取り合って・・・生きていきましょうね。私は・・・祐司さんと一緒に暮らせれば、それで良いんですから。」
「・・・すまない。」

 急激に目頭が熱くなってくる。俺は肩に乗っている晶子の手に右手を被せて目をぎゅっと閉じる。晶子への愛しさと親への感謝の気持ち・・・。どうすれば良いんだ?どっちも大切にしたい。でも、道によっては・・・親への気持ちを切り捨てなきゃならない。耕次は言った。彼女が地獄の底まで俺と一緒に行く覚悟を決めているならお前もそれくらいの覚悟を持て、それが彼女に対するお前の責任だ、と。晶子との絆をずっと保ちたい。もう幸せを手放したくない。でも、親への気持ちはそう簡単に切り捨てられないのも確かだ。

どうすりゃ・・・良いんだ?

雨上がりの午後 第1508回

written by Moonstone

 俺は溜息を吐く。結局俺の優柔不断ぶりが遺憾なく発揮されたというわけだ。晶子も心の中ではいい加減にしろ、と言いたい気分だと思う。なのに黙って最後まで話を聞いてくれたのは本当にありがたいし、それが今回いきなり押しかけてきたことと重なって余計に申し訳なく思う。

「・・・私は、幸せをズタズタに引き裂かれたことに反発して自分から親と断絶状態にしたから良いんですけど、祐司さんはそうじゃないですから、そう簡単に踏み切れないですよね。」

2004/4/26

[んぎゃあーっ!]
 しまった・・・。トップページで5周年と書いておきながら、挨拶文をまだ1行も書いてない(汗)。更に3月に撮影した梅の写真の整理がまったく手付かずだ(大汗)。おまけに今週は新作を全然書けなかった(滝汗)。まあ、お馴染みのメンバーは更新出来る目処がつきましたけどね。こりゃ、連休中は執筆に明け暮れる毎日になりそうだな。ま、何時ものことか。
 あ、そう言えば大事な文章を書かなきゃならんな・・・。まだ時間はありますけど、更新を予定している5/1が上位ページの背景画像更新の日でもあるので(2ヶ月に1回、奇数月に更新してます)、そちらの制作時間も考えるとのんびりしてられないな・・・。連休まで今日を含めて3日。何とか出来ることをやっておきたいです。
 それから、昨日までにいただいたメールには全てお返事しましたが、「まだ届いてない!」という方は至急お問い合わせください。掲示板のお返事は当分出来そうにありませんのでご了承願います。チェックはしてますのでその辺は宜しく。さて、今日は何通ウィルスメールが届くやら(汗)。
楽しみ〜♪
 食事は終わり、晶子が後片付けをして俺の隣の「指定席」に戻った後、俺は話を始めた。バンドのリーダー、すなわち耕次が自分の進路指導が本格化してきたことに伴い、成人式会場前でのスクランブルライブの後で俺が進路で迷っていることを思い出して電話してきたこと。そこで前の大学での個人面談の経緯を話したこと。そして今の彼女とはどうするんだ、と唐突に聞かれて、俺が左手薬指に指輪を填めていることが話題になり、あれは今の彼女も填めているペアリングだ、と宮城が詳細な背後関係まで付けて解説したことでバンドのメンバー全員が俺に新しい彼女、すなわち晶子が居ることを知ったことを話した。
 続いて俺も晶子も今の付き合いを大学時代の思い出にするつもりはないこと、晶子は俺の将来設計に自分を当てはめるつもりだということを話したら、晶子が自分を崖っぷちに追い込んでまで俺と一緒に暮らすと決めたという心理を見抜き、俺にもその覚悟があるか、と問い掛けたが即答出来ず、即答出来ないことは心の何処かで晶子と親とを天秤にかけているということ、本気で晶子と一緒に暮らすつもりなら自ら親子の縁を切ってでもそれこそ地獄の底まで一緒に行くくらいの覚悟を持て、それが晶子に対する俺の責任だ、と諭されたことを話した。
 そして話が突然切り替わり、宮城から聞いた晶子の容姿と俺への呼び方を話し、二人一緒に映った写真はあるか、と聞かれて、ある、と答えたら、その写真をバンドのメンバー全員に送れ、と言ったこと。そこで宮城とその友人が知ってるのにほぼ3年間行動を共にして来たバンドのメンバーが知らないのは理不尽だから、という強引な理由を話したこと、そしてバンドのリーダーの権限を持ち出して送れ、と念押ししてきたことを話した。
 晶子は俺の長話を時折頷きながら真剣に聞いてくれた。晶子が俺と一緒に暮らすことを真剣に考えているのに俺がその覚悟はあるかと聞かれて即答出来なかったことを話すのには躊躇したが、晶子は表情を変えることなく黙って聞いてくれた。

「−話はこんなところ。」
「良いお友達に恵まれましたね。」
「俺もそう思う。」

雨上がりの午後 第1507回

written by Moonstone

 俺と晶子は食事を再開する。こうして晶子の家に押しかけたのは、やはり晶子に話を聞いて欲しいという気持ちがあったからだろう。俺を受け入れてくれた晶子の気持ちに応えるためにも、話すべきことは話そう。そして一緒に考えてもらおう。ずっと一緒に居よう、と決めた大切なパートナーなんだから・・・。

2004/4/25

[ちょっと盛大に]
 曜日からすると昨日が更新日だったんですが、職場の歓迎会で酒飲んだのと睡眠不足が重なってまったく手をつけられなかったお詫び、と言っては何ですが、「雨上がりの午後」の新作をNovels Group 3で公開しました。今結構痞えているので(連載のストック消費が早い(汗))、もっとペースを上げても良いかな、と思っています。60000HITも間近ですし。
 昨日は夜明けと共に寝ました(汗)。PCがトラブルを起こして何度も再起動する羽目になりまして・・・。お陰で今日の更新準備以外は何も新作制作に手を出せませんでした。やっぱり定期的にデフラグしないといかんね〜。2時間もかかったよ(汗)。
 あ、掲示板のお返事はこのお話をご覧いただける頃から順次行っていく予定です。ただ、べらぼうに時間がかかるので恐らく1日では無理でしょう。新作も書かないといけないし。書き込んだ方は気長にお待ちくださいませ。
むふふふふ〜♪
「ああ。別に隠すつもりはなかったんだけど、話すタイミングがなかったっていうか・・・、単に俺が話しそびれてただけで、深い意味はない。」
「それじゃ、明日の午前中に私が行って来ますよ。プリントアウトするお店は私が買い物に行くお店の中にありますから。祐司さんが明日迎えに来てくれた時にでも渡しますよ。」
「良いのか?」
「ええ。それくらいお安い御用ですよ。でも、一つ気になりますね。」
「何が?」
「どうして私の話になったのか、ってことが。」
「そりゃそうだよな・・・。」

 やっぱりこの話に至るまでの経緯、すなわち耕次と進路のことを話し、ずっと一緒に暮らすと決めたなら自ら親子の縁を切ってでもそれこそ地獄の底まで行く覚悟を持て、と諭されたことを話さないといけないな・・・。

「・・・かなり長くなると思う。それが2つ目なんだけど・・・。それは俺の将来、ひいては晶子にも絡んで来る話なんだ・・・。」
「それじゃ、先に食事を済ませましょうか。バイトに行くにはまだ時間がありますし、祐司さんがレポートを書かないといけないなら、祐司さんの家に場所を移すのも良いでしょうし。」
「レポートは昨日と今朝で仕上げた。今週は偶々他の講義のレポートはないから、時間的には余裕がある。」
「それなら此処でも良いですね。食事が終わってからゆっくり聞かせてください。」
「ああ。」

雨上がりの午後 第1506回

written by Moonstone

「そういえばあの写真は、私と祐司さんが持つためにそれぞれ2枚ずつプリントアウトしただけですね。お友達には今、私と付き合ってるって話してなかったんですか?」

2004/4/24

[寝てました(汗)]
 昨日は職場の歓迎会があり、しこたま酒を飲みました。体調そのものはほぼ完治しているんですが、慢性化していた睡眠不足が重なったため、帰宅してから暫く寝てました(汗)。このお話も寝起きでしています。こんな有様ですから更新準備の「こ」の字も手をつけられませんでした。更新は明日に延期します。まあ、大した更新は出来ないとは思いますけど。
 何故体調不良を言いながら睡眠不足が慢性化していたか、ですが、一つは連載中のある作品で使用する特殊な文字をどうやって表示するか試行錯誤を繰り返していたこと、もう一つは此処最近触れているあることに関する調査のためです。私は此処の連載を書いている関係もあって、ネットに長時間接続出来ないのです(どうしてもネットサーフィンしてしまう)。日によって異なりますが、1日で2kBくらい必要なので、ストックはあっという間になくなってしまうんですよ。
 前者については昨日どうにか解決。ただし、Netscapeでは7.0、Internet Explorerでは6.0でしか表示を確認出来ませんでした。まあ、最近のWindowsの普及ぶりを考えると、かなり多くの方がIEでご覧になっているでしょうから(調べてないので断言は出来ませんが)それで良いのかも。後者も昨日で無事手続きまで完了。その後の日程も決まり、あとは待つだけです。
むふふふふ〜♪
 晶子が茶を汲む中、俺は「指定席」に腰を下ろす。チャーハンと中華スープか。人参の赤とピーマンの緑、玉葱の透明とも言える白、そして狐色のご飯が見た目にも食欲をそそる。

「それじゃ、食べましょうか。」
「ああ。」
「「いただきます。」」

 俺と晶子は唱和してから食べ始める。温かくてピリッとした辛味と旨みが何とも言えない。

「うん、美味いな。」
「そうですか?良かった・・・。」
「米、二人分炊いたんだろ?手間かけさせて悪かったな。」
「いえ。今日は偶々朝多く炊いたんですよ。明日のお昼に使おうと思って。それより、今日はどうしたんですか?」
「そのことなんだけど・・・。用件は2つあるんだ。」

 俺は食事の手を休めて晶子に言う。晶子も食事の手を休めて俺を見る。

「まず1つ目。今年の春、二人で出かけた時写真撮っただろ?それを4枚、プリントアウトしたいんだ。料金は勿論俺が払うから。」
「それは勿論良いですけど、何に使うんですか?」
「電話で、9時頃電話で起こされた、って言っただろ?あれは俺の高校時代のバンドのリーダーからだったんだ。それで、俺が今付き合っている相手は凄い美人だって聞いた、って話になって、ほぼ3年間行動を共にして来たバンドのメンバーが知らないのは理不尽だから全員に送れ、って命令されたんだ。」
「へえ・・・。」
「こんな時にリーダーの権限使うか、とは言ったんだけど、こういう時だからこそ使うんだ、って切り返されてさ・・・。このことはメンバー全員に知らせるから忘れたとか記憶にございませんとは言わせない、って念押しされたよ。」

雨上がりの午後 第1505回

written by Moonstone

 暫く待っているとドアがノックされる。俺は立ち上がってドアを開ける。仄かに湯気を立てる料理が乗ったトレイを持った晶子が、ありがとう、と言って入って来る。晶子は料理をテーブルに並べて置くと再び出て行き、今度はポットと急須を持って来る。

2004/4/23

[どうしよう・・・]
 昨日、上司から部署の異動の話を持ちかけられました。突然のことに勿論驚きましたが、それ以後非常に迷っているのもまた事実です。今の部署に入って10年経ちますが、ある部分で行き詰まりを感じているのは否定出来ません。それに今の持病を患った原因が直接間接含めて今の業務であること、果たして今後も続けていけるのか、という不安は拭えません。紆余曲折を経ながらも回復途上にあるとは言え、また悪化させてしまう、という可能性も無きにしも非ずです。
 異動先の業務内容の詳細は不明ですが、ソフトウェア開発が中心だという話を聞いたことがあります。HTMLは勿論JavaScriptやPerlをほぼ独学で実用レベルにして、実際に異部署間で共同制作したプログラムではその知識が存分に発揮出来て、異部署間ということで打ち合わせなどが随分大変だったことを差し引いても楽しかったのを憶えていますし、「楽しく取り組めるかどうかがポイント」という上司からのアドバイスも引っ掛かっています。
 私が理系を目指すことにした際も、当初はそれまでの経験と知識、興味に基づいて情報工学を志望したのですが、移り変わりが激しいソフトウェア技術者より基本部分が変わらない回路技術者が良いのでは、という当時の担任や両親のアドバイスも参考にして、電気電子工学に変更した、という経緯があります。ですからプログラミングにアレルギーや拒否反応は殆どありません。それに移り変わりが激しいのはソフトウェアは勿論ですが、電気電子回路はそれ以上だというのが10年携わってきた実感です。
 異動の話は真剣に考えなくても良い、とのことですが、前述した理由から異動にまったく興味がないというわけではありません。むしろ元々志望していたソフトウェア開発に専念出来るのならそのほうが良いかも、という思いもあります。ですからもの凄く悩んでいます。今度の連休で両親にも話し、入念に相談した上で結論を出したいと思います。職場の異動経験のある方はアドバイスなどくださると幸いです。
文字入れられるかな?
 兎も角、出発しよう。俺はデスクの隅に置いてある財布と玄関の鍵を持ち、財布をポケットに入れて部屋を出て、玄関の鍵を閉めて、と。普段は歩いて行くんだが、今日は食事の用意をしてもらうから待たせるわけにはいかないな。俺は自転車に跨って駐車場を経由して通りに出る。
 湿気の少ない爽やかな空気を切って通りを進む。緩やかな上り坂は結構車の通りが多い。普段は朝食の材料が切れた時くらいしかこの時間には外に出ないから、通り慣れた筈の道なのに新鮮に映る。暫く進んで行くと、白い建物が見えてくる。俺は自転車置き場に入って自転車を置き、入り口へ向かう。
 ガチガチのセキュリティ付きの自動ドアを隔てた向こうに、晶子が見える。ロビーのソファに座っていた晶子は俺の姿が見えたのか立ち上がり、脇の管理人室に立ち寄ってからこっちに向かって走って来る。ドアが開いたところで、俺は中に入る。

「お待たせ。」
「いえ。それじゃ、行きましょう。」
「ああ。」

 俺は晶子に先導される形で建物の中に踏み込む。途中で管理人に会釈する。毎週1回出入りしている関係ですっかり顔を覚えられているから、その点は安心だ。二人でエレベーターに乗り込み、再び開いたドアからエレベーターを降りて廊下を進み、晶子が開けたドアから中に入る。

「お邪魔します。」
「はい、どうぞ。」

 俺は靴を脱いで上がりこむ。ふとキッチンを見ると、俎板が横にされている。俺が電話した時食事の準備を使用としていたところだったということが良く分かる。

「今から食事作りますから、それまでゆっくりしていてください。」
「ありがとう。」

 晶子は髪をポニーテールにして−忘れてないな−エプロンを着けて冷蔵庫を開ける。材料を取り出すんだろう。何を作るのかという疑問はなくもないが、少なくとも洗面器が必要なものは作らないことは確実だし、そもそも今日はいきなり出向いた立場だからあれこれ問い質す気にはなれない。俺は洗面所で顔を洗ってうがいをしてからドアを開けてリビングに入り、ブレザーを脱いでベッドに置いてから「指定席」に腰を下ろす。何だかそれだけでも心安らぐ。自分の家じゃないってのに・・・。
 俺はデスクに視線を向ける。俺のデスクと違って綺麗に整頓されたそこには、閉じられたノートパソコンと写真立てがある。まずあのことを頼まないといけないな。多分首を横に振らないとは思うが。

雨上がりの午後 第1504回

written by Moonstone

 俺は受話器を置いて立ち上がり、パジャマを脱いで椅子の背凭れにかけ、箪笥から長袖のシャツとズボンと薄手のブレザーを適当に取り出して着る。白地に青のストライプのシャツ、明るいグレーを基調にしたチェックのズボン、クリーム色のブレザー。・・・我ながら服装のセンスのなさが良く分かる。

2004/4/22

[一山越えて]
 昨日、抱えていた仕事が一応完了しました。配線を残すのみだったんですが少々手間取って余計に時間を食ってしまいました。動作試験は使用場所の都合上来週にならないと出来ないので、そんなに慌てることはないので良いかな。その他はやはり平穏な日でした。作ったばかりの夕食をうっかり床に落としてしまって食べられなくなったのには、ちょっとがっくりしましたが。
 結局絞り込んだ調査対象からも満足な回答は得られませんでした。まあ、性質上満足出来る回答が得られないのは当たり前と言えばそのとおりなので、やはり推測で決めるしかないようです。それさえ決まれば、後は選択と手続きをして暫く待つだけ。今度の連休は帰省するので、手続きは連休明けにするつもりですが。
 日程も決めました。どうでも良いと言えばこれまたそのとおりなのですが(元々縁起とかそんなものは信じない方ですから)、今回は特別なので。当日晴れてくれればベストなんですけどね。
12にしようっと。
 俺は椅子に腰掛けて背凭れに体重をかけてぼんやり前を見る。使い古したディスプレイとPCのキーボード、散乱する楽譜のルーズリーフ。そして・・・写真立て。俺は何気なしに写真立てを手に取って見る。そこに収められた俺と晶子の写真。本当に・・・幸せそうだな・・・。
 暫く写真を眺めた俺の心がある方向性に固まる。写真立てを元の場所に戻し、代わりに受話器を取ってダイアルする。今度は最後まで押した。受話器を耳に当てると、トゥルルルルル、トゥルルルルル・・・という発信音が聞こえる。発信音が3回目を終わったところでガチャッと受話器が外れる音がする。

「はい、井上です。」
「晶子、おはよう。祐司だ。」
「祐司さん。おはようございます。どうしたんですか?祐司さん、普段はこの時間だとまだ寝てるか起きたばかりかだと思うんですが。」

 電話に出た晶子はちょっと驚いた様子だ。まあ無理もない。俺の週末の過ごし方は晶子も知ってるし、ましてや電話なんてかけてくるとは思わなかっただろうから。

「9時頃電話があって起こされてさ。そのまま起きてたんだ。・・・邪魔だったか?」
「いえ、どうしたのかな、って思っただけです。ところで祐司さん、食事は?」
「電話が終わった後、9時半頃に手っ取り早く朝食を済ませた。昼食はまだだよ。」
「私はこれから食事の用意をしようとしていたところだったんですよ。」
「今から・・・そっちに行って良いか?」
「ええ。それは勿論構いませんけど・・・、何かあったんですか?」
「話はそっちに行ってからする。」
「分かりました。それじゃ私はロビーで待ってますから、慌てないで来て下さいね。」
「ああ。すまないな、突然。」
「いえ。気にしないでください。」
「それじゃ、今から着替えてそっちに行くよ。」
「はい。それじゃまた後で。」

雨上がりの午後 第1503回

written by Moonstone

 俺は椅子から立ち上がって、再びベッドに歩み寄って枕元の目覚し時計を見る。・・・12時前か。腹が減ったとも言えるし、まだ大丈夫と言えなくもない。それ以前にあまり食欲がない。別に具合が悪いことはないが、食べる気にならない。それだけだ。

2004/4/21

[平穏だな・・・]
 紆余曲折した仕事はようやく仕上げの目処がつき、悪化の一途だった体調もかなり良くなってきました。タイミングが良いのか悪いのか(汗)。仕事で特に迷うこともなく、帰宅してから夕食を用意し、徐にTVを点けたらプロ野球中継をしていて、派手に縺れる展開を見た後(両チーム共投手に難があるな、あれは)布団に潜り込んで仮眠を取ってから、連載のストックを書き足して(今日の分を含む)このお話をしています。
 平穏な一日の中、気になったことと言えばやはり、あのことかな・・・。このお話をしている段階では、当てにしていた調査対象から満足な回答が得られず、やむなく昨日絞り込んだ調査対象に専念しようと思います。まあ、あの質問に回答を求めること自体が無理なことですから、仕方ないんですけどね。
 「お前、昨日から何言ってるんだ?」と首を捻られる方も居られるでしょうが、まだお話出来る段階ではありません。譬えそれが「完了」したとしてもお話するかどうかは未定です。笑い話にもなりゃしないでしょうから。
材質は銀だな・・・。
 チン、という音がする。俺はトースト用の皿を持ってオーブンへ向かい、仄かに狐色に焼き上がったトーストを取り出してテーブルに置き、座らずに洗い桶からコップを取り出してインスタントコーヒーを適量入れてからポットの前に立つ。少しして、ピーッピーッ、とホイッスルを思わせる甲高い電子音が鳴る。コップに湯を注いでいくと、黒褐色の液体が出来上がる。それを持ってテーブルに向かい、腰を下ろす。そしてバターナイフでコーヒーを良く掻き混ぜる。これで朝食の準備は出来た。
 俺はトーストに苺ジャムを塗って食べつつ、時折コーヒーを啜る。普段と同じメニューの、しかし時間的にはゆったりした、それでいて何となく寂しい朝食。・・・普段はこんなこと感じないのにな。時間ギリギリまで寝ていて慌てて腹に詰め込んでいるから、そんなことを考える余裕がない、というのが正確か。
 あっさり朝食は済んでしまう。皿とバターナイフとコップを手早く洗って洗い桶に放り込む。・・・何だかすっきりしない。剃るほど髭は伸びていない。髪は・・・鏡を見てみるが手櫛で整えられる程度だ。だが、何となくすっきりしない。・・・歯を磨いて顔を洗うか。俺は流しで歯を磨いて口を濯(ゆす)ぎ、顔を洗う。呆気なく済んでしまう。とどめに鏡を見ながら櫛で髪を梳いてみたりする。これまた呆気ない。
 普段なら朝昼兼用の食事をとっとと済ませてレポートの仕上げやらギターの練習やら新曲のアレンジやらデータ作りやらをするところだ。だが、レポートは最終チェックの段階にあるからそんなに急ぐことはない。新曲はこの前追加したばかりだし、それに伴うアレンジやらデータ作りも大きな山を越えて平坦な道に戻ったばかりだ。普段は時間に追われる週末だが、こういう時に限って呆気ない。
 散歩にでも出るか?否、行く宛なんてろくにありゃしないし・・・。とりあえず、レポートでも仕上げるかな。俺は椅子に腰掛けてデスクに向かい、散乱しているレポート用紙やら楽譜のルーズリーフやらの中から作成中のレポートを取り出し、脇に置いてある鞄からテキストと図書館から引っ張り出してきた資料−問題の解答やそれに近いものと、それを引き出した書物の名称と著者と出版社、該当ページ数を記載してある−を取り出し、これまたデスクに放り出してあった関数電卓の電源を入れてレポートに取り組む。
 ・・・よし、これで良いだろう。体裁を整えたところで最初から目を通していき、誤字脱字や表現をチェックするが、これといったミスはない。次の実験の前に提出するレポートは昨日の夜仕上げたし、この他にはレポートなんかはないから・・・これで終わりか。何だか呆気ないことが続くな。俺は出来上がったレポートをデスクで整えて端をクリップで止め、テキストに挟んで鞄に放り込む。関数電卓の電源を切って、これまた鞄に放り込む。

雨上がりの午後 第1502回

written by Moonstone

 俺は椅子を降りてベッドへ向かい、枕元の目覚し時計を見る。9時半を少し過ぎたところだ。まだ昼食には早いよな・・・。それじゃ、何時ものとおり、トーストとインスタントコーヒーで手早く昼食を済ませるか。俺はまだ若干残る眠気を欠伸に変えつつ冷蔵庫へ向かい、食パンと苺ジャムを取り出し、食パンをオーブンに放り込んでタイマーをセットする。その間にトースト用の皿とバターナイフを用意してテーブルに置き、ポットの電源を入れて湯を沸かす。湯は必要分しか入れないから、トーストが出来て程なく湯も沸く。

2004/4/20

[考え中・・・]
 今、ある調査をしています。調査、というとちょっとカッコ良いというか、怪しげな雰囲気(笑)を持ちますが、そんな大それたものではありません。その辺の事情をご存知の方にしてみれば「そんなことも知らないの?」と指差されて笑われそうなことです。でも、私にとっては「調査」という単語を使うほど重要なことではあります。
 何か、についてはまだお話出来る段階ではありません。殆どくたばっていたこの前の週末に無理矢理身体を動かして、調査の重要な第1段階を済ませました。今まで知らなかった(知る必要もなかったんですが)ことが分かって、ちょっと嬉しい(笑)。
 次の調査対象は絞り込みましたが、それとは別に大きな課題が一つ。推測に頼らざるを得ないことが大きいことです。何分その方面には疎い私ですから、余計に頭を捻らないといけません。適当で済ませたくないものなのでかなり真剣に考えてます。この調子だと早ければ連休明け、かな?「何のこっちゃ分からん!教えろ!」と思われる方。根気良く此処をチェックしていてください。何れお話する・・・かもしれません。
 晶子の方では俺の評判は芳しくないそうだが、そんなことはどうでも良い。それに晶子の評判がどうであっても良い。俺と晶子は愛し合ってる、という厳然たる事実があるなら、他人がどう思おうがいちいち聞く耳必要はない。それより耕次が言ったとおり、自分を崖っぷちに追い詰めてまでも俺と一緒に居ることを決めた晶子に対する責任を果たさなきゃならない。・・・親と衝突してでも・・・。親子の縁を切られても・・・。
 俺は写真立てを元の場所に戻し、自分の左手を見る。薬指ではペアリングの片割れが変わらぬ白銀色の輝きを放っている。晶子にプレゼントした時は、此処に填めてくれ、と言って譲らなかったから照れくさく思いつつそのとおりにしたんだが、その中には、そうしたい、という気持ちがあった。変わらぬ愛を示す証が欲しい、なんていう俺らしくもないセンチな思いがあった。
 このペアリングはてんでファッションに、ましてやアクセサリーに無頓着だった俺が周囲に懸命にひた隠しにして、出入りした経験がない宝石店やらアクセサリー店を回って探した代物だ。決して何万、何十万、という高価なものじゃない。だが、晶子は値段や宝石の大きさで喜ぶ女じゃない。そんな女なら俺に寄って来たりはしないだろうし−宮城は例外だ−、迷わず智一を紹介してやる。俺が自分と晶子の指にこのペアリングを填めた時、晶子は本当に喜んでくれた。その満面の笑顔を見た瞬間、それまでの苦労が満足感と幸福感に変わった。今でもそれは変わらない。ならばそれにもっと確固たる「背景」を持たせるには、やはり俺がしっかりしないといけない。
 俺は受話器を取って晶子の家に電話しようとしたが、電話番号を途中まで押したところで受話器を置く。今くらいの時間だと、晶子は買い物に行っている筈だ。俺でさえ把握している相手の生活パターンを晶子が覚えていない筈はない。バイトに行く時にでも言えば良いか。事情を話せば、晶子も嫌がることはないだろう。
 そう言えば・・・腹減ったな。普段は昼頃まで寝ていて、朝昼兼用でコンビニの弁当を買うからな。気が向いた時は「Alegre」へ出向くが。普段寝ている時間に起きちまったから、腹もそれなりに減るよな・・・。

雨上がりの午後 第1501回

written by Moonstone

 以前、智一にも、晶子ちゃんと写真を撮ったことはあるのか、と聞かれて、定期入れに入っている同じ写真を見せたが、俺と晶子がペアリングを填めていることを知った時と同じくらい錯乱して、その叫びを聞きつけた同じ学科の奴等が何事かと集まって来てひと騒動になったことがある。表現は違えど共通していた反応は、凄い美人じゃないか、ってことだ。

2004/4/19

[あと500回、か]
 この日記だけご覧の皆様には「なぁんだ」と思われるでしょうが、此処で連載している「雨上がりの午後」が今日で1500回を迎えました。あと500回でいよいよ2000の大台。2000といったら、プロ野球では打者が名球界入りする数値。始める時はこんな長期連載になるとは思わなかったんですけどね。読みの甘さがここでも出たと言えばそれまでですが。
 500回というと、単純計算であと約1年半。それまでにラストシーンまで漕ぎつけられるか、という問いには、無理、と答えるしかありません。大学1年の秋から始まった祐司君と井上さんの物語が、今は大学3年の秋。2年の時の流れを1500回かけた今でも描き切れていないんですから、あと500回でラストシーン到達とは到底考えられません。
 かと言って強引にラストシーンまですっ飛ばすつもりはありません。そんなのは私自身が嫌ですし。私のペースで祐司君と井上さんの物語を綴っていくだけです。きっと何時の日か、思い描いているラストシーンに到達出来るでしょう。・・・あ、そうそう。体調は幾分回復しましたが、まだ本調子ではありません。

「よし。それじゃ今日から1週間以内に、その写真を俺を含めたバンドのメンバー全員に発送しろ。このことは俺から全員に伝えておくから、忘れた、とか、記憶にございません、とかいう国会答弁もどきは通用しないぞ。」
「何で耕次だけじゃなくて、全員に送らなきゃならないんだ?簡潔明瞭な答弁を求める。」
「優子ちゃんとその友達は知ってるのに、ほぼ3年間行動を共にして来た俺達バンドのメンバーが知らないってのは理不尽だからだ。よって、この目でしっかり確認させてもらう。」

 要するに俺が今付き合っている女の姿形を見たいだけだろうが・・・。耕次の口調は明るいが、そこに含まれている意思は本気だということくらいは分かる。どう足掻いても逃げられそうにない。

「言っておくが、これはバンドのリーダーである俺の命令だ。逃げられると思うなよ。」
「こういう時にリーダーの権限使うか?普通。」
「こういう時だからこそ使うんだ。良いな?忘れるなよ。」
「分かった。写真はデジカメで撮ったのを店でプリントアウトしたやつだし、源画像は彼女のPCに保存してあるから、今直ぐ、というわけにはいかないが。」
「送るならそれで良い。感想を楽しみに待ってろよ。」
「耕次、お前なぁ・・・。」
「それじゃ、メンバーに伝えるからこの辺で。」
「ああ。それじゃ。」

 俺は受話器を置いて溜息を吐き、写真立てを手に取る。穏やかな春の日差しを受けて密着している俺と晶子は、自分で言うのも何だが本当に幸せそうだ。自然と口元が緩む。

雨上がりの午後 第1500回

written by Moonstone

 俺が座っている椅子とセットになっているデスクには、今年の春に晶子とピクニックに出かけた時に、二人並んで腕を組んでいる写真がこのために買ったお揃いの写真立てに収められて、静かな存在感を醸し出している。

2004/4/18

[うぐぅ・・・]
 はい、昨日はほぼ1日休んだにも関わらず、体調はより悪化しています(汗)。左半身が常に重く痺れ、自分のものじゃないような感覚です。消化器も機能不良らしく、何時もと同じ量を食べたのに食べ過ぎ感に伴う吐き気を感じます。更に危うく倒れそうになるほど酷い脳貧血の連続(まあ、私は元々低血圧なんですけど)。これはかなり重症のようです。
 メールや掲示板には勿論目を通していますが、とてもお返事出来る状態ではありません。今日も休んで改善しないようなら、月曜は仕事を休んで病院に行きます。このままじゃ仕事どころじゃありません。
 暫くこの日記も短くなるでしょうが、状況が改善するまでご容赦ください。多分一時的なものだと思うんですが・・・。今まで順調に薬を弱めてきただけに、またあの時期に逆戻りか、と思うとかなり憂鬱。そうならないと良いんですけどね・・・。

「・・・ま、結婚どころか彼女も居ない俺がこんなこと言うのも何だがな。」
「否、耕次の言うとおりだ・・・。それくらいの覚悟がなきゃペアリングを左手薬指に填めてる意味がない。ずっと一緒に居よう、っていう約束が落ち葉より軽いものになっちまう。俺がしっかりしなきゃ駄目だよな・・・。」
「そうそう。お前はロックバンドでヴォーカルと同じくらい目立つ立場のギタリストなのに大人し過ぎる、って言った筈だぞ?今からそんなことじゃ、彼女の尻に敷かれるのは目に見えてるな。」

 俺と耕次は同時に笑う。まったく耕次には敵わないな・・・。こういう奴こそリーダーと称して他人を引っ張っていくべきだろう。自分の我が侭に強引に引っ張っていくことをリーダーシップと勘違いしている輩が多いが、相手の心と場の空気を読んで臨機応変に対応するのが本当のリーダーシップだろう。その意味でも耕次はあのバンドのリーダーに相応しい。

「ところで祐司。」
「何だ?」
「彼女って凄い美人なんだってな。」

 な、何をいきなり・・・。言葉に詰まった俺に、耕次はこれまでとは一転して、冷やかし混じりの口調で畳み掛けてくる。

「優子ちゃんから聞いたぞ。茶色がかった長い髪でスタイルも良い、女優かモデルみたいな美人だってな。祐司さん、って呼ばれてるんだって?なかなかどうしてやるじゃないか、お前。」
「いや、姿形は別として、呼び方は彼女がそうしたい、って言ったからそうなったんであってだな・・・。」
「悠長な国会答弁もどきを聞くつもりはない。お前と彼女が一緒に写ってる写真はあるか?」
「あ、ああ。」

雨上がりの午後 第1499回

written by Moonstone

 俺は後頭部を力いっぱい殴られたような気がする。俺と同い年の、しかも俺より就職に苦労している立場にある奴に諭されていて、何がずっと一緒に暮らそう、だ・・・。これじゃ自分で飯事遊びの延長線上のレベルと宣言してるようなもんじゃないか・・・。限りなく自分が情けなく思える。

2004/4/17

[不覚・・・]
 更新が遅くなりましたが(まあ、逐次チェックしてくださっている方以外は分からないでしょうが)、その前に金曜ロードショーを観てました。普段はこの時間にTVを観ることはないのですが昨日は別。「名探偵コナン」の劇場版「迷宮の十字路」が放映されたからです。
 此処の連載をご覧の方はご存知かもしれませんが、祐司君が井上さんの案内で訪れた「別れずの展望台」で弾き語りをした曲「Time after time〜花舞う街で〜」がその映画で使われているので、話の展開にどう結び付くのか楽しみだったんです。
 「Time afer time〜花舞う街で〜」が流れるエンディングまでじっと観ていた私は、不覚にも涙を零してしまいました。「泣ける」と言われる映画や小説などでも一度も泣いたことがない私が、です。その心情を元にNovels Group 4の新作を書いて今日の公開に漕ぎ着けました。よろしければご覧下さい。
 俺は返す言葉が見当たらない。耕次の奴、俺との今日の電話だけで晶子の心情をズバリ当てやがった・・・。流石に一癖二癖ある面子をほぼ3年間ずっと束ねてきただけのことはあるな。これは天性のものだろう。

「無責任に聞こえるだろうが、進路は最終的にはお前自身が決めるしかない。その過程ではお前の親の思惑も絡んでくるだろうし、場合によっては衝突も覚悟しなきゃならない。親子の縁を切られることになっても、彼女と一緒に生きるだけの覚悟はお前にあるか?」

 耕次の問いに即答出来ない俺が居る。晶子が今でも断絶状態の親と本当に断絶することになっても俺と一緒に暮らす決意を、耕次の言葉を借りれば思い詰めているのを知っている。だが、肝心の俺はいざ選択肢を突きつけられたらこの有様だ。自分が情けなく思えてならない。

「即答出来ないってことは、心の何処かで彼女と親とを天秤に掛けてるって証拠だ。」
「・・・。」
「お前の親が脱サラして自営業をするようになったのは知ってるし、お前が親の苦労を思い、感謝の気持ちを持つのはそれなりに理解出来るつもりだ。だが、彼女と二人三脚で生きると真剣に考えてるなら、親子の縁を自ら切ってでもそれこそ地獄の底まで行く覚悟を持たなくてどうする?結婚は自分のためにするもんだ。親のためにするもんじゃない。彼女と一緒に暮らすと真剣に思ってるなら、それくらいの覚悟を持て、祐司。これは自分を崖っぷちに追い詰めてまでもお前と一緒に生きると決めた彼女に対するお前の責任だ。」
「耕次・・・。」

雨上がりの午後 第1498回

written by Moonstone

「このご時世で、自分の職探しよりお前と一緒に暮らすことを優先させてる。そんな一歩下がった側面を持つ一方で、そこに填めることが特別な意味を持つ指に、お前に強請ってまでペアリングを填めさせて、自分も填めたんだ。どうして彼女がそこまでお前に惚れ込んだのかは知らんが、譬え親に猛反対されようが、お前と一緒なら地獄の底へでも行くつもりなんだろうぜ。」

2004/4/16

[緊急事態は尚続く(汗)]
 現時点(4/15 23:00過ぎ)では、イラクで拘束されていた3名の日本人がバグダッドで解放され、イラク・イスラム聖職者会議に身柄を保護されているそうです。イラク・イスラム聖職者会議はその名のとおり現地(イラク)の事実上の国教であるイスラム教の宗教者の組織で、一連の事件で犯行グループとの交渉にあたってきたという組織。イスラム教という一つの確固たる共通点(それが良いか悪いかは別として)を持つので、犯行グループも組織の要求を聞かざるを得ないでしょう。とりあえず、大きな山を乗り越えたと言えますね。
 しかし、バグダッドでは別の2名の日本人が誘拐されたという未確認の情報が入っています。何時までもイラク・イスラム聖職者会議が影響力を確保出来るという保障は何もありません。旧政権で弾圧されていたシーア派にまで米英をはじめとする占領軍が銃口を向けたこと、ファルージャで米軍が無差別攻撃をしているところからするに、その一翼を担う日本の国民が安全で居られる方が不思議です。現地でイラク国民の真の人道支援を行っている民間人を危険に晒す自衛隊派兵を即刻中止しなければなりません。
 で、私の方は風邪こそ治まったものの、今度は左半身の痺れに苛まれています。これは私が薬を飲まずに起きていると発生する症状。どうも最近のストレスで自律神経が悲鳴を上げているようです。1時間ほど仮眠したのですがまったく収まりません。メールや掲示板のお返事は今週末に一気に行うつもりですので、もう暫くお待ちください。
 やれやれ・・・。少し考えてみれば、俺と宮城が切れたとはいえ、その他の繋がりまで揃って切れたわけじゃない。どういう経路を辿るかは知らないが、話が「関係者」に流れるのは必然的だよな。仮にもほぼ3年間ずっと交流を続けてきた仲間が居て、その仲間に入ったが故に宮城と付き合うようになったことを考えれば、俺の特徴や傾向なんかも把握していて当然か。

「今、俺には彼女が居る。宮城の解説どおり、俺が填めてるのはペアリングの片割れだ。左手薬指に填めたのは、彼女がプレゼントした時にそうしてくれ、って言って聞かなかったせいなんだけど。」
「いくらお前が服装なんかには無頓着だとはいえ、左手薬指に指輪を填める意味くらいは分かってるよな?」
「ああ。」
「彼女がそこに填めてくれ、って言って聞かなかったことから察するに、彼女はお前との付き合いを大学時代の思い出にするつもりは毛頭ないんだろ?」
「ああ。」
「で、本題に戻るが、お前はどうするつもりなんだ?」
「俺も、今の彼女との付き合いを大学卒業でおしまい、なんてことはまったく考えてない。俺も彼女も将来一緒に暮らすことを真剣に考えてる。」
「そうか。彼女の方はどういう仕事に就くつもりなんだ?」
「俺と一緒に暮らすことを前提にして職を探す。だから自分の進路だけ考えてくれ、って俺に言ってる。」
「つまりはお前の将来設計に自分を当てはめる、ってことか。」
「そういうことだな。」

 少しの間、沈黙が支配する。

「そんなに思い詰めるまでお前と一緒に暮らしたい、って思ってるんだ。彼女を大切にしてやれよ。」
「何で・・・思い詰めてるって言えるんだ?」

雨上がりの午後 第1497回

written by Moonstone

「・・・別に隠すつもりはなかったんだけどな・・・。」

2004/4/15

[風邪ひいたかな?]
 このところ睡眠不足が続いていた上に昨日いきなり冷え込んだことが重なって、軽い風邪をひいたようです。ちょっと寒気がして鼻水が普段より多い、という程度ですが。ネットのお仕事を済ませたら早めに寝るつもりです。
 以前お話したかもしれませんが、私は数年前に肺炎で入院したことがあります。元を辿れば風邪。風邪で炎症を起こした気管支に肺炎の菌が入り込んだせいです。もっとも一定の免疫力と体力があれば菌が入り込んでも迎撃出来ますが、体力が低い老人や幼児、何らかの原因で免疫力が低下している人は菌を迎撃出来ずに肺炎を起こすわけです。
 一般の人間が肺炎にやられるほど免疫力が低下する主な原因は、過度のストレスによる一時的な免疫不全。私が肺炎にやられた時も本業が猛烈に過密していて、常に頭の中ではそのことを考えている、否、頭から離れないという状態でした。その時適切な対策を講じていれば、今の病気を患わずに済んだんでしょうが・・・。また病院送りにならないように、早めに治すことにします。

「お前なぁ・・・。左手薬指に指輪填めてて、何でもない、なんて言い訳は、少なくとも俺達の中では通用しないぞ?」
「知ってたのか?」
「知ってるも何もそんな目立つところに、しかも左手を人前に見せる楽器を使ってるお前が、俺達の目を誤魔化せるとでも思ったか?」
「俺達ってことは、他の奴等も知ってるのか?」

 俺が重ねて問い返すと、電話の向こうから如何にも、呆れた、と言わんばかりの溜息が聞こえてくる。

「スクランブルライブの時に誰が居たか、思い出してみろ。」
「俺、耕次、勝平、渉、宏一の5人。」
「その他には?」
「宮城とその友達・・・!」
「ようやく気付いたか。」

 溜息を挟んで、耕次の話が続く。

「スクランブルライブの後乾杯して解散したけど、その後直ぐに優子ちゃんとその友達から話を聞いた。優子ちゃんと別れた後、お前に新しい彼女が出来た、ってな。」
「・・・。」
「で、指輪の話になって、皆口々に、祐司が左手薬指に指輪填めてたよな、って言い出して、優子ちゃんが、あれは今の彼女も填めてるペアリングだ、って解説して、全員納得したんだ。去年の夏に関係を清算した時見せ付けられた、って言ってたぞ。そもそも服装や髪型やアクセサリーなんかにはてんで無頓着な祐司がアクセサリーを、しかもあんなに目立って訳ありを示すところに指輪を填めるわけがない、っていう、優子ちゃんによる詳しい背後関係の解説もあったことも付け加えておく。」

雨上がりの午後 第1496回

written by Moonstone

「そうだな・・・。」
「で、今の彼女とはどうするつもりなんだ?」
「え?」

 俺はまた思わず聞き返す。電話口から溜息が聞こえる。

2004/4/14

[まだみたいですね・・・]
 私の本業の方は大きな山を越えたのですが、イラクで武装グループに誘拐された3名の日本人は、未だ無事が確認されていないようです。まあ、全土が戦争状態、しかも自分達の所在や顔を知られるわけにはいかないという誘拐犯特有が重なっているだけに、目隠しをして道端に解放、とはいかないでしょう。解放した人質が日本側に身柄を保護されるまでに不測の事態が生じれば、奴等が危険に晒した、としてアメリカ軍など占領軍に武力行使の絶好の口実を与えるだけですからね。それが戦略というものです。
 400億円以上もかけて東京ドーム12個分の、しかも二重の鉄条網で囲った宿営地を作ってそこに篭り、イラク人に給水車を運ばせてこさせて給水をして、何が人道支援でしょうか。政府が殊更口にする「効率」という観点からしても、NGOより圧倒的に非効率的。これこそ税金の無駄遣い。これを政府や自衛隊の「大本営発表」そのままに人道支援と宣伝してきたマスコミの責任は重大です。
 日本人拘束のニュースを伝えた「アルジャジーラ」というTVはカタールの衛生TVなのですが、湾岸戦争時からイラクの実態を伝えてきたためアメリカに睨まれていて、実際に記者が滞在しているホテルを戦車に砲撃され、記者が死亡するという不幸にも負けずに現地の実態を伝えています。自由や権利というものが日本より制限されているという中東の国のマスコミがここまで出来るのに、何故日本のマスコミは「大本営発表」を垂れ流すだけなのか。これを機会にマスコミに見切りをつけるべきですね。購読料という名の金をくれてやるのは、それこそ金の無駄というものです。
 耕次の大学も決してレベルが−偏差値のレベルでの話だが−低いわけではない。俺達がバンドを組んでいた高校は県下でも有数の進学校。そしてバンドをやっていることや成績が悪いことを教師、特に頭の固い生活指導の教師に突かれるわけにはいかない、ということで結構真剣に勉強にも取り組んでいた。「よく学び、よく遊べ」というやつだ。俺はメンバーの中で最も成績優秀で−だからどうだというつもりはさらさらないが−泊り込み合宿の時は講師役をしたし、当時付き合っていた宮城の専任の講師として頻繁にノートを貸したり放課後に直接教えたりした。周囲に注目されていたのは言うまでもない。
 耕次は、自分の進路指導が本格化してきたのを受けて、成人式会場前でのスクランブルライブの後、進路で迷っていることを口にした俺のことを思い出し、電話してきたんだ。ほぼ3年間、個性派揃いのメンバーを束ねてきただけのことはあるというか・・・。進路は別になっても、自分が大変な状況でも仲間のことに気を配れるのは耕次らしい。
 俺は先の個人面談のことをひととおり話した。耕次は時折短く返事するだけで、ずっと聞いてくれた。まだ親にも言ってない−隠している、と言うべきか−進路だが、こうして気心の知れた相手に話せるということがどれだけありがたいことか。やはりあの時、耕次の誘いに乗って良かった、とつくづく思う。

「なるほど。お前の選択肢の中にはプロのミュージシャンも入ってるわけか。そうでなくてもレコード会社とか、何らかの形で音楽に関係する企業を考えてる、ってわけだな?」
「ああ。」
「お前としては、どうなんだ?」
「え?」

 耕次の問いに俺は思わず聞き返す。

「肝心のお前には少なくとも、こっちのほうが良いかな、と思える進路はあるのか、ってことだ。」
「・・・実際、公務員っていう選択肢は挙げただけだ。親は身分が安定しているから、とかいう理由で頻りに進めるけど、必ずしもそうとは言えないと思うからさ。」
「公務員には公務員ならではの問題がある。国家にせよ地方にせよ、な。公務員だから生涯安心、なんていうのは過去の幻想だ。俺も公務員試験の準備をしてはいるが、結構生臭い話を聞く。安心安全を第一に考えるなら、今の政府与党の仲間入りして議員を目指した方が賢明だな。」

雨上がりの午後 第1495回

written by Moonstone

 電話の主は高校時代のバンドのヴォーカルであり、リーダーでもあった耕次。耕次も親元を離れて一人暮らしをしているが、耕次が通う大学でも進路指導が本格化してきて、早くも−俺がのんびりし過ぎなのかもしれないが−企業のパンフレットなんかを集めて情報収集しているそうだ。それでも耕次が言うには就職への道は狭き門だと言う。

2004/4/13

[また立て込んでます(汗)]
 えっとですね・・・。今本業が(電子機器制作)が3件、揃って最終段階を迎えていて、今度の連休までに全て片付けるスケジュールで進めています。正直昨日は休み明けで眠気が残っていてかなり辛かったのですが、どうにか納期が明確な先頭の1つは片付けることが出来ました。
 しかし、それに続いてあと2つを予定より早く仕上げなければならず、しかも今週金曜期限の提出書類を揃えなければなりません。これはこれまでの勤務実績などを過去に遡って引っ張り出す必要があるので、片手間では済ませられません。今週もハードスケジュールになるのは明確です。その上、こういう時に限って連載のストックが底をつきかけていたので急いで補充しなければならず(直ぐ使われちゃうんですが)、2時間ほど転寝した後、このお話をしています。何時もどおりにアップされてるじゃないか、と思われるでしょうが、その背後では結構バタバタしてたりします。
 そんなことを理由にしたくないのですが、メールと掲示板へのお返事がずれ込むことは避けられない情勢です。順調な回復途上にあるとは言え健常者より体力が低下する厄介な持病を抱えている(神経性疾患というのはそういうものです)上に、薬を使わないとまともに寝られないですし、更にある程度の時間を寝ないと薬の効力が残って本業に支障を来す、という悪循環に陥るので、こうせざるを得ません。「返事が遅い!」とご立腹でしょうが、今暫くお待ちください。順次お返事していきます。
「個人面談に決まってるだろ。必須科目の単位は落とすわ、実験はきちんとしてないわ、研究室のゼミも人任せだわ、と悉く指摘された上に、こんなことで社会でやっていけると思ってるのか、ってみっちり説教されちまったよ。1時間もだぞ?1時間も。安藤君の苦労を考えれば説教で済むだけありがたいと思え、ってとどめに一発。まいったぜ。まさか実験指導担当の教官や久野尾先生からの報告まで入ってるとはな・・・。」
「俺からすれば、1時間の説教で済んだのは甘いと思うがな。」
「ぐっ・・・。お、お前に言われるとキツイ・・・。」
「キツイと思えるだけまだましと思っておくか。ま、これを機会に心を入れ替えることだ。今度からレポートは一切写させないから、そのつもりでな。ついでにゼミの予習も自分でやれよ。良いな?」
「そ、そりゃないだろ。俺を見捨てないでくれよ〜。」

 智一の泣き言は聞こえない振りをして、ふと点々と植えられた街路樹を見る。その葉の緑は心なしか色褪せて見える。季節は巡り巡りて秋が深まり、やがて見を縮こまらせなければならない冬が訪れる。季節感が日常から薄れつつある今、木々や空気は無言のまま時の流れを伝えている。
 譬えどれだけ時が流れようと、俺とお前の絆は色褪せないよな?寒風に吹かれて散っていくなんてことはないよな?晶子・・・。残された時間で精一杯考えて悩んで相談して必ず進む道を決める。そしてお前にプロポーズする。俺とお前の左手薬指に填まっている指輪が示す絆を、俺とお前が今抱(いだ)いている幸せを、より確かなものにするために・・・。必ず・・・。

だからその時まで・・・待っててくれよな・・・。


「−というわけなんだ。」

 個人面談から半月後。秋の香りが木々にも濃厚になってきたある週の土曜日、朝のコール音で目を覚まさせられた。昨日寝たのが午前3時。電話に出たのが午後9時。日頃の寝不足を解消していた最中の俺は、変な訪問販売の類だったら怒鳴りつけてやるつもりだったが、そういうわけにもいかなかった。

雨上がりの午後 第1494回

written by Moonstone

「昨日は悲惨だったぜ。」
「何が?」

2004/4/12

[無事解決の様相ですが・・・]
 土曜に酒飲み過ぎて昨日は最悪でした(自滅と言う)。で、イラクで日本人3名が拘束されていた事件は、現時点(4/11 23:00)では犯行グループが3名を今日午前2時までに解放するとアルジャジーラ(中東諸国の一つ、カタールの衛生TV)に通告してきたとのことです。とりあえず最悪の事態は避けられる様子です。
 しかし、これで政府与党は自衛隊派兵を継続する「口実」が得られたと思っていることでしょう。政府与党はアメリカとの公約である自衛隊派兵を実行することしか頭にないからこそ、3名が拘束されたという情報の確実性が得られない段階で早々と「自衛隊の撤退は考えていない」と言い切ったのです。首相が3名の家族の面会を拒否したのもその一端です。
 今回は犯行グループが3名の家族の苦痛を考慮した、と述べる一方、3名がイラクのために献身して来たこと、占領軍に支配されていないことを挙げています。すなわち自衛隊が占領軍の一員であるという認識は変わっていないのです。今回は無事で済みそうなものの、次回は誘拐という「大人しい」手段は取らず、実力行使に踏み切ることでしょう。犠牲者が出る前に自衛隊を早急に撤退させるべきです。
 何時もより早い時間の急行電車に乗り込み、通勤・通学ラッシュで車内も道中も混み合う中、練習中の曲や新しくレパートリーに加えたい曲について話す。そうこうしているうちに時間は流れ、場所は正門から文学部などがある場所へ通じる道への分岐点に差し掛かる。名残惜しいが避けられないひと時の別れ。こういう時交わす挨拶は・・・こうだよな。

「それじゃ、また後で。」
「ええ。また後で。」

 晶子はにこやかに手を振って俺とは違う道を歩いていく。晶子の後姿が見えなくなるまで見送った後、俺は前を向いて再び歩き始める。晶子とはまたバイト先で会える。その後話が出来る。

「おーい!祐司!」

 工学部の講義棟が見えてきたところで背後から声がかかる。立ち止まって振り向くと、智一が走ってくるのが見える。智一は俺の隣まで走って来て、荒れる呼吸をひととおり整える。

「今日は早いじゃないか。どうしたんだ?」
「たまにはこういうこともあるさ。」
「随分ご機嫌だな。・・・ははぁ。さては晶子ちゃんと何かあったな?もう晶子ちゃんは俺の手の届かないところへ連れ去られてしまって、そしてお前に汚されて・・・、ああ!」
「妄想は布団の中だけにしろ。」

 俺と智一は並んで工学部の講義棟への歩みを再開する。

雨上がりの午後 第1493回

written by Moonstone

 俺と晶子は朝食を済ませて歯を磨き、早い時間に晶子の家を出た。途中俺の家に寄って着替えたからだ。昨日と同じ服というのは、幾ら服装に無頓着な俺でも流石にちょっと気が引ける。

2004/4/11

[の、飲み過ぎ・・・(汗)]
 このお話をしている4/10 23:00頃、私は完全に酔っぱらってます(笑&汗)。何気なしに「酒を飲みたいな」と思って残っていたウイスキー(コーヒー牛乳みたいな味がするアイリッシュウイスキー)を飲んだのが運の尽きと言いましょうか。その後ワイン(フルボトル:720ml)を2本分空にして今に至ります(笑&汗)。
 「お前、この土日で作品制作するんじゃなかったのか?」と訝る方も居られるでしょうが、その辺はご安心を(安心出来ない?)。きっちり1作品仕上げましたよ。ネット巡回を終えた後、もう1作品制作するつもりです。あ、ちなみに私は酒を飲むと非常にハイテンションになります。
 今までにもお話したかもしれませんが、私は服用している薬の都合で、アルコールの飲用は原則禁止です。仮に飲んだ場合は消化吸収の関係で最低2時間は間を置かないといけません。やっぱりストレス溜まってたのかな・・・。元々身体の調子が良い時はワインフルボトルくらいは簡単に空に出来ますし、何ヶ月も酒を飲んでなかったので身体が欲しがっていたようです。この調子だと3本目も空にする可能性大(笑&汗)。ま、マイペースで更新していきます。メールのお返事はもう暫くお待ちを(カミソリメールはなしの方向で(汗))。
 もっと晶子と一緒に居たいというのは山々だが、講義を放ったらかしにしてキャンパスでデートするほど俺は暇じゃないし、晶子もそんなことを望んでない。晶子はその場その時俺と一緒に居ることそのものに満足する女だ。そう、今のように。

「朝、大変じゃないですか?」
「元々朝は苦手な方だからバタバタしているうちに変な言い方だけど、これで今日一日が始まる、って思うんだ。実家に居た時も親にどやされてようやく起きる有様だったし。」
「講義はぎっしり。レポートも沢山。その上生活費の補填のためにバイト。祐司さん自身と私がお客さんに披露する曲のデータ作りにその練習。・・・そんなハードスケジュールなのに成績優秀なんですから、本当に凄いですね。」
「生活費の不足分を自分で賄うことを交換条件にして一人暮らししてるんだし、バイトしてることを成績が悪いことの理由にしたくないからな。根が意地っ張りなんだよ、俺は。」
「疲れませんか?」
「流石に疲れは溜まるけど、土日は昼まで寝てるし、何だかんだ言ってもバイトや音楽やってる時は楽しいし、それに毎日何らかの形で時間は短くても晶子と一緒に居られる時間があるから、それで十分疲れは取れてるよ。慣れもあるんだろうけど。」
「やっぱり祐司さん、真面目な人ですね。」

 晶子は柔和な笑みを浮かべる。

「そういう真面目な男性(ひと)に愛されて、私、本当に幸せです。」
「そう思ってもらえて光栄だよ。」

 親に幸せをズタズタに引き裂かれた、と昨日晶子は言った。晶子が今感じている幸せがどんな大きさかは所詮想像の域を出ないし、思い上がりも多分にあるだろうが、その幸せを俺の手で壊すようなことだけは絶対にしたくない。
 俺の愛っていう気持ちは、他人から見れば子どもの約束事のレベルかもしれない。飯事遊びの延長線上のレベルなのかもしれない。でも、それで晶子が幸せを感じてくれるなら・・・それで良い。

雨上がりの午後 第1492回

written by Moonstone

 こんな事情の上に、俺の受講講義が専ら専門科目のみで一般教養棟がある文系学部のある場所まで行かない問題が重なるから、俺と晶子が大学で会うことはない。智一に言わせれば「すれ違いカップル」そのものだ。だが、同じ店でバイトしてるし、帰りには此処に立ち寄って紅茶を啜りながら話をするし、月曜の夜は此処に泊まって一夜を明かす−ちなみにあれはしてない−。

2004/4/10

[次、どうしよう?(汗)]
 この日記と並行して掲載している「雨上がりの午後」は、どうにか書きたかったシーンを上手く終わらせることが出来たんですが(時々お話していますが、連載はいざという時のためにストックしています)、そこから先をどうするかで困ってます(汗)。次のヤマ場はクリスマスコンサートなんですが(季節がずれてる、という突っ込みはしないでください)、そこに今祐司君が抱えている課題を絡ませようか、それより先に持ち出すべきか、それともクリスマスコンサートを終えてからにすべきか、と・・・。
 実際のところ、私は大学卒業から就職までさほど悩まずに来れたんです。大学院試験の勉強が効を奏したらしく合格率30%程度の筆記試験に合格して(合格するとはまったく予想してなくて、合格通知が届いた時は思わず聞き返した)、合同説明会を回っていたら偶々今の職場と巡り会い、面白そうだったので職場の説明会に行って思いついたことをあれこれ質問したら(私ばかり質問してた憶えがある)、後日の最終面接に私一人呼ばれて面接終了後10分も経たないうちに、はい採用、となったんです(大学院も合格しましたが辞退しました)。なので、進路に悩む、という事態は高校時代まで遡らないと駄目なんです。そこでもどの学科に進学するか、ということが主だったので(最初は情報工学を志望してたんですが、後に電気/電子工学に変更しました)、職種を選択するのとは事情が違うので想像し難いんです。
 この先は想像や自前の知識に頼らざるを得ない場面になるので、このまま進めて良いんだろうか、という思いがあります。取材出来れば良いんですが、伝(つて)が無いですし、金銭的にも時間的にも余裕がないですからね・・・。まあ、私の趣味丸出しで書いているので、思うがままに進めれば良いのかもしれませんが。それよりこの土日で新作がきちんと書けるかどうかが問題か(汗)。
 晶子は両手に持っていたトレイから、ほこほこと湯気が立ち上るハムエッグとキャベツの千切りの乗った皿を並べて置いて出て行く。程なく炊飯ジャーとお玉の入った片手鍋を持って来る。炊飯ジャーを床に、片手鍋をテーブルの空きスペースに置くと、また出て行く。今度は急須を持って来た。その間、俺はベッドに腰掛けている。火曜の朝もそうだが、勝手を知らない俺は黙って見ているだけにしている。手伝いたいのは山々なんだが。
 晶子がエプロンを外す。運搬が終わったという「合図」だ。俺は「指定席」に腰を下ろす。晶子は薄いブルーのブラウスにベージュのズボンというシンプルな服装で、トレードマークの茶色がかった長い髪はしっかりポニーテールにしている。ご飯や味噌汁をよそったりする横顔が何とも魅力的だ。ふとその左手を見ると、薬指には俺が填めているものと同じ指輪が填まっている。見慣れたものの筈なのに、不思議と心和む。晶子は俺の隣の「指定席」に腰を下ろして、穏やかな顔を向ける。

「じゃあ、食べましょう。」
「ああ。」
「「いただきます。」」

 俺と晶子の二人の朝食が始まる。会話こそないが、気分は軽い。昨日の朝と同じく穏やかでゆったりした時間が流れていく。

「今日も祐司さんと一緒に大学へ行けるんですね。」

 晶子が言う。窓からの日差しのような穏やかな顔は、その心情を表しているんだろう。

「ああ、そうだな。」

 俺は仮配属になった研究室の週1階のゼミに加えて、受けられる講義を片っ端から詰め込んだ関係で−単位を取っておけば何年かの実務経験で自動的に取得出来る資格があるから、取れる機会に取っておこうという貧乏性くさい理由でだ−、実験がある月曜以外は1コマから4コマまでぎっしり詰まっている。昨日の個人面談が4コマ目の後にあったのは、前年度までの単位を取り損ねた学生に対する配慮だろう。晶子は2コマ目から始まる曜日もあれば、3コマで終わる曜日もある。そんな関係で一緒に大学へ行けるのは晶子の家に泊まった翌日、すなわち火曜日しかない。
 下校は俺の4コマ目の講義が終わる時間が不規則なので−大抵後ろにずれる−、晶子にそれまで待ってもらうのは申し訳ないということで先に帰ってもらっている。智一に接触させたくないという俺の思惑がないわけではないが。

雨上がりの午後 第1491回

written by Moonstone

「あ・・・。」
「おはようございます。そろそろ起こそうかと思ったところだったんですよ。」
「おはよう。自然と目が覚めたんだ。家に居る時はこんなことないんだけどな。」
「朝ご飯出来ましたから、一緒に食べましょうね。」
「ああ。」

2004/4/9

[アメリカ向け外交の顛末]
 このお話をする直前、イラクで日本人が拉致されたというニュース速報が入ってきました。それを受けて福田官房長官は「憤りを覚える」と言う一方「(人質解放の条件となっている)自衛隊のイラクからの撤退は考えていない」と言ったそうです。理由は「人道支援だから」。
 この期に及んでまだそんな嘘八百を並べるのか、というのが率直な感想です。自衛隊のイラク派兵の目的が人道支援というのはマスコミと日本国民への自衛隊活動の「宣伝」材料に過ぎず、自衛隊が米英軍主導のイラク占領軍の統制下に入って活動することは既に国会で明らかにされていますし、イラクを占領支配する連合暫定当局(CPA)もその旨を明言しています。それに今回のイラク派兵を「突破口」にして自衛隊の活動範囲を広げ、アメリカの軍事行動に追随しやすくしようという意図があることは、日米政府首脳が度々明言或いは示唆しています。マスコミが報道しないだけです。
 そもそもイラク周辺の中東諸国は自衛隊のイラク派兵を歓迎していません。日本はこれまで中東諸国に軍靴で乗り込んだ歴史がない上に戦争放棄を明文化した第9条を持つ国として、好感を持たれていたのに、アメリカに追随して軍隊に他ならない自衛隊を送り込んだことで好感が失望に変わっています。米軍による横暴な占領統治によるイラク国民の怒りと憎悪が、米軍と行動を共にする日本に向けられるのは当然です。アメリカの顔色を窺うばかりの外交をしているからこんなことになるのです。「殺し殺される」などと暢気なことを言っている暇があるなら、早急に自衛隊を撤退させ、国連主導の下でイラク国民に速やかに主権を返還させる外交をすべきです。

「肝心の俺が進む道を決めていない今は・・・、まだプロポーズ出来ない。晶子が俺に向けて来る真剣な気持ちをまた足止めすることになるのは・・・、悪いと思ってる。」
「・・・。」
「言い訳がましく聞こえるだろうけど、これだけは分かって欲しい。晶子との絆を大学時代の思い出の一つにするつもりはこれっぽっちもないってことを。俺は・・・本当に・・・晶子と・・・」

 四苦八苦しながら言葉を引っ張り出していた俺の唇が、晶子の唇で塞がれた。間近に迫った晶子の顔は、ゆっくりと離れていく。

「その続きは、プロポーズしてくれる時までしまっておいてください。」
「・・・。」
「祐司さんが私と一緒に暮らすことを念頭において進路を模索していることは、私なりに分かっているつもりです。だから今は、進路を選ぶことだけ考えてくださいね。私は、待ってますから。」

 次の瞬間、俺は晶子を抱き締めていた。強くしっかりと。俺の背中に晶子の腕が回り、優しく摩(さす)られる心地良い感触を感じながら、俺は目を閉じて晶子を抱き締める。こうすることでしか晶子の気持ちに応えることが出来ない自分がもどかしい。待っててくれ、晶子。必ず進む道を決めてきちんとプロポーズするから・・・。

その時まで・・・待っててくれ・・・。

 頭の中が白んで来た。徐々にはっきりしてきた視界に映るのは・・・ベージュ一色の世界。夢の中?何度か瞬きをしてふと首を傾けると、見慣れたテーブルが見える。身体を起こして周囲を見渡すと、すっきり整頓された、見慣れた部屋の風景が広がっている。・・・そうだ。俺は晶子の家に泊まらせてもらうことにしたんだった。
 晶子を腕の拘束から離した時、時計の針は0時を過ぎていた。これから帰宅して朝起きるのは大変でしょう、という晶子の勧めを受けて、泊まらせてもらうことにした。普段は目覚し時計と格闘しているくせにこういう時にしっかり起きられるんだから、まったく不思議なもんだ。
 テーブルには茶碗と箸が並べて置かれてある。晶子は朝食を作っているんだろう。普段は時間ぎりぎりになってからようやく飛び起きて、トーストとインスタントコーヒーを腹に放り込んで着替えて出発、というところだが、晶子の家に泊まった時はゆったりした朝を迎えられる。ありがたいもんだ。
 俺は軽く伸びをして身体に残る倦怠感を取り払う。白いレースのカーテンを通して差し込む陽射しは、見ているだけでも暖かい。ベッドから出たとほぼ時を同じくしてドアが開いて、エプロン姿の晶子が顔を出す。

雨上がりの午後 第1490回

written by Moonstone

 ここでも俺は何れ話さなければならないこと、決めなければならないことを先送りしていると言える。晶子が自分で後がない状況を作ってまで俺と一緒に暮らすことを決めているなら、俺はそれになんとしても応えなければならない。左手薬指に指輪を填めている、そして「別れずの展望台」で願掛けまでしたパートナー、否、事実上の婚約者として。だけど・・・。

2004/4/8

[み、見えない・・・(汗)]
 最近、遠くのものが見え辛いです。勿論眼鏡はかけてますよ。眼鏡をかけないと余程近くのもの(10cmくらい)以外は大まかな色と形しか判別出来ないし、足どころか手の爪も切れない程の近眼ですから(乱視も入ってます)。
 なのに遠くのものがぼやけて見えるんです。それどころか、身近なところではPCのディスプレイも顔をある程度近づけないと見辛い時が多々あるんです。昨日は職場の展示用資料(来客への説明に使う)を全面リニューアルする作業を手伝っていたんですが(私も資料を出しました)、その時一度完成して壁に掛けられた図表の文字列が・・・きちんと見えない(汗)。今までなら十分見えた筈の距離なんですけど。
 私が「字が見え辛いです」と言ったら、文字列を全て大きく作り直してくれました(勿論、手伝いましたよ)。それで見えるようにはなったんですが、やはり視力の低下は間違いないようです。健康診断でも視力低下の傾向があるとは分かっていたんですが、自分の年齢では本来もう視力低下はない筈なんです。目の酷使が原因かな・・・。本業でもこのページの管理運営でも、ずっと目を使ってますからね(小さなICやPCのディスプレイと睨めっこ♪)。眼鏡を新調しないと駄目かな。この際コンタクトにするのも一興かも(笑)。
 俺と晶子はじっと見詰め合う。晶子の二つの瞳には俺の顔しか映っていない。俺の目にも晶子の顔しか見えない。愛に溺れる、という言葉があるが、今はまさにそれを絵に描いたような状態なんだろう。溺れても良い。肺の中、否、俺の全身に溢れる愛を注ぎ込みたい。
 ここまで決意を固めているなら、やはりあのことが気になる。晶子にとっては聞かれたくないことだろうが、聞いておかなければならない。どの道を進むにせよ、晶子と手を取り合って生きていくことを選ぶことには違いない男として・・・。

「・・・晶子は・・・実家と断絶状態なんだよな?」
「ええ。」
「両親に・・・この話はしたのか?」

 俺の問いかけに晶子は無言で、俺を見つめたまま頷く。

「何か言われなかったのか?」

 俺の更なる問いかけに、晶子は少しの沈黙を挟んでから口を開く。

「親に何を言われても、私は私の人生を進むだけです。私の幸せをズタズタに引き裂いた親に、私の人生に口を挟む権利はありません。」

 晶子の言葉は俺の問いへの回答を含んでいる。両親に何か言われたんだろう。相手はどんな男か、とか、そんな生活が続けられる筈がない、とか。俺が親に晶子と結婚して今のバイトを続けながらプロのミュージシャンへの道を進む、と言ったら、間違いなくああだこうだと畳み掛けてくるだろう。
 晶子と付き合っていることは、去年の成人式出席のついでに帰省した時に親に話してある。名前も知らない相手から、しかも女から電話がかかってきたら必要以上に警戒すると−特に母親が−思ったからだ。だが、左手薬指に指輪を填めていることについては−やっぱり目立つらしい−「アクセサリーだ」としか言ってない。その時晶子と結婚する意志がなかったわけでは勿論ないが、自分の進路も定まっていない状態で、結婚を決めた相手が居る、なんて言おうものならどうなるかくらいは想像出来た。

雨上がりの午後 第1489回

written by Moonstone

 悲壮とも言える決意をさせる晶子にさせるほどの想い・・・。過去に追った失恋の傷がいかに大きく、深いものだったか何となく察しがつく。「別れずの展望台」で俺が弾き語りをした、晶子も添えるように一緒に歌ったあの曲「Time after time〜花舞う街で〜」の歌詞を思い出す。今度掴んだ幸せは絶対離さない。・・・そんな想いが心から溢れるほどなんだろう。

2004/4/7

[時の流れと文芸作品]
 ここ最近の日記はどうも面白くないので(ネタに溢れた生活ってのもそれはそれで嫌ですが(苦笑))、ちょっと方向性を変えます。お題は・・・キャプションで言ってしまったな(汗)。
 連載「雨上がりの午後」は今年で連載開始から5周年を迎えます(何月何日から始まったかご存知の方は通ですな(笑))。元々「日記スペースの有効活用」という単純な思いつきから始まって、自分の趣味思考を多分に織り交ぜて書いているので、今読み返してみるとちぐはぐに思う点があります。携帯電話が未だまともに登場していないのは別として、登場曲の収録状況が現時点とかなり相違があるんですよ。ジャズ・フュージョン系はまだしも、倉木麻衣さんの曲が。作品では3年目を迎えようとしているのに、「Can't forget your love」がアルバム未収録になっていたり(「FAIRY TALE」に収録されています)。
 これは主に書いた当時にアルバムに収録されていない(私は基本的にシングルは買いません)ために起こる現象なのですが、果たしてどうしたものか、と。その時その時に合わせて変更していたらきりがありませんし、折角の話の流れを崩してしまうことにもなりかねないので・・・。「進めるのが遅いからじゃ」という声が聞こえなくもないですが(汗)。読者の皆様はその辺のところどう感じていらっしゃるんでしょうか?よろしければお聞かせください。

「それの前置きにもう一つ言われたんだ。教官の今日の面談での印象では、俺は真面目で誠実に見えたらしい。それに続いて言われたんだ、実験指導担当の教官や久野尾先生っていう、俺が仮配属になっている研究室の教授からの報告はそれを裏付けていると思う、って。時にはそれを逆手に取られて厳しい状況に追い込まれることもあるだろうが自分に自信を持ちなさい、って。それに・・・。」
「・・・。」
「彼女は、つまりは晶子は俺の真面目さや誠実さに惹かれたんじゃないか、って。」
「そうです。私は祐司さんの真面目で誠実なところに惹かれたんです。」

 俺を見詰める晶子の顔は真剣そのものだ。

「上辺だけ見て全てを決める風潮の中、こんなに自分の仕事や言葉などに誠実で居られること、誠実で居ようとする真面目さに強く惹かれたんです。最初こそ兄にあまりにもそっくりなのでその面影を重ねていたんですけど、祐司さんと接しているうちに祐司さんの真面目さや誠実さを感じて、安藤祐司っていう一人の男の人を好きになったんです。でも、これだけは誤解しないで欲しいんです。」
「ん?」
「祐司さんの真面目さと誠実さに惹かれたのは事実ですけど、それだけが今祐司さんを愛している理由じゃありません。祐司さんの全てが・・・愛しくて・・・たまらないんです。」

 俺の左手に柔らかくて温かい感触が重なる。俺の顔を映す晶子の大きな瞳は微かに潤んでさえいる。

「だから・・・ずっと一緒に居たいんです。ずっと一緒に居て欲しいんです。」

「・・・そのために親から勘当されてもか?」
「それで祐司さんと一緒に居られるのなら、私は喜んで家を出ます。」

 晶子は静かな口調で、しかしはっきり言うと、俺の左肩に頭を乗せる。俺が少し頭を寄せれば唇を重ね和えられる距離に見える晶子の顔は真剣で、それでいて儚げで・・・。触れたら壊れる繊細な彫像のようだ。

雨上がりの午後 第1488回

written by Moonstone

 俺が笑みを浮かべると、晶子は笑みで返す。もう一つ、言っておきたいことがある。これは何故晶子が俺にここまで惚れ込んだかという謎を解き明かす鍵になるかもしれないし。

2004/4/6

[んがぁ・・・]
 仕事でいっぱいいっぱいです(汗)。今は抵抗の選別をメインにしていまして、目標の特性を実現するために±0.5%を目処にしている(100Ωなら99.5Ω〜100.5Ω)のですが、予想をはるかに下回る実測値の悪さで半分近い抵抗が対象外になります。しかもそれらは1つ1つ専用機器で測定する必要があり、しかも一瞬で決定しないので(性質上ある程度時間をおかないといけない)、なかなか進みません。30本程度で3時間かかりましたから、500本測定となると・・・(大汗)。
 その上雑用が次々積み重なってくるので、あれもこれも、とやっている間に終業時間。その頃にはもうくたくたです。土日に完全ダウンすることでようやくノーマル状態に戻ったばかりの身体にはかなり重い負荷です。1時間ばかり気絶してました(汗)。
 そんなわけでメールや掲示板のお返事がずれ込んでいます。「送ったのに(書き込んだのに)まだ返事がない!」と憤激されるお気持ちは分かりますが、本業をこなさないことにはこちらが成立しませんので、ご理解いただきますようお願いいたします。必ずお返事しますのでもう暫くお待ちください。
「窮屈じゃないか?」
「元々私は浮いた存在でしたし、この指輪が・・・。」

 晶子は左手の甲の側を見せる。薬指には俺との絆の証の一つであるペアリングの片割れが微かな、しかし確かな煌きを放っている。

「此処にこうして光っている女に迂闊に声をかけるわけにはいかない、ってことが周知徹底されたんですから、丁度良いんです。前のような噂話が立って祐司さんを困らせたくないですから。」

 晶子の微笑みは客観的に見ても晴れやかでさっぱりしている。あの事件の結果、晶子の左手薬指に指輪が煌く意味が、晶子の言葉を借りれば周知徹底されたわけだから、晶子にとっては、これまた晶子の言葉を借りれば丁度良かったんだろう。俺としても指輪一つで晶子の虫除けになるならそれで良い。
 この指輪を左手薬指に填めて以来言い寄られる回数が激減した、と晶子は以前言った。智一にいたっては半ば錯乱したくらいだ。それでも尚、田畑助教授のように言い寄る男が居たんだろう。単なるアクセサリーの一つに過ぎない、とでも思って。あの時は晶子にせがまれて照れくさく思いながらこの位置に填めたんだが、晶子の言うとおりにしておいて良かった、と今は強く思う。

「祐司さんからの忠告は肝に銘じておきますね。また調子に乗って噂になるようなことをしかねませんから。」
「良い噂なら別に良いんだけどな。まあ、それはそれとしてもう一つ。これは俺に対するアドバイスなんだけど、勉強とバイトの両立に加えて特定の異性と交際するのはなかなか大変だろうがこれからも彼女と仲良くやりなさい、って言われたんだ。」
「そうなんですか・・・。先生からも応援されるなんて、私としては凄く嬉しいです。」
「俺もだよ。」

雨上がりの午後 第1487回

written by Moonstone

「文学部では、男の人は先生も含めて事務的なこと以外では殆ど話し掛けてきません。同じゼミの娘(こ)から聞いたんですけど、左手薬指に指輪を填めている私に手を出したから停職プラス減給っていう手痛いしっぺ返しを受けたんだ、っていう話が定着しているそうです。」

2004/4/5

[またサボったぁ・・・(泣)]
 かなり重症っぽいです。一応起床こそ早かったものの眠気と怠惰な気分に負けて何も出来ず、買い物も午後になってから、食事もそれぞれ必要に駆られてようやく、という有様。作品制作は下書きが出来ていた2作品の体裁を整えるのが精一杯で、とても新作を一から書ける状況じゃなかったです。
 折角の休日だったのに・・・、と今更悔やんでももう遅い。今日からまた仕事ですし、部品納入待ちでストップしていた仕事も一気に動き始めるので、更に忙しくなることは明白。気持ちを切り替えて臨みたいところです。
 花見?そんな状況じゃなかったですよ。外出は買い物に行くのが精一杯でしたから(こういう時に限って、しかも雨という時に限って荷物が多かったりするのは何故?)。まあ、桜は十分見ましたからそれで由、と思っておきます。

「祐司さんにとって大切な話の方向を、私の方に向けさせてしまって・・・。」
「そんなこと気にしなくて良いよ。晶子が俺との関係をどれだけ大切に思ってるかが、改めてよく分かったから。」

 晶子の顔に笑みが戻る。やっぱりこうじゃないとな。・・・あ、そうだ。大切なことと言えば、あのことを言っておかないと・・・。

「実はさ、今日の個人面談は成績とか実験態度とか進路とか、俺の今の学科での問題だけで終わらなかったんだ。」
「何かあったんですか?」
「・・・去年の冬、田畑助教授絡みで俺と晶子がトラブったこと、憶えてるか?」
「ええ。」
「あの時大学中に流れたデマメールに関して、メールに名前があった彼女とは今でも仲良くしてるのか、て聞かれたんだ。勿論、はい、って即答したけど。それに続いて田畑助教授の話になって、何でも田畑助教授の女子学生に対する態度は文学部の教授会で度々問題になってきたらしいんだ。そういうことも踏まえてだろうけど、油断しないように言ってあげなさい、って言われたんだ。」
「田畑先生は停職処分が終わって復職してから、学生の接し方に、特に女子学生との接し方にかなり神経を使ってるようです。変な表現ですけど、それまで自信たっぷりだったのが嘘のように大人しくなって・・・。」

 進路指導の教官が言ってたように、流石の田畑助教授といえども、停職処分を食らってその上減給処分中だから大人しくしてるようだな。また同じような問題を起こせば今度は首が飛ぶってことくらい分かってるようだ。分かってないならそれこそ身体に教えなきゃならないだろうが。

雨上がりの午後 第1486回

written by Moonstone

「遅くまで引き止めてしまいましたね。」

 紅茶−今日はアップルティーだ−を一口啜ったところで、晶子が少し申し訳なさそうに言う。

2004/4/4

[サボりまくり・・・]
 昨日は寝放題でした。就寝時刻がA.M.6:00前だったのもあるんですが(ちょいとPC関連の作業をしてました)、目覚めたのはA.M.11:00過ぎ。それでも気だるくて食事こそしっかり3回食べたものの外に出る気もなく買い物も延期。その後も殆ど寝てました。この話は寝起きでしています。
 やっぱり疲れが溜まってたのかな・・・。以前のように2、3時間仮眠して作品制作やら出来る身体じゃなくなったのは確かです。久々の脳貧血も酷いし、その影響で手足、特に左半身が冷たいし。折角の休日なのに寝て過ごすというのは勿体無い気がしてなりません。
 まあ、休養と考えた方が良いんでしょうね。疲れを取る時に取っておかないと後々とんでもないことになって襲い掛かってくることになるのは、経験で分かってますし。今日は多分元どおりになると思うので、色々やろうと思ってます。

「離せって言っても離さない、って言ったり、『別れずの展望台』に行きたいって言い出したのも、そういう気持ちが根本にあるからなのか?」
「ええ。」

 晶子の答えには何の迷いも感じられない。進路指導の教官が何を言おうが、親が何と言おうが、俺から絶対離れない、離してなるものか、というある種の気迫が篭っている。そんな切望とも言うべき強く熱い想いを俺は真正面で受け止めなければならない。「別れずの展望台」で願掛けした相手として。特別な意味があると知った上で左手薬指に指輪を填めて填めた相手として。・・・ひっくるめて言うなら、パートナーとして。

「まだ進む道を決められないけど・・・、晶子のその大きな気持ちを・・・絶望に替えるようなことはしたくない。晶子の涙は嬉し泣きの時だけで十分だ。比較対象にはならないかもしれないけど・・・、永遠と信じてた愛を失った時に刻まれる傷の痛みと辛さは分かるつもりだから・・・、そんな傷を負わせるようなことはしたくない。否、しない。」
「祐司さん・・・。」

 晶子は潤ませた目を閉じ、俺の左腕に抱き付いて来た。やや斜め上から見えるその表情は、晶子が俺の彼女だというオフセットを除いても本当に嬉しそうで幸せそうで・・・。俺の口元が自然と緩む。この表情を悲しみの濁流で濡らすようなことはしたくない。否、しない。それが晶子のパートナーである俺の役割なんだから・・・。

 俺と晶子が晶子の家で紅茶の入ったカップを合わせた時には、11時をとっくに過ぎていた。晶子が俺の腕に抱き付いて来て暫くそのままで居たんだが、それで随分時間を食ったらしい。こういう時間の食い方なら、むしろ喜んで時間を食わせてやりたい。

雨上がりの午後 第1485回

written by Moonstone

 俺はその後、女なんて、恋愛なんて二度と御免だ、と拒否する方向へ走った。晶子はその逆で、今度幸せを掴めるきっかけがあるなら何が何でも離すものか、という方向へ走ったんだろう。だからあれ程邪険に扱っていた俺を執拗に追い回し、凍てついていた俺の心を氷解させたんだろう。そう考えると、晶子がここまで俺と一緒に居ることにこだわることに納得がいく。

2004/4/3

[梅が、梅がぁ・・・]
 折角撮影した梅の写真を全く整理出来ないうちに桜が咲いて、一昨日夜からの雨でかなり散ってしまいました(汗)。こうなると、今更梅の写真を公開しても遅いんじゃないか、と思います。でも地域によっては「桜ぁ?こっちはまだ雪降るぞ」という方も居られるでしょうし、そもそも他の作品も季節限定で公開しているわけじゃないので、公開出来る時に公開すれば良いのかな、とも思います。難しいな・・・。
 こちらの桜は、新年度の開始に合わせるように咲いて散りました。偶然でしょうが、何とも言えない不思議な気分です。この土日が花見の時期ですが、作品制作の時間を考えると、ちょっと出かけられそうにないです。昨年は酒と寿司を買って夜桜見物と洒落込んだんですがね。
 今週は本当に慌しかったです。彼方此方走り回りましたし、仕事も夜遅くまでずれ込みましたし。こういう慌しい時こそふとガスを抜く時期が必要なんでしょうが、出来る時に出来ることを、という気持ちが強いので、そちらに全力投球しようと思います。今日公開の作品も力作揃い(のつもり)です。是非ご覧下さい。

「どうしてそこまで俺にこだわるんだ?」
「ずっと一緒に居る、って決めた人とずっと一緒に居たいから。それじゃ駄目ですか?」

 晶子の答えははっきりしているが、その顔に浮かぶ微笑みは柔らかくもあり、寂しげで儚げでもある。・・・そう言えば晶子は、俺と付き合う前に大恋愛をしたんだっけ・・・。ずっと一緒に居よう、って約束したのに結局ふられて泣きに泣いたとか・・・。だからだろうか?

「これも誤解しないで欲しいんだけど・・・、今度こそ、っていう気持ちがあるからか?」
「ええ。」

 短く即答した晶子の表情は真剣で、同時に何かの拍子に大声で泣き出しそうな雰囲気を漂わせている。この表情、見た憶えがある。・・・あの時だ。晶子の母親から電話がかかってきて、私に生き恥晒させるつもりか、とか、悪かったと思うなら二度と電話するな、と今まで聞いたことがない激しい口調で怒鳴って電話を叩き切って俺に泣きつき、兄さん絡みで親と絶縁状態になったことを話した後シャワーを浴びて、俺の前で裸になって、抱いてくれ、と言ってきたあの時と同じだ。
 俺も晶子と付き合う前に宮城と真剣に付き合っていた。結婚したいと思っていたし、宮城もそう言った。所詮は飯事遊びの延長線上だったのかもしれないが、その時の気持ちが真剣だったことには間違いない。だからこそ、ある夜いきなり宮城から電話越しに最後通牒を押し付けられた後、絶望と愛が裏返った悲しみと憎しみに任せるがままに自棄酒飲んで大学もバイトもサボる羽目になるほど大暴れしたんだ。

雨上がりの午後 第1484回

written by Moonstone

 俺は心に沸き上がって来た疑問を、前置きしてから口にする。

2004/4/2

[情報求む!]
 昨日から新たな環境に飛び込んだ方が居られると思いますが、その一人である私は新鮮な気分で仕事に打ち込みました。上司から、適当な時間で切り上げるように、と注意を受けましたけど。仕事に没頭するあまりその落とし穴にはまり込んで今の病気を患ったという「前科」がありますし、私とて順調な回復軌道を逆戻りしたくないですからね。
 話はころっと変わりますが、何方かペアリングの入手場所をご存知ないでしょうか?こういう店のこういうコーナーに行けば売っている、という感じ。Novels Group 3をご覧いただいたならお分かりいただけると思いますが、「雨上がりの午後」アナザーストーリーVol.2のシーンが「祐司君が井上さんにペアリングを贈るまでのシーン」に決まりました(というか「決めた」)。しかし、肝心要のペアリングの入手場所を知らないんですよ(汗)。貴金属の指輪は宝石店に行けば売ってるし買えるってことは知ってますが、ペアリングに関しては何とも・・・。
 こんな話は職場では出来ませんし(どういう尾鰭がついた噂が飛び交うか分かったもんじゃない)、かと言って自分で調べて回るには時間的にも地理的にも問題があるし(自宅が住宅街のど真ん中なので調べる対象とする店自体が見当たらない)・・・。ご存知の方はメール若しくは掲示板JewelBoxへお願いします。情報をくださった方は、アナザーストーリーVol.2でSpecial Thanksとしてお名前を掲載します。

「こういう時・・・、次の休みには何処へ行こうかとか、少々気が早いけどクリスマスイブはどう過ごそうかとかで盛り上がるのが、今時のカップルなんだろうけどな・・・。」
「私は所謂今時のカップルを望んでませんよ。それより、真剣に自分と相手の将来と向き合ってとことん話し合える関係を望んでます。だからこそ、こうして今、祐司さんと一緒に居るんですからね。」
「・・・そうだよな。そうでなかったら、俺の将来についての話なんて聞きたくもないよな。」

 今更何を、ということかもしれないが、晶子が俺と一緒に居ることを考えていることが分かって嬉しい。・・・そう言えば・・・。

「晶子の学科では、進路指導はないのか?」
「ありましたよ。」
「ありました、って・・・。過去形なのか?」
「ええ。後期の講義日程が発表された週の金曜にありました。講義のないコマで。」
「何で話さなかったんだよ。そんな大事なこと。」
「私の結論はずっと前に出ているからです。祐司さんと一緒に居ることを前提にして職を探す、って。」

 言葉が出ない俺を他所に、晶子は夜の闇に言葉を紡ぐ。

「それが祐司さんの重荷になっているなら心苦しいんですけど、私はそれに生き甲斐を見出したんです。精神的にも、場合によっては金銭的にも祐司さんを支えることに・・・。前に言ったかもしれませんけど、女性は、女性が、って言って前面に出るばかりが女性の人生じゃないと思うんです。パートナーを色々な側面から安心させる、言い換えれば縁の下の力持ちとか黒子とか、そういう人生もあって良いと思うんです。私はそうしたいんです。私にとって、公務員とかサービス業とか、肩書きやそれに伴う収入なんかはどうでも良いことなんです。」
「・・・進路指導の時にもそう言ったのか?」
「ええ。先生には、このご時世にそんな主体性のないことでどうする、って言われましたけど、私は自論を貫きました。最後には、君がそう考えてるならそうしなさい、って言われました。」
「・・・誤解しないで欲しいんだけど・・・。」

雨上がりの午後 第1483回

written by Moonstone

 そうとしか言えない自分が何とももどかしい。就職という途方もなく大きな「食材」が目前の俎上に乗せられる日は近い。否、もう乗せられていると思うべきだろう。それを捌くのは俺の仕事だ。その仕事から逃げるわけにはいかない。逃げたら最後、他人−親も含まれる−の都合の良いように捌かれてそれを押し付けられるだけだ。

2004/4/1

[祝・開設5周年!]
 5年前のこの日、このページが産声をあげました。様々な試練や危機がありました。ページ運営を止めようと思ったこともありました。しかし、今振り返ってみると、本当にあっという間だったと思います。長く辛い軌跡も振り返ってみれば懐かしく思えるものです。
 背景写真を今の季節に相応しく(土地柄まだ先の話だ、という方も居られるでしょうが)満開の桜にしました。新たな門出を祝うために。このコーナーも連載小説も、そして母体であるページも、続けられる限り続けていきます。夢の100万HITへの旅は、まだ折り返し地点を少し過ぎたばかりですから。
 Novels Group 3で実施していた、「雨上がりの午後」次回アナザーストーリー選定は、予想外の集票で終了しました。この結果を受けた今後の展開についてはNovels Group 3で発表しましたので、関心のある方はそちらもご覧下さい。この日一つの転換期を迎えた私も、「Master's Profile」を全面改訂しました。皆様、これからも宜しくお願いいたします。

「俺がさっさと決断してりゃ、マスターも潤子さんも、それに晶子もこんな面倒ごとに巻き込まなくて済んだのにな・・・。」
「それだけ祐司さんの未来を真剣に考えてるってことですよ。マスターも潤子さんも、それに・・・私も。祐司さん自身は勿論ですけどね。」
「・・・。」
「真剣に考えてるからこそ、祐司さんの話を聞いたり、意見を言ったりするんだと思うんです。そうじゃなかったら耳を傾けたり意見を言ったりしませんよ。見て見ぬ振りしますよ。面倒事に巻き込まれるのは御免だ、って。」

 晶子は俺を見ながら、優しい言葉の布を織る。

「進路指導の先生も、自分なりに真剣に進路を模索しているのは非常に良い、って仰ったんでしょ?そのとおりだと思うんです。祐司さんは良いことをしてるんですよ。だから、それを可能な限り続ければ良いんですよ。自信を持って・・・。」
「晶子・・・。」
「私は祐司さんと一緒に居ますからね。ずっと・・・。前にも言いましたよね?離せって言っても離さない、って。私にとって『別れずの展望台』での願掛けは、その言葉に運命的側面からの裏付けを得るためでもあったんです。」

 この道を進んだら未来がどうなるか分かれば何の悩みも苦労もない。セーブやリセットの機能があるゲームと違って、やり直しや別の選択肢を選ぶことが出来ないからこそ、嘘八百かもしれない占いを信じたりするんだろう。「別れずの展望台」のようなジンクスが出来る場所があるんだろう。

「他人事みたいに言うな、って言われそうですけど・・・、精一杯悩んで苦しんで良いと思うんです。祐司さんの人生なんですから。その過程でマスターや潤子さんや私が必要だと思ったら、相談を持ちかけて良いんですよ。少なくとも私はそう思ってますから。」
「・・・ありがとう。」

雨上がりの午後 第1482回

written by Moonstone

 俺は視線を前に戻して坂を降り、街灯が点々と灯る道に入る。午後10時を過ぎた住宅街の道は静まり返っている。俺と晶子が二人きりで話し合う舞台を演出するかのように。

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