芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2003年9月1日更新 Updated on September 1st,2003

2003/9/30

[まずは現状報告から]
 傷口の具合ですが、未だもって芳しくありません。腹部が圧迫されているような感覚が一向に消えません。術後半月以上。もういい加減手術の影響はなくなっても良さそうなものなんですが、やはり何か異常が起こっているのでしょうか?自分の腹の中を透視出来ませんから、医者の手を借りるしかないんでしょうね。
 さて投票所Cometについて。今のところ3票が入っていますが、告知の時期が悪かったのか、こちらもあまり芳しくありません。新作を投入した週末に投票が増えるかな、と思ってたんですが予想以上に少ない。どうも私が募集を掛けたりしたものに関して反応が乏しいという傾向は変わらないようです。この辺にも集客数の頭打ちが関係しているのかも。
 なかなか思いどおりにいかないことばかりでちょっと憂鬱です。待っていても進まないからこっちから何か打って出るべきか、でもどうすれば良いか分からない。進むべき方向が見えぬままの迷走は暫く続きそうです。

「おい、文彦!安藤君、熱出してるんだって?!」
「ああ。俺や潤子も今日知ったばかりだ。」
「どうするんだ!今日はコンサート当日だぞ!」
「車の中でも言ったんだが、這いつくばってでも出てもらうしかない。今から医者に行ったところで診察が何時になるか分からんし、貰った薬が即行で効くなら話は別だが、そんな便利な熱冷ましの話は聞いたことがない。」
「しかし・・・。」
「本人は車中でも熱冷ましを飲んだ。その効果に期待するしかない。」

 桜井さんから異論は出ない。実際俺はマスターの言ったとおり、這いつくばってでもステージに出るつもりだ。否、出なきゃならない。誰一人欠けても今回のステージは成立しないんだから。それに体調管理が甘かった俺に責任がある。その責任はステージで取らなきゃならない。
 俺はマスターがキーボードスタンドを組み立てるのを待って、ハードケースからシンセサイザーを取り出し、所定の位置に置く。普段でもそれなりに重く感じるそれが、今日はやけに重く感じる。身体に力が上手く入っていない証拠だ。
 続いてステージに上がってきた晶子と潤子さんが、シンセサイザーやラックの配線を始める。俺はその前に晶子からエレキを受け取ってステージから降り、配線を済ませるとさっさとストラップに身体を通してチューニングを確かめる。やっぱり暑さのせいで多少狂ってるな。まあ、ある程度音感のある奴じゃないと分からないレベルではあるが。
 エレキのチューニングを終えると、次はアコギのチューニングをする。こっちはエアコンの効いた車内にあったせいか、殆ど調整の必要はない。まあ、気持ち程度いじっておくことにするか。何もしないっていうのはちょっと引っ掛かるものがあるし。本当に気持ち程度チューニングを済ませた後、マスターが置いていってくれたらしいスタンドに2つのギターを立てかける。

雨上がりの午後 第1302回

written by Moonstone

 ケーブル類と俺のエレキを持った晶子と、ハードケースとスタンド各種を持ったマスターと、音源モジュールが入ったラックを持った潤子さんがステージに入ってくる。と同時に、桜井さんが血相を変えてマスターに駆け寄る。

2003/9/29

[まだ駄目だぁ・・・]
 風邪は治りましたが、傷口の疼きと腰痛は治らず、結局日中寝てました。それでも詩篇を2つ書けたのは「ダイハード3」のお陰か?(笑)それにしても傷口の治りが芳しくないです。いい加減収まっても良さそうなものなんですがねぇ・・・。1週間不調だったらまた病院へGOだな。
 ・・・ああ、「ダイハード3」観てたらネット接続の時間が近づいてきた(汗)。最近「日曜洋画劇場」が面白くなかったんですが、こういう時に限って面白いもの放送するんだから(^^;)。執筆を始める時間があと1時間、いや、30分遅かったら間に合わなかったな(汗)。
 退院して以来、どうも弛んだ生活を送ってます。あと5000を切った500000HITまで、否、それ以降も気を緩めるわけにはいかないんですがね。そう言えば、Novels Group 1の40000HITは自爆しましたが(こら)、500000HITは自爆しないように気をつけないと。まあ、申告する方が居るかどうかは知りませんが。

「祐司さん、大丈夫ですか?!」
「大丈夫・・・。晶子は晶子で荷物を持って・・・。俺はこれを運んでいくから・・・。」

 俺はそう言って、搬入口から中に入る。足元がぐらつく。恐らく端から見れば酔っ払いが荷物を持ってうろついているように見えるだろう。だが、今は見てくれに構っちゃいられない。俺はハードケースの重さに何度も負けそうになりながら、通路を通ってステージに入る。
 ステージには桜井さんと青山さん、そして勝田さんが居る。ドラムは既にスタンバイされている。何時会場入りしたのかは知らないが、やっぱりプロは準備が早い。熱を出してふらついている自分が余計に情けなく感じる。

「おっ、文彦一団のご到着か・・・って、安藤君、どうしたんだ?」
「顔が赤いな。熱でも出したのか?」
「は、はい・・・。実はそのとおりだったりします・・・。」

 俺は自嘲の篭った笑みを浮かべて桜井さんと青山さんの疑問に答える。すると、桜井さんと勝田さんの表情が強張る。青山さんは眉間に皺を寄せる。不測の事態に驚いているんだろう。まあ、無理もないな・・・。

「ほ、本当に熱があるのかい?!」
「おいおい。洒落にならんぞ。」
「へ、平気です・・・。熱冷ましも飲みましたから・・・。」

 俺はそう言ってステージ上段に上り、ハードケースを置く。開けるのはスタンドが来てからでも良いだろう。俺は一旦ステージに降り、背負っていたアコギをステージに立てかける。

雨上がりの午後 第1301回

written by Moonstone

 俺はアコギを背負ったまま、マスターが開けたトランクへ向かう。そしてシンセサイザーが入ったハードケースを持とうとする。・・・ち、力が入らない。俺は力を振り絞ってハードケースを持ち上げてトランクから取り出す。その反動で足元が大きくぐらつくが、何とか転ぶのは免れる。

2003/9/28

[ここでお詫び]
 現在、メールのお返事が遅れております。実は昨日から傷口の具合が芳しくなく、傷口はおろか腰まで痛くなってきた上に、軽い風邪をひいてしまい、安静にしていないと身体に響くからです(このお話をする直前まで寝てた)。
 特に傷口と腰の具合が悪いのは致命的で長時間座っていられない故にPCの前に長時間居られません。今日には回復するように安静にしますので、お返事が遅れますことをここでお詫びいたします。
「多分そうだな。今日の新京市公会堂は俺達のステージ以外催し物はない、って明からメールが来てたし。」

 開場は午後4時、開演は午後5時だ。今は・・・午後3時前。俺が健康体なら余裕で搬入出来てチューニングも確認出来るだろうが、この体たらくじゃ下手すると開演まで床に突っ伏してるしかないかもしれない。ったく、桜井さん達に何て言い訳すりゃ良いんだ・・・。
 車は駐車場に入る。前のリハーサルの時とは違い、駐車場は車がいっぱいだ。熱で意識が朦朧とする俺ですら緊張感がみなぎって来る。晶子やマスターや潤子さんも緊張感を感じているだろう。車は搬入口に隣接して停車する。駐車場に駐車しなくて良いんだろうか?

「一先ず機材を下ろそう。駐車は俺が後でする。どのみちこの様子じゃ遠い位置にしか駐車出来ないだろうからな。」
「そうね。祐司君は車の中に居なさいね。」
「俺も・・・手伝います。」
「駄目ですよ。全然熱が引いてないんですから!」
「そんなの待ってたら何時になるか分からない・・・。やることは・・・やる。」

 マスターがエンジンをかけたままドアロックを解除する。俺は脇にあるアコギのストラップに身体を通して、乗り込んだ時と反対のドアから外に出る。・・・駄目だ。頭がぐらぐらする。俺は思わず車のボディに手をついて、反射的に手を離す。強烈な夏の陽射しでボディが熱せられていることをすっかり忘れてた。でも、そのお陰で少し意識がはっきりしたような気がする。

雨上がりの午後 第1300回

written by Moonstone

 車は大通りからやや狭い道に入り、真っ直ぐ進む。間もなく会場の新京市公会堂が見えてくる。随分人が居る。あれが今回のコンサートの客なんだろうか?だとしたらクリスマスコンサートの比じゃない。益々こんな日に熱を出している自分が恨めしく思う。

「あれって、開場待ちの人達でしょうか?」

2003/9/27

[ちょっと迷った]
 今日の更新でSide Story Group 1で「Date int the night cafe−Shinji&Rei−」(日本語版)を公開しましたが、これは公開しようかどうかかなりギリギリまで迷ったんですよ。
 というのもタイトル末尾の「日本語版」という単語が示すとおり、この作品には英語版があるんです。でもそれはまだ途中。しかも何時公開出来るかまったく見通しが立たない(作品制作のスケジュールがびっしりでなかなか手が回らない)。一つのヤマ場を迎えた「魂の降る里」の新作にすべきかどうかかなり迷ったんですが、英語版が出来るのを待っていたら何時まで経っても公開出来ずに埋もれてしまう、と思って公開に踏み切りました。
 インデックスにも書きましたが、「Date int the night cafe−Shinji&Rei−」は「雨上がりの午後」とオーバーラップする作品です。ですので、「雨上がりの午後」の読者の方はより一層お楽しみいただけることと思います。投票所Cometにも「読み切り作品集」の項目を追加しておきますので、是非とも投票を(_ _)。
 それから遅くなりましたが、このコーナーのリスナー66666人目企画を最上段「メモリアル企画書庫」にアップしました。そちらも併せてお楽しみください。
 潤子さんが助手席に乗り込んでシートベルトをしたところで、マスターがエンジンをかけて車を発進させる。エンジン音すらまともに聞こえない。耳をやられたら致命的だ。音楽は耳が頼りなんだから。
 走る車中で、俺は持ってきた熱冷ましを口に含み、持ってきたミネラルウォーターで飲みこむ。ミネラルウォーターの味なんて全然分からない。本当は1日1回なんだが、今はそうも言っていられない。これで効いてくれることを祈るしかない。着くまでに多少でも熱が引いてくれれば良いんだが・・・。
 額にひんやりとした感触を感じる。目を開けると−何時の間にか目を閉じていたようだ−晶子が俺の額に手を当てているのが見える。晶子は凄く不安げな表情をしている。心配してくれているんだな、と思うと嬉しく思うと同時に申し訳ない気がする。

「本当に凄い熱ですよ・・・。よく一人で来れましたね・・・。」
「ガキじゃないんだから・・・。」
「薬が効いてくれると良いんですけど・・・。」
「効かなかったら効かなかったで、這いつくばってでもステージに出るさ・・・。こんな大事な時期に熱出した俺の責任なんだから・・・。」
「あなた。お医者さんに寄れないかしら?そこで解熱剤をもらった方が・・・。」
「診察までにどれだけ待たされるか分からん以上、寄り道は出来ん。祐司君には悪いが、それこそ這いつくばってでもステージに出てもらうしかない。」

 マスターの言うとおりだ。俺が医者に行った時だって、診察までに2時間も待たされた。今回のステージは搬入から自分達の手で始めないといけないから、余計に時間を見ておかないといけない。しかし、今の俺に機材を持つことはおろか、ギターをぶら下げて演奏することなんて出来るんだろうか・・・?
 否、しなきゃならない。取り敢えずは薬が効くのを祈るしかないが、効かなければ無理矢理にでもステージに出るしかない。遅刻して機材の積み込みが出来なかった分、搬入くらいは手伝わなきゃ駄目だ。酒を飲み過ぎて足元がふらついている、とでも思って行動するしかない。

雨上がりの午後 第1299回

written by Moonstone

「機材は・・・?」
「心配ない。全部積み込んである。井上さんは祐司君の様子を見ていてくれ。」
「分かりました。」

2003/9/26

[投票所Cometの意味]
 昨日新設した投票所Comet。このお話をしている時点での投票件数は1件ですが(汗)、まあ、徐々に増えていってくれることを期待しています。設定に苦労しましたし、コメントは無記名でOKですので、是非とも利用して欲しいです。
 あんなの設置して何をするんだ、とお思いかもしれません。あれには掲載作品の人気度を調べることで、人気度の高い作品の更新ペースを高めたいという思惑があります。人気があるということはそれだけ更新が期待されているということでもありますからね。完結している作品(Novels Group 2など)はどうしようもありませんが(^^;)。
 あの中には「雨上がりの午後」もありますが、あれはNovels Group 3掲載中の連載でも、このコーナーの連載でもどちらとも取っていただいても構いません。連載がもっと読みたい、とお思いの方は是非とも1票を。連続投票は出来ませんが、複数票入るようなら連載の掲載量を増やすことを考えます。
 俺が言っても三人の不安な表情は変わらない。マスターと潤子さんは顔を見合わせて再び俺を見る。

「家にある熱冷ましを飲ますか?」
「駄目よ。祐司君が飲んだ薬と衝突する可能性があるわ。」
「となると、このまま行くしかないってことか・・・。」
「・・・中止しか・・・」
「それは駄目です!」

 俺は力を振り絞って潤子さんの選択肢を遮る。

「チケット完売でもう客が入っているかもしれないってのに、俺一人熱出しただけで中止にするなんて出来ないじゃないですか!」
「それはそうだけど・・・。」
「・・・行くか。時間が迫ってる。」
「あなた!」
「祐司君の言うとおりだ。今回のステージは誰一人かけても成立しない。それに今まで積み重ねてきた練習と時間を水の泡にすることは出来ん。」

 マスターの言葉に潤子さんは反論しない。というか、出来ないんだろう。マスターの言うとおり、今まで積み重ねてきた練習と時間を、俺一人のせいでなかったことにするわけにはいかない。そもそも熱を出すような体調管理をして来た俺に責任がある。その責任をステージ中止という最悪の形で放棄するわけにはいかない。

「祐司さん。」

 晶子が駆け寄ってきて俺の左腕を自分の肩に回す。マスターはそれを見て車のキーを外す。俺は晶子に支えられて車の後部座席に乗り込む。アコギの入ったソフトケースが窓際に置かれている。

雨上がりの午後 第1298回

written by Moonstone

「ちょっと祐司君、凄い熱じゃないの!」
「何?!」
「祐司さん、大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫。熱冷まし飲んで寝てたから・・・。それに念のため、熱冷まし持ってきたんで・・・。」

2003/9/25

[完全復活・・・かな?(汗)]
 ニュース速報やトップページ最上段のリンクでもご報告しましたが、昨日病院で傷口(盲腸の手術痕です。念のため)の再検査を行いました。その結果、化膿やその他異常は確認されず、これまで行っていた消毒やガーゼによる保護も(これが結構面倒だった)必要ないと診断されました。
 「これで完全回復だ!」と宣言したいところなんですが、まだ傷口に響くようなことは出来ません(走るのはちょっと無理)。おまけに座る時は背凭れを使わないと腹が痛くなります。多分腹筋が弱っているのと傷口の位置との兼ね合いでしょう。まあ、暫くすれば良くなると思います。
 今回は皆様にご心配をおかけしました。メールや掲示板JewelBoxでお見舞いの言葉を寄せてくださった皆様、本当にありがとうございます。こんなに多くの方が心配してくださっていることを知って嬉しかったです。その代わりといっては何ですが、喫茶店Dandelion Hillに人気投票を行う場所「投票所Comet」を新設しました。お気に入りの作品に是非一票を。ついでに一言でもコメントをいただければ幸いです。
 よりによって今日はコンサート当日だったりする。今までは熱冷ましを飲んでどうにか誤魔化してこれたが、今日は熱冷ましを飲んでもろくに効きやしない。身体が発熱体になったような気がする。
 今日は一旦店に集合して、車に機材を積み込んで4人揃って行くことになっている。このままじゃ店に着く前にひっくり返ってしまいそうだ。自分のギターは先に店に運んでおいてあるから手ぶらで良いだけまだましだが・・・。まさか休むわけにはいかない。熱冷ましを飲んで時間ギリギリまで寝ていた俺は、喧しく鳴り響く目覚ましを止めて渾身の力を込めて身体を起こしてベッドから出る。ステージで着る服はクリスマスコンサートで着る服と同じだから、店に置いてある。更衣室は新京市公会堂にあるそうだから、ラフな格好で良い。
 俺はベッドから立ち上がるが、宙を浮いているような感覚は全然消えない。それどころか今までで一番激しい。こんなんじゃステージでぶっ倒れてしまうぞ。俺は気力を振り絞って足を動かし、熱冷ましをポケットに入れて冷蔵庫からコンビニで買ったミネラルウォーターを取り出し、鍵を持って家を出る。鍵を閉める際に身体がぐらついて思わずドアに寄りかかってしまう。・・・ヤバいな。
 俺は自転車に乗って店に向かおうとするが、頭がぐらついて手元がフラフラするわ、足に力が入らないわでもう散々だ。だが、時間はない。俺は懸命にペダルを踏んで店へ向かう。視界のぐらつきが酷い。耳もじんじんとしてまともに聞こえない。店までの道程がもの凄く遠く感じる。
 どうにか店に辿り着いた時には、マスターと潤子さん、そして晶子が車の傍で待っていた。三人は俺の顔を見るなり、一様に不安を露にして駆け寄って来る。俺は自転車を降りる。どうにか転ばずに済んだが、足元の浮遊感は全然収まらない。

「祐司さん、どうしたんですか?」
「君が待ち合わせ時間に遅刻するなんて、何かあったのか?」
「・・・ちょっと待って、祐司君。」

 不安げに言葉をかける晶子とマスターの横から潤子さんが出てきて、俺の額に手を当てる。ひんやりした感触が気持ち良い・・・って、人肌がひんやり感じるってことは、相当熱が出てるな。潤子さんは仰天した表情で手を引っ込める。

雨上がりの午後 第1297回

written by Moonstone

 最悪だ。熱が全然引かない。一昨日からの発熱は一向に収まる気配が見えない。医者に行ったら、「疲れによる発熱だね」とあっさり言われたが、この発熱は尋常じゃない。体温計がないから何℃あるのか知らないが、38℃くらいは出ているだろう。歩いていて宙を浮いているような感覚で大体分かる。

2003/9/24

[世間から隔絶?part2]
 起きることは起きたんですけどね。それも6時頃。休日は何時に寝ても大抵この時間に目が覚めるんです。それで作品制作に取り掛かるべくPCを雪隠具下までは良かったんですが、次回作(新作)の展開が思うように纏まらず、考えているうちに布団でお休み(汗)。結局食事以外は殆ど横になっているという、極めて安静な日々を過ごしました。
 まあ、作品制作のスケジュールに大きな狂いはないから別に良いんですけど・・・ちょっと、否、かなり勿体無い気分。出来る時にやっておかないと後々困るのは自分ですからね。次回作が書けないと分かってたら連載の続きを書いたところなんですが、未来のことなんて分かりませんからね。
 さて、今日は病院で傷口の検査をしてもらう日です。昨日も傷口から体液は出ていなかったので多分大丈夫だと思うんですが、医師からOKが出るまでは安心出来ません。「盲腸は手術のうちに入らない」って言いますけど、こうもトラブルが起こると不安になるものです。問題発覚で再入院、なんてことになったらやだなぁ・・・。もうあんな退屈な日々はまっぴら。金もかかるし何も良いことないですからね。あ、結果は勿論報告しますので。

「前に言わなかった?貴方達はただのバイトの子じゃない。店にとって掛け替えのない存在だ、って。それに二人はそれぞれ今度のステージに欠かせない存在。だから遠慮なんてする必要はないのよ。」
「そうそう。ゆっくりしていきなさい。バイト料から差し引くようなことはしないから安心して良いぞ。それに食事は人数が多い方が何かと楽しいしな。」
「あら、私と二人きりじゃ楽しくないとでも?」
「何もそんなこと一言も言ってないだろ。」

 前の席でマスターと潤子さんの掛け合いが始まる。言葉は切迫した印象を与えるものだが、潤子さんの顔は穏やかだし、バックミラーに映るマスターの顔にも笑みが浮かんでいる。此処でもこの夫婦の仲の良さを見せ付けられた。やれやれ、お熱いことで・・・って、俺がこんなこと思っててどうする。
 俺は視線だけ動かして晶子を見る。俺と晶子も周囲から羨ましがられるような、でも嫌味にならないような関係でありたい。そのためにはどうしていったら良いんだろう?俺には漠然とも分からない。ただ、少なくとも晶子との関係を続けていくことが大前提だということだけは分かる。当たり前と言われればそれまでだが。
 車は大通りに入ってスピードを上げる。ビデオの早送りのように後方に過ぎ去っていく景色を見ながら、あと1週間に迫った今度のステージに思いを馳せる。練習は成功した。だが本番でトラブルが起こらないという保障はない。幾ら練習が上手くいっても、本番が成功しなかったら話にならない。本番までに不安を払拭出来るまで十分練習を積んでおかないといけない。そして何より身体を壊さないようにしないといけない。誰一人欠けてもステージは成立しない。桜井さんの言葉が胸に響く。
 暦の上では残暑という夏の陽射しを浴びながら、車は疾走していく。走るばかりが人生じゃない、というマスターの言葉をふと思い出す。確かにそのとおりだと思う。だが、今の俺は何らかの未来に向かって走り出すことを余儀なくされている状況にある。今度のステージが俺にとって試金石になるかもしれないな・・・。ミュージシャンになるかならないかを決める試金石に・・・。

雨上がりの午後 第1296回

written by Moonstone

 俺と晶子が口々に恐縮の言葉を言うと、潤子さんは笑みを崩さずに言う。

2003/9/23

[世間から隔絶?]
 昨日は休暇を取っていたこともあって気ままな生活でした。朝5時に目が覚めると、朝食を摂って作品制作開始。途中眠くなって転寝しましたが、それでも思ったとおりのものが書けて満足(^^)。本当はもう1作書きたかったんですが、時間の関係で断念。まあ、今日も休みですからのんびり進めましょう。
 食事こそ規則的に食べたものの、他は作品制作したくなったらする、眠くなったら寝る、という気ままな(本能に基づいた、とも言う)生活を送ったせいでラジオのニュースさえもまともに聞かない、世間から隔絶された生活でした。まあ、マスコミのニュースなんて上っ面だけ扱うだけですから、知りたかったらネットで調べれば事足りるんですが。
 傷口の具合は次第に良くなってきました(^^)。まだ力を入れたりすると疼くんですが、それ以外は気にならず、体液の出も止まりました。このまま水曜日の検査でOKが出れば言うことないんですけどね。
 初めての、そして最後の本会場でのリハーサルは無事終了した。今は疲れが充実感を生み出してきている。これが成功した本番の後だったら、マスターの言うとおりきっともっと疲れて、もっと充実感を味わえるだろう。

「今日は二人共、家で夕飯食べていきなさい。」

 潤子さんが振り向いて言う。とんでもない。潤子さんは俺と同じくらい出ずっぱりで、しかも殆ど立ちっ放しだった。疲れているところに4人分の夕飯の準備なんて無茶なことはさせられない。

「それじゃ、潤子さんが倒れちゃいますよ。」

 俺が言おうとしたことを晶子が言う。そのとおりだ。潤子さんはシンセサイザーの演奏担当であると同時に、4曲のピアノソロ曲のプレイヤーでもある。誰一人欠けても今度のステージは成立しない、と桜井さんは言ったが、潤子さんは言葉は悪いが自殺行為そのものだ。だが、潤子さんは心配ご無用、といった笑みを浮かべて言う。

「大丈夫。今日は出前を取るから。ね?あなた。」
「ああ。今日は寿司でも取るか。前祝ということで。」
「お、お寿司ですか?!」
「そんな、お寿司なんて・・・。」
「あら、二人共お寿司は嫌い?」
「そうじゃなくって、そんな豪華なもの食べさせてもらうなんて・・・。」
「そうですよ。バイトの私達を度々食事させてくれたりしてくれているのに、お寿司を取ってくれるなんて・・・。」

雨上がりの午後 第1295回

written by Moonstone

「祐司君は殆ど出ずっぱりだったから、相当疲れただろ?」
「ええ、まあ・・・。でも、気分は良いです。ああ、やり終えたんだなぁ、って。」
「その気分は本番が成功した時にもっと大きくなるぞ、きっと。」
「そうでしょうね。本番が楽しみです。」

2003/9/22

[戻るのやだなぁ・・・]
 昨日夜自宅に帰ったので、ネット環境も元に戻りました。が、この場合の「元に戻る」はあまり良いものではないです。何せ実家に居た頃は11Mbpsだったのが48kbpsに「戻る」んですからね。当分イライラする日が続きそうです。
 まあ、戻って良くなることもあるんですけどね。何故か実家に居た時はIEでページを見ることが出来ず(「インターネットに接続します」とかいうウィンドウが出て、OKにすると「モデムの発信音が聞こえない」と怒られ、キャンセルするとオフラインになって当然見れない)に歯痒い思いをしていたので、これで自由に見れるというものです。
 さて傷口の具合ですが、こちらもあまり芳しくありません。塞がったかな、と思って見てみるとまだ体液(医者に言わせりゃ脂肪が溶け出したものらしい)がガーゼに小さな染みを作っている状態。出来るだけ安静にしていたのですが、安静にする時期が遅かったかな・・・。実家に戻って早々作品制作なんてするんじゃなかった、と(座ると傷口を圧迫する)今更ながら後悔してます。

「んじゃ、これにて解散ということで。お互い、居眠り運転には注意を。」
「スピードの出し過ぎにもな。」

 マスターと桜井さんの言葉の交わしを最後に、メンバーはそれぞれの車に向かう。俺は晶子とマスターと潤子さんと共にマスターの車へ向かう。マスターは車に向けてキーを向けてボタンを押し、ドアロックを解除する。ガチャッという音が聞こえて来る。
 往路と同じく、マスターが運転席、潤子さんが助手席、俺と晶子が後部座席に乗り込む。俺は乗り込む時に背負っていたアコギを抱え込むようにして座る。全員が乗り込んだことを確認して、マスターが車のエンジンをかける。
 閑散とした駐車場から大小様々の車が出て行く。マスターはカーステレオのボタンを押す。スピーカーから演奏曲の一つでもある「BIG CITY」が流れてくる。そう言えば、この曲での国府さんのピアノとマスターのサックスは都会的な雰囲気が出ていて凄く良かったな・・・。

「大きなステージで歌ったりするのって、凄くドキドキするものですね。」

 晶子が言う。その表情には若干疲労の色が滲んでいるものの、広いステージで思い切り歌えたという充実感が溢れている。回りを気にせずに歌いたい、と以前に漏らしたこともあるし、晶子にとっては夢のような時間だったんだろう。

「井上さんもそうかい?俺もドキドキして身体が震えたよ。あんな大きなステージで演奏するのは、30年音楽やってきて初めてだったからな。」
「私も緊張したわよ。最初の曲は私からでしょ?だからきちんと演奏出来るかって不安で不安で・・・。でも、やり始めたら、もう後はなるようになれ、って感じに開き直っちゃったけどね。」

 マスターも潤子さんもやっぱりと言うか、緊張してたんだな。店のステージでの演奏でステージ慣れしていると思ってたんだが、場所が違えばやっぱりそれなりに緊張するんだな。緊張してたのが俺だけじゃないと分かってちょっとほっとする。

雨上がりの午後 第1294回

written by Moonstone

 マスターと桜井さんが笑うと、他の人達も笑う。疲れを感じさせない、屈託のない笑いだ。こんな笑いが出来るのは、人生を心底から時に楽しみ、時に悩んでいる証拠だろう。俺の表情も自然と緩む。こういう人達と一緒に音楽をやれたら幸せだろうな、きっと。

2003/9/21

[これじゃ何も変わらない]
 傷口の回復具合が芳しくないので昨日一昨日とほぼ1日横になっていたら、結構回復してきた・・・ようです。やっぱり安静にしてないといけなかったようですね。退院してから直ぐに作品制作に取り掛かったのはやはり負荷になったようです。
 それはさておき、昨日の自民党総裁選。大方の予想どおり小泉現総裁の圧勝に終わりましたが、これじゃ何も変わりません。否、どの候補が勝っても「構造改革」とやらの進捗速度や態度が多少違うだけで、中身は殆ど変わらないのが実情でした。ところがマスコミは「自民党総裁選」の熱病に侵されて、ろくに変わりもしない各候補の政策をさも違いが大きいように喧伝するだけ。マスコミの悪い癖がまたも露呈した格好です。
 自身が圧勝したことで、小泉現総裁は「私の政策が国民に支持された」と言って憚りません。健康保険本人3割負担、介護保険の値上げ、雇用保険の改悪など、公明、保守両党と共に悪政の限りを尽くしてきた小泉内閣と明確な対決軸を持った政党を大きく伸ばすことこそ、本当に日本を良くすることに繋がるのです。それがどの政党なのかは、有権者が自ら思い切ってアンテナを伸ばして情報を収集して判断することです。旧来の姿勢のままでは何も変わりません。「誰がなっても同じ」と言いますが、果たして貴方は、全有権者は全ての選択肢を選択したと言えますか?
「は、はい。」
「何でしょうか?」
「二人はこの中で一番若いから、余計に無理をしないように。若さに任せて無理をするのが一番良くないからね。今日はゆっくり休んでくれ。」
「「・・・はい。」」

 桜井さんは相当疲れている筈なのに俺と晶子のことを気遣ってくれる。本当に体力に、否、心に余裕のある人だ。自分が疲れている時に他人のことを気遣えるなんて、相当の精神的余裕がないと出来ないことくらいは何となくだが想像出来る。ミュージシャンになるにしてもならないにしても、こういう大人になりたい。成人式で大人の仲間入りをしたといっても、所詮それは通過儀礼でしかないんだから。

「明。今日、店があるんじゃないのか?」
「ああ、今日は全員臨時休業。当日も休みにする。俺達も文彦同様若くないんでね。無理は利かないんだよ。」

 マスターの問いに桜井さんが答える。やっぱり本番を想定しての練習と本番での体力消耗とその回復を計算に入れているんだな。所謂裏街道を歩くミュージシャンだから、自分が休むことは即ち収入が減るということなのに・・・。ミュージシャンは思ったより、そして見た目よりはるかに大変な職業だと思い知らされたような気がする。

「そっちも店、臨時休業だろ?潤子さんの登場で稼ぎ時だってのに。」
「前々から告知はしてあるから、客も納得してくれるだろう。『コンサートに向けて全力投球します。』って告知の紙に大書したし。それに明の言うとおり、俺も若くないんでね。これから店を開けるのは流石に辛い。俺はまだしも、殆ど立ちっ放しだった潤子や出ずっぱりだった安藤君、喉を酷使した井上さんにも十分休む時間は必要だろう。走るばかりが人生じゃないさ。」
「走ってたのは認める。ただし、障害物競走だっただろうけどな。」
「それもコースがぐちゃぐちゃのな。それはお互い様だろ。」

雨上がりの午後 第1293回

written by Moonstone

「今日は皆、お疲れさん。本番までくれぐれも体調を崩さないように。誰一人欠けても今度のステージは成立しないんだからな。特に安藤君と井上さん。」

2003/9/20

[入院回想録(5)]
 傷の回復具合が芳しくありません。このままだと危険なんだけどな・・・。まだ傷は疼くし。「たかが盲腸、されど盲腸」ですな。完全復帰にはまだ遠いようです。
 さて昨日の続きですが、入院4日目は暇を持て余すことこの上ないことでした。持ってきた文庫本をもう一度最初から読み直すも呆気なく読破。暇つぶしになるようなものはないか、と何とか起き上がって(起き上がる時と横になる時が一番難しい状態)売店まで足を運んだんですが、私の好みに合いそうなものはなくあっさり断念。大人しく部屋に戻って寝てました。
 暇。兎に角暇。もはや点滴も外され、食事も通常のものになっただけに暇を持て余し、持って来た文庫本の気に入った部分を何度も読み直して暇を潰しました。「PC持ってくりゃ良かった」と思ったんですが、運搬時の重さその他を考えると持ってくるのはやはり無理だっただろうと思い直し、ひたすらベッドでゴロゴロ。TVは観る気しないし新聞は買うつもりはないし(タイガースの優勝は気になってましたが)、ひたすらベッドでゴロゴロゴロゴロ・・・。
 医師と実家と相談の結果明日(月曜日)に退院することが決まり、夕食を終えてから病党内を歩き回っていて、ふと談話室へ。今までにも何度か入ったことはあるのですがTVがNHKしかやってなかったので(NHKの報道姿勢は気に入らない)退散していたのですが、偶々その日は「行列の出来る法律相談所」をやっていたので(普段観てないですけど)理数系の職のくせに法律などにも興味があるという妙な頭を持つ私はそれを観ることに。するとこれがなかなか面白く、勝利できる確率に「まあ、そりゃそうだろうな」と思ったり「そりゃないでしょう」と思ったり。結構楽しんだ後明日に備えて部屋に戻って薬を飲んで就寝。
 翌日、朝食を済ませた後ボチボチ荷物を纏め始めました。実家からの迎えが来た時に荷物を纏めてるようじゃ話にならないと思って。そして昼前に両親が迎えに来て荷物を持ってもらい、看護師から料金の支払いと抜糸日程などを聞いて無事(?)退院。一度自宅に寄って荷物を整理して私はPCを持ち、実家へ向かったのでした(おわり)。あ、最後に・・・
医師、看護師の皆さん、お世話になりました!
晶子は先にステージに上がって、潤子さんの指示を受けて配線を外している。俺は一先ずハードケースを床に置き、シンセサイザーを両手で抱えて下ろし、ハードケースに慎重に収める。シンセサイザーは精密機器だから、疲れているからといっていい加減に扱うことは出来ない。万が一壊してしまったら洒落にならない事態になる。
 マスターが駆けつけてくる。サックスを片付けたんだろう。もう1台残っていたシンセサイザーを両手で抱えて下ろし、ハードケースに収める。もう1台持ち上げるだけの体力に疑問があったから、マスターの助けはありがたい。
 此処のスタッフらしい人たちがわらわらと入ってきて、青山さんのドラムと国府さんのピアノを搬出し始める。ドラムは幾つものパーツが組み合わさっているから、それを分解して搬出することが迫られる。ピアノは単独だが重さがあるから、スタッフが何人か集まって一斉に力を込めて持ち上げる。
 シンセサイザーの収納と配線の片付けが終わった俺達は、それぞれ荷物を分担して搬出する。俺はハードケース1つを持っていく。途中でギター2つを拾って一つを背負い、疲れた身体に鞭打って搬出する。
 外は暑いが、ステージの照明の直射を長時間受けていたせいもあってか、暑さで目眩がするということはない。俺はハードケースとギター2つを持ってマスターの車へ向かう。割と搬入口に近い位置に駐車してあったから、それほど時間もかからずに到着する。・・・肝心のマスターがまだだ。
 マスターがサックスの入ったハードケースと音源モジュールの入ったラックを持って走ってくる。幾ら出番が少ない方とは言え、大気中はずっと突っ立っていたのは他のメンバーと同じなのに、体力あるなぁ・・・。マスターは、スマンスマン、と言って駆けつけ、サックスの入ったハードケースを一度地面に置いて車のキーを取り出し、トランクの鍵を開けて開放する。
 俺はトランクにシンセサイザーの入ったハードケースを入れる。続いてマスターが音源モジュールの入ったラックを入れる。そして直ぐに走り去る。それと入れ替わる形で晶子と潤子さんがケーブルやギタースタンドといった軽いものを持ってくる。恐らく潤子さんの疲れを考慮してマスターがシンセサイザーを運び出すんだろう。
 青山さんのドラムと国府さんのピアノが運び出されてくる。ドラムは分解されているから全容は見る影もない。青山さんはスタッフをトラックに誘導する。青山さんはトラックを持っているのか?国府さんもピアノを抱えたスタッフを誘導する先はトラックだ。二人揃ってトラックを持っているのか?
 最後にエレキベースの入ったソフトケースを背負い、ウッドベースを抱えた桜井さんと、サックスが入ったハードケース2つとEWIが入ったソフトケースを持った勝田さんが出てくる。桜井さん、俺と同じで殆ど出ずっぱりだったっていうのに、あんな重そうなものを抱えて来るなんて体力あるなぁ。ミュージシャンは体力勝負の面があるようだな。日頃運動不足気味の俺はもっと体を鍛える必要がありそうだ。
 程なくして全員の機材の搬出が完了した。軽トラックの荷台にウッドベースを乗せた桜井さんが手招きをする。メンバー全員が桜井さんの元に集まる。2階連続の通し演奏に加えて重量物の搬出があったせいで、大半が疲れきった顔をしている。恐らく俺もその一人だろう。

雨上がりの午後 第1292回

written by Moonstone

 俺はステージ脇に隠してあったハードケースを持って、潤子さんのところへ向かう。

2003/9/19

[入院回想録(4)]
 昨日の続きですがその日(入院2日目)の夕食時、おわん一杯が仰々しくトレイに乗って運ばれてきました。流動食って言うくらいだからお粥かな?と思って蓋を開けてみると一応お粥らしく白濁した流体が。2日ぶりの食事ということで早速口に含んでみたら・・・
味がしない(唖然)
 お粥なら塩味なり何なりついているところが、まったく味らしきものを感じない。以前肺炎で入院した時の初日は高熱で味覚をやられて「米やおかずの形をした寒天を食っている」という思いを味わったんですが、今回はそれと同様、否、それ以上に味らしきものがしない。おわんを傾けていってもお粥にある粘性がまったくなく、まさしく白湯を飲んでいるのと同様。「これが流動食ってもんですかい?これは食事とは言いませんぜ。」と心の中でさめざめと泣いてました。「おもゆ」ですから当たり前と言えばそうなんですけど。
 翌朝(入院3日目)の食事にはおもゆに加えて何とポタージュスープが!ようやく味がするものを食べる(否、「飲む」か)のか、と感慨に浸りながらおわんを傾けると・・・コーンが入ってない!やはり流動食だとコーンはないのね(泣)。コーンの入ってないポタージュスープなんて、ポタージュスープじゃない!と思いつつ、やはり心の中でさめざめ泣きながら流動食を飲みました。
 一転して昼食から食事らしい食事が(感涙)。でもご飯だけは何故かお粥の出来そこないのようなもの。「おかずが固形物なんだからご飯も固形物でも良いだろうに」と思いつつも、食事らしい食事にちょっと感動(単純な奴)。
 このあたりから問題になってきたことが一つ。めっちゃ暇ってこと。点滴(普通の点滴に時々化膿止めの抗生物質がプラス)を交換したり検温や血圧測定の時に来る看護師さんや担当医(私を虫垂炎と診断した医師)の回診で多少会話がある程度で、他はずっと寝てばっかり。トイレの時や水を飲む時にはベッドから出ますが腹に力が入らないので歩くどころか立つのも座るのも、挙句の果てには起き上がるのさえも命がけ。だから必要時以外は横になっているのが一番安心なんですが、テレビは観るものがないし(昼間は元々観ちゃ居ないし)暇で暇で・・・(入院した経験のある方ならお分かりでしょう)。
 そこで取り出したのが暇潰しに、と持ってきた文庫本!(ばばーん)最近ハマっている「魔法遣いに大切なこと」の小説版第2弾で、かなり前に買っていたんですが、ページ更新に追われて読む暇がなかったもの。早速読み始めてみたら、寝る前までに読破。あ、呆気ない(汗)。この時後悔しました。「こんなことなら夏コミで買った荒崎様の本、持って来るべきだったー!」(実はまだ殆ど読めてません。荒崎様、御免なさい。(_ _))その後悔はやがて恐るべき現実となって降りかかってきたのでした(つづく)。

雨上がりの午後 第1291回

written by Moonstone

 他のメンバーも演奏が終わって一気に脱力した様子だ。比較的出番が少ないマスターや勝田さんも膝の屈伸運動をしたり、俺と同じように額の汗を拭って肩で息をしているし、俺と同様殆ど出ずっぱりの桜井さんや青山さんは、いかにも疲れたという表情だ。青山さんまでこんな表情を見せるということは、相当疲れたという証拠だろう。

「・・・よし。こんなところで良いだろう。」

 腕時計を見て桜井さんが言う。

「音は纏まっていた。疲れがピークに近付いた最後の方でもリズムは崩れなかった。これなら本番でも大丈夫だろう。時間も近づいているし、今日はこれで打ち上げだ。お疲れさん。」
「ふーっ、やれやれ。これだけの照明を浴びながらだと流石に汗が出るな。」
「足が痛いです・・・。」

 マスターは割と元気だが、ステージ中央の晶子はかなり疲れているようだ。マイクに両手をかけて上体を下に倒している。晶子の出番は少ない方だが、待機している間も突っ立っていなきゃいけないから、足にかかる負担は相当なものだろう。それは誰でも同じだが。
 青山さんもそうだが、潤子さんも今まで見たこともないくらいの疲れた表情をしている。順子さんの演奏スタイルも立ってのものだから、ピアノ演奏のとき以外はずっと立ちっ放しだったということになる。演奏時間なんて長くても1曲5、6分だし、演奏に集中しなきゃならないから、精神的な疲れも相当なものだろう。

「じゃあ、機材搬出といこうか。時間も迫ってることだし。」

 桜井さんの言葉が力任せに振るわれる鞭の音の様に聞こえる。機材は全てそれぞれの持ち物だから、練習が終わったからといって後はお任せ、というわけにはいかない。機材を搬出するまでが練習・・・なんて、小学校や中学校の遠足の最後に言われたような言葉だな。
 メンバーはそれぞれ機材の搬出に取り掛かる。青山さんのドラムと国府さんのピアノは恐らく此処のスタッフが搬出するんだろう。あんなもの一人じゃどうにもならないし、搬入の時もスタッフがやってたし−青山さんのドラムの搬入現場は見てないが−。俺はギター2つをソフトケースに収めてから、ステージ脇へ向かう。シンセサイザーや音源モジュールの入ったラックを搬出するためだ。

2003/9/18

[入院回想録(3)]
 昨日の続きですが、一体自分の見えないところで何をやっているんだろう、と暫く思っていると、「縫合」との声。もう切除して傷口を縫合したんかい、と驚きました。その縫合も程なく終了し、覆いが外されて元どおりタオルをかけられました。そして執刀医が私に切除した虫垂を見せてくれました。それは赤く、一部が白くなっていて、執刀医は「かなり炎症を起こしているし、手術して正解でしたね。」と説明。私だってあんな痛い思いを二度も三度も味わいたくないですからね。手術を決断して正解だった、としみじみ思いました。
 そして例のオーブントースターのような台を通して待機していたベッドへ。私は下半身の麻酔が効いているので看護師の皆さんが懸命に動かしてくれました。私は結構図体がでかいのでさぞかし苦労したことでしょう。看護師の皆さん、お疲れ様でした。
 そして病室へ搬送。病室に入ってカーテンを閉められて周囲から見えなくなったところで寝具(浴衣みたいなもの)を着せられました。そこで初めて自分の尿道に管が通されているのを見ました。手術中虫垂のある場所とは違う場所で何をやってるんだろう、と思ってたんですが、尿道に管を通してたんですね。そしてカーテンを開かれて看護師の方から説明。「明日の昼から通常どおり薬を飲んでいただいて結構です。食事は流動食から始まります」とのこと。ここで、否、もっと早く気付くべきでした。「明日の昼から」ということはそれまで薬は飲めない。それはもっと突っ込めば水を飲めないということに。
 案の定、私の元にその日の夕食は勿論、水すらも運ばれてきませんでした。私は普段飲んでいる薬の副作用で非常に口が渇きやすく、しょっちゅう水分を補給しないと直ぐに喉がからからになってしまうのです。水を飲みに行こうにもコップはないし、少しでも起き上がろうとすると傷口が痛んでとても起き上がれない。それどころか足を動かすこともままならない。辛うじて両腕が動かせる程度。私は喉の渇きを少しでも癒すため、唾を溜めて口中をかき回して飲み込む、ということを繰り返しつつ、点滴に混入された睡眠薬が効いてくれるのを待ちました。しかし、一応眠れたものの空が白んでいる時間に目が覚めてしまい、喉の渇きを紛らわせる懸命の闘いが続いたのでした。
 どうにかこうにか朝を迎えてもやはり水の一杯も運ばれてきませんでした。喉の渇きがどうにか紛れるようになって来た時、職場の人が見舞いに来てくれました。私が手術が終わったことを告げると、「盲腸は手術のうちに入らないから安心しなさい、って言おうと思ってたんだけどね。」とのお言葉。確かに手術は大したもんじゃないかもしれませんが、あの痛みは洒落になりませんぜ(汗)。
 更に時間が流れて昼になりました。巡回してきた看護師が「もう水を飲んでも良いですよ。」と言ったのですがコップがない(汗)。看護師が急いで冷水を持って来てくれました。私は起き上がろうとしたのですが身体が硬直して動かない(汗)。看護師のご協力でどうにか上体を起こし(手足を動かしても良い、と言われた)、必死の思いで薬を手に取り、封を解いて水と共に飲みました。その水の美味しいこと。「水ってこんなに美味かったのかぁ。」と深い感慨に浸ったのでした(つづく)。

雨上がりの午後 第1290回

written by Moonstone

 国府さんとマスターと勝田さんの心強いOKを得て、桜井さんが尋ねてくる。少し考えてみるが思い当たるものはない。

「いいえ、もうありません。」
「私もありません。」
「んじゃ、まだ時間もあることだし、もう一回通し演奏するか。」

 な、何?!もう一回全部演奏するのか?なんて体力だ。俺なんて足がかなり疲れて、立ってるのもかったるいっていうのに。まあ、高校時代もそういうことはあったが、あの時はもっと体力があったからな。やはり疲れより演奏が大事なんだろうか?このあたりがプロの違いと重みを感じさせる。

「おーし、もう一丁行きますか!」
「こんな会場で演奏するなんてまずないことだからね。」

 マスターは威勢良く、青山さんはクールにそれぞれやる気を見せる。潤子さんも涼しい顔をしている。この面子の中で一番若い俺がへばってたらみっともないことこの上ないな。よし、俺も気合を入れ直すか。
 俺と晶子以外の面々が再びステージに上がってくる。それぞれさっきまでの通し演奏の疲れも見せずに颯爽と飛び乗ってくる。潤子さんだけはマスターに身体を上げてもらって上ってくる。やっぱりこの夫婦は仲が良い。
 桜井さんが客席上方の明かりが灯っている場所−恐らくあそこで照明や各楽器の音量を制御しているんだろう−に向かって、人差し指を上げて見せる。すると客席の照明が落ち、幕が下りてくる。1曲目の「MORNING STAR」に関わる面々がそれぞれの配置に就き、その他の面々はステージ脇に引っ込む。
 ステージの照明が明るい白色光から弱めのブルーに切り替わる。一瞬目の前が暗くなるが直ぐに目が慣れてくる。もう一度最初からだ。そう思うと俺の身体に再び力がみなぎって来る。

「幕が開きます。」

 アナウンスが上方から聞こえて来た後、幕が上がり始める。それとほぼ同時に、柔らかいシンセブラスの音色が闇の中から浮かび上がってくる。「MORNING STAR」の始まりを告げる「夜明け前」の演奏だ。身体が引き締まってくる。やがてメリハリの効いたファンファーレが鳴り響き始める。目の前には見えない客が居る。さあ、存分に聞いてもらうぞ!

 ・・・終わった。服は上から下まで汗でびっしょり。限界まで体力を使ったという気分だ。足は固い棒のように突っ張り、ギターの上を動いていた両手がびりびりと痛い。右腕で額の汗を拭うが、まさに焼け石に水。直ぐに汗が噴出してくるのが分かる。

2003/9/17

[タイガース優勝おめでとう!&入院回想録(2)]
 遅れましたが、阪神タイガース18年ぶりの優勝おめでとうございます。私はチームより個人を応援するタイプなんですが、満身創痍の上にお母様を亡くされた悲しみを乗り越えてタイガースを優勝に導いた星野監督に心から祝福の拍手を送ります。ファンの皆様、良かったですね。
 さて昨日の続き。処置室へ連れて行かれた私は薬や食べ物に関するアレルギーの有無を聞かれた後、手術で使う可能止めの薬の反応を見るため、ということで注射を打たれました。ところがこれが痛いの何の(汗)。それを2本も打たれた時は、一瞬腹痛を忘れましたよ。
 続いて剃毛。所謂「毛を剃る」ことをされました。私は毛深いので結構剃るのに苦労していた様子(笑)。剃毛の後に剃った毛をテープで取り除き、手術で使う麻酔の下準備という注射を両肩に打たれたんですが、これもまた痛いこと(汗)。腹痛を一瞬とは言え忘れさせるほどの痛みでしたよ。下準備でこんなに痛いんだったら、手術の麻酔はどんなに痛いんだろう、と不安が募る一方。
 それが終わると、看護師二人がかりで服を脱がされて(共に中年女性だったのがちょっと安心(^^;))ベッドを移され、身体をタオルで覆われていよいよ手術室へ搬送。エレベーターに乗って手術室へ移動した時、ここでカルチャーショック。今まで手術室に搬送される時はベッドに乗せられたまま入るのかと思っていたんですが、オーブントースターか何かのような台に乗せられて、それを経由して手術室のベッドに移動、という手段でした。この病院だけかもしれませんけど、なかなか面白かったです(面白がるな)。
 手術を補助する看護師との簡単な明るい自己紹介の後、マンガなどで描かれる巨大なライトの真下へ。そこで執刀医からまず腰椎(ようつい。下半身部分の脊椎のこと)に麻酔をして、場合によっては全身麻酔(マスクをつけられて意識をなくす状態)にする、という説明を受け、いよいよ問題の手術用の麻酔、腰椎麻酔へ。指示どおりベッドの上で横向きになって出来る限り身体を小さく折り畳むように曲げて覚悟を決めると、少しチクっとして何かが流れ込んでくるのが分かっただけで呆気なく終了。下準備の注射の方が痛いっちゅうのはどういうこっちゃい(ちょっと怒)。
 ま、それは兎も角、直ぐに麻酔の効果が現れて来て足が痺れてきてやがて完全に感覚を喪失。執刀医が下腹部などにアルコールに浸したガーゼを当てたり抓ったりしたんですが、まるっきり感覚なし。それを伝えると「OKだね。それじゃ始めようか。」ということで看護師が手術部位を見せないように覆いをかけて執刀開始。煙が立ち昇ったところからしてレーザーメスを使っていたようです。もっとも麻酔が効いている私は痛くも痒くもないんですが。さて、手術は順調に進むのか?本当に虫垂炎なのか?覆いで見えない中、私はそう思いつつ、手術部位を見せて欲しいなぁと思ってました(つづく)。

雨上がりの午後 第1289回

written by Moonstone

「これは下手にシンセを加えない方が良いな。シンプルにヴォーカルとギターだけで聞かせた方が客に与えるインパクトの面からも良い。」
「果たしてどんなものかと思ったが、これはなかなか・・・。」

 桜井さんに続いて青山さんも感心した様子で言う。表情を殆ど変えないでいた青山さんがこれほど明確な表情の変化を見せるということは、余程のインパクトを与えたということだろう。勿論、良い意味での。
 マスターと潤子さんとはじめ、国府さんと勝田さんも皆一様に感心した様子でステージに歩み寄って来る。どうやら俺と晶子のペア演奏は成功に尾ワ多用だ。店のリクエストタイムで時々演奏することがあるけど、本当に時々で、晶子の家での練習も毎回というわけじゃないから、事実上ぶっつけ本番だったわけだが、成功に終わって何より何より。

「皆。アンコールは安藤君の提案どおりで良いだろ?」
「異議なし。」
「賛成だね。」
「勿論、賛成です。」
「言うことなし。」
「私も同じく。」

 桜井さんの問いかけに、俺と晶子を除く全員が賛同する。俺の思いつきで言ったことがこんなにあっさりと受け入れられるとは正直思わなかった。それなりのものを示せば認めてくれる。それが本物のプロということなんだと俺は思う。でも、一つだけ気がかりなことがある。

「あの・・・俺の提案どおりだと、桜井さんと青山さんと潤子さんは兎も角、国府さんと勝田さんとマスターの出番がないですよ。」
「ああ、それなら心配無用。曲に合った演奏をプラスするさ。こう見えても俺と賢一と明はプロだし、文彦もプロ経験のある現役のサックスプレイヤー。曲調を壊さないような演奏を加えることくらい造作もない。だろ?賢一、明、文彦。」
「お任せあれ。」
「勿論、大丈夫ですよ。」
「さあて、どんなフレーズを加えようかね。」
「というわけだ。だからその点は気にしなくてOK。他に何か疑問点とかはあるかい?」

2003/9/16

[無断休業すみません&入院回想録(1)]
 事前のシャットダウン告知なしに4日間も休んですみません。詳細についてはトップページ最上段のリンクをご覧下さい。これからお話することにも密接な関係がありますので。
 9/11付更新をしてから腹痛が徐々に酷くなり、睡眠薬を飲んでも、以前急性腸炎を起こしたときに処方された薬を飲んでもまったく効かず、一晩中布団の上で歯を食いしばってのた打ち回っていました。結局一睡も出来ないまま夜を明かし、激しい腹痛を堪えて何とか病院へ(この時点で職場には「遅れる」と連絡しました)。あまりにも激しい痛みに座っていることさえままならず、点滴を打ったりする場所で横になって待たせてもらいました。
 待つこと約1時間半(頼むからもう一人医者雇ってくれ→某医院)。医師に腹痛を訴えるととりあえず触診。右下腹部に触れられると激痛が!医師は超音波エコーで下腹部、特に強く痛んだ右下部分を中心に診察して一言。
こりゃ、虫垂炎(所謂盲腸)の可能性が高いねぇ
 盲腸ってことは手術ですかい?と聞くと「虫垂に固い便が溜まっているのが見える」「手術しなければならない可能性は高いと思ってもらった方が良いね」とのこと。市民病院への紹介状を書いてもらい、職場には事情を話して休みを貰い、腹痛を堪えながら最低限の準備(現金、保険証、寝具、暇つぶし用の文庫本1冊)をしてタクシーで一路市民病院へ。
 市民病院で所定の手続きを済ませて程なく診察。やはり触診から始まって最初の病院同様超音波エコーでの診察。医者も問題の個所(虫垂がある場所)が怪しいと睨んだらしく念入りに診察。そしてとりあえず精密検査ということで、レントゲン、CTスキャン、採尿、採血、心電図測定を行い、再び医師の元へ。
 医師はCTスキャンの写真を指し示しながら、「此処が虫垂なんだけど、白くなってるでしょう?これが便の固まり。」と言って腸全体の図を提示して詳細の解説。「虫垂に便が溜まって炎症、所謂虫垂炎を起こしている可能性が9割、腸の壁に憩室(けいしつ:小さな袋状のもの)が出来てそこに便が溜まって炎症、憩室炎を起こしている可能性が1割と考えられるね。」で、手術は?と聞くと「今は抗生物質で抑えるという方法もあるけど、この場合だと再発の可能性が高いから手術して切除することを勧めます。」私は少し考えました。手術は初めてだから不安はある。だが、再発してまた痛い思いをするのは御免だ。そして出した結論は
手術をお願いします
 すると医師は私の実家に連絡と説明をしてくれて、私は職場へ、手術することになった、と連絡を入れた後処置室へ連れていかれました。そこで待っていたものは・・・。(つづく)

雨上がりの午後 第1288回

written by Moonstone

「そうしよう、そうしよう。」
「賛成。」
「祐司君、晶子ちゃん、しっかりね。」

 桜井さん達は続々とステージを下りていく。ステージと客席にはかなりの段差があるんだが、男性がほとんどということもあってか、ホイホイと飛び下りていく。潤子さんだけは一旦ステージに腰を下ろしてから下りる。その際、先に下りたマスターが手を差し出して、潤子さんがその手を取って下りる。さり気ないところで夫婦の仲の良さを見せ付けてくれるよな。
 さて、ステージには俺と晶子だけが残された。丁度アコギをぶら下げている俺は、晶子と同じ列に並ぶ。これは、「Fantasy」がイントロなしでいきなり始まる曲だから、二人で呼吸を合わせてせーの、で始めるためだ。
 晶子はスタンドマイクの前に移動して俺の方を見る。俺は晶子を見てから一旦客席に視線を移す。マスターと潤子さん、そして桜井さん達が客席の前列中央付近に固まって座ってこっちを注視している。再び緊張感が高まってくるのを感じる。だが、俺の提案を納得させるにはもはや実演しかない。
 俺は再び晶子を見て、左手をフレットに乗せ、右手を弦に添えて小さく頷く。準備OKという合図だ。晶子は顔を正面に移して両手をマイクに乗せ、視線だけ俺の方に向けて微かに頷く。そして息を吸い込む動作を見せる。これが俺と晶子の間で取り決めた歌い始めるという合図だ。俺は晶子の動きと両手に神経を分散させる。
 晶子が歌い始める。それと同時に俺のギターが入る。一旦始めてしまえばこっちのもんだ。晶子の透明感ある声と俺のギターの音が朗々と響き渡る。晶子の歌声と自分の演奏に半ば酔いしれながら、俺は演奏を続ける。歌とギターだけのシンプルなハーモニーが会場いっぱいにこだまする・・・。

 俺のストロークと晶子のハミングがゆっくり溶けるように消えると、客席から拍手が起こる。会場に比較して数こそ少ないものの逆によく響く。マスターと潤子さんは満足げな笑みを浮かべて、桜井さん達は感心した様子で拍手をしている。

「いやあ、良い。これは良いや。」

 桜井さんが席を立ち、ステージに近付きながら言う。

2003/9/11

[は、腹が・・・]
 このお話をしている現在(9/10 22:40頃)腹痛で苦しんでます。以前職場の健康診断の日に酷い腹痛に見舞われて、早退して病院に行ったら「急性腸炎」との診断が下ってそれ用の薬を貰って30分程前に飲んだんですが、まったく効果がありません。昨日(9/10)は朝から腹痛があったので気にはなっていたんですが、変なもの食べた覚えはないのに(拾い食いはしてませんよ(笑))何が原因なんでしょう?身に覚えがないので不安です。
 10代の頃は「鉄の胃袋」の異名を誇り(誇るな)、飲むヨーグルトかと思いつつ飲んだ牛乳が実は腐っていたという事実を知らされても何ともなかったんですが、私も歳食ったもんですね。内臓もちょっとのことでダメージを受けるようになってきたんでしょうか?
 あまり薬に頼るのも良くないので我慢しますが、明日も続くようなら仕事休んで病院へGOですね。でも病院って、待ってる時間が長くてその間痛みに耐えるのが辛いんですよね(前は死ぬ思いを味わった)。大人しく寝てた方が実は治りが早いとか・・・。案外そうだったりして(^^;)。

「じゃあ、『Make my day』は決まりだな。ところで安藤君。『Fantasy』ってどんな曲?今から間に合う曲なのかい?」

 しまった。もう一つの曲、「Fantasy」のことをころっと忘れてた。俺は慌てて桜井さんの問いに答える。

「『Fantasy』は『Make my day』と同じく、倉木麻衣の曲です。ヴオーカルとギターだけでほぼ再現可能です。」
「ほぼ、っていうのは?」
「原曲ではシンセが入るんですけど、無いなら無いでもギターだけで十分雰囲気を出せます。去年の店のクリスマスコンサートで飛び入り的に演奏したんです。今でも時々リクエストで演奏しますから、俺とま・・・井上さんで大丈夫です。な?井上さん。」
「はい。最後を締めくくるのに丁度良い、静かでゆったりした良い曲です。」

 晶子は俺のいきなりの提案にも関わらず、両方に賛同してくれた。後で礼を言わなきゃな・・・。ひと安心した次の瞬間、一つの問題点が急浮上してくる。ヴォーカルが2曲続くから、マスターと勝田さんの出番がない。やっぱり思いつきで言ったのは間違いだったかな・・・。

「じゃあ、試しに聞かせてみてくれない?」

 桜井さんの口から思わぬ言葉が飛び出す。その言葉に呼応して、俺と晶子以外の全員が頷く。こりゃ口であれこれ言うより実際に聞いてもらうしかないな。そもそも俺の説明力や説得力に疑問があるし。俺は答える。

「分かりました。」
「よし。それじゃ残りは客席へ移動、移動。井上さんが言うように、ゆったり聞かせてもらおう。」

雨上がりの午後 第1287回

written by Moonstone

 懸案だった晶子と潤子さんからも心強い賛同が得られた。青山さんは納得したように小さく何度か頷いている。どうやら俺の提案は受け入れられそうだ。言って後悔した時もあったが、今になって言って良かったかな、と思う。

2003/9/10

[ゴーヤに挑戦!]
 ゴーヤってご存知ですか?そうです。沖縄原産の通称「ニガウリ」です。このところの健康ブームもあってか、私が買い物に行くスーパーでも見かけるようになって久しいんですが、私は減量中で油を使った料理を原則食べない方針を貫いているので(ゴーヤはよく知られているように、豚肉や卵、豆腐と炒めて食べるのが主流)手を出す機会がなかったんですよ。
 ところが職場の方から「家で栽培したけど手に負えなくて」ということでゴーヤを貰うことに。手に取ってみての第一印象は「うわー、凸凹だらけ」(笑)。折角貰ったものだから、ということで自宅に持ち帰って料理方法を考えることに。
 豚肉と卵はある。豆腐はなくても構わないだろう。ではどうやって油を使わずに食べる?暫し考えた末思いついた方法は単純。「中の種の部分を取り除いて細切りにして電子レンジで加熱」。最初ゴーヤだけで2分間加熱して、続いて豚肉と溶き卵を重ねて1分半加熱。それに塩とレモン汁をかけて「いただきます」。ピーマンを少し苦くしたような感じで難なく食べられました。まだ1本ありますし、これからは常備野菜に加えようかな・・・。
 桜井さんは前向きな態度を示したが、青山さんは現実的な、しかし重要な問題を挙げる。確かに青山さんの言うとおりだ。来週はもう本番。音合わせ出来る機会がない。でもアンコールには応えた方が良いと思うし・・・!

「一つ提案があります。」
「何だい?言ってご覧。」
「『Make my day』と『Fantasy』をやるんです。」
「『Make my day』?・・・ああ、最初演奏候補になってたけど、俺達サイドの都合で替えてもらったやつだね?」
「はい。あれならベースもドラムも桜井さんと青山さんなら今から練習すれば十分間に合うでしょうし、曲もきっちり終わるタイプですからラストをどうするかで打ち合わせや音合わせをする必要もないですから、ぶっつけ本番で可能だと思うんです。」

 我ながら名案だと思う。あれはバリバリのロックチューンだからバックの演奏はギターがメインみたいなもんだし、ベースもドラムも桜井さんと青山さんなら1週間あれば十分演奏出来るようになるレベルだろう。晶子のことを考えてない、というのが唯一の欠点だが、晶子は出番が割と少ないし、良いんじゃないだろうか?

「曲は文彦から貰ったMDで聞いてる。確かにあれは派手だし、ベースは殆どギターとユニゾン、ドラムも基本的なタイプだし面倒なフィルもない。俺や大助なら1週間あれば十分出来るようになるな。どうだ?大助。」
「ああ、あの曲ね。あれは簡単だ。タム(註:ドラムを構成する音程のある太鼓のこと。普通は3つか4つ)を使わないから原曲を再現するのは簡単。まあ、原曲そのままじゃつまらないから、アドリブでタムを交えてフィルを入れるのも悪くないね。でも、シンセとヴォーカルは大丈夫なわけ?」
「シンセは原曲じゃ白玉ばかりだから、中間の大人しくなるところで青山さんと同じく適当に音を混ぜるわ。曲は祐司君と晶子ちゃんが店のステージで何度か演奏して知ってるから問題ないわ。」
「私も大丈夫です。ゆ・・・安藤さんの言うとおり、店で何度か歌ってますから歌えます。」

雨上がりの午後 第1286回

written by Moonstone

「・・・なるほど。安藤君の言うことにも一理あるな。」
「だが、曲はどうするんだ?本番は1週間後だぞ?今更新曲を組み込もうたって、音合わせの機会そのものがもうないっていう現実はどうする?」

2003/9/9

[手荒れのその後]
 以前ここでお話した手荒れのその後なんですが、皮膚が向けた痕跡は残っているものの今は殆ど目立ちません。手のザラザラ感もなくなりました。別に洗剤を変えたわけではないんですが、一体何なんでしょう?
 あるリスナーの方からメールを戴きまして(ありがとうございます)、それによると洗剤に含まれる界面活性剤の割合が高いと手荒れを起こす可能性が高まるとのこと。更にその日の体調や元々の肌の敏感性も影響するとのこと。私は(顔に似合わず(笑))肌が非常に弱いので、床屋でカミソリを使って顔を剃る際も高い確率(80%以上)でカミソリ負けを起こします。恐らく元来の肌の弱さに体調変化が加わって過敏になり、手荒れを起こしてしまったのではないかと。
 私は男なんですが、母親が羨むほど指が細く長くて、おまけに色白なため(日焼け厳禁。火傷みたいになる)体調変化に伴う血行が簡単に分かります。冬になると蝋人形のように真っ白になります。勿論動きも鈍くなります。ええ、変温動物なので寒さが苦手なんですよ(^^;)。
「アンコールには応えなくても良いんじゃないか?別に義務じゃないだろ?」
「でも、俺が高校時代バンドやってた時は、アンコールで派手なのと大人しいのを1曲ずつやりましたよ。」

 青山さんの答えに俺は思わず異論を述べる。言ってからでしゃばり過ぎたか、と後悔するのは、青山さんに対するある種の畏怖があるからだろう。青山さんは勿論、他の人達が俺の方を向く。前に居た晶子まで振り向いて俺を見る。引っ込みがつかなくなったな・・・。ええい、この際だ。過去の記憶を引っ張り出して言いたいこと言っちゃえ。

「俺の過去は別としても、プロのライブでもアンコールはつきものですよ。大体2曲、やっぱり派手めなやつと大人しめのやつが1曲ずつです。」
「「「「「「「・・・。」」」」」」」
「今まではそれぞれアンコールをやらないか必要ないかのどちらかの環境でしたけど、やっぱりアンコールに応えた方が客も喜ぶと思います。これだけの会場を使ってやるんですから、アンコールまでやった方が盛り上がりますよ、きっと。」

 言いたいことを言ってしまった。素人のガキが何を偉そうに、と思えわれただろうな・・・。でも、高校時代に耕次の誘いで、所謂インディーズのロックバンドのライブを何度か見に行ったことがある−宮城も連れて行った−。その時俺が言ったように対照的なタイプの曲を1曲ずつ、合計2曲はアンコールに応えて演奏するのを目の当たりにして来た。
 今回のコンサートは今までの店のクリスマスコンサートでもなければ、店のBGMとしての演奏でもない。これだけの会場を借りてプロと同様−実際にプロは居るがここでは言葉は悪いが表街道で活動するプロのことだ−大掛かりなコンサートをやるんだから、アンコールに応えた方が絶対良いと思う。

雨上がりの午後 第1285回

written by Moonstone

「どうやら意見はないようだな。よし、演奏曲順は今回ので行こう。MCは当日多少変わるかもしれないが、まあ、今日みたいな感じで行く。問題はアンコールだな。どうする?これは文彦サイドも俺たち音楽屋サイドもけいけんがないし・・・。」

2003/9/8

[同じ穴のムジナ]
 自民党の総裁選挙が近付き、各派閥から色々立候補しています。しかし、「自民党をぶっ壊す」と言って登場し、一時は8割の支持率を得た小泉政権がいまや4割台の、しかも「他に適任者なし」「自民党政権だから」という消極的な理由による支持しかない状況で、「自民党をぶっ壊す」だけの候補者が居るでしょうか。
 所詮自民党は利権集団。その利権を得る元が異なったり長いものには巻かれよ的な精神で作られた集団が派閥であり、そもそも一つの政党で異なる政策が出てくるというのは利害関係だけで集まっている、およそ近代政党のあり方とは縁遠い現象です。
 マスコミは立候補者が出る度に騒いでいますが、同じ穴のムジナが現政権と明確な対決軸を打ち出せるわけがありません。それは候補者の主張を調べれば直ぐに分かることです。いい加減マスコミも上っ面だけ報道するのは止めて、現政権の問題点、それに明確な対決軸を打ち出しているのはどの政党かなど問題の本質を突く報道をすべきですが・・・気付かないでしょうね。所詮マスコミも同じ穴のムジナだから。
俺の出せるもの全てをギターに注ぎ込んでやる。俺は総勢8人の中で唯一のギターだ。俺に代役は居ない。居てもステージに出ることは許さない。そんな演奏にしてみせる。

 マスターのソプラノサックスと勝田さんのテナーサックスが飛び入りしたラスト曲「Fly me to the moon」が、演奏者全員の白玉と、晶子のアドリブのヴォイス(註:曲中の喋り)で終焉を迎える。全ての音が消えたところで俺はフレットから手を離す。そして落とされていた客席の照明が戻る。
 俺は一つ大きな溜息を吐く。照明の熱もあるが、やはり演奏に熱中していたせいだろう、上から下まで汗だくだ。チラッと見ただけでも、マスターは額を右腕でぐいと拭い、晶子も額を手で拭いつつ溜息を付いているのが分かる。スタートからラストまでひととおり演奏したが、十分本番の体裁を成していたと思う。

「よーし、皆、一旦ステージ中央に集合してくれ!」

 文字どおり一息吐いたところで桜井さんから集合がかかる。全員が晶子と潤子さんが居るステージ中央に集まる。早速反省会か。やはりプロは違うな、と実感する。本番を想定しての通し演奏ということもあるんだろうが。俺は晶子の後ろ側から顔を出し、手ぶらの−「Fly me to the moon」のベースはウッドベースだった−桜井さんが照明で顔を彼方此方キラキラ輝かせている。

「ひととおりやってみたんだが、いい感じに纏まってたんじゃないか?演奏曲順もあんなもんで良いと思う。何か意見とかはあるか?」

 桜井さんの問いかけに対して誰からも手は上がらない。どうやら全員がさっきの通し演奏に挙げるべき問題点を見出せないようだ。俺や晶子は兎も角、プロ側、特に青山さんが何も言わないところを見ると、プロが聞かせる本番の演奏として十分通用するだけのものになっていたということだろう。

雨上がりの午後 第1284回

written by Moonstone

 俺と国府さんも、その音の調和に加わる。さあ、始まりだ。もう後戻りは出来ない。やり直しも許されない。そんな張り詰めた緊張感が俺の全身に行き渡り、不思議と心地良ささえ感じてしまう。

2003/9/7

[新古書籍のあり方]
 近年、新古書店が一般の書店を脅かしていると言います。その理由は、値段が安い新古書店で購入する傾向があること、新古書店の買取制度を悪用して、一般の書店で万引きした書籍が持ち込まれ、一般の書店の利益が上がらず、新古書店ばかりが儲かっていることにあります。
 新古書店を利用しない私には(基本的に他人の持ち物は使いたくない)新古書店ははっきり言って不要なんですが、絶版になった書籍があるかもしれないということを考えると、一概に不要の一言で片付けることは出来ないように思います。
 ゲームソフトでも中古の扱いが大問題になったことがありますが、新規ソフト(書籍も含む)と中古ソフトの住み分けをきちんとすべきでしょう。CDのようにレンタル禁止期間を設けるなど。中古ソフトの需要があることからすると、きちんとしたルールを作ることの喫緊性を業界は認識すべきでしょう。
 この場面で音出しは厳禁だ。本番前にポロポロ音を出すもんじゃない。出かける前に施したチューニングが大幅に狂っていないことを祈るしかない。今時期は気温も高くて湿気も多いから、チューニングが直ぐ狂うんだよな・・・。こういう時、弦楽器が「生もの」だと実感する。シンセサイザーじゃこんなことは自分で設定しない限りありえないもんな。
 勝田さんがステージ下段中央、俺がその−勝田さんから見て−左隣、ベースのストラップを通した桜井さんが右隣。そして後ろをチラッと振り向くと、ステージ中央奥のピアノ前に国府さん、ステージ上段左側、シンセサイザーの前に潤子さん、その−俺から見て−右隣のドラムの前に青山さんが居る。全員、演奏準備を整えたようだ。

「幕が開きます」

 アナウンスが天井の方から降り注がれる。俺の緊張感がピークに達する。高校時代のステージ演奏直前を思い出す。あの時はいっぱいの観客を前にしてあそこにあいつが居る、あそこに宮城が居る、とか観察出来た。しかし、今回はそんな状況でもなければそんな余裕もない。幕が開いたら見えない大勢の客を前にして演奏開始だ。
 ステージの照明が弱めのブルーに切り替わる。前方の幕がゆっくりと上がり始める。それを合図にするかのように、柔らかいシンセブラスの音色が浮き上がってくる。「MORNING STAR」。その名が示すとおり、明けの明星が早朝の空に浮かんでくる様がイメージ出来る。
 それまでゆったりした響きを流していたシンセブラスが、ファンファーレのように勢いを増して旋律を奏でる。そこに勝田さんの演奏する、やや金属的な響きを持つEWIのシンセブラスの音色が加わる。そして青山さんの演奏する、ドラムのフィルが入ると、ステージが一気に明るく照らし出される。俺と国府さん以外のパートが一斉に奏でるフレーズの重なりは、まさに明けの明星の輝きそのものだ。

雨上がりの午後 第1283回

written by Moonstone

 俺や晶子を含めた全員は各々返答したりしなかったりしつつも、素早く1曲目における自分の持ち場に散開する。俺はギタースタンドに立てかけてあるエレキのストラップに身体を通して位置を調整し、フレットに左指を当てて右腕は力を抜いて肩から吊り下げる。

2003/9/6

[今の悩み]
 まあ挙げれば色々あるんですが、今日は身近かつ結構深刻な悩みを。一昨日ふと手を見て気付いたんですが、両手の指の腹の部分(掌側)の肌荒れが酷いんです。皮膚はボロボロ剥けて見た目にもかなり悪い。
 別に動かす分には何の支障もないんですが、買い物などで人に手を差し出す時、こんな状態の指を見られるのはちょっと・・・。相手も気分良く思わないでしょうし(小学生の時湿疹が出来ただけで、周囲から「うつらない?」と頻りに不安がられた経験があるので尚更気になる)。
 少し前から使い始めた台所洗剤が肌に合わないのか、それとも今飲んでいる薬の副作用か・・・。後者は考え辛いんですが(薬剤師の説明でも皮膚に影響が出るとは聞いていない)、前者が原因だとするとちょっと困ったことに。洗剤を選び直さないといけませんからね。手がザラザラするのは自分でも気分の良いものじゃないです。心当たりのある方、対策など教えてください。

「明。MCも入れるのか?」
「勿論だ。本番と同じタイムスケジュールで進めるからな。一度幕を閉めて貰うから、『幕が開きます』っていうアナウンスが流れたらスタートだ。」

 青山さんの問いに桜井さんが答える。MCまで入れるとは桜井さんの言うとおり、これから本番に臨むものと思った方が賢明だな。緊張感で身が引き締まる思いがする。潤子さんの演奏する曲やごく一部の曲を除いて出ずっぱりの俺は嫌でも目立つだろうから今から緊張感に慣れておく必要があるな。

「他に質問はあるか?」
「MCはどなたがされるんですか?」
「文彦が主体で、話の内容はアドリブだ。その辺の調整は文彦と予めメールで打ち合わせてある。」

 晶子の問いに桜井さんが答える。メールで打ち合わせ・・・?マスターって携帯電話持ってたのか?それともPCだろうか?何れにしても、俺と晶子が知らないところで具体的な下準備は整えられていたらしい。
 セッション出来る機会はおろか、顔を合わす機会そのものが限定されているから、細かい部分に関してはプロの代表とベテラン、否、元プロに任せるのが一番効率が良いだろう。高校とかの文化祭と違って、関係者が何回も顔を突き合わせてああだこうだ議論する時間的、回数的余裕がないからな。

「よし、それじゃ1曲目、『MORNING STAR』の配置に就いてくれ。演奏しない、あ、一人歌う人が居たな。そういう人は舞台脇好きな方へ退いてくれ。」
「「はい。」」
「了解。」
「分かりました。」

雨上がりの午後 第1282回

written by Moonstone

「聞いてたかもしれないけど、これから一回通しで全曲演奏する。照明もミキサーも本番同様に行って貰う。いきなりだけど、本番だと思って気を引き締めて演奏して欲しい。」

 桜井さんの言葉に全員が頷く。

2003/9/5

[何時まで続くこの暑さ]
 連日暑い日が続いています。夏が今頃やって来た、という表現が相応しい熱気と湿気で、エアコンはフル稼働状態。今頃暑くなっても遅い、という気がするんですが、これで多少なりとも農作物の成長が促進されれば良いのですけどね。
 エアコンが効いている中でもどうしようもないのが口の渇き。これは私が飲んでいる薬の副作用で生じるものなんですが、前に処方を変えてもらって以来具合は良くなった代わりに口の渇きが酷くなって、しょっちゅう水分補給をしています。口に含んでいれば良いんですけど、長時間持ち堪えられる筈がない。
 自宅でも水の消費が凄くて、1日2リットルは確実に消費します。週末の作品制作時には4リットルを超えることも珍しくないです。どうもストレスを感じると口の渇きが増す傾向にあるらしく(作品制作は難産続き)、やがて訪れる冬の到来が怖いです。氷水では身体を冷やすし、暑い飲み物は早々飲めないし・・・。薬が要らなくなれば一番なんですが。

「悪いね、安藤君。」
「いえ。それより何で3つもあるんですか?」
「あ、まだ話してなかったっけ。「BIG CITY」と「HIBISCUS」は、僕と文彦さんがユニゾンすることにしたんだ。まあ、メロディ部分だけだけどね。ちなみに文彦さんがアルトサックスで僕がテナーサックス。」

 これは驚きだ。サックスが映えるあの曲でサックスのユニゾンが聞けるなんて。二つの個性がぶつかり合うユニゾン、しかも片方はプロでもう片方は玄人裸足のベテラン。2曲とも俺は一部を除いてバッキング担当だが、マスターと勝田さんのサックスのユニゾンが聞けるステージに立てるだけでも価値がある。
 勝田さんは両手にハードケースをぶら下げて−中にはフルートとテナーサックスが入っているだろう−、打ち合わせをしている桜井さんのところへ向かう。俺はソフトケース−これにはEWIが入っているんだろう−を持ってその後を追う。

「すみません。遅くなりました。」
「あ、いや、十分間に合ってるよ。・・・これでメンバー全員揃ったな。」

 笑みを浮かべて勝田さんに言った桜井さんが、一転して真剣な表情に戻って公会堂の職員らしい人達に言う。

「全員揃いましたので、一度通しで演奏したいと思います。照明とミキサーを宜しくお願いします。」
「分かりました。では。」

 職員らしい人達はステージ脇へ消える。桜井さんが両手で手招きをする。俺達一行と青山さん、国府さん、勝田さんが桜井さんの元に集まる。桜井さんは全員の顔を見回してから口を開く。

雨上がりの午後 第1281回

written by Moonstone

 続いてハードケースを2つ、ソフトケースを1つ抱えた勝田さんが入ってきた。かなり持ち辛そうなので、俺は勝田さんに駆け寄って溢れそうだったソフトケースを受け取る。

2003/9/4

[やっぱり彼女が良い]
 私がこのお話をしたりネット巡回や更新をしたりしながら聞いているラジオ番組「MOTHER MUSIC」(JFM37局ネットで22:00〜23:55)。今週はパーソナリティの田辺さん(漢字間違いの可能性あり)が夏休みということで、日替わりでアーティストが担当しているのですが、田辺さんの存在感というか、田辺さんと「MOTHER MUSIC」の一体感が実感出来ます。
 日替わりのパーソナリティは勝手に喋りまくってて、「MOTHER MUSIC」の良さである「あるテーマで音楽を流す」ことをまるっきり無視していて、単なる喧しいだけのトーク番組にしてしまってます。田辺さんの時は曲は知らなくてもゆったりした気分で聞けたんですが、それがない。
 ラジオ番組とパーソナリティの関係は重要ですね。パーソナリティの方針一つで番組の雰囲気ががらりと変わってしまう。これは「JET STREAM」でもあったことですが、パーソナリティが喋りまくっているだけのトーク番組は特に夜は勘弁願いたいものです。田辺さん、早く帰ってこーい。
俺達一行は、潤子さんが持ってきたキーボードスタンドを組み立て、そこにハードケースから取り出したシンセサイザーを乗せ、音源モジュールなどが入ったラックなどと結線する。その一部はエフェクト切り替え用のフットスイッチに繋がっているから、俺は結線されたフットスイッチをステージ前方に持って行く。この日のためにマスターが購入した長いケーブルのお陰で余裕で届く。
 シンセサイザーの配線が終わったら、今度は俺の番だ。ソフトケースから取り出したエレキを結線し、アコギに小型マイクを−アコギ単独では会場に対して音が小さ過ぎるからこれで集音するわけだ−取り付けてまた結線。そして潤子さんが用意してくれたスタンドに二つのギターを立てて配線終了。当日はこの作業をもっと早い時間から迅速に行う必要がある。

「お待たせー。」

 明るい声が背後から響く。振り向くと、国府さんがグランドピアノを持ち上げた数人の職員らしい人を誘導しながら近付いてくる。国府さんはグランドピアノをステージ下段中央に配置するように誘導し、配置されたら予め用意されていたスタンドマイクをグランドピアノの胴体内側に向ける。これで集音してミキサーに持って行くんだろう。
 ステージ下段中央には、床から生えているようにマイクが何本かセッティングされている。その中にスタンドマイクが一本ある。晶子が歌うのはあそこだろう。客席から見てど真ん中に位置している。晶子、本番で緊張して声が出ないんじゃないか?・・・否、そんな心配は無用か。俺より心臓が強いから。

「遅れてすみません。」

雨上がりの午後 第1280回

written by Moonstone

 青山さんは少し笑みを浮かべてそう言うと、再び表情を引き締めて客席の方を向く。演奏のイメージトレーニングをしているんだろうか。

2003/9/3

[備品点検も楽じゃない]
 昨日、職場の備品点検があったのですが、その量が半端じゃない、ってことで当日動ける7名で分担。私は2ページ分を受け持ったのですが内容は書架やキャビネットといった比較的大型のものということで簡単に見つかる、と思っていました。
 ところが大誤算。大きいからといって直ぐに見つかるわけでもなく、更に目的の物体(備品シールが貼られているもの)を探すのは一苦労。午前の捜索の段階で私が最も発見率が悪い(半分にも満たなかった)というみっともない結果に。
 午後も再度捜索。ご協力を得て何とか幾つかを発見したもののどうしても見つからないものもあり。捜索開始終了段階でどうにか平均レベルに達したかな、という状態。こんなの本当は事務の人間がすることだろ、という疑念を残しつつ終了。しかしまた捜索物品のリストが来るらしい、とのこと。いい加減にしろよ、おい(怒)。
 車が大通りから左折して、片側一車線のやや狭い−これまで走って来た大通りが片側3車線だから狭く感じるのも無理はないが−通りに入る。それから5分もかからず、ヨーロッパの古い教会を思わせる造りの建物が見えてくる。かなり大きいあの建物が新京市公会堂だろう。車はその建物の側面を添う形で走り、裏側に回る。そこには広大な駐車場があって、マスターはその一角に車を止める。

「よし、お疲れさん。早速機材の搬入だ。俺について来てくれ。」
「「はい。」」

 俺は晶子からアコギの入ったケースを受け取って車から出て、ストラップに身体を通してアコギを背負うと、開いている車のトランクへ向かう。シンセサイザーの入ったハードケースを一つ、そしてエレキの入ったソフトケースをそれぞれ手に持ち、同じくシンセサイザーの入ったハードケースと音源モジュールなどが入ったラックを両手にぶら下げたマスターの後をついて行く。マスターは開いているかなり大きな扉から−多分、搬入口だろう−中に入る。俺と晶子と潤子さんもそれに続く。
 薄暗いがかなり幅広い廊下らしいところを通り抜けると、眩しい照明が目に飛び込んできたので、俺は思わず目を閉じる。再び目を開くと、照明に照らされた広大なステージと、控えめの照明に照らされた、これまた広大な客席が見える。大きい。想像以上に大きい。俺は半ば呆然としつつ、マスターの後に続いてステージ中央へ向かう。
 ステージは2段になっていて、高台には既にドラムとパーカッション(註:リズム楽器の総称)がセッティングされている。そしてステージでは桜井さんが公会堂の職員らしい人達と打ち合わせをしている。高台で腕組みをして立っていた青山さんが俺達一行に気付いてこっちを向く。

「思ったより早かったな。」
「ああ。道が割と空いてたからな。」
「「こんにちは。」」
「こんにちは。今日は、否、今日も宜しく。」

雨上がりの午後 第1279回

written by Moonstone

 最初で最後の本会場でのリハーサル。照明などの打ち合わせを含めると、実際に演奏出来る時間は自ずと限られてくる。同じ曲を二度も三度も演奏出来るとは考えない方が良いだろう。それだけに余計に緊張感が増す。果たして新京市公会堂とはどんな場所なんだろう?それが一番気になるところだ。

2003/9/2

[ね、眠い・・・]
 週末の不規則な生活が尾を引いたのか、昨日は1日眠くて、帰宅してから早速転寝してました。そのせいで「名探偵コナン」を見逃してしまった(泣)。このお話をしている今でもまだ眠いです。
 今日は職場の備品の点検みたいなものがあるので、眠気を一掃しておきたいところなんですが、これからネットに繋いで更新して切断してから寝てもちょっと無理っぽい感じ。自律神経のリズムが滅茶苦茶な分際で意思の弱い徹夜なんてするんじゃなかったな・・・。
 暫くはこんな調子が続くと思います。更新は何時もどおり行いますが時間が前後する可能性がありますので、その辺はご了承願います。本当はちょこまかと更新したいところがあるんですけどね・・・。
 俺と晶子は厳しい夏の陽射しの下、腕を組んで歩く。男なら大抵誰でもあこがれるシチュエーションで、腕に感じる弾力ににやついてもおかしくないところだが、俺は安心感を感じる。俺の直ぐ傍に大切な人が居るという、金では決して買えない至高の安心感を。
 蝉の声が遠く聞こえる。今年の夏は普通の大学生じゃ恐らく味わえない貴重な体験をすることになる。耳に届く蝉の声のようにやがては消える泡沫(うたかた)のものではなく、将来を見据えた重要な機会でもある。まだ見ても居ない客にビビってる暇があったら、貴重で重要な機会を自分のものにすることを考えた方が良いな・・・。

 サマーコンサートまで残り1週間となった日曜日、俺と晶子はマスターの運転する車の中に居る。勿論潤子さんも乗っているし、機材は車のトランクに詰め込められている。だが、今は昼間。そして向かう場所はこれまでの小宮栄のジャズバー「TEMPO DE SER FELIZ」ではなくて新京市公会堂、そう、サマーコンサートの会場だ。
 店を臨時休業にして機材と人間を詰め込んで新京市公会堂に向かう理由はただ一つ、コンサートの最初で最後の本会場でのリハーサルのためだ。公会堂のスタッフの人と照明などに関する打ち合わせも含まれている。桜井さん達も各々か一緒に会場へ向かっているだろう。俺と晶子は乗車して以来一度も口を開いていない。「BIG CITY」が車中に流れる中、自分の顔が緊張感で強張っているのが分かる。
 会場までは俺と晶子が通学に利用している駅から定期バスが運行されているとのこと−チケットの裏面に略地図と交通案内が印刷されていたらしい−。今まで全然気がつかなかった。まあ、普段は大学まで徒歩だからバスの時刻表を見たり乗り場へいく必要性がないんだから仕方ないんだが。今日は機材運搬の関係もあって、マスターの運転する車で新京市公会堂に近い大通りを走っているわけだ。

雨上がりの午後 第1278回

written by Moonstone

 晶子は俺から手を離して、俺の腕を抱きかかえるように腕を組む。半袖のブラウスを通じて感じる独特の柔らかさが、暑さで少しぼんやりしていた頭を一気にしゃきっとさせる。別に初めて感じるもんじゃないし、生でその感触を堪能したことだってあるっていうのに・・・。俺の中に二つの人格があるんだろうか?

2003/9/1

[徹夜不可能・・・か?]
 一昨日の遅れを取り戻そうと、昨日は徹夜で作品制作に取り組んだんですが、思った以上に難航して完成した時はくたくた。で、布団にゴロリ。それでも薬を飲んでないせいでしっかり眠れず、寝たり起きたりを繰り返して今に至ります。トータルでは数時間寝たんでしょうけど、まったくそんな気分がしません。
 やっぱり徹夜は余程条件が揃ってないと無理になってきたみたいです。コミケの前の徹夜は「絶対起きて行くんだ」っていう強い意思があったからまだしも、今回は「昨日の分の遅れを取り戻さないと」という切迫感が先行して、起きる意思が弱かったのかも・・・。
 まあ、何とか背景写真を選定しましたし、上位ページの背景画像も作れましたし、最低限の目的は達成出来たと思うべきかな?今回の背景写真はちょっと暗いイメージですけど、夕暮れの海岸ということで寂寥感を出すには良いかな、と。感想など聞かせていただければ幸いです。
 確かに晶子の言うとおりだ。クリスマスコンサートでは店の照明を点けたままにしているから、よく見れば何処にあの常連客が居るってことが分かる。だが、今回のような大規模なコンサートをやる会場は映画館と同じで、舞台は照明で明るいが客席は照明が落とされるから暗い。何処に誰が居るかなんて赤外線暗視スコープでも着けなきゃ分からないだろう。

「それにステージに立つようになって2年にも満たない私と違って、祐司さんは高校時代にバンドに入ってて何度もステージに上ったんでしょ?その時はどうでした?」
「大体学校の体育館でやったから、客の顔は丸見えだったな。最初は客の顔が怪獣に見えたもんだ。」
「それを思えば、今度はわざわざお客さんの顔が見えないようにしてもらうんですから、演奏に専念すれば良いんじゃないですか?」

 晶子の言うことに口を挟む余地はない。俺はどうも客の顔を意識し過ぎているようだ。見える見えないに関わらず、自分が出来る最大限のことをすれば良い。桜井さん達だって、決して大人数とは言えない、でも常連も混じっている客を前にして演奏して報酬を得ているんだ。そんな人達と実際昨日一緒に演奏出来たし公表も得られたんだから、もっと自分に自信を持って良いんじゃないか?

「祐司さん、バンドやってた割には慎重派ですね。」
「内輪じゃロックバンドのギタリスとにあるまじき大人しさ、ってよく言われたよ。ロックバンドのギタリスとっていうと、ヴォーカルと同じくらい客を煽っても珍しくないのに、お前は大人し過ぎる、ってな。」
「今度のコンサートでは、前面に出るところでは思い切ってアピールしましょうよ。祐司さんの腕ならきっとお客さんをあっと言わせることが出来ます。現に昨日の初セッションでも大好評だったじゃないですか。」
「ん・・・。そうだな。ちょっと自分をアピールしてみるか。」
「その意気、その意気。」

雨上がりの午後 第1277回

written by Moonstone

「それに・・・ああいう会場って、演奏する側は照明で照らされて明るいですけど、お客さんの方は照明を落とすじゃないですか。だから人が居るかどうかなんて、それこそ意識しなきゃ分からないと思いますよ。」
「あ、なるほど・・・。」


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