芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2003年10月31日更新 Updated on October 31th,2003

2003/10/31

[明日は忙しいぞー]
 明日は土曜日。更新が控えているのは勿論、背景写真の変更、上位ページの背景画像の変更(もう作ってある)など、やることはたくさんあります。大変ですけど、充実したものになるようにしますのでお楽しみに。
 昨日は散髪してきました。私はくせっ毛の上頂点がその・・・あれなので(苦笑)極力短くした方が何かと便利なのです。さっぱりしましたが、これからの季節頭が寒くなるのは如何なものか、という気がしないでもないですが。
 帰宅して夕食を食べた後殆ど寝っ放しでした。お陰でネット接続時間に遅刻。最近多いんですよねー。寝ても寝足りないと言うか。季節柄仕方ないのかな?暑くもなく寒くもないという良い季節ですからね。
こうしたことを積み重ねることによって一つの曲「CHATCHER IN THE RYE」が完成するわけだ。だから簡単だから、といって手を抜くととんでもないことになりかねない。より慎重に、でも硬くならないように注意しながら演奏を続けていく。さあ、次は俺のソロだ。スポットライトが仄かに俺を照らし出しているのを感じる。
 ドラムが再び入るものの、軽いバスドラムとテンポキープにはありがたいハハイハット、そしてリムショット(註:スネアドラムの縁をスティックで叩く奏法)だけのシンプルなものだ。あくまでも主役は俺。それにストリングスはお休み。ピアノもベースも白玉中心だ。動いているのは実質俺だけということになる。だからこそより丁寧さと慎重さが要求される。俺はフレーズそのものはそれほど難易度は高くないものの、情感を出すためにスライドやハンマリングといったテクニックを随所に織り込みながら演奏していく。
 ストリングスが入ってくる。しかし曲調が変わるわけではない。繊細さと優美さはそのまま大切に保っていかなければならない。俺が持つテクニックの全てを動員してソロフレーズを演奏する。空を紅に染めつつ水平線に沈む夕日を広大な大地で見詰める。そんなイメージを持ちながら弦を爪弾く。こうしたことはきっと何らかの形で客に伝わる筈だ。ストリングスが急速に駆け上がってくる。重みのあるタムが入ってくる。照明が明るさを取り戻す。さあ、サビだ。だが、力みは禁物。あくまでも繊細に、そして優美に・・・。
 サックスとユニゾンする。こういう形のユニゾンも結構気持ち良い。サックスに似せて競い合うのも一つだが、こうしてギターならではの音色で存在感を出すのもまた一興だ。途中ギターらしさをちょっと織り交ぜながらサックスとのユニゾンを楽しむ。繊細さと優美さは忘れずに。

雨上がりの午後 第1333回

written by Moonstone

 やがてドラムが軽いシンバルワークになり、俺とマスターのユニゾンがより目立つ格好になる。照明もやや落ちる。テンポを崩さないように、そして優しい情感を崩さないように、丁寧に演奏する。

2003/10/30

[よくよく考えてみれば・・・]
 昨日の件、検索すれば良い話ですよね(汗)。アップし終えてPCの電源を落として少しして、「検索・・・すれば良いんじゃ?」と思ったんですが時既に遅し。一度アップしたものを訂正することはしたくないので(どこぞの出来損ないの政治家じゃあるまいし)、そのままにしておきました。
 このお話をしている時点ではまだ掲示板を見ていないので何とも言えませんが、「検索しろ〜」っていう書き込みがありそうだな(^^;)。まあ、そのとおりと言えばそのとおりなので反論出来ませんが。
 でも、キーワード「観月歌帆」で引っ掛かるのかな・・・。検索もそこまで万能とはちょっと思えない。それにリンク切れということもよくあるし・・・。いまいち検索を信用しきれていない私です。
 俺がメロディ、国府さんがバッキングというシンプルな構成で始まる。逆に言えば、それだけ目立つことになる。ベースやドラムが入って来た時にテンポが違う、ということにならないようにテンポキープを念頭に置き、尚且つ、曲の雰囲気に合うように優しいタッチで弦を爪弾く。難しいところだがギタリストとして脳での見せ所だ。
 ゆったりとしたテンポで8小節ピアノとのデュオを続けた後、音程がカーブして上がっていくベース音を合図にベースとストリングスが入ってくる。ドラムはまだだから、俺のテンポキープの役割はまだまだ続く。フレーズそのものは簡単だが、簡単なものほど難しいと言う。あれは本当だ。特に自分が店舗キープをする「主役」なら尚更だ。
 潤子さんが担当する今度のストリングスは「THE SUMMER OF '68」とは違ってごく一般的な、SEを交えないものだ。そしてストリングスらしくピチカート(註:バイオリンなどで弦を弓で弾かずに指で弾いて音を出す奏法)も交えたものだ。「THE SUMMER OF '68」を一頃で言うなら「過ぎ去った夏」だが、この曲は「心地良い夕暮れ時」と言ったところか。
 よく聞かないと分からない音量でのピアノとのユニゾンが終わりに近付くと、それまで大人しかったストリングスが急に勢いを増してくる。そして重量感のあるタムが一発入ってくる。照明が明るさを増す。いよいよサビだ。だからと言って派手になっちゃいけない。あくまでも繊細に優美に演奏するのが大切だ。
 ゆったりとしたテンポでしっかりリズムを刻むドラムが入り、俺はマスターのサックスとユニゾンする。音がナチュラルだから「MORNING STAR」の時と違って非常に目立つ。油断は決して許されない。緩やかに流れるストリングスを聞きながら、爽やかな風が吹き抜ける夕暮れ時をイメージして演奏を続ける。マスターのサックスもブロウこそ効いているものの、「これがサックスだ」と声高に自己主張するものじゃない。やはり情感を重視した演奏になっている。優しいタッチの曲はあくまで優しく描くのがプレイヤーの役割だ。俺は一音一音を大切に会場に発していく。

雨上がりの午後 第1332回

written by Moonstone

 拍手が止み、会場が静けさを取り戻したのを確認する。弱いスポットライトが俺と国府さんを−ライトの違いで分かるんだが−照らす。俺はイントロとして頭1つ16分音符の駆け下がりで出る。いよいよ第2幕の幕開けだ。

2003/10/29

[情報求む!(2回目)]
 今回はかなりマニアックと言うか、難しい要求かもしれません。このページでもSide Story Group 2が題材にしている「CCさくら」。それに登場する超絶美人教師と名高い観月歌帆の声優さんが誰かを知りたいのです。
 お前、入れ込んでいながら知らんとは何事だ、と怒られそうですが、キャストはごく一部しか覚えてないんですよ。全部で・・・3人分(正確には2人と1匹分)か。それらは私でも知っている有名な声優さんだったので印象に残っているんですが、観月歌帆役の声優さんまでは・・・(汗)。
 今回ばかりは流石に無理かな、とは思いますが、ここのリスナーの方ならひょっとしてご存知の方がいらっしゃるのでは、という一縷の望みを抱いています。ご存知の方は掲示板JewelBoxに書き込み願います。
俺は演奏に熱が篭って来たように思う。演奏に集中するのは良いが自分だけが酔う演奏はこういう曲では特に禁物だ。俺は目立たないように深呼吸をして沸騰しかけた頭を冷やす。俺のギターで他の楽器の演奏が止まる。ラストは近い。心に残響を残すシンバルのロールが響く。
 ハイハットを中心にしたドラムと音の伸びを生かしたベース、そして最初と同じく、鳥の囀りや鳴き声のような音が混じったストリングスとベルの音が鳴り響く。俺は暫しの休憩だ。思い出がポツリポツリと脳裏に浮かび上がってくるようにピアノが高音域で響きを放ち始める。8小節目の最後の方から俺も音を加える。今度はピアノが主役で俺は補助的な役割だ。32小節、ピアノとギターがゆったり音を放ち、過去の夏を演出する。
 そして最後はピアノと息を揃えて音を出して他の楽器の音を止め、最後の音を白玉で出し、そこにシンバルの優しいロールが加わる。俺はフレットから指を離す。ギターの残響も消え、ピアノの残響も消えていく。ストリングスも残響を残して消えていき、シンバルも残響を名残惜しげに残して消えていく。音が消えていく過程で照明がゆっくり落とされていき、全ての音が消えたときにはステージは淡いブルーの照明で仄かに照らされる。客席から打ち寄せる波のように拍手が徐々に大きくなって押し寄せてくる。俺は溜息を吐いたのもつかの間、ギターをエレキに切り替える。
 勝田さんが駆け足でステージから退散し、代わってアルトサックスをぶら下げたマスターが出てくる。そして俺と同じくステージ前方に立つ。次の曲「CHATCHER IN THE RYE」ではサックスとのユニゾンがある。しかし、他のT-SQUARE−この曲を含んだアルバムの時はTHE SQUAREだったが−のサックスとのユニゾンとちょっと違って、ギターをサックスに近付けるエフェクトをかけずにナチュラルトーンを主軸にして演奏する。そしてさっきの曲「THE SUMMER OF '68」と同様、ギターが主体になるということだ。俺が主体になる曲を、ということで選んだんだが、難しい曲を立て続けに選んでしまったものだと後悔していたりする。

雨上がりの午後 第1331回

written by Moonstone

 ピアノとユニゾンで2音演奏するフレーズの中で、最初のサビにちょっとフレーズを付け加えるが、基本的には同じだ。

2003/10/28

[眠い・・・]
 10/24、10/25の疲れがまだ取れないのか、朝は目覚ましがなる直前まで一度も目覚めませんし(これまでなら1度は目を覚ます)、昼間は勿論眠いし、眠気は夜になると更に激しくなってくるので、一度寝ないとネットの時間に起きていられません。疲れやすいのは仕方ないにしても、回復がこんなに遅れるのはおかしいんですけど・・・。
 ところで今日は総選挙の公示日。11/9の投票日まで各党各候補の舌戦が続きます。マスコミは「小泉VS管」「政権選択選挙」「マニフェスト選挙」などと煽り立てるでしょうが、皆さん、特に有権者の方は思い切りアンテナを伸ばして政党や候補者のこれまでの活動や発言を見直し、どの政党がこれからの日本政治の舵取りを担うに相応しいか、よく吟味してください。
 「誰がなっても変わらない」などと言って白票や棄権に回るのは、現政権に対する白紙委任状を手渡すのと同じです。100%自分の考えに一致する政党や候補者が居る方が珍しいのです。自分の考えに近い政党や候補者をしっかり選び、投票することが、民主主義社会を支える有権者の権利であり、義務でもあることを忘れないで下さい。
 ピアノとユニゾンで、センチメンタルなメロディを奏でる。ピアノは原曲ではヴィブラフォンなんだが、潤子さんの手は2つしかないからということでピアノの高音部がピンチヒッターを務めるわけだ。これはこれでなかなか良いと思う。俺は単音じゃなく、ある意味ギターらしく複数の音を演奏する。複数と言っても2音だが、これだけでも音にコーラスとはまた違った厚みが加わる。
 勝田さんもフルートを演奏する。だが、フルートらしくないシーケンサで演奏させるようなフレーズを低音域で演奏する。これも本来はシンセが担当するべき部分なんだが、ヴィブラフォンと同じ理由でフルートが代役を務めることになったわけだ。マルチプレイヤーである勝田さんが居るこのメンバーならではのアレンジだ。ちなみにアレンジは俺がやった。
 三連符に休符を交えた、簡単だがリズムをキープしにくいフレーズを演奏していく。俺が白玉を伸ばしている間にピアノが合いの手のように入る。ここが印象的だ。遠い過去の夏を回想するようで・・・。ふと宮城と二人でプールにいった思い出が蘇る。この部分では何故かその時の楽しかった語らいやじゃれ合いとも言える戯れといったものが蘇ってくる。これもこの曲が醸し出す情感のなせる業だろうか。
 曲は再び俺が2音を演奏するフレーズとピアノと輪唱するフレーズを経て、俺のギターを合図にするかのようにそれまでの流れが止まり、白玉で満たされる部分に入る。シンバルのロールが入るが決して五月蝿くなく、モノトーンの映像の場面が変わる合図のようだ。
 曲は俺のソロに入る。バッキングは基本的に俺が単独でメロディを演奏した時と同じで、ベースとドラムも最初に入ってきた時と同じであまり動きがない。俺はと言えば、演奏するフレーズそのものはギターをそれなりに弾いて来た俺にしてみれば簡単な部類に入るものなんだが、フレーズが細かくなる分、よりテンポキープが難しくなり、さらに情感溢れる演奏を心がけなければならない非常に難しい部分だ。勿論要所要所にスライドやハンマリングやプリング(註:音程を下げるギターの奏法の一つ。ハンマリングとペアでなることが多い)俺はスポットライトで照らされているのを肌で感じながら全神経を注ぎ込んで演奏を続ける。徐々にせり上がっていくようなフレーズを演奏していくとタムが入る。再びサビに戻るわけだ。だが勿論決して気は抜けない。

雨上がりの午後 第1330回

written by Moonstone

 再びキラキラとベルの音が落ちてくる。そしてこれまで控えめに店舗キープをしていたドラムにタムが混じる。この曲のサビは目前だ。俺は耳と指と目に神経を分散させ、それぞれを正確に、同時に情感を醸し出すのを忘れずに制御する。

2003/10/27

[色々と]
 その1:遅くなりましたが、10/24の日記で「大阪にあるという大きな水族館」の情報を求めたところ、大勢の方から情報をいただきました。お忙しい中色々調べてくださって書き込んでくださった皆様に、深く感謝いたします。
 その2:10/25の疲れで夜はぐっすり。喉も多少引っ掛かりを感じる程度で目立った異常はなく、午前中は作品制作と買出し。ところが疲れが完全に取れていなかったらしく、午後は昼寝一色(汗)。勿論作品制作は中断。まあ、仕方ないでしょう。何とか今週末には間に合わせるつもりです。
 その3:「感想ください」とか何とか書いておきながら、いざメールを送ったら何の音沙汰もない管理者に告ぐ。「だったら初めから書くな!大型ページだからっていい気になってるんじゃねぇ!(激怒)」
フレーズそのものはそれほど難しいものじゃない。だが、この曲が持つ雰囲気を出すためにはスライド(註:音を滑らかに上げ下げするギターの奏法の一つ)やハンマリング(註:音程を上げるギターの奏法の一つ)を随所に組み込まなければならない。情感豊かに、しかしテクニックに酔わないように、「聞かせる」演奏をすることが要求される。頭の中でテンポを刻みつつ、潤子さんの演奏するシンセの音と歩調を合わせて、一音一音を客席に語りかけるように放つ。
 休符もこのフレーズでは重要な役割を果たす。単に白玉があるからといって、弦を弾いてフレットを押さえたままにしていれば良いっていうものじゃない。休符もフレーズの一部。それを意識してフレットの上にある左手を弦にくっ付けたり弦から離したりする。
 スポットライトが暑い。だが、曲は夏の暑さを表現するものじゃない。そのギャップに翻弄されることがないよう注意しながら演奏を続ける。最後の音を放って次の全休符の小節に入ったところで左手をフレットから離す。2小節はシンセだけになる。だが、俺にとってはフレーズの一部だ。俺は左手でギターのフレットがある胴を抱えるように持って目を閉じ、再び演奏を始めるタイミングを計る。ベルが星屑のようにキラキラと落ちてくる。いよいよだ。
 ベースとドラムが入る。テンポキープは楽になるが、演奏の主体はあくまで俺だ。リズムを司る楽器が加わった分、俺のテンポキープがより重要性を増したと言っても良い。メロディを演奏する俺がテンポを崩したら、ベースとドラムが入る以前より演奏を滅茶苦茶にする度合いが強まる。かと言ってギターで情感を醸し出すことを忘れては居られない。ギタリストとしての技量が試されるこの曲、改めて難しさと遣り甲斐を感じる。

雨上がりの午後 第1329回

written by Moonstone

 鳥の声のような音が混じるストリングスとキラキラしたベルの音をバックに、俺は演奏を続ける。

2003/10/26

[つ、疲れたぁ・・・]
 昨日は職場の一般公開でした。簡単に言えば、普段一般市民が見られない施設や仕事の内容を紹介するイベントです。私は前日準備に駆り出されて疲れたのもあり、今日は予定どおり特に何もすることもなく、指定された時間になったら移動して機器管理をすれば良いや、と思っていました。そう、思うだけなら自由です。思うだけなら、ね。
 ところがいざ始まってみると、何時の間にやら仕事の内容や装置の説明をする役が自分中心になり、昼食を挟んで8時間半、一度トイレに行った以外はずっと突っ立って延々と説明を続ける羽目になりました。一体同じフレーズを何べん繰り返したことやら・・・。こんなことになるなら予め説明を録音したテープか何かを置いておくか、近くの人間を捕まえて、後は任せた、と言って逃げるかすれば良かった、と後悔しても後の祭り。
 お陰でこのお話をしている今も喉が痛いです。この分だと寝て起きたら喉が潰れて声がまともに出ないでしょう。それにほぼぶっ通しで8時間半突っ立っていたので足がガクガク。更新を昨日しておいて良かった、と痛感しています。今日は買出しに行かなきゃならないんだけど・・・誰か代わりに行ってくれる人居ないか〜?(居るわけない)あ、迷子は出ませんでした。お子様より中高生が質悪かったな、絶対。
 客席からの僅かなざわめきが消えたところで、桜井さんが切り出す。

「お客さんの準備は整ったようですね。それでは参りましょうか。」
「そうだね。では『THE SUMMER OF '68』『CHATCHER IN THE RYE』『put you hands up』『NO END RUN』『鉄道員』の5曲連続。ステージでの人の動きも激しいから要注意。」
「それじゃ、ステージ再開!皆さん、宜しく!」

 マスターはマイクを持ってステージ脇に退散し、勝田さんがフルートを用意する。メロディを演奏するんじゃなくて、シーケンサで演奏させるような装飾的フレーズを演奏するためだ。国府さんもピアノの前に座る。こちらも勝田さんと同じく装飾的フレーズを演奏したり、ラストのソロを演奏したりと忙しい。シンセを担当する潤子さんは両手をフルに使う必要がある。
 メロディを演奏するのは最後のソロ以外は俺の役割だ。本来なら万全の態勢で臨みたかったんだが、こうなっちまったもんは今更どう足掻こうが変えられるもんじゃない。俺はアコギに切り替え、滅多に使わないピックを右手で摘むように持って演奏の準備を整える。
 旭が凪の水平線から浮上してくるようなストリングスに混じってベルの音が細かく鳴り始める。これは潤子さんがアレンジして演奏しているものだ。ストリングスの中に鳥が囀ったり鳴き声を上げるような音が混じるが、これはそうなるようにエディト(註:編集や調整のこと)した音色だ。ベルの音が止み、ストリングスの中で鳥の鳴き声のような音がふうっと浮き上がってくる。これが俺の演奏開始の合図だ。
 チラッと晶子の方を見ると、やや不安げな様子だ。耳がかなり回復したとは言え、微妙な部類に属するこの音を聞き分けられるのかどうか不安なんだろう。その気持ちはありがたい。だが、もう大丈夫だ。
 俺は演奏を始める。全休符を含んだ18小節は俺がテンポキープをしなければならない。それに加えて曲の雰囲気である何処か懐かしい、ちょっとセンチな気分にさせる雰囲気を出さなければならない。これは俺のギターの腕が何処まで通用するかの試金石的な意味で選択した。自分で選んだ以上はそれなりに責任が伴う。ましてや自分のパートが主役なら尚更だ。

雨上がりの午後 第1328回

written by Moonstone

 マスターが宥めるように言うと、オールスタンディングだった客が徐々に席に腰を下ろしていく。ステージから見ていると波の寄せ引きを見ているようだ。

2003/10/25

[あー、やれやれ]
 昨日は午前中は回路設計(依頼者が無茶なことばかり言うんだな、これが(溜息))、午後は職場の一般公開の会場設営のため、矢印や部屋番号を書いた紙とテープを抱えて職場中を走り回りました。私の職場は横に広いし縦もそこそこ長いので、この作業だけでかなり疲れました。
 それで終わったと思っていたら、ふとしたきっかけで順路のチェック。張った紙で客が正しくかつ分かりやすく順路を辿れるかどうかのチェックです。私の職場は先に挙げた構造の関係で非常に迷いやすく(内定が決まって今の居室に案内された時にも、案内がなかったら迷う、と確信したし、1ヶ月くらいは右往左往していた)、分かりにくいと指示されたところには矢印の書かれた紙をベタベタ貼っていきました。後で剥がすの大変だろうなぁ・・・。
 そしてとどめは力仕事。10kg程度の椅子を100mばかり駆け足で運んだり、折り畳みの机を物置から出して並べたり、立て看板を置いたり・・・。ようやく終わって居室に戻って時計を見たらとっくに6時過ぎてました(汗)。今日の一般公開ではあまりすることがないので、その分働いたと思うべきなんでしょうね。果たしてどれだけの人が来るやら・・・。前回は確か1000人超えたとか聞いたが(大汗)。迷子が出ないことを祈ります。手に負えないでしょうから。

「良いねぇ。二人も看板娘が居て。片方うちに頂戴よ。」
「そりゃ無理な相談だね。両方コブ付きなんだから引き離したらコブが怒って膨れちゃう。」

 またも客席からどよめきが起こる。おいおい、こんなMC、リハーサルじゃなかったぞ。その場の流れで進めてるんだろうけど、俺と晶子の関係を公表するんじゃないだろうな。

「自分がコブの一つだからだろ?」
「ははは。実はそのとおり。」

 客席から「なにーっ」という声が聞こえてくる。まさか美人二人のどちらかのコブがマスターだとは思わなかったんだろう。うちの店の客は知ってるだろうが、そんなことまったく知らない客が少なくとも半数を占めてるんだからな。

「ま、この髭オヤジがコブになってるのはどっちかとかいうのは、この後のメンバー紹介で嫌でも分かるだろうけど、もう一人の方は?」
「これは自主規制。本人の了解得てないし、うちの店でも秘密だからね。あー、常連さんは何となく分かってるかもしれない。」
「てことは、そっちの店に足繁く通うしかない、ってわけ?」
「そういうこと。新京市胡桃町の喫茶店『Dandelion Hill』をよろしくー。」

 マスターが店の宣伝をする。良いのか?こういうMCって。リハーサルとまったく違うぞ。まあ、意外性があって面白いと言えばそうだけど、冷や汗ものだったな。俺と晶子の関係を公表されたら、コンサート終了後、裏口で殺気立った男性客が待ち構えている、なんてことになりかねない。

「さて、むさいオヤジ二人の喋りはこの辺にして、コンサートの続きといきましょうか。」
「そうだね。今度はちょっと連続しますよ。よーく聞いてくださいね。あ、バラードが殆どですから座って聞いて下さい。気持ちを楽にして、リラックス、リラックス・・・。」

雨上がりの午後 第1327回

written by Moonstone

 マスターの説明に客席からどよめきが起こる。潤子さんはキャリアがそれなりにあるから兎も角、ヴォーカルの晶子が素人、しかも本格的に取り組むようになってまだ2年経ってないという事実を知ったら、驚くのも無理はあるまい。晶子を教えた俺だって驚いてるんだから。

2003/10/24

[情報求む!]
 確か大阪だったと思うんですが・・・大きな水族館が関西地方にあるということを思い出したまでは良かったんですが、正確な所在府県が分からなくて困ってます。名前は・・・「海臨館」とかそんな感じだったと記憶しています。もしご存知の方がいらっしゃったら、メールか掲示板JewelBoxへ書き込み願います。
 何でまたこんな時期に、と思われるかもしれませんが、私は水族館が好きなんです。小説書くためにわざわざ1時間半かけて某水族館に足を運んだくらいです(何の作品かはそのうち明らかになるでしょう)。で、是非一度関西地方にあると言うその巨大水族館に行ってみたいと思いまして。
 その水族館には巨大なジンベイザメが居ると記憶しています。ジンベイザメはでかいので、私が行ける水族館には居ないんですよ。その泳ぐ姿を一度見てみたいものです。ご存知の方、宜しくお願いします。
高音部へと届くアルペジオを交えた演奏はその残像を残しながらゆっくりと消えていく。
 最後の低音と高音の両方を使った白玉の響きが消えるが、客席からは反応がない。どうしたのかと思った直後パラパラと拍手が起こり始め、やがてそれは最大の大きさとなって会場にこだまする。拍手するのを忘れるほど聞き入っていたのだろう。俺も気付いたら拍手をしていた。隣を見ると晶子がすっかり感心した様子で拍手している。後ろからは国府さんの拍手が聞こえる。
 潤子さんは椅子から立ち上がると、客席に向かって静かに一礼する。姿勢を戻した潤子さんの顔は何時もの親しみやすい穏やかな表情だ。潤子さんが俺達の方に向かってくる。MCが入るので一旦退場というわけだ。リハーサルより更に磨きをかけた演奏を「見せて」くれた潤子さんを、俺達は惜しみない拍手で出迎える。ステージ脇に入ったところでようやく潤子さんは微笑みを浮かべる。その額にはうっすらと汗が滲んでいる。それが凄く綺麗で思わず見とれてしまう。

「いやぁ・・・。片や切ないラブソングを歌い上げ、片や優雅なピアノソロを見せてくれたね。」
「これからの演奏が霞んじゃわないか、心配だね。」

 向かい側のステージ脇から、マイクを持ったマスターと桜井さんが出てくる。二人共、やられた、という苦笑いを浮かべている。

「でも、二人揃って僕みたいなプロじゃないんだよね。」
「ピアノは3歳からやってたそうだけど、あくまでも教養の一環として親に習わされただけだそうだよ。ヴォーカルは現役の女子大生。しかも本格的にヴォーカルに取り組むようになってまだ2年経ってないんだ。どっちもうちの店の顔だよ。」

雨上がりの午後 第1326回

written by Moonstone

 そのままエンディングへ向けて突進するのかというとそうではなく、太陽が黄金色の光を残して西の空に沈んだような静けさに戻る。何処となく寂寥感を帯びたその優しいフレーズと演奏は、黄金色の光が昼間の終わりを告げるのと同じように演奏の終わりを告げ始める。

2003/10/23

[節税言うなら返上しろ!]
 少し前になりますが、今月20日、日本共産党以外の全政党、会派(無所属の会も含む)に政党助成金が配布されました。政党助成金の原資は税金です。国民1人あたり、赤ちゃんからお年寄りまで250円を乗じて算出された額(今年は317億円)を使途の制限も殆どなく議席と得票数に応じて年間4回に分割して分け取り出来るという制度です(今回は3度目)。
 「構造改革」「歳出の無駄をカット」という自民党は勿論、「議員歳費(給与)の1割削減」を言う公明党、「衆議院比例定数80削減」を言う民主党も受け取っています。議員歳費の1割削減で節税出来る額は年間約17億円。ところが公明党は今年既に約22億円受け取っています。「衆議院比例定数80削減」で節税出来る額は年間約58億円ですが、民主党は吸収合併した自由党の分と合わせて既に約79億円受け取っていますし、自由党と合併して議席が増えたことで次回の「分け前」が更に膨れ上がります。
 自民党にしろ公明党にしろ民主党にしろ、それぞれ耳障りの良い政策で節税を言いますが、節税を言うなら真っ先にこの政党助成金を返上し、今後受け取らないことを制約するのが筋ではないでしょうか。政党助成金をこれまで1度も受け取っていないのは日本共産党のみ。他の政党はTVコマーシャルやポスターやビラの印刷、果ては飲食費にまで使っているのです。私達の税金をですよ?機関紙収入など自前で活動出来ない政党が「節税」や「無駄の削減」を言うのは笑止。これでも貴方はこれらの政党を支持出来ますか?
 晶子の声が頭に流れ込んでくる。その声で改めて自分の状況を確認してみる。身体が宙に浮いているような感覚は殆どなくなり、耳の聞こえもかなり良くなっている。どうやらステージ上で照明の熱に晒されつつ演奏に熱を上げたために大量に汗を流したのが功を奏したらしい。

「大分良くなってきた。晶子の声もきちんと聞こえる。」
「これで聞こえますか?」

 俺は頷いてから晶子の方を見ると、晶子は俺の耳元から顔を離して俺の傍に普通に立っている。晶子の顔は安堵感に包まれる。心配してくれていたんだな・・・。俺は嬉しさで口元が緩むのを感じつつ、晶子の耳元に顔を近づけて、ありがとう、と一言言う。そして晶子と共にステージを見詰める。静まり返った会場は、潤子さんの演奏を今か今かと待っているようだ。
 演奏は静かに始まった。クイとアルペジオが混じった音のキャンバスに単音の優しいタッチのメロディが描かれていく。あくまでも優しく。涼しい風が吹く夕暮れ時を思わせるフレーズが、自然なテンポの揺れを伴って一音一音会場の空気に放たれていく。まるで微風に花弁を撒くように・・・。
 子守唄のような静かで優しく心地良い雰囲気を保ちながら、曲は中盤に差し掛かる。一音一音丁寧に、それこそ赤子をあやすようにフレーズが会場の空気を優しいタッチで彩る。徐々にアタックが強くなっていくが、決して曲調の劇的な変化を予告するものじゃない。西の空に沈む前の夕日がより鮮やかな紅を見せるように、美しい響きを保ったまま静かにゆったりと盛り上がりへの緩やかな階段を上っていく。
 自然なタメ(註:わざとテンポを落として次に繋げる時間を稼ぐこと)を持った後、メロディがクイに変わる。だがそれは荘厳さを演出するのではなく、あくまでも優雅に空気のキャンバスに音を塗り重ねる。今日はさようなら、また明日会いましょう、と沈む夕日が言い残すように。二回目のフレーズはアタックが最も強くなるが、それでも曲調を壊すことなく、濃い藍色に変わる前の、真紅の薔薇の花弁を敷き詰めたような鮮やかな紅をイメージさせる。

雨上がりの午後 第1325回

written by Moonstone

「祐司さん、大丈夫ですか?」

2003/10/22

[Netscapeでいこう!]
 このページの試験閲覧は勿論、他のページの閲覧にも私はNetscape4.7を使っています。Internet Explorer(以下IE)でしか見れないページはIEを使ってますが数は少数。大抵はレイアウトが多少崩れようが見れないページがあろうがNetscape4.7を使っています。
 一応Netscape7.0もインストールしてあるんですが起動が遅い、表示が崩れる場合がある、などIEより劣るのは明らか、これではIEにシェアを奪われても仕方ないよなぁ・・・。4.7までの機動性が回復されない限りIEに敵わないでしょう。
 じゃあIEに乗り換えろ、と言われそうですが、私はIEが嫌いなのと(突然強制終了したりするし、OSと抱き合わせでシェアを広げた側面が嫌い)Netscapeに愛着があるので乗り換えません。これからもNetscape4.7を基準に作品制作とページ閲覧をしていくつもりです。
徐々にボリュームを上げていく歌声とその歌詞が俺に向かっての愛のメッセージに聞こえてならない。・・・思い過ごしだ。演奏に専念しないと・・・。
 曲は落ち着きを取り戻す。だが歌声に込められた切なさは健在だ。むしろボリュームが元に戻り、ウィスパリングが若干加わった分、聞く者を魅了する要素が増したように思う。サビに入る直前に2度歌われる疑問形の歌詞が、やっぱり俺に向かってのメッセージに感じられる。敵わないな・・・。俺が高熱で頭が沸騰状態にあることを忘れてやしないか?むしろそれを狙っているとか・・・。そんなわけないか。
 曲はいよいよラスト、サビの繰り返しに入る。晶子はやはり両手を胸の前で組み、客席全体に向かって歌いかける。客の表情は暗くて分からないが、晶子に視線と意識を集中させているに違いない。それだけのものを晶子の歌声は持っている。歌詞の内容が今の俺と晶子の関係を表現しているような気がする。ものは有形無形問わず壊れてしまう時が来る。俺も晶子もそれを体験した。それぞれに辛い思いをした。だが、今俺と晶子を繋いでいるものは何時までも変わらない。そう信じたい。信じなきゃ駄目だ。愛は信じる力の強さに比例するものなんだから。
 ストリングスのリフが加わり、「Secret of my heart」の繰り返しが始まる。8回繰り返すと歌声は止み、シンバルとベースとストリングスの白玉が静かに終わりを告げる。十分な残響を伴ったそれらの音が消えると、客席から大きな拍手と歓声が大きな津波となって押し寄せて来る。両手を胸の前で組んでいた晶子は手を解き、客席に向かって一礼する。茶色がかった長い髪が照明を浴びて鮮やかに煌く。頭を上げた晶子の表情には充実感と達成感が滲んでいる。
 さて、次は潤子さんの出番だ。桜井さんと青山さんは左側、俺と晶子と国府さんは右側にそれぞれ退散する。ステージ上には潤子さんだけが残される。潤子さんは横からステージを降り、中央のピアノの前に座る。そして前に垂れ下がった髪をくいと両手でかきあげる。照明がピアノだけを照らすスポットライトに切り替わる。潤子さんの演奏に期待が高まる。

雨上がりの午後 第1324回

written by Moonstone

 曲は盛り上がりの部分に入る。俺のギター音とストリングスのリフの中で繰り広げられる歌声は一層切なさを帯び、そこに両腕を斜め下に広げて歌う姿が加わって、客席に居る男性客、否、全ての客を魅了するには十分な雰囲気を醸し出す。

2003/10/21

[どちらにしようかな?]
 今、仕事で使う部品を選定しているのですが、どちらにすべきかかなり迷っています。構成する回路の中核、否、殆どそのものを担う部品なので、この選択によって回路の性能が決まってしまうといっても過言ではありません。
 片方は性能的には文句ないものの表面実装(これまでのように基板に刺して半田付けするタイプ(DIP)でなく、足が平たくなっていて基板の表面で半田付けするタイプ)なので試作基板を作ったり、試作基板のものを正式基板に流用するのが困難で、もう片方はDIPなので試作などは簡単ですが性能的にやや劣る、と。
 どうにか2つにまでは絞り込んだのですが、このうちどちらにすべきかで数日迷っています。それだけ重要な部品だということです。発注して「ない」と言われたらアウトですし、いっそ両方注文するか?
イントロの間にも晶子はハミングのようなコーラスを入れる。原曲とは違ったタイミングだが、これはこれで良い感じだ。
 2回目のストリングスのフレーズが入ってきたところで、晶子のヴォーカルが入る。ここでの俺のパートは音数が少ない分かなり目立つから、テンポを崩すことは厳禁だ。晶子はしっとりと、そして切なげに歌を紡ぐ。広がりのあるストリングスが加わると、心なしかヴォーカルの切なさが増したような気がする。
 曲はサビに入る。晶子は両手を胸の前で組んで歌う。その様子を見て、俺は心臓を鷲掴みにされたような気分になる。こんなこと、リハーサルではおろか店のステージや練習でも見せたことがなかったのに・・・。思わずフレットから手を離しそうになったところで何とか堪えて演奏を続ける。思いもよらない「隠し球」を用意してたんだな。心臓に悪いぞ、晶子。
 Aメロに戻る。晶子は胸の前で組んでいた両手を両脇に広げて歌う。バッキングはコピー&ペーストしたようなものだから、ただ自分のパートをリズムを崩さずに演奏することに専念すれば良い。そういう余裕がある分、晶子の歌う姿に目が行ってしまう。切ない内容の歌詞も相俟って、歌声が切なさで溢れ返っている。何だか俺に向かって歌いかけられているような気がするが・・・高熱で沸騰した脳みその妄想だろう。そう思わないとやってられない。
 そしてサビに入ると、晶子は再び両手を胸の前で組む。歌詞の内容が進むべき道を迷っている俺に向かってのメッセージに聞こえる。やっぱり熱で頭が沸騰してるな。それにしても、この歌い方と歌声は反則だ。リハーサルの時や普段のステージの時より数段切なさに磨きがかかっている。こんな歌い方を目の前でされたら、いとも簡単に誘惑されてしまうだろう。まさにセイレーンだ。

雨上がりの午後 第1323回

written by Moonstone

 タンタタ、とスネアが演奏開始を告げる。ベースとドラムと共にやや硬いアタック音を持つエレピが入る。晶子はマイクに両手を乗せるスタイルではなく、マイクの前でゆらりゆらりと身体を揺らしている。

2003/10/20

[いよいよ3桁突入]
 11/1付更新で公開予定の「雨上がりの午後」ですが、ご覧になっている方はご存知でしょうが、次回でとうとうChapter100に達します。これでもまだ4番目の書き溜めファイルの中なのですから、一体何時になったら終わるのか私自身まるで予想出来ません。無責任だ、と思われるでしょうが、私が書きたい話を書き切るにはまだまだ足りないというのが実情です。
 連載も1000回を突破して久しく、このままでは2000回到達は必然的になりそうです。祐司君の進路はまだ決めかねているようですし、今はコンサートの真っ最中。このコンサートを終えたら進路を決める、となれば話は早いんですけどね(それでもまだ書きたいシーンが山とありますが)。
 プロ野球ではかつて衣笠選手が前人未到の連続出場記録を達成しましたが、来シーズンで金本選手(タイガース)に破られる見込みです。私の連続記録はとっくに途絶えていますが、少なくとも継続回数では他所様のページに負けないように頑張って書き進めていきたいと思います。
「ま、細かいことは気にしない、気にしない。」
「自分で言っておいて、勝手な人だねぇ。」

 会場から笑いが起こる。リハーサルでもやっていたから聞き慣れている筈なんだが、思わず俺も笑ってしまう。本番でも気さくで息の合った掛け合いを見せてくれるあたりは流石だな。

「さ、それはさておき、ノリの良い曲が続きましたね。ここらで一度しっとりした気分に浸っていただきましょうか。」
「そうだね。我がグループ自慢の二人の美女主役でね。」

 客席から俄かに拍手と歓声が沸き起こる。晶子と潤子さんの「進出」を待ってました、と言わんばかりのものだ。晶子はさっき出ているが、潤子さんはステージ上段、客席から見れば奥の方でシンセサイザーに向かっていたからな。

「まずは、ヴォーカル曲『Secret of my heart』。続いては舞台をシンセからピアノに移してのソロ曲『TERRA DI VERDE』。この2曲を続けてお送りしましょう。どうぞ!」

 拍手と歓声と指笛に迎えられて、晶子が小走りでステージ脇から出てくる。そしてマイクをマスターから受け取り、スタンドに戻す。俺はフットスイッチでエフェクターを選択して演奏準備に入る。青山さんのスネアで頭一つ出てから演奏に入ることになっている。俺は、これまでシーケンサに任せていたぷわぷわした感じのシンセらしい音を担当する。難しくはないがミディアムスローのこの曲の雰囲気の一翼を担うパートとして油断はならない。
 兎も角この曲が終われば一旦休憩。それまでの辛抱だ。気のせいか耳の聞こえが多少良くなってきたように感じるが、熱で沸騰している頭の感覚に頼るより、冷静沈着なリズムの音に頼るのが賢明だろう。晶子のステージを滅茶苦茶にするわけにはいかない。プレイヤーとして。そしてパートナーとして。

雨上がりの午後 第1322回

written by Moonstone

「そりゃ何てったって、我がチームが誇る将来の名ギタリストの卵だからね。」
「おいおい。この前のMCで、チームじゃ野球やサッカーみたいだ、って言ったじゃない。」

2003/10/19

[また風邪ひいちゃった(汗)]
 今度はちょっと本格的。鼻水が酷いしくしゃみも頻発。特に鼻水が酷くてしょっちゅう鼻をかんでます。これで1作半書き上げたんだから結構凄いよな(汗)。その代わり、一日何度も寝入ってましたけどね。
 ちょっと具合が良くないので、今日はこの辺で終わりにします。3日間熱く語ってきた反動かな?兎に角ゆっくり休んで早く治すようにします。
 32小節分演奏したところのラストで再びシンセ音のバッキングがクイで駆け上がり、シンバルのロールと共に白玉で最後を飾る。音の響きが残っている間に、マスターのサックスが細かいフレーズを少しだけ加えてラストを演出する。音の響きが消え始めると客席から大きな拍手と歓声が沸き起こる。マスターはサックスのストラップから身体を抜き、サックスを振り上げて歓声に応える。そしてステージ中央のマイクスタンドからマイクを取る。

「はいはい、連続3曲聞いていただきましたが皆さんどうですか?少しは涼しい気分になれましたか?」

 マスターがそう言ってマイクを客席に向けると、「なれたぞー」とか「最高ー」とかいう声が返ってくる。

「ヴォーカル2曲が入ったけど、やっぱりサックスとは違うのかな?」
「よく似てるんじゃないかな。息を使って音を出す、っていう基本部分は同じだし。それにリードや指使いが加わって音程を変えるようにしたのがサックスに相当するんだと思うよ。」
「しかしあれだね。ギターでハーモニカの音を出すとは皆さんには意外だったんじゃないかな?あれを最初に聞いた時は、僕もホントにびっくりしたよ。」

 桜井さんのMCで拍手が起こる。俺は一瞬戸惑ったが、直ぐに客席に向かって一礼する。

雨上がりの午後 第1321回

written by Moonstone

 16小節分演奏したところのラストでシンセ音のバッキングがクイで駆け上って場を盛り上げ、再びフルートっぽい音の基本フレーズにソプラノサックスが絡む。今度のサックスは細かいフレーズが主体だ。よくリズムが乱れないものだと毎度毎度感心させられる。マスターは休符を巧みに生かして息継ぎをしながら、複雑な、しかし嫌味のないフレーズを奏でる。

2003/10/18

[これでも「自民党より民主党」ですか?(3)]
 経済界の要求に応じて形作られた「自民VS民主」の構図。更に双方経済界の「信用」を得るための政策をぶち上げていますから、アメリカの「共和VS民主」、イギリスの「労働VS保守」と同等、否、それ以下のレベルの「どっちもどっち」の争いでしかないわけです。それが消費税率の引き上げであり、憲法「改正」であり(民主党は「創憲」と言っていますが、「憲法を『不磨の大典』とすることなく」と前置きしているところからして今の憲法を変えようとしていることは明らか)、更に郵政民営化にも表れてきているわけです。
 元々郵政民営化は電電公社の民営化、国鉄の分割民営化同様、国民から出てきた議論ではありません。こういう時の決り文句は「民業を圧迫している」「民間活力を利用していない」です。要するに自分たちの儲け口が少ないから開放しろ、という利害関係者(この場合は銀行や生命保険)の声を代弁しているに過ぎません。しかし、郵政を民営化して良くなるのか、という議論はさっぱり見えてきません。それもその筈、現に民営化したスウェーデンでは、都心部と僻地の郵便料金の格差の発生など、今の郵便が維持している国民の権利でもあるユニバーサルサービス(全国何処でも同じ行政サービスが受けられる)が崩壊してしまっているからです。マスコミがこういう事実を報じないのは、先に言ったように「自民VS民主」が自分達のスポンサーである経済界の意向であり(郵政民営化も経済界の意向)、それを煽る役割を担っているからです。
 このように、経済界の意向で作られた「自民VS民主」の構図に目を向けていては、どちらが政権をとっても経済界にとって安心の、国民いじめの政治が続くだけなのです。経済界が最も強大化を怖れるのは日本共産党です。何故なら日本共産党は企業団体献金を一切受け取らず、企業に応分の負担を求めることを掲げているからです。このような政党を伸ばすことこそ、今の政治の舵を大きく変えることに繋がるのではないでしょうか。(おわり)
マスターのソプラノサックスが少しだけ入って、同じく優雅に泳ぐ熱帯魚をイメージさせる。曲のタイトルに相応しいようによく考えられて作られているな。
 メロディに入る。俺とマスターのユニゾンだが、今度はエレキのナチュラルな響きを生かしたものだ。管楽器を意識する必要はない。ソプラノサックスが休んでいる間に俺が合いの手のようにフレーズを入れる。このあたりはさり気なく、さり気なく・・・。ソプラノサックスが奏でるメロディが印象的だ。俺はソプラノサックスとのユニゾンを終えるとごく簡単なバッキングに専念することになる。
 俺のギターとソプラノサックスのユニゾンが盛り上がりを見せたかと思うと、前奏に戻る。再び軽やかなベル系の音がシーケンサ的なフレーズを奏でる中、ソプラノサックスの高音と俺のギターがよく響く。バッキングが機械的な分、余計に音が生きているように感じる。そう、ここでは簡単なフレーズをいかに「生きた」ものにするかが勝負どころだ。さっきはハーモニカの模倣だったから、頭の切り替えが要求される。
 そして再びマスターとのユニゾンだ。合いの手を入れるところも同じ。さり気なく、涼しげなイメージで弦を爪弾く。自分が何かをイメージしながらの演奏は客に伝わりやすいことをこれまでのステージで経験している。水槽の中を涼しげに、優雅に泳ぐ感じで・・・。マスターのサックスが良い味を出している。やはり俺と同じようなイメージを思い浮かべているんだろうか?曲は俺とマスターのユニゾンで一気に盛り上がる。加わってきたシンバルのロールが爽やかで耳に心地良い。
 フルートっぽいシンセ音でメロディが奏でられる。簡単な旋律だが印象深いものだ。バッキングのシンセ音が涼しげで心地良い。よく似た形の二つのフレーズを演奏すると、今度はそこにソプラノサックスが加わる。そのままユニゾンしていくのかと思ったら途中で離れ、自分のフレーズを奏でる。二つの異なる旋律が存在するわけだが、これがどうして全然耳障りじゃないんだよな。作曲者の技量のなせる業か、それとも演奏者の技量のなせる業か。どちらにせよ爽やかで心地良いことには間違いない。
 曲はコーラスっぽいクイが連打された後、ソプラノサックスのソロに入る。一定のリズムを刻むコンガと低音を支える割と忙しいウッドベースとベルを含んだ涼しげなシンセ音をバックに、マスターのソプラノサックスが優雅にフレーズを奏でる。決して細かい音符の連発ばかりじゃないところがここのミソだ。ダイナミクスを存分に生かし、音の長短とアタックの速さにメリハリを効かせた、休符部分もフレーズの一部ということも思い知らされる、本当に優雅で心地良いフレーズだ。
 再び俺とのユニゾンで盛り上げておいてから、マスターは潤子さんの共演に入る。潤子さんは例のフルートっぽいシンセ音で基本となるフレーズを奏で、そこにマスターがソプラノサックスで自由な形で絡む。ソプラノサックスは時にゆったり、時に早く次々と音を発していく。ダイナミクス、長短、アタック、休符を存分に生かしたフレーズが本当に涼しげで、同時に生命の息吹を感じさせる。聞く度思うが水族館のBGMにぴったりだな。

雨上がりの午後 第1320回

written by Moonstone

 俺は単音主体の演奏だ。ベルの音とこれまた涼しげなシンセ音のバッキングの中でのこの演奏は、さながら水槽を優雅に泳ぐ熱帯魚、といったところだろうか。

2003/10/17

[これでも「自民党より民主党」ですか?(2)]
 大体、旧民主党と自由党が合併して出来た今の民主党自体が、経済界の意向を踏まえた、自民党と政権が変わっても経済界が安心出来る政党として作られたという事実があります(「月刊「BOSS」11月号)。旧民主党は労働組合を締め付けている労働貴族集団。自由党は自民党の中でもタカ派の集団が自民党をカッコ良く(そのつもりで)離脱した集団。ですから旧民主党が政権を取ると労働組合に有利で経済界に不利な政権が出来てしますのではないか、という不安が経済界の中にあったわけです。その点、自由党は党首の小沢氏が消費税増税、自衛隊の軍隊化、憲法9条「改正」など、経済界と二人三脚の自民党の政策をより強い形で受け継いでいる。その二つがくっ付けば、経済界も安心の巨大右派政党が出来て、政権交代しても経済界は安心、というからくりです。
 明らかな政治買収といえる、自分たちの主張への「貢献度」に応じて献金をちらつかせる、経済界の大集団である日本経団連と民主党は会談し、「政権交代可能な野党」を求める奥田会長に「民主党にかけていただきたい」と言い、もう一つの経済界の大集団である経済同友会は2003年7月18日に「マニフェストで競う総選挙の実現を」というアピールを採択。そこでは野党に「批判勢力からの脱皮」を求め、保守二大政党による「政権選択」選挙を働きかけています。要は経済界の意向に合わせて生まれた野合の集団、それが民主党なのです。経済界では有名な稲盛和夫・京セラ名誉会長も旧民主党と自由党の合併に深く関与していることは、識者の間では有名です(月刊「BOSS」11月号)。
 これでお分かりのとおり、「自民VS民主」の構図は経済界の意向で生み出された意図的な選挙構図なのです。経済界、即ち大企業の広告料金で経営が成り立っているマスコミが「自民VS民主」の構図を煽るのは、こういう背景があるからです。こんなマスコミは要りません。(つづく)
ハーモニカの特質をフルに生かしたこのソロをギターで再現するのは至難の業だ。だが負けるわけにはいかない。一回一回の弦の弾きに微妙な力加減を働かせ、フレットの上にある左指を息遣いのように動かす。
 フレーズは寄せては返す波のように強弱が何度も何度も繰り返される。昨年行った海の浜辺を思い起こす。フレーズをなぞるばかりが演奏じゃない。強弱や長短を上手く組み合わせ、その曲に合った演奏をするのがプレイヤーの役目だ。音を強調するところでは弦を強く弾き、時にはアームも効かせ、音を吐き捨てるようなところではさり気ない感覚で弦を軽く弾く。
 音の伸びが特に強調される最後の4小節では、アームとビブラートを組み合わせて生々しい息遣いを表現する。ラストの音は足元のボリュームも組み入れてハーモニカ独特の音の震えを表現する。・・・良い感じだ。
 また晶子のヴォーカルが入る。俺とマスターはその合間に合いの手のように短いフレーズを入れる。短いが油断は禁物。あくまでもギターという楽器を通してハーモニカを演奏しているつもりになって演奏する。ここで気を抜いたら全てがお釈迦だ。短いフレーズだから、バッキングだから、といって軽く扱わないのが本物のプレイヤーだ。プロと共に演奏している今、それを特に強く思う。
 晶子のヴォーカルはコーラスに替わり、ゆったりとした流れでフレーズの上を漂う。俺とマスターの演奏はストップ。16小節は晶子のコーラスに国府さんのピアノが絡むという構図で続く。俺は目を閉じ、リズムに乗って自然と身体を揺らしつつ晶子のコーラスと国府さんのピアノに聞き入る。南国の浜辺はこんな感じなんだろうか・・・。
 晶子のよく伸びるコーラスに、国府さんの中音部の白玉クイと高音部のキラキラした感じの細かいフレーズが彩りを添える。そこに潤子さんの目立たないが柔らかいストリングス系のパッド(註:主に白玉を演奏する際に使う音色)が広がりを加える。存分に音を伸ばした後、全ての音が消えていく。鳴り響いていた手拍子が拍手と歓声の津波となって押し寄せてくる。
 俺は目を開け、直ぐにエフェクターを切る。次の曲「Aquatic Wall」に備えるためだ。俺の出番は少ないがギタリストのテクニックが問われる部分もあるなかなか歯応えのある曲だ。この曲を終えるまで俺はギターをぶら下げていなきゃならない。俺の背後を走り去っていく晶子を横目で見送りながら額から噴き出る汗を袖で拭う。暑い。兎に角暑い。頭上から照らす照明に加えて自分が発熱体になっているから暑いのは当然だろう。まだまだコンサートは序盤だ。気を抜くわけにはいかない。
 コンガの音と共に涼しげな感じを醸し出すは十分なベル系の音がフェードインしてくる。このあたり、コンガの音が先に鳴り始めることになっているとは言え−その部分は俺には聞こえなかった−、潤子さんと青山さんの息がぴったり合っている。そしてシンバルのロールが入ってくると演奏開始の合図だ。

雨上がりの午後 第1319回

written by Moonstone

 晶子のヴォーカルが終わると、俺とマスターにとって最大の難関が待ち構えている。16小節に及ぶハーモニカのソロだ。

2003/10/16

[これでも「自民党より民主党」ですか?(1)]
 昨日イベントがあって、強い者いじめをする絶好の機会があったんですが、どうも私が質問慣れしていないせいでいまいち迫力&追求力不足。痛いところを突いた、という感覚はあるんですが、まだまだ相手を追い詰めるには力不足だと実感しました。もっと練習を積まなければいけません。何事も修練あるのみ。
 さて、民主党がまたも本音を出しました。管代表が年金財政に充てるためと称して消費税を10%にする必要があると言い出したのです。とは言え私は何も驚いてはいません。元より民主党は消費税を税金の重要な名目の一つとしています。管代表の提言はそれが表に出ただけのこと。マスコミが「小泉VS管」を煽り立てているから目立たない、否、目立たないように隠されているだけです。
 社会保障の財源のため、年金財政のため、と色々口実はありますがどれも出鱈目嘘八百。これまで金持ちから貧乏人まで「平等に」買い物の度に巻き上げられてきた消費税約130兆円は、法人税減収の穴埋めに使われてきたのです。
 考えてもみてください。自民党や民主党は勿論、公明党や保守新党はことある毎に消費税は社会保障のため、などと言ってきましたが、実際には医療費の労働者本人3割負担へのアップ、保険料聴衆の総報酬制(簡単に言えばボーナスからも保険料を徴収すること)の導入、物価の下落に伴う年金スライドの実施など、社会保障がどんどん崩されてきたのが実情ではないでしょうか。幾ら社会保障や年金を持ち出したところで、実際がそれに反映されていなければ、それは票目当ての偽りの看板であるばかりか、有権者、ひいては国民に対して嘘に嘘を重ねる背信行為と言わなければなりません(つづく)。
 半拍分のスネアのフィルの後、シーケンサ的なフレーズを奏でるシンセ音と華やかさを生かしたピアノが入ってくる。安心しては居られない。俺の演奏はこのイントロ段階から始まるからだ。ここはまず音の伸びが強調されるべき部分だ。俺は弦を弾く強さにも気をつけながら、フレットの上にある左手をやや緩やかに揺らしてハーモニカらしい演奏を心がける。ハーモニカと同じ「吹く楽器」であるソプラノサックスもその辺は心得ているらしい。
 マスターと呼吸を合わせつつ、俺は10本の指に全神経を集中する。吹く楽器で奏でられるメロディを弾く楽器で演奏すること自体にかなりの無理があるのは否めない。だが、サックスとのユニゾンは何度も経験してきたことだ。サックスとハーモニカじゃかなり違うが吹く楽器特有の息遣い、楽譜では白玉になりそうなところで短く吐き捨てるように吹き残すところは、アタックを強調してそう聞こえるようにすればそれなりに聞こえる、エフェクターは試行錯誤してハーモニカに出来るだけ近づけたつもりだ。
 俺とマスターの演奏に代わって晶子のヴォーカルが入る。ウィスパリングを効かせたその歌声は、流暢な発音と相俟って南の島の砂浜に打ち寄せるさざ波を思わせる。潤子さんのシンセも、国府さんのピアノも、桜井さんのベースも、青山さんのドラム−スネアだけだが−も、それぞれが控えめに自己主張しつつヴォーカルを支えている。
 再び俺とマスターのユニゾンに入る。マスターの息遣いに合わせようとすると失敗する。何故なら指使いは見てリズムを把握することは出来ても、聞こえて来る音を頼りにリズムを取ろうとすると必ずタイムラグが生じるからだ。今まで試行錯誤と練習を重ねてきて指に染み込ませた弦の弾きや指の揺らしに全てを賭けるしかない。強弱入り乱れるスネアでリズムを取りながら、俺は懸命にフレットの上で左手を動かし、右手で弦を弾く。
 こだわるところはとことんこだわる。ハーモニカとはまったく違う性質の楽器をハーモニカに近づけてやる。偏屈ギタリスト安藤祐司の10本の指とギターを一体にして、ハーモニカの音の揺れと金属的な響きを再現してみせる。身体中が燃えているように熱い。全身から汗が噴出してくるのを感じる。これで熱が下がるなら儲けものだ。俺はただひたすら指に意識の全てを注ぎ込む。
 よし、切り抜けた。晶子のヴォーカルが入るのに合わせて俺は右手から力を抜く。それと同時に全身から力が抜けそうになるが何とか踏み止まる。晶子の歌声が立ち消えしそうになる俺の意識を保ってくれているようだ。セイレーンという魔物はその歌声で船乗りを魅了して難破させるというが、俺のやや右斜め前で身体を揺らしながら歌う井上晶子というセイレーンは、俺の高熱に揺らぐ意識に輪郭を与え、足がステージについているという感覚を齎してくれている。人助けの上手いセイレーンだよ、まったく。

雨上がりの午後 第1318回

written by Moonstone

 ステージ左脇からソプラノサックスをぶら下げた−勿論手で支えているが−マスターが出てくる。俺は急いでエレキに切り替えてフットスイッチでエフェクターを選択する。どういうわけかソプラノサックスと一緒にハーモニカのフレーズを演奏する羽目になった次の曲「PACIFIC OCEAN PARADISE」のためだ。

2003/10/15

[風邪ひいちゃった]
 もう幾ら涼しいからといって半袖で過ごすもんじゃないですね。朝から鼻水は止まらないわ、くしゃみは出るわ、関節の彼方此方が痛いわで、非常に辛い思いをしました。昼休みに温かくして寝た(毛布被った)お陰で何とか回復して仕事出来ましたが、これから益々寒くなるに伴い風邪対策は必須ですね。私は風邪をひきやすいタイプなので。
 この時期は服装や布団の組み合わせが難しいですね。厚手一色にはまだ早いし、かと言って薄手一色では今回みたいに風邪をひいたりする。少なくとも半袖の上に長袖1枚着ていないといけないことは、今回で実感させられましたが。
 それはさておき、投票所Cometがちょっと盛り上がっているようです。現状では「雨上がりの午後」が一歩頭を出しましたが、多数の読者を持つ(らしい)「魂の降る里」やまだ票を獲得してないその他の作品の動向も見逃せません。まだの方は是非投票を。連載がお気に入りの方は「雨上がりの午後」へどうぞ。
 柔らかいストリングスが中高音部を彩る中、次第に切なさを帯びてきた晶子のヴォーカルが歌詞の世界を描く。俺のギターは合いの手みたいな感じでそれに花を添える。花になってるかどうか怪しいが。やがてヴォーカルはヤマ場に達し、切なさがじんわり伝わってくる。楽器との歩調もぴったりだ。本当に文句のつけようのないヴォーカルぶりだ。
 やや鋭いストリングスと共に、爽やかさを取り戻した晶子のヴォーカルが軽快に響く。歌を聞いているとその光景が自然と頭に思い浮かび上がってくる。昨年マスターと潤子さんに連れられて海に行った時のことを思い出す。場所が海じゃなくてプールだったら、晶子が歌詞に出てくるような仕草をしていても何ら不思議じゃないような気がする。
 曲は間奏に入る。晶子のヴォーカルが最も切なさを帯びる部分をベース以外の楽器が演奏するというものだが、晶子がそこに無声音でコーラスを入れる。8小節の短いものだが、ヴォーカルが消えている分楽器の音がよく目立つから演奏する側としてはより気を抜けない部分だ。俺は目と耳でテンポをキープしつつ、弦の上で指を動かす。自然な感じで動く。良い感じだ。
 再びヴォーカルが入る。切なさを帯びて始める部分からだ。俺は音を伸ばす部分でちょっとビブラートを効かせてヴォーカルの醸し出す切なさに彩りを添える。そして合いの手的に演奏する部分では音のツブを際立たせる。こうしてメリハリを利かせることも演奏では大切なことだ。
 切なさを存分に帯びた晶子のヴォーカルが朗々と会場に響く。高音部が特に切なさを感じさせる。聞き惚れていると演奏を忘れてしまいそうだ。店での演奏回数が他の曲よりやや少なかったのに、どうしてここまで表情豊かに歌えるんだろう?やっぱり家で一人練習を重ねてきたんだろうな。それを無にしないためにも俺も自分の力を全て出さねばならない。
 輪郭のはっきりしたストリングスとデュエットするように、晶子の爽やかなヴォーカルが広がる。湿気が纏わりつく鬱陶しいものとは違う、歌詞にも出てくるような新しい風が吹き抜ける爽やかな夏の一コマを楽器と共に演出している。一緒に練習し、ステージにも上がった俺もお見事、と言いたくなるヴォーカルが「Kiss」の一言を最後に楽器音と共にぴたりと止む。一瞬沈黙が支配した会場に拍手と歓声がこだまする。

雨上がりの午後 第1317回

written by Moonstone

 再び俺のアコギがちょっと前面に出て、晶子の歌を下支えする。晶子の身体の揺れは青山さんのドラムとぴったりシンクロしていてどちらを取るべきか迷う必要はない。出てくる時は緊張で表情が固まっていたのに、いざ本番、となるとその緊張感を力に出来るとは。やはり俺が教えることはもうないな。

2003/10/14

[1日寝てた]
 作品制作その他で明け方まで起きていて、起きたのは昼前。作品制作の準備はしたんですが、題材を考えていたら時間が過ぎてしまい、更に寝入ってしまったのもあって、結局何も出来ませんでした。1日寝てた格好です。・・・まあ、たまにはこういう日もあって良いだろう(たまに、じゃないか)。
 この時期は寝やすいですね。暑くもなく寒くもなく。しかし、こんな自堕落そのものの生活をしておいて、今日からの普通の生活リズムに復帰出来るんだろうか?(汗)今週は忙しいからきちんと動ける態勢にしておきたいところなんですが・・・。
 水曜日にはちょっとしたイベントがあります。本来イベントと言うものではないんですが、絶好のいじめ相手がわざわざ肩書き背負ってやって来るので、これはいじめずにはいられないでしょう。強い者いじめほど楽しいものはないですからね(ニヤリ)。
俺は演奏の準備を整えると晶子の方を向き、その右手に注目する。「Kiss」はいきなりヴォーカルが入る上にギターも同時に入るから、ぴったり呼吸を合わせないといけない。それに俺は耳が満足に聞こえないから、事前の晶子との打ち合わせで決めた合図を頼りに演奏を始めるしかない。果たして上手く出来るか・・・。
 不安に思っていると、晶子が身体を軽く揺らし始める。これは・・・テンポを取っているのか?1、2、3・・・4のタイミングで右手が少し上がる。俺は演奏を始める。
 スピーカーから聞こえて来る晶子の声と俺のギターの音がきちんとシンクロしている。晶子は俺がタイミングを取りやすいようにしてくれたんだ。これまた嬉しい誤算だ。俺のことをきちんと考えてくれてたんだな。まったく俺は良い彼女を持てたもんだ。
 8小節分の俺と晶子のデュエット−と言うんだろうか−が終わる直前になって、シンセサイザー、ベース、ドラムが続々と入ってくる。シンセの音は爽やかな感じがする音色で、この曲が夏を意識して作られたことを窺わせる。演奏の間、晶子は身体を軽く揺らしてリズムを取っている。俺はその様子とスピーカーからの音を頼りに演奏を進める。
 晶子のヴォーカルが入る。やや前面に出した俺のアコギのアルペジオとよく溶け合う、透明感のある声が響く。爽やかな夏をイメージさせるには十分だ。何時も以上に晶子の声が綺麗に聞こえるのは気のせいか?
 爽やかなイメージの曲調が少し変化する。本当はバックコーラスが入るところなんだが、コーラスが出来る人間が居ないから仕方ない。晶子のヴォーカルが徐々に切なさを帯びてくる。曲調に合わせて歌い方も変えるようになったとは、晶子も本当に上達したもんだ。俺が教えることなんてもう何もないな。嬉しくもあり、ちょっと寂しくもある。
 切なさを前面に出した晶子のヴォーカルが広がる。何だか俺に向かって歌っているような気がするが・・・熱で頭が逆上せたせいか?そう思っていると、再び爽やかな雰囲気に変わって最初の部分を歌う。勿論歌詞は違うが。うっかりしていると演奏を忘れて聞き入ってしまいそうだ。それだけの「吸引力」を晶子のヴォーカルは持っているように思う。

雨上がりの午後 第1316回

written by Moonstone

 晶子は賑やかになった客席に迎えられて、ステージ中央のマイクスタンドの前に立つ。俺はその間にギターをアコギに切り替える。絶不調の身体でのこの作業はかなり堪えるが、ここは我慢のしどころだ。

2003/10/13

[徹夜と年齢との因果関係]
 今の自宅に引っ越してきた約10年前は平気で徹夜なんて平気。それどころか朝の5時までゲームやり続けて2、3時間寝た後出勤を連日続ける、なんて荒業(アホか)も出来たんですが、今じゃ徹夜したら平日の平均睡眠時間は休まないと動けません。10年の年月は人間を平均的な生活リズムに近づけるんでしょうか。
 昨日は徹夜して1作品仕上げたんですが、その次を書こうとしたら頭を浮遊させるような眠気に見舞われて昼間は殆ど作品制作出来ず、夕食後ようやく目覚めた頭で作品制作をしつつ今のお話をしています。
 昨日はとてつもないおぞましい事件に遭遇しました。それで一気に目覚めたんですが、とんでもない目に遭いました。何があったか、って?あまりにもおぞましいのでとてもここではお話出来ません。思い出してしまうし夢にも出そうだし(汗)。どうしても知りたい、って方はメールか掲示板JewelBoxでご一報ください。今回は希望者が居ないことを祈ります(切実)。
 客席から笑いが起こる。

「さて、今までの3曲は楽器のみの曲、正確にはインストルメンタルの曲だったわけですが、今回の我がチームにはヴォーカルも居るんだよね。」
「チームって言うと、何だか野球とかサッカーみたいだね。」
「まあ、良いじゃない。呼び方なんて。じゃあ何て言うわけ?」
「グループとか。」
「それじゃ変わらないじゃないの。」

 マスターと桜井さんの掛け合いに、客席から笑いが起こる。流石に長い間行動を共にしてきただけのことはあるな。会場全体が和やかな雰囲気になったような気がする。

「ま、それは兎も角、我がチームがインストルメンタルだけではないことを証明しましょう。お客さんもお待ちでしょうし。」
「そうですね。では続けて3曲参りましょう。ヴォーカル曲の『Kiss』『PACIFIC OCEAN PARADISE』、そして再びインストルメンタルに戻って涼しげな雰囲気を皆さんに。『Aquatic Wall』。この3曲を続けてお送りしましょう。」

 客席からの拍手の中、マスターはマイクを元の位置に戻してステージ脇に退散し、桜井さんは後ろに引っ込む。そして緊張で表情が引き締まった晶子が小走りでステージに出てくる。すると拍手がより大きくなり、歓声や指笛まで混じる。晶子を知ってるこっちの店関係の客は、この瞬間を楽しみに待っていたのかもしれない。一人でこれだけ客の注目を集められるのは、晶子のルックスの成せる業だな

雨上がりの午後 第1315回

written by Moonstone

「いやぁ、序盤から熱いコンサートになってきましたねぇ。」
「お客さんも早々とオールスタンディングで。座って聞いていただいてても構わないんですよ。でないと脳みそ沸騰しちゃうかも。」

2003/10/12

[スランプか?]
 昨日は午前2時に寝て午前4時起床(汗)。二度寝したら先週の二の舞になる、と判断したのでそのまま朝食を食べてPCに向かい執筆開始。だけどなかなか思うように書けず、ちょっと一休み、と思ったら3時間ほどお休み(汗)。その後も書く時間より休憩時間の方が長いという状態が続き、結局半分ほどしか書けませんでした。
 この前の月曜日、医師にどうも気分が乗らないと相談したら、「この時期は気分が落ち込みやすい」とのこと。それに加えて躁鬱の緩やかな山と谷の谷間に入っているらしく、これは薬でもどうにもならないとのこと。だから先週はまともに仕事が手につかなかったのね(汗)。
 でも、定期的な更新でご来場者数を伸ばしているこのページの運営にとっては死活問題。早く何とか谷間を脱出しないことには大変なことになります。昨日スケジュールどおりに進まなかったお陰で大幅にスケジュールが狂う有様。徹夜で書いて取り戻すしかないのか?
 マスターもテナーサックスであることを意識してか、ダイナミクスを強調した演奏をしている。サビの部分に入ると、わざと「行儀の良い」演奏ではなく、多少モタった演奏をする。歌手が譜面からわざと外れた調子で歌って聞き手にそのフレーズを印象付けようとするのとよく似ている。否、テナーサックスは息を使う楽器だから殆ど同じと言った方が的確か。
 もう一度最初に戻ってサビまで繰り返す。俺の出番は全くない。マスターの演奏するテナーサックスが益々熱と艶っぽさを帯びてきたことだけは確実に分かる。聞いているとふわふわしてくる。曲のテンポはゆっくりした方だし、テナーサックスの音色が音色だから、聞いていると酒を飲んで良い気分になった時みたいな感じになる。足元がふらつきそうになるのを何とか堪えて、演奏に耳を傾ける。
 間奏部分に入る。原曲ではここでサックスのエフェクター−リバーブ(註:残響を人工的に作り出す効果のこと)だけだが−が切れて原音そのままになるんだが、この広い会場では否が応にも残響が生まれる。マスターはそれを考慮してか、原曲より発音をやや短めにしてツブを際立たせている。そして最後は原曲どおり、残響をたっぷり含んだフレーズで締めてサビの繰り返しに入る。
 繰り返されるサビのバッキングの中で奏でられるテナーサックスのフレーズが、本当に歌っているように聞こえる。音の高低、ダイナミクス、そしてモタり。これらをフルに生かした演奏は、息を使った楽器ということも相まって、年季をつんだ男性歌手が歌っているように聞こえてならない。基本のフレーズから徐々に変化していき複雑になっていく課程でもそれらは失われず、マスターはサックスという楽器を通して歌っているんだ、と感じさせる。
 32小節分繰り返された後、俺もダウンストロークでエンディングに加わる。シンセ音とシンバルワークの中、マスターのテナーサックスがジャズっぽい駆け上がりフレーズを特別艶っぽい音色で奏でる。微妙に揺れる最後の音の伸びが耳に心地良い。そして全ての音が闇に消えていき、拍手と歓声が沸き起こる。マスターはステージ中央にセッティングされている、晶子が使うマイクをスタンドから取り外す。

雨上がりの午後 第1314回

written by Moonstone

 俺も単音のバッキングを加えたイントロが終わると、サックスが艶っぽい音色を響かせ始める。「Jungle Dancer」ではアルトサックスだったが、「HIBISCUS」ではテナーサックスが使われる。見た目には殆ど変わらない楽器なんだが、テナーサックスはアルトサックスより更に艶っぽさを含んでいるように思う。

2003/10/11

[今日から3連休]
 かと言って特別何処かに出かけるつもりもなく、買出し以外はひたすらPCに向かう日になるでしょう。毎度のことですけど。先週丸々潰した分、今日からはしっかり書かないと来週の更新がとてつもなく寂しいものになっちゃいます。まあ、更新したところでこれといった反応があるわけじゃないですから、連続更新記録を何処まで伸ばせるか、という自分との闘いが主ですけど。
 その点、連載という形で少しずつ書き進めている「雨上がりの午後」は比較的楽なんですよね。区切りの良いところで(ない時はちょっと困るが)切って、編集・加筆してアップするだけですから。もっとも次回から始まる新展開ではかなりの書き直しを迫られることが分かってますけど(汗)。
 投票所Cometでの得票も「雨上がりの午後」と「魂の降る里」が一歩リードしてますね(2票ですけど)。カウンターの値に比例しているというか。その一方で意外な作品に票が入っていたり。この後の展開が楽しみです。連続投票じゃなければ何度でも投票出来ますので、お気に入りの作品にどんどん投票してください。
俺はマスターの指の動きに注目して−視力が良いのは幸いだな−サックスと歩調を合わせてフレーズを奏でる。徐々に駆け上がるようなフレーズに続いて、一気に細かいフレーズで駆け上がる。・・・成功だな。まずはひと安心だ。
 再びバッキングが始まった。俺はSEを入れる。動物の鳴き声をギターで表現するというのは、初めて聞く人間にとってはかなり意外なものだろう。俺もこの表現には苦労させられたが、ギターが単にドレミファソラシドとコードを演奏するだけの楽器じゃないってことをアピール出来る面白い場所だ。最後の狼の遠吠えではボリュームもより丁寧に操作して、「らしさ」を強調する。客席から大きな拍手が起こる。どうやら好感を得られたようだ。
 そしてギター単独、サックスとのユニゾン、ギター単独、サックス単独と曲は進み、最後のサックスソロに入る。ここではサックスの底辺を支えるように、音の伸びを効かせたフレーズを演奏する。エレピのバッキングもかなり細かくなってくる。それでもサックスの邪魔にならないように聞こえるあたりは流石と言うべきか。
 細かい駆け上がりのフレーズが奏でられ、全ての音が客席に向かって伸びる。そんな中、コンガの音だけが奏でられ、それも徐々に小さくなっていく。やがコンガの音が聞こえなくなり、伸びていた音も消えていく。全ての音が完全に消えたところで手拍子が拍手と歓声に変わる。良い感じで締めることが出来たな。
 まずは一安心だ。演奏している間は身体が宙に浮いている感じがそれ程気にならない。それより自分の演奏を聞いてもらおう、という意識が前面に出て、高熱を出していて耳の聞こえが悪いという状態をかなり無視出来る。というか、そんなことに構っていられない。誰一人欠けてもこのコンサートは成功しない。その言葉が頭にあるから立っていられる、否、立って居なければならない状況下に自分を追い込んでいると言える。
 次は「HIBISCUS」。角の立ったシンセ音のクイが響き始める。この曲での俺の役割は本来はない。シンセを担当する潤子さんの両手で足りない部分を補う程度だから、何もせずに突っ立っている時間の方が圧倒的に長い。だからと言って気を抜くと、熱に負けて衆人環視の前でぶっ倒れることになりかねないから、目と耳に神経を集中させ続けなければならない。

雨上がりの午後 第1313回

written by Moonstone

 と思っていたら、この曲最大の難関、バッキングなしでのサックスとのユニゾンだ。ここは最初の方のそれとは違ってリズムがはっきりしないから、サックスとしっかり呼吸を合わせることが肝要だ。

2003/10/10

[一昨日の反動か?]
 昨日は朝から眠かった上に具合が悪く、予定を変更して早めに帰宅して横になっていました。一昨日頑張り過ぎた反動でしょう。今でも具合が悪くて、ネット接続時間まで寝ていたので、急いでこのお話をしています。
 連載の書き溜めがなかなか進みません。今回は今まで描写したことがない曲が多数あるので、それをリピート演奏させながら雰囲気を描いているので、書いている最中に演奏が進んでしまってもう一度最初から、なんてやっているので進みが異様に遅いんです。
 今回は全22曲を描写しないといけないので、今の書き溜めファイルが曲の描写で終わってしまいそうな感じです(汗)。3000行を区切りにしているんですが現在2379行。まだ序盤を書き終えたばかり。何時まで続くんだろうなぁ・・・。
 スネアの単純なフィルを合図に曲が基本のリズムに乗り始める。俺はリズムを聞きつつギターを操ってSEを続ける。そしてエレピのバッキングを背景に、音の伸びを前面に出したフレーズに切り替える。あくまでも自然に、楽しく・・・。宙に浮いているような感覚が心地良くなってきた。
 俺はドラムとベース、そしてエレピというシンプルなバッキングの中でメロディを奏でる。テンポキープは目と耳で確実に行う。晶子は律儀にリズムに合わせて手を叩いてくれている。まだスピーカーの音が聞こえると言ってないから−言う暇もなかったが−、俺がイントロをきちんとこなせたことを不思議に思っているかもしれないな。
 メロディにサックスが加わる。チラッと右を見ると、マスターがサックスを吹いている。マスターとのユニゾンは何度も経験があるから、安心出来る。サックスは俺のギターと溶け合い、艶を与えてくれる。
 再びギター単独になった後、今度はサックス単独になる。一音一音を大切にしていることがよく分かる、耳に心地良い音だ。そして序盤最大の難関、バッキングなしでのサックスとの細かいフレーズのユニゾンを弾きこなす。このあたり、何度も弾いているせいか指が動きを覚えているようだ。スピーカーの音は聞こえるとは言え、ここはサックスの音しか聞こえないし、それもタイミングを合わせないといけないから、これまでの練習や演奏が無駄じゃなかったと実感させられる。
 そしてギターソロに入る。ここはバッキングがあるから安心して演奏に専念出来る。ダイナミクス、ビブラートをふんだんに織り込んで「生きた」フレーズを奏でるようにする。これはこの曲に限ったことじゃないが。客席からの手拍子がもう一つのリズム楽器となって俺の演奏に花を添えてくれる。
 ギターソロの次はシンセソロだ。店での演奏ではマスターがサックスの音にエフェクターを通して演奏していたが、ここでは潤子さんが演奏する。ふわふわした音色で奏でられる細かいフレーズがこれまた耳に心地良い。それにしても、潤子さんは何時の間に練習したんだろう?幾らピアノを弾けるからって言ってもそう簡単に弾けるようになるフレーズじゃないと思うんだが。

雨上がりの午後 第1312回

written by Moonstone

 マスターのMCが終わると、客席から拍手が起こる。それが消えていったところでコンガが鳴り始める。青山さんがスティックで叩いているものだ。これもきちんと聞こえる。俺はタイミングを見計らってアームとビブラートを効かせた動物の鳴き声のSEを入れる。客席からどよめきが起こる。初めて耳にする客も居るだろうから、これは結構新鮮だろう。

2003/10/9

[この馬鹿女が!]
 仕事で遅くなった帰宅後、夕食を作りながらラジオを聞いていた(順番逆か?)んですが、5分枠の恋愛悩み事相談番組で、「3回告白したけどふられた。他の男の人と付き合った。それが信用ならない、と(告白した)相手に言われた。どうすれば想いは伝わるか?」という相談内容が読み上げられたんですが、空腹で不機嫌さに拍車がかかっていた私がそれを聞いた瞬間に思ったことが、今日のキャプションです。
 好きで告白した相手にふられたからといって他の男と付き合っておいて、「どうすれば想いは伝わるか?」なんて考える時点で頭がどうかしています(断言)。それで相手の信用が得られたら、よほど相手がお人好しか女好きかのどちらかです。自分で信用失墜行為をしておいて告白のOKという熟した信用を得ようなんて甘いに他なりません。
 丁度そんな間抜けな相談と同じような行為をしたのが、「雨上がりの午後」に登場する宮城優子です。その相談をした女には「雨上がりの午後」Chapter74を読むことを勧めます。そこに私からの回答が集約されています。・・・こんな馬鹿げた相談を取り上げる番組もどうかしてるんじゃないのか?ちなみに今でも相当不機嫌です(夕食は食べたけど)。
 EWIの音量が控えめになって、俺はギターソロを始める。ギターを縦方向に大きく傾けて、練習に苦労した複雑なフレーズに自分の即興のアレンジをブレンドする。ライトハンド奏法やアームも存分に混ぜて、ギターは此処に居る、というアピールを自分なりに最大限してみせる。人間と人間がぶつかり合い融合する形のコンサートならではの醍醐味を満喫する。自分が楽しくなけりゃ聞き手が楽しくない筈がない。それはこれまでのクリスマスコンサートで体験済みだ。
 ソロの最後を締めると、再び音量を増したEWIとメロディをユニゾンする。曲はラストに向かって着実に進む。EWIとギターのユニゾンの背景では、青山さんの細かいドラムフィルが混じる。それでもテンポキープは崩れることがない。最後は全員で呼吸を合わせて演奏を締める。
 短い残響が消えると、真っ暗で殆ど見えない客席から大きな拍手と歓声が飛んで来る。よく見ると、会場は前から後ろまでびっしり埋まっている。チケットが完売したから当たり前と言えばそうなんだが、これだけ縦にも横にも奥行きも広い会場を客が埋め尽くしているという現実を目の当たりにして、今自分は凄い場所に居ることを実感する。

「皆さん、今日はようこそお越しくださいました!」

 マスターのMCが始まり、再び拍手と歓声が飛んで来る。MCは会場全体に聞こえるようにか、かなりの音量だ。これなら俺でも聞き取れる。メンバー紹介でも大丈夫だろう。まだ気の早い話だが。

「普段はそれぞれのプラットホームで活動している面々が今回一堂に集い、この新京市公会堂という大きな会場でサマーコンサートを開催するに至りました。チケットをお買い求めいただいた皆さん、本当にありがとうございます。」

 客席から拍手と歓声と指笛が飛び出す。

「さて、オープニングは『MORNING STAR』で始まりましたが、オープニングに相応しいものではなかったか、とステージ脇で聞いていて思いました。続きましては夏の香り満載のナンバー、『Jungle Dancer』と『HIBISCUS』の二曲を続けてお送りします。どうぞお楽しみください。」

雨上がりの午後 第1311回

written by Moonstone

 さあ、ボリュームを少し上げてギターを少し前面に出したフレーズを奏でたあとは、ギター最大の見せ場だ。ここは気合入れていくぞ!俺の持つ技術を全て出して最高の演奏を聞かせてみせる!

2003/10/8

[・・・何と言うか・・・]
 ご来場者数500000人を突破したわけですが、現時点で祝意のメールも書き込みもゼロ。Total Guidanceで書いたように、確かに500000人突破は着てくださる皆様のお陰だということには間違いありません。だけど、一つの節目を迎えたページに対してあまりにも冷た過ぎやしませんか?
 他のページでは新作公開だけで書き込みが2、3通舞い込むというところもあります。ところがここでは新作を公開しても感想メールが2、3通寄せられるだけで書き込みはまずなし。幾ら自己満足でやっているとは言え、一抹の寂しさを感じずにはいられません。
 別に強制するつもりもありませんし、なければないで対応の手間がなくなるだけですから別に良いといえば良いんですが、あまりにも良いとこ取りし過ぎてやしないか、見るものだけ見ておいてあとは知らん振りか、という気がしてなりません。貴方がページ管理者だったら、果たして無反応で満足出来ますか?
 スネアのフィルでそれまでの勢いと盛り上がりが一転して静寂へと切り替わる。再びシンセブラスのファンファーレが鳴り響き、EWI、シンセ音、ピアノ、ベース、ドラムが一斉に加わり、華やかさを演出する。ここでは俺の出番はない。長く続くソロのバッキングに備えて、目と耳でテンポを確認する。
 EWIに代わって浮遊感のあるシンセ音がソロを奏で始める。これは潤子さんの演奏だ。ピッチベンド(註:シンセサイザーにある音程操作スイッチ)を巧みに利用した、滑らかなフレーズが印象的だ。口笛を聞いているような感じがする。ピアノを国府さんが担当しているから、潤子さんはシンセソロに専念出来るというわけだ。やはり人数が居て本物のピアノが入ると違うもんだなと実感する。
 旋律は原曲と多少違うが、原曲の再現に留まらない俺たちのコンサートということで良いんじゃないだろうか?潤子さんの演奏はアレンジされてはいるものの、原曲の雰囲気を壊さないように上手く纏まっている。流石は潤子さん。「本職」のピアノだけじゃなく、シンセサイザーも見事に弾きこなすとはね・・・。
 シンセソロに続いてはEWIのソロだ。いきなり6連音符で駆け上がるフレーズで始まり、複雑なフレーズをすらすらと弾きこなす。と思ったら、一音一音を際立たせるような演奏になったりと変化の激しい、言い換えればメリハリの効いた演奏を聞かせてくれる。勝田さんはEWIを旋律に合わせて上げたり下げたりして、「見せる」こともリハーサル以上に力を入れている。
 EWIソロは6連音符をふんだんに織り込んだフレーズが続き−勝田さんのアレンジだが、即興だろうか−、いよいよ最大の盛り上がり部分に差し掛かる。勝田さんはもの凄い速さで指を動かして6連音符の連続のフレーズを吹き鳴らし、それが終わると一転して分かりやすいフレーズで安心させる。あれだけややこしいフレーズを演奏しながら、きっちりテンポキープしているのは流石だ。しかし俺も負けては居られない。最後は俺の見せ場が待っている。
 曲はサビ前の部分に戻る。俺は音色を切り替える準備をして出番を待つ。・・・今だ!今回も絶妙のタイミングで切り替えに成功し、EWIの金属的な響きにまろやかさをプラスする。勿論、目と耳によるテンポキープは怠らない。桜井さんと青山さん、特にリズムの中核をなす青山さんのテンポキープは抜群だ。安心して演奏出来る。これがプロの実力か。

雨上がりの午後 第1310回

written by Moonstone

 足元のボリュームを少し上げて、ギターがやや前面に出る形になってサビの後半部分を演奏する。ここもEWIとのユニゾンだが、ここはギターの存在感をよりアピールする場面だ。音が伸びる部分ではビブラートを効かせてギターで表現出来る音の世界を堪能してもらおう。

2003/10/7

[民主党の正体見たり自民党]
 発足した新民主党(自由党が吸収合併された形)に期待を寄せる向きがマスコミにあります。マスコミは「小泉自民党VS民主党」という構図を煽り立てていますが、民主党の公約や政策を見た上でそうしているのなら、かつて政治改革を選挙制度改革に摩り替えて小選挙区制を導入させた久米宏や田原総一郎らと同じ悪質な政治改悪A級戦犯です。
 民主党は、国民生活を苦境に追い込み、不良債権最終処理(これはアメリカの圧力)の名の元に銀行に多額の税金をつぎ込む一方で銀行に収益率強化の名目で貸し渋り、貸し剥がしをさせて多数の中小企業を倒産に追い込んだ小泉「構造改革」の「本家」を名乗り、小泉「構造改革」は「スピードが遅い」と言っているのです。市場原理万能主義は自民党と変わりありません。
 日米関係では「ベースは自民党と同じ」と言うとおり、日米安保条約=日米軍事同盟堅持、更に集団的自衛権行使や多国籍軍参加のための「論憲」という名の改憲を狙っています。「我が党に護憲を貫く議員は居ない」と幹部が言っているのです。こう言った重大な発言がCS放送というあまり見られないメディアだったり、マスコミが「小泉自民党VS民主党」の構図を描くために意図的に隠しているのが真相です。
 財界が献金のために「採点項目」に挙げられている(明らかな政治買収だ!)大企業減税、消費税増税を口にしているのも自民党と何ら変わりありません。時期が早いか遅いか程度しか違いはありません。自民党の正式名称は自由民主党。その名と政策や公約が示すとおり、まさに民主党は自民党の一派、自民党管派と言うべき存在です。こんな政党と自民党と競わせても何も変わりません。公共工事や軍事費といった聖域にメスを入れた歳出改革での財源確保、消費税増税反対、日米安保条約廃棄、憲法維持を一貫して主張する日本共産党こそ、自民党と対決するに値する政党ではないでしょうか。

「それじゃ、これにて解散。全員それぞれの持ち場についてくれ。健闘を祈る。」

 メンバーはそれぞれの持ち場に向かう。俺は「定位置」であるステージに向かって右寄りの位置に立つ。身体が宙に浮かんでいる感覚は全然消えないが、ここが踏ん張りどころだ。晶子は俺が居る位置に近いステージ右脇に退避して俺の方を見る。俺は精一杯の笑みを浮かべて小さく頷く。頼りにしてるからな、晶子。
 時間が粘性たっぷりの泥流のように流れていく。立っているのも辛い今は、一刻も早く演奏を始めて汗を流して熱を下げることを試みるしかない。早く開演にならないものか・・・。
 幕を通してうっすらとシンセブラスの音色が聞こえて来る。・・・聞こえる?!どうやらスピーカーの音量は相当あるらしい。まあ、あれだけでかい会場全体に音を届かせるためにはそれなりの音量が必要だろうが、このテンポ・ルバート(註:演奏者が任意にテンポを変えながら演奏することの指示)の部分で聞こえるなら・・・大丈夫だ。スピーカーに近い位置という俺のポジションも幸いした格好だな。
 だが、テンポを知らせてくれることを頼んだ晶子の厚意を無にするわけにはいかない。それに晶子のリズム感はつい先走りがちなこういう場面で重要なメトロノームになる。俺は晶子を横目で見ながら演奏の時を待つ。
 目の前の幕がゆっくりと上がり始める。シンセブラスがファンファーレを奏で始める。そしてそこに勝田さんのEWIが重なる。やや金属的な響きを持っている音色は、明けの明星を表現するのに相応しい。晶子がリズムに合わせて手を叩いているのが見える。テンポは正確だ。耳と目でテンポを確認できるのは嬉しい誤算だ。
 ドラムのフィルに続いてステージを照らす照明が一気に明るくなり、ドラムとベースが入る。バスドラムとベースの重低音が腹に響く。これだけ聞こえれば何ら問題ない。俺の演奏を入れる出番までひたすら突っ立つのみ。
 壮大なファンファーレのようなイントロ部分が終わると、順子さんのシンセに代わって俺のギターが加わる。簡単なバッキングだが、リズムを形成する上で決して軽んじられない部分だ。俺は横目で手拍子をする晶子を見つつ、耳で桜井さんと青山さんのリズム音を聞きながら、音を刻む。
 勝田さんのEWIによるメロディが軽快に響く。桜井さんと青山さん、そしてピアノの国府さんのリズムキープは抜群だ。俺も負けじと目と耳でテンポを確認しながら演奏を続ける。
 メロディは二度目の演奏に入り、シンセ音が加わる。これが終わったら俺はエフェクターを切り替えてEWIとユニゾンだ。その時まで俺は脇役に徹する。俺は足元のフットスイッチの位置を確認して足を合わせる。切り替えまであと少し・・・。今だ!
 絶好のタイミングでエフェクターを切り替え、EWIとメロディをユニゾンする。ギターならではの音の伸びと音色の程好い歪みを利用して、存在感をアピールする。晶子のテンポキープはしっかりしている。安心して指先を演奏に集中させることが出来る。

雨上がりの午後 第1309回

written by Moonstone

 誰も手を挙げない。桜井さんが全員を見回し、改めて正面を向いて何か言い始めるがやっぱり聞こえない。その代わりに晶子が耳元で伝えてくれる。

2003/10/6

[1日寝てると腰痛い(汗)]
 昨日は起きることには起きたんですが、何だかやる気が起こらず、結局1日寝て過ごしました(爆)。そのせいでしょうが腰が痛いです。PCの前に居る今は収まりつつありますけど、入院していた時を思い出します。動こうにも動けず1昼夜同じ姿勢で横にならざるを得ず、動いて良くなった時には身体が硬直して動けなかったですからね(^^;)。
 この調子だと次回の更新は期待出来そうにないですね。楽しみにされている方には申し訳ないですが、どうやら今、病気の谷間(気分の落ち込み)に差し掛かっているようです。こうなると自分ではどうしようもないですから。
 朝晩めっきり冷え込むようになったので、厚手の布団に替えました。これからどんどん、朝、布団から出たくなくなる季節になっていくんでしょうね。それを過ぎれば暖かい季節が待っているんですが・・・耐え忍ぶ時期は長い(汗)。
 その時、俺のブレザーの袖がくいくいと引っ張られる。見ると晶子がステージ中央を指差している。どうやら最後の集合がかけられたようだ。俺はベッドから起き上がるような感覚で壁から身体を離すと、晶子の後をついていく。ステージ中央には他のメンバーが続々と集まってきている。
 桜井さんが何か言っている。だがまったく聞こえない。こんな時声をかけられたらどうする?耳が聞こえなくなっているのがばれたら大騒ぎになることは必至だ。そう思っていたら、左耳から晶子の声が入ってくる。

「いよいよ本番だ。皆、今までの練習の成果を存分に発揮してくれ。」

 晶子が桜井さんの言葉をそのまま伝えてくれているようだ。他の全員が頷いたのに少し遅れて俺と晶子が頷く。再び桜井さんが話し始めるが、やはり何を言っているのかまったく聞こえない。

「念のため、曲順を言っておく。潤子さんと賢一のところには曲順を書いた紙が貼ってあるが、他は記憶に頼る部分が大きいからな。まず『MORNING STAR』。文彦の挨拶が入って『Jungle Dance』と『HIBISCUS』を連続。俺と文彦のMCが入って『Kiss』『PACIFIC OCEAN PARADISE』『Aquatic Wall』を連続。またMCが入って『Secret of my heart』と『TERRA DI VERDE』を連続。またMCが入って『THE SUMMER OF '68』『CHATCHER IN THE RYE』『put you hands up』『NO END RUN』『鉄道員』を連続。潤子さんはステージを上がったり下がったりで大変ですが我慢してください。で、MCが入って『WIND LOVES US』『Feel fine!』。またMCが入って『AMANCER TROPICAL』。メンバー紹介に続いて『energy flow』。MCを挟んで『BIG CITY』と『プラチナ通り』を連続。文彦の最後の挨拶を入れて『Fly me to the moon』で終わって全員退場。アンコールがかかったら『Make my day』と『Fantasy』。これが終わったら全員が整列して、手を繋いで両手を挙げて一礼して退場。これで終わりだ。何か質問は?」

雨上がりの午後 第1308回

written by Moonstone

 腕時計を見ると開演まであと10分を切っている。耳の回復があるとしてもコンサートの途中か・・・。期待しない方が良いな。こういう場合は最悪の事態を想定して行動したほうが良いに決まってる。晶子とは合図を決めたし、文字どおり二人三脚で臨むしかない。

2003/10/5

[傷口触ってみました]
 今までガーゼで覆われていたり、その後も何となく怖くて触れずに居た通膵炎の手術痕。昨日試しに触ってみました。まだ違和感が拭えず、たまに痛むんです。もしかしたらまだ何かあるんじゃないか、と思って。
 念のため手を洗ってから触ってみると、傷口周辺が固い。これが恐らく抜歯の際に染み出した脂肪の塊でしょう。こんなものが腹の中にあれば、そりゃ違和感も感じるわな(汗)。まだ急激に身体を捻ったり出来ないのも、この塊が多少からんでいるのではないかと。
 昨日は買出しには行ったものの、次の展開が纏まらなかったので作品制作は中止して完全休養日としました。最近多いな(汗)。書くことがないんじゃなくて、どれを書いたら良いのか分からないというタイプなので、少し時間を置けばそのうち纏まるでしょう。それより脂肪の塊(多分)を腹の中に抱えていていいものかどうかの方が気になります。

「晶子。ちょっと頼まれてくれるか?」
「何ですか?」
「晶子が待機している間は、ステージの袖で曲のリズムに合わせて手拍子をしてくれ。曲の流れや締め方は決まってるから、耳が聞こえなくてもテンポさえ分かれば何とか出来る。」
「私がステージに出る時はどうするんですか?」
「俺が演奏し始める場所は分かってるだろ?その直前に少し右手を挙げてくれ。それを合図にする。テンポは何時もどおりリズムに乗って身体を揺らしていてくれれば良い。それで分かる。」

 俺は晶子の手を握る。

「晶子。俺が耳聞こえないってことは二人だけの秘密にしてくれ。桜井さん達に知られたら大騒ぎになる。頼む。」
「・・・分かりました。」

 晶子は真剣な表情で了承してくれた。音楽を演奏する人間が耳が聞こえないなんて、ベートーベンみたいな超人でもない限り大変なことになるのは火を見るより明らかだ。兎も角、一番信頼がおける晶子に頼るしかない。腕時計を見ると4時15分過ぎ。あと45分で多少でも耳が聞こえるようになってくれれば良いんだが・・・。

 熱は一向に引かない。身体に発熱体を突っ込まれたように熱い。耳は相変わらず聞こえない。立ってるのも辛いっていうのに耳が聞こえなくなるなんて・・・。災難どころのレベルじゃない。どうやら俺がぶっ倒れるのが先かステージが無事終了するのが先かのどちらかになりそうだ。

雨上がりの午後 第1307回

written by Moonstone

 その可能性は全否定出来ない。客席からステージを見たことがないからスピーカーがどっちを向いているのかは分からないし、向き方と音量によっては客の手拍子に紛れて満足に聞こえないかもしれない。どうすれば・・・!

2003/10/4

[頑張りました(^^;)]
 廃止した筈の定期更新復活と言っても過言ではない週末の更新。今回は余裕をもって取り組んだので直前になってインデックスを修正、といったこともなく更新出来ました。Side Story Group 2が更新出来なかったのがちょっと残念ですが、これは次回以降ということで。
 それにしても、主要3連載(「Saint Guardians」、「雨上がりの午後」、「魂の降る里」)は凄いことになって来ました。特に「雨上がりの午後」。今回でとうとうChapter98となり、Chapter100突破は確実。現在進行中の連載を含めるとChapter200は行くのではないか、という予感が・・・(汗)。
 「魂の降る里」も今回で第84章。一応出来ているプロットではChapter90で終わらないことは分かってますから、これも第100章突破はほぼ確実でしょう。サーバーの容量はまだ十分あると思いますが、果たして何処まで進むのやら・・・。読者の方、宜しくお願いしますね。

「・・・?」

 晶子が俺の左頬に手を当てて顔を近付ける。何か尋ねたようだが全然聞こえない。兎に角非常事態だということを伝えるにはジェスチャーしかないか。俺は右手の人差し指で耳を指差して、次に両手の人指し指を前で交差させる。晶子は大きな瞳を更に大きく見開く。まさか、と思っているんだろうか?俺はもう一度同じジェスチャーをする。すると晶子の顔が驚きに変わり、俺の左耳に顔を近付けてくる。

「・・・?・・・こ・・・す・・・?聞こえますか?」

 晶子の声がようやく聞こえて来る。俺は頷く。どうやら完全に聞こえなくなったわけじゃないが、相当耳が遠くなったような状態に陥ったらしい。

「私、祐司さんの本当に耳元で声を出してるんですよ。これで聞こえますか?」
「ああ、今なら聞こえる。最初の方は聞こえなかった。」

 かく言う自分の声はまったく聞こえない。喉の振動が伝わってくるだけだ。高熱で一時的に耳が聞こえなくなることがあるという話を聞いたことがあるが、まさか自分がそんな状態になるとは思わなかった。

「このままじゃ演奏出来ないですよ。事情を話して中止にしてもらった方が・・・。」
「もう開場して客が入り始めてるってのに、今更中止なんて出来るか。下手すりゃ暴動が起きるぞ。此処まで来させておいて金まで取っておいて逃げる気か、ってな。」
「それじゃどうするんですか?」
「会場のスピーカーの音は相当大きいだろうから、それを頼りにするしかないかな。」
「会場のスピーカーは客席に向かっているんですよ?満足に聞こえなかったらどうするんですか?」

雨上がりの午後 第1306回

written by Moonstone

 晶子の声が急速にフェードアウトしていく。晶子は何か言っているようだが、まったくその声が聞こえない。晶子の声はよく通るソプラノボイスだから多少の五月蝿さの中でも聞こえる筈なんだが・・・。まさか・・・耳が聞こえなくなったのか?!俺は右手を耳に当てて、あー、あー、と言ってみる。右耳の辺りで自分の声が聞こえる。今度は手を退けてもう一回、あー、あー、と言ってみる。だが全然聞こえない。駄目だ。完全に耳をやられてしまった。

2003/10/3

[何となく分かった(^^;)]
 投票所Cometやたまに寄せられる感想メールで「一気に読みました」っていう一言があることがあるんです。私の作品は長編が多くて、しかも「Saint Guardians」「雨上がりの午後」「魂の降る里」は半端じゃない量なので、一気に読もうとしたら洒落にならない時間がかかると思うんです。
 本当に読んでくれてるのかな、なんてちょっと疑ってたんですが、昨日の夜更新とネット巡回を終えてから、「雨上がりの午後」の今後の更新範囲を見ておこうかと書き溜めのストックを読み始めたんです。最初は直ぐ終わるつもりだったんです。ところが何時の間にやら読みふけってしまって気がついたら午前2時半。翌日は流石に眠かったです(^^;)。
 自分の書いた作品で何やってんだ、と思われるでしょうが、「一気に読みました」っていう言葉が何となく分かったような気がしました。すっとその作品の世界に入っていける作品を書きたい。そう思って色々書いているわけですが、少しはそれが出来るようになってきたのかな、と思った秋の夜でした。
 俺はスタンドに立てかけておいたエレキのストラップに身体を通す。最初の曲「MORMNING STAR」がエレキを使うし、今の身体の具合に応じてこの重さに慣れておく必要があるからだ。俺がステージの段差に−ちょっと高いが座れないことはない−腰を下ろそうとすると、青山さんが止める。

「安藤君。座るのは止めておきなさい。」
「え?」
「身体の具合が悪い時や疲れている時に一旦座ると、次立ち上がる時に力が入らなくなる。壁に凭れる程度にしておきなさい。」
「分かりました。」

 あまり喋らない青山さん直々のアドバイスだ。聞いておいて損はないだろう。俺は座ろうとしていた姿勢を元に戻して、下りている幕の傍の壁に凭れる。幕の向こうからは微かにざわめきが聞こえて来る。どうやら客が入り始めているようだ。
 壁に凭れていると、今まで立っていられたのが不思議なくらい身体がだるく感じる。なるほど、青山さんが座らない方が良いと言った理由が実感出来る。頭がぐらぐらする。耳の聞こえが益々悪くなってくる。熱冷ましがまったく効かなかったばかりか、余計に具合が悪くなったような気がする。薬を飲み過ぎたのが悪かったんだろうか?

「・・・さん、・・・じさん、祐司さん。」

 雑音の中から晶子の声が聞こえて来る。前を見ると−何時の間にか俯いていた−晶子が不安そうな様子で立っている。俺は笑みを作る余裕もない。晶子の姿が若干歪んで見える。・・・ヤバイな。

「大丈夫ですか?何度も呼びかけたんですけど全然反応がなかったから・・・。」
「今回ばかりは・・・大丈夫とは言えないかな・・・。あと1時間、大人しくしてる。」
「祐司さん、このままステージに出ら・・・。」

雨上がりの午後 第1305回

written by Moonstone

「らしいって・・・。熱冷ましを車の中で飲んでから1時間近く経つのに、全然効いてないってことじゃないですか!」
「しょうがない。このステージが終わったらゆっくり休めば良いことさ。」

2003/10/2

[ふと疑問に思ったこと]
 リスナーの皆様にはあまり関係ないことかもしれませんが、このページのメインコンテンツである各グループが更新される週末以外の日にこのページにいらっしゃる方々は何を目的にしておられるんでしょう?このコーナーのリスナーやってる皆様は別として、更新される可能性が非常に低い(だって時間ないもん)週末以外の日(平日って言った方が手っ取り早いな)にいらっしゃってどうされているのか、と。
 私が巡回コースに組み込んでいるページの中には毎日日記が更新されるページもあって、そこは勿論凄く楽しみにしているんですが、そういったものがないページもあるわけですよ。「じゃあお前は何でそういうページに行ってるんだ?」と問われたら、「何か更新されてるかもしれないから」と答えますね。このページに平日いらっしゃる方々もそういう思いなんでしょうか?
 平日はどうしても連載のストックを確保するために時間を取られますから、各グループまで手が回らないんですよね。でも「何か更新されてるかもしれないから」という理由で来ていただいている方がいらっしゃるなら、更新を2段階とかにしてでも何とかしてみよう、という気はあります。「折角来てやってるんだからここ以外でも何か更新しろ」とお思いの方はご一報くださいませ。
 少しして、ピピッピピッ、という電子音がする。俺は左脇から体温計を取り出して計測値を見る。・・・39.3℃。なるほど、宙に浮いた感じがする筈だ。俺は体温計を国府さんに見せる。国府さんの表情がまさか、というものになる。俺自身は大して驚きもしないんだが・・・まったく妙な話だ。

「さ、39度3分?!よく立ってられるね。」
「立ってられなきゃ・・・今日のコンサートで演奏出来ないじゃないですか。」
「そりゃそうだけど・・・。」

 俺は手早くシャツのボタンを填める。念のため掛け違いがないか確認するが問題はない。国府さんは体温計を持って桜井さんと青山さんのところへ走っていく。3人の間で何やらやり取りしているのが見えるが、何を言っているのかまでは分からない。本来なら十分聞こえる距離なんだが、熱のせいで普段より聴力が低下しているからだろう。
 今はあらゆる音がノイズにしか聞こえない。熱よりこっちの方が問題だ。テンポや曲の進行状況は耳で確認するしかない。その耳がまともに役割を発揮出来ないとなると、最悪の場合出鱈目な演奏をしてしまうことになる。そうなったらこのステージは一巻の終わりだ。腕時計を見ると4時前。開場直前だ。あと1時間ちょっとで熱が少しでも下がってくれることを期待するしかない。しかし、今朝飲んだ熱冷ましが全然効かなかったことが引っ掛かるな・・・。

「・・・さん。祐司さん。」

 背後から呼びかけられて振り向くと、晶子が不安げな表情で立っていた。晶子は俺の額に手を当てて引っ込める。不安が益々膨らんだ様子だ。

「凄い熱ですよ。さっき国府さんが39度3分とか叫んでましたけど、そんなに出てるんですか?」
「らしい。」

雨上がりの午後 第1304回

written by Moonstone

 不安げな国府さんの前で、俺はシャツのボタンを2、3個外して体温計を左脇に挟む。果たして何℃と出るやら・・・。こんな状況でこんなことを思うのも変な話だが、結果がちょっと楽しみだったりする。人様に散々迷惑かけておいて楽しみも何もあったもんじゃないんだが。

2003/10/1

[今日から10月]
 恒例に従い、背景写真を変えました。秋らしい雰囲気の夕焼けで私もお気に入りの1枚です。実は9月が30日で終わりだってことに直前まで気が付かなくて大慌てでログファイルを新規に用意したんですがね(^^;)。
 傷口の具合ですか?相変わらず芳しくないです。常に状態を反らすか完全に横になるか立っているかのどれかでないと傷口が疼き、しまいには痛くなってくる状況には変化がないです。今のうちに病院へ行った方が良いのかな・・・。
 自宅のラジオの調子が悪くてノイズ入りまくりでまともに聞こえず、かなりイライラしています。自宅はただでさえ電波の入り具合が悪くてラジオの電波を拾うにもアンテナを伸ばして微妙に傾けなければならず、それなのにその位置を自宅に戻ってきた時に親に歪められたもんだからそれ以来直らず。これも傷口の治りの遅さに関わってるのかな・・・。せめて自宅では自分の思いのままにならないと気分悪いです。まったくもう・・・。

「こりゃかなり酷いな・・・。熱は測ったかい?」
「いいえ・・・。体温計持ってないもんで・・・。」
「賢一が来たら一度計ってみるか。」
「国府さん、体温計なんて持ってるんですか?」
「賢一は万が一に備えて、ってことで救急セットを持ち歩いてるんだよ。しかし、まさかこんな形で役に立つ時が来るとは思わなかったな・・・。」
「熱冷ましを飲みましたから、そのうち効いてくると思います。」

 俺と桜井さんが話していると、お待たせしました、という声が聞こえて来る。声の方を見ると、その国府さんがピアノを抱えたスタッフを誘導しながら近付いてくる。桜井さんは早速国府さんに駆け寄る。桜井さんと国府さんが何かやり取りをした後、国府さんの表情が深刻なものになって、シャツの胸ポケットから何かを取り出して俺に駆け寄って来る。

「安藤君、熱出してるんだって?」
「ええ・・・。情けない話ですけど。」
「とりあえずこれで計ってみなさい。」

 国府さんは電子体温計を差し出す。俺はそれを受け取る。

「ありがとうございます。」
「薬は何か飲んだかい?」
「熱冷ましを2回・・・。」
「何時頃?」
「1回目は朝起きて直ぐ・・・。2回目はここへ来る車の中で・・・。」
「それじゃそろそろ効いていてもおかしくないんだが・・・。」

雨上がりの午後 第1303回

written by Moonstone

「安藤君、どんな具合だい?」

 桜井さんが俺に駆け寄って来て、俺の額と自分の額に手を当てる。そして険しい表情で俺の額から手を離す。

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