芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2003年12月31日更新 Updated on December 31th,2003

2003/12/31

[今年1年、ありがとうございました]
 激動の2003年も今日1日を残すのみとなりました。3月末までの40万HIT達成、10月初頭の50万HIT達成、と順調にアクセス数を伸ばしてきましたが、やはり苦労に見合ったアクセス数は得られていない、と言うのが正直な感想です。もっともこれだけ稼げたなら立派なものかもしれませんが。
 私個人で最も印象深い出来事と言えば、やはり急性虫垂炎による緊急入院と手術でしょう。術後安静にしなかったがために完全回復が遅れたのは失敗でした。初めての手術は緊張しましたが、手術そのものは無事終わってほっとしています。その時の傷跡は今での私の下腹部に残っています。
 来年は私の職場体制が変わるなど、これまた激動の1年になりそうです。更新もこれまでどおり続けていけるかどうか未知数ですが、出来る限り頑張って更新していきたいと思います。月並みな挨拶ですが、今年1年ありがとうございました。
それでは皆様、良いお年を!(^^)/~~~
 自慢げに答えるところからすると、仲の良さでは俺と晶子やマスターと潤子さんに負けない自信があるらしい。酔っているとは言え、こうやって堂々と言える関係は理想だな。俺だって言えるつもりだが。

「でも、お子さんが居るんでしょう?」
「もう3歳だし、人見知りしないタイプだからつれて来ても大丈夫さ。それに預けてる保育園は延長保育がないからね。まさか3歳の子どもを一人留守番させておくわけにはいかないよ。幼児期は最低でも親のどちらかが目の届く場所に居ないとね。何が起こるか分からないから。」
「ですよねえ。」
「はい、祐司さん。」
「あ、ありがとう。」

 俺は一旦晶子の方に向き直って料理を食べさせてもらい、再び桜井さんの方を向く。

「君達は子ども作るつもりなの?」

 突然の切り返しに俺は戸惑う。子どもどころかまだ結婚もしてないのに−この場では結婚していることになっているが−、どう答えりゃ良いんだ?

「いや、その俺と晶子はまだ・・・」
「大学を卒業して、生活が落ち着いたら作るつもりです。」

 俺が戸惑っていたら、晶子が俺の肩の上から顔を出して答えてしまった。その目はとても冗談を言っているようには見えない。これじゃ少なくとも桜井さんに対しては、俺と晶子は学生結婚してることを追認することになっちまう。・・・ま、今更否定して事情を説明したところで納得してもらえるとはとても思えないが。

雨上がりの午後 第1394回

written by Moonstone

 桜井さんのぼやきにも取れる声が耳に届く。俺は桜井さんの方を向く。

「桜井さんって、奥さんと仲良いんですか?」
「そりゃ勿論。君達や目の前の犯罪者夫婦と同じく恋愛結婚だし、そうでなかったら俺みたいな職業やってる男と夫婦やってられないって。」

2003/12/30

[リンクチェックも大変だ]
 一昨日からリンクのチェックをしていたんですが、消滅しているページもあって時の流れを感じました。リンクのチェックは自宅ですると途方もない時間がかかるので(全てはナローバンド故)仕事の昼休みに断続的に実施するか、ネット環境が良くなる(今期で最後ですけど)規制した時に一気にするしかないんですよね。
 で、やはりなぁ、と思ったのがIE準拠でNetscapeでは重たくて仕方がない7以上でないと対応していない、場合によっては7でも対応していないページがあったりすること。起動時間とスタイルシートへの対応度などを考えれば、IEにシフトしても仕方ないでしょうね。
 前にもお話しましたけど、このページは可能な限り(OSが対応しなくなったりするといったことがない限り)Netscape4.7基準で行きます。Netscape7以上は重いし、表示がおかしくなることが改善されてないので考慮しません。4.7で表示されるタグで、Netscapeのみのタグを使わなければIEでも問題なく表示されるでしょう。Netscapeもいい加減危機意識を持たないといけないのでは?
俺は反射的に口を開けてそれを受け取る。何度か噛んで飲み込むと、晶子は別の刺身を一切れ摘んでさっきと同じ要領で俺の口に運んでくる。俺は醤油が零れないうちに素早くそれを口で受け取る。食べさせてもらって満足したから今度は食べさせてあげる、というわけか?勿論嬉しいんだがちょっと恥ずかしいな・・・。隣じゃ桜井さんが「おーおー、仲の良いことで」なんて言うし、青山さんも面白そうに笑みを浮かべながら料理を食べたりビールを飲んだりしている。俺は料理が運ばれてくる間にジョッキに残っていたビールを飲んでいく。やっぱり酔わなきゃやってられない。
 晶子に料理を食べさせてもらっている間にビールを飲んでいくと、とうとう空になってしまった。俺は栓の開いているビール瓶を取って、伏せてあった自分のコップに注いで飲む。この宴席では勺をするされるということがない。手酌が暗黙の了解になっているようだ。マスターも、晶子と同じようにマスターに料理を食べさせる側に回った潤子さんも、桜井さんも、そして何時の間にやらコップでビールを飲んでいる青山さんも自分でビールを注いでいる。こういう宴席は気楽で良い。本来は俺や晶子のような所謂「年少者」は勺をして回るべきなんだろうが、人それぞれ飲むペースというものがあるし、気を使わなきゃならない宴席は肩が凝る。やっぱり自分のペースで飲める手酌がベストだと俺は思う。
 そうこうしている間にも料理が運ばれてくる。天ぷらに煮魚、どれも美味い。元からあった鍋料理にも火が入れられる。少ししてぐつぐつ煮立ってくる。俺は酔った勢いに任せて自分の料理を晶子に食べさせる。晶子も自分の料理を俺に食べさせる。こうなるともう自分の前にある料理は相手のものという状態だ。マスターと潤子さんも同じようにしている。俺と晶子に負けては−勝ち負けが生じるものじゃないとは思うが−居られないという心理が働いているんだろう。そうなると益々桜井さんが孤立してしまう。良いんだろうか?

「あー、俺も嫁さん連れてくるべきだったなぁ。」

雨上がりの午後 第1393回

written by Moonstone

 俺の料理がなくなったところで、晶子がようやく俺の肩から頭を上げる。すると、今度は自分が箸を持って刺身醤油に山葵を少し溶かし、刺身を一切れ摘んで軽く刺身醤油に浸して俺の口元に素早く運んでくる。

2003/12/29

[ここへ来てスランプか?]
 帰省してから1つも新作を書いていません。正確に言うと書けないんです。年が明けたら少なくとも3日の夜までは自由が利かないでしょうし、何とか大晦日までにはせめて1つくらい新作を書きたいところです。
 話は変わりますが、昨日ネット環境が寸断されました。こればっかりは仕方ないのですが、更新時刻などが大幅に変化します。シャットダウンするつもりは今のところありませんが、場合によってはそうせざるをえないでしょう。
 そうそう、大晦日といえば、今年の紅白歌合戦は見逃せませんね。連載でも何度か登場している倉木麻衣さんが出場しますから。しかも以前の連載で書いたような会場外からの中継(連載では年越しライブだったな)。何を歌うのか、どんな服装で歌うのか、今から楽しみです。
「言われたくなかったら、お前の肩に凭れて食べさせてもらってる嫁さんをどうにかしろ。」
「潤子は一旦甘え始めたら、満足するまでこのままだ。」
「じゃあ何か?俺は一人孤独に暑苦しい二組と壁に包囲されて飲み食いしろ、って言うのか?」
「そういうことだ。諦めろ。」
「へいへい。分かりましたよ。」

 桜井さんは呆れ返ったという口調でそう言うと、ビールをがぶがぶ飲みながら料理を突く。その様子が妙に寂しく見えて仕方がない。俺はもう一度晶子が凭れている肩を軽く上下させるが、肩から重みは消えない。よく考えてみれば、晶子も潤子さんと同じで一旦甘え始めたらなかなか止めようとしないんだっけ。仕方ない。桜井さんには悪いが、晶子を満足させることに専念した方が良さそうだな。

「賢一!ビール追加だ!」
「はい、了解!」

 ジョッキのビールを飲み干した桜井さんが半ば自棄気味に言うと−その気持ちは分からなくもない−、国府さんが威勢良く応える。俺は自分の料理を適当に晶子に食べさせる。晶子は実に満足げに料理を食べる。箸の動きが止まると、例の散歩を強請る犬のような目で見詰めるから困る。
 ビールお待たせしました、という声が聞こえてくる。そして店員がテーブルの空いている場所にビール瓶が何本か置いていく。桜井さんは空になったジョッキを店員に渡すと、伏せてあったコップに自分でビールを注いで一気に飲み干す。桜井さん、酔い潰れなきゃ良いけどな・・・。

雨上がりの午後 第1392回

written by Moonstone

「あー、凄く羨ましい光景が展開されてますねー。」
「光。羨ましかったら髭生やしてサックスを吹きまくれ。10歳以上年下の美人を捕まえられる可能性があるぞ。」
「そうなったら勝田君も犯罪者の仲間入りですね。」
「こら賢一。お前まで何を言う。」

2003/12/28

[とうとう6つ目か・・・(汗)]
 昨日、連載のストック用ファイルが6つ目に入りました。内規で3000行を一区切りにしているからです。これまでのストック用ファイルの総容量は約1.7MB。少なくともこれだけはNovels Group 3に加わってサーバーの一部を食うわけですから、末恐ろしくなってきます(汗)。一体何時になったら連載終了となるのか、まったく予想出来ません。2000回、3000回、となりそうな気がして怖いです(大汗)。
 それでも、イメージファイルに比べれば微々たるものですけどね。CGは勿論、写真でも1枚で軽く数10kBは食っちゃうんですから。テキストで数10kBなんて言ったら相当な量ですよ。「魂の降る里」などの連載が1回で大体20数kB程度ですから、連載4、5回分ですか。この差は一体・・・。
 でも、容量に気を使う管理者の立場から言えば、テキストが多いのはさして気にならないんですよね。まだまだ余裕はありますけど、イメージファイルで一気に数10kB食われる方がずっと心臓に悪い(笑)。そう考えるとCG主体のページが昔の画像を削除していく理由が何となく分かります。
 晶子はきっぱりと拒絶する。こうなった晶子は梃子でも動かない。俺はやれやれと思いながら、刺身醤油に山葵(わさび)を少し溶かしてから、マグロを一切れ箸で掴んで軽く刺身醤油に浸し、素早く晶子の口へと持っていく。晶子は待ってましたとばかりに口を開けてそれを口に含み、もぐもぐと噛んで飲み込む。そして実に満足そうな表情を浮かべる。これって反則だよな。

「おーい。俺、何だか無性に席変わりたくなってきたー。」

 桜井さんが言うと、再びどっと笑いが起こる。よく考えてみれば、桜井さんは向かい側にマスターと潤子さん、左隣に俺と晶子が居るから、桜井さんが言うところの「暑い夏の夜を更に暑くする二組」と壁に挟まれて孤立してるんだよな。その気持ちは分からなくもない。高校時代、バンドのメンバーと宮城と一緒にライブを観に行った帰りに喫茶店に寄った時、俺と宮城のペアと壁に挟まれた宏一が「何で俺の隣にお前らが来るんだ」と文句を言ったもんだ。

「その位置に座った時点でお前の負けだ。」
「くそっ、大助!少しは援護しろ!」
「援護しようにもしようがない。俺だって隣と目の前に暑い現場を配置されてるんだから。」

 青山さんが苦笑いしながら言う。確かに青山さんも考えようによっちゃ居辛い席だろうな。俺は晶子に離れるようにと肩を軽く何度か上下させるが、晶子は離れるどころか「次はまだですかー?」なんて言って来る始末だ。俺ははまちの刺身を一切れ晶子に食べさせてから、ビールの入ったジョッキをぐいと傾ける。こういう場では酔わなきゃやってられない。

雨上がりの午後 第1391回

written by Moonstone

「じ、自分で取って食べろよ。」
「嫌です。」

2003/12/27

[今年最後の大型更新です]
 その割には小規模ですね(汗)。出揃ったのは常連組4グループ。その内1グループは前回落としてますから(連続更新記録も途絶えた(泣))、これが、せめてこのくらいは、という規模ですね。しかし、定期更新制度を撤廃しておきながら定期的に週末更新をしている私って・・・何?(笑)
 同時に、今回の更新が実家における(昨日帰省しました)自由快適なネット環境からの最後の更新となります。掲示板JewelBoxをご覧の方はご存知でしょうが、このネット環境を構築している私の弟が実家を出て一人暮らしを始めるからです。ですからそれに伴ってネット環境も引っ越すわけでして・・・。
 年に2、3度のこととは言え、更新する時やネット巡回が思うように出来なくなる(状況的には自宅より悪い)ので、シャットダウン日程のところに日付が入るかもしれません。でも、このコーナーは今回の更新におけるNovels Group 4の作品ではありませんが私の軌跡でもありますから、何とか更新を続けていきたいと思います。
 俺は晶子に腕を引っ張られて自分のところに戻って来たと思ったら、晶子が潤子さんと同じように俺に凭れてきた。やっぱり跳ね除けるわけにはいかないから照れ隠しにビールを飲む。あんまり苦味を感じないのは、酔いが回ってきたせいか、それとも晶子に凭れかかられてそっちの方に意識が向いているせいか。・・・多分、後者だな。

「失礼しまーす。」

 場が盛り上がっているところに店員の声が入る。二人の店員が手分けしてそれぞれの前に刺身の乗った皿と刺身醤油の皿を置いていく。赤いのはマグロで白いのは・・・この季節だとカレイだ、って前に晶子が言ってたな。それとハマチに・・・タイか?随分豪勢だな。本当に俺と晶子は金を払わなくて良いんだろうか?

「暑い夏の夜を更に暑くする二組を突くのも良いけど、料理もどんどん突いていけよー。次から次へと来るからなー。」

 桜井さんの声が飛ぶ。皆それぞれ料理を食べたりビールを飲んだり、近くの人と話したりしている。このままぼんやり座ってるわけにもいくまい。俺が刺身に手を伸ばすと、俺の左腕が軽く何度か突かれる。見ると晶子が何か言いたげな表情で俺を見ている。さしずめ散歩を強請る犬か?

「何だ?」

 俺が問い掛けると、晶子は言葉の代わりにある方向を指差す。晶子が指差した方を見ると、マスターが自分の肩に凭れたままの潤子さんに刺身を食べさせている。・・・まさか、俺にもああしろ、というんじゃあるまいな?!

雨上がりの午後 第1390回

written by Moonstone

 潤子さんの言葉を合図にするかのようにどっと笑いが起こる。潤子さんはじゃれ付く猫のような顔でマスターに凭れかかる。マスターも流石に跳ね除けるわけにもいかず、やれやれ、といった様子でビールを口にする。

2003/12/26

[あー、飲んだ食った♪]
 私は今日有給を取ってあるので、昨日は行きつけの寿司屋でたらふく飲んで食ってしてきました。この時期しか振舞われない(有料ですけど)地元の枡酒も飲んで、この季節ならではの牡蠣(かき:貝の方ですよ)の釜飯も食べ、十分満足して今年の仕事を締めくくることが出来ました。今でも酔っ払ってます(こら)。で、年賀状書きはまだ半分以上残ってます(こらこら)。
 この日この時を待っていただけあって、本当に楽しかったです。ええ、勿論私一人ですけど何か?寿司屋では知り合いの人とも久しぶりに会うことも出来、飲み食いしながら色々話をしました。年齢的には私より恐らく20以上は上の方なんですが、今日も一人の飲み友達として楽しいひと時を過ごしました。
 今日は朝起きて朝食後ゴミを捨てたら、年賀状の残りを書いて実家に戻る予定です(このお話をしているのは12/25夜です。念のため)。まだ荷造りをしていないんですが直ぐ終わること。明日は今年最後の大型更新をする予定です。予定は未定という部分もなくもないですが(汗)。
周囲から、おーっ、とどよめきが起こる。見ると桜井さんと青山さんだけじゃなく、国府さんや勝田さんも興味深げにこっちを見ているじゃないか。うわーっ、これじゃもう少なくともこの場では俺がどう否定しても無駄だな。

「おー、こりゃ見事な結婚指輪だな。今までこっちの店での練習が終わった後の飲み会で、たまに安藤君や井上さんの指が光っていたように見えたのは、これのせいだったのか。」
「私の誕生日に合わせてプレゼントされたんですよ、桜井さん。」
「どうりでコンサートの最中ステージ脇に居た時、この二人が離れる気配がなかったわけだ。練習の後の飲み会でも必ず一緒に座ってたし。」

 国府さんが納得した様子で言う。そう言えば国府さんは、俺と晶子と同じ側に居たんだっけ。益々深みにはまっていくような気がしてならない。

「二人共まだ学生さんでしょ?なのにもう結婚?早いですね。」
「光。こういうことに早い遅いは関係ない。取ったもん勝ちだ。文彦なんて、潤子さんと知り合って2年で結婚指輪填めさせたんだぞ。30台後半の髭面サックスプレイヤーの犯罪行為だ、って前にも話さなかったか?」
「あ、そんな話聞いたことがあります。」
「明。人を犯罪者呼ばわりするな。」
「10歳以上も若い美人を捕まえておいて、犯罪者の烙印から逃れられると思ったか。」
「くそっ、何かにつけてお前、俺を犯罪者呼ばわりするなぁ。」
「あなた。良いじゃないの。実際殺し文句で私のハートを盗んで自分のものにしたんだから。」

雨上がりの午後 第1389回

written by Moonstone

 マスターの言葉を否定しかかったところで、晶子が俺の左手を掴んで広げて前に突き出させる。そして自分も左手を突き出す。晶子の誕生日にプレゼントしたペアリングが照明で煌く。

2003/12/25

[どこまで国民世論を無視するつもりだ?!]
 世間的にはクリスマスですね。私は一人飲んで食って年賀状書きです(笑)。結局今年も年末ギリギリまで持ち越す羽目になったなぁ。あ、芸術創造センターからご来場の皆様にクリスマスプレゼントとして、Novels Group 2の「クリスマス・セール」をご用意しておりますので(実は常備してるんですけど(笑))、是非一度ご覧下さい。心が温まること間違いなしです(嘘つけ)。
 さて、とうとう昨日、イラクに派兵される航空自衛隊の編団式が催されました。国民世論の多数が反対し、派兵先のイラク南東部が、公明党の神埼代表の僅か3時間半の厳重な警備に囲まれての視察で「比較的安全」とされた、嘘と虚構で塗り固められた上での、戦後初めての戦場への軍隊派兵がいよいよ現実になろうとしています。
 小泉首相、石破防衛庁長官、並びに神崎公明党代表よ!日本を代表する者として、まず貴様らが自衛隊の制服を着て、日の丸と鉄砲を担いでイラクへ行って「人道復興支援活動」なるものをやって来い!それで3ヶ月は必ず無傷で、米英占領軍に警備されずに活動して来い!それが出来ないなら家族や愛する者も居る自衛隊員を人身御供にする資格などない!
「へえ・・・。俺の演奏がそんなに・・・。」
「明。前にも言ったろ?祐司君はうちのバイトの採用試験を満場一致でクリアした実力派だ、って。実際、祐司君には根強いファンも居るんだ。そういうプレイヤーは息が長い。そうだろ?」
「ああ、確かに。本当に俺達のグループに安藤君が欲しくなってきたよ。だろ?大助。」
「是非欲しいね。ギターが居ると演奏出来る曲の幅も広がるし、何よりドラムの叩き甲斐がある。安藤君。こっちに来ないかい?」
「そ、そんなこと言われても・・・。」
「ちょっと桜井さん。それに青山さん。祐司さんは私のものなんですから、誰にも渡しませんよ。」

 青山さん直々の誘いを受けて困惑していたところに、晶子が俺の腕に手を回して距離を詰めてくる。その目はいたって真剣だ。

「おーおー、そう言えば安藤君には嫁さんが居たんだっけ。嫁さんの許可無しにはこっちに譲ってはもらえないわけか。」
「これは迂闊だった。奥さんが許可しないんじゃ、こっちに引き込みようがないな。」
「そういうこと。祐司君は晶子ちゃんのものだし、晶子ちゃんが祐司君を手放すようなことをすると思う?」
「考えてみたら、潤子さんの言うとおりだよな。ははっ、こりゃ参ったね。」
「奥さんっていう強力なマネージャーが居るんじゃ、こっちもそれなりの対応をしないと交渉には応じてもらえないってわけか。」
「分かったか。明、大助。二人の左手を見てみろ。しっかり結婚指輪が填まってるぞ。祐司君、井上さん。見せてあげなさい。」
「ちょ、ちょっとマスター。あれは結婚指輪・・・」
「はい。分かりました。」

雨上がりの午後 第1388回

written by Moonstone

「そうだったんですか?」
「そうだよ。MDは俺が全員分ダビングして渡したんだけど、大助が特に君のギターに興味を持ってね。こんな演奏が出来るギタリストと是非セッションしたい、って言ったんだ。普段の大助じゃ考えられない熱の篭りようだったよ。」

2003/12/24

[外食三昧]
 12/22をもって、今年の自炊は終了しました。というのも、台所回りを掃除したため、これを汚したくないからです。となると、手っ取り早く台所を汚さすに出来る朝昼の食事は別として、夕食は必然的に外食。というわけで外食三昧第1日目の昨日はうどんを食べに行きました。
 家から徒歩で行けるところにあるんですが、住宅街にあるにも関わらずかなり繁盛している店です。というわけで一足早く出発。予想どおり空いていた店内で適当な席に座り、「うどん雑炊」なるものを注文しました。うどん雑炊はその名のとおり、うどんと雑炊が一緒になったものらしいとのことで、興味津々で来るのを待ちました。
 食べてみた感想。「もう少し雑炊がしっかり煮込んであればなぁ。」日曜日に鍋を食べた後で雑炊をした私は、雑炊の米がそれらしくなるにはかなり時間がかかることを知っているので、予想以上に早く出てきた時点で雑炊の米にはあまり期待してませんでした。味は良かったですけどね。さあ、今日は何処へ行こうかな・・・。

「それにしても、今日のコンサートは大盛況だったな。」
「ああ。チケットは全部捌けたが、満員御礼になるとは思わなかった。買うだけ買ってこない客も多少は居るかと思ったんだが。」
「それだけ客の期待が大きかったってことだな。安藤君の予想どおりアンコールもあったし、久々に燃えたよ。」
「祐司君は高校時代にバンド経験があるから、大勢の人の前で演奏することに関しては、俺達よりよく知っている面がある。」
「なあ文彦。安藤君をこっちにくれ。」
「却下だ。うちの貴重なウェイター兼ギタリストをそう安々とくれてやるものか。」

 桜井さんとマスターの会話の焦点が俺に移りつつある。くれ、ってあの・・・犬や猫の仔じゃないんだから、そんなにあっさり言わないで欲しいんですけど。俺は苦笑いしつつヒレ肉の刺身を食べる。和風ドレッシングがかかったそれは、口の中で程好くとろけて良い味を口の中に広げる。

「しかし、実際安藤君の演奏には脱帽だね。」

 ビールを飲んだ青山さんが言う。

「文彦から渡されたMDを聞いて、こんなギタリストとセッションしたい、と思ってたんだが、その念願があんな大きなステージで実現出来て最高だよ。」
「大助もそう思うか?そう言えば、安藤君と一番セッションしたがってたのは大助だったもんな。」

 え?そうだったのか?桜井さんの言葉を聞いて俺はビールを飲むのを止める。実力派ドラマーと呼ぶに相応しい実力を持つ青山さんが、一番俺とセッションしたかったなんて・・・ちょっと信じられない。

雨上がりの午後 第1387回

written by Moonstone

 桜井さんの声に全員が陽気な声を返す。そして打ち上げが始まった。皆食べるわ飲むわ喋るわ・・・。俺も食事を突き、ビールを飲みながら、隣の晶子や桜井さん、向かい側に居るマスターと潤子さん、それに青山さんとコンサートのことについて話す。普段あまり喋らなくてクールな青山さんも、酒が入ると結構陽気になるから結構親しみやすい。

2003/12/23

[比較的安全、だぁ?]
 昨日、公明党の神崎代表が視察先のサマワ(自衛隊派兵が予定されている場所)から帰国して、小泉首相と会談したそうです。その席上、サマワを含むイラク南東部は「比較的安全」だと言って、自衛隊派兵には支障ないとの見解を示した模様です。
 ・・・おい、何が「比較的安全」だって?!銃弾やロケット弾が米英占領軍に向かって飛んで来る、場合によっては自動車や人間が爆弾抱えて突っ込んで来るような地域が「比較的安全」だとはどういう見識だ?何処見てきたんだ?マスコミは同行してないみたいですし、聖教新聞や公明新聞(どちらも公明党=創価学会系メディア)は「神崎代表、身をもってイラク視察」などと大々的に報道して創価学会員を煽るだけでしょう。「比較的安全」なる場所に派兵される自衛隊員のことは欠片も頭にないことは、各地の地方議会のイラク派兵反対の意見書採決に反対したり、波形推進の意見書に賛成しているところからしても明白です。こんな政党が「平和の党」なんて自称するんだから片腹痛い。
 イラクでは米英占領軍が行くところが「戦闘地域」になるというのは、専門家の間では常識です。それにイラク特別措置法で「集団的自衛権を発動しないための制度的担保」である「非戦闘地域」と「戦闘地域」の線引きなど出来ないと、占領軍の司令官が言明しているのです。日本人が再び外国人と銃撃を交え、殺し殺されることになったら、公明党はどう責任をとるつもりなのでしょうか?まさか「殉職したから学会で祀ってやる」なんて言わないだろうな?ええ?!
晶子は、これ以外に料理が来るなら追加注文は必要ないでしょうね、と言った。俺もそう思う。小さな鍋料理、ヒレ肉の刺身らしいもの、立派な煮物、焼き鮭が並んでいる。これら以外にどれだけ料理が来るか分からないから、まずは来た料理をきちんと食べることが先決だな。

「どんどん回していってねー。」

 勝田さんの声が聞こえる。見ると、ビール大ジョッキが人から人へ、横から横へと渡されていく。晶子からもビール大ジョッキが回ってきた。俺はそれを受け取って桜井さんに渡す。そしてもう一つ受け取る。これは俺の分だ。

「全員回ったかー?」

 桜井さんが尋ねると、返事と共にビール大ジョッキが掲げられる。桜井さんは膝立ちになって人数分行き渡っていることを確認してから、自分のビール大ジョッキを持って言う。

「それじゃー、今回のコンサートの成功を祝して、かんぱーい!」
「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

 俺はジョッキを掲げる。そしてまず晶子とジョッキを軽くぶつけ合い、そして桜井さん、向かい側に居るマスターと潤子さん、そして青山さんとジョッキを軽くぶつけ合う。それから黄金色の液体を飲み込む。程好い苦味が効いた、よく冷えた液体が喉を潤し、胃へと流れ込んでいく。
 何処からともなく拍手が起こる。次第にそれは大きくなる。俺もジョッキを机に置いて拍手する。見る限り誰も彼も皆笑顔だ。俺も顔が綻んでいくのを感じる。これまでの苦労が一瞬にして吹き飛んでいく。一生懸命やった後だからこそ感じられる充実感と達成感が俺の心を満たす。

「さあ!せいぜい飲んで食って喋れー!」
「「「「「「「おー!」」」」」」」

雨上がりの午後 第1386回

written by Moonstone

 潤子さんが言っていたように、ここは年長者の好意に甘えることにするか。俺は、ありがとうございます、と桜井さんに言ってから、晶子に桜井さんからの言葉を伝える。

2003/12/22

[か、書けん・・・(汗)]
 困ったことに、Novels Group 2の新作が書けません。どうしても構想がきちんと纏まらないんですよ。折角3日も休みがあったのに書けたのは1作だけ。考えようと横になってたら何時の間にか時間が経ってるか寝てしまってるかのどちらかで、書けなくて締め切りに追われる作家さんの気分が多少分かったような気がします。
 書けんもんは書けん、と諦めて別の作品に取り掛かるべきだったかな・・・。順序どおり書いていく癖がついているので途中で躓くと先へ進めないんですよね。次の休み(12/23)は色々やることがあってまともに作品執筆の時間が取れそうにないし、今年最後の更新を華やかに飾るのは無理っぽいです。
 そうそう、土曜日に雪が降りました。異様な冷え方だったのでもしや、と思って外を見たら一面の銀世界。窓際に立っていると外の冷気が伝わってくるので、速やかに布団の中に退避しましたけど。
 奢ってもらう身だし、ビールはしょっちゅう飲んでいるから文句はない。俺は、OKです、と言って手を挙げる。左から、私もOKです、という声がする。見ると晶子も手を挙げている。そう言えば前に晶子と飲みに行った時も、晶子がビール大ジョッキを注文しようと言い出したんだっけ。彼方此方から、OKだ、とか、異議なし、とかいう声が返ってくる。

「よし、賢一!ビール大ジョッキ8つ注文だ!」
「了解!」

 威勢の良い返事が聞こえてくる。どちらかと言うと落ち着いた印象がある普段の国府さんからはちょっと想像し難い。喧騒に混じって、ビール大ジョッキ8つ、という声が聞こえてくる。俺の右肩がポンポンと叩かれる。俺は桜井さんの方を向く。

「料理はこれだけじゃないけど、足りないようだったら遠慮なく注文して良いからね。それから飲み放題以外の飲み物も注文して良いから。隣の彼女にもそう伝えて。」
「良いんですか?」
「気にしない、気にしない。」

 潤子さんが言っていたように、ここは年長者の好意に甘えることにするか。俺は、ありがとうございます、と桜井さんに言ってから、晶子に桜井さんからの言葉を伝える。晶子は、これ以外に料理が来るなら追加注文は必要ないでしょうね、と言った。俺もそう思う。小さな鍋料理、ヒレ肉の刺身らしいもの、立派な煮物、焼き鮭が並んでいる。これら以外にどれだけ料理が来るか分からないから、まずは来た料理をきちんと食べることが先決だな。

雨上がりの午後 第1385回

written by Moonstone

「飲み物は★印がついているものは飲み放題だから、どんどん頼んで良いぞー。まずは全員ビール大ジョッキでOKかー?」

2003/12/21

[今後の年末年始の更新について]
 今後の年末年始は久しぶりにシャットダウンするかもしれません。事情を説明すると長くなりますし、個人的な事情が混じっているのでここではお話出来かねますが、帰省したら自由自在なネット環境が待っている、ということがなくなりそうなのです。
 まだどうなるか、どうするかは正式に決まってはいませんが、自由自在なネット環境がなくなるとなると、通常どおりの時間に更新というわけにもいきあそうにないですし、私が病気で長期療養をしていた時のような状態になるわけで、更新時間が不規則になったりすると思います。
 で、更新時間が不規則になるくらいならいっそシャットダウンして、作品制作と休養に専念する、という選択肢も考えられるわけで・・・。ことの詳細が判明次第、トップページの「シャットダウン日程」やここでお伝えしますので、毎日のチェックを宜しくお願いします。
 先を歩く年長者集団の方向が変わる。先頭を歩く桜井さんが暖簾(のれん)を潜ったのは、和風情緒豊かな、かなり大きな店だ。年長者集団について歩いていくと、店先に看板があって「歓迎 桜井御一行様」と書かれている。桜井さんの名前で予約してあったようだ。
 中に入ると、左側にライトアップされた日本庭園が広がり、右側に満席に近いテーブル席が並ぶ廊下が続き、奥に進んで行くと、先頭を歩いていた桜井さん達が靴を脱いで上がる。どうやら座敷席のようだ。俺と晶子も靴を脱いで上がる。晶子は靴を脱ぐ時点でようやく俺の腕から離れた。
 8人が余裕で座れるゆったりした座敷席は、正面奥にライトアップされた日本庭園がガラス越しに見えて、机には見るだけで恐縮してしまう豪華な料理が並んでいる。本当に俺と晶子は金を払わなくて良いんだろうか?俺と晶子が突っ立っている中、年長者集団は続々と座っていく。少なくとも晶子と離れるのは嫌だから、とりあえず座ろう。俺はやはり困惑気味の晶子の手を引いて、潤子さんの向かい側、桜井さんの左側に座る。晶子も腰を下ろす。
 席の配置は、正面向かって左側奥からマスター、潤子さん、青山さん、勝田さん、右側奥から桜井さん、俺、晶子、国府さんとなった。年齢や音楽のキャリアはこの際無関係のようだ。座って間もなく、和書のようなメニューが送られてきた。俺はメニューを広げて中をざっと見る。一品料理の他、飲み物もある。どれも種類が豊富だ。

「全員メニューが見られるようになったかー?」

 桜井さんがやや大きな声で−そうじゃないと周囲からの喧騒にかき消されてしまう−尋ねると、彼方此方から、OK、とか、大丈夫、とかいう声が返ってくる。どうやらメニューは全員が見られる分だけ配られたようだ。

雨上がりの午後 第1384回

written by Moonstone

 晶子は微笑んでみせる。心のアルバム・・・か。時に投げ出したくも、焼いてしまいたくもなるものだが、時にはそんな部分も開いてみたくなる不思議なアルバム。心に焼き付いた動画と音声を克明に記憶しているそんなアルバムを、晶子との思い出でいっぱいにしたい。

2003/12/20

[無為に過ごす休日]
 昨日は有給で休みました。丁度仕事が一段落したこともあって、絶好の骨休めの機会になるだろうと。しかし、寝る前に何を思ったか目覚ましをセットしたため何時もの時間に起床。寝ぼけ眼で朝食を摂り、PCを起動して新作の続きを書き始めるも、眠気には勝てずに直ぐダウン。結局薬を抜いた昼過ぎにようやく書き上げることが出来ました。
 あとは気の向くままに寝たり起きたり・・・。本当はもう1作書くつもりだったんですが、予定どおり進んでいることもあって、無為に過ごす休日を満喫しました。唯でさえ慌しい年末にのんびりするのも良いものです。
 しかし、年賀状は1枚も書いてない(汗)。絵入りのものを買ったのでその点は手間が省けて良いのですが、宛名すら書いてない(大汗)。どうせなら年賀状の1枚でも書いておくべきだったかな〜。
「あの時は晶子に対する意識が変わり始めた頃だったからな。結構緊張してたんだぞ。」
「断られると思ったんですか?」
「何て言えば良いか・・・、頭の中で考えが纏まる前に口が動いちまったから、って言えば良いかな。だから直ぐに口篭もったんだ。俺は誘いの言葉をポンポン出せるタイプじゃないからな。自分で言うのも何だけど。」
「ペラペラ誘い文句を並べられる方が違和感を感じますし、不器用でも自分の言葉を使って誘ってくれた方が嬉しいです。」
「俺がもっと晶子をリード出来るようなタイプだったら、晶子をやきもきさせずに済んだだろうな。」
「良いじゃないですか。一緒に歩いていけば。」
「・・・そうだな。」

 嬉しいことを言ってくれる。こんなことを言ってくれる女を、ある日いきなり自分をポイ捨てした女と同列視して邪険に扱ったんだ、と思うと申し訳ない気持ちになる。その分、今までとこれからを大切にしていかないとな・・・。
 更に歩いていくと、以前晶子と遊園地に行った帰りに立ち寄った居酒屋が見えてくる。さっきは晶子から尋ねられたから、今度は俺から尋ねてみるか。晶子のことだから尋ねるまでもないだろうけど。

「あの居酒屋、憶えてるか?」
「勿論ですよ。祐司さんと遊園地にデートに行った日の帰りに夕食を兼ねて入ったお店ですよね。ビール大ジョッキで乾杯したこと、今でも憶えてますよ。」
「本当によく憶えてるな。」
「祐司さんとの思い出は、全部心のアルバムに大切に仕舞ってあるんですからね。」

雨上がりの午後 第1383回

written by Moonstone

「憶えてます?さっきのお店。」
「ん・・・。憶えてるよ。」
「祐司さんに食事に誘われて、凄く嬉しかったんですよ、私。祐司さんが言い難そうに話を切り出したことも憶えてます。」

2003/12/19

[薬一つでこうも違うのか?]
 月曜の診察で薬を飲まなくても良くなった私。いきなり朝昼晩全部で抜くとぶり返しが怖いので、眠気が最も影響する昼だけ飲むのを止めることにしました。仕事は勿論のこと、休日の作品制作にも影響しますからね。
 すると、やっぱりというか、全然眠くならないです。今は新しい仕事をしているんですが、それは回路基板を作る前の極めて単調かつ気の遠くなるようなな作業で、薬を飲んでいたら絶対眠気でダウンしている筈なんですが、ずっと眠らずに続けることが出来ました。薬を飲まなくなった火曜日以降、午後に眠くなるということはなくなりました。こんなに変わるものか、と自分自身驚いています。
 朝と夜はその薬を飲んでいるんですが、直ぐに眠気が出てきて布団に入ると簡単に寝てしまいます。このお話をする前にも2時間ぐっすり寝てしまいました(^^;)。ちょっと休もう、と思って横になっただけなのに・・・。薬ひとつ飲むか飲まないかでこうも違うということは、それだけ完全回復にかなり近付いて生きているということでしょうか。だとしたら良いんですけどね。

「随分仲良いね、君達。」
「へえ。文彦さんと潤子さんと同じように腕組んでるなんて、なかなか見せ付けてくれるね。」

 青山さんと国府さんから軽い冷やかしが飛んで来る。住宅街に面している東口と違って繁華街に面している西口はこの曜日のこの時間でも−明日が月曜だということは意識にないんだろうか−結構人が居るから、出来れば手を繋ぐ程度にしたいんだが・・・。それを晶子に言ったら、どうしてそんな冷たいこと言うんですか、なんていう目で見詰められそうだし、泣かれでもしたら非難の矛先が俺に集中するのは目に見えている。照れ隠しに頭を掻くのが精一杯だ。

「これで全員揃ったな。それじゃ行きますか。」
「祐司君、晶子ちゃん。はぐれないようにね。まあ、大丈夫だと思うけど念のため。」
「はい。」
「分かりました。」

 マスターと潤子さん、そして桜井さん達が歩き始めたのに続いて俺と晶子も歩き始める。駅の西口側に来るのは久しぶりだな。最初に来た時はまだ付き合う前で、今日と同じく熱出してぶっ倒れた俺を泊り込みで看病してくれた晶子への礼に食事に誘ってこっちに来たんだったっけ。右も左も分からないのに著感を頼りに中華料理店に入ったよな。今思えば礼になってないような気がする。まあ、晶子は喜んでくれたし、味も予想以上に良かったから結果オーライか。こんなのばっかりだな、俺。
 年長者集団−こう表現するのが一番手っ取り早い−の後を追って歩いていくと、幾つもの料理屋や居酒屋が見えてくる。途中で俺と晶子が入った中華料理店の前を通り過ぎる。その時、俺の左腕が軽く何度か突かれる。俺が晶子を見ると、晶子は笑みを浮かべている。

雨上がりの午後 第1382回

written by Moonstone

 少し待っていると、連絡通路から青山さんと国府さんが姿を現した。青山さんは少し驚いた様子で、国府さんは、おおっ、という表情で俺と晶子の方を見る。俺と晶子が腕を組んで街を歩く仲だと分かって驚いているんだろうか。これまでの練習後の酒の席で、俺と晶子が付き合っていることは周知の事実になってる筈だが、腕を組むというのはやっぱりちょっと特殊なんだろうか。

2003/12/18

[ようやく完成!]
 2ヶ月に及ぶ未知への挑戦と行き詰まりへの直面、難解且つ分かり難い解説書に頭を悩ませること度々。そんな機器群(仕事としては1つなんだが実際は2つだ)が昨日無事完成しました。記録に必要事項を記入した後、安堵感に包まれました。
 しかし、2つのうち1つは実際に使ってみないことには動作するかどうか分からないという面もあります。こちらで動作確認しようにも信号源となる微小電流源(nA(ナノ(10のマイナス9乗)アンペアが出せないと駄目)がないので、実際に実験装置に接続して動作確認してもらうしかないんです。
 でも、一旦形になってしまえばあとはこねくり回すだけ。それがまた難しいという面もあるんですが、これまでの苦難を考えれば形になっているだけまだましというもの。製作手順のミスで加工をやり直したり、その途中で機械の事故に巻き込まれて怪我をしたりしましたが、完成品を写真にとって記録に記入した時、長い戦いがようやく終わった、と思いました。さあ、これで安心して年末年始を迎えられそうだな(^^)。そうだ、年賀状書かないと(汗)。
 人気の少ない通りを抜けて大通り−片側1車線になるだけだが−に出る。ここまでは普段の俺と晶子の帰り道と大差ない。しかし此処からが違う。普段は晶子の家がある方向へ歩くところだが、今日はマスターと潤子さんの後に続いて駅のある方向へ向かう。暫く歩いていくと、俺と晶子が初めて出会ったコンビニや本屋が見えてくる。あれからもうすぐ2年になるんだな・・・。
 やがて見慣れた風景と建物が見えてくる。俺と晶子が通学で使う胡桃町駅だ。時間がやや遅いこともあって人はさほど多くないが、大抵の人は、俺や晶子の方を見て、否、マスターと潤子さんの方を見て一瞬物珍しげな表情を浮かべる。やっぱり髭面マスターと女優顔負けの潤子さんの組み合わせは人目を引くようだ。それに加えて腕を組んでいるから、尚更だろう。
 歩道橋のような連絡通路を通って西口に出る。そこには桜井さんと勝田さんが居た。こっちに向かって手を振っている。桜井さんと勝田さんは使う楽器が軽くて小さい方だから、直ぐ片付けてこっちに来れたんだろう。

「おっ、早いな。」
「まあな。そっちも早いじゃないか。しかも二組揃って随分仲の良いことで。羨ましいねぇ。」
「お前もたまには嫁さんと腕組んで街歩け。注目されるぞ。」
「注目されるのは、髭面のお前と潤子さんのペアだからこそだ。」
「何だ何だ。人を犯罪者みたいに。」
「潤子さんをサックスで酔わせて自分のものにしたくせに。」

 マスターと桜井さんの会話は漫才みたいだ。コンサートのMCでも度々客を笑わせてたし。こういう会話が出来るのは、それだけ気心が知れた仲だからこそだろう。こういう友人って良いよな。ふと高校時代のバンド仲間の顔が脳裏に思い浮かぶ。あいつら、今頃どうしてるかな・・・。

雨上がりの午後 第1381回

written by Moonstone

 前を歩くマスターと潤子さんの会話を聞いていると、遅い時間まで、しかも月曜以外殆ど毎日店を経営しているが故の不自由さを感じる。子どもが居ればまた違うんだろうが、マスターと潤子さんは子どもを作らないっていう約束をしてるし、二人きりを雰囲気のある場所で楽しむ、というわけにはなかなかいかないんだろう。それを考えれば、俺と晶子は随分恵まれてるな。

2003/12/17

[兎に角疲れたわい(ジジくさい)]
 昨日はまさに仕事一色の日でした。別に普段仕事サボってるっちゅうわけじゃないんですが、薬の副作用である眠気に翻弄されて思うように動けない時がままあるんですよ。月曜の診断でそのことを話したところ、「薬が効いてきている証拠だから、一部の薬は飲まなくても良い」と言われたので、昼からの眠気の原因になっていたその薬の服用を止めました。
 すると快調快調。午前中に引き続き午後からも仕事に没頭出来て、機器1台を完成させ、あと1台を完成間近にまで持っていけました。迂闊にもそいつはレタリング(文字のシールを貼り付けること)と固定用スプレーの塗布を忘れていたので、決着は今日に持ち越しとなりましたが。
 仕事に没頭した分あまりにも疲れたので、帰宅して夕食を食べた後睡眠、1時間ほどぐっすり寝ました。流石にあのまま更新準備をすることは不可能でしたから。また今日も仕事に没頭するつもりです。でも、スプレーを塗ってる間は暇なんだよなぁ。乾かすのに時間かかるから。
 俺は一瞬救いになるかと思ったが、その甘い考えは直ぐ霧散する。こういう時、マスターは潤子さんよりあてにならない。それどころか煽り立てる方だ。何を言われるのかと思うと、別の意味で胸が高鳴る。

「あなた。晶子ちゃんは祐司君と腕を組むのが習慣だ、って言うし、祐司君は違う、って言うのよ。どっちの言ってることが本当だと思う?」
「だから潤子さん。真剣に考えないでくださいってば。」
「人前で腕を組むのが習慣ってことは、それだけ仲が良いってことだから、井上さんの言うことが本当なんじゃないのか?」
「そう言われれば確かにそうね。じゃあ、晶子ちゃんの言う方が本当ってことで。」
「・・・違うんですけど。」

 もう反論する気力も否定する気力も沸かない。俺は三度諦めがたっぷり篭った溜息を吐くと、俺と晶子と同じように腕を組んだマスターと潤子さんの後を追って歩き始める。待ち合わせ場所は胡桃町駅西口だから、車を使わなくても行ける距離だ。それ以前にマスターが酒を飲むつもりなら、車を使うか使わないか以前の問題だが。
 夜の町を歩くのは珍しいことじゃない。どちらかと言えばそれこそ習慣になっていることだ。だが、何時もは晶子と二人きりで歩く夜道を、腕を組んだマスターと潤子さんの二人と一緒に歩くのは初めてだから、結構新鮮な気分だ。

「貴方と外でお酒を飲むのって、何時以来かしら。」
「結婚してからは小宮栄に行くにしても、俺は車だから酒は飲まんし・・・。本当に何年ぶりだろうな。」
「最近は、日曜日でも今日行く居酒屋くらいしか開いてないもんね。小さいお店は私達が店を閉めて行った頃には全部閉まっちゃってるし。」
「家で二人で飲む酒も良いが、たまには外で二人で飲みたいもんだな。」

雨上がりの午後 第1380回

written by Moonstone

「難しいわねぇ。祐司君も晶子ちゃんも信用できる子だし・・・。」
「真剣に考えないでくださいよ、潤子さん。」
「何やってるんだ、こんなところで。」
「あ、マスター。」

2003/12/16

[だからどうした?]
 日曜の夜、何気なしにTVを点けていたら(音声なし)ニュース速報でフセイン元大統領が身柄を拘束されたというテロップが流れました。それを見た私の感想はキャプションのとおりです。
 フセインが捕まったからといって、米英占領軍に対する襲撃が収まる筈がありません。彼らはフセインが居る居ないに関わらず、先制攻撃を仕掛けられた挙句に「掃討作戦」と称して一般人を殺傷する米英占領軍に対して怒りと憎しみを募らせるイラク国民の心情に便乗して行動しているのであり、それにフセインを捕まえたからといって戦争の口実とされた大量破壊兵器が出てくるわけではありません。
 新聞は号外を発行し、テレビは臨時ニュースを放送するのは別に構いませんが、イラク全土が戦争状態になっているという現実にある背景、そして強行されようとしている自衛隊のイラク派兵の問題点を親権に検証するべきではないでしょうか?マスコミはどこか視点がずれているとしか思えません。

「流石に駅前まで抱っこするのは、祐司さんが辛いでしょうから止めておきますね。」
「当たり前だ。」

 俺は照れ隠しにぶっきらぼうに言って、さっさと靴を履いて外に出る。夏真っ盛りと言っても夜になるとそれなりに涼しくなるもんだ。機材を搬出する時には夜の空気を感じてる余裕はなかったから、尚更そう思うのかもしれない。
 続いて晶子が出て来てすぐさま俺の左腕に両腕を絡める。男の身体にはない独特の柔らかさと弾力がはっきり伝わってくる。それで折角落ち着きを取り戻した心臓がまた早く鼓動するようになる。この感触は腕どころか、手や唇でたっぷり堪能したことがあるっていうのに・・・。まったく何故なんだろう?それだけ俺と晶子の関係は新鮮なままだっていうことなんだろうか?

「あら、晶子ちゃん。早速腕組み?」

 潤子さんの声が後ろから届く。またネタを提供してしまったことになる。ああ、打ち上げに行きたくなくなってきたな・・・。

「ええ。習慣ですから。」
「違うだろ。」
「どっちの言うことが本当なの?」
「潤子さんが信用出来る方が本当のことを言ってる、ってことでどうですか?」

 そういう問題じゃないだろう。もう言うのも馬鹿らしくなってきたから言わないでおく。

雨上がりの午後 第1379回

written by Moonstone

 俺は玄関の前で屈んで晶子を下ろす態勢を作る。晶子はようやく俺の首から両腕を離して自分の足で立つ。その様子からは、足が痺れていたという痕跡はまったく見当たらない。

2003/12/15

[せめて自分に出来ることを]
 今日の更新は、12/9に閣議決定された自衛隊のイラク派兵反対を前面に押し出す内容となりました。私の住んでいる地域は保守反動色が強く、この期に及んでも尚自民党や公明党のポスターを張り出している愚かしい家が多い上に、ポスターを張り出したりしたら公明党=創価学会の嫌がらせの対象になるのは目に見えているので、数の力では敵わない現状では、自分の城であるこのページで派兵反対アピールをするのが良いだろう、と思って実行に移しました。
 自民党や公明党の支持者は、いざ派兵となったら日の丸や鉄砲を担いでC130輸送機に乗り込んで、自衛隊の行動をサポーター気分で応援するんでしょうね?勿論。支持はするけど自分がイラク人の攻撃対象にされるのは御免だ、なんて勝手な理屈は言わないでください。それを言うなら小泉首相や石原都知事とレベルは同じです。
 ちなみにイラク派兵反対決議の改訂版に使ったイメージは、勿論自分が作ったものではなくて(こんなの作れる力があったらCGページにしてる)、日本共産党の関連ページからダウンロードしたものです。利用は自由だそうですので、気に入ったらご自由にダウンロードしてください。
 俺は潤子さんに続いて廊下を歩き、階段を下りる。晶子を抱えてだとちょっと狭いから、晶子を折り畳むような形で両腕を中央に寄せる。すると晶子の吐息が俺の頬に当たる。周期的で微風のようなそれは、俺の胸を高鳴らせる。どうして全身を知っている相手を抱きかかえたり、その吐息を感じたりすると、こうも胸が高鳴るんだろう?俺自身がよく分からない。

「あなた。そろそろ出ましょう。」
「ああ。・・・おっ、井上さん。祐司君に抱っこされてのご登場か?まるで結婚式みたいだな。」
「そう見えますか?」
「見える見える。」
「マスター。俺は晶子が足が痺れて歩けないって言うから、こうやって降りて来たんですよ。晶子と一緒になって遊ばないでください。」

 俺はマスターに言った後、晶子の方を向く。その表情は、どうしてそんなに照れるんですか、と言っているようだ。

「まだ痺れてるのか?」
「もう治りました。」
「それじゃもう良いな。此処から先は自分の足で歩け。」
「えー、せめて玄関までつれてってくださいよ。」
「おい。」
「祐司君。こういう場面では男の子が女の子を優しくリードするのが、二人の仲を強固なものにする秘訣よ。」

 潤子さんも全然あてに出来ない。俺はまた諦めが多分に篭った溜息を吐いて晶子を抱きかかえたまま玄関−正確には勝手口−まで連れて行く。その途中でもう一度目だけ動かして晶子を見ると、これまた嬉しそうな顔をしている。これを見ると怒る気が失せてくる。怒る代わりにまた溜息が出る。

雨上がりの午後 第1378回

written by Moonstone

 そう言えば、告白のシーンを白状させられた時も、晶子は俺の口を塞いだり周囲の煽りを止めようとするどころか、言ってくださいよ、なんて暢気なこと言ってたな。人の気も知らないで・・・。否、知っててやってるのか?その可能性が高いな。こういうことに関しては晶子はやけに積極的だから。

2003/12/14

[これで軽くなったでしょう?]
 私のページは昨今の流れに反して極力イメージを使わずテキスト中心にしています。これは私のネット環境がナローバンドであることに加え、ブロードバンドであっても表示が速いに越したことはないため、表示に時間のかかるイメージは極力使わないようにしているからです。
 しかし、作品数が多いNovels Group 4とSide Story Group 1は、殆どテキストで記述されているにも関わらず40kBを越え(Novels Group 4は50kBを越えていた)、私のネット環境下では表示が重いと感じられるようになってきました。幸い昨日は時間の余裕があったので(思ったより早く新作が書けた)、思い切ってこれら2グループのインデックス分割作業に取り掛かりました。
 出来るだけ分かりやすく、しかも出来るだけ少ないクリック数で目的の場所に移動出来るように、ということを基本コンセプトとして、ご覧のような形式にしました。Novels Group 4は大体このくらいを目安に区切っていけば良いと思うのですが、Side Story Group 1は今後区切り場所を変更する可能性があります。「魂の降る里」が何時まで続くか分かりませんからねぇ・・・。

「私は足が痺れて歩けないんですよ?」
「あ、あのなぁ・・・。」

 晶子がしれっと言ったのに対して手を離そうにも離せない−手を離しても晶子が俺の首にぶら下がる状態になるだけだ−俺がどうすれば良いか分からないで居ると、どんどん近付いてきた足音が止まり、ドアがノックされる。晶子が、はい、と応答するとドアが開いて潤子さんが姿を現す。潤子さんは目の前の光景が一瞬理解出来なかったのか、ちょっとポカンとした表情をしてから普段のそれに戻る。

「祐司君・・・何してるの?」
「な、何をしてるも何も、晶子を下ろそうとしてるんですけど、晶子が離れようとしないんですよ。」
「私は足が痺れて歩けないから、祐司さんに抱っこしてもらったんです。」
「実はもう治ってるんだろ?」
「まだ治ってません。歩けません。」
「・・・祐司君。」

 俺と晶子が押し問答をしかけた時、潤子さんが間に入ってくる。

「何ですか?」
「晶子ちゃんを抱っこして降りられるでしょ?そろそろ出発するから、私について来て。」

 潤子さん。仲裁か晶子を諌めるかしてくれないんですか?俺は諦めが多分に篭った溜息を吐いて、晶子を抱えたまま姿勢を元に戻し、背を向けた順子さんの後を追う形で歩き始める。目だけ動かして晶子を見ると、嬉しそうに微笑んでいる。・・・後でどうなっても良いのかよ。下では潤子さんより恐ろしいマスターが待ってるんだぞ。

雨上がりの午後 第1377回

written by Moonstone

 そりゃまあ確かにそうだが・・・。俺が歩き始めるのを躊躇していると、ドアの向こうから足音が聞こえてくる。潤子さんだ!俺は晶子を下ろそうと身体を屈めるが、晶子は俺の首から腕を離そうとしない。

2003/12/13

[今回ばかりは御免なさい]
 休日は一日寝て過ごす、という悪い癖がつき始めている昨今、今回新作を用意出来たグループは3つと、ここ最近で一番少ないものとなりました。持病が治りかけているのか、昼に薬を飲むと急に眠くなって何もしたくなくなるんですよね。今度の診察の時に薬を替えてもらわないと・・・。
 3つしか新作を用意出来ませんでしたが、それなりに力を入れて書いたつもりです。今回は数が少ないので、一つ一つを堪能するにはむしろ好都合かもしれません。・・・所詮言い訳か(^^;)。まあ、お楽しみいただければ幸いです。
 「雨上がりの午後」が、連載とNovels Group 3掲載分の間隔がかなり開いてきているので、ここらでぐっと縮めないといけないかもしれません。でも、縮め過ぎると慌てなきゃならないので難しいところです。アナザーストーリーVol.2を期待されている方は、「Novels Group 3の更新を早めろ」と脅迫してください(笑)。そうなると書かざるを得なくなりますから。でも、どのシーンを書こうかな・・・。
 晶子が鼻にかかったような甘えた声を出す。今まで聞いたことがないような甘ったるい声だ。まさか・・・潤子さんが来る前に別の意味で抱いてくれ、というわけじゃあるまいな。いやいや、これは俺の希望、もとい、妄想だ。それは脇に置いておいて・・・晶子は俺にどうして欲しいんだ?

「歩けない女を運ぶのには、どうすれば良いと思います?」
「どうって・・・おんぶか?」
「それじゃ駄目、って言ったら?」

 !ようやく晶子がして欲しいことが分かった。つまりはこういうことだ。俺は屈んで右手で晶子の両足を抱え、ぐいと持ち上げる。この態勢は世間一般でいうところの「お嫁さん抱っこ」というやつだ。

「正解のご褒美。」

 苦笑いしていた俺の首に晶子の腕が巻きつき、頬に柔らかい感触が伝わる。俺から距離を離した晶子は、俺の首に腕を絡ませたまま悪戯っぽく微笑んでいる。俺がこういうのに弱いってことを、晶子はよく知ってるからな・・・。
 しかし、まさかこのまま降りて行けって言うわけじゃあるまいな?こんな態勢のまま降りて行ったら、マスターと潤子さんに格好のネタを提供するようなものだ。しかも今日はこの後打ち上げが控えている。そこで素面のマスターか潤子さんがバラしてしまいかねない。初めての合同練習の後の酒の席で、俺が晶子に告白したシーンを白状するように言ったのは、酒を飲んでもいないのにすっかりご機嫌になったマスターだったんだから。

「・・・晶子。まさかこのまま・・・。」
「ドアは私が開けますから。」
「そういう問題じゃない。このまま降りて行ったらどうなるか想像出来ないのか?」
「良いじゃないですか。今更隠す仲じゃないんですから。」

雨上がりの午後 第1376回

written by Moonstone

「こうか?」
「違います。」
「え?じゃあどうしろと。」
「んもう・・・。分からないんですかぁ?」

2003/12/12

[イラク派兵は流血沙汰になる!]
 とうとう愚かな小泉自民・公明政権はイラクへの自衛隊派兵を閣議決定しました。イラク特別措置法でいう「非戦闘地域」などありはしない、と現地の米英占領軍司令官が言っている中、あくまでも「非戦闘地域へ行く」「軍事行動はしない」と喚いていますが、もはや空しい遠吠えに過ぎません。
 イラク戦争そのものが国連憲章を無視した違法な侵略戦争であり、更に「治安維持」「民主政権樹立」などを口実に占領という形で居座っているのですから、イラク国民が怒りや憎しみを募らせるのは当然です。それがテロリストの活動土壌となり、「米英に協力するものは全て敵」と見なされ、国連関係機関まで狙われ、撤退を余儀なくされているのです。
 そんな中に自衛隊を投入すれば、「米英に協力する敵」と見なされ、攻撃対象にされるのは火を見るより明らかです。それでも尚自衛隊を投入しようというなら、まず小泉首相をはじめとする自民・公明の議員が鉄砲担いで日の丸掲げてイラクへ行くべきです。そこでどうなるか身をもって知るべきです。

「晶子。下へ行こうか。」
「ええ。」

 俺が立ち上がったのに続いて晶子が立ち上がる・・・が、どうも足元がおぼつかない。あっ、と思った次の瞬間には、俺は倒れこんできた晶子を抱き止めて少々海老反りになっていた。晶子の持つ独特の弾力が腕や胸に伝わってくる。晶子は俺の右肩と左腕に手をかけ、体重を俺に預けている。背筋を伸ばすとそれほど負担にはならない。晶子は身長の割に軽いからな。

「大丈夫か?」
「ご、御免なさい。あ、足が・・・痺れて・・・。」

 俺は笑う以前に申し訳ない気持ちになる。考えてみれば俺が寝ている間、何十分かは知らないが、晶子はずっと正座していたことになる。正座だけならまだしも上に俺の頭という重石(おもし)が乗っていたんだから、正座を止めようにも止められないから−俺を床に寝かせる気にはなれなかったんだろう−、痺れを我慢して俺に膝枕をしてくれていたんだろう。

「悪いな・・・。俺が寝ちまったばかりに・・・。」
「祐司さんに膝枕をしたのは私ですから、祐司さんが悪いと思う必要はないですよ。」
「座るか?それで暫く足を伸ばしてれば、痺れは治まっていく筈だから。」
「・・・抱いてください。」

 俺は耳を疑う。今・・・、抱いてください、って言った・・・よな?確か。今、現に晶子を抱いている格好なんだが、更に、抱いてください、っていうことは・・・こうすることか?俺は晶子の身体を支えるように回していた両手を晶子の背中に回し、より俺に密着させるように抱き締める。

雨上がりの午後 第1375回

written by Moonstone

 俺は上体を起こしてもう一度目を擦る。まだ若干残っていた眠気は完全に吹き飛んだ。一体どのくらい眠っていたんだろう?潤子さんが起こしに来ないところをみると、まだ時間には早いようだ。起こしに来る前に俺と晶子の方から降りて行った方が良いだろう。その方が潤子さんの手間も省けるし。

2003/12/11

[やっぱり風邪には勝てません]
 昨日は休みだったのですが、風邪の具合が芳しくなかったので一日寝ていました。長引かせるわけにはいきませんからね。その分次回更新はズタズタになりますが、今回ばかりは勘弁してください。
 一日寝ていたお陰で随分楽になりました。昨夜一晩中苦しめられた鼻水もどうにか止まり、咳は今まで出ていません。やっぱり風邪には十分な休養が不可欠なようですね。このお話をしている今は殆ど治っています。
 これから風邪が本格的に流行する季節。肺炎の経験がある私にとってはかなり危険な季節です。十分温かくしてゆっくり休む。この基本は風邪を早めに治す最も原始的ですが確実な方法のようです。
 そういえば・・・晶子に膝枕されるのって、これが初めてじゃないか?少なくとも記憶を辿れる限りでは思い出せない。少なくとも俺は、最初のことは何でも少なからず心に焼き付くものだから−晶子と初めて寝た夜もそうだし、宮城と初めてキスをした時だってそうだ−、多分これが初めてなんだろう。三度寝た経験があるくせに膝枕されるのは初めて、っていうのはちょっと妙な話かもしれない。
 ・・・まあ、そんなことはどうでも良いか。枕とは違う弾力と良い感触が睡魔を活気付かせる。晶子の微笑みに霞がかかってきた。このまま自然の流れに任せるのも良いだろう。そんな気がしてきた・・・。

Fade out...

「ん・・・。」

 闇の中から急速に浮かび上がってきた意識が頭の中で光を放ち始める。俺は呻き声のような声と共に目を開ける。目を擦ってパッチリ開けると、少し驚いたような表情の晶子が映る。

「今起こそうかな、って思ったところだったんですよ。」
「あ、そうなの?それなら寝たふりしてた方が良かったかな。」
「祐司さんは寝たふりが下手ですから、私を誤魔化すのは無理ですよ。」

 俺と晶子は微笑む。俺が寝たふりをするのは、晶子がどんな風に俺を起こすか興味があったからだ。オーソドックスに体を揺すりながら名前を呼ぶか、鼻を摘んでキスをするか、首筋や脇腹を擽るか・・・。何れにしても乱暴な真似はしないことは分かっているから、じゃれ合いを期待するようなものだ。

雨上がりの午後 第1374回

written by Moonstone

 俺が姿勢を変えて仰向けになると、晶子は優しい微笑みを浮かべて俺の頬をそっと撫でる。それで一気に俺は抵抗する気力を失い−最初からあったのか、と言われると困ってしまうが−、折れ曲がっていた足を伸ばして楽な姿勢になる。呼吸も急速に落ち着いていく。

2003/12/10

[か、風邪ひいた・・・]
 昨日は朝から鼻水とくしゃみが止まりませんでした。午前中は鼻をかむこととティッシュで鼻栓をすることで(人には見せられんが(^^;))どうにか凌いでいましたが、午後からが大変でした。私の職場は勿論、他の職場の人も集まる公式イベントがあったからです。聞いているだけだからまだ良かったんですが、それでも止まらない鼻水には苦労させられました。休憩時間には真っ先にトイレに駆け込み、トイレットペーパーで鼻をかんでました。この際なりふり構ってはいられません。
 その後の懇親会でも鼻水は止まるどころか勢いを増し、テーブル備え付けの紙ナプキンで頻繁に鼻水を拭ったり鼻をかんだりしていました。折角珍しく料理が美味かったのに(何時もは大抵不味いものを出してくる)、楽しみも半減です。酒を飲んだら血流が良くなって鼻水が余計に出やすくなるので今回はパス。
 幸い今日は休みです。イベントと懇親会で疲れるだろうから休む、と休暇届を出してあるからです。よりによって風邪が重なるとは何たる不幸。風邪が悪化しなければのんびり新作を執筆しますが、風邪が酷くなっていたら大人しく寝てます。急に寒くなるんだもんなぁ。早く治さないとなぁ。
 チラッと晶子を見ると、晶子は頬を赤くして俯いている。俺は何とも気まずいものを感じ、それを誤魔化すために麦茶を飲む。ちょっとぬるくなった麦茶を口に流し込みながら前を見ると、マスターと潤子さんがいかにも残念と言った表情でコップを傾けている。俺と晶子は見世物じゃないんだぞ。・・・まあ、さっきのは格好の見世物になっていたとは思うが。
 気まずいとしか言いようのない空気の中、俺と晶子はちびちびと麦茶を飲む。マスターはさっさと飲み終わって額の汗を拭い、潤子さんは悠然と麦茶を飲んでいる。再開するならどうぞご自由に、と暗に言っているような気がしてならないのは気のせいじゃないだろう。かと言って、俺がマスターと潤子さんを攻撃したところで軽くいなされるのがオチだしな・・・。
 全員が麦茶を飲み終わったところで、潤子さんが全員のコップを集めて流しに持っていく。そしてコップを洗い始めたところで、俺と晶子の方を向く。

「祐司君、晶子ちゃん。まだ時間あるから、上で休んでらっしゃいよ。」
「休むって・・・。ここに座ってれば十分ですよ。」
「晶子ちゃんはそれでも良いかもしれないけど、祐司君は熱出して体力が落ちた状態でコンサートに出たわけでしょ?だから1時間くらい寝てらっしゃい。時間になったら起こしに行ってあげるから。」
「大丈夫ですよ。」
「祐司さん、行きましょう。」

 晶子がやおら席を立つと俺の手を取ってダイニングから出ようとする。俺はそれに引っ張られて席を立ち、晶子に引っ張られるままにダイニングを出て、階段を上っていく。晶子、もしかして怒ってるのか?別に潤子さんは俺と晶子を邪魔者扱いしてはいない筈だが、晶子の気に障ったんだろうか?この辺、俺の頭では理解し辛いものがある。
 晶子に先導されて、泊り込みの時に俺が使わせてもらっている部屋に入る。晶子は電灯を点けて部屋の中央辺りまで来るといきなり座る。俺もつられて前につんのめるように座る。すると晶子の手が俺の頭を抱えるように持ち、そのまま横に倒す。これって・・・膝枕じゃないか?!

雨上がりの午後 第1373回

written by Moonstone

「何だ。もう終わりか?」
「私達に構わないで続けて良いのよ。」
「・・・何言ってるんですか。二人揃って。」
「・・・。」

2003/12/9

[鬱陶しい!]
 またしてもメールチェックの度にウィルスメールが舞い込むようになりました。しかも複数。メールの数に期待して待ってみたらウィルスメールばかりで余計にがっくりします。勿論全てゴミ箱行きですけど。
 ウィルスメールの他に英語のDMも多くなってきて(多分、.orgドメインを持っているからでしょう)、うっとうしいことこの上ない。で、「No more advertisement」(広告不要)のURLにアクセスしようとすると見つからなかったり、配信拒否のメールを送り返そうにもそのメールアドレスが使えない、と突っ返されたり、腹が立つこと頻りです。
 舞い込むメールの実に9割以上がウィルスメールかDMで、感想メールは1割にも満たないのが現実。いい加減馬鹿らしくなってきますが、メールアドレスを変えようとすると膨大な手間がかかりますし・・・。何とかならないものでしょうか(溜息)。
 俺ははっきり答える。口元が自然と緩むのが分かる。見逃してもらったぜ、とかいうものじゃなくて、俺は人に恵まれている、と感じて心が温かくなったからだ。マスターも潤子さんも、熱を出してフラフラで来た俺を心配こそすれ、叱咤するようなことはしなかったよな。そんな心遣いが本当に嬉しい。

「でも、誰か一人にはきちんとお礼を言っておくべきじゃない?」

 潤子さんに言われてはっとする。そうだ。俺は一番心配をかけた、そして助けてくれた人にまだ一言も礼を言ってないじゃないか。俺は晶子の方を向いて頭を下げる。

「迷惑かけて悪かった。」
「迷惑だなんて・・・。心配はしましたけど、ちっとも迷惑とは思わなかったですよ。」
「晶子・・・。」
「それより、熱が下がって良かったですね。祐司さんも頑張ったコンサートの打ち上げで、祐司さんだけ具合の悪い身体で打ち上げに出ることになったり、打ち上げに出られなかったりしたら、私もつまらないですけど、祐司さんが一番つまらないですからね。」

 何て心温まることを言ってくれるんだろう・・・。コンサートが始まるまでずっと俺の傍に居てくれて、一時耳が満足に聞こえなくなった俺のまさに耳とメトロノームになってくれた晶子。俺は晶子の右手を取って両手で包むように握る。晶子は優しい微笑みを返す。晶子が本当に愛しい・・・。
 何か視線を感じる。ゆっくりと視線を感じる方向を向くと、腕組みをしたマスターと頬杖をついた潤子さんがじっと俺と晶子を見ている。俺は慌てて晶子から手を離して正面に向き直る。

雨上がりの午後 第1372回

written by Moonstone

「祐司君。今は本当に大丈夫?」
「ええ。もうすっかり。」
「なら良いわ。マスターの言ったとおり、結果オーライってことで。これ以上この件については言いっこなし。ね?」
「・・・はい。」

2003/12/8

[今こそこの日を見詰め直すべき]
 12月8日。59年前のこの日、日本は真珠湾を宣戦布告前に攻撃し、太平洋戦争が始まりました。この戦争で日本はアジア諸国を占領下に置き、皇民化教育の名の元による日本語、日の丸、君が代の強制、「反日分子」と睨んだ住人の大量虐殺などの蛮行を行い、国内では反戦平和を訴える日本共産党の徹底弾圧をはじめ、治安維持法と「隣組」制度で国民を相互監視と圧政下に置き、数多くの罪なき人を犯罪者として殺していきました。
 憲政記念館でミサイル防衛の「展示会」が行われ、集団的自衛権や憲法「改正」が平然と叫ばれ、「有事」の名の元に日本国民をアメリカの起こす戦争に総動員する態勢作りが着々と進められ、更に全土が戦場と言われるイラクに自衛隊を派兵しようという動きが進む中、何処からか聞こえてきませんか?忌まわしい軍靴の音と、日の丸がはためく音と斉唱される君が代が・・・。
 マスコミはベタ記事扱いが関の山でしょうが、幾多の血と犠牲の上に築かれた日本の憲法と平和原則が「国際貢献」や「有事」の名の元に崩されようとしている今、我々は真剣にこの日の重みを考えるべきではないでしょうか。
 4人がかりならそれほど時間はかからない。配線は元どおりになり、念のため潤子さんが電源を入れてシンセサイザーの音が出るか、音源モジュールの切り替えがシンセサイザーから出来るか−これで様々な音色を出していたわけだ−を確かめる。少しの間色々な音が出た後、潤子さんは何度か頷く。どうやら問題なしのようだ。

「よーし、これで全部OKだな。一先ずお疲れさんでした、っと。」
「まだ時間もあることだし、皆で一服しましょう。」

 今度は潤子さんを先頭にして店の奥へ向かう。途中でマスターが店の照明を消す。潤子さんはダイニングの照明を点けると、手早く4人分のコップを用意してそこに氷を入れ、冷蔵庫から取り出した麦茶を注いで4つの席の前に置く。俺と晶子は何時ものとおり−何時ものとおりとなっているところが何とも・・・−マスターと潤子さんと向かい合う形で座る。
 そしてそれぞれコップを手に取って麦茶を飲み、ほぼ同時にコップから口を離して、ふぅ、と溜息を吐く。思わず口元が綻ぶ。それは晶子もマスターも潤子さんも同じだ。三人共額に汗の玉が浮かんでいて、何本か頬を伝った跡がある。俺は額を拭ってみると、手が汗でべっとりと濡れる。ただでさえ熱い照明の熱を浴びながら、ステージを行ったり来たりして力の限り演奏したんだ。汗をかいていて当たり前か。

「ははは。あれだけ派手に動き回ったんだ。皆汗びっしょりさ。」
「祐司君は汗をかいたから余計に良かったんじゃない?熱を下げるには汗をかくのが一番だから。」
「そうですね。・・・迷惑かけてすみませんでした。」

 俺はマスターと潤子さんに向かって頭を下げる。

「まあ確かに一時はどうなることかと思ったが、無事終わったんだからそれで良いさ。結果オーライってやつだな。」

雨上がりの午後 第1371回

written by Moonstone

 そして最も厄介なシンセサイザーの「復元」に取り掛かる。まず潤子さんがキーボードスタンドを元に戻して置く場所を確保し、シンセサイザーの入ったハードケースを開いてシンセサイザーを取り出し、落とさないように気をつけながらスタンドに置く。続いて配線の束からガムテープで作った簡易ネームプレートにしたがって配線をそれぞれの場所に取り付けていく。こんがらがらないように注意しながら。

2003/12/7

[酒の威力は凄まじい]
 昨日は何時ものように目覚ましをセットせずに寝たのですが、何時もなら6時頃に起きてしまうところが11時までぐっすり。朝食や買出しの後もやたら眠くて、殆ど1日寝てました。このお話をしている今でも眠気が取れません。
 忘年会が金曜日でよかったとつくづく思います。こんなんじゃろくに仕事出来なかったでしょうから。酒を飲み慣れていないのも一つの原因なのかもしれません。酒を飲めた以前の自分なら、こんなことはなかったですからね。
 今日はせめて新作1本書き上げたいところなんですが、無理なら無理で諦めます。無理をすれば月曜からの仕事に差し障りますから。となると、また今度の更新が小規模になるなあ・・・。ま、仕方ないか。

「祐司君。熱の方はもう良いの?」
「あ、はい。もうすっかり大丈夫です。心配かけてすみませんでした。」
「治ったなら良いのよ。祐司君一人だけ家に置いて打ち上げに行く、なんて出来ないものね。」
「私も一緒に居ます。」
「あ、そうか。祐司君が欠席だと晶子ちゃんも必然的に欠席になるんだっけ。二人が居ないとつまらなくなるわよね、あなた。」
「まったくだ。何のための打ち上げか分からなくなる。」

 まさかとは思うが、俺と晶子を酒の肴にしようって魂胆じゃあるまいな。・・・まあ、考え過ぎということにしておこう。俺は溜息を吐きながら背凭れに凭れかかる。打ち上げがあると聞いたせいか、全てが終わったという実感があまり湧いて来ない。こういう気分は高校時代のバンドでも感じたかな。
 車は暫く大通りを疾走した後、見慣れない風景の中に入っていく。普段通らない道の上に外が暗いから余計そう感じるんだろう。暫く走っていくと、見覚えのある道に入り、やがて小高い丘の上に立つ白い建物、Dandelion Hillが見えてくる。車はその裏側へ入っていく。
 マスターがバックで車を入れた後、ライトを消してエンジンを止める。俺はギター二つを抱えて車から降りる。そしてエレキを素早く背中に背負って、マスターが開けたトランクに手を突っ込み、シンセサイザーのハードケースを1つ取り出す。
 トランクに詰め込んだ時と同じ要領でそれぞれが荷物を持って、マスターが玄関の鍵を開けてドアを全開する。マスターに続いて中に入ると、廊下を抜けて店に出る。マスターが店の照明を点ける。そしてステージに上って俺は一旦シンセサイザーのハードケースを置いてギターのソフトケースからギターを取り出して、晶子が置いたギタースタンドに立てかける。

雨上がりの午後 第1370回

written by Moonstone

 車はゆっくりと駐車場内を走行し、往路と同じ細い道に出てから大通りに出る。その段階でマスターはスピードを上げる。そうしないと他の車の邪魔になるのは、外のヘッドライトの流れを見れば明らかだ。

2003/12/6

[何ヶ月ぶりだろう・・・]
 昨日、職場の忘年会がありました。忘年会につきものと言えば料理に「酒」!(強調するな)料理は最初から出されていたものを見る限り、「おい、これで会費5600円は高くないか?」と思ったんですが、幹事さんの「飲み放題」という言葉に素早く反応し、真っ先に酒(チューハイ)を注文。その瞬間、場が硬直したのをこのお話をしている今でも憶えています(^^;)。いやその、前に調子に乗って記憶がなくなるほど酒を飲み過ぎて、店の中を滅茶苦茶にしたらしいですから(私はまったく憶えてません)。
 よって、料理を食べつつ飲む、を繰り返しました。しかし、酒の量に対して料理が少ない(美味しかったですけどね)。結局チューハイを中ジョッキ4杯にビールをコップ1杯にお猪口で2杯日本酒を飲んだところで、幹事さんからストップがかかってジュースに切り替わりました。
 この程度では酔った範疇に入りません(薬を飲んでいると言う制限がなければかなり飲む部類に入る)。しかし、これから連載で書こうとしている飲み会の様子を描写するのに丁度良い参考になりました。それにしても、酒を飲んだのって何時以来だろう・・・。やっぱり記憶をなくすまで飲みまくった約1年前以来かな・・・。美味い咲けと美味い料理で満足の忘年会でした(^^)。
 桜井さん達は俺達の方に手を振って、トラックや駐車場の闇の中に消えていく。2時間というと結構時間があるな。一旦それぞれの家や「活動場所」に戻って待ち合わせ場所の胡桃町駅東口に集合、という段取りなんだろう。・・・って、それより本当にこのままで良いのか?

「マスター。俺と晶子の分は・・・。」
「明と相談して決めたんだ。今回は祐司君と井上さんが居たからこそ出来た曲が多かったからってことで、打ち上げの費用は年長者が支払うってことにね。君達二人の分を6人で分担するんだから、化け物みたいに飲み食いしない限り誰も文句は言わないから安心しなさい。」
「それじゃ、皆さんに申し訳ないと・・・。」
「晶子ちゃん。こういう時はね、年長者に甘えておくものよ。」

 晶子の言葉を潤子さんが笑みを浮かべて遮る。そういうもんなんだろうか?今まで年長者というと親や教師、そしてマスターと潤子さんくらいしか接点がなかったから、面識こそあるが親交があるとは言えない人達にまで自分の飲み食いの金を支払ってもらうのは気が引ける。

「さあて、俺達も一旦店に帰って片付けようか。」
「そうね。さ、祐司君、晶子ちゃん、行きましょう。」
「あ、はい。」
「・・・はい。」

 ここはどうもマスターや潤子さんをはじめとする年長者の厚意に素直に甘えるのが妥当なようだ。俺は晶子の手を取って、先に歩き始めたマスターと潤子さんの後を追う。
 往路と同じ席、即ちマスターが運転席、潤子さんが助手席、晶子がマスターの後ろ、俺が潤子さんの後ろの席に座って、マスターがシートベルトをしてから車のエンジンをかける。軽い衝撃に続いて車のアイドリングが始まり、ヘッドライトが灯る。

雨上がりの午後 第1369回

written by Moonstone

 何だか俺と晶子の知らないところで話は進んでしまっている。良いんだろうか?晶子は兎も角、俺なんて当日に高熱出して周囲を慌てさせたっていうのに。今回のコンサートだって、誰一人欠けても成立しなかったものだと思うんだが。

2003/12/5

[労働者としての意識はあるのか?]
 昨日、職場で就業規則についての研修がありました。実は私の職場には就業規則という名のものがなく(それに準じるものはあるが)、期限までに作成しなければならないのです。研修は労働基準監督署の方を招いての講演と就業規則案の羅列的な説明(はっきり言って説明になってなかった)でしたが、労働基準監督署の方が講演の後に読み上げて回答した質問は、全て私が関係部署を通じて送ったものでした。言い換えれば、私以外就業規則案に何の疑問も持っていないということになります(持っていたら質問する筈)。
 企業にお勤めの方ならお分かりでしょうが、就業規則は「企業の憲法」とも呼ばれるほど重要なもので、労働争議の裁判で必ず資料として提出を求められ、それに基づいて判決が下されることが大部分です。だからいざ出来て適用されるようになったところで「知らなかった」では済まないのです。しかし、研修会場に来た人数や表情を見る限り、そう認識している人は非常に少ない。
 私は政治経済の専門書を購読したり、ネット新聞で情報を集めたりして、労働者としての意識と知識をそれなりに持っているつもりです(講演者の方も私の質問の一つを取り上げて「この方はよくご存知」と言っていた)。思想信条が左翼右翼に関係なく、給与を得て生活する労働者としての意識は持って然るべきではないか。私はそう思うのですが・・・。
「これでプロ側は全員揃ってるわけだな。こっちも全員揃ってるからOKだ。」
「よし、それじゃ2時間後に胡桃町駅西口に集合ということで。」

 マスターの点呼が終わると桜井さんが予期しないことを口にする。この先何かあるって話は聞いてないぞ。

「あの・・・。この後何かあるんですか?」
「あれ?文彦。お前、言ってなかったのか?」
「ん?ああ、こういう時にはつきものだから言うまでもないか、と思って。」
「いい加減な奴だなぁ、まったく。あ、安藤君。打ち上げだよ、打ち上げ。」

「打ち上げって・・・。」
「花火を打ち上げるわけじゃないよ。」
「そんなことくらいは分かります。それより俺と多分ま・・・井上さんもそうだと思うんですけど、お金持ってないんですけど。」

 確かにこういう盛大な「祭り」の後には打ち上げが事実上不可欠なのは分かっている。俺だって高校時代にバンドに入っていたから、ライブが終わったら喫茶店に繰り出して−この辺が高校生らしいな−乾杯して飲み食いしたもんだ。だが、その時は勿論割り勘だった。マスターの伝達ミスとは言え金を持っていない俺と晶子はどうすりゃ良いんだ?

「あー、お金のことは君と井上さんは心配しなくて良い。年長者集団が支払うから。」
「そんな・・・。」
「申し訳ないです。」
「遠慮しなくて良いよ。君達二人のお陰で今回のコンサートが成立したようなもんだから。それより君達、酒は飲める?」
「一応・・・。」
「嗜む程度ですけど・・・。」
「それじゃ問題なし。じゃあ文彦。若人二人と潤子さんは頼むぞ。」
「了解。道中気を付けてな。」
「そっちこそ。」

雨上がりの午後 第1368回

written by Moonstone

「んじゃ次、大助。」
「ん。」
「賢一。」
「はい。」
「光。」
「はい。」

2003/12/4

[だったら貴様らが行け!]
 今まで犠牲者が出なかったのが不思議だ、というのが、イラクでの日本人外交官殺害事件に対する私の率直な感想です。米英占領軍の司令官が「全土が戦闘状態」と言い、その言葉どおり各地で武力衝突が起こり、米英占領軍のみならず他国の軍隊、そして国連など国際機関までも攻撃の標的にされる事態になっているのは、もはや隠しようのない事実です。
 しかし、この期に及んでも小泉首相や川口外務相などは「テロには屈しない」と言ってイラクへの自衛隊派兵の段取りを練っています。今の現状のイラクに軍隊(自衛隊は憲法違反の軍隊でしかない)を送り込めば、間違いなく攻撃の標的にされて、イラク人と殺し殺されるという最悪の事態になるのは火を見るより明らかです。もし自衛隊員かイラク人のどちらかで犠牲者が出れば、日本は戦後60年近くの歴史に他国の領土で戦争をして殺傷した(された)という拭いようのない汚点を残すことになります。
 どんな理由があれどテロが許されない蛮行であるのは世界の常識です。しかし、何故米英が圧倒的兵力を持ってしてもテロを抑えられないどころか逆に激化させているのか。それは、イラク戦争自体が自衛反撃以外の武力行使を禁じた国連憲章違反の無法行為であり、その無法の上に軍事占領と称して居座り続けている米英軍に対してイラク人が怒り、それがテロの温床になっているからです。速やかにイラク人に主権を返還し、国連を中心とした復興支援に切り替えない限り、犠牲者は増え続けるでしょう。そんな危険な場所に自衛隊員を送り込むのは、人身御供そのものではないでしょうか。
政府与党、そして民主の国防族議員や右翼軍国主義者共に告ぐ!
自衛隊員より先に貴様らがイラクに行ってこい!
日本人が殺されたんだ!さっさと鉄砲担いで報復に行ったらどうだ!

「晶子。マスターの車の位置って分かるか?」
「ええ。こっちですよ。ついて来てください。」

 俺は晶子の先導を受けて、暗いが車がぎっしり詰まった駐車場を歩いていく。何だか迷路を歩いているようだ。他の車に楽器をぶつけないように気を付けて歩いていくと、見覚えのある車が見えてくる。
 晶子は車に向かってキーのボタンを押す。マスターからキーを預かったんだろう。ガチャッという音がしてロックが外れ、晶子がトランクを開ける。俺はその中にシンセサイザーが入ったハードケースを入れる。そして晶子がギタースタンドと配線の束を端の方に詰め込む。ギターは抱えて車内で運搬するからとりあえず俺の役割はここまでだ。
 俺はギターを後部座席に乗せて、マスターと潤子さんが来るのを待つ。マスターがサックスの入ったハードケース2つとシンセサイザーの入ったハードケースを、潤子さんが音源モジュールの入ったラックと折り畳まれたキーボードスタンドを持って来る。

「よく分かったな。」
「晶子が案内してくれたんです。」
「よし、機材をトランクに詰め込み、詰め込み・・・。」

 マスターと潤子さんに協力して、シンセサイザーとサックスの入ったハードケースをトランクに収め、マスターがトランクを閉める。晶子がマスターに鍵を返すと、マスターはトランクの鍵を締める。

「あとは大助と賢一の搬出待ちだな。ま、じきに終わるだろう。」
「あなた。その間に集合場所へ行ってましょうよ。」
「そうだな。祐司君、井上さん、行こう。」
「「はい。」」

 俺と晶子は、マスターと潤子さんの後に続いて、集合場所になっている搬入口へ向かう。既に桜井さんと勝田さんが来ていた。搬出口からはピアノや分解されたドラムやパーカッションが運び出されてくる。そして近くに駐車されていたトラックに積み込み、ロープで固定してからビニールシートで包む。確かに直ぐ終わった。機材搬出を誘導していた青山さんと国府さんが駆け寄って来る。

「これで全員揃ったかな?」
「念のために点呼でもするか。まず、明。」
「隣に居るだろうが。」

 桜井さんがマスターの頭を軽く引っ叩く。それを受けて笑いが起こる。

雨上がりの午後 第1367回

written by Moonstone

 俺は胴が薄いエレキを背負い、アコギを手に持ってステージから会場の外へ出る。外は照明が点々と灯っているとは言えすっかり真っ暗だ。往路で熱を出してフラフラだったが故にマスターの車の位置を憶えていなかった俺は、店の関係者が出てくるのを待つ。最初に出てきたのはギタースタンドや配線の束を持った晶子だった。

2003/12/3

[話せば楽になるものだ]
 実は私、1年半以上にわたって人に話せない悩みを抱えていました。私の持病の回復が遅いのも、それが常に心の何処かにあって持続的な精神的ストレスとなっていたからでしょう。それは何となく分かってはいたんですが、ものがものなのと、私が人に心情を好んで話すタイプではないこともあって(愚痴や文句は言うけど(汗))、職場の人にも肉親にも話せず(ネット上の友人にぶちまけたところで迷惑がられるのが関の山でしょう)、悶々としていました。
 昨日、その悩みを、事前に予約をしておいた(大抵予約制なのよね、こういうのは)専門家に洗いざらいぶちまけました。返ってきた言葉は私にとってかなり厳しいものではありましたが、下手に同情されたり(してもらうことそのものはありがたいですけど、そればかりじゃねぇ)、ましてや怒鳴られたりするより(私は怒られると「何でそんなに怒られなきゃならんのだ」と反抗心を募らせてストレスになるタイプ)ストンと胸に落ちて気分がかなり軽くなりました。
 丁度方位磁石も地図も無しに未開の地を彷徨っていたところに、原住民が「それはあっちだ」と指し示してくれた、というところでしょうか。変な譬えですがそんな感じです。自転車で往復1時間かけて相談場所へ向かった甲斐がありました。細かいことをあれこれ抱え込みがちな私は、こういう専門家の力を借りて胸の痞えを取るようにした方が良いようです。
 全体が明るく照らされたステージ脇からマスター、潤子さん、桜井さん、青山さん、国府さん、勝田さんが出て来て、ステージ向かって左から桜井さん、青山さん、国府さん、勝田さん、晶子、俺、マスター、潤子さんの順に並び、手に手を取り合って高々と掲げ深々と一礼する。拍手と歓声が最高潮に達するのを感じる。
 そして頭を上げると、客席に向かって手を振りながらステージ左脇から退場する。客席のオレンジ色の照明が灯り、コンサートの本当の終わりを告げる。だが、ステージ脇からこっそり覗き見る限り、誰一人として退場していない。拍手と歓声は収まる気配がない。

「皆様、本日はご来場ありがとうございました。お気をつけてお帰りください。尚、お忘れ物のないよう、くれぐれもお気をつけください。」

 アナウンスが会場に流れると同時に幕が下りてくる。拍手と歓声がようやく収束に向かい、ざわめきに変わっていく。幕が完全に下りたところで、全員が顔を見合わせ、一様に表情を綻ばせる。

「やったな。」
「成功だ。」

 マスターと桜井さんは、短いが深い感慨の言葉を言い、固く握手する。
俺と晶子は顔を見合わせて笑みを浮かべる。晶子の笑みは満足感と充実感に満ちている。

「さて、残るは機材の搬出だ。気合入れていこーう!」
「「「「「「「「おー!」」」」」」」」

 桜井さんの言葉で気持ちを切り替え、機材の搬出にかかる。俺はまず自分の相棒、エレキとアコギの配線を外してそれぞれソフトケースに仕舞い、一先ずスタンドに立てかけてからシンセサイザーの片付けを手伝いに行く。会場のスタッフが続々と入ってきて、ピアノとドラムという大きな楽器の搬出にかかる。俺は晶子と潤子さんと協力して配線を外し、シンセサイザーをハードケースに仕舞い、その内一つを俺が持ってステージを降りる。

雨上がりの午後 第1366回

written by Moonstone

 全ての音の響きが消えた後、客席から大きな拍手と歓声が沸き起こる。終わった。俺と晶子はチラッと顔を見合わせた後、客席に向かって一礼する。拍手と歓声は更に大きくなる。俺は頭を上げた後、ギターのストラップから身体を抜き、スタンドに立てかけてから元の位置、即ち晶子の隣に戻る。

2003/12/2

[掲載作品に関して(2)]
 今日ご紹介するのは前回でも名前だけ触れた、「譬え背丈は違えども」です(Side Story Group 2で連載中)。この作品は手っ取り早く言ってしまえば、若い男性教師と「大人っぽい」と言われる小学生の女の子の恋愛物語です。
 何でそんな話書くんだー、と思われるかもしれませんが、この作品の母体である「カードキャプターさくら」では断片的にしか触れられておらず、どうして男性教師(寺田良幸)が女の子(佐々木利佳)に婚約指輪を渡すまでになったのかさっぱり分からず、「分からないなら自分で考えて書いてしまえ」と思ったのが書き始めたきっかけです。
 この作品も所謂「歳の差カップル」、しかも世間的には男の方が犯罪者呼ばわりされてもおかしくないカップルを描いているわけですが、決して興味本位のものにする気はありません。タイトルにあるとおり「譬え背丈は違えども」二人の気持ちは真剣なものだ、ということを感じ取って欲しいです。「カードキャプターさくら」を知らない方でも十分楽しんでいただけると思いますので、是非一度ご覧下さい。
 一旦晶子のヴォーカルが止まる。原曲ではシンセ音やコーラスが入るんだが、ここでは俺のギターのみだ。ここまでの流れと歩みをぶち壊しにしないためにも、慎重且つアコギの響きを生かす演奏が求められる。事実上のギターソロのラストを締めるノックのような音を出す。テンポを崩さないように上手く出せた。最後だけ音程が下がるところはこれまで苦労してきたが、今回はすんなり出せた。さあ、あと一息だ。
 再び晶子のヴォーカルが入る。ヴォーカルとギターだけのシンプルで綺麗なハーモニーが会場に響く。去年のクリスマスコンサートで隠し球として晶子と練習を重ねて準備してきた曲。それが1000人を収容する大会場で披露されている。その現実に興奮と緊張を感じつつ、弦を爪弾く指の力加減に注意して、晶子との歩みを乱さないように気をつける。
 晶子のヴォーカルはクリスタルボイスという名称が相応しく、よく澄み切っている。歌詞の内容は正直言ってタイトルとあまり関係がないが、セピア色の風景を脳裏に蘇らせるものがある。楽譜もろくに読めなかったあの頃の晶子。義務感だけで教えていたあの頃。それが今じゃどうだ。二人並んで心を合わせて一つの曲を紡いでいる。2年近い時の流れが積み重なって今の俺と晶子があるんだ。改めてそう思わせる。
 曲は俺のストロークを挟んでサビに入る。原曲では薄いシンセ音やコーラスが入るが、ここでは俺と晶子だけで全てを表現する。晶子が幸せな風景を叙情的に歌い、俺がそれを下支えする。シンセを加えない方が良い、という桜井さんの判断は正解だったようだ。もっともそうでなくても俺は晶子と二人だけでこの曲を演奏したかったんだが。最初に披露した去年のクリスマスコンサート以来、この曲では一切シーケンサを使っていない。文字どおり二人三脚でこの曲を演奏してきた。今日がその集大成と言って良いだろう。
 透明感ある晶子のヴォーカルが緩やかに高みに上り詰め、最後の歌詞を優しく美しく締めくくる。残るはあと僅か。ここが曲の出来を最も左右するところだ。俺はギターの弦を丁寧に爪弾き、徐々にテンポを落としていく。一呼吸分のタメを作ったところで、俺はストロークを鳴らし、晶子は木漏れ日差し込む森の中のようなハミングを響かせる。俺はギターの響きが消えるまで左手をフレットの上から離さず、晶子のハミングが消えるのを待つ。

雨上がりの午後 第1365回

written by Moonstone

 晶子が再び歌い始める。俺のギターもそれと同時に歩き始める。サビだからといって声量が上がるわけではない。一定の声量で歌い方を変えて曲の展開を表現している。練習でもリハーサルでも、この歌を聞くと本当に心安らいだ。それは今でも同じだ。俺は晶子と手を取り合って一歩一歩歩いていく。と気に俺のストロークが、時に晶子の歌声が合図になって歩いては止まりを繰り返す曲を確かなものにしていく。

2003/12/1

[「12月=イルミネーション」か?]
 昨日の日記に書いたとおり、背景写真を変更しました。某所にあるイルミネーションのついたメリーゴーランドです(実際には乗れない)。12月に入ると、否、クリスマスまで一月を切る頃になると、大抵イルミネーションが付けられますよね。これってやっぱり客寄せの一環でもあるんでしょうか?
 イルミネーションって一言で言いますけど、結構電気代かかると思うんですよね。最近のは大規模なものが多くなってますから尚更。それをカバー出来るだけの効果があるのかどうか・・・。イルミネーションを見に来たとしても、実際にそれを実施している百貨店や商店街で買い物をするとは限らないと思うんですが。
 まあ、これも冬の風物詩の一つとして認知されるようになってきたということなんでしょう。私の通勤路の近くにもイルミネーションをつける家がありますから、クリスマスツリーの発展型とでも思えば良いんでしょうね。
 そして最後は全員揃って−マスターと勝田さんもだ−音程の階段を上り、ドラムがクラッシュシンバルでアクセントをつける。晶子はそれに合わせて呟くような感じで言葉を入れる。楽器の演奏がダブルクラッシュでビシッと締めくくられた直後、晶子が言葉を加えて左手を高く掲げる。残響が消えるや否や、大きな拍手と歓声がどっと沸き起こる。今日が初めての音合わせとは思えないほど見事に決まった。流石はプロとプロ並の腕を持つプレイヤー揃い。心配するだけ損だったな。
 照明が淡いブルーに切り替わる。そうそう、まだ全ては終わっていない。俺は急いでエレキを外し、アコギのストラップに身体を通して、マイクスタンドにマイクを戻した晶子と同じところまで前に出る。スポットライトが俺と晶子を照らす。長いようで短かったサマーコンサートも本当にこれで終わりだ。締めくくりに相応しい「Fantasy」を披露しよう。俺と晶子の二人で。
 俺は目だけ動かして晶子を見る。晶子も目だけで俺を見ている。俺が他人に分からない程度にごく小さく頷くと、晶子がすぅっと息を吸い込む。それが、歌い始めますよ、という晶子の合図だ。俺は右手を最初に弾く弦に合わせて弾き始めるタイミングを計る。
 晶子の歌い始めと俺の弾き始めがぴったり合った。よし、一先ずOKだ。晶子の歌声を間近で聞きながら、弦を優しく爪弾く。ハンマリングやプリングといったギターテクニックはさり気なく、あくまで自然に・・・。晶子の歌声が静かな会場に清々と響く。互いに歩調を合わせながら、それこそ普段手を取り合って歩くように歌と演奏が一体化している。
 サビに向かって曲は順調に進んでいく。叙情感溢れる晶子の歌声が次第に切なさを帯びてくる。晶子は練習の過程でどんな風に歌っていけば良いかを感じ取って、それを身につけた。この歌声を無にしたくない。俺は丁寧に弦を爪弾く。サビ前の演奏は心なしかギターの音がよく響く。ストロークで一区切りつける。一瞬時間が止まったような気がする。

雨上がりの午後 第1364回

written by Moonstone

 ヴォーカルが終わり、バッキング部隊とストリングスとドラムが基本フレーズを奏でる。そこに晶子が呟くような感じで言葉を入れる。前半4小節の最後2小節でマスターが、後半4小節最後の2小節で勝田さんがフレーズを加える。アドリブとは考え辛い、演奏に合ったフレーズだ。これも事前に研究して考え出したものなんだろうか。

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