芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2002年2月28日更新 Updated on February 28th,2002

2002/2/28

[手間かけさせやがって・・・!]
 もう2月も終わりですねぇ。明日は背景写真を変えて掲示板JewelBoxをオープンして・・・と結構やることは多いですが、仕事でやったあまりにも馬鹿馬鹿しいことに比べれば実に可愛いものです。
 その馬鹿馬鹿しいこととは、一旦描き終えた回路基板の配線図を何箇所かでキャプチャーして、それを元にもう一度配線図を描き直すという、実にくだらなくて、それでいてやたらと手間のかかる作業です。何でこんなことになったかというと、配線図を描くソフトが原因不明のトラブルを起こして配線図から基板加工用のデータを出力できなくなってしまい(プリンタの設定のところでエラーが出た時点で何かある、と思ったが)、色々試してみたけど回復しないし時間だけが過ぎていく、ということでやむなく実行に踏み切った、ということです。
 一度描いた配線図をまた描くなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ない。でも新たに描き直さないことには話が進まない。午前中ちょっと眠くて作業が滞ってしまったので、帰宅予定時刻を大幅にオーバーしてどうにか描き終えました。今度はプリンタの設定も上手くいったので問題ないでしょう。この作業中にもう一つ回路を設計する必要がある、と思ったことは出来れば忘れたままで居たい(爆)。でも何れは作らなきゃならないからなぁ・・・(溜息)。
 何のことか分からぬまま、俺はダイニングにある洗面台に足を運ぶ。別段変わった様子はないようだが・・・あれ?歯ブラシが二つ。今までは確か一つだったのに、何時の間に増えたんだろう?

「歯を磨いていって下さいね。歯ブラシはグリーンの新しいほうですから。あと、櫛もありますから必要なら使って下さい。」
「何時の間に・・・。」
「昨日の夜出しておいたんですよ。でも私も歯を磨くのすっかり忘れてましたけどね。これからそれを使って下さいね。」
「歯ブラシまで用意されてるとはな・・・。何だか一緒に住んでるみたいだ。」
「ふふっ、似たようなもんじゃないですか。一緒に食事したり寝たりしてるんですから。まだ恒常的なものじゃないですから、通い婚って言った方が良いかもしれないですね。」

 通い婚か・・・。言われてみれば確かにそういう表現がぴったりだ。相手の家に行って食事して泊まっていくんだから。また一つ既成事実が積み重ねられたような気がする。そのうち本当に表札に二人の名前を連ねた場所に住むことになったりして・・・。あながち妄想とも言えないところが怖いと言うか何と言うか・・・。

「昨日歯磨き忘れた私が言うのも何ですけど、食後の歯磨きは基本ですよ。」
「俺、歯磨きするのはバイトから帰って寝る前だけなんだけどな。」
「昼や夜は仕方ないにしても朝は磨いた方が良いですよ。すっきりしますから。」
「じゃあ、使わせてもらうぞ。」
「ええ、どうぞ。」

 俺はアンプと鞄を床に置き、背中のギターを壁に立てかけてから晶子に指定された新しいグリーンの歯ブラシに歯磨き粉をブラシの半分くらいの量だけ乗せて歯磨きを始める。虫歯はないが歯磨きをしておくに越したことはない。歯は一回虫に喰われると時間と金がかかるからな・・・。

雨上がりの午後 第745回

written by Moonstone

「もう出かけるんですか?」
「家で着替えもあるしな。時間に余裕を持っておきたいし。」
「じゃあその前に洗面台の前へどうぞ。」

2002/2/27

[掲示板JewelBox復活へ向けて]
 「ニュース速報」で既報のとおり、昨年閉鎖した掲示板JewelBoxの復活が決まり、最終調整も終了して、復活予定日の3/1を待つのみとなりました。今度はレンタルではなく、フリーのCGIです。とは言っても殆ど使い勝手は同じですし、見た目も変わりません(前のを覚えていたらお分かりかと思います)。そして今回は「荒らし」の軽減のためにホスト名とIPアドレスを表示するようにしました。
 掲示板を閉鎖して半年以上。その間感想メールが増えたかといえば決してそんなことはなくて、増えたといえばせいぜいSubjectが「Re;」のウィルスメールくらいのものです(今でもたまに来る)。掲示板を設置することで管理運営は多少大変になりますが、御来場者同士でコミュニケーションを取ってもらって、賑やかなものになれば良いと思っています。リスナーの皆様も、間もなく迫った復活の日に何か一言メッセージを残していただければ、と思います。
これを用意するには少なくとも6時半ごろには起きていたんだろう。目覚ましは7時にあわせたつもりだが、それがなくても十分起きられるのも俺には難しいことだ。

「さ、食べましょうよ。」
「ああ、そうだな。それじゃ・・・。」
「「いただきます。」」

 二人で唱和した後、俺と晶子はできたてほやほやの朝食を食べ始める。普段味わえる筈もない、豪華で見た目にも栄養面でもバランスが取れている朝食が腹に染みる。何より一人で焼いた食パンを齧るのと決定的に違うのは、向かい側に人が、それも自分にとって大切な人が居ることだ。
 朝食は今日の俺の実験内容や−晶子にも分かるように丁寧に説明したつもりだ−俺の自動車学校の進み具合を話題にして進んでいく。話をしながらだと食も弾む。時には笑いも挟みながら、楽しいひとときが過ぎていく。
 朝食が二人ほぼ同時に終わり、晶子が手早く食器を重ねて流しへ運ぶ。俺もそれに続く。晶子は袖を捲ってスポンジに洗剤をつけて後片付けに入る。良く準備をしてて下さい、と言われた俺は厚意に甘えてリビングへ戻って出かける準備を始める。準備といっても服を着替える程度だからすぐ終る。歯磨きは・・・まあ良いだろう。準備してこなかったし。
 服を着替えてパジャマを鞄に押し込んで準備完了。時間は7時半前。これから家に寄って別の服に着替えてから改めて出かけても充分間に合う。俺はギターを背中に担いでアンプと鞄を持ってリビングを出る。晶子はまだ洗い物の最中だったが、俺がリビングから出たのを察したのか洗い物の手を止めて俺の方を向く。

雨上がりの午後 第744回

written by Moonstone

 朝食は焼いた鮭の切り身をメインに、目玉焼きに付け合せの千切りキャベツ、味付け海苔にワカメの味噌汁、それに御飯という、旅館を思わせるメニューだ。随分手が込んでいる。俺にはとても真似の出来ない芸当だ。

2002/2/26

[これがオリンピックとアメリカの正体だ!]
 私は元々右翼国粋主義を煽るようなオリンピックやワールドカップなどの世界的スポーツイベントが(この名称が相応しいとも思いませんが)嫌いでニュースで報道される範囲でしか知らないんですが、今回ほど露骨な商業主義と自国有利な判定が横行する大会は初めてです。韓国やロシア、日本の選手の方がどう見ても正当だったり優秀だったりしても、判定は進路妨害だったりアメリカの選手が上位入賞したり・・・。ロシアが閉会式をボイコットすると言い出したりするのは当然でしょう。
 これはあらゆる面で自国中心主義を露骨に見せるアメリカの体質を見せたと言って良いでしょう。自分達さえ良ければ良い、という思惑が鬱陶しいほど露骨に見えます。昨年の同時多発テロで意気消沈した(実際はその直後の報復戦争で高揚してますが)国民を元気付けようとでもいうのでしょうか?スポーツの判定は公正、公平に行われて然るべきです。
 商業主義は会を重ねるうちに露骨になってきて目障りなだけですし。いっそオリンピックは止めにして、本当の意味でのスポーツを通した国際交流のあり方を考えるべきではないでしょうか?

Fade out...

 ・・・俺の目の前が少しずつ明るくなってくる。此処は・・・晶子の部屋だ。晶子のベッドに横になっている。当たり前といえばそうだが・・・。そう言えば晶子は・・・?左肩の方を見ると晶子の姿はない。半纏も片付けられ、俺のトレーナーもきちんと畳まれて床に置かれている。晶子は先に目を覚まして朝食の準備をしているんだろうか?
 枕元の目覚し時計を手に取って見ると、7時を少し回ったところだ。目覚ましがないとまともに起きられない、否、目覚ましが合ってもギリギリまでしぶとく抵抗する俺にしては珍しいを通り越して奇跡に近い。それだけぐっすり眠れたという証拠だろうか?
 俺が上半身を起こすと、ドアが音を立てないように開き、そこからエプロン姿の晶子が姿を現す。晶子は俺が起きているのを見て意外そうな顔をする。まあ、今までは決まって晶子に起こされていたから、晶子も俺がまだ眠っていると思っていたんだろう。

「おはよう、晶子。」
「祐司さん・・・。あ、おはようございます。目覚ましなしで起きたんですか?」
「ああ。自然と。自分でもちょっとびっくり。」
「てっきりまだ寝てるものかと・・・。あ、そうだ。丁度朝御飯が出来たところなんですよ。一緒に食べましょうよ。」
「そうだな。それじゃ・・・。」

 俺はベッドから出ると畳まれていたトレーナーを背中に羽織って晶子の方へ向かう。朝食はダイニングの方に用意されているようだ。晶子もいちいちリビングとキッチンを何度も往復するのは億劫だろうし、朝食が食べられるならそれ程場所にこだわる必要もないだろう。
 俺は晶子に先導される形でダイニングにあるテーブルに備え付けの、玄関側の椅子に腰掛ける。寒い時期、此処に着てまずご馳走になる紅茶を飲むのも、その他この空間で食事を摂る時の俺の「指定席」だ。その向かい側に晶子がエプロンを着けたままで座る。

雨上がりの午後 第743回

written by Moonstone

 ・・・そんなことを思っているうちに俺の意識も朦朧としてきた。今日の練習は一段と熱を帯びていたし、風呂上りに入魂の一曲を演奏して、身体の疲れは相当溜まっているんだろう。此処はその疲れが意識を侵食するのに任せるのが一番だろう。お休み、晶子・・・。

2002/2/25

[また負けた・・・]
 先週はずっと起きていられた日曜日。今回は今までと殆ど同じくダウン。昼間は殆ど1日ベッドに突っ伏してました。朝起きたのも10時半過ぎでしたし、どうも頭がすっきりしなかったんですよね。この時点で「負け」は決まっていたんでしょう。
 まあ、土曜日に「魂の降る里」の新作を書き上げて(今回は身体中痛くなるようなことはなかったです(^^;))、掲示板JewelBoxの最終調整も出来たので(詳しくは「ニュース速報」をどうぞ)、今度の週末で何とか定期更新の体裁は整うでしょう。どうにもならない時は素直に身体の欲求に従うしかないですね。まだまだ完治には遠いようです。気長に治していこうと思います。
 明日俺は朝が早いから目覚ましが必要なんだが・・・。ベッドの周辺を探すと、目覚し時計があった。俺は時計の表示板や裏側を眺めて、7時に鳴るだろうと推測する。外れたらそのときだ。目覚し時計の上部のボタンを押して出っ張った状態にして、元あった位置に置く。
 俺も背中に羽織っていたトレーナーを床に置いてベッドに入る。晶子と密着した形で横になると、掛け布団を引き寄せて肩口まで被せる。これで一先ず寝る準備は出来た。俺は再び身体を起こして電灯の紐に手を伸ばす。かなり厳しい距離だがどうにか届いたところで、紐を何度か引いて部屋の電気を消す。一転して暗闇に覆われた部屋の中で聞こえるものといえば、壁時計の秒針が時を刻む音くらいだ。
 俺は再び布団に潜り込む。シングルベッドに二人並んで寝ているからやっぱり狭い。・・・こうなったら・・・。俺はベッドの中心寄りに身体をずらして、晶子の身体を抱き寄せて頭を俺の左肩に乗せる。身動きは取れなくなったが、これで窮屈を感じずに寝られる・・・と思う。間近に居る晶子の存在が気になって仕方がない。左脇腹には独特の柔らかい感触を感じる。神経を高ぶらせるには充分すぎる状況だ。
 その原因の根本であるところの晶子といえば、規則的な寝息を立てて俺の肩口を枕にして、全くの無防備ですっかり眠ってしまっている。その様子を見ていると、不思議と荒ぶる欲望が静まっていくのを感じる。
 この寝顔を壊したくない。この安らかな時間をぶち壊しにしたくない。そんな思いが俺の中で膨らんでくる。晶子の寝る様子には欲望を鎮める力があるようだ。全くの無防備だからこそ、それを守らなきゃ、という気持ちになるのかもしれない。こんな調子じゃ更に仲が深まるのは相当時間がかかりそうだ。まあ、それはそれで構わない。無理に深めようとしてもろくなことにならないだろう。二人三脚でゆっくりでも良いから確実に深めていけば良いことだ。

雨上がりの午後 第742回

written by Moonstone

 どうにか半纏を脱がせて、俺は晶子を両腕で抱え上げる。所謂「お嫁さん抱っこ」の態勢になった。なおのこと心が複雑に激しく揺れ動くが、どうにか平静を保ちながら晶子を敷布団の上に横たえる。

2002/2/24

[地元がこれだから・・・]
 昨日TBS系で放映された「ブロードキャスター」で、渦中の人物、鈴木議員の地元の様子を見ました。そこでは「地元振興のためお願いするのは当然」と根室市長が言い、「(鈴木議員は)立派な人だ」「誰でもやっていること」と当然の如く地元業者が強弁し、地元では(鈴木議員批判は)タブーだ、などと語られていました。
 はっきり言いましょう。このような議員を選出した地元(根室方面)も鈴木議員と同罪だと。国会議員は出身選挙区のために行動するのではありません。出身選挙区での様々な問題(企業の無法首切りや大企業に振り回される中小企業振興など)を国会で取り上げるのは良いですが、出身選挙区に利益を供与するようなことはそれこそ税金の私物化ですし、馴れ合い、即ち癒着を生むことになるのです。そしてそれを当然視するムラ意識選挙がこのようなふざけた議員を生むのです。
 このお話をお聞きのリスナーの方で選挙権をお持ちの方。国会議員は国民全体のことを考える議員であり、地元のことは地方議員に任せれば良いのです。そのことを踏まえた上で政党や候補者を見極め、1票を投じるようにして下さい。それが本当の政治改革に必要なことです。
 かと言って前のように晶子の胸を愛撫したいのかと言われると、思わないといえば嘘になるが実際に行動に出るまでには至らない。このまま芳香剤のような晶子の肩を抱いて、その身体を受け止めるだけで充分心は満たされる。こういうごく自然に、そのときその状況その感情次第で仲を深める関係も良いだろう。何も恐れるものがない、二人だけの時間を満喫できるこういう仲も・・・。
 暫く無音の世界で晶子の香りと柔らかさを堪能していると、肩口から隙間風のような微かで規則的な音が聞こえてくる。晶子の奴、安心し過ぎて眠ってしまったらしい。このままじゃ湯冷めして風邪をひいてしまいかねない。晶子の持つ楽器は風邪をひいたら最後だ。寝るならベッドで寝させないと・・・。

「晶子、おい、晶子。」

 俺は空いた右手で晶子の身体を抱くようにして軽く揺さぶる。んん、というくぐもった声がして晶子が薄目を開ける。

「あ、祐司さん・・・。」
「祐司さん、じゃない。こんなところで寝たら風邪ひくぞ。」
「んー。じゃあ祐司さん、ベッドへ連れてってください・・・。」

 晶子の言葉に俺は耳を疑う。ベッドへ連れていけだなんて、誘ってるも同然じゃないか。そう思うと、今までどこかに引っ込んで鳴りを潜めていた肉体的欲求が急激に頭を擡げてくる。こんな時に限って・・・。これも男の性と言ってしまえばそれまでだが。
 兎も角晶子をこのままにしておくわけにはいかない。俺は晶子をベッドの側面に凭れさせるようにしてから、ベッドの上にある布団を可能な限り捲る。敷布団が露になったところで、晶子が羽織っている半纏を脱がしにかかる。欲望と理性が交錯している中で他人の服を脱がせるのは意外に難しい。晶子の腕を半纏の袖から引き抜いて、と・・・。

雨上がりの午後 第741回

written by Moonstone

 俺は晶子の左肩に手を回す。すると晶子は俺の左肩に頭を乗せて、より全身を俺に委ねてくる。少し手を伸ばせば触れられる位置にある−左手は既に触れているが−晶子の髪や身体から甘酸っぱい良い匂いが漂ってくる。それが俺の胸を擽(くすぐ)ってこそばゆくする。

2002/2/23

[うーん。上手くいかないなぁ]
 昨日付更新で新設したニュース速報のウィンドウ、本来は1週間の更新履歴と同じ横幅になるはずなんですが(縦幅は違う)、どうしてもこのコーナーのウィンドウサイズと同じになってしまうんですよね。HTMLソースを見ても設定に間違いはないのに、ニュース速報のウィンドウに限っては横幅の設定を変えても言うことを聞かないんです。何でなんでしょう?
 それはさておき、2/21の衆議院予算委員会の参考人質疑で、日本共産党の佐々木憲昭議員の追及がクリーンヒットして、ご本人はマスコミの取材で引っ張りだこになっています。そりゃあ、あれだけ綿密な調査と証拠を踏まえた追求をされれば、追求される側はたまらんでしょうね(^^;)。佐々木議員は経済関係に精通している方なんですが(予算委員会委員なのはそれもあるかも)、こういう場面でも論客振りを発揮するのは流石です。ネットで予算委員会の模様を見たのですが(テキストで再現されたものです)、鈴木議員がぼろを出す様が明らかで、「ムネオ・ハウス」なるものを示した部分では呆れると同時に激しい怒りを覚えました。こういう業者との癒着が続く限り、日本の政治は良くならないでしょう。
 問題なのは首相。「自民党をぶっ壊す」とかカッコの良いこと言っておきながら、何ら旧態依然の、否、もっと酷い癒着の構図を自らぶち壊せないで何が「構造改革」でしょう。NGO出席拒否問題でも他人事みたいな答弁を繰り返すばかりでしたし、「小泉改革の正体見たり」と言ったところでしょう。佐々木議員にはこの際徹底的に疑惑を追及してもらって、鈴木議員を辞任に追い込んでもらいたいです。
自分の家で練習して汗ばんだ後はそのまま寝るか、面倒だなと思いながらシャワーの準備をするかのどちらかなんだが。これも二人で居ることのメリットの一つだろうか。
 アンプとギターの結線を外してケーブルを束ね、ギターをソフトケースに入れてから、俺は鞄の中からバスタオルを取り出して、リビングを出て風呂場へ向かう。服を脱いで−パジャマと下着だけだから直ぐだ−風呂場に入ると蛇口を捻る。丁度良い温度のシャワーが身体に降り注ぐ。心地良い演奏の後のシャワーはこれまた心地良い。俺は思わず「AZURE」のフレーズを鼻歌で歌う。
 全身を隈なく濡らした後、俺はシャワーを止めて風呂場から出る。バスタオルで身体を拭いて再び下着とパジャマを着て背中にトレーナーを羽織る。ふと壁を見るとオレンジ色のLEDが光っているパネルがある。これが風呂やシャワーの調節に使うパネルなんだろう。俺はそれを見て「点火/消火」と書かれたボタンを見つけてそれを押す。するとLEDが消えた。これで大丈夫だろう。一応晶子に言っとかないといけないが。
 リビングに戻ると、晶子が「指定席」に腰を下ろして待っていた。半纏を羽織ってちょこんと座っている様子が可愛らしい。

「お待たせ。パネルの電源、切っておいたよ。」
「オレンジのLEDが消えれば良いんですけど・・・よく分かりましたね。」
「基本的には家のと同じだからな。『点火/消火』ってあるボタンを押してオレンジ色のLEDが消えたのを確認したから。」
「そうですか。ありがとうございます。」

 晶子は笑顔を浮かべて礼を言う。簡単なことだったが礼を言われれば勿論悪い気はしない。俺はよりすっきりした気分で晶子の横に座る。すると晶子は直ぐに俺の左肩に、否、左半身全体に身体を委ねてくる。

「ん・・・良い気持ち・・・。」
「凭れてるだけでもか?」
「ええ。凄く安心できる・・・。」

雨上がりの午後 第740回

written by Moonstone

 晶子の気遣いが嬉しい。自分を楽しませてくれた−拍手と賞賛の言葉があったからそう思う−代わりに、俺にシャワーの準備を施してくれるなんて・・・。

2002/2/22

[色々やってます]
 先日の「1週間の更新履歴」表示の設置に続いて、本日付で「ニュース速報」表示を設置しました。内容は芸術創造センターに関するものです。「それならMoonligh PAC Edition(以下、広報紙)があるじゃないか」と仰る方も居られるかもしれませんが、広報紙は作成、編集にかなり時間がかかるので状況の変化に即応とはいかないのが現状ですので、さっさと書けて公開できるような場所を、と思って今回「ニュース速報」を設置した次第です。
 内容はご覧戴ければお分かりかと思いますので、此処ではあえてお話しません。場合によっては今後発行する広報紙と内容が重複する時があるかもしれませんが、それはご愛嬌ということで(^^;)。行事の告示なども行うことがありますので、更新がありましたら是非チェックしてください。
 身体がほんのりと温かい。手を見ると綺麗なピンク色に染まっている。これも俺がいかに夢中になって演奏できたかということの証明だろう。ちょっとした運動の代わりにもなったようだ。軽くシャワーを浴びたい気分だ。

「祐司さん、シャワー浴びますか?」
「え?」

 晶子の突然の申し出に俺は思わず聞き返す。晶子の奴、俺の心が読めるのか?偶然にしては出来過ぎている話に俺はそう思わずにはいられない。

「祐司さん、じんわり汗ばんでますから。すっきりしたいでしょ?」
「あ、ああ。」
「シャワーは直ぐに準備できますからちょっと待っててくださいね。」

 晶子はそう言うや否や立ち上がって、小走りでリビングを出て行く。俺がストラップから身体を解放してギターとアンプを片付け始めた頃、晶子が戻って来た。本当に早いな。まあ、俺の家でもシャワーはボタンを押して湯が熱くなるのを少し待つだけだから、それと同じようなものだろう。

「シャワーの準備出来ましたよ。」
「ありがとう。これ片付けてからにさせてもらうよ。」
「祐司さんの大切なものですからね。勿論構いませんよ。」

雨上がりの午後 第739回

written by Moonstone

 晶子の手放しの賞賛の言葉の中に、俺も感じたことが混じる。良い演奏は聞き手にも同じ印象を与えるようだ。そういう心の共鳴が生まれて良い演奏だ、と思わせ、時には涙させるんだろう。何にしても、晶子を満足させられて満足だ。たった一人の聴衆からの拍手と賞賛が、俺にとっては何よりの報酬だ。

2002/2/21

[眠気に負けた・・・(爆)]
 昨日は冷え込みが大したことなかったので、帰宅してから作品制作云々と考えていたんですが、いざ帰宅して夕食を食べ終えるとやけに眠くて、座椅子を徐に倒して楽にしていたら、何時の間にやら眠ってしまってテレホタイムをオーバー(爆)。勿論、このコーナーと連載は真っ白(猛爆)。
 昨日に続いて作品制作の時間をみすみす逃してしまって、ちょっと意気消沈気味。自業自得といってしまえばそれまでなんですけど、勿体無いことしてますね〜。持病が順調に快方に向かっているとはいえ、まだかなり疲れやすい身体であることとPCに向かっての仕事が意外に疲れることを踏まえておかないと、また同じことの繰り返しになってしまいそうです。それだけは避けないと。
 このお話をしながらページ巡りをしていて、カッコ良いFlashアニメを見ました。私もFlashアニメを作ってみたいなぁ、と思いましたが、表示は別として制作ソフトは何処で手に入れれば良いんでしょう?ご存知の方、是非教えてください(_ _)。

「曲は何が良い?」
「やっぱり私と祐司さんの思い出の曲、『AZURE』ですね。」
「思い出の曲、ねえ・・・。」
「だって、私が祐司さんの家を探してた時、お店であの曲を演奏してなかったらすれ違いで終ったかもしれないんですよ。」

 晶子のいうことはもっともだ。言うなれば「AZURE」は俺と晶子を正式に出会わせた記念碑的な曲ってわけだ。ならご要望に応えて「AZURE」を弾くとするか。俺はギターを再びソフトケースから出し、電源と接続したアンプと接続してチューニングを施した後、ベッドに腰を下ろして演奏の準備を整える。晶子は俺のほうをじっと見詰めている。・・・緊張するなぁ。
 一呼吸おいて旋律を爪弾き始める。・・・いい感じだ。フレットの上を左指が踊り、それを右指が跳ね上げる。そして生まれた旋律が部屋に拡散する。アコースティックギターに似た柔らかく、濃淡に飛んだ音が自分でも心地良い。演奏者が心地良いと思う音楽は聞き手にも心地良いと言う。今は晶子の様子に目を向ける余裕はないが、晶子もきっと心地良く思っているだろう。
 最後のフレーズを引き終えて、余韻を味わいながら左手をフレットから離すと、パチパチパチと拍手が起こる。晶子が感嘆の表情で手を叩いている。どうやら好評を得たようだ。聞き手を満足させられたなら演奏者としては光栄だ。

「凄ーい。やっぱり祐司さんのギターの音は凄いですよ。あの時以上に衝撃的でした。」
「自分でも上手くいったとは思ったけど、そう言って貰えると嬉しい。」
「何て言うか・・・祐司さんの両手がギターの上で踊ってるように見えたんですよ。指が音を鳴らすのを楽しんでるようで・・・本当に凄かったです。」

雨上がりの午後 第738回

written by Moonstone

 何を言うかと思ったらそんなことか・・・。ギターはソフトケースに仕舞ったし、アンプとか接続しないといけないが、まあ、それ程手間じゃないし、晶子が頼んでることだから良いか。

2002/2/20

[寒さに負けた・・・(汗)]
 更新時刻が少々遅くなりました。理由はキャプションで言っているとおり、寒さに負けて布団に潜っていたら、うっかり転寝してしまって気付いたらテレホタイム30分前だったということです(爆)。勿論、このコーナーと連載部分は白紙のまま。もっと我慢して仕上げておいてから布団に潜り込むべきでしたね。えらく底冷えするのに耐えられなかったんですよぉ〜(T-T)。
 そんなこともあって、メールのお返事が遅れています(大汗)。本来なら早急にお返事しなければいけないのですが、如何せん寒いのと眠気には(仕事でかなり疲れる)勝てず、滞っている状態です。必ずお返事しますので、メールを出された方は今しばらくお待ちくださいませ(_ _)。
「『EL TORO』も入ってるしな。このアルバムの曲は難しいのが多いから、聞いて技術を盗もうと思って。」
「あ、私もそうですよ。此処はこんな感じで歌うと良いのか、って思いながらCD聞いてるんですよ。普段は。」

 晶子も同じことをしていたのか。成る程、練習の度に声に磨きがかかって、更に向上させたいという欲があるのかよく分かる。晶子もいっそ歌手の道を歩んでも良さそうなもんだ。あの歌声は下手なアイドル歌手を軽く凌駕している。プロデュースさえしっかりしてやれば、それ相当な反響が期待できそうだ。・・・ちょっと試してみるか。

「晶子もいっそ、プロデビュー目指してみたら?」
「私は出来ませんよ。」
「何でだよ。晶子の歌声ならそんじょそこらの歌手よりずっと・・・。」
「私には祐司さんをプロデュースするっていう大役がありますから。」

 そう来たか・・・。晶子は自分より俺のほうを優先させる腹積もりなんだな、やっぱり。もっと自分に目を向けても良さそうなものだが・・・。裏を返せばそれだけ俺が音楽のプロを目指すことを期待しているってことだろう。だったら俺もいい加減腹を括らないといけないな・・・。

「ねえ、祐司さん。」
「ん?何だ?」
「何か一曲、演奏してくれませんか?」

雨上がりの午後 第737回

written by Moonstone

「『AZURE』のCDかけてたんですね。」
「ああ。ちょっと聞いてみたくなってな・・・。」
「確かこのCDの中に祐司さんが演奏する曲が結構入ってるんですよね。よく演奏するのは「AZURE」ですけど。」

2002/2/19

[更新履歴の表示について]
 トップページの更新情報をご覧いただければお分かりかと思いますが、本日から1週間分の更新履歴をご覧いただけるようにしました。かなり手間がかかりましたし、これから更新する度にまた一つ手間が増えることになるんですが(前日の更新履歴を保管しているので)、1日分しか更新情報が表示されないと毎日ご来場いただいている方は別として、どのグループが更新されたか分からないことが起こりうると判断して設置しました。
 昨日付の更新ではFTPのトラブルで、更新が予定時刻から約6時間後に実施されるという事態が起こりました(A.M.2:00まで待っていたんですが復旧しなかった)。それで今日付の更新をすると、日曜日の夜から月曜日の深夜、未明にかけて更新を待って戴いていた方が、昨日付の更新情報を見逃してしまいかねません。それは不親切ですし、見逃した更新情報を1週間以内なら見れるようにすることで、更新されたグループをご覧いただけるのではないか、と思って急遽準備した次第です。
 昨日更新を待っていたけど更新されなかった、とお怒りの方(いらっしゃるかどうかは分かりませんが)。是非「[1週間の更新履歴]」をクリックして下さい。昨日付の定期更新はかなり頑張りましたので、是非ご覧下さい。
 現に今、こうして大学に行かせて貰っているし、生活費だって最低限やっていけるだけの仕送りをして貰っている。それは電子工学関連の職やそうでなくても会社員や公務員とか、安定している職に就いて欲しい、という親の希望もあるだろう。音楽の道に進むことはそれを反故にすることになるから、反対するのはある意味当然かもしれない。
 だけどこうも思う。挑戦してみるだけの価値はあるんじゃないか、と。音楽を趣味から生活の糧に変えれば、気が乗らないものでも形にしなきゃいけない。スタジオミュージシャンは生活が厳しいし、明日はどうなる我が身、と言う状態らしいから、カバーなりオリジナルなりアルバムを作って稼ぐ必要があるだろう。そうなると、単純に音楽を楽しむということから逸脱することになるだろう。四六時中音楽がついて回ることを考えると、ちょっと待てよ、とも思う。
 でも、多少なりとも自分の腕をそれなりの腕前を持つ人達から−マスターと潤子さんだ−称賛され、その人達も、そして晶子もサポートしてくれると言っている。よく言われる言葉だが一度きりの人生だ。可能性にかけてみるのも良いだろう。駄目だったら駄目で他の道を改めて模索すれば良いことだ。
 楽観的だと言われればそこまでだ。実際普通に就職することも厳しいご時世だ。やり直すのは突き進む以上に険しいかもしれない。就職面接で「今まで何をしてたんですか?音楽?ふーん、そうですか。」などと蔑視されるかもしれない。音楽に限らず芸術なんて普通の人間が手出しするものじゃないっていう認識が根強い国だ。そういう蔑視感情があっても不思議じゃない。
 でも、俺は一人じゃない。プロダクションと多少コネがあるらしいマスターと潤子さんも居るし、俺のサポートをしたいという晶子がいる。それに甘える形になるが、可能性にかけてみるのも良いんじゃないだろうか?成功したら後で恩返しは出来る。失敗しても労いこそすれ、嘲笑することはしない筈だ。実際、マスターはその道を進もうとしていた時期があった人だし、潤子さんはそんなマスターの境遇を知って尚マスターと結婚した人だ。俺もやってみようか。晶子はサポートしてくれると前から公言している。それに甘えても良いだろう。
 BGMを背景に物思いに耽っていると、ドアがノックされる。晶子が風呂から上がったんだろう。どうぞ、と応答すると、例のV字にカットされた胸元を見せるパジャマに半纏を羽織った晶子が入ってくる。

雨上がりの午後 第736回

written by Moonstone

 本当に俺は、音楽のプロとしての道を進んで良いものなんだろうか?音楽で飯を食っていくつもりだ、なんて言ったら、親は絶対強硬に反対するだろう。脱サラをして客商売で苦労しているだけに、子どもにはそんな思いはさせたくない、と前に親父が酒の席でそう言っていたことを思い出す。

2002/2/18

[おおっ、起きていられたぞ!(喜)]
 これまでなら何もする気が起こらず、食事以外では殆ど寝込んでいた日曜日、何と寝込むことなく起きていられることが出来ました(喜)。その時間を利用して、長らく更新していなかったSide Story Group 2の新作を(前回の後編ですけど)書いて今日の定期更新で公開することが出来ました(喜)。
 何故この日曜日に限って起きていられたかは分からないんですが、回復に向かっている証だったら嬉しいですね。やっぱり1日起きているのと寝込んでいるのとでは気分的にも全然違いますし、更新出来るグループが一つ増えるかもしれないんですから。更新が長く滞ると人足が遠ざかりますし、私自身も手を出し辛く感じるんですよ。
 今回をきっかけに、週末に作品制作に打ち込めるようになれれば良いな、と思います。長らく更新できないでいる音楽グループにも手を伸ばせれば、全グループ一斉更新、なんてことも出来るでしょうし。

「お先に。いい湯加減だったよ。」
「そうですか。良かった・・・。」
「それより晶子、退屈じゃなかったか?俺、ゆっくり風呂に入ってたから。」
「え?10分くらいですよ。別に退屈なんてしてませんよ。」
「そうなの?」
「体感時間と実際の時間の違いが大きいですね。それだけゆっくり寛いで貰えたら私も満足です。」

 晶子は微笑んで立ち上がり、俺と入れ替わりにリビングを出て行こうとする。ドアが閉まると思った時、祐司さん、と呼びかけられる。俺が声の方を向くと、晶子が小さく手を振っている。・・・さっき俺がやったのと同じだ。俺は苦笑いが混じった笑みを浮かべて手を振り返すと、晶子は嬉しそうに手を振ってそっとドアを閉める。やれやれ。これじゃ銭湯の前で別れる夫婦かカップルと変わらないじゃないか。って、さっきもやったんだよな。
 晶子は多少長風呂なので−髪を洗う時間が長いんだろうか−、俺はCDの棚を探って「AZURE」のCDをコンポにセットして部屋に流す。俺が弾き鳴らすフレーズが耳に入ってくる。・・・やっぱり上手い。音の粒がはっきりしていて、それでいて自己主張しすぎない程度に収まっている。こういう表現が俺はまだ未確立だ。そのまま真似するんじゃ芸がないが、参考にはなる。
 ピアノとストリングスと絡みながら「AZURE」は進んでいく。こうなるともはや単なる演奏ではなく一つの芸術と言って良いかもしれない。音圧の強いピアノやストリングスに埋もれることなく、音の粒を浮かべては消していく演奏振りは、俺の理想とするところだ。潤子さんとペアで演奏する「EL TORO」もこのタイプの曲だが、プロというものの実力の程を改めて思い知らされたような気がする。

雨上がりの午後 第735回

written by Moonstone

 一応ノックしてみると、ドアの向こうからどうぞ、という応答が返って来る。その後で俺はドアを開けてリビングに入る。リビングにはBGMはなく、晶子が「指定席」にちょこんと座っているだけだ。結構のんびり風呂に入っていたから、てっきり暇を持て余してCDを聞いているかと思ったんだが。

2002/2/17

[昨日は熱く語りました]
 早速リスナーの方から反応があったのが嬉しくて、更新自国が多少遅れるのを承知でリクエストされたテーマ「脳死」について語ってみました。スペースには限りがあるので(何時もよりは大目に取りましたが)、その中でお話したいこと、一つは脳死が曖昧な死であること、もう一つは脳死の概念が何故普及しないのかということに焦点を絞って可能な限りお話したつもりです。
 何かについて私の意見をお話することはこれまでにも何度かありましたが、昨日のようにリスナーの方のリクエストで戴いたテーマについて意見をお話するのは勿論初めてのことで、それなりに緊張しましたね。普段は多少羽目を外しても良いや、と思うこともありますが、今度ばかりはそうもいかず、普段はしない校正も何度か行いました。
 そんなこんなで行ったリクエスト第1弾、如何でしたでしょうか?リクエストは先着順で場合によっては直ぐにお答えできないことがありますが、是非リクエストしてみてください。お待ちしております。
俺は持ってきた鞄の中からパジャマとバスタオルとタオルと下着を取り出して、下着をタオルの中に隠す。別に疚しいことはないんだが、下着を見られるのにはまだちょっと抵抗がある。これが晶子との仲をさらに深めようとしない心理の一端なのかもしれない。
 晶子は直ぐに戻ってきた。俺が風呂に入る準備を整えたのを見てか、笑みを浮かべて言う。

「お風呂の準備が出来ましたから、入ってくださいね。」
「ああ。そうさせてもらうよ。」
「私は此処で待ってますね。」

 晶子は俺と入れ違いに「指定席」に座り、俺は荷物を持って立ち上がり、リビングを出ようとする。そこで試しに晶子に向かって小さく手を振ると、晶子は微笑んで小さく手を振る。俺の口元に自然に笑みが浮かんでもう一度手を小さく振ってからリビングを後にする。何だか見送りを受けて仕事に向かうみたいだ。あ、実際見送りを受けたのか。
 俺は脱衣場で服を脱いで風呂場に入る。手早く髪と身体を洗って湯船に身を浸す。ここへ来て今日から毎週月曜日にこうして晶子の家に泊まるのか、という実感がふつふつと湧いてくる。一時は妄想に耽ったりもしたが、自分の家のような感覚の前に、それも一時の記憶として湯煙の中に消える。
 のんびりした気分で湯船に暫し浸かった後、俺は風呂から上がって自分のバスタオルで−一瞬、晶子のものを使いそうになった−身体を拭いてパジャマを着る。この季節、屋内に居る限りは熱くもなく寒くもなく、ちょっと厚手のパジャマを着ていれば充分だ。自分の家ではとっくに暖房を落としているせいもあってか、多少の寒さは平気だ。だが、湯冷めすると良くないから着てきたトレーナーを背中に羽織って、荷物を纏めてリビングに戻ることにする。

雨上がりの午後 第734回

written by Moonstone

 風呂の準備が出来た、というアラームが鳴る。俺が自然に晶子の「束縛」を解くと、晶子は俺の肩から頭を起こし、すっと立ち上がって御免なさい、と言って俺の足を跨いでリビングを出て行く。

2002/2/16

[リクエスト第1弾:「脳死」について]
 昨日募集を始めたら早速リクエストを戴いたので、そのテーマである「脳死」についてお話しようと思います。早速今日から始めたのは、このコーナーを作る前にリクエストのメールを受けたからです。それまで寒くて布団に潜ってたので。
 さて、脳死については第2創作グループの『慈善「死」医療』でテーマにしていますが、結論から言えば、脳死というのは「医師のさじ加減で決まる死」だと思います。救急医療は日々目覚しい進歩を遂げており、蘇生不可逆点はどんどん後退していっています。出血による脳のオーバーヒート状態を鎮める脳低温療法を用いれば、今までは助からなかった患者も社会復帰できるまでに回復させることさえ出来るようになっています(実施している医療機関が少ないのが現状ですが)。
 そういう救急医療を施さず、極論を言えば医療怠慢や医療ミスで脳が機能不全に陥るのが、いわゆる脳死ではないでしょうか。それに、脳死と判定された患者が回復するという事例は枚挙に暇がありません。これこそ脳死というものが如何に曖昧なものか、言い換えれば医師のさじ加減で決まる死であるということを示す証拠ではないでしょうか。
 さらに死生観の問題もあります。今まで日本人は心臓が止まり、やがて体が冷たくなっていく過程を「死」と捉えてきたのであり、それを法律一本で心臓が動いていても「死」である、と定義しても簡単に受け入れられる筈がありません。欧米で脳死による臓器摘出や移植医療が盛んなのは、肉体は魂を入れる部品の集合体である、と捉える欧米キリスト教の死生観が背景にあるからです。日本で脳死の定義が出来たことを喜んでいるのは、臓器移植を待つ患者と臓器移植医療で知名度を上げたい病院や医師くらいのものでしょう。
 はっきり「死」であるといえる状態は腐敗です。しかし、それを待っていては移植医療はおろか葬儀も出来ません。それに脳死という新たな「死」が出来ても推進派の目標だった慢性的な臓器不足の解消はできないでいます。現代医療は脳死を作り出してしまったことで、「死」をややこしいものにしてしまったのではないでしょうか。
「な、何のことやら・・・。」
「ふふふ。正直に言いなさい。もうバレバレなんですからね。」

 思わぬ形で晶子の「逆襲」が始まった。俺は兎に角知らぬ存ぜぬを通すしかない。晶子の言うとおり、晶子と一緒に寝ているところを想像してました、なんて言える筈がない。言おうものなら何て言われるか、分かったもんじゃない。

 晶子の「逆襲」にどうにか耐えられた。でも晶子は何もかもお見通しですよ、って顔をしている。完全に俺の負けだ。これから晶子をじゃらす時は妄想しないようにしないと拙いな・・・。
 晶子は口元に勝利の笑みを−俺はそう感じた−浮かべて風呂の準備をしにリビングを出て行った。CDはとっくの昔に終っていて、リビングはしんと静まり返っている。遠くに水の流れるような音が聞こえたが、風呂桶に湯が入り始めた音だろう。
 ドアが開いて晶子が入ってくる。そして「指定席」に腰を下ろすと再び俺に凭れて来る。俺は晶子の左肩に手を回す。これが待ち時間やくつろぎの時の自然なスタイルとして定着したような気がする。さっきまでとは打って変わった静寂の中、風呂桶に湯が流れ込んでいく微かな音をBGMにして、俺と晶子は二人の時間を無言で過ごす。それが退屈とかつまらないとかは少しも思わない。こういう過ごし方が二人とも出来るから、こうして仲が続いているんだろう。

「・・・こうしてると、凄く安心できる・・・。」
「俺もだよ・・・。」

 さっきのようにじゃれあうことは宮城の時にもあった。だが、こういう身を寄せ合う沈黙の時間を心地良く思うことはなかったと思う。こういう過ごし方が何時からどうして出来るようになったのかは分からないが、心地良いと思えるならそれで良いような気がする。
 今日は準備をしてきて晶子の家に泊まる初めての夜だ。さっきは様々な妄想が頭の中いっぱいに膨れ上がったが、今は不思議と落ち着いている。本当に不思議だ。宮城と初めての夜を迎えた時は興奮を抑えるのが精一杯だったというのに・・・。これも過去の教訓から学んだ結果だろうか?
 晶子に対する肉体的欲望がないといえば嘘になる。だけど、今はそれを行動に結び付けるつもりは毛頭ない。胸を愛撫したことがある程仲が深まった、好きな相手が自分に密着しているのに不思議な話だが、今は胸に触れようとも思わない。本当に不思議なくらい自制心が欲望の上に覆い被さっている。
 静まり返ったリビングで俺と晶子は可能な限り身を寄せ合う。愛しい、一緒に居たい。そんな気持ちで俺は晶子の肩を抱き寄せる。晶子は・・・どう思ってるんだろう?・・・止めた。考えるだけ損だ。嫌ならとっくに跳ね返されているだろうし、現に晶子自身、俺の方に頭を預けてるじゃないか。

雨上がりの午後 第733回

written by Moonstone

「何も想像なんてしてないってば。」
「駄目ですよ。顔にしっかり書いてあるんですから。『俺は今、晶子と寝ているところを想像してました』って。誤魔化しは効きませんよ。」

2002/2/15

[ちょっとお聞きしたいんですが]
 唐突ですが、リスナーの皆様はこのコーナーに何をお望みでしょうか?私が仕事で悪戦苦闘する様でしょうか?これは昨日一昨日でも話題にしてますが、専門的で訳分からん、という方もいらっしゃるかもしれません。政治や社会情勢に対する姿勢でしょうか?これも昨日話題にしましたが、かなり手厳しいことを言うので、私と反対の立場の方には耳障りかもしれません。
 元々このコーナーは日記代わりの面と、作品制作での裏話の面を持たせて始めたのですが、今じゃ何でもありの様相を呈しています。それに毎日数十名の方がこのウィンドウを開いてくれているようですので、グループで公開する作品では基本的にリクエストには応じないのですが、このコーナーではリクエストなど受け付けても良いかな、などと思ってます。
 勿論、ラジオ番組のように「この曲をかけてくれ」というリクエストには応えられませんが(著作権法に触れる)、「これについてはどう思うか」とか「これについて話してみてくれ」とかいうリクエストなら、可能な限りお答えしたいと思っています。リクエストはメールでお願いします(それしか手段がないですが)。折角のスペースですから、双方向型にしてみたい、という思いは前からありましたから。些細なことでも構いませんので、これを、という話題をリクエストしてみてください。お待ちしております。
 晶子はそれこそ猫みたいに俺の肩に頬を摺り寄せる。その甘えるような様子が俺の胸をぎゅっと締め付ける。可愛い。本当に可愛い。今までの晶子の印象は可愛いというより綺麗で、さっきみたいなじゃらしが効かないタイプ、言い換えれば潤子さんに近いものだったが、今日でそれは一変した。

「やっぱり・・・可愛いな。」
「可愛いって言葉、始めて祐司さんの口から聞いた・・・。」
「今まで晶子は潤子さんとよく似たタイプだと思ってたけど、こんな一面もあるんだな。今日は良いことを知ったよ。」
「うーん・・・。喜んで良いのかなぁ・・・。」
「良いさ、勿論。言い方難しいけど、晶子ならではってところが見れたから。」
「猫みたいに反応するのが私ならではってところなんですか?」
「そればかりじゃないけどさ、今まで晶子がこんなにじゃれたり甘えたりするのって、布団の中くらいしかなかったから・・・。」

 自分で言って俺は急激に顔が熱くなる。布団の中では晶子はそれこそ猫みたいに俺に擦り寄ってくる。その時の様子、独特の柔らかい感触、甘酸っぱい匂い・・・。それらが妄想となって俺の頭の中で膨らんでくる。

「・・・今、私と寝てるところ想像してるでしょう?」

 晶子に言われて、俺は慌てて妄想を押し込んで平静を装う。でも智一から不器用な奴と言われた俺だ。きっと顔や顔色に出てるに違いない。

「い、いや、別に・・・。」
「嘘。顔にしっかり書いてありますよ。」

 晶子はそう言って俺の左頬を左手の人差し指で突付く。俺はその突っつき攻撃に苦笑いしながら嘘を押し通すしかない。

雨上がりの午後 第732回

written by Moonstone

 晶子は体重をより俺の方に預けてくる。俺は晶子の肩をしっかり抱いて体の芯を床に可能な限り垂直に保ってそれに応える。どうやら怒ってはいないようだ。今日泊まっていく筈が追い出されてしまっては、元も子もない。

2002/2/14

[備えあれば、と言うけれど]
 昨日お話した実験用電源は無事完成しました。パネルの設計がちょっと拙かったので、ネジが締まらない個所が出来てしまいましたが、電源の機能や安全性には全く影響ないのでこれで良し、としました(安直?)。
 電源を作ったのは元々あった電源が他所の実験室に行ったままになっていたことに気付いて、電源なしでは予備実験が出来ない(電子回路なんだから電源がないことには話が始まらない)ので、急遽作ることになったんです。こんなことなら電源を取り返すか、予め電源を作っておくべきだったと思っています。
 こういう時、「備えあれば憂いなし」と言いますよね。小泉首相が本国会での提案を明言した有事立法もこの言葉が引き合いに出されます。でも、私の仕事で電源が必要なことや可能性の高い地震や噴火、津波といった自然災害に対する「備え」とは全く次元が違います。「Moonlight PAC Edition」号外で詳細を書いていますが、小泉首相が言う「備え」とは、アメリカと共に「何時でも戦争が出来る国作り」を目指したものです。これは戦争放棄を唱えた憲法9条に違反することは明白です。マスコミがこれを指摘しないのは、相変わらず「構造改革」の幻想を煽る一方で批判精神を無くし、右一辺倒になっている証拠です。
 マスコミや有事立法推進派は「有事」に自分達が進んで戦争に出て行きません。戦争に動員されるのは一般市民です。このことを忘れないで下さい。かつての戦争でもそうだったのですから。
 それを教訓にするなら・・・いっそ晶子から求めてこない限り大きな一線を超えないようにするべきだろう。俺の自制心が余程しっかりしていないと駄目だろうが、もう二度と手に出来ないと思っていた絆を手に入れたんだ。その絆を保つためなら、肉体的欲望を封じ込めることを躊躇う理由はない。

「祐司さんって、こんな難しいフレーズを弾きこなすんですよね。この左手で・・・。」

 晶子の右手が晶子の肩を抱いている俺の左手にふわりと被さる。羽根布団のような感触が伝わってくる。部屋には「GOOD BYE HERO」のギターソロが流れている。この部分は俺自身かなり気に入っていて、練習で初めて最初から最後まで弾き通せた時は思わずガッツポーズをしたくらいだ。

「晶子だってこの喉で、難しい歌を流暢に歌いこなすじゃないか。」

 俺は右手を晶子の喉へ運び、軽く指を動かして擽る。すると晶子はううん、と猫みたいな声を出して顎を引く。何だか猫をじゃらしているみたいだ。俺は試しに晶子の喉と顎に挟まれた右手をこちょこちょと動かす。晶子はその度にううん、うん、とかいう呻き声か何か分からない声を上げて身体を左右に小さく振る。

「何だか・・・猫みたいだな。」
「猫じゃないですよぉ。」
「猫みたいだって。ほら、こうすれば・・・。」

 ちょっと拗ねたような顔を見せた晶子が、俺が右手を擽るように動かすと目を閉じて猫がくすぐったがるように身体を動かす。その様子が本当に猫みたいで可愛らしい。あまり続けると嫌がられるからしれないから−今でも嫌がってるかもしれないが−ちょっと名残惜しい気分で右手を引っ込める。晶子が少し恨めしげに上目遣いで俺を見る。・・・やっぱりちょっとしつこかったか?

「祐司さんの意地悪。」
「御免御免。だって本当に猫をじゃらしてるみたいで可愛らしかったから。」
「・・・可愛い?」
「ああ。凄く可愛らしかった。普段じゃ見れない晶子の様子、可愛らしかったぞ。」
「・・・それなら良いです。」

雨上がりの午後 第731回

written by Moonstone

 宮城との時は順調に進んでいたと思っていた。でも、大きな一線を超えたことで、それでしか精神的に繋がりが持てなくなっていたのかもしれない。だから会う間隔が月に1、2回程度だった分だけ、それも宮城が俺の家に泊まっていく時しか精神的に繋がりが持てなかったと言い換えることが出来る。それが宮城に「身近な相手」に気持ちを向けさせ、あの夜の破局への道を形作ったのかもしれない。

2002/2/13

[眠いっす]
 昨日はずっと続いているカスタムICのシミュレーションの他に、ジャンクPCの廃棄準備、そして久しぶりの材料加工をしました。肉体労働の比率がこれまでより大幅にアップして大体頭脳:肉体の比が3:2くらいでしたかね。
 ジャンクPCの中には古いPC98シリーズの他、三菱や富士通の年代物が沢山。CRTは兎に角数が多くて、よくこれだけ溜まったもんだ、と思ったほどです。使えないのに抱え込んでても仕方ないのにね(^^;)。
 問題だったのは久しぶりの材料加工。必要に駆られて小型の実験用電源のパネルや底面の穴開けを(中でもネジ止めしないといけませんからね)始めたんですが、久しぶりのことに加えて底面と前後のパネルが一体になった構造で穴開けの前の罫書きにも苦労して、実際穴開けを始めたら、やり方が拙かったらしくてパネルは歪むわ穴は大きくなり過ぎるわ、挙句にドリルが材料に引っ掛かって押さえ切れなくなって回転を始めて、その拍子に左手首をしこたまぶつけて、金属片で左親指をさっくり切ってしまいました。今でもバンドエイドをつけています。結局昨日はタイムオーバーに(通院の為)終りましたが、今日は完成できるように昨日の教訓を踏まえて臨みたいと思います。
すると聞き覚えのあるイントロが流れてくる。これは・・・「HEAVEN KNOWS」だ。俺がたまに演奏する曲が入っているCDをかけるとは、晶子もなかなかやってくれる。

「祐司さん、自分の練習できないでしょう?両手疲れてるでしょうから。」
「だからこのCDをかけてくれたってわけか・・・。心憎いな。」
「私が歌う曲が入ったCDをかけるのは、まだ練習したいって唆すようでちょっと・・・。」
「実際、まだ練習したいんだろ?」
「・・・本当のところは。」
「あれだけ密度の濃い練習をしたんだから、今日のところはさっきので終わりにしておこう。晶子の気持ちは分かるけど、喉を休めてやらないとな。喉は晶子の大事で脆い楽器だから、壊れると直すのが大変だから。」
「・・・はい。」

 晶子は再び「指定席」に腰を下ろして、俺の方に身体を傾けてくる。俺は晶子の肩を抱くことでそれを受け入れる。何時も後ろ髪を引かれるような思いでロビーで見送って貰っていたのが、今日からその必要がなくなる。帰宅して一人で練習したりシーケンサのデータを作ったりするか、疲れに負けて風呂に入って寝るかのどちらかだった生活じゃなくなる。
 だけど嬉しいばかりじゃない。晶子と一緒に寝る機会が確保できたことで、俺の中の欲望が何時暴発するか分からない。暴発しないという保証は何処にもない。何せ晶子のパジャマは胸元が見えるし、甘酸っぱい香りと柔らかい感触が欲望を擽る。自制心がこれまで以上に要求されるわけだ。
 ・・・でも、こうも思う。晶子がその気なら、つまりは俺の欲望のベクトルと向かい合っていたら、晶子に覆い被さって行為に及んでも抵抗されないんじゃないか、と。問題なのは晶子の気持ちだ。晶子は感情が表に出やすいタイプだが、出るまでは何を考えているのかはなかなか読めない。読めれば何の苦労も要らないんだが・・・。この辺り、仲を続けて深めていく過程で難しいところだ。

雨上がりの午後 第730回

written by Moonstone

「CD、かけますね。」

 晶子は「指定席」を立ってCDケースが並ぶ棚の前で少し動きを止めた後、1枚のCDケースを取り出してCDをコンポにセットしてボタンを押す。

2002/2/12

[あー!泣かせたなぁ!(怒)]
 昨日はどうにか寝たきり雀や寝込んだ猫に(をい)なることなく、作品製作を進めることができました。完成させることは出来ませんでしたが、定期更新には充分間に合うでしょう。何を制作していたかは当日までのお楽しみ♪
 さて・・・昨日夕食後に「名探偵コナン」を見ていたんですが、時期を見計らったように丁度バレンタインデーが絡む事件。コミックで該当部分を読んでいた(けど詳細はすっかり忘れてた(爆))私は、テレビを見ながら蘭ちゃんからチョコ貰えたらええなぁ〜などと妄想しておりました。
 ところがラストの方で名前を書いていないチョコをラッピングしたものを手にして蘭ちゃんが泣き出したシーンで大ショック!「新一、てめえ度々蘭ちゃんを泣かせやがってからに!もうずっと小学生のままで居ろ!」と怒りに燃えておりました。蘭ちゃんが実際に居たら、迷わずお付き合いを申し込みたいと思っている私には、あの涙は本当にショックでした。あー、新一が羨ましいーっ!o(>_<)o
 この曲は前半のかなり長い時間、リズム楽器なしでベルっぽいエレピの高音部のバッキングを頼りに歌わないといけないから、歌うテンポが早過ぎても遅過ぎても曲の雰囲気を台無しにしてしまう。俺がシーケンサのデータを作ったは良いが、晶子の家にシンセサイザーはないから−まさか買えとはいえない−此処ではギター用にアレンジした方をリズム楽器なしで演奏するしかない。当然、俺のリズム感が重要になって来るわけだ。
 晶子もこの曲をレパートリーに加えたは良いが、音程が激しく動くし転調もあるしでかなり梃子摺っている。初めてステージで歌った時−勿論俺もステージに上った−歌いにくそうなのが端で見ていてよく分かったくらいだ。

「すみません。もう一度最初の方をお願いします。」

 声を出すタイミングを身体で覚えようとしていたらしく、晶子は最初の方を特に念入りに練習した。俺も晶子の感を狂わせないように、注意深くテンポを刻んだ。その甲斐あってか、最後の方では晶子も歌いながらテンポを保つことが確実に出来るようになった。こうして晶子の成長を見るのも、俺がこうして毎週月曜日に晶子の家へ通う原動力になっている。最初は楽譜もろくに読めなくて音程をまともに取れなかったとは、今の晶子を見れば誰も信じまい。
 時間にして約1時間半、何時も、否、今までより半時間ほど超過したところで練習を終えた。幾ら音量を控えているとはいえ、歌い続けるのは喉を酷使することに繋がるし、それで晶子の喉が潰れたら最悪だ。晶子はもっと練習したそうな様子だったが、俺が喉のことをいうと練習終了を了承してくれた。
 先に夕食を済ませているから、あとすることといえば風呂に入って寝るくらいだ。だが、時計を見ればまだ9時を過ぎたばかり。小学生じゃあるまいし、幾ら疲労が蓄積されているといっても寝るにはまだ早すぎる。

雨上がりの午後 第729回

written by Moonstone

 それから後、休憩の続きを−変な表現だが−して、再び練習を始めた。休憩前を前半とするなら、後半は新しくレパートリーに入れてまだ間もない「Can't forget your love」がメインになった。

2002/2/11

[猫が寝込んだ(爆)]
 いけませんね〜。本来なら昨日は一昨日に引き続いて定期更新用の作品を制作するところが、殆ど一日寝込んでました。別に風邪をひいたとかいうわけではなく、何時も日曜日に見られる現象です。これ、持病の典型的な症状なんですよね。だから防ぎようがないと言ってしまえばそれまでです。
 今日はどうですかね〜。何とか持ち直して作品制作に打ち込めれば良いんですが、何となく昨日の二の舞になってしまいそうな・・・(汗)。まあ、力まず焦らず、のんびりと休息を取りながらでも制作が出来れば良いな、と思っています。無理なら無理で仕方ないですし(ちょっと投げやり)。
 一度寝込むと兎に角長いんですよ。昨日もほぼ1日寝込んでました。日中は完全に布団の中でした。勿体無い時間の使い方ですが、病気が治るまでの辛抱でしょう。でも持病が何時になったら治るのか、全く予測がつかないんですよね(溜息)。ストレスだらけの仕事に各週定期更新というページの運営を抱え込んでれば、治るものも治らないのかも知れませんが。
 何考えてるんだ、俺は!晶子が金に釣られてホイホイとついて行くような女じゃないって分かってる筈じゃないか!何でこの期に及んで晶子を信じてやれないんだ?!晶子だって人を信用できないような出来事を乗り越えて俺を信じているんじゃないか!なのに俺が信用できなかったら、それこそ付け入る隙を与えるようなもんじゃないか!

「・・・祐司さん?」

 不意に横から声がかかる。はっとして隣を見ると、少し首を傾げた晶子が俺を見ている。いかんいかん。また思考の泥沼に嵌っちまった。この悪い癖、早く直さないとな・・・。

「ん、ああ、悪い。ちょっと考え事しててな・・・。」
「さっきも言いましたけど、スタジオで歌えなくても祐司さんとこうして一緒に練習できるし、それに混み具合にもよりますけど、お店のステージでお客さんの前で一緒に出来るから、それで充分すぎるくらいですよ。」

 ・・・次の瞬間、俺は晶子を抱き締めていた。自分でも気付かないほど、それこそ反射的とでも言おうか。微かに甘酸っぱい香りがする晶子を自分に押し付けるようにぎゅっと抱き締める。

「ゆ、祐司さん?」

 晶子は何事かと思ったらしいが・・・今はこうしてお前を離さない、と行動で示すのが精一杯で、頭の中もそのことしかない。・・・俺の背中で二つの優しい感触が動く。それは俺を優しくあやすように背中を撫でる。
 嬉しい・・・。そして愛しい・・・。俺は晶子を離したくない、否、離さない。何としても俺が頼もしい存在になって、晶子の気持ちを掴んで離さないようになるんだ・・・。晶子を抱き締めながら俺は強くそう思う。甲斐性のなさが何だ。俺は俺なりに、精一杯のことをするんだ。そうすればきっと・・・晶子は分かってくれる筈だ・・・。

雨上がりの午後 第728回

written by Moonstone

 晶子の言葉が嬉しい。同時に自分の甲斐性のなさを改めて思い知る。俺にもっと甲斐性があれば・・・晶子に思いっきり声を出させてやれるのに・・・。この甲斐性のなさも俺の「弱点」だ。此処を迂闊に突かれたら、特に智一みたいな奴に突かれたら、晶子は・・・もしかしたら・・・。

2002/2/10

[身体痛い・・・]
 連休初日の昨日、「魂の降る里」の最新作を書いていたんですが、力が入り過ぎたのか、書き上げた時には背中、肩、腰、そして膝までもが重い痛みを背負う羽目になりました(泣)。動くのも辛いのは勿論のこと、横になっても痛みがなかなか取れず、一時は夕食の準備をするのも止めようか、と思ったくらいです(汗)。
 今お話している時間には(2/9 22時30分頃)どうにか大半の痛みが取れたんですが、元々爆弾を抱えている腰と膝がまだ少し痛いです(汗)。PCに向かうこと6時間以上、完成の代償は大きかったです。でもこれで次回定期更新の準備が終る筈もなく、まだまだこれからというところです。今日明日も同じ思いをしないように、適度に休憩を入れるつもりです(昨日はノンストップだった)。
 練習の間に休憩を入れるのはそう多くない。大抵は俺や晶子が問題に思った個所を数回繰り返して、他に数曲を通しで2、3回ずつ歌って練習は終るからだ。最近休憩を入れたのは、曲調がそれまでとガラッと変わった「Stand up」の時くらいだろうか?あの時は俺もバンド時代を思い出してつい調子に乗って何度も繰り返して、練習が殆どそれだけで終った覚えがある。

「今日は何時もより調子良いですね。」
「そうだな。真剣さも何時も以上だったんじゃないかな。」
「やっぱり時間を気にしなくていいっていうのが大きいんでしょうね。」
「またそう来たか・・・。でも、実際そうだと思う。今日から俺が帰る時間を気にしなくて良くなったから、それこそ時間を忘れて没頭できたんだろうな。」
「理論上は時間無制限ですものね。スタジオじゃこんなことできませんし。」
「・・・スタジオで歌ってみたいか?やっぱり・・・。」
「あ、御免なさい。露骨な物言いしちゃって・・・。」
「良いさ。隣近所を気にしないで思い切り音を出したいっていう気持ちは、音楽に触れた人間なら大抵思うことだから。」
「プロの歌手みたいにスタジオで歌えたらな、って思うことはあるんですけど・・・お金かかりますからね。それより音量は控えめにしなきゃ駄目っていう制限はあるけど、祐司さんと思う存分一緒に音楽が楽しめる環境の方が良いです。」
「・・・無理すんなよ。何だか早くも晶子に頼ってるような気がするな・・・。」
「私も練習は一人でも出来るのに、こうして毎週練習に付き合ってくれて、色々教えてくれたり問題のある場所を繰り返したりしてくれるんですから、頼っているのはお互い様ですよ。」

雨上がりの午後 第727回

written by Moonstone

 晶子が紅茶を入れて準備を整えると、それぞれの「指定席」に座って鼻によく通る独特の香りを放つミントティーを口に運ぶ。やや熱いストレートのそれは口いっぱいにミントの香りを広げて、喉の奥へと流れ込んでいく。飲み干すと思わず溜息が出る。本当に休憩しているんだという実感が湧いてくる。

2002/2/9

[嫌な時期がやってきた・・・]
 来ましたよ来ましたよ、今年も。あの嫌な時期が・・・。そう、バレンタインデートかいう日が。チョコレート好きな私は買出しの際に必ずと言って良いほど菓子売り場に立ち寄って、アルファベットチョコを(小さい角張ったチョコの上部にアルファベットが刻印されている)物色して底値の時には必ず買うんですが(この辺ちょっとセコい(^^;))、テレビやラジオでこの時期の襲来を言い出すと、もはや菓子売り場に近づくことも出来ません。
 何処ぞの菓子メーカーの戦略どおりにチョコレートをもらえる筈がない私は、この時期買いだめしておいたチョコレートを食べるしかないんですが、生憎今年は買いだめが全くなく、大人しくこの時期が過ぎ去るのを待つしかありません。
 今日も買出しに行く予定なんですが、きっと派手に飾られたチョコレート専用売り場が出来ているに違いありません。そこを避けて普段どおり食材を買うだけでさっさと退散するのみです。あー、何て嫌な習慣が出来てしまったんだ、この国はー!
 俺の言葉に、晶子ははにかんだ笑顔を見せる。それを見て俺の口元から笑みが零れる。まったく言ってくれるもんだ。でも、以前と違ってそれに嫌悪感を感じたりすることは全くない。人間、状況や感情が変われば本当にころっと変わるもんだな。
 練習はその後、「always」や「FLY ME TO THE MOON」、「Secret of my heart」といった、リクエストや歌う機会が多い曲をメインに1時間みっちりこなした。晶子の張り切り様は尋常じゃなくて、客が気付きそうもないちょっとしたミスでも途中で止めてやり直しを要求した。その表情は楽しげであり、同時に真剣だったから、俺も断るつもりは全くなかった。
 ただ、晶子の喉が潰れたら話にならないから、腹式呼吸をするように何度か念を押した。しつこいとか何を今更とか思われたかもしれないが、晶子は俺が言う度に真剣な表情で頷いていたからまあ、不愉快には思わなかったと思っておこう。
 あまりにも熱が入ったので、一旦休憩することになった。晶子が紅茶を入れてくる、と言ってさっさとリビングを出て行った。俺はストラップから身体を抜いて、ギターを晶子のベッドに立てかける。体が熱い。俺はトレーナーを脱いでシャツ1枚になる。もう汗だくだ。額をぐいと拭って見ると、たっぷりと水分が付着してくる。
 少ししてドアが軽くノックされる。俺がどうぞ、と応じるとドアが開き、トレイにティーポットとティーカップ2つを乗せた晶子が入ってくる。この動作も随分手馴れたものだ。俺の最初の頃よりはましだったとはいえ、流石に最初は危なっかしいところがあったからな。

「お待たせしました。」
「この香りは・・・ミントか?」
「御名答。もう香りが区別できるようになってきましたね。」
「ミントの香りは特別だからな。他のはまだよく分からないよ。」
「さ、お茶にしましょう。祐司さんも疲れたでしょう?」
「熱が入ったからな。」

雨上がりの午後 第726回

written by Moonstone

「祐司さん、バッチリでしたね。聞いててリズムに乗ってるって感じましたよ。」
「ああ。俺自身ノレたと思う。今日は調子良い。」
「今日、此処に泊まっていくからじゃないですか?」
「そうかもな。」

2002/2/8

[やれやれ、梃子摺らせやがって]
 連日私を苦悩の渦に放り込んでくれたカスタムICの設計がどうにか成功しました(喜)。完成していた10進数ダウンカウンタをコピー&ペーストして信号名を書き直して(テキスト形式で記述するものなのでこういうことが出来る)、一番肝心な出力信号の記述をちょこちょこ試行錯誤して(2つのカウンタが一斉にカウントを始めるシミュレーション結果を見たときはビビった(^^;))、無事に正常動作を確認しました。
 念のため色々な場合を想定してシミュレーションを何度か行う必要がありますが、2つのカウンタは全く同じ構成ですし、それらも私の設計どおりにシリーズに(1つ目が終ったら2つ目が動き出す)動作しますし、出力信号もきちんと出ていることが確認できました。一時はどうなることかと思いましたが(^^;)。
 懸案だった信号のシャットアウトの方法も外部回路でどうにか出来そうですし(一度予備実験をする必要がありますが)、着々と必要なものが揃いつつあります。ICが揃ったら基板設計が待ってますからまだまだ先は長いですが、懸案事項が一つの区切りを見たことで、これから先少しは気分的に楽になりそうです。
 だが、問題のフレーズはラテンっぽい曲の雰囲気を形成する重要な要素だから、ここで失敗すると命取りになる危険性だってある。自分の家でも何度か練習してるんだが、いまいち納得のいく出来にならない。練習がまだ足りないんだと思う。少々勝手だが、ここは先に「Simply Wonderful」を納得出来るまでやっておきたい。

「あのフレーズ、確かに難しそうですものね。じゃあ祐司さんのご希望に添って、先に『Simply Wonderful』にしましょう。」
「悪いな。本来『主役』の晶子に勝手なこと言って。」
「私だって納得できない部分を何度も繰り返しやってもらってるんですから、お互い様ですよ。さ、始めましょうよ。」
「ああ。・・・じゃあ始めるか。」

 俺は一度深呼吸をした後、問題のフレーズを弾き始める。右手で弦を掻き鳴らしながらフレット上にある左手の位置を逐次確認する。これだけでもかなり大変だ。・・・今のところは上手く行ってる。このまま晶子の歌が入るところまで持ち堪えられれば・・・。
 どうにか持ち堪えた。晶子の歌が入る。此処から4小節ぐらい「休憩」があって、あとは歌の合間や本体にラテンっぽいフレーズを入れるわけだ。っと、そうこうしているうちに俺の出番が来た。此処はイントロと同じくらい、否、他に楽器が少ない分目立つからしっかり入れないとな・・・。
 ・・・よし、OKだ。今日は指の調子が良い。左手がスムーズにフレットの上を滑り、右手がしっかり弦を爪弾く。フレーズの音の一つ一つが明瞭に感じ取れる。こんなに好調な日も珍しい。弾いていることそのものが楽しい。楽しくて仕方がない。そしてそれが上手い歌と絡まるのもまた楽しい。一人、部屋でヘッドホンをして楽譜と睨めっこしながら練習している時には絶対味わえない至福の時だ。
 俺のストロークで「Simply Wonderful」を締める。次の瞬間、思わず溜息が口を突いて出る。安堵というより達成感や充実感から生じたものと言った方が相応しいと思う。

雨上がりの午後 第725回

written by Moonstone

 俺は「Simply Wonderful」の問題のフレーズを軽く掻き鳴らしてみる。この曲でのギターは実際にはアコースティックの方なんだが、二つもギターを背負えないから練習で使う割合が多いエレキギターで代用している。そのせいもあってか、晶子と一緒にステージに上る時、違和感を感じてしまうこともある。

2002/2/7

[ブラウザ推奨(指定)のページについて思うこと]
 私のページには約80のリンクがあり、ブックマークを加えると優に100を超えるページを知っています。それらのページの中には「Internet Explorer(以下IE)推奨」というものが結構あって(明記していないページもあります)、私が普段使っているNetscape4.7ではレイアウトが崩れるならまだ可愛い方で、ページを見れない(コンテンツに入れない)ページというものもあります。
 私個人としては、ブラウザを推奨、或いは指定することには反対です。本来HTMLはどのPCでも見れるテキストを作るということが前提にあるわけで、ブラウザ、特にスタイルシートや様々なタグを組み込んでいるIEを推奨(指定)ブラウザにすることは、HTMLの趣旨に反することだと思うんです。そもそもIE自体、OSの製造元がOSに抱き合わせてシェアを広げるというアンフェアな手段を用いたものですから、Netscapeで見れないようにすることはそのアンフェアな手段を支持するようなものだと思うんです。
 このページはNetscape4.7で表示を確認していますが、特殊なタグやスタイルシートを使っていないのでIEでも見れるはずです(前に見た時きちんと見れましたし)。これからもブラウザのバージョンに優しいページを堅持していきたいと思います(Netscape6だと文芸作品の文字の大きさが指定どおりにならないという不具合がありますが(^^;)、今後ボチボチ直していきます)。
「良いなぁ・・・。私も隣近所を気にしないで思いっきり声を出したいなぁ・・・。」
「欲求不満気味だな。」
「だって、折角毎週1回一緒に練習できるのに、本番に近い形で練習できないと、特に新しい曲を始めて歌う時に本当に声が出せるのか、不安なんですよ。」

 こんなやりとりは何度かあったし,晶子のぼやきも何度か聞いた。だけどしつこいとは思わない。俺だって晶子との練習で本番に近い音を出したいっていう欲求はあるし、それが出来ないが故の欲求不満がある。
 週に一度は無理にしても、月に一度くらいはスタジオを借りて練習出来れば良いとは思う。俺がギターの弦を定期的に替える為に出入りしているから、その楽器屋の常連だし、多少はスタジオ料金も−ギターの弦も結構値引きしてもらっている−値引きしてくれるかもしれない。
 だが、俺が如何せん貧乏学生だから、晶子におんぶに抱っこになりそうで嫌だから−好きな相手に金を払ってもらうのは、良い気分がしない−スタジオでの練習の話を持ちかけたことはない。晶子もその事情を分かっているのかどうかは知らないが、スタジオで練習したい、と口にしたことはない。
 この辺、智一だったら1日分ずっとスタジオを借りて、さあどうぞ、と出来るところだろう。俺が最低限の仕送りとバイトで生活をやりくりしなきゃならない身なのが歯痒く思えてならない。だから、スタジオで歌いたい、と言わない晶子に内心感謝すると同時に甲斐性のなさを詫びている状況だ。

「さて、次は何にする?」
「えっと・・・最近リクエストが多い『always』か、『Simply Wondarful』かどちらか。」
「『always』は割と慣れてるから後回しにしないか?先に俺の絡みも多い『Simply Wondarful』をやっておきたいんだ。前にちょっとトチったし。」
「え?間違ったことあるんですか?」
「気付かなかったかもしれないけど、イントロで一部音程を間違えちまったんだよ。他の部分も音程をずらして誤魔化したんだけど。」
「・・・ああ、そう言われれば前に、イントロであれ?って思った時がありましたけど・・・よくそのまま続けられましたね。」
「バンドやってた頃に編み出した賜物だよ。間違えて一瞬あれ?って思われても平気な顔して誤魔化せば、アレンジかな、とか思わせることが出来るんだ。ちょっと姑息な手段だけどな。」

雨上がりの午後 第724回

written by Moonstone

「本番前には音楽室とかで何度か練習したから。例の泊り込み合宿もあったし。学校での冬場の練習はかなりきつかったけどな。暖房なかったから。まあ、俺は兎も角として他の奴等は全員腕は確かだったから、自分のパートをしっかり練習しておけば、割と簡単に音合わせは出来たよ。それにスタジオや学校なら、近所迷惑を考える必要は基本的にはなかったし。」

2002/2/6

[あー、やれやれ一段落]
 先週の金曜日には私をどん底状態に陥れたICの設計、なんとか少しずつ形になってきました。肝の部分とも言える10進数(正確にはBCD:Binary Coded Decimalと言って、10進数を4桁2進数で表現するもの)4桁のダウンカウンタがどうにか完成しました。これがもう一つ必要になるので、兎も角これが出来ないことには話にならないんですよ。
 でも、完成までの道程は険しいものでした。100からカウントさせたときは正常に動作しても200からカウントさせたら100の次が999になったりして、動作シミュレーションを何度繰り返したことか・・・。その間私は手出しできませんからただ待つばかり。「上手く動作してくれ」と祈るしかなかったです(^^;)。
 カウンタは出来ましたが懸案事項はまだまだ。ICが動作している間、外部信号が入ってきても受け付けないようにする(これが意外と難しい)とか、次のカウンタにどうやって動作を引き継がせるとか・・・。苦難の日々はまだ続きますが、今回のカウンタ完成をばねに完成に向けて進めていきたいと思います。
 Stand up、と声を合わせて最後を締めると、晶子の顔に充実感が浮かぶ。俺も良いコンビネーションが出来て満足だ。店のリクエストでも「FLY ME TO THE MOON」や「Secret of my heart」と並んで人気の高いナンバーだけあって晶子も慣れているせいもあるだろうが、これだけ充実感があるのはやはりこの曲が好きだからだろう。晶子自身がやりたい、と言い出したナンバーだし。

「上出来だな。問題点なし。」
「そうですか?Cメロの高音部分がいまいち伸びなかったかな、って思ったんですけど。」
「音量が控えめだからある程度は仕方ないさ。本番で思い切り伸ばせば良いんじゃないか?」
「そうですね。本番はマイクもありますし、思いっ切り歌えますものね。」

 どうやら晶子も納得したようだ。近所迷惑を考えて俺も晶子も音量を絞っているから、本来ある程度声量が必要なところが伸びなかったりする。それが晶子には問題点と映る。この辺のところは前にも何度か問題に上ったんだが、今日も口にしたところを見ると、やっぱりまだ心底では納得がいかないらしい。

「祐司さんがバンドやってた時、練習はスタジオを借りてやってたんですよね?」
「ああ。キーボードやドラムは俺やベースみたいに、楽器を背負ってアンプとエフェクターの入ったラックを両手に持つだけ、ってわけにはいかないからな。皆で料金折半して2時間くらいみっちりやった。」
「5人だと結構安くなるんじゃないですか?」
「それでも高校生の小遣いには結構効いたよ。楽器屋にしょっちゅう出入りしてたから多少値引きしてもらったけど。だから月1回が限度だったな。」
「それで本番に臨んだんですから、皆さん凄い腕前だったんですね。」

雨上がりの午後 第723回

written by Moonstone

 サビの部分では俺も本格的にバックコーラスを入れる。歌詞は知っているし、何より晶子と声を合わせてみたいからだ。俺がバックコーラスを入れてちらっと晶子を見ると、晶子は俺の方を向いて目で笑いかけて歌を続ける。晶子も充分その気らしい。

2002/2/5

[座椅子でゆったり]
 今メインで使っているPCがノート型なのと、置き場所がデスクではなくて腰を床に下ろす高さのテーブルなので、座椅子を使っています。この座椅子、大体1年程前に(あまりはっきり覚えてない)購入したものなんですが、背凭れの角度を数段階に変えられるのとその座り心地と凭れ心地の(変な表現ですが)良さで、今では生活に欠かせないものになっています。
 眠い時や一休みしたい時には背凭れを大きく後ろに倒して、少し上げた状態で横になります。そこに足掛けに使っている毛布を被れば心地よいことこの上なし(^^)。そうなると起き上がるのが億劫になるのが欠点ですけど(^^;)。
 この座椅子、近くの大型量販店の中になるテナントで手に入れたものなんですが、そこにはゆったり系の家具の(ソファとか)他にアロマテラピーに使うハーブの香りがする蝋燭や置物などもあって、なかなか雰囲気の良い店でした。店の雰囲気のせいか女子中高生の客が殆どで、ちょっと居辛い雰囲気を感じましたが(苦笑)。また何か捜しに行ってみようかな・・・。
意外に洗い物は早く済むらしい。俺はろくに洗い物をしたことがないから、その辺はよく分からないんだが。

「お待たせしました。早速始めましょうよ。」
「何時も以上に随分乗り気だな。」
「だって、練習が終っても祐司さんが帰らないから。」

 ・・・成る程ね。普段は練習が始まると俺が帰る時間が近づいて来るのが分かるからな。練習は晶子の喉を考えて5曲程度しかしない。細かい部分のチェックで一部を繰り返すことはあるが、それでも1時間あれば終ってしまう。今日は、否、今日から練習の終わりを気にしなくても良くなったんだから乗り気なのは分かる。・・・こうして一緒に過ごす時間が増えていくと良いな・・・。

「今日は何からにしましょうか?」
「そうだなぁ。人気の『Stand up』から始めるか。」
「分かりました。じゃあ祐司さん、お願いしますね。」
「はいよ。」

 俺は態勢を整えると、早速ストロークを始める。これを8小節分演奏したら晶子の声が入る。8小節目の、原曲ではカクッとなるようなところは4拍子にアレンジしてある。今のところ客からも指摘を受けたことはない。頭の中でリズムを取っていて、突然変拍子が混じればカクッとなってしまうから、客にとっても都合が良いアレンジだと思う。
 晶子の声が入る。音量こそ控えめだが明瞭かつ流暢な発音で歌詞の一つ一つが際立って聞こえる。晶子も良い調子らしい。俺も思わずバックコーラスを口ずさむ。身体を揺らしながら歌う晶子の声は本当に通りが良い。軽快なリズムに埋没することなく明快に自己主張している。人気があるのも単にルックスが良いだけじゃないことが分かる。

雨上がりの午後 第722回

written by Moonstone

 適当なフレーズを幾つか爪弾いていると、ドアが開いて晶子が入ってくる。何時ものことながら結構手早い。勿論手を抜いているわけではない。以前、あまりの早さに訝ってキッチンを見せてもらったら、きちんと洗われて洗い桶の中に収まっていた。

2002/2/4

[また駄目でした]
 どうしても日曜日はぐったりしてしまって、殆ど何も手がつけられないんですよね。ベッドに横になってラジオを聞いたりテレビの音声を聞いたりで(テレビのある場所とベッドのある場所が離れてるので)、あとは食事で殆ど終ってしまいます。この調子が続く限り、3グループ以上の更新は無理ですね。
 今日からまた出口の見えない仕事が始まるかと思うと気が重いです。それも日曜日のぐったり状態に影響しているんでしょうかね。これは自分ではどうしようもないので、ただその時の気分に身を委ねるだけです。まあ、最低限の目標はクリアしたので、次回定期更新に向けてまた展開を固め始めようと思います。早めに展開を固めておけば、余力のある土曜日に一気に仕上げられますからね。
俺はアースティックギターの場合、好みでナイロン弦をよく使うが、場合によってはスチール弦も使う。張り替えるのが面倒だが。エレキの方は専らナイロン弦だ。
 チューニングをし終えて軽く爪弾いてみる。・・・今日もご機嫌なようだ。エフェクターを通していないからエレキギター本来の音が出る。高校時代はバリバリにディスト−ションをかけて演奏していたんだが、変わったもんだ。当時聞いていたロック系のCDは、今は棚の端の方か積み重なったCDケースの下の方で眠っている。本当に変わったもんだ。
 こうも嗜好が変わったのは店で演奏を要求される曲がジャズやフュージョン系ということもあるが、一番大きな要因は、マスターのサックスや潤子さんのピアノを聞いたことだろう。ディストーションを聞かせた音もギターの音と言えばそうだが、アンプを通さない生の音を聞かされたら、エフェクターやアンプをどうこう言うのが空しく思えてならなくなる。
 だからエレキギターに加えてアコースティックギターに手を出し−出費は多少痛かったが−生の音に増える機会が多くなったんだ。エレキギター独特の音やアームを効かせた音程の変化も魅力的だが、アコースティックギターの柔らかい独特の音も捨て難い魅力がある。
 晶子の家で練習する時に重い思いをしてまでエレキギターとアンプを持ってくるのは、晶子の歌のバッキングが殆どエレキギターだからだ。アコースティックギターでも良いのかもしれないが、本番に備えてエレキギターで感覚を掴んでおいた方が良いだろう。何と言っても、何時晶子のバッキングのためにステージに上らなきゃならないか分からないんだから。

雨上がりの午後 第721回

written by Moonstone

 弦は月1回交換するようにしている。何分「生もの」だからだ。ピッキングやストロークを繰り返しているうちにどうしても磨耗してくるし、温度や湿度で伸縮するうちにどうしてもチューニングがしにくくなってくる。

2002/2/3

[昨日は失礼しました]
 仕事が完全に膠着状態になってしまい、精神的にかなり弱っていましたので・・・(好きな音楽さえ途中で聞くのを止めたくらい)。それはさておき、田中外相が事務次官もろとも更迭されました。この問題、元を辿ればアフガニスタン復興国際会議に政府批判をした一部NGOを自民党の鈴木議員(衆議院議会運営委員長でもある)が出席させないように圧力をかけたかどうかというところにあり、日々アフガニスタン復興に汗を流すNGOが集う国際会議の場を一議員が圧力をかけて歪めたという重大な国際問題でもあります。しかし、日本共産党の筆坂議員の質問に対する小泉首相の答弁はそんなことなどお構いなし、という態度で、喧嘩両成敗という形でこの問題の決着を図ろうという意図が見え見えでした。
 これでお分かりでしょう。小泉首相は改革、改革とは言うけれど、実際は旧来の自民党政治の最たるものであり、マスコミと高支持率に後押しされて旧来の自民党政治さえ出来なかった悪政を次々と実行しているだけの野蛮な政治家であるということが。これでもまだ小泉首相を支持するというなら、余程貴方は恵まれた生活環境なのでしょう。そうでなければ余程マスコミに洗脳されているか。何れにせよ、小泉首相がその程度の政治家だということは、自民党はおろか派閥すらぶっ壊せないでいることでも明白です。いい加減マスコミの洗脳から脱して、小泉首相がやったこと、やろうとしていることを冷静に生活者の立場から見てみてはいかがでしょうか?
もずくと胡瓜の酢の物も酸っぱさが控えめで食べやすかったし、ひじきと大豆の煮込みは満点に近い出来だったと思う。甘めなのがちょっと引っ掛かるが、これは慣れの問題もあるだろう。少なくともコンビニの弁当よりは遥かにましだ。
 程なく晶子も食べ終えて、食器を重ね始める。俺もただ傍観してるだけじゃなく、自分の分の食器を重ねる。幾らご馳走になった身とはいえ、何もかも晶子にさせるのは気が引ける。

「食器は纏めて洗いますから、祐司さんは座って待ってて下さいよ。」
「流しに運ぶところまではするよ。何もかも任せっぱなしというのも何だし。」
「そんなに気を使って貰わなくても良いのに・・・。」

 とは言うものの、晶子は嬉しそうだ。自分を気遣ってもらえている、という思いを感じたからだろうか。俺は半分義務のつもりで言ったんだが、嬉しく思われて悪い気はしない。
 ドアを俺が開け、先に晶子をダイニングに入れて、続いて俺が入る。こういう所謂レディファーストは義務だと嫌だが−自分でやれ、と言いたくなる−、自然に出来る仲なら何も嫌な気はしない。流しに重ねた食器を置くと、晶子はブラウスの袖を半分ほど捲って洗い物の準備に入る。此処から先は晶子の独壇場だ。俺が手出しする余地はない。晶子の言ったとおり、リビングで待つことにする。
 リビングに戻った俺はギターの準備を始める。毎週欠かさずに続けているこの練習で、晶子の声に磨きがかかっていく様子が手に取るように分かるし、俺自身、歌と演奏をシンクロさせることの楽しさを教えてもらった。最初はなし崩し的に始まったこの関係だが、今じゃすっかり俺と晶子の絆の一つになっている。この絆も大切にしたい。
 晶子の主要なレパートリーを中心にした練習だが、俺のソロも練習の項目の一つになっている。最初は晶子にせがまれて断り切れなかったからだが、今じゃ俺の方がむしろ晶子に聞いて欲しいくらいだ。
 人に聞いて率直な感想を言ってもらうことで、自分の腕の客観的な評価が出来る。まかりなりにもプロへの道に触手を伸ばそうとしている今、独り善がりにならないように聞き手の感想を大切な教訓としていかなきゃいけない。それはプロを目指さないにしても晶子にも言えることだが。

雨上がりの午後 第720回

written by Moonstone

 少し先に箸を置いた俺の賛辞に、晶子は笑顔で応える。自分が手間隙かけて拵(こしら)えた料理を誉められて嬉しく思わない奴は早々居ないだろう。勿論、お世辞なんかじゃない。御飯も丁度良い歯応えだったし、味噌汁も出汁が効いていて美味かった。

2002/2/2

[・・・]
 何もお話する気力がありません。もう疲れました・・・。今日はそれだけです。
必ずしも文系だから楽というわけではないようだ。俺の文系学部に対するやっかみのようなものが解消されたような気がする。
 それと併せて、俺が自動車学校で居ない間の智一の「攻勢」が相変わらず続いているという話が晶子の口から出た。やっぱりあいつは油断ならない。諦めが悪いというか執念深いというか・・・。俺と晶子との絆に隙間が生じるのをしぶとく待っているようだ。
 勿論、晶子はその「攻勢」を袖にしていると言った。何でもこの前、もう私のことは諦めて他の女の人を探してみてはどうか、とも言ったらしい。しかし、智一はそれで諦めることなく、尚もしぶとく食い下がっているらしい。
 俺や晶子が前みたいにつまらない意地の張り合いをして絆に隙間が生じるようなことがあれば、智一は間違いなくその隙間に割って入ってくるだろう。それで俺と晶子との絆が切れたとしても智一には何の責任もない。意地を張り合って素直にならなかった俺や晶子に原因があるのは言うまでもない。だからこそ智一の思う壺にならないよう、俺がしっかりしなきゃいけない。そして素直であり続けること。これが肝要だろう。

「ご馳走さま。美味かったよ。」
「ありがとう。どういたしまして。喜んでもらえて光栄です。」

雨上がりの午後 第719回

written by Moonstone

 夕食は互いの学生生活を中心にした話題の中で進んでいく。晶子がいる文学部は一般教養の必要単位をを4年間で取れば良いということは人伝(ひとづて)に聞いて知っていたが、その量は俺や智一が居る工学部の2倍近いということ、そして俺や智一同様、専門科目も入ってきて結構過密なスケジュールということが分かった。

2002/2/1

[WordSpheres復活です]
 完全に立ち往生状態の仕事のことはさておき(現実逃避とも言う)、本日2/1をもって一行リレー専用掲示板WordSpheresを復活させました。昨年掲示板JewelBoxの「荒らし」の波及を恐れて閉鎖してしまったものですが、制作途中の作品がかなりあること、「荒らし」から日も経過してページの運営も安定してきたことを踏まえて、このたびの復活となりました。「Total Guidance」の修正は次回定期更新かその前に行います。
 画面上部の解説をご覧いただければお分かりかと思いますが、この一行リレーなるものは参加は勿論のこと、展開を変えたりするのも継続させるのも終了させるのも、参加者に委ねられます(常識の範囲内であることは言うまでもないでしょう)。作品が完成した暁には参加者全員がコメントをする権利と共に、ページをお持ちの場合はNovels Group 4への直リンクの権利も持ちます。このコーナーを盛り上げるのはご来場の皆様次第。是非参加して作品が出来上がっていく様子を楽しみにして下さい。

「本当に私と祐司さんって、似たもの同士ですね。」
「本当だな。で、理由は?」
「味見は一応念入りにしたつもりなんですけど、煮物の味が気になって・・・。祐司さんは?」
「晶子の作った煮物の味が気になって。」
「本当に似たもの同士ですね。」
「そうだな。」

 くすくすと笑った後、二人揃って煮物を箸で摘んで口に運ぶ。晶子らしい、ちょっと甘めの味が口いっぱいに広がる。上出来だ。真っ先に誉めてやりたいところだが、慌てずに念入りに噛んでから飲み込んで口をフリーにする。

「美味いな、これ。」
「そうですか?良かった・・・。やっぱり人に食べてもらわないと自分の料理の腕の客観的な評価は分かりませんからね。」
「晶子のすることに欠点を見つけるのは、あら捜しに等しいと思うけどな。俺としては。」
「そんなことないですよ。私だってまだまだこれから覚えなきゃならないことがあるんですから。」
「それはそうだな。俺もそうだし。」

 19歳と20歳。それなりに生きてきたがまだまだ未熟者だ。これから色々なことと接して色々なことを学んで、人間的に成長していかなきゃいけない。人生ずっと修行だ、とも言われるが、本当にそのとおりだと思う。
 晶子と出会う前、正確には晶子と月曜日の夜に練習するようになる前まで、月曜日の夕食は専らコンビニの弁当だった。それが今や実家でしか味わえないような−味付けは晶子の家の伝統らしくちょっと甘めだが−料理に取って代わった。潤子さんの手作り夕食も捨て難いが、こうして晶子と二人隣り合って晶子の手料理を食べられるんだから、縁ってやつは不思議なもんだ。

雨上がりの午後 第718回

written by Moonstone

「「いただきまーす。」」

 俺と晶子は同時にひじきと大豆の煮物に手を伸ばす。二つの箸が煮物に届いたところで止まり、互いに顔を見合わせてぷっと吹き出す。

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