芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2001年11月30日更新 Updated on November 30th,2001

2001/11/30

[いい加減にしてくれ!!(激怒)]
 一昨日もFTPが途中で接続不良になって、このコーナーが昨日の朝までお聞きいただけなくなりました。数は少なくとも毎日このページにお越しいただいて、このコーナーを聞いてくれている方がいらっしゃる以上、更新時間にきっちり更新できないと迷惑ですよね。こうも連日連夜接続不良になると私自身イライラします。接続するのにも時間がかかるのにこの様では・・・。(- -#)
 イライラするのはいけないとは(持病に悪影響を及ぼすストレスになるから)分かっているんですが、上手く行かないことが連続すると本当にイライラします。最近もマウスの調子が悪くて、きちんと目標ポイントにカーソルを持っていけず、マウスに当たり散らしていました。マウスの裏面を開けてローラー部分を掃除したことでようやく本来の調子を取り戻しましたが、埃を取り込むことが明瞭な以上、それに耐えうる構造にしておくべきではないでしょうか?キーボードの調子が悪いのは相変わらずですし・・・。単なる八つ当たりですかね?これ。
今日も盛況だっただけに、何時セッション曲のリクエストがあるか分からないから、結構真剣な議論になった。
 結局、セッションのリクエストも権利を獲得した客のものだから、ということで今後も受けることになった。セッションする曲はそれなりにあるし、特に俺と晶子はヴォーカルとギターという、共に目立つ「楽器」を持って一緒にステージに上がる機会も多いから、新曲を中心に今以上に練習を積んでおいた方が良さそうだ。
 「仕事の後の一杯」を済ませての帰り道、静まり返って時間が止まったような夜道を晶子と一緒に歩いていく。そこでも珍しく、会話が長く続いた。話題は勿論、二人でステージに上る時に向けてどうしていけば良いか、月曜日の練習ではセッションを想定して練習することに専念した方が良いか、とか、まだ肌寒さが残る空気の中で結構白熱した議論が展開された。殆ど無言、ということもあるだけに、尚更珍しいことだった。
 晶子のマンションの前に辿り着いて、俺が何時ものように名残惜しそうな晶子の見送りを受けて自宅に帰ろうとすると、背後から晶子が呼びかける。

「祐司さん・・・。」

 思わぬ呼びかけに俺が振り向くと、晶子が俺のジャンパーの背中の部分を掴んでいる。俺は振り解こうともせず、晶子の方を向いたままその場に立ち止まり続ける。

「・・・どうしたんだ?」
「・・・。」

 晶子からの答えはない。ただ俺のジャンパーの背中の部分を掴んで、やや俯き加減で立っているだけだ。何が言いたいのか、俺にどうして欲しいのか、気になってどうしようもない。・・・次第に胸が高鳴ってくる。まるで初めてのキスを交わす前のように・・・。

雨上がりの午後 第662回

written by Moonstone

 掃除を終えた後の「仕事の後の一杯」でも、今日の「EL TORO」の話題が中心になった。セッション曲の−晶子とのステージはちょくちょくあるが、俺は補助的な役割だ−リクエストは初めてだったが、してはいけないというルールはないので受けた。

2001/11/29

[おいおい、どうなってるんだよ?!(怒)]
 一昨日の深夜から昨日の朝まで、このコーナーはおろか、トップページにすら入れなかったことと思いますが、原因は例によって例の如く、FTPがアップ途中でトラブッたからです。こうも連続すると怒りを通り越して呆れますね。全く、どうにかならないものでしょうか?これじゃ定期更新どころか、おちおち毎日の更新すら出来やしないですよ。回線の抜本的なメンテナンスを要求したいところです。
 と、此処までお話したところで腹痛が我慢の限界に達したので暫く横になっていました。どうにか収まったのでPCの前に復帰。文章だとそのタイムラグが出ないのが有り難いですね(^^)。昼間食べ過ぎたかな・・・。
 口を滑らせそうになったマスターを潤子さんがぴしゃりと封じ込める。マスターと潤子さんの間で何があったのか知りたいところだが、潤子さんを泣かせるなんて、余程のことをしたんじゃないだろうか?何だか胸が落ち着かない。あのいつも朗らかな潤子さんを泣かせるなんて、マスターも相当罪作りな人だ。

「さ、注文の品が出来たから早速運んで頂戴。祐司君、これ、8番テーブルにお願いね。」
「あ、はい。」

 俺は気分を切り替えてバイトの体制に入る。熱々の鉄板の器に乗ったナポリタン・スパゲッティを持って、俺は8番テーブルへ向かう。服を着替えたらバイトの始まり。幾らとんでもないことが起こっても、この店の従業員としての行動を欠かすわけにはいかない。晶子や潤子さんのことは、バイトが終ってからでも充分間に合う。でも、注文の品の到着の遅れは時に店の信用に関わる。しっかりしないとな・・・。

 今日のバイトも慌しく、そして賑やかに過ぎていった。今日は日曜日と言うこともあってか、リクエストタイムは晶子と潤子さんが仲良く2回リクエストを受け、俺も予想外に2回受けた。そのうち1回は潤子さんと絡む「EL TORO」だった。噂を聞いて立ち寄ったクリスマスのコンサートで感動して再び訪れたという客がリクエストしたものだ。久しぶりに、それも抜群の音圧を誇る潤子さんとのセッションに緊張しつつも、良い感じで演奏できて好評を得られた。

雨上がりの午後 第661回

written by Moonstone

「泣かれると心臓に悪いよ。」
「女の涙は強力な武器だからなぁ。祐司君の気持ちは分かるぞ。俺も昔、潤子に・・・」
「余計なこと言わないのっ!」

2001/11/28

[またかよ〜(怒)]
 昨日付の更新でこのコーナーとAccess Streetsの一部が更新されませんでしたが、原因は例によってFTPの接続不良です。最近頻発してるんですよね、このトラブル。予備で別のプロバイダーと契約しておく方が良いのかな?でも、それで問題が解決するとは限らないし・・・うーん・・・。<(-_-;)>
 で、もう一つ大ポカをやらかしたことに気付きました。昨日は11/27なのに更新日付は11/26のまま・・・。もう修正するのも馬鹿らしく思えて、修正せずに今日の更新に繋ぎました。1日くらい良いでしょ?(割といい加減ですな)。勿論これからは注意しますので。
 話は変わりますが、寂しく思うのは今回の定期更新の反響のなさ。元々戴く感想の絶対数が少ないのですが、今回は今のところゼロ(本当)。前ほど気にはしていないとはいえ、反響がないのはやっぱり寂しいですね。
 急いで着替えを済ませて店に降りる。残念ながらその時には「Stand up」も終了して選択した歌唱リストが終ったらしく、満場の拍手と「井上さーん」という声援を受けながらステージを下りた直後だった。歌唱が終っても熱気が冷めそうにないのは、俺が以前会心の演奏を決めた時の様子に似ている。それだけ晶子の歌が客の心を打ったんだろう。まかりなりにも一緒に歌を練習する身として−今でも月曜日の夜の選曲や練習は欠かしていない。勿論、食事も−、我がことの用に嬉しく思う。
 晶子はぺこぺこと照れくさそうに客に頭を下げながら、カウンターの方に戻ってくる。着替えが終った俺と視線が合うと、満足そうな笑みを浮かべて駆け寄ってくる。そんな姿が愛しく思えてならない。

「祐司さん。聞いてくれてました?」
「ああ。ちょっと今日は梃子摺って遅くなったけどな。良い歌をBGMにして夕食を戴いたよ。」
「良い歌って・・・祐司さんにそう言って貰えると・・・私、何て言って良いか・・・。」
「おいおい。今更俺に誉められて感激することないだろ?」
「だって・・・嬉しいから・・・。」

 晶子はそう言って目を指でそっと拭う。感激のあまり涙が出たのか?そこまで感激されるようなことを言ったつもりはないんだが・・・。

「こらこら。祐司君。女の子泣かせちゃ駄目じゃないか。」
「俺、泣かそうと思って言ったつもりないんですけど・・・。」
「それだけ祐司君に誉められたのが嬉しかったんでしょ?晶子ちゃん。」
「はい・・・。」

雨上がりの午後 第660回

written by Moonstone

 客の入りが多いので、俺は早めに夕食を済ませて着替えに向かう。晶子の「Secret f my heart」をBGMに出来たのは幸運だという他ない。「always」を聞き、「Stand up」の途中で食べ終わった。途中で音量が大幅に下がってしまうのが残念だが、俺も客じゃなくて、バイトしに来てるんだから仕方ない。

2001/11/27

[精根尽きている・・・]
 昨日、何時もの時間帯に更新されなかったのは、言うまでもなくFTPの接続不良です。大元のプロバイダーがダウンしたんじゃ話になりませんわな(- -;)。てなわけで早朝覚醒(持病の症状の一つ)でテレホタイム内に目覚めたのを利用して一気に更新しました。
 しかし、半ば寝ぼけた状態で更新したツケというか、○○月●●日更新の●●の部分を当日の日付にするのをころっと忘れてしまっていて、昼休みにこのページを見て「11/26は更新せんかったんかい」状態になっているのに気づいて、帰宅してから慌てて日付を修正しました。このお話を聞いていただいている頃には、もうその痕跡は跡形もありませんが(^^;)、僅か数時間でも間違いを気付いたのに放置しておくのは何となく気分が悪いですからね。
 日曜の疲れが尾を引いていて体がだるかったんですが、幸い昨日はは仕事が楽だったので何とかなりました。今日から本格的に始まるのでしっかり疲れを取っておこうっと♪
その相変わらずの手際の良さを眺めながら、晶子の歌声に耳を傾ける。張りのある歌声が滑らかに、しかも力強く歌詞を紡いでいく。本物を髣髴とさせる透明感のある声がより一層、雰囲気を盛り上げる。
 Stand up、と歌って曲を締めると、客席から大きな拍手が起こる。俺もカウンターから拍手を送る。晶子は俺の存在に気付いたのか、ステージに向かって一礼した後、笑顔で手を振る。俺はそれに笑みを浮かべて手を振って応える。そして少しの間を置いて、ミドルテンポのリズムが流れ始める。「Secret of my heart」だ。「Stand up」とは対照的に、優しく艶っぽい声で歌う。曲に応じて歌い方を変えるなんて、楽譜もろくに読めなかった時があったという記憶を疑ってしまうくらいだ。

「はい、出来たわよ。」
「あ、どうも。いただきます。」
「晶子ちゃんの良い歌声をBGMに潤子の美味い料理を食べる・・・。祐司君も幸せ者だなぁ。」
「あなた。からかうもんじゃないわよ。」
「いいえ、実際そう思いますよ。こんなこと、此処でしか味わえませんからね。」

 俺が何気なく言うと−別に晶子や潤子さんを持ち上げるつもりはない−、マスターがひゅう、と口を鳴らす。

「おおっ、祐司君も言うようになったなぁ。」
「お世辞でもそう言って貰えると嬉しいわ。ありがとう。」
「お世辞なんて言うつもりないですよ。そんな器用なタイプじゃないですし。」
「さっきの言葉、後で晶子ちゃんにも言ってあげろよ。きっと喜ぶぞ。」
「そうですね。」

雨上がりの午後 第659回

written by Moonstone

 潤子さんは弱火にかけた鍋の中を焦げ付かないようにかき混ぜつつ、フライパンに油を引いて野菜を放り込み、手早く炒め始める。そこに胡椒と塩を適量入れてさらに炒める。

2001/11/26

[精根尽き果てた・・・]
 今回の定期更新ではそれなりのラインナップとなりましたが、本当は1年近く更新していないNovels Group 2を更新したかったんです。でも、金曜で「魂の降る里」の最新作を執筆して「雨上がりの午後」の最新作を編集して、さらにPhoto Group 1の小テーマ追加に併せて短文執筆や英訳、他のテーマとの接続をして、金曜から土曜にかけて「小説書きに100の質問」に回答してレイアウトを整えたので、日曜は食事する時以外殆ど体が動かず、寝たきり雀になっていました。
 キャプションどおり、まさに精根尽き果てた状態では新たに10数kB書くのは至難の業。無理をして今日からの仕事に支障が出ては話にならないので、やむなく断念することにしました。次回定期更新は作品制作が日程的に厳しいことが分かっていますが、何とか次回定期更新もしくは次週に更新できるようにしたいと思います。
「大丈夫大丈夫。こんな運転するおばさん連中に免許渡して良いのか、って思うくらい簡単なもんだ。祐司君の頭だから学科試験は心配ないだろ?実技に重点を置いて丁寧にやれば、直ぐ取れるさ。」

 出迎えたマスターとちょっと会話して、俺は照明の薄いカウンターに腰を下ろす。ステージ上では晶子が「Stand up」を歌っている。時間帯の割に結構入っている客から手拍子が鳴っている。俺が会心の出来の演奏を決めた時のように、晶子の歌声に気合が入っているように感じる。
 潤子さんが水の入ったポットを持ってカウンターの方にやって来た。俺の姿を確認して安心したのかどうかは分からないが、安堵の表情を浮かべている。

「あら、祐司君。今日も自動車学校からの帰り?」
「ええ。坂道発進でちょっと梃子摺って・・・。」
「私でも取れたくらいだから、祐司君なら簡単に取れるわよ。夕飯の支度するからちょっと待っててね。」
「はい。」

 潤子さんはカウンターに入ると、マスターの後ろを通り抜けて鍋が乗ったコンロに火を点けて、ピーマンやもやしを冷蔵庫から取り出して、フライパンを別のコンロの火にかける。野菜炒めとこの匂いは・・・ビーフシチューか。ちょっと食べ頃の季節は過ぎたが、まだ朝晩よく冷える今時期の夕食にも合う。

雨上がりの午後 第658回

written by Moonstone

「俺、車持つ気ないから良いや、って思ってたんですよ。まあ、今は金の方に多少余裕がありますから、それが底をつくまでに免許を取りますよ。」

2001/11/25

[結構あったなぁ〜]
 本日付の更新で「小説書きに100の質問」の回答をMaster's Profileの詳細として追加しましたが、真面目に答えたのでそれなりに神経を使いました。これらが不特定多数(少数?)の目に晒されるわけですからね。でも、それ以上に神経を使ったのは、レイアウトを整えることとタグを並べることでしたね。
 何せ100個も、それも様々な内容の質問がありますから、全体を綺麗に見れるようにTABLEセルの大きさを調整して、それを100個分並べるんですからね(^^;)。最初のうちは試行錯誤の連続でした。TABLEセルが狭過ぎて文字が詰まったり、逆に広げ過ぎて冗長な感じになったり・・・。そもそもMaster's Profileのタグを流用したので、TABLEセルの中身が中心揃えになって慌てました(^^;)。
 そんなこんなで書き揃えるのに丸1日かかりましたが、質問に答えるのはインタビューに応じるみたいで結構楽しかったです。その内容を是非ご覧下さい。・・・そう言えば、グループの更新作業が全く出来なかったな(爆)。
俺は車に乗るつもりはないから必要ない、と断ったんだが、母親はしっかりした身分証明にもなるし、それに何時必要になるか分からないでしょ、と強く言い、結局俺は押し切られる形で自動車学校に通う羽目になった。勿論、費用は自分持ちだ。まあ、バイトで稼いで仕送りと合わせてその残りを貯めた金が意外にあるから、多分金の面は大丈夫だろうが。
 問題は時間だ。2年になってコマもかなり埋まっていて、空いているコマやその日の終わりからバイトが始まるまでの時間、そして土日の一部を自動車学校に充てるしかない。そうなると、晶子と一緒に帰れなくなる日が出てくるわけだ。正直言ってこれが一番頭を悩ませることだ。俺が居ないその間に、智一が晶子にちょっかいをださないとも限らないからだ。

「大丈夫ですよ。私も一人で帰れますし、伊東さんのことは心配しないで下さい。毅然とした態度で臨みますから。」

 晶子に自動車学校のことを話したら、晶子は微笑んでそう言った。一緒に帰れなくなる日が出来て泣かれるんじゃないかと半ばドキドキしたが、晶子の明瞭な回答に安心すると同時にちょっと期待外れな感がした。全く勝手なもんだ、俺って奴は。
 ちなみに晶子はバイトを始める前、つまり1年前に自動車学校に通って免許を取っていて、晶子の家で歌の練習をしていた間に見せてもらった。晶子は写真写りがなかなか良い。俺はどうしても指名手配写真みたいになっちまう。

「こんばんはーっ!」
「おっ、祐司君。今日もギリギリセーフだな。」
「仕方ないですよ。自動車学校がありますからね。やれるときにやっておかないと、平日はなかなか時間が取れませんし。」
「1年のうちに取っておくべきだったな。俺も一言忠告すべきだったと今更思うよ。」

雨上がりの午後 第657回

written by Moonstone

 しかし、時間や事情というものは自分の思い通りにならないものだ。程なく母親から電話があって、自動車免許を取るように、と半ば命令された。

2001/11/24

[平日と大差ない生活]
 昨日は朝何時も起きる時間に起きて、何時ものように簡単な朝食を済ませた後、迫ってきた次回定期更新の準備をすべくPCに向かい始めました。無音状態の中ひたすら書き進めること約3時間、休憩がてらこれまた簡単な昼食を済ませて今度はイヤホンで耳を塞いで再び執筆を始め、1時間半ほどで来週の結婚パーティー出席用の衣類を買いにウォーキングを兼ねて外出。帰宅してからは再びイヤホンで耳を塞いで執筆を続け、それが終ったら圧縮ファイルやインデックスを修正して、別のグループの更新準備を開始。今お話している段階では、その準備が終了して夕食の準備に取り掛かろうかな、というところです。
 ここ数日、ヘルプファイル編集のためにPCに向かうことが多かっただけに、仕事してるのと大して変わりないなぁ、と思うこと頻り。違う点と言えば、本来の仕事ではなくて趣味の一環をしていることと、途中で1時間ほど外出したくらいですね。とりあえず必要最小限の更新準備は済ませたのでひと安心です。あとは久しく更新していないNovels Group 2などに手を伸ばそうかと思っています。1日でもその気になれば結構色々出来るものですね。

「・・・まだ結論は出せない。だけど・・・音楽のプロになりたいっていう気持ちが強くなってきた。」
「・・・。」
「俺の実力と運で何処でどうなるか、何処まで通用するか分からない。失敗したり挫折したりするかもしれない。それで良ければ・・・世間の荒波に翻弄されても良いなら・・・晶子には俺についてきて欲しい。」

 言ってから気付く。これじゃプロポーズと変わらないじゃないかって。でも・・・さっきの言葉は俺の本心そのものだ。もう言い逃れはしない。すると、俺自身も強く、しっかりと晶子の方に抱き寄せられる。晶子からの無言の返答だろう。少なくともNOじゃないと思う。

「私は・・・祐司さんを応援します。ずっと・・・。これは私が決めた私の進む道です。だから祐司さんは、自分の決めた道を進んで下さい・・・。」
「晶子・・・ありがとう・・・。」

 急速に熱くなってきた目頭から熱い感情の雫が零れ落ちそうになるから、それだけしか言えない。晶子の温かい励ましと支援の約束にたった一言しか返せない自分がもどかしい。でも、何らかの形で、譬え音楽のプロを目指さない道を選んだにしても、晶子の気持ちに精一杯応えたい。それが今の俺に課せられた責任だ。
 その責任を全うするには・・・今から真剣に自分の進む道を模索していかなきゃいけない。今日のたまたまかどうかすら分からないステージの成功に安住することなく、今通っている大学のブランドに頼ることなく・・・。それで選んだ道に向けて進むのみだ。多少の困難や失敗は覚悟の上で。
 今日は今まで漠然とも考えていなかった自分の将来と真剣に向き合う絶好の機会になった。これだけは間違いない。この機会を今日この時だけで終らせるんじゃなくて、毎日少しずつでも持つようにしよう。そして近い将来、自分の進む道を見出そう。俺を応援してくれるマスターや潤子さん、そして晶子の厚意に応える為にも・・・。

雨上がりの午後 第656回

written by Moonstone

 晶子がそう言った次の瞬間、俺は晶子を抱き締めていた。ありったけの力を込めて固く、強く・・・。晶子は抵抗する素振りも見せず、ただ俺が抱き締めるのに身を任せている。

2001/11/23

[労働者を搾取するな!]
 今日は勤労感謝の日。私も労働者の(サラリーマンなどという英語は存在しない)一人ですが、「お疲れ様」の一言を掛けてくれるような相手もいないので、この連休を使って定期更新の準備をするのみです(^^;)。
 さて、労働組合のスローガンのようなキャプションですが、実際に一般労働者にしろ公務員にしろ、雇用者は(公務員なら自治体や国)労働者を働かせ過ぎています。日本人労働者の年間労働時間は欧米先進諸国を大きく上回り、さらにただ働きの(サービス残業とも言う)凄まじさは目を覆うばかりの惨状です。国連の社会権委員会からも長時間労働や労働の過密化、中高年に対する「リストラ」という名の首切り、転籍強要などの権利侵害に対して是正するよう勧告が出されているくらいです。
 しかし、マスコミは余程労働条件に恵まれていてそれに安住しているのか、こういう勧告が出されたり長時間過密労働やただ働き、中高年に対する人権侵害の横行があるという事実を全く報道しません。それどころか、首相の神輿を担いで「リストラ万歳」「規制緩和万歳」「構造改革断行」と煽り立てる始末です。こんなマスコミは要りません。新聞を購読するなどマスコミを利するだけと言えます。「労働者なら、否、社会人なら『赤旗』を読むべきだ」と私はこの場で強く主張します。・・・かく言う私は性別格差問題などで意見対立があって購読を無期限停止していますが(^^;)。
「晶子・・・。」
「私の人生は私のものです。それを祐司さんのバックアップのために使うのも、私の自由でしょ?」

 そう言って微笑む晶子に、俺は返す言葉が無い。確かに晶子の言うとおりだ。晶子がそういう人生の選択肢を選ぶのを妨げる権利は俺にはない。だけど・・・。

「良いのか?」
「何がですか?」
「俺のために自分の人生を台無しにするかもしれなくても・・・良いのか?」
「台無しになるかどうかは祐司さんの進む道次第ですよ。それに、失敗が台無しに直結するなんて思ってませんから。」
「それはそうかもしれないけど・・・。」
「祐司さんは宮城さんと、私は前の彼と失敗しました。でも、その失敗で人生がぶち壊しになりました?現に今、こうして私と祐司さんは出会ってパートナーになれたじゃないですか。」
「!!」

 そう言われてみれば確かにそうだ。俺は宮城と切れて、晶子も手痛い失恋を味わった。でも、その向こう側は断崖絶壁じゃなくて、紆余曲折はあったにせよ、きちんと道はあった。俺と晶子がパートナーとして公私を共にする時間を持つことになるという道が・・・。
 失敗したらそれで全てが終るわけじゃない。険しいかもしれないけど、曲がりくねっているかもしれないけど別の道がある。俺はそのことを学んだじゃないか。否、それよりも前にも、告白で連戦連敗続きだった俺に、宮城の方から告白されるっていう、それまでの経験からは信じられないことがあったじゃないか。
 失敗で全てが終わるなんて考えるのは、慎重を通り越して臆病なだけじゃないか?折角晶子やマスターや潤子さんが応援するって言ってくれるじゃないか。なら・・・その好意に甘えても良いんじゃないだろうか?

「勿論祐司さんの人生ですから、私は強制は出来ませんし、そんな権利もありません。でも、祐司さんが夢に賭けてみる、って言うなら、私はそれを応援します。祐司さんがその夢を実現するにしても、挫折して引き返すにしても。」

雨上がりの午後 第655回

written by Moonstone

「私と祐司さんって、パートナー同志ですよね?」
「あ、ああ・・・。」
「パートナーなら、人生を共にしても何も不思議じゃないんじゃないんですか?」

2001/11/22

[大ショック!]
 話は一昨日の夜(お話している段階では昨夜)に遡ります。最近体調が良好な私は、今度の定期更新の準備で連載に手が届かなくなるのを避けるために、食事を終えて直ぐに連載の書き溜めを始めました。何時ものようにテキストエディタのウィンドウを出して、せっせこせっせこと書き進めていきました。
 約2時間後。書き溜めの量も相当なものに達し、引き続き書き進めようとしたその瞬間!短い文字列の変換を終えて改行の為にEnterキーを押したまさにその瞬間、「このプログラムは不正な処理が行われたので強制終了します」との最悪のメッセージダイアログの登場。これが出たらただOKボタンを押すしかありません(「詳細」なんて見ても意味なし)。それまで一度もセーブしていなかったことに気付いて、頭の中が真っ白になりました(号泣)。
 幸い頭の中ではその部分の展開や台詞、描写が大まかに存在していたので(自己セーブ機能(笑))、もう一度最初から書き直しました。消える前と比べて多少違和感があったものの問題ないレベルに達したのでOKとしました。今日も書き溜めをしましたが、手を休める度にセーブボタンを押したのは言うまでもありません(爆)。軽さと高機能が売りのソフトとはいえ、所詮Windowsのソフトだということを頭に入れておかないといけませんね。

「それで・・・どうです?」
「ん?何が?」
「プロになる道を選ぶ気になったのかってことですよ。」

 晶子が話の核心に切り込んでくる。まだ俺自身決めかねてるって状況なのに・・・。そんなに俺がプロとしてステージに上る姿を見たいんだろうか?

「・・・まだ決めてない。俺自身、プロに慣れればなりたいっていう気持ちはある。でも、それに到達するまでにある壁や断崖絶壁をやりすごせるかどうか、その覚悟と自信と実力が俺には備わってない。」
「実力はありますよ。あれだけのお客さんを満足させたんですから。」
「プロになるなら公立の体育館や公会堂とか、クラブハウスにぎっしり詰まった観客を満足させられなきゃ駄目だ。俺にそれだけの実力があるか、と問われたら、分からないとしか答えられない。そんな状況でプロへの道を踏み出そうなんて考えが甘すぎる。」
「祐司さん・・・。」
「正月に店に泊まった翌日の朝食兼昼食の席で潤子さんに言われたんだ。ジャズバーを席巻したマスターでさえオーディションの壁を突破できなかったって。それに何かの偶然で運良くプロになれても直ぐに鍍金が剥がれるってな。」
「・・・。」
「それから、今日の一杯の席上でも晶子自身が言ってたし、正月に潤子さんから話を聞いたよ。俺がプロを目指すなら、プロになるまで二人分の食い扶持はどうにかするって。それって言い換えれば、俺のために晶子の人生を振り回すってことだろ?俺は・・・そんなことできない。俺のために晶子の人生をくれ、なんてとても言えない。第一、そんな資格は俺にはないよ・・・。」

 晶子からの反応は無い。重い沈黙の中、足音がやけによく響く夜道を暫くの間歩いていく。晶子の家があるマンションまであと少し−もう建物自体は夜の闇にシルエットを浮かべている−というところで、晶子が足を止める。

雨上がりの午後 第654回

written by Moonstone

 晶子が半ば呆れ顔で言う。そうは言われても、あんな凄い反響は初めてだから実力の証明といわれても俄かには信じられないというのが俺の本音だ。俺は顔を顰めて頭を掻く。そうしても納得できるわけじゃないが、そうでもしないと落ち着かない。

2001/11/21

[伸びる爪、伸ばす爪]
 私には以前、イライラしたりすると爪を噛む癖があって、そのせいで爪が指先を覆うことがありませんでした(^^;)。ところが今の病気を患うようになってイライラするどころではなくなったせいか(イライラするより気分が沈んでしまう)、すっかりその癖はなくなりました。
 代わりに今は爪がかなり伸びています。指先を覆い隠して5mmくらいかな?伸びた爪で何のメリットがあるかと言われると、キーボードを叩いているなあっていう音がすることくらいですね(笑)。ならとっとと切れ、という声が聞こえてきそうですが、これくらい伸びると切るのが惜しいんですよね(^^;)。あまり伸ばすと爪を剥がす危険もあるので、今週末には切るつもりです。定期更新の準備が順調に進めば、の話ですけど(切れって)。
 あ、ちなみに特別手入れをしているわけではありません。マニキュアなど論外(笑)。自然に任せて伸ばしています。爪が伸び、伸びてきたなと思ったら伸ばして適当なところで切る。その繰り返しです。
 俺と晶子は静まり返った夜道を並んで歩く。店の建つ丘にたんぽぽが咲き乱れる−店の名前どおり「Dandelion Hill」になっている−季節になったとはいえ、まだ朝晩には薄手でも羽織るものが欠かせない。
 俺の左腕には手袋の消えた晶子の手が回っている。こんな風に往復の道を共にするようになってまだ半月にも満たないが、もう随分長くこうしているように思う。あくまでも自然に、無理や勇み足の無い、そんな理想的といって過言ではない関係が続いていることに、改めて今の幸福を感じずにはいられない。

「本当に今日は凄かったですね、祐司さん。」

 沈黙が続いていた道程で晶子が話を切り出す。往復の道程で話題に上るのは、その日のバイトのことや新しいレパートリー候補についてのことが殆どだが、今日はやっぱり俺のステージが話題に上ったか。まあ、自然と言えば自然なことだが、こうも何度も話題に上るとどうも照れくさい。だが、他に話題があるかと言えば見当たらないのもまた事実なんだが。

「ようやくあのステージが凄い反響だったんだな、って振り返る心の余裕が出来てきたよ。」
「何て言うか・・・祐司さんとギターとステージが一体になってる、って感じでしたよ。もし友達があの場に居たら、絶対私、あの人が私の彼よ、って自慢してましたね。」
「俺は特に意識しないで演奏を始めたんだけど、途中から手拍子が入ってさ。それに応えなきゃ、って気になった。それが良かったのかな?」
「だと思いますよ。私もお客さんから手拍子とか貰うと、よーし、って張り切っちゃいますから。」
「でも、それからあんなに凄い反響が得られるなんて思ってもみなかった。今思い出しても不思議にしか思えないよ。」
「だーかーら、それは祐司さんの実力の証明なんですってば。」

雨上がりの午後 第653回

written by Moonstone

 今の俺にはそれしか言えない。そんな自分がもどかしくて仕方がない。そんな自分を応援してくれるマスターと潤子さんに、そして・・・俺をバックアップしてくれるという晶子に、心の底から「ありがとう」と言いたい。

2001/11/20

[朝晩冷えますね〜]
 朝は布団から出るのが辛いし、夜は着込まないと辛い冷え込み。つい布団に潜って寝てしまう、ってこと、ありませんか?(ないかな〜?)この朝晩の冷え込みに早速通院先の病院が反応。暖房が入っていて出るのがちょっと辛かったです(^^;)。
 私は寒さが苦手で嫌いなのもあって、私の頭の中で2つの主張が激しいせめぎあいを展開しています。片方は「早く暖房入れようぜ〜。我慢して風邪ひいたら洒落にならんしさ。」と暖房のスイッチを入れることを主張し、もう片方は「まだ早いっしょ。暖房に慣れると外との温度差に耐えられなくなる。」と時期尚早を主張。両者一歩も譲らないまま、私自身はひたすら着込んで、足に毛布を被せてキーボードを叩いています(汗)。
「若いうちなら、やり直しは幾らでも出来るわ。祐司君の人生だから祐司君のものだから、私もマスターもいい加減な事は言えないけど、祐司君にはプロになれる素質は充分あると思う。あとはその夢への道に挑戦する勇気と・・・運ね。」
「私は祐司さんを応援しますよ。勿論無利子無担保で。」
「ほら、パートナーは心強いことを言ってくれてるぞ。勿論、祐司君がその気になったら、オーディションの情報やプロダクションの伝(つて)の方は任せてくれ。君には俺がなしえなかった、プロのステージを踏める夢を実現できる素質があると思う。だから自分一人で、なんて思わなくて良いぞ。」
「・・・ありがとうございます。でも、暫く考える時間を下さい。」
「それは勿論よ。祐司君自身のことなんだもの。祐司君が進む道を選ぶ為に考える時間を持つのは当然のことよ。」
「私は見てみたいです。祐司さんがホールいっぱいのお客さんの前でギターを引く姿を。」

 晶子の言葉が胸に響く。俺をバックアップしてくれるという晶子の夢を叶えたい。そう思うと、プロへの夢がゆっくりと心の深淵からサルベージされてくるような気がする。

「・・・俺も全くその気がないわけじゃありません。今日のステージで少し自信がついたくらいです。よく考えて道を決めたいと思います。」
「そうだな。祐司君、くれぐれも忘れないでくれよ。君や晶子ちゃんは俺と潤子の子どもも同然だ。出来る限りのことはするから、安心して自分の道を模索してくれ。」
「そうよ。貴方達でどうしようもなくなったら、遠慮なく私とマスターを頼ってね。本当に出来る限りのことはするから。」
「・・・ありがとうございます。」

雨上がりの午後 第652回

written by Moonstone

「・・・今は・・・まだ何とも言えません。今日がたまたま出来が良かっただけってことも考えられますし・・・。」
「随分慎重だな。まあこんな世知辛いご時世だから無理も無いが、パートナーに頼ってみても良いんじゃないか?」

2001/11/19

[ああ、またしても・・・]
 金曜の午後から日曜にかけて寝たきり雀になっていました(汗)。本当は「魂の降る里」の最新作を書いて、余裕があったら他のグループにも手を伸ばすつもりだったんですが・・・この「寝たきり雀」が意識に出てしまうと、義務でしなければならないこと(買出しや家事)以外は殆ど手が出なくなってしまうんです。
 こういう無気力や体のだるさは持病の症状だと分かっているので、寝たきり雀になってラジオをぼんやり聞いていると、まだ完治には遠いなぁ、と思います。以前より頻度は減っているだけまだましなんですが。今度の週末で何処まで書けるかは、この寝たきり雀現象が起こるかどうかにかかっています。
 マスターが大胆に切り込んでくる。大勢の観客の前で自分の演奏に拍手や歓声が飛ぶ光景を頭に思い描く。・・・今日目にした光景をもう少し拡張してみる。確かに心地良い、そして何とも言えない充実感が沸いてくる。

「もっともプロへの道は険しいのは言うまでも無いと思うが、一度きりの人生だ。挑戦してみる価値はあるんじゃないか?」
「私もそう思います。」
「祐司君の心次第ね、あとは。」

 マスターがプロへの道の途中で壁を突き破れなかったことを前に話してくれた潤子さんも満更ではなさそうだ。音楽のプロ・・・。ギターを始めてバンドに入ってステージに何度も上る度にそういう夢が芽生えてきたのは間違いない。それが大学受験や日々の生活や感情の大灘に忙殺されて、心の奥底に沈んでいった。今、その夢をサルベージさせて、実現への道に向かって驀進すべきなんだろうか?
 だが、マスメディアに登場する「アーティスト」など足元にも及ばない腕前を誇るマスターでさえなしえなかった夢だ。どうしても壁が破れなかったら引き返すしかない。でも、今俺や晶子、否、学生全体を取り巻く社会はやり直すことを容易に認めないようになっている。いちかばちかに賭けて失敗した時、俺はどうすれば良い?引き返して険しさを増した「無難な道」とやらを進むのか?
 ・・・晶子は俺をバックアップしてくれる心積もりだ、と潤子さんは言った。言い換えればそれは、俺が音楽のプロを目指すにしろ無難な道を選択するにしろ、晶子の人生を俺のために使わせることだ。それで失敗したから安定するまで援助し続けてくれ、なんて言えるか?晶子を自分の都合で振り回す気か?!

雨上がりの午後 第651回

written by Moonstone

「今日、何か良いことがあったのか?祐司君。」
「いえ、特に何も・・・。」
「うーん、本人の精神状況に関わらずあれだけの演奏が出来るくらいだ。いっそこのままプロを目指したらどうだ?」

2001/11/18

[面倒だなぁ・・・]
 先週、場所が分からなくて行くのを断念した新ゴミ分別の説明会に行って来ました。話を聞いてみるに、今までの分別が多少細かくなって、袋が市の指定したものになるということ。話を聞いていて大体理解できました。ただ、面倒になることには違いありません。袋も指定のものになりますから、今までのように適当に買ってきたものを使うというわけにはいきませんし。
 要は企業が何種類にもなる分別を必要とする商品を作るのを放置して、そのツケを市民に押し付けようというものに他ならないんじゃないんでしょうか?企業に対しても分別が簡単で住むような商品の開発、製造を義務付け、その上で市民に分別してもらうようにするのが筋というものではないでしょうか?欧州ではそれが普通です。まあ、所詮今の政府与党や行政が、献金してくれる企業に負担を押し付けるようなことは出来る筈もないですが。共産党以外の政党は企業や労組などの団体から献金を受けていますし、献金先の意向に従って動いているようなものですからね。
晶子の言うとおり、俺の演奏は贔屓目で見なくても充分なものだったと考えて良いんだろうか?・・・やっぱりまだ実感が湧かない。自分自身のことなのに、と言われればそれまでだが、実際そうなんだから仕方ない。でも、自分の演奏がこれだけ賞賛されたことに悪い気はしない。慢心に繋がるのは警戒しないといけないが、晶子の言うとおり、もう少し自分に自信を持って良いかもしれない。

 マスターの予言は見事的中した。俺がこの店でバイトを始めて以来初めて、リクエスト総数の過半数を俺が「獲得」した。5つのリクエスト権のうち、俺が3つを「獲得」して、残りがマスターと晶子各1つずつだった。俺がリクエストされた曲は予想どおりと言うか「プラチナ通り」と「GOOD-BYE HERO」、そして俺が指名されるときには必ずと言って良いほどリクエストされる「AZURE」だった。ちなみにマスターは「STILL I LOVE YOU」、晶子はレパートリーに「昇格」してまだ間もない「always」だった。
 ようやく静けさを取り戻した店内で、この店の面々がそれぞれの「指定席」に座って「仕事の後の一杯」を堪能する。BGMには「HEAVEN KNOWS Reprise」が静かに流れている。品運びに演奏に、そして締めくくりの店の掃除で疲れが溜まった俺の体から、コーヒーを一口啜る度にそれが少しずつ抜けていくように感じる。

「今日は本当に祐司君様様だったな。」

 マスターが満足げに言う。セミプロ、否、下手なプロよりプロらしいと言って良いマスターに此処まで持ち上げられると、何だか体がむず痒くなる。

「確かに演奏そのものは今まででもあまり覚えがないほど良い出来だったのは自分でも分かるんですけど・・・、あんなに拍手があるとは全く予想してなかったです。」
「お世辞抜きで本当に会心の出来だったと思うわ。私も晶子ちゃんも、注文を作ったり洗い物をする手が何度も止まったもの。」
「凄いなぁ、って思ってたら水出しっぱなしで祐司さんのステージ見てましたよ、私。」

雨上がりの午後 第650回

written by Moonstone

 晶子に言われて俺は後ろを振り返る。勢いは多少収束したとはいえ、まだ鳴り止まない拍手・・・。それが俺の演奏に対する報酬であることは間違いないだろう。

2001/11/17

[眠る日]
 水曜、木曜と、英語と緊急工作で疲れが相当溜まったので、昨日は午後に休みを取って帰りました。帰って何をしていたかというと、ひたすら横になって転寝していました(笑)。勿体無い過ごし方と思われるかもしれませんが、そうしてないと体が辛かったですし、本来なら仕事をしている時間に自由に横になっていられるなんて、ある意味相当贅沢な過ごし方だと思いませんか?
 以後、ちょっと早い時間に食事を済ませ、時にTVを観て、あとはひたすら寝たきり雀(笑)。無音だとちょっと寂しいので随時ラジオをつけていました。今使っているラジオ(正確にはラジカセ)は20年近いベテラン機種なので、時々音量が急減するんですよ。その度にある部分を突付いたり軽く蹴ったりして元に戻しています(汗)。コンポもCDを認識しなくなりましたし、家電製品の買い替え時かもしれませんね。

「今日一番の出来じゃないか?俺の演奏が霞んで見える。」
「自分でも良い出来だとは思うんですけど、まさかこんなに反応が良いなんて・・・。」
「それだけ演奏が良かったってことですよ、祐司さん。」

 満面の笑みを浮かべて拍手をしながら晶子と潤子さんが出迎える。俺は照れくささで頭を掻く。

「これだけのお客さんが祐司君の演奏に共鳴したってことは、お世辞抜きに凄いことよ。」
「何時もよりちょっと快調かな、とは思ってたんですけど、まさか俺に此処まで反響があるなんて、ちょっと信じられないです。」
「でも、こうして現に凄い拍手の嵐だったじゃないですか。祐司さんの演奏は人をひきつける魅力があるっていう証拠ですよ。」
「そうかな・・・?」
「そうですよ。今この場で祐司さんがプロだ、って言っても誰も疑わないですよ。」

 晶子はまるで自分のことのように興奮して言う。そんなに凄い出来だったんだろうか?自分のことながらいまいち実感が湧かない。それだけ演奏に集中できた証拠とも言えるが。

「この分だと、今日のリクエストタイムは祐司君メインで決まりだな。」
「そうなっても全然不思議じゃないわ。」
「そうなりますかねぇ。」
「なりますよ。祐司さん、もっと自分に自信を持ってくださいよ。お客さんがこれだけ認めてくれてるんですから。」

雨上がりの午後 第649回

written by Moonstone

「お疲れさん。立派なもんだったぞ。」

 マスターが会心の一撃を受けたような表情で俺を出迎える。

2001/11/16

[英語は実践あるのみ]
 昨日一昨日といきなり私の居室にやって来た外国人がこれこれこういう回路を作って欲しい、しかも最低でも金曜日までにと英語でまくし立ててきて、えらい災難に見回れました(汗)。どうにか作ったは良いものの、作ったら作ったでもう一つ同じ回路を(一部は共用)作って欲しいと言い出し、ぶち切れ寸前(怒)。
 休憩はおろか、食事も急いで腹に掻き込み、交渉の末決まった時間に所定の場所に行って回路を駆動。いくつかしょうもないトラブルに(私のケアレスミス。休憩させないからだ)見回れましたが、どうにか無事完了。これまでの過程は全て英語オンリーでした。相手、挨拶程度しか日本語喋れないし、おまけにこちの英語は何度も聞き直されたりと、英語を喋ることの大変さを改めて思い知らされました。文法は大したことありません。単語の数が勝負ですね。
あとは俺がフットスイッチを押せば演奏リストに従って演奏が始まるから、それにギターの旋律を乗せるだけだ。もっともそれが一番重要なことなんだが。
 俺はステージ備え付けの椅子に腰を下ろし、客席を軽く見回してからフットスイッチを押す。軽やかなイントロで始まるその曲は「プラチナ通り」だ。俺は軽快なリズムに乗ってギターの弦を爪弾く。・・・今日も快調だ。複雑だが不思議と自然に聞こえるコード進行の波に乗って、俺は軽く身体を揺らしながら演奏する。
 すると、前の方から音量こそ少ないがリズムに合わせて手拍子が飛んで来る。常連というほど頻繁に訪れるわけではないが、よく顔を目にする女性客数名からだ。丁度この曲が派手でもなく、かと言って鎮静を求めるものでもないから、その客には心地良く感じられるんだろう。
 その女性客が目を見開いて手拍子を送ることで俺の精神が高揚するのが分かる。こういう軽快な曲で少なくても客からの反応があると、より上手く、という意欲が増すというものだ。俺はその「反応」に応えるように、弦を爪弾く指に神経をより集中させる。硬くならないように、でもルーズにならないように、俺の指がギターの弦の上で気持ち良く踊る。・・・今日は絶好調だ。
 「プラチナ通り」「HI!SAKURAKO-SAN」そして「GOOD-BYE HERO」を演奏し終えると、割れんばかりの拍手が店いっぱいに広がる。演奏中はさほど気にしていなかったんだが、満員近くまで達した客からのものだ。無論、晶子ファンの高校生集団も感嘆の表情で拍手しているのが見える。俺はフットスイッチを押してシーケンサを停止させてから立ち上がってストラップから身体を解放して、客席に向かって一礼する。拍手はなおも収まる気配がない。参ったな・・・。こんなに拍手を貰うのは俺以外、即ち晶子や潤子さん、マスターだけかと思ってたんだが。
 すっかり汗だくになってステージを下りても、俺に向かって拍手が送られ続ける。全く予想外の好評に俺はどう応えて良いか分からない。ただ左右に頭を下げながら店の奥に退散するくらいしか出来ないのが、これほどもどかしく思ったことはない。

雨上がりの午後 第648回

written by Moonstone

 俺は野菜サンドとツナサンドの皿を置き終えたその足でステージに上がる。エレキギターのストラップに身体を通し、ステージ後方に隠されるように置いてあるシンセサイザーや音源モジュールの一角にあるシーケンサの−ちなみに型落ちしたパソコンだ−演奏リストから、あまり演奏しない曲が並ぶ、でも俺自身はお気に入りの曲があるリストを選んで演奏のボタンをクリックする。

2001/11/15

[昨日の更新お休みの訳は・・・]
 ズバリ言ってFTPの接続不良です。ファイルをアップする途中で止まってしまい、以後何度接続を試みても無駄だったので止む無く諦めました。職場へファイルを持っていってアップするという手もあったんですが、ファイルを入れたFDを自宅に忘れてしまっては話になりません(爆)。
 昨日(実際は今日11/14)帰宅してからアップしようとしたんですが、これまたFTPが全く繋がらなかったので、今日の更新で2日分アップしちゃえ、ということになりました。全く、何とかならないものですかねえ。FTPの接続の悪さ。まあ、地方の下流の回線ですから、仕方ないんでしょうけど・・・。
 晶子の声で俺は演奏から心身を引き剥がして注文の品を運ぶ体制に入る。。キッチンから差し出された大きめの皿に乗った野菜サンドとツナサンドを受け取り、続いてトレイに乗った飲み物の類を受け取る。まず全員分揃っている飲み物を運んで、その後に野菜サンドとツナサンドを運ぶ段取りが適当だろう。
 俺はトレイに乗った飲み物の類を高校生集団のところへ運ぶ。形式どおりお待たせしました、の一言を沿えて飲み物の入ったカップをテーブルに置くが、高校生集団からの反応は全く無い。それだけ演奏に聞き入っているのか、それとも晶子が持ってこなかったから無視を決め込んでいるのか分からないが、今は注文の品を運ぶのが先だ。俺はそそくさとカウンターの前に戻る。野菜サンドとツナサンドの乗った皿をそれぞれ片手で持って、再び高校生集団のところへ赴く。
 丁度そのとき、アドリブの複雑な旋律が終わり、マスターの口からサックスのリードが離れる。すると客席から惜しみない拍手が沸き起こる。数こそ少ないが、その拍手は素晴らしいの一言に尽きる演奏に対する正当な報酬だろう。マスターも満足そうな表情で客席に一礼してステージを下りる。高校生集団もステージを下りたマスターに目を丸くして拍手を送っている。ファンでなくても良い演奏には拍手を惜しまないあたり、なかなか人間が出来ているな。
 ステージを下りたそのマスターが皿を置き終えた俺の元に歩み寄って、俺の方をぽん、と軽く叩く。それは次の演奏は任せた、というサインだ。スパゲッティが出来上がるまでにはまだ時間があるだろうし、マスターの演奏に触発されたのか、俺の中で演奏したい、と音楽の虫が疼く。

雨上がりの午後 第647回

written by Moonstone

「祐司さん。野菜サンドとツナサンドが出来ました。ホットコーヒーとレモンティーも併せてお願いします。」

2001/11/14

[入らんぞーっ!]
 電子回路を設計、制作する他にそれを収める箱やパネルを加工するんですが、これでもよくトラブルを起こします(私はトラブル運搬屋ではない)。加工といっても旋盤やフライスといった扱いの難しいものではなく、専らボール盤(ドリルで穴を開ける機械)とヤスリです。コネクタやスイッチを取り付ける程度なので、それ程専門的な工具を使う必要はないんですよ。
 でも、単に穴をあけるだけならまだしも、スイッチなどにある四角い穴やD-sub(RS-232Cなどで有名なコネクタの規格)などの特殊な穴を開ける時は苦労します。適当にボール盤で穴を開け、採寸どおりにヤスリをかけて穴の体裁を整える・・・。一度で上手くいくのがまずないですね(爆)。ええ、昨日もそうでしたとも(爆)。でも最後にはきちんと入ったのでひと安心。あとは基板の位置に合わせて再び採寸して2つくらい穴を開けるだけです。
晶子はその注文を手早くメモしていき、注文が終了したところでそれらを復唱する。そして客に一礼するとキッチンに走ってくる。晶子ももうすっかりこのバイトが板についたものだ。

「えっと、ホットコーヒーが4つ、レモンティーが2つ、野菜サンドが3つ、ツナサンドが1つ、ミートスパゲッティが3つ。以上です。」
「あら、随分多いわね。さすが晶子ちゃんのファンなだけはあるわね。」
「からかわないでくださいよ。さ、私も準備しないと。」
「お願いね。」

 キッチンは晶子と潤子さんの戦場と化す。3つのコンロに火が灯され、そこに周囲を上に曲げたような感じの鉄板を置く。冷蔵庫から野菜とツナが取り出され、パンが棚から取り出され、大きなコンロに火が灯され、大量の水に塩を溶かした大きな鍋が置かれる。そして二人で手分けして注文の品の調理に取り掛かる。晶子がサンドイッチ系、潤子さんがスパゲッティを主に担当する。
 俺は二人に声をかけずに素早くカウンターから外に出て、注文の品が出来上がるのを待つ。同時に客席を見渡して、客のコップの水の量をチェックする。足りなければ銀光りするポットを持って水を注ぐのが、今の俺の役割だ。マスターはまだステージでサックスを吹き鳴らしている。今度はソプラノサックスからアルトサックスに持ち替えての「STILL I LOVE YOU」だ。今でもこの曲を耳にすると目頭が少し熱くなる。条件反射みたいなものだろうか?
 客はマスターの情熱的な演奏に引き込まれたか、席を立つ気配はない。晶子のファンの高校生集団も神妙な面持ちで演奏に聞き入っている。俺は照明が殆ど落されたカウンターに凭れて、注文の品が出来るまでマスターの演奏に心身を委ねることにする。

雨上がりの午後 第646回

written by Moonstone

 着替えを済ませてキッチンに降り立つと、そこに晶子の姿は無い。客席の方を見ると、大人数用の席に腰掛けた高校生の集団の−晶子のファンだ−ところで注文を取っている。憧れの対象である晶子に注文を取ってもらっているせいか、高校生の集団は目を輝かせながら口々に注文する。

2001/11/13

[前に進めない・・・]
 今している、そして私を長時間勤務による過労とストレスから現在の病気発生に追い込んだ仕事が、またしても暗礁に乗り上げてしまいました。数え切れないほどの紆余曲折を経てあと少しというところまで持ち込んだというのに・・・。
 原因不明なことは勿論、不具合が電気的なものか物理的なものさえ分からないという、一番厄介なパターンです。仕事でのストレスをそのまま引き摺ってしまう私としては、一刻も早く解決しないことには病状の悪化を招きかねないので、せめて何かきっかけがほしいところです。
そして冷蔵庫から予め盛り付けられてあるポテトサラダを取り出して、再びフライパンを大きく煽り始める。その手際の良さに、晶子が加わる前はずっとキッチンを切り盛りしてきただけの風格さえ感じられる。
 何度かフライパンを煽った後、潤子さんはチンジャオロースを皿に盛り付けて、沸騰しかかった卵スープの火を止め、トレイに料理の盛り付けられた皿をさっさと乗せて最後に御飯を茶碗に盛り付けて、二つのトレイを同時に持ち上げて俺と晶子の前に差し出す。

「お待たせ。さ、どうぞ。」
「「いただきまーす。」」

 俺と晶子は食前の挨拶の後、箸を手に取って食べ始める。特に会話も無く、淡々と潤子さんお手製の夕食を口に運ぶ。今更美辞麗句を並べる必要もない。潤子さんもそれなりの自信があるだろうし、実際料理は美味いの一言に尽きる。
 少々急ぎ気味に食事を食べ終わると、ご馳走様でした、の一言と共に空になった皿の乗ったトレイを潤子さんに返す。潤子さんは何時もの穏やかな表情で取れを受け取り、皿を手早く流しへ移してちらっと客席の様子を伺った後、皿やフライパンを洗い始める。
 俺は着替えるため、カウンターの中に入り、店の奥に上がる。晶子はカウンター横にかけてある自分専用のエプロンを身につけている。夕食が終ったら早速バイトの始まりだ。今日も張り切っていこう。

雨上がりの午後 第645回

written by Moonstone

「もうちょっとで出来るからね。」
「あ、はい。」

 潤子さんは別のコンロにのっている中華風卵スープの入った鍋に火をかけ、一旦フライパンを降ろして皿を二つ並べる。

2001/11/12

[うーん・・・]
 この週末、どうも体調が思わしくなく、特に日曜日は殆ど寝たきり雀になっていました。定期更新の準備を分散させたのは正解だったと強く思います。もし直前集中だったら、最悪何も出来なかったでしょう。
 特に持病がぶり返したというわけではないと思いますが、ちょっと体がだるいんですよね。また今日から仕事ですし、無理せず休んでおいても問題ないでしょう。今一番怖いのは、折角安定状態になった持病がぶり返すことなんですから。
 俺と晶子は駅へ向かう人波に乗って駅へ向かう。ちょっとタイムラグはあったが、次の電車には充分間に合うだろう。その証拠に、人波はまだゆったりと流れている・・・。

「「こんばんはー。」」
「こんばんは。あら、今日も仲良くご出勤?仲良くて良いわね。」

 出迎えたエプロン姿の潤子さんが軽く茶化す。俺と晶子は薄明かり程度の照明が灯されているカウンターに並んで腰を下ろす。今日は客の入りは少ない方だ。急いで夕食を腹に投げ込む必要はないようだ。もっとも、食べている途中で団体さんご来店、なんてこともあるから油断は出来ないが。
 潤子さんはキッチンに回り、夕食の準備を始める。マスターはステージでサックスを吹いている。この曲は・・・「NO END RUN」か。珍しい曲を演奏してるな。個人的には好きだが客層にあまり馴染みが無い曲は、客が少ない時に演奏するのが暗黙の了解になっている。でも、この店で演奏される曲は一部の例外を除いてジャズやフュージョンが大半だから、耳に馴染んでいる客はむしろ少ないだろう。俺のレパートリーもその手のジャンルが多いが、ステージで演奏を繰り返すうちに客に知られるようになったってものが目に付く。「NO END RUN」と同じアルバムに収録されている「GOOD-BYE HERO」もその一つだ。こういうときに演奏されることを繰り返していくうちに客の耳に馴染み、レパートリーに「昇格」するっていうと分かりやすいか。
 潤子さんは客席の様子をこまめにチェックしながら、大きなフライパンを煽ってチンジャオロースを作る。見るからに重そうなフライパンを軽々と操りながら一方で客が席を立つかどうかをチェックする。その器用さには脱帽する他無い。

雨上がりの午後 第644回

written by Moonstone

 俺は晶子の手を取って走り出す。最初こそ後ろに引っ張られるような感覚があったが、直ぐに俺の動きに後ろの動きが同調する。衆人環視の前で抱き合うことは出来なくても、こうして手を取り合う分には何も恥ずかしく思わない。手を繋ぐことは俺と晶子にとってもう自然な−当たり前、とは言わない−ことだ。

2001/11/11

[不親切な通知]
 何かの催しをする場合、何処でするかを通知するのは勿論、その場所を分かりやすい形で通知するのが(略地図とか目印になるものを付記するとか)普通というか、見る人の立場に立ったものだと思いませんか?特に普段仕事で不在で週末くらいしか自由に外出できない私のような単身者、それも周囲の地理に疎い人に親切なやり方だと思いませんか?
 私の住む町では来年からゴミの分別や変わったり、袋が指定のものになったりするので、その説明会を公民館ですると通知があったのですが、その公民館がどこか分からず夜の街を彷徨う羽目に(怒)。略地図くらい書いとけよ(激怒)。まだ説明会の日にちはあるので何らかの手段で調べますが、町内会の閉鎖性を垣間見た気がします。
「良いじゃないですか。見たい人は見れば。私はこうして居たいんです。」

 だ、駄目だ。映画やドラマのヒロインにでもなりきったかのような晶子の理性に訴えかけるのは無理があったか。しかし、こうしている間にも人波は俺と晶子の横を通り抜け、羨望と嫉妬の−時間帯のせいか嫉妬の方が多いように思う−視線が向けられる。このまま晶子の気が済むまで俺は突っ立ってるしかないんだろうか?・・・!

「晶子。このままだと次の電車に乗り遅れちまうぞ。」
「良いじゃないですか。その次の電車にすれば。」
「次の電車じゃないと俺達、バイトに遅刻することになるぞ。」

 そう言うと、晶子は名残惜しそうだが俺から離れる。バイトに遅刻するのはまずいし、何より俺の生活費に直結している。晶子もそのことは知っているから、俺に迷惑をかけるわけにはいかない、と思ったんだろう。ちょっとずるいやり方かもしれないが、こうでもしないと晶子は離してくれそうにないからな・・・。

「バイトに遅刻しちゃ駄目ですよね。マスターや潤子さんにお目玉貰っちゃいますし、それでバイト代カットなんてことになると、祐司さんの生活にも影響しますよね。」
「分かっててくれて良かった。さあ、行こう。」
「はい。」

雨上がりの午後 第643回

written by Moonstone

「なあ晶子。そろそろ離れてくれないか?」
「どうしてですか?」
「どうしてって・・・衆人環視の前でこうしてるのは何と言うか・・・その・・・見せびらかしてるみたいだろ?」

2001/11/10

[もう明後日ですなー]
 早いもので11月も1週間以上過ぎ、いよいよ定期更新を向かえます。以前ならラスト2日の追い込み、とばかりに一日中必死にキーボードを叩いていたものですが、制作日程を変えたことでかなりゆったりとしたものになりました。何分トラブル続きでストレスと疲れが溜まりやすい平日。休日は出来るだけならのんびり過ごしたいですからね。
 さて、とうとう自衛隊の海外派兵が本格的になってきました。現地を視察した与党3党の幹事長らは、自衛隊の必要を感じた、と言ってましたが、現地では写真が掲載されたくらいで、自衛隊を必要とはしていないそうです。それよりはるかに重要なことは数十万にも及ぶ難民の冬を越す準備。現地で国連やNGOが奮闘していますが命の瀬戸際に居るアフガニスタン国民を援助するには自衛隊より食料や物資の援助です。自衛隊を外に出したい、という長年の野望を果たした自民党、それの旗振り役をした公明、保守両党とマスコミが重大な選択の誤りをしたことに、何れ私達は気付かされるでしょう。気付いた時にはもう手遅れでしょうけど。
 俺は思わず晶子の両肩をがしっと掴む。晶子はびくんとして大きな瞳を更に大きくして俺を見る。周囲に結構人が居るが、そんなことには構っていられない!

「俺は・・・晶子に見初められて嬉しく思ってる。こんな幸せなことはもう二度とないって思ってる。」
「・・・祐司さん。」
「俺は・・・弱い人間なんだ。今まで恋愛事は連戦連敗で、これが最初で最後と思った宮城との絆も切れた。そんな惨めな思いをした俺にもう一度だけチャンスが来た。それが晶子との絆だと思ってる。」
「・・・。」
「だからこの絆は大切にしたい。これからもずっと・・・。」
「・・・嬉しい。」

 瞳を潤ませた晶子が俺に抱き着く。その瞬間、俺の脳内血管が破裂寸前に血流を増す。目だけ動かして周囲を見ると、羨望と嫉妬の視線が俺にぐさぐさと突き刺さってくるのが分かる。大学帰りで結構人通りも多いから目立つのは当然なんだが・・・。一連の会話の場所を間違えたか?
 晶子の手が俺の背中を愛しげに撫でる。時々下の方に何かが軽くぶつかるが、これは晶子の鞄だな。・・・って、妙に冷静になってるな、俺。晶子の気が済むまでこうして突っ立ってるか?否、それじゃ如何にも「突然の嬉しい出来事に固まってます」って喧伝してるようなもんだ。はて、どうしたものやら・・・。やっぱり離れてもらうのが現実的且つ賢明な対応だな。

雨上がりの午後 第642回

written by Moonstone

 晶子の表情が急に曇る。今にも大雨が降りそうなくらい・・・。此処で俺がおろおろしててどうする?!自分に自身が持てないで居ると晶子を不安に陥れるって、さっき気付いたばかりじゃないか!

2001/11/9

[FTPよ、しっかりしてくれ!]
 出口が見えないどころかお先真っ暗になってしまったので(経過は11/7、8付を参照)その件に関しては触れないことにします(現実逃避とも言う)。それとは別に私の頭を悩ませているのが、FTPがすぐダウンしてしまうということです。ファイルのアップの最中に突然ウンともスンとも言わなくなって、一旦接続を切って再接続しようとすると、ホストが見つかりません、とほざきます(- -;)。さっきまで接続してたところだろうが、と突っ込みを入れてもなかなか回復しません。昨日付の「こぼれ話」が見れなかったのは、それが原因です。
 昼過ぎになって見れるようになったと思いますが、それは職場からファイルをアップしたからです(ファイルをFDにコピーして持っていった)。このような現象はこれが初めてではなく、最近ちょくちょく起こります。写真をアップしている時にも発生して、何回かに分けてアップせざるを得ませんでした。サーバー業者の話では、何個かある接続ポイントの何処かで障害が発生しているからだそうですが、迷惑なことには変わりありません。安定した接続が出来るようになって欲しいものです。
「ああ。」
「大丈夫ですよ。私、こう見えても一途さでは誰にも負けない、って自信ありますから。」
「晶子の一途さは嫌というほど知ってるよ。付き合う前、俺をストーカーみたいに追いまわしたり、俺があんなに邪険にしてもしぶとく食らいついて来たし。」
「ね?思い込んだらとことん、っていうのが私の信条ですから。祐司さんも安心できるでしょ?」
「・・・その一途さが他の男に向かないように、俺が晶子にとって魅力ある存在でないとな。」
「今は充分魅力的ですよ。祐司さん、意外と自分を過小評価するところがありますけど、そんな必要は全然ないですよ。もっと自信を持っても良いくらいです。」

 晶子の表情は笑顔だが、その目は真剣そのものだ。しっかりして、と訴えているのをひしひしと感じる。・・・そうだ。俺が晶子を守る、っていうくらいの気構えがないと、晶子が不安になるじゃないか。まるで自分から堤防に大穴を開けようとしているようなもんじゃないか?今の俺は。
 年明け早々マスターと潤子さんの家にお邪魔したとき、潤子さんにも言われたっけ。どうしてそんなに自分を過小評価するのか、って。あの時も恋愛に関する話だったが、自分を無闇に過小評価することが表面に滲み出て、告白した相手がそれを感じて、自分を好きでい続けられないんだ、って感じて「御免なさい」にあなったんじゃないか、って潤子さん、言ってたな。

「今まで・・・あまり良い思いしてないから、どうしても自分に問題があるんじゃないか、って思いがちなんだよな、俺。」
「それは相手の人が祐司さんを見る目がなかったってことですよ。私は星の数ほど居る男の人の中から祐司さんを見つけて、この人だ、って決めたんですからね。・・・それとも、私に選ばれたことに自信が持てないんですか?」

雨上がりの午後 第641回

written by Moonstone

「私はどれだけ伊東さんに言い寄られても、祐司さんから離れたりしませんからね。もう決めたことですから。」
「・・・そう言ってくれると、気が楽になるよ。」
「祐司さんも心配なんでしょ?私が祐司さんから伊東さんや他の男の人に目を向けることが。」

2001/11/8

[出口は見出せるのか?!]
 お釈迦になったPLD(何の略かは11/7参照)を交換して再書き込みをしたんですが、予想もしない出力の異常に見舞われてしまいました(泣)。ほぼ必ず同じ場所の出力が揺れるんです。ケーブルの結線やその他の回路には異常がないので、PLDの書き込み失敗か、或いはソフトウェアの問題か・・・ほぼ一日考えていましたが分からず、諦めて帰宅しました。2年程前ならしつこいほど考えて試行錯誤を繰り返したでしょうが、今はそんな余力はありませんし、折角良くなってきた持病を再び悪化させることになりかねません。
 どうもPLDには当たり外れがあるような気がします。以前にも同じように、正しく書き込んだのにきちんと動作しない(設計の失敗は除く)ということがありましたし・・・。今日、再チャレンジする予定です。駄目なら駄目で、もう一つの仕事に集中するだけです(ちょっと投げやりな気分)。

「でも私としては・・・もう私なんか諦めて他の女の人を探した方が、ずっと伊東さんの為にもなると思うんですけど・・・。」
「それが分かるくらいなら、公衆の面前で未練たっぷりの口上を垂れ流したりしないさ。それに1つのカップルの陰では誰か1人は泣いてるもんだよ。」
「そう考えると・・・伊東さんを責めるのはちょっと気が引けますね。」
「でも、超えちゃならない境界線を越えようとしたときは、俺も黙っちゃいない。」
「前に伊東さんが、私に擦り寄ってきたときのことですね。あの時の祐司さん、今にも伊東さんに殴りかかりそうでしたよ。」
「友達付き合いなら目を瞑るけど、それ以上は許さない。そういうところははっきりさせとかないとな。」

 そう、一番大事なのは境界線を明確にしておくことだ。友人と恋人、晶子と智一の間にはその明確な境界線があって、それを踏み越えようとしたときは−晶子も勿論だが、今のところは大丈夫だ−手段を問わずにシャットアウトする。それが出来ないと恋愛と友達付き合いの両立なんて出来っこない。
 それに、もう二度と手に出来ないと思っていた絆を、晶子との間で得ることが出来た。やっと手に入れたこの絆を切らせるわけにはいかない。幾ら友人といってもやって良いことと悪いことがある。悪いことをやろうとしたら未然に防ぐのも俺の努めだと思っている。
 もっともそれは、俺が晶子にとって大切な存在である、言い換えれば絆を保ちたいと思わせるだけの度量があればの話だ。俺にその度量がなくなったとき、智一が「境界線」を越えて来ても、俺には晶子も智一も止められないだろう。だからこそ、絆があるうちに智一を晶子から遠ざけておきたい。図々しい話だが、もう恋愛という絆は失いたくない。失いたくないからこそ、こうして一緒にいる時間を少しでも多く持って、少しでも絆を強めておきたい。

雨上がりの午後 第640回

written by Moonstone

 晶子は意外な事実を知ったかのような表情を見せる。かつて俺に兄さんの面影を重ねてストーカーじみた行動をしていた晶子なら知ってるかと思ったんだが。まあ、ストーカーには自分がストーカーだという認識を持っているかどうか怪しいところだし、晶子もその例に漏れないとは言い切れない。

2001/11/7

[弁慶の泣き所]
 電子回路素子の中には自分で回路動作を決定できる素子があります。これをPLD(Programmable Logic Device)と言います。これは集積化、小型化が要求される昨今の回路設計においては重要な位置を占めています。動作を決定する為の言語やツールも数多く、便利なものです。
 しかし、便利なものには往々にして落とし穴というか、弱点があるもの。電圧の変動や過電流、静電気によって、他の素子より簡単に壊れてしまいます。何でこんな話をしたかというと、テスト用回路のコネクタの接触不良で電圧変動や過電流が発生し、折角これまで順調に動いていたPLDをお釈迦にしてしまったからです(号泣)。今日再書き込み(専用のツールを使って電気的に記録させるんです)させるんですが、果たして本来の業務に戻れるのか(これらは完全に余計なことです)非常に不安です(大汗)。

「智一も悪気があってああ言ったわけじゃないと思うんだ。だから大目に見えやってくれ。」
「祐司さんって、思いやりのある人ですね。」
「いや、思いやりっていうか、智一もそう簡単に晶子のことを諦めきれないって気持ちは分かるからさ・・・。」
「そういうのを思いやりって言うんですよ。」

 晶子は微笑んで俺の顔を覗き込む。鞄を両手に持って後ろに回してのその仕草は、心臓をぐっと掴まれたような気分になる。まだ肌寒さが残る夕暮れ時に身体を熱くしてくれる。こういう仕草が自然に出来るところが晶子の魅力というか、魔力というか・・・。俺の心を掴んで離さない。

「・・・ま、まあ、智一も晶子をデートに誘ったりしたくらいだから、彼氏が出来たくらいで諦められないんだよ。」
「もう私は祐司さんに決めたのに・・・ですか?」
「男ってな、意外に諦めが悪いんだよ。」
「そうなんですか?」
「ああ。もしかしたらもう一度、って心の何処かで思ってるんだ。ストーカーは男の方が圧倒的に多いことは晶子も知ってるだろ?あれはそんな未練の表れなんだよ。」
「へえ・・・。」

雨上がりの午後 第639回

written by Moonstone

 やっぱりとも数の行動は裏目に出たようだ。そりゃ公衆の面前で自分の名前を選挙カーみたいに連呼されて迷惑に思わない筈がない。智一らしくない、しかし痛い失策だ。智一に伝えるのは・・・勝ち誇るようなものだから止めておいた方が賢明だな。

2001/11/6

[見つかりましたか?]
 昨日付で更新した隠し部屋。かなり変な位置に入り口を移動したので、ページ中を駆けずり回っているかもしれませんね(悪)。見つけてしまえば「なあんだ」と呆れるか怒るかのどちらかも(^^;)。内容は見てのお楽しみ、ということには変わりありません。ある意味貴重なものもありますよ。
 で、関連ファイルをアップして念のため確認しに入り口をクリックしてみたら、表示されたカウンターの数値は約1900。多いのか少ないのか一概には言えませんが、創設時からある音楽グループの本来の御来場者数(約5000人)を考えれば、意外に多いともいえますね。あ、そうそう。特にWindowsをお使いの方、画面上での右クリックは禁止ですよ(笑)。
なのに「晶子ちゃんと一緒に居たいんだー」「晶子ちゃんを独り占めするなー」などと喚かれては迷惑この上ない。逆に晶子の心情を害することになるとは頭が回らなかったんだろうか?
 智一と別れてから、晶子は沈痛な表情で溜息を何度も吐いている。呆れたというか、それともみっともなく思えたのか、何れにしても良い感情にあるとはいえないだろう。

「やっぱり・・・呆れたか?」
「え、ええ・・・。まさか伊東さんがあんな行動に出るなんて思いませんでしたから・・・。」

 予想通りだった。だが、俺も智一のあの行動は意外だった。今までも三人一緒に帰って別れ際に俺に恨めしげな視線を向けたり、晶子に名残惜しそうな視線を向けることはあったが・・・。

「智一の奴、俺と晶子のことを妬いてるんだよ。智一は相当晶子に熱を上げてたし、今でも隙あらば、と思ってるみたいだし。」
「そうなんですか・・・。」
「こんなこと本人の居ないところで言うのも何だけど・・・迷惑か?」
「ええ。ちょっと・・・。伊東さんの気持ちは知ってるだけに余計・・・。」

雨上がりの午後 第638回

written by Moonstone

 俺と晶子は正門を出たところで智一と別れて駅へ向かう。智一が駄々っ子みたいに晶子との別れを惜しんでいたのには正直言ってかなり恥ずかしかった。大学は大通りに面しているし、人通りも結構多い。

2001/11/5

[ふうー、苦労したなぁ(-o-;)]
 今回久しぶりに隠し部屋を更新しましたが(グループの更新はどうしたよ)、ファイル名がいかにも「隠し部屋」というものでしたし、久しく場所も移動していないせいで場所がバレバレになってきたようなので、場所も移動しました。それにファイル名も変えて、さらにURLが簡単にばれないようにJavaScriptを使ってURL表示やステータス表示のない別のウィンドウを表示するようにしました。
 そこまでして隠すほどの内容なのか、と問われると、「見て判断してください」としか言えません。これは隠し部屋だけじゃなくて他のグループでも同じですが、ご覧になる方の価値観や美意識に影響されることが大きいですからね。ともあれ、隠し部屋とはいえどもしっかり更新したつもりですので、是非入り口を探してみて下さい。
「うう・・・。た、確かにディナーを予約したレストランへ行く途中で、祐司のことを気にかけて電話したってのは覚えてるけど・・・。」
「あの時は伊東さんにも迷惑をかけてしまってすまないと思ってます。でも、デートの途中で気付いたんです。祐司さんに止めて欲しかった、自分の思い通りに祐司さんに言って欲しかったんだ、ってことに・・・。」
「あうあう・・・。俺は所詮、ピエロでしかなかったってことか・・・。寒い、寒いよ、パトラッシュ・・・。」

 智一の奴、ショックのせいか、訳の分からないことをのたまう。だが、俺と晶子の意地の張り合いに智一を巻き込んでしまったことには変わりはない。それを思うと、未だに智一に対する罪悪感が消えない。

「智一を俺と晶子の意地の張り合いに巻き込んじまったことになるよな・・・。あの時は悪かった。」
「すみませんでした。」
「良いさ、もう済んだことだし。それに俺にだってチャンスが全然ないってことはないしな。」
「お前、まだ・・・。」
「盗られるのが嫌だったら、つまらない意地の張り合いで仲違いしないこったな。」

 智一に言われて俺ははっと思う。晶子と智一をデートさせた原因は、俺と晶子がそれこそつまらない意地の張り合いをしたことにある。今度そんなことがあって仲違いを起こすようなことになったら、その時晶子はどうするか・・・分からない。俺がどうするか・・・それも分からない。智一にみすみす付け入る隙を与えないようにするには、俺と晶子がしっかり手を取り合ってないといけないな。

雨上がりの午後 第637回

written by Moonstone

「あの時・・・祐司さんが寝込んでなくても、伊東さんとのデートはあの日きりにするつもりでした。」
「え?!」
「祐司さんがさっき、自分の気持ちに正直になれなかった、って言いましたけど、私もそうだったんです。あの日の前の晩に祐司さんと意地を張り合って、半ば自棄になって伊東さんとの待ち合わせ場所に向かったようなものですから。」

2001/11/4

[雨が降ってる〜(T-T)]
 朝(9時前)目を覚ましたら、車の走行音がシャーッと行ってるので、もしや、と思って薄暗い部屋のカーテンを開けてみたら・・・灰色の重たい空に地面に出来た水溜り、そしてそこに出来ては消える波紋・・・。それは雨という紛れもない証拠。天気予報で大気の状態が不安定になるとは言ってましたが、まさか雨にまで発展するとは・・・。
 いえね、私は週末に自転車で10分くらいの所へ買出しに出かけるので、雨に降られると荷物を持って尚且つ傘を差さなければならない。そして長い距離を歩かなきゃいけない。一大事になるんですよね。
 かと言って必要なものは買わなきゃ駄目。止む無く少し二度寝した後、昼前に買出しに出発。たっぷり歩いてたっぷり濡れて、重い荷物を持って帰宅。昼食を食べた後、疲れがどっと出て、3時間ほど昼寝しました。週末にはあまり雨が降って欲しくないですね。
 俺は思わず語気を強める。以前みたいに変に強がって、晶子と智一をデートさせてしまうようなことは、まっぴら御免だ。すると智一は口を尖らせて、ひゅう、と軽く口笛を吹く。

「ほほう。祐司も随分変わったもんだな。以前は自分には関係ない、って意地を張ってたっていうのに。」
「以前と今とじゃ、状況が違う。」
「以前も今も両想いだったのにか?」
「・・・以前は・・・自分に正直になれなかっただけだ。」
「あーあ。あの時お前が熱出して寝込んでなけりゃあ、晶子ちゃんは俺と一緒になってたかもしれないのになぁ。絶対お前、タイミング良過ぎ。」

 それは俺も思う。俺が熱を出して寝込んでなかったら、晶子は智一とのデートを続行していただろう。晶子が店に電話をかけたとき、俺が呼ばれて電話口に出たら、結局その前の晩の蒸し返しになるのが関の山だっただろう。立つのもままならなかった程のあの高熱はもう御免だが、あの時の高熱が俺と晶子を再び繋ぎ、俺が自分の気持ちに正直になれるきっかけを作ったと思うと、満更でもないと思えたりする。

「あの時ですか・・・。」
「そうそう、晶子ちゃんとデートしたあの日。」

 嬉しそうに弾む調子で智一が言うと、晶子は一旦視線を上げて、程なく智一の方を向いて口を開く。

雨上がりの午後 第636回

written by Moonstone

「・・・ま、何れ晶子ちゃんにも、俺の誠意が通じると信じてるから。」
「お前なあ・・・。」
「おっ、自分の彼女に手を出されるのは嫌か?」
「当たり前だろ。」

2001/11/3

[あっという間の1週間]
 でした(^^;)。「ああ、今日からまた金曜まで仕事かぁ」と月曜にちょっと憂鬱になっていたのが嘘のよう。何時の間にやら金曜を迎えてました。何なんでしょうね〜。Windows2000やアプリケーションをインストールして動作をチェックしてて、気がついたら金曜だった、って感じですね。
 話は思いっきり変わりますが、週刊少年サンデー連載の「Salad Days」が終っちゃいましたね(本当に思いっきりだな)。以前此処でも取り上げましたが、瑞々しい、時に切なく、時に愉快な恋愛話の数々は、一応連載で恋愛話を書いている私は大好きです。最後も(意見は色々あるでしょうが)幸せな形で終って安堵しました。「雨上がりの午後」も心に残る恋愛話にしたいな、と思います。
 両手で顔を覆って−智一はリュックを背負っている−大袈裟にショックを受けたというアクションを見せる智一に、晶子が優しく追い討ちをかける。本人は諭すつもりで言ってるんだろうが、智一には相当なダメージになったんじゃないだろうか?ちょっと可哀相な気がする。

「何て言うか・・・人をからかって楽しんでいるような気がするんです。」
「お、俺はそんなつもりじゃないよ。晶子ちゃんには誠心誠意・・・」
「そうは思えないんですけど・・・。」

 晶子が困ったような表情で言うと、智一はがっくりと肩を落とす。晶子のこの一言は間違いなく智一にとって決定的な精神的ダメージを与えた筈だ。無論、晶子本人はそれを狙ってはいないだろうが。
 智一には同情出来る面もあるが、晶子に痛烈な肘鉄を食らったことで、晶子のことをすんなり諦めて貰えれば、という気持ちもある。我ながら勝手な物言いだとは思うが、まかりなりにも晶子と恋人同士で−こういう言い方自体古臭いかもしれない−ある以上、晶子から他の男の視線を遠ざけたいという気持ち、言い換えれば独占欲が働くのは仕方ないだろう。
 だが、智一は少しして直ぐ表情を元に戻す。何て気持ちの切り替えが早い奴なんだ、こいつは。まあ、そうでなけりゃ、晶子を狙っていながら合コンで他の女とくっついて、性格の不一致とやらで直ぐに別れる、なんて俺にしてみれば器用な芸当が出来る筈もないか。しかし、一旦付き合っておきながら「性格の不一致」を理由に挙げるなんて如何なものか、と俺は思うんだが・・・俺の頭が固いだけなんだろうか?

雨上がりの午後 第635回

written by Moonstone

「ノオーッ!それじゃ俺は真剣に晶子ちゃん獲得に取り組んでないみたいじゃないかぁーっ!」
「正直言って・・・伊東さんからはあまり誠実さが感じられないんですよ。」

2001/11/2

[久々の外食]
 昨日、台所の掃除のためこれ以上台所を汚したくない、という極めて個人的な事情で(笑)仕事(残業)の合間を縫って外食に出かけました。以前、とは言っても今の持病の症状が表面化するまで、木曜日は大抵外食に出かけていました。食事を作って後片付けをしてからでは、疲れが溜まってとても台所の掃除まで手が回らないんですよね、特にここ1年半ほどは。
 最近は調子が良くなってきたのでましなんですが、以前は食事を作るのにも出来るだけコンロ周りを汚さないように神経を使い、つかの間の食事の時間が終ったら台所の掃除、なんてとても毎週やってられないってわけでサボって隔週にしていました。
 その副作用で、コンロ回りを極力汚さない調理法(電子レンジやオーブンを使う)を見つけて、それを多用するようになりました。電子レンジというと解凍というイメージが付き纏いますが、茹で野菜や肉類の調理も出来る調理器具なんですよ。オーブンはフライパンで焼くより綺麗に焼けますよ。リスナーの皆さんで料理をされる方は一度挑戦してみてはいかがでしょう?
「1年以上学業を共にしてても気付かないのか?俺のルックス、話術、陽気で前向きな性格、そしてこれは正確に俺自身の力じゃないが財力。これらをフルに発揮すれば祐司、お前の防御力を遥かに上回るだろう?」

 ・・・確かに智一はルックスも俺より良いし、相手を巧みに誉めたりしてその気にさせる話術も持っているし、何かとあれこれ考えたり後ろ向きな思考になりがちな俺と違って常に陽気で前向きだし、財力は言うに及ばない。これをフル稼働させたのが去年の晶子とのデートだったとすると、俺が熱を出して寝込んだりしてなかったら、晶子は、好かない言い方だが、落されていたかもしれない。そう考えるとやっぱり智一は油断ならない相手だな・・・。

「でも、その人の魅力は相手の人から見てそう思えるようなものじゃないと、効果ないんじゃないですか?」

 不意の晶子の「一撃」に智一の表情が一瞬にして強張る。まさかの「一撃」は智一には相当ショックだったようだ。無理もない。智一が言う「自分の魅力」をフル稼働して望んだ晶子とのデートでも、結局晶子の心は俺の方を向いていたと、智一自身が言ってたな・・・。

「ううっ、そう言われると痛い・・・。」
「御免なさい。でも、これだけははっきり言えますけど、私はお金で心動くようなタイプじゃないつもりですよ。それより控えめでも真剣に物事に取り組めて、誠実な人がずっと良いです。」

雨上がりの午後 第634回

written by Moonstone

「ま、その魅力も前面に出ない限りは恐れるに足らず、ってとこだな。俺は俺の魅力で晶子ちゃんを魅了してみたいね。」
「お前の魅力?何だそりゃ。」

2001/11/1

[こんな事実、知ってますか?]
 沖縄への観光客が軒並み激減。旅館やホテルは勿論、バス業界や土産物店に深刻な影響が出ているということを。「これは基地被害だ」。ある関係者の方はこう断言したそうです。そう、日本にある米軍基地の約75%が集中する沖縄県は、第2、第3のテロの標的にされる危険があるからです。
 敵国の基地は何処にあろうとその国のもの。アルカイダやその他のイスラム原理主義系テロ組織が、テロの標的として日本各地の米軍基地を選ばないという保証は何処にもありません。沖縄の深刻な現実はまさに基地が齎した被害です。
 そんな深刻な現実を商業マスコミは殆どと言って良いほど報道しません。次はどう攻めるか、という軍事シミュレーションには躍起になっているというのに・・・。リスナーの皆さんには商業マスコミが真実を覆い隠しているということを頭に入れておいてほしいと思います。
 だが、今と以前とでは状況が違う。俺は晶子と付き合っている。言い換えれば晶子は最初にデートした智一ではなくて、俺を選んだんだ。この事実だけは智一に明確に示しておかなければならない。抜け目のない智一のことだ。俺がちょっとした隙を見せれば、そこに容赦なく付け入ってくるだろう。智一は数少ない大学の友人であると同時に、晶子を巡るライバルでもある。油断は禁物だ。

「祐司。2年になって実験が入ってきてから、晶子ちゃんがお前を選んだ理由が分かるような気がする。」
「・・・智一?」
「お前、普段は素っ気無いけど、いざ人に何か頼まれると断れなくて、自分のことみたいに親身になるだろ?俺には真似できない。そんな隠れた優しさがお前の魅力なのかもしれないな。」

 智一は妙にしんみりした口調で言う。先に目をつけたのは自分なのに、俺に取られる形になって悔しい、だけど・・・、という気持ちなんだろうか?晶子にデートを途中でキャンセルされたことを俺に言った時に見せた表情に似てると言えなくもない。
 そんなことを思っていたら、智一はさっきまでのシリアスな雰囲気をがらりと変えて挑戦的な笑みを浮かべる。俺は反射的に防御態勢に入る。この笑みは晶子ににじり寄る時の笑みと同じだ。全く何て気分の切り替えが早い奴だ。

雨上がりの午後 第633回

written by Moonstone

 羨ましく思える気持ちも分かる。俺も宮城と付き合うまでは連戦連敗だったし、自分が告白した相手が別の男と楽しげに喋っていたり、並んで帰ったりするところを見て羨ましく思ったもんだ。それを智一に置き換えて考えてみれば・・・智一が俺と晶子を羨ましく思う気持ちは分かる。

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