芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2000年5月31日更新 Updated on May 31th,2000

2000/5/30

[いよいよ移転です]
 1年余りの間使ってきた現在のサーバーからの引越しが明後日に迫りました。ファイルの移転は殆ど済みましたが、案内状の準備や移転案内のhtmlファイルを仕上げて6/1(出来れば)0:00に一気に転送と発送を行おうと考えているので、明日はシャットダウンします。このコーナーをご覧戴いている頃には、ブラウザとエディタを行き来しているでしょう(^^;)。
 手探りでアップを始めてもう1年経つんですね〜(遠い目)。その頃は容量が此処まで増えるとは思いもしなかったんですが・・・。まさかテキストファイルだけでMB突破するなんて(^^;)。独自ドメインと容量大幅増量を目的に引っ越すことにしたんですが、ちょっと名残惜しいところもあります。
 6/1の(目標)0:00にこのサーバーから殆どのファイルが消え去ります。そして今のトップページに替わって移転案内の表示が現れるでしょう。リスナーの皆様は何時ものとおりご来場くだされば、新しい芸術創造センターへとにご案内いたしますので・・・(自動ジャンプの設定を組み込みます)。

[今日の災難]
 原因不明の胸部の痛みを抱えてもう2ヶ月(汗)。昨日も検査のために病院へ行って来たんですが・・・酷い目に遭いました(T-T)。何かって・・・思い出したくも無い恐るべき検査だったんです。どうやら重大な疾患はないらしいのですが(じゃあ神経症か?)、検査の影響がまだ残ってます。これで逆に悪くなったような気がしなくも無い・・・(- -;)。

[お、おのれ・・・(- -#)]
 日曜が「CCさくら」の日で、月曜は「名探偵コナン」の日です(?)。帰宅が遅くて見られない日もあるのですが、今日は先の災難の後、静養の為休んでたのでしっかり見れました♪しかし・・・しかしだよ・・・?

新一!元に戻っていきなり蘭にプロポーズしようとするかぁ?!

 そりゃ久々に元に戻れて嬉しいのは分からなくも無い。蘭のことが好きなのも分かる(蘭が新一を好きかどうかは考えない(爆))。しかし、ホテルの高級レストランへ食事に誘ってプロポーズなんて、いくらゲン担ぎだからってそこまでやるか?!原作で既に知っていてもやっぱり許せん(怒)。
 それにしても蘭は良い娘(こ)ですね〜。あんなに健気に待ち続けて、ようやく会えたのに新一のことをまず考えるなんて・・・。怒るとおっかないけど(^^;)。

・・・移転後もこのコーナーの調子はこんな感じです(笑)。
それでは、6/1からの移転にご期待ください!(^o^)/

雨上がりの午後 第214回

written by Moonstone

 一度方向転換して階段を昇り続けると、6畳間位のスペースに出る。そこに面してドアが2つ、さらに左手に向かって廊下が伸びている。思いの他広いようだ。でも、マスターと潤子さんの二人暮らしで、こんなに部屋が必要なんだろうかとも思う。余計なお世話と言えばそれまでだが、やっぱりちょっと考えてしまう。

「晶子ちゃんはこの正面の部屋で・・・、祐司君は廊下を真っ直ぐ行った突き当りの部屋を使ってね。」

 俺と井上の部屋は廊下の長さくらいは離れているようだ。てっきりマスターが−もしかしたら潤子さんも−部屋を隣にするのかと思ったが・・・。べ、別に期待していたわけじゃない。本当だ。

「鍵は無いから安心してね。それからお布団も敷いてあるし。」
「?」
「私は先にお店に戻るから、荷物を置いたら降りて来てね。夕飯用意しておくから。」

 階段を下りていく潤子さんが悪戯っぽい笑みを浮かべているように見えたような・・・。でも、どうして俺と井上をくっつけようとするんだろう?そりゃ前みたいに俺が一方的に井上に悪感情を持ってて、ステージやバイトそのものに支障が出るかもしれないというなら分かるが・・・。

「安藤さん、どうしたんですか?」
「・・・あ、いや、何でもない。」

 井上が俺の顔を不安げに覗いている。しまった、また思考に没頭していたらしい。

「具合悪くなったら無理しないで良いんですよ。」
「大丈夫。そんなことないから・・・。荷物置いて来る。」

 俺はどうにか取り繕って潤子さんに教えられた部屋へ向かう。まだ「合宿」は始まったばかりなのに・・・こんなことやってて大丈夫なんだろうか?俺は・・・どうしたいんだ?井上に・・・どうして欲しいんだ?

まだ・・・俺には判らない。
否・・・まだ決めていない、と言うべきか・・・。

2000/5/29

 当コーナーの4000人目リスナーの方からご連絡を戴きました(歓喜)。名乗り出て頂けると嬉しいものです♪。

[引越しって大変・・・]
 実生活の方は言うまでもありませんが、ページの引越しもかなり大変です。ファイルの移転はほぼ終了したんですが、単にそのままコピーするのは芸が無いので、表示速度の改善を考えたり、移転に合わせてもうちょっと雰囲気を和らげることを試行錯誤していたら、あっという間に半日使ってしまいました(^^;)。
 どうにか形になって新サーバーの方にはアップしておきましたが、現在のURLでは後3日ですので、もう少しの間ご辛抱願います(_ _)。それから、今度はIEでもレイアウトが大きく崩れることなくご覧いただけると思います。私自身はIEを使わないのですが、IEを使っておられる方も多いようですので・・・。それにしても、フォーム枠表示の相違はどうにかならんもんでしょうか?前に試しにIEで見て、フォーム枠が大きく表示されてびっくりしました(汗)。IEだとFONT SIZEの設定がFORMタグ内部で効かないんですよね・・・。

[今日のさくら・チェック(笑)]
 日曜といえば「CCさくら」の地上波放送です(そうなのか?)。勿論今日も18:00にテレビをON。アニメ版オリジナルキャラの苺鈴が、香港に呼び戻される話でした。うーん・・・。苺鈴が可愛そうというのが正直な気持ちです。「あたしは小狼にとって邪魔なの?!」という台詞が胸に痛く響きました(実際今も痛いですが)。
 一応この先の展開の概要を知っているので、それから考えると苺鈴が引き立て役にされたような気がしてなりません。折角のオリジナルキャラなんですから、もっと大事にしても良かったんではないかと・・・。

 それはさておき、「ツイン」のカードで自分をもう一人増やしたいです(爆)

「「こんばんは。」」
「あら、随分早いわね。」

 今日の出迎えは潤子さんだ。俺が到着するときは大抵、正面でマスターがコーヒーを沸かしている。客席の方からソプラノサックスの音が聞こえてくる。マスターはステージで演奏中か・・・。

「荷物はどうしたの?」
「更衣室のドアの前に置いておきました。」
「じゃあ、マスターが戻って来たら部屋に案内するから、ちょっと待っててね。」
「俺は先に着替えてきます。」
「私は店に出ます。」

 井上はエプロンをキッチンの隅にかけてあるから、そのまま店に下りれば良い。俺は踵を返して更衣室へ向かう。二人分の荷物がドアの前に鎮座しているが、それをちょっと脇に退けて中に入る。この辺は何時もと大して変わりない。何時もと変わるのは店が終わってからだろう・・・。

 着替えを終えて更衣室から出て店に下りると、演奏を終えたマスターが俺に背を向ける形でコーヒーを沸かしていた。潤子さんは食器を洗っている。井上の姿は見えないが、客席の方へ行っているんだろう。

「マスター。」
「おお、待たせたな。井上さんが戻って来たら潤子に部屋に案内してもらおう。」
「注文を持って行ったところだから、直ぐ戻ってくると思うわ。」

 そう言っているうちに井上がトレイを抱えて戻って来た。

「4番テーブルに運び終わりました。」
「お疲れ様。それじゃ私が部屋へ案内するから、あなた、店の方お願いね。」
「ああ、分かった。」
「私について来てね。」

 俺と井上は潤子さんに続いて店の奥に入る。更衣室のドアの脇にどけておいた荷物をそれぞれ拾い、廊下を進んで台所に入り、そのまま奥に進んでいく。此処からもう俺にとって未知の世界だ。

「部屋は2階なのよ。足元に注意してね。」

 ちょっと傾斜が強い階段を潤子さんに続いて昇って行く。何だか・・・旅館で部屋に案内されるみたいだ。着替えや洗面用具を持ってるし・・・。

雨上がりの午後 第213回

written by Moonstone

 店の裏に自転車を置いてから、俺と井上は荷物を持って今日は裏口から入る。昨日マスターに言われたんだが、大きなバッグを抱えて正面から入ると客から何事かと思われかねないから、当然ともいえる。
 裏口は台所に通じていて、そこから廊下をまっすぐ進むと俺が使う更衣室を通り過ぎて、店のキッチンに辿り着く。荷物は一先ず更衣室のドアの前に置いておくことにする。

2000/5/28

[今日も雨、明日も雨?]
 先週も土曜日は雨でしたね。ちょっと涼しいので有り難いです。それまで夏を思わせるような暑さが続いたお陰で、とうとうバテてしまいました(^^;)。もっとも、食が細くなっていてさらに睡眠障害と来ればバテて当然なんですが。
 一昨日だったか、ラジオで慢性疲労について話していました。それによると睡眠障害は末期症状・・・って、何ですと?!(驚愕)「早めに心療内科にかかりましょう♪」って妙に明るく言ってましたが(そりゃ向こうはこっちの事情なんて知りませんからね(^^;))、一体この先どうなるのか、かなり不安です。そう思うと余計いけないのかもしれませんけど・・・。

[神の国、ねぇ・・・]
 言わずと知れた現首相の発言、未だ波紋は消えそうに無いどころか予想以上の反発が起こっているようです。当の本人は色々言い訳してますが、あれは本音に間違いないと踏んでいます。と言うのも、発言の舞台となった神道政治連盟国会議員懇談会なるものは発言のような思想の元で活動する団体ですし、大抵の方はご存知無いかもしれませんが、何より自民党そのものが天皇中心の国にすることを考えている政党なんですからね。名前と実態は必ずしも一致しないと言うことです。
 彼らと同じ立場にいるマスコミはこの問題に触れたがりませんが、タブーをなくせと普段言ってるなら、ここで景気良く首相の発言を擁護してみてはどうなんでしょうね?売上が落ちたり巻き添えを食らうのが怖いんでしょうか?

「私、向こうの方なんですよ。取ってきますね。」

 置いた時間が違うせいか、俺と井上の自転車の位置は随分離れているようだ。終日混み合うこの自転車置き場で、隣り合わせるなんてかなり難しい話だから仕方ない。

「じゃあ・・・先に井上のところへ行くか。」
「え?待ち合わせても・・・。」
「最近物騒だから、その方が良いんじゃないかって思って。」

 この自転車置き場には照明こそあるが警備がいるわけじゃない。広大な敷地の中に自転車がぎっしり詰まっているから、遠くで何かあっても判らないかもしれない。考えたくないが・・・考えないといけないのが今の世の中だ。
 井上がちょっと前屈みになって、上目遣いに俺を見る。・・・この顔は苦手だ。本音を言って、と優しく、しかもじっくりと迫られているようで・・・。

「・・・心配ですか?」
「・・・心配じゃなかったら・・・何も言わない。」
「ありがとう。・・・嬉しいです。」

 井上は目を細めて微笑む。心底嬉しいと言っているようなその顔を見て、俺の胸がズキッと疼く。この笑顔は・・・反則だ。

 自転車を取り出した俺と井上は、俺の家、井上の家と順に立ち寄って荷物を持ち出して、そのまま自転車で店に向かう。十分歩ける距離だから普段は専ら歩きなんだが、たまにはこういうのも良い。高校時代のバンドの「合宿」も、こんな風に自転車に楽器やら着替えやら詰め込んで、妙に浮かれ気分で学校へ向かったものだ。

そう言えば・・・
・・・優子には冷やかしの声を受けながら公衆電話をかけていたな・・・。

 芋蔓のように記憶が引き出されてくる。まだ・・・消えてはいないらしい。だか、井上は消えるはずが無いから消そうと思わない方が良いと言った。今は思い出すのも苦にはならない。このまま心のアルバムの片隅に収まるまで、そのままにしておけば・・・良いのかも知れない。

雨上がりの午後 第212回

written by Moonstone

 自転車と言えば、初めて一緒に帰った時には井上と二人乗りをしたんだったな・・・。今日は井上も自転車に乗って来ている。荷物を抱えて二人乗りはきついからその方が良いんだが・・・ちょっと残念な気もする・・・って、何を期待してるんだ?俺は・・・。

2000/5/27

ご来場者45000人突破です!(歓喜)

 ・・・長期間休んだ上に相変わらず更新が丁重なので伸びは期待していなかったのですが、1週間で約1000人のペースでご来場いただいております。他のページと違って味も素っ気もない実務中心のページにお付き合いいただいて感謝感謝です(_ _)。新サーバー移転を契機に奮起したいものです。

[今欲しいもの]
 今年度になって直ぐ念願のノートPCを手に入れて以来、連日こき使っています(同時に動作不調の多さに困らされてもいますが(爆))。ノートPCを手に入れてもう欲しいものは無い、ということはなくて、新たに欲しいものが出てきました。ちなみに、観月歌帆や織機綺や毛利蘭は新たに欲しくなったものではなくて、前から欲しいものです(猛爆)。・・・前にもこんなこと言ってましたね、そう言えば(^^;)。

 進歩の無いこの私ですが(笑)、欲しくなったものは座椅子です。創作やネット接続その他事務(オフィスみたいだな)はほぼ完全にノートPCに移行したんですが、机の上には相変わらずデスクトップPCが鎮座しています。プリンタとスキャナをノートPCで使えるようにしてないのと、ファイルの整理が途中なのと、今後の処遇(笑)が未定だからです。
 ノートPCは食事用兼物置の炬燵机で使っていますが、座る際に背もたれを必需品とする人間の私はそのまま座っていると直ぐ腰が痛くなるので、壁に凭れています。でもやっぱり固い(当然ですな)。そこで座椅子が欲しいなぁと思うようになったのです。

 今、自宅には3台のPCがあるのですが、主力のノート、MIDI専用のPCは役割が決まっていて、机を占領しているデスクトップは遊んでいる状況なんですよね。MIDI用に回しても良いんですが、何にしても世代交代にはかなり時間を要するようです。
 かと言ってこれからのことに変な期待をしているわけじゃない。何と言うか・・・この機会に決断を迫られるような気がする。井上が直接迫るとは−妖しい言い回しだが−あまり思えないが、一つ屋根の下で過ごすという状況がそうさせそうな・・・。

 交わす会話はやはりと言うか、目前に迫った「合宿」のことだ。井上は合宿の経験が無いらしくて、その楽しみや期待もあるんだろう。それに音楽に携わることが本当に楽しいと思っているみたいだ。
 それはそうだろう。中学以来能動的に音楽に触れることが無かった自分が、この二月あまりのうちに自分の歌が店の一部になって、新しく選んだ歌がマスターと潤子さんにも好評を受けて、今度はコンサートという大舞台にメンバーの一人として出るまでになったんだから。もっと歌いたい、もっと上手くなりたいという気持ちでいっぱいなんだろう。
 高校以来遠ざかっているとはいえ、俺は学園祭の他にライブの経験もかなりあるし、音合わせということで1日2日学校に泊り込んだこともあるから、それほど緊張感は無い。言ってみればある意味擦れてしまったんだが、井上を見ていると、バンドを始めた頃の緊張感や高揚感を思い出す。井上のやる気を挫かないためにも、俺は他所事など考えてないでしっかりしてなきゃ駄目なんだが・・・。

「安藤さんはバンドやってた時に合宿とかしたんですか?」
「学校でやる以外のライブの時は・・・時々な。体育館に寝泊りしてた。夕飯は家庭科室で作ったり、夏場は屋上で飯盒炊爨もしたか・・・。」
「結構やんちゃだったんですね。」
「5人居たしな。屋上で飯盒炊爨やったときは、火事に間違われて騒ぎになったこともある。」
「怒られたりしませんでした?」
「用務員の人と仲良かったからな。火災報知器の誤作動ってことで誤魔化してもらったよ。」

 今思うと滅茶苦茶なことをやったもんだ。だが、あの時は本当に楽しかった・・・。バンドの奴らとは散り散りになっちまったが、電話番号をやり取りし合って成人式に合おうと約束している。だが、あいつらも俺があの女、優子と別れたこと、そして井上と出会ったことは話していない。
 同じ時間と場所を共有していないとこうして少しずつ世界が違っていくんだろう・・・。だから・・・、優子は俺から離れていったんだろうか・・・。

 そうこうしているうちに電車が駅に着いた。俺と井上は電車を下りて一緒に自転車置き場に向かう。これから俺の家、井上の家の順で立ち寄って、纏めた荷物を持ってバイトに向かう手筈になっている。

雨上がりの午後 第211回

written by Moonstone

 帰り道に目に入る、深まる闇に沈んでいく町の風景。そこに星のようにぱらぱらと浮かぶ家の明かりや街灯。この季節この時間なら当たり前で普段なら目に映るだけで印象の欠片も残らない風景が、何処となく情感を醸し出しているように思う。

2000/5/26

[また一つ大きな足跡]
 早いものでこのコーナーのリスナーが4000人を突破しました(歓喜)。4000人を超えているのは今のところ、第1SSグループ、第1創作グループ、第2創作グループの3つだけですからね。リスナーの皆様、いつもありがとうございます(_ _)。
 で、4000人目のリスナーの方はメールか掲示板でご連絡ください。例によって例のごとく、参加型の企画を考えておりますので。1000人台だけでなくて、4444とか4321とかのぞろ目や面白い並びのときでも遠慮なくお知らせ下さい。

[ネットサーフィンやってます]
 ・・・と言っても今時珍しいことではないですし、逆に「だからどうした」と言われるかもしれませんね(^^;)。私は割と放浪癖があるらしくて(笑)、ブックマークにあるページの他に、そのリンク集や検索サイトから他のページをいろいろ見て回っています。更新が終わってから見る、つまりほぼ毎日見ているページは10くらい、ブックマークに登録したら最低でも1週間に1度は見て回ります。身体がこんな状況なので、なかなか感想を書き込んだりするほどじっくり見られないのですが・・・。
 多いのはやっぱりCG系のページですね。ぱっと見て直ぐに印象が浮かぶのと(小説や音楽だとこうはいかない)、自分で描けないのでこんなCGが描けたらなぁ、と言わば無いもの強請りをするのが理由です。人物が描けるなんて全くもって羨ましいものです。中には「これで?」という作品がジャンクとなっていたりして、それを見る度に勿体無いと思っています(^^;)。
 店の外には昼の面影はなくなっている。街灯が煌々と白色光を放ち、建物や木々が夕闇にシルエットを浮かべている。暖房の効いた店内から急に冷気に晒されて、俺は思わず身を縮める。
 人通りがめっきり少なくなった通りを二人で歩いて行く。出会ってからもう2ヶ月になろうというのに一緒に帰るのは初めて・・・否、2回目だ。一月ほど前、井上の新しいレパートリーを探そうと、待ち合わせてCDショップへ行ってそのまま一緒に帰った。そしてその日、井上は俺に言ったんだ・・・。

俺のことが好きだ、って・・・。

 言い換えれば俺は、一月もの間、自分の態度を保留しているということだ。自分の気持ちが本当なのか分からないから、と言って・・・。じゃあ、この一月で自分も気持ちが分かったんだろうか?分かろうとしただろうか?・・・何もしていない。月並みな言い方をすれば友達以上恋人未満、言い方を換えれば曖昧な関係のままにしている。今の関係が心地良いのは間違いない。だが、理由はそれだけじゃない。気持ちをはっきりさせる踏ん切りがついていないんだ。今になっても・・・。
 一月ほど前に井上の告白を聞く前は、井上とどう付き合っていくか考えるなんて思いもしなかったのに。あの告白はやっぱり大きな分岐点になったわけだ。

「泊り込んで練習なんて、クラブの合宿みたいですよね。」

 井上が話し掛けてくる。俺は慌てて意識を会話の方へ引き戻す。

「・・・そうだな。まあ、普段とは違う組み合わせもあるから、一度はやっておいた方が良いとは思う。」
「何時もは安藤さんと一緒だから、それ以外は実感が湧かないんですよ。」
「・・・。」

 言われて見れば確かにそうだ。俺はたまにマスターと潤子さんの演奏のバックに回ることもあるが、井上は「Fly me to the monn」以来ずっと俺とだけ一緒にステージに上がっている。井上が俺以外の相手とペアを組むなんて、まあ、サックスは歌うのと似てるから必然的に潤子さんと組むことになるが、俺も実感が湧かない。
 井上が自分以外と一緒になる・・・。ステージの上じゃなくて別のところでそうなったら・・・。そう考えると胸の奥が激しくざわめき始める。一月ほど前にも、そして今日3コマ目の講義が終わった後に感じたもやもやとは比較にならない激しさで蠢く。

雨上がりの午後 第210回

written by Moonstone

「後ろに立ったら気付くかな、って思ったんですけど。」
「全然気付かなかった。」

 俺は半分ほど読んだ雑誌を畳んで元の場所に戻すと、井上と一緒にその場を離れる。生協の中は相変わらずの混雑振りだが、食料品売り場は棚が殆ど空になっているから来た時より閑散としている。時間が過ぎたことを実感する一齣だ。

2000/5/25

[うぐぅ・・・痛いぃ・・・(泣)]
 朝から晩まで(仕事も同じ)打撲の痛みか頭痛が胸の内側に来たような状況で気分はもう最悪です(- -;)。一時はその場で動けなくなりました。ええ、このお話をしている今でも痛いですよ。食欲も目に見えて低下してますから(通常の半分以下)、ちょっと危ないかも・・・。
 このコーナーが一種の消息証明になるかもしれません、いや、本当に。もし何の告示もなしに2日間以上更新されなくなったら(時間の前後はありますが)、何かあったと思って下さい。

[移転準備は今(どこかで聞いたようなタイトル)]
 移転まであと1週間となりましたので、ぼつぼつ旧サーバー(今の場所)に表示する「移転しました」ファイルを作り始めました。今まで幾つか「移転しました」表示を見てきたのですが、ブラウザ1画面に収めるのが通例のようです。まあ、最低限新URLの表記とリンク、そして「ブックマークを変更してね」メッセージ(笑)があれば良くて、スクロールさせるほど書くことはないでしょうね。それに読み込みに待たされて内容が「移転しました」だと、散々待たせてこれかい、と不快に思わせることにもなります。
 かと言って文字列だけだとつまらない気がするので、シンプルかつ見栄えも良いという、私にとっては大変難しい仕様に少しでも近づけようと考えています。勿論、自動ジャンプも付けますよ。・・・何だか通販の売り文句みたいですね(^^;)。

 移転するのに併せて、第1写真グループの表示速度を改善します。今まで撮影した画像をそのまま縦横を圧縮して表示していたので、ものによっては1MB近い画像が読み込めるまで待たなければならなかったのですが、これにサムネールを使用して、撮影画像にはそこからリンクするようにします。
 新たに全ての画像にサムネールを用意するわけですから当然手間は増えるのですが、やはりこの方が親切でしょう。レイアウトも多少変更して見栄え良くしようと思います。
 智一は首を横に振りながら肩を竦めるジェスチャーをしてみせる。大袈裟な気もするが、智一がするとその風貌から意外と様になる。俺がやっても多分こうは行かない。
 だが、同時に少し胸にもやもやしたものを感じる。・・・俺より親しげに話せることが、そして何より井上を名前で呼べることが引っかかっているんだ。俺もそうすれば良いんだろう。でも、それにも引っかかるものを感じる。
 気さくに話したり名前で呼ぶのは、付き合っている間柄だけが出来るある種の特権だと俺は思っている。俺はまだ井上と付き合っているわけじゃないから−まだ井上の告白に返事をしていないんだから−、それが出来ない。智一も付き合ってはいないがそれが出来る。だから引っ掛かりを感じるんだろう。

 井上は手を振って小走りで文学部の方へ向かって行く。その手を振った相手は俺なんだろうか?・・・そんなことを考えてしまう。胸に生じたもやもやは向こうをはっきり見えなくするから、余計な疑念を生むんだろう。否、それより前に・・・疑う方に向かうことが癖になっているのかもしれない。

「さあて、俺達は帰るか。」
「・・・俺、今日は生協に寄って行く。」
「あ、そうか。じゃあ俺は先帰るわ。」

 智一はヒラヒラと手を振って帰って行く。俺は手を振り返してそのまま生協へ向かう。智一が何も聞かないのは、俺が井上を待って一緒に帰るつもりだということを察したからだろうか?俺と違って鋭い智一だから、多分そうだろう。それを思うとやっぱり今の井上との関係が後ろめたく感じる。
 何のことはない。俺も智一に負けじと−別に勝負事じゃないんだが−名前で呼んだりすれば良いわけだ。恐らく井上も驚きはしても嫌とは思わないだろう。だが、どちらかの告白を受け入れて両想いが確認できてから付き合い始めて、仲が深まってから名前で呼び合う、という形而上的なことに無意識に拘るのは、俺の頭が固い証拠だろうか?

 何時もながら込み合っている生協に入って、食料品売り場と並んで混雑する場所である雑誌コーナーの一角に陣取る。普段は買わないキーボード関係の雑誌を広げて、俺は井上を待つことにする・・・。

 何冊目かの雑誌を読んでいると、軽く突かれるような感触が背中に伝わる。振り向くと直ぐ後ろに井上が立っていた。

「・・・井上。」
「講義が終わったんで、約束どおり来ましたよ。」
「もう・・・そんな時間か。」

 時計を見ると確かに4コマ目の終了時間を過ぎている。暇潰しのつもりが時間を忘れるほど読みふけっていたらしい。

雨上がりの午後 第209回

written by Moonstone

「それじゃ、私は此処で・・・。」
「あれ?晶子ちゃんって今日はこれで終わりじゃないの?」
「今日は休講になった分の補講があるんですよ。」
「ふーん。よりによって週末前に押し込むなんて、気が利かないねえ。」

2000/5/24

 またしても居眠り。頭ではあれをやろう、これをやりたいと思っていても身体がついて来ないです(汗)。

[コミックスを揃えたいマンガ]
 昨日はちょいと(かなり?)愚痴めいたので、今日は雰囲気をがらりと変えてマンガのお話でも・・・。私の本棚と小さな物置には、政治経済関係の専門書やweb関係の書籍(CGIやPerl関係が多い)と共に大量のコミックスがひしめき合っています。最近はもう入りきらなくて、一部が机の上や枕元に溢れています(笑)。
 雑誌は外食のときに店で読むので1冊以外買っていませんが、何かの拍子にコミックスだけ買い揃えるんです。例えば「3×3EYES」は弟が借りていたコミックスを見て、「ああっ女神さまっ」は本屋で平積みになっているのを見て衝動買い(爆)、「名探偵コナン」はアニメで毛利蘭が気に入って(猛爆)・・・と、これがどうしても欲しいと思ったときに一気に10冊近くライブラリが増えるわけです。

 ここ2年ほどはこれまで買ってきたコミックスの続刊を買うくらいで、新しく欲しいと思うものがなかったのですが、「名探偵コナン」目当てに読むようになった「サンデー」の「SALAD DAYS」が久々にコミックス衝動買いをさせそうです(笑)。内容はと言うとオムニバスの恋愛話です。この手の話はむしろ嫌いな方なので(恋愛ものは元々苦手)読まないんですが、これは絵柄が気に入ったのと(やっぱりこれは重要)ちょっと切ない話が良いです♪先週分の話で見事にツボを突かれました(笑)。
 今日夕食で外に出たついでに(仕事が今日も長引くことになったので(汗))書店に立ち寄って探しました。棚に並んでいたので買おうかな〜と思ったのですが今日は止め。理由は単に何となく踏ん切りがつかなかっただけです。週末には多分机の上に積まれるでしょう。益々置き場所がなくなっていく・・・(汗)。
 ・・・いけない。また記憶に埋没するところだった。俺は井上から差し出されたその紙の切れ端をそっと取って、井上の書いたメッセージの下に返事を書いて再び自分のノートの隅の方に置く。そこにはこう書いた。

今日って、これで終わりじゃないのか?

 事務的というか無愛想というか、そんな俺の返事に井上は再び紙にさらさらとシャーペンを走らせて再び俺の方に差し出し、俺はさらに返事を書いて返すということを繰り返す。

前に休講になった分の補講が入ったんですよ。

じゃあ何処で待ち合わせる?

 縦に並んでいく俺と井上の字の違いが良く分かる。比べてみると、習字をやっておくべきだったかと少し後悔する。

私は何処でも良いんですけど、安藤さんは何処に居ます?

生協しかないから、そこで雑誌でも立ち読みして時間潰すつもり。

じゃあ、講義が終わったら生協に行きますね。

O.K.。もし居なかったら、入り口辺りで待っててくれ。トイレくらいしかないけど。

分かりました。

 井上の了承で手紙のやり取りに区切りがつくと同時に、講師の声が聞こえてきた。黒板を見ると、半分ほどが手紙のやり取りをする前と違っている。俺の意識は完全に講義から切り離されていた・・・。居眠りした時と同じようで何処か違う、そう、かつて経験したものと同じ、楽しみに自ら埋没した感覚だ・・・。
 黒板と照らし合わせながら書いていない部分をノートを取る。ふと隣を見ると、井上も紙の切れ端ではなくてノートにシャーペンを走らせている。「分かりました。」の返事で終わった俺と井上のやり取りを記した紙の切れ端をそっと手に取って、シャーペンの芯を補充するときくらいしか開けないペンケースの中蓋を開けてそこに仕舞う。

 やがて講義が終わり、俺は井上と智一と一緒に講義室を出る。智一は俺と同じくこの先講義はないから、普段なら此処で俺と井上は別行動になる。実のところ、まだ一緒に帰ったことはない。やっぱり、智一にちょっと遠慮しているというか、負い目があるのもある。

雨上がりの午後 第208回

written by Moonstone

 授業中に手紙のやり取りをしたのは、あの女、優子と同じクラスになった2年の時だ。同じ学年には俺と優子が付き合っていたことはとっくに知られていたから、席替えの時、最初に決まったときは離れても、ご丁寧にも直ぐ隣になるように「配慮」されたから、その1年は必ず席が隣り合っていた。
 それで授業中には時々先生の目を盗んで手紙をやり取りしていた。内容なんてそれこそ、帰りに買い物に付き合って、とか、今日は用事があるから先に帰る、とか他愛もないものだった。でも、それが楽しかった。あの時は・・・。

2000/5/23

[んがああああ・・・(鼾にあらず(爆))]
 あかん、仕事が多すぎる。一気にどかどかと仕事が増えたので、2つの現場を往復しながらの作業を基本に、電話(私用じゃないですよ(笑))に打ち合わせ、発注に図面作成で、気が付いた時には周囲に誰もいなかった、と(爆)。何なんでしょうね、この差は・・・。いえ、仕事の量と内容が客観的に見ても同僚より多くて濃いんですよ。でも、それで給料に差が出るわけでもないし・・・。ふぅ(溜息)。
 披露困憊の上に胸の痛みを抱えて(先週から再び悪化し始めた)帰宅すると、時々考えるわけです。手持ちの仕事が片付いたら、もう(今の職場を)辞めてしまおうかって。私は今の仕事は好きなのですが、こうも不公平だと真面目にやっていくのが馬鹿らしくなることがしばしばです。小さい頃から親に真面目に生きろと諭され、それを守ってきたら自分の時間は少なくなるわ、さらに体は壊すわと、損の方が多いような気がしてなりません。まあ、今は真面目が損をする社会ですけどね。

 でも、損をしていると分かっていても続けているのは、結局今の自分の生き方が好きだからなんでしょうね。頑固だと言われても、要領が悪いと言われても構いません。所詮価値観が違うんですしね。そうでなかったら、このページだってもっと一般受けするようなものにしてますよ(笑)。・・・そうするだけの美的センスがないということの方が大きいかもしれない(爆)。

「安藤さん。」

 横から俺を呼ぶ声がする。勿論それは井上だ。今じゃ井上が俺の隣に座るのも当然のことのようになっている。全く何がどうなるか分からないものだ。

「あ、井上。」
「はいはい、お若い二人のために今すぐ詰めるから、ちょっと待って頂戴ね。」
「智一・・・。お前な・・・。」

 コントか何かの老人を思わせるような濁声を出してそそくさと奥に一人分詰める智一を見て、俺は苦笑いする。井上もくすくすと笑っている。
 本気で入れ込んでいて、上手く行くと思っていたデートの途中で他の男、あろうことか自分が良く知る人物−俺のことだ−が気になるからと帰った相手なのに、智一は余所余所したり逆に再チャレンジさせろと執拗に迫るようなこともしない。病み上がりの翌日、まだ諦めたわけじゃないし、再挑戦する体制を整えると言っていたが、今までにそんな様子は一度も見たことがない。
 ・・・やっぱり、内心では諦めているんだろうか?思い込んだらとことん突っ走る井上を自分の方に向けるのは難しいと分かっているのかもしれない。だとしたら尚更、少なくとも表面上はこうして振舞える智一は俺よりずっと強いと思う。俺には絶対真似の出来ないことだ。

 暫くして講義が始まった。俺はノートを取りつつ暇を見つけては演奏する曲を頭の中で鳴らしてみたりする。短期間で形にしたものが結構あるし曲数も多いから、こうした暗唱を繰り返して記憶を確実にしておかないといけない。
 ふと右腕に軽く突かれるような感触を感じる。視線だけ右を向くと、井上が少しだけ俺の方に向けて、シャーペンの先で何かを指している。シャーペンの先を視線を動かして追うと、俺のノートの上にメモ用紙か何かの切れ端らしい紙があって、そこにはこう書かれてある。

今日、帰るの待っててくれませんか?

 授業中の手紙のやり取りなんて、高校の時以来だな・・・。

雨上がりの午後 第207回

written by Moonstone

 俺は午前中の専門科目2コマをやり過ごして3コマ目の法学の講義に赴く。勿論、智一も一緒だ。思えば井上は講義の一覧表で教養課程を調べて俺を探し出したんだったな・・・。あの時はそのストーカーまがいの執念深さに辟易したもんだが、今はすっかり演奏のパートナーに落ち着いちまったんだから、世の中どうなるか分からないってのは本当だと思う。

2000/5/22

[一転して五月晴れ]
 とはいえ、私は出歩く用事もなかったのであまり関係ないです(^^;)。洗濯物が干せたのは嬉しいですが(爆)。ひたすらPCに向かって移転準備を中心に作業の連続でした。バナー以外のGIFをJPGに置換する作業が広報紙の他、ファイル数では群を抜く第1創作グループと第1SSグループで残っていたので、一気に入れ替えました。もう疲れたの何のって(-o-;)。
 修正したファイルは現在のサーバーには転送しません。移転後の現在のサーバーは「引っ越しました」表示と自動ジャンプのファイルと一部イメージを残して一切合切消去するからです。あと2週間もない存在期間のためにファイルを転送するのも時間と電話料金が勿体無いと思いまして(笑)。
 で、案内状は未だ作ってません(汗)。「引っ越しました」表示ファイルもまだ作ってませんし・・・(大汗)。暫くバタバタする日が続きそうです。

[配役が違うと・・・]
 日曜の欠かせない日課である教育テレビの「CCさくら」(笑)。今回は学芸会の劇だったのですが、原作と違ってクラス担任が愛する歌帆でアニメ版オリジナルキャラの苺鈴がいるので、配役とかがどうなるのかと思ったら・・・

利佳=妖精の一人 山崎=王妃 苺鈴=悪い魔女

 ・・・利佳は別として大笑い。特に苺鈴の悪い魔女役ははまってましたね(笑)。あの笑い方はまさに悪い魔女でした。山崎は原作では悪い魔女役でしたが、何にしても女役ですかい(笑)。でも、良いキャラしてます。
 他の配役、特に王子(さくら)と姫(小狼)はやはりそのまま。キスシーン(台本が知りたい(爆))では苺鈴が悔し泣きして、桃矢は怒ってました(^^;)。何故この配役を変えんのだと思った方はBB知世にご期待ください(笑)。
 コンサートまで1週間たらずになった今日の朝もそうだ。目覚ましが鳴って目をさましたは良いが、外の冷気が壁を通して染み込んだような冷気を感じて、反射的に布団に潜ってしまう。

プルルルルル・・・

 そのまままどろんでいると電話のコール音が冷気を振るわせる。俺は手探りで上着を取ると、気合を入れて布団から出ると同時にそれを羽織って電話のあるテーブルへ向かう。放っておいても何時までも鳴っていたりする。出会って最初の頃の井上を思い出す。まあ、あの頃との印象とはぜんぜん違うが・・・。

「・・・はい、安藤です・・・。」
「おはようございます。井上ですよ。」

 遅刻常習犯にならずに済んでいるのは、このモーニングコールのお陰だ。俺がある日大学に遅刻しそうになったと話したら、早速翌日から始まった。俺と井上は朝始まる時間が違うことが多いが、俺の方が早くてもきっちり1時間前にこのコールが鳴り響く。眠そうな声が一度もないのは俺にとっては不思議だ。

「眠そうですね。また夜遅かったんですか?」
「ああ・・・。切りがつかなくてな。」
「体壊しちゃ駄目ですから、ちゃんと朝御飯食べて暖かくしてから大学へ行ってくださいね。」
「分かった・・・。ふぁ・・・。」
「私も2コマ目から行きますから、講義で寝てちゃ駄目ですよ。」
「寝てたら起こしてくれるか?」
「耳元で囁くのが良いですか?それとも・・・お目覚めのキス?」
「普通に揺すってくれれば良い。」
「ふふふ。寝てたらそうしますね。」

 そんな会話をしているうちに目も覚めてくる。布団から出るのが嫌だった冷気がひんやりと心地良く感じるようになっているのが不思議だ。それに・・・こんな軽口を叩けるようになった自分も不思議だ。
 会話を切り上げて電話を切ると、俺はパンをオーブンにセットしてポットの電源を入れてから手早く服を着替える。今日大学に行けばコンサート前の最後の週末が待っている。その週末は店に泊り込んで音合わせをすることになっている。それぞれのソロに加えて俺と井上、マスターと潤子さんのペア、俺とマスター、井上と潤子さん、そして4人勢ぞろいの演奏曲の仕上がりを最終チェックするためだと言うが・・・それだけとは思えない。

雨上がりの午後 第206回

written by Moonstone

 大学進学のためにこの街に単身住むようになって初めての年の終わりも近い。通学に使う駅の周辺も電飾とクリスマスツリー、そしてクリスマスソングで彩られる。もうクリスマスは12月の殆どを占めるイベント期間と言って良い。
 クリスマスが近付くに連れて、外の冷気も強さを増す。朝起きるのがどんどん辛くなってくる。店のクリスマスコンサートに向けた練習やアレンジのチェックで夜が遅くなって眠気が重なると、布団に包まっていたくなる。

2000/5/21

[サーバー移転前最後の定期更新です]
 その割には量が少ないですね・・・(汗)。結局今週は新規の創作が殆ど出来ずじまいの上、突貫工事でも間に合いそうになかったので、寂しいものになりました。筆の遅い私には、製作時間の大幅な減少は致命的です(T-T)。
 これ以後サーバー移転を行う5/31までは、移転前後のファイルの整合性を出来るだけ取りたいので、大きな更新(連載の更新とか)はしないつもりです。正確に言うと来週も帰宅が大幅に遅れるのが分かっているので、製作しようにも多分ろくに出来ないのです。早く何とかしないとねぇ・・・。

[天気が良くない、というこの日]
 金曜の夜から雨が降り始めて以来、断続的に降り続いています。前から気になっていたのですが、曇り空や雨といった晴れの日以外は天気予報とかで「生憎の・・・」「天気は良くない」と言いますよね。でも、そんなに雨は良くないんでしょうか?
 確かに外出する人だと傘を持っていかなきゃ駄目だったり、場合によっては中止にせざるをえなかったりします。風向きで雨が降り込むといけないから窓も迂闊に開けられないですし、何より洗濯物が干せないのは洗濯をする人にはイライラを募らせることもあります。ですが、雨が降らないと水不足だと騒ぐことになります。それが酷いと時に農作物に深刻な被害が生じますし、何より生活用水が不足したら只事ではなくなります(数年前ありましたよね)。
 雨も度が過ぎれば洪水や土砂崩れを引き起こしますが(近年のものは無節操なな土木工事による人災の方が多いです)、地上に生きるものに文字どおり「恵み」となる雨の日は決して「良くない」日じゃない、と思います。私にとっては外の騒音が減るので(車が少なくなるから)雨は嬉しい面もあります。
 負けられない、という闘志はヴォーカルでステージに立っている者としてのプライドと、切迫感から来たものなのか。プレッシャーも適度なら良いが、度を過ぎると本番で歌えなくなったりするかもしれない。

「負けたらどうなる、なんて思わない方が良い。間違ってもクビになったりしないから。」
「それは分かってるつもりですけど・・・。」
「そもそも音楽で勝負なんて考えないほうが良い。そういうもんじゃないから。目指すのは良いけど・・・。」

 ちょっと説教くさくなったかもしれない。だけど、今度するのはクリスマスイベントだからというわけじゃないにしても、練習の成果を披露するのはもとより客を楽しませることが第一だ。勝負事とかを絡めるとそれが疎かになりかねない。

「・・・俺さ、高校時代バンドやってたんだ。」
「え、そうなんですか?」
「ああ。勿論ギターやってたんだけど、ステージ演奏で何が一番難しいかっていったら、聞きにきてる客をどれだけ満足させるかってことなんだ。幾ら演奏が上手くても難しい曲を弾きこなしても、棒立ち無表情じゃ客はつまらないって思う。プロがライブでオーバーアクションみたいなことをしたり、喋りで笑わせたりするのもそういう意味があるからなんだ。」
「へえ・・・。」
「それにさ、客ってのは演奏している奴の感情とかがよく伝わるんだ。ほら、俺と井上がまともに口を利かなかった頃に、普通どおりやってるつもりでも客の反応がいまいち良くなかっただろ?」
「ええ。何かあったのか、って聞かれたりもしました。」
「人間の耳がどうなってるのかとか、感情が演奏に与える影響とかは分からないけど・・・、演奏する人間はまず自分が楽しんでないと客を楽しませるなんて出来ないし、それじゃコンサートに行くより家でCD聞いてた方が良いってことになっちゃうからな。」

 井上がプレッシャーで自滅したり、ましてや妙な劣等感を植え付けられて音楽が嫌になったら意味がない。音楽が嫌になったらバイトを止めることにも繋がるだろう。それだけは・・・嫌だ。

「・・・まあ、かく言う俺だって、あの時は自分の演奏がおかしいなんて思いはしなかったけどな。」
「でも凄く実感篭ってましたよ。ステージ経験が多い人ならではですね。」
「経験から言うならもう一つ・・・。コンサートみたいに連続で演奏するのは結構しんどいぞ。」
「実感篭ってますね。」

 俺と井上は顔を見合わせて笑う。これで井上のプレッシャーが少なくなれば良いんだが・・・。

雨上がりの午後 第205回

written by Moonstone

「潤子さんがそんなに気になるのか?」
「・・・ええ。あの弾き語りを見せられると、負けられないって・・・。」
「・・・。」
「私、ヴォーカルってことでリクエストしてもらって歌ってるんですよね。なのに今までピアノ専門でヴォーカルがなかった潤子さんが私より上手だってなると、じゃあ私は?ってことになるから・・・。」

2000/5/20

 すみません。断続的に寝たり起きたりをしてたら思いのほかずれ込みました。

[痛む痛む痛む(任意回数繰り返し&F.O.)]
 ここ数日鎮静化していたと思っていた胸部の痛みがまた悪化(泣)。昨日は予約診療の日だったのですが、これからまだ隔週くらいで病院通いが続きます。循環器で異常なしと思ったら次は消化器・・・。痛み始めてからもう2ヶ月になろうというのに原因が未だ不明と言うのは何とも(汗)。
 消化器に原因があるせいかどうかは知りませんが、ここ2,3か月くらいの間に食べる量がめっきり少なくなったのは確かです。以前はご飯も1回で2合(茶碗4杯くらい)は当たり前で、多いときは3合くらい食べていたのですが(米びつを食い荒らしてるみたいだ)、最近は1合半位がやっとです。・・・え?それだけ食べられりゃ大丈夫?・・・そうなんでしょうか・・・?(爆)

[寿命って・・・]
 形あるものはいつか壊れる・・・なとど言うと悟りを開いた人みたいですが(笑)、どんなものでも何れは寿命というものが来ます。譬え大事に使っていても、交換する部品が製造中止とか、そういう不可避の理由もありますからね。
 私は割と物持ちが良い方らしいです。MIDI(ああ、更新できない〜(泣))を作るシンセは数年前、学生時代に買ったものが殆どですし、シーケンサ専用に使っているPC(286マシン)は10年超えてますが、ディスクドライブを1度交換したくらいです。今デスクトップが占領してる机は父親の代からのものだから、数十年単位・・・(^^;)。これらは重くて図体もでかいものが多いですが、頑丈ですね。
 今、PCの寿命はどのくらいなんでしょう?内部のICそのものは普通に使っていれば10年以上優に使えるものなので、使用者の体感に拠るところが大きいのでしょうね。或いは一度早いマシンを使った時とか、ソフトや周辺機器の対応リストから外れた時が寿命なのかもしれません(笑)。単にシーケンサとかの制御で使ったりエディタ程度ならPentiumや486も十分使えるんですけど・・・。
 やがて湯が沸き、ポットに湯が注がれると共に濛々とした湯気と微かな芳しい匂いが台所に舞う。井上が赤褐色の液体が入ったポットと二人分のコップをトレイに乗せる。・・・ここで飲むんなら特にトレイに乗せなくても良い筈なのに?

「向こうでゆっくり飲みましょうよ。CDも渡しますから。」

 ・・・何となく・・・紅茶と今度の演奏曲を餌にされてるような気がしないでもないが・・・。井上が居ないとセキュリティが解けないから出られないし、俺の選択肢は一つしかないと言うことか。
 俺は小さく溜息を吐いて席を立つ。井上の両手が塞がっているから、俺がリングと此処を隔てるドアを開けてやる。ありがとう、と言って微かな笑みを浮かべる井上。こうして俺は巧みに罠に誘導されていくんだろうか・・・?

 井上は絨毯が敷かれた床にトレイを置いて、両膝を立てた姿勢で二つのカップに紅茶を注ぐ。俺が腰を下ろすと同時に再び立ち上がって、CDやオーディオのある棚のところへ行く。そんなに慌てなくても良いと思うが・・・。
 店でも聞いたあの曲が流れ始める。この歌手・・・名前はまだ覚えてないが、改めて聞くと声は細い方だ。井上の声質と割と似ているように思う。それにしてもこの歌詞も何だかかなり意味深に聞こえる。まあ、歌詞なんて大抵恋愛絡みだから必然的にそうなるのかもしれないが。

 井上が床に腰を下ろしてもう一つのカップを取る。二人で紅茶を飲みながらこういう歌を聴いていると・・・「THE GATES OF LOVE」が流れる中、井上が俺に気持ちを告げたことを思い出す。あの時井上は、気持ちが抑えきれなくなった、と言っていた。それもあるだろうが、井上は最悪の結果を恐れず、否、恐れていたかもしれないがそれを乗り越えた。
 一方の俺はと言うと、まだあのときの返事をしていない。井上に向いた気持ちが本当に「好きだ」という気持ちなのか分からないというのは嘘じゃない。だが・・・それが何時までも引き伸ばす理由になるとは思えない。単に・・・またあの夜の記憶が再現されるんじゃないか、と心の何処かで怯えながら付き合うのが嫌だから、なあなあの状態にしておこう、としているんじゃないか?

「・・・安藤さん・・・。」

 井上が話し掛けてきた。返事に関する自問自答は一先ず後回しにしよう。

「ん?何だ?」
「私・・・負けませんから。」
「?」
「潤子さんに負けないくらい・・・歌えるようになりますから。」

 井上の瞳に闘志が浮かんでいる。やっぱり潤子さんを意識してるのか。

雨上がりの午後 第204回

written by Moonstone

 頑丈なセキュリティの向こうにある井上の家。久しぶりに足を踏み入れたように思うその空間は、相変わらずきっちり整理と掃除が行き届いている。これで自分の家に帰ると、恐らく別世界に来たような錯覚を覚えるだろう。
 井上は上がって直ぐに暖房のスイッチを入れて、コートを脱いで台所へ向かう。俺は少々戸惑ったが、暖房が行き届くまでコートを着たまま椅子に座る。湯が沸くまでの間、井上はポットに紅茶の葉を入れて二人分のカップを用意する。この光景も久しく見ていないような気がする。

2000/5/19

[あと半月でお引越し・・・]
 また大幅にずれ込んでの更新です。今日は病院へ行くんですが朝が早いので先に寝られるだけ寝ておこうと思いまして。でも断続的に寝たり目覚めたりを繰り返したので(2時間ほどで勝手に目が覚めてしまう)、あまり寝た気がしません。

ご来場者44000人突破です!(歓喜)

 ・・・昨日更新を終えて寝る直前(明け方・・・(汗))に見てみたら突破してました。サーバー移転までに45000人いけるかな?と淡い期待を抱いています。間近に迫った移転企画を現在考案中なんですが、一度応募者全員(ただしメールアドレス必須)にプレゼントなんてやってみたいなぁ、と。移転先はCGIが自由に使えるのでそれを生かして、このページにどんな印象を持っているのか、どのグループをよく見ているのか、とかアンケートを取って、そのお礼として応募者全員に違うものを差し上げるというのが大凡の企画です(プレゼントが何かはまだ秘密)。
 だとすると相当な数の素材を用意する必要があるんじゃ・・・とご心配かもしれませんが、以前第1SSグループでキリ番企画をして大失敗(応募者数5人以下(爆))した経験があるので、それほど用意する必要はないかな、と踏んでいます。・・・めちゃ複雑な気分(^^;)。実施してもあまりにも応募者が少なかったらアンケートの意味がないので、失敗の経験と現状を考えるとやらない方が賢明かもしれません。

[最近好きなもの♪]
 とはいっても観月歌帆や織機綺、毛利蘭とは違います(爆)。だって「最近」じゃなくて「前から」ですので(猛爆)。・・・さて(^^;)、その好きなものというのは・・・石鹸です。ちょっと水で湿らせてから軽く擦ると泡が出てくる、何の変哲もないあの石鹸です。最初はポンプ式のものを切らしたので次に買出しに行くまでの「繋ぎ」として使い始めたのですが、今は買出しに行くなら石鹸と決めているくらいです。
 別にエコロジーに目覚めたとかそういうのではなくて(押し付けがましいからむしろ拒絶反応すらある)、匂いが気に入ったからです。手洗いに使ってふと匂いを嗅いで見ると、何だか落ち着くんですよ。学校とかにあるような緑色の液体石鹸(?)であまり良い印象がないかもしれませんが(笑)、一度使ってみては如何でしょうか?

雨上がりの午後 第203回

written by Moonstone

 俺にとっては初めての試みとなる「Secret to my heart」の演奏とアレンジ担当が決まってから暫く、マスターが出した演奏候補のメモを見ながら、どれを演奏するかを話し合った。席上、井上が「THE GATES OF LOVE」を歌うと発表すると、マスターが聞いてみたいと言い出したので、潤子さんと同じように1コーラスだけ披露した。マスターと潤子さんの反応は上々で、その場でリストに加わった。
 コンサートまでは3週間あるかないかというところだから、かなり急な話ではある。普段演奏しているような曲は別として、「Secret to my heart」や定番のクリスマスソングみたいに初めて演奏する曲は、イントロ何小節の次にAメロとかいうように流れだけ決めておく程度で、殆ど即興に近くなるだろう。何時ものようにアレンジして譜面をメモ程度にでも書いて練習して、なんてやってる時間的余裕はない。

 こういう演奏スタイルはジャズでは珍しくない。むしろ即興でどれだけ出来るかで腕が分かるというようなところもあるくらいだ。だが、普段は大抵ソロだから何と言うか・・・阿吽の呼吸というものが出来るかどうか分からない。何せ4人のセッションなんてものもあるくらいだ。
 その曲が「COME AND GO WITH ME」だというんだから、もう笑うしかない。知っている曲だからやりやすいといえばそうなんだが、偶然というやつは恐ろしい。ちなみに俺のギター、マスターのサックス、潤子さんのピアノに井上のヴォーカルという編成だ。

「CD貸しますから、私の家に寄っていって下さいね。」

 井上にそう言われた俺は、時折寒風が吹きぬける夜道を井上と並んで歩く。前より−と言っても数日前だが−間隔はかなり近い。半ば密着している。単に寒いから無意識に、というわけではないんだろう、やっぱり・・・。
 俺は井上が住むマンションの前にやってきた。例の一件で井上と諍いを起こして以来立ち寄っていなかったから、1週間ぶり、いや、それ以上か。

「温かい紅茶、入れますね。」

 セキュリティを解除するために手袋を取りながら井上が言う。こんな寒い夜は・・・温かい飲み物が無性に恋しく思う。

2000/5/18

[しんどいのでございますぅ]
 また本業が立てこんできて、1日の半分以上職場に居る日が続いています(汗)。それも今回は肉体労働が多いんです。電源経路をパネルに配置する拝殿作業なのですが、重くて固いケーブルを捻り(中身は金属)、工具を使い(かなり力が必要)、道具を取りに階段と廊下を何度も走り回っています。アスレチックじゃあるまいし(笑)。
 そのせいか、寝つきの悪い私も割とすんなり寝られます。もっとも目覚ましがなくても本来より1時間以上早く勝手に目が覚めるのが難点です。一度8時間以上ぶっ通しで寝てみたいものです。さらに問題なのは、このお話をして連載をしたためると創作の時間が僅かしかないということです。今度の日曜日は大丈夫なのか?(大汗)。ちなみに病状は割と落ち着いていますが昨日(5/17)はたまに痛みました。

[で、睡魔に負けて・・・]
 今日の更新準備をしている途中でふと横になったら何時の間にか2時を超えてまして(汗)、それから更新準備を続けましたが結局、大幅にずれ込んでしまいました。先にお話した事情があって暫く更新時間が不規則になりますが、余程の事がない限りは(倒れたりとか・・・考えたくないけど)更新しますので、この日替わりメニューをご賞味くださいませ。

「この曲はリズム楽器が主体みたいな感じだから、ソロ用にアレンジするのはちょっと難しかったわ。」
「潤子さん・・・演奏もするんですか?」
「必要ならね。」
「俺は二人並んでステージの正面で歌うのが良いかな、と思ってるんだがな。井上さんはどう思う?」

 マスターが話を振ると、井上はうんと考え込む。ヴォーカル専門の自分を凌駕しているかもしれない潤子さんの歌声と比較されるのは、やはり内心では嫌なのかもしれない。俺としても、まだヴォーカルを始めて日が浅い井上に余計なプレッシャーはかけないほうが良いと思うが・・・。

「・・・前で並んで歌う方が良いと思います。」

 暫くの思案の末に出た井上の答えは、潤子さんとより比較されることを−歌は勿論、見た目も−選択するものだった。席の位置関係から丁度俺の方を向く感じになった井上の顔は真剣そのものだ。闘志に溢れているというか・・・そんな雰囲気すらある。

「そうか。だとすると・・・演奏は必然的に祐司君になるな。」
「・・・やっぱり?」
「サックスが入る余地はなさそうだしな。アレンジはさっき潤子が言ったけどリズムがないとちょっと辛いかもしれない。ギターだと尚更な。」
「シーケンサ使います?」
「そうだな。急で悪いが、頭と終わり8小節くらいずつギターとリズムのアレンジをラフで良いからやってみてくれないか?後の流れは原曲と同じ感じで良いよ。リズムはこっちで作っておくから。」
「分かりました。じゃあ俺持ってないんでCDを・・・。」
「私が貸しますよ。シングル持ってますから。」
「じゃあ決まりだな。井上さんと潤子は暫く歌の練習、俺と祐司君で演奏とアレンジの準備ということでよろしく。」

 話は呆気ないくらい簡単に纏まった。演奏とアレンジを任された以上、好きだ嫌いだと言ってられない。偏食気味の俺にはアレンジの幅を広げるいい機会かもしれないし。早速今晩から始めるか・・・。井上からCDを借りて。

雨上がりの午後 第202回

written by Moonstone

 「お試し」のためか潤子さんの演奏は1コーラスで終わる。高音部を使ったアルペジオで締めくくられると、俺と井上は思わず手を叩く。勝手に手が動くと言っても良い。それだけのものを今確かに聞いた。
 潤子さんはマイクをステージ中央のマイクスタンドに戻して、鍵盤の蓋を閉めてから戻って来る。何時もの様子と何ら変わりないが、逆にそれが自信の表れなのかもしれない。本当に上手い人間ほど自分の能力を誇示したりしないものだ。

2000/5/17

[何故この曲か?]
 昨日200回目を迎えた連載で倉木舞衣(これで良かったかな?(汗))の「Secret to my heart」がいきなり登場しました。私は普段ポップスとか所謂「メジャー」なジャンルはそっぽを向くのですが、ごく稀に耳に馴染む曲があります。何故これかというと、アニメ「名探偵コナン」のエンディングテーマとして流れていて、ヒロインの毛利蘭が歌詞に合わせて歌うシーンがお気に入りだからです(爆)。
 いやあ、あのシーンは切なげで良いですわぁ〜。そう言えば「願い事一つだけ」も、毛利蘭が傘を差し出されて振り返るシーンが気に入ったんだっけ(爆)。ええ、個人的そのものの理由です。観月歌帆(CCさくら)に織機綺(ブギーポップ)、毛利蘭。私がその漫画や小説にのめり込むのは女性キャラで好みのタイプが居るかどうかといって良いかも(^^;)。じゃあ誰が一番?・・・そんな難しいこと聞かないで下さいな(猛爆)。敢えて選ぶと、歳が近いから観月歌帆かな?

[少年犯罪とゲーム(その7)]
 いきなり話が変わりますが(汗)、「大人」がゲームやアニメなどをことあるごとに目の敵にするのは、自分達の求める理想像を阻害する要因であると見なしているからです。要は自分達の価値観にそぐわないから認めないし、それを排撃しようとするわけです。人それぞれ価値観がありますから当然そぐわないものもあるでしょう。私にも勿論あります。しかし、自分の価値観を「大人」という立場を利用して事実上強要し(教育というやつが主です)、その邪魔になるものは排撃しようとするなど、横暴以外の何物でもありません。

 では・・・彼ら「大人」が嫌うゲームやアニメなどとは恐らく無縁で育った「理想の若者」が、一体社会で何をしているか?特権の濫用、税金の浪費、競争を語っての弱者の切り捨て・・・。そう、まさに「大人」の理想である「これまで自分達が築いてきたもの」である社会のシステムや体制を維持、強化しているのです。警察や政治家の不祥事、リストラという名目での首切り、作ることが目的の道路やダムは、それらの産物であって、新聞やテレビが多少批判はしても結局現状維持に努めるのは、マスコミもまた「大人」の道具だからです。
 今、少年犯罪が激増しているのも、有り余る情報で人生論を説く「大人」が何をしているか、そしてそれらが「やり得」になっている現状を知っている、言い換えれば「大人」の言うことすることなど既に見透かされていることが要因の一つです。それを改善せずに「健全な育成」などおこがましいということに気付かない限り、幾ら少年犯罪を嘆いたところで、それを厳罰にしたところでなくなりはしませんし、じゃあ大人は何をやっている?と思われて溝が深まるだけでしょう。分かりますか?コメンテーター並びに評論家諸氏。

雨上がりの午後 第201回

written by Moonstone

 潤子さんと井上のデュエット・・・。この店の「顔」でもある2人が組むとなれば少なくとも注目度は高いことこの上ない。だが、潤子さんは専らピアノで歌ったことを見たことはない。楽器が出来ることと歌が歌えることはまた別物だ。その辺は大丈夫なんだろうか?でも、音痴な潤子さんは出来れば想像したくない。

「潤子さん・・・。その・・・こんなこと聞くのは何ですけど・・・。」
「歌ならそれなりに歌えるつもりよ。何なら聞いてみる?」

 俺の遠慮がちな問いを遮って潤子さんがそう言って席を立つ。流れていた『Secret to my heart』をフェードアウトさせると、オーディオのデッキの隣にある照明装置を操作して、既に落ちた客席の照明を少しだけ戻し、ステージの照明は最大にする。口でとうとうと語るより歌そのもので証明しようというわけか。
 俺が初めて潤子さんの演奏を聞いたときを思い出す。それまでキッチンで料理を作ったり客席まで運んだりするのが専門のようだった潤子さんが、俺がバイトを始めて最初の日曜日にリクエストで指名されたとき、内心その腕を疑ったし、盛んな声援も外見の良さ故のアイドル向けのものかと思ってさえいた。だが、そのピアノの演奏を聞かされただけでその腕に敬服するしかなくなったし、天は二物を与えず、なんて大嘘だと思ったものだ。

「弾き語り用にアレンジしてみたから、それを聞いてもらうわね。」

 潤子さんはエプロンを取って椅子にかけると、余裕の表情でステージへ向かう。潤子さんの歌声がどんなものか・・・。俺は身体ごとステージの方を向く。ペアを組むことになりそうな井上もやはり興味があるのか、ステージの方を向いている。
 潤子さんは自分でマイクをピアノに設営して椅子に腰掛ける。3人だけの観客の注目の中、潤子さんのピアノが朗々と響き始める。クイ(和音のこと。楽譜で杭に見えるため)とアルペジオが混在するフレーズが少しの間流れた後、潤子さんがマイクに声を投げかける・・・。

 ・・・上手い。やはりというか、聞いてみるかと持ちかけるだけの自信を裏付けるに十分な歌声だ。ピアノの音と主導権を争わず、巧みに調和して一つのフレーズを形作っている。弾き語りは口と手を同時に動かしてシンクロさせなきゃならないからかなり難しいのに・・・。今までヴォーカルを披露しなかったのが不思議にすら思える。

2000/5/16

 今日は居眠りして更新が遅くなりました(汗)。久しぶりに肉体労働の連続でしたからねぇ・・・。では今日のお話を始めましょう。

[足掛け約7ヶ月で200回!]
 今まで普通の日記でもこんなに長持ちしたことはないのに(爆)。それは兎も角、リスナーの皆様にはただただ感謝です。継続は力なり、といいますが、ほぼ毎日蓄積されていくこのコーナーのログ(コピー&ペーストですが)と連載の原本は相当な量になっています。たまに読み返してみると、このときこんなことがあったんだな、とか、妙なこと話してるなぁ、と結構楽しいものです。
 安藤君と井上さんの二人の関係もようやく当初銘打った「恋愛もの」らしくなってきました(笑)。これから先、特に安藤君が前の彼女へのわだかまりをどうするか、井上さんへどんな返事をするのか(爆)、毎日続く一握の文章にご注目ください。

[少年犯罪とゲーム(その6)]
 番号が一部重複してました(爆)。さて、昨日は何故コメンテーターや評論家の「ゲームが悪い」という主張がもてはやされるのか、そしてその背後には「大人」の需要があるとお話しましたが、ここでいう「大人」とは主に親や教師といった、少年を監督、指導する(あまり好きな単語じゃないんですが)機会が毎日のようにある立場の人や、企業や団体の上層部や人事関係の人を指す単語です。単語の範囲を明確に、と前にお話しましたので前もって定義しておきます。
 で、この「大人」というものが求める若者像は「自分達「大人」の言うことに忠実に従い、勉強とスポーツに邁進し、やがて自分達が築いたものを引き継いでいくことにと努める」というものです。ゲームやアニメ、漫画などは勿論、音楽や小説も「教育委員会推薦」のようなごく一部のものを除いては、それらを楽しむことは(携わるなど論外という極端な見方もある)彼ら「大人」が求める若者像を阻害する要因と見なされるわけです。何故ならそれらによって勉強やスポーツの時間が必然的に減少するからです。
 気が付けばもう12月。クリスマスなんてものが迫って来ている。「仕事の後の一杯」の席上でもそのことが話題に上る。もっともディナーがどうとかいう話ではない。

「−で、24,25日と連続でクリスマス・コンサートをやってるんだ。」

 マスターが持ち出したのはこの店で催す企画だ。客の前で店の関係者が演奏を披露するこの店ならではの企画かもしれない。何だか高校時代の学園祭を思い出す。

「今年は君達二人が居ることだし、もっと盛大に出来ると思うんだ。」
「セッションもするんですか?」
「勿論。普段はあまりないから多めにしようと思う。4人居るから組み合わせもいろいろ出来るし、4人全員というのも面白いだろうな。」
「4人で・・・ですか。」
「それに曲も普段やってるジャンルの他に、お馴染みのクリスマスソングやポップスなんかも加えたいから、こちらで候補を幾つか選んでおいたよ。」

 マスターが差し出したメモには、「ジングルベル」とか「赤鼻のトナカイ」とか定番中の定番といえるタイトルに混じって、見覚えのないタイトルも幾つかある。

「・・・あ、『Secret to my heart』もありますね。」

 横から見ていた井上が挙げたタイトルは俺が知らない曲だ。井上はジャズ・フュージョン関係しか聞かない俺と違って、いろいろなジャンルに手を伸ばしている。実際、井上の家には俺が目もくれないようなジャンルのCDもかなりある。

「おっ、井上さんは知ってるのか。これは今回の目玉の一つにしたくてね。」
「どんな曲なんですか?俺、知らないんですけど・・・。」
「ラジオでもよく流れてるわよ。聞いてみる?」

 潤子さんが席を立ってカウンターの奥にあるデッキを操作する。それまでBGMとして流れていた「RACHAEL」がフェードアウトして−潤子さんのボリューム操作によるものだ−、何だか安っぽいリズムの音色が聞こえてくる。
 ・・・R&Bなどと今の流行りとしてもてはやされているジャンルだ。CDが何枚売れたかが即優劣となるこういった「多数派」のジャンルは、音楽を単なる大量生産の商品にしているようで虫が好かない。

「俺も滅多にこの手の曲は聞かないんだが、妙に耳に残ったから今回候補に加えたんだ。たまには良いだろ。」
「うーん・・・。」
「乗り気じゃないみたいだが、これを井上さんと潤子のデュエットですると面白そうじゃないか?」

雨上がりの午後 第200回

written by Moonstone

 病気明けのバイトも無事終わった。久しぶりに会うような気さえした常連から、具合はどうか、とかもう大丈夫なのか、とか気遣ってもらえたのは嬉しい。土日連続して休んだせいか多少今までより疲れを多く感じたが、これまた久しぶりに感じる「仕事の後の一杯」でかぐわしいコーヒーの香りと味を吸い込むと、熟成して心地良い充実感になっていく。

2000/5/15

[久々ののんびり週末]
 帰省していたときも何かとばたばたして「のんびりと」というわけにはいかなかったのですが、こちらに戻って来て最初の週末だった土日は特別な用事もなく、買出しに一度出ただけで体を休めていました。1週間後に迫った次回定期更新に向けた準備の方は・・・まあ、それなりに進めました(^^;)。病状が割と落ち着いていたのは気分的にも良いです♪
 先週見れなかった「CCさくら」もきっちり見れました(笑)。我が愛しの歌帆が多く出てくるのは嬉しいです〜(*^^*)。原作より増したミステリアスな雰囲気が尚良し♪小狼が警戒するのは未だ解せません(爆)。

[少年犯罪とゲーム(その4)]
 お話の続きですが、バーチャルを生み、少年犯罪を呼び起こしている原因はゲーム、運動不足やコミュニケーションの希薄さの原因はゲーム・・・と、何かセンセーショナルな事件が起こるたびに、ゲームやアニメ、漫画といったものが槍玉に挙げられますよね。そしてこの次にはこれらを規制しろ、と来るわけです。
 しかし、前回でバーチャルを形成するのはゲームばかりではないこと、バーチャルがなければ芸術は成立し得ないことをお話したとおり、ゲームなどは要因の一つに過ぎません。コメンテーターや評論家がまず取り上げない映画(特にアメリカ映画)など、銃の乱射、殺人、謀略、死体、猟奇、と何でもあり、「健全な育成」に良くないという描写のオンパレードです。

 何故映画はOKでゲームは問題視されるのか?答えは簡単。コメンテーターや評論家は映画は見たことはあってもゲームはやったことがない、或いは否定する立場にあるからです。要するに、自分が未経験或いは否定するものは悪と考えているのです。彼らは自分の個人的嗜好を、電波や紙面を通じて表明できる特権を利用して、さも正論のように主張しているに過ぎないのです。
 では、何故彼らの主張がもてはやされるのか?それは彼ら自身もそうである「大人」の需要に関係がありますが、これは次回からお話します。

「体験談って言っても・・・私、ああいうことに慣れてないからなかなか大変で・・・。本当は夜通し起きてるつもりだったんですけど結局、安藤さんに続いて直ぐに私も寝ちゃいました。自分がやるって決めたんだからもっと頑張らないと駄目ですよね。」

 マスターと潤子さんが一瞬固まる。・・・何だか妙な言い回しというか・・・色々な解釈が出来る言い方じゃないか?そう思っているとマスターが神妙な面持ちで俺の肩にぽんと手を置く。

「意外と・・・手が早いんだな。」
「?!」
「まあ、井上さんが来て嬉しい気持ちは分かるが・・・、病気のときは多少控えめにした方が良いと思うぞ。」

 妙な意味に取られてしまった。違う!手に頬擦りとかはしたがそれ以上はしてないぞ!否定しようとするが声が喉に痞えて出てこない。首を横に振るのが精一杯だ。

「祐司君・・・。本当に病気だったの?」
「ね、熱出してたのは潤子さんも知ってるでしょ?!」
「それはそうだけど・・・。」
「誤解しないで下さいよ!本当に2日間熱出して寝込んでたんですから!」

 潤子さんは怪訝そうな顔をしている。病気にかこつけて井上をベッドに連れ込んだんじゃないかと思われてるようだ。ここは何としても否定しておかないと・・・。

「・・・私・・・何か妙なこと言いましたっけ?」

 当の井上は、どうしてマスターと潤子さんがこんな反応を示すのか理解できないらしく、頻りに首を傾げている。マスターは一転して感慨深げに何度も頷きながら井上に向き直る。

「いやいや、君と祐司君との仲が進んで良かったよ。雨振って地固まる、ってところだな。一時はどうなることかと思ったけど・・・。」
「マ、マスター!だから・・・」
「少なくとも、お互いの気持ちが向いている方向は分かったんじゃないか?」
「ええ、そうですね。」
「・・・。」
「君達はリクエスト演奏のパートナー同士でもあるんだから、意思の疎通は大切にした方が良いぞ。」

 それはそうだ。警戒して遠目から様子を伺うだけで、今の気持ちを吐露したり真意を問うことは殆どなかった。それ故に余計な諍いを招いてしまった。以心伝心を期待するより前に、言葉にすることが大事なんだと分かった。そして井上の存在の大きさも・・・。
 雨上がりの後には太陽が照らし、泥濘を固める。俺の行く先雨ばかりだと思っていたが、案外そうでもないらしい・・・。

雨上がりの午後 第199回

written by Moonstone

「看病してた時のことですか?」
「そうそう。何かと大変だっただろうからその体験談を聞いてみたくてね。」

 本音が出たな。別に疚しいことは無かった筈だから知られても。・・・ま、まあ、手に頬擦りしたりとかはしたけど・・・。あ、頬擦りも一回したな、そう言えば。まさか・・・そういうことは言わないだろうな?

2000/5/14

[トップページでお知らせしたとおり・・・]
 6/1からサーバーを移転します。こちらでは先行して総代ページ(Moonstone Studio)のURLを掲載しましたが、約2週間前だしそろそろええか(笑)、と思ってトップページで告示しました。5/31のシャットダウンは、引越しの残りと調整のためです。これで当分は、あと何MBで容量がぁ・・・、とアップロードの度に冷や汗を流すこともなくなります(笑)。
 移転先のURLは引越しと移転先の調整が完了した時点で表示しますが、自動ジャンプできるようにしておきます。ブックマークの変更をお願いしますね。あと問題は相互リンク先への案内状。相当数あるからぼちぼち準備しないと・・・。

[少年事件とゲーム(その3)]
 昨日の続きです。「少年犯罪はリセットボタンを押すような感覚」とよく言われますが、これは明らかにゲームを意識した発言です。まあ、「バーチャルはゲームによって形成される意識」という定義に基づいていれば当然でしょうが。
 で、「リセットボタンを押すような感覚で」犯罪をすると言いますが、やり直しのことを考えられるようなら、最初からしないでしょう。犯罪に走る時点でその人物は既に大抵の人間が行える思考や判断が出来なくなっています。衝動的だろうが計画的だろうがこれは同じことで、単にその場で突発的に犯罪への衝動が起こるかどうかという違いしかありません。
 今回マスコミを賑わせている二つの事件で、犯人の供述からはスイッチ一つでやり直そうという感覚など無くて、犯罪を起こした動機が単純な殺意(あいつが憎いから殺してやろうというような気持ち)ではないということが分かります。

少年犯罪がゲームによるものだという定義の誤りをこれまで述べてきました。以降は何故ゲームが度々槍玉に挙げられるのかをお話していきます。

「こんにちは。」
「おっ、よく忘れずに来れたな。」

 正面に居たマスターが言う。多少億劫には感じるが忘れるわけはない。生活がかかってるのもあるし、昨日井上と約束したんだから。明日からはバイトに行くからって・・・。

「あら、祐司君。もう具合は良いの?」
「ええ。もうすっかり良くなりました。」

 潤子さんが客席の方からやって来た。ドアを開けていきなり目に入るマスター、その後でトレイを抱えて来る潤子さん。この出迎えも何だか随分久しぶりのように思える。

「晶子ちゃんはもう来てるわよ。今準備中。」
「あ、そうですか。」
「おいおい〜、折角土日で良い関係になったのに、ちょっと無愛想すぎるんじゃないか?」
「べ、別にそんな・・・。」
「ん〜?じゃあその辺の詳細は相方から伺いますかね。」

 復帰早々これか・・・。まあ、井上がデート先から俺がどうしてるかと電話をしたり、看病のためとはいえ2日連続で泊り込んだりしてるから、何かあったと勘繰られるのは当然といえば当然か。
 井上が奥から出てきた。髪を纏めて紺のリボンで束ね、ベージュのエプロンを着けている。俺の顔を見て安心したように微笑んでカウンターを出てくる。

「安藤さん。具合悪くないですか?」
「ああ、もう大丈夫。」
「じゃあ井上さん。早速なんだが・・・2晩の泊り込み看病はどうだった?」
「マスター!」
「やっぱり店の責任者として、バイトしている君達の生活状況を知っておくべきなんじゃないかなと思ってね。」

 嘘ばっかり。要するに2晩過ごした間に何があったか期待たっぷりに聞こうとしているだけだ。マスターは兎も角、潤子さんも聞きたそうな表情なのはちょっと意外だ。こういう話に興味があるのは珍しいことじゃないってことか。

雨上がりの午後 第198回

written by Moonstone

 翌日の夕方、俺は4日ぶりのバイトに向かう。身体はすっかり元通りになったが休みが長かった分ちょっとした違和感を感じる。まあ、軽いサボり癖のようなもので、夏休み明けに学校へ行くのが億劫に感じるのと同じ感覚だ。
 ドアを開けるとカランカランと軽やかなカウベルの音が響く。この音を聞くとバイトに来たんだな、という実感が沸いてくるのは不思議だ。条件反射みたいなものかもしれないが。

2000/5/13

 更新準備をしようとPC(新しい方)を立ち上げたら、WindowsがSafeModeで起動しました(爆)。昨日話したこと、聞いとらんかったんかい!(怒)・・・って、無理な話か(溜息)。じゃあ、お話を始めましょう。まずは懸案(?)の病状から。

[不安は一つ消えて・・・]
 恒例と化しつつある病院通い。昨日5/12は先に撮影したCTスキャンの結果を踏まえての診察でした。医者曰く「循環器の方面では異常ないですね」ということでちょっと安心(-o-)。何せ心臓は生命に直結しますからね。
 可能性としては食道(痙攣か胃酸による潰瘍)か神経症だろうということです。まだ少し通院生活は続きそうですが、一つの不安が消えたのは嬉しいことです。ただ、治癒するまでは痛みを抱えていかなければならないということには変わりありません。実際、今でも痛いんですよね・・・。

[少年犯罪とゲーム(その3)]
 1日間が空きましたが、話を続けます。その2では「バーチャルとは何を指す言葉か」ということを取り上げて、議論の対象であるある単語の指し示す内容を共通認識にすることの重要性をお話しました。で、「バーチャル」が何を指すかということなんですが、コメンテーターや評論家の主張から推測するにバーチャルは仮想世界を指す単語で、それを形成する大きな要因はゲームであると言いたいようですので、以降のお話はこの定義に基づいて続けるとしましょう。
 結論から言うと、バーチャルが人々の意識に形成されるのはゲームが原因だという主張は誤りです。バーチャルはゲームだけではなくて、映画や小説、絵画、演劇、オペラ、果ては宗教全般から形成されるもので、同時にそれらはバーチャルがないと成立し得ないものです。これらを現実世界で実行したら、場合によっては街中が戦場になったりしますよね(笑)。ゲームがバーチャルを形成しているのではなく、ゲームがバーチャルを形成する要因としてごく最近加わっただけのことです。
 で、コメンテーターや評論家が言うように「バーチャル世代はリセットボタンを押せば全てがチャラになる感覚だ」とか言いますが、これまた誤りです。次はこの点についてお話します。

「やっぱり安藤さんって真面目なんですね。」
「こういうの・・・真面目って言うのか?」
「だって、自分の気持ちがどうかってことをあんなに考えてるじゃないですか。凄く真面目って証拠ですよ。」
「・・・そうかな?」
「ええ。」

 井上は何処となく嬉しそうだ。どうやら前の二の舞は避けられたらしい。譬え誤解されたとしても、あれだけは御免だ。

「今日のところは帰りますね。」
「・・・今日のところは、って・・・。」
「何か考えてます?」
「そ、それは井上の方だろ。」

 井上はわざわざ腰を曲げて上目遣いに、あの悪戯っぽい笑みを俺に向ける。どうもこの顔は苦手だ。黙っていると何もかも秘めた気持ちを引っ張り出してしまいそうな気がする。
 コートの袖から伝わっていた引っ張り感が、軽い圧迫感に変わる。見ると、井上が俺の腕を抱え込むように腕を回している。当然だが、これまでより密着度は大幅に増す。二人分の衣服の厚みを通して、心拍数を早める柔らかい感触が微かに伝わってくる。意識を向けないとよく分からないような程度だから、余計に気にしてしまう。

「もう一歩ですね?」
「・・・多分。」

 俺は言葉を濁す。実際には多分、ではなくてもっと近い状態、もう一歩じゃなくて限りなく近いような気がする。もしかしたら、今この場で口にするだけの勇気がないか心の準備が出来ていないかのどちらかでしかないのかもしれない。
 井上とのこの関係は、今回の経緯を辿る中で、俺にとってなくてはならないものになったと思う。だが、俺が井上の告白に返事をしたとき、その内容に関わらず、この関係が変質するのは間違いないだろう。それが・・・怖い。
 より密接な関係を選択すれば今度は、あの夜の記憶が再現されるんじゃないか、と心の何処かに不安を抱き続けなければならないかもしれない。それならいっそ、このままで居たい・・・。俺が今この場で好きだと言えないのは、そんな気持ちがあるせいだろう。

やっぱり・・・あの記憶に決着を付けなきゃ駄目みたいだな・・・。
まだ・・・好きだとは言えない。整理が出来るまでもう少し待ってくれ・・・。

 その呟きは俺の心の内だけに浮かび、そして消える。12月の寒空に俺と井上の吐息が白く舞い上がり、やがて霧散する・・・。

雨上がりの午後 第197回

written by Moonstone

「そういう気持ちで言ってくれるなら・・・嬉しいです。」

 井上の声に明るさが戻る。俺が向けた視線の先には、あの心落ち着く柔らかい微笑が浮かんでいる。

2000/5/12

 昨日からのお話はちょっと一休み。先にお話したいことが幾つかあるので。

[まずはこれから・・・]

ご来場者43000人突破です!(歓喜)

 ・・・話に夢中でうっかりしてました(汗)。シャットダウン中に42000人を突破していましたが、定期更新後に確認のためにアクセスしたら43000人目前でしたので(あと50を切ってました)、敢えて表記せずに居たらそのまま(^^;)。シャットダウン中はまったく更新がないばかりか、掲示板は使用不能、メールのレスはない、という完全な一方通行状態でしたが、そんな中でもご来場頂いた皆様には感謝、感謝です(_ _)。
 ご覧のとおり、芸術創造センターは画力不足(欠乏か?)と製作の遅さがあって、キリ番で何かプレゼントというのが難しい状況です(以前お約束したものすらまだ出来ていない(大汗))。でも、報告いただいてお名前だけ掲載、というのも何ですので、公開していない写真を差し上げるとか、リクエストを優先的に作るというようなことを考えています。直ぐにはお答えできないと思いますが、報告ついでに「こんなの作って」というリクエストなど添えてみて下さい。思いのほか早く出来るかもしれません(^^;)。勿論、普段のメールでもオッケーです。(^^)b

[何とかして欲しいこと]
 色々あるのですが(笑)、PCに関することに絞ると何といっても、買って間もないPCのことです。起動に時間がかかりすぎる(勝手に起動するソフトが多い)、時々ソフトの調子が悪くなるという2点で困っています。
 新PCはOSがWIN98なのですが、前評判どおり安定性が良くありません(爆)。ウィンドウを最小化して復帰しようとクリックしてもウィンドウが出てこなかったり、エディタが勝手に動作したり(クリックすると選択していない個所をコピー&ペーストするなど)ということが結構起こります。その場合は再起動するのですが、その度にかなり待たされるのには辟易します(- -;)。
 いらないソフトは削除してしまいたいのですが、これでまた問題が起こることもあったりするので手を出しあぐんでいます。プレインストールは便利ではあるけれどデメリットの方が多いと思う今日この頃です。

「もし・・・安藤さんがまだ具合良くないなら、もう一晩留まって看病しようかな、って思ってたんですけど・・・大丈夫なら、もう良いですね。」

 井上の呟くような言葉は、俺にではなく井上自身に向けられている。自分自身を納得させるために。かなり確信しているような言い草だが、これは多分思い過ごしや思い上がりじゃない。何故なら・・・井上は俺の顔を見ていない。視線を落として、通りの良い普段の喋り方じゃなくて、喋りながら言葉を咀嚼しているようなもごもごした喋り方だ。
 井上も・・・俺と同じことを考えていたんだろうか?そう思うと、余計に頭に熱が篭る。帰したくないという思いと同時に、欲望が急速に頭をもたげて来るのが分かる・・・。

俺は・・・何が欲しいんだ?
井上の気持ちか?体か?それとも・・・何もかも全てか?

否、ただ自分の思いどおりになる女が欲しいだけなんじゃないのか?
好きだと一言言えばスイッチが入る玩具が欲しいだけなんじゃないのか?

「・・・俺は・・・井上に居て欲しいと思ってる・・・。」
「安藤さん・・・。」
「ただ・・・そうすると、際限がなくなりそうな気がする・・・。もう俺は病人じゃないから・・・その・・・そういうことはないって断言できない。」
「・・・私は・・・。」
「別に汚らしいこととか言うつもりはない。でもそれじゃ、何のために気持ちを纏めて何時かは返事をするって言って、井上を待たせてるのか分からない・・・。」
「・・・。」
「そのことのために好きだなんて言葉を使いたくないんだ、俺は・・・。」

 好き、という言葉を口にすることがどんなに勇気の要ることか、そしてどんなに大切なことか、俺はそれなりに分かってるつもりだ。好き、という言葉を口にするまでに何度も迫り来る「振られるかもしれない」という恐怖に打ち勝って、自分の気持ちをその相手にだけ集約してそれを口にすることは、多大なエネルギーを使うものだ。
 複数の相手に気持ちを振り分けられるほど器用じゃないせいもある。それほど相手に恵まれないし・・・。だが、だからこそ、自分の気持ちの全てを注ぎ込みたい。相手に向けたその始まりの合図であって、同時に相手にそれを受容する意思を問う言葉、それが「好きだ」という言葉なんだと俺は思う。だから・・・衝動的な気持ちや降って沸いたような欲望を満たすために・・・その言葉を使いたくない。

「少なくともこれだけは分かって欲しい。嫌いだからとか、居て欲しくないからとか、そういう気持ちじゃないってことだけは・・・。」

 井上の顔を見て言う勇気は俺にはない。井上と同じように視線を下向きにして独白するように言葉を並べる。言い訳がましく聞こえるだろうな、きっと・・・。

雨上がりの午後 第196回

written by Moonstone

 俺はその場に立ち止まる。否、動けなくなっていると言った方が良いだろう。益々深みに嵌っていく思考が脱出しようと足掻けば足掻くほど、より深く沈んでいく。俺の頭の中にはこれから先のことしかない。

2000/5/11

[少年事件とゲーム(その2)]
 昨日の続きでいきなりですが・・・バーチャルとはどういう定義なんでしょう?定義というと堅苦しいかもしれませんので言い換えますと(ああ、また癖が出たなぁ)、バーチャルとは何を指す言葉なんでしょう?ということです。
 こんなことは本題から逸脱している、と思われるかもしれませんが、それは日本の教育の根本的欠陥を証明しています。単語や用語が何を指すものかということは論議をする上で極めて重要なことです。何故なら同じ土俵の上でないと論議が成立しないばかりか、本題から逸脱して思わぬ結果を生むことにもなるからです(故意過失を問わず)。典型的な例が「進化論か天地創造論か」です。片や学説、片や神話ですから両者の基づくものが根本的に違います。このような例では両者の価値観をぶつけることになるので、どちらかが価値観を変えない限り(それは大抵の場合、物凄い精神的苦痛を伴う)結論の出しようがありません。

 コメンテーターや評論家、否、少なくとも日本人には大方このような「同じ土俵の上で論じる」という様式が根付いていません。今回「バーチャル」の指すものは何か、と提起したのは、問題の「バーチャル」という単語が指す範囲を明確にしておかないと、違う土俵の上でそれぞれ勝手に一人相撲を取ることになるからです。
 もっともコメンテーターや評論家はこのような造語を持ち出すことで、敢えてさまざまな解釈が出来るようにしておく傾向があります。そうすれば、さまざまな解釈が出来るのでより多くの共感を得る可能性があるからです。
 そう言った井上の顔は微笑んでこそいるが、何処かがっかりしたような色が見え隠れしている。まさかもっと寝込んでれば良いのに、と悪意を持つようには思えないが・・・。ちょっと気になる。
 しかし、井上の表情に一喜一憂するのがもう不思議でなくなっている。今はそれを別にどうとも思わない。井上のことは俺の心の明らかに大きな領域を覆い尽くした。それも、恐らく復興は二度と無理だと思っていた部分にまで・・・。

 店をほぼ一周回った俺と井上はレジへ向かう。レジに二人それぞれ脇に抱えていた本や雑誌をどかっと乗せると、店員はちょっと驚いたような顔をしてからレジ打ちを始める。まあ、普通1冊か2冊くらいのところに10冊くらい出されたら驚きもするだろう。
 俺のコートの袖が軽くなる。井上が手を離したようだ。夕食を食べた中華料理屋からずっと離さなかったから、逆に軽くて違和感を感じる。

「これ、私の分です。」

 レジ打ちが終わる少し前に、井上が俺に千円札3枚を差し出す。そう言えば、支払いは別々にしてくれ、とは言わなかったか・・・。店員がレジを打ち終えた本や雑誌は俺のと井上のとが一緒に積み重なっている。出されるレシートは1枚だろう。

「これで足りる筈ですけど、足りなかったら直ぐに出しますね。」
「良いのか?」
「もうお礼は十分して貰いましたから。」
「・・・じゃあ。」

 俺は井上から紙幣を受け取ると、自分の分を概算して紙幣2枚を取り出す。雑誌も数冊あると結構かかるものだ。直後にレジ打ちが終わって、金額が表示される。当然・・・俺と井上の出したものの合計だ。

 支払いを終えた俺は井上と一緒に店を出る。後で俺が言って二人分に分けてもらったから、それぞれ外側の脇に買ったばかりの本や雑誌が入った袋を抱えている。そして俺の内側の腕には再び軽い引っ張り感がある・・・。
 もう12月も近くなって、夜更けになると外の冷気は強さを増して身を切るような鋭さを帯びている。思わず肩をすぼめる俺に井上がより身体を寄せてくる。思わず肩を抱きたくなる衝動に駆られて寸前で思いとどまる。井上の行動にはどきっとさせられることが本当に多い。昨日だって、今朝だって・・・。急にさっき店の中で考えてきたことが復活してくる。井上がこれからどうするか、俺がこれからどうなるかってことが・・・店を出たことで確実に結論を出さなければならないときが一歩近付いたわけだ。

本当に・・・どうする?どうなるんだ?俺と井上は・・・。

雨上がりの午後 第195回

written by Moonstone

「体の具合、どうですか?」

 ・・・俺は思わず聞き返しそうになる。井上の問いは俺には予想外のものだ。時間を気にすることから始まって井上がこれからどうするか、俺がこれからどうなるか一人で勝手に盛り上がっていたことが小恥ずかしい。

「あ、ああ、もう何ともない。」
「そうですか・・・。」

2000/5/10

[月、と言っても色々あるもので・・・]
 今日の更新で「Access Streets」に新規設置したリンクは、シャットダウン中にメールを送って下さった方からご紹介戴いたページです。ご覧になれば一目瞭然ですが、此処よりずっとお洒落です(比べる程じゃないって)。Shockwaveを使っているページを見るのはこれが2回目なんですが、道具を知った上で使っているという印象です。
 さて本題(長い前置き)。今回ご紹介した「BlueMoon」もそうですが、「月」をタイトルに持つページは意外に多いものです。勿論私のところもそうですし、私などはハンドルネームにも含んでいます。私の場合、ハンドルネームを考えるときに誕生石にはMoonstoneとPearl(真珠ですね)があるのですが、迷わず現在のMoonstoneを選んだくらいです。
 月は魔術や神秘的なものを暗示していると言いますが、その観念は割と普遍的に近いもので、ページのタイトルを決めるときにも神秘的な雰囲気を醸し出す一助になれば、と選ばれるのかもしれませんね。もっともこのページは、「月」を含んでいながら神秘的な雰囲気の欠片も無い異質なページだなと、改めて思う次第です(このページの特徴だから、というのは言い訳?)

[少年事件とゲーム(その1)]
 連休中に2件立て続けに17歳の少年(と敢えて言う)が凶悪事件を引き起こしました。少年の心理状態や事件の背景などは一先ず置いておいて、気になるのはコメンテーターや評論家共が頻りに「バーチャル世代」を口にして、その原因として直接間接問わずゲームを槍玉に挙げていたことです。
 彼らは「バーチャル世代」などという新しい単語をまた持ち出してきましたが、こうして新しい造語を出すというのは、考察するのが面倒か問題の根本を炙り出すと自分の立場が危ないから、一まとめにしてしまおうという意思の現れです。「IT革命」「リストラ」「ガイドライン」・・・どれも外来語を使っているのが特徴ですね(笑)。
 今日から何回かに分けて、コメンテーターや評論家共が殊更ゲームを敵視する理由やその矛盾、彼らの論評(?)の欠陥をお話していきたいと思います。
 井上を振ったという相手のことは全く気にならないというわけじゃない。だから好きなんじゃないか、と問われるとちょっと答え辛いが・・・詮索する気が起こらないことだけは間違いない。何故かは俺自身分からないからどうにも答えようが無い。

すんなり井上が好きだと思えれば、事は解決するかもしれないが・・・。

 暫く広い店内をぶらぶらしているうちに、数冊の雑誌や本が俺と井上の手に引き込まれていく。俺は音楽関係の雑誌ばかりだが、井上はハードカバーの小説やら料理の本やらバリエーション豊富だ。俺は特別この雑誌が欲しいというわけでもないんだが、たまには、という気になって何時の間にか手にとってそのまま持っている。井上はかなりの数を脇に抱えているが、相変わらず俺のコートの袖は離そうとしない。
 ふと店の時計を見ると、とっくに8時を過ぎている。まあ、俺も井上も一人暮らしだし、門限なんて自分次第というやつだからそういう意味では時間を気にする必要はまるで無い。だが・・・このまま二人で居ると別の意味で時間が気になってくる。
 ・・・俺を散々な目に遭わせてくれた高熱もすっかり下がったし、あれだけの夕飯を食えるくらいだから元通りになったと断言できる。だから井上はもう、俺の家に泊まりこむ必要はない。俺は一旦井上と一緒に家に帰って、荷物を纏めてもらってから井上の家に送り届ける必要がある。今や勝手に帰れ、などと言う気は微塵も無い。だからこそ、余計に時間が遅くなるのは気にかかる。

二人で長く居ると、帰したくないと思いそうな気がする・・・。

・・・否、もう既に少しばかりそう思い始めている。

 帰したくないという気持ちがこのまま膨らめば、俺は仮病を仕立ててでも引き止めようとするかもしれない。井上のことだ。俺が居て欲しいといえばそれを二つ返事で受け入れそうな気がする。そうなったら・・・

一気に進んでしまうとも言い切れない・・・。

 そんなことになったら、もう返事どころの話じゃなくなる。それじゃ、何のために智一を呆れさせるように井上を待たせているのか分からない。俺は単なる優しさ欲しさや人恋しさを好きという気持ちと錯覚したくないから、そのために気持ちを纏める猶予期間として、井上を待たせているんだから・・・。

「安藤さん・・・。」

 不意に井上が呼びかける。俺が見た井上の瞳は潤んでいる。天井の蛍光灯が乱反射して妖しい輝きを放っているように思うのは俺の錯覚か、それとも井上の気持ちが届いているからだろうか・・・?
 夜という時間は深まるに連れて人を秘め事へと唆す魔力を帯びてくるのかもしれない。言葉を失った俺に井上がさらに言葉を続ける。

雨上がりの午後 第194回

written by Moonstone

 まあ、こうもあの女に拘っていると未練がある、と思われても仕方ないだろう。実際のところ、今尚納得行かないなんて言っているのは未練がましいという言葉がぴったりだ。
 しかし、俺があの女とやり直したいのかと尋ねた井上の表情にはかなり不安の色が出ていたように思う。思い過ごしか思い上がりか知らないが、やっぱり気になるんだろうか?俺だって好きな女が昔付き合っていたかどうかが気になる、否、気にする。

2000/5/9

[ようやく戻ってきました・・・]
 5/7の定期更新で再開、としておきながら2日間遅れてしまいました。遅れた理由は身内の不幸(祖母の他界)があったからです。
 帰省していた私がこちらに戻る前日、見舞いに行った時に偶然危篤状態に陥っていて、先に連絡を受けて駆けつけた叔父夫婦と、一緒に見舞いに行った母と私の4人で最期を看取りました。その後駆け足で仮通夜、通夜、葬儀と続いて、先日5/8に戻って来た次第です。
 祖母は前々から見舞いに行く度に弱っていたので、そんなに急というわけではありません。ですが、誰かが死んで一連の儀式に関わるというのは、やはり重く感じます。この辺り、私にもまだ多少なりとも「人間らしさ」というものがあるのかもしれないな、と思います。

[で、自分の具合はといいますと・・・]
 こちらの方は全然快方の兆しがありません(溜息)。連休の中程は割と落着いていたのですが、後半からまた痛み出して結局そのままです。CTスキャンを撮りに一度戻って、その結果を受けての診察を今週に控えています。夜寝られないことも度々あって、帰省して治れば良いなという思惑は外れました。
 まあ、ゆっくりするつもりが前述のようなことがありましたし、これは仕方のないことでしょう。検査のため入院、というようなことにならなければ良いと思っています。

 前述のようなことがありましたが、本日の再開以後は通常どおり活動していきますので、引き続きよろしくお願いいたします(礼)。
「・・・。」
「それに・・・こういうことは誰かに聞いてもらった方が良いと思うんです。少しは楽になれるかも知れませんから・・・。」

 そうかもしれない。自分の内側に溜め込んで押し込んで、その歪みが心にまで及んでいた。誰かに話すことで心の整理が出来ていくものなのかもしれない。被害者意識ばかりでもなく、加害者意識ばかりでもない、本当の意味での思い出に変える為には必要な儀式なのかもしれない。

「・・・なんて言って、でしゃばりですよね、私。」
「いや、良いよ。今は聞かれてもそれ程嫌じゃないし、それに・・・隠してばかりだとあの女に何時までも拘ってるようで、自分でも嫌だし。」
「・・・。」
「ただ・・・納得行かないっていうか・・・どうして他の男に乗り換えたのか聞きたい気持ちはある。そうしないと・・・気が済まない・・・。」

 言ってからで何だが、こんな愚痴めいたことまで話して良いものか、と思う。だが、同時に話したい、聞いて欲しい、という相反する気持ちがある。複雑な気持ち、というのはこういうことを言うんだろうか。

「・・・振られた方は納得なんてできないですよ。どれだけ理由を話されても・・・。」
「・・・そうかも知れないな。」

 井上も以前振られたことがある、と言っていた。だからだろうか、無意識に相槌を打たせるものを感じる。恋愛のカリスマ−この言葉自体、安っぽく感じる−とやらが言っても多分知ったことを、と鼻で笑うところだ。

「安藤さんは・・・優子って女性とやり直したいんですか?」
「もうよりが戻るなんて思ってないし、戻したいとも思ってない。ただ、納得行かないだけ・・・。」

 井上が言ったとおり、譬えあの女、優子に会って理路整然とした理由を何度となく聞かされてもそう簡単に納得はしないだろう。納得することを拒むかもしれない。だけどどうして俺を捨てたんだ、って俺が問えば優子が理由を説明したことはその瞬間に水の泡と化す。そのまま物別れになるのがオチだろう。
 そう言えば潤子さんも前に、恋愛で定義とか公式とかは有り得ないし、考えない方が良いって言ってたな・・・。こういうことなんだろう、と今なら分かるような気がする。

雨上がりの午後 第193回

written by Moonstone

「井上は・・・気にならないのか?」
「何がですか?」
「・・・前に俺が付き合ってた相手のこと・・・。」

 井上は少し間を置いて俺の問いに答える。

「・・・ええ、安藤さんが好きだった女性(ひと)がどんな女性だったとか、どんな付き合いをしてたのかとか、やっぱり気になります。」


このホームページの著作権一切は作者、若しくは本ページの管理人に帰属します。
Copyright (C) Author,or Administrator of this page,all rights reserved.
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。
Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp.