芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2000年6月30日更新 Updated on June 30th,2000

2000/6/30

[今日で水無月も終わりですね]
 いやあ、まったく時間が流れるのは早いもので・・・。もう1年の半分過ぎちゃいますよ(^^;)。「今年もよろしくお願いします」とか「1周年を迎えました」とか「連休はシャットダウンします」とか言っていたのが、つい数日前か、長くても一月ほど前くらいにしか感じられないんですよね。ふっ・・・(遠い目)。
 で、昨日私はあんまり考えたくない年齢になったわけですが、殆ど寝てました(猛爆)。ようやく起きたのは昼過ぎ(^^;)。休養がてら仕事を休んでもこれでは・・・(汗)。日頃酒を入れても2、3時間しか寝られないので(前の日もしっかり飲んでいた)そりゃ眠くもなるでしょうが、何とかしないと・・・。そんなわけで、「水無月便り」にご応募いただいた方々、発送まで今しばらくお待ちください。・・・事前に用意してからの方が良かったな・・・。もう遅いですけど。

[ラジオ番組一つ追加(予定)]
 毎日のようにラジオを聞いている私ですが、どうも聞き流しているものが多いなぁと思う今日この頃。トーク番組はDJが五月蝿かったり癇に障るようなことを言ったりしますし、音楽番組は流行りものの邦楽か洋楽のどちらかでちょっと・・・。ここでも以前紹介した「Jetstream」はDJが替わって違和感を感じます。前は凄く良かったんですが・・・。
 で、何か良い番組はないかと探していたら、この連載に登場する渡辺潤子さんの名前の由来である岩男潤子さんがDJをしている番組があるというではないですか!(感動)ネット局を見ると、多分聞ける・・・筈(^^;)。これは聞かねばなりますまい。周波数を替えるのがちょっと面倒ですけど、岩男潤子さんの声を聞くのだぁ!(萌・・・いや、燃(爆))
 ・・・このまま腕に感じる感触を気にしながら、内側の疼きに耐えてなきゃならないんだろうか?それはそれで嬉しいような・・・否、そういう問題じゃない。
 その時、ドアが静かに開く。様子を伺うように顔を覗かせたのは潤子さんだ。

「・・・あ、やっぱり此処で寝てるのね、晶子ちゃん。」

 妙に嬉しそうに声を弾ませる潤子さん。・・・井上が此処に「避難」してきたのは一体誰のせいだと・・・。しかし、昨日隣の部屋の井上が目を覚まして「避難」する羽目になるくらい激しい物音を立てていたという割には−考えてみると結構凄い・・・−随分元気だ。

「祐司君は起きてるの?」
「は、はい。それより・・・井上はまだ寝てるみたいなんで・・・。」
「あら、御免なさいね〜。」

 俺が上体を少し起こして言うと、潤子さんは一応謝ってみせる。だが、顔と声は笑っているから説得力はまるでない。完全に面白がっているとしか思えない。

「今、何時ですか?」
「7時半過ぎよ。9時頃もう一回起こしに来るから、その時一緒に朝御飯食べましょ。」
「はい、分かりました。」
「それじゃ、ごゆっくり〜。」
「・・・潤子さん。」

 やっぱり面白がっている。妙に嬉しそうな潤子さんは静かにドアを閉めて足早に去っていく。きっと間もなくマスターに尾鰭がついた形で伝わるだろう。そうなったらもう俺の逃げ場はない。どれだけ弁解をしても「そんなに照れなくても」と相手にされないのは目に見えている。

まだ逃げるつもりなのか?俺は・・・

 俺は今の井上との関係を失いたくない。それはもう否定しない。何故迷って、否、逃げてるんだ?・・・好きだ、と言うことで今の関係が壊れてしまうからか?井上に対する気持ちが本当に好きという気持ちかどうか分からないからか?・・・どれもあるだろう。でも、それが全てじゃない。

好きだ、と言うことそのものが怖いからなんじゃないのか・・・?

雨上がりの午後 第243回

written by Moonstone

「・・・うん・・・。」

 井上が余計に密着してくる。肩をすぼめて俺の左腕に少し覆い被さるような感じで・・・。布団を捲くっているから寒いんだろうか?そう思って布団をそっとかけ直す。
 しかし困った・・・。この状態では起きようにも起きられない。手は一体化しているかのように握られているし、腕に絡み付いているような感じで密着しているから引き抜くことも出来ない。

2000/6/29

[今日は私の誕生日です(本当)]
 上のメモリアル企画でもお話していますが、私のハンドルネームの由来は私の誕生石です。で、今日がまさに誕生石を決定付けた日、というわけです。年齢は・・・うーん、「我ながら歳食ったなぁ」という年齢に達しました(笑)。就職してから急に時間の流れが速まったような気がしますね。何かで「1日24時間を年齢で割ったものが、その人の1日の感覚だ」というような部分があったのですが、なるほどなぁ、と実感しています。長い1日なんて最近感じたことがないですからね。
 で、6月の誕生石だからMoonstoneなのですが(mが大文字なのは、人名という意味合いを込めているからです)、例えば4月だったらDiamondとしていたのかと考えてみると、6月だからこそこのハンドルネームにしたんじゃないかな、と思うんです。宝石に特別興味があるわけでもない私が雑学レベルで覚えていた誕生石、それも比較的メジャーな真珠ではない方を選択したのは、「月」を含んだその名前が意識しない間に気に入っていたのかもしれません

 まあ、実物は神秘なんて言葉とはかけ離れた風貌の人間なのですが(笑)、少なくともこのハンドルネームを使うようになってから、文芸の作風に叙情的な側面が加わったのは確かです。まだ月長石の実物は見たことがないんですが(宝石店でも見たことがない)何時か買おうかな、と思います。
 今日は仕事を休んで休養するのは勿論(此処最近かなり胸の痛みが強い(汗))、これまでなかなか進まなかった作品製作をいろいろ進めるつもりです。壁紙も変更したことですし(笑)。この前の日曜日も深夜から未明にかけて連続更新を仕掛けましたが、今日も実行するつもりです。お楽しみに♪
 結局はあの夜の記憶がまだ心の奥底にがっしりと根を張っているからなんだろう。さして気に留めなくなったとはいえ・・・あの記憶は重い。もう終わったことなのに、もうよりを戻すつもりもそんな気体もしてないつもりなのに、まだ・・・万の一つの可能性にでも賭けているんだろうか?

「何だか偉そうなこと言っちゃいましたね。待てるだけ待つって言ったくせに、何時言ってくれるの、みたいなことして・・・。」
「そんなの、今に始まったことじゃないんじゃないか?」
「あ、そんなこと言います?」

 井上は少し頬を膨らませる。そんな仕草も愛しく思う。そう思っていると再び微笑みが浮かぶ。本当に井上はくるくると表情が変わる。・・・それが羨ましくさえ思う。

「こうして・・・お話出来て良かった・・・。ずっと背中向けられてるんじゃないかって不安で・・・。」
「・・・悪かったな。」
「今、お話出来てるから良いんです・・・。」

 俺もそう思う。背中を向けているだけだったら、内面の葛藤に終始して井上の気持ちを考えることなんて出来なかっただろう。やっぱり話は・・・向き合ってした方が絶対良い。声だけじゃなくて表情からも・・・感情を考えることが出来るから・・・。

Fade out...

 ・・・朝みたいだ。カーテンが淡く輝いている。今の季節からして7時か8時くらいだろうか?ちょっと気だるいがよく眠れた方だと思う。昨日バイトの後で音合わせをひととおりやったから、寝られる条件は揃っていたわけだが。
 ・・・何だか左腕が重い、否、何かが絡み付いているような・・・。何気に見てみると、布団の中から茶色がかった球体が覗いている。空いている右腕で布団を少し捲り上げてみると、左腕の違和感の原因が分かった、否、見えた。

井上が俺の左腕に密着しているからだ。

手は繋いだままで横向きに密着して、左腕を俺の左腕に絡ませている格好だ。寝返りを打ってこうなったのかもしれないが、それにしても・・・この格好でこの位置だと、見えるんだよな・・・。その・・・胸の谷間が・・・。それに気付くとその光景と左腕に伝わる感触が気になって仕方がない。・・・体がむず痒くなってきた。

雨上がりの午後 第242回

written by Moonstone

「・・・やっぱり、不安だからじゃないですか?前みたいにならないか、って・・・。」
「・・・。」
「悲しい思いをしてそれをさっさと振り切って、さあ、もう一度、なんてそう簡単に出来ないですよ。それが出来ないから悩んで、苦しんで、迷ってるんですよね。」
「・・・そうだと思う。」

2000/6/28

[此処最近、いや、正確には平日の大半ですが]
 日記らしい内容になるネタがない!(衝撃)・・・まあ、平日は朝起きて(殆ど寝てないときが多いですが)仕事行って、帰ってきて食事作って食べて(最近手抜きが多い(汗))、あとは更新準備と製作その他いろいろでPCに向かう毎日ですからね。そこで日記に書けるようなことは大抵ろくなことではありません(^^;)。仕事の進行が躓いたとか、料理に失敗したとか(最近は殆どないですが)、PCがおかしくなったとか(こんなのは珍しくも何ともない(爆))。
 逆にいえば、日記に書くことがないのはそれだけ平穏な日々だという証明なのかもしれません。以前は洒落にならないような現状もお話してたくらいですし(汗)。いや、批評やエッセイはそもそも日記ではないか(爆)。

[で、今日もチューハイが傍らに・・・]
 完全に飲兵衛だな、最近の私は・・・(汗)。酒を飲まなきゃ何も出来ないということはないのですが(それだとアル中だ)、飲まないとろくに寝られないのはほぼ確実です。一体どうなっちゃってるんでしょうね・・・。
 それはさておき、前に一人で飲む方が好きだとお話しました。一人で飲むのは自分のペースで飲めるのが一番のメリットなんですが、気分が内向きになりやすいんですよね。誰か居ると日頃出来ない話も出来たりしますし、仮に深酒をしてしまっても面倒見てもらえる(をい)という安心感もあります。
 どんな人と飲みたいか?そりゃ歌帆なら最高なんですが(笑)そこまでいかなくても、色々な話題で議論の出来る人が良いですね。生憎身近にそういう人が居ないので(同年代だと異性のことばかりだしなぁ)、専ら時々出かける料理屋が舞台です。頭の中身が歳食ってるからかな・・・(^^;)。
 俺は井上と向き合ったままだ。欲望の洪水を恐れて背中を向ける必要は感じない。今はむしろ、井上の顔を見ていたい、こうして手を繋ぎあっていたいという気持ちの方がずっと強い。

「一緒に寝るのって久しぶりですよね。」
「そうだな・・・。」
「あの時も一応確認したんですよ。『此処で寝ても良いですか?』って。でも安藤さん、返事がなかったから・・・。」
「寝てるときに言われても返事しようがないって。」
「今は・・・どうですか?」

 井上の表情が微妙に影を帯びる。その瞳は真っ直ぐに俺を見詰めて・・・俺の手を握る手にほんの少し力が入って・・・声にならずとも心に直接届いて来る問いは唯一つ。今更考えるまでもない。
 再び俺の心臓が高鳴り始める。血液が熱を帯び始める。だが・・・俺の視線は井上から逸らせない。背中を向けることも出来ない。魔法にかけられたみたいだ・・・。どうすれば良い?どうすれば・・・。

「・・・ずるいですね、私・・・。」

 井上が寂しげに微笑む。俺の手を握っていた手の力が少しだけ緩む。

「これじゃ、安藤さんに好きだって言うように仕向けてるのと同じですよね・・・。」
「・・・井上・・・。」
「御免なさい・・・。困らせるようなことばかりして・・・。」
「・・・いや・・・、困らせてるのは・・・俺の方だ・・・。」

 今度は俺の方から手に力を込める。強く握り過ぎるとひしゃげてしまいそうにも思えるくらい・・・柔らかい。

「熱が引いた次の日、智一に言われたんだ・・・。お前から井上に何かしたことってないだろ?って・・・。実際そのとおりなんだよな・・・。」
「・・・。」
「井上から好きだって言われて返事は待たせっぱなしで、今日も井上からこっちに来て何かしないと何もしないし・・・。待たせて良い立場だって思ってるわけじゃないけど・・・。自分から何かしようとするのを無意識に避けてるのかもしれないって思う。」

雨上がりの午後 第241回

written by Moonstone

「確かに・・・大丈夫だな。」
「ね?そうでしょ?・・・手、繋ぎ直しませんか?」
「・・・そうするか。」

 俺と井上は同時に取り合っていた手を離して、互いに近い方の手を取り合う。さっきは互いに身体の前に腕を通していたから窮屈だったが、これなら楽だ。

2000/6/27

ご来場者50000人突破です!(歓喜)

 ・・・とはいえ、特に何かあるわけではないのですが(爆)、夢の6桁の折り返し地点を通過したのはこれまでの1000人、10000人突破と似た特別な気分を感じます。

[今度、写真撮影に行きたいところ]
 6/25の深夜から未明にかけてゲリラ的に(それほど劇的じゃないか)第1写真グループにこの前の雨の日に撮影した写真をアップしました。最近の写真集は季節を前面に出す傾向にありますが、特別狙っているわけではありません。まあ、その時にしかないものだから撮っておきたいというある意味貧乏性な発想からです(笑)。
 もう既に次の撮影予定を立てています。ネタバレになるので詳しくはまだ言えませんが、ちょっと撮影が難しいかな、と推測しています。静物を対象にすることが多いのですが、今度狙っている対象は動きがありますからね・・・。それも予測がつかない・・・(汗)。
 確率的に動くものを対象にした写真は、選考の段階でボツになる可能性が高いです。上手く撮れたー、と思ったら実はピンぼけだったり(T-T)。多分、最低でも100枚、出来れば200枚くらい撮らないと写真集といえるくらいは揃わないと踏んでいます。・・・相当混雑する場所だし、撮影そのものに苦労しそう・・・(汗)。でも、狙ったイメージの写真が撮れていた時の感動といったら・・・もう(笑)。長時間の撮影に耐えられるように、身体をどうにかしておきたいところです。
 そう言えば確かに・・・手を繋ぐのは初めてだな。手を取って頬擦りとかは前にやったことがあるが−これも今思えば結構強烈だ−・・・掌の感触を掌で感じるのは・・・これが初めてだ。
 井上の手は本当に柔らかくて・・・滑らかで・・・。軽く、でもしっかりと俺の手を掴んでいるのが愛しい・・・。本当に愛しい・・・。この手を離したくない。愛しいから・・・もっと近付きたい、触れ合いたい。井上もそう思っているんだろうか?それが「好きだ」という言葉で表せるのなら、その先の行動に進んでも良いんじゃないだろうか?
 ・・・でも、何となくしっくりこない。時と場合がこれだけに、自分の行動を正当化するための方便のような気がしてならない。やっぱり今は井上の方を向かないほうが正解だと思う。

「・・・安藤さん。」
「・・・ん?」
「その体制だと辛くないですか?」

 正直な話、今の体制にはちょっと無理がある。これだと恐らく寝返りは打てまい。手を捻ってしまいそうだ。

「安藤さん、ギターなんですから腕や手に何かあると・・・。」
「そりゃ・・・そうだけど・・・。」
「だったら・・・。」

 そう言って井上は俺の手を握っている手を自分の方に引っ張る。変な体制になっている俺は、それに合わせて身体を動かすしかない。腕をどうこう言っておいて、どうして腕を捻らせるようなことをする?
 仰向けになったところで俺は思わず横を見る。何のつもりだ、と言いかけたところで息を飲む。同じ仰向けになって俺の方を見る井上は口元に微かな笑みを浮かべて、そして・・・俺の手を優しく、しかし、しっかりと握っている・・・。

「大丈夫じゃないですか。」
「・・・?」
「私の方を向いても・・・。」

 ・・・さっきまであれほど俺の内側で蠢いていたものは、すっかりどこかへ消えてしまっている。暫くそういうことがなかったから忘れていたが、井上は相当な策士だったんだ。知らず知らずのうちに俺の感情を制御したり、自分の考えている方へ動かしたりできるんだった・・・。俺は苦笑いを浮かべるしかない。

雨上がりの午後 第240回

written by Moonstone

「これくらいなら大丈夫でしょ?」
「・・・井上・・・。」
「安藤さんの言いたいことは分かりますよ・・・。私だって年齢的にもう大人ですから、分かってないなんて方がちょっと珍しいんですけど。」
「・・・。」
「手繋ぐのって初めてですよね、私達・・・。

2000/6/26

[これが選択の結果ですか・・・]
 25日は衆議院議員選挙の投票日ということで、朝一番に投票を済ませました。最初の投票者が行う、投票箱の中身が空かどうかの確認もしました。で、このお話を始める前にテレビの特番を少し見たのですが・・・

呆れて情けない気分とはまさにこのこと。

所詮投票者の殆どは日頃不満を言いながら、結局のところは変化を全く望んでいないということ、そして何より約半数の有権者は日頃不満を言ったりしている現政権に白紙委任状を手渡した(白票も棄権も同じ!)ということ・・・。馬鹿馬鹿しくなってテレビを切りました。
 どうやら消費税を10%に上げられ(選挙後に実施の方向に向かうと言っている)、無駄な建物や道路や橋が作られ、軍事協力がより具体化され、その煽りで生活関連予算が切り捨てられ、不況と言いながら過労死や自殺が大量発生する今の流れが良いということなんでしょう。
 じゃあ、日頃口にしている政治やら社会やらへの不満は何なのか?野党が頼りないから?どうせ変わらないから?・・・何のことはない。それは自分達の怠慢を誤魔化す方便です。どの党が何を主張してきたか、どういう行動をしてきたか、そんなことはきちんと調べれば容易に分かることです。地縁血縁、会社や組織の指示、或いはイメージで・・・そんな感覚が続く限り、変わるものも変わりはしません。
 民主主義社会の崩壊はある日突然始まるものではなく、足元から静かに始まる・・・。否、もう崩壊しているのに気付かないだけか、それとも元々蜃気楼でしかなかったか・・・。何れ分かることでしょう。しかし、分かったときはもう手遅れだということは間違いありません。

「・・・井上は・・・それで良いのか?」
「え?」
「悲しい思いをしてでも・・・抱かれたいのか?」
「・・・。」

 井上からの答えはない。口では俺の気持ちに関わりない、と言ったがやっぱりやるせない気持ちがあるんだろう。
 ・・・気持ちが通じてなくても好きだから・・・。そんなこと、俺に出来るとはとても思えない。一月以上も、否、もしかしたらもっと前から、霧の向こうに垣間見える気持ちに手を伸ばすべきか否か迷いに迷っているくせに、いざ背後から抱きつかれたら体がすかさず反応しているような俺には・・・。
 これからどうすれば良い?返事をするなら面と向かって言いたいし、そうするべきだと思っている。だが、二人で居るには手狭な温もりを含んだ綿の空間で至近距離で向かい合ったら、それこそ意識が沸騰しかねない。そうなったら返事なんて単なる事務手続きと対して変わりはないんじゃないか?
 だけど、このまま背中を向けたまま素知らぬ振りを決め込むのは・・・。せめて井上に、嫌いだからそっちを向かないんじゃないってことを伝えておきたい。言葉だけじゃなくて・・・。でもどうやって・・・!
 俺は胸の前で両腕を交差させるような形で、下になっていた右腕をわき腹の方に通して・・・井上の手を握る。否、手の上に手を置いたと言った方が良いか。すると背後の感触がぴくっと軽く振動する。・・・もしかして、誤解されたか?

「・・・絶対・・・嫌いだからじゃないから・・・。」
「・・・。」
「言うなら面と向かって言う。でも、今そうしたら・・・感情より欲望の方が先に出てしまって・・・返事が軽くなっちまう・・・。」
「・・・安藤さん・・・。」
「だから・・・今はこれだけにさせてほしい・・・。」

 分かってもらえただろうか?そう思っていると、俺の手の下にあった井上の手が動く。引き抜こうといるのか、と思ったらそれは180度回転して俺の手をきゅっと掴む。・・・手を繋いでいる。滑らかで柔らかい感覚が伝わり、身体がじんと震える。内側で暴れていた何かが一気に整然としたものになっていく。・・・これは「愛しい」っていう気持ちなんじゃないだろうか?

雨上がりの午後 第239回

written by Moonstone

 寝間着を通した触れ合いで気持ちが固まるかどうかより真っ先に身体が反応した俺と、その俺の暴走を返事に関わらず受け入れるつもりらしい井上・・・。端から見れば据え膳食わねば何とやら、だろう。だけど・・・

2000/6/25

本日投票に行かない有権者に、政治への不満を述べる資格はありません。それではお話を始めましょうか・・・。
[土曜日は久々に・・・]
 手の込んだ料理を作りました。最近まともに料理をする気にならなかったのですが、気分転換を兼ねて包丁をしっかり使う料理を作ろうと思って、いざ店へ。献立は刺身。とはいっても当然、切り身を買ってきて切り分けるのではなくて(それでは目的と違う)、1匹丸ごと買ってきて自分で捌いて作るわけです。こんなことをするのも随分久しぶりのように思います。
 選んだのは全長約40cmの鰹。今まで捌いた中で1、2を争う大型のものです。ずっしりと重い図体は俎板からはみ出しました(^^;)。念入りに砥いだ刺身包丁で格闘すること約30分(だと思う)。包丁を1回砥ぎ直し、俎板は鮮血に染まりましたが(マグロもそうでした)、無事捌くことに成功♪半身を2分割した片方を刺身で美味しく戴きました(薬味は摩り下ろし生姜に刻み葱)。残り半分は冷凍、もう一方の半身は2分割後に酢に軽く通して冷凍。こちらは主に加熱調理に使います。

 久々だったので上手く出来るか不安だったのは勿論、買出しや調理の最中にも遠慮なく痛みがあったので(今でも痛い)かなり辛かったのですが、当初の目的は完遂できたので気分的には楽です(^^)。意外に忘れてないものです。
 この後の更新準備では、オーブンで塩焼きにした身のついた中骨を肴(魚ではない(笑))にしてお酒タイムと洒落込むつもりです(このところ毎日飲んでる・・・)。
 どう答えれば良いものか・・・。そっちを向くと理性の箍が外れかねないと正直に言うのか?それともたまたま横向きになってただけと誤魔化すのか?・・・駄目だ。背中の感触が気になって考えが纏まらない。

「私の方を・・・向きたくないんですか?」
「!」
「・・・そうなんですね?」
「・・・ち、違う・・・。それは絶対違う・・・。」

 井上の悲しげな声は聞きたくない。この誤解だけは絶対解いておかなきゃ駄目だ。そうしないと・・・本当に全てが終わってしまう・・・。それだけは・・・絶対嫌だ。

「じゃあ、どうして・・・?」
「・・・今、井上の方を向いたら・・・」
「・・・。」
「俺は・・・俺を止められないと思う・・・。」

 身体は実に敏感で正直だ。実際井上の方を向いたら、次の瞬間覆い被さろうとばかりに疼いている。自分の家ならどうにか「処理」できるが、まさかここで出来る筈がない。したら返事どころの話じゃなくなるのは間違いないが・・・。
 その時、わき腹のあたりに新たな、もっとはっきりとした感触が伝わる。これは・・・手か?だとしたら、丁度以前の二人乗りのように、背後から抱きつくような感じになってる・・・?!荒くなり始めた呼吸を無理やり抑える。兎に角今はじっとしてるしかない。井上の奴、何のつもりか知らないが、こういう状況で俺を挑発するようなことをしないでくれ・・・!

「一緒に居て背中向けられてるのは寂しいです・・・。止められないなら・・・私はそれでも構わない・・・。」
「・・・。」
「ただ・・・その前に返事は聞かせて欲しい・・・。それで心の準備が整いますから・・・。」
「・・・心の準備・・・?」
「・・・私の気持ちが・・・少し違ってくるだけです・・・。幸せだけか悲しみ混じりになるか・・・。」
「・・・。」

雨上がりの午後 第238回

written by Moonstone

 何かが背中に触れる。一箇所だけじゃなくて全体に、優しくて柔らかい感触を感じる。これは・・・手だけじゃなくて・・・全身を俺の背中にくっつけているってことか?!

「な、な、何だよ・・・。」
「・・・どうして背中向けてるんですか?」
「どうしてって・・・。」

2000/6/24

[水無月も間もなく終わりですね]
 梅雨らしく雨と曇天の日が続いています。洗濯物がなかなか乾かないのとジメジメするのにはちょっと困りますが(^^;)、これも季節の風物詩。やがて訪れる光の季節までもう暫く雨と静寂の季節と付き合ってみませんか?・・・うーん、詩的なオープニングだ(爆)。
 雨の日の朝は無音に近い状態か、或いは砂嵐のような音が控えめに聞こえるくらいなんですよね。前に写真を撮りに行ったときもそうだったんですが、この無音に近い風景が好きなんですよ♪何せ普段は車が(暴走族は勿論(汗)、時にはトラックやダンプも(大汗))行き来する音を当たり前のように聞かされますからね。毎日家に居れば聞かされる音なのですが、あの振動と無粋な音には今だ馴染めません。

[何故リーダーが欲しい?]
 こんな先の不透明な時代になると必ずといって良いほど出てくる主張が「リーダー待望論」。特に全員一緒が大好きな日本人は「引っ張っていってくれる」リーダーを日頃から待望している傾向があるように思います。しかし・・・「個の時代」や「自立」をいうなら、依存の象徴であるリーダーを待望するべきではありません。リーダーの元ではある方向に引っ張られ、自分で判断して行動することを「異端者」「反乱分子」として排除すらします。
 地域ぐるみ、会社ぐるみ、組合ぐるみ・・・。こんなことで地方自治体や国の後方せいを議論する人間が決まってしまうのも、結局自分で判断する能力がないからです。有力者だから、組織の上部が決めたから、と無批判に受け入れるからです。今必要なのはリーダーではなく、自分自身です。

「・・・風邪ひくな。このままだと・・・。」
「・・・。」
「・・・良いよ。横で寝ても・・・。」

 井上は嬉しそうな顔をするかと思ったら−期待していたわけじゃないが−、小さくこくんと頷くだけだ。俯いたまま抱えていた枕をぐっと抱き締めている。
 ・・・やっぱり緊張してるんだ。考えてみれば無理も無い。いくら好きだと告白した相手だとはいえ、健康体の男が居る布団に入るんだからな・・・なのに俺は勝手に妄想を膨らませて・・・。
 俺は身体を横にずらして、井上が入れるだけのスペースを確保する。

「・・・どうぞ。」
「・・・それじゃ・・・。」

 井上は寒くないように気遣ってか、布団の裾をそっと、自分の体が入るくらいだけ捲り上げて潜り込むと、直ぐに裾を戻す。・・・緊張が一気に増す。
 この布団は一人用らしくて、スペースを十分空けたつもりでも仰向けになっていると腕が触れ合う。そうなるとさらに緊張が増幅してくる。否、緊張というより欲望というべきか・・・。このままだととても寝られそうにないから、俺は井上に背を向ける形で横向きになる。だが、早まった胸の鼓動と荒くなるのをどうにか抑えている呼吸は静まる気配が無い。眼を閉じても眠気が再び意識を覆う気配はない。

・・・。

「安藤さん・・・寝ました?」

 どれだけ時間が経ったか・・・背後から井上の囁きに似た声が聞こえる。俺はどう応えて良いか迷う。このままの姿勢だと嫌っているように思われるかもしれない。かといって体の向きを180度変えると、井上と至近距離で向かい合うことになる・・・。内面の葛藤が極限に達しそうな気がする。

「・・・いや、起きてる・・・。」

 結論を出すより先に答えが出てしまった。何も言わないと寝ていると思われる、ということが口を突き動かしたとでも言おうか・・・。寝たふりを決め込むことで何か大切なことを逃してしまうような、そんな恐れとも言える予感が頭を過ぎったような気がする・・・。

雨上がりの午後 第237回

written by Moonstone

「・・・そのうち・・・終わるんじゃないの?」
「・・・最初はそう思ってたんですけど・・・。」
「・・・。」
「だから・・・。」

 そりゃ無理も無いと思うが・・・だからって、横で寝られたら俺が困る。答えあぐんでいると、井上が両手で鼻と口を押さえてくしゃみをする。そう言えば俺も背中が冷える。暖房を切ってあるからな・・・。

2000/6/23

[ちょっと楽になってます(^^;)]
 先週末から今週前半は心身共に相当酷い状態だったのですが、昨日あたりから気分的な部分は小康状態です。別に何か特別良いことがあったとかいうことはなくて(これはこれでちょっとね・・・)、痛みは相変わらずかなり酷いですが(汗)、気分が多少でも楽だと結構違うものです。そこそこ食べたり料理をしたり、コンテンツの更新を頑張ってみよう、という気にもなりますからね。
 先週の定期更新で出来なかった作品を作ったり、新しい作品の企画などを少しずつしています。本調子には程遠いですが、出来ることから少しずつやっていこうと思います。

[で、今日も酔っ払い(爆)]
 睡眠薬代わりに某社の500mlカンチューハイ1缶を飲みながらのお話。晩酌というのは量が多いですが、実際これで睡眠不足が多少解消されているのは事実なので、毒をもって毒を制すといったところでしょうか(違う?)。
 前にもお話したと思いますが、私は大勢より一人で飲む方が好きです。自分のペースで飲めることもありますし、妙な輩の相手をしなくて良いからです。酒の席を知ってる方ならお判りかと思いますが居ますよね?人生講釈(結局自分を見習えと言いたいだけ)をたれる奴とか、人のことなどお構いなしに飲め飲めと強要してくる奴とか・・・
 そういうことは「酒の席だから」と許されると思いきや、所謂「目下」が「目上」(こんなものは所詮生きた日数の差でしかない)に同じようなことをすると、後でネチネチやられたり・・・。それに酒が飲めないとつまらない奴、とか決め付ける風潮もあります。酒はあくまで嗜好品。それを忘れないで貰いたいものです。

「安藤さん・・・寝てるかな?やっぱり・・・。」

・・・井上?!

 眠気でぼやけていた意識が一気に晴れた俺は、がばっと体を起こす。俺の布団の直ぐ横に、闇にかすかな輪郭を浮き彫りにしている井上が枕を抱えて座っている。寝ているかと思った俺がいきなり跳ね起きたから一瞬びくっとしたが、
 眠りに落ちる直前に井上のところに行こうかという考えが一瞬頭を擡げたが、まさか井上の方から来るなんて・・・。それも枕を抱えてるし・・・まさか一緒に寝ようって言うんじゃないだろうな?!

「・・・ど、どうしたんだよ。」

 思わず無声音になってしまう。夜中に寝巻き姿の若い男女が密会(?)なんてマスターと潤子さんに見られたら、翌日以降無事で居られる筈がない。仲人をしてやろうか、なんていうのは序の口だろう。

「あの・・・此処で寝て・・・良いですか?」
「?!?!」

 思わず大声を出しそうになって慌てて飲み込む。前に目が覚めたら横で寝ていたってことはあったが、あの時は熱を出して寝込んでいたし、井上が布団に潜り込んだことに気付かなかった。
 そもそも警戒心が無いにも程がある。熱で動くこともままならなかった前とは違って、今の俺は健康体だ−変な解釈も出来そうな言い回しだが−。そうでなくても、緊張と恐らく理性と欲望の衝突でろくに眠れないだろう。以前の俺なら兎も角・・・。

「じ、自分の部屋で寝てれば良いだろ?」
「・・・寝てたんですけど・・・起こされたんですよ。」
「?」
「あの・・・その・・・隣の部屋の物音で・・・。」
「・・・え?」

 思わず聞き返しはしたが、どういう意味かは嫌でも分かる。・・・仲が良いのは構わないが、時と場合を考えた方が良いのでは・・・。

雨上がりの午後 第236回

written by Moonstone

カチャッ・・・キィ・・・

 ・・・ん・・・何の音だ?

カチャッ・・・サッサッサッ・・・

 何かが擦れ合うような音だな・・・。近付いてくる?何で・・・?何が・・・?

2000/6/22

[「水無月便り」にご応募いただいた皆様へ]
 日記で業務連絡というのもちょっと変ですが(^^;)、ご応募いただいた方々には本日付で御礼状を発送しました。もし未着の場合はお手数ですがメールでご連絡くださいますよう、よろしくお願いいたします(_ _)。

[毎日、酒を飲んでま〜す]
 以前は翌朝に影響が出やすいので(二日酔いというほどではないですが)週末以外は自宅で飲むことはまずなかったのですが、此処最近はその逆になっていて、食べる量が減る代わりに飲む量が増えてきてます。具体的に言うと某社のカンチューハイ500ml缶が1日1缶空になります(爆)。このお話もしているときも、傍らにもうすぐ空になりそうな500ml缶があったりします・・・って、もうないや(猛爆)。
 あまり良くないことは分かっていますが、酒を入れないと深く寝られないので止むなしです。とはいっても、それでようやく3〜4時間連続なんですが(汗)。昨日5時間連続で寝られてじ〜んとしていたくらいです(^^;)。

[さくらが終わるのか・・・]
 花の「さくら」はとっくに葉桜になってますが(笑)、「CCさくら」も「なかよし」の連載が終了して、劇場版で区切りを迎えるそうです。某所で知って(知らされて?)以来、約半年。コミックスは現在出ている11巻まで全て買い揃え、数年来チャンネルを合わせた記憶もない教育テレビを見るようになり(笑)、コンテンツにも加えた作品が大きな区切りを迎えてしまうのは残念なことです。
 で、劇場版を見に行くかどうか・・・。どういう展開になるか気になるところなので行きたいというのが正直な気持ちなんですが、予想される観客の年齢層を考えると、映画館に近寄るのも躊躇してしまいます(笑)。コミックスを買うときみたいに周囲に人が居ないのを見計らってダッシュで買って逃走するなんてことは難しいでしょうし・・・(^^;)。数人で固まって行くのがもっとも適切(?)な方法かな、と思ってます。まだまださくらフリークには遠いですね(笑)。
 階段を昇り切ったところで直ぐ正面に見えるドアの向こうに井上が居る・・・。だが、もう寝ているだろう。一抹の後悔と自己嫌悪を感じつつ、俺は向かって右側にあるドアを軽くノックする。

「潤子さん。お風呂空きました。」
「はぁい。ありがとう。」

 潤子さんがドアを開けて顔を出す。

「今日はお疲れ様。明日は起こしてあげるからゆっくり寝てて良いわよ。」
「はい。分かりました。」
「私が起こすより晶子ちゃんに起こして欲しいかしら?」
「ま、またぁ・・・。」
「それじゃ、お休みなさい。」
「お休みなさい。」

 照れとも困惑とも就かない複雑な感情を抱えて、俺は部屋に戻る。十分暖房が効いた室内は快適だ。だが、布団に潜って体温が行き渡れば暖房は勿体無いので切っておく。付けっぱなしで良いとは言われているが、日頃の生活で染み付いた貧乏性は終夜電力を消費するようなことをするのは気が引ける。まして他所様の家なら尚更だ。
 タイヤの空気が抜けるような排気音と共に通風孔が閉じていく。脱いで持ってきた服をビニール袋に放り込んでから電灯のスイッチを切る。暗転してカーテンの近くが僅かな陰影を見せる以外は黒一色になった部屋の中央に敷かれた布団に潜る。少しひんやりとしているが、じきに離し難い温もりを含むことだろう。

 ・・・布団が人肌の温もりを帯びてくる。風呂にのんびり浸かって寝る準備が整ったことで緊張の糸が解けたのか、急に強い眠気を感じる。起き上がるのはおろか、考えることも億劫に感じる。・・・起き上がって何をしようと?・・・今から井上のところに行って何か言おうとでも?・・・それじゃ夜這いだ・・・。

井上が風呂が空いたことを知らせた後も佇んでいたのは、この機会に俺から返事が聞けるのを期待してたからなんじゃ・・・。

・・・もしそうだったとしたら、返事できたんだろうか・・・?

・・・さっきだって・・・目もまともに合わせられなかったくせに・・・。

・・・。

Fade out...

雨上がりの午後 第235回

written by Moonstone

 また挑発まがいの一撃を食らってしまった。足音が遠ざかって聞こえなくなったのを確認してドアを開ける。暖房が効いているとはいえ湿気を多分に含んだ風呂場より脱衣場の空気はやはり冷えているように感じる。
 俺は手早くタオルで身体を拭うと服を着て、静まり返った階段を駆け上がって行く。風呂で蓄えたこの火照りが消えないうちに床に就くのが理想的だ。

2000/6/21

[記念プレゼント応募受付は本日終了しました]
 当初は締め切りを6/25としたのですが予定を切り上げて、本日予告なしに受付を終了しました。理由の1つはMIDI製作の都合上、そろそろ必要数を把握したいということ、もう1つはこれ以上応募が増える気配がないからです。
 これより前にログを見たのですが、最後のご応募から1週間以上増えてなかったんです。応募数の増加が見込めない以上、応募戴いた方への準備に集中するべきという結論に達して、今回の予告なしの終了に踏み切りました。ですから、終了というより打ち切りというべきでしょうか。

 ご応募いただいた方へ・・・併せて添えていただいたメッセージやご要望などには、個別に回答いたします。直ちに発送するべく準備に取り掛かりましたので暫くお待ちください。また、今回ご応募いただいた方全員の水無月便りにはMIDIが付きます。名前のごとく水無月の期間中に発送できるように努力しますが、菜月にずれ込んだらご容赦願います(汗)。それでも菜月便り、と名称変更するようなことはありませんので(爆)。
 ・・・え?MIDIは先着数名様のみじゃなかったかって?・・・はい、そのとおりです。つまりはそれだけ応募数が少なかったということです(猛爆)。

 トップページをご覧戴ければお分かりのとおり、「PACイベント情報」のコンテンツが綺麗さっぱりなくなりました。つまりは今後PACでこのようなイベントを行うつもりはないということです。
 今回や以前の結果から、私には集客できる企画を立案する能力がないこと、サンプルとして用意した作品の魅力が乏しいことがはっきりしました。それに企画立案や準備の手間隙を考えると、今後の実施はもはや徒労でしかないというのが、私が行き着いた見解です。コンテンツの削除は開設以来初めてのことですが、この見解から今後更新の予定がないことが明らかなコンテンツを残す必要はないということで、削除した次第です。

・・・少々短絡的行動かもしれませんが、以上ご了承願います(_ _)。
 女は俺に害を成すもの、と言わんばかりの強固な先入観という壁が一応消えた今、井上は良い女だと思う。変な意味じゃなくて・・・良いところを見せようとかいう虚勢を張る必要がない。元々嫌われようとしていたからかもしれないが、自分でも分かるほどぶっきらぼうな態度でも自分を気遣うなんて、智一が言ったようにそれこそ今時お目にかかれないタイプだろう。少なくとも井上と付き合って早々にこんな筈じゃなかった、と思うことはないだろう。
 ・・・だから余計に「それから」がどうなるかが引っかかる。女に縁遠い俺には数少ない折角の機会だ。このままずっと付き合っていきたい。だけど、今までその願いは悉く反故にされてきた。恐らく最初で最後だと思っていたあの付き合いも、相手の一方的な心変わりで呆気なく切られてしまったんだから・・・。

 そんなことになるくらいなら最初から付き合わないほうが良い。むざむざ同じ痛い思いを繰り返し経験する必要はない。そういう思いが確かに自分の何処かにある。井上の接近そのものを拒否する気持ちはなくなったが、どうしても過去の経験から新しい一歩を踏み出すことに躊躇してしまう・・・。
 じゃあ、「私はずっとあなたと添い遂げます」なんて念書でも書かせるか?それこそ馬鹿馬鹿しい話だ。紙切れの約束が絶対のものなら、この世の中もっとましになっている筈だ。誓いの三々九度の杯を粛々と交わしたカップルでも呆気なく離婚するなんて珍しい話じゃない。
 誓った時の気持ちが色褪せて別の何かに負けてしまわないように続けていけるか・・・俺にはその自信がない。それが返事を引き延ばしている最大の原因なのかもしれない。

「祐司君。大丈夫?」

 不意に外から声が聞こえる。湯煙で曇ったドアの向こうに人影が見える。声からして潤子さんのようだ。

「はい。寝たりしてませんよ。」
「なら良いんだけど・・・祐司君って割と長風呂なのね。」
「そうでもないんですけど・・・。」
「だって、もう30分くらい入ってるわよ。」
「え?!そんなに?」

 自分の感覚では10分くらいかと思っていたが、文字どおりどっぷり浸かっていたわけか。俺は風呂から上がって出ようとするが、さすがに潤子さんが居るところで出ようという気は起こらない。堂々と出るなんて変質者みたいだ。

「あの・・・今から出ますんで。」
「あ、じゃあ私が居るとまずいわね。晶子ちゃんなら見せておいた方が良いかもしれないけど。」
「潤子さん!」
「上がったら呼びに来てね。」

雨上がりの午後 第234回

written by Moonstone

 風呂に浸かりながらまた思考の網を巡らせる。意識的に自分で立てない限り音がしない程の静寂は思考にはうってつけだ。思考といっても内容は「俺はどうしたいのか」という命題の回答を探すことだけなんだが・・・。
 どうしたいのか・・・もっと明快な表現をすれば、井上の告白を受け入れるかどうかということだ。・・・何だか傲慢だな。井上と付き合いたいかどうか、といえば良いだろうか・・・。まあ結局はそういうことだ。

2000/6/20

ご来場者49000人突破です!(歓喜)

 50000人まであと少しと迫りました。なのに最近の、特に今月に入ってからの更新量は何なんでしょうね・・・。我ながら情けない限りです。投稿を戴いたのに掲載準備は間に合わず、予定していた第2創作グループ、SSグループ二つは全く進まず・・・(溜息)。出てくるのは後悔ばかりです。

[で、今日の日記なんですけど・・・]
 絶不調の一言です(爆)。いえ、冗談ではなく・・・朝から晩まで胸の痛みが酷くて、朝はどうにか何時もどおりでしたが、昼は食べず、夜は半ば無理矢理腹に押し込みました。食べないと益々体力が落ちてくるので・・・。
 このところ食事に限らず、楽しいとか嬉しいとか思うことが本当に少なくなったと思います。今日なら仕事でも1つがあと僅かのところ(部品取り付け)になって1つは一応完了(実際の使用状況を見るだけ)、もう1つも完了に向かって進み始めたので喜ぶべきなんでしょうが、どうしてこんなに時間がかかるのか、とかいう考えが先に出てきて問題点を洗い出すことばかりです。JewelBoxのレスにも書きましたが、こういう精神状態に何か良く効くものがあったら教えて欲しいです。

[それが出来れば苦労はしない!]
 上に関係することなんですが、日曜のTVで心の疲労回復をテーマにした番組をやってました(この時間はラジオを聞く習慣がない)。「現代社会はストレス過多」・・・そんなことは百も承知。「心の柔軟性をつけよう=>視点を変えよう」「心の筋力をつけよう=>傷つくことを恐れず人間関係に踏み込もう」・・・それが最初から出来てれば心の疲労が溜まることはないのであって、所詮このような状態を経験したことのない「おめでたい」人間の作ったお説教としか思えませんでした。まあ、体育会系社会に同列の視点を期待する方が無駄なんですが。
 良い方に考えられないから、といいますが、そもそも更なる向上を目指すにはこれまでの成果や自分自身をも懐疑的に見なければならないし、そういう「もっと上へ」「もっと上を」の社会を大方の人は待望してるんでしょう?マスコミや似非評論家が言う「競争社会」「実力主義」の言葉どおりに・・・。
 髪を洗ったのか茶色がかった髪がしっとりとしていて輝きを増し、一部が頬や首筋に張り付いている。ほんのりと赤味が差した肌は頬だけでなく、首筋やV字型の胸元にまで広がっている。
 ひととおり「観察」が終わると、いけないとは思いつつもどうしても胸元に視線が向いてしまう。少し井上が前屈みになれば、前みたいに胸元の奥が見えるのに・・・って、何考えてるんだ俺は?!

「?どうかしました?」
「い、いや、何でもない・・・。」

 その場で固まっていたみたいだ。俺は井上の胸元に固定されていた視線を逸らして着替えとタオルといった荷物を取りに行く。鞄の中をごそごそ弄って荷物を取り出して部屋を出ようとすると、まだ井上がドアの前に立っていた。

「・・・どうしたんだよ。」
「・・・安藤さん。あの・・・。」
「・・・。」
「・・・。」

 息苦しい沈黙が垂れ込める。逸らした視線を時々井上に向けると、井上は俯き加減でやや床の方に視線を泳がせているようだ。何度目かの繰り返しで視線が合う。と同時に磁石が反発するように視線を逸らしてしまう。反射的というか無意識というか・・・。視線を合わせたくないんじゃない。合わせる心の準備が・・・未だに出来ていないというべきか・・・。

「・・・湯冷めするから・・・早く部屋に戻った方が良い・・・。」
「・・・そうします。」
「おやすみ・・・.」
「おやすみなさい・・・。」

 ありがちなやり取りを終えると井上はくるっと背を向けて歩いていく。俺は気まずさを感じながら、少し離れてその後に続く。階段は井上の部屋の近くにあるから、そこまでは井上の背中を見ながら歩いていくしかない。

 階段への分岐点に差し掛かる。井上は振り向かずに俺に少しだけ横顔を見せて部屋に消える。儚げで・・・悲しげな横顔・・・。ドアが静かに閉まった後も、俺は階段の手前で立ち止まったままドアを見詰める。さっき井上が何を言いたかったのか、否、俺に何を望んでいたのかは何となく分かる。・・・違う。立場を変えただけで同じことを考えていたんだと思う。
 ・・・風呂に入ろう。廊下で今更推測を巡らせてももう遅い。俺は足元に注意しながら階段を下りていく。風呂の熱で気持ちも固まれば良いんだが・・・。それより前に、俺自身に気持ちを固めようという意思があるかどうかを確かめた方が良いかもしれない。

雨上がりの午後 第233回

written by Moonstone

「お風呂、空きましたよ。」
「あ、ありがとう。」

 その短いやり取りの間に俺の視線は井上の全身を動いた。半纏の下には前にも目にしたピンクのパジャマがある。

2000/6/19

[戻ってきました]
 土曜日早朝から出かけることになった理由は法事。先の連休の終わりに亡くなった祖母の四十九日法要です。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、四十九日法要は死者の霊が週1回の審判を経てあの世に旅立つ日ということで、初盆までの一連の法要の中でかなり重要視されています。よって親類も仕事など止む無い場合以外は全員出席。私もそれなりに非常事態の中にあるので休みたかったんですが、行くと通知してあったので服装整えて出発。
 法事そのものは2時間程度で、前半は経文を聞いて後半に読経に加わるというものでした。その後の会食が3時間くらい。忌明けなので刺身とかが出て来る純和風。最近食べる量は減っていますが飲む量が増えてまして、今回もその傾向どおり相当量のビールを飲みました。前日1時間半しか寝ていないし最近の慢性的な睡眠不足もあって、帰宅(実家)後間もなくばったり(^^;)。それでも4時間以上連続で寝られず、12時間以上寝ていた割にはあまり寝たという感覚がありません。

 そして夕方にこちら(今の自宅)に帰宅。その後も断続的に寝たり起きたりをしていたので「更新準備・・・何です?それ(爆)」状態で今お話をしています(汗)。「CCさくら」も半分以上見逃してしまったし・・・。この機会にしっかり休んでくるつもりだったのですが、結局大して変わりないですね。実際、今は胸の他に頭も痛いし・・・。
 本当はサーバー移転後ほぼ一月ということで更新したいことは山とあったのですが、その1割も出来てない(出来なかった)のはがっくりしています。やりたいことはあってもそれが出来ないというのは・・・。
 住宅街の中にあるとはいっても、この店のある場所は交通量の多い通りからは離れているから、車の走行音も殆ど聞こえない。聞こえる音といえば、意識的に立てる呼吸音くらいの静寂だ。
 天井を見ながら俺はまた考える。本当に「何もしないで居る」なんてことは、余程の人間じゃないと不可能だろう。ぼうっとしてるっていうのは単に本人以外からそう見えるだけで、本人は何か考えているんだろう。・・・実際、ぼうっと横になっているだけにしか見えないであろう俺も、こうして考えている。動物なんて何も考えていないようで、実は常に思考の大海に意識を浸し続けているのかもしれない。

俺は・・・どうしたいんだろう・・・?

後はこのまま風呂に入って寝るだけの筈だ。だが、俺には終われない筈の理由がある。井上の告白に対する返事をどうするか、ということだ。コンサート前の音合わせで一つ屋根の下で夜を明かすことになったことは、気持ちをはっきりさせて井上に伝える絶好の機会なんじゃないか?
 井上と二晩夜を過ごしたことはある。ただ、あの時俺は熱を出して寝込んでたし、井上はその看病のために夜通し居てくれた。それに自分の中にそんな気持ちがあることに気付いたばかりだった。今は・・・違う。部屋は違うがほんの少し・・・10メートルにも満たない廊下の先に、壁数枚と幾つかの空間を隔てた先に・・・井上が居る。そして、霧でぼやけた向こうにある気持ちが見えることも、勇気を出して霧に手を突っ込めば、その気持ちが何であるか分かるだろう。これからの展開は・・・俺次第というわけだ。

 実際「好きだ」と一言言ってしまえば済むことだ。それで万事丸く収まるだろう。井上は喜ぶだろうし、「付き合ってくれ」と添えたら感激するかもしれない。だが、半ば結果が分かっていて「好き」が強く深くなっていく過程は前にもあったことじゃないか?それで後であんなことになったら・・・俺はまた同じ思いをしなきゃならない。もうあんな思いは御免の筈だ。
 だが・・・全てが前と同じなのか?・・・否、そうじゃない。あの時は初めて「好きだ」と言われたことに対する感動が先にあった。今度は・・・最初も、今日までの過程も、井上に対する印象の変化も・・・違う。

「安藤さん。」

 軽いノックの音の後に井上の声が聞こえて来る。俺は思考を中断して跳ね起き、ドアを開ける。潤子さんのときと同じだ。

雨上がりの午後 第232回

written by Moonstone

 俺は潤子さんに言われたとおり、井上が呼びに来るまで部屋で待つ。暇潰しになるものは何も持ってこなかったから、布団に横になって天井をぼんやり眺めるくらいしかすることはない。普段バイトから帰ると練習やらアレンジやらで音に浸り切っているから、音がない夜というのは記憶にない。

2000/6/17

[明日はお休みします]
 所用で実家へ戻るのですが、スケジュールが不明瞭で日帰りできるかどうか分からない&そんな体力がないというのがその理由なのですが、病気療養のため・・・というのもあながち間違いではないかも(爆)。今週は胸の痛みが酷かったし(今でも酷い)、疲れていても睡眠障害でろくに寝られないし・・・。
 PCとネットから離れて大人しく寝てきます(^^;)。もっとも日曜に戻ったら、定期更新の追い込みで壮絶な状況になるのは目に見えてますが・・・(汗)。何せ今週定期更新でアップする予定だったものが、殆どといって良いほど準備できてませんので(大汗)。まともに更新できるようになるのは何時の日になるやら・・・。

[一緒にしたいこと]
 唐突ですが、このキャプションはもし自分に付き合っている相手がいたらということを想定してのものです。単にふと思っただけです(笑)。「SALAD DAYS」の影響ですかね(^^;)。そう言えば今週の話はちょっと興醒め。ああいう男性をコケにするような話は、某対抗(?)雑誌の連載だけにして欲しいです。先週までの前後編が良かっただけに尚更。
 それはさておき・・・、私が一緒にしたいのは料理と買い物ですね。うーん、日頃の生活が見えますね(笑)。献立を考えながら材料をああだこうだ話しながら選んで(事前には決められない)袋を下げて帰って、一緒に台所に立って調理して一緒に食べる・・・。う〜ん、至福(笑)。
 家事は分担とか女性団体は言いますが、あれは結局自分がしたくないから(女性は男性より能力が上という一方的な思い込みもある)男性に押し付けようとしているんでしょう。家事という生活の基本行動に仕事のような原理原則を適用しようとすること自体馬鹿げた話だと思うんですが・・・。
 荷物が置きっ放しになっていた部屋はさすがに冷える。白熱した音合わせの余韻で体が火照っているとはいえ、このままだと風邪をひきかねない。事前に暖房は付けっぱなしで良いといわれているので−自宅では考えられないことだ−、俺は迷わずエアコンのスイッチを入れて布団に横になる。暖かい風が部屋を駆け巡り始めるが、暖かくなるにはもう少し時間がかかりそうだ。暖まった頃に風呂に入る順番が回ってきそうな気がする。

 風呂に入るといえば・・・他所の風呂に入るなんて数ヶ月ぶりだ。一人暮らしを始めてから実家には一度も帰ってないし、旅行に出かけたりもしていない。まあ、殆ど大学とバイトに染まった日々だったから当然なんだが・・・。
 一番最近の記憶は・・・3月の終わりに優子と二人きりの旅行に出たときか・・・。2泊3日の温泉旅行。勿論互いの親や友人には秘密で−ばれたらどうなるかは考えなくても分かる−二人だけの時間を満喫していたな・・・。揃いの浴衣を着て露天風呂に行ったり、商店街に買い物に行ったり・・・。
 あの時は・・・終わるなんて考えもしなかった。これから先にあると信じて疑わなかった二人の未来を考えていた。でもそれは、所詮霧に描かれた幻を追っていただけだったというわけか・・・。

「祐司君、起きてる?」

 ・・・またあの女のことを考えて思考の深みに嵌っていた。俺は素早く体を起こして立ち上がり、ドアを開ける。

「あ、はい。」
「お風呂の準備できたから、順番が来たら入ってね。」
「順番って・・・?」
「祐司君と晶子ちゃんからよ。私とマスターはその後でゆっくり入るから。」

 何か思わせぶりな台詞だ。もしかして一緒に入っているんじゃないのか?

「今、晶子ちゃんが降りて行ったから、急いで行かないと・・・。」
「な、何でですか?!」
「冗談よ。お風呂から出たら私とマスターの部屋に呼びに来てね。」
「分かりました。・・・声が聞こえたら遠慮しますんで。」
「そうして頂戴ね。」

 逆襲したつもりだったがあっさりと切り替えされてしまった。人生経験の違いが出たようだ。

雨上がりの午後 第231回

written by Moonstone

 それぞれ片付けや掃除をしてから、風呂を沸かすという潤子さん以外は全員2階に上がる。マスターと潤子さんの部屋は井上の部屋の隣だった。俺だけ部屋が少し離れているのは何か意味があるんだろうか?まあ、大して気にすることでもないか・・・。

2000/6/16

[疲れたぁ・・・o(_ _)o]
 顔文字のようにへばってます。日付が変わる少し前に帰宅してから、今日の更新をしようと思って途中横になったらこんな時間になってました(汗)。体力的にもこのコーナーの更新すらぎりぎりの状態で、定期更新の準備などとてもおぼつきません(汗)。大きな仕事を一つ、完成まであと少しのところまで漕ぎ着けましたが、心身と引き換えにした結果のようなものです。いや、本当に・・・。連載を多少書き溜めてあるのがせめてもの救いです。
 いっそ落ち着くまで更新を停止した方が良いのかもしれませんが、何分ずぼらな私が一度継続していたものを止めると、復活させるのは容易ではありません。更新の量が当初より格段に落ちている最近の現状を考えると、せめてここくらいは、という気持ちもあります。何にしても、このお話終わったら、もう一度寝ます。寝起きのせいか頭がぼうっとするので・・・(^^;)。

[歌と恋愛の関係]
 現状報告が続いて面白みがないので(日記でウケ狙うのも何ですが(^^;))、ちょっと雑談でも・・・。この連載でも歌がいくつか登場しますが、歌詞を見てみると十中八九は恋愛がらみなんですよね。歌に乗せて想いを・・・というのは別に今に始まったことではなくて、日本でも古代にそういう習慣がありましたから(あれは和歌ですけど)、ある意味伝統ある行為といえますね。
 歌詞と恋愛が密接な関係にあるのは、人の心に占める恋愛の比率がそれだけ大きいということの表れなのかと思います。自分の今の気持ちを代弁するもの、或いは共感できるものを求めるのは多かれ少なかれ誰にでもあることですし、恋愛に多感な時期をターゲットにした商業戦略が展開されるのもそういう真理を踏まえているからではないでしょうか?
 或いはそういう気分に浸ってみたい、という願望もあるんでしょうね。恋に恋するって言葉もあるくらいですし。どちらかというと、これの比重の方が高いかもしれませんが・・・。
 オーバーアクション気味の−「見せる」ためだろうが−マスターは勿論、井上も潤子さんも額に汗が浮かんでいる。マスターや俺はまだしも、井上や潤子さんが演奏で汗をかくなんて珍しい。それだけ熱を帯びてたということか。
 井上は額の汗を指先で拭う。首をやや俺の方に傾けて吐く軽い溜息。ほんのり紅く染まった頬。妙に艶かしいその様子に俺は思わず見とれてしまう。こういうさり気ない仕草に現れる色気ってのはわざとらしさがないから、自然と気を惹かれてしまう。

「あら、祐司君。何見てるの?」

 潤子さんに言われて急に我に帰る。振り返ると、ピアノから離れた潤子さんが、井上に似た悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見ている。

「べ、別に何も・・・。」
「あら、視線は何処かにくぎ付けになってたみたいだけど。」
「!そ、そんなことは・・・!」
「ふふっ、隠しても駄目よ。ちゃんと見てたんだから。」
「・・・。」

 返す言葉が見当たらない。ピアノは俺の斜め後ろにあるんだった・・・。俺が井上の仕草に見とれていた一部始終は、潤子さんから丸見えだったんだろう。

「んー?何の騒ぎかな?」

 直ぐ近くで騒いでいたら、それもこの手の話と来れば気付かないわけがない。マスターと井上が疑問符を頭上にいっぱい並べて、とりわけマスターは顔には好奇心の色を浮かべてやってくる。

「誰かの視線が誰かにくぎ付けになってたってことよ。」
「ほほう。もっと詳しく聞きたいな。」
「べ、別に聞かなくても良いことです!」
「本人を目の前にしてもかな?」
「え?本人って?」
「何でもないから・・・。」

 事情が良く分かっていないらしい井上が首を傾げている。俺は視線を横に逸らしてはみるが、時既に遅し。ひたすら誤魔化しと沈黙で押し通すしかなさそうだ・・・。

・・・でも、あの井上の横顔は魅力的だったな・・・。

 マスターと潤子さんの一方的な追及と、俺の無能代議士みたいなノーコメントと誤魔化しの連発がようやく収束した。井上は分かったような分からないような様子だったが、俺としては分からなくてほっとしたのと同時に、分かったらどうなっていただろう、なんて考えたり・・・。ややこしいことこの上ない。

雨上がりの午後 第230回

written by Moonstone

「皆、テンポがしっかり取れてたわね。こういうテンポが遅めの曲は意外とずれやすいんだけど。」
「シーケンサのリズム音があったからですかね?」
「まあそれもあるだろうけど・・・練習しただけのものになってるってことじゃないか?」

2000/6/15

[眠いです・・・(-_-;)]
 そりゃ、連日の長時間労働+ここの更新で疲れが溜まっているところに、ろくに寝られないんだから当然でしょう(汗)。いや、それでも今まで寝られなかったのが大問題なんですが(大汗)、実際ここまで追い込まないと寝られないんですよね・・・。このお話をしている間も頭が朦朧としてます。仮眠程度で解消できそうにないですが、やることは存分にあります。ええ、定期更新の準備です。
 今日の更新でその定期更新予定日をシャットダウンより後ろにずらしたのは、シャットダウン前まで仕事が今のような状況が続くことを考えたら、週末を挟まないと(1日はシャットダウンの理由で潰れますが)とても更新できないと判断したからです。作るのにめっぽう時間がかかる私は、他所様よりたっぷり余裕がないとまともに作品が製作できませんからね(威張れることではない)。

 それに「水無月便り」の用意もあります。サンプルでは写真+詩篇、あと先着数名様にMIDIとしていますが、詩篇の方は短編小説になってお手元に届くかもしれません。もっとも内容がそれぞれ異なるという方針はそのままですのでご安心下さい。
 明日で受付開始から1週間になります。応募総数によってはご応募いただいた方全員にMIDI付きの便りが届くことになりますが・・・つまりは応募総数が5名以下だったということになるので(「先着数名様」ですからね)、あまり考えたくないですね(^^;)。
 そしてピアノの駆け下りるリフに続いて、井上のヴォーカルと交代で急に自己主張を始めるリズム音とマスターのサックスが加わる。バッキングを担当する潤子さんのピアノは、マスターのサックスに阿吽の呼吸で絡む。当然店が終わって俺と井上が帰ってから練習を重ねてきたんだろうが、やっぱり互いにとって最高のパートナーなんだな・・・。

俺と井上は・・・他人から見てどうなんだろう?

 マスターのサックスと交代で井上のヴォーカルが再び加わる。今度は声の固さが随分取れている。英語が得意というだけあって明瞭な発音と良い感じの抑揚が、横で聞いていて心地良い。普段の練習じゃ音量全開、というわけにはいかないから、思う存分歌えるというのも張りのある声に結びついているのかもしれない。

 暫くヴォーカルメインが続いてから、今度はヴォーカルとサックスが掛け合いをする。これは鳥肌物の出来だ。初めてとは思えないほど上手く融け合っている。・・・何だかちょっと悔しい気もする。これは嫉妬というんだろうか?ただ、
 掛け合いが終わるとマスターのサックスソロが始まる。かつてジャズバーを席巻したというだけあって、文句のつけようがない。マスターがフットスイッチでエフェクタを操作しての深めのリバーブが色っぽい効果を醸し出す。サックスは元々色気のある音を出す楽器だが、エフェクタを上手く使うとさらに色気が増す。
 聞き惚れてばかりはいられない。今まで控えめだった俺のギターも、マスターとの掛け合いでストロークを音量を上げて前面に出ないといけないからだ。足元のボリュームを操作してタイミングを見計らって・・・。オッケーだ。バッキングといっても気は抜けないのは勿論だし、ここで失敗したら今までの流れがぶち壊しだ。

このまま行けば・・・大丈夫だろう。

「うん。予想以上の出来だったな。」

 エンディングまで滞りなく進んだ後、サックスのリードを口から離したマスターが満足げに言う。俺も同感だ。バンドをやってた頃でも、新曲の最初の音合わせがすんなり行くことはまずなかったと言って良い。誰かのテンポがずれたり、譜面を覚えきれずに演奏そのものを失敗するなんて珍しくなかった。

雨上がりの午後 第229回

written by Moonstone

 張り詰めた緊張感の中続いたイントロが終わると、井上の歌声が流れ始める。・・・ちょっと声が固いか?だが、上ずったり妙な震えが混じるようなことはない。
 時々俺のギターとシーケンサのリフが入るとはいえ、殆ど井上のソロのようなものだ。観客の目と耳が集中するというプレッシャーに晒されるが、上手く歌えれば拍手喝采は間違いない。

2000/6/14

[MIDI作ろうにも・・・]
 帰りが遅すぎて体力的に辛いです(泣)。こういうときに限って本業が立てこんでくるんだもんなぁ・・・。ただ手を拱いているわけでは勿論なくて、休息とかで少し余裕が出来る度に、フレーズを何度も頭の中で鳴らして形を整えています。時間が確保できたら直ぐにキーボードで実際の音に出来るようにしておくためです。
 今のところ3曲の外形が頭の中で出来上がってきました。週末の徹夜明け早朝撮影(笑)で用意した写真から浮かぶイメージをどう音に表すか・・・。そして自分の描いたイメージを音に表したら、聞く人がそのイメージを思い浮かべることが出来るか・・・。今回の一番の課題はここにあると思います。このお話をし終わった後、一度キーボードに向かおうと思います。

[撮りたい写真]
 風景写真をとるようになって半年を過ぎました。最初は空を主体に撮ろうと思っていたのですが、やがて鳥や船を撮り、最近では花まで(笑)。季節ものは一度撮影時期を逃すと1年は待たなくてはならないので、やっぱり撮っておきたいという気になります。
 他に撮りたい風景はというと、まずは砂浜のある海ですね。この夏、多少でも余裕を見つけて撮影に出かけようと思います。で、海と言えば水着の女の子と連想されるでしょうか?(爆)私の場合、水着よりワンピースの、風景に溶け込める人をモデルに、砂浜でポートレートを撮ってみたいです。でも、ポートレートを撮りたいからモデルになってくれと頼んだところでナンパと間違われるか、スカウト以外お断りって態度をされそう・・・(汗)。
 それぞれそれなりに演奏慣れしているとはいえ、4人のアンサンブルなんて初めてだ。練習はしてきたがもう一人のメンバーともいえるシーケンサを含めて他のパートと上手く合わせられるんだろうか・・・?
 客席にいた井上と潤子さんがステージに上がって、それぞれの「定位置」に就く。サックスを何度か振ったり椅子の位置を確認したり、喉に手を当てたりチューニングをしたりと、自分が言うのも何だがそわそわと落ち着かない様子だ。やはりこのメンバー初のアンサンブルを前に緊張しているんだろうか?

「準備は良いかな?」
「はい。」
「何時でも良いわよ。」
「大丈夫です。」
「それじゃ事前の打ち合わせどおり、祐司君がシーケンサを始めて2小節分の後ピアノのリフが入る4小節、それからヴォーカル。井上さんはギターとシーケンサのリフを聞きながらしっかりテンポを取って。一応リズムはあるけど、上位の関係で聞こえないかもしれないから。」
「・・・はい。」

 頷く井上の表情はやはり硬い。練習のときも最初の頃かなり戸惑っていたからな・・・。リズム音なしにテンポをしっかり取るのは思いのほか難しい。バンドをやっていたときもバラード曲の練習が一番梃子摺った覚えがある。

「大丈夫よ。今まで祐司君と練習してきたんだもの。」
「あ、そうだな。改めて言うことでもなかったか。」
「・・・。」
「・・・歌えます。始めましょう。」

 俺は返答に詰まったが、井上の顔には決意がみなぎっている。受け取り方の違いがもろに出たな・・・。だが、これで一先ず最初の問題、即ち不安になるあまり演奏を躊躇してしまうということは突破できただろう。始めるなら今だ。

「・・・じゃ、始めますよ。」

 俺は足元のフットスイッチを押す。『Secret of my love』でもあったような安っぽい音色のリズムが2小節分続いてから、潤子さんのピアノが高音部を使ったリフを奏でて−これはアレンジだ−ラジオの声を模したSE(Sound Effect:効果音のこと)が鳴る。実はこれ、ある音源のプリセット音色にあったりする。知ったときには結構驚いたものだ。

雨上がりの午後 第228回

written by Moonstone

「じゃあ、そろそろ『COME AND GO WITH ME』をやるか。」

 マスターがそう言って腰を上げる。いよいよ初の4人全員のアンサンブル『COME AND GO WITH ME』だ。井上はヴォーカル、マスターはサックス、潤子さんはピアノ、そして俺はギターとそれぞれの専門パートがある、このメンバーでのアンサンブルにはうってつけの曲だ。同時に問題や不安も多い。

2000/6/13

[一つの山は越えたけど]
 寝つきの悪い私をすんなり寝させてくれる原因の一つだった仕事がほぼ終わりました(今日の更新前にも居眠りしてました(^^;))。それ自体は勿論嬉しいことで、一つの「始まり」に(ある仕事の立ち上げ)深く関わって無事完成に漕ぎ着けたことは達成感を感じます。これがあるから今まで仕事を続けて来れたことは間違いないです。
 ですが・・・その後が良くない。疲労が相当蓄積していたので一度帰宅して一休みの後食事に出かけたのですが、あてにしていた店が悉く休業若しくは終了(怒)。ほんの2、3分の違いで考えていた食事にありつけず、彼方此方歩き回ること約半時間。歩いてみて見つけた店で食べました。でも、ぐったり疲れた身体では食べる気力もさして沸かず、「お疲れ様」のつもりが単に空腹を満たす通過儀礼みたいな感じでした。通常時の半分も食べられなかったな・・・。
 他愛もないといえばそうなんですけど、どうも何をするにつけても上手くいかなくて、気分が落ち込んでしまいます。せめて食べたり息抜きしたりするときくらい、希望どおりにさせてくれと思うのですが・・・。

[綾波展が始まりました]
 広報委員会のところに鎮座して久しいバナーが一つ。協賛リンクしている「綾波展」が本日からスタートしました。「Moonlight PAC Edition」で既報済みですが、第1SSグループの「魂の降る里」が推薦を受けて公開されています。是非一度足を運んでみてください(_ _)。しかし、次くらいで更新しないと推薦してくれた方や読者の皆様に申し訳ないな・・・(汗)。
 その後サイレンを暫く鳴らしてから、走り去るイメージを演出するようにボリュームを下げながら音程を変化させていく。ドップラー効果ってやつだ。ボリュームを操作するだけでかなり印象は変わる。さっきの動物の鳴き声の擬音にしたって、ボリュームの変化は重要な要素だ。これを取り払うとそれこそシーケンサでベタ打ちしたデータと変わりない。

「凄〜い。本当に救急車が走ってくみたいでしたよ。」

 ボリュームを絞り切ると、井上が目を大きく見開いて言う。拍手も忘れるほど驚いたらしい。臨場感がそれだけあったんだろうか?

「ドップラー効果が良いなぁ。」
「最初のサイレンが雰囲気出てたわ。時々あんな音するわよね。」
「ピーポーピーポーっていうサイレンはありがちなんで、こういうのも良いかなって。」
「楽器でこんなことが出来るんですね〜。本当に凄いですよ。」

 井上には擬音が余程新鮮だったようだ。俺にはちょっとしたことなんだが、それが人を驚かせたり喜ばせたり出来るものなんだと実感する。当然、その逆もあるわけで・・・少し前に経験したばかりだし、それが人の繋がりで難しいところだと思う。

「いっそ、コンサートの余興でやっても良いかも知れんな。」
「結構ウケるかも知れませんね。」
「ショートコントでもするか?俺と祐司君で。」
「コンサートじゃなくなりますよ、それじゃあ。」

 聖夜とやらでムードを演出するところでコントをやってどうするんだ?思わず苦笑いが浮かぶ。バンドをやってたときも、練習の合間にこういう他愛もない話で盛り上がったものだ。俺に話が振られる時は、もっぱら優子とのことだったが・・・。
 まあ、所謂思春期の男5人が揃えば自ずとそういう話になるだろう。とりわけ彼女持ちは何かと注目される。何処まで仲が進んだ?なんて冷やかしの混じった質問は基本中の基本だ。子どもは元気か?なんて飛躍した質問もあったりしたか。言われても悪い気はしなかったな・・・。
 苦笑いの中に苦い溜息が混じる。何かある毎にあの女のことが浮かんできてしまう。井上が看病してくれたときに言ったように、過去の恋愛を忘れるなんて出来そうにない。過去を忘れて新しい未来を、なんて気軽に言う奴が居るが、それは余程物忘れが良い奴に違いない。過去を踏まえて今を進んでいくしかないのかもしれない。そしてむしろそれが自然なことなのかもしれない・・・。

雨上がりの午後 第227回

written by Moonstone

 マスターと潤子さんの後押しを受けられたら、もう俺に逃げ場はない。俺は背後のラックにあるエフェクターを操作して、軽めのオーバードライブを基本に適当にギターをいじりながら音色を調整する。
 こんな感じかな、というところで調整を止めて、席に戻る。ちょっと臨場感(?)を増すために、鳴り始めのウ〜と音程が変動するところから始めてみる。

2000/6/12

ご来場者48000人突破です!(歓喜)

 このところなかなかのハイペースですね。にも関わらず、自前の更新が鈍って久しいのが心苦しいです。

[またまた行ってきました(笑)]
 前日に引き続き、応募受付中の水無月便りに必要不可欠な写真の撮影に早朝から出かけました。雨の風景を撮影したかった私には、前日からの雨が続いているという待ちに待った天候でしたので、道具を水に濡れないようにして出発。
 やはりというか、人影は殆どなくて(あってもお構いなしですけど)のんびりと撮影開始。今日は約1時間で100枚くらい撮影したので、2日合計で170枚くらいになりました。如何に不眠症気味といえどさすがに眠くなったので(笑)、ひと眠りしてから選考を重ねて最終候補に選ばれたのはその中の50枚くらい。今回は割と確率が高いですね。これくらい用意しておけばまあ大丈夫じゃないかな?と思っています。足りなくなったら選考で漏れた中から再度選考しますし、主催しておいてこんな弱気なのは何ですが、現在までの応募状況を見た限りでは、数十件も応募があるとはちょっと考え辛いんですよね。
 やっぱりイラスト(特に版権もの)の方がこういう企画には良いのかな・・・と思いますが、今の技量から応募締め切りまでに人に見せられるほど上達出来る筈がないですし、一度やると言って応募を始めた以上、今回の企画にかけてみようと思います。まだ2週間ほどありますしね・・・。

 そんなこんなで写真は一先ず揃ったので、残るは詩篇とMIDI小作品。詩篇の方は文芸を主力とするこのページの管理人としてはサクサク出来ないといけませんよね(^^;)。MIDIは・・・かなり心配(汗)。応募総数にも依りますが、最低5作品は作っておきたいところです。さてさて、気合を入れて楽譜とキーボードに向かいますか・・・。小作品といえど1曲ですから気は抜けません。
 疑念はそうして際限なく膨らんでいく。そして本当のものまで疑いと否定の黒い覆いを被せていく。・・・疑うことはそういうものだと前に思い知った筈なのに。あの女とのことに拘るあまり本当のことまで逃してしまったら・・・不幸に拘って幸を不幸に変えて呼び寄せるなんて・・・まっぴらだ。

「さあて。じゃあそろそろ続きを始めようか。」

 マスターが言う。俺は残りのアイスコーヒーを一気に飲み干すと同時に考え事を胸の奥に流し込む。今考えるのは日にちの迫ったコンサートのことだけにしておこう・・・。疑念になることは尚更な・・・。

 再開した音合わせは、俺とマスターのペアでの『JUNGLE DANCE』から始まる。この曲、演奏も然ることながら、動物の鳴き声をギターで表現するのが難しい。この擬音を再現するために音色を試行錯誤したり、音を採ろうと何度もCDを聞き返したものだ。普段のステージでは滅多にやらないが、意外に客の注目を引くのはこの擬音のせいだろう。
 楽器は多いがギターとサックス以外はシーケンサ任せだ。サックスとの細かいフレーズのユニゾンもあってなかなか歯応えがある。普段は店の雰囲気もあってかアコースティックギターの方が使用頻度が高い。バンドをやってた頃はギターといえばエレキギターだったんだが、変われば変わるものだ。

「さすが実力派コンビねぇ。完璧じゃない?」

 演奏を終わると惜しみない拍手と共に潤子さんが賞賛する。実力派といえば潤子さんは遜色ないと思うが、そういう人から誉められるのは嬉しい。

「動物の鳴き声って・・・安藤さんがギターで鳴らしてたんですよね?」
「ああ、そうだけど。」
「ギターであんなことが出来るんですか。凄いですね。どうやってるんですか?」
「早弾きと音程の操作、あと音色かな・・・。救急車の音とかも出来るよ。」
「やってみて下さいよ。ね?」

 井上が急に最初の頃を思わせる押しの強さを見せる。目を輝かせてせがむようなこの目には・・・抵抗する気がどうしても沸いてこない。これは本当に天性のものだな・・・。

「・・・でも、今は音合わせやってるから・・・。」
「ああ、それなら良いよ。今日は君達泊り込みだし、残りも少ないから時間的には十分余裕あるから。」
「気兼ねしなくて良いのよ、祐司君。こういう時はね。」
「・・・じゃあ、ちょっと待って・・・。」

雨上がりの午後 第226回

written by Moonstone

 体温の上昇が頬に現れた井上が少しむきになって誤魔化す。丁度気持ちの本質を考えていたから、そう言った井上の気持ちが本当のものなのかを疑問に思ったりしてしまう。

・・・疑念がさらに疑念を呼ぶ。疑念が無限に増殖していく。

2000/6/11

[行ってきました]
 応募受付中の水無月便りに必要不可欠な写真の候補を撮影するために、早朝から出発しました。前日肉体労働+奔走の後帰宅してから350mlチューハイ×3を空けつつ徹夜で今日の更新準備をしていた(昨日の日記を参照)ので、多少頭が重かったのですが(おいおい)、撮影に出られる時間が限られているので、行ける時に行っておかないといけません(^^;)。今回撮影した場所は前から候補地に選んでいたのですがちょっと遠くて、天候次第ではどうやって行こうか考えなければならなかったのですが(車持ってないので)、幸い雨は止んでいたので急いで出かけました。
 撮影はいたって順調。意外に人が居たのですがもう気にはなりません(笑)。今日の分で70枚くらい撮影しました。このうち2、3回の選考を経て水無月便りに使う候補になったのは10枚くらいです。残りはそのままディレクトリに蓄積されています。そろそろCDに焼かないとHDDの容量を圧迫してくるかな・・・。どんな写真を撮ったのかは、応募された方には特に楽しみを削いでしまうことになりますので秘密とします(笑)。
 最終的には最低2、30枚は用意するつもりなので、今日(お話の時点では明日)も朝から出かけるでしょう。趣向を変えて別の場所ですけど。で、もしそれだけ応募がなかったらどうするか?・・・第1写真グループの次回テーマに追加するくらいですね(爆)。あと、音楽も作らないと・・・(汗)。最近キーボードに向かってないから、小作品といえどもかなり力入れないと危ないな(爆)。グループの新作は完全に止まったままだし(猛爆)。
「出来るだけ生音のほうが良いですよ。」
「そりゃそうだ。ミュージシャン魂だねぇ、祐司君。」
「楽器の生演奏がこの店のウリなんじゃなかったでしたっけ?」
「そうかそうか。そうだったな。」

 マスターは思い出したように言って笑う。まったく暢気なもんだ・・・。しかし、バンドやってたときは全員最初から最後までフル稼働が当たり前だったし、それに加えてパフォーマンスと称して演奏以外に動き回っていたから、これくらいでへばってはいられなかった。否、へばっている暇さえなかったというべきかもしれない。
 俺はギターという、ヴォーカル同様に目立つパートを担当していたから尚更だった。ステージから客席にダイブして歩き回りながらソロを披露したり、そうでなくても客を煽ったりしたものだ。
 ・・・それを口実にするような感じで、優子の元にさり気なく近寄ったりもしたな・・・。もっとも周囲から見れば全く「さり気なく」はなかったようで−同じ学年の奴はほぼ全員知っていただろうし−、周囲から聞こえる歓声が冷やかしの声に急変したっけ。そんな中でも手拍子をしながら嬉しそうに、そしてちょっと誇らしげに俺をじっと見つめていたな・・・あの頃の優子は・・・。

・・・なのに・・・どうして・・・?
どうして・・・あんなことになっちまったんだ・・・?

 あれは距離の近さが生んだ、ひとときの甘い幻影に過ぎなかったんだろうか?もしかすると井上の俺に対する気持ちも、そして俺がまだはっきりさせられずにいる井上への気持ちも、あの時と同じものなんじゃないのか・・・?

「でも、もう少し安藤さんが出る間隔を開けた方が良いと思うんですけど・・・。」

 井上に対する疑念が心の大海に浮かんだ時、井上がそう提案をする。

「ああ、それなら今日は音合わせだか相当連続したけど、実際は数曲に1回の間が空くように調整しておくから心配要らないよ。」
「やっぱり祐司君が心配?」
「だって・・・安藤さんが居ないと演奏できない曲がいっぱいあるじゃないですか。」
「あら、理由はそれだけじゃないでしょ?」
「もう・・・、潤子さんてばっ。」

雨上がりの午後 第225回

written by Moonstone

「後は・・・俺と祐司君で『JUNGLE DANCE』、それと4人全員で『COME AND GO WITH ME』だな。」
「それにしても祐司君、ハードねぇ。ソロもあるしそれ以外にもバックもやるんだから。」
「ギターはピアノと同じでメロディもバックも出来る便利な楽器ですからね。」
「もっとシーケンサを使った方が良かったかな・・・。」

2000/6/10

[酔っ払いのトーク(^^;)]
 私は一人暮らしで家事があるのと翌日起きるのに支障が出やすいということで、自宅ではあまり酒を飲みません。今日(お話している時点では明日ですが)は早朝から写真撮影を予定しているので、尚更飲まない方が良いのですが・・・現時点でチューハイ350mlを二缶空けて、三缶目に入ってます(爆)。五缶買ったうち二缶消費するのに3週間以上かかったのに、残り三缶を1日で消費しようというのか?(^^;)
 まあ、今の心境がCMか何かみたいに「飲みたいときもある」ってやつなので・・・。人が期限今日中の仕事で奔走している時に隣の部屋から飲み会の歓声が聞こえてくるんですものねぇ・・・。終業時間はとっくに過ぎてるし楽しむのは良いんだけど、何でこうも差がつくのか・・・(溜息)。水曜あたりから胸の疼きが酷くなる一方なのも物凄いイライラ感に拍車をかけているのかもしれません。神経症の可能性が高い今、イライラするのは良くないと分かってるんですけど・・・(- -;)。

[酒の飲み方]
 念のため断っておきますが、私は20歳をとっくに超えています(笑)。で、酒の飲み方は人によって色々だと思いますが、私は一人で飲む方が好きですね。大勢で飲むと他人のペースを気にしたりしないといけなくて、とても楽しむというものではないのが嫌なんです。元々単独行動を主にする傾向なのもありますが。
 私は特にアルコールに強いということもないので、最初口当たりを確かめるために一口飲みます。これはビールが一番適しているかなと思うのですが、最初の一口が美味いと感じるかどうかで、多少多めに飲める体調かどうかが分かります。すっと喉を通るようなら万全の体制、やけに苦いと感じるようなら控えた方が良いようです。
 今日は・・・味がどうこう言う前に一気に一缶開けてしまったので体調の確認はしてません(爆)。こういうときが一番二日酔いになりやすいんですが・・・(汗)。
 ・・・先入観。自分で言ったその言葉が重く響く。自分自身、その先入観とやらを頑強に持ってた、否、今でも持ってるんじゃないか?・・・井上に。そして、井上の気持ちに・・・。
 何時か裏切るんじゃないか、っていう気持ちはいるのは経験から学んだ法則に従っているんじゃなくて、単に自分で構築した法則、そう、それこそ先入観を頑強に守ろうとしているだけなんじゃないのか?

井上を待たせているのも・・・その先入観を崩したくないからなんじゃないのか?

「さて、次は俺と祐司君の番かな。連続だけど良いかな?」
「え?ああ、それなら大丈夫ですよ。さっきはつい居眠りしちゃっただけですから。」
「あなた。その前に一度休憩しない?私達は休み休みだけど、祐司君は殆ど出ずっぱりだから。」
「そうだな。冷たい飲み物でも用意するか。ちょっと待っててくれ。」

 あっさり続行から休憩に方向転換するマスター。やれやれ。潤子さんの頼みは断れないんだなぁ。俺が夜の部に調理専門を一人入れたらと言っても楽器が出来るのが条件、と譲らなかったけど、潤子さんが井上を入れるように頼んだらあっさり覆したくらいだし・・・。
 そう考えると、俺と井上が音楽やバイトという重要な接点を持つことになったのは、潤子さんが居たからこそ実現したことかもしれない。それより前にこの店にバイトで来てなかったら、潤子さんやマスターとも接点がなかっただろう。人との接点がまた新たな接点を生み出すというのは、こういうことなんだろうな・・・。

「はいはい、お待たせっと。」

 マスターがアイスコーヒーがなみなみと入った大きめのグラスを4つ載せたトレイを持って戻って来た。マスターは普段あまり注文の品を運んだりしないが、こうしてみると結構様になっている・・・とはちょっと言い辛い。

「暖房も効いてるし、こういうものの方が良いかと思ってな。」
「祐司君なんか特にそうじゃない?汗だくよ。」
「ええ、そうですね。汗かきな方なんで・・・。」

 もっともこの汗は井上の歌う横顔を見たからなんだけど・・・。井上のあの横顔が脳裏に浮かぶとまた体温が上昇して鼓動が早まり、汗が噴出してくる。強烈な印象と共に脳裏に焼きついたみたいだ。困った・・・。今日は部屋は違えど、同じ空間で寝泊りするんだぞ・・・。もし夜中顔を合わせたら・・・衝動的に抱き締めたりしてしまうかもしれない。
 ・・・一人で何を妄想に耽ってるんだ、俺は・・・。アイスコーヒーで頭と身体を念入りに冷やしておこう。

雨上がりの午後 第224回

written by Moonstone

「シーケンサに合わせるのは難しかったと思うけど、変につんのめったりモタったりしてなかったから、オッケーだよ。」
「あ、どうも。」
「聞かないタイプの曲だっていうからどうかと思ったけど、さすがにギタリストだけのことはあるな。」
「責任がありますからね。それに・・・変な先入観を持つと身が入りませんよ。」

2000/6/9

[この胸の痛みの原因は?]
 とはいっても私の場合、恋の病などという洒落たものではなくて、二月以上散々苦しめられてきた原因不明の胸部の痛みのことです(^^;)。で、先週の検査結果を踏まえての診察を今日受けてきました。
 その結果は・・・内臓には異常なし。人間ドッグでやるような検査の大半を受けてきた身としては、拍子抜けするような平穏無事な結果でした。まあ、重大な病気だったらそれこそ洒落にならないわけで、良かったと言うべきなんでしょうが・・・今でも痛みが続いているというのは厳然たる事実であって、その原因が分からないのですから、結局根本的な解決にはなっていないんですよね(汗)。
 これからどうするか・・・まだ未定ですが、暫く様子を見てどうも改善しないようなら心療内科を探そうと思います。即効性の痛み止めを飲んでも効かないし、身体的に問題ないのなら、その方向しかないでしょう。何時になったら良くなるんでしょうかねぇ・・・(溜息)。

[さあ、どうなることやら(^^;)]
 トップページにもありますように、Moonstone月間記念プレゼント企画「水無月便り」の受付準備が整いましたので、今日からご応募受付を開始しました。CGIを組むのにちょっと梃子摺りました(^^;)。前に仕事で作ったとはいえ、ちょっと間が空いたのでいくらか忘れていたこともありましたからね。
 今週末の臨時更新と同時でも良いかな、とも思ったのですが、それだと写真や音楽の準備日程がますます逼迫するので(名前からしてやっぱり6月中には発送したい)、スクリプトのテストを終えてから今日の更新にあわせての応募実施に踏み切りました。
 サンプルをご覧になって良いな、と思ったら是非応募してもらいたいです。今週末はそれなりの応募を見越して写真撮影とMIDI作りに明け暮れるでしょう(笑)。
 横を見ると、両手をマイクに添えて歌う井上の横顔が見える。見覚えのあるその顔は・・・俺に想いを告げたときそのまま、否、それ以上に真剣でそして切なげで・・・。あの顔をこっちに向けられたら、俺は・・・。
 胸の奥を強く掴まれたような収縮が襲う。不意の強烈な感覚にシーケンサに合わせて半ば自動演奏していた両手の動きが乱れそうになる。俺はとっさに視線と意識を両手に集中させるが、異常に早まった心拍数と上昇した体温は気にするまいと思ってもダイレクトに意識に伝わってくる。
 自分ではどうにか平静を装っているつもりだが、演奏が変に聞こえてやしないか不安だ。・・・駄目だ。今は兎に角、演奏に集中しないと・・・。

 シーケンサのリズムが途絶えるに合わせてダウンストロークで締めるという手筈どおりのエンディングを終える。フットスイッチを押してシーケンサを止めると、どっと汗が噴出すのが分かる。安堵の汗か冷や汗か分からない。
 心拍数は演奏を続けている間にようやく収りかけてきたが、体温はこの程度の汗では下がりそうに無い。それだけ強烈な印象だったということか。

「うーん。上出来上出来。良い感じでユニゾンしてたぞ。」
「そう?歌ってて自分でもそう思ったけど。」
「私もです。」
「さっきみたいな調子で目の前で歌われたら、男性客は一撃でノックアウトされるぞ。特に免疫の無い純情少年は。」
「ふふっ、そうかしら?」
「潤子さん目当ての男性ファン、多いですもんね。」
「そうでもないわよ。晶子ちゃんが来てから私に向けられる視線の数が間違いなく減ったもの。」

 井上と潤子さんは顔を見合わせて楽しげに語らっている。歌う前の張り詰めた雰囲気は、やはり初めて声を揃えることから来る緊張感だったようだ。俺が勝手に不安がってたことなんだが、取り越し苦労で終わって何よりだ。

「で、祐司君の方だけど・・・。」
「は、はい。」

 突然マスターが俺の名を呼ぶ。反射的に返事をしたは良いが、何か引っかかるものがあったんだろうか?・・・やっぱり不器用な俺では内心の乱れは誤魔化せなかったか?

雨上がりの午後 第223回

written by Moonstone

 二つのソプラノボイスがシーケンサの刻むリズム音と俺のギターが織り成す固めの演奏を柔らかいベールで包み込む。それは歌うと言うより、二人がそれぞれ歌詞を台詞にして目の前の相手に語りかけるような、気持ちを独白するような・・・。

2000/6/8

[現在、掲示板は使用できません]
 ネットに繋いで最初のうちにすることは、更新ファイルのアップとそのチェック、書き込みがあるかな〜、とアクセスしたら、何時まで立っても画面が現れないばかりか「サーバーの応答が無いよ」と言われる始末。レンタル元のページにアクセスして調べたら、「サーバーメンテナンスのため使用できません」とありました(^^;)。
 そんなわけで、メンテナンスが終了するという6/10までは掲示板JewelBoxは使用できません。あしからずご了承ください(_ _)。・・・やっぱり、自前のサーバーで使える掲示板CGIに切り替えた方が良いのかな・・・。でも、自前のサーバーがダウンしたら結局同じだし・・・うーむ・・・(延々と続くので以下略(^^;))。

[好きな相手が居るってどんな気分なんでしょう?]
 何だか意味深なキャプチャーですが、私自身は全くその気配や気持ちの変化もありません(爆)。じゃあ何で、というと、恋愛ものと称して連載を続けていて、キャプチャーのようなことをふと思ったからです。好きだ、と言う時の胸の高鳴り、二人で居るときの時間の流れ・・・それはどんなものなのかな、と。
 勿論、連載をよりリアルにするために恋愛をするなんて変な話ですし、そこまで持っていくのに必要なエネルギーとリスクを考えたら、今の私ではしようという気が起こりません。銀行と違って損失補填などあるわけが無いですからね(笑)。ただ・・・連載では前にもお話したように、この心理状態でこの状況ならこう言うだろう、という推測で話を進めているのですが、その気分を実感できるなら、また違った表現が出来るのかもしれないと思うときがあるんです。最近特に・・・。
 多分、「SALAD DAYS」の影響でしょうね(笑)。柄にもなく(自分で言うなって)甘く切ない恋愛話を読みふけったりしてるから(^^;)。ちなみに一番のお気に入りは1巻の柏木霧子。ショート系に惹かれるのは珍しいんですけどね(笑)。
 もうそんな順番になったのか。恐らく今度のコンサートのプログラムで1,2を争う目玉になるだろう、井上と潤子さんがデュエットする『Secret of my heart』。シーケンサと一緒にバッキングを担当する俺も楽しみな一曲だ。
 一方で不安もある。井上とは何度も音合わせをしているが、潤子さんとはアレンジの構成の情報を共有しているだけだ。シーケンサを使うといっても俺は持っていないから−MIDIデータを作る必要が無い−、井上は俺のギターだけで練習してきた。シーケンサという機械に合わせて演奏するのはかなり違和感を感じるし、
 もっと不安なのは、井上と潤子さんが声を合わせるのはこれが初めてだということだ。同じフレーズを歌うにしても、呼吸が合ってないと本当の意味でのデュエットにならない。コンサートとカラオケが違うのは、自己満足のみか人に聞かせるものかどうかということなんだから。少なくとも俺はそう思う。

 マイクスタンドをもう一つ、マスターが最初からあるマイクスタンドの横に並べる。このステージにマイクスタンドが2つ並ぶのは初めて見る光景だ。その前に井上と潤子さんが並んで立つ。ギターのチューニングを再確認してから改めて横を見ると、俺に近い方に井上が、その奥に潤子さんが居る。潤子さんは井上より少し背が高い。
 二人とも正面を見たまま顔を合わせようとしない。緊張しているのか、それともライバル意識か・・・。潤子さんは普段ほんわかした感じだが、意外に内に秘める感情は激しいのかもしれない。実力に裏打ちされた自信があっても、「初めての」という修飾語があるシチュエーションでは緊張するものなんだろうか?

「祐司君。」
「・・・あ、はい。」
「シーケンサはフットスイッチの一番右でオンオフできるから、いいと思ったら始めてくれ。2小節分のリズムから打ち合わせどおりのアレンジが始まるようにしてある。」
「はい。・・・井上と潤子さんは準備良いですか?」
「ええ。お願いします。」
「私も良いわよ。」

 二人とも歌う気構えは出来ている。俺の足元にあるフッとスイッチを押せば、二人の固い表情の理由が歌声という形で分かるかもしれない。

「じゃあ・・・井上と潤子さんのペアで『Secret of my heart』。」

 これまでの例に倣って簡単な紹介を済ませて、俺はフットスイッチを押す。僅かにモタった安っぽい感じのリズム音が2小節分演奏されたところで、俺はギターのストロークを始める。リズムに合わせた一定のストロークを4小節分鳴らし終えると、2人の声がマイクを通じて朗々と流れ始めた・・・。

雨上がりの午後 第222回

written by Moonstone

「じゃあ先へ進むか。次のペアは・・・っと。」
「私と晶子ちゃんのデュエットよ。」
「おっ、そうだったか。祐司君、起き抜けでいきなりだけどバック頼むよ。」
「はい。」

2000/6/7

ご来場者47000人突破です!(歓喜)

 ・・・随分早いな(^^;)。別にそれほど大規模な更新をしたわけでもないし、検索サイトに新たに登録したにしても多いし・・・。何にしても、ご来場者数がこれだけ増えるというのは滅多にないことなので、弱小サイトにとっては嬉しいことです♪
 この分だとプレゼント企画も今回はちょっと参加人数に期待が持てるかも。皮算用・・・ということは今は考えない(汗)。しかし、8割方出来たというのに最後の詰めが今までの知識では出来ない・・・。今週末にはアップしたいんですが、また夜通しPCと格闘する日々になりそうです(寝ろよ)。

[一気買い、と言いましょうか]
 ええ、買いました。「SALAD DAYS」の残り6巻(9巻まで)を(笑)。その中には私が初めてこの作品に触れた話である、死神とジャズピアニストの卵の話「聖夜の死神」もあって、見つけるとすぐに最初から読み返しました。現実にありそうな話が多いこの作品の中で数少ない、非現実的な要素がある話なんですが、柄にもなく(自分で言ってどうする(笑))感動したんです。
 普段、映画やドラマで「泣ける」というシーンではけろっとしている私ですが、「叫びたくても、俺は君の名前さえ知らない・・・」という台詞で目頭にじわっと来ました。・・・ええ、本当ですとも(^^;)。今回この話に再会出来ただけでも「SALAD DAYS」を9巻まで揃えて良かったと思います。・・・でも、この話を初めて読んだとき私はこの作品のタイトルさえ知らなかったんですよね。・・・って、オチつけてどうする(知らなかったのは本当)。

 ・・・それはさておき(^^;)、私自身こうして日記(らしくないところもありますが)と併せて「恋愛もの」と称して連載を書いていますが、こんな風に人物の台詞や仕草にぐっと来るような話を書けるようになりたいものです。

「安藤さん・・・。起・き・て。」

 耳元で色っぽい囁きが聞こえる。次の瞬間、ばっと目の前の風景が開ける。周囲をゆるりと見回すと、白を基本にした洋風の椅子とテーブル、楽器が並ぶステージ、そして・・・そのステージの上からこっちを見ているマスターと潤子さんが見える・・・?!
 ようやく自分の状況が理解できた俺は、全身が急激に熱く火照るなるのを感じる。マスターと潤子さんの『WHEN I THINK OF YOU』を聞いているうちに、何時の間にやら本当に眠ってしまったらしい。

「随分お疲れみたいだな、祐司君。」
「す、すみません。」
「いや、音楽を聴いて眠くなるのは別に不思議じゃない。あの曲でそうなったならむしろこっちとしては願ったりだよ。」
「それよりどうだった?目覚めの囁きは。」
「目覚めの囁き・・・って、ああ、さっきの・・・。」

 横を見ると、座っていたはずの井上の姿が椅子には無くて、俺の直ぐ傍に立っている。頬がかなり紅い。

「マ、マスターが『そうすれば絶対に起きる』って言うから・・・。」
「さっきの声って・・・井上?」
「そうよ。良い気分で起きれたんじゃない?」

 井上の頬が赤い理由が分かった。普通に呼んでも目を覚まさない俺を起こすべく−そんなにぐっすり寝ていた実感はないが−マスターと潤子さんが嗾けたんだ。もっとも目的は俺を起こすだけじゃないのは、さすがに俺でも判る。

「やっぱりバイトの後で3曲連続演奏は堪えた?」
「いえ、単にちょっと寝不足気味なだけです。帰ってから練習とかしてるんで・・・。」
「何だ。てっきり井上さんと・・・」

 マスターがそう言いかけたところで、叫び声を噛み殺すように顔を顰める。その横で潤子さんが眉間に皺を寄せているから、多分後ろで抓られているんだろう。

「・・・どう?今日はこのくらいで切り上げる?」
「いえ、大丈夫です。折角の泊り込みの機会にきちんと音合わせしておかないと・・・勿体無いですから。」
「無理だけはしないで下さいね。」
「転寝(うたたね)だから大丈夫。」

 気持ち良さに任せた居眠りでちょっとした騒動になってしまった。幾ら心地良くても音合わせの時には転寝はしない方が良さそうだ。

雨上がりの午後 第221回

written by Moonstone

「・・・さん。・・・どうさん。」

 ・・・誰だ?霞がかったような声だな・・・。

「・・・どうさん。安藤さん・・・。」

 ・・・俺を呼んでる?でも・・・何で?

2000/6/6

[此処最近・・・]
 ずっと更新時間が明け方近く(いや、時には本当に明け方)にずれ込んでます(汗)。不眠症気味で寝ようにも寝られないとはいえ、寝なきゃ疲れは当然溜まるわけで・・・かなり記憶や判断が曖昧になってきているのが分かります。移転の際、公開中の第1SSグループの作品からGIFイメージを削除したファイルを準備したのに、それをディレクトリに上書きするのを忘れてそのままになっていたのに気付きました(大汗)。圧縮ファイルのリンクまで切れてるし・・・。
 本日付の更新で一斉に修正しましたが、前日の「PACイベント情報」リンク切れに続く失態に、頭を抱えています。如何に寝られなくても無理にでも横になるべきなんでしょうか・・・?

[また言ったか・・・(呆)]
 先日の「天皇を中心とする神の国」発言に続いて、今度は「国体を維持できるのか」発言・・・。まあ、本当に懲りない人ですね。組織の代表という立場の発言は、即ちその組織の発言だということくらい、トップダウン式が大好きな彼らはよく承知しているはずなんですが・・・。
 で、これを「国のあり方という意味で言ったことだから責めるのはおかしい」という向きが少なからずありますが、国体という言葉が真っ先に出てくること自体、その時代の考え方が染み付いているという証明です。「国体」という言葉が前面に出た時代がどんなものだったかは新聞などと重複するのでここではお話しませんが、もう一つ重要なこととして、これは前回の発言に続いて彼らの本音が出たということには間違いありません。
 何故かと疑問な方、彼らの旗を見ればすぐに分かることです。それに見覚えはありませんか?組織の団結の証明である旗に描かれるものは(旗印というくらいです)、その組織が至上とするものなんですからね。

「それじゃ次のペアは・・・俺と潤子で行くか。祐司君はとりあえずお疲れさんだな。休憩がてら聞いててくれ。」
「はい。そう言えば3曲連続か・・・。」

 高校時代のバンドみたいにロックの激しいステージじゃないから疲れないかと思いきや、演奏に使うエネルギーは大して変わらない。それにさっきのはなまじ相手が俺より上手(うわて)だから、その分精神的なエネルギーの消費は大きい。額を拭ってみると、手にじっとりと張り付いた汗が照明を乱反射している。呼吸も早まっていることに気付く。

「・・・大丈夫ですか?」

 さっき俺を身震いさせられた視線は何処へやら、井上が心配そうに尋ねる。本当によく顔が表情に出るタイプだ。

「ああ、さっきはちょっとしんどかったけど、1曲分くらい休めば・・・。」
「凄く神経使ってるみたいでした。表情硬かったですよ。」
「・・・やっぱり、そう見えた?」
「安藤さんが演奏するときにあんな顔するの、初めて見たから・・・。今までは良い気分で演奏してるように見えたし・・・。」

 どうやら、俺も井上に負けず劣らず感情を隠せないタイプらしい。・・・不器用な人間だから無理も無いか。こういうときにも不器用さは出るようだ。

「じゃあ、俺と潤子のペアで『WHEN I THINK OF YOU』。」

 また意味ありげな曲を・・・。思わず苦笑いが漏れる。潤子さんのピアノのイントロがゆっくりと始まる。落ち着いているときの呼吸に近いテンポの4小節が終わろうとしたところで、マスターのアルトサックスが加わる。『Still I LOVE YOU』の時と似ているようで・・・違う音色だ。あの時は切なさを歌うような音色だったが今は・・・好きな相手に愛の言葉を囁くような・・・。
 心身の具合で同じ音が違って聞こえることはよくある。普段なら気にならないような車の音が、苛立っている時や集中したいときには酷く耳障りに聞こえるなんて、受験勉強でも経験済みだ。
 前に聞いたとき、井上が俺を追った結果、客として偶然この店に来た日に聞いたときは、鬱陶しくすら感じた。こんな曲鳴らしてくれるなとも思ったくらいだ。だけど、今は・・・心地良く揺らぐ音色に浸るような気分だ。頬杖をついて呼吸を無意識にテンポに合わせると、本当に気持ち良い・・・。

雨上がりの午後 第220回

written by Moonstone

 初めてのペアで緊張したが、俺と潤子さんの『EL TORO』は一先ず大丈夫のようだ。もっとも俺としては、潤子さんの演奏にどうにか追い縋っているという印象は捨てきれない。本番では客から受けるプレッシャーが加わるから、もっと自信をつけておかないと音圧と板挟みになって潰されかねない。
 ま、それは今回見つかった課題としておくことにしよう。まずは一つの難関を突破したことだし。

2000/6/5

[のっけからすみません(_ _)]
 昨日「PACイベント情報」で告示したプレゼント企画でサンプルを用意したのは良いんですが、肝心のファイルをアップするのを忘れてました(汗)。ひと眠りしてから(1時間しか寝て無くてふらふらだったので(汗))先行してアップしようとしたんですが、こういうときは回線が混んでてなかなか繋がらないというのはもはやお約束(爆)。何かとタイミング悪いな、私は・・・(^^;)。
 このコーナーを準備しながら何度かトライしてようやく先行アップに成功(^^;)。ローカルでチェック完了だからといって安心してはいけませんね。もう1年以上やってきたのに気を抜いたかな・・・?寝られないが故の寝不足で思考が曖昧になってたのかもしれません。

・・・それどころか、「PACイベント情報」本体のリンクが切れてた(猛爆)。
やっぱり寝ぼけてたのかな・・・(滝汗)。以後気をつけます(_ _;)。


[初めてのCGI試験]
 以前仕事でCGIを作ったとはいえ、単独製作は今回が初めてです。今度のサーバーはCGIが自由に使えるので(選ぶポイントでもあった)、上でお話したいきなりの大失態を演じたプレゼント企画用のアンケートフォームを試しながら作っています。完成すれば今回の企画だけでなくて、通常のメールフォームとしても流用できますしね。
 操作そのものは仕事で嫌というほどやったので問題ないのですが、TELNETが無茶苦茶反応遅いのには参りました(^^;)。重いアプリケーションをCPUパワーの弱いPCで動かしたような感覚といえば、お分かりいただけるでしょうか?キー入力からワンテンポ遅れて表示されてくるという状態です。LANとダイアルアップの差ですかね、これは。
擬似サーバーでひと通り試せるとはいえ、実際にやってみないと分からないバグとかありますから、我慢して使うしかないでしょう。しかし、CGIでのJavaScriptの埋め込みってどうやるんだったかな?忘れてるところも結構あります(爆)。

「じゃあ次はペアだな・・・。どのペアからにする?」
「初めてのペアを優先的にやりましょうよ。今、祐司君がステージに上がってるから、私とのペアからはどう?」
「曲は・・・『EL TORO』か。かなり難度高い曲だし、これから始めるか。」
「ええ。祐司君は良いかしら?」
「あ、はい。」
「それじゃ・・・晶子ちゃん、ちょっと借りるわね。」
「な・・・。」

 井上の顔が赤くなると同時に強張る。席を立ってステージに上がった潤子さんは対照的に悪戯っぽく微笑んでいる。井上は足早にステージを降りて席に戻るとステージの方を凝視する。その視線が・・・ちょっと怖い。背後に炎が見えるような気がする。

「それじゃ、私と祐司君のペアで『EL TORO』を。祐司君、音合わせは初めてだけどよろしくね。」
「は、はい。こちらこそ・・・。」

 マイクを通して呼びかけられて、俺は慌てて返事をする。ちらっと井上を見ると、表情が・・・かなり怖い。思わず目を背けてしまう。何はともあれ、潤子さんと初めて演奏する曲は『AZURE』と作者が同じだが、難度はかなり高い。ピアノとギターの緻密な連携が要求されるだけに、神経を指先に集中させないと・・・。
 俺が弱起(半端な拍数から始まること)のフレーズを始めると、潤子さんのピアノのアルペジオがすっと自然に入ってくる。俺はテンポに気を配りながら演奏を進める。潤子さんのピアノを同じ高さで聞くのは−ステージの上でという意味だ−初めてだが、音圧は想像以上に凄い。寄せては返す、打ち付けては砕ける波・・・如何に技術が発達しても電子楽器が本物の楽器を越えられないというのは、こういう魂を直接揺さぶる音の波だ。
 決して大袈裟じゃない。CDやMDが幅を利かせてもライブがなくならないのは何故か?高機能の電子楽器が当たり前になっても生楽器がなくならないのは何故か?この音圧が何よりの答えだ。

 事前の打ち合わせどおり、4小節分フリーのエンディングを終えると拍手が飛ぶ。それと同時に全身を包んでいた緊張感が一気に解けて、思わず大きな溜息を吐く。圧倒される音圧の波をまともに受けながら、尚且つ整然とした演奏を乱すまいと懸命になっていた。この辺、経験と技量の差だろう。

「うん、良い感じだったな。初めて音合わせするとは思えん。」
「祐司君、凄いわね。」
「ついてくのが精一杯でしたよ。」

 自分で思うより反応は良い。始まる前、視線が怖かった井上はどうだろう?ちらっと見てみると・・・少し驚いたような顔をしているが、視線の刺々しさはなくなっている。改めて緊張が解けるのを感じる。・・・それだけ井上を意識しているってことか。

雨上がりの午後 第219回

written by Moonstone

 その後も音合わせは続く。これまでのソロは慣らしでこれからがむしろ本当の意味での音合わせだ。ソロは普段のリクエストで演奏している中でも馴染み深い、人気のある作品だ。当然演奏回数も多いから、きちんと出来て当然ともいえる。
 あまり機会の無い、或いは今回初めての組み合わせもある。俺は潤子さんとペアを組むのは初めてだし、井上は俺以外と組むのは恐らく初めてだろう。勿論それはマスターと潤子さんも同じだ。

2000/6/4

ご来場者46000人突破です!(歓喜)

 ・・・今回はメールを戴いて知りました(笑)。恒例どおりお名前をトップページに載せました。最近少しご来場者数が増えたように思いますが、何か遭ったんでしょうか?(他人事じゃない)それでは、今日のお話に参りましょう。

[今回の目玉(某歌番組ではない(笑))]
 今日は定期更新なんですが、前回同様グループの更新は少なめです(^^;)。その中で目玉、といえるものは前に此処でお話したプレゼント企画の告示です。何にするか色々考えたのですが、芸術創造センターらしいものということで写真+文章を基本に先着順に音楽をプラスという形式にしました。音楽グループが2つ共開店休業状態だというのに、大丈夫なんだろうか(汗)。い、いや、文芸関係も更新速度がかなり鈍っているし・・・(大汗)。そ、それに、第1SSグループのプレゼントも未だ出来てないし・・・(滝汗)。
 とまあ、不安材料は色々あるのですが(^^;)、やらないことには始まりませんからね。サンプルも用意しましたので一度「PACイベント情報」をご覧下さい。問題はやはり応募者数が少なかった場合なんですよね。今までプレゼント企画をやってこなかったのは、前回第1SSグループでの大失敗のショックがあるのは否めません。今度やって応募者が少なかったら・・・もう二度とやらないでしょうね。だって、告示の文面+サンプルだけで5時間くらいかかって、挙句の果てに応募者一桁だったら・・・泣くよ(T-T)。
 応募者が少ないから中止、なんてことはしませんので、正式な発表と応募開始をお待ちください。今、アンケート用のCGIスクリプト組んでますので・・・。
 勿論俺はステージに残る。井上はソロといってもアカペラじゃないから俺が演奏を担当する。何時ものように・・・。井上はステージに上がってマイクの高さを合わせ、一呼吸置いてから言う。

「私は・・・『Fly me to the moon』です。」

 コンサートのプログラムに入ったのは、この曲・・・。井上のレパートリーに加わった最初の曲。今やリクエストでも定番となったこの曲を井上は歌う。俺の演奏に合わせて、いや、俺の演奏と一緒に・・・。
 井上は本人曰く「歌うときの癖」という、両手をマイクに乗せる姿勢になる。座り直してチューニングの確認も済んだ俺は、井上が歌う準備が出来たのを確認して一呼吸置いてから、リクエストや練習で半ば日課のようになったイントロを奏で始める。
 8小説のボサノバ調のイントロが終わると井上の歌声がマイクを通して店内に拡散し始める。・・・何時にもまして良い声だ。練習を重ねてきたが故に構築された確かな自信の上に立ったその声は、肌を通して心にじんわりと染み込んで優しく揺する。演奏する俺も歌声の揺らぎに身体を自然と委ねる・・・。

 俺がエンディングで締めると、聴衆が2人だけとは思えない拍手が飛ぶ。マスターも潤子さんも驚きで声が出ないという表情で、その感情を拍手で代弁しているみたいだ。

「・・・文句なし。いや、これは凄いよ。」
「毎日聞いてるけど、今日の出来はまた一段と良いわね。立派なものよ。」
「今日は何時も以上に気持ちよく歌えました。」
「声の透りが良かった。良い意味の透明感が備わってきたね。」
「祐司君はどうだった?」
「どうも何も・・・俺が言うことなんてもう無いくらいの出来でしたよ。」

 本当にそう答えるしかないくらいの出来栄えだった。リクエストや練習で間近で聞き慣れている筈の俺でもそう思うくらいなんだから、マスターや潤子さんが驚くのも無理は無いだろう。
 ・・・何だか、井上が誉められることが自分のことのように嬉しく思う。これは初めの頃からずっと専属で教えてきた自分の成果だと思っているからか・・・?否、違う。そんな支配被支配の気持ちじゃない。もっと・・・近い立場にある感情だ・・・。

「この分だと、今年のコンサートは凄いことになりそうだな。」

 マスターが珍しく興奮気味に言う。これだけの面子が揃うコンサートなら、確かに期待も膨らむだろう。実際、俺もそうだ・・・。このメンバーでコンサートが出来るなんて、本当に良かったと思う。今は素直に・・・そう思える。

雨上がりの午後 第218回

written by Moonstone

「それじゃあソロの最後は、井上さんだな。」

 マスターが言う。井上の表情が少し硬くなる。本番を前に気を引き締めて、といったところだろうか?それとも連続で良い演奏が続いて−俺が言うと自惚れになるが−プレッシャーを感じてるんだろうか?
 だが、一緒に練習を重ねてきた俺に言わせると、益々ヴォーカリストとしての腕前に磨きがかかっている。もう歌うことが、そのための練習が楽しくて仕方が無いという感じだから、腕も上がるというものだ。

2000/6/3

[ぎえええええ〜(*o*)]
 のっけからすみません(汗)。まだ案内状発送が完了してない・・・どころか、6/1に出した分から進んでません(猛爆)。何やってんでしょうね、まったく・・・。この分だと週末にまとめて発送ということになりそうですが、明日に定期更新が控えてたりするので(タイミング悪いなぁ)、週末はまたウィンドウをぎっしり画面に出してひたすらキーボードを叩くことになりそうです。
 で、こういうときに限っていきなりPCが機嫌悪くなって、はい、やり直しとなるんですよね。デスクトップPCではまず無かったんですが・・・さすが悪名高き某OSだ(爆)。そうなった日にゃ暴れるぞ・・・とお話をしていたその時、早速ダウンしたぁ・・・(T-T)。頼むからもっとウィンドウ開かせてくれ〜!(切実)更新時間も思いっきり遅れたし(泣)。

[SALAD DAYを読んで・・・]
 昨日お話したとおり切ない話は勿論良いのですが、描けない者の無いもの強請りでやっぱり絵柄の良さに注目しています♪どうしてもこの手の話はまず女の子に目が行ってしまうのですが(^^;)、1巻の「キス」や3巻の「拳とバンソウコウ」の女の子が特に・・・って、好みを言ってどうするんだ(爆)。
 ・・・さて(^^;)、女の子が魅力的に見えるのは色々な表情を見たときですね。笑顔は勿論なんですが、照れたところも良し。(^^)b 泣くところはちょっと辛いですが・・・喜怒哀楽が分かると何だか安心しますね。私自身があまり無い方なので余計そうかも知れませんが。

「どうかしら?」
「文句無いですね・・・。プレッシャーになりますよ。」
「じゃあ、次は祐司君だな。」

 こんな演奏と比べられるとかなわないが、順番はもう決まったことだし、半分過ぎたところでどうこう言っても今更遅い。俺は潤子さんと入れ違いでステージに上がる。
 ギターのストラップを肩にかけながら客席の方を見ると、潤子さんの時には俯き加減だった井上が俺をじっと見詰めている。観客が少なくてそれも近い場所に居るせいか、普段よりその視線を強く、熱く感じる。・・・余計にプレッシャーになる。だが、それが重荷じゃなくて何と言うんだろう・・・やってみるか、という発奮を即す。これは・・・あの女、優子と付き合っていたとき、優子が俺のバンドのライブを見に来た時と同じ感覚だ・・・。
 今は兎に角、練習の成果を披露するのが先決だ。俺のソロ曲といえば・・・。

「俺は・・・『AZURE』です。」

 初めての演奏でマスターと潤子さんから高い評価を貰って、そして、井上が耳にした最初の曲だ。今回こうしてコンサートのプログラムにも含まれるなんて、何か因縁めいたものを感じる。
 椅子に腰掛けてチューニングを合わせた俺は、ギターを爪弾き始める。・・・良い感じだ。音の粒がはっきりしている・・・。たちまち3人の観衆の視線が引き起こすプレッシャーや失敗の恐怖は音と共に虚空に消えて、意識が演奏にのめりこんでいく・・・。

 エンディングを終えて顔を上げると、惜しみない拍手が起こる。3人の聴取の表情は一様に柔らかい。井上に至っては、手が痛くなりそうなくらい強く叩いている。初めて井上がこの店に来たときも、関心頻りだったか・・・。

「全く問題ないな。いや、恐れ入ったよ。」
「腕上げたわね、祐司君。」
「ありがとうございます。」
「凄いです。やっぱり何時聞いても本当に凄いですね。」
「そうかな・・・?」
「ええ。初めて聞いたときの気持ちを思い出しますよ。」
「おーい。お楽しみは練習の後にしてくれー。」

 マスターのからかい調子の声に俺と井上は我に帰る。そう・・・俺の意識はさっき、井上の方に集中していた・・・。

雨上がりの午後 第217回

written by Moonstone

 そんなことを考えていたら、潤子さんの演奏はあっという間に終わってしまった。毎週日曜日に必ずリクエストされて聞けるとはいえ、バイト中だから腰を据えてじっくりと、というわけにはなかなかいかない。考え事をしていたとはいえ、勿体無いことをしたと思う。
 潤子さんは席を立って再び髪をくいっとかきあげる。ストレートの黒髪の一部がふわりと舞う。無意識か癖かは分からないが、この仕草は大抵の男を引き付ける。長髪の男がやっても、恐らく様になるまい。

2000/6/2

[移転作業なんですけどね・・・]
 ページの移転は完了したんですけど、案内状の発送が1/3も済んでいません(爆)。誠情けない話なんですが・・・前のサーバーに設置した「移転しました」ファイルの画像が欠落していて、大慌てでアップロードしてジャンプの試験をして、それから今のサーバーのインデックスをひととおり見て回って、としていて気付いたら、案内状発送が1通も済んでいないという状況でした(^^;)。
 ああ、初っ端から不手際ばかりだな・・・。本当はポストペット(通称ポスペ(笑))専用のアドレスも載せるつもりだったのですが、設定そのものが間に合わなかったし・・・。もっともポストペットも配達させないと唯のペットなんですよね〜(爆)。

[買ってしまいました(^^;)]
 何かと言うと、前に此処で「買いたいと思うマンガ」とお話した「SALAD DAYS」です。今月買いそびれていた「アフタヌーン」(これは「ああっ、女神さまっ」目当て)を買うついでに取り敢えずお試し、ということで3巻まで買いました。
 この作品が良いと思ったのは、絵柄もさることながら(描けませんからね〜)必ずしも(恋が成就すると言う意味で)ハッピーエンドじゃないというところです。作者の方が「切なさに恋の本質がある」ということをおっしゃっていますが、そんな切ない話が好きなんです(似合わない、と言ってはいけません(爆))。今のところ気に入った話は2巻から3巻にかけての「未来への序曲」です。友情と恋が交錯する、本当に良い話ですよ。

それにしても、この絵柄は良いなぁ〜。連載にもこんな絵柄のイラストを入れられたら、ねえ(笑)。
 俺のそんな思いを他所にマスターのサックスが閑散とした室内の空気を震わせ始める。ブロウした音色が切なげに、そして妙に色っぽく揺れる。サビの部分で音程が一歩一歩上がっていくところで、目頭が熱くなってくる。思わず口を右手で覆うが聞いているのが・・・辛い。なまじ演奏が上手い分、余計に心を震わせる。まったく人泣かせだ・・。

 演奏が終わると3人の聴衆から拍手が起こる。空調が整っている店内でマスターは汗だくになっている。以前マスターはサックスの演奏は格闘しているようなもんだ、とか言っていたが、実際そうなのかもしれない。

「ふう・・・。演奏のときは長袖はやめた方が良いかな。」
「随分力篭ってましたね、マスター。」
「この曲は抑揚を大きくした方が聞こえが良いからね。・・・それにしても暑いな。」
「本番のとき空調を控えめにした方が良いわね。今日は4人だけだから空調がないと寒いけど。」
「じゃあ交代しよう。次は・・・潤子か?」
「ええ。」

 額の汗を袖で拭いながらステージを降りるマスターと入れ違いで潤子さんがステージに上がる。潤子さんのソロ曲と言えば、やっぱり「Energy flow」で決まりだろう。

「私は『Energy flow』で・・・。」

 予想どおりだが、これは欠かせないだろう。日曜のリクエストタイムでの争奪戦は未だもって健在だ。それだけこの曲と演奏に魅力があるということだろう。
 潤子さんは椅子に腰掛けて、一度髪をかきあげてからピアノの鍵盤に両手を添える。こういう何気ない仕草を見るとドキッとする。そして・・・優しい音色が空気に浮かび、そして溶け込んでいく。この曲では井上が初めて聞いたときに泣いたんだったな・・・。もっとも俺とは違って感動してのことだったが。今はどうなんだろう?
 ちらっと井上を見ると、胸に両手を当ててやや俯き加減になっている。その横顔が儚げで切なげで・・・何か思い出したんだろうか?昔の切ない思い出とか・・・。そう言えば、井上の過去は振られたことがあるということ以外、詳しく聞いていない。井上は言わなかったし、俺も聞かなかったから当然なんだが、この横顔を見ていると・・・何だか気になって仕方が無い。
 俺が聞いてどうなるわけでもないだろう。聞かない方が、知らない方が良いことだってある。急に聞きたくなったのも変な話だ。だけど・・・聞きたい、知っておきたい。

雨上がりの午後 第216回

written by Moonstone

 「合宿」の最初を飾る曲としてマスターが選んだのは「STILL I LOVE YOU」・・・。優子に振られて間もなかった俺が、思わず涙した曲だ。泣く羽目になった記憶じゃなくて、泣いたときの気分がフラッシュバックして来る。泣いたときのことを思い出すのはあまり良い気分じゃない。

2000/6/1

[移転完了!新装オープンです]
 まさか土壇場までバタバタすることになるとは・・・(大汗)。このお話をしている時点で、実はまだ相互リンク先に発送する案内状の準備が途中だったりします(滝汗)。テンプレートは出来てるんですけど、それだと味も素っ気もないので一筆添えようとして多大な時間を食っています(^^;)。
 移転までの裏話は明日以降お話するとしまして、何はともあれ、独自ドメインを取得、サーバーを移転して新装オープンとなった芸術創造センターを、今後ともよろしくお願いいたします。m(_ _)m

[いきなり現れた摩訶不思議な表示(笑)]
 で、トップページで「Moonstone月間」と銘打っていますが、これは6月の誕生石がMoonstoneで、尚且つ私の誕生石でもあるからです。・・・それだけ?と言われると、それだけです、としか言いようがないです(^^;)。私中心の・・・などと言ったら、それこそ何処ぞの首相みたいじゃないですか(爆)。
 前回は単に更新頻度が多少早くなったくらいでしたが、今回は(珍しく)日頃のご来場の感謝をいうことで、プレゼント企画を考えています。前にここでお話したときには応募が望めないという経験に基づく悲観論でしたが(汗)、まあ、少なくてもそれはそれで良いんじゃない?と軽い気持ちでやろうと思います。
 方式はメールによる申し込みか、CGIによるアンケート形式がのどちらかを考えています。プレゼント発送にメールアドレスが欠かせませんので、前者はその点で確実。CGIだと申し込みがし易い。当然、CGIだとプログラムしなきゃならないので、定期更新の為の創作や作業を考えるとそんな余裕があるかどうか・・・。
 企画の詳細を発表するまでに6月が終わりそうな気がしないでもないですが(汗)、告示があったら申し込んでくれると嬉しいなぁ、と今から期待を表明しておきます(笑)。
 一服を終えた俺達は、カップを置いて誰も居ない客席に向かう。何時もは掃除の後で落とされる客席とステージの照明は、今日はそのままになっている。夜に客が途絶えることを見たことが無い俺には、この閑散とした光景が物珍しく思える。

「今日はこれまでの練習の成果を披露する感じでやってみよう。まだプログラムを決めてないし。」
「どういう順番で?」
「そうだな・・・。手始めにソロから行くか。誰からするかはじゃんけんで決めよう。」
「じゃんけん、ですか・・・。俺、かなり弱いんですけど・・・。」
「まあ、勝っても負けても順番が多少前後するだけだから気にしない、気にしない。」
「最初はちょっとなぁ・・・。」

 実のところ俺はじゃんけんに弱い。勝ち残りだと1回か2回で脱落するし、負け残りだと決勝−と言うのか?−を争うことも珍しくない。それにこういう場合はたかが順番、されど順番。最初はめっぽう緊張することはこれまでのライブで経験済みだ。客の顔がピーマンに見えるどころか、暗闇でハロウィンに出くわしたような気さえしたものだ。
 だが、年齢順を持ち出したら俺からになるのはほぼ間違いない。大抵の場合は年齢順=若い順だし、そうなったら絶対俺が最初になっちまう。もうマスターはじゃんけんをする気でいる。こうなったら腹を括るしかない。

「いくぞ。せーの・・・じゃんけん。」
「「「「ぽい。」」」」

 カウンターに出された4つの手は・・・「グー」が1つに「パー」が3つ・・・。その「グー」は・・・マスターだ。

「あ、マスターの負けですね。」
「うっ、読みが甘かったか・・・。」
「じゃあ最初はマスターで決まり。祐司君、晶子ちゃん。次行くわよ。せーの・・・。」

 ・・・数回のあいこを経て決まった順番は、マスター、潤子さん、俺、そして井上となった。此処まで勝ち残れたのは珍しいが、前がマスターと潤子さんだから、別の意味でプレッシャーがある。井上はもっとそうかもしれない。

「うーん・・・。まさか俺からになるとはな・・・。」

 結局言い出しっぺから始めることになってしまったマスターは、苦笑いしながら席を立ってステージに上がる。何時もは閉店と同時にケースに収まるアルト・サックスを手に取り、ストラップを肩に通してマイクの電源を入れる。

「最初は・・・『STILL I LOVE YOU』から。」

雨上がりの午後 第215回

written by Moonstone

 その日のバイトは何時もと同じように慌しく、そして楽しく過ぎていった。そして10時少し過ぎに店を閉めて手分けして掃除をして、「仕事の後の一杯」を自分の指定席に座って飲むところまではさしたる変化はなかった。

「さあて。ひととおり音を出してみるか?」

 マスターの一言でこれまでの日常の流れから大きく方向転換する。カップ1杯のコーヒーは今日の仕事の幕引きじゃない。ひとときの憩いなんだ。

このホームページの著作権一切は作者、若しくは本ページの管理人に帰属します。
Copyright (C) Author,or Administrator of this page,all rights reserved.
ご意見、ご感想はこちらまでお寄せください。
Please mail to msstudio@sun-inet.or.jp.