芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2000年2月29日更新 Updated on February 29th,2000

2000/2/29

 ・・・隠しページのカウンタ(あるんですよ)が第4創作グループとダブってました(爆)。昨日試しに隠し部屋にアクセスしてみたらあまりにも多すぎるので、不審に思ってソースを調べてみたら・・・(大汗)。昨日の発覚後に即修正しましたので、今は大丈夫です。しかし、こんなにカウンタ使ってるページも珍しいでしょうねぇ(他人事かいっ)。改めて覗いてみたら私で2人目・・・てことは、早速発見されたんですね(-∇-)。何方でしょう?

 本屋で袋に入るくらいの量や大きさのものを買うと、何故か必ずといって良いほど入って来るのが結婚情報サービス会社(で良いのかな?)のアンケート葉書(^^;)。本屋と何か関連があるのでしょうか?
 まあ、それは良いとして、その内容を見て気になるのは男は定職に就いていることが必要で女はその必要がないこと、そして身長や年収が希望条件にあること。・・・こういうところには脈々と男女の役割分担が息づいているものです。女性団体に言わせれば、「封建的な男性社会の名残」なんでしょうが、果たしてそういう条件を全て撤廃することを、本当に女性が望んでいるのか甚だ疑問です。そのような条件を満たさないと加入することすら出来ないというのは、結局定職に就いていない男性は女性に逢う資格がないと言っているようなものです。
 何故女性団体は男女同権を言いながらこういう事には抗議しないんでしょう?何のことはない、女性団体が言う男女同権とは、女性が全てにおいて有利であることを求めているにすぎないんです。私が半ば女性を敵視するようなことを度々口にするのは、こういうところに要因があるんです。

ピンポーン・・・ピンポーン・・・

 ・・・こりゃ相当しつこそうだ。仕方ない、応対してやるか。もし倒れたらそいつに救急車でも呼んでもらうか。目の前で倒れたらさぞかし驚くだろうな・・・。
 俺は転げ落ちるようにベッドから出ると、ジャケットも羽織らずにそのまま壁を伝うように玄関へ向かう。インターホンは相変わらず鳴り続けている。このしつこさは相当のものだ。・・・そう言えば井上の最初の印象も兎に角しつこい、だったか・・・。まあ、井上は今頃智一と豪華なディナーでも楽しんでるだろう。
 どうにか玄関まで辿り着くと、鍵を開けてドアを少しずつ開ける。さあ、その顔見せてもらうぜ・・・?!

「!!な、何で・・・。」

 俺はそれだけ言うと、急に膝の力が抜けてその場に倒れ込む。床に激突する寸前で井上が屈んで抱きかかえる。・・・そう、インターホンを鳴らし続けていたのは井上だった。でも何で・・・?智一とデートだった筈じゃ・・・?
 妙に柔らかい感触を頬に感じる。この体勢で考えられる可能性は一つしかない。顔を上げようとしても全く力が入らない。端から見れば役得かも知れないが、全身がさらに熱くなる。

「だ、大丈夫ですか?!」
「・・・デ、デート・・・は?」
「そんなことしてる場合じゃないです!」

 井上は俺の腕を取って肩に回して立ち上がる。太っていないにしても60kg以上ある俺が骨が抜けたようになっているから相当な重みの筈だ。だが、井上は片手で鍵とドアチェーンを閉めて、ゆっくりと中に進む。手探りで何かを探している。多分電灯のスイッチだろう。

「電灯は・・・正面進んで・・・壁沿い・・・。」

 俺が途切れ途切れに言うと、井上はゆっくりと進んで手探りで壁のスイッチを探す。間もなくパチッと音がして部屋が一気に明るくなる。井上はそのままベッドの方へ俺を半ば引き摺るように進んでいく。爪先が少々痛いが文句を言える立場じゃない。
 井上は布団が捲れたままのベッドに俺を寝かせて布団をかける。井上はここでようやくコートを脱いで俺の椅子にかける。明るいグレーのセーターに濃いグリーンのロングスカートと、普段着に近い格好だ。口紅をしているのか色が少し鮮明なくらいで、デートでお目化し、という雰囲気はない。井上はコートを掛けた椅子をベッドの傍に持ってきて座る。

雨上がりの午後 第135回

written by Moonstone

 こんな時間にしつこくインターホンを鳴らす輩は新聞か生命保険か宗教の勧誘ってところだ。良い印象を持っていないのもそれが原因だ。

ピンポーン・・・ピンポーン・・・

 ・・・まだ鳴らしてやがる。生きてはいるが状況は全然変わってない。出るまで鳴らし続ける質の悪い奴も居るが、よりによってこんな時にそんな奴が来るとは・・・。本当に俺って奴は運がない。運を掴もうとしないのもあるが・・・。

2000/2/28

 ふう、今日(日曜日です)買えましたよ。「ブギーポップ」シリーズ残り6冊全部(笑)。これからゆっくり読んでいくつもりです。読み始めたら一気に最後まで、となる可能性も十分ありますが(^^;)、この1週間はどうせ猛烈に忙しくなるのは目に見えているので(本業もこちらも)、人物と時間軸の把握に何度も後戻りするでしょう。まあ、ゆっくり楽しめば良いことです。別に何時までに読まなければならないってことはないですからね。
 本屋で確認の為に最初のイラストを見ていて、あの谷口と織機にまたひと波乱ありそうな予感・・・。前にも「幸せになって欲しい」とお話した二人の安否が気になって仕方がないので(この話に登場した時点でそのまま素直にハッピーエンドとは行かんのでしょうが(^^;))、最後の方だけ先にちょいと読みました(爆)。・・・あかんっつーの(一人ツッコミ)。結末がどうなるかは伏せておきますが、ますます読みたくなったことだけお話しておきます(笑)。

 隠し部屋は見つかりましたか?見つけ難いものですか?(笑)私は探し物がむちゃ苦手です。さて、この隠し部屋は、某OSではある技を使えば発見できると思いますが(リンクですからねぇ)、結末が気になるあまり先走るという私のようなことはしないで(笑)、一度は挑戦して見て下さい。
 でも、折角見つけて今の状態だと、これだけか〜い!(-皿-)/とちゃぶ台返しをしたくなるかもしれません(^^;)。ま、お時間のある時にでもゆっくりと・・・。私自身アップして以来一度も見てないんですが、発見した方居るのかな?
 羽織っていたジャケットを脱ぎ捨ててベッドに潜り込む。不思議と横になっていると僅かながら楽になったように思うが、状況は最悪なことには変わりはない。身体の中に発熱物体でも埋め込まれたように熱い一方で、内側から来る強烈な悪寒は厚手の布団を被っても和らぐ気配がない。頭を上げるなんて無理だし、身体の向きを変えるのも一苦労だ。電話に出た潤子さんじゃないけど、本当に救急車の世話にならないといけないかもしれない。
 カーテンの向こう側はかなり明るい。人の声や車の音が良く聞こえるところからすると、どうやら晴れているようだ。まさにデート日和ってところか・・・。またあの映像が浮かんで来る。俺はもう否定するどころか力なく笑うのが関の山だ。不甲斐ないばかりの自分を笑うだけだ・・・。

 病気になると人恋しくなると聞いたことがある。ここ暫く病気らしい病気をしたこともない俺はまさか、と思っていたが、実際自分の立場になって見ると嫌というほどよく分かる。大丈夫?と声をかける人も居ない。体温計を不安げに見たり薬を探したりする人も居ない・・・。
 飲み込まれそうなほど巨大な孤独感が襲う。そして、早く浅い呼吸と心臓の鼓動を感じながら、俺は死の予感さえ感じる。冗談なんかじゃない。このまま弱っていけば、一人ひっそりと死ぬことになるだろう。妙な話だが、こういう時は冷静になれるものだ。

「・・・いのう・・・え・・・。」

 うわ言が半開きになった唇の隙間から漏れる。誰にも聞かれない最期の言葉になるんだろうか・・・?ははは、我ながらみっともない死に方だ。あれほど嫌ってた女の名前を口にして事切れるなんて・・・。でも、もし許されるなら・・・せめて一言・・・井上・・・に・・・

・・・Fade out・・・

・・・Fade in・・・

ピンポーン・・・ピンポーン・・・

 ・・・何処からか音が聞こえる。何だこの音・・・?あまり良い印象のない音のような・・・。

ピンポーン・・・ピンポーン・・・

 ・・・視界が徐々に広がって来る。すっかり暗くなっているが、紛れもなく俺の部屋だ。どうやらまだ生きているらしい。じゃあこの音は・・・インターホンか。

雨上がりの午後 第134回

written by Moonstone

「・・・はい。さっき計ってみたら39℃ほど・・・。いえ、何とか動けますし・・・。はい、はい、そうします。・・・はい、ありがとうございます。それじゃ・・・。」

 俺は受話器を置くとその場に崩れ落ちる。床に突っ伏す前に両手で支えはしたが、限界ぎりぎりといったところだ。兎に角今は横にならないと駄目だ。そう思って立ち上がろうとするが、全く膝に力が入らない。「腰が抜けた」とはこのことだ。仕方がないから四つん這いでベッドに戻る。我ながらみっともない有り様だが、どうせ誰も見てない筈だしこの状況で格好など気にしていられない。

2000/2/27

 ご覧のとおり、トップのレイアウトをいじりました(笑)。徹夜してほぼ1日かかた力作(?)です。時間掛かり過ぎとは言わないで下さい(^^;)。いえ、前から気になることはなってたんです。「どうも重い」と・・・。多少味気ないものになるのを承知の上で、アイコンの大半と伸縮するアニメGIFをカットしました。アニメGIFは長く使っていたので名残惜しいのですが、軽量化を優先した結果です。まあ、グループでは引き続く使っていますが(笑)。
 あと、更新履歴に書きましたように「隠し部屋」なるものを設置してみました。何処にあるかという御質問は隠し部屋に対して野暮というものです(爆)。敢えてヒントを言うなら・・・「芝目に手を翳す時、奇蹟は起こる」です。隠し部屋ということにかこつけて(^^;)、色々試す場所にしようと思っています。

 いきなり吹雪きおってからに(泣)。買い物帰りには雪まみれ。予定していた「ブギーポップ」シリーズの購入は延期。でも、CCさくらの11巻はきっちり買いました(爆)。この様子だと・・・12巻で歌帆登場か?待ってるぞ〜!(^o^)/ もう一つ。このまま進むと小狼がかなりの人数を敵に回す可能性が高いですね(笑)。10巻の段階でもう敵に回してるかも知れないけど(^^;)。
 ・・・え?「ブギーポップ」が買えずに何故「CCさくら」は買えたか?だって、買い物帰りに寄った本屋になかったからどうしようもないです。何ででしょうね?私の住んでるところって、本屋の品揃えが少ないように思います。どうせ今日も徹夜だろうし、息抜きに良いので今日買いたかったんですけどね・・・。あ、頭痛は治りましたので(^-^)。
 ・・・寝られない。その原因はたった一つ。井上が智一とデートするということだ。二人が仲良く楽しそうに歩く姿が勝手に思い浮かんで、普段なら何気無しにメロディーを口ずさむ音楽も何時の間にやら終わっているという状態だ。俺には関係ないと思おうとしても、二人の楽しげな姿が頭から離れない。頭の中のことだから逃げようにも逃げられない。ただ、脳裏に展開される映像を強制的に見せ付けられるしかない。
 全身から力という力を抜かれた俺の脳裏に、再びあの映像が浮かぶ。それも今までより鮮明に。・・・今日だ。この土曜日に智一は井上とデートの約束を取り付けたと言っていた。近くの目覚し時計を手探りで手に取って見ると、時刻は既に12時前。待ち合わせ時間の10時はとっくに過ぎている。・・・もう、おれにはどうしようもない。

 井上は今日バイトを休むと言っていた。その時間には帰れないと言っているのと等価だ。昼食は勿論、夕食も一緒だろう。そしてそのまま・・・。もう、それを否定することも、無関心を装うことしない。そんな気力はもう残っていない。あるのは唯・・・後悔と自己嫌悪だけだ。俺は・・・井上に甘えてたんだ。井上がいつも俺を気遣ってくれて、俺に好意を示してくれることに・・・。だけど、その逆はなかった。俺からは何もしなかった。ただ、待っていただけだ・・・。
 井上は結局待ってはくれなかった。普段なら、否、今までなら所詮こんなもんだ、と妙にあっさり割り切ることも出来ただろう。でも、今はとてもそんな気分になれない。雪が降りそうな重々しい灰色の世界が心に広がるだけだ。目を閉じると井上の顔が浮かぶ。何時も俺の方を向いていた笑顔は・・・もう見られないのか?

「・・・井上・・・。」

 弱々しい呟きが漏れる。言おうと思って言ったわけじゃない。・・・分かってたんだ。あのもやもや感が何なのか・・・。それを認めようとする事を拒んでいただけだ。だが、それは同時に癒される可能性を放棄することでもあったんだ・・・。分かってた。分かってたけど・・・。

怖かったんだ・・・。もう、傷付きたくなかったんだ・・・。

 身体から、心から、どんどん力が抜けていく。浅く早くなる呼吸だけがやけに耳に付く。何にせよ、こんな身体じゃバイトに行けっこない。休ませてもらうように早めに電話しておこう。・・・振られたショックでまた寝込んだ、と笑われても仕方ない。実際、そんなもんなんだから・・・。

雨上がりの午後 第133回

written by Moonstone

 目覚めたがどうもおかしい。起き上がろうにも頭が重い。何時も以上に起きたくないという感覚が強い。全身に妙な倦怠感が立ち込めている。・・・風邪か?昨日風呂から上がってぼんやり音楽を聴いていたのがまずかったか・・・?それに井上と口論を−俺が一方的に怒鳴ってただけだが−して以来、ろくに寝られない日々が続いているから、疲れが溜まってたんだろう。

2000/2/26

 いきなりですが頭痛いです(T_T)。また風邪ひくのかな・・・。何時もと同じ様に暖房をつけていても寒いし、食欲ないし・・・。折角の週末なんだから早く治して作品製作をするのだ!(^-^;)/

 ここのリスナーの皆様だけに最新情報を1つ。トップで掲示板JewelBoxを一時停止するとしている理由は、使用している掲示板のレンタル先を変えるためです。今の掲示板は手軽で使いやすいのですが、単純な上書き方式なので書き込み&レス1組で2つ後ろへずれていって過去の書き込みから続けにくい、そのため新規書き込みが難しい、というのが理由です。新しい掲示板はレスを重ねる事が出きる(レスにレス出来る・・・変な言い方ですが(^^;))ので、今回の問題を多少は改善できるのではないかと考えています。
 入れ替えの時に問題になるのが、直前の書き込みやそのレスをどうするかなんですが・・・率直に言えば書き込んでくれる方がごく限定されているのが現状なので、いきなり入れ替えても差し支えはないと思っています。・・・威張れる事じゃないんですが(溜め息)。

 この際ですからもうひとつ。明日の更新でちょっとしたお遊びを追加します。それが何かは見てのお楽しみということで・・・(笑)。

「晶子ちゃんは祐司君のこと好きだって言ったのよね。」

 潤子さんが念押しするように言う。俺はただ無言で頷く。今は何か言うのも、潤子さんの顔を見ることも出来ない。もしそうすれば、俺が何を口走るか、どんな顔をするか判らない。

「じゃあ・・・、祐司君は晶子ちゃんに好きだって言った?」
「・・・。」

 俺は首を横に振る。あの時俺は何をどう言えば良いのか分からなかった。否、心の中で相反する感情が激しく頂点に向かってせめぎ合い、どうしても判定が出せなかっただけかもしれない。・・・もしかしたら、もうあの時には心は決まっていたけれど、そこに強引に相反する感情を投入して争わせただけなんじゃないだろうか?

「何か一言返してあげても、良いんじゃないかな・・・。待ってばかりじゃなくて。」
「!!」

 BGMの「Dandelion Hill」をバックに、変わらぬ静かな調子で言う潤子さんの言葉が再び俺の心に深々と突き刺さる。待ってばかり・・・か。その「待つ」は井上のように何度邪険にされてもしつこいほどに食い下がるような積極的な意味じゃない。慎重の度が過ぎて臆病になった「待つ」だ。
 確かに俺は食い下がり、追い駆ける事に疲れていた。もう俺の方から食い下がるまい、追うまいと決めていた節もある。そうしても結局絆を保つ事は出来なかったという徒労感と絶望感がそうさせたんだろう。一時は疲れを癒す為にそうするのも良いだろう。だけど・・・

それで良いのか?

「好きって言うのに、意地やプライドは要らないわ。あってもそれは自分も相手も傷付けるだけ。」
「・・・。」
「素直になったら・・・楽になれると思うけどな・・・。」
「・・・もう・・・あんな思いは・・・したくないんです。」

 嘘だ。俺がそう言うと同時に心の奥から声が聞こえて来る。俺はそれを振り切るようにぎゅっと眼を閉じるとコートを羽織って席を立つ。もう疲れたくなくて、楽になろうと心に壁を作ったのに、何時の間にか壁を作って自分を守り続ける事に・・・疲れている。

雨上がりの午後 第132回

written by Moonstone

「・・・良いんです。」

 俺は急速に勢いを増す感情に強引に蓋をするように答える。否、強がって見せる。蓋に重石をするように自分の心に向かって叫ぶ。井上は「先約」が居るくせに俺に好意を持っているような素振りをしておいて、智一とデートをするような軽い女なんだ。あんな女が落とされようとどうなろうと、俺の知った事じゃない。智一の奴に井上が二股かけようとしている事を教えてやるべきだろう。深みに嵌まる前に・・・。
 ・・・そう思おうとしても、まったく蓋の重石にはならない。無理矢理被せた蓋を押し破ろうと、感情が暴れ狂っているのが分かる。そう、昨夜夜道を走り去った井上の後ろ姿を見るだけだった時、解放を阻まれたあの感情だ。あの時は堰が勝手に閉じて閉じ込めてしまったが、今は・・・ぎりぎりだ。

2000/2/25

 谷口と織機の印象的なラストで終わった「ブギーポップ」お試し購入(笑)の3巻。次を買いたいのですが・・・近くの書店には何故か売っていません。電撃文庫から出ているんですが、そのコーナー自体ない書店が殆どです。何故(@-@)?高みから危機感を煽ったり妙な自尊心を振りまく「評論もどき」より、こっちを置いて欲しいですが・・・。

 あちこちのページに出入りするようになって、掲示板の書き込みやレスのためにウィンドウを複数出しています(^^;)。このお話をしている間もそうです。やってみると楽しいのは勿論、意外に時間が掛かるもので、更新予定時刻を過ぎてしまったりします。ええ、今日のように(爆)。
 当ページの掲示板は設置当初閑古鳥すら居なくなったくらいだったので、書き込みがあると喜び勇んでレスしています(笑)。掲示板によっては日に何個も書き込みがあったりして、人気の高さを窺わせます。羨ましいと思う反面、それだけの書き込みにきちんと応対する労力が想像できるだけに、今の更新ペースを考えると大変な事になるだろうな、と思います。

 掲示板にしてもページにしても、管理者の人柄や性格が出るようですね。だからこそメールや書き込みは大切にしていきたいと思います。
 金曜も膠着状態のままバイトが終わり、重過ぎる雰囲気の中の「仕事の後の一杯」で、不意に井上が切り出す。俺はひたすら無関心を装う。

「明日・・・?」
「ええ。出掛ける用事がありますから・・・。」
「分かったわ。」
「じゃあ・・・明日の準備があるので、お先に失礼します。」

 井上は席を立って先に店を出ていく。俺はそれを見送りもせずにコーヒーを飲む振りをする。カウベルの音が止んでから、隣のマスターが恐る恐るといった雰囲気で尋ねる。それも小声でだ。

「一体、君と井上さんとの間に何があったんだ?」
「・・・何も。」

 俺が答えると、マスターは押し黙る。恐らく切り込み方を思案しているんだろう。

「晶子ちゃん、明日デートみたいね。」

 代わって口を開いたのは潤子さんだった。俺は内心びくっとするが、どうにか平静を装う。もしかしたら潤子さんには気付かれているかもしれないが。

「・・・そうですか。」
「祐司君は知ってるんでしょ?そのこと。」
「・・・ええ。」
「どうして止めないの?」
「どうしてって・・・関係ないですから。」

 きっぱり言い切るつもりが、最後の方は弱々しい。如何にも無理しているという口調だ。俺は懸命にその裏に潜む感情を否定する。

「・・・それで良いの?」
「?!」
「本当に・・・祐司君はそれで良いの?」

 カップの取っ手を持つ手に力が篭る。何度も俺の脳裏を掠めたあの問いかけそのものが潤子さんの口から出た。現実の声になったその問いかけは、脳裏に響いていた時の何倍もの衝撃を伴って俺の胸に突き刺さる。

雨上がりの午後 第131回

written by Moonstone

 俺と井上はその日以来、まともに口を利いていない。帰りも別々になったから−俺が先に出る−会話が無いのは勿論のこと、バイトでも事務的な事以外言葉を交わす事はない。それすら必要最小限にしようとしている。俺も井上も、だ。
 傍目から見ても険悪な雰囲気だというのは分かるんだろう。リクエストで『Fly me to the moon』の演奏はするが、耳の肥えた常連客の中には違和感を感じるのか首を傾げる者も居たくらいだし、この手の話に首を突っ込むのが好きなマスターも、決して何があったのかなどと尋ねようとしない。もし尋ねられたとしてもこんなこと言う筈もないが。

「明日のバイト、お休みさせて下さい。」

2000/2/24

 この二人には幸せになって欲しい・・・。「ブギーポップ」シリーズの「VSイマジネーションPart2」のラストで谷口と織機のシーンを読んで、そう思いました。ちょっと切ない気分です。

 さて、一昨日辺りからの続きですが・・・今の私は恋愛をしたいという気持ちが芽生えすらしません。たまに外に出た時に好みのタイプの女性を見かける時もありますが、あ、奇麗だな、と思うくらいです。あの女性と付き合いたいな、と思う事はないし、どうしたらそういう(恋愛したいという)気持ちになれるのか、それすら判らないと言うべきでしょうか・・・。
 なのに何故ここの連載とか第1SSグループのような恋愛ものが書けるのか?それは、この人物がこういう性格でこういう背景があって、こういう状況ならこう思ったり行動したりするだろう、という想像なら出来るからです。言い換えれば私にとって、恋愛はゲームや小説、映画とかの中にだけある、想像上の産物に過ぎないのです。モンスターや魔法がない世界に居ても、それらがどんなものか想像して文章やイラストに出来るのと同じです。

「・・・俺にどうして欲しいんだ?」
「え?」
「俺にデートに行くなって止めて欲しいのか?お前は俺のものだとでも言って欲しいのか?!」

 口調が一言毎に激しさを増す。激流と化したもやもや感を、こうなったのはお前の責任だと井上に向かって吐き捨てるかのように。

・・・それで良いのか?

「そんなつもりじゃ・・・。」
「じゃあ何だ!」
「・・・もう良いです。」

 井上は悲しげな顔を横に向けて街灯が照らす道を駆け出していく。俺は止めることなく闇に溶け込んでいくその後ろ姿を見送る。感情の激流が今度は堰に変わり、新たに沸き上がってきた別の激流を遮断する。

追わなきゃ、止めなきゃ、という衝動めいた気持ちを・・・

 俺はとっくに消えた井上の姿を掴もうとするように開いた右手をぐっと握り締め、同時に唇も噛み締める。・・・痛い。爪が掌に食い込むのよりも、前歯が下唇に食い込むのよりももっと、心が・・・痛い・・・。
 外へ飛びだそうと何度も体当たりを繰り返す感情の激流を、堰に変貌した感情がやけにしっかり食い止める。「意地」という強固過ぎる堰は、俺が壊そうとと思っても壊れない。もうそれは、俺の制御をとっくに逸脱していたと今更気付く。二度と傷付くまいと「壁」を作る術を使っているうちに、その「壁」が勝手に動作するようになっていた。そして新たな可能性すら放棄させるように俺を仕向けていた・・・。

・・・それで良いのか?

「・・・知るか・・・。」

 尚も立ち塞がる「意地」という巨大で強固な堰は、俺に本音を吐かせる事すら許さない。脳裏にこだまする問いかけに対する、心に出来た堰とは裏腹にあまりにも弱々しい俺の呟きが、白い吐息に混じって消える・・・。

雨上がりの午後 第130回

written by Moonstone

 ほぼ智一から聞いた通りだ。智一は『なかなかOKしてくれなかったが、お前が晶子ちゃんの事をどうも思ってない、デートに誘っても構わないんだって、と言ったら最初驚いたような顔をして、少ししてOKしてくれた』とご丁寧に声色まで変えて説明してくれた。
 井上は恐らくこんな心境だろう。少しは意識し始めてると思っていた俺が実は何とも思ってなくて、他の男にデートに誘われても構わないとまで言ったと聴いた。私がこのまま他の男の人とデートしても良いの?って・・・。
 そう、井上は俺を試すつもりなんだ。智一から聴いた俺の井上に対する意識が本当なのかどうか、他の男とデートをOKしたという事で俺がどういう反応を示すのか、試そうとしているんだ。・・・冗談じゃない。一体何様のつもりだ?!俺の中でもやもや感が激流へと変わり始める。

・・・それで良いのか?

2000/2/23

御来場者33000人突破です!(歓喜)

 ・・・予想外に早かったので(^^;)、トップの表示はもう暫くそのままにしておきます。久々に更新した「魂の降る里」に対する感想メールが早速寄せられたり、思わぬ形で読者の存在を知ったりして、気長に待っていて下さる方が居るのだな、と嬉しく思いました(^^)。

 引き続き「ブギーポップ」を読んでます。お試しとして買った(全巻買って面白くなかったら凄く悔しいので(笑))「VSイマジネーターPart1」「Part2」を読み終えたのですが、その中で「私に好きになる資格はないのよ」と呪文のように繰り返すシーンに目が止まりました。
 湧き上がる「好き」という感情を自ら否定しなければならないのは、ある意味自分を殺している様なものでしょう。ここの連載での安藤祐司、「魂の降る里」での碇シンジ。それぞれの事情は異なれど、彼らに共通するのは「好き」という感情がある故の苦悩だと思います。逆に言えば好きにならなかったら、こんなに苦しまなくても良いのに、と。・・・そういう話を書いていて何ですが(汗)、実際そう思います。恋愛をもっと我が身の事として捉えられれば、また違った見方があるかもしれません。こんなこと言うから「機械的だ」と言われたりするんですが(^^;)。
 「仕事の後の一杯」も井上が来て以来−否、俺がバイトするようになって以来−初めてとも言える重苦しい空気で、マスターすらも一言二言話し掛けるのが精一杯だった。そりゃあ、何時もなら自分の歌の出来具合や他の曲についてあれこれ興奮気味に語る井上が黙々とコーヒーを飲んでいたら、流石のマスターも迂闊に声をかけられまい。
 俺と井上は一言も話さずに帰路に着く。俺がストーカーの如く付け狙う井上を訝り、井上が俺に話し掛ける機会を窺っていた最初の頃を思い出す。だが、あの時とは全く空気が違う。話そうと思っても話せない、相手の出方を窺うしかないような、酷く嫌な空気だ。・・・あの女が最初に別れ話を持ち掛けてきた時とよく似てるから、余計に嫌に思う。

「あの・・・。」

 井上が切り出す。俺の顔色を慎重に窺うような、神経質をそのまま声にしたような響きだ。最初の頃でもこんな感じじゃなかったのに・・・。もやもや感がますます深まる。それに粘性が加わる。言いたいことは察しが付いているんだ。早く言ってくれ!苛立ちともいえる感情がもやもや感の中から噴き出して来る。

「・・・何だ?」
「・・・。」
「・・・取り敢えず、最後まで黙って聞くから。」

 潤子さんのアドバイスの受け売りだ。実のところ、俺の方から問い質したいという衝動が激しく突き上げて来ている。だが、そんな事をすれば井上はますます話そうとしないだろう。そして、何も話さないまま、俺が既に知っている行動に踏み切るだろう。・・・ますますもやもや感が深くなり、粘性が強まる。

「・・・今日、伊東さんに・・・申し込まれたんです。・・・デートしようって・・・。」
「・・・。」
「・・・断ろうと思ったんですけど、どうしても断りきれなくて・・・。それに・・・伊東さんから聴いたんです。」
「・・・何を・・・?」
「安藤さんは私の事なんかどうも思ってない、デートに誘っても構わないって言ったって・・・。」

雨上がりの午後 第129回

written by Moonstone

 その日のバイトは重苦しいものだった。忙しさはそこそこだったものの、井上とまともに話す事がなかった。顔を合わせてもどちらかが何か言おうとして躊躇い−客の目やマスターの目が気になったのもあるが−、結局互いに視線を逸らして別々のことをする・・・その繰り返しだった。
 最初の一言はとっくに決まっている。「何かあったのか?」それだけだ。だが、それを言った瞬間、俺は潤子さんの問いかけによってもやもや感の中から引っ張り出されたものを認めなければならないだろう。何故なら、井上の言いたいことは大凡察しが付いているからだ。智一が帰り道で、朝の剣幕が嘘のような調子で俺に「結果」を報告したから・・・。

2000/2/22

 昨日から引き続き「ブギーポップ」シリーズを読んでます。この作品、読み手が主人公の気分になれるという性質のものではなくて、あくまでも傍観者に徹しさせるという印象です。色々な人物の立場から一つのストーリーを見せる構成がそう思わせるのかもしれませんが、こうした見せ方には興味があります。時間軸が飛び回るので、人物の相関関係図が必要かもしれません(笑)。

 以前、職場に歳の近い女性が仕事の都合で短期滞在していました。客観的に見て可愛いというタイプで、職場には珍しい女性ということもあって、同僚達(やっぱり同年代)はかなり興味があったようです。ある日、たまたま雑談中にその女性の話が出て、私に話が振られました。その女性は私が居るセクションに滞在していたので、関連付けられるのは必然的だったのかもしれません。

某氏「なあ○○君(私の本名)、彼女と一緒に居られて嬉しいやろ?」
私「別に(きっぱり)。」
某氏「・・・な、何でそんなに冷静に言える?(汗)」

 何せ即答でしたからね(^^;)。無論その女性が個人的に嫌いとかいうことはなくて、単に「仕事に来た同業者」としか見てなかったのですが、それが信じられなかったようです(一瞬空気が凍った)。私自身はそれが当然という思いだったのですが、同僚達の反応を見て気付きました。「ああ、こういう話に興味を持つのが自然なんだな」と。・・・こう思う時点でもう、自分を常に第三者的に見ている、言い換えれば客観的に見ている証拠なのかもしれません。「自分を客観的に見ろ」と言いますが、それが出来て果たして良いと言えるんでしょうか?
 潤子さんが不意に問い掛けて来る。表面上は何事もないような振りをしているつもりなんだが、やっぱり外から見ればバレバレなんだろう。

「いえ、何でもないです。」
「そう・・・?晶子ちゃんもちょっと様子がおかしいし・・・。何かあったの?」

 俺は思わず箸を停めてしまう。潤子さんはおっとりしているようで実のところかなり鋭い。恐らくマスターが浮気したら−するとは思えないが−直ぐに勘付くだろう。しかし、こういう状況で井上を出されると関連付けられかねない。場合によっては俺が何かした、と疑われてしまう。こういう時は男の方が絶対不利なんだ。

「喧嘩でもしたのか?」

 ・・・早速か。マスターめ、少し離れたところでコーヒーを沸かして聞こえてないような振りをしていながら、しっかり会話を聞いているなんて趣味が悪いぞ。

「してませんよ・・・。俺は何も・・・。」
「何か意味深な言い方だなぁ。井上さんは君に何か言いたそうな感じだぞ。」
「!」

 マスターの一言で俺の身体の内側がびくん、と震動する。思い当たる節はなくもない。恐らく関係者は俺の心の底に低く垂れ込めるもやもや感を生み出した人物と同一だろう。今考えられる可能性は、それしか思いつかない。

「ここは一つ、君の方から井上さんの気持ちを察してやってだな・・・」
「あなた、茶化すような言い方しないで。」

 恋愛講釈を始めそうなマスターに潤子さんが釘をさす。俺は内心ほっとする。こういうフォローは有り難い。

「でも、晶子ちゃんが何か言いたい事がありそうなのは本当みたいよ。話し掛けられたら、まずは黙って聞いてあげて。」
「・・・分かりました。」
「踏ん切りがつかなくて迷っている時に、聞き上手に徹することが出来るっていうのは、ポイント高いわよ。」
「な、何のポイントですか?」
「それは・・・祐司君自身本当は分かってるんじゃない?」

 潤子さんの問いがもやもや感の向こうに隠れていた、否、隠していたものに突き刺さり、引っ張り出して来る。・・・認めたがらないあの感情を・・・。「それで良いのか?」と問い掛けてきたのは、これだったんだ・・・。

雨上がりの午後 第128回

written by Moonstone

「はい、お待たせ。」

 潤子さんが差し出した夕食の乗ったトレイを受け取る。俺は割り箸を割って食べ始めるが、やっぱりもやもや感と井上の態度が気になって、潤子さんの料理を味わうどころじゃない。勿体無い話だが・・・。

「祐司君、具合でも悪いの?」

2000/2/21

 昨日の更新作業と今日の更新準備が余程疲れたのか、目覚しにも気付かず昼まで寝てました(汗)。試しに買って飲んでみたざくろ酒が効いたのかもしれませんが、10分間かなりの音量で鳴り響くというのに気付かなかったなんて・・・(大汗)。大事な用事とかで寝坊できない時は、是対酒を飲んで寝るのはいけませんね(^^;)。

 久しぶりに小説を買いました(笑)。普段webページでの公開用に書いているので読む必要性がない(爆)のもありますが、これは、という小説が見当たらなかったのもあります。あ、識者や評論家が書くような高みからの説教文など、端から対象外です(断言)。それが時代の流れだ、とか強圧的に迫ったり、この主張が理解できなきゃ生き残れない、と妙な危機感を煽ったりするのが不愉快でならないからです。
 買ったのは「ブギーポップ」シリーズ。某ページのイラストに興味を持って出所を尋ねたりしていくうちに、原作を読んでみようと思って試しに3巻まで(「第○巻」とあるわけではないですが)買いました。「ブギーポップは笑わない」を読み終えたのですが、これは面白い!時間軸が飛びまくるので把握にちょっと手間取りますが(笑)、人間の心理が絡み合うところは絶妙。これは暫く楽しめそうです(^-^)。
 小説で思ったのですが、webに存在する小説にはそれこそ先に挙げたような押し付けがましい説教文は勿論、大ヒットと呼ばれる小説や映画より面白くて、次を読みたいと思うものがあります。それまでの栄光に胡座を掻いている既存メディアに取って代わるのも近いかもしれないですね。
 夕暮れが日を追うごとにますます早まり、「Dandelion Hill」に着いた頃にはもう夕暮れは残像すら空に残っていない。ただ、空を支配しようとする限りなく黒に近い蒼色に最後の抵抗を試みようというのか、西の空に僅かに明るさが残る程度だ。・・・何だかその空が、今の俺の心を象徴しているような気がする。何が蒼色で何が明るさかは分からない、否、分かろうとしていない。

「・・・こんにちは。」
「もう、こんばんはでも良いぞ。」

 ドアを開けて正面に居たのは熊さんことマスターだ。慣れたつもりでも正面に居ると思わずたじろいてしまう。客の中には最初に出迎えるのがマスターか潤子さんかで明日の運勢を占っている輩も居るらしい。

「・・・安藤さん。」

 中に入った俺を次に迎えたのは、エプロン姿の井上だった。今や潤子さんに迫る男性客の人気を集める朗らかな笑顔−営業スマイルとは本質的に違う−ではなく、暗いというか不安の影が見える。

「何だよ、深刻な顔して。」
「・・・いえ、何でもないです。」
「なら良いけど。」

 そうは言ってみたが、異常に気になる。井上があんな態度を見せるのは初めてと言って良い。今までなら話さなくても良さそうな事まで俺に話して来たことが、何時の間にか当たり前に思うようになっていたことに気付く。井上は水の入ったポットを手に取ると客席に走っていく。何か俺を避けているようにも見える。・・・俺が何をしたって言うんだ?
 ますますもやもや感が強まる中、俺はコートを脱ぐと、夕食を食べる為にカウンターの何時もの席に着く。程なく潤子さんが客席の方からやって来た。

「こんばんは。」
「こんばんは。夕食、直ぐ出来るからちょっと待っててね。」

 潤子さんは小走りでキッチンに入ると、夕食の準備に掛かる。何時もなら何時出来るか潤子さんを見ながら待っているところだが、今日はそんな気分になれない。・・・あのもやもや感と井上の態度が気になって仕方がない・・・。

雨上がりの午後 第120回

written by Moonstone

 その日の夕方、俺は何時ものようにバイト先の「Dandelion Hill」へ向かう。服装も何時ものように普段着で出掛ける時間も変わりはない。だが、心の中は相変わらずもやもやしたままだ。智一が井上に興味はないんだな、と念を押した時から感じているものだ。
 そのもやもやに乗って心の蠢きの軌跡が揺れている。「それで良いのか?」と・・・。そんな事、俺自身分かりゃしない。・・・否、分からないと思い込もうと自分で仕向けているのかもしれない。

2000/2/20

 ふふふ、今回の定期更新は大増量でお届けできました(前回比(笑))。第1SSグループは更新そのものも約一月ぶりで、今回公開した「魂の降る里」は二ヶ月ぶりです(大汗)。忘れられてやしないかという不安はありますが、本格的なスランプからの復帰の第一歩となる今回の更新、ごゆるりとお楽しみ下さい。

 昨日「惰性」に関するお話をしましたが、webページを立ち上げる迄に2年掛けて検討したのは、運営し続けられるのかという疑問がなかなか消えなかったからです。その対策として複数のグループを立ち上げ、隔週で定期更新を設けるなどとしたわけですが、それでも作品を製作してそれを公開して・・・ということそのものが惰性に陥る可能性があるんだな、と今回陥った極度のスランプで実感しました。
 流れで始めた1行リレー小説に加わって頂き、某ページで拝見したイラストでイメージするままに書き綴った散文を送り付けて掲載してもらったり(汗)、色々な方からアドバイスを貰ったり・・・。ネットにはまた別の刺激があるものだと思うと同時に、惰性にならない気構えも大切だなと思います。
 まただ。またあのもやもや感が心の奥底で蠢き始める。その動きが描く軌跡は「それで良いのか?」と見えるような気がする・・・。どうして・・・否、やっぱり、か・・・。

「じゃあ、俺が晶子ちゃんを誘っても文句はないよな?」
「・・・好きにしろ。」

 心の蠢きがますます激しさを増す中、半ば無理に−意地を張って、と言うべきか−答えると、それまで怒りが噴き出すような顔をしていた智一が、急ににやにやと笑い出す。何なんだ?一体・・・。

「よおっし。それじゃあ早速晶子ちゃんをデートに誘うかな。もうコースは用意してあることだし。」
「コースって・・・何だそりゃ?」
「デートコースに決まってんだろ。確実に落とせるようなコースを用意したからな。早速今度の日曜にでも・・・。」

 今までの怒り溢れる様子とは打って変わった浮かれた様子の智一を見ていると、ますますもやもやした気分になって来る。蠢きの軌跡が描く「それで良いのか?」という文字が、ますます深く濃く、鮮明になって来るように思える。
 智一は「落とす」と言った・・・。智一が井上に熱を上げているのは分かりきったことだし−同じバイトだとは今も言ってない−、遅かれ早かれ本格的なアタックを仕掛けると言っていた。智一に言わせれば、「あれは下準備みたいなものさ」ということだ。その下準備も上手く行っているとは思えないんだが・・・それは別として、智一が本気になれば、大抵の女はそれこそ簡単に「落ちる」だろう。ルックスも経済力もある。性格も多少お調子者的だが悪い方ではない。少なくとも俺よりはましだろう。

・・・本当に良いのか?
まただ。また問い掛けて来る・・・。
・・・本当に良いのか?
俺には・・・関係のないことだ!

井上が誰とくっ付こうと、俺の知ったことじゃない!

・・・本当に、それで良いのか・・・?

・・・分からない・・・。

雨上がりの午後 第126回

written by Moonstone

「腕まで組みやがって!!興味ないとか言いながら抜け駆けするっていう、その根性が気に入らねえ!!」
「抜け駆けじゃない!離せ!!」

 俺は智一の腕を振り払う。智一は怒りで、俺はもやもやした気分で肩で息をして睨み合う。こんなこと、智一と知り合って以来初めてだ。本当に恋愛は何もかも狂わせる。・・・やっぱり恋愛なんてもう御免だ。

「・・・もう一回聞くぞ。」
「・・・何だよ・・・。」
「お前、晶子ちゃんには興味ないんだよな?」
「・・・ああ。」

2000/2/19

 明日の定期更新に向けて追い込みを掛けます。このところ定期更新らしくない状態が続いているので、このまま惰性にならないようにひと踏ん張りしようと思います。新規グループの設置もある事ですし・・・。えっと、今日の更新が遅くなったのは、寒さに震えて布団に潜っていたら、何時の間にか眠ってしまったためです(爆)。早く春になれ〜(切実)。

 惰性というと・・・日々の生活もどうしても惰性になりがちなんですよね。仕事そのものはそれこそ明日何があるか予想がつかないことが多い変化に富んだ(あり過ぎ(^^;))もので、作品製作も進行や挫折があって総合すれば楽しいのですが、それらを一つとすると1週間の大半はその二つで埋め尽くされています。仕事がなければ作品製作、という具合でしょうか?「それ以外」がないなぁ、と改めて思いました。
 私は元々付き合いが少ない方ですし、単身見知らぬ土地に移ってきたこともあって休日とかに連れだって何処かへ行ったりする友人が居るわけでもありません。それに集団行動が苦手なのでサークルとかに入る気もない(恋愛沙汰が中心になり易いのもある)。これでは惰性になっても無理ないかな、と妙に冷静に自己分析していたりします(^^;)。その意味で、先週日曜のようなオフ会で遠出したりすることは、刺激を得られる良い機会だと思います。
 何時か返事をする、と言っては見たものの、未だに俺の気持ちは不定形のままだ。もう騙されるのは御免だと頑なな壁を作って拒否する気持ちともうあの事に拘らなくても良いんじゃないかと新しい可能性に向かう気持ちが、攪拌されてでたらめな模様を描いている。それに加えて井上の気持ちは本気なのかとか、OKした場合と断った場合の井上の反応はそれぞれどうかとか様々なベクトルが複雑怪奇に加わって、余計に心模様を複雑にしている。

もし俺が今まで誰とも付き合った事がなかったらどうするだろう?

 色々考えを巡らせていた俺はふと思う。考えてみれば、俺の気持ちが定まらないのは一月前のあの出来事から心に芽生えた負の感情が存在するからであって、それがなかったらどうしているだろう?
 客観的に見て、潤子さんとは違うタイプだが井上が美人の部類に入ることは間違いない。決して性格も悪くない。料理も美味いし、音楽という共通の趣味嗜好がある。派手好みじゃなくて一緒に居て話が出来れば良いという、表現は悪いが「安上がり」な女だ。もっとも男の側にしてみれば、少なくとも俺はその方が絶対良い。俺自身がブランドとかに興味がない方だし、あったとしても俺の生活状況で対応できる筈がない。・・・そう考えていくと・・・何もなければOKしているんだろうか?・・・何となくそんな気がする。

「祐司!!」

 後ろから声がする。智一の声には違いないが、聞いたこともないような勢い、否、感情を感じる。後ろを振り返ると、明らかに怒りそのものの表情を見せる智一が猛然と突っ込んで来る。思わずたじろいた俺に智一は走り寄ると、いきなり胸座を掴み上げる。まさに有無を言わさず、だ。

「この大嘘野郎!!お前がそんな卑怯な奴とは思わんかったぞ!!」
「・・・な、何だよいきなり。」
「何だよ、じゃねえ!!そりゃこっちの台詞だ!!昨日のあれは一体何だ!!」

 ・・・昨日のことか。思い当たる節といえばそれしかない。ちなみに此処は大学の敷地内だ。当然のことながら大学に来る他の奴等がぞろぞろと歩いているし、何事かとこっちを見ている−見るだけだが−。なのに智一がそれを気にせずにこうも感情を剥き出しにするとは・・・。

雨上がりの午後 第125回

written by Moonstone

 翌日、俺は何時もの電車に乗って何時もの駅で降りて学校へ向かう。表面上は普段と変わりないが、内心は昨日の出来事一色に染まっている。昨日の出来事とは勿論、演出効果たっぷりの中で井上から直球的な想いの言葉を受けたことだ。朝起きてから今までずっと、告白の言葉とその時の井上の表情が頭の中にちらついている。
 あれから井上と次に歌う曲を選んで紅茶を一杯飲んでから帰ったが、井上が選んだ曲は案の定というか、演出に使われた「THE GATES OF LOVE」だし、紅茶の時も、聞いて覚えたいという井上の主張でそれがリピートで延々と流された。何かの宗教じゃあるまいし・・・。

2000/2/18

リスナーが2000人を突破しました!(歓喜)

 ・・・でも、御連絡はまだ戴いておりません(^^;)。2月いっぱいまで受け付けますので、是非ともご連絡下さいませ。

 サーバに不法侵入してwebページを書き換えたりするクラッカー(ハッカーとは本来違うものです)とか、インターネットを使って毒劇物などを売買したりする事件がある度、顔が見えないネット社会故の問題とかいう識者が居ますが、顔が見えないのは通信販売は元より、電話も手紙も無線もそうですし、それらが犯罪に使われた例など挙げれば切りがありません。顔が見えない=コミュニケーションが下手と言うなら、ろくに議論も出来ずに数の力で全てが決まる国会の現状をどう説明するんでしょうか?あそこに居る議員の殆どは、ネットなどろくに触ったこともない、それこそ顔が見える=コミュニケーションが上手い人種ではないんですか?識者諸氏。
 とどのつまり、特にマスコミに登場する識者は、自分の価値観にそぐわないものに何かしらのレッテルを貼って排除したいだけなんでしょう。それをさぞ当然という顔をして言われるのは迷惑千万。識者は顔が見えていると思っているのは、実はマスコミという巨大なフィルターを通してのものだということに、いい加減気付いたらどうですか?
 否応無しに俺が男であり、井上が女であることを意識しなきゃならないこと決定付けられたわけだ。もう訳が分からない。井上の言葉にどう答えれば良いのか、自分の井上に対する気持ちがどうなのか、これからどうしていけば良いのか、頭の中がぐしゃぐしゃになって何も分からない。

「・・・俺は・・・」

 機械的に動き始めた俺の唇が井上の人差し指で軽く塞がれる。まるでキスでもするかのように・・・。

「返事は気持ちが整理できてからで良い・・・。だから今は・・・言わないで・・・。」
「・・・。」
「返事は気長に待ちますから・・・。」

 ・・・待つ・・・だって?再び俺の中で疑惑の濁流が噴き出す。今までより激しく、大きな濁流が・・・。あの女もかつてよく似たことを何度も言った。

ずっと一緒に居ようね
何時までも大好きだからね

・・・だけど、それは嘘だった。自分の都合であっさり覆した。所詮絶対とかずっととか、そんなのはその場限りの嘘っぱちなんだ。恋愛に酔った勢いで口にしているに過ぎないんだ。

もう・・・騙されてなるか!

「・・・待ってられるものか・・・。そんな気休め、止めてくれ・・・。」
「待てる限り待ちます・・・。それでどうですか?」

 井上の顔から視線を逸らして吐き捨てる俺に、井上が言う。待てる限り・・・か・・・。絶対待てます、とでも力説するのかと思ったが、意外に現実的とでも言うか・・・。だが、どうせ出来もしないことを声高に出来ると言われるよりも、俺にとってはその方がずっと良い。

「何れ・・・返事はする・・・。」
「ええ・・・。」

 俺が再び井上に向き直って言うと、井上は柔らかい微笑みを見せる。俺が井上の想いに言葉を返した時、この笑顔は見られるんだろうか・・・?

雨上がりの午後 第124回

written by Moonstone

 俺は壊れかけの人形のようなぎこちない動きで、井上の方に顔を向ける。井上の表情は真剣そのものだ。告白の時に必要不可欠な、想いを口にする勇気を振り絞って躊躇いの壁を破る機会を窺っているようだ。俺は・・・3年前のあの時と同じく、想いの言葉を聞くのか・・・?

「今は・・・私の気持ちを聞いてくれるだけで良い・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・安藤さんのこと・・・・・・好きです。」

 心臓が破裂しそうなくらい大きく、どくん、と一度脈打つ。とうとう俺は決定的な言葉を聞いてしまった。凝縮された想いを声で表現したこの言葉を聞いたという事は、俺と井上がもはや単なるバイト仲間や音楽を通じたパートナー同志や友人ではいられなくなった瞬間でもある。

2000/2/17

 ♪吹雪舞う〜夕闇の〜街。雪に〜塗れて、一人歩く〜♪・・・って、昨日より雪の勢いが激しくなってる(汗)。水も冷たいし、底冷えはするし・・・。私にとって寒いってことは、食べ物が美味しい(特に鍋)以外は良いことないです。それにこの心から冷えるような寒さは風邪をひき易い条件とも言えますので、皆様ご注意のほどを。あ、それから先頭の歌(?)は全くの創作です(^^;)。

 何れ正式に告示しますが、JewelBoxにて展開された1行リレー小説を、新規グループとして公開することが内定しました。この企画を私自身面白いと思ったのもありますが、折角出来た作品を公開しないのは勿体無いですし、1行単位で綴っていく自己表現の場として、気軽に参加して頂けるものになるのではないか、という思いがあります。
 JewelBoxでは第2回目を始めましたが、新規グループ(名称未定)でも別途始められるように準備します。1行でも参加された方は、完結して公開する時点でお名前を掲載すると共に、webページをお持ちなら独自に公開したり、新規グループに直接リンクして良いというルールにしようと考えています。ある時は創作のきっかけに、ある時は自分の刺激として、様々な可能性が考えられるグループになるような気がします。
 やっぱり井上はこれまで同様に確信犯だった。疑問が確信に代わった瞬間、全身が一気に熱くなる。俺は思わず井上から目を背ける。これ以上井上の顔を見ていたら、本当に井上に心を乗っ取られてしまう!

でも、それでも良い・・・かも・・・。
まだ言うか?!まだ懲りてないのか?!
何回痛い目に遭えば、気が済むんだ?!

・・・だけど・・・

 その時、床についている筈の俺の左手に少しひんやりとした、そして柔らかい感触を感じる。それが何かは直ぐに分かる。だが、それを払いのけようにも体が硬直して動かない。
 俺と井上の言葉が消えた室内に、「THE GATES OF LOVE」の歌声だけが響く。俺の脳裏ではますます激しくなる心臓の鼓動が、曲におよそ似つかわしくないテンポを刻んでいる。俺は必死に意識を正面に見える絨毯が敷かれた床に向けようとするが、左手から伝わる感触とその背後にあるものがそれを許さない。俺はただ、じっとしているしかない。

「この歌・・・歌詞を見たら私の気持ちにぴったりだったんです・・・。」
「・・・。」
「ちょっと遠回しだけど、気持ちを伝えたいなって思って・・・合わせて歌ってみたんです。」
「・・・何で・・・そんなこと・・・。」
「気持ちが持ち切れなくなったから・・・。抱えられないくらいに・・・。」
「・・・。」

 井上の詩的な台詞で、俺の心の中に一斉に疑念が噴き出す。

その気持ちが何時まで続くんだ?
俺より良いのが見つかったら、呆気なく放り出すんじゃないのか?

 でも、最初の頃とは性質が全然違うことに気付く。あの頃は女憎しの一色で塗り潰されていたが、今は・・・言わば念押しのようなものになっている。噴き出した疑念の裏を返せば・・・俺はこう聞きたがっている!

本当にその気持ちを信じて良いのか?
今度こそ俺を捨てたりしないのか?

雨上がりの午後 第123回

written by Moonstone

「・・・井上・・・。」

 俺が絞り出すように呼びかけると、歌詞を見ながら歌っていた井上が歌うのを止めて俺の方を向く。はにかんだような微笑みに俺は思わず息を飲む。胸の鼓動が自分でも分かるほどに肋骨を内側から突き上げて来る。

「はい・・・?」
「それ・・・意味分かって・・・?」
「一応英語は得意な方ですよ。」

2000/2/16

寒いの大嫌いなんだから、雪は降ってくれるなっつーの!(怒)

・・・天気予報って、よく当たるようになりましたねぇ(- -;)。さて・・・昨日確認した段階で、2000人目まであと20を切っていました。今度はどなたでしょうか?参加型企画ですので踏まれた方は是非ご連絡くださいね!御連絡は2月いっぱい受け付けます♪

 連載で登場するCD「LIME PIE」は勿論実在しまして、私も持っています(笑)。次に井上晶子が歌う曲を探していて選んだのですが、想定していた展開にぴったりの曲が並んでいて驚いています(^^;)。
 著作権の関係で歌詞は出せませんが、丁度今の展開にぴったりです。興味がありましたら一度聞いて見て下さい。神保彰さんのアルバムです。ドラマーとしては勿論、作曲家としても卓越した方です。今回出た「THE GATES OF LOVE」はイメージCVの井上喜久子さん(判らない方は第3創作グループの設定資料集をご覧ください)に歌って欲しいなぁ、と思ってます(*^^*)。
 井上はそれ以上追求しようとはしない。俺を気遣ってのことだろうか?何時もなら気にならない井上のそんな行動も、今は無性に意識してしまう。どうすれば抗うことを許さないとばかりに激しく渦を巻く心を沈められるんだろう?俺はただそれだけを考える。どうすれば良い・・・?どうすれば・・・?

 ・・・そうだ、井上は以前、自分を「注文」した高校生の客に先約がある、とか言ったっけ。先約がある女を意識するなんて、わざわざ泥沼に嵌まりに行くようなものじゃないか。先約があるのに、井上は俺にも触手を伸ばそうとしてるんだ。先約が駄目になった時の慰み物にする為に・・・。
 そんなのはまっぴら御免だ。俺は一度、乗り換えの為の「待ち合わせ」にされて、乗り換えが完了した時点であっさりと捨てられたんじゃないか。もうあの痛みを忘れたのか?意識するだけ損だ、こんな二股女のことなんか・・・。

 ・・・そう思ってはみたが、心の渦が止まることはない。それどころか逆に思い込もうとする意志が返り討ちに遭って飲み込まれてしまい、代わりに鮮明な相反する意識の断片と共に再浮上して来る。

先約があったら意識しちゃ駄目なのか?
無理だ。俺に先約に優るものなんてないに決まってる。
過去の痛みにこだわって、新しい可能性を自ら切り捨てるのか?
所詮可能性は、可能性でしかないじゃないか!

傷付いて泣く羽目になるのは、結局俺の方なんだぞ!!

 ・・・ふと、耳に二つの声が染み込んで来る。曲は「THE GATES OF LOVE」だ。片方はスピーカーから聞こえて来る歌声で、もう一つの、少し後から追い駆けるような印象の声は・・・直ぐ隣から聞こえて来る。横を向くと、井上が歌詞を目で追いながら歌っている。
 透明感のある優しい歌声だ・・・。CDに合わせて追い駆けるように歌っているぎこちなさは全く気にならない。今まで練習で何度も聞いてきたのに、今日はその声が妙に胸に染み渡るように思う。歌詞のせいもあるかも知れない・・・。意訳だがそれなりに意味は分かっている。

!もしかして井上は・・・意図的にこれを歌っているのか?

雨上がりの午後 第122回

written by Moonstone

「・・・前の彼女のこと、考えてたんですか?」

 不意に切り出した井上は、俺の意識を一気に沸騰させる。こんな状況下でいきなり何を言い出すんだ?まあ・・・今の俺じゃそう思われても無理ないかも知れないが・・・。俺は言葉を選ぶ前段階として、まず首を横に振る。

「・・・いや、違う。」
「そうですか・・・。」

2000/2/15

 ようやくチョコレート(チョコレート菓子を含む)を買えます(嬉)。2月に入ってから(いや、1月中旬くらいか?)から2/14まで、男性がチョコレート売り場をうろつくことは、周囲の余計かつ嫌な視線に晒されることになるので・・・。相手が居ないから、とか言われる(全く欲しくないのに)のがまた嫌な話。確実な売り上げが期待出来るからでしょうが、菓子メーカーも迷惑なことを喧伝してくれたものです(怒)。

 さて、日曜のオフ会in大阪に関してもう少しお話を・・・。大阪駅のホームに降り立った時の第一印象は人が多いでした。どっちを見ても人、人、人。何度か行っている東京もその人の多さに唖然とすることしばしばですが、今回はそれを上回っているような印象を受けました。
 大阪駅界隈を歩いていて(迷って走っていた(爆))目立ったのは、飲食店の多さですね。地下にも屋外にもずらりと並んで・・・。外食時に飲食店画致河馬になくて苦労しているだけに、何と便利なと思ったり(単純(^^;))。全体の印象として、下町がそのまま大きくなった「生きている」街という感じでした。ゴチャゴチャしてはいるんだけど(笑)、不思議と不快には思わない。計算されて造られた街にはない息吹のようなものを感じました。
 今度はもっとゆっくり散策したいですね。界隈を写真にしたら面白いものが出来そうです。道に迷っていると、とてもそれどころじゃないので(爆)。
 テーブルで向かい合って夕食を食べたが、結局妙なぎこちなさは抜けなかった。料理は美味かったし、井上も俺の様子がおかしいことに気付いたのか−やはり気付かれた−度々尋ねてきたので、何もないから気を使わなくて良い、と答えるのが精一杯だった。
 気を使って欲しくないのは本当だ。今の状況で井上に気を使われると、俺の中で混濁する気持ちが、ある一つの方向に形成されるだろう。それだけは絶対避けないと駄目だ、またあんな痛い目に遭いたいのか、という気持ちがブレーキとなっているのがせめてもの救いだ。だが・・・心の何処かで、もう良いんじゃないか、と問い掛けて来るものが芽生え始めていることに気付いて、慌ててその芽を踏み躙る。だが、それでも尚その気持ちの芽は消えようとしない。

・・・駄目なのか?もう・・・。
友達のままじゃ、終われないのか・・・?

 井上が洗い物を済ませて居間に戻って来た。邪魔になるのか束ねていた髪を解く。光沢を含んだ長い髪が、絹が折り重なるような音と共に肩から背中へと広がる。こんな意識の時にそんなラブシーン直前のような行動は止めて欲しい・・・とは言っても、こんな事言える筈がない。ただ、その悶々とした気分を必死に押え込むしかない。

「・・・CD、かけますね。」

 何かあるのか、と尋ね続けるとしつこいと思われると感じたのか、井上は今日買ってきたCDの封を解いて取り出すと、プレイヤーにセットする。そしていそいそと俺の横に座る。最初に井上の家に入った時、同じ様に横に並ばれてどきっとしたが、今日の胸の脈動はその時とは比較にならない。俺が井上に恋愛感情を持っていたら、間違いなく肩を抱くなりしているだろう。だが・・・

今、その恋愛感情が全くないとは言い切れないんじゃないか?

 聞き覚えのある旋律が聞こえて来る。これは・・・4曲目の「COME AND GO WITH ME」だ。今の俺にはあまりにも意味深な歌詞だ。聴いているとどうにかなりそうだから、俺は意識を無理矢理曲から遠ざける。
 しかし、意識の行き場所など見慣れた室内にそうそうある筈がない。ベッドに意識が向きそうになって慌てて音の方に戻す。俺自身持っていて、何度も聴いたこのCDで、どうしてこんなに大変な思いをしなきゃならないんだ?どうして男と女ってことを意識しなきゃ続けられないんだ?

雨上がりの午後 第121回

written by Moonstone

「・・・あ、邪魔だったな。悪い・・・。」
「何かあったんですか?」
「・・・い、いや、何でもない・・・。本当に・・・。」

 そう言って井上に背を向けてテーブルに戻るが、誤魔化しにしてはあまりにもぎこちないと自分でも思う。何かありますよ、とわざわざ示しているようなものだ。夕食を食べたらさっさと帰った方が良いだろう。曲を選ぶのは井上一人でも出来ることだし、このままだと自分がどうなるか判らない。そして今の混濁した気持ちをどうして良いか判らない。

2000/2/14

 今日は更新が遅くなりました(^^;)。理由は簡単、某ページの管理者様主宰のオフ会に出席していたためです。今回の舞台は大阪。私自身関西方面に足を運ぶのは随分久しぶりのことで、大阪の界隈を歩いた記憶は見当たらないほどです(汗)。そんな状況でいきなりでかければどうなるか?予想通り道に迷いました(爆)。
 あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、1時間近く大阪駅周辺を走り回り、挙げ句の果てには主催者様に待ち合わせ場所付近でうろうろしていた(笑)私に声を掛けて頂いてようやく到着・・・。自分の方向音痴を曝け出し、さらには私自身実感した(今頃かい)次第です。

 オフ会そのものはズバリ楽しかったですね(^^)。普段主催者様のページの掲示板でお話する方々との初めての顔合わせということで、最初は少し緊張しましたが、話し言葉が近い(関西圏出身です)のと、大阪らしいなぁと思わせる会話のやり取りに、酒が加わって(笑)大盛況。日本酒を注いでもらおうと差し出したお猪口に、日本酒の徳利と醤油さしを同時に差し出された時は参りましたね(^^;)。そんなノリが最後まで続きましたとさ。
 余所事をしながら練習できるほど俺は器用じゃない。TVではニュースをやっているが、まったく頭に入らずに素通りしていく。意識は既に、奇麗に整頓された部屋に向いている。もう何度も出入りしているし、目新しいものは入っていないが・・・今日は妙に背後にあるベッドが気になる。
 練習では、そのベッドに腰掛けて俺はギターを弾く。自分の家でも椅子に座って弾くし、胡座をかいて弾くのはかなりやり辛い。だから座り心地の良い椅子代わりに使ってきたし−井上が良いと言ったのもある−、何も気にならなかった。これは・・・俺が井上を教える相手ではなく、女として意識し始めたということ・・・なのか・・・?やっぱり・・・。

「安藤さん。ドア開けてくれますか?」

 ノックの音がしてドアの向こうから井上の声がする。我に帰った俺は直ぐに立ち上がるとドアを開ける。井上がトレイに二人分のポタージュスープとサラダを乗せて立っていた。

「ありがとう。もう直ぐ御飯が炊けますから。」
「・・・運ぶの手伝おうか?」
「え・・・、いえ、これくらい大丈夫ですよ。」

 井上は一瞬意外そうな顔をしたが、やんわりと断って再びダイニングへ向かう。・・・そりゃあ意外だろう。俺が手伝おうか、なんて言うとは俺自身妙に違和感がある。今まで井上が何かと俺の世話を焼くのは何も意識しなかったし、心の奥底ではこれくらいしてもらっても罰は当たるまい、とすら思っていた。だが・・・今日はそんなある意味居丈高な気分は何処かへ吹っ飛んでしまっている。
 やはり、相当意識していると分かる。原因は明らかだ。あんな俺にとっては「挑発的」なことをされては、それこそ悟りの域に達した仙人でもないと意識しないというのは無理だろう。ベッドが妙に気になるのもそこから派生する欲望の断片だろう。

やっぱり、友達のままなんてことは出来ないんだろうか・・・?

「安藤さん、どうしたんですか?こんなところに突っ立って・・・。」

 再び井上の声で意識が現実に引き戻される。俺の前に井上が二人分焼き肉の皿をトレイに乗せた井上が立っていた。

雨上がりの午後 第120回

written by Moonstone

 どうにか井上の家に辿り着いた俺は、居間でぼんやりTVを見ている。井上は家に上がってコートを片付けると直ぐに夕食の準備を始めた。本来なら手伝うべきところなんだろうが、俺が包丁を握ったところで野菜か指かどちらが切れるのが先かというレベルだし、そんなレベルで手伝うなどというのは邪魔なだけだろう。それに井上が「居間でゆっくりしてて下さい」と言ったし・・・。
 何時もはダイニングで待つんだが、今日は居間で食べましょう、と井上が付け足した。何をするつもりだ?俺も井上も誕生日じゃないし−前に会話の流れで言い合った−、他に思い当たる節はない。
 今までだと今頃この居間で歌の練習中か、ぼちぼち終わるというところだ。それに俺はあまりTVを見る方じゃないし、曲をアレンジしたり演奏の練習をしていたりするから、見る方がむしろ難しい。

2000/2/13

御来場者32000人突破です!(歓喜)

 ・・・ろくに更新できてないのによく増えたな(汗)。今回はJewelBoxで御連絡を戴きましたので、大変嬉しいです♪トップページのお名前は33000人まで表示します。表示の目安は1000人単位ですが、キリの良い数字(33333とか)でも表示しますので、御連絡をお待ちしております。感想など一文でも添えて頂けると、私が身悶えして喜びます(笑)。

 「CCさくら」のアニメを見る習慣がようやくつきました(爆)が、今日は原作だとお気に入りの観月歌帆が登場する話なので、絶対見逃すまいと固く決心して臨みました。ええ、勿論チャンネルは10分前に合わせ(その前のドラマは記憶から消去(笑))、始まってからも今か今かと待っていました。巫女さん衣装で「こんばんは」と言う瞬間を(いえ、別に巫女さん好きじゃないんですが(自滅))。なのに・・・

何で、何で歌帆が出やえんの?!(泣)
月峰神社言うたら歌帆やのに、どうして出てこやんねん!!(号泣)

・・・しまった、つい絶叫してしまった(汗)。原作と話の順番が違うし、次回はオリジナルキャラが出るようだし・・・歌帆は何時になったら「こんばんは」と言ってくれるんでしょう?(^^;)。今日のところは仕方が無いので、コミックスの3〜6巻を読んで「はにゃ〜ん」となってました(爆)。

「しっかり掴まってないと危ないでしょ?」
「掴まるなら・・・その・・・荷台の端の方とか・・・。」
「この方が掴まり易そうだから。」

 情けないことに言葉の端々に動揺が隠せない俺の説得に−その体を成していないが−、井上は全く応える気配が無い。そうだ、井上はこの程度で諦めたりする柔なタイプじゃなかったんだ・・・。

「早く行きましょうよ。」
「・・・わ、分かったよ・・・。」

 出来るだけ背中の感触を気にしないようにしながら、俺はペダルに力を込める。最初こそ少し前輪がふらついたが、直ぐにスピードが出て車体は安定する。普段していなくても意外に出来るものだ。
 井上の家までは何度か起伏があるが、緩やかなものだから二人乗りでも十分行けるだろう。それよりもこの季節に自転車で辛いのが、スピードを上げるに連れて強まる寒風だ。夏は涼しくて快適なんだが・・・。

「寒くないですか?」
「今日はあんまり風が無いから、まだましだな・・・。」

 それに今日は・・・背中が温かい。あと、腰周りも・・・。こんなに他人の温もりを感じるなんて、何時以来だろう・・・?ああ、あの女と寝た時以来か・・・。確か最後は・・・。
 止めよう、こんな時にあの女のことを考えるのは。背中の感触もあるし、妙な気分になっちまう。俺はそんな事をしたいわけじゃないんだ。第一・・・そんな関係になりたいなんて・・・思っちゃ・・・。

「安藤さんの背中、温かいですね。」

 不意に井上の声が聞こえる。普段より幾分控えめというか、浸っているというか・・・。兎に角、返事をし損なわないようにスピードを少し落とす。声が風で後ろに飛ばされてしまうからだ。

「そうか?」
「ええ・・・。」

 腰の圧迫感が少し強まる。そして背中に何かが当たるような軽い衝撃を感じる。井上の奴、完全に俺にしがみついた格好になったようだ。全身が一気に熱くなる。最初からある背中の柔らかい感触が異常に気になる。・・・兎に角急ごう。

雨上がりの午後 第119回

written by Moonstone

「どうしたんですか?」
「・・・あ、あんまり密着するな・・・。」
「安藤さん、しっかり掴まってろって。」
「な、何もこんなに密着しろとは言ってない・・・。」

 俺も井上もコートを着ているし、俺はセーターやシャツとか結構厚着をしている。それなのに背中にこの感触を感じるということは、可能な限りくっ付いているに違いない。後ろの様子はどうにも見えないが、文字通り密着しているんだろう。

2000/2/12

 もう兎に角眠いです。(-O-)(-〜-)<=少し気を抜くと、こんな風にPCの前で居眠りしてしまいます。夜寝ようとするとなかなか寝られず、それ以外の時は気を抜くと強烈な睡魔が襲って来る・・・。この悪循環になっているようです。普段は耳障りな車の走行音が、何故か子守り歌みたいに聞こえてしまったりします(汗)。

 このコーナーのリスナーの皆様やJewelBoxをご覧の皆様はご存知かと思いますが、私は極度のスランプに陥ってしまっています(泣)。正直な話、この連載以外の小説はPCの前に座っても殆ど書けない(時によってはそれこそ1行も!)状態です。本業の多忙でじっくり取組めないこともあると思いますが、長く小説を書いていてこんな事は初めてで、何時復帰できるかまるで予測がつきません(予想できれば楽なんですが)。
 そんな中、この連載だけは毎日書けて公開できています。・・・何故か分かりませんが(苦笑)、この連載が何かの足がかりになるかもしれません。
「確かに距離はありますけど、今日は大丈夫です。」
「?」
「後ろに乗せてってくれれば。」

 後ろって・・・二人乗りをさせろというのか?まあ、後ろはお飾り程度の荷台らしいものがあるし−使ったことはない−、乗って乗れないことはないが・・・二人乗りなんてした記憶を探す方が難しい。

「・・・した覚えが無いからな・・・。ちょっとふらつくかも。」
「ある程度スピードが出れば意外と安定すると思いますよ。」
「・・・やってみるか。」

 どうしても井上相手の押し問答だと俺が折れてしまう。俺に根気が無いのか押しが弱いのか・・・多分両方だ。こういうところで強く出れないから、良いように弄ばれたりするんだろう。あの女に捨てられたのは、ある意味必然的なものだったのかもしれない。
 俺はぎっしり詰まった自転車置き場から自分の自転車を取り出す。自転車ってのは意外に引っ掛かり易くて、隙間なく詰まるとなかなか取れなかったりする。そうならないように周囲を少しずらしてスペースを確保してから取り出す。自転車置き場は通路が狭いので、此処でもし二人乗りをして転んだら洒落にならない。一先ず自転車を押して道路まで出る。井上は俺の隣ではなく、自転車の後ろに居る。別に置いて行きやしないのに・・・。そんなに二人乗りがしたいんだろうか?

 自転車を押して駅前の道路に出る。まだ通勤帰りのラッシュには時間が少し早いこともあって、道路は割と空いている。混雑していると慣れない二人乗りには緊張の連続になるだろうが、このくらいなら多分大丈夫だろう。
 俺が先に自転車に乗って、後ろの井上に乗るように言う前に、井上が素早く荷台に横向きに座る。この時を待っていたのか?

「・・・早いな。」
「待ちきれなくて。」
「最初揺れると思うから、しっかり掴まってろよ。」

 小さく溜め息を吐きながらハンドルを握った俺は、腰と背中に別の感触を感じる。視線だけ下に落とすと、二の腕が脇腹を通して俺の腹の上でがっちり結わえられている。ということは、背中の感触は・・・。

雨上がりの午後 第118回

written by Moonstone

「・・・じゃあ、お前の家に行く。」

 暗に来て良いと言っているなら、特に気兼ねする必要も無いだろう。どちらかというと俺が根負けしたような気がする。井上は小さく頷くと本当に嬉しそうに微笑む。策略の進行を喜ぶというような他意は感じられない。純粋に来て欲しい、と思っていたのか?・・・でも、本当はそうなんじゃ・・・。

「そうと決まったら早速行きましょうよ。」
「早速って・・・井上の家まで歩くと結構遠いんじゃないか?」

2000/2/11

 すみません。今日は帰宅が何時にもまして遅かったので何時もの時間に更新できませんでした(- -;)。連載準備にはそれなりに時間が必要なので・・・。これでも労働時間は減っていると言うか?!人余りだと言うか?!賃下げ止むなしと言うか?!おべっか使いの新聞供!!

 ・・・さて(^^;)、昨日は写真とwebページとの関わりをお話しましたから、今日は音楽とwebページとの関わりについてお話することにしましょう。音楽の公開には容量やロード時間の関係もあってか(サウンドボードって今は安いですからね)、MIDIがよく使われます。MIDIそのものはかなり20年ほど前からあって、webページが使われる以前から使って来た私としては、MIDIがここまで広がるとは思っていませんでした。せいぜい音楽関係の「専門用語」止まりかな、と。
 MIDIは元々各メーカー毎で異なっていたシンセサイザーなどの電子楽器の制御フォーマットを統一しようということで生まれた、一種の標準規格です。HTMLもPCやOSの違いを超えて文書が表示できるように生まれた言語ですし、MIDIはその点でもwebページにぴったりの音楽フォーマットといえるのかもしれませんね。・・・早く曲仕上げたいけど、思いつかない(泣)。
 成る程、俺の家に行く為の口実作りだった訳か?井上が知らず知らずのうちに自分のペースに引き込むのが上手い策士だということを、すっかり忘れていた。井上は俺が承諾することを、あの得意の笑顔で待っている。
 だが、俺の家は井上の家に比べればそれこそ整理のなってない物置か、そうでなければゴミ捨て場だ。他人に見せられるようなものじゃない。それに・・・あの部屋に女を入れるのは・・・何か違和感というか、表現が難しいもやもやした気分を感じる。

「俺の家は見れたもんじゃないから・・・。」
「私は散らかってても気にしませんよ。」
「・・・あんまり、人は入れたくないんだ。」

 我ながら含みのある言い方だと思う。というより、自分の部屋に秘密があると仄めかしているようなものだ。言ってからではもう遅いが、井上が興味をもつのは避けられないだろう。

「じゃあ・・・私の家に来ます?夕飯作りますから。」

 意外にも井上はそれ以上俺の家への「訪問」を強請るとか、どうして入れたくないのか追求するとかいうことはしない。切替えが早いというか、引き際が良いというか・・・。少なくとも俺には真似の出来ない芸当だ。

「今日は練習は休みだから・・・。」
「でも、それだと夕飯はコンビニのお弁当とかでしょ?」
「そうだな。バイトだったら潤子さんが美味い夕飯作っててくれるから良いんだけど。」
「私の料理も、何度か食べて味のほどは十分分かって貰えた筈ですが。」

 味や料理の系統−和食とか中華とか−は別として、井上の料理も潤子さんに引けを取らないものだと思う。だが、さっきの井上の言葉が若干強めに聞こえたのは気のせいか?

「井上の料理も美味いよ。ただ、用事もないのに邪魔して食わせてもらうのも迷惑かなと思ってさ。」
「いいえ、ちっとも。」

 井上は一向に構わないらしい。表情を見ると・・・俺の家が駄目なら自分の家で、と強烈に訴えかけられているような気がする。

雨上がりの午後 第117回

written by Moonstone

 俺と井上が何時も朝に利用する駅に降りた時には、とっくに空から赤みは消えていた。俺は駅まで自転車を使って来たが、井上は今日歩いて来たという。井上も普段駅まで自転車を使っていて、駅までの距離は俺よりあるんだが、それでも歩いて来た理由というのが・・・。

「昼からだったし、電車の時間はそんなにシビアじゃなかったですから。」

 確かにそうだが・・・帰る時間は考えてなかったのか?そう訝っていたら、次に出て来たのはこんな台詞だ。

「安藤さんの家までゆっくり歩いて行けば良いんですよ。」

2000/2/10

 このところ皮肉や批判が多かったので、今日は少し芸術創造センターらしい話題をお届けしましょう。

 仕事で第1写真グループの写真を撮影しているのとは別のデジタルカメラを使う機会があったのですが、同じブラウザ(勿論Netscape(笑))で見ても画像に粗がなくて奇麗です。画素数が倍以上違うから当然といえば当然なんですが。
 ただ、画素数が増えると容量が増えるので、ここで展示する分には今くらいが丁度良いかな、とも思います。・・・ノートPCが最優先で新しく出来ないから僻んでいるわけではありません。多分(爆)。

 デジタルカメラとwebページはやはりPC上で見られるということで、結構密接な関係がある場合が多いようです。デジタルカメラを買ってそれでwebページを作るか、逆にwebページを持っていて何かの拍子に(?)デジタルカメラを使ってみようと思い立ったか(私の場合は後者(^^;))理由は人それぞれですが、それで写真の面白さに気付いた人は多いかも・・・。
 ただ、動く被写体にはやはり従来のカメラかな?シャッタースピードの早さは、今のところデジタルカメラでは真似出来ませんからね。

「今日はありがとうございました。」

 井上が突然−本人にはそんなつもりはないだろう−話し掛けて来る。俺はどうにか我に帰る。1日に何度も反応が鈍いと、呆けていると思われかねない。・・・以前なら、井上にどう思われても構わなかった筈なんだが・・・。

「いや・・・、俺も無関係じゃないしな。」
「アレンジして演奏出来るように練習して、その上私の面倒まで見てもらって・・・。何だか安藤さんに迷惑かけてばっかりですね、私。」
「教えるのは俺の責任でやってることだから・・・迷惑なんて思う必要はない。」

 俺がそう言うと、井上は驚いたような表情を見せる。そりゃまあ、以前追えば追うほど逃げ回っていた俺の態度からすれば随分な変わりようだから、当然ともいえる。

「安藤さんって真面目ですね。」
「・・・ずぼらだよ、俺は。」
「いいえ。だって私がどれだけ失敗してやり直しても、ずっと付き合ってくれたじゃないですか。あんなこと、なかなか出来ないと思いますよ。嫌ってる相手なら尚更。」
「・・・。」

 井上の言葉が・・・痛い。井上が許容してくれるだけに、余計に痛い・・・。もし不満や怒りを内側へ押し込んでいるのなら、遠慮は要らない。以前俺がそうしたように力任せにぶつけてくれ。

「安藤さんももっとずるかったら、あんなに思い詰めなくても良かったんじゃないかなって思うんです。」
「俺はただ・・・、腹いせに当たり散らしてそれでも猫可愛がりして欲しかったんだけだよ。・・・ずるいよな。」
「悩んで考えて、泣いて苦しんで・・・。それだけでも良いんですよ。何時か、時間が解決してくれますよ、きっと。」
「時間、か・・・。」

 俺は縁の方が紅に染まり始めた、黒に近い灰色をした雲の切れ端を見上げる。雨も何時しか上がり、重く垂れ込めた雲が消えていくのもまた・・・時の流れが創り出す自然が持つ忘却のシステムなのかもしれない。

雨上がりの午後 第116回

written by Moonstone

 CDを見つけてから半時間ほど過ぎて、店を出た俺と井上は国道沿いに歩いている。井上の左手には店のロゴが描かれた白い袋に入った『LIME PIE』のCDがある。右手は・・・まだ俺の左腕を取って離さないし、離そうともしない。
 俺にも振り払おうという気は起こらない。振り払えばこれからの練習や演奏に影を落とす可能性があることは俺の頭でも分かるし、それを裂けたいという意識は確かにある。だが・・・それだけじゃない。それは分かっているが、それを自覚することは拒否している俺が居る。二人の人格が俺の内側で主導権を巡って争い、一歩も譲らない戦いをしているように思う。

2000/2/9

 疲労困憊中・・・0(;__)o<=こんな感じでへばってます。あかん、仕事が多いし複雑すぎる・・・。このままだと次の更新どころか、自分の身体が危ない状況です(大汗)。まったく、「グローバル・スタンダードだ」「能力給だ」などと喧伝する無能な評論家や経済屋、それに発言の場を提供するマスコミというのは、余程気楽な商売だとつくづく思います。
 まあ、権力や財力にくっ付いていたり、記者クラブなどという談合集団の中に居れば万事安泰ですから実態が分かる筈も無いのですが、そんな新聞なんて買ってまで読むほどの価値があるとは思えませんね。・・・所詮、エリート気取りの言葉遊びです。

 何時からか雪が降り始めて、このお話をしている時点でまだ降っています(^^;)。今日雪が降るなんて予報はなかったと思いますが・・・。寒さが大嫌いな私には、雪が降る時は余計に底冷えすることもあって迷惑なことこの上ないです。冗談抜きで早く止んでもらいたいものです(それ程嫌い)。
 唯一良いことといえば、雨の日と同じく外の喧騒が控えめになることですね。今日は外に負けじと音量を上げているラジオを絞り気味にしています。

「・・・どうしたんですか?」

 井上の呼びかけで俺は我に帰る。横を見ると、井上が少し不安げに俺を見ている。どうも俺は最近、考え事をすると深みに嵌まり易くなったようだ。

「・・・いや、どの曲が良いかなって・・・。」
「もう曲のこと考えてたんですか?」
「一応中身は知ってるからな。でも歌う当事者の意見を聞いてないから、個人的な想像の範囲だ。・・・探すか。」
「ええ。」

 俺は「印刷」の部分に触れて『LIME PIE』の情報をプリントアウトさせるとそれを取って、井上と共に検索コーナーを出る。これから目の前にずらりと並ぶ陳列棚の中から、印刷された情報に該当する場所を探す訳だ。・・・もう暫く、井上と一緒に居る時間は続きそうだ。

何だ、この気分は・・・?まさか・・・俺は嬉しいのか・・・?
駄目だ・・・そう思うようになったら・・・前の二の舞だ・・・。

それだけは絶対に嫌だ!!

 プリントアウトした情報を頼りに歩き回ること数分で、俺と井上は『LIME PIE』のCDを見つけることが出来た。何せだだっ広いこの店内、大まかな場所を掴むだけでも結構歩かないといけない。どうせなら階を分けてもらった方が有り難い。土地が狭いと騒ぐ割には土地が広い国と同じ様なことをしようとするのは、全くもって理解できない。この辺が「素人」と「専門家」やらの違いなのか?
 一先ず当事者の井上にCDを聞かせて、歌えそうなものがあるかどうかの判断材料を用意する必要がある。歌ってみると実際には難しい曲だってあるんだが、最初じゃないんだから本人が気に入った曲を練習するのが一番良いだろう。

「一度聞いてみてよ。」
「そうします。」

 井上は俺が差し出したCDを受け取って、近くの試聴コーナーへ俺を連れて行く。・・・まだ俺は、井上の手を振り払う気になれない。俺は・・・どうしたいんだろう?井上と近付きたいのか?遠ざかりたいのか?俺には・・・判らない・・・。

雨上がりの午後 第115回

written by Moonstone

 井上は指を少しさ迷わせた後、タッチパネルに触れる。表示されたタイトルは・・・『LIME PIE』。これは俺も持っているが歌モノが結構多くて、それもあの店で歌って問題無いタイプだ。ただ、俺は弾き語りが出来ないし、歌に自信がないのもあって、歌モノはレパートリーに殆ど入っていない。「Fly me to the moon」は例外と言って良い。
 となると、曲を決めると同時に俺はアレンジをしてそれを弾けるようにしなきゃならないわけか・・・。まあ、井上の「専任」演奏者だから仕方あるまい。リズム楽器がないから、アップテンポのやつは出来れば避けたいところだ。・・・しかし・・・以前の俺はこんな風に思えただろうか・・・?

2000/2/8

 ・・・トップの「御来場者〜」を31000人に変えるのを忘れてました(^^;)。1000人単位で表示を変えるのは、開設当初1000人を超えるのに約一月かかって、それが本当に大きな区切りの数字に思えたからです。勿論100人だって1人だって私にとっては大切な数字なんですが(笑)。そりゃあ(以下略)。

 ・・・さて(^^;)、この「こぼれ話」もそろそろ次の大台2000人目が近付いてきました。今度の企画はどうしようかまだ検討中ですが、連載の主要な舞台である「Dandelion Hill」のお客様として、何かお話して頂こうかなと思います。それこそこの芸術創造センターに関することでなくても、御自身の趣味や最近注目していること、逆にこれだけは許せんということを、この機会に思いのままに語ってもらいたいと思います。
 イメージとしては、土曜日の17:30(地域によって違うかも)からTOKYO FM系列で放送しているラジオ番組「アヴァンティ」を想定しています。聞き手が居ないと嫌な場合は、キャラを聞き役で出しますので(笑)。
 半分ほどは既に使用中だ。やはり便利なのは間違いない。俺と井上は空いているタッチパネルの前に並ぶ。タイトル、ジャンル、アーティスト−俺はこの呼称は嫌いだが−の3つの選択肢がある。

「どれにします?」
「まあ・・・ジャンルから探すのが妥当じゃないか?」
「そうですね。じゃあ・・・。」

 井上は左の指でタッチパネルに触れる。右手は・・・まだ俺の左腕を掴んでいる。井上が『ジャンル』を押すと画面いっぱいにジャンル名が並び、さらにページが複数ある事を示す矢印が現れる。目的のジャンルは・・・『ジャズ』や『フュージョン』か。大体これらは同一のものとして扱われる傾向が強くて、ここでも一つのジャンルとして登録されている。系統は同じだが本来は別物だ。この辺りに少数派故の扱いの違いを感じる。
 俺が言うより前に井上が『ジャズ・フュージョン』の位置に触れる。てっきり『J-POPS』辺りに触れるかと思ったんだが、そう言えば井上は俺と同じジャンルの曲を聞くんだったか・・・。次に現れたのは、曲名、CDのタイトル、アーティストの選択肢だ。ここで井上の手が止まり、俺の方を見る。

「・・・日本のだったら神保彰とか・・・。歌詞は英語だけど。」

 井上は『アーティスト』『神保彰』の順に触れる。別に俺の意見に従わなくても自分の好みを探して良いんだが・・・。まあ、敢えて言うことでもない。
 検索結果として現れたCDの数は予想以上に多い。タイトルを見ると、JIMSAKUのものも含まれているらしい。ベスト版も含めて俺が知っている限り全てのCDを置いてあるようだ。成る程、この広さは有名どころを押さえる為だけのものじゃないってことか。

「いっぱいありますね・・・。私、神保さんのCDは持ってないんですよ。名前は知ってますけど。」
「俺が持ってるのもあるな・・・何なら貸しても良いけど。」
「でも、それだと安藤さんが聞きたい時に聞けないし、覚えるには何度か聞かないと駄目ですから、自分で持っておきます。」
「・・・分かった。じゃあ、どれか適当に選んでその場所へ行くか。その近くに他のやつもあるだろうから。」
「じゃあ・・・これに。」

雨上がりの午後 第114回

written by Moonstone

 CDショップで検索コーナーとは初めて聞く。だが、ジャンルが判らないとか探すのが大変なのは図書館でも同じだし、その図書館には検索コーナーがあるんだから、理に適っているといえばそのとおりだ。
 俺は井上に腕を取られたままレジの隣にある、『検索コーナー』という看板が下げられている一角に足を運ぶ。10台ほどのタッチパネルが並び、そこに触れていくことで目的のCDを探すというもので、図書館のそれと同じと考えて良さそうだ。

2000/2/7

 体力が持ちませんでした(^^;)。ただ、久しぶりに文芸関係(第3創作グループ以外)の製作が進みました。一月以上PCの前に向かっても1行進めるのが難しかったこと(洒落にならない(汗))を考えると、ようやく復調の気配?あとは、寄贈用の曲作りを進めてました。早く質、量共に充実した更新が出来るようにしたいです。

 こちらでは雨が降りましたが、やはり普段の日曜日とは雰囲気が違うな、と感じました。用事がてら外へ出てみると、人通りが少ないせいか周囲の音が少なくて、空気が漂っているような感じがしました。丁度ここの連載でも雨の日の様子を描きましたが、ああ、上手く表現できたかな、と思い返していました(^^;)。
 ただ、幹線道路に近付くにつれて車の量が急増して、タイヤと道路が擦れる音が、道路が雨に濡れていたことでより大きく耳障りなものに聞こえました。雨が降り続くにも関わらず、黄色に変わった信号を突っ切るかのように速度をより上げて走り行く車・・・。何を急いでいるのか知りませんが、急げ急げと煽り立てる今の世相を反映しているのかな、と思いました。

「ここの信号・・・なかなか変わらないし、変わるのが・・・早いんですよ・・・。」

 井上が左手で胸を押さえながら補足説明する。井上も勢いで走ったのは良いものの、それなりに苦しかったようだ。右手はまだ俺の左腕を掴んだまま放す気配はない。今なら振り払うのは容易いが・・・やっぱり今もそんな気は起こらない。

「・・・連続ダッシュは・・・ちょっと堪えた・・・。」
「御免なさい。でも・・・案内して待たせるのも何だと思って・・・。」
「まあ・・・良いや。あとは・・・ゆっくり歩いて良いんだろ・・・?」
「・・・ええ。」

 ある程度呼吸が落着きを取り戻したところで、俺と井上は歩き出す。まだ井上は左手を離さないが・・・もう、そんなことはどうでも良くなってきた・・・。走った疲労で半ば投遣りな気分になっているのか、それとも・・・

・・・このままだと・・・それすらも受け入れてしまいそうだ・・・。
それだけは・・・絶対駄目だ・・・。また・・・俺が泣く羽目になるんだから・・・。

 店内はやはり広い。基本に忠実というかコスト削減とやらの為か、天井は灰色に塗装された鉄骨や梁が剥き出しだ。そこから何本もの水銀灯がぶら下がって店内を隈なく照らしている。見渡せばそこは整然とジャンル毎に区分けされた棚が並び、その間に人が居るという情景だ。
 大学には生協があってCDも1割ほど安く買えるが、店内はこれの何十分の一という狭さで、品揃えもやはり売れ筋のものが多くて、俺が聞くようなジャンルは名の知れた幾つかのグループや個人の数枚しか置いていない。

「広いでしょ?前に買ったCDも此処で見つけたんですよ。」
「・・・探すのが大変そうだな。」
「検索コーナーがあるから、CDかミュージシャンの名前を知っていれば結構簡単に探せるんですよ。」

雨上がりの午後 第113回

 井上に左腕を掴まれたまま、俺は丁度信号が青になっていた横断歩道を渡る。井上には直ぐに追い付いたが、1日2回も走るのは弛んだ肺と心臓にはきつい仕打ちだ。目の前には家が何件も建てられそうな広い駐車場と、今時の大型量販店にありがちな横に広い建物が見えている。もう少しの辛抱だ・・・。
 横断歩道を渡りきったところで、井上は一気に速度を落とす。肺と心臓が限界に近かった俺もそれに続いて足を止める。こんなに慌てなくても良かったのに、と思いながらふと後ろを振り返ると、歩行者用の信号が何度か点滅を繰り返した後、青から赤に変わった。道路の幅の割に変わるのが早いようだ。

2000/2/6

 今日は定期更新です・・・が、前回同様寂しい内容になってしまいました(泣)。やっぱり事実上1日で揃えるのは無理がありました(このお話を書いている時、別のウィンドウで一つの作品を書いていたりする)。写真グループの英訳でてこずったなぁ〜。・・・というわけで、体力と気力が持ち堪えたら作品をアップします。

 今回気勢を上げる第1写真グループですが、当初テーマに考えていなかった(思いもしなかった)のが「暫しの休息」です。ご覧の通り帆船ですが、たまたま停泊していたのに出くわして記念撮影(笑)となったものです。この帆船(海王丸)は一般公開もしていて、私もそのまま乗船(笑)。廊下が狭めなことを除けばなかなか豪華な作りでした。甲板上の写真も数枚撮ったので、良いものがあれば来週以降にお見せしたいと思います。
 こういう偶然というのは、全グループで唯一外に出ることがほぼ必須といえる第1写真グループならではですね。外にデスクトップPCを抱えていくわけにはいきませんが(^^;)、ノートPCならそれを持って外で執筆するというのも一興かもしれません。・・・早く欲しい(切実)。

「・・・よく・・・諦めなかったよな。」
「私しつこい方だから・・・一度駄目だったら次こそはって思うんですよ。」
「そういうのって・・・良いよな。俺はそれがなかなか・・・。」
「それは人それぞれですよ。」

 井上みたいな考え方をするのは意外に難しい。俺の場合はもう二度と彼女なんて出来ないと思っていたところにいきなり別れを突きつけられて、もう駄目だ、となった。井上の考え方が出来ていたら、多少はダメージが減らせただろう。もっとも・・・恋愛で今回駄目だったから次、なんていうのは俺の性には合わない。第一、次に切替えられるほど相手が居ないというのもあるが。
 暫く歩いていくと、前方に「SILVERDISK 新京店」という巨大な看板が見えてきた。SILVERDISKという名前からしてあそこのようだ。

「あ、あれですよ。」
「でかそうだな。」
「ええ、大学の帰りにぶらっと歩いてて偶然見つけたんですけど、凄く広いんですよ。」
「ぶらっと歩いてたって・・・?」
「私、気まぐれに彼方此方歩き回ったりするんですよ。」

 妙な癖というのか・・・。井上は何処か変わってると思う。まあ、俺に興味を持つこと自体、変わっていると言えるか・・・。
 看板が間近に迫るに連れて、巨大な駐車場とその奥にある建物が見えてきた。成る程、これはでかい。規模によっては店で演奏出来るようなジャンルが殆どなかったりするが、恐らくこれなら曲を探すだけの品揃えは期待出来るだろう。

「横断歩道はもうちょっと先ですね。早く行きましょ。」

 左腕に軽い圧迫感を感じる。見ると、井上の右手が俺の左腕を取っている。呆然とする俺は井上にされるがままに引っ張られる。払いのける気は・・・起こらない。何のつもりか問い質す気は・・・起こらない。
 胸が疼く。前付き合っていた女が新しい男の存在を仄めかした時のような、あの辛い記憶が蘇ってきた時のような、不快な痛みじゃない。これは・・・ずっと前に感じた記憶がある。あれは確か・・・。

・・・まさか、そんな・・・。

雨上がりの午後 第112回

「でも、無理もなかったと思いますよ。たまたま店で顔を合わしただけの女が、しつこく付き纏ったんですから。」
「・・・そんなことは・・・。」
「良いんですよ。今こうしてお話できるようになったから・・・。」

 井上は微笑む。得意とする(?)子どもの悪戯を事前に見つけて詰め寄る母親のようなものじゃない。本当に自然な・・・心が暖まると言えば良いのか・・・そんな笑顔だ。

2000/2/5

 明日は定期更新なんですが、遅々として進んでいません(大汗)。前回のような無様なことは避けたいと思いつつ、キーボードを叩く手が動かない事実・・・。今回はかなり重症のようです。こういう時、ただ待つしか出来ないんでしょうかね・・・。

 掲示板JewelBoxでちょっとした企画らしいものを始めました。タイトルを使って1行ずつ小説を書いていこうというもので、名づけて「1行リレー小説」・・・って、そのまんまやな(^^;)。どんなものかは実際に見て頂ければ分かると思いますが、何時オチをつけるかが一つのポイントかもしれません。ルールとしては、続きを希望するなら「続き」、終わらせる(オチをつける?)場合は「完」と末尾に目印として付記してもらうだけです。
 勿論、書き込みの内容は全く別のことで構いませんし(実際そうです)、展開をがらりと変えるのもまた一興。ウケを狙ったものでもOK(^^)。気軽に参加して見て下さい。作品はもしかしたら新規にグループを作って公開するかもしれません。
 左右を見まわすとかなり先の方に信号機の光が見える。車の濁流を跨ぐ橋の姿は見えないから、信号機のところに横断歩道があるんだろう。こういう大きな道だと歩行者が地下に潜らされる時もあるから、あまり安心は出来ないが。

「店はこっちの方ですよ。」

 井上が左側、即ち北を指差す。何にしても歩くしかない。俺と井上は並んで歩き始める。目的の店らしいものはまだ見えないから、結構距離がありそうだ。着くまで何を話すべきか・・・?まあ、目的と合致するところで。

「・・・どんな歌を歌いたいんだ?」
「そうですねぇ・・・。『Fly me to the moon』みたいな静かな感じのも良いですし、逆にノリの良い曲でも良いかなって。」
「そういうのはあの喫茶店で聞かせる曲にはなかなかないぞ。」
「うーん・・・。でも、探せば意外に見つかると思いますよ。」

 楽観的なもんだ。CDをどれでもを試聴して買える店なんてないから、歌が入っている曲を探すのはある意味賭けに等しいというのに。だが、こんな考え方が出来なきゃ、あれだけ冷たくあしらっても食い下がれる筈がないか・・・。
 そういえば・・・俺から井上に何か話題を向けたのって、今まであったか?井上から話し掛けてきて、俺が答えるっていうのなら珍しくないが・・・。最初の頃、話し掛けられるのも疎ましがっていたのが嘘みたいだ。

「どうしたんですか?」
「・・・ん?いや、不思議なもんだなって・・・。」
「私と待ち合わせしたりするようになったことがですか?」
「・・・ああ。」
「最初の頃・・・安藤さんは私を嫌ってましたものね。」

 井上の一言が俺の胸に突き刺さる。あの時は全然重いもしなかったが、井上は気にしてなかったようでやっぱり辛かったのか・・・。よく考えてみれば、俺だって前付き合っていた女が別れたいような素振りを見せてきた時は相当ショックだった。状況は違っても、冷たくされたらショックなのは考えてみればショックなのは当たり前だ。なのに俺は・・・。

雨上がりの午後 第111回

 俺と井上は国道に出る。片側3車線の大河のような道路には、それこそ車が濁流を成している。エンジンの低音とアスファルトを転がるタイヤの擦れるような音が絶えることはない。そんなに車が必要なんだろうか?

「その店って、道のどちら側にあるんだ?」
「向こう側なんですよ。何処かで渡らないと・・・。」

 こういう道は車の為にあるようなものだから、歩行者が渡るにはひと苦労する。強引に横切るか、ひたすら歩いて横断歩道や歩道橋を探すか。前者は轢かれるリスクと引き替えにしなければならないから、普通に考えれば後者だろう。

2000/2/4

 今日は諸事情があって、いつもの時間より半日遅くの更新となりました。2/5からは通常の時間に更新しますので。しかし・・・何で「使って」を「浸かって」と変換するんだ?このPCの辞書は(呆)。いい加減覚えてくれ〜!この物覚えの悪さはオーナーと同じだな(爆)。

 NHKのラジオ番組のアナウンサーが不倫を理由に懲戒免職になりましたが、何でそんな処分になるのか分かりません。文字通り職を汚す行為である汚職や人身事故なら刑法に抵触する犯罪ですから止むなしでしょう。しかし、不倫は(奨励や称賛は決してしませんが)あくまでプライベートの範疇であって、それを懲戒免職の理由にするべきではありません。
 汚職や人身事故を起こしても免職にもならずに堂々と居座っている輩こそ、しっかり処分すべきです。NHKに抗議が殺到したそうですが、対象を間違ってやしませんか?プライベートを暴き立てた週刊誌こそ責められるべきだと思うのですが・・・。
 井上が普段バイトでアクセサリーを着けたところを見た覚えはない。せいぜいキッチンで調理の邪魔にならないように、手持ちのゴムで髪を纏めるくらいだ。もっとも潤子さんもアクセサリーは指輪とピアスくらいだし、化粧も殆どしていない。する必要もないが。

「大丈夫ですか?」
「・・・ああ。いきなり走ったからちょっと息切れしただけだよ。それより・・・何時から来てた?」
「ついさっきですよ。」

 嘘だ。だったらあんなにそわそわする筈がない。相当前から待っていたんだろう。10分前・・・否、20分前か・・・?それにしても、自分が嘘や誤魔化しが下手なタイプだということが、井上には分かってないようだ。

「珍しいな。リボンとイヤリングって。」
「え?」
「結構似合ってるぞ。」
「・・・そうですか?」
「ああ。髪の毛の色に合ってるし、センスあるんだな。俺と違って。」

 自分で言うのも何だが、はっきり言って俺には服のセンスがない。上下の色がよく似た系統なら合うだろうという程度の感覚しかないから、似たり寄ったりの服になってしまう。もっとも服装にそれ程こだわる方じゃないし、そんなものに金をかけるくらいなら新しいギターやアンプを買うだろう。俺にとって服なんてものは、その程度の位置づけでしかない。
 井上は恥ずかしいのか照れているのか、頬を少し赤くしている。別に社交辞令で言ったわけじゃないし、喜ぶかと思ったんだが・・・。まあ、センスのない俺に褒められても嬉しくないか。やっぱり「先約」に褒められる方が嬉しいだろう。

・・・また、あのもやもやが溢れてきた・・・。

「・・・じゃあ、CDショップに行くか。場所、知ってるんだろ?」
「え、ええ。国道に沿って行けば見えてきますよ。」

 俺と井上は並んで歩き始める。心の底の方にあのもやもやが垂れ込めている。・・・一体何なんだろう?これは・・・。

雨上がりの午後 第110回

 井上の傍まで辿り着くと、俺は足の動きに最大限のブレーキをかけて一気に止める。膝に両手をついて前屈姿勢になると、激しく膨張と収縮を繰り返す肺の動きが収まるのを待つ。今の状態で上体を起こすと吐き気が喉を駆け上がってきそうな気がする。日頃の運動不足が祟ったか・・・。

「そんなに慌てなくても良かったのに・・・。」

 井上の声がする。俺がこんなに走ったのはお前との待ち合わせに遅れないようにするためだって分かっているのか?と言いたいところだが、激しく往復を繰り返す息に翻弄されてままならない。・・・でも、そうなら何でこんなに慌てたんだろう?本当に俺自身が分からない。
 どうにか呼吸が収まったのを確認して俺は上体を起こす。待ち合わせに間に合うように走るという命題が終了した今改めて井上を見ると、普段より幾分めかし込んでいるように思う。それに、髪には初めて見る大きめのリボン、耳にはキーホルダーに幾つか鍵をつけたような変わったイヤリングと、アクセサリーが目立つ。

2000/2/3

 一日の半分仕事してたら、疲れと時間不足で作品製作がおぼつかないです・・・。ま、それに関することは後でお話するとして・・・今日は節分です(いきなりだなぁ)。皆様のお住まいの地域では節分に太巻きを恵方(縁起の良い方向)に向かって無言で丸かじりすると、その1年幸福を掴めるっていう習わし(?)はありますか?何でも関西の方ではかなり前からあるそうなんですが・・・私の住んでいる地域では昨年辺りから急に出てきたので、俄かには信じられないんです(^^;)。本当だとしても、想像するとちょっと・・・変(笑)。

 では話を戻して・・・世の中不景気だ、人余りだなどと喧伝してますが、そのマスコミや識者とやらに問います。どうして過労死や長時間労働がなくならないんですか?あんた達はその現状を知っているんですか?結局それらは、極力少ない人件費で極力多く儲けようという資本家の思惑を代弁しているに過ぎないということをまるで分かってないですね。
 まあ、所詮再販制度を持ち出されたら紙面を割いてでも必死に反論する商業新聞では書けないんでしょう。企業の気に障ることを書いて広告料金がなくなると困るのか、それともマスコミや識者が余程恵まれた労働条件なのか・・・。「競争社会」「規制緩和」「優勝劣敗」というなら、彼らこそ率先して実践してもらいたいものです。
 ・・・まただ。またあのもやもや感が胸の中に充満する。これは一体何だ?それに何に反応して出て来るんだ?全く分からない・・・。何時だったか感じたことがあるような気がするが・・・。

「晶子ちゃんに俺を売り込むのは、講義が一緒になった時で良いって。」
「・・・そうだ・・・な。」
「どうかしたのか?」
「いや、ちょっと対策を・・・。」

 対策といっても智一の売り込みじゃない。待ち合わせのことだ。どうする?このまま駅の方へ行ってそれから東門へ戻るか?だが、それだと相当のタイムロスは避けられないから、確実に3時を過ぎてしまう。・・・かくなる上は・・・。

「あ、電車が行っちまう。急がなきゃ・・・!」
「へ?お前今日バイト休みだろ?急がなくたって良いじゃないか。」
「急用なんでそういう訳にもいかないんだよ。じゃあな。」
「お、おい!祐司!」

 強引だし無理があるのは百も承知だ。だが、智一を振り切って待ち合わせの時間に間に合わせるにはこれくらいしか思い浮かばない。走りながら時計を見るとあと5分を切っている。走ってぎりぎり3時に間に合うかどうかだ。急がないと・・・。

・・・でもどうして、俺はこんなに慌ててるんだ?
心のもやもやが・・・違うものに変わったような気がする・・・。

 途中で文学部方面へ向かう近道に入って、俺は可能な限り走る速度を速める。井上のことだ。多分もう東門のところへ来て律義に待っているだろう。食堂の脇を抜けて文科系の学部や教養課程棟が面する通りをひた走る。教養課程の申請の時に入った程度の事務局の建物を過ぎると、東門が見えて来る筈だ。
 そこに井上は・・・居た。壁際で腕時計を見たり、時々門を通る人を見たりしている。声を掛けようにも息をするのが精一杯で声が出ない。今は兎に角、井上のところに走るしかない。井上の姿がだんだん近付いては来るが、妙にそれがゆっくりしているように感じる。一体今日の俺はどうしたんだ?

 井上が俺の姿に気付いたのか、こっちを向いている。落着かない様子だったのが一転して見るからに嬉しそうな表情に変わる。手まで振っている。そんなことしなくても、ちゃんと分かるのに・・・って、どうして井上のことがよく見えるんだ?

雨上がりの午後 第109回

written by Moonstone

「駅は正門の方だろ?アンニュイに浸って道間違うなよ。」

 俺は東門のある方向に行くんだから、道を間違っちゃいない。だが、それを口には出せない俺はただ立ち止まるだけしか出来ない。

「それにそっちは文学部の方だろ?晶子ちゃんは今日講義がないから、行っても居ないぞ。」
「・・・よく知ってるな。」
「そりゃお前、恋する者たれば相手のことを知りたいと思うのは当然だろ。」

2000/2/2

御来場者31000人突破です!(嬉)

 ・・・なのに、グループの更新がなってなくてすみません(謝)。ここ暫くまともに作品製作が進まない状況が続いています。所謂「スランプ」ってやつです。音楽はよくあることなのでまだしも(良くはないですが)、文芸関係では初めてなのもあってかなり深刻です。原因は本業の長期化に伴う製作時間の大幅な減少と疲労(一度寝ないと辛い)にもう一つあるんですが・・・。これはちょっとお話できません。

 さて、日曜の写真撮影で早朝から港に出向いたわけですが、本当に静かです。これまで写真を撮影した時は時間の経過に伴って車の音が増えてきたのですが、港には関係者の車以外はあまり奥まで入れないのもあってか、夜が明けても驚くほど静かです。もっと近かったら散歩コースになっていたことは間違いないでしょう。
 道路が整備されたお陰で車が何処にでも入れて、何処でもあの低いエンジン音を響かせる・・・。便利なのは分かりますが、本当に住環境のことを考えるなら、車の出入りをもっと制限するべきでしょう。車の為に道路が出来て、車の為の町が出来ていく・・・これは果たして本当に必要なことなんでしょうか?
 結局心のもやもやが何か分からないまま、3コマ目の講義も何時の間にか終わった。俺はいそいそと荷物を鞄にほうり込んで、外へ向かう。時計を見ると2時50分。この教室がある場所から東門まではちょっと距離があるが、3時過ぎという曖昧な時間指定なので、全力疾走まではしなくて良いだろう。
 朝から降り続いていた雨は何時の間にか止んでいた。空に灰色をべた塗りしたような雲は所々に亀裂が走り、青空が垣間見える。そこから洩れる光が灰色の背景に教会の曖昧な帯を描く。宗教画にありそうな神々しい風景だ。

「祐司。何ぼうっとしてんだよ。」
「・・・あ、ああ。ちょっとな・・・。」
「今日のお前、何か変だぞ。物思いに耽るなんて。」
「たまにはそういうこともあるさ。」

 俺は適当な言い訳をすると、傘立ての傘を取って広がらないようにする。しっとりとした冷気が肌に不思議と心地良い。静止していた時間がゆっくりと動き始めたような感覚を覚える。
 天気を人の表情に喩えた書き出しで始まる小説を、前にwebで読んだことがある。あの時は詩人ぶった表現だな、と冷笑すらしたが−丁度、付き合っていた女とのすれ違いが表面化した頃だった−、今は不思議とその感覚が分かるような気がする。その表現手法を使うなら今日の天気は・・・悲しみに静止していた時間が終わって、雨上がりと共に光が差し込む、といったところだろうか?

「だから、お前にアンニュイは似合わないって。」
「別にそんなつもりは・・・。」

 否定はしてみたものの、俺自身不思議だ。気にも留めなかった周囲の風景に時空の流れを感じ、動き始めた時空に感情の移ろいを思う。一時は全てが灰色に思えたこともあったというのに・・・。今は自分の心が分からない。
 ・・・何にせよ、井上との待ち合わせ場所である東門へ向うのが先決だ。俺はちらっと時計を見る。ちょっとばかり急いだ方が良さそうだ。

「おい祐司。何処へ行くんだよ。」

 智一が呼び止める。しまった。こっちは井上が居る文学部の方向でもあるんだった。まさかこれから井上と待ち合わせだなんて口が裂けても言えない。どうすれば良い?

雨上がりの午後 第108回

written by Moonstone

 俺は何となく釈然としない思いを抱えたまま、智一の頼みを承諾した。講義が一緒になった時にでも井上に智一の良さをアピールして、興味を持たせるようにするというものだ。但し、興味を持たなくても俺を恨むなよ、とは言っておいた。お世辞にも巧みといえない俺の話術で、一度思い込んだらとことん、と自認する井上の視線の先を変えることが出来るとは考え辛い。
 それにしても・・・このもやもや感は一体何なんだ?さっきから懸命に払拭しようとしてはいるが、一向に消える気配はない。立ち込めたまま時が止まってしまったかのようだ。一体どうして・・・?

2000/2/1

 日曜に撮影した写真の中から公開するものの選定を半分ほど終えたのですが・・・容量が危ない(大汗)。公開が確定した数枚を先にアップロードしたのですが、その時点で写真全体のファイルは2MBを突破。他のグループなどを併せると、単純計算で無料容量の約4割は埋めたことになりました。
 このまま進めると、容量オーバーはかなり近い将来に現実のものとなるのは確実です。容量を増やすか過去の作品を順番に消去していくか・・・。でもPACは小説が多いし、それも連載なので、後者はちょっと難があります(汗)。最初の方が目次だけとか圧縮ファイルだけとかいうのは、ちょっと違和感があります。やっぱり大容量のサーバーを探すしかないんでしょうね。もっとも容量を増やしても(以下略)。

 ・・・さて(^^;)、今日の更新でトップの背景を更新しましたが、これは日曜に撮影したものの1枚です。CGで飾るなどという羨ましいことは出来ないので(笑)自分で撮影した写真の中から特に気に入っていて、且つ文字の色とあまり衝突しない色合いのものを選んでいます。昨日もお話しましたが、雲があると変化のある風景が出来るので撮影には狙い目かな、と思います。
 気分のもやもやを無視して尋ねた俺に、智一が井上の「無反応」をぼやく。文学部に出向いている時の対応は知らないが、教養の講義で席が隣り合う時−井上が俺を見つけて近寄って来る−、頻りにアプローチする智一に対して井上が少し迷惑そうに感じている様子なのは知っている。井上はそういうことを俺に話したことがない。智一が俺と親しいのは知っているだろうし、その親しい相手を悪く言うことで俺が井上に抱く印象を悪くしたくないと思っているのかもしれない。
 それにしても・・・智一は前に聖華女子大との合コンで意気投合した相手が居たと言っていたような覚えがある。その件はどうなったんだろう?

「お前、前に聖華女子大の相手と付き合い始めたって言ってなかったか?」
「ああ、あれとは別れた。」
「別れたって・・・何時?」
「ん?1週間くらい後かな。話しててもこう、俺の求めるイメージに合わなかったから止めた。」
「そんな簡単に・・・。」
「やっぱり晶子ちゃんだよ。あの清楚で落着いた感じは文学部ならではってとこだ。やっぱり晶子ちゃんの代役は他じゃ無理だ。俺は晶子ちゃん一筋で行く。」

 ・・・聞いちゃいない。それにこいつ、合コンまでやって相手を一度見つけておきながら、よくそんな台詞が言えるもんだ。この辺りの感覚はどうも理解できない。振られっぱなしの俺では振る側の論理を理解すること自体が無理なのかもしれないが。
 食べながら聞いても良いだろう、と思って再び箸を動かし始めると、天を仰いで嘆いていた智一が真剣且つ懇願するような表情で俺に向き直る。何か頼み事か、と直感が走る。

「教養科目の様子から、晶子ちゃんはお前に気があると見た。そこで一生の頼みがある。」
「・・・何だよ。」
「晶子ちゃんに俺を売り込んでくれ。お前は晶子ちゃんと付き合う気がないんだから、俺の方に向かせてくれよ。な?」

 俺にキューピット役をしろということか。それは構わないが、売り込んだところであの井上が視線を向ける先をそう簡単に変えるとは思えない。・・・もやもやが濃くなってきたように思う。何故だろう?それより前に、このもやもや感は何だろう?

雨上がりの午後 第107回

「晶子ちゃんのことなんだけどさ。」

 正味5分ほどの待ち時間の後、昼食の乗ったトレイを厨房寄りの席に運んで食べ始めて間もなく、智一が切り出す。無意識のうちに箸の動きが止まる。井上の名前を出されたせいだろうか?・・・それだけにしては、何となく気分が良くない。何というか・・・もやもやした感じがする。何故だろう?

「・・・どうかしたのか?」
「最近素っ気無いんだよなぁ。文学部の方へ出向いても挨拶くらいしかしてくれないし、教養で一緒になった時に話し掛けても聞き流されてるようだし・・・。」


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