雨上がりの午後

Chapter 271 歴史遺産を見て湧きあがる創作意志

written by Moonstone

「他に拝観出来る場所は、実質百華園くらいか。」
「そのようですね。飛雲閣や書院が非公開ですから、その分見る場所が少なくなってしまうのは致し方ないかと。」
「他の場所に行ったり見たりする時間が増えたようなもんだし、仕方ない。その分見られるものは見ておこう。」
「はい。そうですよね。」

 原則とあるから事前の申し込みとかで拝観出来る可能性はある。しかし、大した計画もなしに京都に入って、連日思いついた場所に赴くことを続けている
から何も申し込みや交渉といった準備をしていない。こういう場合の申し込みは最低でも数日、通常は数週間とか長い場合は数ヶ月とかいうレンジで予定を
組んで行うもんだから、事前準備もなしで突撃したところで門前払いを食らうのが関の山だ。
 旅行に限らず、予想や予定が実現出来ないことは多い。学生実験でもレポートの提出が求められる予習で実験の段取りをシミュレーションしていても、
実際に取り組むとトラブルが発生したりその対処に梃子摺ったり、得られたデータが変だったり−大抵は測定がまずいことによる人為的なもの−とシミュ
レーションどおりに進むことはまずなかった。俺の場合、人手が圧倒的に足りなかったのもあるが、予想どおり進むことはむしろ少ないと思っている。訪れた
場所が拝観出来ないことくらい、実験で頭を悩ませることに比べたら困るうちに入らない。

「この唐門も十分見てないな。」
「そういえばそうですね。境内の見取り図に気を取られてました。」

 唐門と書院の位置関係を境内見取り図で見て、続いてその先の拝観コースをたどっていたから、目の前にある唐門の存在をすっ飛ばしていた。間近に
見える唐門も国宝の1つ。こちらは柵で囲まれているから接近に限界はあるものの全容は十分見られる。百華園に行く前に此処をもっと見ておこう。
 唐門を正面に捉える位置に立つ。金の配色が多いのは阿弥陀堂門と同じだが、こちらは全体に複雑な彫刻が施されている。彫刻はそれぞれ彩色されて
いて、全体的に非常にカラフルな出で立ちになっている。彫刻の彩色は1体につき1色じゃなくて、複数の色が使用されている。

「随分凝った造りだな。」
「使われている色の幅が広いですね。」

 仏壇などでも見られるような金色の彫刻をはじめ、色の特質もあってか金色が目立つが、その他に赤や青、緑が濃淡や色彩の違いを伴ってちりばめられて
いる。仏教関係だと金と黒、あとは赤くらいの少ない配色が殆どだが、唐門は自由に色が使われている。

「この唐門は、美しさのあまり時間を忘れて夕暮れまで見とれてしまうことから、別名を『日ぐらしの門』というそうです。」
「これだけ凝った造りを丹念に見ていたら、本当に1日かかりそうだな。」
「1つ1つが生きているみたいですね。」
「彫刻は門の本体とは別に作ったとしても、どうやって組み合わせたり配置してるのか不思議だな。」

 この門が造られた時代に接着剤なんてある筈がない。釘は使えるかもしれないが、見たところ柱や外壁に張り付くように配置されている動物や植物などの
彫刻には、彩色にカモフラージュされた据付のための釘は確認出来ない。はめ込みとかの技法が使われているのかもしれないが、それだと事前に綿密に
設計しないと隙間や逆に入らない事態を招く。

「柱や壁は1本の木から彫り上げて、それを組み合わせた・・・というのは考え過ぎか。」
「個別に造って繋ぎ合わせただけじゃないことは、一部に見られますよ。」

 晶子が指し示す場所をよく見てみる。牛が根元に居る松の木だろうか。・・・ん?木の向こう側に別の彫刻らしいものが見える。二重構造ということは・・・透かし
彫りか。

「透かし彫りがあるな。」
「ええ。少なくともあの部分は、個別の彫刻を繋ぎ合わせたものじゃないと思います。」
「境内全体からすれば門の1つなのに、随分凝った細工を注ぎ込んでるな。」
「伏見城−豊臣秀吉が晩年を過ごすために建造された城から移設したとされているそうですから、贅の極みを尽くした晩年の豊臣家の名残なのかも
しれませんね。」

 秀吉の遺構だとすると、豪華さと緻密さをふんだんに盛り込んだ唐門の作りにも納得がいく。京都は戦国時代に各地の有力大名が目指したゴールでもある。
信長の代で室町幕府が滅亡して、信長を継承した秀吉が天下統一を果たして晩年を過ごしたこの京都は、短い期間で大名と建造物の隆盛や衰退を
見つめてきたわけだ。小学校の社会科ではその学校がある都道府県の地理や産業を詳しく習う。信長、秀吉、家康の3大名の京都での評価はどうなん
だろう?俺の実家がある麻麻生市は3大名の地元に割と近いせいか、3人とも一大事業をなしえた偉人という評価だったように思う。

「信長は京都に上洛して最後の足利将軍を追放して、秀吉はこの京都で晩年を過ごした。家康は何か関係してたか?」
「えっと…、家康は本願寺の分立に深い関係があるそうです。」

 晶子が広げた観光案内の、西本願寺の歴史のページを読む。親鸞聖人が興して蓮如が勢力を拡大した次、信長との激しい対峙を和議で終焉したことを
契機とした本願寺の内部対立。その内部対立で信長との徹底抗戦を唱えた先代門主の長男が家康に接近して、土地の寄進を受けて建立したのが東
本願寺、すなわち真宗大谷派とある。

「西本願寺の内部対立と家康の接触が、真宗大谷派と東本願寺の建立に繋がってたのか。」
「家康は出身の三河で一向一揆に苦しめられましたから、対立へのある種の肩入れかもしれませんけどあんな広大な土地を真宗の寄進したのは不思議
ですね。」
「理由は色々考えられるが、2つの可能性があるかな。」
「2つ?」
「1つは、家康が信長ほど極端な排撃姿勢じゃなかったこと。信長は家臣も諌めた延暦寺焼き打ちに踏み切ったり、真宗との全面対決では真宗側を攻めて
和議を結ばせて当時の本山−確か石山本願寺だったと思うが、そこから実質追放した。一方、家康が前面に出た時代には宗教との対峙は実質終焉して
いたから、そこまで対立する必要はなかったし、対立しなければ排撃に乗り出すほど家康は極端じゃなかった。」
「時代と方向性の違いですね。」
「そうだな。もう1つは真宗内部対立の関与による、真宗の分断。豊臣家のように手段を駆使して滅ぼすには至らないにしても、幕府の支配を行き届かせるに
あたって全国に門徒を有する真宗は十分脅威だっただろう。それが分断出来れば真宗門徒の結束力を弱めることは可能だ。」
「分断工作ですか。それは思いつかなかったです。」

 信長と家康の違いはホトトギスの例に示されるが、時代の違いが大きいと思う。信長の時代は上洛を目指す戦国大名が群雄割拠の状況。更に下剋上が
公然と行われていた。ある日部下に城を乗っ取られたり、部下が寝返って襲ってくる危険があった。最低限自分の領地は確実に抑えておかないといけない
状況で、領地の食糧生産を担い人口の多くを占める農民が突撃してくれば、領地の平定もおぼつかない。それどころか、領地の安定もままならないことが
威信を低下させ、下剋上を呼び起こす可能性がある。信長の延暦寺焼き打ちや真宗への激しい攻撃は、領地平定は勿論のこと、自分に刃向かう者に対する
粛清を当然視する断固たる態度を示すことで威厳を確保するものでもあったと考えられる。それでも、やはり京都にある本能寺で家臣の明智光秀に
討たれたんだから、本当に油断ならない時代だった。
 翻って家康の時代は、大名の力関係がはっきりしていた。秀吉の晩年で言えば、全国統一が成し遂げられて五大老による疑似的な集団統治が行われて
いた。所謂お家騒動は水面下ではあっただろうが、ある日いきなり家臣や身内が領主に取って代わる時代じゃなくなっていた。
 家康も三河地方に居た時代に三河一向一揆に苦しめられている。だが、本願寺を頂点とする巨大な敵対勢力だった真宗と一向一揆を抑えなければ上洛
どころか領地平定もままならなかった時代は終わり、本願寺は大阪から事実上追放されるなど武将側が優勢な時代になっていた。更に、家康は秀吉亡き後
豊臣家を殲滅することが最大の目的だったから、真宗の鎮圧に乗り出すことに兵力を割く必要もなかったし、自分の戦力を低下させることになりかねかった。
兵力が無尽蔵に出て来るなんて、晶子が読んでいるファンタジー小説でもない。人間である以上次から次へと出て来るわけがない。真宗との衝突で兵力に
損害が出たら豊臣家殲滅どころの話じゃなくなる。兵力の増減だけじゃなく移動によるロスもあって、あの時代はこちらの方が大きかったかもしれない。
飛行機や電車なんてある筈もなく、バスやトラックもなくて、主力は馬で殆どは徒歩。一旦移動したら戻ってくるのに大変な苦労を伴う。戦略上致命的な
事態を引き起こす可能性すらある。移動に大きなロスと危険を伴う以上、大阪から事実上追放されて和歌山に移動していた真宗と家康が敢えて衝突する
理由は、更になくなる。
 それよりも、兵力の衝突以外の戦争、言い換えれば諜報戦で敵の戦力を削ぎ落した方が効率の面では良い。諜報戦は戦国時代では下剋上として公然と
行われていたが、それは表面化したものに限定してのこと。下剋上に至るまでの不可解な動きや、実現に至らなかった水面下での攻防は軍事には
つきものだ。
 真宗が信長の時代のような強力な兵力を誇る一大軍事集団ではなくなったとはいえ、全国に門徒を有することは間違いなく次の治世を狙う家康には
脅威に映っただろう。それこそ、かつての三河一向一揆を髣髴とさせるものがあったと考えられる。豊臣家の殲滅は最後には兵力をぶつけることになる。
1つは天下分け目の関ヶ原の合戦で、もう1つは大阪冬の陣と夏の陣。それとは別に、真宗の動向も気になるところだ。真宗が豊臣家との対峙の隙を突いて
一斉に挙兵したら、豊臣家殲滅どころか返り討ちを食らう危険性がある。とはいえ、表立って真宗と兵力をぶつける理由はない。他の手段として、諜報戦に
よる兵力削減や弱体化が候補になる。そこで目を付けたのが、真宗の内部対立だろう。
 晶子が広げる観光案内の歴史をもう少し丹念に読むと、先代の顕如上人の死後、後を継いだのは三男の准如(じゅんにょ)上人だった。当初継承したのは
長男の教如上人。巨大教団の頂点ともなれば権力や影響力は絶大だろうし、その跡目を継ぐ筈が先代の残した書状でふいになって弟の補佐役になることに
なったら、先代の長男として良い気分はしないだろう。家康が目をつけるとすれば、当然長男の教如上人だろう。弟が門主を継承して補佐役とは言え
居心地が悪いところに、土地を寄進するから新たな宗派の門主にならないかとでも持ちかけられたらどうか。対する権力や影響力、そして財力が大きければ
大きいほどそれへの欲と共鳴して手繰り寄せられる。
 教如上人は家康の寄進を受けて、東本願寺を建立して新たな宗派である真宗大谷派を興した。真宗という緩やかなまとまりはあれど、同じ一門では
なくなったのは確かだ。西本願寺と東本願寺のそれぞれの門徒数は知らないが、単純に半分になったとしても、1人の門主の指示や方針が影響しなく
なったんだから、真宗の脅威は単純に半減する。しかも、片方は自分が土地を寄進したという恩義を盾にすれば、容易に反抗しなくなる。
 家康の土地の寄進を真宗の分断と見るのは、仮定の話だ。しかし、軍事−戦国時代やその後の家康の豊臣家殲滅などは間違いなく軍事行動−では
兵力を正面からぶつけあうことだけでなく、むしろそれは表面化したものだけで実際は水面下の攻防、特に諜報や策略の側面が大きい。そういった軍事
行動の常識からすれば、兵力低下や移動のリスクを負わずに脅威を弱体化する方策が、土地の寄進という形で表面化したと考えるのはさほど突拍子もない
考えじゃない。

「−俺の仮定の話はこんなところ。」
「歴史小説が書けそうなくらい、興味深い話ですね。」
「思いつくことは出来ても、小説っていう形には出来ないからな。晶子が書いてみるのはどうだ?」
「私が執筆ですか?人の作品を読むのが関の山だと思いますけど…。」
「文章は俺より書き慣れてる筈だし、機会を見て書いてみると良い。アイデアの移管に著作権とかは要求しないから。」
「やって…みます。」

 晶子が控えめながらも意気込みを示した。読書量とジャンルの幅は晶子が上回っている。特にジャンルの幅は、専門教科と音楽関連に集約している俺を
圧倒している。様々なジャンルの様々な作家の様々な作品を読んで、作り手になることの素養は備わっていると思う。
 読むのと書くのは別かもしれない。部活あたりで先輩やレギュラーの試合を見て覚えることが中学高校辺りで事実上強制されるが、それで技術が向上したり
レギュラーを獲得したりすることにはあまり繋がらない。それよりも、野球なら予想外の方向に跳ねることもあるボールをきちんと捕球したり、守備範囲や走塁
範囲を広げるために脚力や体力を高めたりする方が近道だ。目的や理由をはっきりさせて取り組めさせれば飽きたり惰性に陥ることもないし−中学高校の
部活ではこの辺の説明が全くと言って良いほどない。晶子の場合、書くことに関しても基礎訓練を積んでいる。自前のノートPCに毎日日記を兼ねた私小説を
書いている。量は日によって変動があるようだが、俺の家に住みつくようになっても続けているそれは、最初に知った時から数えて約3年。決して短いとは
言えないし、書いた量も相当な量になる筈だ。
 晶子もこれから卒論に取り組むが、専門分野に取り組む俺とは違って書籍の多読と傾向のまとめが基本のようだ。文学部の卒論だとそれが条件を変えて
データを集めて理論と仮定を総合して結論を導く方式なんだろうが、専門分野に関する知識や技術の集大成とはあまり縁がないように思う。それを反映
してか、文学部の卒論への取り組みはかなりのんびりしている。晶子自身も語っていたところだが、その分就職活動に注力しなければならないのかも
しれない。晶子の読書量とそれによる知識量や語彙を宝の持ち腐れにするのは惜しい気がしていた。
 ならば、俺の仮定の話を題材に歴史小説を書いてみるのはどうかと思いついた。俺の仮定は自分の知識と観光案内に記載されている歴史を調合して
生まれたものだから、詳細を詰めるにはもっと資料を探したり精読したりする必要があるだろう。だが、知識量と語彙を駆使して晶子が書けば、時代背景や
認識を並べて仮定の結論を建てておしまいとした俺の話より、ずっと面白い話が出来ると思う。

「祐司さんは、私に作家の力量や資質があると思いますか?」
「俺はあると思う。読んでいて面白みのある文章は、晶子の語彙や表現力があれば可能だと思う。」
「小説を書くのに必要なのは、読者の想像をかきたてて作品の世界に誘い込む表現力だって、祐司さんも知っている私が読んでいるファンタジー小説の作者
さんがあとがきで書いてました。」
「ああ、あのハードカバーの小説か。」

 晶子が長く愛読しているハードカバーのファンタジー小説−確か「Saint Guardians」というタイトルだったと思うが、俺もたまに読んでいる。ファンタジーと言う
よりファンタジーの世界観を使ったミステリー或いはドキュメントと言った感じで、色々細かい。文字がびっしり詰まっていて挿絵もないから、文章アレルギー
だと文面を見るのも躊躇われるだろう。
 その作者はあとがきでも色々書いている。1巻は発刊にあたっての所感や編集者とのやり取りのダイジェストと割と読みやすかったが、以降は作品とは全然
関係ない分野についてかなり強い調子で−あんな連中は不要とか−主張を書き連ねたりしている。この作者の癖の強い性格が垣間見えると言える。その
作者も、幼い頃から読書が好きで色々なジャンルを読み漁るうちに、気づいたら自分も書き手に回っていたとあった。その点は晶子と似ている。経歴が似て
いれば結果も同じになるとは限らないが、素養や訓練は十分積んでいることは変わりない。

「晶子はあの小説の作者よりずっと真人間だから、万人受けする小説が書けそうな気がする。」
「どうでしょうね。でも、祐司さんのアイデアを貰って書いてみますね。」
「楽しみが増えたな。」

 晶子の私小説はずっと前に少し読んだが、日記に多少肉付けしたものだから、ほぼ時間を共有している最近だと視点が違うだけのものになっているだろう。
それも面白いかもしれないが、やはり晶子が書いた小説らしい小説を読んでみたい。
 懸賞小説の倍率は結構高いと聞く。ものによっては即プロデビューに繋がるから、印税生活への夢を描く作家候補が集中するだろうから当然と言えば
当然だ。懸賞小説への応募を勧めてはみたが、受賞や入選を狙うことより、それに向けて1つ何かを完成させることが大事だし、大きな経験になると思う。

「祐司さんは小説を書いてみるつもりはないんですか?」
「俺が?」
「ええ。SFとか得意になりそうですけど。」
「俺はそれこそレポートみたいな味気も色気もない文章の羅列にしかならないぞ。」
「僅かな異変を徹底的に探って、論理的に犯人を追い詰めていく推理小説とか、ぴったりだと思いますよ。」

 国語関係の成績はそこそこ上だったが、テスト対策の知識収集の結果という域を出なかった。その証拠に読書感想文はてんで駄目で、何かの賞に選出
された感想文を読んで、他人に読ませることを前提にしたような文章だと思った程度だ。晶子が挙げたハードカバー小説のあとがきを借りれば「読者の想像を
かきたてて作品の世界に誘い込む表現力」があの手の賞で好まれるんだろうが、俺のそういう文章を書く技量は皆無に等しい。そもそも、学生実験の
レポートでそんな芸当はオプション。データと理論と仮定から結論と方針を整然と紡ぎ出すことが第一だし、文章表現に凝ってる余裕はないのもある。

「あの小説の作者さん、祐司さんに似てるんですよ。」
「俺があの作者に?」
「ええ。あの本の作品そのものもそうですし、あとがきは祐司さんの考え方や口調と似てるなぁ、って読むたびに思うんです。」
「褒め言葉…か?」

 ファンタジーの世界観を使ったミステリーかドキュメントに1巻以外は強い口調で批判対象を突き離す主張を加えた作者と似ていると言われても、素直に
喜べない。俺はあれほど癖が強い性格じゃないつもりだ。でも、晶子はからかったり、ましてや非難している様子はない。

「かくあるべきという強い主義や信念を持っていて、それに邁進すると同時にそれにそぐわないものは相手を選ばずきちんと批判する。それは周囲に流され
やすい私から見ると凄く羨ましいんですよ。」
「そんなもんか?」
「ええ。私があの小説をずっと読んでいて全巻手元に置き続けているのは、祐司さんに似た雰囲気を感じるからなんですよ。」

 あの作者のような攻撃的な姿勢は…ないつもりなんだが、ないとも言い切れないか。俺が小説らしい想像力や話の展開を持てたら、ああいう作風になり
そうな気はする。小説の類は高校を出てから殆ど読んでない俺が、不定期かつ気まぐれにあの小説を読んでいるのは、似た者同士惹きつけられているのかも
しれない。
 晶子の小説がどんなものになるかは分からない。何時出来るかすらも全く見えない。だが、それでも良い。俺以外に何かに注力することを、晶子は覚えた
方が良いと思っていた。その方が生活に張りが出るし、俺がこの先仕事やその出張で居ない時に暇を持て余したり、余計なことに手を出さなくなる。人間が
悪さをするのは金がない時と金があり過ぎる時、そして暇を持て余す時、ってあの作者が書いていたし…。
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