雨上がりの午後

Chapter 225 初夜

written by Moonstone


 時は流れて今は夜。九条池での「愛の告白」が相当長かったらしく、ふと時刻を見たら18時を過ぎていた。明日以降も自由に散策出来るからということで、今日のところは
旅館に戻ることで晶子と合意に至った。宿で京都最初の夕飯を堪能。膳で運ばれてくる数々の料理は絶品の一言に尽きた。
 夕飯が終わった後、酒が運ばれてきた。酒といってもその辺の酒量販店で売っているようなものではなく、地元京都の伏見で300年以上続く老舗中の老舗の蔵元の酒だ。
普段はバイトやレポートの連続で俺の場合は翌日に影響するから飲まない酒だが、今は気にせず飲める。晶子はお夕飯が終わってから浴衣に着替えている。
白地に青い朝顔が描かれたもので、帯とリボンは紺色で統一されている。リボンは晶子が持って来ていたものだ。ファッションや流行に執着がない晶子は唯一リボンを
熱心に選び、多数を所持して使っている。

「どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」

 浴衣を着て隣に座った晶子が、俺の持つ猪口に徳利から酒を注ぐ。髪を一重に束ねて前におろした晶子は、何時もより淑やかさが増している。
普段がじゃじゃ馬というわけでは決してないが、服装と髪型を変えただけでも随分雰囲気が違って見える。
 猪口に注がれた酒をくいっと呷る。辛口だが舌を無闇に痺れさせない喉越しの良さ。口に残る深みのある味。「この宿一番のお勧め」と酒を運んできた女性が
言っていただけのことはある。

「晶子も一杯。」
「はい、ありがとうございます。」

 晶子から徳利を受け取り、代わりに持った猪口に俺が酒を注ぐ。注ぎ終わると晶子は小さく会釈して、両手で持った猪口を傾ける。
猪口を元に戻して満足げに小さく溜息。俺を見る目が少しとろんとしているように見えるのは、酒の効果だろうか。

「祐司さん、飲んでください。」
「ああ。」

 再び徳利は晶子の手に渡る。晶子に酌をしてもらった酒を、夜の鴨川を眺めながらゆったり飲む。日常や喧騒から隔絶されたゆるりとした空間は格別だ。
今雲に隠れている月は、満月に近い丸みを帯びた状態。雲は少しずつ流れているから、そのうち見えてくるだろう。

「私が起こしますから、朝の心配はしなくて良いですよ。」
「俺だけ呑んで寝こけるってのは・・・。」
「祐司さんは何時も頑張ってるんですから、今くらいは安心して寛いでください。」
「・・・夜は頑張るぞ。」

 際どいことを言ってみる。こういうことは酒の勢いを借りないと明るいところでは言えない。言われた晶子は少し驚いた顔をするが、それは一瞬のこと。
照れたような、嬉しそうな笑みを浮かべて俺の肩に凭れかかり、小さく頷く。

「今日の祐司さん、何時になく積極的ですね。」

 俺の肩に凭れかかったまま、晶子は言う。照れたようでもあり嬉しそうでもある。

「京都御苑でもそうでしたけど、今日は普段の祐司さんと違いますね。」
「昼間人の多いところでベタベタするのは迷惑にもなるから控えてるけど、俺も男だからな。晶子に言いたいことやしたいことはあるさ。」

 俺は晶子の肩を抱く。晶子はより身体を俺に委ねてくる。
混み合う大学への往路の電車内では、晶子と向かい合って密着している。朝だから髪の匂いは明瞭だし、暖かい時期は晶子の服も薄くなるから、胸に感じる独特の弾力が
やはり明瞭になる。女を感じさせる匂いと弾力に気を取られると、車内で晶子に触ろうと手が動くこともある。
性的に高ぶってる時だと、晶子が風呂に入ってる時に聞こえるシャワーの音で、風呂場に入ろうかと思うこともある。風呂場のドアは透き通ってはいないが、大まかな色や
形が把握出来る程度の半透明だ。風呂場の中は当然それなりに明るいから、風呂場の中がある程度見える。身体を洗っている晶子をドア越しに見て興奮が増して、
夜が激しくなることもある。
 電車内で晶子の胸や尻を触ったり、晶子の入浴中に「乱入」しても、先に晶子に言えば多分晶子は抵抗しないと思う。だが、車内でカップルがいちゃつくのを見せられて
不快に感じる人もいるだろうし、風呂場への「乱入」も一度味を占めると歯止めが利かなくなるだろう。だから抑えている。今は2人きりだし、晶子も際どいことを
言われても少し驚きはするが、嫌がりはしない。俺と同様開放感に浸ってるんだろう。

「もっと・・・言ったりしたりして良いんですよ。今は特に、人の目を気にする必要はないですし・・・。」
「時間はたっぷりあるから・・・。じっくり味わわせてもらう。」

 後半は晶子の耳傍で囁くように言う。夜激しくすることを仄めかしたつもりだ。俺の左腕が晶子に掴まれる。耳傍から顔を上げて見ると、晶子が頬を紅く染めて
俺の腕に手を回して抱きついている。晶子も積極的になってるな。
 普段だとこんなことはまず言わない。夜の最中に言うことはあるが、それは別。やっぱり「周囲の目」がそれなりに気になるのが大きい。2人きりで居る俺か晶子の家
−最近は専ら俺の家だが、それでも電気を消すまでは「周囲の目」を意識する。本当に目があったら覗きそのものだが、古めかしい部分が俺の中にはある。
晶子は俺との関係にかなりオープンだ。指輪をプレゼントした時は典型的だった。弁当を作り始めた時も、わざわざ持って来た上に嬉々としていた。そんな性格だから、
俺が自分との関係を表明することに慎重なのは不満に思うだろう。「周囲の目」を気にする必要がない今くらいは、日頃抑えている気持ちを出したり、普段言わない
若しくは言えないような際どい言葉を言ったりして良いだろう。

「さ、飲んでください。」
「酌させてばかりで悪いな。」
「いえ、祐司さんにお酌をしているのは私だ、って実感出来ますから。」

 年末年始の旅行で、宏一がナンパした女子大生4人組との飲み会を思い出す。
晶子の態度を従属的だの時代遅れだのと散々言われて、俺も晶子も相当気分を害した。自分は依存する一方で相手が何かするのが当然だと思ってる。醜い様を
目の当たりにした。あの手の女達が今の俺と晶子を見たら、やれ「女性に奉仕させている」だの「時代遅れ」だの言うだろう。だが、俺は晶子にこうするよう命令してないし、
晶子は自分から徳利を持った。少なくとも「強制」だのという言いがかりは当たらない。
 「価値観の多様化」と言う一方で横並び、しかも自分の見栄に関することがより良いことを望む思考は未だ健在だ。車を持つなら最低普通車、軽になんて乗りたくない、と
いう意見が未だに女の口から出てくるのがその一例だ。そういう女に限って、「男のくせに」は当たり前のように言うが「女のくせに」は禁句扱いにする。
晶子は「燃費が良い」。そうでなかったら、俺などとうに見限っている。バイトで生計を補っていて車も持ってないんだから、見栄の対象とするには劣等感しか生じないだろう。
宏一がナンパした女達だったら、指差して嘲笑う格好の対象にする筈だ。今俺と晶子がこうして居られることの幸せは分からないだろう。分かってもらおうとも思わないし、
「旧態依然」の価値観に固執している様が哀れにも見える。
 月が雲から顔を出し始める。それまで暗かった夜空が明るくなっていく。太陽のかもし出す明るさとは違う、神秘的な金の輝きは目にも心にも優しい。
耳に微かに「Fly me to the moon」の歌詞が流れ込んでくる。音量は絞っているが澄んだところは変わらない晶子の歌声が、耳に優しい。
晶子の肩を抱きつつ、俺は酒を少し飲む。まだ寒いからガラス越しだが、月夜を見ながら晶子と2人きりで酒を酌み交わしながら過ごす時間。苦悩する時間が暫く
続いたせいか、更に風流に感じる。良い時間だな・・・。

 酒を飲み終えて少ししてから、初めて見るヒノキ風呂に自分ではゆっくり浸かった。男湯は誰も居なかった。浴場に来る時にも旅館の従業員−女中と言うべきかも知れない−
以外の人と出会わなかった。かなり長い廊下だったから、俺と晶子以外客は居ないのかもしれない。
浴衣を着て、男湯と女湯の分かれ目ともなる入り口前で待つ。晶子の長風呂はとうに承知済み。あの髪を維持するために必要な時間でもある。この間にも出入りする客や
通り過ぎる客とは出会わない。やっぱり俺と晶子以外に客は居ないんだろうか。

「お待たせしました。」

 晶子が出て来る。先に着ていた白地に青い朝顔を配置した浴衣を着て、髪は風呂に入る前の一重に束ねたものと違って、今度はポニーテールにしている。
ほんのり上気した頬の晶子は何時にも増して色っぽく見える。酒と浴衣の相乗効果だろうか。

「女湯には他に誰か居たか?」
「いえ、私1人でした。」
「そうか・・・。男湯の方も俺1人だったし、待ってる間にも誰とも出会わなかったから、客は俺と晶子だけみたいだな。」
「こういう時、混浴だったら良かったのに、って思いません?」
「・・・思う。」

 晶子に先に言われたが、そう思うのは事実。晶子も自分から話を振ってきたことや、俺の答えで嬉しそうな笑みを浮かべているところからするに、同じことを思ってるようだ。
晶子の手を取る。軽くしっかり握り返されたのを合図に、部屋へ向かう。途中の廊下でも他の客と出くわすことはない。本当に客は俺と晶子だけのようだ。
 部屋の鍵を開けて中に入る。既に布団が敷かれている。布団は隙間なく並んでいる。これは旅館側の配慮だろうか。部屋は机を退かす必要がないほど広いから、
机はそのままだ。そこには1本の徳利と2個の猪口が置かれている。
夕飯後にも運ばれてきた酒は、この旅館の客に無料で振舞われると聞いている。旅館と蔵元が提携していて、蔵元の宣伝も兼ねているとのこと。本来この旅館に泊まる客は
限られている。旅館の雰囲気や佇まいからしても料金は相当なものだろうから、高価な酒を買える余裕も当然あると見込んでのことだろう。
 俺と晶子は、徳利と猪口を再び窓際まで運んで飲む。晶子の猪口に酒を注ぐ時以外、俺は晶子の肩を抱く。晶子は座って直ぐ俺の肩に凭れかかっている。俺の肩に
凭れながら猪口を軽く傾ける様子は、風呂上りでほんのり上気した肌も相俟ってかなり色っぽい。

「・・・祐司さん。」

 晶子が俺の肩に凭れたまま言う。両手で包み込むように持つ猪口には、酒がまだ少し残っている。

「私が祐司さんから逃げてた時、潤子さんが仮定で話したことに祐司さんがどう答えたか、潤子さんから聞きました。」
「伝えておく、って言ってたけど聞いたんだな。」
「はい。もし・・・私が妊娠していたら・・・、祐司さんは産んで欲しいって思ってる、って・・・。」

 晶子がマスターと潤子さんの家に篭った初日の夜、「仕事の後の1杯」で潤子さんが切り出した問い。まったく予想外ではなかった。セックスでは妊娠を避けているが、
避妊具を使ってないから避妊に失敗する可能性はゼロとは言えない。晶子が妊娠にいち早く気づき、俺に言い出せずに逃げ出したとも推測出来た。
潤子さんの問いを疑うことなく、俺は妊娠しているなら産んで欲しいと答えた。二度と子どもを埋めない身体になるかもしれないし、俺の責任を晶子1人に押し付ける
ようなことはしたくなかった。そのことは、帰る前にも階段の下から2階に居ると聞いた晶子に言った。その気持ちは今でも変わらない。

「祐司さんがそう思ってるってことも・・・、階段の下から聞こえてきました。」
「聞こえてたのか。」
「ええ。」

 潤子さんから聞いただけかもと思っていたが、2階の部屋から聞いてたんだな。俺が妊娠の事実を知っても責任を回避したり押し付けたりしないと知って、あの時の心境で
少しは安心出来ただろうか。

「一緒に名前考えたい、とも言ってくれましたよね・・・。私から潤子さんに頼んだんじゃなくて、潤子さんが仮定で尋ねてみたことなんですけど、そう思っていてくれていたこと
そのものが・・・嬉しかったです・・・。」

 嬉しかったんだな。あの時の晶子を「立て篭もり」から動かすには至らなかったが、嬉しく思えたことに越したことはない。
晶子は少しとろんとした顔で俺を見詰める。愛しさが急速に増してくる。潤んだ瞳。赤く染めた頬。赤味が増している唇。どれもこれも愛しくて魅惑的だ。「フェロモン」って
こういうのを言うんだろうな。

「潤子さんに、晶子が妊娠してたらどうするかって聞かれた時は・・・ちょっとびっくりした。でも・・・もしかしたら、って考えはあった・・・。自分が父親になるって腹を括らないと
駄目だなって思うし、晶子に責任を押し付けるのはあまりにも無責任だとも思う・・・。今でも・・・、晶子が妊娠したなら・・・産んで欲しいと思ってる。」
「私も・・・、祐司さんとの子どもを宿したら・・・産みたいです・・・。」
「今はまだ・・・その時じゃない。経済的にも、精神的にも、色々な・・・。」

 産むと一言で言っても、ことはそう単純じゃないことくらい分かってるつもりだ。うろ覚えだが定期検診はあるし、晶子に不必要な負担がかからないように配慮しないと
いけない。入院・出産の費用も馬鹿にならないらしいから、大学は休学を当然視しないといけない。
産んだら後はどうとでもなるわけじゃない。むしろ産んでからの方が大変だろう。ミルクを与えたりオムツを換えたりといった世話をしなきゃいけないし、夜泣きがあったら
あやさないといけない。大学に通いながら子育てっていう離れ業は出来そうにない。場合によっては保育園に預けられるまでの2,3年は休学しないと間に合わないかも
しれない。大学には教職員用の保育室があるが、学生が利用出来るかどうか怪しい。
 そういったことを考えられるかどうか。それが親になる者、大人としての責任だと思う。親は子どもを選べても子どもは親を選べない。以前大学でネットサーフィンをした時に
ざっと読んだ小説にあった一節が、親としての、大人としての責任のあり方を端的に語っていると今思える。

「そうですよね・・・。私も分かってます。だから、祐司さんには我慢してもらってるんです。」
「十分だ。」

 子どもを産むこと、産ませること、育てることの重みがじわじわと実感として分かるようになってきた。事実婚にせよ婚姻届を提出して入籍するにせよ、結婚がゴールだと
思いきや実はそうじゃない。結婚してからの生活でその夫婦が試される。片方に依存してばかりだと「こんな筈じゃなかった」と不満が募るし、子どもも含めると産むまでにも
色々な関門があるし、産んでからも色々な課題がある。精神的な問題もさることながら、経済的な問題も避けては通れない。
 親は子どもを選べても子どもは親を選べない。俺と晶子の間に生まれてくる子どもは幸せな環境で迎えたい。そう出来るように、少しずつでも気構えを整えていかないと
いけない。晶子とどういう家庭を作っていくかを相談したりしながら・・・。

 酒を飲み終えて、机に徳利と猪口を置いておく。こうしておけば次に来た時引き取っていく。俺は電灯を消す。薄いオレンジ色を帯びた電灯は元々それほど明るい方じゃ
ないから、消しても暗転というほどじゃない。
さっきまでのやり取りでムードが高まっているから、興奮を抑えるのに必死だ。
電灯を消した部屋に敷かれた布団の掛け布団を、晶子が捲る。横になるかと思いきや、その場で正座する。

「どうした?晶子。正座なんかして。」

 俺が問いかけるが、晶子は無言だ。怪訝に思って晶子の前に来て屈んだところで、晶子が前に軽く両手を突いて、ゆっくり頭を下げる。

「よろしく・・・お願いします。」
「あ、こ、こちらこそ。」

 三つ指突いての晶子の一礼に、俺は慌てて正座をして頭を下げて返す。随分他人行儀だな・・・。

「どうしたんだ?いったい。」
「今晩は新婚旅行で迎える初夜ですから・・・。」

 初夜・・・か。確かにそう言われればそうだ。
晶子と寝るのは今日が初めてじゃない。初めて寝たのは一昨年の俺の誕生日。晶子が俺の家に住み着くようになってから週何回というペースで寝ている。
だから「今日が初めて」という思いはなかった。改めて「初夜」と言われたことで、晶子が安藤姓を名乗って2人きりで過ごす旅行の最初のこの夜は、文字どおりの初夜だいう
実感が性的興奮と幸福感と共にわいてくる。

「そう・・・だな。今日から晶子は・・・安藤晶子になったんだったな。」
「はい。」

 胸が高鳴る。部屋に溶け込む月光に浮かぶ晶子の笑みは、勿論綺麗で、何処か儚くて・・・。こんな胸の高鳴りは、初めて晶子とキスをした時にも、初めて晶子の胸に
触れた時にも、初めて晶子と寝た時にもあった。今はそれ以上かもしれない。
 晶子の両肩に手をかける。晶子の顔から笑みが消えて、切なげなものになる。目を閉じながら近づけていく晶子も目を閉じている。晶子とキスを交わす。寝る最中や
終わった後には何度も、翌朝朝飯が出揃うまでの間に時々交わしている。だけど今は特別なもののように、初めてのように感じる。
暫く晶子の唇の感触と温もりを感じた後、ゆっくり唇を離す。晶子を軽く抱いて前に少し体重をかける。晶子は少しも逆らわずに布団に倒れていく。

「はあ・・・。」

 完全に横たわったところで、耳に甘くて艶っぽい吐息が流れ込んでくる。晶子の肩口から顔を上げて晶子を見る。束ねた髪を広げて仰向けになっている晶子は、
俺だけをじっと見詰めている。愛しさと抱きたいという欲情が一気に最高潮に達する。

・・・。

晶子の身体に隈なく触れる。隈なく唇を這わせる。
晶子の髪を束ねるリボンとゴムを解く。茶色がかった髪が月光を浴びて煌きを放つ。
俺は晶子の上で動く。時に速く、時に大きく、強く、激しく。
晶子は俺の下で喘ぐ。背中を反らし、顔を左右に振って、時に布団に埋めて。
滑らかな肌が時間の経過と共にしっとりと汗ばんでくる。
俺は晶子の胸を、腰を、腕を、脚を掴む。
晶子の手は時にシーツを、時に俺の腕を掴む。

晶子が俺の上で動く。時に速く、時に大きく。
動きに合わせて髪と胸が揺れる。時に速く、時に大きく。
時折両手を俺の腹や布団に突いて、抱きつくように身を沈める。
俺は晶子の身体に指と唇を這わせる。晶子の胸を、腕を、腰を掴む。

俺は絶頂に達する。想いの丈を晶子の中に迸らせる。
俺はその度にうめき、全身を強張らせる。
晶子はその度に叫び、身体を大きくびくんと震わせる。

・・・。

 身体の硬直が解ける。息が切れる。晶子から身体を離すのもやっとだ。晶子は胸を速く上下に動かしている。手は掴んでいたシーツを離しているが、こちらは
動く気配はない。俺は残る力で掛け布団を引っ掴み、晶子の隣に倒れこむ勢いで掛け布団をかける。きちんと被せられたかどうかまで確認する余力はない。
 少しして、隣で動きが起こる。晶子が身体を、否、頭を起こして、俺の肩口に乗せる。「落とす」と言った方が良いかもしれない。軽い衝撃を感じるが痛いというほどじゃない。
その後、身体を徐々に摺り寄せてくる。晶子も殆ど余力がないのが分かる。

「祐司さん・・・、激しかった・・・。」
「そうか・・・。」

 激しかったとは思う。「我を忘れる」「没頭する」など、それしか頭にないという表現がぴったり当てはまるものだった。晶子と寝るのが3日ぶりなのもあるのかもしれない。
だが、雰囲気が今までと違ったことがこれまで以上に没頭して激しくする方向に働いたのは間違いない。
 晶子との夜の頻度が増すにつれて、「営み」と言うようにある種日課になっていたように思う。義務感とか倦怠感とか、日課に付きまといやすいマイナス要因は感じなかったが、
朝起きて顔を洗って朝飯を食うのと同じ感覚になっていたのはある。
部屋を暗くしてベッド−今日は布団だが−に入ったところまでは、今までと同じだ。酒が入るのは珍しいといえば珍しい。だが、一番の違いは雰囲気だ。・・・晶子と初めて
寝た時と似た、日課とは異なる次元の特別な気分と感覚。

「凄く・・・幸せです・・・。たくさん・・・祐司さんと・・・愛し合えて・・・。」
「満足・・・出来たか・・・?」
「はい・・・。凄く・・・。」
「なら・・・良い・・・。」

 晶子から満足を聞いて、安堵の溜息。晶子が俺の家を出た際も、前夜晶子の方から強く求めて、激しい夜を展開した。でも、混乱したと言って出て行った。
俺の愛情を独占出来なくなる、ひいては奪われることに殊更危機感を抱く晶子が満足したなら、俺の愛情を独占出来ていると感じられるなら、初夜最大の目的は
達成されたと言える。
 無論、俺は十分満足している。晶子のスタイルの良さは健在どころか、磨きがかかっている。事実、俺の家に住み込み始めて数日後の夜が終わってから、晶子がバストの
サイズアップとウエストのサイズダウンを話した。昨年の夏、ドライブ帰りに晶子の家で激しい夜を過ごした際に晶子に尋ねて聞いたスリーサイズでも十分誇れる数値だったが、
それより出るところはより出て、引っ込むところはより引っ込んだ格好だ。
晶子は変に食事の量を減らしたりしない。俺よりは少ないが毎食きちんとそれなりの量を食べる。にも関わらずこれだけのスタイルを維持出来る理由は、とサイズ向上を
聞いた後で尋ねたら「愛している人が居るから」と晶子は答えた。「愛している人のために綺麗になりたい」というのが晶子の補足。
 「恋する女は綺麗になる」と言う。食事の量をあえて制限したりしなくても理想的な体格≒スタイルになっていくことも、それには含まれるようだ。晶子の場合は
(俺から見て)元々理想的なスタイルだったが、より理想的なスタイルへと磨きをかけている。
男の性として、そんな理想的なスタイルの女が全裸で自分の下で喘ぎ、自分の上で動けば自ずと性的に興奮する。自分も動いて絶頂に達する。それを普段以上に
繰り返した。「我を忘れて」「没頭した」わけだ。疲労感もさることながら満足感は今まで以上に大きく、深い。

「祐司さん・・・。」

 晶子が頭を少し上げて、上半身を俺の上にずらして乗せる。何時もだと両手を俺の脇腹近くに突くんだが、今日はそこまでするだけの余力がないんだろう。
 晶子は俺の胸に顔の右側を当てて目を閉じる。右手は顔に程近い位置にある。

「祐司さんの・・・心臓の音が・・・聞こえる・・・。」

 心臓の音を聞いてるのか。激しい営みを終えてまだ間もないから、周期は相当早いだろう。心臓の音を聞く−これだけ密着してると「感じる」も含むか−ことで、
より安心感や満足感を得ているようだ。その間俺は、両脇に流れ落ちた晶子の髪に触れたり、指の間に通したりする。引っ掛かりがまったくない髪は、よく手入れ
されているのが分かる。
 緩やかに時間が流れていく。夜が激しいと−ほぼ毎回例外なく激しいが−数分足らずで寝てしまうところだが、今夜は疲労感は勿論あるが寝るまでいかない。
普段だと大学やバイトでの疲れがあるからだろう。今日は新京市から京都までの移動と、京都御苑の一部を見て回った分があるが、日頃よりずっと楽だった。

「祐司さん・・・。」

 晶子が俺の胸から顔を上げる。俺の鎖骨の交差点あたりに顎を乗せた晶子の顔は、とろんとしている。薄明かりで頬の紅潮がまだ残っているのが分かる。
少しの間俺を見詰めた晶子は、上体を少し上にずらして俺の左肩口に頭を落とす。俺の頬に柔らかくて温かい点が生じる。頬にキスか。明るいところでされるとかなり
照れるが、今は嬉しさの方が大きい。
 俺は重い右手を動かし、晶子の頭に持っていく。静かで平穏な、そして幸せな余韻に浸る。耳元で速く浅い呼吸音を聞いていると、意識が次第に遠くなっていく。
久しぶりに落ち着いて寝られそうだ。晶子が居ない間、モヤモヤしたものを抱えていたからな・・・。

Fade out...


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