雨上がりの午後

Chapter 164 雪里の散策−第1日目−

written by Moonstone


 一面の雪景色。そう表現するしかない光景が広がっている。
何度かの待ち合わせを経てようやく到着した奥平駅で降りて、そこからバスに揺られること約30分。
伝統的な日本家屋が連なる家が白一色に染めた軒を連ね、その奥に広大なゲレンデが見える。若者と中高年者のレジャーが融合した空間だ。
 今もしんしんと雪が降っている。中高年者が目立つ通りは、人の数こそそれなりにあるものの静かだ。
人が時間に追われることなく、緩やかに過ごす町・・・。此処だけ時間が止まったかのような錯覚を覚える。
 勝平を先頭にして俺達は歩く。宿の予約や切符の手配といった実務的なことをしたのは勝平だからな。
地図を手にした勝平について歩いていくと、大きめの家、というより屋敷が目立ってくる。その看板は「○○荘」とか宿を示すものだ。
 更に歩いていく。山の麓(ふもと)にしては幅の広い川に掛かった橋を渡ると、ゲレンデがより大きく見えてくる。
此処にも古い町並みがあって、時間が緩やかに流れているように思う。
その町並みの一角にある、規模こそ大きいものの見た目は周囲と同じ屋敷に入っていく。「奥平湯元館」。此処が俺達の年末年始を過ごす宿ってわけか。
中も何処か懐かしく思わせる建物の概観と同じ伝統的な雰囲気だ。こんな宿がインターネットで予約なんて、ちょっとミスマッチな気がしないでもない。
勝平が、病院の受付のようなカウンターに向かう。

「いらっしゃいませ。」
「予約をしておいた、和泉です。」
「和泉様ですね。恐れ入りますが、予約番号をお願いいたします。」
「484-7679-0028です。」
「少々お待ちください。」

 受付の小母さんが、宿の雰囲気にはどうも合わないPCを操作する。
建物は昔のままでも、システムは変わってるんだな・・・。当たり前と言えばそうだろうが。

「和泉勝平様、本日12月29日より来年の1月3日までの5泊6日、朝夕のお食事つきで二人部屋を3室のご利用でご予約いただき、昨日お一方のご予約を追加。
以上でよろしいでしょうか?」
「はい。」
「ご利用ありがとうございます。こちらがお部屋の鍵になります。恐れ入りますが、皆様のお名前をこちらにご記入願います。」

 俺達は2列になって、「ご宿泊様記載帳」という仰々しいタイトルが踊る紙に名前と住所、電話番号を書く。こういうのは宿なら何処でもあるもんだ。
耕次と俺は勝平から鍵を受け取る。・・・そう言えば2人部屋だったな。俺の鍵は202号室となっている。
鍵の受け取りに続いて料金の支払い。35000円をそれぞれが支払う。晶子も自分の分を払う。今まで晶子が俺に払わせたことを探す方が難しいな。

「夜のお食事は18時から20時、朝のお食事は7時から9時となっております。玄関は0時に施錠いたしますので、お出かけの際はそれまでにお戻り願います。」
「はい。」
「ごゆっくりどうぞ。」

 小母さんの案内を受けて、俺達は廊下を少し歩いて階段を上って2階に出る。
板張り−フローリングという表現は似合わない−の床が続いていて、一定の間隔でドアがある。

「じゃあ、一旦部屋に荷物置いて、さっきの受付前に14時集合としよう。部屋割りは、祐司と嫁さん、俺と渉、勝平と宏一ってことで。」
「えー。俺、祐司の嫁さんと一緒が良いー。」
「宏一、早死にしたいのか。」
「俺達は犯人と事件の背景が分かりきったサスペンスドラマへの生出演なんて、真っ平御免だ。その口生かして、スキー場で底引き網漁に励め。」

 宏一のとんでもない不満の声に、渉と耕次が釘を刺す。
冗談だとは分かってるが、宏一には油断ならない。何せ、高校時代俺と付き合っていた宮城にも度々ちょっかい出して来たっていう「前科」があるからな。
 鍵を持った俺は、直ぐ近くの壁に貼ってあった木彫りの部屋配置図と鍵の番号を見比べる。202号室は・・・右の廊下を真っ直ぐ行って、端から2番目か。
晶子が隣に居るのを確認してから、部屋に向かう。・・・ん?連中も同じ方向か。勝平が一括で予約を取ったから、固まっても無理はないか。
 耕次が端の201号室、勝平が203号室のドアを開ける。俺と晶子の部屋は連中に挟まれてる。
勝平の奴、何か狙ってのことか?突っ立ってても仕方ないから、ドアを開けて中に入る。

「わぁーっ。凄く良いお部屋ですねー。」

 続いて中に入った晶子が、部屋の全貌が見えたところで歓声を上げる。
部屋は2人には十分な広さで、床の間もある。
水墨画のような白黒の絵が描かれた掛け軸までセットだ。下半分が曇りガラスの窓からは、雪に覆われた町並みが一望出来る。
 俺と晶子は鞄を部屋の隅に置いて、窓際に歩み寄る。
一面の雪景色の中に幾つかの小さな点が動いている。あそこでは数個、別のところでは塊になって。御伽噺(おとぎばなし)の世界に来たような、何処か
懐かしくもある光景だ。観光にももってこい、という耕次の説明が理解出来る。
 腕時計を見ると、集合時刻まであと30分くらいある。宿の小さな窓から見える景色に、暫し心を浸すとするか。
日常生活に当たり前のように付き纏う音のない世界が、確かに此処にある・・・。

 集合時刻までに、集合場所の受付前に全員が揃った。
耕次と宏一はスキー用具を持っている。本来の目的はスキーなんだから、当然と言えばそれまでだが。

「まず、これからの行動について決めるとするか。」

 耕次が口火を切る。

「祐司と嫁さんは観光だから、このまま出て自由に散策。俺を含む野郎軍団はスキー場へ向かう。集合は此処に18:00ってことで、異議は?」

 異論は出ない。この時期18:00だと真っ暗だが、スキー場には照明がある、と勝平がくれたプリントに書いてあった。
町は人が住んでいるし店もあるから、夕暮れまでに帰らなければ別の世界に紛れ込んでしまうなんてことはない。・・・それはそれで面白いかもしれないが。

「ないようだな。じゃ、次。何処かの誰かが底引き網漁で時間を忘れる可能性があるから、そういう場合は渉から連絡してもらう。」
「それは了解だが、祐司と嫁さんはどうするんだ?」
「あ、携帯なら持ってる。」
「私もです。」
「何時の間に。」

 渉の驚きの声に、俺は照れ笑いでしか応えられない。
去年の成人式会場で会った時にも、携帯を持ってないのは俺だけだったし、その時も「買う気はない」って言ったから、180度の方針転換には驚くだろう。
俺はコートの内ポケットから携帯を取り出す。

「俺の携帯に電話してくれ。渉の携帯の番号は?」

 渉から携帯の電話番号を聞いて、そこにダイアルする。渉の携帯が着信音を鳴らしたところで電話を切る。
こうすれば着信履歴に入るから、後の操作は渉に任せれば良い。着信履歴をアドレス帳に載せることくらい、俺でも出来るからな。

「登録した。それにしても、1年で随分変わるもんだな。」
「俺と晶子は学部が違うし、俺は実験とかで遅くなるから、その時の連絡を公衆電話を探さなくても出来るように、ってことでな。」

 携帯を買った背景に、智一の従妹である吉弘との一件があったことは伏せる。
そこまで言わなくても良いだろうし、吉弘とも和解出来た今は、嫌な奴が絡んで来てさ、とか話を切り出す必要もないだろう。
そうでなくても、こういう場で愚痴めいた話は持ち出したくない。

「祐司と嫁さんへの連絡手段も確保出来たから、他に問題はないな。」
「よーし!早速出発しようぜ!」

 耕次の確認と宏一の掛け声で全員の同意が得られた。俺達は連れ立って宿を出る。
まだ雪は降っている。俺は傘を広げる。スキーをする面子は傘なんて必要ないから持っても居ない。

「じゃ、俺達はスキーに行って来るから、祐司は嫁さんとゆっくり観光してろ。」
「ああ、分かった。気をつけてな。」

 耕次達は意気揚々とゲレンデの方へ向かう。
俺は傘を左手に持って、晶子を中に入れて町に繰り出す。晶子の手が俺の左腕に添えられる。雪の絨毯の感触を楽しみながら、大通りに入る。
 幾つもの店が軒を連ね、商品を陳列している。勝平からもらったプリントにもあった木彫りの猿をはじめ、漬物や酒など色々ある。
通りは賑やかだが五月蝿くは感じない。これもこの町ならではかもしれない。

「私、嬉しかったです。」

 最寄の店で掌サイズの木彫りの猿を手に取って見ていたところで、晶子が言う。

「祐司さんがお友達に、私を妻って紹介してくれたのが・・・。」
「紹介くらい出来なきゃ話にならないさ。」

 嬉しそうな微笑を俺に向けてから、掌に木彫りの猿を乗せて見入る晶子が抱える切なる思い。
耕次は以前言っていた。晶子は自分を崖っぷちに追い詰めてまでも俺と一緒に暮らすことを決意した、と。
親との衝突、場合によっては勘当も覚悟するのが俺の責任だ、と。
決して高価なものを強請ったりしない。ただ俺と一緒に居られることに喜びや幸せを見出す晶子・・・。
俺以外全員男っていう面子の中に1人加わっているのも、俺と一緒に居たい、という一心だ。この時間が持てた経緯はどうであれ、2人の時間を大切にしたい。
 店内には結構人が居る。だが、年齢層は明らかに高い。俺と晶子のような年代の客は見たところ居ない。
浮いて見える、と言えばそれまでだが、若い奴はスキー、年寄りは温泉と観光、なんて決まりはないから、肩身が狭いとか負い目を感じる理由はない。
 少ししてから店を出る。傘を広げて上に掲げた俺の左腕に、晶子が手を添える。
降り続ける雪で絶え間なく新調される雪の絨毯の踏み心地を味わいながら、気持ちゆっくりと通りを歩く。
やっぱり通りを歩く人達の年齢層は高いが、時に俺の膝丈くらいの子どもが走っていたりする。
鬼ごっこか?俺が何時も過ごしている世界とは良い意味で隔絶されていると思わせる光景だ。

「あ・・・。」
「どうした?」
「祐司さん。あそこで子どもが雪だるまを作ってますよ。」

 晶子が指差した方を見ると、家と家の隙間で数人の子どもが雪だるまを作っている。
背丈の関係であまり大きなものは作れないようだが、並んで雪の塊を転がし、力を合わせて積み重ねる。
そして・・・木炭か?黒い棒らしいものを適当な長さに折って雪だるまの顔を作る。
 形はお世辞にも整っているとはいえない。頭と身体が同じくらいの大きさのものもある。目や口も目隠しをして落書きをしたような感じだ。
でも、そんなことにこだわらずに、一緒に何かを作ることを純粋に楽しんでいる。見ていて自然と笑みが零れるのを感じつつ、俺と晶子は子ども達に近づく。

「いっぱい作ってるのね。」
「これからもっと作るんやで!」

 屈んで話しかけた晶子に、子どもの1人が元気良く答える。

「兄ちゃんと姉ちゃん、どっから来たんや?」
「新京市ってところからよ。皆が住んでるこの町から南の方にあるところ。」
「雪だるま作ったことあるか?」
「小さい頃に作ったわよ。冬場にはそれなりに雪が降ったから。」
「俺は元々雪が殆ど降らないところで育ったからな・・・。小学生の時、何十年ぶりかの大雪があって、その時作ったきりかな。」
「此処は毎年作るんやで。ぎょうさん雪降るでな。」

 続いて屈み込んだ俺も会話の輪に加わる。
偶々人見知りしないのか、元々こういう性格なのかは分からないが、子ども達は雪だるまを作っていた手を休めて、方言丸出しで俺と晶子に話しかけてくる。

「兄ちゃんと姉ちゃん、どういう関係なんや?」
「これ見て、分かるかな?」

 予想の範囲内とは言え早くも投げかけられた問いに、晶子が左手を差し出す。
俺はギターを使うこともあって手袋をしているが、晶子は手袋をしていない。だから、薬指に輝く指輪を直ぐ見せることが出来る。

「指輪やんか。これってどういう意味なん?」
「あんた、知らへんの?姉ちゃんの指輪填めとる指は、結婚指輪填めるところやで。」
「あれって、小指やなかったっけ?」
「アホぅ。小指は赤い糸やわ。」
「何何?兄ちゃんと姉ちゃん、結婚しとるんか?」
「そうだよ。」

 漫才のような掛け合いに続いての確認に、俺が答える。論より証拠。俺のも見せるとするか。

「晶子。ちょっと傘持ってて。」
「あ、はい。」

 晶子に傘を渡して、俺は左手の手袋を外して子ども達に差し出す。同じ指に同じ指輪となれば、それなりに分かるだろう。
子ども達が俺と晶子の左手を見比べて、納得したような表情で何度も頷く。

「へえー。スキーはせえへんの?」
「俺達は観光が目的だから、スキーはパス。」
「兄ちゃんと姉ちゃん、変わっとるなぁ。此処に来る他所の若いのは、昼間スキーして夜遊ぶんやけどなぁ。」
「此処に来たらこうやって暮らさないといけない、ってことはないだろ?」
「兄ちゃん、ええこと言うなぁ。」

 感心されてしまった。
俺はとりたてて新理論だとは思ってないんだが、圧倒的多数の行動がパターン化されている中で、良く言えば「個性的」、悪く言えば「変わり者」の過ごし方は
新鮮に映るようだ。

「兄ちゃんと姉ちゃん、何時まで此処に居るん?」
「来月・・・、来年って言うのかな。その3日までよ。」
「そやったらさ。明日ウチらの雪合戦に来やへん?」
「あ、それええなぁ!盛り上がるで!」
「君達で雪合戦するのか?」
「此処はな、毎年12月30日に子どもが集まって、でっかい公園で雪合戦するんや。年越し前の厄除けちゅうことでな。」

 子どもの説明を受けて、勝平から貰ったプリントの内容を思い起こしてみるが、何処にもそんな記述はなかったように思う。この町の名物じゃないのか?
言葉は悪いが、客寄せのイベントにはならないからWebサイトの案内から省かれた可能性もあるが。

「皆みたいな子どもの中に私達が入って良いの?」
「それやったら気にせんでええよ。ここんとこ、子どもの数が段々少なくなって来とるし、ぎょうさんでやった方が楽しいに決まっとるわ。」
「そやそや!公園は広いで、雪の心配ならせんでもええで。」

 子ども達も乗り気だから断るのは気が引ける。それに何気に楽しそうだ。雪合戦で一汗かくのは、雪が多い地方ならではの楽しみだしな。
晶子を見ると、微笑んで頷く。決まりだな。

「じゃあ、明日何時に何処に行けば良いか、教えてくれるか?」

「えっと・・・。1時までに此処に来てや。公園へ連れてったるで。」
「雪だるまぎょうさん作っとくで、それ目印にすればええわ。」
「分かった。また明日な。」
「明日はよろしくね。」
「待っとるでな!」

 俺と晶子は立ち上がり、子ども達と手を振ってその場を離れる。子ども達は人で姿が見えなくなるまで俺と晶子に手を振る。
俺は手袋を填めて、晶子から傘を受け取る。傘を掲げた俺の左腕に、晶子の手が添えられる。

「思わぬ形で町のイベントに飛び入りすることになったな。」
「ええ。何だか面白そうですね。子ども達と一緒に雪合戦だなんて。」
「のんびりぶらぶら町を歩くのも勿論良いんだけど、童心に帰るって言うのかな・・・。雪合戦なんてそうそう出来るもんじゃないし、子ども達もかなり
乗り気だったから、断る気もなかったし。」
「どんな形式なんでしょうね。やっぱり二手に分かれて、っていう一般的なパターンでしょうか。」
「だとすると、俺と晶子は別のチームにされる可能性があるな。1つに大きいのが2人も居るのは反則だ、ってことで。」
「折角の機会ですから、楽しみましょうね。」
「ああ。」

 雪が静かに降る中、明日の雪合戦に思いを馳せる。
小学生の時に地域何十年ぶりという大雪が降って、その日は学校全員が雪だるまを作ったり雪合戦をしたりと大はしゃぎしたのを覚えている。
偶々訪れたこの地で、約10年ぶりか。それ以来となる雪合戦がどんなものになるか、今から楽しみだ。
 見知らぬ男と女が話しかけても警察沙汰になることなく、ごく自然に会話が出来る・・・。
俺が幼い頃はさして特別なことでもなかったようなことが危険視までされるような時代。どちらが正しいのかは分からない。ただ、俺が幼い時代と
あの子ども達との面影が何となく重なったような気がするのは確かだ。

 町は思ったより広い。イベントなんかを詰め込んだテーマパークの延長線上かと思いきや、変な言い方だがきちんとした町だ。
宿や土産物店があるのは観光地ならではだが、犬を連れて散歩している人も居れば、学校の制服らしい揃いのジャンパーとジャージを着た集団も居る。
郵便局もあれば、喫茶店もある。
俺と晶子が住んでいる新京市と決定的に違うのは、大型ショッピングセンターがないことくらいだ。こんなところにあっても車が満足に通れないから
建設する方が無理な話だろうが。
 雪は止むことなく、荒れることなく静かに降り続けている。
彼方此方歩き回っているうちに、倉のような建物が林立する場所に出た。立て看板を見ると、春祭りの際に使用される山車(だし)が収納されている、とある。
どうやらこの町には冬はスキー、春は祭り、とオールシーズン共通の温泉以外に季節に応じたイベントやレジャーがあるようだ。
 物見櫓(やぐら)もある。どうやらこの一帯は、祭りに関する建物や倉庫といったものが集中している場所らしい。民家以外の家が見た限りではないのも
そのせいだろう。
腕時計を見ると16時。宿への集合時間は18時だからまだ余裕はある。
空がやや暗くなってきたが、これは昼が短いこの季節ならではのもの。それを除いても、空は一面灰色の低い雲で覆われているから、印象としては暗い。
 人がやっと行き違えるという程度の幅の道を歩いて行くと、いきなり開ける。
だたっ広い、遊具もなければ砂場もない、あると言えばせいぜい大輪の雪の花を咲かせた樹木程度の広々とした場所だ。
数人の子ども達が走り回っている程度で、広さの割に人気がない。

「此処でしょうか。子ども達が言ってた雪合戦をする公園って。」
「そうかもしれないな。公園って言うから、ブランコとかそういうのがあるところかと思ってたんだけど・・・。」

 俺の実家にも公園はあるが、そこには野球やサッカーが出来る程度の広さの平地に、ブランコなどの遊具が置かれている場所が隣接している。
公園と言えば遊具や砂場を連想するんだが、此処ではちょっと違うのかもしれない。

「それとも、『公園=ブランコ』っていう俺の考えが古いのかな・・・。」
「そんなことはないと思いますよ。子ども達が言う公園には大抵、ブランコやシーソーとか何かしらの遊具があるものですから。推測ですけど、この町の
子ども達は、『公園』という単語が指す概念を広義に『皆の遊び場』としているんだと思います。」
「なるほど・・・。」

 晶子のボキャブラリーだと上手く纏まる。
観光の町に、こういった一見この町が前面に押し出したい「観光」とは無縁の、言っちゃ悪いがただ広いだけの空き地があるのはちょっと不思議だ。
こういう場所に駐車場を入れたりするのが今時の考えだが、此処は大通り以外まともに車が行き来出来そうにないし、混雑や事故の元になるからということで
あえて空けているのかもしれない。
 もしかしたら、さっき目にした倉に入っている山車が、町を練り歩いてこの空き地に集結するのかもしれない。
1年の中でごく限定された時期しか見られないものが集結するとなれば、ローカル局が「季節の風物詩」とか銘打って報道するだろうし、観光客でごった返して
いる中で山車を追ってTVカメラを担いでうろついていると、苦情や混乱を呼びかねない。

「今も雪が降ってますから、一晩置けば、雪合戦にはうってつけの場所になるでしょうね。」
「そうだな。どのくらい人数が集まるかにも依るけど、どうせなら派手に雪球が飛び交う方が良いな。」
「終わった時には雪塗れになってるでしょうね。」
「だろうな。俺と晶子は背丈の関係で標的にされてもおかしくないし。」

 俺と晶子は顔を見合わせてくすくす笑う。雪球と歓声が飛び交う様子を思い浮かべる。
おぼろげに思い出せる程度の、小学生の時の雪合戦の様子と重なって、明日がより楽しみになる。子ども達に混じっての雪合戦。どうなるか楽しみだ。

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