雨上がりの午後

Chapter 82 試練の日々とつかの間の平穏

written by Moonstone


 あの暑い日々は遠く去ってしまった。
肌を焦がすと言うより肌を炭にすると言った方が良いほどだった日差しも、日差しそのものこそ鋭く眩いが、その勢いはかつてのそれより弱まっている。
空が高くなり、ある日いきなり雲が立ち込めては雨が降る、という日もあるようになった。女心に喩えられる天気だ。
時に夏を思わせる日もあるが、それも日中だけのこと。朝夕はめっきり涼しくなって、エアコンの世話になる必要もなくなってきた。
 夏が暑すぎた反動のせいかもしれないが、夏が過ぎ行く時の温度差の変化はかなり激しい。俺も風邪を引きかけたことが何度かあった。
だが時期が時期だけに風邪を引くわけにはいかない。何故なら今は前期試験の真っ最中だからだ。
1年の時と後期と合わせて、3年へ進級出来るかどうかが決まる重要な時だ。一つたりとも単位を取り逃すことは出来ない。
 日程こそ余裕があるが、それは逆に言えばそれだけ余裕がないと単位を取るのが難しい可能性があるということだ。
それに1年の時より専門教科の比重が大きい。特に前期の専門教科の単位は取り逃すと厄介だという話だから余計に気が抜けない。
俺は大学で試験、帰宅してノートの整理と復習、そしてギターの練習とデータ作成、そしてバイトという忙しい日々を送っている。

「こんばんはー。」
「いらっしゃい。何だか疲れた様子だな。」
「今日は2コマ目と4コマ目に試験がありましたからね。その間も気が抜けなくて・・・。」
「なかなか大変だな。ま、食事の時くらいゆっくりしなさい。」

 コーヒーを作っていたマスターが出迎える。
晶子は午前中の2コマに試験があって、先に帰っている筈だ。
幾ら何でも午後2コマ分待ってろ何て言えない。晶子だって家のこととか次の試験の準備とか、色々やることはある筈だからな。
店を見ると髪を後ろで束ねた晶子が注文を取っているのが見える。間もなく潤子さんが駆け寄って来た。

「こんばんは。」
「こんばんは、祐司君。かなり疲れた様子ね。」
「そう見えます?」
「顔に出てるわよ。さ、夕食食べてね。」

 俺はカウンターに座って、マスターが出したコップの水を一気に飲み干す。冷たい水のお陰で緊張感がようやく解れ始めてきたように思う。
潤子さんがフライパンを煽っている中、晶子がカウンターに来る。
俺の存在に気付いて表情を明るくする。
それを見て、まだ残っていた緊張感がようやく消えたような気がする。

「こんばんは、祐司さん。お疲れ様。」
「ああ、ありがと。」
「身体の方、大丈夫ですか?前に風邪ひきかけたって言ってましたし・・・。」
「それはもう何ともない。今風邪ひいたら洒落にならないよ。」
「そうですよね・・・。あ、注文です。アイスコーヒー3つ、サンドイッチ盛り合わせ1つ、ミートスバゲッティー3つ、5番テーブルです。」
「はい。相変わらず多いわね。悪いけどサンドイッチの方、お願い出来る?」
「分かりました。」
「コーヒーの準備もしておくかね。」

 晶子はカウンターに入ると、潤子さんの横でサンドイッチを作り始める。
改めて店を見てみると、時間帯の割に客は割と多い。学生に加えて社会人らしい姿も目立つ。
晶子も潤子さんと一緒に調理することが多くなった。今みたいに自分が取ってきた注文の品を自分で作ることも珍しくない。
潤子さんも晶子の腕を信頼しているようだ。

「祐司君、はい、どうぞ。」
「あ、いただきます。」

 俺は酢豚と中華スープ、サラダと御飯が乗ったトレイをカウンター越しに受け取る。店は忙しそうだから、あまりゆっくり食べていられそうにない。
潤子さんはフライパンを流しに入れて水を張ると、直ぐに大きな鍋を用意してそれに水を汲んでコンロにかける。そして鉄板を準備する。
目まぐるしいが無駄のない動きだ。
 俺が夕食を食べている間に、晶子はハムサンドを作り終え、続いて野菜サンドを作り始める。
水洗いして水気をしっかり切った野菜を切ったり等分に千切ったりして、マーガリンとマヨネーズを塗ったパンに乗せていく。
中身を入れたら崩れないように形を整えて4つに切って完成だ。晶子の手際も潤子さんに見劣りしない。
 夕食を食べ終えた俺は、ごちそうさまでした、と言ってトレイをカウンターに置くと、早速カウンターを通り抜けて着替えに走る。
客は俺が試験で疲れたからといって、注文を控えたり、来ることそのものを控えたりはしてくれない。
着替えながら気分をウェイターのそれに切替え、鏡で確認してから店に戻る。
 潤子さんはスパゲッティーを茹でている最中で、鉄板をコンロにかけて温め、特製ミートソースと卵を準備している。
晶子の方は卵サンドの仕上げに入っている。
マスターは冷蔵庫からグラスを取り出して、氷を入れている。3人の連携で注文の品が完成へ向かって着実に進んでいる。
調理が出来ない俺がすることは、水の入ったポットを持って客席を回りつつ、注文があればそれを取って報告しに戻ることだ。
俺は水の入ったポットを持って客席へ向かう。今日も忙しくなりそうだ・・・。

 今日も忙しい日だった。
試験で神経を擦り減らした後にバイトの接客や演奏でこれまた神経を擦り減らすから、そのうち神経がなくなっちまいそうな気がする。
でも、試験をいい加減に出来ないのはもちろんだし、生活費に影響するバイトもおざなりにするわけにはいかない。
それに試験とバイトを両立しているのは晶子も同じなんだから。
 俺は立ちっぱなしで疲れた足を動かして歩く。隣には何時もどおり晶子が居る。
俺の試験は明日もある。家に帰ったら早速試験勉強だ。まったく、大学はレジャーランドだ、なんて言った奴の顔が見てみたい。
少なくとも俺が履修した科目は、殆どがしっかりした準備無しには乗り越えられない。大学に居る今の方が高校時代よりよく勉強してるぞ、本当に。

「今日の試験、大変だったみたいですね。」

 晶子が話し掛けて来る。
俺はバイト中も今までも、大変だったとは一言も言ってないんだが。

「分かる?」
「顔を見れば分かりますよ。如何にも疲れたって顔してますから。」
「そうか・・・。確かに大変だった。3コマ目が空いてたっていっても、のんびり昼寝なんて状況じゃなかったからな。」
「今日の試験って、専門教科だったんですか?」
「4コマ目がそうだった。2コマ目は一応一般教養の範囲だけど、物理実験総括の筆記試験だった。それはノート持ち込み可だったからまだましだったけど、
4コマ目は自分の頭だけが頼りだったから。そっちがな・・・。」
「難しかったんですか?」
「教科書の演習問題を自力で解ける状況で何とかクリア出来るって感じかな。演習問題は講義で殆どやらなかったから、高校の時みたいに
自分でやっておかなかったりするともうお手上げだな、あれは。」
「で、祐司さんはどうだったんですか?」
「今日の科目を落とすと3年前期の必須科目に引っ掛かるらしいし、留年なんて洒落にならないからきちんと勉強しておいた。何とか全問制覇出来た。
その反動が今疲れになってどかっと出てきたって感じ。」
「お疲れ様でした、としか言えませんけど・・・。大変ですね、祐司さんの学科って。」
「晶子の方も大変だろ?」
「私の方はやり直しが出来ますから。まあ、あんまり溜め込むと3年以降で大変なことになりますから、今のうちに片付けておくに越したことは
ないですけどね。」

 兎に角専門教科は難しい。
ノートを取っておくことはもはや常識。教科書が−大学だから専門の書籍だが−ある場合はその演習問題を解けるようにしておくこと、
ノートだけの場合はそこで出てきた公式や例題をきっちり押さえておくこと。
これで最低限だ。理系だから厳しいことは覚悟してたが、まさかこれほどとは・・・。
 月も半ばに差し掛かろうというのに、ゆっくり出来るにはまだ遠い。試験の日程は下旬まで続くからだ。
前に高校時代のバンド仲間の一人から電話があって、こっちは試験終了、10月まで秋休み、なんて言っていた。
試験の厳しさがそれ程違うと、こっちも少しは加減しろ、と言いたくなってくる。
何でこんなに格差があるんだ?
まあ、そいつとは大学も学部も違うから−確か経済学部だった−格差が出来るのはある意味仕方がないのかもしれないが、それにしても・・・。

「祐司さん、今何時頃に寝てます?」
「ん?そうだな・・・2時か3時頃かな。ギターの練習とかもしてるから。」
「今はレパートリーを増やすことは考えない方が良いんじゃないですか?」
「それどころじゃないよ。ギターの練習は毎日しないと、店のステージに立った時に頭が真っ白になっちまいかねないからやってるんだ。
勉強の間の息抜きって面もあるしな。」
「それなら良いんですけど・・・。絶対無理はしないで下さいね。」
「ああ。」

 少なくとも今の試験地獄を切り抜ければ1週間程度の空白期間が出来る。
後期は10月1日からとなってはいるが、実際に始まるのは1週間ほど後だという話だから、それまでの辛抱だ。
成績優秀と言わないものの留年は不可、というのが一人暮らしをする際の親との条件だから、意地でも突破してやる、という気持ちが強い。
そうでないとこの先晶子と付き合い続けるなんて不可能だ。
 しかし、疲れが蓄積されているのは事実だ。
土日は昼過ぎまで寝てる有り様だし、それでバイトに行くまでの時間やバイトから帰った後に慌てて試験勉強をしてるんだから、ある意味悪循環とも言える。
だが、普段の寝不足を取り戻すには土日しかないし、眠れる時に眠っておかないとそれこそ身体を壊して試験どころの話じゃなくなる。
・・・兎に角後暫くの辛抱だ。

「祐司さん、来週の土曜日って空いてます?」
「来週の土曜日?」

 俺は疲れもあってか思わず聞き返す。
土曜日・・・。試験は月曜から金曜までだし、土曜といえば昼過ぎまで寝ていて、それから昼食を買いに出て試験勉強とギターの練習を交互にして
バイトに出掛ける、といった生活だ。
今度の土曜日も同じだろう。その次の週も試験はあるからな。

「空いてるといえば空いてると思うけど・・・何で?」
「ちょっと聞いてみただけです。」
「な、何だそりゃ?!」

 何かと思えば聞いてみただけとは・・・。
生憎今の俺には怒る元気もないし、晶子の呆気ない答えに怒りを通り越して呆れてしまう。
俺は溜息を吐いて晶子に言う。

「ウケを狙うにしては毒が多いぞ、今の俺には。」
「御免なさい。でも、聞いておきたかったんで・・・。」
「?どういうことだ?」
「だからさっき言ったじゃないですか。聞いてみただけだって。」

 何やら禅問答みたいな会話だな。来週の土曜日って・・・何かあったか?
今は試験とバイトの両立で頭がいっぱいで何も思いつかない。思いつかないということは特別何もないんだろう。ま、それならそれで良い。
寝不足の解消と試験勉強に注ぎ込むだけだ。これも半期に一度の試練だ。今日も家に帰ったら気合いを入れ直して試験勉強するか・・・。

 振り返ってみれば日が過ぎるのはあっという間だ。
試験日程も残すところ来週1週間のみとなった。
これまでのところはどうにか乗り越えてこれたが、最後の試験が終わるまで油断はならない。
今日は土曜日。さっき目を覚ましたばかりで時計を見れば12時半を過ぎている。
まだ少し眠いが腹の虫が騒ぎ出したから、それを押さえるのが先決だ。
俺はベッドから出て服を着替える。幾ら何でもパジャマ姿で日中外へ出る度胸はない。
 鍵を持って、さあ家を出るか、と思ったところでインターホンが鳴る。・・・また新聞か宗教の勧誘か?
先週は良い気持ちで寝てたところを新聞の勧誘がしつこく鳴らすインターホンに叩き起こされて、俺は怒りのあまり包丁を握り締めてドアを開け、
呑気に新聞購読を勧めてきたおっさんに包丁を振り上げて、殺されたいのか、と脅したら血相を変えて逃げて行った。
また懲りずにやって来たか?まあ、別の新聞の勧誘なら先週の事件なんざ知る筈もないが・・・。
 インターホンはしつこくはないものの、一定の間隔で鳴らされる。
新聞じゃなければ宗教か?まあ、何でも良いがとっとと退散願う以外俺の頭には選択肢が思いつかない。
寝起きで少々頭が朦朧とする中、俺は「最終手段」の包丁を握ってドアを開ける。そこで俺は思わず大声を上げそうになる。

「ま、晶子?!」
「御免なさい。起こしちゃいました?」
「いや、昼飯買いに出掛けようと思ってたところだから・・・。ちょっと待って。」

 俺はドアチェーンを外して人が入れるように改めてドアを開ける。
晶子は白地に縦横のラインが描かれたブラウスに薄い紺色のフレアスカートという姿で、手には縦に長い風呂敷包みを持っている。一体何の用だ?

「お昼御飯まだだったんですね。丁度良かったです。」
「丁度良かったって・・・?」
「お昼御飯作ってきました。一緒に食べましょう。」

 昼御飯作ってきたって・・・わざわざそのために来たっていうのか?
俺はとりあえず晶子を中に入れて鍵をかけ、包丁を洗い桶に戻して部屋へ戻る。
晶子はテーブルの上で風呂敷包みを解き始めていた。
最近は掃除の時の手間を考えて出来るだけ散らかさないようにしているから、以前のように雑誌やCDを片付けて場所確保、なんてことはしなくて良い。

「昼過ぎまで寝てるって聞きましたから、このくらいに来れば起きてるかな、って思って来たんですけど、ぎりぎりセーフでしたね。」
「晶子は試験勉強とか良いのか?」
「今度のテストは1科目だけですし、日程も楽ですから、日曜でも十分間に合いますよ。それよりお腹空いてるでしょ?」
「あ、ああ・・・。」
「コンビニのお弁当とかだけだとつまらないでしょう?しっかりしたものを食べて栄養を摂らないと試験勉強もはかどりませんよ。」

 晶子は風呂敷包みを広げる。すると3段重ねの重箱が姿を現す。
晶子が上から順に段を崩していくと、下からお握りが入った箱、サンドイッチが詰まった箱、おかずが詰まった箱が全容を明らかにする。
おかずは焼き肉や卵焼きといった、俺が好きな食べ物で揃えられている。晶子が俺好みに合わせてくれたんだろう。
仕方無しにコンビニへ行こうとしていた俺の少々重かった心が、急に軽くなっていく。

「折角の土曜日だっていうのに悪いな・・・。」
「いえ。それより一緒に食事が出来ることが楽しみで・・・。」

 どうやら晶子は俺と一緒に食事がしたいが為に、わざわざ重箱3段の弁当を詰めて来たようだ。
ま、来た理由なんてどうでも良い。一人でコンビニの弁当を食うより、食費が浮くのは勿論−これは晶子に言うべきことじゃないが−、
晶子手製の弁当を二人で食べる方が楽しいし、きつめの傾向があるコンビニの弁当より食べ易い。
それにコンビニの弁当なんて添加物だらけで、食ってる間に身体の調子が悪くなりそうな気がする時がある。

「手を洗わせて下さいね。」
「ああ、良いよ。俺も一応洗うか。食事前だし。」

 俺と晶子は流しへ行って手を洗って、冷蔵庫に取り付けたタオル掛けに掛けられたタオルで手を拭いてテーブルへ戻る。
腹の虫が暴れてきた。早く晶子の手料理をよこせ、と言っているような気がする。
弁当を前にすると腹の虫の意志と俺の意志が一致して、食事よこせ、と手に要求して来る。

「じゃあ、いただきます。」
「はい、どうぞ。私もいただきます。」

 俺は早速お握りに手を伸ばし、齧り付く。
ほんのりした塩味と共に独特の酸味が口に広がる。梅干しが入っているのを引き当てたようだ。
コンビニにもお握りがあるが食べたことはない。自分で包装を取って海苔を巻くという作業が面倒に感じてならないからだ。
こんな不精じゃ、自炊なんて夢のまた夢だな。
 腹の虫が騒ぐので、俺は梅干しの種を手に吐き出して、何度か噛んでから飲み込む。
それでも腹の虫は騒ぎを鎮めようとしない。それどころかもっとよこせとさえ言って来る。
普段ならコンビニ弁当で満足する筈の俺の腹の虫が、もっとよこせ、もっとよこせ、とせがんで来る。俺の意志と一致しているから余計に始末が悪い。
俺は半ば本能的にお握りとサンドイッチを次々取っては口に放り込む。

「祐司さん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。量はそれなりにありますから。」
「・・・あ、何せ昼飯にこんな美味いものが食えるのが嬉しくてさ、腹の虫が大騒ぎしてるんだよ。普段は学食かコンビニの弁当だろ?
だから手作りの料理がたらふく食えるのは本当、嬉しいよ。ありがとう。」
「お弁当一つでそんなに喜んでもらえると、何か恐縮しちゃいますね。」

 晶子がはにかんだ笑みを浮かべる。
俺にしてみれば、自分の試験勉強や家のこともあるだろうに、俺のために弁当を作って持ってきてくれたんだから、恐縮されると逆に困っちまう。
・・・でも何で今日来たんだ?先週の土曜日でも別に良い筈だし、作って持って来いなんて命令した覚えもないし・・・何でだ?

「それにしても、何で今日いきなり作ってきてくれたんだ?」
「前に聞いたの覚えてます?『来週の土曜日空いてますか?』って聞いたこと。」
「・・・そう言えばそんなこと聞かれたな。でも、あの時は聞いてみたかっただけとか言ってなかったか?」
「そうですけど・・・。祐司さん。」

 晶子が急に真剣な表情をして身を乗り出して来る。
サンドイッチを食べていた俺はその迫力に押されて、急いで咀嚼して飲み込んで、晶子の出方を窺う。
・・・俺、何か晶子を怒らせるようなことしたか?
少なくともこれまでは喧嘩もしてないし、今日も今に至るまでトラブルがあったとは思えないし、そんな覚えもない。

「何だ?」
「今日、何の日か覚えてないんですか?」
「今日?・・・何かあったか?俺と晶子が出会ったのは確か10月11日の筈だし、最初のキスはクリスマスの夜だったよな?それ以外に記念日に
相当する日なんてあったか?覚えがないぞ。」
「・・・覚えてないみたいですね。」

 晶子は少し呆れた顔で小さい溜息を吐く。重大なことではないようだが、晶子としては覚えておいて欲しかった日らしい。
だが・・・俺と晶子が出会ってからまだ1年経ってないから、今日は記念日もへったくれもない筈だ。
何があったか色々考えてみるが、思い出されるのは宮城とのぎくしゃくした関係を修復しようと躍起になっていたことくらいだ。
こんなことはこの場で思い出したくなかったが仕方ない。それにしても一体何なんだ?

「晶子。覚えてないのは悪かった。だから教えてくれ。今日は何の日なんだ?」
「答えは夜、バイトが終わってから教えますよ。いえ、思い出してもらいますよ。」
「何かよく分からないけど、今じゃ駄目なのか?」
「今だと、祐司さんが覚えてないことで意外性が増すところに水を差すことになっちゃいますから。」

 ???どういう意味だ?謎めいた晶子の言葉を受けて俺は再度考えてみるが、まったく思い当たる節がない。
困ったな・・・。俺が分からないことで晶子が分かっていること・・・。
少なくとも出会ってまだ1年経ってないから二人の記念日に該当する日じゃないことは確かだと思うが、気になって身体がむずむずする。

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