2005年11月30日更新 Updated on November 30th,2005
2005/11/30
[あと1月ですか・・・]
 年始早々から酷い腰痛に見舞われて(今思うと筋を違えた可能性もある)、その後も踏んだり蹴ったり右往左往四苦八苦の連続が続いたこの2005年も、残すところあと1月。月の終わりになるとログファイルを新規作成するのが恒例なんですが、一覧を見ると随分溜まったなとしみじみ思います。
 現在完全にガス欠状態で、今日の更新分は予め作り置きしておいたものです。寒くなるこの時期、特に冬至までは降下傾向真っ只中なので、今は極力じっとしている他ありません(しようにも何も出来ません)。このサイクルがあとどのくらい続くのか分かりませんが、来年には綺麗さっぱり消えてほしいものです(と願ってもう何年か)。
 そうこうしているうちに年賀状やら(今年はちょっと楽になるかも)クリスマスやら(無縁)があって、あっという間に大晦日がやって来る・・・。年を重ねる毎に時間の流れが速まっているように思うのは、気のせいではないように思います。あー、パワー充填するカートリッジシステムが欲しい・・・。

「こうやって祐司さんに左手を取ってもらってると、指輪を填めてもらった時を思い出します。」

 感慨深げな晶子の言葉。口調は始終柔らかかったが左手薬指に填めてくれ、ということは絶対に譲らなかった。覚悟を決めた俺は差し出された晶子の左手を取って薬指に指輪を填めた。「脳みそが沸騰しそう」というのはまさにこういう時のことを言うんだ、と身に染みた瞬間だった。

「晶子の意外に頑固な一面を見た瞬間の1つだな。あれは。」
「ここぞ、という時はそう簡単には譲りませんから。」
「・・・この指輪の意味がなくなるようなことは、絶対しないからな。」
「・・・はい。」

 せがまれたとは言え、左手薬指の指輪の意味を知らないわけじゃない。俺も指輪を填めるにはそれなりの覚悟や決意というものをした。結果として事実が先んじてしまったが、大きな山場が迫っている俺の姑息な逃げや騙しといったものを未然に防ぐ大きな存在になっていることには変わりない。
 俺にはやっぱりこういう存在が不可欠だ。大学受験でもそうだった。逃げられない、逃げようもない状況で懸命に格闘して道を切り開いた。その結果、バンドのメンバー全員で公約していた「全員第1志望校合格」を成し遂げて、全員揃って高校に乗り込んで、俺を含むバンドを目の敵にして、バンドの公約を「お前達ごときに出来るわけがない」という意味もたっぷり込めて嘲笑ってくれた生活指導の教師達に突きつけ、耕次のとどめの一言で完全に沈黙させた。
 その時は勿論痛快だった。だけどそれ以上に、日程上最後になった俺の合格発表を待ち侘びていた面子に知らせて、何時も通学に利用していた駅の前で手を取り合って喜び合った時は本当に爽快だった。達成感や充実感といったものを深く強く実感した時だった。
雨上がりの午後 第2081回
written by Moonstone
 プレゼントして中身を見てもらった後尋ねたら、やっぱりピアスは1つも持ってないし、ピアスの穴を開けるつもりはない、という答えが返ってきた。何でもピアスの穴を開けることに抵抗感や恐怖感を感じるらしい。この辺は個人の問題だから良い悪いの区別をする性質のものじゃないが、箱に仕舞われたままとなるよりは、少なくても機会があれば着けてもらう方が良い。
2005/11/29
[何処へ行くのか知ってますか?(6)]
 11月が30日で終わることをすっかり失念していたことに、つい先程気づきました。「11月31日更新」なんてありえない日付を書く羽目にならなくて良かった、と思っておきます。では話の続きを。前回はコンビニなどの食材が賞味期限切れまでも捨てられる実態の背景に触れましたので、その続きになります。
 (続きです)マスコミが規定路線の1つとして報道しているアメリカ産牛肉輸入解禁の背景に、外食産業団体の政治献金があることをご存知でしょうか?今年2005年総選挙後に農水相に就任した中川氏は、外食産業が構成する政治団体である外食産業政治研究会から過去3年毎年100万円を受け取っています。その他、外食産業政治研究会は所謂「農水族議員」や農水相経験者(農水族議員の1人だから必然的とも言える)に2004年だけでも1280万円を約40の政治家や政党などにばら撒いています。これは財界の総本山である日本経団連が推し進める、「金で政治を買う」行為の端的な事例です。国民の食や生命にかかわる重大事項を金で決定付けさせるのですから、立派な買収行為です。
 コンビニ本部のフランチャイズ制度然り、アメリカ産牛肉輸入問題然り、優位な立場の濫用や政治買収が横行するのは、それこそ大多数の日本人が軽視する政治後進国での出来事そのものです。これらの背景に政治買収を当然視し、「小さな政府」と称して国民向けのサービスを切り捨てる夜警国家的思想で暴走する政府与党があること、そしてそれに議席数という力を与えてしまった有権者の選択があったことを猛省すべきではないでしょうか(終わり)。

・・・飛び飛びになったので、後日きっちりまとめます(汗)。

「祐司さんに填めてもらって以来、一度も外したことはないんですよ。手入れする時も填めたままですし、むしろ今みたいに少し傷とかがあると、今までの祐司さんとの記憶が刻まれているようで、より愛着が沸くんです。」
「身体の一部ってところか。」
「ええ。ペンダントもお風呂に入る時くらいしか外さないんです。ペンダントは着ける場所が場所ですから、見た娘はあまり居ませんけどね。」
「今時期は時に、胸元を覗き込むことになるからな。・・・そんなことさせないぞ。」
「私だって、させませんよ。」

 俺もペンダントを外すのは風呂に入る時くらいだ。理由は簡単。「身体を洗う時にちょっと邪魔だから」だ。普段は全く気にならないが、首元からぶら下がるペンダントを退けながら洗うのは意外に面倒だ。慣れの問題かもしれないが、填めっぱなしでも全く違和感がない指輪とはちょっと事情が違う。
 それに、夏だと男の俺はシャツの胸元を引っ張って団扇(うちわ)で扇いだりするし−自宅で1人で居る時の話−、覗かれても覗いても何の損にも得にもならない。だが、女の晶子はそういうわけには行かないし、そうしてもらっては困る。彼女の胸元を見せびらかそうとする奴はまず居ないだろう。

「イヤリングは、外では滅多に着けないよな。家だと着けるけど。外で着けたのは・・・去年の夏にドライブに行ったときくらいか。」
「あれも勿論お気に入りなんですけど、指輪やペンダントよりどうしても落としてしまう可能性が高いですから、探せなくなることを避けてるんです。家ならまだ範囲が限定されてますから探せば見つかりますし。」
「イヤリングは挟んでるだけのようなもんだからな。晶子はピアスの穴を開けてないし。」

 晶子にプレゼントした最も最近の品が、去年の誕生日にプレゼントしたイヤリングだ。言うまでもないが指輪は指に填める、ペンダントは首からかける、という万人共通の着用方法が通用する。だが、ピアスはまず、穴が開いているかどうかで直ぐ着けられるかどうかが大きく分かれる。
 ピアスをもらったから穴を開けるというなら話は違うが、晶子はピアスの穴を開けてない。きちんと確認出来たのは耳だけだが、ピアスを着ける人がまず狙う位置と言える耳に穴がないということは、ピアスを1つも持ってないとも言える。それを見てイヤリングをプレゼントすることに決めた。もらったは良いけど穴を開けるのはちょっと、となったらそれこそ宝の持ち腐れだ。アクセサリーは着けて何ぼのものだからな。
雨上がりの午後 第2080回
written by Moonstone

「指輪を外す時はないのか?」

2005/11/28
[ご迷惑をおかけしました]
 一昨日の作業で、此処芸術創造センターをブックマークやお気に入りに登録されている方で「ファイルがないってエラーが出る!」という現象に遭遇したようです。案内にしたがって上位ページ(.orgで終わる部分)にたどり着いた方も多数居られるようで・・・。大半の検索系ページやリンクが此処に設置されている関係で、此処がブラウザに登録されることを考えてませんでした(汗)。
 アクセス制御の方法は分かっていたつもりなんですが、制御方法を少し変えるだけであんな現象を生むとは思いませんでした。少々過敏になり過ぎたと言えますが。まあ、その「副作用」で各グループに直接ジャンプすることは出来なくなったのは良かったのですが。
 対策の完了が昨日の未明までずれ込んだ影響で、ただでさえ思わしくない体調がまた不安定になって、昨日は1日寝てました。それと引き換えに散発的に更新する準備は整ってきたので、これからに向けて加速していこうと思います。
「安上がりとか言われたりしないか?」
「祐司さんに来てもらう前はそう言われたことがあったんですけど、それ以降は夫に大切にしてもらってて良いよね、って羨ましがられてますよ。」

 晶子は本当に嬉しそうに言う。俺との付き合いで生じる幸せを満喫している。そう表現するに相応しい。

「指輪もペンダントも見せたことがあるんですけど。最初は安っぽいって否定的なイメージが大勢だったんですけど、祐司さんに来てもらって以来、夫に大切にしてもらってるのね、とか言われるんです。それが凄く嬉しくて・・・。以前の祐司さんの評価はお金を出し惜しみするとかそういう感じだったんですけど、今は忙しい合間を縫って心の篭ったプレゼントをくれたり、日頃から大切にしてくれる良い旦那ね、って好評なんですよ。」
「生憎俺は甲斐性の面ではからっきし駄目だからな。でも、ないに等しいセンスで選んだプレゼントを晶子に喜んでもらえると、選んで良かった、って思う。晶子が値段で価値を決めたりするタイプじゃなくて良かったよ。」
「プレゼントは相手への想いが篭っていることが一番大切なんです。祐司さんがプレゼントしてくれた指輪もペンダントもイヤリングも、真剣に選んでくれたってことが伝わってくるんです。祐司さんが言わなくても。だから私は他人に何と言われようと、祐司さんからもらった宝物はどれだけ札束を詰まれても譲りません。これは・・・私と祐司さんしか持たない、この世に2つとしかない、大切な宝物なんですから。」

 プレゼントしてから1年半を超える指輪。裏側に俺が填めているものには「from Masako to Yuhji」、晶子が填めている方は「from Yuhji to Masako」と刻印されている、色々考えた末に選んだ一品。プレゼントしたその場で左手薬指に填めてくれと言われるとは思わなかったが、今尚大切にしてもらっているのは、プレゼントした側としても嬉しい。
 俺は晶子の左手を取って自分の方に近づける。俺もそうだが指と半ば一体化している指輪は朝日を浴びて温かい輝きを放っている。幾分傷が目立つが、否定的な印象はない。
雨上がりの午後 第2079回
written by Moonstone
「夫と買いに行かないのか、って言われるんですけど、私は夫にプレゼントしてもらった指輪とペンダントとイヤリングがあるからそれで満足してる、って答えてます。強請ったりしないの、って時々聞かれますけど、私は夫からもらったプレゼントで十分満足してるから、夫さえ居てくれればそれ以上は要らない、って答えてますよ。」
2005/11/27
[どうやら成功・・・らしい]
 あれこれ試しているうちにどうやら成功したようです。その間アクセスに不具合が生じたかもしれませんが、生憎その頃私は横になっていたので分かりません。予想以上に梃子摺った作業ですが、良い経験にはなったと思います。PCの世界でもマシンレベルに近づくとかなり試行錯誤が要求されるのは、今も昔もあまり変わらないようです。
 食事をそこそこ食べられる程度にまで持ち直したので、今週あたりに断続的な更新を予定しています。長らく放置状態の携帯用ページも連載を主に更新する予定です。特に写真は原版こそ用意していたものの、サイズや容量の調整に時間を食われるので、なかなか手付かずだったんです。どうにか一仕事終えたので、これを機に充実していきたいものです。
 他にも作業があるので(これは年末恒例とも言える)、今日は早めの更新にしました。この時期体調を整えるのもテクニックの1つなのか、と思う今日この頃です。
 きっかけは晶子じゃない、つまり晶子は自分の夫とね、とか話を切り出すことはしないということか。ちょっと意外ではあるが、惚気話には違いないし、そういうのを聞きたくない人も居るだろうから、きっかけに関しては受身で居るんだろう。

「発端は色々です。誰かが持って来たファッション雑誌とかアクセサリー関係のものとか、話題の小説とかですけど、その途中で私に話が振られるんです。ファッションとかアクセサリー関係ですと夫と一緒に買いに行ったりしないの、とか、夫ってこういう小説読むの、とか。」
「なるほどね・・・。」
「展開が大きく変わったのは、祐司さんが文学部の講義室に来てくれた時からですよ。」
「ああ、晶子が携帯を使って俺を講義室に誘導した時か。それまでは俺は写真でしか姿が分からなかったのもあるだろうけど、あまり評判が良くなかったんだよな。」
「ええ。それより前は祐司さんに対する否定的な見方が主流だったんですけど、あの時祐司さんが来てくれて、携帯の着信音や指輪とかを披露してくれて、帰る時に手を差し出してくれたりしたことで、見方が大きく変わったんですよ。見た目は写真より穏やかで優しい感じで、実際思いやりがあって大事にしてもらってるんだね、って言われるようになって・・・。」

 はにかんだ笑顔を浮かべる晶子が愛しい。自分の交際相手を褒められて悪い気分になる人はまず居ないだろう。あの時を契機に見方が一変したのは、俺の写真写りがあまり良くないこともあるんだろうが、晶子にとっては鬱積していた不満が一気に解消されて丁度良かっただろう。

「服とかアクセサリーとか、そういうものの話はどうしてるんだ?」

雨上がりの午後 第2078回
written by Moonstone

「晶子はゼミで俺に関係する話をするのか?」
「ええ、時々。きっかけは私からじゃなくて、他の娘からですけど。」

2005/11/26
[絶不調]
 気候変化に順応出来なかったことがもろに出て来て、昨日は仕事を休みました。腰はじんわり痛いし、食欲はがた落ちだし(最近まで過食気味だったので良いのかも知れない)、と殆ど1日寝てました。何やら相撲で座布団乱舞の一番があったようなので見たかったな・・・。だるくてずっと寝てたので仕方ないか。
 何だか全身が軽く麻痺しているような感じです。勿論暖房は常時ONですが、一度崩れた体調はそう簡単に元通りにはならないわけで。この土日に色々したいことがあるんですが、出来るかどうかかなり怪しい情勢。1つは月代わりと同時の大変動にかかわることなので、何とかしたいんですけど・・・。
 となると当然同じ研究室の人、特に同じテーマの卒研−卒研は通常2人か3人が1組になって進める−の人やその指導に当たる院生の人と行動する時間の割合が増える。そんな状況で昼飯時に俺だけ明らかに手作りの弁当と分かる−箱を見れば一目瞭然−ものを取り出したらどうなるかくらいは、俺でも予想出来る。「愛妻弁当」と呼ばれるのは必至だ。・・・まあ、結婚を公言しているからその要素が1つ2つ増えたところで変わらない、と言ってしまえばそれまでだが。
 弁当を作る晶子は、初日から昼飯時に同じゼミの人に誘われた時に「私は今日からお弁当を持って来ることにしたから」としれっと言ってのけるだろう。作ることにした理由を聞かれたら「夫に作ってくれって言われたから」と、これまた動揺せずに答えるだろう。そのついでに「夫も今日から同じ弁当を食べてるわよ」などと補足するだろう。否、そうすると考えた方が自然か。晶子は他人との会話で俺のことを「夫」と言うのは、去年文学部の講義室に「誘導」された時の会話で分かっている。

「晶子は大学で昼飯に誘われたら、弁当を持って来てる、って恥ずかしがらずに言うだろうな。俺は大抵智一と一緒に行くんだけど、最初のうちは曖昧に言って誤魔化しそうな気がする。」
「祐司さん、私との付き合いに関してはあまり表に出しませんよね。言う時はきちんと言ってくれますけど、必要な時以外は言わないタイプですから。」
「晶子との関係がやましいとか後ろめたいとか、そんな気持ちじゃないからな。」
「ええ。それは今までの付き合いの中で分かってます。」

 晶子はそう言うけど、もっと大っぴらにして欲しい、という気持ちはなくもないだろう。晶子の秘めたる微かな願いを叶える上でも・・・、俺は積極的な方向に進むべきなのかもしれない。言うは易し行なうは難し、というが、言うこともそれなりに決意とか覚悟とかが必要だと俺は思う。ついさっき自分が言ったことをなかったことにするような器用なことは俺には出来ない。
雨上がりの午後 第2077回
written by Moonstone
 このまま4年に進級して研究室に本配属になれば、今まで卒業に必要な単位を全部得ている俺は、必要な単位を得ることで筆記試験が免除になる国家資格や教員資格に関連する講義に出席する以外は1日の大半を研究室で過ごすことになる。学部学生用として大きな居室があるから、そこに荷物を置いて卒研に取り組んだり、必要な文献を読んだりする。今仮配属になっている久野尾研では俺自身見たから確実に言えるが、他の研究室も似たり寄ったりらしい。
2005/11/25
[だからこの季節は・・・]
 どうも体調が優れません。元々寒さに弱い上に、今年は一気に寒くなったことに対応出来なかったのも加わったのが大きいです。腰もじわじわと痛んできましたし・・・。
 てなわけで、今日も早く寝ます。底冷えが一番堪えるので、早く職場でも暖房が欲しいです(自宅は在宅時常時ON)。冷房は28度で除湿すれば十分涼しくなるんだから・・・。

「大学で昼に弁当、っていうのは少なくとも俺は見たことないけど・・・、生協の食堂で並ばなくて良いし、晶子が作るものだと俺の好みとか知ってるから、講義の連続で息が詰まってる時には特に良いかな、って思ったことはあるんだ。だけど、晶子だって講義やゼミがあるしレポートもあるから、これ以上負担をかけたくない、って思ってた。」
「此処に来てから皆さんとのお話でも、そう言ってましたね。」
「それに・・・、今は時間割どおりの講義の枠にはまってるからある意味目立たなくて済むけど、4年になって研究室に本配属になったら、自分に関係のある講義以外は大抵研究室に居ることになるから、昼時に同じ研究室の人が連れ立って食事に行くところで俺が弁当を取り出したら何て言われるか、って思うとちょっと照れくさいって言うか・・・。」
「私は、祐司さんに作ってもらった携帯の着信音が鳴る度に同じゼミの娘(こ)が駆け寄ってくるせいもありますけど、全然照れくさくないですよ。内心自慢してるくらいですし。」

 必要に迫られた時以外は言明しない俺とは対照的に、晶子は自分の幸せを積極的に公開する。晶子の心を決定付けた指輪をプレゼントした翌日には、早速店でさり気なく見せびらかしていたし−おかげで俺は晶子ファンの中高生から殺気立った視線で睨まれるようになったが−、今の携帯を買った時にも周囲に驚かれた一部始終を嬉しそうに話していた。
雨上がりの午後 第2076回
written by Moonstone
 晶子の心の核心、俺との将来像がより深く分かった。法律的にも夫婦になる前の段階、例えば俺の家で一緒に寝起きする段階から、晶子は具体的に思い描いている。俺が「今年から昼は弁当を作って」とか「休みの日は俺の家に来て」とか言えば、晶子は即実行に移すつもりだ。むしろ準備は整っているんだから遠慮しないで早く言って、と促していると言って良いくらいに。
2005/11/24
[んー、眠いぃ・・・]
 昨日は起きていた時間より寝ていた時間の方が圧倒的に長かったな・・・。前日力+何度も行き来の仕事があって、その後の懇親会でちょっと酒が入ったので、ただでさえ良くない寝起きが最大限に悪くなった模様です。
 久しぶりに此処での続きもののお話をしているのに飛び飛びになっているのが申し訳ないのですが、今日以降は平穏だと思いますのでとりあえずおとなしく寝ることにします。薬を飲まなくても眠いと思えることはむしろありがたいんですけど、それは夜だけにしてほしい(贅沢)。
「祐司さんの力なら、今年の4月で4年に進級出来ると確信してますけど、そうなったら今度は卒業研究があります。私も勿論4年に進級すればありますけど、3年のゼミ配属から少しずつ始まってますから、祐司さんの暮らしに比べたら比較にならないほど余裕があると思うんです。実験もないですし、その結果だけじゃなくて前準備のレポートも用意しないといけないなんてこともありません。そのくらいは、去年の11月頃から最低でも毎週月曜に祐司さんの家で夕食と翌朝の食事を作っていて分かってるつもりです。」
「・・・。」
「祐司さんには無理をして欲しくないんです。世間ではジェンダーフリーだとか男女同権とか言われてますけど、その一方で高給取りの男性にくっついて優雅な暮らしを送る女性も居る。男性への批判には熱心なのにそういう女性には頬かむり。女性は、女性が、と前面に出る女性を支える男性には一言の賛辞もない。全てを見ての総論じゃないかもしれませんけど、言葉の表面しか捉えずに他人の生活を批判するのはおかしいと思うんです。夜中に大声を出したり異臭を出したりといった明らかに社会的に迷惑になる行動や家族への暴力や虐待なら兎も角、夫婦の生活はかくあるべし、という杓子定規を適用すること自体がおかしいと思うんです。片方がすべきことで手がいっぱいだから片方が他のことをして、結果として得た収入で生計を維持する。それで良いと思うんです。」
「・・・。」
「収入を得る度合いがどんな形であっても、住むところが狭くても、私は良いんです。愛する男性(ひと)と一緒に暮らす。それが私の願いなんです。だから・・・、無用な遠慮とかはしないでくださいね。」
「・・・分かった。」

雨上がりの午後 第2075回
written by Moonstone
「大学関係と生活費関係。それだけでも十分大変なのに、洗濯くらいはしないと着る服がなくなってしまう・・・。平日のお昼ご飯は大学、バイトがある時の夕食はお店でありますけど、それ以外だとトーストとインスタントコーヒーの組み合わせでも面倒だし、それなりに後片付けとかもしないといけない・・・。祐司さんは本当にギリギリのところで毎日を暮らしていると思うんです。」
「・・・。」
2005/11/23
[何処へ行くのか知ってますか?(5)]
 気のせいか、携帯の充電間隔が少し短くなってきたように思います。約10日持てば上等なのかもしれませんが、充電を告知する(液晶画面だけでなくて震えるなど)機能の充実は・・・、バッテリーの残量が少ないことから考えると無理かな。ではキャプションどおりお話の続きを。前回は、コンビニ業界におけるフランチャイズ形式の立場の問題をお話しました。
 (続きです)コンビニにおけるフランチャイズ形式で本部の立場が圧倒的に強いがために、実は個人事業主であり、本部から契約を打ち切られたら途端に生計が断たれてしまいますから、本部からの命令には従わざるを得ません。そう。それが賞味期限切れでまだ十分食べられる食材などであっても、です。
 リサイクルが叫ばれ日本の食料自給率の低さが一部ながら提起されている一方で、立場の違いを悪用した食べられる食料の廃棄という異常を正すのが本来行政がなすべきことです。しかし、公正取引委員会はコンビニにおける経営形態の把握はしてもそれ以上はしない。国の流通や経済にかかわり、更に食料政策にもかかわることですから、経済産業省や農林水産省が積極的に関与すべきなのですが、財界を背景にした小泉内閣が声高に唱える「小さな政府」がマスコミを通じて喧伝されるために、そういったことに人員を避ける余裕がないのも一因です。また、小泉内閣を政治献金で支援する財界組織の1つに、コンビニ本部なども加わる外食産業の政治団体があるのも無視出来ません(続く)。
「晶子・・・。」
「私も働きますし、1人だと手に負えないことでも2人でなら何とか出来ますよ。今祐司さんが住んでいるアパートに、私が荷物を持って一緒に住むのも構いません。祐司さんのベッドがありますから寝るところには困りませんし、料理器具は祐司さんの家にある分に私が持っているもので補足すれば揃います。元々私は部屋の荷物が少ない方ですから、場所は取りませんよ。」

 晶子は・・・本当に、これから帰って直ぐにでも俺が一言言えば今のマンションを出て俺と一緒に暮らすつもりなんだ。俺の家は場所の割に家賃は安いが−父さんと行った不動産屋で「これは直ぐ空きが埋まってしまうお値打ち物件です」と言われた−、トイレと風呂と洗濯機を置く場所を除いた実質的な生活空間はせいぜい10畳程度。その中には固定品のキッチン以外に、ベッドや机、シンセサイザー、箪笥といったものがひしめき合っているから、どう見ても晶子の家にある家具とかを全部持ってこられる余裕はない。
 だが、晶子はそれこそボストンバッグとかに入る程度の服や足りない料理器具とかがあれば、俺の家での生活を始める気構えで居る。寝る場所として躊躇せずに俺のベッドを挙げたから、ダブルベッドに買い換える必要はない、ということだ。たんすの中身を整理すればある程度はスペースが出来るかもしれないが、それでも晶子の服を全部入れられる筈がない。例えば普段はベッドの上にでも置いておいて、寝る時だけ床に置くという面倒も厭わないようだ。

「ここからは私の推測が入ることを、先に言っておきますね。」

 晶子はワンクッション置く。俺は晶子の意向を踏まえて続く言葉に耳を傾ける。

「祐司さんの生活は本当に大変だと思うんです。普段の講義のレポートに加えて毎週月曜の実験のレポート。1つ仕上げるためにも、祐司さんがテキストや図書館で調べた資料を照らし合わせたり自分で考えたり、関数電卓やPCも使った計算結果をグラフにしたり・・・。理工系学部はそういうのが当たり前だと言ってしまえばそれまででしょうけど、祐司さんは大学だけに専念出来ない。バイトで生活費を補填しないといけない。それで時間を取られて更に演奏用のデータを作ってギターの練習もする・・・。祐司さんにはそれで息抜きになっているのかもしれませんけど、どちらも息抜きになってないんじゃないかと思う時もあるんです。データ作りの大変さは、去年の年末年始にマスターと潤子さんの家にお邪魔した時にも見せてもらいましたから。」
「・・・。」

雨上がりの午後 第2074回
written by Moonstone

「相手の収入や社会的地位に魅了されてその人の本質を見極められないと、結婚してからこんな筈じゃなかった、ってことになると思うんです。祐司さんが経済的に不利なことや家事全般が不得手なことも全部ひっくるめて、私はプレゼントしてもらった指輪を填め続けているんです。あの時の決断は正しかった、って思い返しながら。」

2005/11/22
[オンライン小説と圧縮ファイル]
 今更言うまでもありませんが、このページはテキストがいっぱいです。ナローバンド時代がかなり長く続いたため「出来るだけ軽く」を目標にした結果、小さいものでも簡単にkB単位を要するイメージ関係を使わないのもありますし、イラストなどを描こうにもその腕がないのもあります。6年半が過ぎて、3つの長編連載が章やChapter単位で100を超え、本文だけでMB単位に達しています。
 このコーナーの最上段にある「メモリアル企画書庫」に圧縮ファイルを用意するに至った経緯がありますが、毎回公開分を読んでもらうか、或いは1日1作というペースで読んでもらうかすれば大丈夫だろうと思っていて、圧縮ファイルを用意していませんでした。でも、100章以上ある作品をそんなペースで読むのは大変だろうな、と今更思っています。
 読み切りや2、3回の短編ならまだしも長編となるとなかなか・・・、と尻込みしてしまうかと。それに、ナローバンドですと時間を気にしないといけませんから、生活の関係で夜遅くまたは長時間PCに向かえる日が限られる方も居られます。となると準備するのはちょっと手間ですがやっぱり圧縮ファイルは必要かな、と思います。
 少しの沈黙の後、晶子が語る。

「ジンクスがどうやって出来るかは知りませんけど、此処で朝日を浴びることが縁結びになるっていうジンクスが出来た後で、誰かが忠告のために此処に石碑を建立したんだと思うんです。朝日を浴びたら後は何もしなくて大丈夫って油断しないように、と釘を刺すために・・・。」
「・・・。」
「此処で朝日を浴びてずっと連れ添ったカップルがどれだけ居るのかも知りませんけど、この石碑を建立した人は一度は読んで欲しかったと思うんです。未来は用意されているものじゃない。自分で作るものなんだって改めて思い直してもらうために・・・。」
「そうだろうな・・・。今の俺がまさにそうだから、それなりに分かるつもりだよ・・・。」

 未来は用意されているものじゃない。自分で作るもの。・・・晶子の言葉の一節が俺の心に染み透る。俺が直面している課題は、ただ迷っていて時間が過ぎるのだけを待てば解決するものじゃない。周囲の意見とかを聞いて取捨選択して、自分で決めるべきこと。否、決めなければいけないことだ。そうしなければ惰性に流されるがままに適当なところに就職して、理想と現実のギャップに戸惑って、気がついたらリストラという名の首切り対象・・・。そんなの真っ平だ。

「私は、祐司さんと一緒ですからね。」

 少しの間を置いて、晶子が言う。思わず晶子の方を向くと、晶子は今背中に受ける日差しのように温かい微笑を浮かべている。
雨上がりの午後 第2073回
written by Moonstone

「・・・此処でどれだけの人がこの石碑の文面を読んだんでしょうね・・・。」

2005/11/21
[暖房開始]
 まだ油断ならないので(幼い頃は「冬=風邪で寝込む」だった病弱)昨日も昼間は大人しく。夕食後、前から構想していた作品を一気に書き上げて今日付で公開に漕ぎ着けました。今週は週の真ん中に休日があるのでその分余裕が出来ますが、直前がかなり忙しくなりそうなのでちょっと不安。
 寒さが日々増すのに耐え切れず、とうとう本日から暖房使用解禁。通常でも11月中旬若しくは下旬には暖房を始めるほど寒さに弱いので、まだ暖房が入らない職場では上着を着てコップに湯を入れて、両手でコップを持って温めることで凌いでいます。それだけ寒さには弱いということです、はい。
 エアコンを今夏に買い換えたので強力になっていると思うのですが、今年はホットカーペット(畳1畳分ほど)を使用。予想以上に暖かくて、殆ど動けなくなっています(汗)。これってコタツの時と殆ど変わらないような・・・。
「そうだな。一昨年は月峰神社への初詣。去年は『別れずの展望台』から俺と晶子の名前を書いた札を投げた。そして今年は此処で朝日を浴びた・・・。念に念を押して、とどめにもう1回、ってところか。」

 一昨年の初詣の時には縁結びで有名だってことを知らなかったが、結果的に今回で3回、縁結びに関する縁起物に触れたことには変わりない。それらのジンクスに倣うかどうかは・・・決まっていることじゃなくて、あくまで俺と晶子が決めること。その蓄積が何時しかジンクスとなって口コミで伝えられていくようになったと俺は思っている。

「あ、祐司さん。石碑がありますよ。」
「石碑?」

 思わず聞き返した俺に、晶子が標識の時と同じように指し示す。晶子のやや斜め後方に鎮座しているそれは、朝日を浴びて神秘的でさえある。歩み寄って見てみると、石碑はかなりの年代ものらしい。表面には文面が刻まれている。やや達筆だが読めないことはない。えっと・・・。

「この地にて 朝日浴びとて 絆生まれぬ。ただひたすらに 己が道を 探すべし。自らが 携わらぬ道に 先はなし。未来欲しくば己が探せ やがて光が 己を照らさん。」

 俺が読む前に晶子から文面が語られる。詠うような口調が石碑と文面の雰囲気に相応しい。此処で朝日を浴びただけでは駄目だ。自分で道を切り開け。大雑把だが言いたいことは分かる。実際そうなんだから。
雨上がりの午後 第2072回
written by Moonstone

「一昨年と去年に続いて、縁起物に触れるのはこれで3回目ですね。」

2005/11/20
[まだ警戒中です]
 昨夜早く就寝した甲斐あってか、頭痛などの違和感は一応消えました。ですが何分寒さに弱くて風邪をひくと長引く、その上肺炎に発展する危険性が他の人より高いので(過去に肺炎になったため。今でも胸部レントゲンではその名残が見られます)、安心は出来ません。ポットを近くに持ってきてかじかむ手を湯を入れたコップを持つことで温めつつ、執筆やこのお話をしています。
 昨日付や過去にもお話したように、私は風邪をひいたらめぼしい薬を飲むということが出来ません。最悪生命の危機に直結するので(本当)、薬局かかかりつけの病院で薬効成分の衝突を起こさない薬を処方若しくは探してもらう必要があります(まあ、薬は本来むやみやたらと飲んで良いものじゃありませんが)。それに今は手元に自分専用の風邪薬がなかったりします。そのため、警戒は続けています。そのため、今日も大人しく・・・。
 買い物に出かけて牡蠣(カキ。貝の方です。念のため)の原産地が昨年より豊富で(去年までは広島産しかなかった)、粒が大きめの割と安価とお買い得♪牡蠣が好物の私は即購入。昨日の夕食に化けました。牡蠣も好き嫌いが真っ二つに割れる食材の1つ。実際あれだけ広いコーナーにあるのに、一瞥しただけで足早に通り過ぎる人も居ます。親が嫌いな食べ物はまず食卓に出ませんから、その意味では子どもも大変だろうな、と思うこともあります。
 どうにか頂上に達した。無意識のうちに足早になっていたせいで吐息の間隔が早まっている。そんなことは気にしていられない。光り輝く東の空、特にまぶしいほどに輝く部分をじっと見つめる。

「あ・・・。」
「綺麗・・・。」

 眩い光の玉が地平線の一部からせり上がって来る。それまで世界を覆っていた闇を一気に切り裂く光を放ちながら顔を出してくるそれは、本当に神秘的だ。

「冬はつとめて、の世界ですね・・・。」
「枕草子の一節どおりだな・・・。」

 高校時代は本当かと疑っていた光景を目の当たりにして、古来の文献が語る美の世界を実感する。枕草子が書かれた時代にはエアコンやファンヒーターなんてある筈もない。この町があるところは夜になるとそれこそ、雪の白か暗闇かのどちらかしか見えないという状態だっただろう。その時間に終止符を打つのがこの光・・・。「黄金の丘」という名称に相応しい神々しい風景に、暫し見入る。
 太陽が地平線から離脱するまでの時間は本当に短い。宿を出た時には街灯を除けば真っ暗だったのが嘘のように、町は急速に光で満たされていく。綺麗としか言いようがない光景に、この地に住む人々は昔から縁起を担いだんだろう。そうしない方がむしろ不自然と勘ぐるべきか。
 闇は完全に光に溶け込み、町が、否、大地が朝を迎える。宿を出た時には寒いを通り越して痛いと感じた鋭い冷気も、随分緩んだように感じる。強烈な寒さを体験した分、太陽が齎す温もりの温かみを文字どおり肌で実感出来るからだろう。

「見に来て良かったな・・・。」
「本当に良かったですね・・・。」

 太陽が地平線から離れても、俺と晶子はその場から離れられない。縁起物の光を余すところなく浴びたいという気持ちが共通しているからだろう。そもそもあの鋭い冷気に耐えて暗闇の中で僅かな手がかりを頼りに町を歩いて此処まで来たのは、朝日が昇る瞬間を見るためだからな・・・。
雨上がりの午後 第2071回
written by Moonstone
 空が明るくなっていく速度は意外に早い。上り始める時には地平線だけが照らされていた程度だったのに、中腹を超えた今では地平線が完全に黄色を帯びた白色に輝いている。その一部が特に明るい。あそこから太陽が昇るんだろう。逸る気持ちを抑えながら足元に注意して上るのは、これまた意外に難しい。
2005/11/19
[注意信号発令]
 PCのウィルスは今でも度々来るので別ですが、どうもここ数日頭が少し痛んだりと風邪っぽい症状が出ています。週始めあたりから温度変化が激しくなって、寒さが一気に加速したのでうまく順応出来なかったようです。
 そういうことで、来週以降に差し支えないように更新を早めにして今日は休ませていただきます。今回の更新分は前回と比較すると寂しいですが、場合が場合だけにやむを得ません。私は風邪をひくと長引きやすいですし、その辺の薬を適当に飲むということが出来ないので、予兆を感じた段階で薬が必要ないように対応しないといけません。不便だわ・・・。
 連載は冬真っ盛り、しかも舞台は雪国なんですが、これに関して言えば私個人の趣味は一切入ってません。話の流れでそうなっただけです。既に手袋を着用しているくらい寒さに弱いので、雪が毎日降るようなところに観光だなんて低調に辞退させていただきます。

「あ、祐司さん。標識がありますよ。」
「ん?何処?」
「ほら、あの街灯の上辺り。」

 晶子の指差す方を辿っていくと、街灯の上にぼんやり標識が浮かんでいる。そこには「←黄金の丘300m」と書いてある。幸い視力は良いから遠くて読めないということはないが、街灯の上だから文字が見難い。真下だと明る過ぎて見えないということはないと思うんだが。
 とりあえず、標識が見つかったからよしとしよう。そのまま少し歩いて、十字路で標識に従って左折する。そのまま歩いていくと次第に両側の景色が変わってくる。今までは形や大きさは違っても基本形は同じ家々が並んでいたが、家の間隔が広くなってくる。両側から家が消えた頃には、街灯に照らされた道と畑という開けた景色になる。薄暗い景色の向こうにぼんやりとだが、丘らしいものが見える。・・・あそこか?
 街灯はあるし懐中電灯もあるから、真っ暗で何処に行けるか分からないということはない。道に沿って進んでいく。道はこれまでと違って蛇行している。開発対象から外れたということで、道も整備されなかったのかもしれない。
 歩いていくと、暗闇に浮かぶものが少しだが鮮明になってくる。緩やかな斜面にオレンジ色の点が幾つか浮かんでいる。両側に見える外套を結ぶ線と繋がっているように見える。このまま歩いていけば問題ないようだ。雪を踏みしめながら丘へと向かう。
 どうやら麓(ふもと)に来たようだ。遠くから見ていたらなだらかだった斜面は、間近で見てみるとそれなりに角度がある。階段はあるが、この寒さだから凍結していると考えるのが自然だ。足元に注意するのは勿論、隣の晶子と歩調を合わせて確実に上っていく。
 暗闇一色だった景色が少しだが明るくなってくる。上っている丘の向こうの空、特に下の方で明るさが分かる。夜明けは近いようだ。かと言って急ぐと滑ってろくなことにならないから、あくまで慎重に・・・。
雨上がりの午後 第2070回
written by Moonstone
 町並が見慣れないものになってくる。どうやらかなり南に来たようだ。昨日宏一に言われたように、歩きながら標識を求めて懐中電灯の光を彼方此方に移動させる。家は形や大きさこそ様々だが、基本は同じだ。この暗い中では尚更迷いやすい。迷ってたどり着けなかったら笑い話になっちまうから、標識を見落とさないよう辺りに神経を行き渡らせる。
2005/11/18
[今日はちょっと中断]
 昨夜いきなり(当たり前か)勧誘。聖書がどうとか言い出して「食べるにも困る貧しい人に・・・。」とか言ったところで、「そういう話なら六本木の人間に言え。」と一言。こんな小さいところに住んでいる人間から小銭を集めるより、金を持て余している連中から集めた方が手っ取り早いだろうが、というこの手の勧誘に対する最近使用する一撃の一つです。
 相手が諦めた様子を見せたところで素早くドアを閉めました。残酷なようですが前述のように思うのは事実ですし、実際その方が何件も回らずとも多額の金を集められるのは確実(出すかどうかは別)。どうしてこういう募金勧誘の類は、金をさほど持っていない一般家庭を回るんでしょう。
 同じような境遇にあるから同情を誘いやすいのかもしれません。「自分の生活も楽とは言えないし、かと言って食べるものにも困るって程でもない。だったら・・・。」という気にさせる、という戦略でしょうか。募金に関しては大阪で偽募金が摘発されたり、前々から募金が全額そのために使われているのか分かりえないので、私は一切しないことにしています。
 着替えが済み、財布と携帯−昨日面子に言われたから−と部屋の鍵、そして懐中電灯を持って部屋を出る。薄い明かりは灯っているが、廊下は静まり返っている。ドアを閉める時の音でも大きく感じるくらいだ。
 鍵を閉めてポケットにしまい、出来るだけ足音を立てないように1階に降りる。1階も総じて薄暗いが、カウンターだけは明るい。歩いていくと、小母さんが1人座っている。今は必要ないから財布と、途中落とさないように部屋の鍵を預かってもらう。

「はい。確かにお預かりしました。」
「お願いします。」
「いってらっしゃいませ。」

 セーターはコートの内側にしっかり着込んでいる。手袋も装備。マフラーも巻いている。雪国の未明の寒さを前に改めて覚悟を決めて外に出る。
 寒い。否、痛い。唯一肌が剥き出しの頬に鋭い冷気が突き刺さる。朝市に出かけた時よりずっと寒いような気がする。天気予報は見てないから知らないが、今朝の冷え込みは強烈なんじゃないだろうか。隣を見ると、晶子が俺の左腕に密着している。肩をすぼめているところからして、やっぱり晶子も寒いようだ。晶子は朝早いのに少なくとも俺よりは慣れているから冬の朝の寒さも分かってはいるだろうが、場所の違いによる寒さの違いには流石に対応しきれないようだ。
 本当に真っ暗だ。点々と灯る街灯に照らされる町並には全く人気がない。冷え込みはきついが風も雪もない。その分、余計に人気がないように思う。俺は懐中電灯を取り出してスイッチを入れる。白色に近いオレンジ色の光が暗闇の一部を切り裂く。雪に覆われた道路には何ら人が居る痕跡がない。俺は隣の晶子を気遣いながらゆっくり歩を進める。
 幾分頬は冷気に馴染んできたが、やっぱり寒い。その上、当たり前だが真夜中なんじゃないかと思うくらい真っ暗だから、懐中電灯の明かりを前方下と周囲を行き来させて、現在地を見失わないようにしないといけない。大通りは此処に来てから毎日のように歩いているから、何処に居るかはある程度までなら町並で分かる。雪を踏みしめる音がはっきり聞こえるのを感じながら、純白無垢の雪道を進んでいく。
雨上がりの午後 第2069回
written by Moonstone
 ともあれ、着替える。昨日あれから面子と地図で確認したところ、十分余裕を見込んでおいた方が良い、ということになった。見知らぬ場所だし外は真っ暗となれば、幾ら標識があって道程が分かりやすいといっても標識に気付かない可能性もある。懐中電灯は借りてあるが、大抵足元か数m手前を照らすから標識を見落とす可能性はやっぱりある。ちょっと眠くはあるが、外に出たらそんな眠気は直ぐ吹っ飛ぶだろう。それは朝市に出かけた時に実証済みだ。
2005/11/17
[何処へ行くのか知ってますか?(4)]
 一昨日は「魂の降る里」圧縮ファイルの不具合修正でひぃひぃ言ってました。あんな症状は初めてです。一体何が何やら・・・。ま、昨日の続きを。
 (続き)繰り返し述べているように、コンビニ各店は一般企業のように本社(本店)と支社・営業所(支店)という関係、つまり表現は悪いですが細胞分裂したアメーバではありません。コンビニの店長はコンビニ本部の社員ではなく、個人事情主です。最近だとSOHOとかいう言葉で徐々に浸透しているようですが、別に個人事業主という職種は最近のものではなく、主だったところでは漫画家や作家がそうです。個人で事務所を経営している弁護士なども該当します。
 個人事業主と本部とのフランチャイズ形式というのは、前述のとおりロイヤリティが絡むという事情もあって、個人事業主、この場合ですとコンビニ各店の店長が圧倒的に不利な立場にあります。本部はロイヤリティが得られなければ契約を打ち切ってしまえば良いでしょうが、各店の店長はそういうわけにもいきません。出店のためだけにも相当の資金(数百万円)を準備しないといけませんし、現在我が物顔のIT産業なるものの社長のように、要らなくなったら止める、なんて安易なことは出来ません。生活がかかってますからね。ですから、コンビニ本部の指導は事実上の命令として従わなければならないのです(続く)。
「・・・。」
「そして今、4年進級を間近に控えて晶子さんとも連れ添ってる。・・・そんなお前なら、これからも出来る。俺達はそう確信してる。」
「皆・・・。」

 耕次だけでなく、勝平、渉、宏一が励ましの笑みを浮かべて頷く。胸の中で何かが熱くなるのを感じながら、俺も無言で頷く。これから進む道は違っても、激動の高校時代を共に歩んできた面子との絆は変わらない。成人式会場前でのスクランブルライブの後で面子が俺にかけた言葉のとおり・・・。

「結婚式には・・・絶対呼ぶからな。」
「楽しみにしてるぞ。」
「祝儀は弾むから、期待しておけよ。」
「黒のスーツと白のネクタイを新調しておく。」
「二次会が楽しみだぜ。」

 それぞれの口調と台詞で期待の言葉が返って来る。面子は俺が現実逃避にひた走らないように釘を刺すと共に、俺に自信を植え付けるために待っていてくれたんだ。後は俺が・・・決めるだけ。

 ・・・じさん。祐司さん。
何処からともなく聞こえてきたぼやけた声が急速に輪郭を整えて、俺の意識を呼び戻す。目を開けると、浴衣姿の晶子が覗き込んでいる。

「あ、晶子。おはよう。」
「おはようございます。」
「時間は?」
「大丈夫ですよ。私もさっき目覚ましで起きたばかりですから。」

 どうやら呼んでも揺すっても目を覚まさなくて夜が明けた、という馬鹿みたいなオチにはならなかった。本当に俺は酒が入ると寝起きが鈍るな・・・。元々朝は弱い方だが−夜行性とも言う−、酒が入って夜遅く起きていると、何も対策を施しておかなければ昼過ぎまで寝てしまう。去年帰省した時の正月の親戚廻りの翌日がまさにそうだった。まあ、あの時は何も文句は言われなかったが。
 当然部屋は真っ暗。窓を見てもカーテンには何の変化もない。まだ夜中なんじゃないかと思ってしまう。冬に朝日が昇るところを見られるほど早く起きないから、この辺で時間感覚が麻痺してしまう。
雨上がりの午後 第2068回
written by Moonstone
「泊り込み合宿の時に講師役になった延べ回数が一番多かったのはお前だし、受験問題の難易度もあって合格率五分五分、そこともう1つの国公立系大学しか受験出来ない、その上彼女持ちっていう不利な条件が揃っていたのに、お前は俺達の受験勝負の最後を飾った。5人全員の合格証明書を、全員第1志望合格を宣言した俺達を嘲笑った生活指導の教師達に突きつけて黙らせてやった帰り道、俺は、否、俺達はお前をバンドに引っ張りこめて本当に良かったと思った。誰1人欠けても駄目だったのは言うまでもないが、一番ハードルが多くて高かったのはお前だ。」
2005/11/16
[何処へ行くのか知ってますか?(3)]
 必要に応じて基礎数学(高校〜大学レベル)を見直していますが、記憶から欠落している事項が多々あり(汗)。前もって問題。「『シグナム ヴィータ シャマル テスタロッサ』この4つの単語に共通する事項を3つ挙げてみてください」。賞品などは・・・あるかもしれません。それでは、昨日の続きを。
 (続きです)補足ながらフランチャイズ形式の広義を簡潔に言うと「事業主と本部が契約し、事業主が本部に一定の金額(ロイヤリティ)を支払う経営形式」となります。売り上げなどに一定割合の金額を言わば上納するわけですから、小作料や年貢、現代では税金のようなものと考えてもらえば良いでしょう。企業活動にあたっては当然収益(黒字なり赤字なり)が発生しますが、コンビニの場合、この収益に廃棄される食材などの金額も含まれています。つまり、事業主であるコンビニ各店(の店長)がどれだけ廃棄物、すなわち売れ残りが発生しても、本部は全く損をしないわけです。
 これには勿論公表資料があります。談合事件などで耳にする公正取引委員会が2001年に発表した資料から、コンビニ本部14のうち11で廃棄物の仕入れ金額からもロイヤリティを取る方式になっていることが分かります。普通の感覚なら売れないと分かっていれば仕入れを抑えて損を減らす方向に動きますが、コンビニ各店ではそうも出来ない事情があるのです(続く)。

「あとは祐司。お前次第だ。」

 纏め役の耕次が言う。

「俺達は助言や意見を言ったりは出来るが、決定権はない。決定権はあくまでお前が持つべきものだ。頑固なのも問題だが、周囲や多勢に流されるのはもっと問題だ。そいつは生きてるんじゃなくて、周囲や多勢の命令や刷り込みで生命活動をしているに過ぎない、言い換えれば生かされているだけだ。そんな奴が普段は政治や社会に文句を言いながら、いざ選挙となれば文句を言う対象にとっちゃ見事な集票マシンになる。その繰り返しだ。」
「・・・。」
「話が逸れちまったが・・・、俺達は県下随一と言って良い進学校の中で、合格校実績を年々上げることしか考えてない教師達、特に学生は勉強して大人の言うことを聞いてりゃ良い、っていう出世街道のベルトコンベアーに乗ろうと必死な生活指導の教師が睨むには格好の標的になるバンドを結成した。言い出したのは俺で、まず誘いに乗ったのは同じ中学出の渉と宏一。そして祐司と勝平が加わって正式に結成して、早速活動を開始した。」
「・・・。」
「練習の場所や時間を懸命に捻出してバンドの活動を広げていって、特に生活指導の教師には目の敵にされた。まあ、その半分は俺の主義主張が奴らと正反対だったからだろう。だが、我関せずじゃなくて客も含めた全員で応酬して、1年の時から文化祭のステージに立った。それから何度も全学規模のライブを演(や)ったが、あの時の感動は、俺は今でもはっきり憶えてる。」
「・・・。」
「バンド活動をしてることで成績が悪いって突っ込まれるわけにはいかない、ってことで全員で勉強にも取り組んだ。2年になる頃には、成績優秀者が揃う頭脳派バンド、ってことで有名になった。そして大学受験では全員で公言したとおり、第1志望に合格した。その歴史には祐司。お前の存在は不可欠だった。」
「・・・。」

雨上がりの午後 第2067回
written by Moonstone
 宏一から受け取った懐中電灯。それは俺に更なる決意を促す面子からの無言のメッセージだ。残された僅かな時間を精一杯使い切って答えを、すなわち俺の進路を決める。それが今の俺に唯一にして最大の課題。面子からのメッセージが身体から離れないように、俺は懐中電灯を左手でしっかり握る。
2005/11/15
[何処へ行くのか知ってますか?(2)]
 30cmの定規の1mm間隔の目盛りがやけに大きく感じられてならない今日この頃です。ちょっとした埃より小さい部品を幾つも所定の位置に半田付けするのは、滅茶苦茶肩が凝ります。では、昨日の続きを。
 (続きです)話の焦点をコンビニに絞ります。コンビニの経営方式がどうなっているかはご存知でしょうか?一般企業のように何処かに本社(本店)があって全国に支店がある、というものではありません。一般企業だと本社(本社が東京と大阪にあるという場合もありますが)、○○支社、××営業所(○と×は何れも地名)とかありますが、コンビニで「○○本店」とか「××支店」とかいう表記はない筈です。それは、コンビニの経営方式が「フランチャイズ方式」と呼ばれる方式だからです。
 「フランチャイズ」というのは、プロ野球に多少なりとも興味や知識がある方なら耳にしたことがあるかと思います。簡単に言うと「個人対本部の契約で成立する経営形式」です。「個人」と聞いて「コンビニの店長って◎◎(コンビニの名称)の社員じゃないの?」と疑問に思われたかもしれません。その疑問への回答は「社員ではありません」です。この経営形式に、賞味期限前の食材が捨てられる原因の1つがあるのです(続く)。
「その約1名が引っ掛けたうちの1人が偶然地元の大学生だったんですよ。帰省中とのことで。約1名は携帯の電番とかメルアドとか聞き出してたようですが、その中で1つ、この町に関わる縁起物の話があったんで、その約1名から説明させます。」
「約1名になってねぇって・・・。」

 言われなくても分かるが、あえて皮肉られたことで渋い表情の宏一に話のバトンが移る。縁起物の話って・・・、もしかしてあの話か?

「この町の南に『黄金の丘』って場所があって、そこで婚約したカップルや夫婦が朝日を浴びると一生連れ添える、っていうジンクスがあるんですよ。」

 やっぱりそうだ。けど、「とっくに聞いてる」なんて言い方はしたくないから、そのまま聞く。

「大通りをずっと南に行くと、そのうち標識が見えてきますから、多分地図がなくても迷うことはないでしょう。まあ、日が昇るのが遅いので当然真っ暗ですから、宿のカウンターで懐中電灯を借りていった方が無難でしょうね。丘の斜面がどうなってるかまでは聞いてませんし、階段でも坂道でも足元に注意しないと、この寒さですからね。」
「カウンターで懐中電灯って貸してもらえるのか?」
「ほらよ。」

 宏一は懐に手を入れて俺に何かを軽く投げる。慌てて受け取ったそれは、紛れもなく懐中電灯だ。

「帰りが何時になるか分からないから、とりあえず借りておいた。祐司の名前で借りておいたから、そのまま返せば良い。朝起きられるかどうかまでは面倒見切れねえけど、行って来い。」
「ありがとう。」

雨上がりの午後 第2066回
written by Moonstone

「今日も俺達はスキーをしてたんですけど、その中の約1名はゲレンデで一生懸命対女性限定の投網漁をしてましてね。」
「耕次。約1名って匿名になってねぇぞ。」

2005/11/14
[何処へ行くのか知ってますか?(1)]
 昨日は少々寝起きが悪かったので、今日以降に支障が出ないように(先週は表情とかにしっかり出たと思う)大人しくしていました。買い物は一昨日済ませたのですが、味噌が残り僅かなのに気付いて買いに行ったくらいです。
 私の自宅近くにはコンビニがあります。徒歩3分くらいのところに1軒。そこから更に徒歩3分くらいのところに別の1軒。どちらも2、3度見に行ったことがあるのですが、その中には弁当やサンドイッチといったものがあると思います。それらがないコンビニを探す方が難しいかもしれません。ですが、普通のスーパーなどの食品でも普通に売れ残りが出るのですから、コンビニでも弁当やサンドイッチで売れ残るものはある筈。でもそれらは賞味期限が短い。果たしてそれらはどうなるのか、ご存知でしょうか?
 答えは簡単。全て捨てられます。賞味期限前であっても、です。これはコンビニの仕組みにも絡むことなので1日ではお話出来ません。日本のカロリーベースでの食糧自給率は40%。所謂先進諸国の中では最低水準です。なのに何故腐ってもいない食べ物を捨てるのか。考えてみませんか?(続く)
「批判するのは別に構いません。価値観の相違ですから。でも、それで以って生活に介入するようなら、断固たる態度で臨みます。」

 耕次の問いに対する晶子の回答に、心なしかこれまでより力が篭る。その表情もやや険しいように見える。・・・過去に凄く仲が良かった兄さんと距離を置かれたことで実家と断絶状態になった、否、晶子がしたんだから、今度は絶対許さないという気構えなんだろう。
 俺には晶子のような気構えが必要だ。帰路の途中で実家に立ち寄るにしても、何時か晶子との結婚を伝える時も。押しの強さに弱い部分をそのままにしていちゃ何の進歩もないし、結果的に自分の信念を曲げてしまうことにもなりかねない。こういう時期だからこそ、自分の信念を大切に守り抜いていかないと・・・。

「晶子さんの意思は確固たるものですね。」

 質問した耕次は満足そうに何度も頷く。

「前にも言ったと思いますが、祐司は真面目で誠実ですから、間違っても浮気するようなことはありません。たとえ前の彼女に復縁を迫られたとしても、それを払い除けるくらいの気構えは持ってますよ。まあ、相手を出来るだけ傷つけないようにっていう、晶子さんから見れば余計とも思える配慮はするでしょうけどね。」
「はい。」
「あえて問題点を挙げるなら、祐司はかなり慎重なんです。安全だと自分で分かっていても躊躇してしまうこともあります。そういう時は『私も一緒だから』って一緒に前に踏み出せば大丈夫。二人三脚そのままですよ。」
「私もむやみやたらに祐司さんの背中を押すだけにはしたくありません。祐司さんと一緒に・・・これからの人生を歩んでいきます。」

 晶子の言葉の最後の方は・・・結婚式とかの誓いの言葉に使える、否、そのものじゃないか?間違いなく晶子は、生活条件を整えてから、否、今此処で俺が一言「結婚しよう」と言えば即応じるつもりでいる。そこには真剣さを超えて切実ささえ感じる。そこまで自分を追い詰めての気持ち・・・。絶対壊したくない。
雨上がりの午後 第2065回
written by Moonstone
「では、例えばの話を続けますが、祐司が自宅でミュージシャンとしてインディーズ活動を続ける、そして晶子さんは昼間働きに出る。職場や飲み会の席などの会話の流れで晶子さんが夫が居ることを話して、夫が所謂まともな職に就いていないことを批判されたらどうしますか?」
2005/11/13
[上昇傾向]
 普通に起きて(目覚まし代わりの携帯のアラームは切ってある)普通に朝食を済ませ、予想と違って晴れたのもあって買い物に出かけ、休憩を挟みながら新作を書き上げて、普通に夕食(早々(?)と鍋)。1週間ぶりに「普通の日」が戻って来たようです。
 まだ完全ではありませんが腰痛も随分和らぎましたし、一昨日入手した「Growing of my heart」を聞いてみようかなという気分になっています。一昨日の時点では封を開けてジャケットなどを観察するのがやっとだったのですが、今はケースを開けてプレイヤーに入れて再生ボタンを押したいと思っています。
 心配してくださった方には本当に感謝しています。会話を拒否するほど深刻に落ち込んでいましたが、どうにか創作活動に復帰出来そうです。大仕事も控えていますので、少しずつでも前に進んでいきます。
 ちょっと向きになって問い質した俺に、耕次はさらっと答える。晶子に関しては俺が今更言うまでもない。俺には出来過ぎと言っても過言じゃない良い彼女、否、良い妻だ。年中イベントでの高価なプレゼントやレジャーといった、恋人や夫婦という特異な人間関係を利用した際限なく膨らむ自己欲の探求に突っ走ることのない、ただ俺と一緒に居られることに満足と生き甲斐を見出す。
 ジェンダーフリー思想一辺倒の連中が聞いたら「女性の地位を貶める」「旧態依然の体質」とか叫んで目の色を変えて抗議運動を展開するだろうが、俺は晶子に何も強要していないし、晶子は俺が言うより先に実行している。晶子は内心、大学の時は弁当を作ることも想定しているだろう。俺が「今年から頼む」とでも言えば即現実のものになるだろうが、晶子も学部は違えど卒研を含む進級を今年に控える大学生。そこまで負担をかけさせられないし、かけさせたくない。

「晶子さんは祐司がどんな職業に−勿論犯罪に絡むことはないっていうことは大前提としてありますが、それでも生活を一緒にするつもりですね?」
「はい、勿論です。」
「例えば、祐司がインディーズのミュージシャンとして活動を自宅でするとして、晶子さんは昼間一般の、と言うと語弊がありますが、働きに行って帰って来て、食事とかは2人で協力するなりなんなりする、っていう形式でもOKですね?」
「はい。夫婦の生活スタイルは千差万別ですから、一概にこうあるべきだ、と決め付けるのは良くないと思います。家父長制もそうですし、ジェンダーフリーもそうです。あえて必要なことと挙げるとすれば、夫婦が協力して話し合ってそれぞれのスタイルを構築すべきだということです。」

雨上がりの午後 第2064回
written by Moonstone
「どういうことだ。」
「祐司は良い相手と出会えたな、ってことだよ。」

2005/11/12
[CD購入]
 昨日倉木麻衣さんの新作シングル「Growing of my heart」を入手。封を開けましたが、今回は今まで私が見たことのない形式。CDケース本体を横から挟む形でジャケットがあるというものです。表は倉木麻衣さんの写真とCDタイトルがあるという形式で共通ですが、裏はCDケースの方はCD本体が見えるだけで(シングルだと大体こんなもの)、ジャケットの方は「Growing of my heart」がタイアップ曲となっている「名探偵コナン」のもの(作画はアニメ版キャラデザインのとみながまりさん)となっています。
 肝心のCDの曲はまだ聞いてません。CDを聞いたりする気になれないからです。予約した頃は入荷の連絡を今か何時かと毎日わくわくしていたのですが、今は買うだけ買った、というところです。興味がなくなったわけではなくて全体的に気分が後ろ向きなだけです。
 それにしても、最近のシングルはどうしてA面(若しくはタイトル曲)のインストルメンタルバージョンがないんでしょうか。携帯で着うたがあるし、カラオケに行けば嫌でもインストルメンタルですから必要性がなくなってきたのかもしれませんが、此処の連載でメールの着信音を「明日に架ける橋」にした経緯でシングルのインストルメンタルバージョンを参考にしたというのもあるので、残念な気がします。普通に聞いていても音は取れますけど。
 耕次の案内を受けて、俺達は移動する。上と言われれば場所は決まっている。俺と晶子の部屋だ。心配して待っていてくれた面子の好意を無にする気はないし、晶子も2人でないと嫌だと駄々をこねたりはしないから、明日は丸一日空いていることも踏まえて、一晩あれこれ聞いたり言ったりするのも良いだろう。・・・皆はそのために俺と晶子の、厳密には俺の帰りを待っていたんだろうし。

「晶子さんもお付き合い願えますか?」
「はい、勿論です。」

 階段を上る途中での耕次の問いに、晶子は即答する。何を話すかは晶子も分かっているようだ。・・・当然か。気分転換に散歩に行こうと言い出したのは晶子だし、これまでの会話の流れを掴んでいれば、どんな話をするのか分かっているだろう。
 2階に到着する。俺が鍵を外してドアを開け、明かりを点けてからまず面子を中に入れる。次に晶子を入れて最後に俺が入ってドアを閉める。既に布団は敷かれている。先に入った面子が机を隅に移動して壁に立てかける。年越しの時と同じく、輪になって話をする形にするつもりだろう。
 予想どおり、面子は空いた空間に円を描くように腰を下ろす。俺と晶子もそれに加わる。俺を起点として時計回りに晶子、渉、勝平、耕次、宏一という並びだ。

「話っていっても、俺達が自分の立場でああだこうだ言うと余計に祐司が混乱するだろうから、それはないってことを前置きしておく。」

 耕次が予想外の形で切り出す。てっきり全員が俺の話を聞いて助言なり意見するなりするものとばかり思っていたんだが。

「それに俺達としては、今まで祐司から送られてきた写真でしか見たことがなかった晶子さんをこの目で見られて、性格や祐司との親密さの度合いが分かったことが嬉しいんだし。」

雨上がりの午後 第2063回
written by Moonstone

「此処で立ち話も何だ。場所を上に移そう。」

2005/11/11
[停滞中]
 何もする気になれません。仕事の量や進捗の関係上、流石に2日も臨時に休めないので今日は本業に行きます。
「出かけるのは構わないが、携帯くらい持っていけよ。持ってなきゃ携帯の意味がないだろうに。」
「まさか皆が俺と晶子の部屋に来るとは思わなかったからな。悪かった。」

 耕次と勝平の批判は率直に謝罪する。次にカウンターで部屋の鍵と問題の携帯を受け取る。

「頭を冷やしに行った、ってことは・・・、例のことか。」
「ああ。晶子の勧めもあってな。結果的には気晴らしの意味合いが濃かったけど。」
「それは酒の匂いから分かる。」
「するか?」
「それなりにな。ま、何かと思い詰めやすい祐司には、浴びるくらい飲んでその勢いで言いたいことを言うだけ言うくらいでも良いんだが。」

 酒に強いらしい耕次は飲んだかどうかが分かるらしい。酔ったと意識するほど飲むことは少ないから、自分が酒の匂いをさせているかどうかまで考えたことは一度もない。
雨上がりの午後 第2062回
written by Moonstone
「心配かけて悪い。出かけてたんだ。頭を冷やしにな。頭を冷やすのは専ら俺だけど。」
2005/11/10
[手袋・コート・マフラー]
 昨日はずっと考え事をしていて気がついたら朝でした。心身が非常に不安定なので今日は本業を休むことにしました。
 さて、衣料品における冬の三種の神器を並べてみました。北海道では初雪が観測されたそうですが、もう既に見に着けておられるのかも知れません。私が住んでいるところでは雪は滅多に降りませんが寒さはそれなりにあるので、寒さ苦手の私は既に外出時にはコートを着用しています。
 6月頃だったと思いますが、右手薬指を強打して整形外科に通院していた時、診断後に患部に湿布と包帯を巻いてもらったのですが、その時の看護婦さん(見た目40か50代)に「白くて綺麗な手ですね」と羨ましがられていました。元々色白でそうなるのですが、男性としては血圧が非常に低いこともあって冬場は手が蝋人形のように真っ白になります。朝晩外の気温は18度くらいあるのですが、手袋が必要かな・・・。
 俺は神や仏なんてものは信じていない。初詣も1年における恒例行事の1つで、神話がどうとかそんなものは全く度外視している。だけど他人の信仰を否定することはしない。信じる人にはそれが大切なものだろうし、心の拠りどころでもある筈。自分が神や仏を信じないからと言って他人に信じるな、と押し付ける権利なんてないと思ってる。その逆も然り。
 「別れずの展望台」にしても、信じない人にしてみればそこでの「実績」は単なる偶然の寄せ集めに過ぎないだろう。だけど、それを信じる人が居て、そこで口コミで伝わっているジンクスに則って2人の名前を書いた札を投げる人が居る。そしてそのとおりになっている人が居て、俺と晶子はその人達の実例を知っている。これもやっぱり逆もまた然り。
 雪はまだやんでいる。明日は晴れそうだ、というあの板前さんの言っていたとおりになりそうだ。朝日が昇るところを見るなんて、日の出が遅いこの時期でも見たことがない。さっきの話だと晶子は見慣れているようだが、町を一望出来るという高さがあるところから見る日の出は、相当綺麗と期待して良いだろう。この町に来た記念に、良い意味での曰くつきの朝日の光を浴びておこう。

「あっ、帰って来たか。」

 雪道を歩いてそのまま宿に帰った俺と晶子を出迎えたのは、面子全員だった。全員驚き半分呆れ半分の表情だ。

「部屋をノックしても全然応答がないし、渉の携帯から電話をかけても出やしないから、カウンターの小母さんに聞きに来たんだ。そうしたら、鍵の部屋と一緒に携帯も預かってるって言うから。」

雨上がりの午後 第2061回
written by Moonstone
 オレンジ色の街灯で照らされるだけの、静かな雪道を晶子と2人で歩く。話を聞いた時には長いように思えたこの町の滞在も、残すところほぼあと1日。丸々自由に行動出来るのはもう明日だけ。明日その「黄金の丘」で朝日を浴びれば、これから進む道も透けて見えるかもしれない。
2005/11/9
[非常事態で出る本音]
 多少持ち直して来たので、生存証明も兼ねて色々。フランスでアフリカ系移民の少年が警官に追われて変電所に逃げ込んで感電死したのをきっかけに大規模な暴動が発生し、とうとう全国に波及して夜間外出禁止令を含む非常事態宣言が出ました。夜間外出禁止令と聞くと軍事政権(軍部によるクーデターも含む)や独裁政権を連想しますが、法律がある以上は発動する可能性があるということです(その意味でもTOPにリンクがあるような有事法制などは危険なわけです)。
 この事態は、サルコジ内務相(日本で言うと内閣府や警察庁あたり)が、きっかけとなった少年の感電死事件で追跡はなかった」と言い、騒動を起こす若者などを「社会のくず」と罵ったことが大きな要因の1つでもあります。いかなる理由があっても暴力は許されないのは言うまでもありませんが、その背景にある貧困などの社会構造の根本に対処することなく、頭から押さえつけているだけでは何れ鬱積した不満や憎悪が暴発するだけです。その点では一国の閣僚として失格と言わなければなりません。
 こういう所謂「非常事態」などで、自分が直接その場に出ない(この場合は暴動鎮圧の現場)人間の本音が出ます。石原都知事や小泉首相、右翼タカ派も例に漏れません。フランス以外でも差異はあっても民主主義国家における主権意識を自覚している国民ならそういう人物を辞任や議席喪失に追い込めるでしょうが、総選挙でものの見事にマスコミに踊らされた日本では、せいぜい関東大震災後の朝鮮人虐殺のような事例が起こるだけでしょう。
 折角の好意を断るのは気が引ける。俺はありがとうございます、と言って地図を畳む。手前に置いておけば、帰る時に忘れることはない。俺だけだと忘れる可能性はなくもないが、晶子も居るから大丈夫だ。
 俺と晶子は残りの料理と酒を飲み食いする。残りは少なかったからあっという間だ。調子に乗って飲み過ぎるとこれから酷い目に遭うから、この辺に留めておいた方が無難だな。

「そろそろ戻ろうか。」
「はい。」
「じゃあ、お勘定をお願いします。」
「はい。1番さん、お愛想!」

 ありがとうございます、という声と共に店員さんが駆け寄って来る。その手には店でも使っているような、注文一覧を書いた紙とその台紙がある。板前さんのありがとうございます、という声に会釈で応えて、俺と晶子はレジに向かう。

「ありがとうございます。3580円になります。」

 あれだけ飲み食いしたのに意外に安いような・・・。ま、良いか。俺は晶子を制して財布から5000円札と600円分の硬貨を出す。晶子は後で自分の分を払うつもりだろうから、それは後で受け取れば良い。
 お釣りを受け取って財布に仕舞い、ご馳走様でした、と言うと、ありがとうございました、という張りのある声が板前さんと店員さんから返って来る。俺と晶子はコートを羽織って外に出る。寒い筈だが酒のおかげで血行が良くなっているのか、涼しくて気持ち良いと思える。

「・・・明日の朝、あの場所へ行くか?」

 晶子が俺の左腕に手を回したところで話を持ちかける。

「明後日の朝は此処を出る準備とかで遠くまで出かけてる余裕はないだろうし、行くとすれば明日しかないし。どうだ?」
「私も行きたいです。」
「決まりだな。宿に戻ろう。」

雨上がりの午後 第2060回
written by Moonstone

「明日は晴れ言うてますんで、よろしければ行ってみてください。その地図は差し上げますんで。」
「良いんですか?」
「ええ、どうぞどうぞ。」

2005/11/8
[低調]
 相変わらず無気力状態です。本業は勿論していますが、殆ど一人黙々と事務的に片付けています。今は誰とも口を利きたくありません。
 その上、俺の家で夕食と朝飯を作ってくれる月曜の夜に続く火曜の朝は、俺が実験で遅くなる関係で睡眠時間はかなり短くなってしまうが、少なくとも大学の講義がある時期に今まで晶子が寝過ごしたことはない。俺は偶に自然と目を覚ます時もあるが、大抵は目覚ましか晶子に起こしてもらうかのどちらかだ。

「奥さんが仰るとおり、この時期だと日が昇るんを見るだけでも綺麗でええですけど、お二人で見ると尚更ええですよ。」
「どうしてですか?」
「あそこは昔から、神(かみ)さんの丘て言われてましてね。特に婚約した者同士とかご夫婦とかは、そこで朝日を浴びると神さんにこれからずっと仲良う居れるようにしてくれるっちゅう場所なんですわ。そういうこともあって、あそこだけは町の開発対象からも外されたんです。あの丘を崩したりしたら、神さんのお怒りが下る、言うて。」

 去年の夏休みの終わりに、晶子と行った「別れずの展望台」を思い出す。あそこでは2人の名前を書いた札を投げると一生結ばれる、っていうジンクスがあって、マスターと潤子さんはその「先輩」でもある。意外に縁結びのジンクスがある場所ってのは多いな。その逆も多いが。
雨上がりの午後 第2059回
written by Moonstone
 晶子は朝が早い。元々大学での昼食と店での夕食以外は全部自炊だし、晶子は「朝はご飯」派でしかも炊き立てを好むから、必然的に朝は早くなる。その上、俺を迎えに来てくれるから、どうしても俺が1コマめの講義に余裕で間に合う電車に乗れるように早く行動しないといけない。
2005/11/7
[空転]
 意気込んで臨んでこうなると、根こそぎ気力を持っていかれます。現在がそうです。腰痛が再発したのもあって(順序は「鶏と卵」のレベル)ほぼ無気力状態です。今日から本業なのでとっとと寝ます。
「そうだと思います。」
「じゃあ、ええ場所お教えしますわ。地図、1番さんに。」

 板前さんが言うと奥からはい、と返事がして、少しして店員さんが俺に四つ折の紙を手渡す。広げてみると、それは街中にあるようなごく近隣の家や店などを名前入りで書いた地図だ。晶子にも見えるように左に寄せる。

「その地図の南の方に『黄金(こがね)の丘』っちゅうのがあるでしょう?」
「えっと・・・。あ、ありますね。」

 地図で見ると収録範囲ギリギリという位置に「黄金の丘」という表記のある、近くの建物などと比較してかなり大きいらしい広い空間がある。

「そこに朝早う行ってみるとええですよ。この辺が一望出来ますし、日にも拠りますけど、日が昇るんがよう見えますんで。」
「へえ・・・。この季節だと朝日が昇るところが綺麗ですよね。」
「奥さん、朝早いんですか?」
「習慣になってますから。」

雨上がりの午後 第2058回
written by Moonstone
「お泊りの場所にも拠りますけど、あんまし南の方には行ってらっしゃらへんかもしれませんね。若い人が泊まる旅館は大体、町の北側に集まっとりますんで。」
2005/11/6
[遅れ]
 この後もう少ししたら更新します。まあ、此処とMoonlight PAC Editionだけですけど(後者は正確には修正。記載に1箇所ミス発見)。昨日は1日ぶっ続けで2作品書いて更新した影響か、疲れでPCに向かう気になれませんでした。

「揚げたてで美味しいです。食感が良いですね。」
「本当に食感が良いですよね。柔らか過ぎなくて芯が残ってるとかいうこともなくて、適度な歯応えで。」
「ありがとうございます。鵬耀と一緒に食べたってください。」

 揚げたてというだけあって熱いのは間違いないが、事前に息を吹きかけてからなら問題はない。さくさくした食感が飲食を軽快にする。鵬耀のほんのりした甘さと天ぷらの軽い塩加減が丁度対称的で、どちらが際立つとかどちらが消えるとか、そんなことは一切ない。他の料理も食べていく。夕食を食べてさほど時間は経ってない筈だが、食の進みは軽快そのものだ。

「お二方は何時まで此処に居られるんですか?」

 他の料理を完全に平らげ、天ぷらも鵬耀も残り少なくなったところで−酒の残り量は徳利の重さからの推測−、板前さんが尋ねる。

「明後日の朝、此処を出ます。ですから明日いっぱいは此処に居ます。」
「そうですか。町はだいぶ回られました?」
「大体は回ったつもりですけど・・・、地図も持ってませんし、その日その時の気分であっちに行ったりこっちに行ったりしてますから、回ってないところはあると思います。」

雨上がりの午後 第2057回
written by Moonstone
 こういう場合はまず何もつけずに食べてみるに限る。普段どおりに醤油やソースにつけて食べると味が濃くなり過ぎることがあるからだ。試しに馴染みの深い芋を食べることにする。熱いということで軽く何度か息を吹きかけてからひと齧りする。確かに熱い。だが、食感は抜群だ。サクサクと歯応えが良くてそのまま一気に食べてしまう。
2005/11/5
[目標達成]
 昨日は休みだったとは言え、朝から晩までほぼぶっ続けでPCに向かって作品制作をするのは、やっぱり疲れます。その甲斐あって目標としていた文芸関係7グループ揃い踏みを達成しました。中には久々の更新というグループもありますので、この週末にでもごゆっくりお楽しみください。必要でしたら圧縮ファイルもどうぞ。
 作品制作が済んだから今日明日オフ、とはいきません。次回更新に向けては今から準備しないと間に合わないからです。長編の連載ものだと400字詰原稿用紙換算で平均約40枚分を書くので、それなりに時間を要します。キータイプはそれなりに早い方ですが、考えながら書くのでひたすらキータイプ、というわけにも行かないので。
 水面下では別の作業中。これはこれで結構面倒なのですが、自動では出来ないので1つ1つ進めていくしかありません。作品制作の合間にでも少しずつ進めていくつもりです。このページでは新たな企画も立ち上げるつもりですし(詳細はMoonlight PAC Editionをご覧ください)、まだまだこれからですね。
 俺はビールはそこそこ飲むが、日本酒はあまり飲まない。特に甘口は飲みやすさにかまけて飲み過ぎることがあるからだ。去年帰省した時に親戚回りに駆り出されたが、そこでも行く場所行く場所で日本酒を勧められた。断るわけにも行かないから飲んだが、彼方此方で飲んだおかげで相当の量を飲んでしまって、帰宅した後は風呂にも入らずに寝てしまった。翌朝起きたのは昼前だった。

「野菜の天ぷらをお願いします。」
「天ぷらですね。はいよ。」

 晶子の注文を受けて、板前さんが天ぷらに取り掛かる。芋とかごぼう、大根や白菜といったこの季節の野菜を溶き卵に浸し、小麦粉を軽くまぶして背中を向ける。向かい側に揚げ物用のコンロがあるんだろう。その証拠に、その上に巨大な換気扇に通じると考えられる筒がある。店と同じだ。
 少ししてジューッ、と甲高い揚げ物の音が始まる。それは最初こそ1つだけだったが、直ぐに複数のものに変わる。揚げる様子を見られないのは少し残念だが、揚げ物だと時に熱い油が飛び散ることもあるから−晶子の受け売り−、客の安全を考えればこの方が良いだろう。
 晶子と少しずつ味わいながら日本酒を飲んでいると揚げる音が止み、皿に盛り付けられた揚げたての天ぷらが差し出される。

「お待たせしました。こちら、野菜の天ぷらになります。揚げたてで熱いんで、気ぃつけてください。」

 俺と晶子は皿を受け取ってカウンターに置く。値段の割に量はかなり多い。これもサービスの1つだろうか?

「そのままでもいけますけど、足りんかったらお手元の醤油を使てください。」

雨上がりの午後 第2056回
written by Moonstone
 板前さんは大きく頷く。晶子と買い物に行く大きなスーパーの一角に酒のコーナーがあって−未成年の飲酒問題との矛盾が気になる−、そこには酒メーカーの安価なものから新京市の地酒が揃っている。新京市は市町村合併で出来た新市だから、合併以前の町村には伝統の蔵元があるらしい。
2005/11/4
[御免なさい。また遅刻]
 作業がかなりややこしくて時間がかかり、11/2に「明日休みだから」と久々に酒を飲んだおかげで一気に溜まっていた眠気が一気に噴出したらしく、昨日は殆ど丸1日寝てました(汗)。今日付の更新はこの日(11/4)の朝起床して、朝食を済ませてからにしています。
 昨日が丸丸睡眠に費やされたおかげで、7グループ揃い踏みには今日1日で2作品書かなければなりません。正直かなり厳しい日程ですが自業自得。どうにか頑張って中には久々となる新作をお見せ出来るようにします。
 ちなみに私は今日は休みです。本業の方は11/2に作成した図案や写真と共に原案を提起したり報告事項を送付したのでひと段落、といったところです。使い勝手の問題もあるので(これが結構重要)、単純に「作れば良い」というものではありません。これは市場に出回る商品でも同じだと思いますが。
 昨日は来年のカレンダーを入手。カレンダーを買うのは何年ぶりかですが、このページのように味も素っ気もない自宅にちょっと生活感が出る模様です。では、これから明日付の更新に向けて追い込みに入ります。どうぞお楽しみに(場合によっては明日付以降にずれ込むかもしれませんのであしからず)。
 あ、これは重要だな。飲みやすさで言うと冷酒だろうけど、それで勢い良く飲んで、明日朝起きるのが遅くなるくらいならまだ良いけど、飲み過ぎで倒れたりしたら良い笑い話になるから、燗の方が無難かな。

「燗にしてください。」
「はいよ。鵬耀の燗を1合、2人前。」

 奥から、はい、という応答が返って来る。燗にするなら冷蔵庫で冷やしておく冷酒より−この町でこの寒さなら外の倉庫でも良いかもしれないが−幾分時間がかかるだろう。その間ビールを飲み干し、残りの料理を少しずつ食べていく。味わい深い料理はこの店の雰囲気に合っている。
 少しして、前を失礼します、と声がかかる。店員が日本酒1合分の徳利(とっくり)と猪口(ちょこ)を俺と晶子の前に置く。徳利を傾けると、湯気が立ち上る無色透明の液体が猪口を満たす。晶子と向かい合い、猪口を軽く合わせる。陶器ならではの澄んだ軽い音が静かな店内に一瞬浮かぶ。
 鵬耀というその日本酒を一口飲む。砂糖のそれとは違う風味豊かな甘みが一瞬で口の中を満たす。甘口と言うだけあって、舌を刺激する要素は一切ない。喉越しも滑らかそのものだ。冷酒だと間違いなく水のようにがぶがぶ飲んで、酷い目に遭うだろう。

「美味しいですね。まろやかで凄く飲みやすくて。」
「ああ。本当だな。全然引っ掛かりとかがない。」
「ありがとうございます。これも、この地方の店でしか売っとらへんもんです。蔵元もこの地方の酒屋にしか回さないんです。繁華街の居酒屋とか全国規模の酒のチェーン店とかが買い付けに来るんですけど、絶対回さんのですよ。」
「こだわりの一品ってやつですね。飲みたいなら此処に来い、っていう。」
「そうですそうです。」

雨上がりの午後 第2055回
written by Moonstone
「じゃあ甘口の方にするか。えっと・・・鵬耀ってやつを1合で2つお願いします。」
「冷酒にしますか?それとも燗(かん)にしますか?」

2005/11/3
[ただいま、作業中]
 11月に入ってからこのページの閲覧環境とかであれこれ試したり、htmlファイルを修正したりしていますが、今(11/3の1:00)もWeb関連作業の真っ最中です。内容は秘密ですが、物凄く面倒なのは確かです。テキストエディタをWHiNNYにしてから1つのウィンドウで複数のファイルを一気に表示できるようになったので、かなり重宝しています。WHiNNYの所在についてはGoogleなどで検索してください。htmlに限らず大量のテキストファイルを扱う方にはお勧めです。
 今は各社からWebページ作成ソフトが出ていて、自分のレベルや予算に応じて色々な選択肢がありますが、私はどうしても使う気になれません。このページを開設する前には一時期使っていたことがありますが、使い勝手の悪さ(動作が遅いことは致命的)と余分なタグを大量に作成してくれる鬱陶しさに嫌気が差して半年ももたずに諦めて以降はひたすらテキストエディタで直打ちです。
 今日明日で追い込みをして週末の更新に繋げるつもりです。目標は勿論、文芸関係7グループ揃い踏みですが、残る2つのうち1つが微妙。自分で書いておいて何ですがかなり難しいテーマなので、考える時間が相当長くなりそうです。何とかやってみます。とりあえず作業を済ませないと・・・。

「実験ですと報告書て言うんですか?そういうものも提出せんといかんのでしょう?」
「はい。その実験がある日に概要を纏めたものを提出して、翌週に実験結果から得られる性質とか特徴とかを改めて纏めて、テキストの問題にも解答して提出するんです。」
「となると、実験が終わってからも図書館とかで調べたり。」
「そうです。」
「大変ですねぇ。」

 板前さんの感嘆の言葉に少し苦笑いがこぼれる。実験中は実質1人と半分程度かそれ以下の人員で本来なら4人で進めてどうにか出来る筈のことをしなきゃならないから、兎に角終わらせようと前もって段取りを決めたり、データを取ったり、智一に指示したりしている。だから昼間に空腹を感じたら食事に出かけるとか、最近だと晶子に今日も遅くなるから待っててくれ、とメールを送ってその返事を見て今日も待っててくれるのか、と安心するくらいだ。
 担当教官からOKをもらって初めて、今日も忙しかったと思う。今更という気がしないでもないが、忙しいと思う余裕がないからだろう。それが良いのか悪いのかは分からないが、今のところどうにか成績は優秀だと評価されているし、本配属を希望している研究室からも歓迎されている。そして何より、晶子に夜遅くなっても待っていてもらって食事も作ってくれることが嬉しい。
 ふと見てみると、ジョッキの中身は殆ど泡だけになっている。サイズが小さめだから普通の居酒屋感覚とかで飲んでいると、あっという間になくなってしまうんだろう。ビールは何処でも買えば飲めるし、それだと何となく物足りない。何か飲むものは・・・。やっぱり地酒かな。晶子はどうだろう?

「晶子。次は日本酒を飲んでみないか?」
「あ、良いですね。」
「じゃあ、決まりだな。すみません。この辺の地酒ってどんなものがありますか?」
「この辺ですとね。甘口ですと鵬耀(ほうよう:架空の銘柄ですのであしからず)ちゅうのが一番お勧めです。辛口ですと歌座森(かざもり:これも架空の銘柄ですので念のため)になりますね。」
「そうですか。晶子はどっちが好みだ?」
「私は・・・難しいですけど、甘口の方が良いです。」

雨上がりの午後 第2054回
written by Moonstone
 俺が居る実験のグループは実質俺が智一を動かしてどうにか2人でやっている状態だから、遅くなる原因が内容だけと言えないのが馬鹿馬鹿しいが、日が暮れるのが早いこの時期、外が明るい時間に終われたら奇跡と言っても良いくらいなのは事実だ。早く終わらせようと思って前のグループの結果を真似て実験結果の体裁を整えても、教官の設問に全員が詰まって嘘がばれてやり直しとなって余計に時間がかかった、なんて話もある。自業自得だが。
2005/11/2
[多分OK]
 どうやら問題は解決したようです。Webページ側に問題があっても、まさか開発元でそれを1つ1つ調べるなんてことは出来ないですから、開発元で検証中などとなっていたら専用のコミュニケーションWebページとかで各自調べるしかありません。知らない人だとそれこそお手上げでしょう。
 今回の事態を作ったJavaScriptはそれ自身は決して悪いものではなくて、基礎的なものからあっと驚くものまで用途は幅広く、特別な開発環境なしに取り組めるWebアプリケーション(CGIは勿論、FLASHやJavaもそうです)の1つです。でも、そういった利点が心なき者に悪用されるのもまた事実。ネット社会では性悪説を取らざるを得ない部分が多々あります。今回もその事例の1つでしょう。
 科学や技術は使う者に倫理や品位と言った、科学や技術が拠って立つ唯物論的価値観と対照的存在である観念論的価値観も要求されます。それが高度であればあるほど、その要求度は高まります。私もWeb技術専門ではありませんが技術者の端くれの1人として、今回の事態から科学や技術のあり方、端的に言うなら、科学や技術を使うにはどういう心構えが必要か、を学んだように思います。
「それはそれは立派なもんですね。色々作られてるんで。」
「はい。バイト先と自宅と夫の自宅の3箇所で。バイト先が飲食店で、そこで料理を一部任せてもらってるんです。」
「あーなるほど、そうですか。それですとこう・・・鍛えられるっていうか、尚更実践的になりますね。ご主人は実際食べてみていかがですか?」
「文句を言うところが全然見当たらないですね。最初は実家の地域の違いで味加減に少し違和感があるところがあったんですけど、私の好みに合わせてくれまして。」
「そりゃあ、立派ですねぇ。」

 俺もそう思う。元々晶子は料理が上手かった。宮城に不意打ちで最後通牒を突きつけられたショックでささくれ立っていた時期でも、キャベツの千切りは綺麗に出来てると思ったし、料理も上手いと思った。大小何度かの変遷を経て今の感情になっても、やっぱり上手いと思った。
 料理そのものは問題ないが、当初は特に煮物の味が甘く感じた。晶子にそれを話すと、何度かの「試験」期間を経て丁度良い位置に合わせてくれた。食べてここがどうとかここをこうして欲しいとかあれば言って欲しい、と事前に言われていたからそのとおりにしたんだが、後で気を悪くしなかったかと思って尋ねてみたら、「言ってくれて良かったです」と感謝されてしまった。

「良い奥さんですね。」
「ええ。本当にそう思います。私は料理が全く駄目な上に実験とかで夜遅くなるんですけど、毎回作ってくれますし。」
「実験と言うと、ご主人は理数系ですか?」
「はい。工学部の電子工学科なんです。毎週1回学生実験があるんですよ。それは担当の先生のOKが出るまで終わらないんで・・・。」
「あー、そう言えば新京大学の理数系学部は入ってからも厳しいて話、聞いたことあります。実験が終わるのは何時くらいなんです?」
「内容とかにも拠りますけど、夜の8時とか9時とかになることも珍しくないですね。日付が変わる30分前だったってこともありますし。」
「凄いですねぇー。」

雨上がりの午後 第2053回
written by Moonstone

「奥さん、随分お詳しいですね。失礼ですが、お若いのにかなり料理に慣れてらっしゃるようで。」
「一人暮らしをするまでに料理を教え込まれたんです。」

2005/11/1
[出足から忙しいな(汗)]
 昨日付更新での予告どおり、JavaScript関係一切を除去しました。TOPだけではなくてTotal Guidanceと10グループ(音楽2グループは最初からなかった)でも除去して、グループでは同時に簡素化を図りました。文字がスクロールするよりある意味見やすくはなりましたが、より素っ気無い感じになったのは事実です(汗)。まあ、元々彩りなんて考えてやしませんから(実現するデザイン力やCG作成力もないし)良いんですけど。
 これで問題が解決したかどうかは、更新してから確かめます。こういう問題はローカルではさすがに分かりませんので。解決しないようだと・・・別の策を考えるかどうかしないといけないでしょう。私の範疇では手に負えないレベル、ソフトウェア商品とか個々のハードウェアの問題とかだと、開発元に期待する他ありません。
 とりあえず当面の課題は達成しましたので、グループの更新準備に戻ります。文芸関係7グループ揃い踏みの可能性が高まっていますが、油断なりません。1作品書くのに大抵8時間から10時間かかるので、時間との勝負です。3日あたりが1つのヤマ場でしょう。
 鶏舎の様子くらいは知ってる。一定の場所にほぼ固定されて、流れてくる餌をひたすら食べ続けてる。あれじゃ運動不足になるのも当然というか、そうならない方がおかしい。そう言えば確か、フォアグラは運動させないで餌だけ与えたアヒルの肝臓を使うんだったな。食べたことはないが。

「餌に抗生物質を混ぜていて、一般の鶏舎の環境ではそれが適切に排出されませんから、抗生物質が肝臓に蓄積されてるんですよ。つまり、レバーは肝臓と言うよりむしろ抗生物質の塊なんです。」
「そうなのか?」
「奥さんの仰るとおりです。人間の薬なら良いとは言いませんがまだしも、鳥の薬ですから人間には毒そのものになるものの方が多いて考えて良いくらいです。普通に売っとるやつは濃い紫色とかでしょ?あれがその証拠です。」

 なるほど・・・。思い出してみれば、肉コーナーに並んでるレバーは色が濃い。板前さんの言うように濃い紫色というか黒に近い紺色というのか、兎に角他の肉とは明らかに違う色をしている。一言で表現するなら毒々しい色だ。あれが、抗生物質が蓄積された結果なら納得出来る。どう見ても、今目の前にある鳥のレバーとは色が全然違う。
 それにしても、晶子は料理に関して滅法強いなぁ。それは店の看板メニューを潤子さんに任されて、実際に客から好評はあっても不評はないことにも表れてる。店は生演奏が聞けることも魅力だが、繰り返し来たり客が客を呼ぶ状態になっているのは料理が美味いからに他ならない。
 前にマスターが、飲食店の基本は料理の味、と言っていたが、そのとおりだと思う。料理が不味い飲食店には、1回目は誰かに誘われたとかいう理由があるから来る可能性はあるが、それ以降は全く保証がない。来る可能性は回数に反比例かそれ以上の下落率で減少していくのは、料理がてんで駄目な俺でも目に見える。少なくとも俺は、飲み会とかの会場にならない限りはそんな店に2度も3度も行く気はない。出来ることなら1回でも御免蒙(こうむ)りたい。
雨上がりの午後 第2052回
written by Moonstone
 焼き鳥の肉で、鶏舎で飼っている鳥は運動不足で病気になりやすいから餌に抗生物質−要するに薬−を混ぜてる、って話があったな。人間でも運動している人とゴロゴロしてる人じゃ、肉の締まりが違ってくるのは想像出来るし、それは鳥でも同じだろう。
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