芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2005年3月31日更新 Updated on March 31th,2004

2005/3/31

[あー、もう1/4過ぎちゃうのねー]
 年明け早々に酷い腰痛に襲われて、それから悪化の一途を辿る(下り坂を転がり落ちる、とも言う)体調に苛まれながら朝から晩まで本業に追われ、東へ西へ出張に飛び、とかしていたらもう3月終わりです(汗)。結局この3ヶ月間はまともに更新出来なくて歯痒い思いの連続でした。
 時間が戻せるわけじゃありませんし、腰痛の原因が骨ではないことが分かりましたし、体調の悪化は山あり谷ありの回復途上では仕方ないこと。「これまで」を後悔するより「これから」を考えることにします。
 今日を境に進学される方、就職される方、色々いらっしゃることでしょう。私は年度が替わったからといって大きな変化はなくて、これまでのことを終結させてこれからのことを進めます。6周年を迎え、7年目に突入するこのページを、どうぞよろしくお願いいたします。
 その話は聞いたことがある。学部卒では就職範囲が狭まっていること、それを反映したような新たな高学歴志向などがあって、大学院進学が多くなっているという。半分くらいは院に進学するそうだ。

「その関係で、院生の粗製濫造みたいな傾向も生じてる。修士や博士はそう簡単に出せないから、レベルの低い院生は研究室には足手纏いだ。それに、教授もレベルの低い学生は就職でも教官推薦し難い。自分の責任問題にもなりかねないからな。そういうこともあって、この時期になると研究室の助手や院生が中心になって、成績優秀者を勧誘するそうだ。言わば上澄みの補充ってとこだな。」
「へえ・・・。」
「祐司みたいにサークルに入ってない奴にはその先輩を頼るっていう手段が通用しないから、さっきみたいに野志先生や堀田研の駒場先生のような助手が頃合を見て勧誘する、って方策を採るんだ。さっきの野志先生の話からするに、久野尾研は総出で祐司獲得に乗り出すみたいだな。」
「どうしてだ?」
「研究内容を説明するのはそれを担当する院生が主体の筈。てことはさっき野志先生が4年や院生を引き連れて出て行ったのは、昼飯もあるだろうし、説明の役割分担を指示するためだと考えるのが自然だ。少なくとも、歓迎一色になるのは間違いないぜ。」

 思わぬ形で研究室勧誘を受けることになったようだ。まあ、前に見学させてもらった時は全体をざっとなぞるような感じだったから、研究内容をしっかり把握出来るならそれに越したことはない。少なくとも、渋々という様子はなかったし。
 あ、補講が終わってからとなると、遅くなるな。晶子には補講は3コマで終わる、って言ってあるから、研究室の説明を受けるから遅れるってことを伝えないと。俺は窓際に寄ってメールを作成する。どういうわけか研究棟では携帯の電波の入り具合が全般的に良くないし、晶子は今昼休みで同じゼミの奴と話したりしているかもしれないからな。それに、室内で携帯を使うことにはいまだに違和感と言うか忌避感と言うか、そういうものがあることもある。

雨上がりの午後 第1838回

written by Moonstone

「もう水面下じゃ成績優秀者の奪い合いが始まってるって聞いてたけど、俺の目の前で展開されるとはね・・・。」
「奪い合いって・・・そんなことあるのか?」
「今は時勢柄、院に進学する奴が多いことは知ってるだろ?」
「ああ。」

2005/3/30

[CD入手]
 帰宅して夕食など済ませてから横になっていたのですが(睡眠障害再発に加えて疲れやすいので)、主に実家周辺を舞台として自分の精神がじわじわと崩壊していく様子を実体験するという、凄まじくリアルで嫌な夢(幻覚に近い)を見てしまって気分最悪。なまじこういう夢はカラーで(普段は色など覚えてない)なかなか頭から消えてくれないのが厄介です。まだ冷や汗が出ます。
 話変わって。昨日CD「ダンシング」を入手(遅)。悪夢の余韻を払拭するべくそれを聞きながらこのお話をしています。「ダンシング」が使われているドワンゴのCMを一度見たことがあるんですが、その時の写真とかがあると良かったな〜(髪型とかは今の方が好き)。シングルにそれを期待するのは無理ですけど。前評判が高いカップリング「through the River」は、確かに良いです。
 今回もインストルメンタルバージョンがないんですが、これは最近の傾向なんでしょうか?カラオケで歌われることを想定するなら、インストルメンタルは必要だと思うんですが、最近は携帯の「着うた」にシフトしていて、インストルメンタルはなくても良いや、ということ?「ダンシング」に限って言うと、音が凄く少ないので必要ないのかもしれませんが。
 俺は率直に答える。久野尾研に本配属を希望しているのは事実だし、こういう時には本配属希望の意思を明示しておくべきだ。野志先生は満足げな笑みを浮かべる。

「なかなか良い心構えだね。4年になったら是非この研究室に入ってよ。うちとしても、君には卒研(註:卒業研究の略称)やゼミでリーダーシップを発揮して欲しいからね。久野尾先生も是非に、と仰ってるから。」
「ありがとうございます。」
「3コマめは補講?」
「はい。」
「それが終わってもし君の都合が良ければ、うちでやってる研究の概要を説明したいんだが、どうだい?君の興味にあった研究が選べると思うよ。」
「良いんですか?まだ仮配属の段階なのに。」
「全然気にすることはないよ。むしろ、うちとしてもこちらの研究をよく知った上で君に研究テーマを選んで欲しいと思ってるから。補講が終わったら僕の居室に直接来てもらえば良いよ。」
「じゃあ、よろしくお願いします。」

 野志先生は部屋に居た4年と院生の人達に−ゼミで顔を覚えている−声をかけて、一緒に出て行く。どうやらこれから昼飯らしい。野志先生はこの大学の院を出て助手になった一人でまだ若い−20代後半だと聞いたことがある−こともあって、研究室の面々からも兄貴分感覚で親しまれている。

「完全に祐司勧誘モードだったなぁ。」

 智一が溜息混じりに言う。確かに野志先生は俺に照準を絞っていた。智一を度外視していたとも言えるが、何にせよ同じ場所に居ながら待遇の差が大きく表面化したとなると、同じく久野尾研配属を希望している智一には「来たければ来れば?」と暗に言われたように思えるだろう。

雨上がりの午後 第1837回

written by Moonstone

「お邪魔してます。」
「安藤君。新品のPCを買って、来年度からのうちの研究室への本配属に備えるつもりなんだね?」
「はい。そのつもりです。」

2005/3/29

[M&Aで見えてくること]
 体調?まだ駄目駄目です。気分転換を兼ねて別の話を。ライブドアによるニッポン放送買収で急に新聞などを賑わすようになった単語「M&A」。「企業の買収・合併」の略称で、アメリカでは日常茶飯事です。「M&A」の対照的位置づけの不採算部門の売却、なんてこともこれまた当たり前。アメリカの大手企業でそれらをしていない企業を探す方が難しいかもしれません。
 とりあえずM&Aに焦点を絞りまして・・・。アメリカ流市場経済万能論を推進している以上、政府やそれを支援する財界にライブドアのやり方は批判出来ません。自分達が推進する企業論理が自分達の利害に及ぶとなるや「企業風土」だの何だのと奇麗事を持ち出すのは身勝手の一言。証券等取引法改正が即座に国会に提出されたのも、ライブドアのようなやり方を阻止して大企業を守ろうとする(証券取引所に公開される株の企業は大企業と考えて差し支えありません)政府の財界擁護姿勢の表れです。阪神淡路大震災や中越大震災、そして先の玄海沖大震災などでも継続して挙がっている「個人住宅への公的保証」には一貫して背を向け続けているのとはあまりにも対照的です。
 しかし、ライブドアにしてもソフトバンクにしても、自身で事業拡大するのではなくて、先にあるものを金に物を言わせて取り込む様は結局、自身の経営手腕がないことを証明しているようなものです。自分では出来ないから金で美味しいところを買いあさるという・・・。やり方は違えどその姿勢には、かつてのバブル時代における不動産外車や証券会社と重なるものがあります。長続きはしないでしょう。
 そのまま智一の先導を受けて階段を上がり、久野尾研の学生居室に入る。週1回出入りしているとは言え、まだ仮配属中の身だから大きな態度に出るのは禁物。失礼します、と言ってから入る。

「祐司。机に置かせてもらえ。」

 智一の案内で机があることを確認してから、段ボール箱を静かに置く。見掛けほど重くないと言っても結構距離があったから息が多少上がっている。このまま持って帰るわけにはいかない。俺はカッターナイフを拝借して開封に取り掛かる。ダンボールは透明のテープで要所が繋ぎ止められてる形だから、合間に刃を通せばすんなり解体出来る。
 中を見てみると・・・スカスカだ。巨大な梱包財を一つ退けると、その中からA4サイズの箱とビニール袋に詰められた付属品その他が姿を現す。キャリングバッグも入ってはいるが・・・あまりにもスカスカだ。精密機器だから梱包を厳重にしたんだろうが・・・ここまでする必要があるのか首を捻ってしまう。
 まあ、兎も角こんな巨大なもので机を占拠し続けるわけにはいかない。残る梱包財を取り出してから付属品、キャリングバッグ、そしてPC本体を取り出す。あ、取扱説明書など書類一式も忘れちゃいけない。箱が空になったのを確認してから、カッターナイフで箱を解体。折り畳んでもかなりかさばる。
 改めて見てみると、PC関係のものより梱包材やダンボールなどゴミ箱行きのものの方が明らかに多い。とりあえずカッターナイスを返して、キャリングバッグにPC本体と付属品、書類一式を詰め込む。キャリングバッグに収まると呆気ないほど小さい。持ち運び出来るように、ってことでノートPCにしたんだから当たり前といえばそうなんだろうけど、此処まで運んできたダンボールの大きさを考えると、首を傾げたくなるものがある。それにこのゴミ・・・。ゴミ捨て場は各階にあるから良いものの、何回かに分けて運ばないといけないな。

「ん?何だ。随分派手にゴミが出てるな。」

 声の方を向くと、ジャンパーを羽織った野志先生が入って来るところだった。野志先生は久野尾研所属の助手で、学生実験では主にプログラミング関係を担当している。人当たりは温和で、週1回のゼミには大抵出席している。

雨上がりの午後 第1836回

written by Moonstone

 俺は生協の店舗を出て、智一の先導を受けながら雨がぱらつく通りを歩いて電子工学科の研究棟に入る。多少髪が水分を帯びたが、後で拭くなり何なりすれば良い。服は厚着だから、あの程度の降りなら後で干さなきゃならないとか気にするほどのものじゃない。

2005/3/28

[下り坂]
 天候のことではありません(こっちもそうらしいが)。自分の体調です。兎に角身体が気だるくて、何もする気が起きませんし、出来ません。こんな有様ですのでメールなどのお返事も出来てません。御免なさい。もう暫くお待ちください。
 このまま何もしないで次回更新をやり過ごすのは嫌なので、携帯用ページの方を少し手がけたいと思います(携帯用ページの更新情報はPC用ページには反映されないんですけどね)。流石に加工に時間を要する写真は無理ですが、小説の方なら何とか出来ると思うので。
 上半身は半袖になるほど暑いのに、下半身は厚手のズボンに布団を被せても尚寒い(冷たい)と感じるのは今に始まったことじゃありませんが、土日になるとそれが余計に酷くなるのは何故?今年度残すところあと数日。果たしてどうなることやら・・・。
 とは言うものの、こんなものどうやって持って行けば良いんだ?外は雨降ってるし、見るからに重そうだし・・・。考えていても始まらない。とりあえずダンボールを持ち上げてみる。・・・あ、見た目よりずっと軽い。両手で十分持てる重さだ。問題はソフトのパッケージだな。幾ら軽いと言っても片手ではちょっと無理だ。

「祐司。ソフトは俺が持った。先導するからついて来い。」

 智一が横から声をかけて来る。単に暇潰しについて来たわけじゃないと暗に言っているのが分かる。何だかんだ言っても智一は良く分かっている。

「悪いな。」
「気にすんな。今日は雨降りだし、人手があった方が良いだろ?」

 智一はさらっと言って前に出る。智一の先導を受けて俺はダンボールを抱えて歩く。何分大きいから前が見えない。智一の先導が頼りだ。通常の講義の日程は終わっているとは言え、昼休みということで結構混雑している店内を歩く。前で退いた退いた、という声が聞こえる。智一が先導してくれているのが良く分かる。

「雨は幸い小降りだな。このまま研究棟まで行くか?」
「ああ。ダンボールなら濡れても構わないから。」
「お前の傘は俺が持つ。ソフトは念のため濡れないように俺が傘を差していく。そのまま先導するからついて来いよ。」
「分かった。」

雨上がりの午後 第1835回

written by Moonstone

「こちら、控えになります。」
「どうも。」
「ありがとうございました。」

2005/3/27

[御免、断念(汗)]
 寝たのが早かったのに起きたのは夕方近くでは話になりません。取り繕った作品でやり過ごしたくないので、今回も更新は断念して次の更新に備えることにします。
 兎に角身体の具合が良くありません。何て言うんでしょうね・・・。風邪をひいた時のような倦怠感が全身に隈なく広がって重くなった感じ、とでも表現しておきます。腰痛に加えて頭痛も出て来たので、普通なら「待ってました」の休日が憂鬱でなりません。今年になってからは特に。
 今日1日でどれだけ書けるか、で次回の更新量が決まります。メールなど幾つかいただいているのですが、そのお返事は一仕事終えてからにさせていただきます。・・・何も出来ない可能性も無きにしも非ずですが(汗)。
 智一と一緒に昼飯を食べた後、その足で生協の店舗へ。目的は勿論PCを受け取るため。智一もついて来ている。「どんなPC買ったのか興味があるから」というのがその理由だ。好奇心の変形と見て間違いないだろう。

「安藤です。注文しておいたPCを受け取りに来ました。」

 俺は生協の組合員証をカウンターに差し出す。これがないことには注文したPCを受け取れないし、割引も効かない。

「はい。少々お待ちください。」

 カウンターに居た女性が奥に消える。・・・やけに時間が掛かるな。ノートPCだし、ソフトは1パッケージタイプのものだから、そうかさばらない筈だが。
 と思っていたら、優に一抱えはある巨大な段ボール箱が近づいて来た。もっている人の顔は段ボール箱に隠れて見えない。その段ボール箱がでん、とカウンターに置かれて、ソフトのパッケージがその脇にちょこんと置かれる。何でこんなに大きいんだ?

「お待たせいたしました。受領証にサインをお願いいたします。」
「・・・あ、はい。」

 呆けていた俺は男性の声で−段ボール箱を抱えてきた人だ−俺は我に帰り、差し出された受領証の内容を確認してからサインをする。ちなみに代金は前金で払ってある。予め注文内容を所定の用紙に書いて、金と一緒に生協の店舗に差し出す、というパターンを使った。俺が今回注文したPCのメーカーは、そういう方法で注文を受け付けている。

雨上がりの午後 第1834回

written by Moonstone

 そして昼休み。補講といってもすることは普通の講義と変わらないから、それなりに疲れは溜まる。レポートは出したし、年末に向けて着実に前進しているように思う。

2005/3/26

[急に冷えて来ました]
 暖かい日が続いていたところにいきなり冬場に逆戻りしたかのように冷え込んで、何やら身体の調子が良くありません。不調なのは前からですけど、春に向けてどうにか順応してきたところで足を引っ掛けられのは、寒さを大の苦手とする私には辛いところです。
 というわけで今日付の更新は見送りました。早朝覚醒が出て来たせいで寝不足が蓄積しているのもありますし、先週は「光哀の日」参加作品その他の準備を徹夜で決行した代償で今日付の更新に繋げるものが何も出来なかったので・・・。
 年明け以降崩れに崩れている更新ペースを立て直そうとしてはいるのですが、体調不良になったり仕事が増えたりで思うように進まなくてイライラが募っています。どうせこの土日は買い物以外では外に出ないので(何時ものことですが)、建て直しに向けて力を入れたいと思います。
 翌日はやっぱり朝から雨だった。勿論待って止むのを期待するわけにはいかないから、晶子と一緒に傘を差して大学へ。そして文学部の研究棟まで晶子を送り届けてから工学部の講義棟へ。これまでと同じ流れだ。
 まだ生協は開いてないから−夜は遅いが朝も遅い−講義室の中央やや前方の席に陣取って待機。提出するレポートは出してある。今回のは比較的簡単だったせいか、クローン培養要請は来ていない。何もすることがないから、頬杖を付いてぼんやり時が流れるのを待つ。

「おっ、今日も早いな、祐司。」

 講義開始時刻まで後5分となったところで智一が入って来る。智一は何時ものように俺の隣に座る。

「今日も晶子ちゃんと一緒に出勤か?若いって良いねえ。」
「俺と1つしか違わない智一に若いって言われたくないな。」
「まあ、細かいことは気にするな。」

 智一の場合は大雑把過ぎると思うんだが・・・まあ良い。周囲を見回す。人はさほど多くない。この講義は2年の後期の必須科目と重なっていて、その講義も故意か偶然かこのコマに補講があるから、それを落としていると取ろうにも取れない。その講義では半分以上が単位を落としているから、その分人が減るというわけだ。
 当然ながら、必須科目の単位を落としていると留年になる。3年から4年への進級条件では必須科目の単位数が効いて来る。それで引っかかって留年、というパターンが多いらしい。俺は今のところ順調に受講した講義全ての単位を取得しているから、その点では問題ない。
 教官が入って来た。教壇の前に立つと、早速テキストを広げる。高校までのように通過儀礼のような挨拶なんてないから、教官が入って来た時が講義の開始と言える。専門科目ではよりその傾向が強まっているように思う。まあ、何にせよ補講の幕は開けたんだから、年納めの一環として講義に集中しよう。

雨上がりの午後 第1833回

written by Moonstone

 明日はどうやら雨模様。まあ、慌てることはない。少なくとも今は・・・。歩けるときは歩こう。休めるときは休もう。そうした方が自分のためだ。俺という存在は今しかない。そして今ある関係は俺が居なければ抹消されるだけだ。少なくとも晶子には・・・そんな思いをさせたくない。

2005/3/25

[まだCD来ない・・・]
 此処の連載でもよく登場する倉木麻衣さんのシングル「ダンシング」がまだ届きません。今回は発表間もなく予約したんですが・・・。果てさて。その倉木麻衣さんはついこの前大学卒業。大学卒業なんて私にとっては○年(音声処理が入りました(笑))前の話なんですが、感慨とかはなかったです。
 別に大学生活がつまらなかったわけではありません。そりゃ確かにレポート作りにPC駆り出して夜中の2時までかかって、翌日寝不足でふらふらになりながら出向いた、なんてこともありましたが、夜中までかかることは今じゃざらですからね(それもどうかと思うが)。
 もう一度大学に行きたい、という気持ちはあります。博士号が欲しいと仕事柄思うことが多々あるので。特に最近は。此処のリスナーの方で学生さんがどれだけいらっしゃるのかは皆目見当が付きませんが、勉強にしろ遊ぶにしろ、学生時代に思う存分やっておいた方が良い、とだけ言っておきます。

「これでいよいよ、どちらのものか見分けが付かなくなりましたね。」
「違うと言えば・・・アドレス帳くらいか?俺の携帯には俺のは登録してないし、晶子のもそうだろ?」
「そうですね。自分の携帯に自分の携帯の電話番号は登録してませんし。」

 機種も色も同じ。ストラップも同じ。待ち受け画面も同じとなると、益々見分ける要素がなくなる。まあ、どちらがどちらのものを持っても差し支えないなら、それはそれで良い。俺が考え込む要素が減るんだから。

「今日、同じゼミの娘に言われたんですよ。着信音は旦那の手作りなら待ち受け画像はどうなのか、って。私は前に説明書を読んで何気なしに見ていたら、さっきの子犬の写真を見つけてそれにしたんですよ。そう言ったら、流石の旦那も待ち受け画像までは無理か、って言われました。」
「待ち受け画像に出来るような写真とかないからな。」

 音楽はどうにか出来るが写真となるとお手上げだ。出歩く範囲といえば大学と家−今は晶子の家だが−の往復。ごく偶に小宮栄。待ち受け画像として見せびらかせるような写真を撮る技術もセンスもなければ、そういう場所も知らない。そういう時は最初からあるものを使うのが無難だ。

「明日、私は何時もの場所で待ってますから。」
「ああ。終わったらメール送るよ。」

 俺は1コマめから3コマめまで補講。晶子は1コマと2コマめ、つまりは午前中で終わる。だが、帰りは一緒と決めている。此処暫くずっと大学への行き来は一緒だったこともあって、もう1人で行く気になれない。別に冬休みはあそこへ行こうとかそんな話があるわけでもない。互いの存在と2人で居る時間を確認する。ただそれだけだが、それが関係を維持する上で大切なことだ。

雨上がりの午後 第1832回

written by Moonstone

 晶子は子犬の写真を選択して、「これにしますか?」の確認メッセージに「はい」を選択する。すると、待ち受け画像が未来都市から子犬に変わった。呆気ない。ついさっきまで深々と考え込んでいたのが、あまりにも馬鹿馬鹿しく思える。こんなことなら「待ち受け画面見せてくれ」とでも言えば良かった・・・。それを思いつかなかった俺の思考の幅の狭さに問題があるんだが。

2005/3/24

[失敗(がっくり)]
 ずっと(頭の中で)試行錯誤してきたプログラムをいざ実行してみたら効果なし。アルファベットだけだったら出来たんでしょうけど、漢字が混ざると無理みたいです。世の中そんなに甘くないか・・・。別の手を考えるしかなさそうです。
 あ、「投票所Comet」の投票数が100に達しました(嬉)。3つの長編連載作品がTOP3を占めています。知名度から言えば「魂の降る里」の方が圧倒的に有利なんですが(第100章公開後に票が増えたことは知ってます(笑))、「雨上がりの午後」も頑張っていますし、ファンタジーものとしては異色の「Saint Guardians」が結構票を伸ばしています。最近更新が滞っているのが申し訳ないです(汗)。うう、次回こそは・・・。
 投稿用原稿(Webページ用のものではありません)とPCとを睨めっこする日々が続いて、慢性疲労みたいなものがなかなか取れません。このところなりを潜めていた早朝覚醒も復活してきましたし・・・。早く片付けていかないと(汗)。

「俺のは買った時のままだよ。」
「あ、そう・・・ですよね。着信音作ってもらってましたし。」
「そういう晶子は・・・どうなんだ?」
「私のはですね・・・。」

 晶子は俺から見て左側の携帯に手を伸ばして、俺の前で広げて操作して見せる。・・・あ、俺のと違う。俺のは漫画なんかであるような未来の町の風景だが、晶子のは子犬だ。何処で手に入れたんだ?

「これって・・・どうしたんだ?」
「携帯に最初から入っていたものですよ。」
「え?」
「携帯の中に待ち受け画面の候補として、何枚か画像があるんですよ。その中から選んだんです。可愛いな、と思って。」

 内蔵のものから選んだだけか・・・。そんな機能あったのか?携帯の機能で覚えたものと言えば、電話とメール関係、そして着信音関係。そう言えば画像関係はからっきしだな。

「そんな画像、あるのか?」
「ええ。ちょっと貸してもらいますね。」

 晶子は自分の携帯を置いて俺の携帯を取って開く。そして1つ1つ辿るようにボタンを操作していく。そして現れたのは、3×3のサイズで並ぶ画面。・・・あ、晶子の待ち受け画像と同じ子犬の写真がある。なるほど、こうなってるのか。

「こうやって選択していけば良いんですよ。変えますか?」
「ああ。この際だから、晶子と同じやつにしておいて。」
「じゃあ、そうしますね。」

雨上がりの午後 第1831回

written by Moonstone

「祐司さんの待ち受け画面って、どうなってます?」

 何だか危険な臭いがしてきた。・・・否、晶子から言ってきたってことは、言えるようなことなんじゃないのか?

2005/3/23

[Open Window]
 このコーナーはJavaScriptで開いたサブウィンドウで展開されるのですが(JavaScriptのファイルを読んでURLを直接叩くのは反則です)、Service Packという名の大幅機能変更を伴うWindows XP SP2だと開かない可能性があるようです。このところ掲示板プログラムのセキュリティ機能強化関連で、「JavaScriptを無効にされたらアウトだよな」なんて思って(こんなこと考えたくないんですが)色々調べているうちに判明したんです。
 アクセス数は分かるんですが、OSやVersionまでは分かりません。現在販売されているPCのWindows XPにはSP2が適用されているようですが、それ以前の方も当然居られるでしょうし、Windows XP搭載機種でもSP2はこれまでのソフトが動かなくなる可能性がある、ということであえて適用していない方も居られるでしょう(こんな出鱈目なことが通用すること自体変ですが)。
 「本館・創作棟」は全て同じウィンドウで開きますし、ここだけあえて別ウィンドウで表示する必要性もなくなって来てはいます。タブブラウザ(Firefoxとか)だと別ウィンドウで表示させたつもりでも意味ないし(汗)。開始以来の馴染みのスタイルなので変えるのもな〜、とも思いますし・・・。考えています。

「顔色、悪いですよ。具合悪いんですか?」
「否、何でもない。・・・そんなに顔色悪いか?」
「ええ。」

 心配させちまったな・・・。俺は笑みを作って晶子の手に自分の手を重ねる。俺が晶子に心配かけてどうするんだよ・・・。

「考え事してたら、深みに嵌まり込んじまっただけだから・・・、心配ない。悪いな。心配かけて。」
「そんなことは良いです。それより、具合は悪くないんですね?」
「ああ、それは大丈夫。考え過ぎただけだから。」

 晶子の表情が次第に晴れていく。具合は悪くない。考え込んでいるうちに傍から見ればどうかしたのか、と思ってしまうような状態になっていたんだろう。やっぱりこの年末年始、晶子と一緒に過ごすことにして良かった。一人だったら行き詰っていたに違いない。
 晶子と付き合っていなかったら悩む原因はなかった、と言えるかもしれない。だが、宮城との付き合いが続いていても続いていなくても俺は大学、宮城は短大という学生時間の長さは今年になって決定的なものとして表面化する運命にあった。学生と社会人の交際の話をあまり聞かないのは、それだけ過ごす時間が違うと言うことでもある。たとえ続いていたとしても、過ごす時間のずれはやがて今と同じ結果に結びつくことになっただろう。
 ・・・また考えてしまった。どうしても何かにつけて深入りしようとする癖が、大学に入ってからついてしまったように思う。高校までと違って個人が前面に出る大学に進学したせいだろうか。

「こう見てると、どちらが誰の携帯か分からないですね。」

 晶子の言葉で、俺はさっきの思考の泥沼を思い起こす。その携帯で俺は・・・。晶子に何も責任はないのは分かってるが。

雨上がりの午後 第1830回

written by Moonstone

「お待たせしました。・・・どうしたんですか?」

 声に気付いて横を向くと、薄いピンクのパジャマに半纏を羽織った晶子が居た。俺の右肩に手をかけて不安げに俺を見ている。

2005/3/22

[系列作って「公共」言う奇行]
 徹夜の代償はやっぱり大きくて、起きれたのは昼過ぎで、その後も重い頭痛が続いています(汗)。もう一晩寝れば回復するでしょうが、やっぱり今の身体で徹夜なんてするもんじゃない(健康な人もすべきではありません)と改めて思い知りました。
 さて、ニッポン放送を巡るフジテレビとライブドアの経営権争奪戦は、法廷ではひとまずライブドアが勝利。ライブドアがニッポン放送の経営権獲得を目指していることが次第に表に出て来て、フジテレビは「公共」を引き合いに出してきています。公共の電波が支配されるのは問題だ、などと。
 「公共」。フジや読売などの右翼メディアが国民統制を持ち出す際の常套文句です。電波に限らず新聞やTVといったメディアは、在京本社を筆頭にした少数の系列会社に支配されています。全国何処でも殆ど同じ番組が視聴出来ることが何よりの証明です。狙われているのがニッポン放送ではなくて日本TVだったら読売新聞が黙ってはいない筈です。そして、政府与党の「大本営発表」や方針を既成事実化して垂れ流しています。そこに「公共」などありません。系列守護のために「公共」など使わないでいただきたいものです。
 暇を見てちょこちょこ入力してきたが、今日完成と相成った。ギターソロバージョンの「Fly me to the moon」と「明日に架ける橋」。どちらも晶子のリクエストで、晶子が居るゼミなんかでは随分好評だと言う。限られた数のボタンで1音1音入力するのは大変だったが、何より晶子に喜んでもらえて良かった。
 俺は指定席に戻って、テーブルに2つ並んでいる携帯を見る。同じ機種の同じ色の携帯。ストラップまで同じだから、閉じてある今は置いた場所を知っている俺と晶子しか区別出来ない。その俺と晶子も、別の場所でシャッフルされて「さあ、どっち?」と差し出されたら、恐らく区別出来ないだろう。
 区別が付かない・・・。そう言えば、待ち受け画面がどうとか聞いたことがあるな。俺は買った時のものそのままだ。携帯を買ってからというもの、晶子とメールをやり取りするか着信音を作るかのどちらかだったし、元々携帯には電話とメール以外の機能を求めていなかったせいもあってか、待ち受け画面を弄る気持ちどころか気になることさえなかった。晶子はどうしてるのかな・・・。
 見ようとして晶子の携帯に手を伸ばしたところで、止める。俺に見られたくないものだったら・・・どうする?晶子が俺に見られたくないもの・・・って・・・何だ?思考が交錯する。混乱する。見たい。見たくない。見られたくないもの。色々な想像が浮かんでは消え、浮かんでは消え、を繰り返す。だんだんその速度が増してくる。
 ・・・俺は手を引っ込める。考えちゃいけないことを考えちまった。晶子を疑うことはしちゃいけない。信じないと・・・駄目だ。相手を疑うことが先行するようになった時に破滅への落とし穴が開く、ってことは、去年の騒動で改めて思い知った筈だ。
 携帯を持って連絡が簡単に取れるようになったのは間違いない。だが、晶子に関して新たに1つ秘密の部分を持ってしまったように思う。晶子が俺に実家絡みのことを殆ど話したことがないのは、実家と半ば断絶関係にあるからだということは知っている。今の大学に入り直したことも断絶の一環だ。どうしてそういう経緯を辿ったのか、という秘密の核心部分は想像の域を出ない。
 そのことについて俺は聞いていない。晶子は一部しか話していない。余程言いたくない辛い記憶があるからだろう。そこに「彼氏」を理由に無理矢理手を突っ込んだら、俺と晶子の関係を壊す爆弾の起動装置に作動させてしまいかねない。それだけは真っ平御免だ。永遠に続くと思っていた関係が壊れることの辛さ、それが残す爪痕の深さは、俺もそれなりに分かっているつもりだ。
 だから、聞かないで来た。都合良く忘れていた。それで良かった。なのにこんな時になって・・・。どうして・・・俺は・・・。

雨上がりの午後 第1829回

written by Moonstone

 TVで天気予報を見れば良いんだろうが、TVを見る気はしない。元々この曜日のこの時間帯は実験が終わって教官の設問を受けている頃だから、ただでさえ縁遠いTVがさらに縁遠くなる。この町に来て一人暮らしを始めて以来TVからは遠ざかる一方で、レポートが増えた今年からは見た回数を指折り数えられる。TVを見ている暇があるなら、レポートを書くか店で使うデータを作るかする。あるいは、携帯の着信音作りか・・・。

2005/3/21

[頑張りました(汗)]
 「体調悪いのを理由に更新サボってるんじゃないか?」という声が聞こえて来そうですが、今日から1ヶ月間開催される「光哀の日」に併せたSide Story Group 3の活動開始前倒しに便乗して、撮影したままお蔵入りになっていた梅の花の写真公開などを徹夜で準備しました。一旦寝てしまうと起きるのさえ億劫になる最近の傾向(病状)を踏まえ、「起きてるうちにやってしまえ」と強行作戦に出ました。
 その甲斐あって満足出来るラインナップとなりましたが、徹夜の代償は流石に大きくて、昼、夜の食事は殆ど食べられませんでした(汗)。吐き気がして食べ物を受け付けないんです。
 でもって、このお話をしてから寝ます。始動したSide Story Group 3をはじめ、公開内容をゆるりとお楽しみくださいませ。一晩寝てすっきりしたら、次の公開に向けて作品執筆だー(気合足りない)。
 自分に言い聞かせるべく、晶子と面と向かって宣言する。留年したら親との取引条件や先の宣言に反するから、そんなことはしたくない。それに、俺が留年で足踏みしていたら、晶子と入籍どころじゃなくなる。晶子だって相手が留年していると知られれば、肩身の狭い思いをするかもしれない。
 俺は色々なものを背負っている。間近に迫った進級のこと、卒業後の進路のこと、そして晶子の想い・・・。何かと不器用な俺だ。一挙に全て解決とはいかないかもしれない。ならば、1つ1つ解決していこう。時間の許す限り考えて、納得出来る形で、そして後悔しないように・・・。

 風呂から上がって、晶子と入れ替わりでリビングに戻った俺は、ふと窓に視線を移す。買い物の時は本降りになりそうでならないままだったが、今はどうなんだろう?明日は補講に出席したついでに注文しておいたPCを受け取りに行くから、晴れていてほしいんだけどな・・・。
 クッションから腰を上げて、徐に窓に歩み寄る。厚手のカーテンを少し捲って外を窺う。黒一色の中に明かりが転々と浮かぶ光景は、何時もの夜と変わらない。晶子の家の窓は南に面しているのもあって、通りの音が聞こえない。俺の家は1階にあって通りに面しているから、ロードノイズで道路の表面に水分があるかどうか、つまり雨が降っているか−或いは止んだあとか−どうかがある程度分かる。
 窓の鍵を外して−女性専用マンションらしく2重ロックになっている−手がやっと通せるほどの隙間を空ける。サア・・・と薄い一定のノイズがその隙間から入ってくる。どうやら本降りになったようだが、降り具合は大人しい。
 窓を閉めて鍵を閉める。まあ、明日雨なら雨で仕方ない。持ち運び出来るようにとPCと一緒にキャリングバッグも注文しておいたから、PC本体と付属品をバッグに詰め込んで箱は大学のゴミ捨て場に捨てて来る、という手段も取れる。ダンボールを解体するカッターナイフは、久野尾研で借りれば良いだろう。週1回のゼミで一応顔は覚えてもらっているから、その辺は問題ない。

雨上がりの午後 第1828回

written by Moonstone

「大学院の人や先生達はオブザーバーなんですよね?」
「ああ。先導する以上は自分で分かってないと出来ないし、卒業研究の内容次第では、卒業研究とゼミの先導で手がいっぱいになって、それまでに落とした講義まで手が回らなくなる可能性もあるんだ。」
「祐司さんなら絶対入りたい研究室に入れますよ。」
「今の研究室に入りたいから、後期の試験は絶対突破する。」

2005/3/20

[今日からスタート・・・のつもりだったんですが]
 ちょっと待ってください(汗)。昨日も意気込みとは裏腹に昼過ぎまで寝ていて、新作を書き下ろしたら更新時間が迫っていたので、新グループ立ち上げは企画発動の今日に延期しました。いい加減な形で新作を公開したくなかったですし、やっぱりいい加減に新規グループを立ち上げたくなかったので・・・。
 ご覧のとおり、TOPページの「本館・創作棟」は先んじてレイアウトを変更しました。まあ、場所を入れ替えた程度ですが、スタイルシートは使わない主義ですし(IEの言いなりになりたくない)、無闇にJavaScriptを使うと今度はプログラムに時間を食われてしまうので、従来のレイアウトの一部変更という形にします。
 よって、明日も更新します。新規グループ立ち上げの他、写真撮影はしたもののお蔵入りになっていた写真も掲載したいので。時期を考えると今週を逃すとまたお蔵入りになるので(まあ季節感を気にしなければ良いんですが)、これから頑張ります。
 俺は携帯を見せびらかすつもりはない。晶子とのペアリングにしても、意識的に見せびらかさないようにしている。晶子との付き合いを隠すつもりはないが、大っぴらに公言して回るようなものじゃないと俺は思っている。他人の惚気話を聞いてうんざりする人間も居るだろうし、何処までが日常会話で何処からが惚気話かは、人によっても違うものだ。

「実験って確か、原則4人でグループになって取り組むんでしたよね?」
「ああ。実験の分野や相性って言うのか・・・、例えばPCのプログラミングが得意だとその手の実験が極端に早く終わったりするけど、そういうのを除けば、基本的にグループそれぞれの実験に手がいっぱいで、他の奴に構ってる余裕・・・なんてない筈なんだけどな。」
「私は3年からゼミに配属されましたし、ゼミそのものも10人くらいの少人数ですから、今みたいに学部学科共通の講義が少なくなってくると、大抵ゼミの部屋に居るんです。学科自体、人数が多くないっていうのもあるんだと思いますけど。」
「俺の学科は学年が上がるにつれて多くなって来てる。4年進級までストレートに進めるのは半分くらいだって聞いたことがあるし。」

 詳しくは知らないが、4年進級時の条件になる全体の単位数や必須科目の単位取得数で引っかかってあえなく留年、というパターンも結構多いらしい。1、2年の一般教養を甘く見て専門科目の講義と重なって出席しようにも出来なくなったり、3年までの必須科目の単位を落として3年次の講義に重なって、これまた出席しようにも出来なくて取り逃す、という悪循環の構図だ。
 だから俺が居る3年の学年名簿の名前は、かなり多い。きちんと数えてはいないが、1年の時の1.5倍はあると思う。4年進級時で足切りを食らった人がそれだけ居る、ということだ。4年きっかりで卒業、というのが一人暮らしと大学進学の取引条件だし、先に4年で卒業すると宣言した以上は間違っても留年は出来ない。

「厳しいですね、本当に。」
「確かに厳しいけど、今度の後期の試験をクリアすれば、4年は卒業研究に専念出来る。今はその準備期間だと思ってる。4年になって今仮配属になっている研究室に本配属になったら、今度は今出てる週1回のゼミを先導しないといけないのもあるし。」

雨上がりの午後 第1827回

written by Moonstone

 だけど、大学では横の繋がりは殆どない。俺がサークルやクラブに入ってないこともあるんだろうけど、智一以外とは5分と喋ったことがないように思う。レポートのクローン作りに関しては別だが、人間同士の付き合いとは全然違う、利用するかされるかの軽薄な関係。バイトで気の良いマスターと潤子さん、そして晶子と一緒に好きな音楽と触れ合いながら働いていることで、その分の埋め合わせは出来ているように思う。

2005/3/19

[明日に向けて]
 最近休日となると格段に体調が悪化するので、生憎今日公開出来る作品はありません(厳密には2つあるんですが)。トップ最上段にリンクを掲載している協賛企画への参加作品公開(こちらも未着手)に併せて、前倒しで新規グループを立ち上げるつもりです。「参加予定」としたので極端な話、参加出来ないならそれでも良いのでしょうが、ただでさえこのところ更新ペースが鈍化しているので、今日は協賛企画参加の準備も兼ねて公開出来る作品を制作します。
 本業の方はどうにか目処をつけてきました。雑誌投稿用の論文添削、電子回路の動作試験、サーバーサイドプログラムのセキュリティ向上対策、それらに関係する資料調査・・・。ざっと挙げればこんなところです。寝不足気味なので昨日は早めに帰るつもりだったんですが、論文添削に思いの他時間が掛かって、結果昨日も12時間以上職場に篭ってました(汗)。
 最も厄介なのは論文ですかね。何しろ専門外のことが多くて・・・。それでも今回は日本語なのでまだましです。次は欧文雑誌に投稿するために全部英語で書かないといけないので。読むのと話すのはそれなりに出来るんですが、書くのは習慣が出来てないのでなかなか・・・。
 俺と晶子は揃って電話を切る。手を伸ばせば届くどころか抱き寄せられるほどの距離に居るんだから傍目から見れば馬鹿馬鹿しいだろうが、俺と晶子にとっては必要なことだ。相手の携帯から共通の着信音が流れる。ただ「猫の鈴」として持ったわけじゃない証明が、これで新たに1つ定着したことになる。

「文学部では、携帯の所有率とかはどうなんだ?」

 ふと思い浮かんだ疑問を口にする。携帯を持ってない方が珍しい、と以前智一が言っていたし、晶子からもそんな趣旨のことを聞いたが、周囲を囲むほど注目を集める要素なんだろうか。

「私が知る限りでは誰もが持ってます。私が居るゼミでは男女問わず全員持ってますよ。私1人だけ持ってなかったんです。」
「だから余計に注目されたのか。」
「ええ。祐司さんから初めてメールを貰った月曜日に、携帯を出した瞬間『どうしたの?!』って声が上がって、直ぐ囲まれてしまったんです。何時買ったのか、とか、旦那とお揃いなのか、って質問が次から次へと飛んで来て・・・。大騒ぎになったんですよ。」
「俺は月曜日は実験だし、学科の奴とは智一以外とは付き合いが殆どないせいもあるんだろうけど、別に何事もなかったな。今でも携帯を弄るのは大体実験の合間とか家に帰ってからだし。」

 高校時代はバンド仲間や宮城との付き合いが楽しかった。軽口を叩き合ったり、進学校ならではの小テストの連続や模試対策を兼ねたバンドの練習で学校に泊り込んだり、宮城と放課後に繁華街で繰り出したりした。そこには人間同士の生の交流があったと思う。

雨上がりの午後 第1826回

written by Moonstone

「はい。目の前に居る祐司です。」
「貴方の目の前に居る晶子です。これも凄く良いですね。」

2005/3/18

[労働貴族の成れの果て]
 「景気は緩やかな回復傾向」「企業の業績が史上最高を更新」・・・こんな見出しが新聞などでよく見られますが、果たして景気回復の実感は感じられるでしょうか?それを端的に表すのが春闘の一斉回答。「一時金満額回答」などそれこそ景気の良い見出しが躍っているわけですが、とても喜べるものではありません。
 「ベースアップ(定期昇給)はゼロが当然。賃下げの方向」というのが日本経団連の方針。その証拠に軒並み最高の業績を上げている自動車、鉄鋼、電機大手の一斉回答は、一時金こそ満額回答があってもベースアップなしばかり。一時金は「何ヶ月分」という形で出ますから、今後の業績次第で一時金が前年割れする可能性だって十分あります。
 「企業の業績が回復すれば景気は良くなる」とよく言われますが、企業の業績が良くなっているのに労働者の賃金は下がる一方。そして企業の業績更新の裏には、「リストラ」の美名の下での人員削減や「業績主義」による体の良い人件費削減によるただ働きや長時間過密労働が横行し、労働者の健康被害が深刻化しています。労働者の生活実態を見ないで「景気が良くなっている」などと言うのは、組合費で食っていける連合の幹部、すなわち労働貴族や企業からの広告費が欲しいマスコミ、献金が欲しい政党(奇しくも企業側の政党と労働貴族の政党が同じことを言っている)、御用学者くらいです。労働者の生活向上のために戦わない労働貴族で構成する、労働組合という名の貴族会議など不要です。
送信元:安藤祐司(Yuhji Andoh)
題名:祝・着信音完成
では聞いていただきましょう。

796744  何か気障だな・・・。ま、良いか。メールを送信する。俺の携帯の液晶画面に「送信完了」のメッセージが表示されて直ぐ、晶子の携帯が「明日に架ける橋」を鳴らし始める。晶子はしっかり1フレーズ鳴らしてからボタンを操作する。表情はいたって明るい。夕飯前の「騒動」が嘘のようだ。その方が良いんだが。

「届きました。ちゃんと聞きましたよ。凄く綺麗です。」
「そうか。良かった。じゃあ次は電話だな。」
「あ、電話は私からかけます。」

 俺が携帯のボタンに指を乗せたところで晶子が止める。

「私から祐司さんに電話かけたかったんですよ。今まで祐司さんからメールや電話をもらうことの方が多かったですから、私からかけてみたくて・・・。」
「それじゃ、頼めるかな?」
「はい。」

 晶子は携帯を操作する。携帯に添えられた左手の薬指の指輪はやっぱり目立つ。そこに指輪を填めることの大きな意味が、広く深く定着しているのもあるんだろうな。大学の昼休みに生協の食堂で昼飯を食べていると、見知らぬ奴が俺を見て一瞬驚いた様子を見せることが時々あるが、目に入るんだろう。
 俺の携帯が「Fly me to the moon」を奏でる。「うわっ、電話か」と驚くより「あ、電話だ」と耳に馴染むフレーズ。自分でアレンジしたものとは言え、一風変わったお洒落な着信音としての体裁を成している。やっぱり晶子の助言どおり、完成として良かったようだ。俺は1フレーズ鳴らしてから、液晶画面に「井上晶子」と表示されているのを確認して、フックオフのボタンを押して携帯を耳に当てる。

雨上がりの午後 第1825回

written by Moonstone

 俺と晶子はそれぞれ携帯を操作する。晶子は待ち受け画面に戻せば良い。俺は「新規メール作成」を選んでテスト用メールを作る。

2005/3/17

[セキュリティ強化週間]
 まだ実験と測定は続いていて(長い(汗))、その間は別のプログラミングをしていたのですが、試行錯誤の末に目標としていた機能は実現出来ました。1日印刷したソースコードとCRTと睨めっこするか、CRTを前に唸っているかで、昨日も区切りが付いたと思ったら、私以外誰も居ませんでした(汗)。
 話変わって、竹島問題。島根県議会が「竹島の日」の条例案を可決したことで、領有権を主張する韓国の反発が高まっています。無人島の竹島の領有権を日本が主張したのが1905年、ということが韓国の反発の背景の一つにあるのでしょう。何せその当時は天皇制政府による朝鮮植民地化が進行中でしたから、侵略戦争を美化するなど右翼化が強まる日本の現状を見て、自分達を苦しめた日本の領有権など認められるか、という思いなのでしょう。
 今は1998年の新日韓漁業協定で、竹島周辺の水域はどちらの領海でもない暫定水域となっていますから、韓国側は領土化の既成事実を積み重ねるようなことや一方的な領有化を宣言するようなことはしてはなりませんし、日本側は韓国側の反発の背景を考慮しなければなりません。侵略戦争の反省を根本からしていないツケが今日本に回って来た、と言えるでしょう。
 夕食が出来て晶子と一緒に食べた。1cm角のサイコロ状にカットされた鶏肉とシメジを具にしたグラタンは熱くて美味かった。白菜や大根といった冬野菜をこれまた1cm角にカットして具にしたトマトスープは程良い酸味がグラタンと相性が良くて、ポテトサラダは言うまでもなかった。薄切りの大根と人参のマリネ(註:洋風漬物。日本の漬物で糠や塩を使うところを、主にサラダ油と酢を使う)も良かった。
 晶子が洗い物を済ませて戻って来たのを受けて、晶子からOKを得た着信音を晶子の携帯に送る。晶子の携帯とでは赤外線通信が出来るから、もちろん今回もそれを利用する。晶子には携帯を広げてもらって、ボタンがある面の下側を突き合わせるように向かい合わせる。
 赤外線通信と言うと仰々しく聞こえるが、とどのつまりはTVやエアコンのリモコンで使われているものと同じだ。電化製品のリモコンでは企業毎に割り振られた番号や所定の機能を、これまた0と1の羅列にして送受信する。マルチリモコンは設定を変えることでどの企業にも対応出来るようにしたものだ。俺と晶子が持つ携帯でもすることは違っても原理は同じだから、リモコンにおける基本事項、つまり電池が消耗すると通信が上手くいかなかったり、角度が大きくなると送受信出来なくなるといったことは共通だ。俺も晶子も、携帯の電池はまだ大丈夫だと先に確認してある。

「準備は良いか?」
「はい。」

 俺は送信を開始する。液晶画面には、携帯電話が電波を発するアニメーションを背景に「送信中・・・」とメッセージが出ている。メニューから「赤外線通信」「メモリ」「着信メロディ」の順に選択して、記録してある「Fly me to the moon」と「明日に架ける橋」を順に送る、という算段だ。送受信中にうっかりでも逸らしたりすると「送受信に失敗しました」となるから、念のためボタンがある面を手で支えている。
 まず「Fly me to the moon」の送信が終わる。続いて「明日に架ける橋」を送信する。フレーズはこっちの方が短いが音数が多いから、結果的に大して送受信の時間は変わらない。・・・「送信終了」のメッセージが出る。晶子の携帯には「受信完了」のメッセージが出る。

「これで完了。じゃあ早速聞いてもらうぞ。」
「はい。」

雨上がりの午後 第1824回

written by Moonstone

 確かに些細なすれ違いが大きな亀裂となることはある。俺も宮城との別れの過程でそのことを苦い教訓として学んだつもりだ。やっぱり「『自分』と違う」という意味での「他人」との付き合いにおいては、意思疎通を欠かさないことと共に、相手の性格を理解出来るとまでは行かなくても知ろうとすることが大切だろう。晶子と付き合い始めて丸2年を過ぎたが、「まだ」2年とも言える。まだまだこれからだな・・・。

2005/3/16

[連戦中]
 ある日突然動かなくなったのは、プログラムやドライバのせいではなくて、回路基板の接続部品の接触不良が原因でした(前はOSとドライバが衝突したんですけど)。こういうのは見た目では絶対分からないレベルなので(専用のルーペ(虫眼鏡)で見ても分からない)、一つ一つ元から辿っていくしかないのが悩みどころ。「電気は目に見えないから嫌い」と言う人も居るんですが、その気持ちは分からなくもないです(しみじみ)。
 実験再開と同時進行で(1回の実験に数時間〜丸1日以上かかる。実は昨日も動作試験&測定をしている状態で帰宅)別件のプログラミング。主な目的はセキュリティ向上なんですが、「相手が何をしてくるか分からない」という性悪説に立たないといけないので何重にも防御策を施すのですが、ややこしくて仕方ないです。気が付いたらまた私1人居残りでした(汗)。
 本調子どころか「出勤しないと」という義務感で支えている状態なのですが、食欲が幾分回復してきただけましだと思っています。1日の2/3はPCと睨めっこする日々は当分続きそうです。
「暗い顔しないでくれよ。晶子は俺に踏ん切りを付かせるきっかけを与えてはくれたけど、強要されたとかそんなことは少しも思っちゃ居ないから。」

 俺は携帯をテーブルに置いて、左手を晶子の頬に当てる。沈んだ表情だった晶子は笑みを浮かべてゆっくり愛しげに頬擦りをする。俺が期限を悪くしたんじゃないと分かって安心したんだろうか?フォローとか慰めとかそういうのが下手な不器用を地で行く俺だが、どうやら今回は上手くいったらしい。

「何気ない言葉が人を深く傷つけることがある・・・。親密な間柄が一挙に崩壊してしまうことさえある・・・。言葉の持つ力が時に人の心を癒す良薬になって、時に人を死に追いやることさえある凶器にもなり得る・・・。歌を歌うようになって、幾つも歌詞を目にしてきましたから、言葉には注意しているつもりなんですけど、すれ違いって言うのか・・・。そういうものは意図しない形で不意に生じるものですね。」
「・・・。」
「今回は祐司さんに真意が伝わって良かったですけど・・・、言葉には気をつけますね。たとえお互いに想い合っている相手でも、言ってほしくないことや言われたら傷つくことってあると思いますから・・・。」
「俺はさっきの晶子の言葉を助言とは思ったけど、強要とかそんなことは少しも思ってない。だから・・・安心して良いよ。」
「はい・・・。」

 神妙な口調で言う晶子は相当気にしていたようだ。すれ違い、と晶子は言ったが、晶子が思ってるほど俺は深刻に受け止めていない。否、むしろ、あっちを弱めこっちを強く、の堂々巡りをしていた俺に踏ん切りをつけるきっかけを与えてくれてありがたいとさえ思っている。こういうのも・・・すれ違いって言うんだろうな。

雨上がりの午後 第1823回

written by Moonstone

「最近はあっちを弱めたりこっちを強めたりの繰り返しで、俺だとそれこそ収束しない状態だったんだ。もう1人の利用者からOKが得られるなら、俺も踏ん切りが付くよ。」
「そうですか・・・。」

2005/3/15

[ダイイングメッセージだな(汗)]
 TOPにも書きましたが、どうにか復帰しました。ただ、食事は未だまともに食べられません。1人前のうどんだけでも胃がもたれます。食べないと余計に悪いので無理やり胃袋に詰め込んだようなものです。
 昨日分、一昨日分のお話は脂汗を流しながらのものなんですが、これだけ書くのも猛烈に辛くて、結局TOPの表記だけ変えてアップするだけに留めました。昨日一昨日は連載のストックが殆どなくて、書き足そうにも吐き気はするわ腰痛が酷いわで、とても書き足せる状態じゃありませんでした。昨日一昨日の連載は、今日付の分のために書き下ろしたものを分量に応じて配分したものです
 こういう時に限って本業もトラブル続出だったりします。この前まで何事もなく動作していたプログラムが今日起動したら動作しない(多分ドライバがぶっ壊れたのだと思います。だってつぎはぎだらけのWindowsだもの)、別のプログラムの動作確認が出来ない、アップデート出来ない、と大混乱。こんなことが家電製品や自動車で起こっていたら企業倒産だぞ、と思いつつ、今日も吐き気と腰痛を背負ってPCに向かいます(汗)。せめて身体だけでも回復してほしい・・・。
 晶子が俺の右肩と右腕に手をかける。余程楽しみにしてるんだな・・・。俺は「明日に架ける橋」を演奏させる。こちらも2回繰り返させる。

「凄く綺麗ですね。これももう完成ですか?」
「否、まだストリングスとピアノのバランス調整中だよ。どうもしっくり来なくてな・・・。」
「私が聞いた感じでは、凄く良い出来だと思いますよ。」
「そうか?CDやMIDIデータと比べると、どうも雑な感じがするんだよな・・・。」
「詳しくは知りませんけど、CDやMIDIとは音量の設定範囲が違うでしょうから、あまり比較対照にしない方が良いと思います。」

 晶子の言うとおりかな・・・。MIDIでも128段階、それでもCDに比べると粗っぽいと言えば粗っぽい。やっぱり割り切りと言うのか妥協と言うのか、そういうのが必要だな・・・。このままじゃ何時まで経っても完成しない。フレーズそのものの入力は終わってて、今はストリングスを弱くしたりピアノを強めたりの繰り返しだからな・・・。

「御免なさい。」
「え?」
「良い物を作りたい、っていう祐司さんの気持ちを踏み躙るようなことを言ってしまって・・・。」
「あ、否、晶子の言ったことは、俺も考えてたことなんだ。携帯とCDやMIDIとは音量とかの設定範囲が違うから、これはこういうもの、って割り切った方が良いかな、と思っててさ。晶子に言われて改めて、ああそうかな、って思ってたんだ。機嫌を損ねたとか思わなくて良いから。」

 申し訳なさそうに項垂れる晶子をフォローするように言う。自分の言葉を受けて俺が携帯の画面を見て沈黙したことで、俺が機嫌を損ねたと思ったんだろう。そんなことはまったくないから、晶子に謝られると逆にこっちが申し訳なく思う。

「晶子が聞いてみて良いなら、これで完成とするかな。」
「良いんですか?何だか私が祐司さんに妥協を強要したみたいで・・・。」

雨上がりの午後 第1822回

written by Moonstone

「どうだ?」
「凄く良いです。もう完成じゃないですか?」
「ほぼ完成・・・かな。自分で何度も聞いてると、日によって違って聞こえたり、同じ日でもさっきの方が良かったかな、とか思ったりするんだ。」
「私はもう完成していると思いますよ。次、聞かせてください。」

2005/3/14

[うぐぅ・・・]
 今日から仕事なのに大丈夫なのか?と自問。昨日どうにか雑炊を食べましたが、物凄く胃がもたれます。再発した腰痛は薬で誤魔化しましたけど、そうでもしないと、座っていられない、寝てもいられない、っていう最悪の状態・・・。いったい何がなんだか・・・(泣)。今日も更新止めにしよう。
(※この文は3/13夜に書き残したものです)

「随分早いな。」
「え?だってもう1時間以上過ぎてますから。」

 晶子は首を傾げる。俺は携帯を畳む。待ち受け画面に表示された時間は・・・あ、確かに帰宅してから1時間以上過ぎてる。もうそんなに時間が過ぎたのか。

「全然1時間過ぎたって実感がなくてな。」
「祐司さん、凄く没頭してたんですね。」
「まあ、演奏データを作る時は大体こんなもんだよ。妙なところで凝り性だからな。それより、台所から離れて大丈夫なのか?」
「ええ。グラタンは今オーブンの中ですし、ご飯は炊いてる最中ですし、スープは温めれば良いだけにしましたし、サラダはグラタンとご飯が出来上がる直前に用意しますから。」
「流石に手際が良いな。」
「毎日のことですし、店でもやってますからね。それより、着信音を聞かせてくださいよ。」

 晶子が目を輝かせて俺の傍に座り込む。一番聞いてほしい相手に聞いてもらおう。俺はまず「Fly me to the moon」を鳴らす。念のため2回繰り返し鳴らしてから止める。

雨上がりの午後 第1821回

written by Moonstone

「祐司さん。もう直ぐ出来ますからね。」

 晶子の声がかかる。ホワイトソースから作る、って言ってたから相当時間がかかると思ってたんだが・・・。

2005/3/13

[しんどい・・・]
 何なんでしょう?今週は酷かったですけど昨日はさらに酷かった・・・。パンとジュースの昼食、流動食の夕食を食べるのが精一杯で、PCの画面を見ていると吐き気がします・・・。予定では昨日新作を書き下ろすことになっていたんですが、これじゃとても出来ません。更新も見送るか・・・。PCを見てられない・・・。
(※この文は3/12夜に書き残したものです)
 ある程度入力したら試しに演奏させてみる、の繰り返し。最初のベタ打ちよりはずっとましになったが、完成に近付いている今になると、多少変えただけでは分からない。極端な話、その日の気分によって−そんなに気分屋じゃないつもりだが−同じデータでもこのパートの音が五月蝿いとか、この部分が弱いとか聞こえ方が変わってくる。これは店のMIDIデータでも言えることだが。
 一方「明日に架ける橋」は形にはなって来ているものの、全体的なバランスが思いどおりにいかない。パート別の音量調整の範囲がMIDIより狭いからこれも妥協せざるを得ないところなんだろうが、先にCDで聞いてその後MIDIデータを作ってその過程で何度も聞いたから、どうしても比較してしまうし、その結果生じる「粗さ」が引っかかる。
 こだわり始めるときりがないし、それこそ何処かの携帯サイトでダウンロードした方が手っ取り早い、という結論に行き着いてしまう。その手っ取り早さを捨ててあえて俺が自分で入力したものを使うことにしたんだし、晶子はそれを望んでる。これはこういうもの、とすっぱり割り切ることをもう少し体得した方が良いかもしれない。
 ・・・こんなもんかな。まず「Fly me to the moon」を演奏させてみる。・・・うん。こっちはほぼ頭の中のイメージに合ってる。次は「明日に架ける橋」。・・・どうもストリングスとピアノのバランスがなぁ・・・。ストリングスを弱めるとピアノが五月蝿いし、ピアノを弱めるとストリングスが鼻に付く。両方共弱めると物足りないし、逆に両方強めると着信音としては騒々しくなる。この辺はやっぱり妥協するしかないかな・・・。

雨上がりの午後 第1820回

written by Moonstone

 晶子の家に戻った。帰宅するなり、「期待していてくださいね」と言って晶子はコートをエプロンに替えて台所に向かった。俺はリビングの指定席で携帯を弄っている。誰かとメールをやり取りするわけじゃない。目的は俺と晶子の共通の着信音を完成させるため。マスターと潤子さんの家に泊めてもらっていた時は大学とレポート作りと練習で殆ど進まなかった。

2005/3/12

[1日待って]
 今週は(「も」か)もの凄い体調不良が連続して、作品制作はまったくの白紙です(汗)。今日新作を書き下ろす予定ですので、楽しみにされていた方には申し訳ありませんが1日お待ちください。
 まあ、今日朝起きられるという保障はまるでないんですが・・・。このところ、休日となると泥のように眠ってますからね。枕元というか耳元に派手な曲を鳴らす(街中とかで鳴ったら色々な意味で注目を浴びるのは間違いない曲)携帯のアラームを置いておいてもまったく気付かないくらいです。睡眠障害というやつなんですが、これが出ると日常生活に多大な支障を来たします。
 今は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら徐々に回復の方向へ向かっている、という状態で、その波の周期がかなり遅い(つまり、良い調子が長く続いて次に悪い調子が長く続くの繰り返し)ので、抜け出すまでがかなり辛い・・・。自分で制御出来るものではないので、薬で誤魔化しながら待つしかありません。早く良くなりたいです。
 晶子は両手で買い物袋を持って前に出している。傘は俺を晶子を雨から守るには十分な広さがあるし、今のように袋を前に出していれば、袋が濡れることはないだろう。俺は先走らないように、言い換えれば晶子を濡らさないように注意しながら歩く。雨は相変わらず本降りにもならず、止む様子もないというもどかしさを続けている。
 はっきりしない・・・。まるで俺みたいだな。今の今になっても進路を決められないで居る。一応昼休みとかに企業の資料を集めたり過去の就職情報を調べたりはしているが、レコード会社とか音楽関連企業の就職実績はごく少ない。楽器メーカーへの就職実績はあることにはあったが。
 業種をえり好みしなければ、逆に選り取りみどりになる。ただ、そこで果たしてやっていけるのか、という不安がある。単に知名度や資料とかに書かれている待遇で選ぶとあまりのギャップに戸惑ったり、戸惑うだけならまだしも心身を壊してあえなく退職という事態が待っている、と聞いたことがある。
 だが、俺が進路を決めないことには晶子が身動き出来ない。晶子が今住んでいる家は4年住むことを取り決めてあるだけと言う。その後は俺次第ということも分かってる。晶子との付き合いを大学時代の甘い思い出にするつもりはこれっぽっちもないし、入籍はまだだが結婚はしていると公言しているし、既成事実も積み重ねてきている。この年末年始で決めるくらいの覚悟はしておかないといけないな・・・。
 煮え切らない、はっきりしない雨模様の中、俺と晶子は歩いていく。冬の空のぐずつきは、もしかしたら俺に進路を決めるよう促しているのかもしれない。誰かの心模様が天気に反映されるなんて普段は考えもしないが、ふとそう思う時もある。これも一種の現実逃避なんだろうか?

雨上がりの午後 第1819回

written by Moonstone

「濡れないか?」
「ええ。大丈夫です。」

2005/3/11

[・・・花粉症?]
 昨日一昨日と暖かい日が続いていますが、この時期が憂鬱だという方も多いでしょう。花粉症のせいで。今年の花粉の飛散量は例年の20倍とか言いますから、尚のこと辛いのではないかと思います。
 私は花粉症ではない筈なのですが、昨日はどういうわけかくしゃみを連発して鼻水が多く出ました。花粉症というのは個人差のある許容量を超えると発症するらしいので、今年の大量の花粉でとうとう私も花粉症になったのかもしれません。目が痒いという症状がないので一時的なものかもしれませんし、先週の出張から帰って来てからぐずついている風邪(だと思う)が表面化してきたのかもしれません。
 風邪にせよ花粉症にせよ、私は毎日服用している薬があるので、その辺のドラッグストアで適当に薬を買って飲む、ということが出来ません(本当は一般の人でもやるべきではありません)。一時的に鼻がむず痒くなっただけであってほしいです。
 俺が微笑みを向けると、晶子は微笑みを返す。こういう時俺はやたら気長だ。出来ると分かっているものだったらじっと待つ。去年の年末に魚の煮付けで2時間待ったこともあるが、台所から漂ってくる匂いで食欲を掻き立てられたのは間違いないにしても、その間ちっとも苦にならなかった。
 晶子は混雑するレジを待つ列の1つに並ぶ。広い店内だが、晶子の買い物がターゲットを絞っていたということもあってか、ある種の物足りなさを感じさせる。帰ったら出来立てほやほやのグラタンが出来るのを待つ、ということに端を発する待ち遠しさの裏返しかもしれない。
 レジの列は少しずつ進み、晶子の番になる。量がさほどないこともあって、すんなり終わる。代金は晶子が払って、俺が籠を持って荷物纏めの場所に移動する。晶子はレジ袋を広げて、ささ身が入ったパックを一番下にして、その隣に牛乳のパックを立てて入れ、後はシメジとかを入れていく。流石に手馴れてるな・・・。袋は1つで収まった。俺が袋を持って出口へ向かう。
 外はまだ煮え切らない様子だ。雨は降ってはいるものの、本降りになるわけでもなく、かと言って止む様子もなく、降るのか止むのかどちらかにしてほしいと思わずには居られない。歩く距離を考えた場合傘を差さないと濡れてしまう程度には降っているから、俺は傘のビニール袋を取って傘を差す。広げた傘を上に翳したところで、俺の手から買い物袋が取られる。

「私が持ちますよ。」
「それくらいだったら、片手で持てるから良いのに。」
「祐司さんは傘を差していてくださいね。」

 こうなると晶子はかなり頑固な一面を見せるから、俺は傘を左手に持って、晶子と歩調を合わせて歩き始める。広げた傘に雨が当たる音を聞きながら、俺と晶子は歩いていく。

雨上がりの午後 第1818回

written by Moonstone

「ちなみに、シメジと鶏肉はグラタンの具にするんです。」
「へえ。楽しみだな。」
「時間はかかりますけど・・・。」
「それは構わない。楽しみが増えるから。」

2005/3/10

[ちょっとのんびり]
 連載は今「2人の買い物」を書いているのですが、こういう日常の光景を書くのって結構好きなんです。何せグループの作品は二重三重に謎や陰謀が入り組んでいたり、緊迫した場面が連続したりで(勿論それはそれで楽しいですけど)書くのにかなりの精神力を必要としますからね。
 元々連載でそれまで未着手だった「普通の世界の恋愛もの」を手がけたのは、気分転換が主たる目的です。最上段の「メモリアル企画書庫」の連載1000回達成のところでも触れていますが、ある種行き当たりばったり的な感覚で気軽に書いています(いい加減、という意味ではありません)。
 今書いている「2人の買い物」は、私自身が自炊している関係もあって、かなり所帯じみたものになります(笑)。連載では暫くのんびりした時間を書けるでしょう。
 雨避けになるひさし−と言うのか−に入ったところで傘を畳んでビニール袋に入れる。そして店内に入る。晶子は籠を1つ手にする。

「もう1つ持つか?」
「いえ、多分1つで大丈夫だと思います。」

 そう言えば、明後日まで−つまり晶子の家に居る間−の野菜と今日の夕飯の食材を買うんだったな。野菜はキャベツを除けば1つが小さくて軽いし、今日の夕飯の食材を合わせてもそれほどたいした量にはならないだろう。
 晶子と共に野菜売り場から順に回って行く。丁度タイムサービスの時間帯らしく、外の静けさから一転して店内はかなり混雑している。晶子はそんな中で手際良く野菜を選んで籠に入れていく。シメジに人参・・・。今日は野菜炒めか?
 肉売り場で鳥のささ身を籠に入れる。唐揚げか?色々想像を巡らせる。料理をするのはからっきし駄目だが−しないのもある−、食材から内容を推測することくらいはそれなりに出来る。・・・あ、牛乳も入れる。食後に牛乳を飲むのか?何だかよく分からなくなってきた。

「晶子。今日は何にするんだ?」
「グラタンを作ろうと思って。祐司さん、好きでしょ?」

 グラタンか。晶子の家にはオーブンがあってグラタンも作れる。店でもグラタンは冬限定のメニューで、ホワイトソースから手作りということもあってメニューには「ご注文から30分ほどお時間を戴きます」と注意書きがしてあるにも関わらず注文は多くて好評だ。接客担当の俺は、香ばしい匂いを立てるグラタンの皿を運ぶ最中に何度も食べたくなった。

雨上がりの午後 第1817回

written by Moonstone

 やがて店が見えてくる。車はそれなりに多く停まっていて、入り口付近で人が出入りしている。此処へ来てようやく、「人が居る」という感覚が戻って来る。何となく安心しつつ、入り口へ向かう。雨はまだ本降りにならない。出入りしている親子連れらしい人達が、レジ袋を幾つも持って小走りに車へと向かったり、逆に店に入って行ったりする。そういう様子に、何となく生活観を感じる。

2005/3/9

[携帯がPCになる時]
 携帯用ページを作って、その過程で携帯会社の対応など技術情報を調査していて思ったのですが、携帯会社は少なからず携帯電話を「誰もが持っている小型PC」という位置づけにしたいようです。しかし、現状を考えるとあと5年はかかるのではないか、と思っています。
 PCでもブラウザや解像度などによって表示が違って来るのが当たり前なのに、同じ携帯会社でも対応がまちまちではWebページを作る側が大変です。「新しい携帯を買え」と誘導したとしても、使い捨てカメラじゃあるまいし、そう簡単に替えられるものではない以上、限界があります。通信速度もADSLや光通信に比べればまだまだ低速。実際に携帯電話で私の携帯用ページをご覧戴いた方はお分かりでしょうが、TOPのカウンタ表示にイライラした方も結構居られると思います(なのに何故そのまま、というのは理由がありますが秘密)。
 本気で携帯電話を「誰もが持っている小型PC」にするつもりなら、会社毎、同一会社内でも異なる対応状況を統一する、パケット代を下げる、通信速度を上げる、と言ったことが必要だと思います。PCでも5年前は一定料金で24時間つなぎ放題、なんて夢の話でしたから携帯電話でもそういう変化は来るでしょうが、使う側の視点を忘れないことが肝要でしょう。これは携帯用ページに限ったことではありませんが。
「米とか重いものはないのか?」
「ええ。」
「それなら2人で1つずつ袋を持って、俺が傘を差せば良いな。」

 晶子はこれまた嬉しそうに微笑んで頷く。雨の日は何となくマイナス方向のイメージが先行する。特に冬場は。だが、時と場合にもよる。晶子にとっては俺と一緒に買い物に行けて、荷物を両手にぶら下げて傘を差すこともなくて嬉しいだろうし、俺も晶子と2人で何処かに行けるのは楽しい。
 雨が降る前に買い物、とならないのが今だ。雨が降ったら傘を差せば良い。荷物があるなら分担すれば良い。そういうある意味場当たり的な感覚で通せる今のような時間が、走ることばかりを要求される、そうでなくても周囲に合わせて走っている今には必要なんじゃないかと思う。

 ティータイムが済んでマンションから出た時には、ポツリ、ポツリと頭や頬に冷たい感触を感じるようになっていた。見上げると、空はすっかり鉛色。冷え込み具合からして雪に変わることはなさそうだが、冬の雨は冷たく感じる。
 晶子が傘を広げる。傘が雨を遮るようになったところで、俺は晶子から傘を受け取る。少しだが俺の方が晶子より背が高いから、俺が持った方が良い。晶子はすんなり傘を俺に託す代わりに、俺に身体を寄せる。傘は割と大きいが、2人を雨から守るには距離を詰めないと厳しい。
 本降りになりそうでならない微妙な降り加減の中、俺と晶子は通りを歩く。晶子が買い物に行く店までには歩くと20分はかかる。だが、今は焦る必要なんてない。ゆっくり歩いていけば良い。
 通りは結構車が行き交うが、人通りは少ない、否、殆どない。この通りは住宅街の真ん中を突き抜ける形だとは言え、こうも人影がないと、何時も居る世界と殆ど同じだけど何かが違うパラレルワールドに入り込んでしまったような錯覚を覚える。
 暫く通りを歩いていくと、交通量−車に限ってだが−が格段に増す通りに出る。途中にあるバス停には人が居る。だが、何となく「そこに居るだけ」という印象が先行する。もったいぶっているかのように勢いを増さない雨が、人気のない世界を演出しているのかもしれない。

雨上がりの午後 第1816回

written by Moonstone

「今日はどのくらい買うんだ?」
「えっと・・・、明後日までの野菜と今日の晩御飯の材料です。レジ袋2つで収まると思います。」

2005/3/8

[大阪で思ったこと]
 昨年末、そして先週と大阪に出張で行ったのですが、大阪にはあるんですね。「女性専用車両」なるものが。私が住んでいる地域の電車にはありませんが、バスには女性専用座席を設けているところがあります。先々週の東京出張では目にしなかったので、余計に気になりました。何がって・・・女性専用車両で優雅に寛いでいる女共がです。
 「男女平等」とか「ジェンダーフリー」とか喧しく言う割には、女性が優遇される制度に関しては何も異議を唱えないばかりか「女性」を前面に出して奨励さえする・・・。馬鹿げているにも程があります。そもそもモノセックス(「単一性」という意味合いなのでユニセックスとは言いません)を推し進めてきたのは女性団体であり「ジェンダーフリー」思想ですから、自分達の都合で自分達が敵視してきた「女性」を出さないでもらいたいものです。
 念のため言っておきますが、私は痴漢を容認しているわけではありません。あれはれっきとした犯罪です。最上段の「見解・主張書庫」の夫婦別姓制度でも触れていますが、「ジェンダーフリー」を叫ぶ女性団体などは「男性=加害者、女性=被害者」という公式を何でもかんでも適用して、自分達が優遇される場合は「女性」を出し、自分達が不利になる場合は「ジェンダーフリー」だのを出す傾向にあります。このような理不尽を排除するには、男性が女性専用車両にでんと腰を下ろすなりする必要があるように思います。

「この後、買い物に行きたいんですけど。」

 徐に晶子が切り出す。思えば晶子も1週間ほどこの家を空けていたから、冷蔵庫の中身が乏しくなっている筈だ。俺と違って自炊しているが、無駄な買い物はしない晶子だ。しおれた野菜や霜が付いた冷凍品が片隅で眠っているということは考えられない。

「勿論、一緒に行くよ。」
「お願いしますね。」

 晶子は嬉しそうに微笑む。晶子と買い物に行くのは随分久しぶりだ。今まで土日は俺がレポート作りに大きな時間を割かざるを得なかったから、一緒に買い物とはいかなかった。晶子にとって、こういう時間は高価なプレゼントにも代えられない大切なものだ。俺と一緒に過ごす時間だからこそ、その時間の中で大きな比重を占める「食」を構成するのに不可欠な要素の一つである買い物も一緒にしたいんだろう。
 ふと窓を見る。レースのカーテンを通して見える外の景色が、薄暗くなってきている。日の入りの時間は早いのは今の季節の特徴の一つだが、この暗さは夜の訪れのそれじゃない。雲が重い。雨が・・・近いのか?

「どうしたんですか?」
「晶子。雨が降りそうだぞ。」
「え・・・。あ、そうみたいですね。」

 聞き方によっては他人事みたいだが、二人揃って天気予報を全然見てないから仕方ない。マスターと潤子さんの家では、レポートを作るか練習をするかが大半で、何も「外界」と接していない。マスターと潤子さんの家の台所にも、俺と晶子に割り当てられた部屋にもTVはないし、なくても困らなかったというのもある。元々俺も晶子も決まった時間にTVを見るという習慣がないからだ。
 こういう時1人だと大変だろう。買う量にも依るが、荷物をぶら下げて尚且つ傘をさして、というのは厳しい。荷物運びの本領発揮の時だな。・・・あまり胸を張って言えることじゃないが。

雨上がりの午後 第1815回

written by Moonstone

 一仕事済んだ後はティータイム。晶子が入れてくれたラベンダーの紅茶と、出る直前に潤子さんがくれたチョコチップ入りの手作りクッキーがメニュー。うっすらと流れるBGMは倉木麻衣のアルバム「delicious way」。最初に改めて乾杯してから会話はない。だが、ゆったりと寛げる時間と空間が確かにある。

2005/3/7

[「愛国心」が聞いて呆れる]
 自民、公明、民主が改憲を競い合っている中、「愛国心」が焦点の一つとなっています。「国を愛する心」を育てるのが教育、と言いたいようですが、国旗国家法審議の際にも「強制するものではない」と政府が言明したものを知事と教育委員会が一体になって強制している東京都をはじめ、「愛国心」なるものを育てたい(植えつけたい、と言うべきか)勢力の魂胆は見え見えです。
 詳細はこのウィンドウ最上段にある「見解・主張書庫」をご覧戴くとして、そう言った「愛国心」宣伝活動に熱心な政府与党は、相手がアメリカとなると「愛国心」は都合良く「忠誠心」に置き換わるようです。BSE(牛海綿状脳症)対策のため全頭検査を実施している日本に対し早期輸入再開の圧力を掛け続けるアメリカに呼応して、島村農水相が「全頭検査は世界の非常識」と言ったのも典型的な例です。
 アメリカのBSE対策はずさん極まりないものです。つい最近も、アメリカの職員組合の議長が、アメリカのBSE対策のずさんさを指摘したほどです(日本のマスコミは全然報道しませんでしたが)。危険部位の除去もいい加減な牛肉の輸入再開の圧力を掛け続けるのは、日本がアメリカ産牛肉のお得意先だからです。自国民の生活や安全よりアメリカの意向を反映する・・・。「愛国心」が聞いて呆れる、とはまさにこのことです。
 そんなこと、初めて知った。あの時は付き合い始めて初めての年越し、ってことで何処かに出かけよう、じゃあ路線図にある月峰神社にしよう、という安直とも言える流れで決まった。あの神社にこういうご利益がある、なんて情報を調べるほど俺の頭の回転は良くない。

「もしかしたら、初詣で会うかもしれないわね。黒のコートを着た拳銃を持っていても不思議じゃない男と長い黒髪の女の組み合わせは、多分私とマスターだから。」
「潤子。何だ、その例えは。」
「端的に表現していて分かりやすいと思ったんだけど。」
「確かに分かりやすいですね。」
「井上さんまで・・・。」

 マスターは渋い表情をするが、去年の夏に海に行った時、晶子に声をかけてきた男達をひと睨みで追い払った「実績」があるから、納得がいく。月峰神社に行くかどうかは勿論、初詣に行くかどうかも決めてないが、会ったら会ったで新年の挨拶を交わせば良い。もう隠したりする必要なんでないんだから。

 俺は晶子の家に居る。昼食が済んでから2人揃ってマスターと潤子さんの家を後にして、事前の取り決めどおり一旦俺の家に寄って郵便受けに溜まったチラシを捨ててからお邪魔した。晶子は帰宅するなり洗濯を始め、続いて俺と共に家の掃除に取り掛かった。洗濯は全自動だから放っておいても良い。
 元々シンプルで整理が行き届いているから、掃除と言ってもそう手間はかからない。家具類の拭き掃除をしてから掃除機を満遍なくかけた。そして窓拭きと換気扇掃除を分担した。ちなみに俺の担当は窓拭き。換気扇掃除は油汚れを落とす関係で大変だから、というのが晶子の挙げた理由だ。
 掃除が終わって洗濯も済んだ。洗濯物は洗濯機がある脱衣場も兼ねた空間に取り付けられた専用の物干しに干されている。晶子の家があるマンションにはベランダがあるが、そこには物干し竿がない。何でも「防犯の問題から」というのが理由だそうだ。女性専用マンションだから、逆に洗濯物、特に下着が標的になりやすいからだろう。

雨上がりの午後 第1814回

written by Moonstone

「婚約してからずっとよ。あそこは縁結びで有名だから。」
「え?」
「知らなかったの?だから一昨年二人で行ったものだと思ってたわ。」

2005/3/6

[整形外科初体験]
 出張疲れもあってか枕元においておいた携帯のアラームにもまったく気付かずに9時頃起床。「行っておかないと」ということで行ってきました、整形外科へ。「顔の整形か」というありがちな突っ込みはなしの方向でお願いします。年明けからぐずぐず痛み続けている腰の診察です。
 やっぱりと言うのか、患者さんはお年寄りばかりでした(苦笑)。結構待たされるのかな、と思っていたのですが(市民病院では2時間3時間待ちなんて当たり前だった)10分ほどで診察室へ。院長一人で診察から整体までするのか、と思っていたんですが、総合病院みたいに何人も職員さんが居て、マッサージだの何だのをしていました。
 で、私の検査の結果ですが、幸い骨には異常はなく(あったら入院だ)、長時間同じ姿勢を続けていることで筋を痛めたようだ、と。姿勢を適度に変えるのは勿論、1日最低30分は汗ばむ程度の早足で歩くような運動を勧められました。あと、「下半身を温かくするように」と。マッサージもしてもらったのですが、気持ち良かったです(笑)。
 俺は言葉を濁す。と言うのも、補講がある28日までは晶子の家で、それ以降は俺の家で過ごすと決めているからだ。何処かへ出かけるわけでもなく家でゆっくりして、一緒に考えたり双方の考えを言ったりするつもりでいる。俺の場合、一人で考えているとどうしても視野を狭くしたり、悪い方向に向かいがちだから、丁度良い。
 明日は補講で大学に行ったついでに、生協に注文しておいたPCを受け取りに行く。優柔不断な−晶子に言わせれば「慎重」だが−俺らしくあれこれ迷った結果、CPUが高速でメモリとHDDが多いA4サイズのすっぴんのノートPCに決めた。併せて本配属を希望している久野尾研で使われているワープロや表計算ソフト、プレゼンテーション用ソフトも買ったから、インストールして使い方を覚えていくつもりで居る。
 そうなると俺は食事や洗濯といったことをおざなりにしてしまうんだが、それは晶子がしてくれるからありがたい。「買い物は一緒に行ってくださいね」というのが唯一の条件だが、それくらいお安い御用だ。食材を選ぶ目はないが、荷物を運ぶ手はあるからな。
 1週間家を空けてるから、どういうわけか頼まなくても郵便受けに溜めてくれるチラシの類を取り込んで捨てないといけない。あまり溜め込んだままだと「あの家には誰も居ない」と空き巣に宣言しているようなものだ。晶子の家は郵便局や宅配便業者以外は入れないようになっているから良いが、俺の家にはそんな大層なセキュリティはない。そんなものがあるマンションなりに入れる金があるなら、弟の進路を考えたりしない。

「そう言うマスターと潤子さんは?」
「例年どおり、家でまったり過ごして月峰神社に初詣、だ。」
「そう言えばマスターと潤子さん、一昨年も去年も行ったんですよね?」

 俺は去年帰省していたから晶子からの電話で知ったんだが、マスターと潤子さんは去年も月峰神社に初詣に行っている。晶子も一緒に行ったそうだ。その時俺は朝から親戚巡りに引っ張りまわされてたんだが。

雨上がりの午後 第1813回

written by Moonstone

「休みの間どちらかの家に泊まって、結婚生活を実体験するのも良いんじゃないか?」
「まあ・・・、そういう考えもありますね。」

2005/3/5

[はい、連続更新です]
 さっき更新されたばかりなのに、と自分でも思っていますが、先週とまったく同じ流れですので、またか、と思われているかもしれませんね(苦笑)。公開作品数は少ないですが、「魂の降る里」は大変な難産でした。「待ってました」と読んでいただけると嬉しいです。
 今日整形外科に行きます(いきなりだな)。先週もそうでしたが出張中はなんともなかったのに、一夜明けると動けなくなる有様なので、とりあえず検査だけでもしてもらうつもりです。「入院が必要です」なんて言われたら嫌だな。入院なんてもう真っ平です。
 私は肺炎で1回、盲腸で1回(2回以上はないか)入院したんですが、兎に角「することがない」というのが最大の問題。TVなんて殆ど見ませんし雑誌も読まないとなると、予め持っていった本を読むくらいしかないんです。「3食付のホテルと思えば良い」と以前言われましたが、コストパフォーマンスが悪すぎです。入院なんてするもんじゃありません。何事もなければ良いな・・・。
 少し躊躇っていた晶子だが、嬉しそうな笑顔に変えて店のキッチンに向かう。俺はその後をついて行く。キッチンが近付くにつれて、良い匂いが嫌味にならない程度に強まって来る。この匂いは・・・ミートスパゲッティだな。
 熱した鉄板に茹でたてのスパゲッティを乗せて、周囲に溶き卵を回しかけたミートスパゲッティは店の看板メニューの一つで、初めて見た客は大抵驚く。だがそれは直ぐに、「アツアツで美味しい」「卵とミートソースの相性が良い」と好評に変わる。中高生から初老まで支持層は広い。今では晶子もこのメニューを手がける。混雑する夜は、スパゲッティを茹でる鍋が空になる時間の方が少ない時さえあるくらいだ。
 潤子さんが「昼の顔」の準備をする一方で、晶子が潤子さんに一任されて昼飯を作ったわけか。クッキーの生地作りは肉体労働だし時間もかかる。その時に「使える」人間が居るのと居ないのとでは格段の差が生じるもんだ。俺もレベルや時限は違うだろうが、実験で人手と「使える」必要性を幾度となく痛感しているから、潤子さんが晶子に昼飯作りを任せたくなる気持ちはそれなりに分かる。
 コートを脱いだマスターが戻って来た頃に、4人分の昼飯がテーブルに並んだ。晶子が作ったのはミートスパゲッティと野菜サラダ、そして果物と牛乳のミックスジュース。マスターと潤子さんの家に泊まり込むようになってから、大学の学食が貧相に感じられてならない。比べる方が間違っているのかもしれないが。

「今日で祐司君と晶子ちゃん、帰っちゃうのよね。」

 食べ始めて程なく、潤子さんが言う。

「はい。コンサートも無事終わりましたから。」
「年末はどうするの?」
「俺は帰省しないでこの町に居ます。」
「私もです。」

雨上がりの午後 第1812回

written by Moonstone

「祐司さん。帰って来たばかりなのに。」
「料理は出来ないけど、運ぶくらいは出来るからな。」
「・・・じゃあ、お願いしますね。」

2005/3/4

[帰って来ました]
 朝は早いわ緊張するわ、移動時間は長いわ、と疲れる要素満載だった大阪出張から無事帰って来ました。通天閣は移動経路の関係で見られませんでしたが、太陽の塔は見ました。・・・ノーコメントと言うことで(笑)。
 生憎宿泊施設にはネット環境がまったくなかったので、帰宅してからの更新となりました。明日付更新はこれから約3時間後に実施します。忙しないですが、今回は久しぶりに新作を用意出来たので、態勢建て直しの第一歩になると思っています。
 携帯の「このページのURLを転送する」の機能は、皆様の環境で上手く実行できましたでしょうか?メールソフトにも依りますが、Windows環境なら多分動作すると思います。「タイトルが文字化けするぞ!」とか情報がありましたらメールフォームかアンケートでお送りください。
 ・・・紅茶の瓶か。しかも取り出されて来るものは全て異なる種類。瓶は機密性の面では優れているが、結構かさばるしそれなりに重い。小さなものでも量が増すとその「効果」は顕著になって来る。なるほど、マスターがどかっと置かなかった理由が分かる。割れたりしたら使い物にならないからな。
 他には・・・薄力粉やバターといったクッキーの材料だ。クッキーの量には制限があるとは言え、それなりの量を作るには「こんなに使うのか?」と思うほどの材料を必要とするのを目の当たりにした。確かにこれくらいは買い込まないと持たないだろう。
 潤子さんはクッキーの作り置きはしないし、紅茶のストック補充は切れそうになったところでする。時間が経過したものは酸化して味が悪くなる、というのが理由だ。専門店で選んだものを必要量だけ購入する。それが、この店の「昼の顔」の評判を呼ぶための隠された、でも大切なこだわりだ。

「お待たせしました。・・・あ、祐司さん。お帰りなさい。」
「ただいま。」
「さっきマスターが帰って来たところだから、皆揃ってお昼ご飯が食べられるわね。」
「4人分一緒に作って良かったですね。」
「私は買出しの確認がもう少しあるから、晶子ちゃん。悪いけど全部運んでくれる?」
「はい。」
「俺も手伝うよ。」

 俺だけ何もしてないのは気が引ける。どれだけ作ったのかは知らないが、場合によっては店のキッチンと此処とを何往復もしないといけない。幾らずぼらな俺とて、こういう場合に料理が運ばれて来るのをぼうっと待ってるわけにはいかない。

雨上がりの午後 第1811回

written by Moonstone

 マスターはテーブルに袋を置く。重そうだが置くのはかなり慎重だ。マスターが踵を返して出て行くのと入れ替わる形で、潤子さんが袋の中を確認し始める。

2005/3/3

[今日から大阪]
 先週は東で今週は西。何だか因縁めいたものを感じる今日この頃です。基本的に持って行くものは先週と同じなのですが、「忘れたら大間抜けどころの話ではない」ものを持っていかないといけません。折り悪く今日から雨模様らしいんですよね。晴れようが雨だろうが屋外を歩くことには変わりないのですが、傘を持つ分手が塞がるのがちょっと・・・。
 で、当然PCも持って行くのですが、ネットに接続出来るかどうかは分かりません。よって昨日からTOPで告知しましたとおり、遅れる可能性があります。0時過ぎても更新がないようでしたら「ネット接続失敗か」と判断してください(最近の更新時刻が出鱈目なので信用ならない、と言われればそれまでですが)。
 朝が早くて移動時間も長い、その上今は病み上がり、と状況はかなり悪いんですが、これを乗り切ればとりあえずひと段落ですので、何とかやって来ます。それでは行ってきます。
 台所に「ピンポーン」と音が鳴る。潤子さんはいそいそと流しの向かい、俺が座る席の背面にあるインターホンに向かう。玄関のインターホンは台所と店に繋がっている。店の営業中は台所に人が居ないし店では音が聞こえないから、というのがその理由だ。

「はい。どちら様ですか?」
「文彦だ。帰って来たぞ。」
「あ、ドアを開けるわね。」

 潤子さんはその足で玄関へ向かう。マスターはこの家の鍵を持ってる筈なんだが、両手が塞がってるんだろうか?買出しって言うくらいだから、結構な量があると考えるのが自然か。

「お帰りなさい。祐司君もついさっき帰って来たばかりよ。」
「そうか。タイミングが良かったな。荷物を先に持って行くぞ。」
「ええ。お願いするわ。確認はしておくから。」

 そんなやり取りが聞こえて程なく、潤子さんとマスターが姿を現す。マスターは両手に大きな袋を抱えている。袋が相当張っているところからするに、やっぱり色々買い込んで来たようだ。

「こんにちは。」
「お、祐司君。此処に居る時はただいま、で良いぞ?」
「条件反射みたいなものですよ。」
「井上さんは昼飯作りか。」
「ええ、そうよ。もう少ししたら出来ると思うわ。」
「じゃあ俺は服脱いで来るから、確認は頼む。」

雨上がりの午後 第1810回

written by Moonstone

 潤子さんのクッキーは手作りだが、生地を作るところから始まる。見た目はさぞかしお手軽そうに見える菓子作りだが実はかなりの肉体労働だったりすると、見せてもらって初めて知った。クッキーの生地は1日寝かせて翌日焼く、というのが潤子さんのこだわりだ。だから数量に限りがある。

2005/3/2

[携帯用ページをちょっと改良します]
 まあ「改良」と言っても大したレベルではないのですが、PCから携帯用ページをご覧になって携帯用ページのアドレスをご自身(或いは他の人)の携帯にメールという形で転送出来るようにします。「Moonlight PAC Edition」最新号(第33号)で触れているものの一つです。
 技術情報は前に得ていたのですが、何分携帯は会社によって、同じ会社でも製造時期によって対応状況がてんで違いますから、最大公約数になるよう検討を繰り返すしかないわけで・・・。で、あまり冗長になるようだとパケット代がかかりますから、インデックスにも工夫が必要なわけで・・・。
 動作試験は自分の携帯でしか出来ないのが(他人の携帯を使わせてもらうわけにもねえ)携帯用ページの表示確認における現時点での最大の悩みです。自分の携帯で表示される内容が果たして最大公約数になっているかどうか、結構考えるんですよ。改良はこのお話を聞いていただいている頃、ちょこちょこ行うつもりです。上手くいくかな・・・。

「潤子さん。晶子とマスターは?」
「ああ、晶子ちゃんならお店のキッチンでお昼ご飯作ってる最中よ。マスターは買出し。もう直ぐ帰って来るわ。」
「買出し、ですか。」

 そう言えば車がなかったな・・・。買出しと言えば、土曜日の午前中に行ったばかりなのに、まだ他に買出しに行くものがあったんだろうか?・・・ま、考えごとは後でも良いか。俺はコートを脱いでまず2階に上がる。晶子と共用で割り当てられている部屋に鞄とコートを置いてから、洗顔とうがいのために洗面所に立ち寄ってから台所に戻る。潤子さんの姿はない。
 店の方から微かだが物音が聞こえてくる。耳を澄ますと、何かを焼くような音と人の声が入り混じっている。晶子は潤子さんと一緒に昼飯を作ってるんだろうか?こういう時、料理が出来たらな、と思う。前に晶子と一緒に夕食を作ったことはあるが、それこそ手取り足取りでそのくせ何も覚えられなかった。ご飯を炊くくらいは出来るが、材料を揃えて包丁や鍋とかを駆使して作るのとは全然レベルが違うしな。
 料理がからっきし出来ない人間がスペースに制限のある厨房をうろつくと邪魔になるだけだ。大人しく台所で待つことにする。何時もの席−と言って良いものかどうかは別として−に座って頬杖を付く。マスターは買出し、晶子と潤子さんは昼飯の準備、残る俺はぼんやり待つだけ。・・・何だか申し訳ない気がしてきたな。
 少しして、店の方から足音が近付いて来る。振り向くと、潤子さんが台所に入って来るところだった。

「昼ご飯の準備は良いんですか?」
「ああ、それなら大丈夫。晶子ちゃんがやってくれてるから。」
「晶子一人で作ってるんですか?」
「そうよ。私はその間、明日の分のクッキーを作ってたのよ。」

雨上がりの午後 第1809回

written by Moonstone

 潤子さんが改めてドアを開ける。俺は中に入ってドアを閉める。玄関を上がって少し歩くと見えてくる台所には・・・あれ?潤子さん以外居ない。

2005/3/1

[最悪のスタート]
 駄目でした。結局胃腸に回った風邪が殆ど回復せず、体調も最悪だったので、やむなく大事を取って仕事を休みました。まあ、土日と食べるものもろくに食べてなかったら(食べられなかった)、回復する体力も回復しませんわな。安静にしていた甲斐あってか、夜にはそこそこ食べられるようになりました。
 私は病気をして食べないでいると一気に体重が減るのですが、今回もその例に漏れません。感覚ですが、多分2、3kgは減ったかと・・・。私の場合、体重の維持が体力の維持と密接な関係があるので、体力が更に落ちたことは間違いないです。仕事は色々あるんですが、病み上がりで無理するとろくなことにならないので、極力大人しくするつもりです。
 月初めということで背景写真を変更しました。少し見難いかもしれませんが、梅の花です。まだ私の住んでいる地域では早咲きの一部以外は咲いていませんが、これが本格的に花開く頃が待ち遠しいです。花粉症の関係で逆の方も居られるでしょうが。
 試しに就職して合わないと思ったら転職、なんて気軽な考えはしていない。合うか合わないかの判断は直ぐ出来るものじゃないし、キャリアのない状態で早々転職が出来る世相じゃないことくらい分かってる。だから尚のこと、せめて自分で「これ」と決めた道に進みたい。そうすれば少なくとも後悔はしないだろう。妥協は後悔の元になるからな。
 特に見慣れた風景がおぼろげに見えてきた。降りる駅は近い。考え事をしてたら10分なんてあっという間だ。さて・・・、これから帰って昼飯か。携帯を取り出して時計を見る。11時半を少し過ぎたところか。少し早い気はするが、今までずれ込むことはあっても早まることはなかったことを考えれば、たまにはこういうのも悪くはないな。

 平日の住宅街はこれまた閑散としている。坂道を上って左に折れて少し進むと、茶色一色の丘に建つ白い建物が、青空と見事なコントラストを作っている。ブラインドが下ろされた窓が面する南側を迂回して、私用でのみ使われる渡辺夫妻の家の入り口に向かう。自転車を壁際に立てて、俺はインターホンを押す。

「はい、どちら様ですか?」

 あ、この声は潤子さんだ。そこそこ慣れた筈なんだが、どうしても少し緊張してしまう。

「あ、祐司です。帰って来ました。」
「あら。それじゃ今開けるわね。」

 インターホンが切れて少しして、足音が近付いて来る。ドアノブの辺りで物音がして、ドアが開く。

「た、ただいま。」
「お帰りなさい。改まらなくて良いのよ?」
「何か・・・癖みたいなものかと。」
「さ、入って。もう直ぐお昼ご飯が出来るから。」

雨上がりの午後 第1808回

written by Moonstone

 店は今日は休み。明日明後日と営業したら年末年始の休みに入る。今年は帰省しない。親からの執拗とも言える誘いも全部断っている。「年末年始でゆっくり一人で考える」と言って。帰省したところで進路の話になるのは目に見えているし、頻りに公務員を勧める親と折り合いがつくとは思えない。一方的に押されるか衝突するか、どちらにせよ居心地が悪くなるだけだ。それならこの町に居て、晶子と、場合によってはマスターと潤子さんと話した方が良い。

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