芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2005年1月31日更新 Updated on December 31th,2005

2005/1/31

[前途不安]
 早いもので、今日で1月も終わりです。年初はこのページの更新を前年より活性化させるつもりでは居たんですが、いきなり酷い腰痛に襲われるわ、納期の厳しい仕事が続くわ、風邪ひいて身体壊すわ、と散々でした。こんな状況は少なくとも3月初頭までは続くので、今年1年持ちこたえられるのか、と早くも不安です。
 腰痛はまだ完治していませんし、風邪に伴う胃腸の不調も完全回復していません。薬で騙し騙し過ごす、というのはあまり好ましいことではないんですが、回復力が著しく低下している今は、薬の力を借りる以外ありません。
 更新時刻が頻繁に前後すると思いますが、いきなり消息不明、という事態は出来るだけ避けますので、チェックをお願いします。うー、せめて胃腸の調子くらい良くなってくれないかな・・・。
 徐々に店内の音が消える。それまでの賑わいが嘘のように店内が静まり返って、大きくひと呼吸するタイミングでピアノが鳴り始める。機械的要素を一切排した、2人の人間の共演。リクエストでも潤子さんが登場する日曜日にほぼ必ず上がる−生ピアノが聞けるという要素と潤子さん見たさが絡み合ってるんだろうが−、晶子がかなり強く後押しして今回のコンサートの曲目に加わったこの曲。ステージの隅でじっくり聞かせてもらうことにする。
 ピアノ演奏を背景に晶子のヴォーカルが入る。「The Rose」の歌詞は全て英語だが、英語に関しては素人−聞いて「それっぽい」と思えるかどうかというレベルだが−の俺が聞いても流暢に聞こえる晶子の歌声は、聞いていて気持ちが良い。
>  収録されているCDのブックレットでこの曲の歌詞の対訳を読んだことがあるが、内容はラブソングの王道の一つ「自分の気持ちが少しでも相手に近付くことを願う」を踏まえたものだ。歌声はそれに相応しい。今年のクリスマスコンサートのコンセプトは「じっくり聞かせる」というものだが、その観点からしてもこの曲を加えたのは良かったと思う。後押しした晶子に先見の明があったというべきだろう。
 曲が盛り上がりに入る。ピアノのアタックも強まり、ヴォーカルも張りが増すが、決して「私が、自分が」とでしゃばるものじゃない。ましてや、衝突するものでもない。互いの良さを尊重しつつ補完するという、理想的なハーモニーを演出している。ヴォーカルは高音域に入っても張りの良さと透明感が欠けることはない。
 最後が近付く。ピアノの演奏はシンプルになり、ヴォーカルを引き立てる役に回る。シーケンサを一切使ってないから、テンポキープは完全に晶子と潤子さんの呼吸に委ねられているんだが、生演奏の雰囲気は保ちつつもテンポが崩れることはない。音合わせで何度か聞いたが、晶子は勿論潤子さんも入念に研究と練習を重ねたことを感じさせられる。

雨上がりの午後 第1779回

written by Moonstone

 鳴り止まない拍手と消えない歓声の中、晶子が一礼して潤子さんがキーボードからピアノへと移動する。次の曲「The Rose」は晶子のヴォーカルと潤子さんのピアノだけ。当然俺の出番はないから、後方の客くらいしか見えないステージの一番後ろに下がる。

2005/1/30

[約6時間後に更新(苦笑)]
 昨日付の更新が私の事情で大幅にずれ込んだので、1日2回の更新になってしまいました(苦笑)。まだ胃腸の具合が芳しくないんですが、消化の良いもの(うどんとかゼリーとか)ならどうにか食べられるので、多分回復するでしょう。止むを得なかったとは言え、徹夜しなければならないほど仕事はしたくないです。その後が大変ですからね。
 週末は自宅に篭りがちなため、気分転換も兼ねて職場のレクリエーションに参加したんですが、ゆったりした時間を満喫出来ました。デジカメもしっかり持って行きましたし、携帯のカメラも使ったので、写真も沢山揃いました。これらはこのページのPhoto Group 1と携帯用ページに順次アップしていきます。
 時々自分の携帯で携帯用ページをチェックするんですが、どうしても写真がPCで設定したサイズより小さくなってしまうんですよね。リンクしている携帯用ページの画像でも同じ現象が起こりますから、妥協するしかないのかな・・・。
 ストリングスがコーラスに戻り、曲調が一旦落ち着く。想う気持ちを綴った歌詞が織り成す切ない心模様が、緩やかに歌われる。後半薄く加わるストリングスと絡み合って、夢でも逢いたいという気持ちが描かれる。
 ストリングスが動きを加える。ヴォーカルは相手の自分にとっての存在の大きさを切なく綴る。・・・本当にこの曲、俺のことを言われてるような気がしてならないな。俺が変わったのも、変われたのも晶子との出逢い故のことだからな。
 ドラムとベースが消え、俺のギターも退散する。エレピをバックにした晶子のヴォーカルが、愛あるが故の心の変化を優しく奏でる。この部分、本当に俺のこと言われてるみたいな気がしてならない。宮城に一方的な絶縁状を押し付けられたショックで瓦解した俺の心を優しく包み込み、俺に手を差し伸べて立ち上がらせてくれたこと、今でも晶子を好きになった経緯は忘れていない。
 コーラスがフェードインして、ドラムとベース、そして俺のギターが再び加わる。透明感と張りをバランス良く持ち合わせた晶子の歌声が朗々と流れる。後ろで演奏していて本当に心地良い。心に染み入る、という表現が相応しい。
 永遠(とわ)の愛を願い謳った最後の歌詞がリズム楽器なしで歌われ、清流のような滑らかな発音で語られた−こう表現した方が良い部分だ−後、ストリングスがオーケストラのような壮大な盛り上がりを演出し、それまで待機していたベースとドラム、そして俺のギターが加わる。主にストリングスとエレピを背後に控えた晶子の声。何度でも、何時までも聞いていたくさせる。今日は特にそう思わせる。練習の10回より本番の1回っていうやつだろうか?
 ベースとドラムと俺のギターが下がり、ストリングスとエレピが晶子の語りに花を添える。やがて2つの楽器が白玉のコードを奏で、晶子が曲のタイトルでもある「Can't forget your love」を、ウィスパリングを効かせた声で言う。向いている方向こそ違うものの俺に投げかけているような言葉に、アレンジした俺の胸がドキッとする。全ての音がゆっくり消えた後、拍手と歓声が急速にフェードインして来る。大成功だ。

雨上がりの午後 第1778回

written by Moonstone

 ストリングスが入る。ヴォーカルの切なさが更に増す。歌詞が相手を想う気持ちを前面に出しているだけに、ラブソングと言うに相応しい。想い人のちょっとした言葉や仕草に見入り、胸の鼓動を早まらせる・・・。人を好きになった経験があるなら分かる心情が見事に演出される。

2005/1/29

[妙な時間に更新]
 「またいきなり消息不明になった」と言われるでしょうが、一応生きてます。金曜夜に更新出来なかったのにはそれなりの訳があります。水曜に18時間職場に詰めていて、翌日出勤に間に合うように寝なかった、というお話はしたと思いますが、水曜に職場でうつされた風邪がその徹夜と過重労働で悪化して、激しい頭痛と共に、金曜昼以降水以外は一切口に出来なくなってしまったのです(昼食は全部嘔吐してしまった)。
 昨日(土曜)は職場のレクリエーションに申し込んであって、当日キャンセルするわけにいかなかったので、夜の更新を断念して就寝しました。今では頭痛は治まりましたが、胃腸の調子が今(P.M.7:00)また悪くなってきて、水やスープくらいしか食べられません。
 明日付の更新は行うつもりですが、今日のように時間が前後する可能性があります。トップページにもありますように、当ページはWWWCメタチェックに対応していますので、そちらをご利用くださると更新が直ぐ分かるかと思います。それでは、もう暫くお待ちください。
 客席からやって来た拍手や歓声は、何時になく温かく感じる。俺は一礼した後マイクを晶子に渡す。マイクは晶子、潤子さんと渡ってマスターの元に戻る、とう段取りだ。

「メンバーからの挨拶の次は、歌声に酔いしれていただきましょう。『Can't forget your love』と『The Rose』。どうぞお聞きください。」

 拍手と歓声の中、メンバーはそれぞれの持ち場に散開する。マスターはステージ脇に、潤子さんはキーボードの前に、晶子はマイクスタンドの前に、そして俺は後方に下がってエレキをスタンバイする。普段は全ての演奏データをプログラムしてある「Can't forget your love」を、今日は一部を俺と潤子さんの生演奏で置き換える。俺は「Secret of my heart」と同じく、原曲にはない単音でのバッキング、潤子さんは曲の雰囲気を演出する上で不可欠なエレピとストリングスを担当する。
 波が引くように、店内が急速に静まっていく。静まり返った店内にコーラス−ちなみにこれは晶子の声−がフェードインして来る。そして、ベルの雰囲気を帯びたエレピの高音部でのフレーズ。主にベースとドラムを担当するシーケンサの演奏は、歌が入るより1小節手前で−同時だとタイミングが取り辛いからだ−俺が開始させる。
 コーラスが柔らかいストリングスに置き換わり、晶子のヴォーカルが入る。満を持して、という感さえある「Can't forget your love」。晶子の声は甘く切なく、ゆるりゆるりと会場にこだまする。演奏がまだの俺は、フレットに右手を置いて目を閉じて聞き入る。シンバルのリバース(註:音の開始と終了を逆転させること)が入り、ドラムのフィルが続く。クリスマスコンサート限定の豪華メンバーでの「Can't forget your love」が、本格的に幕を開ける時だ。
 ドラムとベース、そして俺のギターが加わったとは言え、賑やかさはない。歌をじっくり聞かせるところだ。ヴォーカルはスフォルツァンド(註:発音後直ぐ音量を絞り、その後音量を増していく奏法。ブラスセクションでよく利用される)を組み込んでいて、切なさを醸し出すのに一役買っている。

雨上がりの午後 第1777回

written by Moonstone

「接客専門なのに話し下手なので、言葉をステージでの演奏に代えさせてもらっているつもりです。最後までゆっくりお楽しみください。」

2005/1/28

[48時間ぶりに寝ます(汗)]
 一昨日徹夜でしたので(何時もの時間に見に来たら更新されなくて、昨日見に来たら2日分更新されてた、という方も居られるのでは?)ようやく寝られます。疲労が溜まった状態での徹夜故に思考が散漫になりやすく(そういう時に限って思考を要することが多い)、しかも身体の彼方此方が痺れて、気を抜くと頭の中に歌のような妙なフレーズが繰り返し浮かんで来るという洒落にならない状態から、ようやく解放されます。
 一応今日は仕事を早く切り上げるつもりではいますが、昨日もそのつもりが半日職場でディスプレイと書類とにらめっこしてました(汗)。明日付の更新は久しぶりに「此処以外は何もなし」かもしれませんが、何せ場合が場合ですのでご了承ください。暫く待ったらいきなり更新、なんてこともありえます(^^;)。
 晶子の挨拶で、また客のボルテージが上がる。贔屓目で見ているせいかもしれないが、呼び声は潤子さんの時より多いと思う。マスターのメンバー紹介で潤子さんがマスターと夫婦だと分かったのか?晶子の時は「井上晶子さん」と呼んでいたが、潤子さんの時は「渡辺潤子」だったしな。

「このお店で働かせてもらうまでは、まさか人前で歌う機会があるとは思わなかった私ですが、こうして沢山のお客さんの前で歌える今が幸せです。最後まで楽しんでいただければ幸いです。」

 今を大切にする晶子らしい挨拶だな。大きな拍手と歓声は、高校時代にバンド仲間や宮城と行ったライブハウスや学校でのライブでの熱狂ぶりを思い出させる。ライブハウスでは客、学校のライブではプレイヤー、っていう立場の違いはあったが、どちらにしても楽しかったな・・・。
 思い出に浸りかけたところで、晶子からマイクが差し出される。最後は俺なんだよな。客の人気からすると俺は中間で良いと思ってたんだが、こういう並びになってしまった以上は仕方ない。俺はマイクを受け取って口に近づける。・・・やっぱり緊張するな。

「皆さんこんばんは。安藤祐司です。今日はコンサートに来てくださって、ありがとうございます。」

 客のボルテージの上昇は晶子と潤子さんの時に比べれば緩やかだが、温かく感じる。耳が店内の音に溶け込むように馴染んでいく。同時にざわめいていた心に凪が訪れる。すっとした気分で、改めて客席全体と向き合いながら言葉を続ける。

雨上がりの午後 第1776回

written by Moonstone

「こんばんは。井上晶子です。今日は寒い中このコンサートに来てくださって、ありがとうございます。」

2005/1/27

[18時間]
 昼休みや夕食を含みますが、昨日職場に居た時間が今日のキャプションです(汗)。測定やらデータ検証やらメール添付用の図(複数の電圧を同時に測定するので文章で説明すると自分も混乱する)を描いたりやらで、気が付いたら日付超えてました。今の測定はまだ予備実験の段階ですし、本実験では測定結果が出るまでに2時間とかかかったりするので(そういう動作をする電子回路を作ってます)、今日も職場で日付変更線を越えるかも(汗)。
 帰宅がA.M.2:30。このお話をしているのがA.M.3:30(1時間は巡回とかしてました)。出勤はA.M.8:00。薬飲んで寝たらほぼ間違いなく起きられないので、このまま徹夜します。薬を飲まないと寝られない身体というのは本当に不自由なものです。徹夜が出来るから便利、なんて思ってるそこの貴方。甘いです(きっぱり)。疲れていても寝られないでそのまま仕事するわけですから、はっきり言わなくても地獄です
 ディスプレイばかり見てたので(測定機器も液晶ディスプレイつきです)、目が痛いです。目を閉じると職場でにらめっこしていた図やら電圧波形やらが浮かんで来るのが凄く嫌(汗)。職場で風邪をうつされて、もう踏んだり蹴ったりです。そういうわけですので、今週末の更新はあまり期待しないでください。
 そうそう、今回はメンバー紹介に続いて短い挨拶なんかをするんだよな。人前で話すことにあまり慣れてない俺には難しい部類に入るが、此処は飲食店なんだし、順調に行けば、という前提条件があるが来年の卒業研究とかでも就職の面接とかでも必要な「技術」の一つとして、人前で話すことの場数を踏んでおいた方が良いだろう。

「皆さん、こんばんは。渡辺潤子です。本日は当店の恒例行事であるクリスマスコンサートにお越しくださいまして、誠にありがとうございます。」

 まずは潤子さん。大きな拍手と共に「潤子さーん」という呼び声が幾つも上がる。キッチンに居る時間が圧倒的に多い−俺と晶子がバイトしている時間帯に限っての話だが−潤子さんだが、やっぱり人気は高い。マスターも言っていたが、この店が誇る美味い料理は潤子さんの手によるところが大きいから、当然と言えば当然か。

「普段はキッチンから皆さんに料理をお届けしていますが、今日は店いっぱいのお客さんの前で、プレイヤーの1人として音楽をお届けしております。どうか心行くまでお楽しみください。」

 潤子さんのすっきりした挨拶で、客のボルテージがまた上昇する。練習して来たとは言え、美味く喋るなぁ・・・。マスターと結婚する前普通のOLだったそうだけど、ピアノも出来て歌も歌えて料理も抜群だなんて、箱入り娘だったのかな?
 この前の夕食の時にさり気なく−俺の「さり気なく」はあくまで俺がそう思っているだけだが−潤子さんにOL時代のことを聞いてみたけど、「昔のことだからねぇ」とかわされてしまった。OL時代にジャズバーでマスターと出会って、実家を勘当されてもマスターと結婚して、OLを辞めて調理師免許を取ってマスターと一緒に此処に店を構えた、ということは前から聞いているが、それ以上はかわされてしまう。あまり話したくないんだろうか?

雨上がりの午後 第1775回

written by Moonstone

「私ばかり喋っているのも何ですので、順に挨拶などしてまいりたいと思います。」

2005/1/26

[昨日の補足みたいになりますが]
 昨日此処で横審委員の1人内館牧子氏の発言を批判しましたが、それでもって「日本の伝統文化である相撲が外国人に蹂躙されるのを由とするのか」とかいった意見があるかと思います。はっきり言ってそのような意見は見当違いです。前にもお話したと思いますが、朝青龍関をはじめとする外国人力士は、外国人だから、と言って優遇されているわけではありません。むしろ、日本語を話し、日本の食生活に馴染まなければならない分、日本人力士より大きなハンディを背負っているのです。
 日本語を話すなんて当然、と言うでしょう。では、そういう貴方は英語で何かを質問されてそれを英語で答えられますか?「あれは何ですか?」「これはペンです」というレベルではありません。「今日はあまり調子が良くないようですが」というような問いに対する答え、です。恐らく殆どの人は出来ない筈です。日本では中学高校を合わせて6年英語を習いますが、それで英語での会話が弾まないというのは、語学学校のCMの氾濫を見れば分かります。
 言葉という壁一つ取っても大きなハンディを背負い、しかも日本人力士のように学生横綱など一定の条件を満たせば一気に十両程近いところからデビュー、なんて「特典」はないのです。「外国人による伝統文化の蹂躙」を言う前に、同じ土俵に立つまでに大きな苦労があり、その中でも勝ち抜いて来たごく一部の人だけが幕内で脚光を浴びている、という事実を直視してもらいたいものです。

「向かって左側からご紹介しましょう。まずは安藤祐司君。その道のプロの触手をも動かした、若手ギタリストです。ギター全般の他、多忙な学業の合間を縫ってアレンジやプログラミングもやってくれています。」

 拍手に応える形で俺は一礼する。「安藤くーん」と呼び声がかかる。呼び声の主である、中央やや奥に見える常連のOLに小さく手を振る。

「その向かって右隣は、井上晶子さん。ヴォーカルという新たな形の楽器を担当すると共に、この店を支える重要な要素である料理も担当してくれています。彼女目当てに来るという男性客もちらほら・・・。」

 笑いに続く拍手に晶子が一礼して応える。「井上さーん」という呼び声が彼方此方からかかる。

「やはりその向かって右隣は、渡辺潤子。店では基本的に料理専門ですが、日曜に限ってはリクエストタイムに登場します。担当はピアノとキーボードです。店の自慢の料理の数々は、彼女の手で生み出されます。」

 拍手の中、潤子さんが一礼する。「潤子さーん」という呼び声がやっぱり彼方此方から飛んで来る。

「最後は私、渡辺文彦です。担当はサックス全般です。普段はコーヒー作りに併せて、店の看板に悪い虫がつかないように強面を生かして目を光らせています。」

 笑いに続いて拍手が起こり、マスターが一礼する。確かに今のマスターの役どころは「監視役」だからな。マスターが来ると途端に借りてきた猫みたいに大人しくなる中高生も居るくらいだし。
 大人しいと言えばあの客、吉弘も随分大人しいな。女王態度で近付いて来たという先入観を除けば、普通の客として違和感がない。「こんな狭苦しいところに客を押し込んで何様のつもり?」とか言い出しそうなもんだが、一向にその様子はない。こういう形で音楽を聴くのは初めてということで新鮮な気分に浸っているのかもしれない。

雨上がりの午後 第1774回

written by Moonstone

「ではこの辺で、メンバー紹介と参りましょう。」

 マスターのMCを受けて、ステージ向かって左から俺、晶子、潤子さん、マスターの順に並ぶ。これは音合わせの際に決めてある。

2005/1/25

[追っかけは追っかけのままで居ろ]
 腰が・・・、と言い続けても治らないですから(早く治ってほしいのは山々)、久しぶりに違う話でもしましょう。先の大相撲で全勝優勝を成し遂げた朝青龍関の千秋楽で史上最多の懸賞金がかかりましたが、その懸賞金を摘んで取ったのがけしからん、と言った横綱審議委員(以下「横審」)が居る・・・。
 前に此処で「朝青龍関が左手で手刀をするのはけしからん」という意見を紹介して、相撲協会に明記もされてない、慣例が定着したに過ぎないことをとやかく言う暇があるなら、ふがいない日本人力士を強くする方法でも提案するべき、と言ったことがあります。で、調べてみたら今回の意見も先の意見も同一人物(内館牧子氏)。・・・だから、形式にこだわる暇があったら、相撲人気の低下をどう克服するかなど、現実的提案をすべきじゃないんですか?
 「力士の追っかけギャルだった」とのたまった内館氏。追っかけなら追っかけのままで居ることを勧めます。追っかけ意識のままだから、かつて相撲協会が渇望した『「強い横綱」とそれを許している多数のふがいない力士』という構図を直視せず、本人の特徴(朝青龍関は左利き)や物理的問題(懸賞44本は242万円。とても手で掴めない厚さ)に難癖をつけるのです。こんな横審委員は要りません。
 ドラムのフィルの終わりとほぼ同時にソロは終わる。エレピに似たシンセ音にバトンが渡るが、客席から大きな拍手が起こる。俺はコード演奏をしつつ軽く一礼する。潤子さんはリズムを保って、それでいて機械的じゃない演奏を続け、程なくプレイヤー泣かせの6連符の連続になる。ここでも難しさをさらりと受け流す感じで弾きこなす。流石だな。
 シンセ音がピッチベンドで音程を下げて消えると、サックスとギターのユニゾンになる。此処ではこれまでの色っぽさとは違って明るく華やかな雰囲気になる。チラッと見える客の顔も明るい。・・・良い感じだ。
 ユニゾンを一旦終えてAメロに戻る。手拍子に乗ったサックスの音色は、ついさっきまでの明るさから艶っぽさを含ませたものに変わる。その場その時で音色の雰囲気を変化させられるのも、それなりの技術と経験があるからこそ。高校時代から数えて6年になるステージ経験が教えてくれたものの1つだ。
 Bメロに入り、主役はシンセに代わる。ギターソロが長くて派手だった分シンセは控えめに感じるが、難度の高いフレーズがさらさら弾きこなされていくあたりにも、ギターソロとは違う色っぽさがある。ギターソロが、スリットから太腿が覗いたりするような「目立つ色っぽさ」と言うならシンセソロは、ポニーテールを横や後ろから見た時に見える白いうなじのような「さり気ない色っぽさ」と言うところか。
 シンセソロの次は締めくくり、サックスとギターのユニゾンだ。一気に目の前が開けるような明るい展開。そんな雰囲気をマスターと演出する。原曲では途中2拍挟むところがあるが、此処で演奏する分にはカットしている。
 ユニゾンのフレーズは4小節が基本単位。それを8回、つまり16小節演奏したところで、G→C→Dという上昇型コードを展開して、最後をEm(イーマイナー)で全ての楽器がユニゾンして締める。締めくくりのドラムのフィルで音をシャットアウトする。客の方を見ると同時に大きな拍手と歓声が沸き起こる。

「『La・di・da Woman』、お楽しみいただけましたでしょうか?」

 サックスをマイクに換えたマスターが呼びかけると、客が拍手や歓声や指笛などで応える。大盛況のようだ。

雨上がりの午後 第1773回

written by Moonstone

 最後の4小節は、より色っぽさを強調した演奏にする。チョーキングを目立たせ、音の切れ目を極力なくす。こうすることで、「水分を吸った長い髪をかき上げる女」或いは「スカートの裾がふわりと捲くり上がった様子」、・・・俺のボキャブラリーじゃこの程度の表現が関の山だが、兎に角「最高の色っぽさ」を出せる。

2005/1/24

[何だかなぁ・・・]
 腰の具合は相変わらず思わしくありません。周期が長くて重い痛みと同時に「冷え」を感じます。冷え性の「冷え」と同じようなものです。職場では腰にコートを巻いて凌いでいますが、自宅ではコートに該当するものがないので(コートを巻くとスペースの関係で邪魔で座れなくなる)果てさて、どうしたものか・・・。
 腰に加えて体調も芳しくないところに、PCを起動すれば迷惑メールがポンポン舞い込むのでがっくり。休んでいた3日間、再起動(PCかい)後の昨日と今日(日記の日付で)の5日間で200通以上来たメールの9割9部9厘は迷惑メールかウィルス。何だかなぁ、と溜息吐いてます。
 とりあえず寝ます。寝て治るわけじゃないんですが、やる気もすっかり失せましたし、今日からの仕事に備えた方が良いか、と思って。
 サックスにバトンが戻る。ブロウが効いた音色が艶っぽい。勿論、リズムに乗ることは忘れていない。俺はタイミングを計りつつボリュームペダルに足を乗せる。サックスのフレーズの終わりが俺の再登場の合図でもある。グリスを入れてボリュームを一気に上げる。
 曲はイントロに戻る。コードを演奏するスタイルは変わらないが、音量を増して白玉部分でのアームを大胆にアピールする。この曲に貫かれている「ノリの良さ」と「色っぽさ」をギターで表現する第一の機会。フレーズそのものは簡単だから、アピールに重点を置く。
 2拍挟んで一時マスターに主役の座を譲る。基本的にAメロだが、サックスのフレーズは最後が少し違う。ドラムのフィルが入るに併せて再び音量を増し、同時にステージの一番前に出る。ここからが俺の見せ場だ。
 最初にアームを効かせた白玉を2回ぶつける。ここで十分タメを作っておいて、細かいフレーズを続ける。対照的なフレーズが作り出す面白さをアピールした後、見せ場の1つに入る。ゆったりしたフレーズで音の継ぎ目を出来るだけ少なくして、気障な表現を使えば「色っぽい女の深いスリットから太腿が垣間見えるような色っぽさ」を表現する。
 この曲で大切な「色っぽさ」の多くは、このギターソロにかかっている。雰囲気を出すにはかなりの試行錯誤と練習を要したが、その分好評を得た時の喜びは大きい。チョーキング(註:ある音を演奏した直後に弦を押し上げる、ギターの奏法の一つ)を使った低音のフレーズでも、存分に「色っぽさ」を醸し出す。
 ソロも後半。チョーキングをわざと目立つように−普段は装飾的な位置づけだ−すると同時に、細かいフレーズは、纏めた長い髪の拘束が解けて流れ落ちるようなイメージを演出する。この「静」と「動」の対比のおかげで音をとるのに随分苦労したが、大きな見せ場で飾るには丁度良い。

雨上がりの午後 第1772回

written by Moonstone

 また2拍挟んで−この曲では多い−今度はシンセに主役の座が移る。口笛に似た音色でのフレーズは後半で非常に細かくなる。だが、ステージから見て右半身を見せる形で演奏している−これもこのコンサート独自の形態だ−潤子さんによる演奏は、その難易度をさらりと受け流す。プログラミングに苦労したところが潤子さんの手にかかるとすんなりこなされるのは、複雑な気持ちだ。

2005/1/23

[ひたすら寝てました]
 昨日の日記でお話ししたとおり前日一睡も出来なかったこともあってか、一度は目覚めたものの直ぐにベッドに逆戻り。きちんと起きた時には外は真っ暗でした(汗)。あー、よく寝た、とは感じません。まだ頭がぼうっとしてます。
 腰の座りが悪いのも相変わらずで、夕食後に鎮痛剤を飲みました。処方はされたものの、連続での服用は避けるように、と言われているので1日1回です。上半身の重みを腰が支えられないというのは、座り作業が多い私にはかなり辛いです。
 今日もこのお話をご覧戴いている頃にはベッドに戻っていると思います。昨日1日寝ていたので買出しなどは今日。寒いらしいので外に出たくないなぁ・・・。
 マスターの解説で拍手と歓声は更に大きくなる。「天井知らず」とはこのことか。晶子と潤子さんが改めて一礼する。

「続いてはダンサブルに参りましょう。『La・di・da Woman』!」

 晶子がいそいそとステージから降りる一方、潤子さんが俺の隣にあるキーボード群の前に来る。普段は音源としてのみ使われているキーボードに−キーボードの形でしか入手出来ないそのメーカーの音色がある−命が吹き込まれる。
 「La・di・da Woman」は今年投入した新曲の一つだが、キーボードはエフェクトをかけたギターで代用したソロ以外全てシーケンサで演奏させて来た。シーケンサの自動演奏から潤子さんによる演奏。これもこのコンサート独自のものだ。そもそも潤子さんがシンセの前に立つことはないからな。
 マスターがサックスを構えたところで、タンタタ、とやや軽めのスネアが鳴り響く。俺はリズムに乗ってディストーションを効かせたコードを鳴らす。この曲は軽くスイング(註:8分音符以上に細かい音符の偶数拍の開始を若干後ろにずらすこと。ジャズでよく使われる)するしテンポもやや速いから、マスターの紹介どおりダンサブルな曲だ。客の手拍子の中、俺は軽くアームを効かせつつコードを鳴らす。
 2拍挟んだ後、主役をマスターのサックスに譲る。俺はコードを鳴らすが音量を落としてシンセのバッキング−これも潤子さんが演奏している−とユニゾンする。サックスが艶っぽさを持たせたメロディを奏でる。
 チョッパーベース(註:親指でベースの弦を弾く演奏方法)のソロを2小節挟んで、マスターが演奏を再開する。リズムに乗せて身体を揺らしながらの演奏は、実践の場を長く踏んできたことを窺わせるまったく嫌味がないものだ。

雨上がりの午後 第1771回

written by Moonstone

「我が『Dandelion Hill』が誇る夢のデュオで、『Secret of my heart』をお送りしました。」

2005/1/22

[申し訳ありませんでした(平謝り)]
 此処では可能性を示唆していたとは言え、結果的に3日間無断欠勤と相成りました。この間勿論生きていまして、出勤もしていました。ですが、ただならぬ体調不良(「ニュース速報」にもありますように、まだ腰痛が治りません)と精神疲労が重なり、PCの画面を見るだけでも激しい嘔吐感を感じる有様で、とてもページ更新に繋げられませんでした。
 そんな中でもメールチェックとページの確認はしていました。私の無断欠勤中にも400人以上のご来場者数があり、大変申し訳なく思いました。「休む」とくらい「ニュース速報」にでも書いてアップすれば良かった、とは思うんですが、PCの画面を見ただけで嘔吐感に襲われていた有様では不可能でした。
 昨夜(1/20夜)は服薬しても一睡も出来ず(こういうことはまれにあります)、満身創痍で本業の峠を一つ乗り越えました。かく言う今も精神疲労こそ少なくなったものの、体調不良はまだ続いています。この週末で腰痛が治まって欲しいんですが・・・。
 広がり間のある間奏に入る。此処でも晶子と潤子さんのユニゾンだ。融合した2つの声で朗々と歌われる「Secret of my heart」は格別だ。これだけでも、今日来た客は1000円払って寒い中此処に足を運んだ価値があったと思うだろう。少なくとも客よりは数多く聞いている俺はそう思う。晶子と潤子さんの声が嫌味のなさをそのままに張りを増していき、単純明快にしてラブソングに不可欠な「理由」を見事に歌い上げる。
 曲調は一転静けさを取り戻し、晶子の声が英語の歌詞を切なげに歌う。その間隔に潤子さんがコーラスで入る。1人では出来ないこと。2人だからこそ出来ること。色々な言い方が出来るが、今展開されている「Secret of my heart」はまさにそれだ。ストリングスが音量を増して来る。クライマックスは近い。
 三度サビに入り、晶子と潤子さんのユニゾンが復活する。それなりに数を重ねたとは言え、潤子さんがステージに立って歌うのを目にした回数はそれほど多くない。潤子さんは昼から店のキッチンに立っているし、俺と晶子が泊り込んで以来、潤子さんがリクエストタイムに出たのはこの前の日曜だけ。そこでも晶子との「夢のデュオ」はなかった。なのに晶子との呼吸はピッタリだ。本当に何時練習してるんだろう?元お嬢様と言うが、それだけで表現出来ない天性の才能というのか、潤子さんにはそういうものがあると思う。
 曲のタイトルでもあり、歌詞の根底を流れる言葉が繰り返される。原曲ではこのままフェードアウトしていくんだが、今回はデータ更新に併せてそれなりに終わり方を考えた。言葉が8回繰り返された後、ジャズっぽい白玉を背景に晶子と潤子さんのハミングが柔らかく浮かぶ。
 少なからず作曲の経験があって、アレンジは少なくとも数だけは多くこなしてきた俺から見て、曲は始める方より終わる方が難しいものだ。フェードインして始まる曲は少数だが、フェードアウトで終わる曲が多いのはそれを象徴していると思う。此処では、ありがちと言えばそれまでだがこの曲に相応しいと思う締め方を選んだ。
 晶子と潤子さんのハミングが楽器音と共に空気に溶け込むように消えた後、観客から大きな拍手と歓声が沸き起こる。見事。この一言に尽きる。晶子と潤子さんは揃って一礼する。鳴り止まぬ拍手と歓声の中、マスターがステージに上がって来る。

雨上がりの午後 第1770回

written by Moonstone

 再びサビ。二つの透き通る声が協和して、切ない色模様の歌詞を清々しく歌い上げる。後ろで聞いていても気持ちが良い。歌っている晶子と潤子さんを正面から見られないのは今の位置と役割があることの裏返しだから、何とも表現し難い。その分、音合わせで見ているから由と考えるべきか。

2005/1/18

[ちょっと休むかも・・・]
 発生から半月近く経ちますが、未だに腰痛が治まりません。座っての作業が満足に出来ないほど腰の座りが悪いんです(汗)。前の土日あたり少し良かったので鎮痛剤を飲むのを止めていたんですが、この分だと最低1日1回飲まないとやってられない(本業が特に)。
 本業が切羽詰ってますし、これ以上悪化させるわけにはいかないので、最悪、腰痛が治るまで更新をお休みすることになるかもしれません。今日もギリギリまで迷ったんですが、いきなり消息を絶つのも(そこまで大袈裟じゃないが)何かと思いまして・・・。ま、このページなり携帯なりで(携帯でこのページの更新情報が見られます。念のため)チェックしてやってください。うー、早く薬飲んで寝よう・・・。辛くて敵わん(汗)。
 Aメロに入る。ここは晶子担当。今まで晶子単独で歌っていたから違和感はない。俺は原曲にはない、クリーンギター単音でのバッキング担当だ。なくても良いんだが、データを作ったという理由でステージ隅に居る。この夏のコンサートでも大好評だった「Secret of my heart」。今年は演奏曲を刷新する方向だったんだが、これ見たさに来る客も居る筈、というマスターと潤子さんに押されて組み込まれた。
 Aメロの繰り返し。メロディは晶子単独だが、潤子さんのコーラスが入る。原曲にはあったが、今まではシンセの音で−コーラスの音色はある−代用していたパートを潤子さんが担当するわけだ。晶子の声は勿論だけど、潤子さんの声も綺麗だよな。ウィスパリングが程好く効いたコーラスは、この曲にピッタリだ。
 いよいよサビに入る。晶子と潤子さんがユニゾンする。マスターが「夢のデュオ」と言ったが、このペアは潤子さんがリクエストタイムに登場する日曜にもない、ファンにとってはまさに「夢のデュオ」だ。互いに争う形で自己主張するんじゃなくて、手を取り合ってメロディの良さを引き出す2つの歌声が、清らかに店内にこだまする。切ない歌詞が胸を少し締め付ける。
 サビが終わるとAメロに戻るが、今度は潤子さんが歌う。これは今年初の試み。「潤子さんも一人で歌ってみてくださいよ」という晶子の提案が発端だ。予想以上に良い−潤子さんには自覚はなかったが−ということで、Aメロを晶子→潤子さんの順で歌い、サビをユニゾンする、と決まった。潤子さんの歌声を聞くことはあまりないから、新鮮な印象を受ける。
 Aメロの繰り返しでは、潤子さんのメロディに晶子のコーラスという、最初とは逆の構図が生まれる。晶子のコーラスはやっぱり綺麗だ。耳にふんわり馴染んでゆるやかに溶け込んで来る。潤子さんの歌声を引き立てる効果を存分に発揮している。

雨上がりの午後 第1769回

written by Moonstone

 マスターがステージから降りたのを見計らって、シーケンサをスタートさせる。客席が静まるのを待ってたらコンサートの進行が滞っちまう。聞き慣れたというのを通り越して身体に染み付いたイントロが始まる。途中からコーラスが入る。ここは潤子さんのみ。

2005/1/17

[あの日から10年]
 10年前の今日の早朝、寝ていた私は大きな揺れで目を覚ましました。初めて感じる大きな揺れで飛び起きたものの、揺れは一度きりだったので再び夢の中へ。そして改めて起きてニュースを見たら、阪神淡路地域に大地震が起こったとの速報が飛び込んできました。
 阪神淡路大震災から10年。この日が来る度にマスコミでは特集が組まれていますが、果たして現在の深層に迫っているのでしょうか?ただ「記念日」の一つとして視聴率を稼げれば良い、という安直な流れに陥っているような気がしてなりません。
 昨年末の中越大震災でようやく取り上げられるようになってきた、「大地震と心のケア」。揺れを感じる度に、この日この時間が来る度にあの日のことを思い出す、という方も居られるでしょう。地震そのものを止めることは出来なくとも被害を最小限に食い止めることは可能です。今一度「地震大国」は看板倒れになっては居ないか、見直してみる必要があるのではないでしょうか?
 サックスソロに入る。コード進行はAメロと同じだし、原曲でもここはサックスだから、かつてジャズバーを席巻したというマスターなら心配は無用だ。原曲ではサックスソロでフェードアウトしていくんだが、サックスでフェードアウトは難しいから16小節演奏したところでフィルが入って、最後はジャズっぽい白玉を背景にサックスが細かいアドリブを入れておしまい、としてある。
 サックスでよく耳にする音域を使ったフレーズがゆっくり消えてマスターがサックスから口を離すと、観客から大きな拍手が起こる。俺はステージ後方に下がって次の準備をする。マスターはサックスをぶら下げたまま、マイクスタンドにあったマイクを手に取る。

「皆様、お楽しみいただけましたでしょうか?」

 マスターの威勢の良い呼びかけに、観客が盛んな拍手や歓声で応える。そう言えば耕次の奴、煽りっていうのか、こういうのが上手かったな。それが五月蝿いって生活指導の教師が怒鳴り込んで来てひと悶着、ってのもよくあったっけ。

「若きギタリスト大活躍に続いては、特に男性の方は今か今かと心待ちにしていたでしょう。」

 この時点でどよめきが起こる。此処に来ている客で男性、と来れば楽しみなものは「あれ」だということは直ぐ分かる。

「我が『Dandelion Hill』が誇る夢のデュオ、井上晶子さんと渡辺潤子の登場です!曲は勿論、『Secret of my heart』!」

 大歓声の中、晶子と潤子さんがステージに上がる。やっぱり人気あるなぁ。料理に髪の毛が入るといけないから、ってことで普段はトレードマークの長い髪を後ろで束ねている晶子と潤子さんが、髪をおろして揃いの衣装で並ぶんだから、注目が集まるのも当然か。

雨上がりの午後 第1768回

written by Moonstone

 マスターとのユニゾンが始まる。これも斜めに向かい合って「見せる」要素を加える。フレーズそのものは先のものと変わらないから、「見せる」ことと楽しむことに専念出来る。最後の音の伸ばしは十分保って、細かいドラムのフィルを引き立てる。

2005/1/16

[眠い、痛い]
 やっぱり寝不足だったんですかねー。朝何時もより早い時間に目覚めたは良いものの肝心の目覚めが悪くて、その上腰の座りが芳しくなかったので、朝食後布団に逆戻り。薬の効き目が続く時間に対して行動時間がかみ合ってないようで・・・。
 「魂の降る里」2週連続公開、なんてやっちゃったものの、この分だと来週が危ない(大汗)。今日はきちんと寝たいところです。携帯のアラームを遠いところに置いておくかな・・・。
 一旦俺が下がり、サックスだけになる。それまでとは違って艶っぽさを持たせた演奏は、サックスにすると艶っぽさが増す。ブロウを効かせたアルトサックスは色気があるからな。
 再び俺とマスターのユニゾンが始まる。2拍単位で変わるコードに、ギターが前面に出た形でメロディを乗せる。マスターとは斜めに向かい合っている。普段ギター単独だった−これも店の混雑が関係している−から、ここぞとばかりに人間と人間のぶつかり合いを堪能する。転調してより明るさを増したコード展開に乗せて、軽快にメロディを奏でる。
 ギターソロに入る。このソロはかなり長い。コードがめまぐるしく変わる、複雑だが曲調を阻害しない流れに乗って、あくまでも軽快さを忘れずに演奏する。こういう曲では特にテンポに乗ることが大切だ。フレーズ自体もさほど難易度は高くないし、演奏を楽しむことが重要だ。
 後半になるとフレーズが細かくなる。尚のこと曲調とテンポを崩さない演奏が要求される。オーバードライブやディストーションといった音を歪ませるエフェクトをかけたギターは、ともすれば演奏を音の歪みで誤魔化しがちになる。即興と間違いとは違う。音のツブははっきりさせ、機械的にならないように、同時に音の歪みで誤魔化さないように丁寧に、そして楽しく。
 Bメロに戻ってサックスに交代する。客席からの拍手に小さい一礼で応えてユニゾンに備える。今度のBメロは最初のそれとは少し違う。最後に1小節増えている。多くの曲は4の倍数でAメロなりサビなりを構成している。1小節加えるだけでもかなり印象が違ってくるもんだ。増えた1小節では、サビに繋げるブラスセクションが目立つ。データを作る時結構苦心した覚えがある。

雨上がりの午後 第1767回

written by Moonstone

 オーバードライブさせたギターにサックスが重なる。原曲ではEWIなんだが、アルトサックスでもなかなか面白い。マスターと斜めに向かい合ってユニゾンしてみたりする。

2005/1/15

[無事乗り切った・・・かな?]
 測定機器の操作は意外に呆気ないものでした。Windowsベースで動いているものですから、マウス右クリックでメニューを出して・・・という基本テクニックも通用しますし、肝心要の部分さえ分かれば後は簡単に飲み込めました。無事測定出来たので、ようやく本題の回路動作検証に取り掛かれます。
 ページの更新もいっぱいいっぱいだったので、今日は出血サービスです。これまで隔週更新だった「魂の降る里」の2週連続更新などやってみました。ええ、本当に流血ものです(汗)。今日続き書くぞー。えいえいおー。遅れに遅れているメールのお返事も順次行っていきます。
 拍手と歓声の大波が引いた観客を前に、俺はギターを爪弾き始める。ハンマリング・プリングを多用した、一旦下降して上昇する細かいフレーズを奏でる。3年以上の変遷を経て出来上がった、現段階でのイントロ。最後の音を爪弾いて、そのままの姿勢で深呼吸1回分の間を置く。
 静まり返った店内に、ギターの音が浮かんでは消える。メロディを基本にしたフレーズが、フレットノイズを交えながらゆらゆらと流れる。俺と晶子の携帯の着信音でもあるこのフレーズ。自分が言うのも何だが、やっぱりギターも生が良い。アコギは尚更だ。
 俺一人のステージは続く。AメロBメロを2回弾いてから、俺が作曲した16小節のフレーズを弾く。何度かのアレンジを重ねたフレーズは、テクニックを見せ付けるようなものから弾いてて気持ちが良いものに変わっていった。蒼い月の下、想いを綴る。そんな感じだ。
 少しタメを加えてAメロに戻る。勿論最初のものをそのままコピー&ペーストしたものじゃない。その日その時の気分と流れで違って来る、まさに即興のフレーズ。この店の採用試験で弾いて以来何度となく弾いて来た「Fly me to the moon」の、俺なりの一つの集大成が此処にある。一度きりの、この瞬間だけのフレーズ。何気にそういうのが結構好きだったりする。
 アップストロークで最後のコードを弾く。残響が少ないアコギの音は直ぐ消える。俺がフレットから顔を上げると、パラパラと拍手が鳴り始め、それは指数関数的に音量を増す。興奮ではなく感動を示す温かい拍手の中、俺は一礼してからステージ奥に下がる。ギターをエレキに戻して次の曲に備える。
 ギターとシーケンサの準備を整えた俺が見ると、アルトサックスを構えたマスターが居る。フットスイッチを押すと、ドラムのフィルに続いて明るいブラスセクションが鳴り響く。しっとりしていた雰囲気が一転して軽快なものになる。観客からの手拍子を受けつつ、俺は前に出る。

雨上がりの午後 第1766回

written by Moonstone

 晶子が一礼してステージから下りる間に、俺はギターをエレキからアコギに変える。クリスマスコンサートでは初めての披露となる「Fly me to the moon」のギターソロバージョン。何度かアレンジしてはいるが、この店でバイトを始めて以来の付き合いなんだよな。

2005/1/14

[今日1日・・・]
 昨年から続けている仕事が、今日急展開を見せます。取扱説明書がまるで出鱈目な測定機器の操作方法が明らかになるからです。操作方法が分かれば、後は測定を繰り返して仕様どおりの信号が出ているかどうかをチェックするだけです(このチェックが結構単調で、そのくせ時間がかかるんですが)。
 でも、私にはその機器の操作方法を確実に覚える、という責任が課せられています。最悪の場合、私1人で説明を受けて後で先輩と上司に説明する、という非常に厳しい条件になります。戦闘状態が続く今週を乗り切ったら、週末はゆっくりしたい・・・んですけど、そういうわけにもいかないんですよね(泣)。
 晶子の澄んだヴォーカルが、存在感を示しつつも一歩引いたピアノに乗って流れる。Aメロ、Bメロと来たらようやく俺の出番だ。前向きな気持ちを綴った歌に添える感じで、ギターを鳴らす。白玉のみの簡単なフレーズだが、デコレーションの失敗したケーキを食べたいという気にはあまりなれないのと同じように、添え物だからと言っていい加減にするわけにはいかない。
 サビが終わると間奏に入る。ここでヴォーカルとピアノ以外は一斉に退散する。今度のピアノはアルペジオじゃなくて白玉のクイで始まるから、テンポキープがかなり難しい。それでも晶子のヴォーカルと潤子さんのピアノは、ごく自然に息を合わせてシンプルなフレーズを紡いでいく。
 ピアノがアルペジオを加えたものに変化し、晶子のヴォーカルに力が篭る。とは言っても熱唱というタイプじゃなくて、この曲全体に貫かれている前向きさを際立たせるという感じだ。ピッタリのタイミングで、それまで退散していた俺を含む楽器群がオーケストレーションを形成し始める。ギターなりベースなり、一つ一つの楽器と言う色が組み合った虹の橋。投入以来、この曲の人気が高い理由の一つが此処にあるような気がする。
 曲はサビに戻る。観客から自然と手拍子が起こる。イントロからしてサビを基本にしている−逆の言い方も出来るだろうが−曲だけに、サビの存在感は大きい。この手の曲はサビを強調したいという意図もある。前向きな心を綴ったこの曲では、サビが前面に出るのがプラスの方向に働いている。
 サビを2回繰り返すと、ヴォーカルとピアノ以外は一斉に消える。シーケンサのデータも此処で終了する。後はヴォーカルとピアノだけで構成されるからだ。前に向かって進んでいく途中で辛くなっても今君が居るから大丈夫、という意思を込めた歌詞が、ゆっくりテンポを落としていくピアノに乗って歌われる。ヴォーカルとピアノが心地良い余韻を残して消えると、客席から大きな歓声と拍手が沸き起こる。

雨上がりの午後 第1765回

written by Moonstone

 ようやくドラムが加わる。此処まで来たからお飾り的感は否めないが、それを言い出したら俺のギターもそうだ。こういう楽器が順に加わってくるタイプの曲では、後の方で加わる楽器の存在感が薄まるのは致し方ないこと。

2005/1/13

[一つの山越えて・・・]
 脱力中です(汗)。寝不足な上、快方に向かっているとは言え腰の具合が思わしくないので(鎮痛剤で痛みを緩和しています)、そんな中でのデスクワークその他諸々はかなり厳しいです。測定の時(急遽突入)はどうしても立った状態で腰を曲げる必要があるんですが、それが一番堪えます。正常動作している(らしい)ことが確認出来ただけまだ由と考えています。
 こういう時に限って連載のストックは底をつき、しかもコストパフォーマンスが悪い情景描写の連続だったり(汗)。メールなどお返事出来なくて御免なさい。とりあえず次の週末までお待ちください。スパムが大量収穫なのが泣ける・・・。
 晶子と潤子さんが準備完了なのを確認した後、俺はシーケンサのデータを確実に切り替えてフットスイッチを押す。ストリングスだけの簡単なフレーズが流れる。だが、これはピアノが潤子さんの生演奏になることを受けて、テンポと演奏開始をカウントダウンする重要なものだ。そのために曲のテンポに合わせた4分音符だけで構成している。
 ピアノが入ると同時にストリングスが「本性」を現す。ピアノが生になると音圧が大きく違う。それを狙っての「特別編成」なんだが−4人全員の会議で決めた−、効果の程はどよめきの大きさで分かる。俺と晶子の携帯のメール着信音でもあるイントロ兼サビが壮大に奏でられ、やがてピアノ単独になる。単独でもその音圧は凄い。それを表現して生かすだけの技量があってのものだが。
 アルペジオを主体としたピアノをバックに、晶子の歌声が流れ始める。ドラムやベースといったテンポを刻む楽器がない、ピアノと歌声だけのシンプルな構成だ。テンポは潤子さんのピアノが奏でるアルペジオが唯一の頼りだ。
 リクエストタイムではずっとシーケンサで演奏させていたから−俺が付き添って演奏したり出来ないという最近の店の混雑事情もある−、テンポコントロールを組み込まない限り嫌味なほど正確にテンポキープしてくれる。だが、生演奏ではどうしても揺らぎが発生する。晶子は入念に練習して来たし、音合わせでも問題はなかった。だが、本番になるとどうしても気になる。
 ストリングスが控えめに加わる。だが、まだテンポキープは晶子と潤子さんに委ねられる場面が続く。俺の感覚では、生演奏独特の自然な揺らぎは含みつつも自然にテンポが保たれているように思う。一旦始めた演奏を止めてやり直し、なんて出来る筈がないから、晶子と潤子さんを信じるしかない。
 サビに戻る。ストリングスが再び勢いを増すに併せて、此処でようやくベースが入る。・・・タイミングはバッチリだ。心配するだけ損だったかもしれない。ベースは2拍単位だが、ヴォーカルとピアノの2つと違和感なくかみ合っている。俺の出番はまだまだ。そもそも俺の役割はシーケンサの制御だけでも十分なんだが、サックスやピアノがそうなように、ギターも生の方が良い。

雨上がりの午後 第1764回

written by Moonstone

 大きな拍手と歓声の中、マスターがステージ脇に下がり、晶子と潤子さんがステージに上がる。「Winter Bells」の時とは違い、晶子はマイクをマイクスタンドに立てて歌う。俺は引き続きギターだが、今回は奥に引っ込む。主役は晶子だからな。

2005/1/12

[今日は厳しい・・・]
 覚書みたいになってしまいますが、提出期限が今日の午前中、今日いっぱい、来週いっぱいの仕事が立て続けに襲って来ています。そのうち今日の午前中までの仕事は苦労させるくせに報われるかどうかは当分分からない、という性質のものなんですけどね(汗)。
 今日を乗り切ることを優先させていただきますので、メールのお返事は明日以降にさせていただきます。ただでさえ遅れ気味なのに・・・。あうう(泣)。該当の方々、もう暫くお待ちくださいませ。
 マスターの問いかけに対し、客席から幾つもの歓声が起こり、再び大きな拍手へと変化する。

「詳細は来年4月以降にならないと不明ですが、安藤君は本業である学業が卒業研究という最後の局面を迎えるため、事態は非常に流動的です。」

 客席がざわめく。このステージに立つのはまだ3回目だが、店でのバイトそのものは来年の4月で3周年、言い換えれば4年目を迎える。それは俺の大学生活最後の年でもあり、「これから」を決めなければならない大きな節目の年だ。今までどおりバイトに来られるという保障はまったくない。

「これからも、時に軽快に、時に穏やかにギターを奏でる若き名手の演奏が聴けることを、皆様、どうか大きな拍手でご期待ください!」

 マスターの呼びかけに、観客が歓声を交えた大きな拍手で応える。温かい期待と励ましの証に、俺は深々と一礼する。「これから」がどうなるかなんて分からない。だが、「これから」に向かって進むことは出来る。進まなきゃ流されるだけだ。ならば真剣に考えて、時に相談して進む方向を決めて進む。マスターのMCには、俺にそうして欲しいという願いを感じた。

「それでは続きまして、当店でのクリスマスコンサートらしく、じっくり聞かせるラインナップを今年投入した新曲を交えつつお送りしていきます。『明日に架ける橋』、『Fly me to the moon』ギターソロバージョン、『ANCHOR'S SHUFFLE』。この3曲を参りましょう!」

雨上がりの午後 第1763回

written by Moonstone

「当店のリクエストタイムでも大好評だった『UNITED SOUL』、いかがでしたか?」
「最高ー!」
「カッコ良い!」

2005/1/11

[くしゃみは禁止]
 連休最後の昨日も腰痛は完治しませんでした(汗)。基本的に本業は(自宅でもそうですが)肉体労働や立ち作業の比率が少ないので、通常の分には支障ありません。一応取っ掛かりなしでも背凭れから上体を起こせるようになりましたし。
 でも、重大な問題が発覚。キャプションにもあるように「くしゃみは禁止」です。くしゃみをしただけで腰に激痛が走るんです(汗)。幸い私はアレルギー体質ではないので(そんな高級な身体ではないという説もある)花粉が多いと言われる今でも薬の服用やマスクの着用は必要ないんですが、何かの拍子でくしゃみをしたら・・・(汗)。
 まあ、当面は今日処方してもらう予定の薬の服用と安静でやり過ごすしかありません。安静にする、と言っても仰向けになっているだけで腰が痛くなって来るので頻繁に向きを変えるか薬を飲んで本格的に寝るか、のどれかしかないんですけどね(汗)。薬を飲まなくて良くなる日々が恋しい・・・。
 ユニゾンが一旦終わり、マスターのサックス、ベース、ドラムだけ−シーケンサがバックでギターを鳴らしているが−のAメロに入る。だが、それは4小節限りのこと。直ぐ俺とのユニゾンに戻る。俺はマスターとユニゾンしつつ、「合いの手」的なフレーズを入れる。店では俺一人だったんだが、サックス、しかも生のサックスが加わると音の厚みが増す。
 Bメロは俺だけの演奏が8小節、次にサビに繋げるユニゾンの8小節で構成される。T-SQUAREのサックス(またはEWI)とギターとのユニゾンは大抵サックスがメイン、ギターがその3度或いは6度下をユニゾンする形式なんだが、「UNITED SOUL」はその逆、つまりギターがメインの座を占める。当然注目されるから−ギター自体注目を集める楽器だが−緊張感はあるが、それが楽しい。
 俺のギターで長い白玉を出す。フレットから手を離さず、音が自然に消えていくのを待つ。その間、ドラムとパーカッションが躍動感溢れるラテン風味で鳴り響く。フレットを押さえている間、俺はリズムを取ったりせずにあえてその場に佇む。次に控えているのはギターソロ。「動」の前の「静」という位置づけで、俺なりのステージパフォーマンスだ。客席からの手拍子が絶えることはない。
 音をギリギリまで伸ばし、ひと呼吸置いてからギターソロを始める。従えるのは小音量のギター、ベース、ドラムといたってシンプル。それだけに尚のこと目立つ。フレーズの難度はさほど高くないし何度も演奏して来ているが、店内をぎっしり埋め尽くした観客を前にしているから多少は緊張する。高校時代にはギターのくせに大人し過ぎる、と言われた俺は、多少のオーバーアクションは加えるものの、演奏に集中する。
 再びマスターとのユニゾンに戻る。ラストは近い。今までとはラストの2音が違うだけだが、それだけで終わりを感じさせるものになっているフレーズを、マスターのサックスと共に高らかに歌い上げる。ドラムのフィルが入り、演奏はほぼ締めくくられる。俺は中間の長い白玉と同様のリズムを背景に、交信しているような音を奏でる。フェードアウトしていくリズムに連れて、弦を弾く指の力を弱める。
 完全に音が消えるまで続いた手拍子は、大きな歓声と拍手に取って代わる。「安藤くーん」という声援に、今度は手を振って応える。元々人気の高かったこの曲、今回も大好評のようだ。・・・あ、吉弘が見える。大騒ぎの周囲の中、呆然としているのか何だかよく分からないが棒立ちになってるな。

雨上がりの午後 第1762回

written by Moonstone

 キラキラしたシンセの下降グリスに混じってドラムのフィルが入り、ドラムとベースが本格稼動する。俺とマスターはユニゾンを続ける。マスターとユニゾンするこのフレーズは、「UNITED SOUL」の多くを占める。言い換えるとサビから始まるタイプの曲だが、それだけに重要性は増す。

2005/1/10

[療養中・・・]
 昨日は兎に角安静にしていました。日常動作にほぼ支障はなくなりましたが、まだ背凭れに体重を預けないと長時間座っていられませんし、背凭れから上体を起こすには何か取っ掛かりが必要です(机の端なり何なりを掴んで机の方に引き寄せる、という感じ)。基本的に私の本業ではあまり立ち作業はないですし、当面3月まで立ち作業の比重が増すことはありませんからまだ良いんですが、背凭れがないと長時間座れないのはかなり厳しいです。食事もままなりません(汗)。
 本来なら朝から晩まで作品制作にのめり込む、のめり込みたいところなんですが、身体がこれではどうしようもありません。腰が回復どころか悪化して出勤出来ない、なんて言いわけになりませんからね。今は安静第一です。背凭れに体重を預けてのPC作業は意外に肩が凝ります。
 こういう時に限って連載のストックが底をついていたり(汗)。情景描写と会話とでは進行と分量のコストパフォーマンスが違います。特に今は、ね(汗)。適当に済ませるわけにもいかないので、我慢するしか・・・。うっ、また腰が(痛)。
 マスターがサックスと共にステージ脇に下がるのと同時に、晶子がステージに上がる。それだけで歓声が上がるのはもうお約束と言うべきか。晶子はステージ中央にあるマイクスタンドからマイクを取る。その間に、俺はフットスイッチでシーケンサのデータを切り替える。潤子さんは引き続きピアノの前に居る。ベルやバッキングをピアノで演奏してもらうからだ。
 晶子がステージ前方に出たのを確認して、俺はフットスイッチを押す。軽いスネアで頭一つ出て、潤子さんのピアノを加えた短いイントロが始まる。それが終わると、晶子の出番だ。軽快なテンポに乗って晶子が歌う。客席から自然と手拍子が起こる。俺はリズムに乗って時に軽く跳ねたりする晶子を斜め前方に見やりながら、ひたすらバッキングを続ける。
 原曲ではハープシコードが担当するソロが、潤子さんによって奏でられる。ハープシコードとピアノは同じ鍵盤楽器だが、音はまるで違う。ピアノにするとクリスマスの雰囲気が増すと個人的には思っている。ソロの途中で男声コーラスが入る。勿論マスターによるもの。晶子のソプラノボイスと融合して、上手い具合にハーモニーを奏でる。
 歌が終わり、マスターと共に晶子がコーラスを奏でる。原曲どおりの流れだから特に神経を配る必要はない。最後も原曲同様白玉で締める。音が止むと、手拍子が大きな歓声に変わる。晶子が一礼した後、サックスをソプラノからアルトに変えたマスターがステージに上がってくる。

「『YOUR CHRISTMAS』と『Winter Bells』を続けてお送りしました。次は、これまで裏方に徹していた看板ギタリストが一躍主役に躍り出る『UNITED SOUL』!」

 俺はフットスイッチでシーケンサのデータは勿論、エフェクターを切り替える。今までナチュラルトーンで演奏してきたが、今度は最初から最後までエレキらしい音で演奏する。マスターのサックスが加わるとより原曲に近くなるが、あくまでメインはギターだ。俄かに緊張感が強まる。店でのリクエストでも人気が高かっただけに、期待も大きいと考えた方が良い。
 マスターがサックスを構えたところで、俺はフットスイッチを押す。スネアが先に頭一つ出ると、早速俺とマスターのユニゾンが始まる。俺が演奏しながら前に出ると−この辺は高校時代のライブから経験済みだ−、観客の興奮が更に高まる。手拍子に混じって「安藤くーん」という声が聞こえて来る。

雨上がりの午後 第1761回

written by Moonstone

 Bメロ以降はAメロのパターンにEWIの−今はソプラノサックスだが−ソロが乗る、という形式だ。ピアノソロと同様テクニックを見せ付けるというタイプじゃないが、丁寧に進めないと曲調を台無しにしてしまう。だが、かつてジャズバーを席巻したという腕前は確実に料理していく。最後はジャズっぽい−この曲自体、コードは複雑だが−白玉を背景にマスターがさらっとフレーズを流して締める。全ての音が止んでマスターがサックスから口を離すと、観客から大きな拍手が起こる。

2005/1/9

[まだ駄目です(汗)]
 1/7朝から急に襲って来た酷い腰痛は、どうにか上体を起こす→立つ→歩く&座るという一連の動作に大きなタイムラグや支えを必要としなくなりましたが、座る時に感じる腰の圧迫感と重い痛みは続いていて、自宅で座る際は買って間もないクッションに体重を預けています。こうしないと座っていられないんですよ(汗)。
 その部分がまともに機能しなくなって初めてその部分の重要性が分かる、ということは一昨年秋の急性虫垂炎の時にも経験しましたが、腰は何にしても力や体重がかかるものだと文字どおり痛感しています(笑えない)。寝返りすら満足に打てないのは何とも・・・。
 あ、このページの更新チェックでもお世話になっている「エヴァ小説ファンクションファイブ」で、「魂の降る里」がランクインしていました。今回は「2004年に知った」という前置きがあったので、もうすぐ6周年を迎える連載小説である「魂の降る里」はランクインしないと思っていたんですが。続ける糧の一つにしていこうと思っています。
 マスターのソプラノサックスが耳に優しい。この曲はミドルテンポでバッキングも基本的な形式だから、ギターの難易度はそれほど高くない。観客から手拍子が起こる。明るい曲調だし、初めて耳にする客でも馴染みやすいと思う。途中に加わるベルのフレーズをピアノの高音部で演奏しているのが、この演奏のミソの一つだ。
 曲の流れが一瞬止まり、サビに入る。サビと言ってもこの曲はAメロを繰り返して−途中キーが変化するが−、その中に転調してBメロを挟む、という流れということもあって、あまり派手な盛り上がりはない。曲調はそのままに軽い変化を嗜(たしな)む、といった感じだ。
 それが終わるとAメロに戻って、イントロとほぼ同じパートを挟んで−ここでのベルも潤子さんのピアノの高音部が使われる−、ピアノソロに入る。ピアノが前面に出るから、バッキングのメインがギターに移る。目立たないがピアノのソロを台無しにするわけにはいかない。
 ピアノソロは、潤子さんくらいのレベルならさほど難しくない。ソロの基本且つ重要ポイント、1音1音をはっきりさせる、ということが要求される。基本が出来ているかどうかが問われると言って良い。流石は潤子さん。休符を大切にしながら流れを壊さずに進めていく。休符っていうのはいい加減に扱いがちだが、フレーズという「川」の流れを形作る重要な要素の一つだ。
 音の長さも重要なポイントの一つだ。フレーズが細かくなると音が短くなりがちだ。そうすると聞き難くなって音量を上げる、そうすると他の楽器とのバランスが悪くなるから他の楽器の音量も上げて、という悪循環に陥る場合もままある。逆に長くし過ぎてベタっとした感じになったり、次の音に間に合わなくなる−シーケンサならそういうことはないが−ということになるから、かなり微妙だ。特にクイは難しいんだが、潤子さんのピアノは音のツブを嫌味にならない程度に整えて最後を締めくくる。シーケンサが演奏するドラムのパラティドルとも息はピッタリだ。マスターのサックスに代わった直後に大きな拍手が起こる。

雨上がりの午後 第1760回

written by Moonstone

 ステージに上がった俺は、エレキを構えてフットスイッチに足を軽く乗せる。マスターはソプラノサックスを構えてる。潤子さんは俺の方を向いて小さく頷く。準備完了だ。俺はフットスイッチを押す。煌びやかなベルのグリスで始まり、ドラムのフィルが加わる。もう一つのクリスマスソングが幕を開ける。

2005/1/8

[ふ、不覚・・・]
 昨日、朝から酷い腰痛に襲われていまして、上体を起こすのに10分、立ち上がるのに10分かかるという有様で何も出来ず、横になっていました。休みなのが良かったのか悪かったのかよく分かりません(泣)。上体を起こすのに5分かからなくなった夜になってこのお話をして、これまでに出揃った作品の公開に踏み切りました。Novels Group 2の新作を手がけていたんですが、また今度にします。
 私は元々腰痛持ちで、以前にも酷い腰痛で1日起き上がるのもままならなかったことがあるのですが(その時も休みだったような・・・)、今回は以前にも増して酷いです。やっぱり運動しないと駄目かなぁ・・・。
 高音部からのフレーズが終わってひと呼吸置いて、左手でアルペジオ、右手でメロディを3度下の音を重ねた形にアレンジした「清しこの夜」が始まる。タメを効かせた演奏は、ピアノが持つ豊かな響きと相俟って絶妙なハーモニーを生み出す。潤子さんの「清しこの夜」を聞くのは今回が初めてじゃないが、聞く度に新鮮な感動を与えてくれる。
 メロディは最初に戻り、メロディの和音が重厚さを増し、ダイナミクスもより鮮明になる。タメの効かせ方の上手さもあるが、ピアノ一台で此処まで表現出来るか、と疑いたくなるほどのオーケストレーションが生み出される。音合わせで何度も聞いて来た筈だが、やっぱり聞く度に新鮮な感動がある。
 最後のフレーズが繰り返される。ただ繰り返すだけじゃなく、ダイナミクスを落としているから、自然と終わりを感じさせる。テンポがだんだん緩やかになっていき、最後にゆっくりと駆け上るフレーズが演奏され、高音と低音を一つずつ使った白玉で締められる。潤子さんが顔を上げた次の瞬間、大きな拍手が沸き起こる。俺も無意識のうちに手を叩いていた。

「クリスマスを飾るに相応しい曲をお聞きいただけたと思います。それでは雰囲気を変えてお送りしましょう。『YOUR CHRISTMAS』と『Winter Bells』。この2曲を続けてお送りします。」

 「YOUR CHRISTMAS」は今年マスターと潤子さんが投入したレパートリーの1つ。マスターがソプラノサックスを吹き−原曲はEWIだ−、潤子さんがピアノを演奏する。俺はシーケンサのスイッチを兼ねてギターのバッキングを担当する。派手さはないが、根強い人気のある曲だ。

雨上がりの午後 第1759回

written by Moonstone

 一番星が煌くのを表現するように高音が一つ響く。そして澄んだ冬空に輝く星屑を表現するように高音部から流れ落ちるようなフレーズが展開される。初めて聞くイントロだ。音あわせでもこんなイントロはなかった。潤子さんの隠し玉だろうが、本当に凄い。

2005/1/7

[ラジオの電波]
 私は、自宅(ちなみに今は帰省中)での行動ではラジオを鳴らすことが多いのですが、どうも電波の入り方が悪いんですよね。今日はアンテナをこの角度でこの長さでOK、と思って翌日になるとノイズだらけで聞こえない、というのは日常茶飯事。朝は聞けても夜になるとまったく駄目、ということもあります。
 携帯電話でもこれほど酷くないにしてもよく似たことが起こります。アンテナ3本が立って同じ場所という条件下でも、ある日はよく聞こえてある日は聞こえ難いということが起こります。電波を利用する機器の難しさというものを感じています。
 何気なく使われている電波ですが、微弱でしかも無数に飛び交う中から特定の周波数のものを拾って増幅して・・・という過程の電子回路は、非常に高度な技術の集約です。それを考えると電波を上手くキャッチ出来ないことがあっても不思議ではないんですが、利用する側になると・・・(^^;)。
 俺が考え始めたら、マスターのMCが始まった。客席から拍手や指笛が飛んで来る。もうあれこれ考えていられない。コンサートに集中しないと。

「昨年の大混雑に伴う混乱の反省から、今年はチケット制と入場時間制限を用意させていただきましたが、それでもオールスタンディング形式のこの会場を埋め尽くすだけのご来場を賜りました。店の増築を考えないといけないかもしれません。」

 会場から笑いが起こる。確かに1000円と交換に掴み取りという様相だったチケットの売れ行きを思い起こすと、店の増築をしないといけないかもしれない。そんな中、吉弘がどうやってチケットを手に入れたのか疑問だ。取り巻きの男を潜入させたと考えるのが無難か。取り巻きの男の顔なんて俺もいちいち憶えてないし。

「今年は店の大切な顔である安藤君と井上さんが学業多忙、特に安藤君が昨年以上に厳しい条件下で準備に入ったのですが、コンサートに向けて準備を間に合わせてくれました。どうか皆さん、拍手をお願いいたします。」

 会場から温かい拍手が起こる。俺は一礼する。確かに忙しい毎日だった。1年なんてそれこそあっという間だった。色々あったが、こうしてこの店での1年の総決算と言うべきコンサートに参加出来て良かったと思う。

「それでは始めてまいりましょう。当店でのクリスマスコンサートの最初を飾るのは勿論この曲、『清しこの夜』。」

 俺と晶子、マスターがステージ脇に下がり、潤子さんがピアノの前に座る。それだけでざわめいていた客席が水を打ったかのように静まり返る。潤子さんはひと呼吸置いてから、演奏を始める。

雨上がりの午後 第1758回

written by Moonstone

「皆さん、こんばんは!」
「「「「「こんばんはー!」」」」」
「本日はようこそ、当店のクリスマスコンサートにお越しくださいました。多数のご来場、誠にありがとうございます。」

2005/1/6

[空しくないか?視聴率競争]
 例年この時期になると、昨年末(とは言っても実は高々1週間ほど前の話ですが)の視聴率発表があります。プロデューサーの受信料着服事件で物議を醸したNHKの紅白歌合戦が今年も低かったとか、フジテレビの視聴率が高かったとか色々・・・。
 いい加減TV局もスポンサーも気付くべきではないでしょうか?視聴率競争などごく一部の視聴者の意向を抽出してああだこうだと論じているだけの空しい競争でしかない、ということに。「多様化」と言う割にはこういうところで「画一化」を続けているところに、マスコミの知識の乏しさが垣間見えます。
 視聴率云々で全てを言うなら、鋭い告発を続ける深夜のドキュメンタリー番組は即刻打ち切りになっている筈。視聴率競争の矛盾にTV局やスポンサーもいい加減気付くべきなのは勿論、我々視聴者も積極的に声を上げていくべきではないでしょうか。「ヨン様」と言い続けているようでは話になりませんか。

「これで良いかしら?」
「はい。・・・?!」

 指で挟んだチケットを見せたのは、あの智一の従妹、吉弘だった。どうして吉弘がチケット持ってるんだ?吉弘が店に来たことはなかった筈だが。

「入るわよ。」

 黒のハーフコートを羽織った吉弘は、チケットを仕舞ってさっさと店内に入って行く。・・・考えるのは後だ。俺は頭をチケット確認に切り替える。
 どうにか大きな山を越えた。MCを務めるマスターは客の最終的な誘導のためにステージに向かったから、俺一人でチケットを確認して中に入れるという作業を繰り返す。力仕事でも何でもない単純作業だし、大きな山は越えたから、さほど苦にはならない。続々と会場入りする客は、中高生の集団から常連のOL集団まで様々だ。大きな波にはならないが途絶えることのない客の入りを見て、チケット制にして客の数をある意味制限するようにしたのは正解だとつくづく思う。
 駆け込み組で−時間内に入場しないと無効としてあるからだ−少々バタバタしたチケット確認もどうにか終わった。店内を見ると客でぎっしり埋まっている。俺はドアを閉めて鍵をかけ、「客席」の後ろに立って両手でバツ印を描く。前に行かせてくれ、という合図だ。

「すみません。演奏者が客席中央を通りますので、皆様少し詰めてくださいますよう、よろしくお願いいたします。」

 ステージに立っているマスターの声で、客の視線が一度俺に集まり、客が中央を境にして左右に分かれて人一人が通れるくらいの道を作る。俺はそこを駆け抜けてステージに上がり、ステージに向かって左から俺、晶子、マスター、潤子さんの並びになる。改めて見ると、吉弘はステージから見て中央、前から5列目くらいのところに居るのを確認出来る。一体何処でチケットを・・・。

雨上がりの午後 第1757回

written by Moonstone

 時計と見比べていたマスターの合図で、俺はドアを開けてプレートを「CLOSED」から「OPENING」に変える。それを見て、並んでいた客が一斉に押し寄せて来る。俺は押したりしないように、と言いつつマスターと組んでチケットを確認してから中に入れる。

2005/1/5

[充電中・・・]
 年明けからどうもぐったりしていて、昨日は終日横になっていました。昨年末に「雨上がりの午後」アナザーストーリーVol.3を一気に仕上げた余波が来ているのもあるでしょうし、気分の浮き沈みが激しいという私の持病のせいもあるでしょう。こういう時に無理して作品制作をしようとしてもどだい無理な話なので、時の流れに任せることにしています。
 昨日から仕事始め、という方も多いかと思います。私はまだ休みなのですが、この休みのうちに1作でも多く新作を仕上げておいて、週明けからの仕事に食われる時間を有効に使っておきたいと思います。1月いっぱいに報告書を書かないといけませんし、他にも仕事はありますからね。
 世間から隔絶した(隔絶された、ではない)生活を送っていますが、その間にもこのページにはかなりの方のご来場を賜っております。1月1日付での更新で「今年は何かある」と警戒態勢(笑)を取られている方も居られるのでしょうか。そろそろ充電を済ませて作品制作に本腰を入れたいところです。
 やっぱりこういうことを言ったり答えたりするのは恥ずかしいな・・・。昨日は俺自身場所を失念してたとは言え、他に話す習慣というか傾向というか、そういうものが元々俺にはないし・・・。

「祐司君、週明けの講義は?」
「あ、実験はありませんから月曜はレポートを提出しに行くだけです。28日まで補講がありますけど。」
「晶子ちゃんは?」
「私はお休みです。」
「それなら、祐司君がレポートを提出しに行く時間に遅れないように起こしてあげれば大丈夫ね。」
「だ、大丈夫って・・・。」

 場所は貸すし寝過ごしても大丈夫なようにしてあげる、っていうことだよな・・・。今日晶子と同じ部屋で寝るのがちょっと躊躇われる。昨日良かったからって今日も良い、ってわけにはいかないだろうし、変な表現だが、味を占めて今日も、となりやすいのが男の性だ。今日のクリスマスコンサートで発散させておいて、後は風呂入って寝るだけ、という状況にしておいた方が良さそうだな。否、そうしておくべきか。

 夕食が終わり、着替えも済んで、後は客を会場に入れるだけとなった。昼食後本番前最後の音合わせも滞りなく進み、準備は万端だ。俺とマスターが客が持っているチケットを確認して中に入れ−こうしないとチケット制にした意味がない−、晶子と潤子さんが誘導するという分担だ。
 窓から見ると、既にドアの前に行列が出来ている。チケット制にして買えば確実に入れるようにしたのにこうなるということは、最前列で見たいという真理が働くせいだろう。夏のコンサートでも開場前から結構客は来ていたし。

「よし、開けよう。」
「はい。」

雨上がりの午後 第1756回

written by Moonstone

「適当に処理してますよ。それに、忙しいのにかまけて都合良く忘れてる時も多いですし。」
「昨日は晶子ちゃんからOKサインが出たから、祐司君は待たされた分たっぷり愛を注ぎ込んであげた、ってところね?」
「そういうことに・・・なりますね。」

2005/1/4

[ガムの消費も馬鹿にならない]
 昨年末からガムを噛んでいます。理由は2つ。1つは服用している薬の関係でやたら口が渇くので、その対策として水を飲んでいると大変だということ、もう1つは口に余裕を与えるとがぶがぶ食べてしまうからです。両方とも今に始まったことではありませんが、帰省している今は後者の比重が増しています。
 以前ほどではありませんが、私は所謂「アイアン・ストマック」でして、食事量を制限しないとばくばく食べます。こんな調子を続けていると胃にも身体全体にも良くないので、ガムを噛んで紛らわせているわけです。噛むことで顎の鍛錬にもなりますし、先に挙げた2つの対策も兼ねるので、丁度良いわけです。
 問題なのがガムの消費量。基本的に食べていない時はずっとガムを噛んでいますので、1日最低3回はガムを交換する必要があります(詳細までいわなくても分かるでしょう)。ボトルサイズのものを買ってはいますが、それでも半月でなくなってしまいます。今日、買いに行かないと・・・。
 潤子さんの放った爆弾で、俺は口に入れたばかりの水を噴出しそうになる。そ、そんなこと聞かないでくださいよ・・・。俺はどうにか水を飲み込む。チラッと潤子さんを見る。・・・う、潤子さん、目が輝いてる・・・。晶子に向いていた視線が一瞬俺の方に向けられて、俺は慌てて視線を逸らす。

「・・・週何回、とかいう単位じゃないです。一月とか・・・、結構間隔が空いてます。」
「え?そうなの?随分控えめね。」
「私からOKサインを出した時でないと、祐司さんが私を求めてくることはないんです。」
「避妊すれば安心なのに。」
「それだと、祐司さんの想いを全部感じ取れませんから・・・。」

 晶子が潤子さんの設問に答える。最初は答えなくて良い、と思ったが、マスターと潤子さんになら「実情」を話して良いか、と思えて来た。マスターと潤子さんには、俺と晶子の関係の深さは知られてる。前に晶子が自滅して二人分の墓穴掘ったからなんだが、そうでなくても昨夜の時点でばれてしまってるし。

「それだと祐司君、結構辛くない?」

 潤子さんの視線と設問の方向が俺に向く。ここまでばれたばらしたなら、何を隠しても無駄か。

雨上がりの午後 第1755回

written by Moonstone

「週何回なの?」

2005/1/3

[自滅行為]
 このページの常連さんはご存知でしょうが、私は複数の長編小説を並行して手がけています。中でも投票所Cometでも上位を占めている「Saint Guardians」「「雨上がりの午後」「魂の降る里」は作品の世界観やキャラがまったく違いますし(分かる人だけ分かる隠し設定を少し含んでいますが)、並行して進めることに慣れたこともあって混乱することはありませんが、たまに今までどれだけ書いて来たかが気になって読み返すことがあるんです。
 そうすると絶対と言って良いほど、長時間になります(汗)。昨日も実はそれで引っかかって、作品制作は長時間にわたってストップ。分かっていながら時々手を出して同じ罠に引っかかるんですから、自滅行為以外の何物でもありません。
 先に挙げた3つに限ったことではありませんが、「このシーンを書きたい」というのがありまして、それに向かって進行していることは分かっていても歩みが遅いので(遅筆だし)、あるシーンを読みながら次はここを書いて・・・とか思っていたりします。「思ってるなら早く書け」って言われそうですね(汗)。私もそう思います(汗)。

「「「「いただきます。」」」」

 4人揃っての昼食が始まる。微塵切りになった人参やピーマンが彩りと食感に花を沿え、適度にスパイスが効いた焼き飯は文句なしに美味い。食材を運んで収納するという一仕事終えた後だから、食も尚のこと進む。

「晶子ちゃん、もう眠くない?」
「はい。もう大丈夫です。・・・私一人寝ちゃっててすみませんでした。」
「良いのよ。眠い時は寝ておかないと身体がもたないし、転んで怪我でもしたら、それこそ一大事だもの。」

 潤子さんの顔と口調は明るい。言うことはもっともだし、晶子を単なるバイトと軽く見てはいないことが改めてよく分かる。

「それに、晶子ちゃんが寝不足になったのは、隣の王子様が満足に寝かせてくれなかったからだものね。」
「え・・・。」

 俺の手が止まる。顔が内側から火照って来るのが分かる。潤子さん、それを持ち出さないでくださいよ・・・。昨夜俺が目にした光景が、脳裏に次から次へと浮かんで来る。こういうのは一度噴出すともう止まらない。悩ましく喘ぐ様子、髪を揺らしながら動く様子・・・。胸の奥がむず痒くなって来た。

「普段寝起きの良い晶子ちゃんが、あれだけ眠たそうだったんだもの。祐司君も罪作りよね。」
「・・・やっぱり、見てたんですか?」
「私とマスターが2階に上がって来た時、お姫様の声がよく聞こえて来たってことは確かよ。」

 見てたか見てなかったかの言及はしないで、昨夜の様子を外野席から聞いた様子だけはしっかり答えてくれる。全身が熱くて身体の奥がむず痒くて、食べるどころの話じゃない。横目で晶子を見ると、スプーンを手にして頬を赤くして俯いている。・・・そりゃそうだよな。俺は照れ隠しにコップに手を伸ばす。

雨上がりの午後 第1754回

written by Moonstone

 俺と晶子はそれぞれの席に座る。ザッ、ザッという焼き飯が鍋の表面を擦る音が軽快に台所に響く。夜からのコンサートに備えて、今はつかの間の休息といったところだろう。やがて潤子さんは鍋を煽る手を止め、コンロの火を止めて鍋から隣の空きスペースに置いてある皿に等分する。晶子が席を立って潤子さんの隣に行き、皿を持って4人の席の前に並べる。潤子さんはエプロンを外して席に着く。

2005/1/2

[ちょっと休憩]
 帰省以来1日1作品のペースで作品制作を続けて来ましたが、昨日はちょっとお休み。主にメールの返信に時間を割きました。送付した方には年賀メールということになりますね。オフラインでは手書きで年賀状を書いていますが、メールだとそっくりそのままコピーみたいになってしまうんですよね。
 さて、今日は久しぶりに考察でも。奈良県の女児誘拐殺害事件で容疑者が逮捕され、被害者の所持品が押収され、容疑者も犯行を自供したそうです。性犯罪の再犯率が高いことは前々から指摘されています。日本でも此処最近急速に性犯罪が増加していますが、今まで泣き寝入りを強いられていた環境が変わりつつあることもあるでしょう。
 ここでも責任能力の有無が言われていますが、犯罪の容疑者は法に則って裁き、刑に処さないことには、「責任能力」を掲げれば犯罪の被害を免罪することにもなりますし、本当に精神状態が難しい状態にある神経性疾患罹患者、俗に言う精神病患者への無用な偏見に繋がるのではないでしょうか。「責任」が軽んじられるようなことはあってはなりません。それは犯罪だけでなく、社会全体の意識が問われる問題でしょう。
 晶子はゆっくり上体を起こして目を擦る。欠伸の代わりに深呼吸をして俺の方を向く。その顔からは眠気は感じられない。

「食材の収納は?」
「心配ない。もう終わったから。」
「そうですか・・・。私一人ですっかり寝ちゃってたんですね。」
「良いさ。マスターと潤子さんも晶子を寝させることを了承してくれたんだし。それより、さ、行こう。」
「はい。」

 先に俺が立って手を差し出す。晶子は少し驚くが直ぐに笑顔に変えて、俺の手に手を乗せて立ち上がる。その過程で心持ち少し引っ張ってやる。立ち上がった晶子の、少し乱れた髪を手櫛で整えてやる。よく手入れされた滑らかな髪は、何度か指を通してやれば直ぐ元通りになる。

「これで良し。」
「ありがとうございます。」

 晶子は嬉しそうに微笑む。俺は笑みを返して、晶子の手を引いて部屋を出る。そのまま廊下を歩いて階段を下りて・・・。階段の途中では歩調を落として、晶子をエスコートしてみる。エスコートというのは程遠いかもしれないが、たまにはこういうのも良いだろう。晶子が最後の段を下りたのを確認して、そのまま台所へ向かう。
 台所では、潤子さんが焼き飯の入った大きな鍋を煽っていた。マスターは悠然と新聞を読んでいる。潤子さんは見た目細身だけど、大きな鍋を片手で軽々と煽ったり出来るほど力があるんだよな。マスターが気配を感じたのか、俺と晶子の方を向く。

「おっ、王子様がお姫様を連れて来たか。」
「もう直ぐ出来るから待っててね。」
「「はい。」」

雨上がりの午後 第1753回

written by Moonstone

「祐司さん・・・。」
「昼飯だから起こしに来たんだ。よく眠れたか?」
「ええ。」

2005/1/1

[謹んで新年のご挨拶を申し上げます]
 リスナーの皆様全てが必ずしも「おめでとう」と言われる状態ではないと思って、あえてトップページ最上段の挨拶や今日のキャプションをこうしてみました。私は毎日ひたすら作品制作に没頭していて、今日公開の2作品は全て昨日、否、昨年書き上げたばかりの出来立てほやほやのものです。
 特に力が入ったのは、Novels Group 3の「雨上がりの午後」アナザーストーリーVol.3です。書きたかった展開の一部を形に出来て一安心しています。投票が昨年の3月で今年度中の完成を目指す、と言っておきながら未だ手付かずのままだったことでやきもきしていたので、新年最初の更新に合わせて公開出来て良い気分です。
 こちらは大晦日は雪が降りました。初日の出はちょっと無理とのことですが、こればかりはどうしようもありません。どうか皆様。本年もよろしくお願いいたします。
 マスターと潤子さんの言葉が胸に染みる。俺と晶子のことを本当に気にかけてくれている。この行為を無駄にしたくないし、晶子とのこれからを見据えるためにも、思いっきり考えて思いっきり悩んで、心行くまで話し合いたい。混沌としているからこそ真剣に向き合わなければならないし、真剣に向き合いたい。今を大学時代の思い出の一ページだけにしないためにも、絶対に・・・。

「そろそろお昼ご飯にしましょうか。祐司君。悪いけど、晶子ちゃんを起こして来てくれない?」
「あ、はい。」
「眠ったお姫様は王子様のキスで起きるっていうのが定石だからな。丁度良い。」

 何が丁度良いのか分からないが、俺は席を立って俺と晶子が貸してもらっている部屋、つまり晶子が寝ている部屋へ向かう。階段を駆け上って廊下を歩いていくと、ドアが正面にある。一応ノックなどしてみたりする。・・・応答はない。まだ寝てるんだろうか?俺は静かにドアを開ける。
 中を覗きこむと、盛り上がった掛け布団と、晶子の寝顔が見える。余程疲れてたんだな。俺は中に入って晶子の枕元に屈み込む。狸寝入りをしている時の様子、閉じた瞼がぴくぴくしているということはない。ぐっすり眠ってるようだ。ちょっと起こすのは忍びないな・・・。でも、昼食は皆で食べないと。俺は晶子の耳元に顔を近づける。

「晶子。そろそろ起きろ。」
「ん・・・。」

 くぐもった声に続いて顔が少し動く。改めて顔を覗き込むと、晶子がゆっくりと目を開けている途中だった。一度目を開けた晶子は何度か瞬きをして、まじまじと俺の顔を見る。

雨上がりの午後 第1752回

written by Moonstone

「私達で出来ることなら遠慮なく言ってね。祐司君と晶子ちゃんには本当に良く働いてもらってるから、最善の環境で残り少ない大学生活を送って欲しいし、これからのことも時間が許す限り考えて欲しいから。」


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