芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2005年2月28日更新 Updated on February 28th,2005

2005/2/28

[風邪ひきました(泣)]
 著しい食欲減退に加え、昨日から胃腸の調子も猛烈に悪化しています。風邪が胃腸に回ったようです。普通は喉が痛んでその次は鼻水、と順番を踏むんですが、やっぱり疲れが蓄積していたんでしょう。その過程をすっ飛ばしたようです(前にもこういうことがあった)。食事はパンやうどんと言った軽食を無理矢理押し込みました。何も食べないで居るとかえって良くないので・・・。
 週明けから風邪で休み、なんてしたくないのですが、あまりにも具合が悪いので、背に腹は変えられない、と覚悟はしています。今度の出張で最も重要なものの準備は出来ているのがせめてもの救いかな・・・。
 次回新作公開がかなり危機的状態ですが、何とかしたいと思っています。風邪がこれ以上悪化してくれなければ良いんですが・・・。
 思いの他静かな大通りを歩き、そのまま大学から出て駅へ向かう。駅は静かを通り越して閑散と感じる。講義の基本日程そのものは先週で終わっていて後は補講のみ、ということもあるんだろう。新京大学の城下町として急速に発展したというこの界隈は、学生の姿が消えるとこんな感じになる。
 改札を通ってホームに向かう。人はまばらだ。屋根からぶら下がっている時刻表と時計を見る。あと5分ほどで急行が来るのか。電話しておくか。帰る先はマスターと潤子さんの家だからな。携帯を取り出して晶子の携帯の電話番号を引き出して電話をかける。コール音は3回目が終わった直後に切れる。

「はい、晶子です。」
「あ、祐司だけど。今駅のホームに居るんだ。もう少ししたら来る急行に乗って帰る。」
「分かりました。お昼ご飯、一緒に食べましょうね。」
「ああ。それじゃ、また後で。」
「はい。」

 俺は電話を切る。そう言えば、駅前の公衆電話を使うっていう手もあったな。此処暫く何か連絡することがあると携帯を使ってるせいか、公衆電話を使うこと自体が思いつかなかった。人間、便利な方や楽な方、そして高級な方には簡単に馴染むがその逆は難しい、と言う。携帯はその典型的な例だな。
 携帯を仕舞って少し待っていたら、電車がホームに入って来た。さほど人の入りは此処も閑散としている。中高生は今週から冬休みだし、社会人は仕事の時間。電車を使う人間の絶対数が少ない時間帯だから、こんなもんだろう。俺は電車に乗り込み、近くの空いている席に腰掛ける。ホイッスルが鳴ってドアが閉まり、電車が動き始める。急行では10分程度の時間。携帯を弄るほどの時間じゃないから、俺は外を見る。特に目立ったものがあるわけでもない風景が前から後ろへと流れを速めていく。

雨上がりの午後 第1807回

written by Moonstone

 俺は鞄を手に取って、智一と軽く手を振ってから控室を後にする。風が殆どない乾いた冬の空気が、燦燦と輝く太陽から温もりを享受している。来る時は寒いと思った外気がこうも違って思えるのは、単に太陽が高く上ったせいだけじゃないと思う。

2005/2/27

[身体壊した・・・]
 かなりのハードスケジュールだった出張から一夜明けた昨日、急速に体調が悪化してとうとう一食しか食べられませんでした。PCの画面を見ているだけでも吐き気がする、という最悪の状況です。
 今日も新作公開が出来なかったのが悔しいんですが、食べるのはおろか起き上がるのも辛い状況ではどうにもなりません。出張の間は不思議と痛まなかった腰も酷く痛んでいて、張り詰めていた緊張の糸が切れて全身のバランスが崩壊してしまったと考えています。
 来週は大阪出張があって、その他色々あるので休みたくないんですが、休まないと身体がもたない可能性もあります。連日来ていただいている皆様には申し訳ないのですが、もう暫くお待ちください。
 俺は吉弘と手を離し、その場を後にする。音楽をきっかけに一人の心が温もり、幾つもの人間関係が良い方向に変わった。音楽、そして人と人との触れ合いの大切さをまた一つ学んだように思う。

「おっ、戻って来たか。」

 控室に戻った俺にかけられた第一声は、智一のものだった。他の面々の視線が一度俺に集まるが、程なく散開する。智一が説明したんだろう。恐らくは吉弘と従兄妹同士という関係から。

「悪かったな。順子の我が侭に付き合わせて。」
「否。以前智一が言ってたとおり、根は良い女性(ひと)だ、って分かった。」
「先に釘は刺しておいたが・・・。」
「ああ、大丈夫。」
「そうか・・・。」

 智一は安堵の笑みを浮かべる。釘は刺しておいたし、吉弘の心情の変化は俺より先に分かってただろうし、プライドの奥に隠された心の本質を知っていただろうからトラブルになることはないと思っていたんだが、もしかして、という不安は完全に消去出来ないでいたんだろう。

「じゃあ、俺は帰る。」
「ああ。レポートは出しておくからな。」

雨上がりの午後 第1806回

written by Moonstone

「今更だけど・・・、ありがとう。井上さん、貴方の奥さんにもよろしく伝えて。」
「分かった。」

2005/2/26

[はい、連続更新です]
 とは言っても、新作公開はありません。先週の土日は身体の調子が著しく悪かったので、久しぶりに隔週更新を休んだ「魂の降る里」の新作完成も危ない状態だったりします(汗)。今日整形外科に行くつもりです。自分では何となく骨盤が歪んでいるように思うんですが、気のせいだと願っています。
 今日発行の「Moonlight PAC Edition」でも紹介していますが、TOPから携帯用ページをご覧いただけるようにしました。また、Yahooとhotmailを全て迷惑メールと判断するようにしました。後者は、フリーメールが迷惑メール対策の一つであるという観点からすれば首を捻りたくなるのですが、大量の迷惑メールに神経を削られたくないので、強硬措置に出ました。
 今週は東京、来週は大阪、と行ったり来たりします(出張です。念のため)。その間に原稿執筆(一つは英語)を2つ始める、となかなか一息吐けないのですが、あれこれしている間に週末、という展開だと思います。
 儚いと同時に自嘲さえ混じった微笑を浮かべて、吉弘が顔だけでなくて身体も俺の方を向ける。冷たい風がふわり、と吹き抜ける。吉弘はゆっくりした足取りで俺に近付く。その表情はいたって穏やかで、同時に寂しげで、悲しげでもある。

「智一にも事前に釘を刺されてるけど、改めて約束するわ。今後貴方と井上さんには何も手出ししない。直接間接問わず、ね。今更そんなこと言われて信用出来るか、って言われればそれまでだけどね・・・。」
「否、君が智一を頼ってこの場を持って、自分のことを色々話した上で約束するんだ。それを信用するよ。」
「あくまでも、貴方からは聞かないのね。」
「そういう性分だから。」

 俺の表情が自然と緩むのを感じる。高くて厚いプライドの向こう側にあるのは、素直で傷つきやすくて繊細な心。その心の奥底に秘めた思いと店のコンサートで聞いた曲が共鳴して、久しく忘れていた、そして無意識に求めていた温もりを生んだんだろう。だから吉弘は、一部だろうけど、自分の心情を吐露したんだ。
 晶子が「Can't forget your love」や「The Rose」をコンサートの曲目に加えたい、と晶子にしては唐突に言い出したのも、吉弘にコンサートのチケットを送ったのも、吉弘の心境を察した晶子が、吉弘の心に温もりを生むきっかけを届けたかっただろう。何かと鈍くて疎い俺には分かりえない無言のやり取りが、晶子と吉弘の間で交わされたんだ。

「また・・・、店に行っても良い?」
「遠慮なく。定休日とかは知ってる?」
「ええ。コンサートが終わった後で井上さんから聞いたわ。」

 吉弘はそっと手を差し出す。もう迷うことはない。俺はその手を取って軽く握る。それは、俺の心の中で吉弘への印象が敵意から親しみへと綺麗に塗り替えられた瞬間でもある。

雨上がりの午後 第1805回

written by Moonstone

「井上さんの手紙にあったとおり、あのコンサートは本当に心に残るひと時になったわ・・・。待っていた智一は開口一番『良い二人だろ?』って・・・。私は黙って頷く以外なかった・・・。井上さんが貴方に惚れ込んだ理由も、あれほど井上さんに熱を上げていた智一がすんなり身を引いた理由も、やっぱり情けない話だけど、分かるような気がする・・・。今更だけどね・・・。」

2005/2/25

[断続的に更新するでしょう]
 天気予報か(汗)。実はつい1時間半ほど前に出張から帰って来たばかりです(2/25 20:30時点)。寒い中での移動の連続でかなり体力を消耗していますが、このままだと薬を飲んだら即寝てしまうので(飲まないで居るとそれはそれで大変なことになる)、もう暫くしたら明日付の更新を行います。
 やっぱり出先から携帯でちょっとした更新が出来るようになると良いな、と思いました。幾らノートPCが小型軽量化したとは言えども携帯電話には及びませんし、出先で十分な接続環境があるとは限りません。私の場合はむしろない方が多いです(安宿だから)。
 今回は出先で接続出来なくてやむなく無断欠席したのですが、そういう場合でも携帯で更新出来る軽いコンテンツがあれば便利かと思います。今の時代、ネットで探せばそういうツールは程なく見つかるでしょうが、「もの作り」に携わっている者の一人として、携帯とWebページの連携も含めた運営を考えていくのも一つの考えだと思います。
「・・・。」
「智一から聞いてるかもしれないけど、従兄妹同士の私と智一は同じマンションに住んでるのよ。私のお父さんと智一のお父さんが経営する会社の子会社が経営してるってことでね。でも、智一はそのつもりじゃなかった・・・。智一とは小さい頃から学校もずっと一緒だったし、私が居るせいで彼女が出来ない、って時々ぼやいてたし、私も、大学を出てからのレールが敷かれてる智一の大学生活を邪魔したくなかった・・・。だから、大学内でのことには相互干渉しない、って約束したのよ。」
「・・・。」
「そんな智一が1年の頃、決まって月曜の夜に飲んで帰って来てね・・・。凄く楽しそうだった。どうせ聖華女子大の女と合コンでもしてたんでしょ、って私が聞いたら、智一は『良い奴と酒が飲めて良い気分で帰って来たんだ』って口癖みたいに言ってね・・・。本当に楽しそうだったのよ。」

 吉弘がまた微笑む。険がすっかり消え失せた今、儚げでもあるその微笑みは客観的に見て十分魅力的だ。そう言えばマスターが言ってたな。「意外に普段突っ張ってる奴ほど、ちょっとしたきっかけで心を開くことがある」って。今の吉弘は、恐らく智一くらいしか見たことがないものなんだろう。

「井上さんからチケットが送られて来て、行くべきか、ううん、行って良いものかどうか分からなかった・・・。チケットに同封されていた手紙には『もし良かったら来てください。貴方の心に残るひと時になると思います』って書かれていて・・・。どうすれば良いか分からなくて、智一に相談したのよ。そうしたら智一は、行って来い、って言ってから、自分と貴方と井上さんの関係を話したのよ。情けない話よね・・・。智一とは長い付き合いなのに、それでようやく分かったのよ・・・。智一が凄く楽しそうにしていた時の飲み相手は貴方で、智一が一時期聖華女子大の女以外で真剣に目を輝かせていた時期があったんだけど、その相手が井上さんだったってことがね・・・。」
「・・・。」

雨上がりの午後 第1804回

written by Moonstone

「井上さんを敵視していた筈の私が貴方のバイト先のコンサートにチケットを持って来て、井上さんと話をしてから帰ったところを見られてたんだから・・・、私と二人で話をする機会を持ったことで、貴方は当然私を問い質すものと思ってた・・・。その時は答える覚悟は出来ていた。答えるつもりで居た。だけど、貴方は違うのね・・・。」

2005/2/24

[一人、帰りが遅くなる]
 此処半年以上、平日はずっとそんな生活です。今日が出張当日なんですが、昨日は急な修理の依頼(意外とねー、精密機器って言うものほどコネクタとかケーブルとかが粗雑な作りだったりするんですよねー)で行ったり来たりを繰り返し、それが終わって「あーやれやれ、さて帰ろうかな」と思った時に別の仕事の依頼者が乱入して来て急遽打ち合わせ。否、本当はもっと早い時間に来る筈だったんですけど、相手方、こっちの都合なんて全然考えてやしないんで(汗)。
 で、今は出張準備の合間にこのお話をしています。朝が何時もと殆ど変わらないのと、直接駅へ行けば良いのがせめてもの救いかな・・・。今年2月の出張のように薬を忘れて2日目以降散々な目に遭ったので、薬と金は忘れないようにしないといけません。PCは必須ですし、服は忘れようにも忘れませんからね(忘れたらもうどうしようもないと思うが)。
 出張から帰って来たら更新、とは出来ないかもしれません。本当は昨日とっとと帰って広報紙とリンク集を更新するつもりだったんですが、打ち合わせがやたら長引いて、帰宅して食事して出張の準備をしてたら日付変わってた、という有様ですので。最近連日400人以上のご来場を戴いていて申し訳ないのですが、態勢立て直しまでもう暫くお待ちください。
「晶子がどうして君にコンサートのチケットを送ったのか疑問に思わないわけじゃないけど、小学生じゃあるまいし、聞いた話を大学とかでばら撒くつもりはない。それに、人それぞれ事情があるだろうから、聞かなかった。だから晶子も言ってない。それだけだよ。」
「そう・・・。」

 吉弘は消え入るような声で言うと、俺から見て横を向いて溜息を吐く。小さい白い塊が宙に浮かんで、一陣の風に吹かれて儚く消える。横顔は何かの拍子で泣き出してしまいそうな・・・!あの時と同じだ。文系学部エリアの生協の食堂に単独で乗り込んで来て、俺がペアリングを見せて携帯の着信音を聞かせた後のあの顔と。席を立って去る時一瞬見えた、あの横顔と。

「・・・井上さんが私に頭を下げた時、謝罪の言葉に続けて、貴方には何もしないでくれ、って言った理由。そう言うまで井上さんが貴方に惚れ込んだ理由。分かるような気がする・・・。」
「・・・。」
「やっぱり聞かないのね。相手が言わない限りは・・・。」
「俺は探偵や芸能記者じゃない。ましてや警察でもない。言いたくないことを無理矢理話させたりする理由なんて、何もないからな。そうしたくもないし。」
「徹底してるのね・・・。」

 !吉弘が微笑んだ。今まで見せた勝ち誇ったようなものとは全然違う、寂しげで悲しげで儚げな・・・。目がうっすらと潤んでいるように見えるのは気のせいか?

「私は・・・言う覚悟はしていた。言うつもりで居た・・・。」

 暫くの沈黙の後、吉弘は呟くように、そして詠う様に言う。小さな声だが、耳に良く届く。これまでの過程で形成された負方向の既成概念を除けば、潤いのある澄んだ声と言うに相応しい。

雨上がりの午後 第1803回

written by Moonstone

「彼女・・・、井上さんは何も話さなかったの?夫の貴方にも。」
「晶子は俺が要求しなければ話すつもりはなかったし、俺は聞かなかった。」
「・・・。」

2005/2/23

[明後日から東京へ]
 出張します、はい。此処の常連の方は以前そんな話があったな、くらいは憶えてらっしゃるのではないかと。此処の更新は多分出来ると思います。今はPC持って行かないと出張もままならないのですよ(汗)。ちょっとした書類でもWordで書け、と要求されますからね。此処で大量の小説を公開している私が言うのも変ですが、ちょっとした文章なら手で書いた方が手っ取り早いと思うんですがね・・・。
 ま、それはさておき、携帯から更新出来るコンテンツを作れないかな、と思っています。此処での正式プロジェクトとする段階には程遠いんですが(早く掲示板何とかしろよ、自分)、出先からちょこちょこ更新出来る機能なんて面白いかな、と思っているわけです。
 プログラム言語は、ある目的を持って取り組んだ方が俄然習得が早いものです。此処のメールフォームは自作ですし、今プロトタイプが出来ている新掲示板は相当カスタマイズしたものですが、それに必要な言語知識はその過程で殆ど習得しました。IE嫌いが故にスタイルシートを頑として使わない私ですが、ある意味必要最小限の表示機能しか持たない(最近のはそうでもないが)携帯で見られるようにするというのは、結構難しいですし、面白いものなんですよ。
 話をしたい、か。何だろう?土曜日のコンサートに来て、終了後に晶子と何やら話をしたことは俺自身見たし、晶子から吉弘をコンサートに誘った経緯と吉弘が残した言葉を聞いてはいる。・・・まさか、俺が智一と仲が良いことを逆手にとって智一に引き止めさせておいてお礼参り、なんてことは考えてないだろうな。智一が確約させたと言うから疑いたくはないんだが、相手が相手だけにな・・・。

「お待たせ。」

 背後から声がかかる。同時に俺と智一が居る控室−要するに溜まり場だ−にざわめきが起こる。振り返れば、白のロングコートと白のマフラーに身を包んだ吉弘。男ばかりのこの部屋に客観的に見てこれだけの美人が来れば、変な言い方だが活気付くのも無理はないか。

「安藤君。彼・・・智一から話は聞いてる?」
「ああ。」
「じゃあ、私について来て。」

 吉弘は身を翻す。長い髪をふわりと浮かべてのその様はさながらモデルのようで、取り巻きが出来るのも何となく分かる。俺は吉弘を刺激しないように、歩き始めた吉弘と腕一本分の間隔を置いてついて行く。後ろでざわめきが大きくなっているように思うが、そっちの件は智一に任せよう。
 吉弘について歩いて行くと、電子工学科と情報工学科の間にある中庭に着いた。葉をすっかり落として久しい木がぽつりぽつりと点在するだけで、芝生も今は茶色の何処か寂しげな絨毯になっている。人気はない。吉弘は木の一本に手を当てて徐に振り返る。その表情には、今まで何度か見せた険のようなものはない。芝生と同様、何処か寂しげでさえある。

「・・・彼女から聞いた?私のこと。」
「・・・晶子からは、大学のPCで君の住所を検索してチケットを送ったことと、君がコンサートが終わった後で、『今日はありがとう。久しぶりに良い夢が見られそう』って言った、ってことだけは聞いてる。それ以外は聞いてない。」

雨上がりの午後 第1802回

written by Moonstone

「分かった。で、俺は何処に行けば良いんだ?」
「順子が迎えに来る。此処の場所は知ってるし、あいつが居る情報工学科の講義室から此処まではそんなに時間はかからない筈だから、直ぐ来る筈だ。」
「そうか・・・。」

2005/2/22

[あー、あと200回切ったのか]
 昨日付で痛みとそれに同調する精神状態を羅列していて意識してなかった(意識するどころじゃなかった)のですが、連載が2000回の大台まであと200回を切りました。今から200日後というと9月頃かな?まだまだ先の話ではありますが、続けていこうと思います。
 さて、ライブドアによるニッポン放送株の大量買付けが時間外取引を「悪用」したものであることなどを背景に、日本経団連の奥田会長が記者会見で堀江ライブドア社長の「『金さえあれば何でも出来る』という考え」を批判しましたが、政党の政策に優先順位をつけて「採点」し、その「評価」で政治献金を決める、と公言して実行している財界の総本山のトップが言える台詞ではありません。「金で何でも出来る」を実践している張本人が金にものを言わせたやり口を批判するなど、まさに「泥棒が泥棒を批判する」という例に他なりません。
 政財界トップの発言は即座に報道する一方で、各地の労働争議や市民運動などは黙殺を決め込む。日本のマスコミの悪癖の一つです。結局のところ、自分達に火種が及びそうだからさも正論のごとく言ってのけるだけの「要人」なる輩や、その発言を「大本営発表」するだけのマスコミなど要りません。
 レポートを受け取ったなら、後はそれを写して教官の部屋の前にあるレターボックスに入れれば済む筈だ。これ以上何の用があるって言うんだ?

「何だよ。」
「ま、まあ、そんな不機嫌そうな顔するなよ。お前がレポート出すためだけに来なきゃならなくって、来た早々レポートを要求されて不機嫌になるのは分かるつもりだからさ。」
「分かってるなら言うな。」
「用があるのは俺じゃないんだ。」

 何のことやら分からずに首を傾げる俺の前で、智一は携帯を取り出してボタンを操作して耳に当てる。智一以外に俺に用がある奴と言えば・・・、性懲りもなくレポート写しに明け暮れる役立たずの残り2人か。そんな奴の言い訳なんか聞きたくもない。

「・・・あ、智一だ。・・・ああ、今レポートを出しに来たところだ。今、電子工学科の研究棟に居る。約束どおり引き止めたから、後はお前次第だ。くれぐれも言っておくが、妙な真似はするなよ?・・・分かってるなら良い。じゃあな。」

 もしかして、と思う俺を前に、智一は携帯を仕舞う。やけに神妙な面持ちだな。

「悪いが、順子の奴と会ってやってくれ。お前と話がしたいらしくてな。」
「・・・吉弘さんが?」
「ああ。妙な真似はしない、と確約させてある。順子が昨日俺に頼み込んで来てな・・・。会いたくないとは思うが、会ってやってくれ。頼む。」

 智一が俺に頭を下げる。ガキの頃から家族ぐるみで兄妹同様に育って来て、今でも同じマンションに住んでいる間柄だ。そんな相手の頼みを無下には出来ないんだろう。俺とて手は焼かされてはいるが、智一は1年の頃から気心知れた希少な友人だ。その友人のたっての願いを却下する気にはなれない。・・・こういうところが甘いんだろうが。

雨上がりの午後 第1801回

written by Moonstone

「ほら。」
「何時も悪いな。」
「何時ものことだろ。提出は忘れるなよ。俺は帰るから。」
「あ、ちょっと待て。」

2005/2/21

[とりあえず、言わせて]
 休日となると朝起きられない。起きてPCに向かって作品制作をするもまったく思うように進まず、結局1/3ほどしか書けずにダウン。腰は相変わらずじくじく痛む。両足は布団を被ったりしても絶えず冷える。横になることさえままならない自分の身体と、思い通りに物事をこなせない自分が途轍もなく嫌。
 絶え間ない痛みと緩慢な仕打ちから解放されるのは、薬を飲んで寝ている時だけ。仕事もして税金も払っているのに、どうして次から次へとこんな目に遭わなければいけないのか?
 食べ終えて洗面台で顔を洗って歯を磨いて、コートとマフラーを着けて携帯をシャツのポケットに入れて準備完了。レポートを入れた鞄を持って玄関へ向かう。その途中台所を通るから、挨拶は忘れない。

「行ってきます。」
「おう、行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。」

 茶を啜っているマスター、洗い物をしている潤子さん、その手伝いをしている晶子の見送りの声を受けて、俺は靴を履いて外に出る。今年も残すところあと僅か。その僅かな時間に占める大学生活がレポート提出と補講というのも何だか、という気がしないでもないが、この辺は割りきりが必要だろう。
 俺は自転車に跨って丘を駆け下り、そのまま駅へ向かう。晶子と一緒に行かないのは久しぶりだな・・・。吉弘に晶子が狙われるようになって以来ずっと行き帰りを一緒にしていたから、寂しさはある。だけど、レポートを提出しに行くだけの俺に同行させる、なんてさせたくない。さっさとレポートを提出して帰ろう。

「おっ、待ってたぞ。」

 レポートを提出する教官の部屋がある研究棟に入ったところで俺を出迎えたのは、智一のこの言葉だった。その待ち焦がれていたと言うに相応しい目が、何を言いたいかを率直に物語っている。俺は溜息一つ吐いて鞄からレポートを出す。

雨上がりの午後 第1800回

written by Moonstone

 大学進学と一人暮らしを始めるにあたって、4年きっかりで卒業というのが絶対条件の一つだし、この前大学進学を決めた弟の選択の幅を狭めないために、と4年進級を前提にした自分での学費払いを宣言した身だ。間違ってもそこから外れるようなことは出来ない。

2005/2/20

[夕方起床]
 最近週末になるとこんなのばっかりです(汗)。枕元にアラームが鳴る携帯を置いておいたのですが(置くつもりはなかったんですが習慣で)まったく気付かず、昼頃何かの勧誘のインターホンで無理矢理起こされて、それでも眠かったので寝て、3時頃の実家からの電話で目を覚ましてそこから行動開始。雨降りだったので買い物も時間がかかって大変でした。
 あまりにも腰の状態が悪いので、整形外科に行くことにしたところまでは良いんですが、近場にするかどうかで思案。来週再来週と主張が相次ぐので昨日行っておきたかったんですが、携帯のアラームさえも無視して寝てたのではどうしようもありません。
 この様子だと、作品制作→公開のリズムを立て直せるのは再来週の出張を終えてからになりそうです。ご来場の皆様には申し訳ありませんが、暫くお待ちくださいませ。

「あら祐司君、おはよう。」
「おはようございます。」
「おう、おはよう。」

 エプロンを外している潤子さんと、新聞を畳んでいるマスターと挨拶を交わし、席に座る。晶子が言っていたとおり、朝食は出揃っている。ご飯に味噌汁、鮭の切り身に目玉焼き、そして漬物。出来立てを示す湯気が立ち上っている。
 全員揃ったところで食べ始める。この家における何度目かの朝食の風景。トーストとインスタントコーヒーを詰め込んで駆け出していく普段とは全然違う、穏やかでゆったりした時間が過ぎていく。

「祐司君、今日の帰りは?」
「あ、レポート出しに行くだけですから、昼には帰って来られると思います。」
「そう。じゃあ、帰る時分になったら晶子ちゃんの携帯にでも連絡してね。お昼ご飯の用意するから。」
「はい。」

 月曜に補講はない。厳密に言うと「今まで単位を取っている学生なら」ない。2年の後期に単位を落とした奴にはその講義の補講がある。単位には必須と選択があるが、何にせよ必要数だけ取ってないと留年となることには変わりない。最悪の場合、1コマめから4コマめまでびっしり補講で埋め尽くされることもある。単位を取っているかいないかの明暗がくっきり出る格好だ。
 今朝がゆったり感じるのは、時間が遅いのもある。レポート提出期限は今日の午前中いっぱい、となっているから、2コマめに間に合う時間で行けば十分間に合う。勿論、潤子さんには予めそのことを伝えてある。
 レポートを提出するためだけに大学へ行くのは何だか馬鹿馬鹿しいような気がしないでもないが、提出しないと単位を取れない。学生実験は必須の一つ、しかも4単位も持っていて、「学生実験の単位を取得していること」が4年進級への条件の一つになっているから、提出しないということは留年します、と宣言するようなものだ。

雨上がりの午後 第1799回

written by Moonstone

 晶子が部屋を出て行った後、俺は身体を起こす。剥き出しの背中を冷気が包む。冬はこれが辛いが、なければないで後々大変なことになるもんだ。俺は手早く近くに置いておいた服を着て、ついでに鞄を持っていそいそと1階の台所へ向かう。

2005/2/19

[こういうのは久しぶり]
 来年度、つまり今年の4月から新グループが始動するのは「Moonlight PAC Edition」で既報のとおりですが(大丈夫なのか、と言われそうな気がします)、面白い企画が実施されているので「芸術創造センター協賛」と銘打って、トップ最上段にリンクを貼りました。
 他所様のページの期間限定企画にリンクするのは、何年か前に「綾波展」が開催された時以来です。普段遊び心が少ないこのページ、こういうのも積極的に賛同・協賛していこうと思っています。
 本当はその旨を「Moonlight PAC Edition」で報道するつもりだったんですが、仕事疲れで居眠りしていた上に、連載のストックが底をついてまして間に合いませんでした(汗)。明日付以降の更新で紹介するつもりです。
 疲労感はあるけど・・・、それよりも何よりも今は「晶子が欲しい」という気持ちが上回っている。唇を動かしてきめ細かい肌の感触を堪能していると、その気持ちがより膨らんでいく。

・・・。

 ・・・じさん。祐司さん。・・・あ、誰か呼んでる・・・。
闇から急速に浮き上がってきた意識が、俺の目を開けさせる。覗き込んでいるのは・・・晶子。俺はまだ若干残っている眠気を、目を擦ることで削り落とす。掛け布団から出した腕は、肌が剥き出しだ。
 週明けの月曜の朝。2日めもコンサートは大盛況のうちに終わり、潤子さんと晶子が共同して作ったケーキを切り分け、シャンパンを開けて打ち上げをした。ケーキは程好い食感のスポンジケーキに生クリームと共に苺や桃がたっぷり挟まれたもので、見た目も味も最高だった。昨夜まで指を咥えさせられて待たされただけのものはあった。
 そしてその後、俺と晶子が先に風呂に入って部屋に戻り、端的に言えば晶子を「食べた」。3夜連続なんて初めてだ。一昨日と昨日は潤子さんに起こしてもらったが、今日は晶子か。俺の顔を見るその目に眠気は感じられない。

「朝ご飯が出来たから一緒に食べましょう、って潤子さんが。それに祐司さん、今日は大学に行くんでしょ?」
「ああ。レポートを出しに行くだけだけど。」
「私、下で待ってますね。」
「分かった。」

雨上がりの午後 第1798回

written by Moonstone

 晶子は再び微笑んで俺に擦り寄ってくる。甘い匂いと微かに伝わってくる柔らかい弾力が小さな羽根となって、俺の鼻と欲望をくすぐる。俺は右腕をゆっくり動かして晶子の身体に回す。そしてゆっくり体重をかける。晶子の上に覆い被さった俺は、晶子の首筋に唇を触れさせる。

2005/2/18

[今週の更新は期待しないでください]
 連日400人くらいのご来場をいただいているのですが、キャプションにもありますように、今週の更新は期待しないでください。公開出来るだけの作品が出揃っていないんです(手持ちが全然ない(汗))。「周辺環境の整備」みたいな更新はちょこちょこする予定で居ますが。
 「魂の降る里」での公判は、とか、「Saint Guardians」での策謀と恋の行方は、とか、「噂の人」のその後は、とか(これが一番引っかかってます)、私自身どうにかしたいのは山々なんですが、何分身体が言うこと聞かなかったので(今でもあまり聞きませんが)何ともはや、寂しい週末になってしまいそうです。
 近々、トップページから携帯ページに入れるようにします。今は「Moonlight PAC Edition」バックナンバーを読まないと分からないですからね。本当はブラウザ情報を取得して自動的に、としたいんですけど、PC用と携帯ページは別枠と考えてますので、自動判別は不向きかな、と。携帯ページの方もちょこちょこ更新するつもりではいます。でも、あまり期待はしないでください。

「聞かないんですか?」
「何を?」
「吉弘さんと私のやり取りの詳細・・・。」
「聞きたくないって言えば嘘になるけど、そういう探偵みたいなことはしたくないから、しない。吉弘さんも何か思うところがあって今日来たんだろうし、晶子には言っても良いけど俺には知られたくない、ってことかもしれない。だから、聞かないでおく。」
「優しいですね、祐司さん。」

 晶子は微笑む。別に優しくしているつもりはないし、好き嫌いを前提にして言うなら「綺麗事は言わない」となる。だけど実際、吉弘があれほど敵視していた晶子から送られてきたチケットを持って、しかも単身−取り巻きをつれてきても「チケットがないと入場出来ません」で追い返したが−来たんだ。何かわけがあってのことだろうし、「良い夢」、それも「久しぶり」と言うんだから、やっぱり何かあるんだろう。
 元々詮索するのは好きじゃない。それに晶子は、もう俺にも自分にも危害が及ぶことはないと言った。吉弘も文系学部エリアの生協の食堂に単身乗り込んで来て以来、何の音沙汰もない。久しぶりに姿を見たと思ったら今日も単身で、立ちっぱなし、食べ物も飲み物もなし、という状況にも何ら文句を言わず−文句を言われてもコンサートがああいう形式だからどうしようもないが−、晶子と会話してごく普通に帰って行った。それならそれで良い。それだけの話だ。

「俺は別に優しくないさ。ただ、言いたくない、知られなくない、って部分は誰にでも多かれ少なかれあるだろうし、それを口にするのは余程相手を信用してのことだと思う。」
「・・・。」
「俺に限って言えば、吉弘さんの信用を得ているとは思えないし、今日吉弘さんが来たのは晶子の送ったチケットを持ってのことだから、吉弘さんのことは晶子の中に仕舞っておけば良いんじゃないか?」
「そうですね。そうします。」

雨上がりの午後 第1797回

written by Moonstone

 吉弘が一体何を求めてコンサートに来たのか、気にならないと言えば嘘になる。だが、詮索するのは好きじゃないし、探られたくもない腹を探られる時の嫌な気分は、多少なりとも分かるつもりだ。好きか嫌いかで言えば、吉弘は後者に属する。どうしても今までの高慢ちきな態度から来る負のイメージが消えない。だが、好き嫌いと事情を探ることとは別次元の話。とりあえず、晶子の身に危険が及ばないのなら、それで良い。

2005/2/17

[何を以って「ゆとり」と言うか]
 中央教育審議会が「ゆとり」教育の全面見直しを挙げたそうですが、「ゆとり」の意味も知らない連中が教育を弄繰り回すことそのものが問題です。「一握りのエリートとそれに忠実につき従うその他大勢」という構図を描いている限り、教育制度をどう弄繰り回しても無駄なばかりか、それに振り回される現場の教師、そして何より子ども達の良い迷惑でしかありません。
 円周率を「3」にしたことがその端的な例です。今の時代、PCや電卓なるものがありますから、小数何桁の計算なんて直ぐ出来ます。それに、義務教育は社会生活を送る上で必要最小限の知識や技能を収入などに無関係に習得させる(習得できる)期間ですから、算数(数学)に限って言えば「3568円の買い物をして5000円札を出したらお釣りは幾らか」とかいう程度で事足ります。
 「ゆとり」が何を齎したか。塾通いを増やして「教育」熱を加速させただけではないでしょうか。中央教育審議会に限ったことではありませんが、政府の諮問機関の委員は全て「一流」大学や企業のトップ、しかも政府寄りの意見を出すように恣意的に選任されているのですから、こんなものはまったく無用です。現場の声、教育で言うならまず子どもの声を反映させるような組織に改革すべきです。

「なあ、晶子。今日どうして・・・彼女、吉弘さんが来てたんだ?」

 俺と向かい合っている晶子は、ひと呼吸置いてから口を開く。

「吉弘さんに、きっかけをプレゼントしたんです。私が買わせてもらったチケットで。」

 晶子は、もう一度ひと呼吸置く。

「吉弘さんには、心に秘めているものがあると思ったんです。前に大学の文系エリアの生協の食堂に私を訪ねて来た時、祐司さんが作ってくれている『明日に架ける橋』と『Fly me to the moon』を聞いて見せたあの表情を見て・・・。誰かに聞いて欲しい。だけど今の自分では言えない。吉弘さんのそういう心の痞えを取り除くきっかけになれば、と思って、チケットをプレゼントしたんです。住所を大学のPCで検索して調べて、封書で送ったんです。『もし良かったら来てください』って手紙を添えて・・・。」
「で、今日来たのか。」
「はい。」

 吉弘が此処に来るまでの経緯は分かった。要約すると・・・吉弘が何か心に秘め事を抱えている。そう思った晶子が吉弘の住所を調べてチケットを送った。そして吉弘が来た。・・・こんなところか。もう一つ気になることがある。コンサートが終わって残っていた吉弘と晶子は何を話していたのか、だ。少なくとも口論ではないと思うが、何を話していたのか気になるところだ。

「もう一つ。コンサートが終わってから残っていた吉弘と、何を話してたんだ?」
「ごく一般的なやり取りですよ。『チケット送ってくれてありがとう。久しぶりに良い夢が見られそうだわ。』そう言ってましたよ、吉弘さん。」
「良い夢、か・・・。」

雨上がりの午後 第1796回

written by Moonstone

 ささやかな宴は終わった。風呂に入った俺と晶子は、マスターと潤子さんに挨拶してから階段を上って部屋に入る。灯りを消して揃って布団に潜ったところで、消えない疑問を口にする。

2005/2/16

[腰の冷え]
 年明け以降延々と引き摺っている腰痛。これだけ長いのも問題ですが、夕方以降になると痛む部分が冷えるように感じます。仕方ないので職場では薄手のジャンパーを腰に巻きつけて凌いでいますが、所詮薄手。少々の誤魔化しにしかなりません。自宅では半纏を着て背凭れにクッションを挟んでいるので、さほど冷えは感じないんですが・・・。
 何か良い対策はないものか、と探してはいますが、やっぱり温湿布が一番効果的なんでしょうか?少なくとも「冷やすといけない」ことは分かっていますし、厚着をするにしても限度がありますし、温湿布が良いかな、と。
 懐炉(最近目にしないような・・・)を使うのも一つですが、低温火傷の危険も無きにしも非ず。来週、再来週と出張が続くので、最低限それを抜けないことには休めない現状。何とかならないものか、と悩みの種は尽きません(溜息)。
 最近、潤子さんは紅茶とクッキーに嵌まっている。紅茶は紅茶専門店で仕入れたもので、クッキーは手作りだ。何でも、晶子と店で料理をしながら話をしていたら紅茶の話になったのが発端らしい。潤子さんは「昼の顔」として紅茶とクッキーを導入して、今じゃ紅茶も各種取り揃えていて、平日は近所の主婦、土日は女子中高生の間で大好評になっているそうだ。
 紅茶専門店を潤子さんに教えたのは、他ならぬ晶子だ。晶子の家の台所の戸棚は小さな紅茶陳列棚の様相を呈しているが、それだけの品揃えに出来るだけの品数を揃えている専門店は、晶子が週末買い物に行くルートの延長線上にある。車で行けば10分とかからない。
 潤子さんの紅茶好きはマスターも乗り気だ。「夜は祐司君と井上さんが居るから良いけど、昼がねえ」と思っていたところに、喫茶店の王道の一つとも言うべき紅茶のラインナップ向上が自然な形で実現出来るとあって、マスターは紅茶専門店に車を走らせ、紅茶専用の棚とクッキーを焼くためのオーブンまで購入した。オーブンはグラタンを作ったりするために前からあるが、クッキーを焼くためにわざわざ買ったのだ。元は十分取れてお釣りが来るほどだ、とはマスターの弁。
 4人で潤子さん手製のクッキーを齧り、紅茶を飲んでコンサートの余韻を味わう。一昨年と昨年とはまた違った充実感や達成感を感じる。今までの流れに沿った曲目でも良かったんだろうが、あえて少し違う方向に変えてみるのもまた一興、というところか。
 クッキーの量はそう多くない。夕食はコンサートの前に済ませてあるし、コンサートは明日もある。今日はこれからしっかり寝て疲れを取って、明日に備える。本格的な打ち上げは、明日のコンサートが終わって店を元の状態に戻してからだ。潤子さんと晶子が共同で作ったケーキがあるって言うし−当日まで秘密ということで見せてもらえない−、明日に向かって頑張ろう。

雨上がりの午後 第1795回

written by Moonstone

 潤子さんの快活な声が俺の推測を打ち切る。ラベンダーの良い香りを漂わせる紅茶が、晶子が並べたタンポポのワンポイントロゴが入ったティーカップに注がれる。テーブルの中央にはクッキーが入った皿が置かれる。

2005/2/15

[放送会社の奪い合い]
 ライブドアがニッポン放送の株を大量に買った、という関連のニュースが飛び交っているようですね。株(株券と言うべきですが)を大量に持つと、株式会社の経営に多大な影響力を持つ株主総会での発言権が強まります。議会の議席数が会議の進行に直結します。ですから、ニッポン放送を傘下にしているフジサンケイグループは、「他人」のライブドアの参入を阻止しようとしている。こんな構図です。
 ライブドアに限らず、企業が何を目的に放送会社を支配しようと(或いは支配)しているか。営利企業は利益第一で動きます。特に、「企業と株主が儲かれば良い」というアメリカ型経営志向が強まっている今は尚更です。ライブドアは一時バッファローズの救世主みたいな扱いを受けましたが、その後の同業他社の動きを見れば分かるとおり、「自社の宣伝のため」という第一義的目的があるから買収に動いただけです。
 幾らインターネットが普及したとは言え、日本ではまだまだ新聞やTV、ラジオといった従来型メディアが主流です。その一つを支配すれば自社の宣伝活動は同業他社より圧倒的に有利になります。何でもアメリカ型を是とする資本家と政治家の動きを従来型メディアが後追いしている。要するにそういうことです。

「マスター。今日来ていた客の中に、以前晶子に因縁つけてきた女が来てたんですよ。」
「ああ、そのことか。井上さんが1000円出してチケット1枚買ったから、多分そのチケットを渡したんじゃないかな。略地図はチケットの裏側に書いてあるから、初めての客でも電車を使えば来れるし。」
「・・・買ってたんですか?晶子が。」
「ああ。店に出す前に井上さんが『1枚買わせてくれませんか?』って依頼して来たんだよ。何でも、招待したい人が居るからってことで。井上さんの性格だから、まさか祐司君以外の男を連れてくるとは思わなかったし、井上さん、多分その女性と話をつけたんじゃないかな。」
「人の話をすんなり聞き入れるような性格じゃないと思うんですけどね・・・。」
「意外に普段突っ張っている人ほど、何かのきっかけで心を開いたりするもんだ。井上さんは、そのきっかけを問題の女性に今日のチケットとして渡したんじゃないかな。」
「何を目的にこのコンサートに来たんでしょうね・・・。」

 自分のテリトリーを侵害された、とあれだけ執拗に付け狙ってきた吉弘が、テリトリーの侵害者−勿論吉弘の勝手な思い込みだが−である晶子と仲直り、なんて考えられない。文学部がある文系学部エリアの生協の食堂に単独で乗り込んで来た時以来、吉弘からは何のアクションもない。ほとぼりが冷めたところで一気に、と考えている可能性だってある。
 だが、晶子はわざわざチケットを買ったと言う。マスターの推測どおり、晶子が買ったチケットを吉弘に渡した可能性もある。吉弘は今日も単独だった。それに、文句を言ったりケチをつけたりといったこともなかった。そう言えば、文系学部エリアの生協の食堂に乗り込んできた際の「撤収」の時と、今日の帰る時の後姿は良く似ていたな。吉弘の心に何か変化があったんだろうか?

「はい、お待たせー。」

雨上がりの午後 第1794回

written by Moonstone

 「指定席」に着席したところで、俺は今日の大きな疑問を口にする。

2005/2/14

[首、肩、腰]
 今痛いところを挙げてみました(汗)。おかげで気分も悪くて(体調と気分がかなり連動している)、ただぼうっとしていました。非生産的ではありますが、この身体ではどうにもなりません。腰の治りが異様に遅いので整形外科に行きたいのですが、今週はとても休める状態じゃありませんから、薬で誤魔化しかありません。
 右利きなのに右肩に脱臼癖があって、それが運悪く昨日発生(泣)。マウスやキーボードの操作は左手で出来ますが、包丁を使ったり箸を持ったりといったことは右手でないと出来ません。休日だっていうのにもう踏んだり蹴ったりで、何かもう嫌になってます。どうしてこんな目に遭わなきゃならないのか・・・。

「大成功だったな。思い切って曲目を刷新した賭けは当たったな。」
「『always』であんなに盛り上がるとは思いませんでしたね。」
「井上さんの後押しで入れた曲が結構多かったが、硬軟織り交ぜた良いラインナップになったようだな。何はともあれ、めでたいことだ。明日もあるけど、祐司君と井上さんはこの調子で明日も頼むよ。」
「「はい。」」
「夜は程々にね。」

 潤子さんの一撃が俺の心に釘となって突き刺さる。昨夜は本当に場所を失念して没頭してたし、晶子の声がしっかり聞かれていたらしいし・・・。成り行きの怖さというものを思い知ったような気がする。

「さ、それじゃ一服しましょうか。ぶっ通しだったから、喉渇いたでしょ?特に晶子ちゃんは。」
「あ、はい。割と湿気が多かったのかそれほど喉の渇きは強くないですけど。」
「晶子ちゃんの喉はデリケートだから、アフターケアはしっかりしないとね。皆、台所に行ってて。私が紅茶を入れるから。」
「あ、私も手伝います。」
「お願い出来る?」
「それじゃ、男二人は紅茶が出てくるのを待つとするかね、祐司君。」
「はい。」

 晶子と潤子さんはキッチンの勝手を心得ている。そんなところに俺がしゃしゃり出たところで足手纏いになるのが関の山。此処は大人しく待つに限る。俺は、マスターと共に台所へ向かう。

雨上がりの午後 第1793回

written by Moonstone

 客が全て退出したところで、俺はステージから降りて出口に向かい、まずドアの鍵を掛ける。そして全員で手分けしてブラインドを下ろしたりする。広い店内だが、4人居ればそれほど時間はかからない。第1日目は無事終了。終わってみると、改めて充実感が心を満たすのを感じる。

2005/2/13

[書き下ろしてみました]
 前から書きたかった、ということもあって、久しぶりに書き下ろして今日の公開に踏み切りました。来週の更新が非常に怪しいので、これを貯金にしておくべきだったかな、という思いはあるのですが、まあ、その時はその時で。
 何だか寝ても疲れが取れません。このお話の前にも疲れて横になっていたんですが、すっきりしません。体力の衰え、と言いますけど、やっぱりそれかな、と感じる最近です。それでは、今日はこの辺で。

「それでは皆様、ご唱和をお願いいたします!メリークリスマス!!」
「「「「「メリークリスマス!!」」」」」

 クリスマスコンサート恒例、マスターの締め言葉が店内に轟く。そして大きな拍手と歓声に変わる。準備まで色々大変だった。色々あった。でも、今日この瞬間に、それらが全て良い思い出として昇華されたように思う。音楽と、そして人間と触れ合うこの店での貴重な思い出が、また一つ増えた。やって良かった。心からそう思う・・・。

 マスターの案内で、客はわらわらと出口へ向かう。こういう時は結構早く行け、行けない、とかで混乱が起きやすいんだが、コンサートの余韻をくだらない諍いで壊したくないのか、順番に少しずつ整然と出て行く。
 出口へ向かう客の波に逆らうように、一人佇む客が居る。吉弘だ。着ていたコートは脱いで腕に引っ掛けている。今まで何度か見た高慢ちきな雰囲気は欠片もなくて、何か言いたげな表情をしている。
 大きな山場を乗り越えたことで、一つの疑問が再浮上する。どうして吉弘がこの店のコンサートを知ったのか、そしてどうしてこのコンサートに来たのか。吉弘は従兄の智一と同じマンションに住んでいるという。どうやって来たのかは知らないが、大学に程近い智一のマンションからこの店までは結構距離がある。お嬢様オーラを終始溢れさせていたあの吉弘が、取り巻きの男連中を従えずにたった一人でこのコンサートに来た理由は何なんだろう。
 ステージ脇から晶子が降り、吉弘に駆け寄る。吉弘は晶子と何か言葉を交わしている。その表情は至って「普通」だ。よくもこんな窮屈な場所に長時間押し込んでくれたわね、とでも突っかかりそうなもんだが、そんな様子は微塵もない。晶子と二言三言交わした後、吉弘は身を翻して出口へ向かう。その後姿は何処となく寂しげだ。晶子が居る文系学部エリアの生協に一人で乗り込んで来た時の去る様子とよく似ている。吉弘の心に何か大きな変化があったんだろうか?

雨上がりの午後 第1792回

written by Moonstone

 晶子の更なる呼びかけで、窓ガラスが割れそうなくらい拍手と歓声が大きくなる。全てのテーブルと椅子が片付けられてオールスタンディング形式になっている店内にぎっしり詰まった客は、見渡す限りどれも綺麗に晴れ上がっている。俺はギターをぶら下げたまま、ステージ前方に出る。その横に潤子さんが並ぶ。

2005/2/12

[今日は見送り]
 これまでだと今日は何か新作を公開する曜日なんですが(決めてるわけじゃないんですけどね)、手持ちが何もない上何も作れなかったので、今日は此処のみの更新。うーん。身体がね。風邪の方はもう大丈夫だと思うんですが、腰の具合が良くないのをはじめ(まだ治ってません)、朝起きたら身体全体が気だるかったので、食べるものもろくに食べてません。
 「気が抜ける」って言いますけど、それかもしれません。本業は基本的に自分一人でやりくりしている上、測定結果から何が問題か読み取ったり、その問題を解決するにはどうすれば良いか、など常に先の見えない思考を続けているので、その反動と言うのか、それが特に最近顕著です。
 まあ、どうにか連載のの方はクリスマスコンサートを書き終えましたし(極の描写は難しいのよ)、身体の具合と相談しながらぼちぼち作品制作をしていこうと思います。

 私信:お気遣い本当にありがとうございます。嬉しかったです。余程切羽詰った状態でない限りは此処の更新で以って「生存証明」をしていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
 リバーブを効かせたタム1発で、曲の雰囲気ががらりと変わる。浮遊感のあるシンセパッドを背景にした間奏。ウィスパリングが効いた晶子のヴォーカルがパッドと上手く融合する。此処でもサックスが合いの手的に入る。ブロウを効かせていないからパッドともすんなり馴染む。演奏を休めている俺は、綺麗な声に暫し聞き入る。
 後半でベースが復帰して、ドラムのフィルを合図にしてイントロのフレーズに戻る。俺もギターで復帰する。ヴォーカルがメインのフレーズを歌う傍らで、サックスは気ままに、でも曲の雰囲気を保ったフレーズを加える。サックスという楽器で歌っている。そんな表現がピッタリだ。
 手拍子に歌声が混じり始める。高低入り混じったそれは、客からのものだ。明るい表情で手拍子をしながら歌っている客が、彼方此方に見える。スイングするリズムに乗せて身体を軽く弾ませながら歌う晶子と、客が一つのフレーズを一緒に歌っている。今年のコンサートで目指したものが、確かに目の前で展開されている。
 今年のコンサートのコンセプトは「じっくり聞かせる」ことが第一だが、「客との一体感」も言わば別枠で考慮している。ラストに「always」を据えたのは、晶子が推したのもあるし、「客との一体感」を作りやすそうだ、という考えがあった。分かりやすくて歌いやすい、そして前向きな内容。例年来ている常連客は勿論、最近知った、若しくは今日誘われて初めて来たという客も、そして俺も、音楽の楽しさを知って感じて共有していると思う。
 5回、計40小節演奏したところでドラムのフィルが入り、全員がそれぞれの楽器で最後を締めくくる。シンバルのロール(註:早く連打する打楽器の奏法の一つ)が、「always」のフィナーレを飾る。音が全て止むと同時に大きな拍手と歓声が沸き起こる。

「皆さん、ありがとうございます!」

 興奮真っ只中の客に呼びかけたのは、マスターではなくて晶子。これも今回考慮した演出の一つだ。晶子が高く掲げた右手を大きく振ると、客の興奮が更に増す。青天井とはまさにこのことか。

「今年も残すところあと僅かとなりましたが、これからも『Dandelion Hill』をどうぞよろしくお願いいたします!」

雨上がりの午後 第1791回

written by Moonstone

 音楽が好きだから、高校時代二足も三足も草鞋(わらじ)を履きつつバンド活動を続けたんだし、今仮配属になっている研究室を希望している。このバイトも続けている。だけど、何処かで事務的と言うか機械的と言うか、そういう気持ちになっていたのも事実だ。そう気付かされた瞬間だった。

2005/2/11

[「自衛」の名の下に]
 火曜水曜と続いていた午前中の謎の猛烈な吐き気は、昨日朝食を食べずに(この時点でかなり具合が悪かった)出勤したら、不思議と起こりませんでした。食あたりにしては規則的過ぎますし、やっぱり精神的なものだと思っています。大詰めと締切が幾つも同時に迫って来ているので・・・。
 さて、北朝鮮が核兵器保有を公言したわけですが、原子力発電所を造るより核兵器を作る方が簡単なので(臨界(要するに核分裂が起こること)を一定枠内で制御する技術や異常発生時のことなど考えなくて良いから)、持っていても不思議ではありません。かつてアメリカとソ連が核兵器開発に凌ぎを削っていた時代、「後進国」だった筈の中国やインドなどがあっという間に核兵器を所有したくらいですからね。科学技術は悪用する方がはるかに簡単なのです。
 問題なのは、北朝鮮が核兵器を持つ理由に「自衛」を掲げていることです。「自衛」、この言葉は近代では侵略や先制攻撃を包むオブラートでしかありません。どうせ今日付の商業新聞などが大騒ぎするでしょうが、「自衛」を掲げる軍隊がアメリカとの「軍事同盟」を公言して共同行動を執ることを第一義的任務にしようとしている日本の現実。「大量破壊兵器拡散からの防衛」を口実に端からありもしなかった「脅威」をでっち上げて、イラクをテロの温床に作り上げたアメリカ。「自衛」が意味する侵略の被害妄想が最大限に高まった時が最も危険だ、ということを、歴史から学び取る時でしょう。北朝鮮が核兵器を持って良い、と言う気はさらさらありませんので念のため。
 再びイントロのフレーズ。此処でもマスターの遊び心と言うか視野の広さと言うか、そういうものが発揮される。マスターのサックスがコーラスのメインフレーズを奏でて、晶子が原曲でオーバーダブされているフレーズを歌う。コーラスは人の声かシンセのコーラス音でないといけない、という俺の既成概念が見事に打ち破られたところだ。

・・・。
ん?どうしたんだ?祐司君。まだ途中なのに。
・・・さっきの。
何だ?珍しいものでも見たみたいな顔して。
・・・え、いや、コーラスをサックスでするなんて・・・。
そう驚くほどのことでもないと思うが。
実際、驚いたんですけど・・・。
サックスでコーラスのフレーズなぞっちゃいけない、っていう規則はないだろ?サックスがメインのフレーズを吹くなんて、フュージョンでなくてもやってることだし。
それは確かに・・・。
気楽に考えれば良いんだよ。音楽はその字が示すとおり、楽しむものなんだから。

 マスターの作った「豪華版」のデモを初めて聞いた時、呆気に取られた俺がマスターと交わした会話を思い起こす。楽しむ・・・。俺が日常生活の中でしばしば忘れがちになることを、それを聞くまで音楽に慣れ親しんでいる筈の場でもそうなっていたことを思い出した。
真面目に取り組むのは勿論重要なことだし、それは尊重されるべきだよ。
だけど、時と場合によりけり、なんじゃないかな?
時には肩の力を抜いてみると、意外な発見があるかもしれない。そうでなくても凝り固まっていた気持ちを新たに出来ると、俺は思ってる。
発想の転換、とか難しく考えないで、こういうのはどうだろう、ってくらいの遊び心って言うのかな・・・。そういう気持ちも持っていて損じゃないと思うよ。

 こんなのありか、という気持ち、言い換えればある種のこだわりとも言えるものに尚も何処かでしがみついていた俺に、マスターがそれこそ楽しそうに言った言葉が脳裏に浮かび上がって来る。そう言ったマスターの顔は本当に爽やかで、マスターが心底音楽と真剣に向き合い、手を取り合って一緒の時間を過ごしていることが分かった。

雨上がりの午後 第1790回

written by Moonstone

 曲のタイトルでもある歌詞の一部が晶子のヴォーカルとユニゾンして、サビに入る。演奏していて心地良いステージは尚も続く。ヴォーカルが重なる部分ではマスターのサックスと客が綺麗に晶子のヴォーカルに重なる。客も、一緒に演奏している(或いは歌っている)気分になっていることがよく分かる。

2005/2/10

[何なんだろう・・・?]
 一昨日に続いて昨日も午前中に猛烈な吐き気に襲われました。当然昼食は抜き。夕食は雑炊を作って消化しやすいようにしましたが、胃酸がかなり多く出ているのが分かります。この調子だと、今日もやられそうだな(汗)。
 さて、久しぶりに時事ネタでも。NHKの番組改竄(かいざん)が「NHKと朝日新聞の喧嘩」と矮小化されている向きがありますが、「事前に番組内容を政治家に伝えるのは通常業務」と言って憚らないNHKの体質は、国民から得る受信料で経営していることからも、そして「通常業務」として番組内容を伝える相手が人事や予算の承認権を握る与党政治家だということからも、公共放送として極めて重大な問題を抱えていると言わなければなりません。
 番組内容を与党政治家が知っていたこと、NHKの幹部が番組内容を放送前に伝えたことは、当の本人も明らかにしています。これは、番組内容が時の政権の都合の良い(政権の顔色を窺う、とも言える)内容を公共放送が行っていることの証明であり、権力による検閲を禁じた憲法にも違反する重大事項です。戦前、放送が「大本営発表」に終始したことの痛苦の反省から放送法が生まれたことを、マスメディアは勿論、視聴者である我々も今一度認識すべきではないでしょうか。
 サビに入る。その直前に曲のタイトルでもある歌詞の一部が、晶子のヴォーカルと客からの声でユニゾンした。そうなったら良いな、とは思っていたが、こうも計算どおりに進むというのは意外だ。此処でも原曲ではオーバーダブでヴォーカルが重なるところが、晶子のヴォーカルとマスターのサックスで表現される。そして此処でも客からの声がタイミング良く被さる。「客との一体感」という観点からすれば、この時点で成功といって差し支えないだろう。
 サビが終わってイントロに戻る。此処でも、ヴォーカルが音を伸ばす部分をマスターのサックスがカバーする。そして「復帰」した晶子とユニゾン。サックスを加えたもう一つの「always」が、着々と完成に近づきつつある。・・・否、まだ道半ばだな。半分も終わっちゃいないんだから。
 再びAメロ。演奏するフレーズは基本的に変わらないし、今ではリクエストされる回数こそ減っているものの何度も演奏してきたから、気分的にかなり余裕がある。スイングするリズムに乗せてストロークで遊んでみたりする。潤子さんが演奏する−普段はシーケンサにお任せだ−キーボードも、ヴォーカルを邪魔しない範囲で結構遊んでいるのが分かる。
 そしてBメロ。此処でも原曲ではヴォーカルがオーバーダブしているところが、晶子のヴォーカルとマスターのサックスで表現される。その部分の歌詞が、綺麗に揃った手拍子に混じって客によって歌われる。狙った、否、望んでいた光景が出来上がっている。
 思えば、高校時代ずっとバンド活動を続けたのは、初めて経験したライブ会場−高校の視聴覚室だった−での客との一体感が新鮮で心地良くて、次も味わいたい、もっと味わいたい、という「欲」が芽生えたからだ。この夏の新京市公会堂でのサマーコンサートでも感じた、今も現に感じている、人間同士がぶつかり合うが故に出来る独特の雰囲気・・・。自分以外のパートはシーケンサにさせておけば良い、と思い込んでいた俺の認識を一変させるには十分だった。
 授業や宿題をこなしながらというのは大変だった。どういうわけか頭の固い連中が揃う生活指導の教師と度々睨み合った。当時付き合っていた宮城に、あたしを放ったらかしにして、と怒られたこともあった。けれど受験ギリギリまで続けて、約束どおり成人式会場前でスクランブルライブをして、今でも続いている交流があるのを思い起こすと、続けて良かった、と思う。
 そして今、舞台はこの店のステージに移り、一緒に演奏するメンバーの顔触れは変わった。講義とレポートをこなしながらの継続は、慣れた今でも正直しんどいと思う時がある。けれど、1年に1回、こうして大勢の客の前で演奏して、客と一体感を味わえる機会を持てるのは、「縁」という単語に象徴される何かがあるからこそのものだろう。

雨上がりの午後 第1789回

written by Moonstone

 Bメロに入るとマスターがサックスを構える。俺が目から鱗、と思ったアレンジの一つが此処にもある。晶子のヴォーカルの間にサックスが丸っこい音色で加わる。原曲ではオーバーダブでヴォーカルが重なる部分を、片方は晶子のヴォーカルで、もう片方はサックスで「歌う」。これがマスターのアレンジ。俺は、ヴォーカルなんだからキーボード関係をシーケンサに任せて潤子さんとのツインヴォーカルにする、としか頭になかったから−そうすれば客が喜ぶと思ったのもある−、初めての音合わせでこれを聞いた時は驚きの一言だった。

2005/2/9

[ぶり返し(汗)]
 週明けから体長が芳しくない、と思っていたら、治った筈の風邪がぶり返したようで、昨日は昼食を抜きました。食べるどころか座っていることさえままならない猛烈な吐き気に襲われていたからです。夕食も食べる気がしなかったんですが、食べないと余計に悪くなる、と思って半ば無理矢理腹に詰め込みました。
 1回の実験時間がやたら長くて(昨日の分は10時間)、その間別のことが出来るのが幸いと言うのか・・・。実験結果を総括して次の実験を開始した状態で帰宅しました。結果が出るには最低でも24時間かかるので、「電源切らないでね(はぁと)」(←一部脚色あり)と張り紙をしておきました。
 気分転換を兼ねて、久しぶりに携帯ページを更新。見てらっしゃる方居るかな〜。更新内容は携帯でチェック♪(いや、PCでも見られますけどね)。

「それではいよいよ最後となりました。4人揃っての演奏で『always』をお送りします。どうぞお聞きください!」

 2年連続で最後を飾って来た−厳密には去年は「fantasy」で締めたが−「COME AND GO WITH ME」に代わるのは「always」。何かと先行き不透明な今のご時世、じっくり聞けて元気の出る曲を、ということで晶子が推した。前からプレイメニューにあるが、今回はサックスも加わる言わば「豪華版」。アレンジとプログラミングのベースは俺の手によるものだが−晶子のレパートリーだし−、今回の「豪華版」にするにあたってはマスターが手がけてくれた。
 そのマスターは勿論サックス。最初「always」にサックスをどう加えるんだ、と訝ってさえ居たんだが、実際に音合わせをして、ああなるほど、と思った。目から鱗、と言うべきか。「NAVIGATORS」をはじめとするCASIOPEAの件でもそうだが、どうも俺は視野が狭くなる、否、狭くする傾向にあるようだ。
 タムを加えた2拍分のドラムのフィルが入る。この曲も軽くスイングするから、フィルもスネアの部分でそれを暗示させるようにしてある。そしてイントロにしてこの曲の重要な部分の一つ。ここでのコーラスは勿論晶子だが、アルトサックスがユニゾンする。音色はよく使われるブロウさせたものじゃなくて、アルトサックス本来の音とも言うべき丸っこいもの。ソプラノサックスに近いものがあるそれは、コーラスとユニゾンしても違和感がない。アルトサックスはブロウさせるもの、という既成概念みたいなものが俺の頭の中に出来上がっていた、と思わされたところだ。
 Aメロでヴォーカルが入る。これは晶子単独。俺はエフェクトを切ったギターでのバッキング、潤子さんはキーボード関係一切、マスターは両手を挙げて手拍子をしている。「always」が前向きな曲だということを考慮して、客と一体になろうという思惑がある。客の手拍子は綺麗に揃っている。

雨上がりの午後 第1788回

written by Moonstone

 今年はあまり俺と晶子の分を新規追加出来なかったが、プレイメニューの総曲数は相当なものだ。マスターと潤子さんが二人三脚で増やして来たものから、俺や晶子が加わって増やしたものまで様々だが、プレイメニューは俺のこの店での歴史とも言える。

2005/2/8

[行き詰まり中]
 先週は快調に進んだ本業がいきなり行き詰って、途方に暮れています。私は精神状態が如実に体調に反映されるので、気分は勿論悪いです。職場と自宅で思考を切り替える、ということが上手く出来ないので、設備も何もない自宅で悩んだところで仕方ないとは分かっていても悩んでしまいます。
 ・・・と、此処でもお話してるとどつぼに嵌まっていきそうなので(もう嵌まってるか(汗))、話一転。このページのご来場者数がいよいよ7のぞろ目「777777」に近付いているようです。私がこのお話をする前に見た時点では777765でしたので、このお話をご覧戴いているころにはオーバーしているかもしれません。
 現時点ではとてもリクエストなど受け付けられる状態ではないのですが、ソロ目をゲットした、というご報告は受け付けております。ニアミス(777776とか777778)でも報告してくだされば、ご要望に応じてトップにお名前を掲載いたします。さて、今はどうなっているでしょうか?
 ギターソロはそんなべらぼうに難度が高いわけじゃない。音のツブを際立たせることに重点を置いた演奏を心がける。CASIOPEAの曲は、これも俺が聞いた範囲に限ってだが、オーバーダブ(註:オーバーダビングの略称。複数の楽器を別々に録音すること)をあまり使っていない。言い換えれば、出来るだけ少ない楽器音での構成、というのがCASIOPEAの曲における基本形だ。この曲もその基本形を踏まえているから尚のこと一つ一つの音が目立つ。シンセブラスを背景に、軽快さを損なわないよう気をつけながら、楽しく演奏する。
 ギターソロを終えて、ギターもサビのフレーズに戻る。いよいよラストだ。ただ同じことを繰り返すわけじゃない。最後の部分を1オクターブ上げる。伸びる音の中細かいドラムのフィルが入り、最後のフレーズを高らかに奏でる。音を十分伸ばしてから消す。続いていた手拍子が大きな拍手と歓声に変わる。

「お楽しみいただけましたでしょうか?」

 アルトサックスをぶら下げたマスターと晶子がステージに上がって来る。客はより一層大きな拍手と歓声で応える。

「この店で定番とも言える『energy flow』を今年はあえて組み入れず、曲目を刷新しました。中には今日初めて聞いた、という方もいらっしゃるでしょう。興味を持たれましたら、次回ご来店の際にプレイメニューにありますCDの番号などをお控えいただき、量販店などでお買い求めいただきたいと思います。」

 マスターが言った「プレイメニュー」というのは、この店で演奏するレパートリーの一覧だ。一覧だから「メニュー」と言っているものの、そこには作詞者、作曲者、出典CD名と番号、レコード会社名も付記してある。此処で初めてJ-POP以外の曲を聞いて興味が湧いてCDを買った、という客もかなり居る。勿論「NAVIGATORS」のように、前から知っていてプレイメニューに登場するのを待っていた、という客も居る。

雨上がりの午後 第1787回

written by Moonstone

 此処からはラストまでサビの形式で進む。まず2回サビのフレーズを辿る。そしてギターソロに入る。キーボードはそのままだから、聞いている分にはサビを背景にしつつギターソロが流れる、という感じになる。

2005/2/7

[・・・最悪]
 起きたのが14時頃。しかも、私が大型小売店で無実の犯人に仕立て上げられて、直後に無実が判明しても激怒した私が、大型小売店と私を犯人に仕立てようとした探偵(某アニメのキャラだったりする)を訴えて、私が相手をなじるわ追い詰めるわの泥仕合を展開する、という夢を見た後で、猛烈に気分が悪いです。
 平日の疲れが一気に噴出したのもあるんでしょうが、土曜もしっかり寝たつもりなのに昨日も12時間以上寝てしまって、しかも目覚め最悪で気分も悪い。とても作品制作に手をつけられませんでした。
 今でも内容を覚えているくらいですから、実際あったことのように鮮明な画像と音声が脳裏に焼きついています。やっぱり疲れてるのかな・・・。
 シンセ関係は一切合財潤子さんに任せる、ということを前提に音色をプログラムしたんだが、そういう音色を使いこなすには相当修練が必要な筈だ。現に高校時代、キーボード担当の勝平が苦心していた。潤子さんはステージに立つ回数が他の3人より圧倒的に少ない、しかもステージに立つ場合はピアノの方の比重が圧倒的に高いから条件的にはかなり不利。なのに、どんな曲でもステージで披露する時はすらすらと弾きこなす。ただ上手いだけじゃなくて、曲に応じた上官をプラスすることも出来る。何時練習しているのかは勿論、どういう経緯でお嬢様の「経歴」を捨ててマスターと結婚してこの店を開いたのか、是非とも知りたい。
 シンセソロのフレーズは、バッキングと呼吸を合わせつつ、ソロらしい細かいものから音の伸びを効かせたものまで様々だ。シンセソロの音色はアフタータッチ(註:キーボードの鍵盤を押した(弾いた)後で鍵盤を押し込むこと)で音程が上がるようにプログラムしてあって、それを使用する部分も難なく−聞いた限りだが−紡がれていく。左手はベロシティに注意しないといけないし、右手はフレーズが細かかったり下手に鍵盤を押し込めないと来るから難しい筈なんだが・・・。普段キーボード関係のプログラミングで何かと梃子摺ることが多い俺からすると、凄いと思うと同時に妬ましさのようなものも感じる。
 シンセブラスを従えた細かい駆け上がりフレーズでシンセソロは終わり、Bメロに戻る。メロディは此処でもギター。大きな拍手が手拍子に戻り、良い雰囲気の中ギターを爪弾く。基本的には最初と同じだが、後半で4小節の短いソロに繋げる。ソロはBメロの最後のコードと盛り上がりを引き継いで次にバトンタッチする重要な繋ぎの位置を占める。音のツブをはっきりさせてシンセブラスとのユニゾンで締める。・・・決まった。ピアノの下降グリスが大胆に流れ落ちる中、サビに戻る。

雨上がりの午後 第1786回

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 そしていよいよシンセソロ。口笛に似た音色でのっけから細かいフレーズだが、潤子さんはそれこそ口笛を吹くようにすらすらと弾きこなしていく。右手でソロ、左手はバッキング、しかもバッキングはベロシティでパッドとシンセブラスが切り替わるようにしてある。

2005/2/6

[眼鏡、行方不明]
 昨日朝起きてPCを起動して、風呂に入って再びお休み、という経緯を辿ったんですが、再び目覚めた時、眼鏡が見当たらないという非常事態に(汗)。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、私は近視プラス乱視なので、爪を切るにも眼鏡がないと深爪してしまいます。料理や外出などもっての外。
 勿論探しましたが一向に見当たらず、やむなく自動車運転時(ペーパードライバーですが)に使う度の強い眼鏡を着用。強い上にフレームが頭を締め付けるような感じなので、買い物に行って家のことをしていたら頭痛がして来て・・・。
 夕食後改めて探したら、ようやく発見!何と足に掛ける布団の陰に隠れていました。PCを畳んだ時に机から落ちたようです。ふう、これでひと段落。眼鏡必須の人間が眼鏡を無くすなんて間抜けな話ですが、私はこういう人間です(汗)。
 そういう流れもあって、今回「NAVIGATORS」が曲目に加わった。潤子さんがリクエスト対象に加わるのは日曜のみ。更にキーボードを弾くとなるとかなり限定されてくるし−幾ら気に入っても現状がレパートリーの増加をそう簡単に許してくれない−、今日来た客の中には人伝に聞いて来た、という客も少なからず居る筈。だとするとこれが、キーボードの潤子さんと俺とのステージを初めて見る機会になる可能性も十分ある。さて、聞いてもらうとするか。
 バスドラムとスネアによる1拍半のシンプルなフィルに続いて、ギター、シンセ、ベースが一斉に駆け出す。この曲は弱起(註:曲の開始が1小節1拍目からはみ出すこと)だから、ドラムのフィルを追加して1小節になる。それに加えてこの曲もサビから始まるから、潤子さんと呼吸を合わせないといけない。
 手拍子の中、Aメロに入る。ギターがメロディを担当し、シンセブラスが合いの手的に入るという形式だ。この形式は俺が聞いた範囲での限りでは、CASIOPEAの曲ではよくあるものだ。潤子さんがシンセを担当するということで、俺がデータを作ったのはドラムとベースだけ。何分今までデータ作りで時間と手間を食われてきただけに、呆気なさすら感じた。
 シンプルということは、それだけ登場している音が良く目立つということ。メロディを担当するギターは、バッキングでも目立つのに楽器が少ないこの曲では尚のこと目立つ。Bメロに入ってもギターがメロディを担う。前半8小節はAメロと同じくギターのメロディにシンセブラスが合いの手的に入る形式、後半8小節はふわふわした感じのパッドを背景にギターのメロディとピアノが絡むという形式だ。音色が少ないとは言えキーボードはかなり忙しいんだが、潤子さんに任せておけば安心だ。
 サビに戻る。オーバードライブを効かせたギターのメロディに、シンセブラスが華やかさを加える。音色作りは俺がしたが−これもデータ作りと共に重要な仕事だ−、本物のブラスに近づけるために、キーボードのタッチでアタックが変わるようにしてある。ピアノもそういう性質があるが、ピアノとキーボードではタッチが全然違う。違和感を感じると思うんだが、潤子さんは曲の軽快さを崩さない。

雨上がりの午後 第1785回

written by Moonstone

 初めてのキーボードを弾く潤子さんとのステージ。潤子さんには予め教えておいたが、潤子さんはこれまたあっさりと弾きこなしてくれた。今まで店ではピアノのイメージが先行していた潤子さんがキーボードを担当するということで、当然満員の−最近は毎日だが−店内は驚いたが、それは直ぐに盛況へと変わった。

2005/2/5

[あっという間に週末]
 測定だ、検証だ、とひたすらPCと測定機器に向かい、職場に詰めていたらあっという間に昨日も終了。ようやくゆっくり出来ると思ったら、新作を殆ど用意出来ていないことに気付いて愕然。仕方ないですけどね。何せ連日帰宅が遅いから底をついている連載を書き下ろすのに精一杯で、土日は腰痛やら胃腸に回った風邪やらで寝込んでましたから。
 そんなわけで、今日の更新はこれが精一杯です。腰痛も胃腸の具合もどうにか安定してきたので、次回は大々的に更新出来るようにこの週末、作品制作に取り組みたいと思います。気分も結構上向いていますし。
 最後はBmの白玉を背景に、ソプラノサックスとドラムがロックっぽく派手に動き回って−此処のソプラノサックスはマスターにお任せしている−締める。客から大きな拍手と歓声が起こる。本当に高校時代のライブを思い出すなぁ。
 マスターがステージ脇に下がる。次の曲「NAVIGATORS」は、ピアノではなくキーボードを弾く潤子さんと俺とのセッションという、マスター曰く「開店以来初めての試み」で演奏する。俺自身今までT-SQUAREの曲は幾つもレパートリーに加えて来たが、T-SQUAREと並んで日本のフュージョンの大御所であるCASIOPEAの曲を加えたのは初めてだ。
 きっかけは、レパートリーに加えるついでに自宅でのBGMにするCDを生協で探していた時だった。偶々目に入った、否、今までも見ていただろうが気に留めなかった「CASIOPEA」の文字。名前は前から知っていたが、CDを買ったことはなかった。
 この店でバイトを始めてジャズやフュージョンに触れたきっかけがT-SQUAREの曲だったということもあって、それ以来CDを買ったりレパートリーに加えたりする対象は、専らT-SQUAREの曲だった。晶子が入って初めて倉木麻衣を知ったくらいだ。元々趣味の手を広げる気がないから、そういう意味では視野が狭くなっていたように思う。
 何気なしに「聞いてみようかな」と思って買った、初めてのCASIOPEAのCDは「FULL COLORS」。聞いてみて「これも凄い」と思った。T-SQUAREとはまた違うフュージョン、また違う音楽の世界があった。
 中でも一番気に入ったのが、今回曲目に加わった「NAVIGATORS」だ。どうしてもキーボードが必要ということで、喜び勇んでレパートリーに加えたは良いものの、潤子さんが対象に加わる日曜限定になってしまった。日曜に来るフュージョン好きな常連客がリクエスト権を得て、「前からCASIOPEAの曲が此処で聞きたかった」という理由もつけてリクエストされた。

雨上がりの午後 第1784回

written by Moonstone

 此処からソプラノサックスのソロだ。ビブラートを存分に効かせてスフォルツァンドを取り入れたソロは、原曲とはまた違った雰囲気だ。20小節は原曲と同じ流れ、最後の4小節はイントロからAメロへの繋ぎと同じ形で進める。ソプラノサックスはギターとユニゾンする。

2005/2/4

[目がチカチカする〜]
 上司と先輩を対象にした測定機器の操作説明会は、昨日どうにか終了。説明の途中で「こういう場合はどう設定すれば良いの?」とか「こういうことは出来ないの?」とか色々突っ込まれましたが、「こんな風にすれば出来ますよ」って感じで対応。実際に動作検証中の回路を使いながらの説明にして良かった(出力波形の一覧もあるし)。
 その後はひたすら測定機器とPCと睨めっこ。1回結果が出るまでに最低でも15分くらいかかる上に、疑惑が浮上したらその検証が加わるわけで、気が付いたら半日以上職場に詰めてました(汗)。でも、まだ終わらないばかりか、更に検証事項が増えたのは罠ですか?
 動作検証を繰り返していて、ふと学生実験や卒業研究を思い出しました。あの時も朝から晩まで測定機器やらグラフ用紙(今みたいに表計算ソフトが充実してなかった)と格闘してましたが、自分で問題点を見つけたりその検証をしたり、といったことに慣れておいて良かったです。うー、目薬が必要かな・・・。
 無事乗り切って、イントロに戻る。8小節の最後でスネアだけのフィルが入る。これに続くはギターソロ。俺は音量を上げてステージ前方に出る。「ギターのくせに大人し過ぎる」と高校時代よく言われたことを思い出し、客にアピールする目的もある。
 前半8小節は、2小節単位で2つのコードが交代する。フレーズは細かいしテンポは早いが、特別トリッキーな部分はない。曲調も踏まえて客へのアピールを重視する。最初はギターを水平にして、後半8小節の最初に駆け上がるフレーズでギターを垂直に近付けたり、その次の下降フレーズでは水平に傾けていったり、と。フレーズに合わせた動きを組み入れることで、「見せる」要素が増す。練習でもこちらを優先した。
 ピアノの下降グリス(註:鍵盤の音程の高い方から低い方へ素早く手を滑らせる奏法)を合図に、ロック調のこの曲の雰囲気が最高潮に達する。ドラムが複雑なフレーズを叩く中、ギターはアームを派手に動かす。音程に合わせてギターを水平にしたり垂直に近づけるということも忘れない。
 ドラムの音には例外なくパン(註:音の左右どちらから鳴るか(定位(じょうい)の設定。手持ちのCDなどをヘッドフォンで聞くと、ギターは右側から、シンバルは左側からなど、大抵は楽器(或いは音色)毎に聞こえる位置が違う筈)を設定しているが、タムは4つある音程が高い方から低い方へ一番左から一番右で割り振ってある。だからステージからではあまりよく分からないが、客、特に中央より後ろの方だと迫力が増す筈だ。最後はアームを派手に効かせて締める。客から大きな拍手と歓声が起こる。
 Aメロに戻るに併せて、俺は音量を下げてマスターに主役を譲る。Bメロに入って曲が徐々に盛り上がって来るのは最初と同じだが、キメの部分で入るシンセブラスのフレーズは何と6連符。勿論潤子さんの手によるものだ。俺がアレンジした時に書いた走り書きレベルの楽譜を渡したんだが、潤子さんはいともあっさりと弾いてみせた。このテンポで6連符は相当厳しい筈だけどな・・・。
 キメに続いてサビ。今度はソプラノサックスと先程絶妙なキメを見せたシンセブラスがユニゾンする。これは原曲にはない俺のアレンジだ。良い感じで盛り上がりを続けて、イントロのフレーズに戻る。ギターは少し音量を上げて、嫌味にならない程度に存在感を高める。

雨上がりの午後 第1783回

written by Moonstone

 サビが終わると、曲の雰囲気が沈静化する。全体的に白玉中心で、ハイハットが4分音符でテンポをキープする。ソプラノサックスが緩やかなメロディを奏でる。そして1小節単位の下降コードを2小節挟んで、ソプラノサックス以外の全ての楽器−勿論俺も含む−が一斉に16分音符でのフレーズを突っ込む。短いが、この曲で最も難度が高いところだ。

2005/2/3

[連日遅くて御免なさい]
 本業が難しい上に結果が出るまでやたら時間がかかる(今は最低でも10分)ことをやっているので、どうしても職場に詰めている時間が多くなるんですよね。こういう時に限って連載のストックが底をついているので、毎日書き下ろしてアップしています。更新が夜遅いのはこのせいでもあります。
 自分がこういう状態ということもあって、測定機器の操作説明会は延期が続いていましたが、今日実施の予定です。それが終わったら、昨日試行錯誤の末にようやく潰したソフトウェアのバグを更に潰しにかかります。これ以降結果が出るのに最低でも2時間、より突っ込んだ試験になると文字どおり1日がかりになるんですよね(汗)。まあ、測定機器に任せておけば良いんですけど。
 腰と胃腸の具合はまだ芳しくありません。その上、昨日は積雪があって、帰宅時にも吹雪いていたくらい寒いので、寒さが苦手な私には追い討ちかけられているようなものです。せめて身体の調子が元通りになってくれれば・・・。
 Aメロに戻ると、ギターからサックスに移る。ここでもドラムはコピー&ペーストを許してくれない。俺はたまに合いの手のようにフレーズを入れる程度で、複雑なドラムとサックスの絡みが見せ場だ。サックスソロは16小節で終わり、ドラムもクラッシュシンバルであっさり終わる。
 客から拍手が起こる中、マスターがサックスをソプラノに、俺はギターのエフェクトをオーバードライブからディストーションに換える。マスターと俺の準備が整ったところで、ドラムが頭1つくらい出る。バスドラムとスネアそれぞれ一発だけの簡単なものだが、これが次の曲「PRIME」の開始を告げる。
 ハーフオープンのハイハットを交えた典型的なロック調のリズムと共に、ギターを演奏する。「PAPILLON」が非常にテクニカルな曲なのに対し−それがお蔵入りの原因になったんだが−、「PRIME」は分かりやすいロック調のナンバーだ。客の手拍子も「案内」なしで直ぐ揃う。ちなみに、これも「PAPILLON」と作曲者は同じだったりする。
 ドラムの細かいフィルを挟んで、メロディが入る。原曲ではLyricon(註:EWIと同じウィンドシンセサイザー。メーカーはAKAI Professionalではない(筈))なんだが、此処ではマスターがサックスプレイヤーということで−EWIを持ってないというのもある−ソプラノサックスでの演奏だ。途中シンセブラスが入るが、これは潤子さんによるもの。
 ドラムのハイハットがライドシンバルに代わり、曲はじわじわと盛り上がってくる。そしてキメの部分。全体的にコードが徐々に下降していく感じのところに、ストリングスに似た倍音成分の多いシンセブラスの細かいフレーズが入る。これも潤子さんの手によるものだ。シーケンサに頼りたくなるところをいともあっさり弾いてのけたことに驚かされた覚えがある。シーケンサはドラムとベースでしか使っていない。
 そしてサビ。ドラムのライドシンバルがハーフオープンのハイハットになり、分かりやすいメロディが高らかに奏でられる。バッキングを担っている俺は、高校時代のライブ演奏を思い出す。

雨上がりの午後 第1782回

written by Moonstone

 Bメロに戻る。1回目よりシンバルワークの比重を増したドラム−ドラマー泣かせだと思うしプログラマー泣かせでもある−を背景に、軽やかに「歌う」。以降のフレーズは1回目と同じだ。アームを効かせて音の揺らぎを増すと、1回目のコピー&ペーストじゃないとよく分かる。

2005/2/2

[CD入手!]
 発売同時とはいきませんでしたが(予約が遅れた(汗))、倉木麻衣さんの最新シングル「Love,needing」を入手(喜)。倉木麻衣さんの曲は此処の連載で幾つも登場していますから、「きっと買うに違いない」と思っていた方、正解です(笑)。前作「明日に架ける橋」から約8ヶ月ぶりですね。
 今回も良いです(^^)。倉木麻衣さんと大野愛果さんの組み合わせである「Love,needing」は「Love, Day After Tomorrow」に代表されるデビュー間もない頃を髣髴とさせる雰囲気で、カップリングの「Moon serenade,Moonlight」は徳永暁人さんらしからぬしっとり感(褒め言葉。「Feel fine!」の印象が強いので)が良し(^^)。
 惜しむらくは、カップリングが1曲でインストルメンタルVer.がないこと、ですかね。この辺は「着うた」とかで対応するつもりかもしれません。連載読者で倉木麻衣さんのファンは是非購入を!・・・以上、CDレビューでした(胃腸も腰も悪いんだから早く寝ろよ、私)。
 ロータムとスネアの重い連打に続いてCメロ。ここで拍子が6/4から2/3に変わる。数式だと約分しただけだが、拍子は聞いた感じ、速いテンポの4/4に聞こえるほどがらりと変わる。それまで6/4がようやく馴染んできたところにこれだから、混乱するだろう。一方、ギターの動きは此処でもあまりなかったりする。オーバードライブによる音の伸びを重視した格好か。
 そしてDメロ。ここでまた6/4に戻る。此処でもドラムがプログラマー泣かせの動きをする一方、ギターはあまり動かない。音色が音色だけに歌っている感じだ。Aメロに戻る直前のギター単独となる部分のフレーズで、歌う感じを強調する。簡単だが、ギターだけになるからその分インパクトは強い。
 Aメロに戻り、スネアのティンバレス(註:甲高い音成分を加える打楽器の奏法の一つ。サザエさんのED曲の最後にある「コン!」という感じの音がそれ)を加えたフィルが入って、この曲最大の見せ場、ギターソロに入る。
 2小節だけだがいきなり転調する。オーバードライブとギター故のアームダウンによる急速且つ滑らかな音程降下を混ぜてやると、面白みが増す。フレーズもやや複雑になるが、俺にとってはさほど難度は高くない。「聞かせる」ことに集中出来る。
 早いフレーズがゆっくり降下していき、今度は上昇に転じる。ふわふわと気紛れに漂う感じだ。そして2小節だけの転調。今度はフレーズが細かい。シンバルワーク中心のドラムを背景に、ライトハンド(註:通常弦を弾く右手をフレットに移して行うギターの奏法の一つ。早弾きによく使われる)で細かく徐々に下降していくフレーズを弾く。錐(きり)揉みしながら降下していく感じのこの部分は、一部俺のアレンジを加えている。原曲では後半落ち着きを取り戻すところをあえて細かくした。この方が面白いと思ったからだ。
 降下して落ち着きを取り戻したと思わせておいて、1小節分、俺がアレンジした細かいフレーズを爪弾く。そして今度こそ落ち着きを取り戻す。ロータムとスネアを同時に叩く重みのある音が鳴り響き、ギターソロの終焉を告げる。

雨上がりの午後 第1781回

written by Moonstone

 Aメロ→A'→Aメロと移り、Bメロで雰囲気が変わる。ドラムはデータ作りをさせまいとしているようにしか思えない動きを−PCのシーケンサソフトでコピー&ペーストさせておしまいと出来ない−する一方、自分のギターはそれほど動かない。ここはCメロへの繋ぎという意味合いが濃いからな。

2005/2/1

[今日から2月]
 このページの背景写真を変更して、PCの壁紙も変更して(毎月変えている(笑))、1年でどういうわけか28日しかない唯一の月2月のスタートを切りました。このところ停滞気味な更新(身体的アクシデントと本業多忙で仕方ないんですがね)の埋め合わせ、と言うのも何ですが、最初の更新に少し彩りを加えてみました。よろしければどうぞ。
 今日は何と、上司と先輩相手に実際に電子回路を使用しての測定機器の仕様説明会をします(汗)。「測定器、使われなければただの箱」という言葉があるように(何処にだ)、幾ら測定機器が新調されても使い方が分からない。で、偶々仕事で嫌でも使わないといけなくなった私に、「使い方覚えて教えてね(はぁと)」という上司の依頼が来たので、販売元と交渉して教材も仕入れて、夜中2時までかかってひととおり覚えました(先週帰宅がA.M.2:30になったのはそのため)。
 自分で使う分には良いんですが、人に説明出来るかどうかはまた別ですからね・・・。測定機器も高度になるとその使い方を覚えるまでに労力を必要とするのは、PCや機器を道具としてしか見なさない私には歯がゆいものです。ま、やれるだけやってみます。

「『Can't forget your love』そして『The Rose』を続けてお送りしました。」

 客の興奮冷めやらぬ中、マスターがアルトサックスをぶら下げてマイクを持ってステージに上がってくる。

「今年のコンサートは『じっくり聞かせる』をコンセプトに、曲目を全面的に見直しました。そのため、今日初めてお披露目と相成る曲も加わりました。」

 客からどよめきが起こる。マスターの言うとおり、ほぼ毎日のように来ている中高生−何処にそんな金があるのか疑問だが−でも聞いたことがない曲を今回は組み込んだ。データは作ったものの変拍子(註:4/4拍子以外の拍子で作られている曲を総じて言う)だとか、曲が複雑すぎるとか、複数人必要で普段演奏出来る程練習時間がないとか、色々な理由でお蔵入りになっていた曲だ。

「論より証拠と申します。早速お聞きいただきましょう。『PAPILLON』『PRIME』『NAVIGATORS』。このインストルメンタル3曲を続けてお送りします!」

 ステージ脇に下がる晶子が前を横切り、キーボードに向かう潤子さんと入れ替わる形で俺が前に出る。「PAPILLON」は「UNITED SOUL」と同じくギターが大部分を占める曲。そう時間は経っていない筈だが、前に出るのは何だか久しぶりのような気がするな。
 客の賑わいが沈静化したのを受けて、バスドラムとスネアによる3拍のフィルが入る。これは俺が付け足したもの。原曲のイントロが始まる。この曲は主に6/4で構成されている、変拍子の曲だ。聞き慣れない拍子で戸惑っているのか、客の手拍子がばらつく。マスターが両手を高く上げて−高校時代の耕次を思い出す−2拍3拍で手拍子をすると、次第に足並みが揃ってくる。
 手拍子がどうにか纏まったところでタイミング良く−狙って出来るものじゃないが−俺がメロディを奏でる。ちなみにデータを作ったのは俺だったりする。ギターがメインだというのもあるし、変拍子故の一風変わった雰囲気が結構気に入っているからだ。
 タムが混じるドラムを−この時点で変則的だ−はじめとする楽器を背景に、オーバードライブを効かせた音色でメロディを綴る。アルペジオの変形みたいなメロディは、ふわふわ漂っているような印象を与える。マスターは手拍子を続けている。この「案内」がないと、普段4/4拍子に馴染んでいる人には難しいだろう。この曲が今までお蔵入りになっていたのも止むを得まい。

雨上がりの午後 第1780回

written by Moonstone

 ヴォーカルが消え、ピアノだけになる。この曲の締めくくりに相応しいしっとり感が醸し出される。最後の最後、高音部でのフレーズが絶妙なテンポで演奏される。最後の音がすうっと消えた後、待ってましたとばかりに拍手と歓声が一気に噴出す。晶子と立ち上がった潤子さんが客に向かって一礼する。拍手と歓声は一向に収まる気配を見せない。

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