芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2002年6月30日更新 Updated on June 30th,2002

2002/6/30

[今日で1年も折り返し]
 まったくもって時の流れは早いもので・・・明日から7月。梅雨が明けて陽射し眩しい夏がやってきます。その一方、ここ最近の激しい温度差で風邪をひきそうなので、念のため風邪薬を飲みましたが・・・ちゃんと寝ることが肝心ですね。
 さて、○○回目の誕生日だった昨日はと言いますと・・・夕食後にショートケーキ3個と梅のワインを飲み食いしたくらいで、それ以外は定期更新谷間の土曜日と大差ありませんでした。作品の執筆開始が4時間遅れたせいで実はこのお話も執筆を中断してしています(汗)。実家から誕生日プレゼントが届いたのは嬉しかったです。今度帰省した時に食事をご馳走しようかと思います。
 そうそう、興味と誕生日記念にと買った梅のワインなんですが、仄かな梅の香りと喉越しの良さは絶品でした。500mlしかないので今日の夜にも飲むつもりで少し残しておきましたが、いっそ全部飲んでしまっても良かったかな・・・(^^;)。本当は薬の関係で飲酒は控えるべき身体なんですが、たまには良いでしょう。やっぱり酒は一人で飲むのが一番ですね。妙に気を使わなくて良いから。
もう一つはそう言っておきながら自ら嘘を白状することになるようなことを言ったのかっていうこと。あのまま黙ってれば、俺は晶子としたっていう嘘の既成事実が出来たのに・・・。」

 俺が疑問を一気に口にすると、晶子は少し間を置いてから答え始める。

「順に答えますね。まず一つ目の思わせぶりな言い方をしたってことですけど、あれは・・・あくまでも昨日の夜の出来事に対する私の感想を言って、寸前で寝ちゃった祐司さんが眠る前のことを覚えてるかどうか尋ねたつもりなんです。それにあそこまで許したのにこれで私とは終わり、なんて嫌でしたから、祐司さんに釘を刺すつもりで言ったんです。」
「あ、成る程・・・。」
「次に二つ目ですけど・・・、あれはマスターと潤子さん、それに何より祐司さんと私自身に嘘をつきたくなかったからです。あのままマスターの話が進んだら、私は祐司さんと一線を超えたっていう嘘が事実になってしまって、寸前で寝ちゃった祐司さんがそのことで私を見る目を変に変えたりするかもしれないってことが嫌で怖くて・・・。だから事実を言ったんです。それが祐司さんにとっては態度を180度変えたみたいに感じられたのは、皮肉な話ですけど・・・。」

 そういう背景があったのか・・・。つまりは、俺は騙されたんじゃなくて晶子の言葉や問いかけで自分自身で偽りの事実を作り上げたわけだ。これで納得が出来た。晶子には変な疑いをかけて悪いことをしてしまったな・・・。

「すみません。妙な物言いしてしまって・・・。」
「いや、勝手にそっちの方向に解釈した俺も俺だから気にしなくて良いよ。事情が分かって疑問も消えたことだし。」

雨上がりの午後 第857回

written by Moonstone

「聞きたいことは二つあって、一つ目は今朝・・・昨日の夜にさも俺が記憶にないうちに晶子としたように思わせるようなことを言ったんだっていうこと。

2002/6/29

[今日は私の誕生日]
 トップページにも書いてしまいましたが、今日この日は私の誕生日です。このコーナーでお話するのは3回目。まったく時の流れは早いものです。で、ログを見てみたんですが、今の病気に翻弄されているのが(1回目の時点ではまだ病院へ行ってなかったけど)共通していて、進展がないと言うか何と言うか・・・我ながら情けない話です。
 さて、昨日までスポーツに関する見解を5回にわたって述べてきたわけですが、如何でしたでしょうか?私がW杯を批判してきたのはスポーツそのものを問題にしているのではなく、そこにはびこる右翼軍国主義、商業主義体質を批判していたことが分かってもらえたなら幸いです。
 今回はリスナーのご指摘を受けてのものでしたが、今後もこの話題についてどう思うか、とかいうご指摘やリクエストは歓迎します。メールやメールフォーム、或いは掲示板JewelBoxに書き込んでください。お待ちしております。
 しかし・・・晶子は何で思わせぶりなことを言って俺をその気にさせたんだ?そのくせマスターが奉行みたいな口調で「説教」していたら、ことの真相を話したっていうのはどういうことだ?黙ってればそれこそ既成事実が偽造できたっていうのに・・・。この辺のところは後で聞いておく必要があるな。

 俺達一行は朝食後に荷物を纏めて宿を出て、土産物屋や飲食店が並ぶ界隈へ繰り出して土産物を買ったり−俺はキーホルダーを買った程度だが−、飲食店でちょっと寛いだ後、帰路に着いた。出発の際には店に集合ということになっていたから、必然的に店まで送ってもらうことになる。
 今日が日曜ということで行楽地へ繰り出すらしい車で大通りは渋滞。なかなか進まない車中では、一般的な家族やカップルや友人達とは恐らく違って、ジャズやフュージョンが流れ−こんなこともあろうかとマスターがCDを沢山持ってきていたらしい−、色々なことがあった夏のひと時が終わるのを惜しむように談笑していたから退屈はしなかった。
 店に着いたのは丁度昼過ぎ。帰ろうとした俺と晶子は潤子さんに呼び止められ、昼食をご馳走になることになった。思わぬ誤算だったが、二人で帰った後も晶子に昼食を作らせるつもりはなかったし−実は日曜、月曜と晶子の家に泊まる約束があったりする−、潤子さんお手製のミートスパゲッティとサラダ、ミックスジュースを飲み食いしながら、改めて一線を超える時の注意を受けた。
 帰り際にマスターから「明るい家族計画」一箱を貰い−一箱以上あるというところが何か凄い−、俺と晶子は昼下がりの陽射しの中、マスターと順子さんの見送りを受けて帰路に着いた。向かうは晶子の家だ。昨夜の宮城との話し合いのことを中心に話していて、それが一区切りついたところで、俺は疑問を口にするべく話を切り出す。

「・・・なあ、晶子。聞きたいことがあるんだけど・・・。」
「何ですか?」

雨上がりの午後 第856回

written by Moonstone

 俺もそう思う。身体だけ求める関係になっちまうのは真っ平御免だ。勿体無いことをしたとも思うが、覚えがないうちにしてしまってそれが「実績」になるのは騙されたみたいで良い気分がしないだろう。その意味では潤子さんの言うとおり、俺が寸前で寝ちまったのは結果的には良かったと思う。

2002/6/28

[スポーツに関する見解(5)]
 (昨日の続きですので、昨日の内容を読んでください)更に言うなら、部活動などに存在する所謂「体育会系的」上下関係が、「上の言うことは絶対正しい」「上に意見してはならない」という悪習を生み、行政が自分達を痛めつける政策をごり押ししてきたり企業などで雇用者側が無法な「合理化」(リストラとは言わない)を押し付けてきても反対せずに粛々と従い、陰で悪口を言う割には押さえつける側を支持するような、行政の下請け的町内会やストも出来ない腑抜けた労働組合を形成、維持し、それに異議を唱えるものを「アカ」と蔑視する(「アカ」という言葉そのものが戦前の天皇絶対政治が共産主義の拡大を恐れて、反共宣伝と共に流布した蔑称)悪習を続ける温床となっているのです。
 上下関係は信頼の上に成立するものであって、単に年齢やキャリアが上だからという理屈で成立するものではありません。スポーツの指導においてはそういうことも念頭において、選手の技術と共にマナー意識や道理ある信頼関係のあり方の意識を向上させるようにするべきです。
 繰り返しますが、スポーツは人間の健康の維持、促進の他、練習や競技を通してマナーやルール意識を習得する絶好の機会です。その機会を生かすも殺すも指導者や大人、保護者の意識次第なのです。スポーツは単なる暇潰しではなく、「健康で文化的な最低限度の生活」の一部として、国や自治体が積極的に支援すべきです。勿論「金は出すが口は出さない」という前提で。(おわり)
「はい。だから私は、私の上で寝ちゃった祐司さんを仰向けにして、くっついて寝ることにしたんです。祐司さん、本当にぐっすり眠ってましたから起こすのは可哀相だったし、私も・・・その・・・気分が萎えちゃったので。」

 俺は安堵の溜息をごく小さく、マスターは呆れたと言わんばかりに頭を掻いて溜息を吐き、潤子さんはちょっと安心した様子で笑みを浮かべる。良かった・・・。記憶がないまましたんじゃなくて・・・。するならするで、やっぱり自分の記憶に残したいしな。

「何だ何だ。散々期待させておいてそういうオチはないだろう?祐司君ももう少し頑張れなかったのか?ちょっと情けないぞ。」
「あの時晶子と抱き合ってたら凄く気持ち良くて、そのうち頭がふわふわしてきて・・・意識が吸い込まれるように寝ちゃったみたいです。昨日何だかんだで疲れが溜まっていたところに気持ち良さが加わって、一気に吹き出したっていうか・・・。」
「眠いならそうなる前に素直に寝ろよ、祐司君。はーあ。何のために今後の対策を話したか分からんじゃないか。」
「でも、勢いに任せて一線を超えなくて、私は良かったと思うわ。」

 頻りに残念がると同時に俺の「無責任さ」を責めるマスターに、潤子さんが安心したような表情で言う。

「これから先は長いし、二人が実際何処まで進んでるかは知らないけど、もっとお互いを良く知ってからでも遅くはないんじゃない?それに勢いでしちゃって、それから以降二人きりになったら欲求に任せて身体だけ求めるような関係になっちゃうよりはずっと良いと思うけど。」
「うーん・・・。まあ、そういう考え方もあるか。」
「そうよ。お互い納得の上で、きちんとするべきことをした上で一線を超えるなら、私達が止めることはないでしょうけど。それに晶子ちゃんとしては相手が寝ている隙に、なんてことはしたくなかったでしょ?」
「は、はい・・・。」
「なら尚更、祐司君が寸前のところで寝ちゃったのは、その後のことを考えたらむしろ良かったんじゃないかしら?」

雨上がりの午後 第855回

written by Moonstone

「と、途中で・・・。」
「寝ちゃったの?祐司君が。」

2002/6/27

[スポーツに関する見解(4)]
 (昨日の続きですので、昨日の内容を読んでください)学校における部活動や野球のリトルリーグなどの青少年スポーツのあり方も、指導者の意識改革を含めて抜本的な改革が必要です。文字どおり「勝つためには何でもやる」とばかりに成長途上にある青少年に科学的根拠に基づかない過酷な練習をさせたり、「精神鍛錬」の美名の下で暴力をはびこらせることはあってはなりません。
 この点では保護者の側も「子どもを鍛える為」という暴力容認の誤った意識を変革しなければならないのは勿論です。どんな理由があれ、公道で暴力をふるったら犯罪になるのに、部活動や青少年のスポーツでは暴力が奨励されるという「治外法権」は許されてはなりません。教育する側に矛盾があっては子どもが大人の嘘を見抜いて言うことを聞かなくなるのは当然です。
 また、進学や就職では上下関係に厳しいとされる体育会系の部活動をしていた方が有利になるというのもおかしな話です。上下関係の厳しさと意見や反論を述べるのを許さないというのをごっちゃにしてはいけません。そもそも上下関係などスポーツに持ち込んではいけません。スポーツに親しみ競技を楽しむ場に上下関係など不要な筈です。
 何だか口調が奉行みたいになってきたマスターの言葉を晶子が遮る。何か言いたいことがあるのか?あの場面を潤子さんに見られた上に晶子は凄く良かったと言うほどの−覚えがないのが本当に悔やまれる−夜を過ごしたんだ。今更言い逃れをしようとしても無駄だってことは晶子も分かってる筈だけど・・・。

「む?何か異議があるのかな?」
「大有りです。・・・事実と違うからです。」
「「「・・・は?」」」

 晶子を除く三人が思わずユニゾンで聞き返す。事実と違うって・・・何がどう違うんだ?

「昨日の夜、祐司さんと私は・・・その・・・そういうことはしてないんです。」
「「「え?!」」」

 またしてもユニゾンで聞き返した俺とマスターと潤子さんに、晶子は頬をほんのり赤く染めて言葉を続ける。

「確かに祐司さんと私は、昨日その寸前まで行きました。私も気持ちは固まっていました。でも・・・。」
「「「でも?」」」
「・・・祐司さんが途中で寝ちゃったんです。何度耳元で呼んでも起きないくらい熟睡しちゃったんですよ。」

 な・・・何?!ってことは、俺が晶子としたって記憶がないのは当然で、晶子はどういうつもりかは分からないが、晶子は意味深な言葉を並べて俺が晶子としたという嘘の記憶を生成させたってことなのか?!

雨上がりの午後 第854回

written by Moonstone

「井上さん。皆まで言うな。分かっておる。恐らく昨日は勢いと高ぶる感情に任せてやってしまったから避妊はしてなかっただろう。だが、井上さんが安全日ならまず大丈夫だ。これからはきちんと・・・」

2002/6/26

[スポーツに関する見解(3)]
 (昨日の続きですので、昨日の内容を読んでください)アマチュアレベルでの改革も必要です。国内のアマチュアスポーツでも日の丸君が代の介入により、国家意識の植付けが行われています。スポーツに国家意識など必要ない筈です。
 その一方でスポーツの振興はtoto頼みで、国家予算に占める割合は削減される一方。スポーツしたけりゃ自前でやれ、という冷たい態度の一方で国家意識の植付けだけは徹底するなど、如何に日本政府与党がスポーツを文化として、否、それ以前に重視すべき項目として考えていないかという証拠です。
 先に述べたとおり、スポーツそのものは健康の維持、促進のみならずマナーやルール意識の確立という側面を備える重要な機会ですから、国は大型公共事業や軍事費を削減し、社会保障と共に「健康で文化的な最低限度の生活」の確立に向けて、toto頼みではなくスポーツ振興に本腰を入れるべきです。あくまでも「金は出すが口は出さない」方針は徹底されなければなりません。
他の客が居るだろうから声量を落としてはくれるだろうが−お構いなしな気がしないでもないが−、徹底的に突付かれるんだろうな・・・。勢いと感情に任せて襖1枚隔てた部屋にマスターと潤子さんが居るという条件下でしてしまったのは失敗だったな・・・。
 俺と晶子が食堂に入ると、そこは結構賑わっていた。丁度他の客の朝食の時間とかち合ってしまったんだろう。長いこと二人きりの時間に浸っていたのは間違いだったか。此処は民宿。俺と晶子意外に人が居るってことがすっかり頭から抜け落ちてた。
 辺りを見回すと、やや奥の方の席でマスターと潤子さんが手招きしているのが見える。俺は覚悟を決めて晶子と共にその席へ向かう。マスターがにやついているところからして−はっきりいって気味悪い−、潤子さんからことの次第は聞いているんだろう。場合によっては尾鰭がついた形で。ああ、やれやれ・・・。どんな突っ突きが待っているのやら・・・。

「・・・話は潤子から全て聞かせてもらったぞ。」

 マスターがにやけながら低い声で言う。迫力をつけるためなんだろうが、にやついていては迫力どころか不気味なだけだ。だが、やがて来る突っ突きを考えると、裁判官の判決を聞く被告みたいな気分になる。

「フフフ。お二人さん、とうとう大きな一線を超えたらしいな。やはり夏という季節が二人の愛の炎をより強くするのか・・・。」
「あなた。あんまり似合わないわよ、その台詞。」
「話の腰折るな、潤子。・・・ま、何にせよこれでお二人さんはめでたく夫婦同然の関係になったわけだ。めでたいめでたい。実にめでたい。だが、二人はまだ学生の身。子どもが出来たことを理由にした関係にならないよう、避妊には十分注意して・・・」
「あ、あの、マスター。実は・・・。」

雨上がりの午後 第853回

written by Moonstone

 俺は晶子の手を取って−何だか妙に照れくさく感じるが−、部屋を出る。果たしてマスターと潤子さんはどんな顔で俺と晶子を待ち受けているやら・・・。考えただけで背筋が寒くなる。

2002/6/25

[スポーツに関する見解(2)]
 (昨日の続きですので、昨日の内容を読んでください) 日の丸君が代という右翼軍国主義の象徴を取り除き、国家意識の介入を断ったプロスポーツそのものは、卓越した技と力を入場料を払って訪れた観客に披露するエンターテイメントの側面を持つものであり、その存在を否定するものではありません。
 W杯やオリンピックといった国際イベントは、大規模なものほど腐敗しています。そこはただスポンサーになった大企業が特権を振り回してチケットの入手の当否を賭けさせる形で自社の商品を売りさばいてぼろ儲けし、参加者が国家の威信とやらを背負わされて勝てば賛美、負ければ罵声という酷いプレッシャーに晒され続ける、スポーツ本来のあり方が商業主義と右翼国家主義で歪められた極めて問題のあるものです。
 それ故にスポンサーは金は出すが名前と口は出させない、出場を国家単位から地域ブロック単位或いは有志で構成するようにして、商業主義と国家意識の介入を断ち、国連主催の下で構成、運営するような体制に改めるべきです。
 問題はこれからだ。結ばれたことこそ記憶にないが、晶子の手以外の、服を脱がさなければ触れられない場所を自分の手で触り、口を付けた。それらはその時興奮していたとはいえ、しっかり脳裏に焼き付いている。これから先、晶子と二人で過ごす時間がただ晶子の身体を求めるだけのものにならないか、それが不安でならない。そうなったら・・・破局が現実のものになるだろう。
 自制心が必要なのはむしろこれからなのかもしれない。否、そうに違いない。一度したんだから今日も、なんていう一種の甘えに身を任せず、あくまでも双方合意の上でするようにしないといけない。晶子の気持ちや事情も−女性特有のあれだ−考えずに晶子を押し倒すなら、発情期の動物と変わらない。まあ、人間は万年発情期だとも言われるが、だからこそ自制心が必要だろう。

「祐司さん。私は準備完了しました。」
「あ、そう。もうちょっと待って。」
「はい。」

 いかんいかん。考え事をしていたら服を着るのをすっかり忘れてた。俺は急いで服を着て髪を手櫛で適当に整える。触った感じじゃ寝癖はついてないようだ。俺の髪はくせっ毛じゃないからまだ良いが、寝癖がつくと直すのはそれなりに面倒なものだ。
 準備を整えた俺は晶子の方を向く。晶子は薄いピンクのワンピースという爽やかな印象を感じさせる服装だ。対する俺はというと、白の半袖開襟シャツに紺の綿パンツという、季節感ゼロの服装だ。服装のセンスがないことが一目瞭然でちょっと情けない。

「マスターと潤子さんが待ってるでしょうから、早く行きましょうよ。」
「あ、ああ。待たせちゃ悪いよな。」

雨上がりの午後 第852回

written by Moonstone

 でも、事実として残った以上は認めないわけにはいかない。記憶にないから今からしよう、なんてそれこそ不謹慎だし、晶子の心を踏みにじるようなものだ。記憶にないのは自分の失態として戒めるしかない。

2002/6/24

[スポーツに関する見解(1)]
 以前、このコーナーへの批判と取れる某ページの記載に対して反論を兼ねた回答をしましたが、ある方から「スポーツそのものに対する見解を表明した方が良いのではないか」とのご指摘を受けましたので、今日から数回に分けて私のスポーツに対する見解を述べさせていただきます。
 私はサッカーをはじめとするスポーツそのものを右翼軍国主義的性質のものとして否定するつもりはありません。スポーツそのものは人間の健康を維持、促進し、競技を通してマナーやルールを守ることの必要性を学ぶ良い機会であると考え、積極的に肯定する立場です。
 しかし、そこに部活動では学校の、国際イベントでは国家の威信とやらが絡んだり、「精神鍛錬」の名の元で横行する上級生の下級生に対する、指導者の選手に対する暴力の存在、とりわけ国際イベントにおける戦争の代理的性質が顕著に見られることに対して、これはスポーツのあり方を歪めるものであるとして強く異議を唱えるものです。
 同じスポーツでも所謂アマチュア、言い換えればそのスポーツを愛好する人々が自主的に集い、競技を楽しむレベルは大変良いことだと思います。しかし、アマチュアでもインターハイなどの右翼軍国主義の象徴である日の丸君が代がまかり通る国家レベルのものやプロスポーツ、とりわけチェアマン自身が「日本に君が代が流れるスポーツを」と言って君が代斉唱を導入したJリーグは即刻解体し、国家意識の介入を断つべきであると考えます。
「祐司さん・・・。」
「もう俺と晶子は只の彼氏彼女の関係じゃなくなったんだろ?婚姻届を役所に出したっていう形式上のものを除けばマスターと潤子さんの関係と同じだろ?だったら俺達はそういうところまで進展しました、って言う他ないんじゃないかって思うんだ。」
「・・・祐司さん・・・。」

 晶子が俺に抱きついてきて頬擦りをする。俺はその華奢で柔らかい身体を優しく抱き締める。その拍子で支えを失った俺と晶子は布団に倒れこむ形になったが、そんなことはどうでも良い。晶子の温もりと柔らかさを感じながら、俺は晶子を抱き締めて、朝の光を受けて微かに煌く髪を撫でる・・・。
 そんな睦みの時を暫く過ごした後、俺と晶子は服を着る。昨日あれだけ派手にやっておきながら何だが、裸の晶子を見ながら服を着るのはちょっと躊躇するものがある。そういうことで、俺と晶子は背を向けて服を着る。

「・・・今日で帰るんですね。」

 後ろから晶子のしんみりした声が聞こえる。

「そうだな・・・。2泊3日なんて振り返ってみればあっという間だったよな。」
「でも、その短い間に色々ありましたよね。」
「確かに・・・。」

 そう、この2泊3日の海水浴をかねた小旅行では色々なことがあった。思いがけない宮城との遭遇、初めて二人きりで話をして明確な区切りをつけたこと−宮城は諦めたわけじゃないとか言ってたが−、そして夜は晶子の手以外の素肌に触れ、とうとう昨夜は・・・。
 どれもこれも、俺と晶子の心に思い出となって降り積もるんだろう。特に今回は自分では覚えていないが、晶子と結ばれた。この夏一番の出来事と言えばそれ以外ないだろう。覚えていないという点が悔やまれてならない。不謹慎だと言われるかもしれないが、好きな相手と大きな一線を超える時ははっきり記憶に残しておきたかったというのが本音だ。

雨上がりの午後 第851回

written by Moonstone

「もう言い逃れは出来ないんだから・・・逆に胸を張れば良いんじゃないか?」

2002/6/23

[ぎゃー!大遅刻だぁ!]
 更新が遅れてすみません(_ _)。枯渇直前だった連載の書き溜めをしてたらテレホタイムの時間をすっかり忘れてまして(^^;)。明日の定期更新ではこんなことのないようにしますので、今回は平にご容赦の程を。
 さて、今日のお話は・・・といってもお話することがないんですわ、これが(爆)。朝は平日より早く起きて、布団を干した後マットレスの上に横になっていたら何時の間にやら寝てしまって昼前になってたとか、定期更新用の作品を執筆している途中で休憩がてら横になったら2時間熟睡して、楽しみにしていたラジオ番組が聞けなかったとか・・・。変わったところと言えばそれくらいです。買出し以外は家に篭ってPCに向かっているだけじゃ、変化も何もありますまい(ちと投げやり)。
 問題は今日。きちんと起きてPCで執筆作業が出来るかどうか・・・。此処最近日曜日は終日ベッドに突っ伏している有様なので、誕生日目前の定期更新くらい豪快に数グループ更新、といきたいところなんですが・・・。無理かな?

「もう後戻りは許しませんからね。」
「・・・分かってる。晶子の求めに応じたとはいえ、晶子を抱いたことには変わりないからな。」
「私は・・・どうでした?」
「・・・凄く良かった。それに・・・綺麗だった。」
「良かった・・・。」

 俺は晶子の頭に手を回して抱き寄せる。晶子は目を閉じて俺の胸に頬擦りする。覚えてないのは勿体無いことをしたと思うけど、晶子とこうして素肌を触れ合わせるのは心地良いことには間違いない。俺は幸せなんだ・・・。今、それを改めて実感する。

「二人共起きてる?」

 その時、襖の向こうから潤子さんの声が聞こえてきて、それとほぼ同時に襖がすっと開けられる。思わぬことに身体を起こして襖の方を向いた俺と晶子は、浴衣姿でしゃがんだ状態で固まっている潤子さんと目が合ってしまう。もの凄く重い空気が漂う。はっきり言わなくても・・・俺と晶子の状態はどう言い逃れしようと信じてもらえそうにない。

「・・・邪魔して御免なさい。着替えが済んだら・・・食堂へ来てね。」

 潤子さんは表情も姿勢も固まったまま、手だけ動かして襖を静かに閉める。小さくぴしゃりと音がして襖が閉まった後も、俺と晶子は固まったままだ。淳子さんにこの状態を見られたということは、即マスターの耳に入るだろう。・・・もう駄目だ。それこそ本当に役所に連れて行かれることになっちまう。
 俺は溜息を吐いて身体の硬直を解く。晶子は再び俺の方を向いて俺を見詰める。どうしよう?と問い掛けているようにも見える。それを聞きたいのは俺も同じなんだけどな・・・。やっぱりここは男の俺がしっかりしないといけないな。

雨上がりの午後 第850回

written by Moonstone

 晶子が更に擦り寄ってくる。素肌そのものが密着しているところにそれを更に密着させてくるもんだから、晶子の肌の滑らかさと弾力がよりはっきり伝わってくる。・・・またその気になってくるじゃないか。僅かではあるが眠気が残っていたが、それも一瞬で吹き飛んでしまう。

2002/6/22

[批判への回答(反論)]
 どうやらNetscape6以降は<TABLE>タグでの表示が特に問題なようです。ま、それはそうとして、某ページで恐らくこのコーナーへの批判と取れる内容のものがあったので、この場で回答(反論)させていただきます。
 批判とは「『ワールドカップ(以下W杯)に興味はない。日の丸振り回しやがってお前ら右翼か』という自分の頭脳では理解出来ない論理を展開している所に限ってW杯の話題が多い」という趣旨なのですが、W杯の様子はテレビやラジオ、そしてネットで嫌でも目や耳に入ります。見なけりゃ(聞かなきゃ)良い、と言われるかもしれませんが、普段自分が見聞きしている番組やページで取り上げられるのですから防ぎようがありません。そこで見聞きするわけです。およそ日の丸の血塗られた歴史など知らない連中が日の丸を振り回している状況を。
 日の丸は君が代と並んで右翼のシンボルであり、奴等が崇める皇族とその成立神話で繋がる神社のシンボルでもあります(祝日には神社に日の丸が掲揚される)。日の丸は太平洋戦争においてアジア侵略の文字どおり旗印となり、多くのアジアの人々を苦しめ、殺してきた歴史を持っているのです。ユダヤ人を虐殺したナチスの鍵十字の旗と同じように。そして君が代の「君」が日本国民ではなく天皇を指すということは政府が認めています。よって私は日の丸の血塗られた歴史も、君が代の意味も知らずに日の丸を振り回し、君が代を歌う光景に戦前の軍国日本の光景を思い起こさせ、批判してきたわけです。
 この論理が理解出来ないなら読解力不足か知識不足かです(或いは両方)。そもそも批判する対象を取り上げないで展開出来る批判などありえません。今回の一連の批判はW杯に「付属」して日の丸や君が代が大手を振って歩いている光景に対するものであり、W杯が話題に上るのは必然的なわけです。ここまでお話してもW杯と日の丸、君が代批判の関係が理解出来ないのであれば、残念ながらてんで話になりません。日本語と歴史を勉強しなおしてください。

雨上がりの午後 第849回

written by Moonstone

 と、兎も角、今一番の問題は「最終確認」で晶子と抱き合った後どうなったのかということだ。でも、どうやって尋ねりゃ良いんだ?晶子は俺をじっと見詰めている。その目が切なげでもあり誘っているようでもある。やっぱり頭が真っ白になった状態で俺は晶子と・・・してしまったのか?

「あ、あのさ。その・・・夜のことだけど・・・。」
「・・・凄く良かったです・・・。」
「!!!」
「祐司さん、私を攻めに攻めるから、私はただ、祐司さんにしがみついてることしか出来なかったんですから・・・。」
「・・・。」
「まさか・・・覚えてない、なんて言いませんよね?」

 や、やっぱり俺は・・・興奮と快楽で頭が真っ白になった状態で晶子としてしまったんだ。何てこった・・・。そんな至福の時を、否、重大なことを何も覚えてないなんて・・・。かと言ってこんなこと、晶子に言える筈がない。自分を抱いておきながら覚えてないなんて酷過ぎる、と泣かれかねない。

「い、いや・・・。良い夜だった・・・な。」
「・・・本当にそう思ってます?」
「ああ。」

 少なくともこれは本心だ。晶子と抱き合った時、本当に気持ち良かった。穏やかな晴天の空に浮いているような、温かくて心地良い感触を伴うものだった。晶子の身体の彼方此方に口を付けた時の温もりと弾力と共に、今でもはっきり覚えている。

2002/6/21

[これじゃ意味ない!(怒)]
 一昨日の夜(日付では昨日)、Netscapeのバージョンアップをしました。ページを作る際に標準としているのは4.7なんですが、これだと文字化けしたりスタイルシートのせいで正常に表示されない場合に6.0を使っていましたが、これでもスタイルシートを正しく反映しない場合があるので、最新の6.2にバージョンアップしよう、と思った次第です。
 で、約2時間かかってバージョンアップが終了して、試しに自分のページを表示させてみたら・・・6.0と変わってないじゃねーか!(怒)イメージを貼り付けた<TABLE>タグのセルと文字のみのセルとの間に出来る妙な間隔の発生も(最上段のタイトル部分)、<B>タグを使った文字がセルからはみ出すのもまったく改善されてない!大層なマシンスペックを要求してくるくせに肝心の表示機能は6.0と同じじゃ、見栄えを良くするためのものと言われても仕方ないぞ!(怒)
 てなわけで、これからもページ作成の標準は4.7にします。まあ、表示が変わるだけで中身まで変わるわけじゃないので、6.0以降でも特に問題はない筈です。スタイルシートは使ってないので(使いたくないし)4.0以降6.0未満なら私の意図どおりに表示されるでしょう。IEでも表示には問題ないはず。
 重みを感じる左肩に目をやると、茶色がかった長い髪を布団から床に広げて晶子が眠っている。俺の胸のあたりまで掛け布団が掛けられてるから、丁度晶子は自分の肩まで掛け布団を被っている格好になっている。その手は俺の胸の上にある。こういうところは月曜日の夜と大差ない。
 確実に違うのは、俺は勿論、晶子も俺が見える範囲で裸だということだ。辺りを見回してみると、俺のパジャマの上下と晶子の浴衣が、布団の周囲に無造作に散乱しているということだ。・・・夜、感情が高ぶった俺と晶子は互いに来ているものを脱がしあって・・・俺は今まで口をつけたことのない場所に口をつけて舌を這わせたんだっけ・・・。
 で、一線を超える前の「最終確認」で俺と晶子は抱き合って・・・俺はそれが凄く気持ち良くて・・・意識が遠くなって・・・どうなったんだ?そのまま寝ちまったのか?でも、そうなら俺は晶子の上で寝てるかもしれない。否、ことが終わって何時ものスタイルで−今の状態だ−眠りに落ちたのかもしれない。・・・あれ?何も思い出せない・・・。晶子と抱き合ってから・・・どうなったんだ?

「ん・・・。」

 寝言のような声を発してから、晶子がゆっくりと目を開ける。そして徐に顔を俺の方に向ける。少し乱れた髪が頬を伝っていて、それが妙に艶かしい。まだ眠気が残っているのか、表情は少しとろんとしている。

「・・・おはようございます。」
「お、おはよう・・・。」

 とりあえず朝の挨拶を交わす。これは火曜日の朝と同じだ。だが、左半身に感じる感触は普段とは比べ物にならないくらい滑らかで、それに柔らかい。改めて自分と晶子が裸だということが良く分かる。頭に浮かんでくる夜の出来事と重なって、左半身に感じる感触がより一層明確になり、全身が火照ってくる。

雨上がりの午後 第848回

written by Moonstone

 ・・・意識が深淵の淵から浮かび上がってくる。ぼんやりした意識の形が徐々に輪郭を帯びてくる。目の前が徐々に白んでくる。古びた天井の木目が目の前に現れる。何度か目を瞬(しばた)かせると、残っていた眠気の残骸が殆ど消えて、天井の木目がはっきり見えるようになる。・・・朝か・・・。

2002/6/20

[続・最後の手段は・・・]
 失敗に終わりましたとさ。てへっ(爆)。こうなってしまった以上、クライアントに仕様変更を迫るか、制作そのものを諦めてもらうか、どれだけ時間がかかっても良いから続けるか、どれかを選んでもらわねばなりますまい。正直言って最後の選択肢は、何れ私の精神を破壊することになるでしょうから、医療費の面倒を見てもらわねばなりますまい。
 期待していなかったとはいえ、知恵を絞って考えたものがシミュレーションどおりに動作しないというのはやはりショックです。これじゃ何のためのシミュレーションだか分かりゃしない。設計どおりに一発で動くことなど奇跡に近い物事ではありますが、予め動作がシミュレーション出来て、それで動作が確認出来たのに動作しないんじゃ救いようがありません。
 もう私は別の仕事に着手し始めました。ところがこれも部品が今までのものが使えないわ(仕入れ業者が変わったから)、基板がもう1枚必要なことが分かるわで前途多難。億単位の金が手に入ったら今の仕事辞めてページ運営だけにしたい・・・。でもそれは夢のまた夢。本当に何も良いことのない日々です。
 俺の問いに対する晶子の回答は小さく頷くことだった。ならばもう・・・迷うことはない。大きな一線を越える。俺は気持ちを固め、晶子の首筋に唇を這わせながら両手を下へ持っていき、自分のパジャマのズボンと下着に手をかけて脱ぐ。踝(くるぶし)までずり下ろしたら、あとは足をもぞもぞと動かして完全に脱いで、布団から放り出す。俺の準備は完了だ。あとは・・・晶子だ。
 俺は手を探って晶子の下着に手をかけて下に動かしていく。荒い呼吸を続ける晶子は脱がしやすいようにする為か、腰を浮かせる。俺は晶子に長時間負担をかけないように素早く下着をずり落ろす。手が伸びる限界までずり下ろしたところで、晶子が足をもぞもぞと動かして自ら脱いでいく。ぱさっと小さな音がする。・・・これで俺と晶子は完全に裸になった。
 俺は最終確認の意味で晶子を強く抱き締める。晶子はそれに応えるように俺の頭を抱き締める。晶子の身体の弾力と柔らかさが全身に伝わってくる。そしてそれとは異質の感触も・・・。晶子と裸で抱き合っていることを改めて実感する。それだけで快楽の極点に達しそうだ。
 晶子の背中を擦るように手を動かすと、磨き上げた石のような滑らかさと、温かくて弾力に富んだ感触が伝わってくる。そして晶子が荒くてゆっくりしたテンポの吐息を漏らす。俺の頭を抱き締める力がより一層強まる。
 気持ち良い。本当に気持ち良い。こうして裸で抱き合っているだけでも充分気持ち良い。それに愛しい。晶子が愛しくてたまらない。これから・・・これから晶子と・・・一つになるんだ・・・。
 頭がふわふわしてくる。全身に伝わる感触が鈍ってくる。何だか宙に浮いているような、ふかふかのベッドに横になっているような、そんな感じだ。う・・・。頭がぼうっとしてきた。急速に意識が遠のいていく。これから・・・これからだっていうのに・・・。それでもこの気持ち良さには耐えられない・・・。

Fade out...

雨上がりの午後 第847回

written by Moonstone

「良いのか・・・?」

2002/6/19

[最後の手段は・・・]
 ICの取り出し工具を壊してICが取れなくなったので、プログラム書き換えが出来ませんでした。てへっ(爆)。というわけで取り出し工具が届く今日、仕切り直しです。どうなるんでしょうね。期待はしてませんが。
 さて、W杯で日本が負けたそうで。日の丸と君が代が大手を振って全国を覆っていたことを考えると、実に喜ばしいことです。こんな右翼が喜ぶイベントはとっとと日本が負けて応援対象がなくなれば良いんです。他の国を応援してるという方はご自由にどうぞ。
 では、国旗と国歌が日の丸と君が代じゃなければ日本を応援したのか、と問われれば「国旗や国歌がなんであろうと、日本を応援する以前にイベントそのものに反対する」と答えます。今の国際スポーツイベントやらは戦争の代理でしかありません。そこで自国を応援すること自体、国家間の敵対心を無用にあおるものであり、右翼国家主義そのものです。よって今後もこの手のイベントに対しては厳しく冷めた態度で反対します。
晶子は俺が身体をはだけさせたことを感じてか、両腕をもぞもぞと動かして自ら浴衣を脱ぐ。俺が改めて身体を重ねると、晶子の裸の胸が押し付けられるのをはっきり感じる。これで上半身は二人共完全に裸になった。次は・・・下か。いや、その前に・・・。
 俺は身体を下にずらして、今まで手しか触れていない場所へ向かう。もともと暗い上に掛け布団に覆われているからはっきり見えないが、身体に感じる滑らかな凹凸でその場所は分かる。・・・ここだ。
 俺は緩やかな稜線を持つ弾力豊かな膨らみの片方に手を伸ばし、もう片方の膨らみの頂上を口に含む。同時に晶子の身体がびくんと大きく揺れる。そして膨らみの頂上を口に含む俺の頭が力強く抱き締められる。俺がそれに舌を這わせると、晶子は身を何度も捩(よじ)り、俺の頭をより一層しっかり抱き締める。興奮で神経が過敏になっているんだろう。
 俺は口と頭の場所を入れ替えて同じことをする。手には搗きたての餅のような柔らかさと弾力を感じ、口と舌にはプルプル感というか、そういう独特の感触を感じる。幾度となく身を捩り、俺の頭をしっかりと抱き締める晶子からは荒い呼吸音が速いテンポで聞こえて来る。・・・隣に聞こえてないかな・・・。
 胸の膨らみを存分に堪能した後、俺はさらに身体を下にずらし、こんな場所に内蔵とかが入っているのかと思うくらいくびれた所まで来ると、その中央にある小さな窪みに口をつけ、舌を這わせる。俺の頭を抱く晶子の腕は俺をその場所に押し付ける感じになり、腹部の柔らかさが頬に伝わってくる。
 そこも十分堪能した俺はそこから口を離し、身体を上にずらして晶子を見下ろす位置に戻る。晶子は半開きになった口から荒い呼吸音を発しながら俺を見詰めている。俺の頭に両腕を回したままの晶子の表情からは、拒否や嫌悪の念は感じられない。・・・このままいく・・・か?俺は口を開く。

雨上がりの午後 第846回

written by Moonstone

 俺は再び身体を晶子の上に乗せて浴衣を脱がしにかかる。浴衣はその気になれば簡単に脱がせる。腰に手を回して帯を解いて布が重なっている部分を左右に広げれば・・・。

2002/6/18

[最後の手段・・・か?]
 先週末に私を地獄のどん底に叩き込んだ、原因不明のセミカスタムICの動作不良(というより動作しない)。このまま悩んでいると本当に私の精神が危機的状態に陥りかねないので、一時棚上げしようと思いました。
 その前にちょっと試してみるか、とプログラムをちょこちょこいじってシミュレーションをしてみたら、きちんと動作する。時間計測に多少の誤差はありますが、それは改造前のシミュレーションでもあったことですし、兎に角温度による出力時間の誤差が出ないことが前提条件なので、誤差は無視出来ます。
 駄目なら駄目でクライアントにギブアップか長期化を選択させるつもりですし(医師にもそう進言された。「このままでは危ない」と)、出来たら儲けもの。今日ICのプログラムを書き直して試してみます。さてさて、どうなるやら・・・。
 胸の脈動に合わせて気持ちが激しく揺れ動く。晶子のリボンに手をかけようとする方向とそれを食い止めようとする方向へ・・・。どうすりゃ良いんだ?!このまま晶子を求める気持ちに身を委ねるべきか、自制心をフル稼働させるべきか・・・。どっちがこれからの俺と晶子の関係に良好に作用するんだ?!分からない。全然分からない。
 その時、俺の右手がそっと掴まれて右から左へと手繰り寄せられていくのを感じる。そして柔らかい感触と同時にとくん、とくんと早い調子の脈動が伝わってくる。・・・晶子の胸か?!

「私の心臓が脈打ってるの、分かります?」
「・・・ああ。よく分かる。」
「私の気持ちは・・・分かってくれましたか?」
「・・・分かったつもり。」

 そうとしか言いようがない。俺は・・・俺は・・・。
頭の中で何かが弾けるような感じがした。それを合図に、晶子の胸に触れていた俺の右腕がゆっくりと晶子の髪を束ねるリボンに伸びる。自分でも手が震えるのを感じながらそっとリボンの端を摘む。そして・・・一気に引っ張る。
 晶子の髪がパサリと音を立てて広がる。次の瞬間、俺と晶子は強く抱き合って唇を重ねる。そして同時に口を開いて舌を絡ませて吸う。晶子が俺の上に乗りかかってくる。弾力に富んだ感触を全身で感じつつ、俺は晶子と態勢を入れ替える。晶子は何の抵抗もなく自然に俺の下になる。
 俺の背中に回っていた晶子の手が俺のパジャマの上着にかかり、上へとずらし始める。俺は身体を少し浮かして脱がしやすいようにする。晶子の手の動きに従って腕を伸ばし、パジャマの上着を脱がされる。

雨上がりの午後 第845回

written by Moonstone

「祐司さんの心臓の音が聞こえる・・・。」
「・・・分かるのか?」
「分かりますよ。はっきり・・・。早い周期で脈打ってるのが・・・。」

2002/6/17

[結局昨日も・・・]
 土曜日に買いそびれたものを買いに出かけたくらいで、殆どベッドに横になっていました。昨日は今までより更に具合が悪く、昼食と夕食は栄養剤で済ませる結果になってしまいました。このお話もネットに繋ぐ直前にのろのろと始めたもの。無気力もかなり酷くなったものです。
 また今日から先の見えない苦悩だけの日々が続くのかと思うとうんざりします。でも時は流れて必ず今日になる。逃げることも許されず、真っ暗闇の中方向も場所も分からない、あるかどうかすらも分からない抜け穴を探す・・・。時間が流れていくに連れて気が重くなってきます。
 ・・・連載の書き溜めも底をつく寸前。何も出来なかった、何も良いことがなかった日曜日。かと言って後悔するわけでもない。ただ昨日という日があったというだけ。こんなルーチンワークが何時まで続くのやら・・・(溜息)。
 だが、本当にこのまま突き進んで良いのか?俺と晶子は付き合い始めてからまだ1年も経ってない。宮城との時でさえ、2年以上の時を積み重ねてようやく一つになったんだ。そして空間的な距離が出来て会うのが週に1回のペースになってからは、宮城がそれを求めてくるかどうかを絶えず気にしていたように思う。そして結局は心の距離まで出来てしまって、気持ちがすれ違った状態で最悪の結末を迎える羽目になっちまった。
 もうあんな思いは沢山だ。俺は今の幸せを手放したくない。手放してしまったら最後、もう俺を拾ってくれるような奇特な女は−晶子には失礼だが−現れないだろう。それに手放してしまうのが大学の間だったら同じバイトをすることも出来なくなるだろう。そんなのはまっぴらだ。
 ・・・でも、晶子とより深く結び付きたいという思いがあるのは事実だ。単なる性的欲求からじゃなくて、宮城と始めて一つになったあの夜と同じように、愛しい相手の全てが欲しい、全てを知りたいという気持ちから来るものだ。今は相手からそれを求めている。互いの気持ちのベクトルが向かい合っているなら、期間なんてどうでも良いんじゃないか?
 俺は何も言えずに晶子を見詰める。晶子は何かを訴えるような目で俺を見詰めている。見詰め合ったまま時が静かに流れていく。俺が晶子のリボンの端を引っ張ったらことは始まるだろう。だが、これをきっかけに月曜日のあの安らぎの時間がただ身体を求めるだけの時間になりそうで・・・怖い。俺は・・・どうしたら良いんだろう?

「私は祐司さんが欲しい・・・。」

 晶子がそのままの姿勢で切なげに呟く。それを契機に俺の胸が高鳴り始める。俺の胸に手を置いている晶子にも伝わっているだろう。自分で分かるくらい激しく脈動してるんだから。

雨上がりの午後 第844回

written by Moonstone

 ・・・分かっている。晶子が何を望んでいるかは。だが、昨日はまだしも、今日は際限が付かないかもしれない。晶子の望みが昨日より明らかに強く、そして強固なものだと分かっているから・・・。

2002/6/16

[何も良いことのない日は続く]
 2年程前並に酷く悪化した精神状態の中、昨日は恒例どおり泣く子も眠る睡眠薬を破って何時もと同じくらいの時間に起きて朝食を済ませて、やっぱり恒例どおり買出しに出ました。レタスやキャベツといった野菜の高値傾向は相変わらずで手を出さず、何時ものコースを回って不足気味の品物を取って代金を支払って帰宅。その後休憩や食事を挟みつつ作品制作とこのコーナーの更新で一日を過ごしました。何も良いことはありません。
 一部の時間帯を除いてイヤホンで耳を塞いで作品制作で過ぎ行く休日・・・。仕事では散々な目に遭わされているのに、プライベートでも何も良いことはなし。1週間がルーチンワークになっているようです。そこには恒例のものがあるだけで進展や幸運とは無縁。ただ苦しみ悩み、考え、食事を食べてPCのキーボードを叩いて寝るだけ。これじゃロボットと同じ。
 これで感想メールが来るならばまだしも、来るのは無意味な勧誘やウィルスメールばかり。真面目にすることがどれだけ馬鹿らしいことか、今実感しています。ま、所詮ページ運営なんて自己満足だと言えばそれまでですけど。
 今日も昨日と同じ生活を送るか、終日ベッドに突っ伏しているかのどちらかでしょう。何も変わらない日々。何も良いことがない日々。こんな日々を過ごすうちに誕生日を迎えるんでしょう。一人で・・・。真面目にしろと口癖のように言われてそれを実践した結果がこの始末。親を恨むつもりはないですが、何のために生きているのか分かりません。真面目にすることは罪なんでしょうか?
 眠りに落ちる直前で晶子の声が引き止める。俺は顔だけ晶子の方に向ける。晶子はうつ伏せで両肘で上体を起こした態勢で俺の方を向いている。その髪はポニーテールのままだ。あのままだと首を横に向けてないと寝られなんじゃないか?何で解かないんだろう?

「ああ、何とか・・・。」
「・・・そっち、行って良いですか?」

 晶子が話を持ちかけてくる。昨日は許可なく潜り込んで来たが、今日は許可を取るつもりらしい。ま、一緒に寝るのは週1回してることだし、良いか。

「・・・良いよ。」
「それじゃ・・・。」

 晶子は自分の布団から出て俺の掛け布団を少し捲って中に入って来る。そして何時もどおり俺の肩口を枕にして擦り寄ってくる。俺は晶子の足が俺の足に絡みついてくるのを感じながら晶子に話し掛ける。

「晶子・・・。一つ、聞いて良いか?」
「何ですか?」
「どうしてポニーテールを解かないんだ?寝辛くないのか?」

 俺が尋ねると、晶子は少しの沈黙の後顔を上げる。その表情が妙に艶っぽく見える。何か意味がある。俺はそう直感する。

「昔のヨーロッパの女性は必ず髪を上げていたんです。そしてそれを男の人に解かれることを、愛している相手にしか許さなかったんです。もし好きでもない人に髪を解かれたら、降伏するしか手段がなかったんですよ。」
「・・・どういうことだ?」
「・・・分かりませんか?」

雨上がりの午後 第843回

written by Moonstone

「祐司さん、起きてますか?」

2002/6/15

[自分達がしてることの重大さが分かっているのか?!]
 昨日はW杯で日本が決勝トーナメント進出を決めたそうです。「そうです」というのは、私が帰宅してからラジオで散々言っていたのを聞いたからです。職場でもほぼ全員が会議室のテレビに釘付けになっていましたが、私は只でさえ悪い精神状態を更に悪化させないように無視を決め込んでさっさと帰りました。バグを潰したことで正常に動作すると思ったのも幻になり、昨日にもまして終日気分が悪かったからです。
 何でも大型ビジョンが設置された国立競技場には48000人が詰め掛けたとか。仕事はどうした?学校はどうした?まあ、サボるなり休むなりしたんでしょうが、日本人が彼方此方で日の丸を振り回し、君が代を歌う光景を思うと胸が悪くてなりません。そんな光景を見て右翼がさぞかしほくそえんでいることでしょう。軍国日本の象徴があらゆる世代、とりわけ若い層に浸透していることを。
 サポーターならぬ右翼予備軍共に告ぐ!お前達がやっていることは戦前日本と同じことだ!日本人が何の気兼ねもなく日の丸を振り回し、君が代を歌うことは、有事法制成立も目論む自民党などの右翼軍国主義勢力が望んでいた光景だ!日の丸の血塗られた歴史も、君が代の意味も知らないお前達が、日本を「何時か来た道」に戻そうとする勢力の原動力になっていることを肝に銘じておけ!私は宣言する。私は日の丸も君が代も断固拒否する。それを伴うあらゆるイベントに反対する!
落胆しているマスターがちょっと可哀相に思った。俺自身高校時代のバンド仲間との泊り込み合宿で殆ど大貧民という辛酸を味わったから気持ちは分かるつもりだ。
 そして襖で部屋を仕切って電灯を消して現在に至る。俺と晶子は隣り合った布団に横になっている。襖の向こうから物音は聞こえてこない。流石に二晩連続、というわけにはいかないか。
 寄せては返す波の音が微かに聞こえて来る。本当に静かな夜だ。俺は今日の出来事を反芻(はんすう)する。マスターと潤子さんの過去の一面と、俺と晶子に対する気持ちを盗み聞きして、晶子と海に繰り出してプライベートビーチ気分を満喫した後、浜辺で休んでいるところで宮城とその友人達と出くわして気分が悪くなった俺は晶子を連れて宿に戻った。
 昼食後、全員揃って海に出て俺と晶子は沖の方へ泳ぎに行って二人きりの水中遊びを楽しんで−少々大変な目に遭ったが−待ち合わせ場所に戻ったら宮城とその友人達が待ち構えていて「宮城に区切りをつけさせるための猶予」という時間と場所を指定され、夕食後寛(くつろ)ぎつつ内心では散々迷っていた時に潤子さんが進言してくれて、俺は自分自身の中でもけじめをつけるために約束の場所へ向かった。
 其処には宮城が待っていて、過去を振り返りつつ区切りをつける方向へ話を持っていったら宮城が抱きついてきた。少しの間大混乱したものの、気持ちがはっきりしている俺は宮城を引き離し、左手薬指のペアリングの片割れを見せながら自分の気持ちを正直に告げた。宮城はそれで納得したようで俺に忠告した後さっぱりしたような笑顔で立ち去った。それを見届けて帰ろうとしたところで灯台の陰に隠れていた晶子が姿を現してぶん殴られるかと思って覚悟を決めた俺に、ついて来て話を聞いていたことや潤子さんに進言されたこと南下を話して、俺は今の幸せを実感しつつ晶子と一緒に宿に戻った。
 ・・・こんなところか。昨日は夜のことが大部分を占めているが、今日は本当に色々な出来事があった。これもまた、思い出のアルバムの一ページになるだろう。気分を害したときもあったが、今振り返ってみるとほろ苦い記憶として蘇ってくる。何にせよ、宮城ときっちり区切りをつけられて良かった・・・。
 泳いだり歩いたりした疲れが眠気となって全身を包み始める。瞼が重くなってくる。このまま身を任せていれば何の苦もなく眠りに落ちることが出来るだろう。意識がだんだん遠のいていく・・・。

雨上がりの午後 第842回

written by Moonstone

 この夜も風呂に入ったのが無意味に思える程汗を流す激戦になって、最終的にはどういうわけか俺が大富豪で、潤子さんが富豪、晶子が貧民でマスターは雪辱を果たせず大貧民となった。

2002/6/14

[・・・]
 もうお先真っ暗。お話する気力などありません。・・・いっそ死ねれば・・・。

「へ、部屋に戻ろうか。」
「はい。」

 晶子は俺の肩から頭を上げるが、それでもぴったり寄り添ったままだ。ま、まあ、階段を上る時は幅が狭いから自然に離れることになるだろうけど・・・ちょっと惜しいような気もする。完全に矛盾してるな、俺の心。
 廊下を歩いて階段に差し掛かったところで晶子は無言で俺の後ろに回る。どうして欲しいか承知している俺は階段を数歩上り、後ろに向かって手を差し出す。晶子は嬉しそうな微笑みを浮かべて俺の手を取る。
 女って、こういうことをして欲しいものなのか?宮城もデートの時、段差があるところで、それもどう考えても躓きそうもない場所でそうして欲しそうな仕草をして、俺が手を差し出すと嬉しそうに手を取ったからな。これも一種のエスコートなんだろうか?

 部屋に戻ると、トランプを手にしたマスターと潤子さんが待っていた。昨日の雪辱を果たさんと燃える−そりゃ無理もない。大貧民で終わったから−マスターは問答無用とばかりに俺と晶子を勝負の場に引っ張りこんだ。

雨上がりの午後 第841回

written by Moonstone

 ぱあっと晶子の顔が晴れ上がって、俺の肩に凭れかかってくる。俺は反射的に肩を抱く。こうしてるだけでもドキドキする。手は繋いだことはあっても−もう珍しいことじゃない−肩を抱くのは月曜の夜みたいに二人きりの時だけだし、昨日の夜のこともあって尚更ドキドキする。

2002/6/13

[はあ・・・もう嫌だ・・・]
 行き詰まるどころか泥沼に沈んでいるという表現がぴったりの仕事。その1つを回路基板を改造して動くことを信じてスイッチを入れたんですが、懸案事項の一つだった電源投入時のリセットは出来たものの、肝心の出力は音沙汰なし。どうやらセミカスタムICが動作していないらしいのですが、そいつは事前に何十回とシミュレーションをして動作することを確認したものなので、動作しない筈がないんですが・・・。
 泥沼から浮き上がるどころか更に沈む一方の状況に、もうノイローゼになりそうです。只でさえ夜満足に寝られない日が続いているというのに・・・。肩を落として帰宅してからの夕食も全然美味しくないし、何もやる気はしないし。こんなことが続くのは精神衛生上非常に悪いんですが、どうしたら良いのやら・・・。
 これともう1件の仕事が私の精神を蝕んでいるのは分かっているので、これらを片付けないと何時までも苦しめられる、でも一向に状況は改善しない。これでどうしろと?!このままだと睡眠薬をアルコールで飲む日は近いな・・・。

「祐司さん、準備出来ました?」
「ああ。行こうか。」
「ええ。」

 俺と晶子はそれぞれ荷物を相手と逆の手に持って、互いに引き寄せられるように手を取り合って部屋を出る。夏のひと時の最後の夜。この先何が待っているんだろう?・・・考えない方が良いな。妙な気分になってくるから。

 烏の行水を地で行く俺はさっさと風呂から上がって入り口のところで晶子を待つことにする。俺くらいの長さでも髪を洗うのは結構な手間だった。髪が長い晶子は尚更時間がかかるだろう。実際、月曜日に晶子の家に泊まって風呂に入るのは必ず俺が先だし。まあ、一応客だからということもあるんだろうが。
 待つこと10分少々。浴衣姿に髪をポニーテールにした晶子が姿を現す。今日の潤子さん、確かポニーテールにしてなかった筈だけど・・・。何でまたポニーテールにしたんだろう?

「お待たせしました。」
「いや・・・。それよりさ、何で今日もポニーテールにしてるんだ?」
「え?・・・似合いませんか?」

 晶子が少し不安そうな目で俺を見る。この目には弱い。何も悪いことをしてなくても、もの凄い罪悪感を感じさせる。それはそうと・・・今日のポニーテールは俺の目を引くためだったのか。俺は首を横に振って言う。

「よく似合ってるよ。浴衣姿と合わせて夏の情緒たっぷり。」
「良かった・・・。」

雨上がりの午後 第840回

written by Moonstone

 俺と晶子はここでようやく手を離して風呂へ行く仕度をする。ここで夜を迎えるのも今日が最後か。今日は何かと慌しかったが、汗と垢を落として何もかもすっきりしよう。もう過去は過去になったんだ。何も思い残すことはない。

2002/6/12

[久々の雨]
 夏が来たかのような暑さが連日続いていましたが、昨日は何時以来かの雨でした。まあ、降ったのは私が屋内に居る時だけだったようですが。これに合わせるように入梅宣言がありましたから、いよいよ6月らしくなってきたようです。紫陽花はとっくに咲いていますが、菖蒲(しょうぶ)はどうでしょう?
 Photo Group 1に展示中の紫陽花や菖蒲の写真は2年前に撮ったものなんですが、あの時はまともに寝られないのを逆手にとって雨が降る早朝に自宅から4、5kmはある公園まで自転車で突っ走り、記憶メディアがいっぱいになるまで撮りまくって、帰宅してからどの写真を掲載しようかと選考会を行った記憶があります。むしろあの頃の方が今より病状は悪かった一方でエネルギーが溢れていたように思います。
 あれから時は流れ、あらゆる面で辛い状況にありますが、エネルギーに溢れていたあの頃を思い出せるように、もう一度あの場所に行ってみようかと思います。今を逃したらまた1年待たなければいけませんから・・・。
 晶子は苦笑いしながら答える。俺が知らないところで余程凄いことが起こってたみたいだな・・・。まあ、前の彼女と二人で話し合うなんてそれこそ何がどう転ぶか分からないだろうし、俺と晶子の立場が逆だったら、俺は晶子を何としてでも止めるか引き戻すかしててもおかしくない。否、多分そうしてただろう。俺は独占欲が強いからな。

「二人共お風呂に入ってきたら?時間も時間だし。」
「そう・・・ですね。」

 俺は何気なしに腕時計を見て答える。・・・よく見ると、晶子の右腕も上がっている。あ、まだ手を繋いだままだったんだっけ。すっかり忘れてた。それだけ違和感がないということの裏返しか。

「念のため断っておくけど、風呂は男女別だからな。そのまま手を繋いで一緒に入らないように。一応此処は他の人も居るから。」
「大丈夫ですよ、マスター。祐司さん以外に肌を見せるようなことはしませんから。」
「あらあら、随分ご機嫌じゃない、晶子ちゃん。出て行くときとは正反対ね。」
「あの時のことはなかったことにしてくださいよ。」

 晶子がこれまた苦笑いして答える。一体俺が居なくなった後、この部屋で一体何が起こっていたんだろう?興味はあるが、聞くのが怖い。多分、相当な修羅場だったんだろう。絶対連れ戻さんとする晶子を潤子さんが止めてくれなかったら、俺と晶子の間でもめごとが起こって、最悪の場合口論に発展していたかもしれない。潤子さん、ありがとうございます。

雨上がりの午後 第839回

written by Moonstone

「潤子さんが私の腕を掴んでくれなかったら、そのまま飛び出していったでしょうね、きっと。」

2002/6/11

[ありがとう30000人]
 本来は「担当より」でお話するべきなんですが、更新する気力はないですし、昨日は特別にお話したいこともなかったので、こちらでお話させていただきます。元々はここが出発点ですから、それほど違和感はないでしょう。
 Novels Group 3がSide Story Group 1とこのコーナーに続いてご来場者30000人を突破しました(拍手)。Side Story Group 1は別格ですので、オリジナル分野で30000人の大台を乗り越えたのは嬉しいことです。小説でオリジナルという不利な条件の中30000人を集めたのは、それなりに公開中の作品が一部の方々ではあるけれど読まれているということですからね。
 Side Story Group 1を除けばNovels Group 3は全グループでダントツのトップです。正直な話、ここで掲載したものを加筆、編集したものを公開しているだけの(アナザーストーリーは書き下ろしですが)作品がこれほど人気を得るとは思いませんでした。何年かかるか分かりませんが、ラストシーンを迎えるまでご愛顧くださいますよう、宜しくお願いします。
 ・・・ああ、そうだ。思い出した。宮城と付き合っていたあの頃、宮城と二人で仲良く話したり一緒に帰ったり、デートしてるところを見られて突っ込まれた時に感じたあの気分だ・・・。
 そうだ。俺は今幸せなんだ。あの時と同じくらい。否、もっと幸せなんだ。宮城との関係が過去のものになった今、俺はそれに充分代わり得る幸せを手に入れたんだ。この幸せを今度こそ何時までも保ちたい。ずっと・・・。

 俺と晶子は往路とは違って二人並んで手を繋いで宿へ帰る。こうしてすっきりした気分で晶子と一緒に帰ってこられるとは思わなかった。怒髪天を突いた晶子の出迎えを受けることかと思ってたからな・・・。まあ、あの時の状況からはそうとしか思えなかったんだが。

「「ただいまー。」」
「あら、お帰り。・・・どうやら上手くいったみたいね。」
「ええ。何とか。それにしてもよく分かりますね。何も言ってないのに。」
「そのすっきりした顔を見れば分かるわよ。」

 浴衣姿で茶を飲んでいた潤子さんが笑みを浮かべて言う。自分では分からないが、そういう顔をしてるんだろうか?智一は前にお前は不器用で感情が直ぐ顔に出るって言ったが、やっぱりそうなんだろうか?
 潤子さんと向かい合って茶を飲んでいたマスターが俺と晶子の方を向く。そして成る程、といった表情で小さく何度か頷く。マスターにも分かるくらい俺の今の感情が顔に出てるんだろうか?これじゃ絶対隠し事は出来ないな。

「井上さん、よく我慢できたな。てっきり祐司君を引っ張って直ぐに戻ってくるものかと思ってたんだが。」
「あの時はそんな剣幕でしたからね。」

雨上がりの午後 第838回

written by Moonstone

 意識を少しでも逸らそうと前方に視線を向けると、闇の中で何かが動いているのが見える。・・・もしかして宮城とその友人達じゃないか?だとしたら、俺と晶子の様子はしっかり見られていることになる。嬉しいやら恥ずかしいやら・・・何て言って良いか判らない不思議な気分だ。

2002/6/10

[憂鬱な日曜日]
 うーん・・・。日曜日はどうしてもやる気が出ないんですよね。結局昨日は何も手がつけられず、今回の更新は小規模なものになってしまいました。やる気が出ないばかりか、行き詰まっている仕事、幸運に無縁な日々、一向に治らない病、苦労の割に合わないページのカウンタ・・・何もかもが嫌に思えてしまうんです。本来なら1週間の始まりとして充実したものにしたいんですが、当日になるとその希望さえ忘れてしまいます。
 昨日も殆ど1日横になって過ごした有様。やる気が出れば連載の1作くらい書けたはずです。それが出来ない自分が余計に嫌に思えてなりません。本当に一旦ページ運営を止めて無期限の休養をしようかと思います。こう思うのは日曜日が一番強くて、仕事が始まれば薄れていって土曜日はけろっとしてるんですよね。やっぱり完治には程遠いようです。
 まあ、神も仏もあったもんじゃないのは間違いありません。少なくとも病に苛まれながら出来る限り懸命に仕事をしている人間に何も恵みを齎さず、仕打ちばかり加えるんですから。酷いものです。
「潤子さんの助言があったからですよ。私、祐司さんを取られることばかり考えていて、祐司さんを心底信用してなかったことを思い知りました・・・。こんなんじゃ彼女失格ですよね。折角人の前で自分を愛してる、ってはっきり言える彼が居るのに・・・。」
「俺が宮城と会うことに晶子が疑問を感じるのは当たり前だよ。別れた相手となんで今更話し合いなんて、って思うのは。俺はある意味、晶子の信用の上に胡座(あぐら)をかいていたんだ。・・・勿論、晶子が俺を信じてくれたのは嬉しい。だけど、それに甘んじてちゃいけないよな。人の心なんて意外に脆いもんだから、しっかり補強しないといけない・・・。」

 晶子の目が少し潤んでいる。その切なげな目が俺の心を射抜く。晶子を大事にしたい。晶子との関係をずっと保っていきたい。自然と心の底から湧き上がってくる。あの話し合いで宮城との関係を清算出来たんだ。これからは宮城にわだかまりという形で向けていた気持ちを晶子に向けたい。

「俺は・・・晶子が居てくれて良かったと思ってる。それに・・・ずっと一緒に居て欲しいと思ってる。」
「・・・嬉しい。」

 晶子が心底嬉しそうに俺の右腕をぎゅっと抱き締める。独特の柔らかい感触がこれでもか、というほどはっきり伝わってくる。俺はその場で固まってしまう。正直嬉しいという気持ちはあるが、こうもはっきり感じると昨日の夜のことと相俟って身体が一気に熱くなる。

雨上がりの午後 第837回

written by Moonstone

「ありがとう・・・。信じてくれて・・・。」

2002/6/9

[給水制限実施か?!]
 このままだと実際にそうなってしまいそうなのは、天候だけではありません。このコーナーの連載「雨上がりの午後」の書き溜めが底を尽きかけて来たんです(汗)。書く時間と量に対して掲載する量がかなり多いせいです。だったら書き溜めろ、と仰るかもしれませんが、それがそういかないのが現実。平日は今の疲れやすい体質のお陰で殆ど書けずにただ使うのみ、という有様。休日は定期更新用の作品制作でそれどころじゃないというのが実情。定期更新用の作品は連載作品が主体なので、かなり体力と神経を消耗するんです。
 流石にこのままではいかん、ということで昨日は定期更新用の作品を仕上げてから必死こいて書き溜めを増やしましたが、3時間かかって1週間分あるかないかというところです。今日も今日で定期更新用の作品を仕上げたいですし、それが思惑どおりに行くかどうかさえ怪しいです(爆)。
 何とか時間を見つけて少なくとも1日に使う分は書くようにするつもりですが、異様に疲れやすい体質の上に仕事の甚大な疲労が重なる状況ではかなり厳しいです。でも連載休み、ということにはしたくないので、応援の程宜しくお願いします(_ _)。

「あの女性とやり直したい、って思う気持ちは理解出来るつもりですよ。いくら後味の悪い別れ方をしたといっても、祐司さんの心の中に占めるあの女性の存在は決して小さくはないでしょうし。」
「・・・。」
「最初は祐司さんを引きとめるつもりでした。でも、潤子さんに言われたんです。『祐司君を信じてあげたら?』って。私は・・・あの女性と話し合うことで祐司さんの気持ちが私からあの女性に向くかもしれないってことが怖かったんです。でも、潤子さんの言葉を聞いて、私が祐司さんを信じなかったらどうするんだ、って思ったんです。彼を信じられないのに彼女を名乗る資格があるのかって。」
「・・・だから、割り込まずに聞いてただけだったのか・・・。」
「ええ。正直言って、祐司さんが『少しはやり直したい気持ちはある』って言った時は飛び出しそうになりました。でも、祐司さんはあの女性とやり直したいが為に私を切り捨てることは出来ない、ペアリングの片割れを左手の薬指に填めたのは私を真剣に愛してるから、って聞いて、そのときの衝動に任せて飛び出さなくて良かったと思いました。潤子さんの言ったとおり、祐司さんを信じて良かったです。私があの時飛び出してたら、それこそ泥沼になったかもしれませんし。」
「・・・だろうな。晶子も宮城も、気の強いところでは良い勝負だから。」
「祐司さんと付き合うようになってかなり経ちますけど、あまり好きだ、とか愛してる、とか殆ど言って貰えなかったし、私も言わなかった。互いの気持ちは分かってるから言わなくても、とは思ってましたけど、実際に言って貰えて、それも前の彼女を前にして言って貰えて凄く嬉しかったです・・・。」

 俺は自分の気持ちを正直に言っただけだ。そう片付けるのは簡単だけど、晶子にとっては胸を打つ言葉だったのかと思うと、改めて言葉というものの強さを感じる。使い方を誤れば拳や平手打ちなど比べ物にならない痛手を負わせるものでもあるが。

雨上がりの午後 第836回

written by Moonstone

 宮城と正直少しはやり直したい、という俺の言葉で怒るのも無理はないと思ってたんだが、逆にどうして怒る必要があるのかと問い返されてしまった。予想外のことに、俺はどう言って良いか分からない。

2002/6/8

[「魂の降る里」を書き続ける訳]
 全グループ中最多のご来場者数を誇るSide Story Group 1。そこでは「魂の降る里」という連載作品が(現在のところ)定期更新の度に新作を公開し、トップページのご来場者数を2日ほど大幅に伸ばします。現在のご来場者数はこの作品が齎していると言っても過言ではありません。
 題材は「新世紀エヴァンゲリオン」(以下「エヴァ」)。TV放映は勿論、劇場版も公開を終了して久しいもので、Access Streetsのリンク先でもエヴァを専門に取り扱うページが更新停止中だったり他のジャンルに集中していることも珍しくありません。なのに何故私がエヴァにこだわり、それを題材にした「魂の降る里」を書き続けるのか?それはやはり自分なりの区切りを見たいからでしょう。
 元々この作品はある作品の(題材は同じくエヴァ)そこに至るまでの背景を書こうということで始めたものなんですが、テーマはエヴァSSとしては珍しい(と思う)社会的側面を多分に含んだものに膨れ上がり、単に「ああしてこうしてこうなった」で終わらせるわけにはいかないですし、終わらせたくないんです。その結果、何時まで続くか私自身全く見通しが立たない現状になっているわけですが、「Total Guidance」の冒頭にあるように、ブームや時代の流れにとらわれず、とことんこだわり続けたい。そう思います。まだご覧になっていない方は是非一度ご覧下さい。
「祐司さんの後をつけてきたんですよ。気付かれないように距離を置いて。祐司さんとあの女性が背を向けた時を見計らって、此処に来たんです。」
「・・・じゃあ、俺と宮城の会話は・・・。」
「最初の方は距離があったから聞こえませんでしたけど、大体は聞かせてもらいましたよ。」

 ス、スパイか、晶子は・・・。考え事をしながら歩いてたり、宮城との話で周囲に関心が向かなかったこともあるだろうけど、俺に気付かれずに後をつけてきて、おまけに間近でほぼ一部始終を聞いてたなんて・・・。さ、流石、かつてささくれだってた俺をストーカーの如く執念深く追い回してただけのことはある。探偵になったら成功するぞ、間違いなく。
 晶子はゆっくりと歩み寄って来る。その表情は怒っているようでもあり、平然としているようでもある。表情が平坦だから読めない。程なく晶子は俺の傍に来る。そして徐に右手を挙げる。・・・平手打ちか?正直少しは、お前とやり直せたら、とも思う、なんて言ったことが気に障ったか?・・・無理もないといえばそれまでだ。俺はきつい洗礼を受ける覚悟を決める。
 だが、予想に反して右手は俺の頬ではなく、俺の右腕に向かう。晶子はそれをきっかけにして俺に寄り添い、柔らかい微笑みを見せる。・・・どうやら怒ってはいないようだ。だが、覚悟まで決めておいてなんだが不思議に思う。

「・・・話、聞いてたんだよな?」
「ええ。大方は。」
「何で怒らないんだ?」
「怒る必要が何処にあるんですか?」

 宮城と正直少しはやり直したい、という俺の言葉で怒るのも無理はないと思ってたんだが、逆にどうして怒る必要があるのかと問い返されてしまった。予想外のことに、俺はどう言って良いか分からない。

雨上がりの午後 第835回

written by Moonstone

「ま、晶子?!一体何時此処に?!」

2002/6/7

[チケット狂想曲]
 右翼国家主義の最たるイベントであるW杯のチケットが余っていてスタジアムは空席だらけ、という事態が起こっているそうですが、この原因はスポンサーになる代わりにチケットを山分けした大企業とそれを制御しなかったFIFA、文科省、政府にあるのは明らかです。
 スポンサーになった大企業は自社の製品購入と引き換えに「抽選で○○名様にチケットが当たる」といった形式で利益を上げられればそれで良かったんですから。日本経済が「ルールなき資本主義」の代表国アメリカを模倣していますから、スポンサーの大企業がチケットを出し惜しみするのは、経済学を齧っている私には目に見えてました。
 流石は世界最大のスポーツイベント。利権と矛盾がたっぷりですね(嘲笑)。ファン(と言うより右翼国家主義者)の入場より大企業の支出する金が優先するんですから、これが国際スポーツイベントなるものか、という認識を新たにしました。今回の事態は起こるべくして起こった、というものです。さっさとこんな腐敗したイベントは廃止して、国連主導の純粋なスポーツの祭典に改革するべきです。
「あたしは諦めたわけじゃないからね。ただ、一つの区切りをつけただけだからね!」

 宮城は満面の笑みを残して、くるりと背を向けて走り去っていく。それこそ俺が止める間もないくらい早く。一人残された俺は、暗闇に消えていく白いものを見ながら、小さく溜息を吐く。一つの区切りをつけただけ、か・・・。やれやれ、諦めの悪い奴だ。でも、最初あれだけ未練たらたらだったのに最後はさっぱりした雰囲気にするあたり、宮城も変わってないな・・・。
 俺の口から再び溜息が漏れる。なにやら色々あったけど、最後はまあ、丸く収まったと言って良いだろう。今までにこうしてしっかり話をする時間を持てていたら、宮城の影を恐れなくて済んだだろう。その点では宮城の友人と潤子さんに感謝しないとな・・・。
 俺は灯台の横を通りかかる。晶子、怒ってるかな・・・。潤子さんの進言と俺の中にあった、宮城との関係に明確な区切りをつけたい、という気持ちから行くことにしたとはいえ、晶子にしてみれば、俺に進言した潤子さんにも噛み付いてたように、別れた筈の相手とどうして今更話し合いの時間なんて与えてやるのか、という心情だろう。ちょっと帰り辛いな・・・。

「どうやって経緯を説明しようかな・・・。綺麗さっぱり区切りはついたとはいえ、宮城は諦めたわけじゃないって言うし・・・。それは秘密にしておいた方が無難かな・・・。」
「もう秘密には出来ませんよ。」

 思いもよらない声に驚いて声の方を見ると、灯台に凭れかかるように晶子が立っていた。丁度灯台を挟んで海を背にする位置だ。それはそうと、何時の間に此処に来てたんだ?!

雨上がりの午後 第834回

written by Moonstone

「祐司の心が揺らぐようなことがあったら、容赦なく突っ込むからね。あの娘としっかりやりなさいよ。いい?」
「・・・分かった。」

2002/6/6

[望ましい別れ方]
 今、彼女が(或いは彼が)居る方にとっては縁起でもないキャプションですが、丁度連載で主人公の安藤君が前の彼女である宮城嬢と後腐れなくきちんと別れようとしているシーンなので、ちょっと私なりの考えをお話しようかと思いまして。
 連載の冒頭の(Novels Group 3のChapter1)別れ方は、ふられる側にはショックでしかないでしょう。まあ、ふられるのにショックを感じないようなら、別れ話を持ちかけられる前に関係は終わっていると言えるでしょうが。せめて直接会って面と向かって言われた方が良いでしょうね。ふられる方も相手の口ぶりや態度でこの関係は終わりか、と察することが出来る分、ショックも和らぐのではないかと。
 理想的な別れ方は、やっぱり自然消滅でしょうかね。気が付いた頃には関係が終わってた、というような。あの頃はひと時の夢だった、という感じに思えるのではないでしょうか。どちらにせよ、ふられる方はショックを受けるものですから、そういう時には出来ればふる側に立ちたいというのが本音です(^^;)。
俺がプレゼントした時、この指に填めて、って譲らなかった上に、俺にも同じ指に填めて、と来たもんだ。その時は照れくさく思うのが精一杯だったけど、今になって思うと、俺がその女の左手の薬指にリングを填めたのも、俺が同じ指にリングを填めたのも、俺の気持ちがそうさせたからだと思うんだ。俺がその女を真剣に・・・愛してるっていう気持ちがな。」
「・・・。」
「だからもうお前の方を向けない。向いちゃいけないんだ。俺はお前と違って、一人の相手に全てを注ぐタイプだからな。どっちが良いとか悪いとか、そういう問題じゃなくて・・・ただ、俺がそうしたいし、そう思うだけだ。」

 俺が思いのままを口にし終えると、宮城はふう、と溜息を吐いてさっぱりした、少し儚げな笑みを浮かべる。

「・・・祐司のそういう一途なところ、変わってないわね。」
「1年やそこらで変わりゃしないよ。」
「祐司の言いたいこと、よく分かった。考えてみれば自分で蒔いた種だもんね。自分で蒔いた種は自分で刈り取らないと駄目よね・・・。」
「宮城・・・。」
「今日この場であたしと祐司の関係は高校の同期、以前付き合ってた相手同士ってことにしましょ。あたしだって、このままずるずる引き摺りたくないし。でもね・・・。」

 宮城はびしっと俺を指差して、悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。

雨上がりの午後 第833回

written by Moonstone

「これはその女の誕生日にプレゼントしたペアリングの片割れなんだ。その女の同じ指にもこれと同じリングが填まっている。

2002/6/5

[広がる設計、膨らむ不安]
 昨日はほぼ1日仕事に集中できました。ちょっと午前中は薬の余波で眠かったですが(^^;)。で、回路を設計していたんですが、今回は今まで知識の範疇から出なかった回路を多用せざるをえないという結論に達し、設計そのものは理論どおりに出来ましたが、実際に動くかどうかは作ってみないことには分かりません。動けば要求の仕様を完璧に満たせるんですが。
 あと、高電圧(とはいっても直流100V)の回路設計で、果たして今までの回路を流用して大丈夫なのか、という問題にぶち当たり、見切り発車する形で回路定数(抵抗やキャパシタ(ごく小さい電池みたいなもの)の値)を替えて流用することにしました。他に良い方法が思いつかなかったからです。部品も発注したので、これまた作ってみないことには何とも言えません。
 一方、先に購入した電源モジュールは1つだけ(3つ買った)使うことにしました。直流100Vの回路を少し改造して(抵抗1つ追加するだけ)直流50Vの回路を作ろうかと悩んだんですが、直流100Vの回路が問題なく動作する保障がない以上、動作が保証されている上に配線も楽な電源モジュールを使うことにしました。不安要素が早くもいっぱいですが、無事完成すると良いな・・・。
俺とその男を秤にかけるようなことが許されるとでも思ってるのか?男はお前にとってジグソーパズルのひと欠片なのか?心の穴に合うか合わないか試してみて、やっぱりこっちがぴったりだからこっちにしよう、なんて俺は勿論、お前が以前付き合ってたっていう男をも侮辱することだって思わないのか?」
「・・・。」

 宮城からの反論や抵抗はない。俺は身体の向きを180度変えて、手すりを背にして宮城を見る。宮城は俯き加減で無言のまま突っ立っている。何となく罪悪感めいたものを感じるが、筋を通すべきところは通さないといけない。けじめをつけるためには・・・下手な同情や感傷は無用だ。

「宮城・・・。これ以上未練がましくするのは止めよう。お前は勿論、俺もな・・・。」
「祐司・・・。」
「今、俺に彼女が居なかったら、人の心を試すようなお前のしたことを一頻り責めて、それでおしまい、もう一度やり直そう、って言ってるかもしれない。あの夜の別れ話にお前の思惑があったことには、以前ほど腹立たしく思わないしな。・・・正直少しは、お前とやり直せれば、とも思う。」
「だったら・・・。」
「でも、俺はお前とやり直せないんだよ、どうやっても・・・。お前と切れたショックでささくれだって女なんか信じられるか、って頑なに思っていた俺を拾って傍に居てくれる女が居る。お前とやり直したいが為にその女を切り捨てることは出来ないんだよ。」
「・・・あの娘のことね?」
「ああ。・・・これを見てくれ。」

 俺は左手の甲を宮城に見せる。薬指にペアリングが填まっている手を。宮城の顔が驚きに変わる。

雨上がりの午後 第832回

written by Moonstone

「寂しさを別の男と付き合うことで埋めようとした。でもしっくり来なくて別れた。それでもう一度俺と付き合うことで寂しさを埋めようだなんて、それこそ身勝手なんじゃないか?

2002/6/4

[一昨日の影響の余波]
 FTPが接続不良というトラブルに見舞われた影響の余波は、意外な形で表れました。メールフォームからのメッセージのログが見れず、お返事が遅れることになったんです。このページのメールフォームは生憎メールという形で届くことがなく(色々試したんですが上手くいかなかった)、ログを取得しなければお返事のしようがないんです。
 お一人はこのコーナーをご覧いただいていることには既に返信メールをお送りしていることでしょうが、もう一方、6/2のA.M.11:11頃にメッセージを送ってくださった方には、メールアドレス未記入の為お返事が出来ません。トップページにも表記しましたが、よろしければメールアドレスをお教えください。
 その方からのメッセージによると、意外なことに某掲示板でお勧め小説の一つとして紹介されているとのこと。私の知らないところで意外な広がりを見せている連載「雨上がりの午後」。少しずつですが、毎日続けていこうと改めて思いました。
「・・・。」
「祐司だって、あたしと切れたと思った時の喪失感や悲しみは大きかったんでしょ?昨日言ってたじゃない。だったらあたしの気持ちも分かるでしょ?」

 ようやく頭の中の混乱が収束していく。それに代わって宮城の言葉の分析が始まる。確かにあの夜の喪失感や悲しみ、それに絶望とやるせない気持ちは計り知れないものだった。何もかも嫌になって、ありとあらゆるものが薄汚れた醜いものにしか見えなかった。宮城の言うことは分からなくもない。
 だけど・・・こうなったのは元はと言えば、それこそ宮城が言ったとおり、俺が疑惑をかけたことを束縛に感じて、別の男の「寛容」に惹かれたのが原因じゃないか。言わば宮城の自業自得だ。それを今になって一番好きな相手だ、失いたくないとか言われても説得力が感じられない。宮城とは・・・もう終わったんだ。あの夜の電話を最後に・・・。
 俺は宮城の両肩を掴んでぐいと引き離す。俺の背中にあった宮城の腕はするりと俺から離れる。宮城はどうして、と言いたげな顔で俺を見ている。この目で見詰められるとどうしても昔のことが思い出されてしまう。俺は宮城を引き剥がして、手摺りに両手をかけて漆黒の夜の海を見ながら言う。

「・・・深く好き合ってたらそれを失った時にどうしようもないと思うのは、俺だって同じだ。昨日俺が言ったとおりな。だけど・・・事実は覆しようがないんだ。お前は俺の気持ちを試すつもりでまた別れ話を持ち出して、俺はお前と切れたと思い、お前はそのときのショックもあるかもしれないけど、別の男と付き合うようになった。期間の長短や気持ちの浅い深いは関係ない。お前は俺を失ったことで出来た心の穴を別の男と付き合うことで埋めようとした。そうだろ?」
「それは・・・そうだけど・・・。」

雨上がりの午後 第831回

written by Moonstone

「抱えていたものが大きければ大きいほど、失った時の喪失感や悲しみは大きいのよ・・・。あたしは祐司を失いたくない。あんなことで祐司を失うことになるなんて、そんなのやだ・・・。」

2002/6/3

[昨日はご迷惑をお掛けしました(_ _)]
 昨日寝過ごして(昼寝ならぬ夜寝)慌てて更新しようと思ったら、突然FTPが接続不良を起こしました。待てども待てども復旧しなかったので、諦めて昨日の朝10時過ぎに更新しました。更新内容はここだけだったのでまだ良かったんですが、今日や定期更新のように転送ファイルが多い日や翌日が月曜の場合に(今日や定期更新ではこれらが重なる)トラブルが起こると、ファイルをFDで職場に持っていって更新、ということになるので面倒ですから、トラブルが起こらないことを祈るしかありません。
 で、今日のニュース速報とTotal Guidanceの更新にあるとおり、今回のような事態が発生したら掲示板JewelBoxにその旨を記載する、ということにしました。FTPは繋がらなくてもページへのアクセスは出来るので、何時まで経っても更新されない場合は掲示板JewelBoxをご覧下さい。ページにさえアクセス出来なかったらもうどうしようもないですが(^^;)。
 それにしても今回のFTPトラブル、最近なりを潜めていたんですが、まさに忘れた頃にやって来る、というやつです。サーバー管理元の話では、私のアクセスポイントからFTPサーバーまで10数箇所を経由しているそうですから、それを考えると無事に更新できることのほうが珍しいのかも(汗)。
「そういう言い方もあるかな・・・。高校時代、俺とお前が学校に行けばほぼ間違いなく会えたあの時代に、互いの考え方を知っておくべきだったな。それこそ喧嘩してでもとことん話し合ってさ・・・。俺とお前は喧嘩することが即別れに繋がると思ってて、それが怖くて互いの心を窺おうとしなかった。未熟者同士の恋愛ごっこだったんだよ、俺とお前の関係は。」
「そうね・・・。あたしは何で祐司以外の男と話してただけで祐司が怒るのか真剣に考えたり、祐司に理由を聞いたりしなかった・・・。ただあたしが謝って一件落着、って感じだったもんね・・・。」
「恋愛ごっことはいっても・・・お前と付き合ってたときは幸せだった。学校へ行く途中で待ち合わせたり、分岐点まで名残惜しげに話し込んだり・・・。それで電車を乗り過ごした時もあったけど、まあ良いや、で軽く済ましたもんな。寄り道して一緒に買い物したり・・・。恋愛ごっこでも精一杯のものだったと思う。・・・もう、それで良いんじゃないか?」
「それって・・・。」
「今はもう互いに違う方を向いてる。二度と彼女なんて出来ないと思ってた俺は晶子に拾われた。お前は就職活動の真っ最中なんだろ?」
「ついこの前決まったわよ。でなきゃ暢気に泊りがけで海に来るなんて出来ないでしょ?」
「良かったな、無事に決まって・・・。何にせよ、これでお前も向かう方向が決まったわけだ。その道を歩いていく過程で、きっとお前に相応しい寛容な男が現れるさ。この俺ですら拾われたんだからな。」
「・・・そんなに上手くいくとは限らないじゃない・・・。あたしは・・・あたしは・・・!」

 いきなり宮城が俺に抱き付いてきた。宮城の両腕が俺の背中を愛しげに撫で、顔を俺の胸に埋めて何度も互い違いに頬を摺り寄せる。昔、学校で人目を忍んで抱き合ったことが急速にフラッシュバックしてくる。俺はその場で完全に固まってしまう。宮城と話していた間に解れていた緊張の糸が、再び一気に張り詰める。どうしたら良いんだ?こういう時・・・。考えようにも頭の中がぐちゃぐちゃになって考えようもない。

雨上がりの午後 第830回

written by Moonstone

「・・・すれ違い、よね。あたしと祐司の付き合いに対する考え方の。」

2002/6/2

[薬飲んで早起き(爆)]
 金曜日は寝る時間が遅かった上に(A.M.2:00超えてた)例の強力な睡眠薬を飲んだので、起きるのは昼前だろう、と推測して就寝しました。そしてふと目を覚まして枕元の時計を見ると・・・A.M.6:30?!(汗)単純計算で4時間しか寝てないことになります。しかし、二度寝しようという気にもなれずその気配もなく、やむなく起床。折角晴れてるんだから、と布団を干して早速PCを起動して作品製作を開始しました。
 その後通帳記帳と買出しに出かけて昼食を挟みつつ作品制作を続けていたのですがどうも能率が上がらないので、休憩のつもりでベッドに(布団は取り込み済み)横になったら・・・1時間ほど熟睡(汗)。それから夕食を挟みつつ作品制作を続けて無事完了。その勢いでもう1作一発ネタものを仕上げました。こちらは明日公開が決定しています。お楽しみに(^^)。
 昨日思ったのは自分の執筆速度の遅さ。CDの1曲を(5分程度)聞き流してるあだに書けるのは良いとこ4、5行。考えながらだと1行も書けないこともあったり。これを何とかしないと更新量は増やせないですね〜。せめて半分に短縮出来れば、と思うんですがそれがなかなか・・・。毎日のように新作を挙げている人はどうやって書いてるんでしょう?一度窺ってみたいものです。
「あたしって・・・誰にでも好かれたいって思うタイプなのよね。一番好きな相手の他に、二番目、三番目を望むっていうか・・・。別に男をキープしたいって訳じゃないけど、一番好きな相手だけにだけ目を向け続けるんじゃなくて、変な言い方だけど・・・視野を広く持ちたいっていうか・・・そんな感じ。」
「・・・。」
「それが浮気っぽいと思われても仕方ないとは思う。祐司にもきっとそう見えたんだろうし、だから怒ったんだと思う。・・・今回も元を辿れば、そういう自分のままだったから祐司に疑惑を持たれて、それが束縛に感じたあたしがバイト先の男の人、その人、3つ上なんだけどね、その人のあたしに接する時の態度が寛容に思えて・・・祐司っていう一番好きな相手が居ながら、その人を自分の傍に寄せることで安心感を得ようとしたことが原因だと思う・・・。」
「・・・お前、俺が何度言っても聞かなかったよな。他の男とベタベタするな、って言っても・・・。」
「あたしはベタベタしてるつもりじゃなかった。ただ自分の話し相手として男女分け隔てなく接してたつもりだったのよ。それが結果的に・・・こんなことになっちゃったのよね。はは・・・。あたしって・・・ホントに馬鹿よね・・・。」

 宮城の声が急にトーンダウンする。ふと宮城を見ると、その横顔が酷く悲しげで見ているだけで痛々しく思う。目には涙さえ滲んでいる。・・・駄目だ。ここで同情したらそれこそ晶子が言ってたように宮城の思う壺だ。だけど・・・宮城の今の表情には演技めいたものは感じられない。そんなに俺との終わりが嫌なら、あんな馬鹿げた真似をしなきゃ良かったものを・・・。その上、直ぐに前言撤回の電話もせずに「身近な存在」とやらに手を出してりゃ世話ないさ・・・。

「まあ・・・昔話は別にして・・・、去年の秋のあの夜の電話で俺はお前とはもう終わったと思った。そしてお前はバイト先の男だったか?まあ、誰でも良いけど、その男と付き合った。この時点で俺がお前にふられたっていう事態が出来上がったわけだ。お前が言うところの「一番好きな相手」が俺じゃなくなった時点で、俺とお前の関係は終わったんだ。・・・俺はそう思ってる。」

雨上がりの午後 第829回

written by Moonstone

「・・・高校時代にあたし、何度か祐司を怒らせたわよね。他の男の子と仲良さそうに話してるところを見られて・・・。」
「ああ、覚えてる。」

2002/6/1

[今日から水無月]
 梅雨の到来を髣髴させる天候から始まった(私の住んでいる地域での話ですが)水無月、背景写真も6月を象徴する紫陽花に替えて態勢も完璧です(何の?)。ちなみに背景写真は今月に限り半月或いは週単位で変更する予定です。自分の誕生月ですし、このくらいのお茶目は許されるでしょう(笑)。
 さて、昨日からW杯が始まったらしく、TVでもラジオでも盛んに中継日程や関連内容が取り上げられていました。私はTV中継で数少ない見る番組が中止になったり、ラジオ番組がその手の特集で埋もれないかが心配です。
 職場では幸にも話題になっていませんが、日本での開催が近付くにつれて熱病に冒された人が出てこないかどうか気がかりです。また、フーリガンが暴れてそれに便乗した暴動が起こらないか、特に因縁の対決と言えるイングランドVSアルゼンチンが行われる札幌が修羅場にならないことを祈るばかりです。私の住んでいる地域は幸運にも開催スタジアムがないのでこの辺は安心です。1日も早い終了を望みます・・・って、日程が短縮されることはないのか。迷惑な話だ(溜息)。
 灯台に近付くにつれて、灯台の周りを囲む手摺りのところに人影が見えてくる。あれが宮城か?幾ら視力にはそこそこ自信があるとはいえ、こんな光に乏しい場所じゃ確認しようがない。それこそ傍まで行かないと分からないだろう。胸が次第に高鳴り始める。別に緊張する必要なんてないのに・・・。まるであの時、宮城の告白を受けた時のようだ。これから俺は告白を受けるんじゃない。綺麗さっぱり別れるための「儀式」に臨むんだから。そう自分に言い聞かせても、胸の高まりは収まらない。それどころかますます高鳴りが大きく強くなってくる。こんなことで大丈夫なのか?雰囲気に飲まれたら危険だというのに・・・。
 更に灯台に近付いていくと、シルエットに立体感と凹凸と濃淡が加わってくる。浜風に揺れるあの髪型は・・・宮城のものだ。他に人影がないところを見ると、宮城だと断定して良いだろう。いよいよ「儀式」の場へ踏み込むのか・・・。緊張感が張り詰める中、俺は平静を装うように一歩一歩前へ進むのを確認しながらそのシルエットの方へ向かう。
 暗闇に慣れた目と微かな光がシルエットの正体を表す。・・・宮城だ。宮城は驚きと嬉しさが入り混じった表情で俺を迎える。俺の表情は・・・多分緊張で固まっているだろう。気持ちは決まっているし、せめて後味悪い別れにならないように言葉を選んでいるのに、何でこんなに緊張するんだろう?

「・・・来てくれたのね。」
「まあな・・・。」

 宮城の歓喜溢れるのをどうにか抑えている口調での第一声に対して、俺はぶっきらぼうに答える。緊張感は変わらないが、口の方は意外に冷静なようだ。俺が宮城の傍まで歩み寄る。白地に朝顔をあしらったノースリーブのワンピース姿の宮城は、何処かお嬢様のような雰囲気を醸し出している。
 宮城は手摺りに両手を置いて海の方を向く。俺の足は自然と宮城の右隣へ向かう。こうやって並ぶもんだ、って宮城の友人達から「指導」を受けたんだよな・・・。あの頃、こうして別れの「儀式」に臨むなんて欠片も思わなかったんだが・・・未来の賽(さい)がどう転ぶなんて分からないもんだ。

雨上がりの午後 第828回

written by Moonstone

 砂浜がコンクリートに変わり、ちゃぷん、ちゃぷんと音を立てて揺れている漁船を横目に、俺は灯台へ向かう。ここにも人影は全く見えない。花火をしている若者連中が居ても不思議じゃないんだが・・・。左手に民家や民宿の明かりがぽつぽつと見えるだけの風景も結構風情があって良い。

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