芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2001年9月30日更新 Updated on September 30th,2001

2001/9/30

[帰ってきました♪]
 慌しくも楽しかった送別会を兼ねた小旅行から帰ってきました。心配だった体調もすこぶる良く、快適な小旅行となりました。写真もいっぱい撮ってきまして、昨日一先ず記録メディアからPC本体に移し、通し番号をつけました。実に約1年ぶりにPhoto Group 1の更新が実現しそうです。写真の選考がありますので、明日の定期更新に間に合うかどうかは微妙なところですが。
 で、帰ってきて間もなく定期更新が待っているという、こちらもこちらで慌しい日程ですが、準備の方は着々と進んでいます。規模としてはあまり大きくありませんが、このページに来られる方の多くが期待しておられる(と思う)作品をお見せできそうです。昨日は1日ぐったり横になる、ということがなかったので。明日の定期更新をお待ちくださいませ(_ _)。

「お兄ちゃん、やるじゃーん。」
「こんな美人のお姉ちゃんにそこまで言わせるなんてさ。羨ましいなぁ。」
「俺もお兄ちゃんみたいに想われてみたいなぁ。」

 ・・・こいつらの言うこと、とても小学生とは思えない。贔屓目に見ても俺の小学生時代よりませてるぞ、絶対に。俺は苦笑いしながら肘の突っつきを受けるしかない。晶子はそんな子ども達に向かって言う。

「ほらほら、お兄ちゃんを羨ましがったりしないの。僕達も好きな女の子が居るんじゃない?その子に好きだって言ってみたらどう?もし両想いだったら、私と隣のお兄さんみたいに羨ましがられること間違いなしよ。」
「う、うーん・・・。そりゃ居るけどさぁ・・・。」
「え、何だ、お前。好きな子いたのかよ。誰だよ、それ。」
「そういうお前だって、5組の誰かさんを視線で追ってるじゃんか。」
「な、何の話だ、俺は知らないぞ。」
「なんだよ、その5組の誰かさんって。」
「俺、初めて聞いたぞ。その話。詳しく教えてくれよ。」
「実はな、こいつ・・・」
「お前、言ったら絶交だぞ!」

 今度は俺の周りで好きな子がいるかどうかとかいう話で盛り上がり始めた。そういう話は何処か違う場所で思う存分やってくれ。兎に角五月蝿くてかなわん。俺を包囲した状態でやられてるもんだから、前後左右から声が飛び交って、五月蝿いったらありゃしない。そう思っていると、晶子が手を叩いて俺の上を飛び交っていた声を止めさせる。

雨上がりの午後 第607回

written by Moonstone

 晶子の言葉を受けて、子ども達の視線が一斉に俺に集中する。そして、ニヤッと笑って−正月にマスターと潤子さんの家で飲み食いしていた時に、マスターが俺と晶子の「進展状況」を聞いてきたことを思い出す−俺を彼方此方から肘で突っつく。

2001/9/26

[明日から少しお休みします]
 かなり前から告知していましたとおり、明日から3日間シャットダウンします。理由は3年間人事交流で私の職場に来ていた同僚が元の職場に戻るので、その送別会を、小旅行を兼ねて行うからです。1日は前準備のために確保しました。
 3年間という期間は、ご本人にとってはどう感じられるのか分かりませんが、私から見ると「あっという間だったな」という思いです。この間に私は過労が限界に達して病院通いをするようになって、それが1年半くらいということを考えると、尚更そう思います。出来れば体調万全な状態で送り出したかったです。
 彼は陽気でそつなく仕事をこなし、ある時間になったら仕事をさっと切り上げて酒を飲むという、ある意味私の目標のような存在です。元の職場に戻るまで1週間もありませんが、本当にお疲れ様でした、と言いたいです(^^)。

「・・・ああ、そのとおりだよ。俺は隣に居る女の人の彼氏。」
「へえー。お兄ちゃんって結構面食いなんだね。」
「こんな美人を彼女にするなんて、お兄ちゃんもなかなかやるじゃん。」

 面食いという言葉まで飛び出して、俺は子ども達から突っ込まれる。大体こうなることは予想できたとはいえ・・・見たところ小学生で面食いはないだろ、面食いは。子ども達の遊び場の真中に入ったのが運の尽きだったな・・・。

「美人って、私のこと?」
「お姉ちゃん以外にいないじゃんか。」
「ふふっ、嬉しいなぁ。お世辞でもそう言われると。」
「お世辞なんかじゃないよ。お姉ちゃん、凄い美人じゃん。どうしてお兄ちゃんのことが好きになったの?」

 おいおい、そこまで聞くか?普通。・・・あ、別にこういう話は年齢に関係ないんだったな。しかし、俺もそうだが、晶子もとんだハプニングに巻き込まれたもんだ。今度は俺が晶子に答えを一存する番だ。さて、どう答えるんだろう?晶子は下唇に人差し指を当てて少し考えると−そうされると俺に言うほどの魅力がないのか、と思ってしまう−、晶子は子ども同様に目を輝かせて口を開く。

「きっかけは私のお兄さんに似てたからなんだけどね、色々お話したり一緒に居たりするうちに、この人は私のお兄さんじゃなくって、一人の男の人なんだ、それに何事にも真剣に取り組める人なんだ、って気付いてね、時間が流れていくうちに、それ以外の全部も好きになっちゃったの。これで良いかしら?」

雨上がりの午後 第606回

written by Moonstone

 どういうかの判断は俺に委ねられた格好だ。・・・仕方ない。ここはひとつ、腹を括って言うしかないか。しかし、子ども達相手に言うってのは、妙に緊張するなぁ・・・。目を輝かせてたりするし。まあ、子ども達なら尚更この手の話が好きなんだろうが・・・こんなに見詰められるとちょっと照れるな・・・。

2001/9/25

[お休みしました]
 月曜日、起きた時どうも身体が気だるかったので、出かける予定を取り止めて安静にしてました。まあ、早く言ってしまえば殆ど寝てたってことです(^^;)。日曜日に一気に作品一つを仕上げて燃え尽きたまま、殆ど体力と精神力が回復してなかったようです。
 また今日から仕事ですが、連休で充分に鋭気を養って・・・という目論見は、見事に外れてしまったようです。もっとも、昨日作品を公開したことは悔やんでいません。久々にギャグを書けて私自身楽しめましたし、何よりこのページが生きている、ということを示せたからです。更新はページが生きていることの証ですからね。
 不意に話し掛けられて俺と晶子ははっと我に帰って周囲を見回す。ダンボールのそりを手に持った子ども達が俺と晶子を取り囲んでいる。

「空を見てたのよ。」
「空?」
「そう。雲一つない空を見て、雲があったらそれに乗って漂ってみたいなぁって思ってたのよ。」
「ふーん。お姉ちゃんって詩人みたいだなぁ。」

 子ども達は晶子の何気ない言葉に感心しているようだ。子どもってのは「大人」が思う以上に感性に富んでいるからな。子どもこそ詩人である、っていう格言もあるかもしれない。

「お兄ちゃんって、お姉ちゃんの彼氏?」

 と思っていたら、いきなり話の矛先が色恋沙汰に変わって俺に向けられる。最近の子どもはませてる、とは思わない。俺も小学生時分からあの子はあの子が好きなんだ、とかいう、それこそ色恋沙汰の話をしていたからな。さて、どう答えたものか・・・。ちょっと照れくさいので、晶子の方を窺って見たりする。

「祐司さんはどうなんですか?」

雨上がりの午後 第605回

written by Moonstone

 晶子も足を伸ばして空を見上げている。徐々に開き始めた花の香りが一足早く優しい微風に乗って運ばれてきたような気がする。

「お兄ちゃん達、何してんの?」

2001/9/24

[燃え尽きたぁ・・・]
 今日の更新でご覧いただけるように、久々に定期更新の谷間を埋める作品を公開することが出来ました。しかし、予想以上に時間がかかったので、体力と精神力を使い果たして燃え尽きてしまい、定期更新の準備にまで手が回りませんでした(^^;)。2日に分けて書けば良かった、と今更思います。
 今日は出かける予定があるんですが、どうしようかな、と思っています。連休最後の日だからゆっくり定期更新の準備をしたいとも思いますし、作品制作で燃え尽きた体を休めたいという思いもありますし。朝起きたときの状態で決めることにします。身体がだるかったら出かけずにお休みして、快調だったら出かけたり定期更新の準備をしようと思います。
 晶子は俺の腕を取って丘へと走っていく。俺は前につんのめりながら晶子の後を追う。既に体力で晶子に負けてしまっているような気がしてならない。・・・少し身体を鍛えたほうが良いな。バイトも体力勝負の面が大きいし。
 程なくして俺と晶子は丘の麓に到着した。近くで見ると意外に大きい。子ども達が悠々と遊べるのがよく分かる。俺は晶子の手を取って丘を登る。ちらっと晶子のほうを見ると、ちょっと驚いたような顔をするが、直ぐに心底嬉しそうな笑みに変わり、俺の後をついてくる。晶子の笑顔を見ていると、体の奥底から力がみなぎってくるように思う。嘘じゃない。それだけ晶子の笑顔は俺にとって強力な、そして大切なものなんだ。改めてそう実感する。
 なだらかな斜面を登って、俺と晶子は頂上に辿り着く。早速晶子は持って来たマットを広げる。俺は片側を持って静かに置く。丁度丘の頂上に色とりどりの雪がうっすらと降り積もった感じになる。その上に靴を脱いだ俺と晶子が座る。「お弁当タイム」の前に、春めいている周囲の風景を見回す。
 この町に来て二度目の、そして晶子と初めて迎える春は、春一番こそきつい一撃だったが、それ以降は殆ど荒れることなく心地良い陽気が続いている。今日もこの陽気が日が暮れるまで続きそうだ。ふと空を見上げてみると、澄んだ青の空が空一面を覆い尽くしている。それを見てゆっくり呼吸するだけでもリフレッシュできるような気がする。

「来て良かったですね。」
「ああ。本当にそう思う。」

雨上がりの午後 第604回

written by Moonstone

「そうだな。あそこが一番座り心地良さそうだし。」
「ね?行きましょうよ。」
「おいおい、引っ張るなって。」

2001/9/23

[最近こんなのばっかしだな(汗)]
 やりたいことはあっても、どうしてもぐったり横になったまま起き上がれない。最近の週末は糸が切れた操り人形のようにぐったり横になったまま過ごしてしまい、何も出来ないことが続いています。来週には定期更新もあるというのにこんなことで大丈夫なのか?(そんなわけない)
 土曜日は結局殆ど横になっていました。今の私には休息が何より必要だとはいえ、こんな状況が続くと定期更新に重大な支障が出てきます。一刻も早く病気を治して週末には作品制作に打ち込めるようにしたいものです。
 今日は何とか頑張って、定期更新の準備とその谷間を埋める作品を一つ作りたいと思っています。早め早めに手を打たないと、土壇場で慌てて結局見送り、なんてことになりますからね。それは避けたいところです。
冬の寒さにほとほと参っていた俺は、最近穏やかな晴れの日が続いていることもあって、バイトの休みと大学の休みが重なる−大学の講義再開はまだだ−今日この日にピクニックに行く約束をした。これが此処までの成り行きだ。
 今日は少し肌寒さが残ってはいるが、風も殆どない快晴だ。ジャケットも冬のようにしっかりチャックを閉めないで、袖だけ通して前は開け放っている。晶子はいきなりブラウスにカーディガンという薄手の服装だが、寒くないんだろうか?

「晶子。寒くないか?その格好で。」
「ええ。今日はこれで涼しいくらいですよ。」

 晶子は笑顔で答える。この笑顔を見ていると、とてもやせ我慢をしているようには思えない。俺は前を開けているとはいっても冬真っ盛りの時にきていたジャンパーだ。コートからいきなりカーディガンに「開花」した晶子が羨ましく思える。何だか弱いところを見せてしまっているようで、俺は少々情けない気分になる。

「祐司さん。あそこへ行きましょうよ。」

 晶子がそう言って俺のジャンパーの袖をくいくいと引っ張る。晶子が弁当の入ったバスケットを持った手で指差す方向には、芝生で包まれた小高い丘がある。そこでは数人の子ども達がダンボールをそり代わりにして滑っている。何度も何度も駆け上がっては滑り、駆け上がっては滑る。大した運動量だ。俺のように運動らしいことといえば、せいぜい家と駅との往復と、家からバイト先の往復、そして家から晶子の家−月曜日のレッスンは今も続いている−の往復で自転車に乗るくらいだ。体力勝負をしたら無様な負け様を見せる羽目になるだろう。

雨上がりの午後 第603回

written by Moonstone

 言い出しっぺは勿論晶子だ。ピクニックだなんて行った覚えもない俺は、晶子から話を持ちかけられたときに思わず「ピクニックって何だ?」と口走ってしまった。晶子は笑いながら、同時に行きたそうに弁当を持って草原とか見晴らしの良いところへ行くことですよ、と説明してくれた。

2001/9/22

[マスコミはまた聖戦の旗を振るのか?]
 緊迫が増しているアフガン情勢ですが、アメリカ国民全員が報復を積極的に支持しているわけではありません。アメリカのマスコミの調査では実に81%が「軍事力を使う前に、犯行の明確な責任者についての完全な確信がなければならない」と答えているのです。そういう「地元」の思いとは別に、国連憲章や国際法を無視して報復行動に出ようとしてるのがアメリカ政府と軍隊であり、それを全面的に支持するのが日本なのです。
 日本のマスコミは先に挙げたアメリカ国民の思いや日本国民の思いを無視して、アメリカがどのように軍事展開し、自衛隊がどれだけ「貢献」できるかに焦点を当ててばかりです。前にも述べましたが、テロに対しては国際法にのっとった非軍事的制裁や容疑者の特定、裁判という道が道理あるものです。マスコミはまた日本国民を戦場に駆り立てたいのでしょうか?
それは後で埋め合わせをすれば良いだろう。今、何より必要なのは、俺と晶子の気持ちが正面から向き合い、触れ合うことだ。晶子の気持ちを逸らさないように、俺がもっとしっかりしなきゃな・・・。

 季節は流れ、肌を刺すような冷気も和らぎ、暖かい南風が草木の目覚めを即すように太陽から受け取った温もりを残して走り抜けていく。人々は厚く重い冬の衣を脱ぎ捨て、目覚めの季節に相応しい厚みや色の衣を纏って心地良さそうに町を歩き、談笑する。長く続いた厳しい冬も呆気なく過ぎ去り、温もり漂う季節がやってきた。

「気持ち良いですねー。」
「ああ。最高の陽気だな。」

 俺と晶子は、歩いて20分ほどのところにある公園にちょっとしたピクニックにやって来た。無論、この公園は晶子が見つけたものだ。家からの行き先が大学かバイト先かコンビニか晶子の家くらいしかない俺には、到底見つけられやしない。
 そこは森林公園も含んだ広大な公園で、野球やサッカーが無理なく出来る程の広大なグラウンドや、子ども連れでも子どもが退屈しないような遊具も揃って居る。おまけに芝生に包まれた、緩やかな傾斜の小高い丘や鯉や鮒が泳いでいる広い池まであったりする。至れり尽せりとはこのことか。
 縦縞シャツに黒のジャケットを羽織り、春物の紺のズボン−去年の大掃除の時に晶子が分かりやすく整理しておいてくれたから助かった−という服装の俺と、若草色のブラウスに白のカーディガンを羽織り、淡いブルーのフレアスカートという服装の晶子は、大学とバイトの休みが重なる今日この日にこの公園に来たわけだ。

雨上がりの午後 第602回

written by Moonstone

 今からでも遅くない。二人の時間をもっともっと大切にしよう。触れ合いの時をもっともっと楽しもう。まかりなりにもパートナーなんだから、助け合って冬を乗り切りたい。・・・俺が助けられてばかりになりそうな気がしないでもないが・・・

2001/9/21

[迷惑なバージョンアップ]
 近年のソフトウェアがバージョンアップする毎に重く、使い辛くなることはもはや珍しいことではありません。私が回路基板のアートワークに使っているソフトウェアもその一例です。システムが変わったのでソフトウェアを乗り換えるしかなかった事情があるとはいえ、以前ならさほど苦もなく出来たことが全く出来なかったのにはショックでした。お陰で大変な手間を強いられることに(怒)。
 ソフトウェアを作る人(というか企業)がハードウェアの高性能化におんぶに抱っこになっている感がして仕方ないです。内容の修正を前提にしたソフトウェアが修正に手間がかかるなんて、利用する側のことを全く考えてないんじゃないかと思うことが多々あります。
 このページを作るのにも一時、某ページ作成ソフトを使っていたんですが、あまりの不便さと重さに耐え切れず、メモ帳を経由してテキストエディタを使っています。やっぱり「シンプル イズ ベスト」でしょうね。
「おいおい。そういう意味じゃないって。俺にとって晶子は特別な存在だから、安易にくっついたり分かれたりしたくないんだよ。」

 晶子の意地悪な問いかけに、俺は苦笑いしながら答えを返す。背後から抱きついている晶子は頬を紅くして−寒さのせいもあるだろうが−微笑んでいる。

「祐司さんなら、きっとそう答えてくれるって信じてました。凄く嬉しい・・・。」
「試すのも良いけどさ、晶子。あんまりそういうことは・・・。」
「分かってます。何処かの誰かさんみたいなことにならないようにTPOは考えて言います。祐司さん、真面目だから、冗談で言ったつもりでも間に受けてしまいかねないですから。」
「・・・それだけ分かってくれてるなら良いよ。さ、出発するぞ。」
「はい。」

 ちらっと宮城のことが頭に浮かんだ俺はちょっと嫌な気分になるが、晶子のフォローで気を取り直す。あの時みたいに、俺の気持ちを確かめようと別れ話や自分への感情の疑問を持ち出されてはかなわない。そんなくだらないことで今を逃したら・・・最悪だ。
 自転車は徐々に加速する。晶子はしかし俺を抱き締める力を緩めようとはしない。俺は口元が微かに緩むのを感じながら夕暮れの町に自転車を走らせる。夜が近付くにつれて磨きをかけた冷気が顔全体に次々と突き刺さる。冬はまだこれからが本番だ。この季節を超えたところに柔らかな日差しと花咲き溢れる季節が待っている。・・・俺の人生とよく似ているような気がする。
 晶子と一緒に居られる今が春か、それとも秋か・・・。もし秋だとしたら早めの冬支度が必要だ。季節の冬は厚手の服を着込んだり暖房を使ったり、温かい食べ物を食すれば凌げる。だが人生の冬は物理的なものでは乗り切れない。可能な限り顔を合わせ、その時間を慈しむ。それが何より大切だ、と潤子さんは言っていたな・・・。

雨上がりの午後 第601回

written by Moonstone

「ええ。普通の男の人なら下心いっぱいで同居しようって答えると思うんですよ。」
「そりゃ、晶子ほどの美人に『同居しませんか?』なんて言われたら、大抵の男は首を縦に振るさ。」
「じゃあ、祐司さんから見て、私はまだまだ美人の域に達してないことになりますね?」

2001/9/20

[祝・連載600回]
 キャプションどおりです(爆)。でも、100回や500回の時ほど感慨深くはないですね。通過点の一つを過ぎた、という感じです。まだ完結の気配すらも見えなくて、4桁に到達するのではないか、という予測が現実味を帯びてきたので尚更そう思えるのかもしれません。
 勿論、連載回数に固執して描きたいシーンをすっ飛ばしたりするようなことはしたくないので、4桁に乗ったときはそのときです。別に1000回数えたからといって某OSのように強制終了、なんてことはないです(笑)。
 更新の度に読んでくださっている方がどのくらいいらっしゃるのかは分かりませんが、殆ど毎日の更新に付き合ってくださってありがとうございます(^^)。これからも季節の移ろいを感じながらご一読くだされば幸いです。
光熱費や水道代もそれなりに必要だし、レパートリーを増やすためにCDを買ったりするにも金が必要だ。仕送りがあってバイトで稼いだ金を丸々貯金できる晶子と同居すれば、生活の心配はなくなる。だけど・・・

「晶子。気持ちは凄く嬉しいけど・・・同居まではしない方が良いと思う。」
「どうしてですか?」
「俺と晶子はそれぞれ親の仕送りと学費の支払いで毎日を過ごしてる身だ。そんな状態で同居するのは、親を騙すことと同じじゃないか?俺の両親からすれば女と、晶子の両親からすれば男と同居させる為に仕送りまでして大学に通わせてるわけじゃない、ってな。」
「それはそうかもしれないですけど・・・。」
「それに俺は、バイトと大学をしっかり両立させるつもりだ。講義を真剣に聞いてノートを取って、万全の態勢で試験に臨むようにする。バイトも今まで以上に楽しく、そして真剣にする。晶子や親に余計な負担をかけさせないようにな。」
「祐司さん・・・。」
「それが当たり前のことなのかもしれないけどさ、俺は俺なりに精一杯やっていく。もしどうしても身動きが取れなくなったら晶子の助けを借りようと思う。図々しいだろうけど、これで納得してくれないか?」

 俺が若干自嘲の篭った笑みを浮かべると、晶子が俺を抱え込むようにしっかりと抱き締める。背中に感じる柔らかい感触がより一層はっきりする。

「晶子・・・。」
「やっぱり祐司さんって真面目な人ですね。」
「真面目って・・・言うのか?こういうの。」

雨上がりの午後 第600回

written by Moonstone

 晶子の言うことは理解できる。講義の質と量が増せばバイトの時間を削減する必要に迫られるかもしれない。そうなると当然生活が圧迫される。晶子や潤子さんが用意してくれる夕食は別として、朝食と昼食は−平日は大学の学食だし、大学が休みの日はコンビニの弁当だ−自分の財布から出さないといけない。

2001/9/19

[昨日の続きになりますが]
 1年程前はそれほど苦もなく予約が取れた通院先が、予約を取るのが至難の業になるほどに「心の病」を抱える人が増えたという事実。これはもはや個人レベルの問題ではないような気がします。職場や学校、そして自治体や国レベルで対策を講じるべき段階に達しているのではないか、と思います。
 根性論で片付けるのは過去の話で時代錯誤も甚だしい。心が身体に影響を及ぼすことが間違いない以上、心の問題、即ち「心の病」をどうにかしない限り、自殺者は増加の一途を辿るでしょう。リストラという名の首切り、先の見えない不況、複雑な人間関係、常に競争に晒される日常。原因は様々ですが、大体見えている筈です。だからこそ個人レベルではすまなくなってきたと言うのです。
 「程々で良い」と言いつつ「程々」では蹴落とされ、捨てられてしまい、救われることもない事実。現代社会はそんな大きな矛盾を抱えています。「心の病」を抱える人の増加は現代社会の歪みを反映しているのではないでしょうか?
 俺は思わず両方のブレーキを力いっぱい握る。勿論自転車は止まり、旧停止した反動で前につんのめる。もう少しスピードが出ていたら、反動で二人揃って自転車から放り出されたかもしれない。

「い、いきなり何だよ?!あー、びっくりした。」
「突然で御免なさい。でも、そうした方が良いんじゃないかな、って思ったんです。」
「・・・そりゃまた、何で・・・?」
「今日、朝御飯食べてた席で潤子さんに言われたんです。祐司さん、これからどんどん大学が忙しくなってくるだろうし、それに併せてバイトの時間を減らしたりして、私と顔を合わせる時間が減ってくるだろうから、二人で過ごす時間を大切にしなさいね、って・・・。私は祐司さんに比べたら生活も大学の講義数もずっと楽だから、私がフォローできることはフォローしたいんです。」

 そうか。潤子さんは晶子にも俺に言ったことと同じことを言ったのか・・・。晶子はそれを受けて、自分が出来ることを模索してたんだな。そのこと自体は勿論嬉しい。でも、何でそれが同居に直結するんだ?

「晶子が俺のことを気にかけてくれるのは嬉しいよ。だけど、何で同居まで話が飛躍するんだ?」
「バイトの時間が減ると祐司さんの生活が苦しくなるでしょ?祐司さんは私と違ってバイトで稼いだお金を生活費の足しにしてるんですから。同居すれば、生活費を二人で賄えますし、祐司さんが苦手な食事や掃除の面でフォローが出来ると思うんです。」
「・・・。」
「それに・・・帰るところが一緒なら、互いに安心できると思うんです。何れは自分が居る場所に相手が帰ってくることが分かってますから・・・。」

雨上がりの午後 第599回

written by Moonstone

「ねえ、祐司さん。」

 後ろに居る晶子が声をかけてくる。俺は自転車のスピードを少し落す。

「何だ?」
「いっそ・・・一緒に暮らしませんか?」

2001/9/18

[病院の洒落にならない混雑]
 私は持病のために毎週1回通院しているんですが、その通院先の混雑は行く度に増していっているような気がします(汗)。何せまず予約が取れません。予約が取れないと後回しになっていくので(予約優先なので)取りたいのは山々なんですが、予約を取る段階になってみるともういっぱいなんですよね。
 通院を始めた頃は予約を取るのはそう難しいことではなかったんですが、約1年を経過して通院先の状況は大きく変わりました。それだけ「心の病」を抱えてしまった人が居るということなんでしょうか?
 では何故「心の病」を抱える人が増えてきたのでしょう?以前のように心療内科や精神科に対する偏見が多少なりとも緩和されて敷居が低くなったこともあるんでしょうが、日頃ストレスだらけの生活をしている人が多いということなのではないか、と思う今日この頃です。私も1日の半分くらいは始終ストレスに晒されているようなものですからね(汗)。

「長話に付き合ってくれてありがとう、祐司君。私はお店の方に戻るから、ゆっくり食べててね。食べ終わったら食器は流しに置いておいて貰えば良いから。」
「はい。」

 潤子さんは席を立って店の方へ小走りで向かう。薄く聞こえる曲は「HEAD HUNTER」がとっくに終って、「LOVE FOR SPY」に変わっている。俺は食事を再開してそのスピードを上げる。力の篭ったマスターの演奏を聞いているうちに、俺もギターを弾きたい衝動に駆られてきた。
 食べ終えると俺は食器を流しに運び、生ゴミを三角コーナーに捨てると、走って店へ向かう。新年最初の演奏曲は俺の中ではもう決まっている。俺と晶子を結わえるきっかけになったあの曲、そう、「AZURE」だ・・・。

 それぞれのレパートリーが入り乱れた4人だけの新年コンサートが終了して、東から急速に迫る夕闇の中、俺と晶子は帰路に就く。俺は一旦俺の家に晶子の荷物を取りに戻り、晶子をマンションに送り届けて、久しぶりに家で一人になることになる。
 明後日からバイトが始まる。振り返ってみると本当にあっという間の年末年始だった。その間、ずっと晶子が傍に居た。晶子が今日自分の家に戻るのが、同居していた俺と別れて俺の家から去っていくような気さえする。
 潤子さんの言ったことが思い出される。二人で居られる時間を大切に・・・。経験者の言葉だけに俺の心にずしんと響いた。2年になったら専門教科の数も増える上に初めて見聞きする内容が予想されるだけに、今の一般教養のように、ただ出席してテストを受ければ単位取得、とはいかないだろう。場合によってはバイトの時間を減らす必要に迫られるかもしれない。
 そうなると、晶子と顔を合わせる機会も減ってしまう。同じ学年とはいえ、俺と晶子は学部が違うから一般教養以外では大学での接点がない。講義の始まる時間や下校時間も高校までのように毎日一緒じゃないから、尚のこと接点が減ってしまう。だから余計に二人で居られる時間を大切にしないといけない。その時余計な勘繰りは禁物だ。それが原因で喧嘩別れなんて洒落にならない。

雨上がりの午後 第598回

written by Moonstone

 潤子さんの表情がようやく緩む。それを見た俺は、両肩に圧し掛かっていた恩苦しさがすうっと消えていくのを感じる。兎に角恋愛は相手は勿論自分を信じること。それが出来たからこそ、マスターと潤子さんは会えない寂しさや別の恋の誘惑に負けることなく、ゴールインできたんだろう。俺もそれに続きたい。そのためには・・・俺がしっかりと晶子を惹きつけておかないことにはな・・・。

2001/9/17

[2冊目も読破]
 金曜の夜に買った「ブギーポップ」最新刊2冊(昨日と同じような出だしですね(^^;))。昨日の1冊目に引き続き、日曜日は本来の最新刊を読破しました。感想を一言で言うなら「悪運の強い奴は何処までも悪運が強い」ってことですね。あれだけの目に遭って始末されなかったりあえない最期を遂げたりしないなんて、悪運が強いとしか言えませんよ(笑)。
 2冊を読んでみて、読者の目を離させない展開や台詞の言い回しなどは、やはり激戦を勝ち抜いてプロデビューされただけのことはあるなぁ、と素直に思いました。今私が書いている(止まってるのもありますが)作品が果たして続きを一刻も早く読みたい、と思われるものかどうか、悩むこともあります。
 でも、ちょっと言い訳がましいかもしれませんが、好きで書いているのと思い入れがあるのが重なって、こうしてちまちまと更新を続けているんですから、これからもそのスタンスで良いんじゃないかな、とも思います。毎日更新してるとどうしても仕事感覚になってくるので、その辺、見直しが必要なのかもしれませんね。
 俺の質問に、潤子さんからの即座の回答はない。それが俺の中にある不安をより一層増幅させる。「経験者」の潤子さんでも分からないとすれば、一体どうやって困難を克服したっていうんだろう?ひたすら相手を想い続けるしかないとでもいうんだろうか?

「・・・やっぱり・・・二人の時間を大事にすることに尽きるんじゃないかしら。」
「俺は、晶子より前に付き合っていた女と遠距離恋愛してたんですけど、二人で居る時間は大事にしてきたつもりです。でも、相手は身近な存在とやらに目移りして、挙句の果てに別れを唆して俺を試したんですよ・・・。どうすればそんなことにならずに済むか、明確な答えが欲しいんです。」
「そっか・・・。祐司君が以前ささくれだってたのは、付き合ってた女の子にふられたのが原因だったんだっけ・・・。」

 潤子さんは頬杖をつくのを止めて、両腕をテーブルにおいて俺の方を向く。

「正直言って・・・さっき私が言った手段以外、最善の方法はないわ。あとは相手の想いの強さと向きを信じるしかないと思う。」
「そんな・・・。」
「これなら大丈夫、っていう手段を教えられなくて御免ね。でも、私とあの人はそうして来たし、祐司君も晶子ちゃんもそれが出来るタイプだと思う。祐司君が前に付き合っていた女の子はそれが出来なかった。それが悪いって言うつもりはないけど、結果的にその女の子が祐司君以外にも目を向けて比較したりしたところが、二人の別れに繋がることになったと思うのよ。」
「・・・。」
「祐司君。晶子ちゃんを信じてあげて。晶子ちゃんなら祐司君の気持ちを裏切ることはないと思う。ううん、裏切ったりしないわ。」
「俺も・・・そう信じてます。信じたいです。」
「・・・ありがとう。」

雨上がりの午後 第597回

written by Moonstone

「・・・どうすれば良いんですか?」
「え?」
「気持ちの強さや向きを自分の方に向け続けさせるようにするには、どうしたら良いんですか?」

2001/9/16

[まずは1冊読破]
 金曜の夜に半ば衝動的に買いに走った「ブギーポップ」最新刊2冊。そのうち1冊を土曜日に読破しました。あまり内容を詳しくお話するとネタバレになってしまいますので詳細についてはお話しませんが、読み終えて「人はここまで嘘をつけるものなのか」と思いました。考えさせられる話でしたね。はい。
 その後は食事の準備と食事以外は殆ど横になっていました。あ、読んでるときも横になってました(爆)。私の病気は休養が大切ですし、今度の定期更新の準備も済ませてありますので、無理に公開作品を増やそうとしないで休むことにしました。
 そういうわけですので、明日の定期更新は小規模なものになります。もう1冊を(こちらが本当の最新刊)読破するのと休むのとで、日曜日は過ぎていくでしょう。完全に復調するまでは身体にあまり負荷がかからない道を選ぶことにします。
「・・・はい。」
「二つ目は、あの人が昔してたように彼方此方のお店を回って演奏して、稼ぐと同時に腕前を磨こうとしたり、オーディションやコンテストにエントリーしたりするなら、必然的に晶子ちゃんと顔を合わせる時間が減るってこと。昔の私とあの人と同じように、顔を合わせるのが難しくなると思うわ。そこでどれだけ自分の気持ちを維持できるか、これが一番大事で難しいことだと思うわ。」
「潤子さんとマスターはそれが出来たんですよね?」
「ええ。でも辛かったわ。女の子は待つことと我慢することが苦手な生き物だからね。」
「・・・。」
「崩れ易い女の子の気持ちをどれだけしっかり掴めるか・・・。男の子の側からすれば身勝手なことかもしれないけど、そこが男の子の腕の見せ所じゃないかな。」

 高校時代、宮城と付き合ってたときは自然に接していればトラブルはなかった。そりゃ男友達やバンド仲間との話に熱中して、隣に居た宮城がむくれたりすることはあったが、宮城の方に意識を向ければ直ぐに収まった。
 俺がこの町に住むようになってからも、宮城との付き合いは概ね順調だった。だが、宮城は『身近な存在』というバイト仲間の方にも意識を向けていたようだし、二度も俺を試す行為に出て、その二度目で俺は宮城に捨てられたと確信して宮城の望みどおり−実際は違ったらしいがそんな勝手は認めない−関係の終わりを告げた。
 あんな思いはもう沢山だ。試さなくても俺の気持ちが晶子の方だけを向いていることと、晶子が俺の方だけを向いているようにするには、具体的にはどうすれば良いんだろう?

雨上がりの午後 第596回

written by Moonstone

「そうよ。プロを目指す人は数多く居るわ。そして腕前もそれこそ即プロになってもおかしくないくらいの人が居る。だから、祐司君は今の腕前に安住してたらプロになるのはまず不可能よ。偶然なったとしても直ぐに鍍金(めっき)は剥がれるわ。」

2001/9/15

[久しぶりに買いました]
 一時このコーナーでも熱くお話していた(笑)「ブギーポップ」シリーズ。最近とんと話題に出なくなって「もう飽きたか」と思われた方も居られるかもしれません。いやいや、待ってたんですよ。新刊が出るのを(^^)。
 金曜日、帰宅して食事を済ませてから横になっていたとき、某ページの掲示板(「ブギーポップ」シリーズを知った場所でもある)で新刊の話が出ていたのを思い出して、今日の買出しついでに買いに行くか、それとも今すぐ行くか、とちょっと迷ったんですが、買出しついでに買おうとするとアップダウンが激しいので、すぐ行くほうを選択して買ってきました。2冊。・・・新刊、もう1冊出てたのね。一言言ってくれれば良いのに(どうやって言うんだ)。
 まだ読み始めたばかりですが、私の好きな谷口正樹と織機綺の話があると良いな〜、と思っています。この週末は久しぶりに読む方に回って読破するぞぉ!・・・え?更新?た、たまにはのんびり読書に耽っても良いじゃないかぁ(逃)。

「祐司君は進路のこと、どう考えてるの?」
「・・・正直言って迷ってるんです。このままギタリストとしてプロを目指すか、それとも無難に官庁や企業に就職するか・・・。音楽や演奏を飯の種にするか趣味に留めておくか、晶子とも前にそういう話をしたことがあるんです。」
「晶子ちゃんからも今朝の食事の席で聞いたわ。晶子ちゃんは、もし祐司君が企業や官庁に就職するなら家庭の方にウェイトを置いた職探しをするし、プロを目指すつもりなら、祐司君が世に出るまでの二人分の食い扶持は何とかするつもり、って言ってたわ。」
「俺と話したときの回答と同じですね。無難な道を選択する場合のことは話さなかったですけど。」
「祐司君がどちらを選択するかは自由だけど、これだけは覚えておいて欲しいことがあるの。」

 潤子さんの表情が真剣みを急激に増す。味噌汁を飲んでいた俺は思わず器をテーブルにおいて神経を潤子さんに集中させる。潤子さんの真剣な表情には、それだけの迫力というか、そういうものを溢れ返るほど感じる。

「まず一つ目は、プロのミュージシャンになるのは厳しいってこと。あの人は昔、彼方此方のジャズバーを席巻していた腕前の持ち主だけど、何度か受けたオーディションを勝ち残ることは出来なかったのよ。」
「マスターがですか?!」

 俺は思わず聞き返す。マスターほどの腕前なら何処かのレコード会社やプロダクションからお呼びがかかっても不思議じゃないと思うんだが・・・。

雨上がりの午後 第595回

written by Moonstone

 店の方から薄く流れてきていた「Still I love you」が終り、続いてアップテンポの「HEAD HUNTER」に変わる。マスターは演奏したい曲をここぞとばかりに演奏するつもりなんだろうか?演奏を聞いているであろう晶子はどう思っているのか、ちょっと気になる。そこに潤子さんから問いかけが俺に送られる。

2001/9/14

[だから報復は駄目だって]
 アメリカで起こった空前の規模のテロに対して、アメリカは「テロを起こした相手には手段を選ばない」という趣旨の声明を発表しました。昨日もお話しましたが、報復攻撃は自体を泥沼化させるだけです。今までアメリカに対して行われたテロに対して、アメリカは国連を通さずに独自にテロの拠点と決定した(特定した、ではない)地点に報復攻撃を仕掛けて来ました。
 これ自体、まかりなりにも国連本部を置く国のやり口ではありませんが、スーダンのテロ拠点と決定して報復攻撃した場所は、実は国連認定の医薬品工場だった、ということもあったのです。報復を口実に八つ当たりじみたことをすれば、逆にアメリカが批判されることにもなりかねません。
 そして日本の首相はアメリカの行動に全面的な支持を表明しました。これではテロ組織から見れば、日本もアメリカの手下だ、と認識されてしまいます。ここは、あくまで冷静に国際法と国連を通してテロ組織を裁くことを提案するべきでしょう。
「・・・ああ、あの時の。」

 俺は魚の皮と骨を取って食べ始めながら思い出す。晶子は目を見開いて興奮気味に俺を称賛した。あれが晶子の中で俺への想いを決定的なものにしたのか・・・。俄かには信じられないが、自分の演奏が人の心を動かしたなら、それはそれで嬉しいことだ。

「それに加えて、今まで冷たくあしらわれていたところに、祐司君から音楽を教えてもらう機会が出来たでしょ?そこで祐司君が厳しいけど親身になって教えたことで、晶子ちゃんは祐司君のことを、自分が毛嫌いしている相手でも必要なら親身になれる人なんだ、って好感を更に高めたんだと思うわ。」
「あの時にしてみれば、嫌われようとしたところが裏目に出てしまったんですね。」
「嫌われようとするならとことん邪険に扱わなきゃ駄目よ。祐司君はそこで祐司君本来の性格で親身になったから、祐司君は厳しいけど親身になってくれる人なんだ、って晶子ちゃんの心をがっしり掴んじゃったんだと思うわ。」
「うーん・・・。難しいですね。人との交流ってのは。」
「だから人生は苦しい時もあるし、逆に幸せな時だってあるのよ。今が丁度、祐司君にとっては後者の時期でしょ?」
「ははは。そのとおりです。」

 苦笑いと照れ笑いをごちゃ混ぜにした笑みが俺の口元から零れる。潤子さんは柔和な微笑を浮かべながら俺の向かい側の席に座る。頬杖をついて俺の方を見る潤子さん。何かのCMにありそうな構図に、俺は内心ドキドキしつつ、潤子さんとの会話を交えながら食事を進める。

雨上がりの午後 第594回

written by Moonstone

「きっかけではあったと思うけどそれ以上のものじゃないわね。それよりも・・・ほら、祐司君、晶子ちゃんが初めてこの店に来た時に『AZURE』を弾いてたでしょ?あの時の祐司君は演奏が楽しそうだったし、音楽を演奏するのが好きなんだ、って雰囲気だったわ。あれはかなりインパクトが強かったんじゃないかな。」

2001/9/13

[テロは許しちゃいけませんが]
 日本時間で火曜日の夜、アメリカでテロとしては恐らく史上最悪の事件が発生したのは、もう皆さんもご存知でしょう(私はラジオで第一報を聞きました)。民間人を巻き添えにしたこのテロ事件は、容赦する余地はありません。手口からして恐らく組織的なテロ団体は厳しくその犯罪を問われなければなりません。
 しかし、一方でアメリカが特定の国を「ならず者国家」として時に一方的な攻撃や経済制裁を加えたり、ユダヤ擁護の立場でイスラエルの所業に対して寛大で、アラブ国家から反発を買っていたことも事実です。「世界の警察」を気取って水面下での敵対心を煽っていたのです。他国に自分のやり口を強要する外交のあり方を見直す契機にして欲しいです。
 また、テロを食らったから、といって報復攻撃を行っては事態を泥沼化させることになりかねません。アメリカには冷静な対処を求めたいです。まずは被害者の救済が先決。それから容疑者や背後関係を特定するのが国家の取るべき態度だと思います。
 潤子さんは魚を焼いていた火を止めて、魚を皿に盛り付けて味噌汁を器に入れて俺の前に置く。そして伏せてあった茶碗を手に取って炊飯器を開けて、湯気がぼわっと立ち上る中から御飯をよそって俺の前に置く。そして空の湯飲みに熱い茶を注ぐ。最初からあった漬物を加えて、立派な朝食兼昼食の完成だ。
 それにしても、潤子さんの言ったことが気になる。第一印象を決めるのはルックスと全体の容姿、服装のセンスといったところだろう。今まで連戦連敗を続けて来た俺が、ルックスが悪いからふられたんじゃないとすると、一体何が連戦連敗の原因になったというんだろう?

「潤子さん。ルックスが問題じゃないとしたら、何が問題なんですか?」
「多分、雰囲気よ。」
「雰囲気・・・?」
「ルックスや服装のセンスもそれなりに重要だけど、その人の内面や趣味嗜好が重なって出来た雰囲気がその人から滲んでくるのよ。女の子はそれを敏感に感じ取って、窮屈に感じたり趣味に合わないと感じたりすると、御免なさいってなっちゃうの。」
「・・・今まではドキドキしながら好きだって言ったんですけど、駄目で元々、って思ってました。それが駄目だったんですかね。」
「それはあると思うわ。自信のなさっていうのは、本人は気付かないけどかなり外に出やすいものだからね。多分その時の女の子は、自分に自信がないってことは私を好きでい続ける自信もないのね、って思って、『御免なさい』になったんじゃないかしら。」
「そうですか・・・。晶子は俺が晶子の兄さんに似てるからってことで追い回してたんですけど、これは例外ですよね?」

雨上がりの午後 第593回

written by Moonstone

「過小評価も何も、今まで告白する度に嫌いじゃないけど付き合えない、とか、お友達なら良いけど、とか言われてきた身ですから。」
「それは・・・ルックスの問題じゃないわね。」

2001/9/12

[長続きしません]
 今の私には、緊張感や態勢を長時間維持できるほどの体力がありません。直ぐに眠くなっておまけに体がだるくなってくるんですよね。仕事も休み休みしながら続けている状態です。先日病院へ行ったのですが、「凄く疲れた顔をしている」と言われてちょっとショックだったのと同時に、ああやっぱりか、と思ったり。鏡で自分の顔を見ても、かなりやつれて見えるんですよね。
 この日記も休み休みしながらお話しているほどです。座るだけでも体力がじわじわと削られていくように感じるんですよ。いい加減こんな状況から脱却したいと思って効き目の強い(副作用も当然強い)薬を飲んでいるんですが、副作用の方しか発揮されていないような気がしないでもないです(汗)。早く良くなりない。今願うことはいつ叶うんでしょうか?
「でも、今の祐司君は過去を乗り越えて晶子ちゃんを受け入れてるし、晶子ちゃんも祐司君の過去と合わせて受け入れてる。・・・良い関係じゃないの。」
「ええ、そうですね・・・。」
「祐司君。晶子ちゃんを大切にしてあげてね。昨日の夜は晶子ちゃんにあれこれ言ったけど、肝心要の祐司君がしっかりしてないと、晶子ちゃんが悲しい思いをすることになるから。勿論、無理はしなくて良いけど、二人の時間くらいは大切に過ごして欲しいの。」
「そのつもりです。」
「昨日ちらっと話したけど、私とあの人は全然違う仕事をしてて、必然的に活動時間もずれるから、会う機会を持つのも大変だった時が長く続いたのよ。」

 潤子さんは味噌汁の入った鍋をかけたコンロの火を止めて、再び魚をひっくり返しながら話を続ける。目が後ろにも付いているみたいだ。

「そんなときでも、私はあの人を想っていたし、あの人も私を精一杯想ってくれたわ。一緒に過ごす時は楽しく、でも真剣に過ごしたわ。この人とならずっと一緒にいたい。気持ちがそこまで高ぶったから結婚したの。」
「昨日マスターが言ってましたよね。会えないから嫌いになるんじゃなくて、会えないことを理由にして嫌いになるって。」
「そうよ。だから祐司君は晶子ちゃんと会えない日が続いても、晶子ちゃんを想っていて欲しいの。」
「もう二度とないチャンスだと思ってますから、尚更今の晶子との絆を大切にしたいです。」
「んー、祐司君、結構モテそうなルックスだと思うんだけどなぁ。どうして過小評価するの?」

雨上がりの午後 第592回

written by Moonstone

「辛い思い出はそう簡単に昇華されないのよね。ほろ苦い思い出になっても、ふとした拍子で元の色合いと苦さを取り戻して・・・。」
「そのせいで、晶子にはかなり辛く当たったときもありましたよ。また俺を騙そうとしてる、また俺を傷つけようとしてる。・・・そんなことしか考えられない時期が続きました。」

2001/9/11

[鳴らない電話]
 本当なら月曜日に電気店からエアコンの調子はどうか、某社からは事情説明の電話がある筈で、帰宅してから食事の準備をして夕食を食べて、テレビを見て(途中居眠りあり)洗い物をしてラジオを聞いていながら待っていたんですが、一向に電話が鳴る気配はなし。予定時刻を2時間以上過ぎても電話が来ないので、諦めると同時に腹立たしい思いです。
 まあ、エアコンは調子良く動いてますからまだ良しとしても(一体あのトラブルは何だったのやら)、事情説明を約束した某社は一体何をしているのか?今日改めて抗議と事情説明要求の電話をかけるつもりです。
 普段実家からくらいしか鳴らない電話を待ち侘びて、結局鳴らなかった電話。実は電話恐怖症の私が電話を待つなど珍しいことなんです。まったく・・・約束は守って欲しいものです。電話越しでもその重みは変わらない筈です。
でもあの曲はテンポを取るのが難しくて、お客さんが混乱するからってことでレパートリーから外したってことは、前に祐司君に話したわよね?」
「はい。」
「でも、お店がお休みのときは必ずと言って良いほど、あの曲を演奏するのよ。あの人はサックスを吹くのが大好きだし、自分が好きな曲を演奏するのが楽しくて仕方がないのよ。だから表向きにはお蔵入りさせたけど、自分の中ではレパートリーで1、2を争う曲になってると思うわ。」
「根っからのサックス奏者なんですね。」
「そうそう。一回、私とサックスのどちらが大切なの?って聞いてみようかしら。」

 潤子さんは再度魚をひっくり返して、俺の方を向いて笑ってみせる。答えは分かってるんだろう。潤子さんとサックスとは比べられないって。それが分かっているからこそ、二人は夫婦で居られるんだと思う。
 『Break out』が終わり、続いて『Still I love you』の甘美な音色が流れてくる。この曲を耳にするとほろ苦い記憶が蘇る。宮城に捨てられて−あれが宮城からの「変化球」的な想いの試験だったと言われても、俺の認識は変わらない−間もない頃、マスターが俺の心の癒しとして演奏した一曲だ。あれから結構日も経ったが、今尚このメロディとサックスの音色が心に染みる。

「あら、今度は『Still I love you』ね。これ聞くと、涙出てこない?祐司君。」
「はは、ちょっと・・・目頭が熱くなりますね・・・。」

 苦笑いする俺に、潤子さんは優しく微笑む。

雨上がりの午後 第591回

written by Moonstone

「今年も、って毎年やってるんですか?」
「そうよ。あの人、『Break out』が相当お気に入りでね、あれが入ったアルバムが出て直ぐにシーケンサのデータ作ったのよ。

2001/9/10

[力が出ない・・・]
 土曜日に引き続き、日曜日も日中殆どぐったりと横になっていました。腹の具合も悪くしたのと病気の回復の遅れが重なって、起き上がるだけの体力も殆ど奪われて、さらに創作意欲も湧かないので(これが一番致命的)、体力がある程度回復するまで横になってたら夜を迎えた、という感じです(汗)。
 夜になって多少体力が回復したので、ページの更新準備や連載の執筆をちょこちょことやりました。湿度が異様に高かったのでエアコンのドライ運転で湿気を取ろうとしたら、タイマーの設定もしてないのに勝手に止まるという不運が重なる(泣)。実家を通して購入した電気店に問い合わせたら、「この時期そういうことが起こりやすいので、フィルターを掃除して1日様子を見てください」とのこと。このお話をして言う時点では快調に動いているので「?」です。
 また今日から体力&精神力勝負の日々が始まるわけですが、この週末の様子を振り返ると不安でなりません。無理をしないように心がけたいと思います。
「じゃあダイニングに行きましょう。祐司君の分も朝昼兼用で食事作っておいたから。ここに来る途中で見たと思うけど。」
「ああ、蚊帳みたいなのを被せてあったあれですね。」
「そうそう。晶子ちゃんは少し休憩しててね。」
「はい。」
「その間、俺が今年最初のステージに上がるかね。」

 マスターと潤子さんがそれぞれ席を立つ。俺は潤子さんの後を追ってダイニングへ向かい、晶子はステージを降りてマスターと潤子さんが座っていた席の隣の席に座る。ステージに上がったマスターはアルトサックスをケースから取り出し−大掃除のときに仕舞った−、同じくケースに仕舞ってあったリードを取り付けて演奏の準備に入る。何を演奏するのか、ちょっと気になる。
 椅子に座って、潤子さんが魚の干物を焼き始めるのを見ていると、ブロウが効いたアルトサックスと共にそれに合わせた楽器音とドラムが、激しいイントロを奏でる。これは確か「Break out」だ。マスターがどうにかシーケンサのデータを作ってみたまでは良かったが、拍子を取るのが難し過ぎて客が混乱する、という理由でお蔵入りになったといういわくつきの曲だ。アップテンポのリズムに乗って、マスターのサックスが聞こえる。新年は豪快に行こうぜ、と言われているような気がする。
 「Break out」が薄く流れてくる中で、魚が焼ける匂いがダイニングに漂う。魚を焼きつつ、味噌汁の火加減を調整する潤子さんの後姿が醸し出すほのぼのした様子と、耳に届く曲調のアンバランスさが凄い。

「あの人、今年も最初は『Break out』ね。」

 魚を裏返して潤子さんが言う。

雨上がりの午後 第590回

written by Moonstone

 あれだけ飲んでたというのに・・・やっぱりこの夫婦、相当の酒飲みらしい。

「あ、それはそうと祐司君。お腹減ってる?」
「え、あ、はい。」

2001/9/9

[どうにか復帰です(^^;)]
 今週は週の半ばを中心に心身の調子を著しく崩してしまって、突然お休みをいただきました。どうにか持ち直しましたが、まだ油断ならないだけにまた突然お休みをいただくことになるかもしれません。予めご了承ください。
 来週の定期更新の準備をそろそろ始めないといけないんですが、どうもやる気が起こらないし身体の調子もあまり良くないし、で日中殆ど横になってました(汗)。かなり骨休みにはなりましたが、折角の休日なのでどうにか定期更新の準備を進めたいと思います。自分の無理にならない範囲でですけどね。

「おっ、祐司君。晶子ちゃんが『Stand up』を歌ってたんだぞ。どうだった?」
「最後の方しか聞けなかったんですけど、数日前に軽い音合わせをしたときより上手くなってたと思います。」
「担当の祐司君のお墨付きも得られたんだから、本格的に練習したら?」
「はい。そうします。」

 晶子は嬉しそうに答える。俺はマスターと潤子さんが座っている席の隣の席に腰を下ろす。

「祐司君、もしかして昨日疲れてたの?晶子ちゃんは10時ごろ起きて祐司君を起こそうとゆすったり声をかけたりしたけど、全然目を覚ます気配がなかったって言ってたわよ。」
「別にそれほど疲れてたわけじゃないと思うんですけど・・・、酒が大量に入ってたせいですよ、多分。」
「それなら良いんだけど・・・明後日からお店開けるから、体には気をつけてね。勿論、晶子ちゃんもね。」
「「はい。」」
「マスターと潤子さんの方は大丈夫なんですか?」
「あれくらいなら平気だよ。ぐっすり寝られたしな。」
「私も全然二日酔いなしよ。」

雨上がりの午後 第589回

written by Moonstone

 晶子がキッチンから出てカウンターのところに居た俺の存在に気づいて呼びかける。マスターと潤子さんはその呼びかけに応じて俺の方を向く。俺はマスターと潤子さんの居る席の近くまで小走りで行く。

2001/9/6

[辛いです・・・]
 仕事は全く進まず、あろうことか以前片付けた筈の問題が再び発生して、その原因が全く分からず、重く暗い一日でした・・・。食事もまともに食べていません。栄養剤や某栄養食品が頼りです。胸が押し潰されるような思いに苛まれていました。
 明日以降もその問題が片付かないと思うと、もう仕事が嫌でたまりません。水曜日も「死」の文字が何度も頭を過ぎりました。こんな精神状態ではまともに更新できる筈がないので、勝手ながら明日から少しお休みをいただきます。
 挫折や失敗が数え切れないほど続く今の仕事から解放される日が、これでまた遠くなったようです。そんなに悪いことをしたんでしょうか?こんな拷問のような日が続くなんて、もう嫌です・・・。
 三人が何処に行ったのか、という疑問は直ぐに解けた。ダイニングと廊下を挟んで繋がっている店の方から透き通った歌声と楽器音が聞こえてくるからだ。曲は新しいレパートリーにほぼ内定した「Stand up」。まだシーケンサのデータを作ってないのに、どうして原曲どおりの楽器音やさらにはバックコーラスが聞こえてくるのか不思議に思って−MIDIではバックコーラスは出来ない−、俺は店の方へ向かう。
 店のキッチンに顔を出して見ると、ステージに照明が当てられ、そこで晶子がマイクスタンドに据え付けられたマイクに右手だけを添えて歌っている。その正面やや後方の二人用の席に、マスターと潤子さんが座ってステージで歌う晶子を見ている。二人とも身体が自然にリズムを取っている様子からして、歌に好印象を持っているようだ。
 キッチンに下りてオーディオ機器を見て、原曲どおりの楽器音とバックコーラスの「発生源」が分かる。CDデッキが曲の演奏時間を刻んでいる。晶子が持っていたアルバムに入っていた原曲には歌が入っていたから、多分シングルにあるインストルメンタル・バージョンを使っているんだろう。
 「Stand up」と張りのある歌声で晶子が歌い終わるとCDの演奏も同時に止まり、マスターと潤子さんだけの客席から最大限の拍手が起こる。ブラウス姿の晶子は満足げな表情で額の汗を拭う。その様子は「綺麗な女子大生」ではなく、「一人の若手シンガー」だ。

「上出来、上出来。今までのレパートリーにないポップスタイプの歌だから、客の受けも良いと思うよ。」
「練習期間が短いって言う割にはしっかり歌えてたじゃない。祐司君とも相談してだけど、これはレパートリー追加決定ね。」
「ありがとうございます。あ、祐司さん!」

雨上がりの午後 第588回

written by Moonstone

「お、おはようございます、否、こんにちは・・・って、あれ?」

 ダイニングには晶子はおろか、マスターと潤子さんの姿もない。昨日の晩、食べ物や飲み物が飛び交ったテーブルは綺麗に片付けられ、俺が座っていた席に虫除けのネットが被せられた焼き魚と漬物、そして茶碗が重ねて置かれている。

2001/9/5

[いざという時のために]
 使い古された言葉ですが、人生何が起こるか分かりません。何時も通る道で交通事故に出くわしたり、よく見る家が火事になったり・・・。そんな時、負傷者に適切な処置を施すことが、人命救助に繋がるわけです。
 そんなわけで(違うだろ)火曜日に救急法の講習がありました。私の職場は見回してみれば危険物に溢れてるので、知っているのといないのとではいざという時に差が出るものです。私は講習に関係する委員会の委員ということでお呼びがかかったのですが、以前にも同じ講習に参加したことがあるので(その時は新人だから、という理由だったかな?)、それを思い出しながら講習を受けました。
 (私も含めて)参加者の皆さん、随分真剣に講師の方の話に聞き入っていました。やはり自分の職場が見回せば危険に満ちていることを分かっているからでしょうね。人工呼吸の実技(相手は人形)でも真剣そのものでした。まあ、都合や予算の関係で全員とまではいかないにしても、出来るだけ多くの人が講習を受けた方が良いですね、こういうことは。
 潤子さんは手をひらひらと振って部屋を出て行く。ドアが閉まったところで電灯を消す。少しの間、周囲が暗闇一色に塗りつぶされたが、徐々に家具や、晶子が寝ている足元の布団が淡い輪郭を現し始める。
 俺は着ていたセーターを脱いで丸めるような感じで簡単に畳んで枕元に置いてベルトを緩めた後、晶子の左横に潜り込む。と同時に強い睡魔が頭の中を覆い始める。やっぱりあの酒の量じゃ眠くなって当然か・・・。
 晶子が俺の方を向いてぐっすりと寝入っている。その呼吸音が間近に聞こえる。何度か一つの布団で一緒に寝て慣れた筈なのに、その無謀且つあどけない寝顔と呼吸音が、理性の鎧を着せた俺の欲望をちくちくと刺激する。
 だが、それよりも眠気の方が強くなってくる。こんなときに限って・・・じゃなくて、もっと晶子の寝顔を見ていたいのに・・・。俺はなかなか言うことを聞かない上半身を晶子に近づけて、印鑑を押すような感じでほんの少し開いた晶子の唇に自分の唇を軽く重ねる。「目的」を達成できて安心したのか、俺の身体はその場にどさっと倒れこみ、意識はさらに加速を増して薄らいでいく。頭を枕に置きたいところだが、もう全然身体が動かない。仕方ない。このまま大人しく寝るか・・・。

Fade Out...

 暗闇一色だった俺の意識が夜明けのように徐々に白んでくる。数回瞬きをしてぼんやりしていた視界を元に戻す。カーテンが閉まった窓を通して光が部屋に染み込んでいる。この布団は昨日の晩、俺と晶子が一緒に寝た布団に間違いない。枕はせずに布団の外側を見る姿勢で目を覚ましたようだ。
 晶子は、と思って静かに起きて横を見ると、晶子の姿はない。潤子さんが無がしたセーターもないから、俺より先に起きて下に下りて行ってるんだろう。一体今何時なのか、と思って周囲を見回すが、この部屋には時計がないようなので自分の左腕に付けた腕時計を見る。そしてわが目を疑う。朝どころか正午を半時間ほど過ぎている。こんな時間じゃ朝食どころの話じゃない。俺は急いで枕元に置いておいたセーターを着てベルトを締めて、走って部屋を出て下へ駆け下りる。

雨上がりの午後 第587回

written by Moonstone

 潤子さんは悪戯っぽい、晶子とよく似た感のある笑みを浮かべる。まあ、1組の布団に枕が2つだから添い寝と言えなくもないが・・・。

「それじゃ、お休みなさい。明日は起きれたら下に下りてきて。おせち料理とは違う朝食を用意するから。」
「はい。お休みなさい。」

2001/9/4

[体調最悪・・・]
 座っているだけでも辛いと思う、月曜日はそんな1日でした。昼食もカロリーメイトにトマトジュース(小)という、体調万全な時なら信じられない程少ない食事も、無理矢理胃の中に入れるという感じでした。夕方くらいになってようやく少し持ち直したんですが、比較的好調だった夏休み前とは程遠い状況。
 病院へ行ってそれらを話したら、医師も難しい表情で問診を繰り返し、薬の内容をかなり変えることになりました。今までより強めの薬とのことです。月曜の遅い夕食後に(病院と薬局の待ち時間が長かった)飲んだんですが、あまり変わらないような気がします。まあ、この手の薬は即効性じゃないですからね。
 こんな酷い状況ですので、場合によっては臨時にシャットダウンすることも視野に入れています。今の状況ではこのコーナーを準備するのも一苦労ですので・・・。「早く良くなりたい。」私は今それを強く望んでいます。
 だが、それよりも前に、俺の中に宮城に対する思いやりはあっただろうか?ただこの町に引っ越すときに交わした約束を守って毎日電話して、会いに来た宮城と遊び、そして時に寝て翌朝朝食を食べに行く、ということをルーチンワークのように捉えてはいなかっただろうか?宮城が俺を好きなままでいて当然と思い込んではいなかっただろうか?
 ・・・今となっては、どれも過ぎ去った過去の悔恨と教訓にしかならない。今、俺に出来ることは・・・晶子との絆をもっと強めること。そのためにも・・・一時の感情に身を委ねるわけにはいかない。そう思うと、火照った頭の中がすうっと元に戻っていくように感じる。

「祐司君はどうする?」
「俺も・・・寝て良いですか?酒がかなり頭に回ったみたいなんで・・・。片付けとかしてないですけど。」
「片付けなんかは私がするから良いわよ。何時もよりちょっと増えるくらいだから。それに、今まで二人でちょっとしんみり正月を迎えていたのが、祐司君と晶子ちゃんが来てくれたお陰で、凄く楽しい場になったんだから、むしろ私や主人がお礼を言いたいくらいよ。」
「あれほど散々飲み食いしてもですか?」
「こういう場合、飲み食いの量は問題にならないのよ、祐司君。どれだけ楽しい場が出来たかが大事なのよ。」
「俺は凄く楽しかったです。」
「私もよ。きっと主人もそうだわ。さて、冷えて風邪ひくといけないから、早く晶子ちゃんに添い寝してあげて。」
「普通に寝て、って言えないんですか?」
「添い寝用に用意した枕だからねぇ。」

雨上がりの午後 第586回

written by Moonstone

 あれほど強かった、と自分では思っていた宮城との絆が切れちまったのは、宮城が俺の自分に対する気持ちを確かめようとして、別れ話を持ち出したことが原因なのは勿論だ。そんな裏事情があったなんて俺が知る筈がないし、あるならもっと早くネタ晴らしをするか、否、人を試すなんてするべきじゃない。今更宮城の謝罪を受け入れる気もない。俺の中では、宮城とのことはもう過去の思い出でしかない。

2001/9/3

[今日から活動再開・・・なのに憂鬱だなあ〜(溜息)]
 私にとっての夏休み最後の日だった日曜日は、殆どぐったりしていました。特に昼間が酷くて、何をするのも億劫で、食事も栄養剤など簡単なもので済ませてひたすら横になっていました。持病がまたも悪い方向を向き始めたみたいです。こういう日に限ってしつこい訪問販売が来たり、更に喉に違和感を感じたり(風邪のひきかけかも)、文字どおり最悪の一日でした。
 今日から仕事なんですが、きちんと進められるかどうか不安で仕方ないです。どうにも悪いなら休むという手段もありますが、手持ちの駒(有給休暇)が残り少ないですし、仕事の進行が余計に遅れるのでそう簡単に使うわけにはいきません。ロケットスタートではなく、最初はゆっくりで徐々に慣らしていこうと思います。
 さて、今回の更新では久しぶりにSide Story Group 2の連載「譬え背丈は違えども」の続きをアップしました。実は以前から多少出来てはいたんですが、そのまま放ったらかしになっていました(^^;)。長い間更新していないNovels Group 1と2も出来るだけ早いうちに更新したいです。
ゆっくりした一定の周期で胸が上下して、それに併せてスースーと寝息が立つだけだ。

「厚手の掛け布団と毛布に、その格好じゃ熱いわね。」

 潤子さんは晶子のセーターを脱がして丁寧に素早く畳んで枕元に置いて、ブラウスの襟元のボタンを外す。頬を紅くしてブラウスとスカートという服装で首を少し左に傾けて眠る姿は、妙に色っぽい。あまりにも無防備なその姿に、俺は思わず息を飲む。

「あら、祐司君。目の前のご馳走が食べたくなった?」
「!そ、そんなことは・・・。じゅ、潤子さんも扇動するようなこと言わないでくださいよ。」
「ふふっ。隠しても駄目よ。祐司君の目の色が変わってたもの。」
「そんなことありませんったら!」
「あんまり大きな声出すと、晶子ちゃんが起きちゃうわよ。」

 潤子さんに言われて、俺はぐっと反論を堪える。晶子は変わらず布団の上で眠り続けている。部屋が寒いのか−俺は酔っているから涼しいくらいだが−晶子がぶるっと身を振るわせる。俺は毛布、掛け布団の順番で晶子に被せる。晶子は再び穏やかな寝息を立てる。俺は小さな安堵のため息を吐く。

「・・・優しいのね、祐司君。」
「いや、だって寒そうでしたから・・・。」
「そうやって相手のことを思いやる気持ちがある限り、貴方達二人はずっと絆を保っていける。ううん、もっと強くなるわ。」
「・・・そうなると良いですね。」

雨上がりの午後 第585回

written by Moonstone

 潤子さんに軽く背中を押すように叩かれた俺は、潤子さんが掛け布団と毛布を捲ってくれた敷布団の上に晶子をそっと寝かせる。さっきあれほど潤子さんと俺との会話が有声音で展開されたにもかかわらず、晶子が起きる気配は全くない。ゆっくりした一定の周期で胸が上下して、それに併せてスースーと寝息が立つだけだ。

2001/9/1

[お久しぶりです]
 シャットダウンに入ってから約1週間。のんびりしていました。もうすぐ仕事の毎日が始まりますけどね(汗)。ラジオの視聴者参加番組を聞いていると、「(夏休みの)宿題終った?」というDJの問いかけに、「終りました」という答えが全くなかったのには、あらら(^^;)、と思いました。今は塾へ行くのが当たり前みたいなものですし、課外授業なんてものもあったりしますから、宿題を減らしても良いのでは、と思うんですが。
 あ、そうそう。昨日(8/31)10何年ぶりに映画を観に行きました。観たのは「千と千尋の神隠し」見聞きした前評判も良かったですし、「となりのトトロ」以来観る宮崎駿監督作品ということで、興味を持って映画館へ行きました。
 同時上映なしの約2時間の作品は、ファンタジー色溢れる素晴らしい作品でした。物語が進む過程で主人公が人間的に強くなっていく様子が良かったです。あと、水や雲などにCGが使われていましたが、それを前面に出すのではなく、必要だから使っているという印象を受けました。水の透明感、雲の浮遊感、花や小物の質感が見事に表現されていたと思います。夏休みの終わりに良い映画を見れて良かったです(^^)。TV放映される時が来たら、また観たいと思わせる作品でした。
 眠っている晶子を俺が「お嫁さん抱っこ」をしているのをいいことに、俺に対する突っ込みが始まったところで、俺はそれを制して潤子さんに案内を要請する。流石に場合が場合だけに突っ込みは即時終了して、潤子さんは俺を先導して階段を上っていく。
 案内されたのは、クリスマスコンサートで晶子に割り当てられた部屋だった。潤子さんにドアを開けてもらって、俺は晶子を抱えたまま部屋に入る。電灯が灯ると、既に布団が1組敷かれているのが見える。冬布団だから結構重いだろうし、さらに酔っているのに整然と布団を敷けるのは流石だ。
 ・・・ん?ちょっと待てよ・・・。布団は1組敷かれている。晶子一人が横になるからこれは問題ない。だが・・・枕が2つあるのはどういうことだ?!潤子さん、一体何考えてるんだ?!もしかして自分で言ったこと、酒に流して忘れちゃった、なんて言わないだろうな?!俺は平静を装いながら潤子さんに尋ねる。

「潤子さん・・・。どうして枕が2つあるんですか?」
「あらぁ、祐司君が添い寝できるようにするために決まってるじゃない。」

 潤子さんはあっけらかんと言ってのける。駄目だ。潤子さん、やっぱり酔っ払ってる。

「下で飲み食いしてたとき、俺と晶子に言ったじゃないですか。その場の成り行きやなし崩しで一線を超えないようにって。忘れちゃったんですか?」
「勿論、覚えてるわよ。でも、祐司君、今まで何度か晶子ちゃんと一緒に寝たんでしょ?それは祐司君にちゃんと理性のブレーキがかかるってことの証明って言えない?」
「そ、それはそうかもしれませんけど・・・。」
「酔った勢いで、ってことが心配?」
「・・・分からないです。」
「大丈夫。今まで出来たことなんだから。」

雨上がりの午後 第584回

written by Moonstone

「おおっ、お嫁さん抱っこか。祐司君、なかなかやるじゃないか。」
「今度、晶子ちゃんが起きてるときにやって見せて貰いたいわね。」
「あの・・・それより布団まで案内してくれませんか?」
「ああ、そうだったわね。さ、こっちよ。」


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