芸術創造センター こぼれ話
Dropped talk of Performing Arts Center

2001年5月31日更新 Updated on May 31th,2000

2001/5/31

[今日で連載500回!]
 いやぁ、我ながらよく続けられたものだと思います(^^;)。今はひたすら祐司君の1年間の回想が続いていますが、もう少ししたら二人の年越しシーンになりますので(笑)。その回想だけでも1週間以上かかっているんですから(前半は本編で書いていない部分がありましたが)、書き続けてきたということの重みを感じます。
 途中から書き溜めるという裏技(?)を使うようになったので、今使っているPCに今使っている書き溜めファイルと、先代のファイルがあります。何気に容量を見たら、先代が約130kB、今使っているものが約260kB。先代を使っていたのは旧PCの頃でして、100kB以上のファイルをロードするのにちょっとストレスを感じたので、現在のファイルを新規に作ったわけです(まあ、白紙のファイルにひたすらテキストを書いていくだけですが)。それが今使っているメインPCに引き継がれて現在に至っています。
 CPUのパワーが根本的に違うので、先代の倍近い容量のファイルでも流石にストレスは感じないですね。でも、スクロールバーを連載に乗せる場所や書き出しの部分に合わせるのが大変なので、そろそろ3代目ファイルの出番ですかね。
 500回を迎えても終る気配が筆者自身全く見えないのですが(爆)、これからもこの日記部分同様、ご覧いただけると幸いです(^^)。
そこでは晶子が予め買っていてくれたケーキと紅茶が待っていた。俺と晶子は紅茶の入ったティーカップを合わせた。会話の弾む中、忙しさにかまけて決めかねていた帰省するかどうかに、晶子と同じくこの町に居る結論を出した。まあ、決心した理由の半分は、帰らないでいようかな、という俺の呟きを耳にした晶子の押しの強さだったんだが。
そして俺は事前の約束どおり、晶子へのクリスマスプレゼントとして、2年間封印していたオリジナル曲の弾き語りをした。バンド用に作ったものを少々無理に弾き語り用にしたから違和感がなくもなかったが、晶子は涙ぐみながら満面の笑顔を浮かべて、手が痛いんじゃないかと思うほどの拍手で喜んでくれた。それだけでアレンジに費やした労力が充実感に変化した。

 晶子からのプレゼントは二つあった。一つは練習の合間に少しずつ編んでいたという手編みのマフラー。今まで使っていたマフラーは結構くたびれていたから、実にタイミングの良いプレゼントだった。その柔らかさと肌触りに晶子の精一杯の想いが詰まっているように感じた。
そしてもう一つのプレゼントは・・・キスだった。俺はその感触に驚いて目を開けそうになったが事前の「約束」どおりぐっと目を閉じて、迫り来る密着感を両手で体を支えることで受け止めるしかなかった。その後もう一度キスをした。今度は互いに求め合うように。俺は初ステージを前に緊張の色を隠せずに居た晶子を抱き締めて以来、初めて自分から晶子を抱き寄せ、そしてあの時には思わなかった、晶子を抱き寄せたい、離したくないという感情が俺を支配した。

 俺は晶子の部屋で朝を迎えた。朝を迎えたといっても一つのベッドで一緒に寝ただけだが。少し遅れて目を覚ました晶子が二度寝するかと思いきや、買い物に行くと言い出した。女性専用のマンションで男一人留守番というのも何だし、晶子と一緒に行くことにした。晶子の案内を受けて俺がこの町に来て初めて訪れたスーパーマーケットで、晶子は必要なものを次々自分の籠に放り込んでいき、重そうなものは俺が自分の籠に移し変えた。別に晶子が頼んだわけでもない。俺がそうしたくなっただけだ。

雨上がりの午後 第500回

written by Moonstone

 2日間に渡るクリスマス・コンサートも無事成功に終った。後片付けが終ってから4人全員でシャンパンで乾杯して、それから俺と晶子は「二次会」の会場である晶子の家に向かった。

2001/5/30

[全て完成したけれど・・・]
 オーバーワークを繰り返し、3月下旬に感情の大暴走を引き起こす要因に繋がった機器7台が昨日無事に出揃いました。これで一つ肩の荷が下りました。とはいっても、仕様変更に対応させるように設計し直して、また同じ数だけ作らなければならないと思うと気が重いです(溜息)。こんなことはこれっきりにして欲しいです、はい。
 まあ、それは置いといて・・・昨日はちょっと慌てました。帰ろうとしたら自分の自転車がなかったからです。それだけならまだしも、昨日は最寄の場所から徒歩か自転車かどちらで職場に来たのか覚えがなかったんです(爆)。最寄の場所に行けば自転車が盗まれたか自分の勘違いかが分かるので、その「最寄の場所」に急ぎましたが、歩いている最中に思い出されるのは自転車で来たことばかり(汗)。徒歩だと15分ほどかかる道程を進むうちに、やっぱり盗まれたんじゃないか、と思うこと頻り。その場所に着いて自転車置き場を見たら、自分の自転車がきちんと置いてあったので、それまで張り詰めていた緊張感がぷっつり切れて、大きく安堵の溜息を吐きました(^^;)。
 それにしても、その日の朝、自分がどういう交通手段を使ったのか覚えがないというのも・・・(汗)。物忘れもこの程度で済めば良いんですけどね。
落ち着いてからも何処へ行くか途方にくれた俺は、店に戻ろうという晶子の提案を受け入れて、暫く知らない町の風景を見て店に戻った。折角の時間に後味の悪さを残してしまって、俺は情けなくてどうしようもなかった。そんな俺の心情を理解して労わってくれた晶子には本当に救われる思いがした。

 音合わせの「合宿」も終って、俺は補講の為に大学へ向かった。そこで智一から「宣戦布告」を受けた。もう晶子のことは諦めたと思っていた智一は、まさに万全の準備を整えて晶子を誘おうとしていたことを知って俺は仰天した。そして焦りも感じた。確かに智一の言うとおり、その時点までの「晶子争奪戦」での俺の優位は間違いなかった。だが、智一は俺が未だ尚態度を決めかねているという事実を見切って、そこに突破口を見出したわけだ。
そんな状況においても尚、俺はどうしても「決め手の一歩」が踏み出せないまま晶子とのクリスマスコンサートの練習や一緒の食事に甘んじる日が続いた。しかし、「待てるだけ待つ」と言った晶子が、もしかしたら俺とは違う方向に傾くかもしれない、という不安を晶子のマンションまで送り届けた俺に告げた。焦りは益々増し、どうにかして言わなきゃ、言わなきゃ今の関係がそのまま思い出になってしまうかもしれない、という思いが俺に「決め手の一歩」の背中をつき押して踏み出させた。
晶子がセキュリティを解除しようと手袋を取ったとき、俺は晶子を呼び止めて色々前置きを並べておいて、最後まで残っていた「逃げ」の蓋を最大限の勇気で吹き飛ばして晶子に向けて叫んだ。

「今の関係は確かに心地良い。だけど・・・そのままで終わらせたくないんだ。
だから・・・俺と・・・付き合ってくれ・・・!」

 晶子は瞳を涙で潤ませて俺の下に歩み寄って頭を俺の胸にくっつけて、それを支えるように両手を俺の後ろに回した。ようやく「決め手の一歩」を踏み出して安堵する中、俺は高2の時に1度演奏して封印した曲を聞かせることを約束した。何もプレゼントを用意していない俺からの、せめてものクリスマスプレゼントにするつもりで・・・。

雨上がりの午後 第499回

written by Moonstone

 俺は優子の追跡を振り払い、晶子の手を取って走れるところまで走った。過去の思い出じゃなく、過去そのものを見た俺はどうしても、その過去に触れたくなかった。見たくなかった。

2001/5/29

[うむぅ・・・]
 物凄い憂鬱感に一日苛まれた日曜日に続いて、昨日も午前中はかなり酷い憂鬱感に押し潰されるような気分でした(仕事は勿論しました)。午後は幾分回復しましたが、こんな重苦しい憂鬱感は今通院している病院に駆け込む直前並、もしかしたらそれ以上のものだったので、通院日だった昨日、主治医にそのことを話しました。
 主治医もかなり困った様子で、休養を考えてはどうかとも言われました。復帰して一月も経ってないのに再び休養、なんてことは出来ないので、取り敢えず薬の処方を憂鬱気分に対策の重点を置いたものに変えてもらいました。もしどうしても駄目な場合は言ってもらえば直ぐ診断書を書くし、決して無理はしないように、と注意を受けました。
 今は憂鬱感とは勿論のこと、自分自身との戦いなのかもしれません。主治医にも「(症状悪化と)紙一重の状態」と言われましたし・・・。以前のようなハイペースは無理にしても、1日1日生き抜いていくことを積み重ねて回復を勝ち取るという気構えで臨むことが、今一番大切なことなのでしょう。必ず治ると信じて・・・。
時は流れ、一夜を共にした二人が−ハードなラブシーンはなかった−再びあの樹の下へ足を運んだ。どちらがあの樹のある場所に行こうと言い出したわけでもなく、それこそ前のシーンで主人公があの樹の元に向かった時と同じように。台詞が極端なほど少ない展開が、逆にそこに至るまでの経緯や色々な想像を巡らせる手助けとなっているように感じた。

「逢瀬の丘にて・・・再び逢える日を待ち・・・。」
「時の流れが再び交わるとき・・・契りの言葉を交わさん・・・。」

画面に満ち溢れてくる光の中で二人の言葉が詠うように聞こえた。そこからプロポーズへ続くのかと思ったら、思い出と想いが刻まれた樹を横に、寄り添う二人を捉えたままカメラが引いて終わりを迎えた。最後まで観る側に興味を起こさせ、考えさせる話の異質な作りに、それまで特別思わなかった他の映画での様々な台詞のやり取りが無闇に多いようにさえ思わされた。

 映画が終った後、俺の手を取って引き寄せたままだった晶子はなかなか立ち上がることが出来なかった。ようやく立ち上がってロビーに出てもまだ晶子は涙が収まらないようだった。俺が珍しく持っていたハンカチで晶子の頬にあった涙の後を拭いてやると、いきなり晶子が抱き付いて来た。周囲の視線を−羨望と嫉妬の両方を感じた−感じた俺は、兎に角晶子を落ち着かせようと晶子を連れて映画館から出て偶然目に留まった喫茶店に入った。他の客やウェイトレスの視線が痛く感じる中、どうにか晶子を落ち着かせることが出来た。
話を聞いたら、晶子が泣いたのは映画のような感じで前の彼氏と結婚しようね、とか言っていたことが幻に終った記憶が、映画を観て一気に噴出した、ということだった。前の彼氏も随分勿体無いことをしたもんだな、と言ったら、晶子も同じことを言った。ポイ捨てされた俺の場合は絶対そんなことはないと思ったが・・・その喫茶店を出て晶子と手を繋いで駅の方へ歩いていったとき、とんでもない奴を目にした。

そいつは紛れもなく、俺をポイ捨てした優子だった。

雨上がりの午後 第498回

written by Moonstone

 その言葉を引き金にして、主人公の中にあったぼやけた記憶がセピア色の風景とその時に交わした言葉と共に急激に蘇った。そこは主人公は転校生の幼き日々の記憶が封印された二人の場所だった。主人公は転校生の求めとも言える問いかけに、遠き日の約束どおり、樹に刻まれた転校生の名前の横に自分の名前を刻んだ。

2001/5/28

御来場者105000人突破です!(歓喜)

 ・・・更新量が減っている現在でも当ページにご来場いただいているのは嬉しい限りです。早く今の状態が回復してしっかり更新できるようにしたいです。

[憂鬱な週末]
 普通なら週末(或いは仕事の休日)は遊びに趣味に、或いは普段出来ない家事などに費やして鋭気を養うと思いますが、私の場合はかなり酷い憂鬱な気分に悩まされています。日曜日も目が覚めたのは昼過ぎだったのですが、軽く食事をしてから胸に重みを感じて横になり、連載の書き溜めや作品制作をしようと起き上がると、ずっしりとした胸の重みを感じてまた横になる(横になると気分が楽になる)、という状況にあります。
 昨日も活動し始めたのは夜の7時くらいで、食事も以前処方してもらった経口栄養剤で済ませました。自分で作るのが酷く億劫でならなかったからです。で、今は昼間ほどではないにしてもかなり憂鬱な気分です。
 今患っている病気のせいかもしれません。でも、平日は特にこういう症状は見られないので余計に訳が分かりません。週末までストレスを溜め込んでいるからでしょうか?自分ではそれ程ストレスは感じないのですが・・・。
 晶子に割り当てられた部屋の隣から聞こえる物音が収まるのは何時になるか分からないし、暖房を切って冷気が漂っている中に晶子を放り出しておくわけにもいかなかったから−風邪をひいて喉をやられたら一大事だ−、俺は晶子に俺の布団に入れることにした。最初は緊張感で寝るどころじゃなかったし、俺の背後に身を寄せてくる晶子にどう対処して良いか、そして自分の理性が何処まで持ち堪えられるか分からなかったから、晶子に背を向けて眠気が意識を覆うのを待つしかなかった。
だが、晶子は自分の告白に対する返事を聞くことさえ出来れば、俺が衝動的な行動に走っても構わないと言った。それで俺の妙な興奮は急速に冷めていった。俺の脇腹に乗っていた晶子の手に自分の手を重ねてやがて手を取り合ううちに−手を繋ぐのはこれが初めてだった−、俺の衝動的な欲望は穏やかな愛しさに変わり、そして身体の向きを仰向けに戻して、晶子と至近距離で向かい合った。意外なほどあっさりと、そして自然に・・・。それまで背後の存在を意識していたのが妙に滑稽に思えた。

 二日目の昼には晶子と映画に出掛けた。二人で昼間何処かへ出掛けるのはこれが初めてだった筈だ。潤子さんから貰った映画の招待券を持って、朝一番の上映に間に合うように、映画館の場所を知っているという晶子の案内でその映画館へ向かった。俺は映画を見るなんて高校の時以来だったし、それ程興味はなかったが、今話題の映画、それも恋愛ものということで晶子は興味津々と言った様子だった。
実際見てみると、恋愛者とは思えないほど予想外に淡々とした様子で話は進んでいった。高校を舞台にした主人公の男と転校生の女の間に輪郭のぼやけた過去がある様子だったが、目立った進展もないままに日々は流れていった。退屈と言えばそのとおりの展開だったが、そのぼやけた記憶とは何なのか、台詞が少ない分、その映画に興味を持つようになった。
ある休みの日に、主人公が小高い丘に聳え立つ一本の樹に吸い寄せられるように向かい、そこで自分の目線と同じくらいの位置にある自分の名前と転校生の名前を見つけた。そして後からやってきた転校生と向かい合い、巧みなカメラワークの中で二人の居る場所に長い沈黙が続き、転校生は詠うように言葉を放った。

逢瀬の丘にて・・・再び逢える日を・・・

雨上がりの午後 第497回

written by Moonstone

実際は初めてじゃなくて2回目だったんだが、1回目は俺が熱を出して寝込んだ2日目の夜で、俺が寝た後に布団に潜り込んできたから、翌日目を覚まして横を見るまで気付かなかった。だから、二人とも意識がはっきりしている中で一緒に寝ようとするのは、音合わせの初日の夜が初めてのことだった。

2001/5/27

[休みは寝てばっかりだな(汗)]
 昨日起きたのは昼過ぎだったんですが、2時間くらいの周期で寝たり起きたりしてました。主なる目的は連載の書き溜めだったんですが、ご覧のとおりぎっしり文章が詰まった状態ですので(考え込むのが好きな(?)祐司君の回想ですからね)、書くうちに疲れが溜まる溜まる(^^;)。でも、この部分を抜けないと二人の年越しの場面が何時になるか分からないので、余力のあるうちに書けるだけ書きました。これで明日の定期更新は余裕をもって行えるでしょう。
 昨日は「本拠地」に戻って初めて買出しに出掛けたんですが、夏を思わせるような強烈な日差しと熱を多分に含んだ外気に、ただでさえ少ない体力をかなり削られました。さらにリサイクル対象品(ペットボトルとか)を最寄の店に運びに行こうと(そこでは買い物はしなかった(爆))歩いていったのですが、ここでもごっそりと体力を削られました。徒歩10分程度の距離の往復だというのに・・・こんな調子で夏が来たら、確実に夏バテしそうです(汗)。
 ふと思ったんですが、ページの管理運営も体力勝負の面があるのは否めないですね。体力がないと作品制作も思うように出来ず、折角戴いたメールもお返事が滞りますし・・・。早く完全復活となりたいところです。
初めて演奏する曲や初めてのペアもあって−その一つの例が俺と潤子さんのペアだ−、一月弱という限られた時間で10数曲を弾きこなすことが出来るかどうか、不安の種は尽きなかった。
高校時代にバンドで何度もステージに上がった経験がある俺ですら不安と緊張に苛まれた。晶子は表面にこそ出さなかったが、日々猛烈な緊張と重圧を感じていたに違いない。それでも晶子は練習を重ねていくうちに定番のクリスマスソングを英語で歌いこなし、新曲をもどんどん自分のものとしていった。その目を見張るような吸収力に、俺は感服せずにはいられなかった。

 コンサート前の最後の週末に、俺と晶子は音合わせのために−言い換えれば一緒に練習することだ−、2日間バイト先に泊まりこむことになった。俺が言うのも何だが、実力派揃いのメンバーだから、音合わせでは目立った問題は見つからなかった。晶子が出ずっぱりの俺に休憩出来る時間を工面して欲しい、とマスターに進言してプログラムを再編成してもらったのは助かった。
高校時代のバンドでも10数曲演奏することはあまりなかったし、譬えあってもロックだったから、多少の間違いはディストーション(音を歪ませるエフェクト)たっぷりの音の勢いで追いやることも出来た。でも、バイト先でのクリスマスコンサートにはバンドの時のように勢いで押し切れるような曲はなかった。指先に絶えず緊張を強いられる曲が並んでいるから、疲労が重なると指が動かなくなってしまう可能性が無いとも言い切れなかっただけに、本当にありがたい進言だった。

 泊り込みの最初の夜、俺と晶子は一つの布団で寝る羽目になった。元はと言えば晶子に割り当てられた部屋の隣、即ちマスターと潤子さんの寝室からの物音で寝られなかった晶子が−余程の音量だったんだろう−寝る場所を俺に割り当てられた部屋に求めたんだが、一つの布団で一緒に寝るのは初めてだっただけに俺も最初はどうしたら良いか分からなかった。

雨上がりの午後 第496回

written by Moonstone

その後はまさに師走というに相応しく、駆け足のように過ぎていった。通学は言うに及ばず、バイト先で実施するというクリスマスコンサートの準備に大忙しの毎日だった。

2001/5/26

[出会い系サイト]
 私は見たことないんですが、存在そのものは知っています。最低2ヶ月間の強制退去命令(^^;)で早く帰宅して、珍しくテレビのニュースを見ていました。そこでは出会い系サイトの簡易性と何処の誰かも知らない相手とメールをやり取りする匿名性を挙げて、殺人事件などの凶悪事件への発展や人間関係の希薄さを疑問視していました。
 ここまでマスコミの馬鹿さ加減と報道権力の驕りを見せられて、改めて呆れましたね。何処の誰かも知らない出会いなんて、出会い系サイトでなくて街中のナンパならむしろ当たり前のことで、そこから交際が始まるかどうかはまた別でしょう。付き合いがこじれて凶悪事件になってしまうことも、顔見知りの犯行だったりします。相手の素性が最初から分かっているのは、お見合いくらいのものでしょう。そんなことも分からないんですかね、マスコミとやらは・・・。
 片方でIT、ITと持ち上げ、もう片方でITの一例を問題視するとは、マスコミも落ちるところまで落ちたものです。まあ、彼らの自己矛盾は今に始まったことじゃないですが、マスコミには早めに見切りをつけた方が良いでしょうね。
 徒歩圏内で知っている店が殆どない俺は、思い切って普段足を運ぶ機会がない駅の向こう側に晶子を連れて行った。そこでたまたま見つけた中華料理店に入って、予想以上に美味い建物に舌鼓を打った。
晶子はその席で、智一とのデートの日に昼食に案内された店の高級感に緊張感を感じた晶子は味を感じる余裕がなかったことを打ち明けた。華やかさや高級感とは縁遠い、俺が直感で選んだその店で晶子は安心して食べることが出来たようで、俺はほっとすると同時にそれぞれの「世界」が一致することが重要なんだ、と肌身に感じた。

 晶子の家で夕食を食べる感覚そのままに、ゆったりとした食事の時間を味わった俺と晶子は、俺が雑誌を買うためによく行く本屋に向かった。そこでの買い物を終えた俺は、一つの決断を迫られた。晶子にまだ居て欲しい、と言うべきかどうかということを。俺は勿論、晶子ももっと傍に居たいと思っている素振りと呟きを見せた。だが、俺は敢えて晶子に帰ってもらう方を選択した。
晶子の存在が疎ましいからではないというのは勿論だ。だが、病み上がりとはいえ一応身体が回復した俺の理性が、果たしてベッドの上で晶子に至近距離で居られて平然としていられるとは言い切れなかった。平然と出来なかった場合の行為を汚らしいとか思う気持ちはなかった。だが、もし自分の理性が吹っ飛んでその行為に走ったら、何のために晶子に告白の返事を待たせているのか全く意味がなくなる。その「免罪符」として、俺にとって物凄い重みのある言葉である「好きだ」という言葉を口にしたくなかった。
 ともすれば言い訳がましく聞こえる俺の「説明」を、晶子は理解してくれた。俺は一連のすれ違いと衝突をどうにか避けようと、心の中身を整理できないまま言葉にしたのが幸いだったのかどうかは分からない。でも、下手なりに懸命に言った言葉が晶子の心に届いたことで、俺は安心すると同時に、偶然が重なってここまで育った晶子との絆の大切さを感じた。

雨上がりの午後 第495回

written by Moonstone

 大学から帰って晶子の出迎えを受けて、俺は晶子を食事に誘おうとした。しかし、自分からアクションを起こすことに決して慣れているとはいえない俺は、しどろもどろで要件を口にするしかなかった。そんな俺の様子と言葉から俺の気持ちを察したらしい晶子は、俺の「誘い」に喜んで応じてくれた。

2001/5/25

[今日明日くらいかな・・・]
 溜めに溜めたメールのお返事が出来るのは(滝汗)。トップページにも表記しましたが、戴いたメールのお返事が膠着状態にあります。勿論無視しているわけではありませんし、サボっているわけでもありません。稀少な感想メールはきちんと読ませて戴いています。ただお返事を書く時間的余裕が殆どないからです。
 職場復帰したとはいえ、私の体力の低下は未だ完全回復するには至らず、深夜に及ぶ長時間の活動はほぼ不可能です。もしやってしまったら、翌日の仕事、特に思考を必要とする設計に重大な悪影響を及ぼすことになります(眠気いっぱいで考えるどころじゃなくなる)。それにこのページの運営資金は(プロバイダ料金やレンタルサーバー料金)本業で稼いでいるので、必然的に本業に支障のない時間内に更新の作業を詰め込まなければなりません。また、このコーナーは毎日更新を掲げているので、こちらの準備も必要です。運の悪いことに、今は連載の書き溜めが全くないので、「コピー&ペーストではい、終了」というわけにはいきません。
 そういう事情ですので、戴いたメールのお返事をお送りするまでにはもう暫く時間を要すると思います。私自身、折角戴いたメールに迅速に対応できないことが歯痒くてなりません。必ずお返事させていただきますので、気長にお待ちくださいますよう、宜しくお願いいたします(礼)。
特に晶子お手製のお粥は本当に美味かった。水が多すぎてどろどろになった御飯、というそれまでの俺の認識を改める他なかった。
潤子さんの作った料理は言うまでもなく美味いのは知っているが、それでも晶子のお粥が食べたい、と思った。それを言うと晶子は嬉しそうに作ってくれた。形を崩した米に薄い塩味とその中央に乗った梅肉の酸味だけ。そんなシンプルな味が、強烈な印象を俺の心に刻み込んだ。味だけじゃなく、それを作ってくれる晶子のことも・・・。

 病床にある中で、俺の心の中で晶子が誰も取って代われない程の大きな存在になっていることを更に実感したのは2日目の日曜日、晶子がバイトに出掛けて一時的に自分の家に自分だけ居ることになったことだった。晶子はバイトを休もうとしていたが、潤子さんもリクエストを受ける立場になって忙しくなるし、二日連続で俺と晶子が二人とも休むと−俺が行くのは無理としても−店に迷惑がかかる、と説得してどうにかバイトに行ってもらった。
晶子が名残惜しそうに出掛ける時、やっぱり行かないで欲しい、と引き止めそうになった。そして蛍光灯に照らされた、「自分一人」に慣れた筈のこの家が、「一人」が当たり前と思っていたこの家が、やたらと広く感じた。今まで狭いと思うことはあっても、広いと思うことなんてなかったのに・・・。俺が横になっていたベッドの横にあった椅子に座って俺の心がしっくりくるのは晶子なんだ、と晶子が帰ってきてその椅子に座ったことで痛感した。俺が自分で作った心の壁は跡形もなく吹っ飛んだが、その跡地に晶子を主とする確固たる城塞が築かれた。

 完全に回復した月曜日、俺は晶子に留守番を頼んで大学へ行った。駅から大学へ向かう途中で智一に出くわした。智一は晶子にデートを突然中断された経緯を話した。高熱に魘されていた俺の家に晶子が血相を変えて駆けつけた背景には、俺は晶子が常に俺の方を向いていたことと、俺が熱を出したバイトを休んでいたことが偶然一致したことを知った。智一は表面にこそ出さなかったが相当ショックを受けたと思う。そんな智一の「挑発」に俺は自分の気持ちの片鱗を口にして、智一の「アドバイス」に俺は晶子への礼を兼ねて晶子を食事に誘うことを決めた。

雨上がりの午後 第494回

written by Moonstone

 晶子はその日を含めて2泊3日、俺に殆どつきっきりで看病してくれた。病中最も問題な食事も、マスターと潤子さんからの援助と−冷やかしがおまけに付いてきたが−晶子が作るお粥で解決された。

2001/5/24

[昨日の予測どおり]
 朝起きるのが大変でした(汗)。幸い遅刻は免れましたが、眠気は凄かったです。そこに雨の中歩いた疲れ+普段飲んでいる薬+風邪薬の眠気が加わってもう大変(大汗)。新しく舞い込んだ仕事は猛烈な眠気の中で進めざるを得なかったです。参考資料に気を取られすぎて、その上、物凄い眠気で満足に考えが纏まらなかったので、上司に相談して突破口を見出しました。
 終始うつらうつらしていた私は、その上司から「眠いなら眠って、仕事に集中出来るようにしなさい」と注意を受けました。眠気に負けまいと懸命だった私は少々拍子抜けしましたが、昨日の状態なら確かに一度寝た方が良かったと思います。本当によく見てくれているんだな、と嬉しく思うと同時に、それが申し訳ないと切に思いました。
 帰宅してから夕食の準備、食事に後片付けでもかなり疲れます。一昨日も昨日もそれでダウンしたのですが、本当に体力が落ちていることを実感します。また、ダウンすると更新時間が遅れる=>睡眠時間が少なくなる=>翌日眠い、という悪循環になるので(もうなってますけど(爆))、自宅でのダウン防止策も考えないといけないですね。
晶子が智一からのデートの誘いに応じたのを聞いて、晶子が俺の出方を窺うような様子を見せたことで頭に血が上って、俺に止めて欲しいのか、と激しく詰め寄ったら、晶子は悲しげな表情を残して闇の中に走って消えていった。
それが正しい選択だったと自分に言い聞かせた。もう二度とあんな悲しくて辛い思いはしたくなかった。だから晶子を突き放して良かったんだと。だが、心の中から絶えず「それで良いのか?」と問われ続けた。晶子のデート前夜の席で潤子さんからも問われた。心の中からの問いかけには、吐き捨てるように「知るか・・・」と呟くしかなかった。潤子さんの問いかけには「もう、あんな思いはしたくない」と答えるしかなかった。だが、どれもこれも嘘だった。心の周囲に壁を築いて傷つくことから逃れようとしていた筈が、壁があるせいで心が疲れるようになっていたことにようやく気付いた。

 晶子が智一とデートする日、俺は不覚にも高熱を出して寝込んでしまった。全身が燃えるような高熱と相反する悪寒の両方に襲われながら、俺はただ後悔と自己嫌悪に苛まれた。不可思議にも冷静にこのまま死ぬんだろうか、とさえ思った。
意識が朦朧とする中、俺は井上、と弱々しく漏らした。せめて晶子に−あの当時はまだ姓で呼んでいた−謝りたかった。智一とデートに行くなと言いたかった。だが、意識を急速に覆っていた闇は、俺の思考を許しはしなかった。

 俺が目を覚ましたのは、決して広いとはいえない俺の家に無用に良く響くインターホンの連打だった。最初は無視しようかと思ったが、あまりのしつこさに−晶子のストーカーぶりを思わせた−壁を伝ってドアへ向かった。新聞か生命保険か宗教団体の勧誘かと思いながら。しかし、ドアを開けた俺の前に姿を現したのは、あろうことか、智一とデートに出掛けた筈の晶子だった。
驚愕と安堵で全身の力が抜けて、倒れそうになった俺を晶子は抱きとめて、決して軽いとはいえない俺の腕を肩に回して、部屋の電灯を点して俺をベッドに戻した。そして晶子は・・・初めて俺に涙を見せた。自分の非を詫びる晶子に、俺はその手に自分の手を乗せて、心に思ったことそのままを口に出来た。

今はただ、傍に居て欲しいんだ、と・・・。

雨上がりの午後 第493回

written by Moonstone

 晶子に対する気持ちに正直に向き合えるようになったのは、皮肉なことに晶子と初めて口論した−といっても俺が一方的に詰め寄るだけだったが−翌日になってからだった。

2001/5/23

[いや、もう大変・・・(汗)]
 処方された風邪薬が効いたのか、微熱と酷い嘔吐感が随分和らいだ昨日は仕事に行きました。職場復帰したその日から追求していた機器の動作不良の原因も突き止めて、無事1台完成且つ残り1台となりました。
 でも、原因追求のために作業場と部品置き場を何度か往復したり、回路基板の詳細の目視や修繕をしたりしているうちに、自分でもはっきり分かるほど疲労が全身に蓄積されていくのが分かりました。仕事を終って(強制退去命令継続中(^^;))帰る頃には全身が気だるくて、自宅までの道程が以前の数倍に感じました。食欲がそれなりにあったので手早く夕食を作って食べ終わった頃には、疲労はほぼ極限状態。2時間ほど熟睡しました。本当はこの時間で滞っているメールのお返事を書いたり、連載を可能な限り書き溜めて作品制作を少しでもしたいんですけど・・・。それに、目を覚ましてこうしてお話している間も眠くて(音楽を聞いてないと寝てしまいそう)、ミスタイプ連発です(汗)。勿論チェックはしてますが、ミスタイプがあっても多めに見てください(_ _)。
 一先ず今日を乗り切れば、平日の半分を超えたことになります。その積み重ねの中で、少しでも体力が回復していけば良いのですが・・・。今日は更新時刻が大幅にずれ込んだので、朝起きるのが辛いでしょうねぇ・・・(大汗)。
 勿論、そのときの俺が優子と同じ「女」という生き物に、疑念や怒りこそ湧いても親近感や好意など抱く筈もなかった。関わり合いになりたくなかった。冷たく突き放したりもした。
しかし、俺が「兄に似ている」という晶子は俺の無視や威嚇を受けても諦めたり怒って去ったりすることもなく、ストーカーも真っ青の調査力と執念で俺を追い回して、俺が晶子の居る文学部に近い一般教養講義の時間と場所を調べ上げだ。挙句の果てには、一休みするために偶然立ち寄ったとはいえ、晶子にバイト先まで発見されて、あろうことか「楽器を使える」というバイトの条件を無視したマスターと潤子さんの決定で同じくバイトに採用となった。

 そして俺は晶子をヴォーカルにするための指導役を任されてしまった。冗談なら早くそう言って欲しいと思ったが、冗談じゃなかった。晶子の最初のレパートリーになる「Fly me to the moon」を俺の伴奏で歌えるように足しげく晶子の家に通う日々が続いた。音楽の知識や経験の乏しい晶子の練習がそう簡単に進む筈もなく、俺もつい荒い口調で叱咤することが多かった。
しかし、晶子はそれに怯んだり涙することもなく、必死で俺に食らいついて来て、約一月後には充分人に聞かせられるレベルに達した。店のステージに上がってのお披露目も無事終了して、晶子は「歌」という楽器を手に入れたことが認められた。そしてその過程を通っていくにつれて、俺の晶子に対する印象は明らかに変わった。少なくとも以前のように毛嫌いしたり冷たくあしらう気にはならなくなっていた。

 あれは・・・何時からだっただろう?晶子に対する俺の気持ちが特別なものだと気付いたのは・・・。「Fly me to the moon」以降のレパートリーの充実と指導を引き続き任されることに応じたときだったか?智一が気軽に「晶子ちゃん」と呼ぶことに妙に心の中がもやもやするのを感じるようになったときだったか?晶子と待ち合わせてレパートリー候補を探すCD探しに行ったときだったか?・・・あのときから変わった、と明確には言い表せないが、確かに晶子に対する気持ちが特別なものだと感じた俺は、必死にその気持ちを打ち消そうとした。またあんな目に遭いたくなかったからだ。何時あっさり崩れるか分からない夢の世界の再構築を始めたくなかったからだ。
だが、変化した気持ちを取り除くことはどうしても出来なかった。心のベクトルの向きが彼方此方に、否、180度違う方向に忙しなく変わる中、晶子から俺への気持ちを伝えられた。心のベクトルの向きが定まってなかった俺は、何れ返事はする、という曖昧、且つ、言ってみれば「その場凌ぎ」の回答をした。

雨上がりの午後 第492回

written by Moonstone

 ビールを呷りながらの「破壊行為」の余波でバイトをサボる羽目になった俺が、夕食や雑誌を買おうと近くのコンビニに買い物に出掛けたとき、俺と時を同じくしてレジに並んだ晶子が驚きの声を発したのが始まりだった。そして次に俺が立ち寄った本屋の出入り口で出くわしてまた驚かれた。そして翌日の心理学の講義会場で三度出くわした。

2001/5/22

御来場者104000人突破です!(歓喜)

 ・・・前回の定期更新以来このコーナーしか更新していないにもかかわらず、ご来場いただいていることに深く感謝します(_ _)。当面の間、更新の質も量も少なくなると思いますが、何卒ご了承下さいますようお願いいたします。

[勘弁してよ・・・]
 昨日は目覚ましの音で定刻に目を覚ましたのですが、倦怠感に加えて酷い嘔吐感があって、さらに微熱もあって満足に立って歩くことも出来ない状態だったので仕事を休みました。食事は一応3回食べましたが、食べるというより無理矢理口に押し込むという感じでした。食べないと益々体力が低下しますからね。
 夕方頃になると倦怠感だけはどうにか収まったので、丁度今日予約していたかかりつけの病院へ行ってそのことを話しました。それによると「職場復帰した緊張がストレスになって胃腸に来る風邪をひいたらしい」との診断。その風邪が胃腸と微熱だけで収まってくれるのを祈るしかありません。体力も免疫力もがた落ちしている今、下手にこじらせたらそれこそ洒落にならないことになりかねません。
 夕食を終えて今こうしてお話している間も、嘔吐感と微熱は一向に収束する兆しがありません。息切れさえしてますし・・・。どうしてこうも悪いことが重なるんでしょう?
優子は俺との関係が元に戻ったと見せかけて、その「身近な存在」とやらに心の向きを完全に移したんだと。あの時から今までの優子との時間は、「身近な存在」に心の向きが完全に移行するまでの「猶予期間」でしかなかったんだと。激しい落胆と混乱の中で、もう優子の心のベクトルを俺に向けさせることは不可能だと悟った俺は、優子に「最後通牒」を突きつけた。

「・・・そうか。・・・じゃあ・・・さよならっ!」

 最後通牒といっても、優子に絆を切られた俺のそれは、所詮負け犬の遠吠えでしかなかった。でも、それがあの時の俺が示すことが出来た精一杯のプライドだった。俺は受話器を叩きつけるように切ると、電話機から吐き出されたテレホンカードを握り潰して放り捨てた。その日以来、あの電話ボックスに立ち寄ることはない。・・・立ち寄りたくもない。あんな忌々しい「絆の痕跡」を祭り上げた記念碑に足を運ぶなんて・・・考えたくもない。

 俺は夢の世界が終った絶望感と、愛から一気に怒りと憎悪に変貌した気持ちに任せるがままに、酒屋の自動販売機で抱えて持てるぎりぎりの量まで缶の大小を問わずに缶ビールを買いこんだ。家に帰って部屋の電気を点けるなり、物置に仕舞ってあった優子からの手紙やプレゼント、二人一緒に写った写真を引っ張り出して、ビールを浴びるように飲みながら、かつては、否、その日のあの時までは宝物だったもの全てを破り、千切り、壊した。夢の世界が最期の時を向かえてその廃墟に残された、優子に関わる全てのものを消し去りたかったからだ。何もかも・・・。

 でも・・・不思議なもんだ。何せルックスも良いとは言えず、背も特別高いわけじゃない、服装なんてお洒落や流行とはかけ離れたこの俺に、もう二度と夢の世界は訪れやしないと思っていた俺の前に・・・

井上晶子という女が現れた。

雨上がりの午後 第491回

written by Moonstone

そこでふと思いついた。優子が初めて別れたいと仄めかした時、「身近な存在」とやらを口にしたことを。その瞬間、俺の疑問は確信へと変わった。

2001/5/21

[冗談だ、って言ってくれ・・・]
 昨日は1日の半分以上横になっていました。相変わらず倦怠感は酷いし、さらに土曜日の夜から嘔吐感まで加わって(土曜日の夜、本当に嘔吐しました)、昼過ぎに起きても食パン1枚+牛乳を半ば無理矢理口に押し込むのが精一杯。
 夕方頃、体力を少しでも元に戻そうと2kmくらい散歩してみましたが、結局帰宅してから2時間ほどダウン(汗)。それから少しでも食べ物を口にしようと、茹でたスパゲッティをベーコンやウインナー、ほうれん草と共に炒めて軽く塩コショウしたもの(実家で作り方を盗んだ手軽に作れる軽食)と野菜サラダを食べて、CDをいくつか聞いて気力が回復したら(回復といっても微々たるものですが)一気に後片付けと入浴を済ませて、今日の更新準備に取り掛かりました。
 こうしてお話している間でも倦怠感と嘔吐感は続いていて、夕食の量を抑えたのは正解でした。このお話も連載も10分程度の短い休憩を挟みながらやっています。これが今の私に出来る精一杯の更新です。せめてメールのお返事を一刻も早くしたいのですが・・・全く身体が言うことを聞かず(こうしてお話している間でも息切れがします)、自分の不甲斐なさを情けなく思うばかりです。
どうしてついてくるのよ、と言いたげな表情を見せられ、さらに「身近に居ると一番安心できるわ」と別に好きな男ができたことを仄めかすようなことを言われた。俺は優子と付き合うようになってから初めて、優子が俺から離れていくという恐怖に晒された。
俺は必死になった。優子を、そして優子と付き合っているという夢の世界を手放したくなかったから。今まで割り勘だった食事の料金を俺一人で払ってみたり、今まで優子の意思を確認してから向かった行き先を自分で決めてエスコートしたり・・・本当に必死だった。最後の方になると優子の表情も幾分柔らかくなって、優子を繋ぎ止めることが出来た、と俺は心の底から安堵した。

 それから暫くの間、優子との付き合いはこれまでどおりのものだった。毎日の電話、ほぼ半月に一度のデート、そして一月に一度くらいは夜を共にした。待ち合わせの場所やデートで俺に向ける笑顔、そしてデートや夜の電話口、或いは薄明かりが差し込むベッドの上で幾度となく繰り返された「私のこと、好き?」という問いかけ。そんな笑顔や問いかけは、ずっと俺に向けられると信じていた。別れる寸前まで追い込まれたあの時は、きっと何かの間違いだったか、電車が混み合っていたか何かで優子がたまたま不機嫌だったか、そんなところだと思っていた。そう思うことで、あんなことがまた起こるんじゃないか、という不安を打ち消していた。なのに・・・。

「・・・今、何て言った?」
「祐司・・・。私、もう貴方とは終わりにしたいのよ・・・。」
「・・・何でまた・・・そんなこと・・・。この前会って・・・。」
「御免なさい。でも・・・もう疲れたのよ。」

 忘れもしない、そして今尚忘れられない10月のあの日の夜、優子からいきなり「最後通牒」を突きつけられた。つい1週間ほど前に会って、何時ものようにボーリング場やゲームセンターに行ったりして、俺の部屋で朝を迎えたのに・・・。何も変わった様子はなかったのに・・・。

雨上がりの午後 第490回

written by Moonstone

俺が慌てて掴んだ腕を優子は強引に引き剥がして、早足で俺から去っていこうとした。愕然とした俺は慌てて人の波を無理矢理垂直方向に渡ってどうにか優子に追いついた。優子は俺が追いついたことを感じて振り向いたが、その表情は硬いままだった。

2001/5/20

[体力回復の道は険しい(汗)]
 何かすると疲労感が急に溜まって、すぐ1時間か2時間は寝てしまう・・・。約2ヶ月ぶりに「本拠地」で迎えた土曜日は、疲労と睡魔との死闘、そして敗北の連続でした(汗)。職場復帰第一日目だった一昨日(5/18)にも体力の低下を実感しましたが、自宅でより一層体力の低下を思い知らされるとは・・・。
 正直な話、座っているだけでもじわじわと体力が減っていくのが分かるくらいです。キーボードも満足に叩けないこともしばしば(文字が表示されるまでキーが押し切れない)。このお話も途中何度も横になって、ある程度体力が回復したら起きて再開、という形でしています。仮に体力を数値化したら、ド○クエのスライムより低いかもしれません。否、多分低いな(爆)。
 メールのお返事もまだ手付かずですし(戴いてから半月以上経つのに(滝汗))、掲示板のレスもまだ。そのうえ作品制作どころではない程の体力の著しい低下。シャットダウンしてメールと掲示板のレスを優先させた方が良いかもしれません。・・・仮にも自分のページを管理運営する者として情けない限りです。
 それに今日は、連載の書き溜めからコピー&ペーストする場所を間違えてしまって、慌てて修正しました(汗)。こりゃ相当ボケてるな・・・。
優子にもっと一緒に居たい、と言われるのは辛かったが、優子も俺の事情を−バイトで生活費を稼がないと苦しいということだ−知っていたし、「祐司の声を聞きたい」という優子の願いに毎日の電話で応えていた。

応えていたのに・・・

 8月だったか・・・。その日はこの町から北へ行ったところにある総合駅、大海(おおみ)駅の中央改札前で待ち合わせすることにしていた。俺は約束の時間より10分早く到着して優子が来るのを待った。刻一刻と迫る待ち合わせの時間。優子のことだから間もなく来るだろうと楽観視していた。しかし、優子は待ち合わせの時間になっても姿を現さなかった。時間が待ち合わせの時間より少しずつ遅れるにしたがって、俺の心は優子と会える楽しみから不安と焦燥と苛立ちに変貌した。

事故にでも遭ったのか・・・?
まだ来ないのか・・・?
こんなに遅れるか?普通・・・!

待ち合わせの時間から30分以上過ぎたところで、ようやく優子が姿を見せた。それで俺の中で蠢き、ざわついていたものは安堵の溜息と同時に一気に吐き飛ぶ。俺は改札を通った優子を出迎える。でも・・・優子の表情は今までと全く違うものだった。笑顔で俺に瞳を向けて駆け寄るんじゃなくて、笑顔はその欠片もなく、視線は俺を避けるかのように彼方此方に泳いでいた。
俺は一抹の不安を覚えつつも、何か嫌なことでもあったんだろうと思って、何時もの調子で声をかけた。
だが、俺が声をかけても優子の表情は一行に緩まなかった。視線も俺を避けるように彼方此方をさ迷っていた。そして優子の口からまさかと耳を疑うような言葉が吐き捨てられた。

もう・・・疲れたのよ。

雨上がりの午後 第489回

written by Moonstone

 遠距離恋愛に不安もあったが、俺は毎日の電話と半月若しくは一月に一度会えればそれで良かった。優子が疎ましく思ってのことじゃなくて、俺はそれで充分楽しかった。

2001/5/19

[職場復帰はしましたが・・・]
 唐突に療養前まで作っていた機器の仕様変更を知らされて、愕然としました(- -;)。そりゃまあ、仕様変更はそれ程珍しいことではないにしても、「接続する機器が高価だから、これに変えたいので」っていうのは反則と違います?予め価格調査すれば分かることでしょうに・・・。
 結局7台のうち5台まで完成していた機器は最初から設計し直し(泣)。でも「(今まで作ってきた機器は)折角作ってきたものだから全部作って、それから設計し直して作れば良いよ。依頼者の方もまだ何も部品が揃ってないそうだから」という上司の補足説明で救われました。
 波乱含みの職場復帰でしたが、職場の皆さんに温かく迎えてもらえて安心しました。最低でも2ヶ月くらいは定時に帰るように、と上司に言われて(主治医にも言われてますが)、定時を30分ばかりオーバーしたら「さあ、帰ろう」との強制退去命令(^^;)。もし私が部下を持つようになったらこういう上司になりたい、と改めて思いました。そんな良い上司や職場の皆さんに心配してもらわなくても良いように、今の病気を一日でも早く治したいです。
 あと我が身に思い知らされたのは体力が極端に低下しているということですね。以前なら持ち上げられた重量物が、どんなに力を入れても持ち上がらなくて、帰宅してから夕食を作って食べた後、疲れを感じて横になって目を覚ましたら朝でした(爆)。こっちの方の対策も急務ですね。
突然で意外な「採用試験」にびっくりはしたが、楽譜から曲の流れと雰囲気を把握して即興でギターソロにアレンジして演奏した。演奏が終ると少なからず居た客と、マスターと潤子さんから拍手喝采を貰い、即日その場でバイト採用となった。ちなみに「これほどの実力と度胸を持っているとは思わなかった」というのがマスターの弁。

 家が飲食店とはいえ、接客なんてろくにやったことがなかったから、最初のうちはかなり戸惑った。どの客から注文を受けたかということが複数になると頭が混乱して、聞き直しに走ったこともあった。マスターと潤子さんに教えてもらいながら1日でも早く慣れようと店中を走り回り、接客と並んで大切な仕事であるステージ演奏をこなした。仕事のやり方が身体に定着するまで半月はかかったかな。

 そんな慌しさの中でも、優子への電話は欠かさなかった。父親名義で請求先も父親の口座になっている自宅の電話を使うと、急に電話料金が高騰した理由を問い質されるのも嫌だったし−何せ市外通話だからな−、一方でどのくらい電話料金がかかるのかということも知りたかったから、電話ボックスを探し回った。自宅とバイト先の道程から少し離れたところに運良く電話ボックスを見つけて、それが設置されている場所が住宅地だから利用する人も殆ど居ない「穴場」だったので、テレホンカードをしこたま買い込んでバイト帰りに立ち寄るようになった。
1回の電話でテレホンカードを半分以上使うのは当たり前で、1枚潰すのも珍しくなかった。話の内容は殆ど互いの近況報告と次に会う日程の打ち合わせ。俺も優子もバイトをしてたから−優子は自宅の近所にあるスーパーのレジのバイトだと聞いた−、そこでの出来事を話すことが多かった。バイトでの変化もそれ程大きなことがあるでもなし、要は互いの声を聞きたかったんだし、聞ければそれで良かった。

 半月、或いは一月に一度、優子が俺に会いにやって来た。優子も短大に通学していたからもっぱら会うのは週末。俺のバイトは土日もあるし生活費を稼ぐ重要なものだったから、昼間にボーリング場やゲームセンターに行って昼食を一緒に食べたりして優子に帰ってもらうか、優子に留守番してもらった。留守番をする日は俺の家に泊まっていくという意思表示でもあり−10時過ぎに俺が居る町から帰宅するのは不可能だ−、同時に俺と寝たい−2つの意味がある−という意思表示だった。

雨上がりの午後 第488回

written by Moonstone

バイト希望の旨を二人に話すと一転して二人の目が真剣になって、課題曲として「Fly me to the moon」の楽譜を渡され、客も居るステージで即興でアレンジして演奏するように言われた。

2001/5/18

[本日より通常生活]
 5/17の「本拠地」への移動も完了しましたので、更新時間も通常の時間帯(要するにテレホタイム)に戻ります。ですからこのコーナーでは「お話の段階では更新日付の前日或いは当日の未明」までの出来事などをお話することになります。つまり、この5/18付の話をしているのは5/17、或いは5/18深夜ということです。「昨日こんなことがあったのか」とか「昨日こんなこと考えてたのか」と思ってお聞きくださいませ(_ _)。
 で、移動を終了してまず思ったのは「実家は自分の居る場所じゃない」ということです。確かに食事や後片付けといった生活面は相当楽になりますが、プレッシャーを受ける回数は「本拠地」とは比較になりません。私の病気は処方された薬をきちんと飲み続けることで徐々に治すものなのに、「薬に頼るな」「気構えがなってない」と言うばかり。決定的なのは「お前の思想はおかしい」という、昔から刷り込まれてきた「アカ嫌い」に基づく「普通の思想」への転換の強要。もう反論するのも馬鹿馬鹿しくて、荷物さえどうにか出来れば1日でも早く「本拠地」へ帰還を強行したかったです。正直言って精神的な面の療養には全くなりませんでした
 もう後戻りは出来ない、と思って「本拠地」で徐々に治していくしかないでしょう。幸い職場でのメンタルヘルスに対する理解は非常に浸透しているので(職種がメンタル部分に影響を及ぼしやすいので)、それも利用しながら回復を目指そうと思います。
 正月は優子と二人で大嶽(おおだけ)神社へ初詣に出掛けた。境内で御神酒が配られていて、優子が酒は全く駄目と言ったから、俺が二人分飲んだ。「俺達二人の一足早い勝利の美酒だ」なんて言ったら、優子に「祐司にはあんまり似合わない台詞ね」と笑われた。

 俺がセンター試験を受けて程なく、優子が第一志望の短大合格を決めた。「祐司が今まで勉強教えてくれたから受かったのよ」と不安と緊張の厚い皮を破って花開いた笑顔でそう言われて、自分のことのように嬉しくて、同時に照れくさく思った。

 それに触発されて、それまでの模試で合格確率50%近傍を漂っていた新京大学を目指して1月下旬から受験当日まで家に篭りっきりで受験勉強に明け暮れて−2/14は優子と会って手作りのチョコレートケーキと「合格祈願」のキスを貰った−、無事合格を決めた。思わずガッツポーズを決めた俺の横で、一緒に合格発表を見に来た優子は泣いて喜んだ。

 二人の進学先が決まったことで、俺と優子は「友達数人と一緒に行く」と両親に嘘をついて、二人きりで2泊3日の温泉旅行に出掛けた。そこで俺と優子は初めて二人きりの夜を過ごし、二人きりの朝を迎えた。初めて迎えた至福の時に、俺と優子はがむしゃらに互いを求め合い、互いの全てを心行くまで堪能した。

 引越しに先立って、俺は父親と一緒にこの町の不動産屋を回り、条件が一番良かった今の家を探し当てた。条件の良さに住み始めるまでは「何かあるんじゃないか?」という疑いが消えなかった。

 引越しの日。バンド仲間が駆けつけて成人式の日に会おうと、優子には毎日電話すると約束して、引越し業者のトラックの後を追うように父親と共に住み慣れた町を離れた。

 どうにか引越しが済んだ後、生活費を稼ぐためのバイト探しを始めた。この町を歩き回っているうちに今のバイト先を発見して、条件の良さと俺のセンスとかけ離れた店造りとの葛藤の中、店のドアを開けた。最初はマスターと対面して思わず後ずさりして、次に潤子さんと対面して、此処は「美女と野獣」の舞台なのか?と訝った。

雨上がりの午後 第487回

written by Moonstone

 最後の「兎さん林檎」を口に放り込んで、林檎ならではのサクサクした食感を堪能してから飲み込む。今年ももう5時間を切ったのか・・・。ぼんやりそう思っていると、俺の頭の中で今年の出来事を纏めたアルバムが次々と捲られていく・・・。

2001/5/16

御来場者103000人突破です!(歓喜)

 ・・・まあ、順調な伸びと言えますね。気になるのは、Side Story Group 2で新作を公開したのに、カウンタの伸びが少ないということです。CCさくら関係のページやリンク集に殆どリンクしていないせいでしょうか?

[Last of resting days]
 今日が約2ヶ月に及んだ療養生活の事実上最後の日です。明日は移動日ですからね。今日も夜から荷物の整理をするので、慌しくなりそうです。荷物はどうにでも出来ますが、私自身は不安要素を幾つも抱えて戻ることになります。荷物のように「持っていかない」という選択肢がありませんからね。
 午前中から昼間にかけて思考すると襲ってくる強烈な睡魔(考えないで出来る種類の仕事は殆どないです)、仕事の引継ぎ(移管?)、残している仕事の状況確認と実施、仕事に加えて家事一切を背負うこと、そして感情暴発の危険性。5/14付では「出来る筈」とお話しましたが、日が押し迫ってくると不安の方が大きくなってきました(汗)。
 しかし、職場復帰の診断結果が出て、仕事復帰が明後日に迫っている今、不安に思ってばかりでは何も始まらないのもまた事実。暫くは厳しい日が続くでしょうが、出来ることから少しずつ始めていくしかないでしょう。
それでは皆様、5/18付更新でお会いしましょう。(^^)/~~~
 俺より少し前に食べ終えた晶子は食後の挨拶を済ませると、二人分の食器を重ねて流しに持っていく。自分の分くらいは運ぼうとしたが、それより先に、それも手早く重ねられたのでどうしようもない。
 晶子は食器を流しに持っていって戻ってくると思いきや、俎板を洗って布巾でさっと水分を取り除いてから、冷蔵庫の中から林檎を−昨日の買出しで買ったやつだ−を二個取り出して俎板の上で四分割して、芯を取り除いて皮に何度か包丁の刃を入れる。そして食器棚から小さめの皿を取り出して、切った林檎を四個ずつ盛り合わせてそれぞれ爪楊枝を一本ずつ刺して持ってくる。皿に乗っているのは所謂「兎さん林檎」というやつだ。

「はい、どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」

 昨日もこの「兎さん林檎」を食べたんだが、見たときはちょっとびっくりした。こんな形状の林檎を食べるのは小学校以来だったからだ。晶子曰く「ただ四等分して芯を取っただけじゃつまらないじゃないですか」ということだが・・・昨日より見慣れたとはいえ、やっぱり少々気恥ずかしい。綺麗に出来ているから食べてしまうのがちょっと惜しい気もするが。
 ふと時計を見ると19:00を過ぎたところだ。四つの「兎さん林檎」はあと一つを残すのみとなった。テレビは俺の正面やや右側と晶子の後姿やや左側、そして俺の背後にある壁をぼんやりと映すだけだ。この時間帯は各テレビ局が歌番組を始めて間もない頃だが、それには興味がないから見ない。晶子も興味がないのか「テレビ見ませんか?」とは言わない。
 今もそうだが、思えば俺と晶子が二人で食事をしたりくつろいでいる時に、CDの音楽が流れていても、テレビがついていた記憶がない。新しいレパートリーのことや料理のこととか、その日そのときに思いついた話題について−殆どは前述の二つだが−話したり、二人で練習をしてたりするうちに食事が終ったり、寝る時間になったりした。言い換えれば、テレビが介入する余地がなかったということだ。
 話題が尽きても意識の行き先がテレビになることはなかった。俺は元々テレビを見る方じゃないし、今までの会話や行動から推測するに、晶子もテレビはあまり見ない方らしい。話題もテレビもなくても、ただ自分と同じ空間に相手が居ればそれで良い。俺はそう思うし、晶子も多分そう思っていると思う。そう信じたい。

雨上がりの午後 第486回

written by Moonstone

 最後に残っていたかき揚げ一つを食べて、俺の食器は全て空になった。

「「ご馳走様(でした)」」

2001/5/15

[今日も平穏な日・・・]
 何をお話しようかと考えてる間に眠くなって、午前中2時間ほど寝てしまいました(汗)。やっぱり午前中に思考が必要なことはしちゃいけないようです。そして目を覚ましてから考えても、やっぱり特別お話することが思いつかなったりします(爆)。平穏な日はお話をするのが難しいです(^^;)。
 敢えてお話するとすれば、昨日の更新で表記しましたとおり明後日の5/17にシャットダウンさせていただきますということですね。これは5/17が朝から「本拠地」への移動日で、何時更新できるか全く見通しが立たないためです。
 5/18付の更新は「本拠地」に戻ってから行いますので、更新する時間帯も元通りテレホーダイの時間に戻ります。更新時間が大きく移動しますが、予めご承知いただけますよう宜しくお願いいたします(_ _)。
「でも、あの頃の祐司さんはあんなことがあって間もなかったですから、女の人に不信感を持ったり情緒不安定になったりするのは無理もないですよ。私も同じような経験しましたから、あの時の祐司さんの気持ちは少しは分かるつもりです。」

 何て言って良いか分からない。分からないから・・・余計に心が温かくなってくる。目頭が急に熱くなってくる。俺は何度も目を瞬かせて、溢れ出そうな感情の水位をギリギリのところでどうにか抑え込む。

「・・・ありがとう・・・。」

 今の俺では、そのたった一言しか言えない。そんな自分がもどかしい。でも、そんな俺に、晶子は柔らかい微笑を浮かべて見せる。その微笑が眩しくてたまらない。

「どういたしまして。さ、準備を続けましょうよ。あんまり夕食が遅くなると年越し蕎麦が食べられなくなっちゃいますから。」
「そうだな。よし、続けようか。」
「はい。」

 俺と晶子はそれぞれの役割を再開する。適度な厚さになるように薩摩芋に包丁を入れる俺。かき揚げに使う人参の皮を剥いてそれと玉葱を切る晶子。今年最後の夕食の準備は着々と進んでいく・・・。

雨上がりの午後 第485回

written by Moonstone

「ほんの少しだけ、もうちょっと穏やかに言ってくれないかな、って思ったことはありましたけどね。」
「そりゃ・・・そうだよな。」

2001/5/14

[また遅れちゃった(汗)]
 午後から暫く、ネットに接続できる場所が野菜やら粗大ゴミやらで大混乱でして、それらが片付くまで待つしかなかったんです。午前中なら接続できたんですがうっかり寝てしまいましてね(^^;)。まあ、昨日も更新したのが夕方頃でしたから良しとしましょう(いい加減)。
 今回の定期更新が約2ヶ月に及んだ療養生活中最後の更新です。次回から私の「本拠地」での更新となります。仕事は勿論のこと「本拠地」での生活(洗濯や掃除とか)が加わりますから、作品制作の時間は確実に減少するでしょう。その限られた時間で更新するのは勿論不安があります。
 でも、療養生活に入る前、もっと遡れば今の病気を患うよりも前から今までグループの数や作品の量に違いはあれど、設立当初から2年以上、隔週で定期更新を行ってきたわけですから、きっと出来る筈だと思って活動していきたいと思います。

「・・・あの時は・・・本当に悪かったな・・・。」
「え?あの時って?」
「晶子に『Fly me to the moon』を教えてた時だよ。晶子みたいにもっと親身になって教えてれば、晶子を傷つけなくて良かったのにな・・・。」

 今思えば、晶子にあの時の言い方は酷かった、とか責められても絶対に文句は言えない。あの時に言ったことを自分が言われたらもっと丁寧に言えないのか、などと言い返すか、練習を放棄すると投槍に言い捨てて練習そのものを打ち切るかのどちらかだろう。

「あの時のことは、少しも気にしてませんよ。」
「え・・・?」

 だが、晶子は俺の予想に反することを言う。意外に思って晶子を見ると、その顔は口元に笑みを浮かべてはいるが、叱責の情念は全く見えない。

「私は音楽を聞くことは知ってても歌うことは中学の授業以来全く経験がなかったですし、その上、楽譜も読めないとなれば、祐司さんがどう教えるか困るのは当然だと思ってました。」
「・・・。」
「それに私自身、借りたCDの歌い方や音程と全然違うことが分かってましたから、祐司さんに何度も叱られたのも当たり前でしたし、その度にもっと上手く歌えるようになるんだ、って発奮したんですよ。」
「・・・。」

雨上がりの午後 第484回

written by Moonstone

 あの時は優子に一方的に捨てられてからまだそれ程間もなくて、その上、晶子にはストーカー並に追い回されて、挙句の果てに俺と同じバイトを始めて、さらになし崩し的というか強引というか、そんな形で「Fly me to the moon」の指導役になってしまって、晶子のことを疎ましく思っていたとはいえ・・・。

2001/5/13

[遅くなりました(^^;)]
 今日は朝から法事のため出かけていたんです。連載は昨日準備し終えて、明日の定期更新も公開作品が完成していたので、ゆったりした気分で今日のお話をしています。天気も暑いくらいによく晴れて、法事も無事に終ったのでほっとしました。
 それに、今日は昼過ぎから強烈に襲ってくる眠気がないので、かなり気分が良いです(^^)。どうもこの眠気は仕事や作品執筆の時に考え事を(仕事だと進める段取りとかで、作品執筆のときはその展開とか)深く且つ長時間していると発生する可能性が高いようです。昨日から一昨日にかけて明日の定期更新で公開予定の作品の展開や台詞を考えているときに眠くなって、少しのつもりで横になったら何時の間にか寝てしまいましたからね(^^;)。
 職場復帰もあと数日に迫っていますし、昼寝せずに1日の仕事を乗り切って、夜きちんと寝るという生活リズムを確立しておきたいです。かなり精密な作業が必要な仕事が控えていまして、寝ぼけ眼でしようとすれば失敗は確実でしょう。起きていても失敗そうな気がするんですけど(爆)。

「あ、それと厚さは5mmくらいに抑えてくださいね。厚過ぎると火が中まで届かなくて硬くなっちゃいますから。」
「うーん・・・。分かった。やってみる。」
「お願いしますね。私はかき揚げの準備をしますから。」

 晶子は玉葱と人参を冷蔵庫から取り出して、俺の隣で皮を剥き始める。やっぱり自炊しているだけあって、その動作には無駄がない。人参の皮もするすると剥けていく。
 ・・・おっと、晶子の様子を見とれている暇はない。俺は頭の中で均等の厚さに切れるようにイメージしながら、慎重に最初の包丁の位置を考える。此処でこの角度・・・否、もっと傾けた方が大きさが均等になるか?・・・どうだ?

「祐司さん。」

 晶子に呼ばれて俺はびくっと体が大きく振動する。驚かされたような気分だ。呼吸は荒いし、心臓もかなり激しく脈打っている。

「そんなに緊張しなくて良いんですよ。」
「何処からどういう角度で切れば良いのか分からなくてな・・・。」
「端の方で厚くて小さくなっちゃったものは捨てても構いませんし、大体5mmくらい、の感覚で切ってもらえれば。」
「そ、そうなのか・・・。」
「機械じゃないんですから、全て均一に切り揃えるなんて無理ですよ。それに、失敗しても気にする必要は全然ないですから、安心して切って下さいね。」

 晶子のアドバイスで、体の強張りが解けていく。やっぱり晶子は良い女、否、良い人間だ。俺にはあまりにも不釣合いなほど・・・。俺が晶子に「Fly me to the moon」の指導をしてた時は、こんな穏やかなアドバイスじゃなかった。キツい言い方しか出来なかった。

雨上がりの午後 第483回

written by Moonstone

 俺は自分から見て水平に置いてある薩摩芋を右上がりに傾けて、切る様子を想像する。多少大きさに差が出るのは仕方ないが、輪切りにするよりはずっと大きさが均等になると予測できる。

2001/5/12

[えっとですね・・・]
 本当は1つどうしてもお話したいことがあるんですが、話したところでどうなるものでもないし、相手は自己矛盾に気付いてないので止めておきます。やっぱり団塊の世代というのは社会から早急に退散させねばなりません。こんなことならリリーフなど買って出るべきじゃなかったです。馬鹿馬鹿しい!(激怒)。
 さて、連載の方は二人で仲良く料理をしているわけですが、ちょっとここは怪しいんですよ。いえ、このままだと一線超えちゃうんじゃないか、とかそういうことではなくて(^^;)、海老の背腸取りのところです。実のところ、私は面倒なので背腸を取らないので、おぼろげな記憶に基づくこのやり方で良かったかどうか分からないんですよ(爆)。「実際はこうするんだぞ〜」とおっしゃる方はメールか掲示板で教えてくださいませ(_ _)。
 ・・・今日はここまでですね。これ以上お話することはありませんし、何より今は腹立たしくて仕方ないので、この後、定期更新の準備を再開します。

「・・・あのさ、晶子。」
「はい?」
「もうここまで来たら、晶子は手を離して良いんじゃないのか?」
「まだ最後まで終ってないから、離すわけにはいかないですよ。」

 ・・・どうやらここからは、晶子の極めて個人的な事情で、それも俺が充分過ぎるほど良く分かる事情で手を離さないらしい。俺は晶子の手がくっついたまま包丁を置いて、切り込みから見える細長い褐色の糸状の物体、即ち背腸をゆっくりと取り出す。今度は上手くいった。ここでようやく両手を覆っていた晶子の手が離れる。

「あとは海老全体を平たくなるように形を整えてくださいね。」
「分かった。」

 俺は背腸を取った海老を平たく整形して、氷水と小麦粉を混ぜた粘性が高めの衣に浸す。程なく海老の下準備が出来あがり−図体が大きめで数の少ないパックを買った−、次は薩摩芋の番だ。二人分ということで買うときに大きさを入念に選んだから、それ程大きくない。

「祐司さんはその薩摩芋を切ってくれませんか?」
「ああ。そのまま縦に輪切りすれば良いのか?」
「それだと大きさがバラバラになりますから、出来るだけ均等な大きさになるように斜めに切って下さい。」
「出来るだけ均等に、か・・・。」

雨上がりの午後 第482回

written by Moonstone

 俺は包丁を俎板の上に置こうとするが、右手を覆っている晶子の手はまだ離れない。無論、海老を持っている左手もそうだ。

2001/5/11

[い、痛いです・・・(T-T)]
 ここ数日、例の胸痛が続いていて困っています。何の前触れも法則もなしに突然、針で刺されたような強くて鋭い痛みが心臓を直撃するので、痛みが治まるまで胸を押さえて我慢するしかありません(汗)。その上、およそ10回に1回の割合でより強い痛みが襲ってきて、その時は胸を押さえて歯を食いしばってひたすら耐えるのみ(大汗)。
 今日(お話している時点では明日)から定期更新の追い込みが控えてますから、連載を少しでも多く書き溜めようとしているんですが、執筆は勿論、その思考(場面や台詞など)をしているときでも問答無用に痛みが走るので、当然執筆や思考は中断。執筆のときならまだしも、思考を中断されるのは御免被りたいです。ええ、勿論このお話中にも何度も襲撃されましたよ(- -;)。
 やっぱり、月曜日の診察のときに主治医に言うべきでした。それまでは痛みがあっても散発的だったので大丈夫だと思っていたんですが、読みが甘かったかな・・・。感想メールのお返事もまだしてないですし(メール下さった方々、御免なさい(_ _))、一刻も早く痛みがなくなって欲しいです。
 俺の両手が晶子の手に操作されてゆっくりと動く。俺の両手の動きは晶子に任せて俺はどうやって晶子のように出来るのか、そのプロセスに神経を集中させる。

「まず海老の頭の方を、親指と人差し指で挟むように両横で軽く持って下さい。今の持ち方だと海老どころか、祐司さんの手にも包丁が入っちゃいますよ。」

 確かに晶子の言うとおりだ。この状態で包丁を入れたら海老は勿論、自分の指まで切り込みを入れてしまうことになる。先端の方に刃を入れる、ということで海老の先端を覆うように掴んでいた左手を動かして、晶子に言われたとおり親指と人差し指で軽く挟むように持つ。

「・・・これで良いか?」
「ええ。それで包丁の先の方をこうやって海老の頭の方へ持っていって・・・。」

 包丁を持った俺の右手が、ゆっくりと海老を持つ左手に近付く。そして包丁の先端が海老の頭側の先端に翳される。

「ここで先の方に包丁を入れるんです。あくまで先端だけ使って、切った部分が広がる程度まで・・・。」

 晶子に操作されている俺の手が、海老の頭の先端に包丁を入れる。包丁は先端の鋭い部分が海老の中に入ったまま、海老の背中をなぞるように少しずつ下へ向かって動く。数cm切ったところで包丁を持った右手が止まる。

「これで良いです。あとは包丁を置いて背腸を取り出せば完了ですよ。」
「ああ、分かった。」

雨上がりの午後 第481回

written by Moonstone

「力を抜いて下さいね。」
「ああ。」

2001/5/10

御来場者102000人突破です!(歓喜)

 ・・・まあ、前回の定期更新(4/30)このコーナー以外は更新してませんからこんなペースでしょうか?療養期間最後の定期更新(5/14)では、一つでも多くのグループを更新したいです。

[再びリリーフ登板か?]
 ・・・と思って、5/8夜から5/9朝までずっと起きていました。母親は5/8夜のかなり早い時間に就寝したので、恐らく目覚ましをセットしてはいないだろう、と踏んで、ペット(犬)の早朝散歩の時間である午前5時まで徹夜で待機していました。丁度昨日の深夜はPCの調子が悪くて(テキストエディタがクリックする毎に勝手にコピーや移動やペーストや削除をした(怒))デフラグや再起動を繰り返したりしてたので、久々の徹夜もさほど苦になりませんでした。
 案の定、時間になっても母親が起きてくる気配はなかったので、私がペットの散歩に出ました。念のために少し厚着をして出たのですが、思ったより暖かかったです。で、何時ものコースを回って自宅が見えてきたとき、ごみ出しに出ていた母親と出くわしました。母親曰く「起きたら犬が居ないし、あんたも居なくてびっくりした」とのこと。まあ、驚いて当然でしょうな(^^;)。
 私は帰宅してから朝食を食べて就寝。母親の体調も随分良くなったそうで、それ以後はリリーフ要請はありません。事態が無事収束して安心安心(^^)。
 部屋にはBGMとして倉木麻衣のCDアルバム「delicious way」の5曲目、「Baby Tonight-You & Me-」が流れている。ゆったりした3拍子の心地良いリズムは、ぼうっと聞いていると眠ってしまいそうだ。
 そんな中でも晶子は手を休めることなく夕食の準備をしている。晶子だけに夕食の準備を任せておいて、自分だけ暢気にBGMを聞いているのはちょっと気が引ける。俺は立ち上がって晶子が居る台所へ向かう。

「あ、祐司さん。まだ準備中ですよ。」
「いや、一人でくつろいでるのも何だし、晶子が何をしてるのか、ちょっと見てみたくなって。」
「準備って言っても、大したことじゃありませんよ。」
「俺はその『大したことじゃない』ことさえ知らないからさ・・・。」
「それじゃいっそのこと、一緒に準備しませんか?」

 晶子が誘ってくる。俺としては天ぷらがどうやって出来るのか、そのプロセスを知りたいし、やっぱり晶子一人に全部任せて自分だけくつろいでいるのは気が引ける。ここでの返事に迷う必要はない。

「ああ。一緒にやらせてくれ。」
「ありがとう、祐司さん。」

 そう言って晶子は嬉しそうに微笑む。この微笑を見ると嬉しいのは勿論、身が引き締まるような思いがする。この微笑をもっと見たい。この微笑に応えたい。心からそう思う。
 俺は晶子と並んで天ぷらの準備をする。まずは晶子の詳細な解説付きの「お手本」を見て、それから実際に自分でやってみる。だが、これがなかなか思うようにいかない。最初の「課題」となった海老は殻こそ剥けたものの、背腸(せわた)を取るのが難しい。1匹目は包丁が深く入りすぎて半分ほど真っ二つになってしまった。

「うっ、ミスった・・・。」
「祐司さん。包丁は先端の方を使って、軽く切り込みを入れれば良いんですよ。」

 晶子は自分の手を休めて、殻を剥いた海老を持っている俺の左手と包丁を持った俺の右手を包み込むように掴む。柔らかい感触が手の甲全体に伝わる。

雨上がりの午後 第480回

written by Moonstone

 西に面する窓から染み透る紅の光が作り出した、室内の赤と黒のシルエットが消え始めた頃、晶子は今年最後の夕食の準備を始める。時間的にはやや早過ぎる気もするが、その後に控えている年越し蕎麦を食べることを考えると、丁度良いくらいなのかもしれない。

2001/5/9

[非常事態発生]
 一つ目は私の身体。1年以上私を苦しめている胸痛が5/8の朝からかなり酷くて、午前中は殆ど動けませんでした(汗)。今までは痛む時間が長くてせいぜい5秒くらいだったんですが、昨日のものは痛む時間が長いもので30秒程、その中により強い痛みが混ざる時があって、痛みが消えるまでひたすら我慢するしかないのが(このお話中にも数回やられました)厳しいです。
 二つ目は母親の身体。5/8の朝から様子がおかしいと思って聞いてみたら、頭痛だ何だで体調は最悪とのこと。夜までに多少は回復しましたが、大事に至らないようにということで、私が夕食の準備をしました。幸いメインメニューは散らし寿司で、必要な具は揃っていたのでさほど苦労することなく出来ました。そして後片付けの他色々も私が引き受けて、一応リリーフ成功(^^;)。ひととおり家事が出来ることがこんな形で役に立つとは思いませんでした。後片付けをしている途中などで胸痛に襲われたのには参りましたが(汗)。
 私が今の病気を患う前にはリリーフを買って出ようと思ったかどうか・・・。体験してみないと分からない苦しさ、傍観者にはそれは体調管理が甘いだの何だのと叱咤される辛さ。病気の種類は違っても、そういう苦しさや辛さを我が身で体験したからこそ、今回リリーフを買って出ようとしたのかもしれません。
 晶子の表情が一転して穏やかなものに代わる。俺は内心このまま口喧嘩に発展するかもしれないとかなり危惧していたが、どうやら年を跨いでの騒動になることはなさそうだ。

「祐司さんの視線はちょっとエッチっぽく感じましたけどね。」
「う・・・。わ、悪かった。」
「謝らなくて良いですよ。でもね、祐司さん。女の人は大抵、好きな人が出来ると、相手の人の視線と自分のスタイルをかなり意識するようになるんですよ。」
「そんなもんなのか?」
「ええ。祐司さんってスラッとしてるでしょ?だから結構プレッシャーになるんです。『太ったら嫌われる』って。だから自然に食べる量が減ったり、間食を控えたりするんですよ。」
「ふーん・・・。」
「さっきの祐司さんの視線も、あ、胸からウエストに掛けて見られてるな、って感じて・・・。念のため聞いてみたんです。本音を聞きたかったら、ちょっと怒ってる振りをして。」
「な、何だ?てことは、俺の視線が何処に向いてるか全部お見通しだったのか?」
「そうですよ。」

 晶子はいともあっさり俺の疑問を肯定する。俺は苦笑いしてテーブルに片肘を突いて、手で額の一部を覆って頭を掻く。観察力は晶子の方がずっと上だな・・・。これだと浮気をしようものなら簡単にばれてしまうだろう。もっとも相手一筋が信条で、その上、金もなければ女受けしないルックスとなれば、彼方此方に浮名を流せる筈もないが。

 冬至を過ぎたとはいえ、日の落ちる時間は早い。午後5時を過ぎれば夕闇が東から押し寄せ、夕焼けの余韻を味わわせることなく空も町も闇に沈む。それに合わせるように点々と小さな明かりが灯る。無論、俺の家も例外ではない。

雨上がりの午後 第479回

written by Moonstone

「・・・本当にそう思います?」
「思うよ、そりゃあ・・・。上手く表現できないけど何て言うか・・・正月太りとは無縁でいて欲しいな、って・・・。」
「それなら良いです。」

2001/5/8

[診断の結果]
 予定どおり職場復帰することになりました。その関係で、来週(特に後半)は更新時間が何時になるか分かりませんので(ある日午前中に更新されたら、夜再び更新されるとか)、予めご了承ください(_ _)。
 抱えている不安、特にスムーズに職場復帰できるかどうかについては、上司と相談して決めるように、とアドバイスを受けました。信頼できる上司ですのでその点はまず大丈夫だと思います。
 胸痛が未だ続いていることについては私が言いませんでした。私の胸痛は、不安やストレスに晒され続けていると発生するもので、他の人では胃が痛いとなるところが私の場合は心臓に来たというわけです(胃と心臓が最もストレス反応が出やすいそうです)。その状態がずっと続くと、胃の場合は胃潰瘍などになりますし、私のように心臓に来た場合は心不全などの心臓病に繋がるそうで、それこそ命を左右しかねない爆弾を抱えていることになります(大汗)。
 あと、主治医からは1、2ヶ月ほどはなるべく安静にしているように、とのアドバイスを受けました。前回は職場復帰していきなりロケットスタートしたので(汗)、前回の二の舞にならないように暫く大人しくします。
 完治した、とはまだ言えませんが、少しでもそれに近づけるように生活していくつもりです。走ってではなくて歩いて・・・。
そして二人分の少しばかり小さめの湯のみを−一人のときはステンレスで出来たマグカップを使うが−テーブルまで持っていく。そして急須から交互に茶を注いで片方の湯飲みを晶子に渡して、俺は自分の席に座る。

「今年最後の買出しも済んだし・・・あとは夕飯食べて年越し蕎麦を食べて・・・って、食べることばかりだな。」
「そうですね。年末年始って食べることが何時もより多いですよね。」
「そして何時の間にやら正月太り、か・・・。」

 俺は湯飲みの茶を少し啜ってまじまじと晶子を見る。冬服を着てるから外見からではよく分からないが、今まで何度か抱き締めた時に胸に感じる弾力や寝間着の隙間から見たり、その感触・・・熱出したときに俺の家に来た晶子の胸に倒れこんだときの感触から考えると、結構胸はあるみたいだ。今晶子が着ているフレアスカートの位置と様子からして、ウエストは細めらしい。正月太りで崩れなきゃ良いけどな・・・。

「祐司さん。」
「あ、ああ。何だ?」
「何処見てたんですか?」

 そう言う晶子の目と表情には、疑惑の念がたっぷり篭っているように思えてならない。その目と表情を正視できない俺は、急に渇きを感じた喉を半分ほど残っていた茶で潤して、晶子から視線を逸らす。何て言い訳したら良いのやら・・・。「胸がどのくらいあるかとウエストを見てた」なんて馬鹿正直に答えるわけにはいかないし・・・。

「祐司さん?」
「い、いや、その・・・晶子は結構スタイル良さそうだな、って思って、それが正月太りで崩れなきゃ良いのにな、って思って・・・。」

雨上がりの午後 第478回

written by Moonstone

 晶子はコートを脱いで俺の後ろを通って自分の席、即ち俺の向かい側に座る。少ししてポットの湯が沸いたことを知らせる電子音が鳴る。予め用意しておいた茶葉入りの急須に二人分の湯を注ぐ。

2001/5/7

[間に合わんかった〜]
 昨日の夜から今日の未明(A.M.1:00)にかけて、長らく更新が止まっているSide Story Group 2の連載の一つ「Bug Buster 知世」の新作を書いていました。構想自体はずっと前からあって、多少(約8kB)書いてあったのですが、日々の連載の更新や各グループ、特にNovels Group 1の「Saint Guardians」やSide Story Group 1の「魂の降る里」のことで頭がいっぱいの状況が続いて、半年以上棚上げされたままだったんです(汗)。
 定期更新の谷間である今日の公開を目指して書いていたんですが、出遅れが響いて今日には間に合いませんでした。土曜日から書き始めていれば良かったんですがね・・・。来週の定期更新には多分間に合うと思いますので、あと1週間ほどお待ちくださいませ(_ _)。
 そして今日は私の通院日。主治医の判断で療養の延長か職場復帰かのどちらかが決定します。体調は良好ですが、今の通院&療養生活の発端となった胸の痛みは今尚時々ありますし、昼間の強烈な眠気も未だ健在。そして復帰の判断が下っても約2ヶ月のブランクを乗り越えられるか、不安の種は尽きません。何れにせよ、今日の診断結果は明日のこのコーナーでお話するつもりです。
 俺は自転車に跨り、左右の安全を確かめてから自転車のペダルを漕ぎ始める。今年の終わり、そして来年の始まりを間近に控えた街に、俺と晶子は共に暮らすための買出しに出る・・・。

 俺は玄関の鍵を外してドアを開ける。先に晶子を中に入れてそれに続いて俺が入る。家の中は出掛けるまで暖房を使っていた余熱も殆ど消えている。それでも外と比べれば肌に突き刺さるような冷たい風がないだけずっとましだ。
 玄関の鍵をかけて暖房のスイッチを入れてから、俺は持っていたビニール袋を晶子に渡す。中身は海老と薩摩芋に加えて蕎麦が入っている。晶子が言うには、夕飯で天ぷらをして、そこで余分に作っておいた天ぷらを年越し蕎麦に使うということだ。流石に料理慣れしているだけに要領が良い。

 晶子がこの家の大掃除を手伝いに来てくれたのが29日。それ以来晶子はずっとこの家に居て俺と寝食を共にしている。半ば、否、殆ど同居状態だ。食事の度にバイト先で潤子さんが準備してくれるのと同じように美味い料理を並べて、寝る度にもそもそと俺に擦り寄ってくる。前者は料理が全く出来ない俺には本当に有り難いことだが、後者は何時理性の蓋を突き破って欲情が溢れてくるか分からないだけに困ったものだ。・・・止めて欲しいと言う気にはなれないのは事実だが。
 そして今日は大晦日。俺がこの町に住み始めてから初めての年越しの日であると同時に、新しい年の始まりが直ぐ後に控えている日でもある。それを晶子と一緒に迎えるなんて、つい2ヶ月ほど前までは想像もしなかったのにな・・・。
 俺はコートを脱いで壁のフック状の突起に掛けて、茶の用意をする。食品の整理や調理は出来ないにしても、これくらいのことは出来る。何もかも晶子に任せっきりというのは横着が過ぎる。晶子はメイドでもないし母親代わりでもないんだから。

「祐司さん。材料は全部仕舞いましたよ。」
「ああ、ありがとう。茶を用意するから席に座っててくれ。」
「はい。」

雨上がりの午後 第477回

written by Moonstone

「私は準備OKですよ。」
「・・・じゃあ、行きますか。」

2001/5/6

[書き溜め進行中]
 リスナーの皆様は既にご承知のことかもしれませんが、私はかなり筆が遅いので、作品を仕上げるためには相当の時間を必要とします。その一方でこのコーナーは毎日更新するわけですから、定期更新の前までにこのコーナーが準備できていないと、テキストエディタのウィンドウを幾つも開いて、さらにブラウザで表示を確認するという修羅場を味わうことになります(汗)。
 そこで連載を事前に書き溜めておくこと、所謂「書き溜め」の量が重要になっています。以前は更新直前に手早く書いて・・・なんてことが出来たんですが、現在の私の状況では非常に難しいので、尚更書き溜めの重要性が高まります。
 勿論、書き溜めにもそれなりに時間がかかるわけで、週末の日中や(今は曜日を問いませんが)作品制作の意欲が少ないときなどに、こつこつと蓄積していくんです。今日現在書き溜めは恐らく3、4日分は確保できたようですので、久しく更新していないグループに新作を投入できる可能性が少し高まったので一安心。ちなみに現時点における書き溜めの容量は200kB超。1日で書ける量はまちまちですが、少しずつでも蓄積されると相当なものになるものだな、と改めて実感しますね。

「さっきのお返し。」
「祐司さんから・・・されるなんて・・・。」
「もしかして・・・嫌だったか?」
「その逆ですよっ!」

 晶子の反応が予想外に少なかったことで不安に思って晶子に顔を近づけたところで、少し戸惑っていたような晶子の表情が一転して満面の笑みに変わり、俺の唇を唇で塞ぐ。二つの唇が重なり合うと同時に、俺の首が晶子の両腕でがっしり捕らえられる。俺は少し屈んだ格好で晶子からの濃厚な口付けを受ける。
 暫くしてようやく晶子が俺から唇を離し、両腕を俺の首から離す。名残惜しそうにゆっくりと。晶子はあの悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべている。

「・・・今はさっきのキスで引き分けということで。」
「・・・そうだな。買出しに行くんだから、どこかで収拾をつけないとな・・・。」
「ええ。それに訓練はこれから何時でも出来ますからね。」
「何時でも・・・ねぇ。」
「さ、行きましょうよ。」
「よし、行くか。」

 俺と晶子はコートを着て外に出る。抜けるような青空とは対照的に冷気を存分に帯びた風はかなり冷たい。今が冬だということを嫌でも実感させられる。玄関のドアに鍵をかけた俺は鍵をコートの胸ポケットに入れて、壁際にある自転車の鍵を外す。冷気で固まりかけた両手に手袋を嵌めてマフラーを巻いて俺は準備完了。後は自転車を通りの直前まで押していくだけだ。
 アパートの他の住人の車もあるから、やや狭い隙間を通って通りに面したところまで出る。それと同時に自転車の後ろにいた晶子が、直ぐに後ろの荷台に飛び乗る。この辺りの動作は本当に俊敏としか言い様がない。

雨上がりの午後 第476回

written by Moonstone

 今度は俺の番だ、という胸の中での言葉と共に、俺は晶子の左頬に軽く触れるように唇を押し付ける。柔らかく弾む滑らかな晶子の頬の感触が唇に伝わる。唇を離して晶子を見ると、俺がやられたときと同じように赤みを増した頬に手をやって俺を見る。

2001/5/5

[♪屋根より高い鯉のぼり〜]
 最近は殆ど見かけませんね。片手で持てるようなミニチュア版は時折見かけますが。もっとも電線が張り巡らされた空中にあの巨体を浮かべようとするのはかなり無理がある話。田園地帯が多い町(要するに電線が少ない田舎町)で大きな鯉のぼりをいくつも泳がせて「鯉のぼり祭」なんて町おこしをやってみるのはどうでしょう?もしかしたら既に実現されているかも(^^;)。
 さて、大型連休最後の今日明日は例年どおり、高速道路の渋滞が物凄いでしょうね。特に今年は週末と重なりましたから、各地で10kmを超える渋滞が発生するのは確実でしょう。ラジオで時々交通情報が流れるんですが、昨日とかでも彼方此方で10km以上の渋滞が発生してたそうです。渋滞となるとパーキングエリアやサービスエリアに入るのも一苦労でしょう。特に子どもを乗せている方々は子どもをあやすのも加わりますから、さぞかし大変だと思います。
 私は現在療養中の身で自宅に戻るまでにあと2週間弱ありますが、気楽どころか職場復帰がスムーズにいくかどうかかなり不安です。ブランクが大きいのは勿論、最終局面を迎えている仕事も待ってますからね・・・。昨日も夜静まり返った部屋でそのことを考えてました。判断を下すのは主治医ですから私はそれを受け入れる他ありません。果たしてどうなることやら・・・。

「もう少しで片付きますから。」
「慌てなくて良いよ。終るまで待ってるから。」

 俺の言葉に晶子は柔らかい微笑みと小さく頷くという反応を返す。それが嬉しくてたまらない。俺は自分が座っていた場所に戻って腰を下ろし、右腕で頬杖をついて晶子が食器を片付ける様子を眺める。この構図が台所で毎日展開されたら・・・、と思うと、胸の奥からほわんとした心地良い気分が湧いてくる。
 水で泡を流された皿が水切りの桶に入れられると、晶子は多少泡が残っている手を水に通して泡を洗い流して、傍に掛けてあるタオルで手を拭く。

「片付け、終りました。」
「それじゃ・・・。」

 俺は立ち上がって部屋の隅に置かれた鞄を覆う形で置いてある、晶子のコートを手に取る。そして壁にあるフック状の突起に掛けられてある俺のコートとマフラー−晶子からのクリスマスプレゼントで貰ったやつだ−も手に取る。手を拭き終えて俺のところに駆け寄ってきた晶子にコートを渡す。

「ありがとう、祐司さん。」
「どういたしまして。」

 晶子はコートを受け取ると、片手で俺の左肩を掴み、それを「足掛かり」にして俺の頬に柔らかい点状の感触を伝える。・・・またやられた・・・。着替えで身体に残っていた寒気が身体の芯からの火照りで一気に吹っ飛んでしまう。

「あ、あのなぁ、晶子・・・。」
「まだまだ訓練が必要みたいですね。」
「・・・それなら。」

雨上がりの午後 第475回

written by Moonstone

 寒さが全身に染み渡らないうちにどうにか着替え終わった俺は、寝間着とその上に羽織っていた上着を持って風呂場を出る。ドアが開く音を聞いたのか、晶子が俺の方を向く。その手には泡が溢れるスポンジと大きめの丸い皿がある。

2001/5/4

ご来場者101000人突破です!(歓喜)

 ・・・まあ早いこと早いこと(^^;)。100000人突破から2日で1000人の壁をまた1枚突破ですか。御来場者数が増えることが嬉しいのは勿論ですが、私にとっては1000人という数が一つの区切りですので、以後も1000人突破毎にこうして表記していこうと思います。

[眠気&倦怠感との死闘]
 現在は小康状態にあるとはいえ、私が心身の調子を崩していることは、リスナーの皆様はご周知のことと思います。日中は常に眠気に晒され、夕方頃から持ち直してくるのが一般的(?)な傾向なんですが、日中眠いときに寝ないと、夕方以降全身を包む倦怠感に化けて、寝ようにも鎮静剤を飲まないと寝られません。
 職場復帰も近くなってきたので、日中寝ないように自主訓練をしているのですが、つい寝てしまうか、寝ないでその後倦怠感に包まれて急激に意欲が低下するかのどちらかでかなり苦しんでいます。昨日は後者の方で、連載を1行書くのに30分以上かかったりしてしまい、少しでも意欲が回復した時を狙って一気に書き上げるという「強行突破」でこのコーナーの更新を完了した次第です(汗)。
 私が眠気や倦怠感と死闘の真っ最中であっても、他人から見れば「弛んでいる」とか「怠けている」としか思われないのが尚辛いです。心の状態は目に見えませんから仕方ないのですが、少しでも回復の方向に持っていきたいです。
「もう良いですよ。私が居ることが疎ましく思われてるんじゃないって分かりましたから。」

 俺は思わず安堵の溜息を漏らす。互いの思いがすれ違ったまま晶子が帰宅したら、その後どうなっていたか見当もつかない。意地の張り合い、すれ違い・・・。それらがどんな結果を齎すか、熱を出して寝込んだときに充分思い知らされた筈なのに・・・。俺には学習能力がないんだろうか?

「早速と言うか・・・もう少ししてから年越しの分まで買出しに行きたいんですけど、一緒に行ってくれませんか?」
「ああ、良いよ、勿論。」

 晶子はこの家で年を越したいと言う。俺の冷蔵庫は半ば電気だけ食い続ける粗大ゴミになっている。見違えるほど綺麗になったこの部屋で恐らく一つだけ足りないものは生活感だ。それを得るための買出しを断る理由は何もない。
 俺は湯飲みに残っていた、注がれたときの熱さを半分以上失った茶を一気に飲み干す。晶子はとっくに着替えを済ませているが、俺は寝間着に上着を羽織っただけの格好だ。幾ら何でもこのまま外に出るわけにはいかない。格好の笑いものになるか風邪をひくか、どちらが早いかの問題にしかならないだろう。

「それじゃ俺は風呂場で着替えるから・・・。」
「私は洗い物を片付けますね。」
「頼むよ。」
「はい。」

 晶子の返事を合図にして、俺と晶子は同時に立ち上がる。俺は箪笥から着替えを取り出して、晶子は自分と俺の食器を手際良く重ねていく。そして俺は取り出した着替えを持って、風呂場や台所へ行く途中まで−大した距離じゃないが−重ねた食器を両手に持った晶子と並んで歩く。
 風呂場に入った俺はドアを閉めて服を着替える。暖房は風呂場までにはあまり届いていなくてかなり寒いが、服を着替え終わるまでの辛抱だ。俺が服を着替えている間、食器同士が軽くぶつかる音と水の流れる音が聞こえてくる。自分の家で二つの行動が同時進行することなんて普段は在り得ないことだ。そのことが晶子がこの家に居るという実感に明確な輪郭を与える。

雨上がりの午後 第474回

written by Moonstone

「良かった・・・。嫌われたんじゃなくって・・・。」
「改めてさっきまでの流れを考えると・・・晶子に用が済んだから帰れ、って言ってるように聞こえても無理ないよな。・・・俺が悪かった。」

2001/5/3

[第9条の重み]
 戦争の放棄、交戦権の否定。未来を担う若者が戦争に駆り出され「お国のために」死ななくて良い。そして50年以上戦争で他国の人を一人も殺していない。これらは現在の日本の最高法規、日本国憲法第9条の内容であり、その大きな成果です。しかし、各国の反戦団体などが注目するこの「第9条」が今、重大な危機に瀕しています。
 終戦直前から始まっていたアメリカと旧ソ連の冷戦状態が表面化したことで、それまでの日本の民主主義、非戦国家造りが右方向に急転換。アメリカが9条「改正」を言い出し、共産党の事実上の非合法化(後、再合法化)、戦争犯罪者の公職復帰、そして「反共」「防共」を口実にした警察予備隊の創設、などと9条への連続攻撃が始まり、今や日本はアメリカに次いで世界第2位の軍事大国となり、更に有事法制の制定が浮上してきました。マスコミが揃って「改革者」の期待を注ぐ新首相は9条「改正」を公言しています。
 「9条は現実にそぐわない」という主張があります。ですがそれは「世界の憲兵」を気取るアメリカや議会で多数を占める自民党(彼らは「自主憲法」の制定を目的としている)やその亜流が、「現実にそぐわない」ように既成事実を積み重ねた結果であり、「日本の自主憲法作り」という主張も、日本国憲法の制定過程を見れば、それが結局9条攻撃のためにでっち上げられたものだということが容易に分かります
 「愛国心」や「国際貢献」、「周辺危機」や「有事」などを枕詞に、自衛隊の更なる増強や9条「改正」を声高に叫ぶ評論家や団体は、いざ戦争となったら真っ先に戦争の最前線に出ることはないでしょう。戦争の最前線に駆り出されるのは我々国民、特に若者達であり、彼らは安全な後ろ側で日の丸を振り回して「お国のために」と扇動するだけでしょう。それに、かつて「大本営発表」を垂れ流し、「お国のために」と扇動して国民を戦争に駆り立てた戦争犯罪者であるということを完全に忘れてしまっている日本の殆どのマスコミは信用するに値しません。
 リスナーの皆さん、特に10代、20代の若者の皆さんは、マスコミや評論家達の耳障りの良い言葉に踊らされないで下さい。そして「有事」の際に戦場に駆り出されるのは貴方達であることを絶対に忘れないで下さい
 次の「問題」が即座に思いつかない。このまま沈黙したままじゃ「連泊オッケー」と認識されるのは必至だ。・・・そうだ、これはどうだ?

「そう言えば、晶子の家も大掃除しないといけないんじゃないか?」
「私の家の掃除は、一昨日祐司さんが帰ってからと昨日バイトに行くまでの時間で済ませちゃいました。」
「あ、そ、そうか・・・。」

 あっさり返り討ちを食らってしまった。よく考えてみれば、晶子の家は常に綺麗に掃除されてるみたいだから、この家みたいに丸1日かかってくたくたになるようなことはない。・・・他に何かないか・・・?

「此処に居ちゃ・・・駄目なんですか?」

 晶子の声の調子が急に沈む。表情も曇っていて視線も下に落ち込む。拙い。晶子をこのまま連泊したら俺の理性が何時吹き飛ぶか分からないから、遠回しに帰宅した方が安全だ、と思ってあれこれ「問題」を出したつもりだったんだが・・・。

「そ、そんなことはない。絶対にない。俺だって出来るなら晶子にこのまま居て欲しいし、此処で年越しをしても良いて思ってる。」
「・・・。」
「だけど、昨日まだしたいとは思わない、なんて言っておきながら、良い匂いのする髪の毛とか胸の柔らかい感触とか、密着して感じる晶子の温もりとか、そんな俺にとっての「刺激物」がいっぱいの晶子と一緒に寝てたら、俺の理性が何時吹っ飛ぶか分からないんだ。だから晶子にはそうなる前に避難してもらった方が良いと思って色々言ったんだ。只それだけなんだ。」

 俺は心思うが侭に、早口で一気に言葉を畳み掛ける。紆余曲折の末にようやく手に入れた晶子との絆を失いたくない、その気持ちが俺の口を突き動かす。

「じゃあ・・・このまま泊まっていっても良いんですか?」
「ああ、晶子がそうしたいならそれで良い。もし何か足りなくなってそれが晶子の家にあるものなら持ってきても良いし、その時は俺が一緒に行っても良い。腕っ節には自信がないけど居ないよりはましだろう。」
「・・・。」
「食事の材料が足りなくなったら一緒に買い物に行けば良いし、料理を作ってもらうんだから必要な金は俺が出す。だから・・・用は済んだから帰ってくれと言いたいんじゃなくて、俺の理性が怪しいから避難した方が良いんじゃないかって思って、あれこれ言っただけなんだ。」

 口に任せて自分の気持ちを一気に言うと、顔を上げた晶子の表情が悲しみに沈んだものから安堵の気持ちを湛えたものへと徐々に変わっていく。

雨上がりの午後 第473回

written by Moonstone

「・・・えっと、食事の材料は?昨日の夜とこの朝食の分しか持ってこなかったんじゃないか?」
「昨日夕飯作らなかったからその分がまだ余ってますし、必要なものは買いに行けば良いことですよ。」

2001/5/2

御来場者数100000人突破です!(大歓喜)

 ・・・とうとう100000人の大台を突破できました(T-T)。設立当初は少なくとも5年以上かかると思っていた100000人突破が約2年1ヶ月で達成できたのは、ひとえにこのページに足を運んでくださった皆様のおかげです。これまで何度もページ運営や企画で挫折し、そこにここ数ヶ月の心身の不調や情緒不安定が加わってページ閉鎖を真剣に考えたことも何度かありました。しかし、こうして念願の100000人突破を迎えることが出来て、改めて続けてきて良かった、と思います。
皆様、本当に有難うございます(_ _)

[あー、びっくりした(^^;)]
 昨日、更新するファイルをアップし終えてから確認のためにブラウザを見ると、芸術創造センターのカウンタの6桁目が0から1に変わっていました。最初は我が目を疑いましたが、その後少しずつ実感が湧いてきました。しかしまあ、一気に増えたものですね〜。「魂の降る里」の最新作がギリギリ間に合ったせいもあるでしょうが、1日で100000人をあっさり上回るとは・・・。
 背景写真は昨日の更新で変更したばかりなのですが、100000人突破を祝して自前で花火を上げました(笑)。これは本日限定ですので、本日御来場戴いた方はラッキーですね(そうでもないか(^^;))。
 御来場者数100000人を突破しましたが、勿論これで終わりではありません。作品の量を更に増やし、同時に質の更なる向上をしていくという、ページ運営にとって何より大切なことを続けていくのが管理人である私の役割です。今後とも芸術創造センターを宜しくお願いいたします(礼)。
 俺は最初に湯飲みを手に取って茶を啜る。「熱い」より少し冷えた温度の茶はすんなり俺の喉を通って胃に入り、そこから温かみが全身にじんわりと染み渡る。茶で胃を覚醒させた後は、まず焼いた鮭に箸を伸ばす。見違えるほど綺麗になった部屋で、俺と晶子の朝食の時間がゆったりと流れていく・・・。
 昨日の大掃除のことや一緒にアレンジを考えた「Stand up」のことを話しながらの朝食は、20分ほどで終る。食器は俺のも晶子のも殆ど空になった。残っているものといえば、焼いた鮭の皮と骨くらいのものだ。

「「ご馳走様(でした)。」」

 俺と晶子が同時に朝食の終わりを宣言した後、俺は晶子に注いでもらった二杯目の茶を啜る。飲む毎に小さな溜息が出るのは脳が休息しているということを聞いたことがあるが、あれは左脳だったか右脳だったか・・・思い出せないからどうでも良いか。くつろいでいるのは間違いないから。
 思えば昨日からこの時間まで、晶子の世話になりっぱなしだ。洒落にならない程の雑誌を束ねたり彼方此方拭いたり磨いたり、さらには服の整理までやってもらった。そしてさっき終ったばかりの今日の朝食。晶子が居なかったら以前のようなゴミの集積場を髣髴(ほうふつ)させるような雑然とした部屋で年越しの瞬間を見ることになったかもしれない。
 晶子はこの家の大掃除を手伝うという約束で−実際は晶子が主力だったが−この家に来た。約束は昨日で終ったが、この綺麗さっぱりした部屋で一人で居るのは何となく寂しく感じる。だが、約束が終った以上、晶子が帰るのを止める権利はない。このまま年越ししないか、と気軽に言えれば良いんだが・・・どうしてもいざとなると口篭もってしまう。

「ねえ、祐司さん。」
「ん?何?」
「このまま年越しまでこの家に居て良いですか?」

 茶を口に含んでいたら、噴出すかむせるかのどちらかだっただろう。貴方の心の中はお見通しですよ、と俺を見詰める晶子の表情がそう言っているように見える。

「き、着替えは?」
「ちゃんと持ってきましたよ。外出するときの服は大学に行くんじゃないから、今着ている服と昨日お昼を食べに行ったときの2種類で良いと思って。」

雨上がりの午後 第472回

written by Moonstone

「味噌汁とか冷めちゃいますよ。」
「あ、ああ。それじゃ、戴きます。」
「はい、どうぞ。」

2001/5/1

[5月1日の重み]
 週休二日制、社会保険の適用、有給休暇、残業手当など様々な手当の支給・・・。これらのような労働者の権利や保護はどうして存在するのか?どうして労働者に適用されるのか?これらは労働者が思想信条の違いを超えて団結、即ち労働組合を結成して、ストライキや雇用者との交渉など、労働基準法に則った粘り強い先人達の努力の蓄積によって実現された成果なのです。会社があるから同時に存在したり適用されたりするものではないのです。
 ところが、今の日本の労働組合は「能力主義」や「労働力の流動化促進」など、政府や財界の意向を反映する評論家やマスコミの宣伝に踊らされ、大半は雇用者の意向を組合員に垂れ流すだけの御用組合に変質しています。そしてそれら御用組合は5月1日の重みを忘れて、集会を別の日に移して娯楽の場としています。
 さらにマスコミは、5月1日の重みを知っていて財界や雇用者からの人員削減やパートやアルバイト、契約社員や派遣社員といった不安定雇用の多用や労働条件の切り捨てに抵抗して労働者を護る本来の労働組合の様子を報道することはありません。マスコミは所詮、企業からの多額の広告収入が第一であって、サラリーマン、リストラといった横文字もどきの単語を使うことで、サービス残業や労働過密、不当解雇の実態を隠しているのです。本日、トップページにご覧のように表記したのは、5月1日が単なる連休の狭間ではなく、労働者にとって非常に大切な日であることを認識してほしいためです。
 今日の私のお話を聞いて「アカ」と思ったならそれでも構いません。ちなみに私は共産党員でも関連団体の構成員でもありません。しかし労働者の皆さん・・・
本当にこのままで良いのですか?
「朝飯の準備って・・・材料とかは?」
「勿論持って来てありますよ。昨日夕飯作らなかったからその分豪華ですよ。」
「何時もながら・・・準備が良いな。」
「昨日は予想外でしたけどね。あんなに疲れるとは思わなかったので・・・。」

 俺は布団の上に広げておいてある−晶子がそうしたんだろう−厚手の上着を着てベッドから出る。既に暖房が効いているから今の格好でも寒くは感じない。俺は自分の席、というか普段自分が座る座布団の上に腰を下ろして、キッチンで料理を用意しているらしい晶子を眺める。
 長い髪を後ろで束ねてキッチンに立っている晶子は、やっぱり様になっている。こんな風景が毎日見れたら良いな、と思ってしまう。・・・そりゃ確かに同居すれば可能だが、何か晶子の思いどおりに考えるようになってしまっているような気がしてならない。以前はそうならないようにと警戒していたつもりだが、結局今のような状況になっている。・・・やっぱり晶子は相当の策士だな。

「はい、出来ましたよ。」

 晶子は両手に少し大きめの丸い皿を持ってこっちに来る。俺とその向かいの部分に−晶子の席だ−置かれたその皿には、焼いた鮭の切り身と目玉焼きが乗っている。続いて味噌汁が入っているらしい−味噌汁の匂いがしたからだ−小さな鍋と炊飯器、そしてお茶が入っているらしい急須が運ばれてくる。
 普段じゃ想像も出来ない朝飯が目の前にこうして並べられると、こういう生活って良いよなぁ、などと思って、ほわんとした幸せ気分に包まれてしまう。ああ、こうしてまた晶子の思いどおりになっていくのか・・・?このままだと、気が付いたら俺と晶子の名前が表札に並んでいるってことになりそうでちょっと怖い。でも、それも良いかな、とも思ってしまう。・・・うーん・・・。

「祐司さん?どうしたんですか?」

 晶子の声で俺は我に返る。俺の目の前には焼いた鮭の切り身と目玉焼きが乗った皿に加えて、湯気を立てる味噌汁と−具はワカメと刻み葱だ−ご飯が入った茶碗が用意されている。そして湯飲みには味噌汁と同じく湯気を立てるお茶が注がれている。すっかり食べる準備は整っていたのに、考え事をしていて自分の目の前の様子すら目に入らなかったようだ。

雨上がりの午後 第471回

written by Moonstone

「分かってくれました?」
「・・・充分過ぎるくらい、良く分かった。」
「じゃあ起きて下さいね。それから朝御飯食べましょう。もう直ぐ準備できますから。」


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