カードキャプターさくら Side Story
Bug Buster 知世
Buster 11 −魂の祈りを届けましょう−
written by Moonstone
季節の変わり目では、何かと体調を崩しやすい。普段元気いっぱいな人でも呆気なく寝込んだりするものだ。
ある日の朝、目覚ましの音で覚ましたさくらは起きようとするが、どうにも身体に力が入らない。
それだけではない。熱っぽいし、頭がぼうっとする。
さくらが起き上がれないまま横になっていると、トタトタトタ・・・と階段を上って来る音がして、足音がさくらの部屋へと近づいて来る。
足音はさくらの部屋の前で止まり、ドアが開く。
「おい、怪獣。早くしないと遅刻するぞ。」
中に入って来たのは、エプロン姿のさくらの兄、桃矢だった。
木之本家は母撫子が若くしてこの世を去ったため、父藤隆と桃矢、さくらが家事を分担している。今日の朝食当番は桃矢だ。
何時もなら「さくら、怪獣じゃないもん!」と反抗して来てそれを桃矢があしらうというパターンが展開されるのだが、さくらは一向に起きない。
幾ら朝が弱いといっても今日は度が過ぎる、と思いつつ桃矢は首を傾げながらベッドに歩み寄り、さくらの様子を窺う。
さくらは赤い顔で早く浅い呼吸を繰り返している。表情もかなり辛そうだというのが一目瞭然だ。
桃矢は右手をさくらの額に当てる。明らかに「熱い」と分かる。
「・・・起きられないのか?」
「うん・・・。」
桃矢が尋ねると、さくらは振り絞るように返答する。
寝起きの悪さでも仮病でもない、と悟った桃矢はさくらに言う。
「学校には俺が電話しとくから、そのまま寝てろ。」
「うん・・・。」
桃矢は静かに部屋を出て、その足で1階のダイニング近くにある電話へ向かう。
そしてさくらが通う友枝小学校の電話番号をダイアルし、受話器を耳に当てる。
「・・・あ、おはようございます。そちらの4年1組でお世話になっております木之本さくらの兄の、木之本桃矢と申します。」
桃矢は挨拶と自己紹介に続いて、さくらが急病のため欠席することを担任に伝えるように依頼して電話を切る。
続いて桃矢は友人雪兎に電話をかけ、今日はさくらの看病のため欠席することを伝える。
父藤隆は泊りがけの出張のため不在。病人のさくらを一人にしておくわけにはいかない、ということで、桃矢は学校を休むことにしたのだ。
雪兎への電話が終わったところで、さくらの部屋の机の引き出しが開き、ケロちゃんが顔を出してさくらの枕元に降り立つ。
赤い顔で苦しそうにしているさくらの様子を見た後、ケロちゃんは常時装備しているヘッドセット型の電話で主人(笑)の知世に電話をかける。
ケロちゃんは知世の専属諜報員だ。木之本家の電話は常にケロちゃんが盗聴している。
無論盗聴は違法行為なのだが、可愛いさくらちゃんに悪い虫が近づかないようにとの知世の意向で、ケロちゃんは木之本家の通話内容を逐次知世に
知らせるという任務を課せられている。それを怠ったりすると、封印の獣が墓石の下に封印されるという事態が待っている(汗)。
そうでなくても、さくらが急病で学校を休むとなれば、知世は心配する筈だ。知世はさくらと最も親しいのだから。
まあ、その親しさが知世をバグバスターという名のテロリストとして覚醒させるに至ったのだが。
「はい、知世です。」
「あ、知世。今日さくらは学校休むで。熱出して寝込んどるんや。」
「さくらちゃんが?」
「ああ。んでも兄ちゃんが学校休んで看病するで、心配要らへんで。」
通話内容をケロちゃんが伝えたところで、知世からの反応が途絶える。
「・・・いけませんわ。」
「え?」
「ケロちゃん。お父様は出張中なんですよね?」
「あ、ああ。一昨日から泊りがけでな。んでも、兄ちゃんが看病するで、大丈夫やて。」(汗)
嫌な予感を感じたケロちゃんが慌てて言うと、電話機の向こうから「さくらちゃんをお守りしますわ」オーラの高まりを感じる。
このオーラが臨界点を突破すると、知世は悪い虫からさくらを守るという使命に燃えるバグバスターに変貌してとんでもない行動に突っ走る。
この前も、風邪で寝込んだ小狼の電話を受けたさくらが看病に行くことを知ったことで知世はバグバスターに変貌し、小狼を病院送りにしたのだ。
勿論小狼には何の落ち度も狙いもなかったのだが、厄介なことに、知世がバグバスターに変貌する条件は全て知世の
極めて一方的且つ主観的な思い込みによって決定される。
ケロちゃんの意思や事実など関係ない。あくまでも知世が勝手に使命感に燃えるだけなのだ。
知世のバグバスターモードのスイッチONの前兆を察したケロちゃんは、危機感を募らせる。こちらの危機感は極めて切実だ。
何せケロちゃんには、悪い虫が知世によって退治される一部始終を撮影するという任務が課せられているからだ。
小僧はまあしゃあないとして(爆)、幾ら何でも兄ちゃんをターゲットにするのは拙い、とケロちゃんは思う。
それ以前に兄ちゃんがターゲットにされる理由なんてあらへんやん、とも思う。作者だってそう思う。
桃矢は、病人のさくらを一人にしておくわけにはいかないから学校を休んで看病することにしたのだ。何ら邪な意図はない。
ケロちゃんも、盗聴した内容を正確に伝えた。
なのに何で「悪い虫からさくらちゃんをお守りしますわ」オーラが高まるねん、と危機感を強めるケロちゃんに対し、知世は言う。
「お兄様は、さくらちゃんが寝込んだのをこれ幸い、とばかりに、さくらちゃんとの距離を一挙に縮めるおつもりなのですわ。」
「そ、そんなわけあらへんやん!」(汗)
「お粥に睡眠薬を仕込んでさくらちゃんが眠ったところで、『さくらを俺のものにしてやる』なーんて言って、一挙に
さくらちゃんを我が物にするおつもりなのですわ!」
「ちょ、ちょう待て!何言うとんねん、知世!」(大汗)
そんなことになったら18禁どころか児童何とか法違反になりかねないので、作者は書けない。
小僧はまあしゃあないとして(爆)、兄ちゃんがターゲットにされたら適わん、とケロちゃんは思う。
桃矢はケロちゃんの存在に気付いている。以前知世が桃矢をターゲットにして退治した時(Buster4)、ケロちゃんは桃矢に絞め殺されそうになった。
今度はホンマに殺される、まだぎょうさん食いたいもんがあるのに死にたぁない、とケロちゃんは冷や汗をどばどば流す。
しかし、ケロちゃんのそんなささやかな願いとは裏腹に、知世は「さくらちゃんをお守りしますわ」オーラをどんどん高める。
こういうのを世間一般では妄想とも言うのだが、知世はケロちゃんの心境などお構いなしだ。
「お兄様をまたしてもこの手にかけることは、とても心苦しいことですわ。」
「む、無理せんでもええんやで?知世。な?」(大汗)
「でも!(くわっ)たとえお兄様といえども、可愛いさくらちゃんの御身に危機が迫っているとあればこのバグバスター知世、出撃しないわけにはいきませんわ!」(燃)
「あうあうあう。」←言葉にならない
というわけで、ケロちゃんの説得も空しく、今回の対象者は木之本桃矢に決定。
桃矢にとってはまったく身に覚えのない話なのだが、知世が悪い虫と判断したんだからしょうがない。
対象者が決定したら戦闘用コスチュームを決めるのが、このシリーズのお約束。
コスチュームは撮影担当のケロちゃんも着用を義務付けられている。逆らったら墓石の下に直行なので、ケロちゃんは従うしかない。
「病気であることをこれ幸い、とばかりにさくらちゃんの貞操を奪おうとするお兄様の精神は大変問題ですわ。」
「問題なんはお前の思考回路やて、知世。」(- -;)
「ここはさくらちゃんをお守りすると共に、お兄様の精神を根本から叩き直さねばなりませんわ。」←聞いてない
「否、兄ちゃんの精神には何も問題あらへんと思うんやけど・・・。」
「となれば、コスチュームは、あれが最も適切ですわね。」←やっぱり聞いてない
流石はさくら専属のスタイリスト。自身の戦闘用コスチュームもTPOに合わせて着実に整備しているらしい。
「ではケロちゃん。私は準備を整えておきますから、直ちにこちらに来てくださいね。」
口調こそたおやかだが、その可憐な声には腹を空かせたライオンの群れも逃げていく猛烈な威圧感が篭っている。
逆らったら墓石の下へまっしぐらや、と思ったケロちゃんは大人しく了承する。封印の獣も知世の前ではとことん無力なのだ。
さて、知世はどんなコスプレ・・・じゃなくて(汗)、コスチュームで悪い虫退治に乗り出すのか、とくとご覧あれ。
・・・知世、学校は良いのか?とは聞かないでください(^^;)。
桃矢はお粥を作っていた。さくらに薬を飲ませる前に栄養補給を兼ねて食べさせるためだ。
空きっ腹で薬を飲むと胃を痛めることがある。某痛み止めの薬にも胃腸薬が入っていたりする。
出来上がってトレイに乗せたところで、インターホンが鳴る。
誰だろう、と思いつつ桃矢は玄関に向かう。そして玄関のドアを開けた桃矢は驚愕の声を上げる。
「な、何だ?!お前!」
「心配要りませんわ、お兄様。私は通りすがりの修験僧ですわ。」
桃矢の前に現れたのは、天狗が着ているような服装で何処かで見たような可愛い杖を持った知世その人だった。
何ともマニアック・・・じゃなくて(汗)、風変わりなコスチュームは、物陰から撮影しているケロちゃんもしっかり着用している。
以前知世がいきなり学校に乗り込んで来た際、小学生、しかも自分の妹を狙っている変質者のレッテルを貼られ、
個人授業とか何とか言うわけの分からない名目で蝋燭と鞭で散々しばかれた悪夢が、桃矢の脳裏に蘇る。
こいつ(知世)が「通りすがりの〜」とか名乗ってコスプレして出現するのは、バグバスターという名のテロリストになった時だ。
何で俺がさくらを狙ってると判断されなきゃならねえんだ、と思う桃矢に、修験僧(知世)は何処かで見たような可愛い杖で桃矢をびしっと指して言う。
修験僧(知世)「お兄様。貴方はさくらちゃんが病気であることに乗じて、さくらちゃんの貞操を奪おうと企てましたわね。」
桃矢「俺はそんなこと少しも考えてないぞ!」
修験僧(知世)「たとえ世間は誤魔化せても、このバグバスター知世は全てお見通しですわ。」←聞いてねぇ
ケロちゃん「せやから、自分で正体ばらすなっちゅうに。」←一応突っ込み
桃矢「お前、いい加減にしねーと・・・。」(- -#)
修験僧(知世)「お兄様の邪な心を叩き直すと同時に、さくらちゃんの一刻も早いご回復を祈念していただきますわ。」
桃矢「な、何?」
修験僧(知世)「風よ!戒めの鎖となれ!『風(ウィンディ)』!」
知世が何処かで見たような可愛い杖のボタンを押すと、彼方此方からサングラスと黒いスーツといういでたちのガードマンお姉さんズが現れ、
桃矢が逃げるより先に両腕両足を拘束し、一気に神輿(みこし)のように担ぎ上げる。
ガードマンというだけあって拘束力は強く、運動神経抜群の桃矢でもなす術がない。
修験僧(知世)「さあ、お兄様。これから修練の場にご案内いたしますわ。」
桃矢「修練なんて必要ねえ!」
修験僧(知世)「お兄様の心からの思いは、きっとさくらちゃんに通じますわ。」←全然聞いてない
桃矢「俺が居なくなったら、さくらの看病は誰がするんだ!」
修験僧(知世)「さくらちゃんのことはお気になさらずに、お兄様はご自身の精神修練とさくらちゃんのご回復の祈念に専念なさってくださいませ。」
小さな修験僧(知世)を先頭に、桃矢を担いだガードマンお姉さんズは通りを歩く。
ケロちゃんはドアを閉めた後、急いで知世と桃矢の後を追う。
「おい!何するつもりだ!」
桃矢は叫ぶ。ちなみに桃矢は白装束に着替えさせられ、正座の格好で上半身と足を鎖で縛られている。
付け加えると、三角形で波打つ石座布団に乗せられ、足には重石を乗せられている。
時代劇の拷問シーンそのままのスタイルで身動きが取れない桃矢が居るのは、何故か井戸の傍。しかも無闇に寒い。
修験僧(知世)が桃矢を強制連行・・・じゃなくて(汗)、案内したところは、知世の家の地下にある巨大冷蔵室。井戸は今日用意されたものだ。
知世は修験僧の服装の上にしっかり厚手のコートを着てマフラーを巻き、手袋も填めている。防寒対策はバッチリだ。
ガードマンお姉さんズも防寒対策の上に、どういうわけかレインコートを着ている。
修験僧(知世)「古来、日本ではある人の無事や成功を祈念するため、白装束で冷たい水を被って祈ったと言いますわ。」
桃矢「それがどうした!」
修験僧(知世)「ことある毎にさくらちゃんを我が物にしようとするお兄様には、さくらちゃんのご回復を祈っていただくと同時に
可及的速やかに精神修練を行う必要性がありますわ。」
桃矢「さくらの回復を祈るなら、お前がやれ!」
ケロちゃん「ホンマや・・・。」←同感
修験僧(知世)「お兄様でこそ、さくらちゃんへのご回復の祈念がより良く届くというものですわ。」
桃矢を白装束にした上時代劇さながらの拷問状態にしておいて、自分はちゃっかり防寒着を着用しているのだから、まるっきり説得力がない。
白装束で冷たい水を被ったという知世の言葉。そして傍には井戸というシチュエーション。
間違いない。このバグバスターという名のテロリストは、このくそ寒い環境で、自分に冷たい水をぶっ掛けてさくらの回復を祈らせるつもりだ。
こんなもの祈念でも精神修練でも何でもない。単なる拷問だ。
さながら白装束は死に装束か、と桃矢とケロちゃんは思う、否、確信する。
桃矢は、自分に向けられたビデオカメラの向こうで縫いぐるみのふりを決め込むケロちゃんに、必死に目で訴える。
だが、桃矢に自分の正体がばれるわけにはいかないし、知世の邪魔をしたら次に狩られるのは自分と分かっているからどうにも出来ない。
『ワ、ワイかて兄ちゃん助けたいねん。せやけど、兄ちゃんに正体ばれたらアカンし、知世の邪魔するわけにはいかへんし・・・。』(大汗)
ケロちゃんが後頭部で大量の冷や汗を流す中、拷問・・・もとい(汗)、祈念と精神修練が準備される。
ガードマンお姉さんズが、井戸から水を汲み上げて一列に整列する。水には氷がたっぷり浮いている(汗)。
修験僧(知世)「さあ、お兄様。水を浴びたら大きな声で『さくらが早く良くなりますように』と叫んでくださいね。」
桃矢「だから、そういうことはお前がやれっつってんだよ!」(怒)
ケロちゃん「ホンマや・・・。」←同感
修験僧(知世)「お兄様の歪みきった精神を根本から鍛え直すためでもありますのよ。重要且つ絶好の機会とご認識くださいませ。」
桃矢「出来るかー!!」(絶叫)
修験僧(知世)「では、始めますわよ。」←まったく聞いてない
桃矢の抵抗も空しく、死刑執行が宣言される。
先頭のガードマンお姉さんズが、桶たっぷりに汲んだ水を桃矢に勢い良くぶっ掛ける。
ガードマンお姉さんズが防寒着の上にレインコートを着ているのは、桃矢に水をぶっ掛けた際に濡れないように、という知世の配慮だ。
この配慮を少しでも桃矢に配分すべきでは、とは言ってはいけない(汗)。
桃矢「冷てえーっ!!」(絶叫)
修験僧(知世)「お兄様!お祈りの言葉が聞こえませんわよ!」
桃矢「お前が言え!!」
ケロちゃん「ホンマや・・・。」←同感
修験僧(知世)「まだまだ精神修練が必要ですわね。」
ガードマンお姉さんズが、一定の間を置いて桃矢に桶いっぱいの水をぶっ掛けていく。
知世は両手を組んで目を潤ませて「さくらちゃんが早く回復しますように」と言うのだが、桃矢からは絶叫しか上がらない。その絶叫も次第に弱くなって来る(汗)。
修験僧(知世)「お兄様!魂の叫びが聞こえませんわよ!」
桃矢「さ、さくらが早く良くなりますように・・・。」←かなりヤバイ
修験僧(知世)「そんな小さな声では、さくらちゃんの心に届きませんことよ!」
ケロちゃん「無茶言うなや、知世・・・。」(大汗)
気温が0℃近傍という環境下で冷たい水をぶっ掛けられる桃矢は、唇は紫色で顔面蒼白。とてもさくらの回復祈念どころではない。
どう考えても白装束は死に装束としか思えない状況下で魂の叫びだの何だのと言うのは、はっきり言わなくても拷問だ。
だが、桃矢にはガードマンお姉さんズによって、汲みたての水が容赦なくぶっ掛けられる。
修験僧(知世)「さくらちゃんが早く良くなりますように!」
桃矢「さ、さくらが早く良くなりますように!」←もう必死
身体から血の気が失せた桃矢は必死に声を張り上げる。まさに魂の叫びだ。
桃矢と同じく顔面を蒼白にしたケロちゃんは、カメラの向こうで展開される光景が同情の涙で滲んで見えない。
水がぶっ掛けられる度に知世と桃矢の祈りの声が上がる、という光景が暫く続いた後、見るからにヤバイ桃矢が最後の力を振り絞る。
「さ、さくら・・・。」(がくっ)
桃矢が項垂れてピクリとも動かなくなったところで、同情の涙で頬を塗らしたケロちゃんは知世をズームアップする。
この時のために用意されたスポットライトに照らされつつ、爽やかな笑顔を浮かべた知世は、天井を見上げながら決め台詞をのたまう。
「良いことをした後は、気持ちが良いですわ。」
「知世ぉ・・・。お前なぁ・・・。」(T-T)
滝のように涙を流しながら、ケロちゃんは撮影を終了する。
この後、桃矢が瀕死の状態で病院送りになったのは言うまでもなかろう(汗)。このシリーズでは絶対死人は出ないので念のため。
ちなみにこの間、さくらは大道寺家専属の医療スタッフによって手厚い看護を受けていた。
・・・精神修練とか何とか言って桃矢を拷問にかけなくても良かったのでは?とは言ってはいけない(汗)。
極めて一方的且つ主観的な思い込みによってバグバスターに変貌した知世の目的は、桃矢を退治することだったのだから。
どうにか生命の危機を脱した桃矢の元に、見舞い客が訪れた。すっかり元気になったさくらと雪兎、そして知世だ。
偶然にも同じ病室、しかもベッドが隣という桃矢と小狼は、自分を病院に送りにしたバグバスターという名の死神を見て顔を引き攣らせる。
さくら「小狼君に続いてお兄ちゃんまで入院だなんて・・・。大丈夫?」
小狼「な、何とか・・・。」
桃矢「川の向こう岸で母さんが手を振ってるのを見たけどな。」
雪兎「李君が重度の胃腸炎と貧血。桃矢が肺炎に低体温症か・・・。とんだ災難だね。」
知世「本当に大変なことになりましたわね。」
『『誰のせいだと思ってるんだ!!』』(激怒)
他人事のように言った張本人に、桃矢と小狼は心の中で絶叫する。
さくらは桃矢と小狼にどんな災難が降りかかったのか知らないし、真相を言っても「知世ちゃんがそんなことする筈ない!」とさくらに否定されるから
言わないだけだ。さくらの信用を失いたくない、という思いは共通である。
「・・・ところで、さくら。あれ・・・持って来てくれたか?」
「あ、うん。」
桃矢に言われたさくらがリュックから取り出したものは・・・ケロちゃんだった。勿論縫いぐるみのふりは忘れていない。
ケロちゃんはさくらから、上体を起こしている桃矢の手に渡る。縫いぐるみのふりを決め込むケロちゃんは、桃矢に見据えられて後頭部で冷や汗を流す。
「・・・なあ、さくら。これ・・・縫いぐるみだよな?」
「そ、そうだよ、縫いぐるみだよ。」(^^;)
慌てて肯定するさくらに対し、桃矢は無表情でケロちゃんを見詰める。ケロちゃんの冷や汗の量が増す。
「俺な・・・。さくらの欠席を電話連絡した後でテロにやられたんだ。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「てことは、だ。その凶悪なテロリストは、何処かで電話を盗聴していたって考えられる。」
桃矢はケロちゃんに視線を固定したまま無表情に言う。ケロちゃんの冷や汗の量が更に増す。
「TVでさ・・・。『これが盗聴の実態』とかいう特集番組で、元彼から貰った縫いぐるみとかに盗聴器が仕掛けられてるの、見たことあるだろ?」
「う、うん。」
「だからよ・・・。」
桃矢はケロちゃんを見据えたまま、ベッド横の棚に乗せられた果物籠の中に入っていた果物ナイフを手に取る。
「この縫いぐるみに盗聴器が仕掛けられてるかどうか、確かめみねぇと気が済まなくてな。」(ニヤリ)
「お、お兄ちゃん?!」(動揺)
「てめえ、よくも見殺しにしやがったな」オーラを轟々と立ち上らせ、目を血走らせる桃矢は果物ナイフの先端をケロちゃんの腹に
近づけていく。明らかにこれが縫いぐるみでないと分かっているが故の半角ニヤリ笑いを浮かべている桃矢は、物凄く怖い形相だ。
そう。桃矢は知世の代わりにケロちゃんに責任を取らせるべく、ケロちゃんを切腹させるつもりなのだ。
当然ケロちゃんは怖い。かと言って逃げるわけにもいかない。絶体絶命の大ピンチだ。
『ワ、ワイかて、ちゃんと知世止めたんやで!!ホンマやで!!
知世がアカンねん!!知世が無茶苦茶すんでアカンねん!!
兄ちゃん、堪忍してや!!頼むわぁ〜!!』(大泣)
後頭部で大量の冷や汗を流し、心の中でどぼどぼ涙を流しながら土下座して、必死こいて桃矢に詫びを入れるケロちゃん。
隣のベッドでは、横になっていた小狼が会心の笑みを浮かべて感涙を流し、掛け布団から桃矢の方に拳を向けて、「ぐっ」と親指を立てる。
まあ、桃矢にせよ小狼にせよ、あれだけ知世に散々な目に遭わされては止むを得まい。
さくらが慌てて桃矢をなだめるまで、ケロちゃんの切腹の危機は続いたそうな。
絶体絶命のピンチに陥ったケロちゃんを、張本人の知世は「おほほ」と上品に笑いながら見ていたという(汗)。
果たして、ケロちゃんに明るい未来はあるのだろうか?
さくら争奪戦 第11回戦
○バグバスター知世(22分15秒 極寒の水浴び祈り)木之本桃矢×
通算成績 バグバスター知世:8勝1敗1分1無効 木之本桃矢:0勝2敗
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・・・知世の戦いとケロちゃんの苦悩の日々は、またまた続く(ケロちゃん「嫌やーっ!」(滝涙))。
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