カードキャプターさくら Side Story
Bug Buster 知世
Buster 4 −お兄様への個人授業−
written by Moonstone
プルルルルルル・・・。
土曜日の夕方、軽やかな電話のコール音が木之本家に響く。
3回目を数えようとしたところで大きくてやや浅黒い逞しい手が受話器を取る。
「はい、木之本です。」
受話器を取ったのは木之本桃矢。言わずと知れたさくらの兄であり、さくらをを怪獣呼ばわりする意地悪な男である(笑)。
木之本家は母親の撫子が若くしてこの世を去って以来、父であり大学講師の藤隆、さくら、そして桃矢が家事を分担している。
勿論、食事も例外ではなく、桃矢はサッカー部の主力で女子生徒の人気も高いスポーツマンであると同時に、料理の腕も相当なものである。
桃矢は今日の夕食当番として、その仕込みの途中だったのだ。
「・・・あの・・・李ですけど。」
受話器の向こうから緊張と警戒と敵意(笑)が複雑に入り乱れた声が聞こえて来ると、桃矢の眉間に皺が寄る。
桃矢と李・・・。この二人の関係はなかなか微妙なものだ。
桃矢の親友であり想い人と評判(?)の月城雪兎を巡って争う恋敵(??)であると同時に、さくらを巡って争う宿敵同士(笑)でもある。
妹を持つ兄・・・。その心情はかなり複雑なものらしい。
特にその妹が可愛いとなると、妹の異性関係に対して「お前如きに可愛い妹はやらん!」という心理が働くそうな。
世間一般にはシスコンというらしいが、当の桃矢はそんなことを意識している筈がない。
一方の小狼は前回、偽さくら(知世)に「偽りの愛の身投げ」攻撃を食らって見事に病院送り(プラス嫌がらせのお見舞い(爆))にされたが、早くも復活。
・・・誰ですか?そのまま病院でずっと寝てろなどと呟いてる人は(^^;)。
懲りずにさくらを誘おうと電話をしたつもりだが、よりによって宿敵である桃矢が電話口に出たことで、同じく眉間に皺を寄せつつ、
同時にその先の対応を必死に考えていたりする。
兄を相手にする男・・・。その心情はやはり難しいものらしい。
小狼の場合、相手は恋敵(??)であり宿敵でもあるが、同時に将来「お義兄さん」と呼ぶかも知れない相手であるから、迂闊な対応は出来ない。
・・・聞こえます、聞こえます。それは神が認めても俺が認めんという声が(^^;)。
それは兎も角、桃矢と小狼が受話器を通して火花を散らす。
相手の出方を伺いつつ、片や早くさくらに替われと念じ、片やこのガキ何の用だと訝っていたりする。
暫しの沈黙の後、先手を打ったのは小狼である。
「・・・さくら・・・さん、居ますか?」
「さくらは居ない。以上だ。」
そう言うなり問答無用とばかりに受話器を置く桃矢。・・・って、即行かい(^^;)。
その直後、2階からどたどたと階段を駆け下りてくる音が近付いてくる。小狼が電話口に出て欲しかった相手である、さくらの登場だ。
だが、時既に遅し。桃矢は何食わぬ顔で夕食の仕込の続きをしていたりする。恐るべき、妹を持つ兄の陰謀(笑)。
「晩御飯はまだだぞ、怪獣。」
「さくら、怪獣じゃないもんっ!それはそうと、さっきの電話って誰からだったの?」
「ああ、あれか。あれは間違い電話だ。」
「間違い・・・電話?」
「そうそう。間違い電話。」
そう言ってさくらに背を向けて包丁を振るう桃矢の口元に、ニヤリと半角笑いが浮かんでいるが、さくらからは見えない。
ちなみに桃矢のシナリオでは、小狼が「さくらは居ますか?」と尋ねてきたら「公園でも探せ。そこにいっぱい植えてある。」と返し、
小狼が裏を読んで「木之本桜さん、居ますか?」と来たら「此処には居ない。何処かには居るだろうが。」と返すつもりだったのだ。
勿論、「さくらさん、居ますか?」と問われたら「さくらは居ない」と言って電話を切るということもシナリオで想定済みだったりする。
某アニメの髭オヤジではないが、まさに桃矢にとっては「シナリオどおりだ」(ニヤリ)状態なのである。
こうしてさくらの知らない水面下で、別のさくら争奪戦が繰り広げられていたりする。
もっとも原作では・・・というと、筆者が退治されかねないので言わない(汗)。
「いやあ〜、兄ちゃん、やってくれるわ〜。あのやり取りはホンマ笑えた。」
夕食の間にケロちゃんは諜報員としての雇い主である知世に、さくらに寄り付こうとする悪い虫に関する定期報告をしている。
勿論、桃矢が出た電話の内容や相手についても把握済みである。
というのも、既に知世の手回しによって、ケロちゃんの元に電話の内容が全て聞こえるように盗聴システムが設置されていたりする。
勿論それは犯罪であるが、さくらちゃんを悪い虫から守るためなら法だって踏み越える気構えは知世にはある。
そうでなかったら、小狼を黒焦げにしたり溺れさせたりと、病院送りにするようなことはしない筈だ(^^;)。
「小僧が『さくらさん、居ますか?』言うたら兄ちゃんが『さくらは居ない。以上だ。』言うて即行で電話切るんやもんな〜。」
「まあ、お兄様ったら実に素晴らしい立ち回りですわ。」
今日の定期報告は何時になく笑いに満ちている。
小狼が悪い虫としてさくらに寄り付こうとしていたのを、桃矢が未然に防いだのだ。
知世はさくらに悪い虫が寄り付かなくて嬉しいし、ケロちゃんはバグバスター出動となって知世の暴走に巻き込まれて
とんでもない衣装を着せられたり、ビデオを回しながら苦悩しなくても済むから嬉しいというように、双方の理由は違うのだが(笑)。
「で、その後な、兄ちゃんこう呟いたんやで。」
「まあ、何とおっしゃたんですの?」
「『フッ。俺のさくらに近付こうなんざ、10年早い』て。まさにしてやったり言うような・・・」
「いけませんわ!」
いきなり受話器を通してやってきた知世の叫びの音圧は凄まじい。ケロちゃんは携帯電話から吹っ飛ばされてしまう。
壁際まで飛ばされてフラフラしながら携帯電話の元に戻ったケロちゃんは、その叫びの中に知世がバグバスターになる前兆を察し、慌てて問い質す。
何故なら、BB知世あるところ、必ずケロちゃんは衣装を着せられた上で、知世の雄姿(?)と対象者(被害者の哀れな末路をビデオ撮影しなければならないからだ。
それも今回はよりによってさくらの兄、それも自分の正体に気付いているらしい桃矢が対象者(被害者)に選ばれようとしている。
小僧はまあしゃあないとして(爆)、兄ちゃんを敵に回すようなことは避けたいというのがケロちゃんの思いだ。
そもそもケロちゃんには、何で知世がバグバスター出動態勢に入り始めたのか、その理由すら分からない。
「な、何であかんのや?!兄ちゃんはさくらを悪い虫から守ったんやで!」
「お兄様は『俺のさくら』とおっしゃったんでしょう?」
「そ、それがどうしたんや?」
「それはお兄様はさくらちゃんを恋愛対象として見ているという揺ぎ無い証拠ですわ!」
「え?!」(汗)
「片やさくらちゃんは小学生。片やお兄様は高校生!譬え学び舎は隣同士でも、いたいけな小学生と
大人の階段を上る高校生の恋愛が成立する筈はありませんわ!」
「そ、それ以前の問題と違うか?!」(大汗)
それ以前の問題である(断言)。
何処をどう取ればそんな考え(妄想とも言えるよな)が浮かぶのか分からないが、隠れたり縫いぐるみのふりをしたりしなければならない現状と
今後のことを考えると、ケロちゃんは桃矢を敵に回すようなことだけは何としても避けておきたいところだ。
しかし、さくらちゃんを悪い虫からお守りしますわモードに突入している知世は、バグバスターとしての使命に燃えながら一人叫ぶ。
「さくらちゃんのお兄様をこの手にかけるのは忍びないことですわ。」
「手にかけるって・・・。」(汗)
「でも!さくらちゃんに寄り付こうとする悪い虫であれば、譬えお兄様といえども見逃すわけにはいきませんわ!」
「お、おい、知世?!」(動揺)
「そうと決まれば、早速バグバスター出動の準備を整えなくてはなりませんわ!さくらちゃんに悪い虫が寄り付くのを未然に防がなくては!」(燃)
「・・・あ、あかんのか?あかんのか?ワイの力では・・・。」
修羅の道に踏み込んでしまったケロちゃん。はっきり言って君ではもう知世は止められない。
まあ、今の知世を止めるのは、ケロちゃんでなくても不可能かもしれないが(^^;)。
かくして第3回目の対象者(被害者)は木之本桃矢と決定した。
本人には(恐らく)身に覚えのないことで退治される対象に選ばれたのだから、えらく迷惑な話であるのは言うまでもない。
バグバスターとして出動することが決まったら、続いてコスチュームの問題が浮上するのはもはや決定事項。
「今回のコスチュームはどうしましょう・・・。前回のようなリリカルな衣装でもよろしいんですけど・・・。」
「前回のリリカルな衣装って・・・あの如何にも怪しい人ですよ、っちゅう・・・否、身に迫るものがあった衣装のことか?」
「ええ、そうですわ。今回は悪い虫であるお兄様が高校生である以上、実戦向きで機動的な衣装が望まれますわね。」
「い、いや、衣装云々より兄ちゃんをターゲットから・・・」
「これは早急に研究した上で特別な日に相応しい衣装を準備しますわ。勿論、ケロちゃんにもご用意致しますから。」
「全ては避けられへんことなんか・・・。」(泣)
自分が定期報告で何気なしに言ったことから、知世にバグバスターの使命を呼び起こさせてしまったケロちゃんは、
両の目から滝の如く涙を流して桃矢の発した言葉を報告したことを後悔しまくる。
でも幾ら後悔してももう遅い。後はバグバスター出動に併せて衣装を着て(着せられて)知世の活躍(?)と悪い虫(被害者)の
哀れな末路の一部始終をビデオ撮影する役目が待っているのだ。
それも今回はよりによって対象者(被害者)が桃矢。
これからはぬいぐるみのふりに磨きをかけなければ・・・って、そんな場合ではない。
桃矢に気配を悟られることなく、且つ絶妙のアングルでビデオ撮影を迫られるという難しい役どころをまっとう出来るのか?ケロちゃん!
運命を分けた定期報告から三日後。
私立星條高等学校は、午後のホームルームを前にこの日最後の授業を終えた後のひとときのくつろぎの時間である。
時の人である(?)桃矢は、前の席にいる親友の月城雪兎と喋っている。
「あー、ようやく全部授業が終わったなぁ。」
「桃矢はホームルームが終わったらクラブだろ?」
「ああ。来週の日曜日には練習試合があるからフォーメーションとかを中心に練習するんじゃないかな。」
「頑張ってね、桃矢。」
「おう。」
のんびりした教室の雰囲気。何処にでもある学校風景の一齣だ。
と、そこに前方のドアがガラガラと音を立てて開く。その音を聞いた生徒達は、反射的に自分の席に急いで戻る。
担任の教師が入ってくるかと思いきや、ドアが開いてもその姿は見えない。
生徒達が不思議に思っていると、前の方の生徒達が一様に驚きの声をあげる。
席の位置が窓際の中程である桃矢と雪兎にはその様子がよく分からない。
「どうしたのかな?」
「さあ。別のクラスの先生でも入ってきたのか?」
桃矢と雪兎が首を傾げていると、教壇の後ろの少し高くなっている部分に黒髪が見える。
黒髪は別に珍しいものではないが、桃矢達の担任の髪は短い筈だが入ってきた人物はかなり長いようだ。
そもそもその人物は随分背が低い。一体誰が入ってきたのか桃矢と雪兎には見当がつかない。
その人物は前方の生徒達の驚きとざわめきの声の中、教壇の後ろに黒板を背に立つ・・・が、教壇から見えるのは頭くらいである(^^;)。
生徒達の視線が集中する中、今度は二つの小さくて綺麗な手が教壇の上に現れる。
手の指に力が篭り、頭に続いて徐々に全身がクラス全員の前に現れる。
教壇の上に上ろうとしているらしいその人物の顔を見た桃矢と雪兎は、思わず目を疑う。
それはスーツ姿に眼鏡をかけて何処かで見たような杖を持った長い黒髪の人物だった。
桃矢と雪兎はその人物の顔に見覚えがある。さくらと仲良くしている大道寺知世その人だ。
雪兎「あ、あの娘って確か・・・さくらちゃんの友達の・・・。」
桃矢「確か・・・大道寺知世だったかな。でも何で此処に?」
生徒A「あ、あの・・・。君は誰?」
知世「私ですか?私は通りすがりの女教師ですわ。」
平然と通りすがりの女教師と言い切る知世の発言に、雪兎を除くクラス全員が一斉にずっこける。
スーツに何処かで見たような杖というミスマッチな出で立ちは勿論、どうしてどう見ても小学生にしか見えない知世がどうして此処に居るのか?
そして本物のクラス担任は何処に居るのか?全てはこの女教師(知世)とこの人物(?)が知っている。
「知世・・・。その背丈で女教師言うても絶対無理があるで。」(溜息)
教師をイメージしてのスーツにネクタイ姿という格好のケロちゃんは、教室の窓の外からこっそりとビデオを回している。
まさか知世が学校が終わるなり今回のコスチュームに着替えて、敷地が隣のこの高校に入り込むとは思わなかった。
本物のクラス担任はどうなったかというと、担任に成り代わろうとして押し問答した結果、知世の「封印の電撃ショック」によって
黒焦げにされて職員室でぶっ倒れていたりする。
悪い虫を退治するためには、多少の犠牲は止むを得ないと考えているらしい。流石は正義の味方(?)。
雪兎「へえ。知世ちゃんって、教員免許持ってたんだね。」
桃矢「そ、そんなわけ無いだろう。」(- -;)
ただ一人、雪兎は知世を微笑ましそうに見ている。動じないというのか天然というのか。多分、後者だろう(爆)。
知世は教壇の上に立つ。靴を脱いでいる辺りは知世らしいといえようか。
そして知世はびしっと桃矢を何処かで見たような杖で指す。
桃矢「・・・?お、俺?」
女教師(知世)「そうですわ!木之本桃矢さん!私は貴方に教育的指導を行いにやってきましたのですわ!」
桃矢「教育的指導って・・・俺が何かしたか?」
女教師(知世)「木之本桃矢さん!貴方は高校生でありながら小学生の女の子を我が物にしようと目論んでますわね!」
他の生徒「「「ええーっ!!」」」(衝撃)
桃矢「な、何の話だ!!」(大汗)
ケロちゃん「違う、何か違うぞ、知世・・・。」(汗)
女教師(知世)「さらに!こともあろうにご自分の妹さんであるさくらちゃんを狙ってらっしゃいますわね!」
他の生徒「「「えええーっ!!!」」」(大衝撃)
ケロちゃん「と、知世・・・。それは絶対違うて。」(大汗)
雪兎「桃矢って・・・、そんなにさくらちゃんのことが好きだっただね。」
桃矢「か、勘違いするな!!ゆき!!みんな!!」(大狼狽)
雪兎の暢気な質問を首を激しく何度も横に振って懸命に否定する桃矢。
だが、桃矢に向けられる視線はバナナで釘が打てるほどに冷たくなっている。
小学生、しかも自分の妹に手を出そうとしている怪しい人物という認識が一気にクラス中に浸透してしまったようだ。
女教師(知世)「譬え世間は誤魔化せても、このバスバスター知世は全てお見通しですわよ!」
桃矢「お、お前なぁ・・・!」(- -#)
ケロちゃん「だから、自分で正体ばらすなっちゅうに。」(溜息)
雪兎「知世ちゃん、なかなかカッコ良いね。」(^^)
桃矢「ゆ、ゆき・・・。」(汗)
女教師(知世)「かくなる上はこの私が、人としてあるべき道を外れようとしている貴方を徹底的にご指導いたしますわ!」
知世は問題行動を起こそうとしている生徒を立ち直らせようとする熱血教師さながらの熱い台詞をのたまう。
勿論、あることないこと(?)を大声で言われた桃矢は怒り心頭、怒髪天を突く状態である。
桃矢は眉を吊り上げて席を立つ。その迫力に怪しい人を見るような視線を桃矢に向けていた周囲のクラスメートも思わずたじろく。
いきなり現れて自分を変質者扱いした自称女教師に向かってどすどすと歩みよる桃矢。
しかし、教壇の上に立つ知世はまったく動じることなく、杖を桃矢に向けて呪文を唱える。
「風よ!戒めの鎖となれ!『風(ウィンディ)』!」
知世が例の雷(サンダー)ボタンとは違うボタンを押すと、前方のドアが再びガラガラと開いて、サングラスに黒のスーツで身を包んだ
ガードマンお姉さんズが続々と教室に入ってくる。
そして二人がかりで桃矢の両腕をがっしりと抱え込み、さらに両足を掴んで一気に引き上げ、全員で桃矢を神輿のように担ぎ上げる。
知世が押したボタンには、待機していたガードマンお姉さんズを「召還」する仕掛けが施されているらしい。
その迅速な動きに桃矢は抵抗する術もなく、離れようともがいても流石はガードマンだけあって桃矢一人の力ではどうにもならない。
人間版『風(ウィンディ)』で桃矢の動きを封じた知世は、あくまでも上品に微笑んで桃矢に言う。
「さあ、木之本桃矢さん。これから場所を保健室に移して個人授業を始めますわよ。」
「こ、個人授業って何だ?!だ、第一お前、教師じゃないだろ!」
「いいえ。問題行動を起こそうとしている生徒を指導するのは通りすがりの女教師として当然のことですわ。」
「あ、あのなぁ・・・。」(- -;)
「では、参りましょうね。」
女教師になりきっている知世は教壇からいそいそと降りると、黒板に大きな文字で横に(背丈の関係上仕方ない)自習と書く。
再び雪兎を除いてずっこける生徒達。知世は桃矢を抱え挙げたガードマンお姉さんズを先導して教室から何食わぬ顔で出て行く。
呆気に取られるクラスメートの中で、雪兎は閉じられたドアを見詰めて心配そうに呟く。
「桃矢・・・大丈夫かな?」
いや、大丈夫じゃないぞ。きっと(^^;)。
「こ、こら!離せ!おい!偽教師!」
「お兄様。折角の個人授業を受ける機会をみすみす逃す手はありませんわ。」
「俺はそんなもの受けたくない!」
「さあ、着きましたわ。」
人間神輿としてガードマンお姉さんズに抱え上げられた桃矢を伴って知世が訪れた先は保健室。これから始まる個人授業の舞台である。
保健室に居る筈の養護教諭は居ない。事前に知世が問題生徒を個人授業するからといって席を外させている。
ガードマンお姉さんズは桃矢をベッドにうつ伏せに横たえると、両手両足をロープでこれまたがっしりと固定する。
強力な人間版『風(ウィンディ)』の前にはサッカー部の有力選手である桃矢も成す術がない。
しかもロープで身動きを取れなくするあたり、もはやまともな個人授業は望むべくもないだろう。
ケロちゃんはというと一足先に保健室に入り、桃矢から見て頭の方にある戸棚からビデオ撮影をしている。
今回は相手が桃矢であるから、ビデオカメラを棚板に置いて自分はその後ろに回って縫いぐるみのふりを決め込んでいる。
桃矢の動きを封じたガードマンお姉さんズはぞろぞろと保健室から出て行く。
桃矢「おい!これの何処が個人授業なんだ!」
ケロちゃん『せや・・・。知世、兄ちゃん縛って何するつもりなんや・・・?』
知世「初めてのことで不安かもしれませんが、それは止むを得ませんわね。」
桃矢の抗議を聞いているのかいないのか、知世は微笑んでそう言いながら白衣を着る。
知世は何を思ったか大きめの蝋燭に火を点し、さらに何処かで見たような杖の逆の先端、手で持つ方を引っ張る。
すると彼方此方に刺が付いたワイヤーが姿を現す。まさにそれは鞭である。
鞭と蝋燭・・・。桃矢とケロちゃんは嫌な予感がして仕方がない。
「お、おい!偽教師!それでどんな個人授業をしようって言うんだ?!」
「お兄様がさくらちゃんと一つ屋根の下で過ごせることを良いことにおいたをしようとしたことは残念でなりませんわ。」
「俺はそんなことを考えたことはないぞ!」
「さらに反省の色が見られない以上、通りすがりの女教師として黙って見過ごすわけにはいきませんわ。」<=聞いてない
「だ、だからお前は教師じゃないだろ!」
「さあ、お兄様。個人授業を始めますわよ。」
そう言ってにっこり微笑む知世。しかし桃矢には悪魔の微笑みに見えて仕方がない。
桃矢はケロちゃんの居る方を見て必至で目で訴えるが、ケロちゃんはあくまで縫いぐるみのふりを続ける。
『わ、ワイかて兄ちゃん助けたいけど・・・兄ちゃんに正体ばれたらあかんし・・・それに・・・知世の邪魔したら
ワイは後でどうなるか分からんし・・・あうううう・・・。』(汗)
ケロちゃんは桃矢を助けたい心情と自分の事情、そして知世からの使命との間で必死に葛藤している。
そうしている間に知世は片手に蝋燭、片手に鞭というとてつもなく嫌な予感を感じさせる小道具を持って桃矢に近付く。
桃矢は必死で逃れようとするが、ベッドに手足を固定されてどうにも逃れようがない。
そして知世は蝋燭から桃矢の背中めがけて蝋を滴らせる。
白濁した巨大な粒が桃矢の背中に落ちてじゅうっ、と音を立てて広がる。
桃矢「あちぃーっ!!」
女教師(知世)「これもお兄様を人としてあるべき道に戻すための個人授業ですわ。」
桃矢「い、一体これの何処が個人授業なんだぁーっ!」
ケロちゃん『ワイも・・・そう思うわ、兄ちゃん・・・。』(物凄く同感)
さらに知世は刺がいっぱい付いた鞭をふり下ろす。
ぴしっ、という乾いた音が保健室に響き、桃矢はまたしても悲鳴をあげる。
蝋が滴る音、鞭がしなって当たる音、そして桃矢の悲鳴が何度も繰り返される。
「ビデオで研究した成果をお兄様への個人授業に存分に発揮いたしますわ!」
『と、知世・・・。お前、何のビデオ見たんや?』(大汗)
少なくとも小学生が見るようなビデオではあるまい(爆)。
ケロちゃんは縫いぐるみのふりをしながら、ビデオを通してその恐るべき個人授業の一部始終を見て良心の呵責に喘ぐ。
暫くして桃矢は悲鳴すらあげられなくなる。無理もないが。
何度目かの鞭が唸った後、桃矢は小刻みに震えながら首を上げ、ケロちゃんの方をじっと睨む。
「さくらは・・・俺が守る・・・。」(がくっ)
そう呟くや否やベッドに突っ伏す桃矢。
さらに通りすがりの女教師(知世)が蝋を滴らせて鞭を振るうが、まったく反応しない。
知世が何処かで見たような杖の先端で桃矢を突っつくが、桃矢はぴくりとも動かない。完全に力尽きたようだ(汗)。
知世は残り僅かになった蝋燭の火を消し、鞭を仕舞う。
そして煌々と蛍光灯がともる天井を見上げ、妙に充実感溢れる表情で額に滲む汗を服の袖で拭う。
ケロちゃんが急いでその表情をアップにしたタイミングを図ったかのように、知世は決め台詞をのたまう。
「良い事をした後は、気持ちが良いですわ。」
『と、知世ぉ・・・。』(T-T)
「個人授業はこれでおしまいですわ。十分に反省してくださいね、お兄様。」
聞いてないって。桃矢はとっくに気絶してるんだから(汗)。
ようやく通りすがりの女教師(知世)の個人授業(?)から解放された桃矢が、ズタボロになった全身を引き摺るようにしてようやく帰宅する。
保健室での騒ぎが収まって暫くしてから、恐る恐る様子を伺いに来た生徒や先生達によって救出されたのである。
「ただいま・・・。」
「お帰り・・・って、お、お兄ちゃん!どうしたの?!ボロボロじゃない!」
「ああ・・・。今日学校で、バグバスターとかいうテロに遭ってな・・・。」
「テ、テロ・・・?」
ケロ、じゃなくって?とボケないあたり、さくらにギャグのセンスを要求するのはまだ難しそうだ(笑)。
桃矢は夕食が用意されているダイニングには向かわず、そのまま這い上がるように階段を上っていく。
さくらは見るからに悲惨な状況の桃矢に首を捻りながらも、心配になって後を追う。
桃矢が向かった先は自分の部屋ではなく、何故かさくらの部屋である。
状況が理解できていないさくらは、桃矢の後を追って慌てて部屋に入る。
そこにはそう、縫いぐるみのふりをしているケロちゃんが居たりする。
じりじりと近付いてくる桃矢に対して、ケロちゃんはさくらのベッドの上で必死に縫いぐるみのふりを続ける。
桃矢は縫いぐるみのふりをしているケロちゃんを丁度首の辺りを両手の親指と人差し指で挟み込むように持ち上げる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「・・・なあ、さくら。これ・・・縫いぐるみだよな?」
「そ、そうだよ、縫いぐるみだよ。」(^^;)
焦りながら弁明するさくら。しかし、桃矢の目はやけに鋭くケロちゃんを見据えている。
ケロちゃんは縫いぐるみのふりは勿論だが、その眼光の鋭さに蛇に睨まれた蛙のように全身が強張り、冷や汗がだらだらと流れ落ちる。
勿論、その感情を顔色や表情に出すわけにはいかない。ケロちゃんは必死で縫いぐるみのふりを続ける。
「そうだよな・・・縫いぐるみだよな・・・。フフフ。」
「・・・お兄ちゃん?」(汗)
「縫いぐるみだったら・・・首締めたって、死にゃしねえよな?」(ニヤリ)
「お、お兄ちゃん?!」(動揺)
桃矢の目は明らかに血走っている。ゆっくりと、しかしじりじりとケロちゃんの首を締め始める。
その口には明らかにそれが縫いぐるみではないと知っているが故の半角ニヤリ笑いが浮かんでいたりする。正直言って、凄く怖い形相だ。
当然、締められるケロちゃんは苦しいし、おまけに怖い。かといって逃げるわけにもいかない最悪の状況だ。
『に、兄ちゃん、堪忍やぁ〜!ワイかて、ワイかて・・・
まさか、まさか知世が兄ちゃんターゲットにして、あそこまでやるとは・・・、
思わんかったんや〜!』(号泣)
表情はあくまでも縫いぐるみのふりを続け、後頭部で大量の冷や汗を流し、心の中で必死こいて桃矢に詫びを入れるケロちゃん。
さくらがどうにか止めるまで、桃矢はケロちゃんをじりじりと締め続けたそうな(^^;)。
まあ、通りすがりの女教師(知世)によって、怪しい人物とレッテルを貼られて散々しばかれては止むを得まい。
何にしても、BB知世の活躍(?)によって、とうとう自分自身にもその波紋が及ぶようになったケロちゃん。
彼に明るい未来はあるのだろうか?・・・実のところ、それは筆者にも分からない(爆)。
さくら争奪戦 第3回戦
○バグバスター知世(13分23秒 熱くて痛い個人授業)木之本桃矢×
通算成績 バグバスター知世:3勝0敗 木之本桃矢:0勝1敗
|
・・・知世の戦いとケロちゃんの苦悩の日々は、またまた続く(ケロちゃん「か、堪忍してや〜」(ToT))
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