【単独制作作品No.80 あれから3年】 Written by Moonstone
彼が理不尽に命を奪われた場所に、私は今月も訪れた。 今日はあの人の命日。何時もより大きな花束を手向ける。 あの日以来、私の視界はモノトーンになった。 何を見ても、私の心を動かしはしない。 あの日以来、私の耳は単なる情報収集器官に成り果てた。 ただ周囲の音を聞き分けて次の行動に反映させるための、道具でしかない。 あの日以来、私から全ての感情が消え去った。 私を案じた私とあの人の両親に連れて行かれた病院で、PTSDと診断された。 PTSD。要するにあまりのショックで心の活動が止まってしまった、ということ。 処方された薬は一度も飲んでいない。通院もしていない。 私の心に出来た大きな深い穴は、薬なんかで埋まらない。 あの人が帰って来ない限り、私の時間は動くはずがない。 それを最もよく知っているのが、実は私自身という皮肉。 どうしてあの人が此処で殺されなければならなかったのか。 どうしてあの人と私の将来をたった1人のろくでなしが壊したのか。 運命というには残酷な仕打ち。とても神や仏なんて信じられない。 神や仏の名で理不尽がまかり通るなら、そんなものは要らない。 私は左手を見る。薬指で光り輝く指輪は、あの人の大切な忘れ形見。 あの人が私の手を取って指輪を填めてくれたあの時を、今でも私は憶えてる。 私とあの人の時間は、私の心で何度もリピートされている。 もう・・・何回目になるんだろう。 私の心に生きているあの人と暫し語らい、私はその場を後にする。 私の人生を刻む時計の針は、3年前のあの日に止まったまま。 動かす気もない。動かす理由もない。 私は、あの人との時間と思い出と共に生きていくだけだから・・・。 |
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