【単独制作作品No.79 あの女性を見つめて】

Written by Moonstone

今月も あの女性(ひと)はあそこに居る
僕があの女性を見かけるようになってから 僕はあの女性を見続けている

あの女性が居る場所は 僕もよく知っている
暴走車がハンドル操作を誤り 歩道に突っ込んだ場所
運悪く 偶々歩道を歩いていた一人の男性が巻き込まれた
民家の壁に激突してようやく止まった暴走車
人通りが割と多いその場所は 一瞬にして大パニックになった
飛び交う悲鳴 救急車を求める叫び声
暴走車の下に広がっていた赤い血の海は 僕も見た

救急車に搬送される男性は 全身を白い布で覆われていた
それは救命のしようがないことを示す やりきれない白旗
少し遅れて駆けつけた警察に 暴走車の運転手が連行された
その場所は暫くの間 事故の凄まじさを留めた

それから一月 あの女性が訪れるようになった
小さな花束を手向けて暫しその場に佇み 無言のうちに立ち去る
そのささやかな儀式が毎月 あの事故が起こった日に繰り返されている
三年経った 今も尚

命を奪われた男性とあの女性は 特別な関係だったんだろう
兄弟かどうかは 僕が知る由もない
だけど あの女性の横顔は 三年経った今でも変わらない
あの女性の時間は 三年前に止まったままなんだろう

来月もあの女性は あの場所を訪れるだろう
あの女性の時間が再び動き始めるのは 何時になるんだろう
あの女性を見かけるたびに そう思う

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