【単独制作作品No.78 回想】

Written by Moonstone

・・・また 来ちゃったよ
私の呟きに答えてくれる人は居ない

あの日携帯越しに聞いた震える声に 私は言葉を失った
あの人が交通事故に遭ったという知らせに 私は会社を飛び出した
嘘だ嘘だと思いつつ 拾ったタクシーの信号待ちの1秒が長かった
駆け込んだ病院の薄暗い部屋に あの人は横たえられていた
暴走車に巻き込まれての事故 ・・・即死だった

あの人の葬式に あの人の命を奪った男がやって来た
両手に白銀の拘束を施されて 警官に連れられて
泣いて土下座するその男に あの人の家族は泣きながら怒鳴りつけた
息子を返せと 人でなしと
私は泣きはしなかった
その代わり その男を見下ろしてこう言った
今この場で死んで頂戴
顔を蒼白にしたその男から 何も言葉は帰ってこなかった

あの人の骨を私も拾った 独特の匂いがする白い欠片
人の死を生々しく語るその光景を あの男に見せ付けた
人の命を奪った罪を 一生背負って生きていくことね
小刻みに震えるその男からは やっぱり何も言葉は帰ってこなかった

あれから3年 私は今でも月命日に此処を訪れる
あの人が理不尽に命を奪われた この場所に
小さな花束を手向けて 私はあの人との大切な記憶を思い出す
結婚しようと言って 指輪をプレゼントしてくれたあの日のことを
その指輪は今も尚 私の左手薬指で静かに輝いている

・・・また 来るからね
私の呟きに答えてくれる人は居ない

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