雨上がりの午後

Chapter 106 友との語らいと記念撮影

written by Moonstone


「安藤君!写真撮らせてー!」

 何度目かの記念撮影が終わった後、俺の名が呼ばれる。
もしや、と思って声の方を見ると、人ごみを掻き分けて振袖姿の女が大挙して押し寄せてくる。その中には・・・同じく振袖姿の宮城も混じっている。
勿論初めて見るその服装は、お世辞抜きによく似合っている。何処かの人形みたいだ。

「おっと、皆さんお揃いで。」
「噂をすれば何とやら、ってところか?」

 耕次が宮城達を迎え、勝平が俺を横目で見ながら言う。その口元が悪戯っぽく笑っている。まったく勝平の奴・・・。
まあ、自分で言ったとおりもう吹っ切れたんだから良いんだけど。

「人垣が出来たから何かと思って見てみたら、安藤君達なんだもんね。びっくりしたわ。」
「そうそう。まさかこんなところでライブやってるなんて思わなかったもん。成人式そっちのけじゃないの。」
「まあ、私達も人のこと言えないけどね。」

 宮城の友人達はやや興奮気味に話し合う。何時からかは分からないがライブを見ていたらしい。
成人式の日に会場で会い、ライブをやろうと約束したことはこいつらには言ってないからな。言う必要もないだろうし。
宮城には言ったっけかな・・・。覚えてないが、多分言ってないんだろう。言っていたら多少なりとも覚えてるだろうから。
 そんなことを思っていたら宮城が近付いてきた。ちょっと上目遣いなところが晶子を髣髴とさせる。
俺と宮城の距離が接近したのを見計らっていたかのように、話し込んでいた宮城の友人達が俺の方に押し寄せてくる。

「さてさて、安藤君と優子が揃ったところで記念撮影、記念撮影。」
「何だか、結婚写真撮るみたいじゃない?」
「言えてる、言えてる!」

 こら、当事者を他所に勝手なこと言うな。昔なら兎も角、俺と宮城はもう高校の同期ってだけの間柄になったんだ。
まあ、そんなこと、こいつらが知ってる筈もないか、と思っていたら、俺のスーツの袖がくいくいと引っ張られる。
見ると、宮城が何か言いたそうな顔で俺を見ている。

「どう?これ。」
「どうって・・・。」
「似合ってるか似合ってないか、それくらいは言えるでしょ?」

 ま、そりゃそうだ。俺は一度軽く咳払いをしてから宮城に言う。

「似合ってるよ。」
「ありがと。」
「ほらほら、優子!さっさと並ぶ!」

 宮城が笑みと共に返事をしたところに友人の声が割り込んでくる。
そう言えばこいつら高校時代、俺と宮城が良い雰囲気になったところに、にやけた顔で押し寄せてきては突っ込みを入れたよな・・・。
こいつらも変わってないな。変わったのは見た目だけか。
まあ、20歳になったからといっていきなり風貌ががらりと変わるわけもないか。俺達バンドのメンバーがそうであるように。
 宮城は友人に言われたとおりに俺の左隣に並ぶ。かなり距離を詰めてくる。
離れようとした時、カメラを構えた宮城の友人から怒声が飛んで来る。

「こらーっ!折角記念撮影するのに離れたら意味ないでしょ!」

 ったく、仕方ないか・・・。俺は諦め気分で宮城の接近を許す。
俺の左隣に晶子が居るのが当たり前になってしまったから、違う人物が、しかも訳ありの人物が横に並ばれると何となく違和感を感じる。

「安藤君!表情が硬い!笑って笑って!」

 注文の多いカメラマンだな。
まあ、こんなところでごたごたを起こしたくはないし−スクランブルライブで十分ごたごたを起こしてると言われればそれまでだが−、素直に顔から力を抜く。
その刹那、カシャッという音がする。どうやら撮影されたようだ。音がなかったら撮影されたかどうか分からないところだ。
一声かけても良さそうなもんだが、興味本意の素人相手にあれこれ言っても無駄か。

「もう一枚撮るねー!はい、チーズ!」

 と思ったら、今度は声がかかって、その直後にカシャッという音がしてカメラを持っていた女がカメラを下げて姿勢を元に戻す。
どうやら撮影は無事終わったらしい。そう思って一息ついたところで、宮城がまた俺のスーツの袖をくいくいと引っ張る。

「何だ?」
「あの娘と上手くやってる?」
「ああ。」

 何を聞いてくるかと思えばそんなことか。まあ、存亡の危機に瀕したこともあったがそれも良き経験だろう。
順風満帆なばかりだと本音をぶつけ合っていないようで、本当に互いの意見をぶつけ合わなければいけなくなったときに破綻しそうな気がする。
・・・そう、宮城との時のように。

「なあんだ。祐司がフリーだったらよりを戻そうかな、なんて思ったんだけど。」
「そんなに都合良くいくか。」
「そうかなー?案外喧嘩とかしてたりして。」

 智一じゃないが、こいつ、探偵雇って調べさせてやいないだろうな。
あの出来事は喧嘩というより、俺と晶子の考えの行き違いとタイミングの悪さが重なった事件だ。それでお前とはおしまいだ、なんて言ってりゃ世話ないな。

「喧嘩はしてないけど、考え方の行き違いはたまにある。」
「へえ。でもきちんと話し合いとかしてるんだ。」
「喧嘩を避けるあまり本音を出すのを避けてたら、ずれが本格化したときにすり合わせようがなくなるからな。お前との経験で勉強させてもらったよ。」
「じゃあ、授業料はしっかり頂戴するわよ。」
「授業料って・・・。」

 悪戯っぽく笑って撮影した友人の元へ向かう宮城を見て疑問に思う。
授業料って何だ?まさか本当に金を要求するとは思えないが・・・一日だけ恋人同士に戻ろう、なんて言わないだろうな。
幾ら晶子が居ないとは言え、そんなことは絶対出来ない。晶子に隠し事なんてしたくない。俺に誠意を向けてくれる晶子を裏切ることになるからだ。
 そう思って宮城と友人達を見ていたら、カメラの裏側を見て何やら賑やかに騒いでいる。
カメラの裏側を見て騒ぐってことは・・・あのカメラはデジカメか。撮った写真を見て写りがどうとか表情がどうとか言っているんだろうか。
まあ、それが授業料なら安いもんだが。

「安藤君!撮った写真、見てみなさいよ!」

 宮城の友人の一人が俺に向かって声をかけて盛んに手招きをする。まあ、どんな風に写っているかを見ておくのを悪くはないか。
俺は手招きに応じて宮城達のところへ向かう。
 するとカメラを持っていた女が俺にカメラの裏側、液晶画面を見せる。
スーツ姿の俺と振袖姿の宮城が並んで写っているその様子は、背景の人ごみやその他諸々を除けば、確かに結婚写真みたいだ。

「これ、プリントして安藤君の家に送ってあげるね。」
「家ってどっちだよ。」
「決まってるじゃない。安藤君の実家よ。」

 ちょっと待て。そんなことをされたら家の人間に何を言われるか分かったもんじゃない。宮城は特に母さんに快く思われてないんだから。
それに母さんは、俺に晶子っていう新しい彼女が出来たことを知っている。こんな写真を見たら、この娘と何やってたの、とか五月蝿く尋問されかねない。

「俺の実家に送るのは勘弁してくれ。話がややこしくなる。」
「そう・・・。じゃあ優子。あんたが安藤君の今の家に送ってあげなさいよ。」
「そうね。そうするわ。」

 冗談じゃない。そんなもの家に置いておけるわけがない。晶子に見つかったらあらぬ誤解を招くのは火を見るより明らかだ。
そうでなくても、晶子は宮城と激しく対立した「実績」がある。
その対立は俺が宮城との関係に明確な区切りをつけたことで解消されたと思うが、別れた筈の前の彼女と自分の彼氏が並んで写っている写真を見て
疑いを持たない筈がない。少なくとも俺が晶子の立場だったらそう思う。

「送らなくて良いよ。自分の記念に持っておけば良いだろ?」
「折角撮った二人の記念写真なのよ。青春の一ページとして持っておくべきじゃない?」
「今の彼女に見られて誤解されたら厄介だ。その写真は内輪で仕舞っておいてくれ。俺は記念撮影に応じただけ。それで良いだろ?」
「うーん・・・。よりは戻りそうにないか。まあ良いわ。安藤君の気持ちを踏まえて、この写真はあたし達の記念写真として撮っておくわ。」
「そうしてくれ。」
「祐司!こっち来い!全員で記念撮影するぞ!」

 耕次の呼び声が聞こえて来る。声の方を向くと、俺を除いたバンドのメンバーが集まっている。
そこから距離を置いて、勝平が三脚に立てたカメラを覗き込んで何やら調節している。
バンドのメンバーで記念撮影をするのか。今回の一連の出来事で一番大事なことだよな。
俺は宮城達に別れを告げると、耕次達が集まっているところへ向かう。

「よっし、これで全員集合だ。祐司は俺の隣な。」
「分かった。」

 俺は中央に立つ耕次の空いている左隣に並ぶ。正面から見て左から宏一、耕次、俺、渉と並んだ格好だ。
勝平はカメラの調節を終えると宏一の右隣に並ぶ。
しかし、何時の間に用意したんだ?全然気付かなかった。俺が宮城やその他の観客との記念撮影に昂じている時だろうか。

「俺がリモコンを操作すると、カメラの赤いLEDの点滅が始まる。それが点灯に変わって3秒後にシャッターが切れる。良いな?」
「OK。」
「分かった。」
「了解。」
「おーし!じゃあ撮影といこうぜ!」

 全員の了解が得られたところで、勝平がリモコンらしい小さな物体を前に差し出してボタンを押す。するとカメラの左上部で赤い光が点滅を始める。
撮影が近いことを悟って、俺は俄かに緊張する。
やがて点滅が点灯に変わる。
緊張が高まる中、耕次が叫ぶ。

「俺達は何時までも仲間だ!忘れるなよ!」

 その一言で緊張感がフッと解ける。そして次の瞬間、カシャッという音が聞こえる。良い感じで撮れたんじゃないだろうか。

「念のため、もう一回行くぞ。」

 勝平が言って、再びリモコンを操作する。カメラのLEDが点滅を始める。そして点滅が点灯に変わり、少し間を置いてカシャッという音がする。
無事撮影完了と相成ったようだ。
 勝平が駆け出してカメラの方へ向かう。そして三脚からカメラを取り外して俺達の方に戻って来る。
勝平は宮城の友人がやったのと同じようにカメラの裏側、液晶画面を見せる。
そこには柔らかい表情の俺、笑顔の耕次と勝平、笑みを浮かべる渉、何故かガッツポーズの宏一が鮮明に写っている。

「良い感じじゃないか。」
「ナイスだぜ!流石は最強メンバーってとこだな!」
「プリントアウトして全員の家に送る。普通の写真サイズだから場所も取らないだろう。念のために俺のPCでCDに焼いておく。折角の記念写真だからな。」
「いつも悪いな、勝平。」
「気にすんなよ、耕次。こういうメカ関係は俺の分野だからさ。」

 勝平は俺と同じく理工系の学科−機械工学科だったか−に進んだ男だ。将来は家業を継ぐことになっているらしい。
家が中規模の工場を経営しているし、長男でもある勝平には将来のレールが敷かれているってことか。窮屈じゃないのかな?

「勝平。」
「何だ?祐司。」
「お前、将来家業を継ぐんだろ?」
「ああ。その前に10年ほど他の会社で働いて、実務経験を積むつもりだけどな。それがどうかしたか?」
「・・・将来が決まってるなんて、窮屈じゃないか?」
「否。俺はガキの頃から工場で遊んでたし、今でも講義が無い日とかに親父の手伝いをしてる。結構面白いぜ。会社経営をリアルに体験出来るんだからな。」
「そうか・・・。」
「そういや、お前も理工系だったな。何か悩みでもあるのか?」

 勝平が尋ねると、他の面子も一斉に俺の方を向く。な、何だ一体。思わず俺はたじろいてしまう。

「祐司。悩み事があるなら遠慮なく言えよ。相談に乗るぜ。」
「言うだけでも結構すっきりすると思うが。」
「祐司。俺達の間で困ってる奴を放ってはおけないぜ?」
「いや、そんな困ってるとかいうんじゃないんだが・・・何て言うか・・・ちょっと考え事があってさ・・・。」

 我ながら曖昧だと思う答えを返すと、面子は更に詰め寄ってくる。

「さあ、無理しないで言っちまえよ。」
「折角の機会だ。これだけ面子が揃ってるんだし、言ってみたらどうだ?」
「無理に言わなくても良いが、無理に言わないのも身体に悪いぞ。」
「言っちまえよ、ベイビィ!水臭いじゃないかよ!」

 こりゃ、何か言わないと帰してもらえそうにないな。
俺は小さく溜息を吐くと、心にずっと引っかかっているあのことを吐き出しにかかる。

「将来のこと・・・考えてるんだ。俺は勝平と同じく理工系に進んだけど、バイト先でギターを弾いてそれを聞いてもらって拍手を浴びたりしているうちに、
プロのギタリストになりたいっていう気も起こってきたんだ。このまま普通に企業や官公庁に就職っていう道で良いのか、って疑問に思うようになってきたんだ。」
「「「「・・・。」」」」
「だけど、皆知ってると思うけど、俺ん家脱サラして自営業やってるだろ?親が苦労したことくらい今の歳になってみりゃ分かるから、音楽で飯を
食っていこうとするなんて、絶対反対すると思うんだ。否、絶対反対する。正月の親戚周りの時に思い知らされたからな・・・。バイトで生活費の必要分を
捻出するっていう条件で、俺の一人暮らしと大学進学を認めてもらったことには感謝してる。でも、それを逆手にとって俺の人生まで決められたくない。
でも、俺自身プロのギタリストとしてやっていけるのか、っていう不安もある。どうしたら良いか・・・分からないんだ。」

 俺が一気に心に痞えていたことを吐き出すと、耕次達は真剣な表情で俺を見ている。お調子者の宏一ですら表情が引き締まっている。
少しの沈黙を置いて、耕次が口を開く。

「俺は、お前の腕ならプロとしてやっていけると思う。正直、お前よりずっと下手な、ディストーションかましてコードを掻き鳴らすだけの奴が
プロを名乗ってCD出してるんだ。お前ならそれを上回ることは十分可能だと思う。問題は・・・ジャンルだな。」
「ジャンル?」
「ああ。所謂J-POPとかロックとかなら、極端な話、デビューしたがってる奴をライブ会場とかで探して集めりゃ何とかなると思う。だけどジャズとかだと
勢いだけじゃやっていけない。それに知名度もJ-POPとかより圧倒的に低い。そんな中で人に知られる存在になるのは難しいと思う。そうでなくても、
ギター一本で食っていけるだけの存在になるのも難しいんじゃないか?CDを出したりしていかないと。」
「俺も同意見だな。」

 耕次に続いて話の糸口を引っ張り出した勝平が言う。

「お前の腕前は認める。正直その辺のCD出してるアーティストっていう奴より腕は確かだと思う。だけど耕次が言ったとおり、ジャンルによってCDの売上が
格段に違う。これは知名度や愛好者の数が根本的に違うからどうしようもない。ギター一本で食っていこうと思うなら、スタジオミュージシャンで
終わりじゃなくて、自分のCDを出してそこそこ売上を出さないと厳しいんじゃないかな。」
「俺も同じだ。」

 腕組みをしていた渉が勝平に続く。

「演奏の腕とCDの売上は比例しない。お前の腕は確かだが、CDを売って暮らしていくのはジャンルによっては厳しいだろう。ただでさえ日本での
ミュージシャンの社会的地位は低い。CDが売れないミュージシャンなら尚更だ。俺としては、ギターは趣味に留めておいて、企業や官公庁とかに
就職することを勧める。だけどお前がギタリストを目指すなら応援する。」
「良いじゃないか。いっちょチャレンジしてみろよ!」

 渉のクールな発言に続いて、宏一が熱く語り始める。

「俺はお前の腕ならやっていけると思うぜ。生活は厳しいかもしれないけどさ、ギタリストでやっていけないことはないと思うぜ。CDの売上を目指すか
どうかは兎も角、どっかの事務所に所属して仕事を貰うようにしていけば、それなりにやっていけるんじゃないか?まだまだ俺達は若いんだ。
どれだけでもやり直しは出来るさ。その気があるならやってみろよ!」
「宏一。ことは祐司の将来に関わることだぞ。それに、勢いだけでやっていけるほど、音楽業界は甘くない。祐司の人生をもっと真剣に考えてやれ。」
「俺は真剣に考えていったつもりだぜ?」
「渉。宏一は宏一なりに真剣に考えて言ってくれたんだと思う。」
「祐司・・・。」

 俺はまた小さく溜息を吐く。何だか少しすっきりした気分だ。
譬え一時的なものだとしても、友達から色々な意見が聞けたんだ。今後を考える上で十分参考になると思う。

「まだ時間はあるからじっくり考えてみる。最初からプロのギタリストを目指すんじゃなくて、最初は普通に就職して、決心がついたら脱サラって
手もあると思う。今の時勢じゃやり直しは難しいかもしれないけど、不可能じゃない筈だ。自分の人生なんだから、自分で模索してみる。
勿論、皆の意見を参考にして、な。」
「祐司。一つ言っておくが・・・。」

 耕次が笑みを浮かべて言う。

「俺達は仲間だ。何かあったら遠慮なく言ってこいよ。こうやって話を聞いて意見を言うだけでもするからさ。」
「そうだぞ、祐司。お前は一人で抱え込みやすい質だからな。仲間っていうのは自分が困った時のよろず相談所でもあるんだぞ。」
「お前がどんな道を進むにしても、俺達は仲間だ。それに変わりはない。」
「祐司!俺達の仲じゃないか!これからも一人で悩まないで、俺達の胸に飛び込んで来いよ!」
「・・・ありがとう、皆。俺・・・皆とバンドやってて本当に良かった。今、改めてそう思う。」

 俺が言うと、耕次達は俺の手を取ったり肩を叩いたりする。どの顔も頼もしい笑顔だ。
本当に俺はこのバンドのメンバーになっていて良かったと思う。こんな良い奴らに巡り会えた俺は、本当に幸運な奴だ。
今日この仲間から貰った意見を胸に大切に保存しておいて、いざという時の虎の巻にしよう。それだけの価値は十分にあると思う。
 ありがとう、皆。今はそうとしか言えないけど、何時か俺が自分の道を切り開いたら、必ず皆に連絡するから。
その時は俺のギターで良かったら、指が擦り切れるまで聞かせてみせる。それが大切な仲間に対する俺なりのお礼だと思うから。

「安藤くーん!皆で写真撮ってあげる!」

 甲高い呼び声が聞こえて来る。見ると、宮城をはじめとする振袖集団が駆け寄って来る。

「折角の機会だもの。ここで記念写真を撮っておかないとね。」
「それじゃ、俺のカメラで撮ってやるよ。一人だけ写らないってのもつまらないだろ?」
「和泉君、話せるー。」

 勝平が集団から離れて、ぽつんと置かれたままになっていた三脚にカメラをセットする。
俺達はめいめいにしゃがんだり、前の奴の間から顔を出したりして写真に写れるように準備する。
俺の隣には耕次と・・・宮城が居る。ちらっと宮城を見ると、宮城は笑みを浮かべて見せる。俺の表情も自然と緩む。

「・・・よし、これで良い。俺は宏一の横に入るからな。」
「オッケー!」

 勝平が戻って来て、カメラから見て右の方に入る。

「俺がリモコンを操作するから、カメラの赤い光をよく見ててくれ。点滅が点灯に変わって3秒後にシャッターが切れるから。」
「え?点滅が点灯に変わって・・・?」
「あのなぁ・・・。要するに点滅しなくなって光りっ放しになるってことだよ。」
「そうなら初めからそう言ってよね。」
「・・・普通分かるだろ。」

 勝平の呟きの後、カメラの赤いLEDが点滅を始める。そして点滅が点灯に変わり、少し時間を置いてカシャッという音がする。

「念のため、もう一回な。」

 全員が姿勢を崩しかかったところで勝平の声がそれを制止する。全員姿勢を立て直して身構える。
その後、カメラのLEDが再び点滅をはじめ、それが点灯に変わって少しした後、カシャッという音がする。

「はい、お疲れー。」

 勝平の声で全員がやれやれといった様子で姿勢を崩す。
勝平がカメラに駆け寄り、三脚からカメラを取り外して持ってくる。
それを目ざとく見ていたのか、全員が勝平の周りに集まってカメラを覗き込む。
カメラの液晶画面には、画面いっぱいにいかにも仲の良い集団といった感じの画像が映し出されている。

「わー、良く撮れてるー。」
「グッドグッド。良い感じじゃないか。」
「何だかあたしの表情、変ー。」
「男の方は俺が全員に送るけど、女の方はどうする?」
「あたしが後で携帯の番号教えるから、電話してよ。それで住所教えるから。あたしから皆に送るわ。」
「分かった。」

 液晶画面の映像を巡って、皆の会話が楽しげに繰り広げられる。
何だかんだ言っても皆気楽な形で記念撮影が出来たことに満足しているようだ。俺も満足だ。
今後こうやってこれだけの面子がそろう機会はそうそうないだろう。その意味でもこの写真は貴重な記録だ。
形だけの成人式よりずっと良い思い出が出来た。今日は本当に良い一日になったな・・・。

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